以下に、本願発明を具体化した実施形態を、走行車両としてのコンバインに適用した場合の図面に基づいて説明する。
(1).コンバインの概略構造
まず、図1及び図2を参照しながら、実施形態におけるコンバインの概略構造について説明する。
走行車両の一例であるコンバインは、走行部としての左右一対の走行クローラ2,2にて支持された走行機体1を備えている。走行機体1の前部には、圃場の植立穀稈(未刈穀稈)を刈り取りながら取り込む刈取装置3が単動式の油圧シリンダ4にて昇降調節可能に装着されている。
走行機体1には、フィードチェン6付きの脱穀装置5と、脱穀後の穀粒を貯留するグレンタンク7とが横並び状に搭載されている。この場合、脱穀装置5が走行機体1の進行方向左側に、グレンタンク7が走行機体1の進行方向右側に配置されている。走行機体1の後部には排出オーガ8が旋回可能に設けられている。グレンタンク7内の穀粒は、排出オーガ8の先端籾投げ口から例えばトラックの荷台やコンテナ等に搬出される。
刈取装置3とグレンタンク7との間に設けられた操縦部9内には、走行機体1の旋回方向及び旋回速度を変更操作する旋回操作具としての操向ハンドル10や、オペレータが着座する操縦座席11等が配置されている。操縦座席11の一側方に配置されたサイドコラム12には、走行機体1の変速操作を行う直進操作具としての主変速レバー13、後述する油圧無段変速機50の出力及び回転数を所定範囲に設定保持する副変速レバー14、刈取装置3及び脱穀装置5への動力継断操作用のクラッチレバー15が設けられている。
主変速レバー13は、走行機体1の前進、停止、後退及びその車速を無段階に変更操作するためのものである。副変速レバー14は、作業状態に応じて後述するミッションケース18内の副変速機構51を変更操作し、後述する直進用HST機構53の出力及び回転数を、中立を挟んで低速と高速の2段階の変速段に設定保持するためのものである。
クラッチレバー15は、刈取装置3の動力継断操作用のレバーと脱穀装置5の動力継断操作用のレバーとを1本で兼ねたものであり、サイドコラム12のクランク溝に沿って前後傾動可能に構成されている。クラッチレバー15をクランク溝の前端部に傾動させると刈取クラッチ89及び脱穀クラッチ91(図3参照)が共に切り状態になり、クランク溝の中途部に傾動させると脱穀クラッチ91のみが入り状態になり、クランク溝の後端部にまで傾動させると両クラッチ89,91とも入り状態になる。
操縦部9の下方には、動力源としてのエンジン17が配置されている。エンジン17の前方で且つ左右走行クローラ2の間には、エンジン17からの動力を適宜変速して左右両走行クローラ2に伝達するためのミッションケース18が配置されている。実施形態のエンジン17にはディーゼルエンジンが採用されている。
刈取装置3は、バリカン式の刈刃装置19、4条分の穀稈引起装置20、穀稈搬送装置21及び分草体22を備えている。刈刃装置19は、刈取装置3の骨組を構成する刈取フレーム41(図1参照)の下方に配置されている。穀稈引起装置20は刈取フレーム41の上方に配置されている。穀稈搬送装置21は穀稈引起装置20とフィードチェン6の送り始端部との間に配置されている。分草体22は穀稈引起装置20の下部前方に突設されている。走行機体1は、エンジン17にて左右両走行クローラ2を駆動させて圃場内を移動しながら、刈取装置3の駆動にて圃場の未刈穀稈を連続的に刈取る。
脱穀装置5は、刈取穀稈を脱穀処理するための扱胴23と、扱胴23の下方に配置された揺動選別機構24及び風選別機構25と、扱胴23の後部から取出される脱穀物を再処理する送塵口処理胴26とを備えている。扱胴23は脱穀装置5の扱室内に配置されている。揺動選別機構24は扱胴23にて脱穀された脱穀物を揺動選別するためのものであり、風選別機構25は前記脱穀物を風選別するためのものである。
刈取装置3から送られてきた刈取穀稈の株元側はフィードチェン6に受け継がれる。そして、刈取穀稈の穂先側が脱穀装置5内に搬入され、扱胴23にて脱穀処理される。なお、扱胴23の回転軸95(図3参照)は、フィードチェン6による刈取穀稈の送り方向(走行機体1の進行方向)に沿って延びている。
脱穀装置5の下部には、両選別機構24,25にて選別された穀粒のうち精粒等の一番物が集まる一番受け樋27と、枝梗付き穀粒や穂切れ粒等の二番物が集まる二番受け樋28とが設けられている。実施形態の両受け樋27,28は、走行機体1の進行方向前側から一番受け樋27、二番受け樋28の順で、側面視において走行クローラ2の後部上方に横設されている。
両選別機構24,25による選別を経て一番受け樋27内に集められた精粒等の一番物は、当該一番受け樋27内の一番コンベヤ29及び揚穀筒31内の揚穀コンベヤ32(図3参照)を介してグレンタンク7に送られる。
枝梗付き穀粒等の二番物は、一番受け樋27より後方の二番受け樋28に集められ、ここから、二番受け樋28内の二番コンベヤ30及び還元筒33内の還元コンベヤ34(図3参照)を介して二番処理胴35に送られる。そして、二番物は、二番処理胴35にて再脱穀されたのち、脱穀装置5内に戻されて再選別される。藁屑は、排塵ファン36に吸込まれて、脱穀装置5の後部に設けられた排出口(図示せず)から機外へ排出される。
フィードチェン6の後方側(送り終端側)には排稈チェン37が配置されている。フィードチェン6の後端から排稈チェン37に受継がれた排稈(脱粒した稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後方にある排稈カッタ38にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方に排出される。
(2).コンバインの動力伝達系
次に、図3及び図4を参照しながら、コンバインの動力伝達系について説明する。
エンジン17からの動力の一方は、走行クローラ2(刈取装置3)と脱穀装置5との2方向に分岐して伝達される。エンジン17からの他の動力は排出オーガ8に向けて伝達される。エンジン17から走行クローラ2に向かう分岐動力は一旦、プーリ・ベルト伝動系及び走行クラッチ88を介して、ミッションケース18のHST機構53,54(詳細は後述する)に伝達される。この場合、エンジン17からの分岐動力は、ミッションケース18のHST機構53,54等にて適宜変速され、ミッションケース18から左右外向きに突出した駆動出力軸77を介して左右の駆動輪90に出力するように構成されている。
ミッションケース18は、第1油圧ポンプ55及び第1油圧モータ56からなる直進用HST機構53(直進用変速機)と、第2油圧ポンプ57及び第2油圧モータ58からなる旋回用HST機構54(旋回用変速機)と、複数の変速段を有する副変速機構51と、左右一対の遊星ギヤ機構68等を有する差動機構52とを備えている(図4参照)。
エンジン17の出力軸49から走行クラッチ88を介して油圧無段変速機50に向かう動力は、第1油圧ポンプ55から突出した第1ポンプ軸59aに伝達される。直進用HST機構53では、第1ポンプ軸59aに伝達された動力にて、第1油圧ポンプ55から第1油圧モータ56に向けて作動油が適宜送り込まれる。第1ポンプ軸59aと、第2油圧ポンプ57から突出した第2ポンプ軸59bとは、プーリ・ベルト伝動系を介して動力伝達可能に連結されている。旋回用HST機構54では、第2ポンプ軸59bに伝達された動力にて、第2油圧ポンプ57から第2油圧モータ58に向けて作動油が適宜送り込まれる。
直進用HST機構53は、操縦部9に配置された主変速レバー13や操向ハンドル10の操作量に応じて、第1油圧ポンプ55における回転斜板の傾斜角度を変更調節して、第1油圧モータ56への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第1油圧モータ56から突出した直進用モータ軸60の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。
直進用モータ軸60の回転動力は、直進伝達ギヤ機構62を経由して副変速機構51に伝達される。副変速機構51は、操縦部9に配置された副変速レバー14の操作にて、直進用モータ軸60からの回転動力(回転方向及び回転数)の調節範囲を低速、中速又は高速という3段階の変速段に切り換えるためのものである。なお、副変速の低速・中速間及び中速・高速間には、中立(副変速の出力が0(零)になる位置)が設けられている。
副変速機構51のうち上流側にある副変速軸51aは、ワンウェイクラッチ63等を介して、ミッションケース18に突設された刈取PTO軸64に動力伝達可能に連結されている。刈取PTO軸64に伝達された動力は、刈取クラッチ89の入り作動にて、刈取装置3の骨組を構成する横長の刈取入力パイプ42(図1参照)内にある刈取入力軸43を介して、刈取装置3の各装置19〜21に伝達される。このため、刈取装置3の各装置19〜21は、車速同調速度で駆動することになる。副変速機構51のうち下流側にある駐車ブレーキ軸65には、湿式多板ディスク等の駐車ブレーキ66が設けられている。
副変速機構51の副変速軸51aから駐車ブレーキ軸65に伝達された回転動力は、駐車ブレーキ軸65に固着された副変速出力ギヤ67から差動機構52に伝達される。差動機構52は、左右対称状に配置された一対の遊星ギヤ機構68を備えている。駐車ブレーキ軸65の副変速出力ギヤ67は、遊星ギヤ機構68と駐車ブレーキ軸65との間の中継軸69に取り付けられた中間ギヤ70に噛み合っており、中間ギヤ70は、サンギヤ軸75に固定されたセンタギヤ76(詳細は後述する)に噛み合っている。
左右各遊星ギヤ機構68は、1つのサンギヤ71と、サンギヤ71の外周に噛み合う複数個の遊星ギヤ72と、これら遊星ギヤ72の外周に噛み合うリングギヤ73と、複数個の遊星ギヤ72を同一半径上に回転可能に軸支してなるキャリヤ74とをそれぞれ備えている。左右の遊星ギヤ機構68のキャリヤ74は、同一軸線上において適宜間隔を開けて相対向するように配置されている。左右の遊星ギヤ機構68の間に位置したサンギヤ軸75の中央部には、中間ギヤ70と噛合うセンタギヤ76が固着されている。サンギヤ軸75のうちセンタギヤ76を挟んだ両側にはサンギヤ71がそれぞれ固着されている。
内周面の内歯と外周面の外歯とを有する左右の各リングギヤ73は、その内歯を複数個の遊星ギヤ72に噛み合わせた状態で、サンギヤ軸75に同心状に配置されている。各リングギヤ73は、キャリヤ74の外側面から左右外向きに突出した駆動出力軸77に回転可能に軸支されている。駆動出力軸77の先端部には駆動輪90が取付けられている。従って、副変速機構51から左右の遊星ギヤ機構68に伝達された回転動力は、各キャリヤ74の駆動出力軸77から左右の駆動輪90に同方向の同一回転数にて伝達され、左右の走行クローラ2を駆動させることになる。
旋回用HST機構54においては、操向ハンドル10の回動操作量に応じて、第2油圧ポンプ57における回転斜板の傾斜角度を変更調節して、第2油圧モータ58への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第2油圧モータ58から突出した旋回用モータ軸61の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。
実施形態では、ミッションケース18内に、操向ブレーキ79を有する操向ブレーキ軸78と、操向クラッチ81を有する操向クラッチ軸80と、左右リングギヤ73の外歯に常時噛み合う左右の入力ギヤ機構82,83とを備えている。第2油圧モータ58の旋回用モータ軸61に、操向ブレーキ軸78及び操向クラッチ81を介して操向クラッチ軸80が連結されている。操向クラッチ軸80には、正転ギヤ84を介して右入力ギヤ機構83が連結されていると共に、正転ギヤ84及び逆転ギヤ85を介して左入力ギヤ機構82が連結されている。
旋回用モータ軸61の回転動力は、操向ブレーキ軸78及び操向クラッチ81を介して操向クラッチ軸80に伝達され、操向クラッチ軸80に伝達された回転動力は、正転ギヤ84及び逆転ギヤ85から、これらに対応する左右の入力ギヤ機構82,83に伝達される。
副変速機構51を中立にして、操向ブレーキ79を入り状態とし且つ操向クラッチ81を切り状態とした場合は、第2油圧モータ58から左右の遊星ギヤ機構68への動力伝達が阻止される。中立以外の副変速出力時に、操向ブレーキ79を切り状態とし且つ操向クラッチ81を入り状態とした場合は、第2油圧モータ58の回転動力が、正転ギヤ84及び右入力ギヤ機構83を介して右リングギヤ73に伝達される一方、正転ギヤ84、逆転ギヤ85及び左入力ギヤ機構82を介して左リングギヤ73に伝達される。その結果、第2油圧モータ58の正回転(逆回転)時は、互いに逆方向の同一回転数で、左リングギヤ73が逆転(正転)し、右リングギヤ73が正転(逆転)することになる。
以上の構成から分かるように、各モータ軸60,61からの変速出力は、副変速機構51及び差動機構52を経由して左右の走行クローラ2の駆動輪90にそれぞれ伝達される。その結果、走行機体1の車速(走行速度)及び進行方向が決まる。
すなわち、第2油圧モータ58を停止させて左右リングギヤ73を静止固定させた状態で、第1油圧モータ56が駆動すると、直進用モータ軸60からの回転出力はセンタギヤ76から左右のサンギヤ71に同一回転数で伝達され、両遊星ギヤ機構68の遊星ギヤ72及びキャリヤ74を介して、左右の走行クローラ2が同方向の同一回転数にて駆動され、走行機体1が直進走行することになる。
逆に、第1油圧モータ56を停止させて左右サンギヤ71を静止固定させた状態で、第2油圧モータ58が駆動すると、旋回用モータ軸61からの回転動力にて、左遊星ギヤ機構68が正又は逆回転し、右遊星ギヤ機構68は逆又は正回転する。そうすると、左右の走行クローラ2の駆動輪90のうち一方が前進回転、他方が後退回転するため、走行機体1はその場でスピンターンすることになる。
また、第1油圧モータ56を駆動させつつ第2油圧モータ58を駆動させると、左右の走行クローラ2の速度に差が生じ、走行機体1は前進又は後退しながらスピンターン旋回半径より大きい旋回半径で左又は右に旋回することになる。このときの旋回半径は左右の走行クローラ2の速度差に応じて決定される。
さて、図3に示すように、エンジン17からの動力のうち脱穀装置5に向かう分岐動力は、脱穀クラッチ91を介して脱穀入力軸92に伝達される。脱穀入力軸92に伝達された動力の一部は、脱穀駆動機構93を介して、送塵口処理胴26の回転軸94と、扱胴23の回転軸95及び排稈チェン37とに伝達される。
また、脱穀入力軸92からは、プーリ及びベルト伝動系を介して、風選別機構25の唐箕ファン軸96、一番コンベヤ29と揚穀コンベヤ32、二番コンベヤ30と還元コンベヤ34と二番処理胴35、揺動選別機構24の揺動軸97、排塵ファン36の排塵軸98、並びに排稈カッタ38にも動力伝達される。排塵軸98を経由した分岐動力は、フィードチェンクラッチ99及びフィードチェン軸100を介してフィードチェン6に伝達される。
なお、脱穀入力軸92からの動力は、刈取装置3に一定回転力を伝達する流し込みクラッチ101を介して刈取入力軸43にも伝達可能である。すなわち、ミッションケース18を経由せずに、エンジン17からの動力を刈取装置3に直接伝達することにより、車速の速い遅いに拘らず、一定の高速回転数にて刈取装置3を強制駆動させ得る構成になっている。
エンジン17から排出オーガ8に向かう動力は、グレン入力ギヤ機構102及び動力継断用のオーガクラッチ103を介して、グレンタンク7内の底コンベヤ104及び排出オーガ8における縦オーガ筒内の縦コンベヤ105に動力伝達され、次いで、受継スクリュー106を介して、排出オーガ8における横オーガ筒内の排出コンベヤ107に動力伝達される。
(3).変速操向制御のための構造
次に、図1、図2、図5〜図16を参照しながら、走行機体1の車速及び進行方向を調節する変速操向制御のための構造について説明する。
図5及び図6に示すように、操縦部9における操縦座席11の前方に配置されたフロントコラム110には、上下に延びるハンドル軸111が回転自在に軸支されている。ハンドル軸111の上端部には、旋回操作具としての丸形の操向ハンドル10が取り付けられている。ハンドル軸111の下端部には、自在継手113を介して操向入力軸112の上端部が連結されている。自在継手113の屈曲動作にて操向ハンドル10の取り付け位置を前後方向に変更することにより、操向ハンドル10をオペレータの体格等に見合った位置に調節できる。
操向入力軸112の下端部は、フロントコラム110に支持された第1べベルギヤボックス114に動力伝達可能に連結されている。第1べベルギヤボックス114から走行機体1の左右中央側に突出する第1入力伝達軸115は、サイドコラム12のうち操縦部9内に位置する側面を貫通して、サイドコラム12内の前部に配置された第2べベルギヤボックス116に動力伝達可能に連結されている。そして、第2べベルギヤボックス116から後ろ向きに突出する第2入力伝達軸117が、第3べベルギヤボックス118を介して、サイドコラム12内にあるステアリングボックス120から上向きに突出する入力中継軸119に動力伝達可能に連結されている。従って、操向ハンドル10を回動操作すると、その回動操作力が、ハンドル軸111及び操向入力軸112から両入力伝達軸115,117を介して、ステアリングボックス120の入力中継軸119に伝達されることになる。
図5及び図6に示すように、サイドコラム12は、走行機体1の左右中央側(左右走行クローラ2の間)で且つ左右走行クローラ2より高い位置に配置されている。サイドコラム12の内部にステアリングボックス120が設けられている。ステアリングボックス120は作動油を封入した密閉構造になっている。ステアリングボックス120の下方にはミッションケース18が位置している。ミッションケース18の上部側に、直進用HST機構53と旋回用HST機構54とが、旋回用を前に直進用を後ろにして並べて配置されている。従って、ステアリングボックス120と直進用及び旋回用HST機構53,54とは上下に並んでいる。
ステアリングボックス120には、主変速レバー13及び操向ハンドル10に対する出力制御機構としての機械式連動機構121が内蔵されている。詳細は後述するが、主変速レバー13や操向ハンドル10は、機械式連動機構121を介して各HST機構53,54の出力制御部(直進制御軸149や旋回制御軸189)に連動連結されている。
機械式連動機構121は、
1.主変速レバー13を中立以外の位置に傾動操作(直進用HST機構53から直進出力)した状態で、操向ハンドル10を中立以外の位置に回動操作(旋回用HST機構54から旋回出力)すると、操向ハンドル10の回動操作量が大きいほど小さな旋回半径で走行機体1が左又は右に旋回し、且つ旋回半径が小さいほど走行機体1の車速(前進時又は後退時の旋回速度)が減速する、
2.主変速レバー13を前進又は後退のいずれの方向に傾動操作した場合であっても、操向ハンドル10の回動操作方向と走行機体1の旋回方向とが一致する(操向ハンドル10を左に回せば走行機体1が左旋回し、操向ハンドル10を右に回せば走行機体1は右旋回する)、
3.主変速レバー13が中立位置(直進用HST機構53からの直進出力が零)にあるときには操向ハンドル10を操作しても機能しない(旋回用HST機構54の旋回出力が零に維持される)、
という各種動作を実行するために、主変速レバー13や操向ハンドル10からの操作力を適宜変換して、ステアリングボックス120の側面から外向きに突出する変速出力軸136や旋回出力軸164(詳細は後述する)に伝達するように構成されている。
図8〜図16に示すように、機械式連動機構121は、ステアリングボックス120内に両端を軸支された縦向きの旋回入力軸122を備えている。旋回入力軸122の上端部に固着されたギヤ123と、入力中継軸119のうちステアリングボックス120内に突出する下端部に固着されたギヤ119aとを噛み合わせる。入力中継軸119と旋回入力軸122とが、各ギヤ123,119aを介して動力伝達可能に連結されている。従って、操向ハンドル10の回動操作力は、入力中継軸119を介して旋回入力軸122に伝達される。
前記旋回入力軸122の上部には、ボール型キー127等を介してスライダ125が摺動可能に被嵌されている。旋回入力軸122の下部には、ホルダ部材126が回転及び摺動不能に嵌着されている。スライダ125は、旋回入力軸122の旋回軸線P方向に沿って自在に摺動するように構成されている。また、スライダ125は、旋回入力軸122と一緒に前記旋回軸線P回りに回転するように構成されている。
旋回入力軸122のうちホルダ部材126より下側の部分には、巻きばね128が被嵌されている。巻きばね128の始端128a及び終端128bは、ステアリングボックス120に固着された上向き凸状のピン129と、ホルダ部材126に固着された下向き凸状のピン130との両方を挟持している。ホルダ部材126(操向ハンドル10)に、左右に回した位置から中立位置(直進走行位置)に常時戻す方向に、巻きばね128が付勢されている。すなわち、操向ハンドル10における左右方向への回動操作は、巻きばね128の弾性に抗して行われる。そして、元の中立位置(直進走行位置)への回動操作は、巻きばね128の弾性復原力を利用している。
ホルダ部材126の回動可能範囲は、中立位置から左右への最大切れ角度θ1,θ2の範囲内に規制されている(例えばθ1=67.5°、θ2=67.5°、図12及び図14参照)。そして、旋回用の各ギヤ119a,123のギヤ比の関係から、操向ハンドル10の回動可能範囲が中立位置を挟んで左右にそれぞれ約135°の角度範囲になっている。
ステアリングボックス120内の下部には、旋回入力軸122の旋回軸線P方向から見た平面視で、旋回入力軸122の周囲を囲うリング状の制御体131が配置されている。制御体131の内面のうち、平面視で旋回入力軸122の回転中心を通って旋回入力軸122の旋回軸線Pと直交する変速軸線S上の部位には、左右一対の内向きボス部132が形成されている。左右の内向きボス部132は、ホルダ部材126にねじ軸133にて回転可能に枢着されている。制御体131は、ホルダ部材126を介して、変速軸線S(ねじ軸133)の回りに回動可能に支持されている。
従って、制御体131は、互いに直交する2つの軸線P,S回りに回動可能に、ホルダ部材126を介して取付けられている。制御体131の外周部には、旋回入力軸122の軸芯線を中心とした円周方向に延びる円形カム134が形成されている。円形カム134には、その全周にわたって延びるカム溝134a(詳細は後述する)が形成されている。
ステアリングボックス120内の上部には、旋回入力軸122を挟んで左右両側の一方に、直進操作用入力軸としての横向きの主変速レバー入力軸135が配置されている。他方には横向きの変速出力軸136が配置されている。主変速レバー入力軸135及び変速入力軸136は平面視で互いに平行状に延長している。主変速レバー入力軸135及び変速出力軸136をステアリングボックス120に回動可能に軸支している。主変速レバー入力軸135及び変速出力軸136の一端部は、ステアリングボックス120の各側面から外向きに突出している。
図5〜図7に示すように、主変速レバー入力軸135はステアリングボックス120から走行機体1の左右中央側に向けて突出している。主変速レバー入力軸135の突出端側に、クランク軸状に形成された主変速レバー13の基端部が連結されている。主変速レバー13の長手中途部がサイドコラム12の上面を貫通している。主変速レバー13の前後傾動操作によって、主変速レバー入力軸135が主変速レバー13と共に一体回動するように構成されている。
また、変速出力軸136は、ステアリングボックス120から走行機体1の左右中央側に向けて突出している。変速出力軸136の突出端に変速出力アーム139が固着されている。変速出力アーム139に直進用リンク機構140を介して直進制御軸149を連動連結している。変速出力軸136の回転によって直進用リンク機構140が変速作動するように構成している。ミッションケース18の直進用HST機構53から直進制御軸149が上向きに突出している。
前記直進制御軸149は、直進用HST機構53における第1油圧ポンプ55の回転斜板の傾斜角度(斜板角)を調節するためのものであり、直進用HST機構53の変速出力を調節する出力制御部として機能する。すなわち、直進制御軸149の正逆回転にて第1油圧ポンプ55の斜板角を調節することにより、第1油圧モータ56の回転数制御又は正逆転切換が実行され、走行速度(車速)の無段階変更や前後進の切換が行われる。
直進用リンク機構140は、サイドコラム12のコラムフレーム16(図5参照)に固定された横向きの変速側横支軸141、変速側横支軸141に回動可能に支持されたL字状の変速揺動アーム142、変速出力アーム139と変速揺動アーム142の一端側とをつなぐ中継ロッド143、及び、変速揺動アーム142の他端側と直進制御軸149に固着された直進操作アーム148とをつなぐ変速ロッド144を備えている。
中継ロッド143の一端部は、横向きの枢着ピンを介して変速出力アーム139に連結されている。中継ロッド143の他端部は、関節継手を介して変速揺動アーム142の一端側に連結されている。変速ロッド144の一端部は、横向きの枢着ピンを介して変速揺動アーム142の他端側に連結されている。変速ロッド144の他端部は、直進制御軸149側の直進操作アーム148に、関節継手を介して連結されている。
主変速レバー入力軸135のうちステアリングボックス120内の部分には、一対の主変速フォークアーム151が固着されている。主変速フォークアーム151の先端にボールベアリング152を設ける。スライダ125の外周に環状溝125aを形成する。ボールベアリング152は、環状溝125aに嵌り係合している。このため、主変速レバー入力軸135の回転(主変速レバー13の回動操作)によって、旋回入力軸122に沿ってスライダ125が上下摺動するように構成されている。すなわち、主変速レバー13が中立位置のときに、スライダ125は、図11に実線で示す箇所(上下摺動可能範囲の略中間点)に位置する。主変速レバー13を中立位置から前後方向へ回動操作することによって、スライダ125が上下動する。
また、スライダ125と制御体131とは、両端にピン154を有する揺動リンク153にて連結されている。主変速レバー13が中立位置のときに、スライダ125が上下動することはない。制御体131は中立位置の水平姿勢のままで傾き回動しない。主変速レバー13を中立位置から前方又は後方に回動操作すると、スライダ125が上下動する。スライダ125が上下動することによって、制御体131が、ねじ軸133を中心として変速軸線Sの回りに傾き回動する。制御体131は、水平姿勢を挟んで上下方向に適宜角度α1,α2の範囲内を傾き回動する(図15参照)。
直進用変換軸としての中間軸155を変速出力軸136と平行状に延長させている。ステアリングボックス120の内外に中間軸155の両端側を突出させている。ステアリングボックス120のうち変速出力軸136の略真下の部位に、中間軸155が軸支されている。詳細は後述するが、制御体131の変速軸線S回りの回動量が、中間軸155によって、直進用HST機構53の制御量に変換される。
中間軸155の内端には、直進リンク156が上下方向に自在に回動するように設けられている。直進リンク156のうち、平面視で旋回入力軸122の回転中心を通って変速軸線Sと直角に延びる直交軸線W上の部分には、変速用滑り子部材157が設けられている。変速用滑り子部材157は、前記直交軸線Wの回りに回転自在に、直進リンク156に支持されている。変速用滑り子部材157は、カム溝134aを介して、円形カム134に円周方向に摺動可能に係合している。
図17に示すように、変速用滑り子部材157は、直進リンク156にボールベアリング157bにて回転自在に軸支された軸部157aと、軸部157aの先端に一体に設けられた球体157cとにより構成されている。変速用滑り子部材157の球体157cは、円形カム134のカム溝134a内に摺動及び回転自在に挿入されている。
直進リンク156には、変速出力軸136に回転自在に連結された変速出力リンク158の先端側が連結リンク159を介して連結されている。円形カム134が変速軸線Sの回りに傾き回動したときに、変速用滑り子部材157を介して、直進リンク156が中間軸155の軸芯周りに回動するように構成している。このため、制御体131の変速軸線S回りの傾き回動に連動して、直進リンク156と変速出力リンク158とが上下回動することになる。
変速出力軸136には、非減速アーム160の基端が回転自在に被嵌されている。非減速アーム160の先端に長孔160aが穿設されている。主変速フォークアーム151の先端にピン161が設けられている。非減速アーム160の長孔160aに主変速フォークアーム151のピン161を嵌り係合させている。主変速フォークアーム151の上下動に連動して、非減速アーム160が回動するように構成されている(図16参照)。
また、変速出力軸136のうち変速出力リンク158と非減速アーム160との間の部位には、切り換え部材162が設けられている。切り換え部材162は、変速出力軸136上に、その軸線方向に摺動可能に支持されている。切り換え部材162を手動操作して、変速出力リンク158又は非減速アーム160のいずれか一方を択一的に選択する。変速出力リンク158又は非減速アーム160のいずれか一方を、切り換え部材162を介して変速出力軸136に一体回転するように連結させる。
図13に示すように、切り換え部材162にピン163を設けている。切り換え操作機構169にて切り換え部材162を変速出力軸136に沿って摺動させることにより、変速出力リンク158又は非減速アーム160に、切り換え部材162のピン163を係合させる。変速出力軸136にピン163を介して変速出力リンク158を結合する旋回減速状態、又は変速出力軸136にピン163を介して非減速アーム160を結合する旋回非減速状態のいずれか一方に、選択的に切り換え得るように構成されている。
その結果、路上や乾田等で走行クローラ2の沈下量が少ない収穫作業において、旋回減速状態に切換えた場合、旋回半径に比例させて、走行機体1の中心(左右の走行クローラ2間の中心)の移動速度を減速できる。例えば走行機体1の旋回半径が小さくなるのに比例して、走行機体1の移動速度が自動的に減速される。すなわち、旋回減速状態に切換えた場合、旋回外側の走行クローラ2の移動速度を略直進速度に維持しながら、旋回半径に比例させて旋回内側の走行クローラ2の移動速度が減速され、走行機体1が旋回してその進路が変更される。その場合、走行機体1の中心(左右走行クローラ2間の中心)の移動速度が、旋回半径に比例して減速される。圃場の枕地での走行クローラ2の横滑り等を低減できる。
一方、湿田等で走行クローラ2の沈下量が多い収穫作業において、旋回非減速状態に切換えた場合、走行機体1の旋回半径に関係なく、走行機体1の中心(左右走行クローラ間の中心)の移動速度が、略直進速度に維持される。例えば走行機体1の旋回半径が小さくなるほど、直進時の速度を基準にして、旋回半径に比例して、旋回外側の走行クローラの移動速度が増速される。すなわち、旋回非減速状態に切換えた場合、旋回内側の走行クローラ2の移動速度の減速を少なくして、走行機体1の推進力を確保でき、スリップしやすい湿田等での旋回性能を向上できる。なお、走行クローラ2の沈下量が多いときには、走行機体1の移動速度を遅くしているから、旋回外側の走行クローラ2の移動速度が直進時に比べて大幅に増速されても、旋回外側の走行クローラ2の移動速度が速くなりすぎることがない。
切り換え操作機構169は、以下に述べるような構成になっている。すなわち、図13及び図15に示すように、ステアリングボックス120には、変速出力軸136と平行状に延びる切り換え操作軸170が摺動自在及び回転自在に軸支されている。切り換え操作軸170に切り換え板171が固着されている。切り換え部材162に環状溝172が形成されている。切り換え板171が環状溝172に嵌まり係合している。切り換え操作軸170の一端はステアリングボックス120の外側に突出している。切り換え操作軸170の突出端に把手173が設けられている。
オペレータが把手173を握って、切り換え操作軸170をその軸線方向に摺動させるように構成している。ステアリングボックス120の外側から、前述した旋回減速状態と旋回非減速状態との切換え操作を行うことができる。なお、切り換え操作軸170にボールクラッチ174を設けている。変速出力軸136と変速出力リンク158とを結合する旋回減速状態、又は変速出力軸136と非減速アーム160とを結合する旋回非減速状態に、ボールクラッチ174によって切り換え操作軸170を保持する。
変速出力軸136と直交方向に延びる旋回用変換軸としての旋回出力軸164が、ステアリングボックス120に軸支されている。ステアリングボックス120の側面のうち、変速出力軸136の略真下の部位に、旋回出力軸164が配置されている。旋回出力軸164の両端側は、ステアリングボックス120の内外に突出されている。詳細は後述するが、旋回出力軸164は、制御体131の旋回軸線P回りの回動量を旋回用HST機構54の制御量に変換するためのものである。旋回出力軸164のうちステアリングボックス120内の端部には、旋回リンク165の基端が固着されている。旋回リンク165のうち平面視で変速軸線S上の部分には、円形カム134に円周方向に摺動自在に係合する旋回用滑り子部材166が設けられている。
図18に示すように、旋回用滑り子部材166は、旋回リンク165に取り付けられた軸部166aと、軸部166aの先端に一体に設けられた球体166b(球状部)と、球体166bに回転自在に且つ軸部166aの軸線に対して任意の方向に自在に傾き得るように被嵌されたリング体166cとにより構成されている。リング体166cは、円形カム134のカム溝134a内に摺動及び回転自在に挿入されている。
図10に示すように、中間軸155の軸線AX1と旋回出力軸164の軸線AX2とは略同一平面上に位置している。また、図14に示すように、直進リンク156の回動半径r1(中間軸155から変速用滑り子部材157までの長さ)と、旋回リンク165の回動半径r2(旋回出力軸164から旋回用滑り子部材166までの長さ)とは、実質的に同じ長さ(r1≒r2)に設定されている。
一方、旋回出力軸164のうち外端に固着された旋回出力アーム167は、旋回制御軸189に連動連結されている。ミッションケース18の旋回用HST機構54から旋回制御軸189を上向きに突出させている。旋回用リンク機構180を介して、旋回出力軸164の回転にて旋回制御軸189を変速作動するように構成している。
旋回制御軸189は、旋回用HST機構54における第2油圧ポンプ57の回転斜板の傾斜角度(斜板角)を調節するためのものであり、旋回用HST機構54の変速出力を調節する出力制御部として機能する。すなわち、旋回制御軸189の正逆回転にて第2油圧ポンプ57の斜板角調節をすることにより、第2油圧モータ58の回転数制御及び正逆転切換を実行し、走行機体1の操向角度(旋回半径)の無段階変更並びに左右旋回方向の切り換えが行われる。
図5〜図7に示すように、旋回用リンク機構180は、サイドコラム12のコラムフレーム16に固定された横向きの旋回側横支軸181、旋回側横支軸181に回動可能に支持されたL字状の旋回揺動アーム182、旋回出力アーム167と旋回揺動アーム182の一端側とをつなぐ中継ロッド183、及び、旋回揺動アーム182の他端側と旋回制御軸189に固着された旋回操作アーム188とをつなぐ旋回ロッド184を備えている。
中継ロッド183の一端部は、前後長手の枢着ピンを介して旋回出力アーム167に連結されている。中継ロッド183の他端部は、関節継手を介して旋回揺動アーム182の一端側に連結されている。旋回ロッド184の一端部は、横向きの枢着ピンを介して旋回揺動アーム182の他端側に連結されている。旋回ロッド184の他端部は、旋回制御軸189側の旋回操作アーム188に、関節継手を介して連結されている。
なお、ステアリングボックス120は、旋回入力軸122の旋回軸線Pと直交する平面A(図10参照)にて、ダイキャスト又は鋳造製の上部ボックス体120aと、同じくダイキャスト又は鋳造製の下部ボックス体120bとの二つ割りの構造になっている。そして、両ボックス体120a,120bは、その間にシール用のガスケット(図示せず)を挟んだ状態で、複数本のボルト(図示せず)にて着脱可能に結合されている。ステアリングボックス120の内部には、コンバインにおける各種の油圧機器(例えば刈取装置3を昇降動する油圧シリンダ4)に使用される作動油が貯蔵されている。ステアリングボックス120内の作動油にて機械式連動機構121を潤滑するという構成になっている。なお、ステアリングボックス120には、作動油が出入りするための入口及び出口(図示省略)が設けられている。
(4).機械式連動機構の作動
次に、図7〜図16を参照しながら、主変速レバー13や操向ハンドル10を操作したときの機械式連動機構121の作動について説明する。
主変速レバー13が中立位置のときは、旋回入力軸122上のスライダ125が上下動しないから、制御体131は中立位置の水平姿勢で保持され、変速軸線S回りに傾き回動することはない。この状態では、操向ハンドル10を左右いずれの方向に回動操作しても、制御体131の円形カム134に係合する変速用滑り子部材157及び旋回用滑り子部材166が、両方とも上下方向に移動しない。中間軸155(変速出力軸136)及び旋回出力軸164は停止状態に維持される。従って、両方のHST機構53,54(第1油圧モータ56、第2油圧モータ58)は作動しない。
つまり、主変速レバー13を中立位置にセットして走行機体1を停止させた状態では、オペレータの不用意な接触等にて操向ハンドル10を回動させたとしても、両方のHST機構53,54が駆動することはなく、走行機体1を確実に停止状態に維持できる。従って、例えばメンテナンス作業等の際は、主変速レバー13を中立位置にセットしておくだけで、オペレータの意図に反して走行機体1が予想外の挙動をするおそれを確実に回避でき、安全性を十分に確保できる。
次に、操向ハンドル10を中立位置(直進走行位置)に維持した状態のもとで、主変速レバー13を中立位置から傾動操作したときは、これに連動してスライダ125が上下動し、制御体131が変速軸線S回りに上下動するように正逆傾き回動する(図16の二点鎖線状態参照)。すなわち、円形カム134の直交軸線W上の部分に係合する変速用滑り子部材157は、旋回入力軸122の旋回軸線Pに沿って中立位置から上下に距離L1又はL2だけ移動する。
なお、前記スライダ125の上下動によって、円形カム134の変速軸線S上の部分に係合する旋回用滑り子部材166は上下には移動しない。また、主変速レバー13を中立位置から傾動操作する前に、切り換え操作機構169による操作で、切り換え部材162のピン163を、変速出力リンク158に係合させ、変速出力リンク158と変速出力軸136とが一体に回転するように、変速出力リンク158と変速出力軸136とを連結する。
上述したように、スライダ125の上下動によって変速用滑り子部材157を移動させたときに、変速用滑り子部材157の上下への移動が、直進リンク156、連結リンク159、変速出力リンク158、切り換え部材162、変速出力軸136、変速出力アーム139及び直進用リンク機構140を介して、直進制御軸149(直進用HST機構53)に伝達される。すなわち、変速用滑り子部材157を上下に移動させたときに、円形カム134の変速軸線S回りの傾き回転にて、第1油圧ポンプ55の斜板(直進用HST機構53)が中立位置から変速作動する。
一方、制御体131における円形カム134の変速軸線S上の部分に旋回用滑り子部材166が係合しているから、円形カム134(制御体131)が変速軸線S回りに正逆傾き回転しても、操向ハンドル10を操作しない限り、旋回用滑り子部材166が上下方向に移動しない。第2油圧ポンプ57の斜板(旋回用HST機構54)が中立位置から変速作動することはない。従って、左右の両走行クローラ2には、直進用HST機構53から同じ回転数(同一回転方向)が同時に伝達されることになり、走行機体1は前進又は後退方向に直進走行する。
直進走行時の走行速度(車速)は、直進用HST機構53における直進制御軸149の回動量にて決まる。当該回動量は、変速用滑り子部材157における上下への移動距離L1,L2(中立位置からの円形カム134の傾き回転角度α1,α2)にて決まる。主変速レバー13の傾動操作量にて、円形カム134の傾き回転角度α1,α2が増減されるから、主変速レバー13の中立位置からの操作量に比例して、走行機体1における直進走行時の走行速度を調節できることになる。
次に、主変速レバー13を中立位置以外の位置に操作した状態で、操向ハンドル10を中立位置から左又は右方向に回動操作して、旋回入力軸122を回転させると、円形カム134(制御体131)は、変速軸線Sの回りに傾き回転した状態で、旋回入力軸122と共に回転する。そうすると、円形カム134の変速軸線S上の部分に係合する旋回用滑り子部材166が、旋回入力軸122による回転にて上下に移動する。旋回用滑り子部材166の上下への移動が、旋回リンク165、旋回出力軸164、旋回出力アーム167及び旋回用リンク機構180を介して、第2油圧ポンプ57(旋回用HST機構54)の旋回制御軸189に伝達される。その結果、第2油圧ポンプ57の斜板角が中立位置以外に変更されて、第2油圧ポンプ57(旋回用HST機構54)が変速作動する。
このため、第2油圧モータ58(旋回用HST機構54)の中立位置からの変速作動によって、第2油圧モータ58から左右の走行クローラ2に、互いに逆方向の回転(同じ回転数)が同時に伝達される。すなわち、左右の走行クローラ2の相互間には速度差が付与されることになるから、操向ハンドル10を操作した方向に走行機体1が旋回する。つまり、操向ハンドル10の操作によって、走行機体1の進路が変更される。
第2油圧ポンプ57(旋回用HST機構54)の中立位置からの変速作動量、つまり、旋回制御軸189の回動量は、操向ハンドル10における中立位置からの回動操作角度(回動操作量)に比例する。すなわち、制御体131が変速軸線S回りに正逆傾き回動した状態で旋回入力軸122にて回転するのに伴う旋回用滑り子部材166の上下方向への移動量に、旋回用HST機構54の変速作動量が比例する。従って、旋回用HST機構54の変速作動による左右の走行クローラ2の速度差は、操向ハンドル10における中立位置からの回動操作角度(回動操作量)に比例して増大し、走行機体1の旋回半径が小さくなる。
特に実施形態では、円形カム134の変速軸線S回りの傾き回転によって、円形カム134に係合する変速用滑り子部材157を上下動させるから、操向ハンドル10の回動操作量に比例して直進制御軸149をそれまでとは逆方向に回転させ、その時の旋回半径に対応して左右の走行クローラ2の直進速度(走行機体1の旋回速度)を減速できる。
すなわち、操向ハンドル10を中立位置から回動操作すると、円形カム134(制御体131)が変速軸線S回りに傾き回転した状態で旋回入力軸122にて回動する。そして、円形カム134の回動に伴って、円形カム134の直交軸線W上の部分から変速軸線S上の部分に近づくように、円形カム134に係合する変速用滑り子部材157が移動する。このため、変速用滑り子部材157の上下移動距離L1,L2が、円形カム134の直交軸線W上の部分に位置している場合よりも小さくなる。すなわち、直進制御軸149の回動量(直進用HST機構53の変速作動量)が小さくなる。その結果、第1油圧モータ56から左右の走行クローラ2へ伝達される直進回転数が減速方向に制御され、走行機体1の旋回に際しての走行速度が遅くなる。その場合、左右の走行クローラ2間の中心の速度が遅くなり、旋回外側の走行クローラ2の移動速度は、減速前の直進走行速度に近似した速度に維持される。
従って、操向ハンドル10の回動操作量が大きいほど、左右の走行クローラ2の速度差が大きくなって旋回半径が小さくなると共に、直進方向の移動速度が減速して、走行機体1全体としては走行速度(車速)が遅くなるから、旋回時において、走行機体1(オペレータ)に旋回外向きに作用する遠心力を軽減できる。左右の走行クローラ2の横滑りを低減できる。また、前進時と後進時とでは、操向ハンドル10の回動操作に対して、制御体131(円形カム134)の変速軸線S回りの傾き回動方向が逆になるので、前後進時のいずれにおいても、操向ハンドル10の回動操作方向と走行機体1の旋回方向とが一致する。
ところで、走行機体1の移動速度を操向ハンドル10の回動操作角度(回動操作量)に比例して自動的に減速することは、湿田等のように地面が柔らかい場合に、両走行クローラ2の地面へのめり込み(沈下量)の増大を招来するおそれがある。すなわち、走行機体1の旋回半径を小さくすることによって、旋回外側の走行クローラ2の回転数に比べて、旋回内側の走行クローラ2の回転数が大幅に低下する。そのように、走行クローラ2の回転数が大幅に低下したときに、地面が柔らかい湿田では、走行クローラ2が大きく沈下するおそれがある。
このような場合には、切り換え操作機構169による切り換え部材162の操作にて、変速出力リンク158を変速出力軸136に結合する状態から、非減速アーム160を変速出力軸136に結合する状態に切り換える。非減速アーム160を変速出力軸136に結合した場合、操向ハンドル10の回動角(操舵角)に関係なく、主変速レバー13の設定速度に走行機体1の移動速度(直進移動速度)が維持される。上述したように操向ハンドル10の回動角(操舵角)に比例して走行機体1の移動速度(直進移動速度)が減速するのに比べて、走行機体1の旋回半径を小さくする方向に操向ハンドル10を操作しても、旋回内側の走行クローラ2の減速量が小幅になる。
非減速アーム160を変速出力軸136に結合した場合、主変速レバー13の操作は、操向ハンドル10の回動操作に拘らず、そのまま連動連結手段138、主変速アーム137、主変速レバー入力軸135、主変速フォークアーム151、非減速アーム160、変速出力軸136、変速出力アーム139及び直進用リンク機構140を介して、直進用HST機構53の直進制御軸149に伝達される。このため、操向ハンドル10の回動操作と主変速レバー13の傾動操作とが直接関連しなくなる。操向ハンドル10の操舵と連動して円形カム134を介して走行機体1の移動速度が減速する状態から解放される。主変速レバー13の傾動操作量に比例した走行速度(車速)が維持される。従って、走行機体1の進路を変更しても、旋回内側の走行クローラ2の減速量が小幅になって、旋回内側の走行クローラ2の回転数をも所定以上に維持できる。その結果、柔らかい地面へのめり込み(走行クローラ2の沈下)を抑制するというように、コンバインを湿田仕様にできる。
(5).まとめ
以上の構成によると、互いに直交する2つの軸線P,S回りに回動可能に構成された制御体131(円形カム134)を内蔵したステアリングボックス120を備えている。制御体131は、操向ハンドル10の操作に伴う旋回軸線P回りの正逆回動にて旋回用HST機構54を作動させ、主変速レバー13の操作に伴う変速軸線S回りの正逆回動にて直進用HST機構53を作動させるように構成されている。従って、「主変速レバー13を中立以外の位置に傾動操作した状態で、操向ハンドル10を中立以外の位置に回動操作すると、その回動操作量が大きいほど小さな旋回半径で走行機体1が左又は右に旋回する」という動作を、制御体131における旋回軸線P回りの正逆回動と変速軸線S回りの正逆回動との両方にて実行できる。すなわち、制御体131は、操向ハンドル10の回動操作に連動して旋回用HST機構54を作動させる旋回操舵機能と、主変速レバー13の傾動操作に連動して直進用HST機構53を作動させる走行変速機能の両方の機能を兼ね備えている。
従って、特許文献1のように長尺のロッドやアーム、高剛性の軸受等を多用した操作系統の構造に比べて、機械式連動機構121の構成部品点数が少なくて済む。加工精度や組み立て精度の精粗によって機械式連動機構121の動作にバラツキが生ずるのを回避できる。機械式連動機構121を組付けるときの調整作業等を従来よりも簡素化できる。すなわち、機械式連動機構121を低コストに構成できるものでありながら、機械式連動機構121の組付け又はメンテナンス等の作業性を向上できる。
また、実施形態では、操向ハンドル10の回動操作に連動して回動する旋回出力軸164の軸線AX2と、主変速レバー13の傾動操作に連動して回動する中間軸155の軸線AX1とが実質的に同一平面上に位置しているから、制御体131の動作範囲(特に変速軸線S回りの上下傾き回動範囲)が制限されることになる。特許文献1のように長尺のロッドやアーム、高剛性の軸受等を多用した操作系統の構造に比べて、機械式連動機構121において旋回軸線Pに沿った寸法を大幅に短縮できる。
従って、機械式連動機構121の構造を、特許文献1の場合に比べて著しく簡単且つ小型にでき、操作系統全体のコンパクト化が可能になる。その結果、走行機体1の操縦部9周辺の省スペース化に寄与できる。特に実施形態では、直進リンク156の回動半径r1と、旋回リンク165の回動半径r2とが実質的に同じ長さ(r1≒r2)に設定されているから、操作系統全体の構造をより一層コンパクトにできる。
更に、操縦部9のうち走行機体1の左右中央側に位置するサイドコラム12内に、機械式連動機構121を内蔵したステアリングボックス120が配置されているから、ステアリングボックス120を操縦部9内に露出させずに済む。このため、操縦部9及びその周辺のスペースを広く確保でき、コンバイン操縦時の快適性(乗り心地)が向上する。
実施形態では、サイドコラム12の下方に、直進用及び旋回用HST機構53,54を有するミッションケース18が配置されており、ステアリングボックス120と直進用及び旋回用HST機構53,54とが上下に並ぶように位置すると共に、ステアリングボックス120から各HST機構53,54に至る動力伝達のためのリンク機構140,180をサイドコラム12内に位置させているから、ステアリングボックス120と各HST機構53,54とを、両リンク機構140,180によって短い距離で動力伝達可能に連結できる。このため、各HST機構53,54に対する遠隔的操作の感度が向上するという利点がある。その上、ステアリングボックス120だけでなく両リンク機構140,180もサイドコラム12にて覆われるから、ステアリングボックス120及び両リンク機構140,180が泥土や藁屑を被るおそれを格段に抑制でき、主変速レバー13や操向ハンドル10から各HST機構53,54への操作力伝達精度が下がる要因を減らせる。
また、制御体131に変速軸線S回りの回動力を伝達するための主変速レバー入力軸135がステアリングボックス120から突出しており、主変速レバー入力軸135の突出端側に主変速レバー13が連結されているから、主変速レバー13から主変速レバー入力軸135への操作力の伝達距離が短縮されて、主変速レバー13からの操作力を主変速レバー入力軸135に直接的に伝達できることになる。従って、主変速レバー13からの操作力伝達精度が向上するのである。
なお、図17に示すように、円形カム134のカム溝134a内に摺動自在に嵌まる球体157cを、直進リンク156に軸部157aにて回転自在に支持するという、変速用滑り子部材157の構成(第1別例)は、円形カム134と球体157cとの間の摺動摩擦抵抗を大幅に低減できる。
また、図18に示すように、円形カム134のカム溝134a内に摺動自在に嵌まるリング体166cを、旋回リンク165に取り付けられた軸部166aと一体の球体166bに回転自在に且つ軸部166aの軸線に対して任意の方向に自在に傾き得るように被嵌するという、旋回用滑り子部材166の構成(第1別例)は、前記と同様に、円形カム134と球体166bとの間の摺動摩擦抵抗を大幅に低減できる。前記球体166bは真円球で形成されている。
言うまでもないが、変速用滑り子部材157は、図17に示す構成に代えて、図18に示す構成にしてもよい。旋回用滑り子部材166は、図18に示す構成に代えて、図17に示す構成にしてもよい。
本願発明は、前述の実施形態に限定されず、様々な態様に具体化できる。例えば本願発明は、前述のようなコンバインに限らず、トラクタ、田植機等の農作業機や、クレーン車等の特殊作業用車両のような各種走行車両に対して広く適用できる。また、本願発明における各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。