JP5371587B2 - 光学素子の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、熱可塑性素材を成形型間に挟んで加熱、加圧し光学素子を製造する光学素子の製造方法に関する。
近年の光学素子は、映像の高画質化に伴い、高い形状精度が求められており、光学機能面の面間偏芯についても厳しい精度が求められている。
例えば、熱可塑性素材を加熱、加圧(プレス)すると、成形品の成形面に曇りや発泡等の変質が発生することがある。
これを回避する技術として、例えば特許文献1には、熱可塑性素材の機能面予定面と成形型の機能面成形面とが非接触のまま、熱可塑性素材を機能面予定面以外の部位にて支持し、該支持部位からの伝熱加熱により熱可塑性素材を加熱軟化し、曇りや発泡等の変質を防ぐ技術が提案されている。
すなわち、加熱プレートを上型に当接させて押圧し、この状態で下プレートの内部に格納された押し上げ部材が上昇してきて下型を持ち上げ、この下型が支持部材に支えられている熱可塑性素材を持ち上げる。こうして、熱可塑性素材を上型に当てつけ、上下型間に挟み込むことで成形を行っている。
この特許文献1によれば、熱可塑性素材を下型と非接触の状態で位置決め部材で位置決めしながら加熱することができる。また、プレス工程に入ると、熱可塑性素材を位置決めしていた位置決め部材が、プレスに影響を及ぼすことなく、熱可塑性素材と下型から離れるため、成形品の曇りや発泡等の変質を防止することができる。
特開2007−186392号公報
しかしながら、特許文献1では、例えば、図18において、下プレート126の内部に格納された押し上げ部材130が、下型142を上型145に向けて持ち上げて成形する時に、下型142がチルト(回転)しやすいという課題が生じる。そして、この下型142のチルトは、成形される熱可塑性素材150の面間偏芯(光学機能面間の偏心)に関連している。
ここで、下型がチルトしやすいのは、以下の理由が考えられる。
第1に、図18に示すように、押し上げ部材130は、先端が平面若しくは非平面で、直径がスリーブ149の内径よりも小さい棒状部材のため、押し上げ部材130自身のチルトを制御するのが困難である。
第2に、図19に示すように、押し上げ部材130と下型142との接触面積は、下型142の面積よりも小さいため、押し上げ部材130がチルトせずに作動したとしても、下型自身がチルトし易い。
第3に、押し上げ部材130の中心軸とスリーブ149の中心軸O−Oとが一致するように下型142を位置決めする必要がある。スリーブ149の中心軸O−Oとは、スリーブ149の内径(内側)の中心軸のことである。もしも、スリーブ149の中心軸O−Oと押し上げ部材130の中心軸とがシフト(移動)した状態で成形が行われると、押し上げ部材130が下型142にトルクを与える作用が働き、図20に示すように、押し上げ部材130のチルトがなくても下型142のチルトが発生してしまう。
なお、光学機能面が球面である光学素子の場合、芯取り加工で面間偏芯を除去することが可能であるが、非球面が少なくとも1面ある光学素子の場合は、面間偏芯を後工程で除去することはできない。
本発明は、斯かる課題を解決するためになされたもので、型の寸法を大きくすることなく成形品の面間偏心の発生を防止することのできる光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
本発明に係る光学素子の製造方法は、
対向配置された下型及び上型が嵌挿されるスリーブ内に支持されるように、該下型及び該上型の間に保持部材を配置し、該保持部材に支持されるように、熱可塑性素材を配置する配置工程と、
前記配置工程後、前記下型を上方移動させて、前記熱可塑性素材を持ち上げる工程と、
持ち上げられた前記熱可塑性素材を、前記上型に当接させて成形を開始する工程と、
前記下型のさらなる上方移動により前記保持部材を持ち上げて、前記下型の成形面の球心または面頂と前記保持部材の回転中心とが一致するように前記熱可塑性素材の成形を完了する成形完了工程と、を有する。
また、本発明に係る光学素子の製造方法は、
上記の光学素子の製造方法において、
前記下型の成形面は、球面であり、
前記成形完了工程では、前記球心と前記回転中心とが一致するように成形を完了することが可能である。
さらに、本発明に係る光学素子の製造方法は、
上記の光学素子の製造方法において、
前記下型の成形面は、非球面であり、
前記球心は、前記成形面の近軸曲率半径を有する球の中心であることが可能である。
また、本発明に係る光学素子の製造方法は、
上記の光学素子の製造方法において、
前記保持部材は、前記熱可塑性素材の機能面予定面よりも外側の部位を支持することが可能である。
本発明によれば、型の寸法を大きくすることなく成形品の面間偏心の発生を防止することのできる光学素子の製造方法を提供することができる。
実施の形態1に用いられる成形装置の全体構成を示す図である。 同上の光学素子の製造工程を示す図である。 同上の光学素子の製造工程を示す図である。 同上の光学素子の製造工程を示す図である。 同上におけるフローチャートを示す図である。 スリーブの中心軸と非球面球心との位置関係を示す図である。 スリーブの中心軸と非球面球心との位置関係を示す図である。 スリーブの中心軸と非球面球心との位置関係を示す図である。 下型がスリーブに嵌合しているときの断面を示す図である。 シフトはゼロでチルトが最大となった場合の型セットの断面を示す図である。 同上の部分拡大を示す図である。 シフト最大でチルト0の場合の型セットの断面を示す図である。 下型の嵌合長が短い場合の型セットの断面図である。 下型の嵌合長が長い場合の型セットの断面図である。 実施の形態2の型セットの断面を示す図である。 同上の光学素子の製造工程を示す図である。 熱可塑性素材が平板状をなしているときの実施の形態を示す図である。 同上の光学素子の製造工程を示す図である。 従来例の型セットの断面を示す図である。 従来例の型セットの断面を示す図である。 従来例の型セットの断面を示す図である。
[実施の形態1]
(成形装置の構成)
図1は、本実施の形態に用いられる成形装置の全体構成を示す図である。この成形装置10は、予備室11、成形室12、排出室13を有し、これらの各室が矢印A方向に沿って連続して形成されている。この矢印A方向は、後述する型セット40の搬送方向である。
(予備室11の構成)
予備室11は、床面に平坦なプレート14が敷設され、このプレート14の上面に、下端が開口したチャンバー18が配置されている。この予備室11は密室となっているが、入口側のシャッター17を開くことで、外部から予備室11内、さらにチャンバー18内に型セット40を搬入できるようになっている。
例えば、チャンバー18を昇降移動させて内部に型セット40を収容することができる。この場合、予備室11の高さは、実際にはチャンバー18を昇降移動可能な高さに設定されている。
本実施の形態では、型セット40を次の成形室12に搬送する前にチャンバー18内の真空引きが行われる。また、この真空引きの後、チャンバー18の内部を窒素や不活性ガスによってガス置換を行う。
そのために、チャンバー18の上方には、導入管19を介して真空ポンプ20が取り付けられている。この真空ポンプ20により、チャンバー18内を真空引きし、代わりに窒素ガスを充填できるようになっている。こうして、チャンバー18内は窒素ガスで置換される。型セット40には、外気と連通する不図示の空気孔が形成されていて、この空気孔を介して型セット40の内部も窒素ガスで充満される。
型セット40を収容したチャンバー18内が窒素ガスで置換された後は、チャンバー18が開放されて、型セット40が搬出できるようになっている。
チャンバー18が開放された後は、成形室12との間にあるシャッター21が開き、型セット40が成形室12へ搬入される。その後、シャッター21は閉じられる。
なお、予備室11内の酸素濃度は20ppm以下に保たれている。このように、予備室11の酸素濃度を低くするのは、型セット40や成形装置10内の構造物の耐久性の向上と、成形品(光学素子)の不良発生の防止のためである。さらに、予備室11内にチャンバー18を設けたのは、型セット40内の酸素濃度を確実に低くするためである。
(成形室12の構成)
成形室12内は、窒素置換(窒素パージ)が行われ、酸素濃度は10ppm以下に保たれている。また、搬入された型セット40に対し、加熱、成形、冷却が行えるように、複数のステージに分割されている。なお、ステージの数は何個でもよいが、本実施の形態では、加熱と成形を行う第1ステージ15と、冷却を行う第2ステージ16の2つのステージに分割されている。
第1ステージ15は、一対の上プレート24及び下プレート26を有し、各上・下プレート24,26内には夫々上・下カートリッジヒータ25,27が内蔵されている。この上・下カートリッジヒータ25,27により、上・下プレート24,26を所望の温度に加熱することができる。この上・下プレート24,26により、挟持した型セット40を加熱することができる。また、上プレート24は、シリンダ28により上下方向(矢印B方向)に昇降することができる。
第1ステージ15では、下プレート26の中心に貫通孔29が形成されている。この貫通孔29に、プレス機構(図示せず)の押し上げ部材30が摺動自在に嵌挿されている。この押し上げ部材30は、不図示のヒータにより下プレート26と同じ温度状態に加熱されている。この押し上げ部材30は、不図示のシリンダにより上下方向(矢印C方向)に昇降移動することができる。
第2ステージ16は、一対の上プレート34及び下プレート36を有し、各上・下プレート34,36内には夫々上・下カートリッジヒータ35,37が内蔵されている。この上・下カートリッジヒータ35,37により、上・下プレート34,36を所望の温度に加熱することができる。この上・下プレート34,36により、挟持した型セット40を加熱することができる。また、上プレート34は、シリンダ38により上下方向(矢印B方向)に昇降することができる。
(排出室13の構成)
この排出室13は、成形室12から搬送されてきた型セット40を冷却して外部に搬出する役目をなしている。
排出室13は、内部の酸素濃度が20ppm以下に保たれている。この排出室13内には、放熱板56が上下方向(矢印B方向)に昇降自在に配置されている。こうして、排出室13内に型セット40が搬入されると、放熱板56が下降してくる。
この放熱板56は、型セット40の上端面に所定時間当てつけられて型セット40を常温近くまで冷却する。その後、排出室13の排出口に設けられたシャッター58が開かれる。こうして、型セット40は不図示の搬送アームにより外部へ排出され、工程完了となる。
(型セット40の構成)
図2に示すように、型セット40は、第1の型としての下型42、第2の型としての上型45、保持部材48、及びスリーブ49を有している。下型42は段付き円柱状をなし、大径のフランジ部43と小径の柱状部42とを有している。フランジ部43と柱状部42との境界は、平坦面43aに形成されている。また、柱状部42の先端部に、凸非球面状の成形面42aが形成されている。
上型45は段付き円柱状をなし、大径のフランジ部46と、中間径の第1の柱状部45と、小径の第2の柱状部45とを有している。この第2の柱状部45の先端部に、凹球面状の成形面45aが形成されている。
なお、本実施の形態では、下型42の成形面42aを凸非球面状とし、上型45の成形面45aを凹球面状としたが、これに限らない。例えば、成形面42aを凸球面状とし、成形面45aを凹非球面状としてもよく、さらに両方の成形面42a、45aを非球面としてもよい。
スリーブ49は、上端に開口する大径の孔49と、下端に開口し大径の孔49よりもやや小径の孔49とを有し、その境界に平坦な段差面49aが形成されている。
下型42は、スリーブ49の下端開口側から摺動自在に嵌挿されている。また、上型45は、スリーブ49の上端開口側から嵌挿され、そのフランジ部46は、スリーブ49の上端面に当接されている。こうして、下型42と上型45は、スリーブ49の内部で、それぞれの成形面42a,45aが対向するようにスリーブ49の両端側から嵌挿されている。
また、保持部材48は、中心に貫通孔48aが形成された略有底の円筒状をなしている。この保持部材48は、スリーブ49の内部で下型42と上型45との間に挟まれるように配置されている。この保持部材48は、スリーブ49の上端開口側から嵌挿されて、スリーブ49の内側の段差面49aに当接支持されている。この保持部材48の貫通孔48aには、下型42の柱状部42が摺動自在に嵌挿されている。
また、この貫通孔48aの上端開口側の端縁には、熱可塑性素材50が支持されている。本実施形態では、この熱可塑性素材50としてガラス素材が用いられている。この熱可塑性素材50は、球状に加工されている。
なお、下型42及び上型45は、タングステンカーバイド(WC)等の超硬合金を研削・研磨して仕上げられている。また、熱可塑性素材50は、市販の光学ガラスが用いられている。
また、スリーブ49の両端開口側の端面と上型45のフランジ部46との平面度は、それぞれ2μm以下に加工されている。上型45の成形面45aのチルトは、この平面度に大きく影響するためである。なお、平面度とは、JIS規格では、互いに平行な2つの平面の間の空間を表わすと定義されている。
また、保持部材48の最外径とスリーブ49の大径の孔49とのクリアランスは、10μm程度に設定されている。保持部材48は、スリーブ49と嵌合しながら持ち上げられるため、保持部材48はスリーブ49とのクリアランスがないと摺動しないが、クリアランスが大きすぎると、保持部材48のチルトが大きく発生し、本発明の効果が発揮できなくなる恐れがある。
次に、前述した成形室12での具体的な作業内容を説明する。
型セット40は、予備室11から成形室12の第1ステージ15に搬入される。そして、第1ステージ15の下プレート26の中心に位置決めされる。その後、上プレート24が下降し、型セット40の上面に当て付けられる。なお、本実施の形態では、熱可塑性素材50は、当初は上型45と非接触となっているため、上プレート24の荷重や衝撃で割れることはない。
このため、熱可塑性素材50がどんなに微小なサイズであっても、割れないようにするために上プレート24の荷重を小さくする必要はない。ただし、その後、成形工程で押し上げ部材30が下方から下型42を持ち上げるため、上プレート24の荷重は、この押し上げ部材30の加圧力よりも大きくする必要がある。これは、上プレート24の移動を防止するためである。
ここで、熱可塑性素材50が成形可能な粘度状態になるまで、上・下プレート24,26により型セット40を加熱する。
このときの加熱温度は、型セット40の温度が熱可塑性素材50のガラス屈伏点よりも10℃〜30℃高い温度になるように、上・下カートリッジヒータ25,27により加熱する。加熱時間は、熱可塑性素材50の材料と体積によって調整することができる。
加熱により、熱可塑性素材50が成形可能な粘度状態になったとき、下プレート26の中心に収容されていた押し上げ部材30が上方に向けて移動し、プレスを開始する。この押し上げ部材30は、スリーブ49の内径よりも細い。下型42は、この押し上げ部材30により持ち上げられる。
押し上げ部材30による押し上げ荷重は、熱可塑性素材50の材料や加熱時間、加熱温度にもよるが、型中心軸O−Oと垂直面の熱可塑性素材50の断面積でおよそ1mm当り1kgfである。熱可塑性素材50を十分に加熱軟化しておけば、型中心軸O−Oと垂直面の熱可塑性素材50の断面積で1mm当り3kgfやそれ以上の高荷重でも熱可塑性素材50が割れずにプレスを行うことができる。こうして、比較的短時間で熱可塑性素材50のプレスを完了することができる。
このことは、熱可塑性素材50と、下型42の成形面42a及び上型45の成形面45aとが高温で接触する時間が短くて済むことを意味する。このため、成形後の光学素子に曇りや発泡等が発生するおそれが軽減される。
また、押し上げ部材30の下プレート26からの突出量は、不図示のマイクロメータにより把握できるようになっている。この押し上げ部材30の突出量と型構成から、プレス中の熱可塑性素材50の中心肉厚が算出される。
熱可塑性素材50をある中心肉厚までプレスしたとき、次に、上・下プレート24,26の温度がガラス屈伏点付近の温度になるまで冷却され、プレス速度を抑制する。
これは、熱可塑性素材50の中心肉厚の精度を高めるためである。押し付け荷重については、このとき、同時に低下させてもよいし、別の工程で低下させてもよい。さらに、ある程度の中心肉厚までプレスしたとき、上・下プレート24,26の温度をガラス転移点以下の温度にまで下げる。こうして、熱可塑性素材50の成形面にヒケ、はがれが発生しないように荷重を加えながら熱可塑性素材50を固化する。
熱可塑性素材50の温度がガラス転移点以下になったら、再び押し上げ部材30を下プレート26内に収容する。これに伴い、下型42は自重で落下し下プレート26上に戻る。上プレート24も、シリンダ28の駆動により型セット40から上昇して離れる。その後、型セット40は不図示の搬送アームによって第2ステージ16に搬送される。
この第2ステージ16では、シリンダ38により上プレート34を下降させ、この上プレート34を型セット40の上型45に当てつける。こうして、型セット40を上・下プレート34,36間に挟み込んで冷却する。これにより、型セット40内において、熱可塑性素材50が所望形状に成形されてできた成形品52が冷却される。この場合、上・下プレート34,36の温度は、200〜400℃程度が好ましい。
この範囲の温度とすることで、型セット40が次の排出室13で急冷されたときに、成形品52のサーマルショックによる割れや、型セット40や排出室13内の酸化によるダメージを防止することができる。こうして、第2ステージ16で型セット40を所定時間冷却した後、成形室12と排出室13との間のシャッター54が開く。
こうして、型セット40は、不図示の搬送アームにより成形室12から排出室13へ搬送される。その後、成形室12と排出室13との間のシャッター54は閉じられる。
(成形工程の詳細説明)
図2〜図4は、本実施の形態の光学素子の製造工程を示す図である。また、図5は、本実施の形態におけるフローチャートを示す図である。なお、図2〜図4に示した上型45及び保持部材48は、図1に示したものと若干形状が相違するが、説明の便宜上、これらは同一のものとする。
図2において、スリーブ49内に支持されるように、保持部材48を下型42及び上型45の対向面間に配置し、この保持部材48に支持されるように、熱可塑性素材50を配置する(図5のS1)。保持部材48は、熱可塑性素材50の機能面予定面よりも外側の部位を支持することができる。本実施の形態では、熱可塑性素材50を、保持部材48の中心に形成された貫通孔48aの上端縁で支持している。
なお、機能面予定面とは、熱可塑性素材50が成形されて成形品(光学素子)52となった場合の、その成形品(光学素子)52の光学機能面をいう。
この状態から、押し上げ部材30に押されて下型42が上方移動する。すると、下型42の先端の成形面42aが上方移動して熱可塑性素材50に接触し、この熱可塑性素材50が持ち上げられる(図5のS2)。
これにより、図3に示すように、熱可塑性素材50は、保持部材48から離れて上型45の成形面45aに当てつけられる。こうして、熱可塑性素材50は下型42の成形面42aと上型45の成形面45aとの間に挟まれ、成形が開始される(図5のS3)。
さらに、下型42は上方へ持ち上げられ続けるが、その途中で下型42のフランジ部43の上端面43aが、保持部材48の下面48bと接触し、保持部材48を持ち上げる。
続いて、熱可塑性素材50は、下型42の上方移動により、下型42の成形面42aと上型45の成形面45aとの間で加圧成形される。こうして、下型42の成形面42aの球心P(図4参照)と保持部材48の回転中心とが一致するような位置関係の下で、熱可塑性素材50の成形を完了する(図5のS4)。
この場合、図4において、保持部材48の高さ(中心軸O−O方向の寸法)を一定としたときに、保持部材48のチルト(回転)という現象について考える。
すると、保持部材48は、その高さ及び直径の回転中心Pを中心として、スリーブ49の内径と保持部材48の直径との間のクリアランスが許す範囲で回転していると考えることができる。
ここで、本実施の形態では、熱可塑性素材50が所望の中心肉厚までプレスされたときにおいて、保持部材48の回転中心Pと下型42の成形面42aの球心Pとが一致するように設定している。
下型42の平坦面43aが保持部材48の下面48bを当て付けて持ち上げるため、保持部材48と下型42とは一体となってチルトする。そのため下型42の成形面42aの球心P(非球面の場合は、後述する近軸曲率半径を有する球の中心)は、保持部材48の回転中心と一致している。このため、保持部材48のチルトによっては、下型42の成形面42aの球心Pのシフト(中心軸O−Oと直交方向のズレ)は発生しない。
なお、下型42の成形面42aが凸面で、かつ大きい曲率半径を有する構造であれば、下型42のフランジ部43とスリーブ49の内径との嵌合領域の中心に、下型42の成形面42aの球心がくるような構造に設計してもよい。
次に、図6〜図8は、スリーブ49の中心軸O−Oと非球面球心Pとの位置関係を示す図である。
まず、図6に基づき、下型42の成形面42aが非球面である場合の、成形面42aの球心Pについて説明する。なお、説明の便宜上、下型42の成形面42aが球面の場合の球心も非球面の場合の球心も、同じ符号P点を用いる。
一般に、非球面形状は[数1]で表わされる。
[数1]のRが「近軸曲率半径(近軸R)」である。
「近軸曲率半径(近軸R)」を有する球の中心は、レンズ(光学素子)の中心とみなすことができる。
また、非球面の面頂Tから近軸曲率半径(近軸R)の距離だけ離れた位置が非球面の球心Pである。
ここで、図7は、下型42の非球面球心Pと上型45の非球面球心P’とが一致しない場合を示している。
この場合、下型42がチルトすると、下型42の非球面球心Pがスリーブ49の中心軸O−Oからずれてしまう。
このとき、下型42の非球面球心Pと上型45の球心若しくは非球面球心P’とを結ぶ線と、下型42の非球面軸O’−O’とのなす角θは、下型42のチルト角度以上に大きくなる。
これに対し、図8は、成形時に保持部材48がスリーブ49と嵌合して回転する回転中心Pと下型42の非球面球心Pとを一致させた場合を示している。
こうすることで、下型42の非球面球心Pのスリーブ49の中心軸O−Oからのシフトを防ぐことができる。
ただし、下型42の非球面軸O’−O’のチルトは、下型42がチルトした分だけ発生する。
このとき、下型42の非球面球心Pと上型45の球心若しくは非球面球心P’とを結ぶ線と、スリーブ49の中心軸O−Oとのなす角θはゼロとなる。
このように、下型42の成形面42aが非球面の場合、動かさないポイントPを決めることができる。なお、このポイントPを、非球面の近軸曲率半径(近軸R)を有する球の中心と一致させるか、又は非球面の面頂と一致させるかは、設計者次第で選択することができる。
また、上述では下型42の成形面42aを非球面とした例を説明したが、本発明では、上型45の成形面45aを非球面とし、かつ下型42の成形面42aを球面とすることができる。この組み合わせによれば、下型42の球心Pが、スリーブ49の中心軸O−O上に位置し、上型45の非球面軸上に下型42の球心Pを配置することができ、面間偏心精度の高い非球面レンズを得ることができる。
(下型のシフトに関して)
図9は、下型42がスリーブ49に嵌合しているときの断面図を示す。
下型42がスリーブ49に嵌合しているときは、下型42の姿勢はチルトとシフトによって表現することができる。
図9において、下型42がスリーブ49内で嵌合しているとき、下型42が、そのフランジ部43の高さ方向(スリーブ49の中心軸O−O方向)の中心と直径方向(スリーブ49の中心軸O−Oと直交方向)の中心との交点(下型42の回転中心)Qを中心として回転したとする。
このとき、前述したように、下型42の回転をチルトと定義し、また、交点Qが直径方向に移動する量をシフトと定義して、区別することができる。この図9は、シフトもチルトもゼロの状態を示している。
例えば、図10Aは、シフトはゼロでチルトが最大となった場合の型セットの断面を示し、図10Bは、その部分拡大図を示している。
この図10Aにおいて、下型42の回転中心Qから球心Pまでの距離をL、スリーブ49の中心軸O−Oと下型42の中心軸O’−O’とのなす角度をθとし、面間偏心量λを、
λ=L×tanθ
で定義する。
(近似的には、θをラジアンで表わすと、λ≒L×θとなる。)
このため、例えば、下型42とスリーブ49との嵌合長w=4mm、クリアランスc=10μmのとき、下型42のチルトθはθ=8.6分発生し得る。
このとき、下型42の全長YがY=11mmであるとき、下型42のシフト0、チルト最大の場合は、面間偏心量λは、λ=22.5μmシフトすることになる(図10B参照)。
これに対し、図11は、シフト最大でチルト0の場合の型セットの断面図である。
この図11において、チルト0の場合は、下型42の成形面42aの球心Pはスリーブ49の中心軸O−Oからクリアランスの半分の5μmしかシフトしない(面間偏心量)。
すなわち、下型42の全長Yが長いほど、シフトよりもチルトの方が面間偏心量に影響を与える。
例えば、図12は、図10Aの状態から、下型42の全長Yを長くした場合の型セットの断面図である。
同図12において、下型42とスリーブ49との嵌合長w=4mm、クリアランスc=10μm、下型42の全長Yが図10Aの状態より倍のY=22mmである場合は、図10Aと嵌合長wとクリアランスcが同じため、チルトθは同じく8.6分発生し、面間偏心量λは図10Aの倍のλ=45μmとなる。
また、図13は、図10Aから下型42の嵌合長wを長くした場合の型セットの断面図である。
同図13に示すように、クリアランスc=10μmのとき、チルトを防ぐ目的で下型42とスリーブ49の嵌合長wを図12の場合よりも倍のw=8mmにしたとする。すると、チルトθは半分のθ=4.3分発生しうる計算となる。
図10Aの状態から、下型42とスリーブ49との嵌合長wが4mm伸びた分、下型42の全長YがY=15mmになるため、面間偏心量λはλ=13.8μmだけシフトすることになる。
これは、前述した図10Bの面間偏心量の半分よりも大きい。すなわち、下型42とスリーブ49との嵌合長wを伸ばしてチルトを防いだとしても、その分、下型42の先端が嵌合領域から遠ざかる。このため、面間偏心の改善効果は一部相殺されてしまう。よって、相殺分を見込んで長い型構成にしないとチルト対策ができない。
しかし、下型42とスリーブ49との嵌合長wを伸ばすと、型セット40の全長が延びてしまう。この場合、型セット40の熱容量が大きくなり熱可塑性素材50の加熱等に長時間を要する等の不具合が生じる。また、嵌合長wを長くしても下型42の全長が長くなると面間偏心λが大きくなる。
つまり、クリアランスcが一定なら、シフトが少ないほど大きなチルトが発生しやすい。また、下型42の姿勢が毎回ランダムに変わるとすると、シフト位置は正規分布に従う。すなわち、シフトは、シフトしうる最大値付近になる確率は低く、それゆえ、下型42はチルトしやすい位置になりやすい。
以上のように、一般的な型構成では、チルトが原因となって面間偏心が発生しやすい。また、対策をとると型構成が大きくなってしまう。
本実施の形態によれば、下型42のシフトが発生しない状態でチルトしたとき、スリーブ49の中心軸O−Oと下型42の中心軸O’−O’との交点に、下型42の成形面42aの球心P(非球面の場合は近軸Rの中心)が一致するようにしたので、下型42がどれだけチルトしたとしても成形品の面間偏心が発生しないようにすることができる。
しかも、本実施の形態によれば、型の寸法を大きくすることなく成形品の面間偏心の発生を防止することができる。

[実施の形態2]
図14及び図15は、本実施の形態の型セット40の断面図である。
なお、実施の形態1と同一又は相当する部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施の形態では、下型42の成形面42aが凹球面又は凹非球面で、これと上型45の凹状の成形面45aとの間に配置された保持部材48を介して熱可塑性素材50が支持された場合を考える。そして、保持部材48の中心に形成された貫通孔48aの上端縁に球状の熱可塑性素材50が支持されている。
図15において、下型42の成形面42aの球心Pが、スリーブ49の中心軸O−Oと下型42の中心軸O’−O’との交点と一致しているとする。
このため、下型42がチルトしたとしても、成形品の面間偏心は発生しない。これは、下型42の成形面42aの球心Pは動かない点であるため、下型42の成形面42aがどのようにチルトしたとしても、スリーブ49の中心軸O−Oに対して、球心Pがずれることはないからである。
次に、図16及び図17は、熱可塑性素材50が平板状をなしているときの実施の形態を示している。
この場合も、図17において下型42の成形面42aの球心Pが、スリーブ49の中心軸O−Oと下型42の中心軸O’−O’との交点と一致している。
このため、前述と同様に、下型42がチルトしたとしても、熱可塑性素材50が成形された後の光学素子の面間偏心は発生しない。
本実施の形態によれば、下型42の成形面42aが凹面である場合にも、下型42の成形面42aの球心Pと、スリーブ49の中心軸O−Oと下型42の中心軸O’−O’との交点とを一致させることで、成形品の面間偏心の発生を防止することができる。
また、本実施の形態によれば、型の寸法を大きくすることなく成形品の面間偏心の発生を防止することができる。
10 成形装置
11 予備室
12 成形室
13 排出室
14 プレート
15 第1ステージ
16 第2ステージ
17 シャッター
18 チャンバー
19 導入管
20 真空ポンプ
21 シャッター
24 上プレート
25 上カートリッジヒータ
26 下プレート
27 下カートリッジヒータ
28 シリンダ
29 貫通孔
30 押し上げ部材
34 上プレート
35 上カートリッジヒータ
36 下プレート
37 下カートリッジヒータ
38 シリンダ
40 型セット
42 下型
42 柱状部
42a 成形面
43 フランジ部
45 上型
45 第1の柱状部
45 第2の柱状部
45a 成形面
46 フランジ部
48 保持部材
48a 下面
49 スリーブ
49a 段差面
491 大径の孔
492 小径の孔
50 熱可塑性素材
52 成形品
54 シャッター
56 放熱板
58 シャッター

Claims (4)

  1. 対向配置された下型及び上型が嵌挿されるスリーブ内に支持されるように、該下型及び該上型の間に保持部材を配置し、該保持部材に支持されるように、熱可塑性素材を配置する配置工程と、
    前記配置工程後、前記下型を上方移動させて、前記熱可塑性素材を持ち上げる工程と、
    持ち上げられた前記熱可塑性素材を、前記上型に当接させて成形を開始する工程と、
    前記下型のさらなる上方移動により前記保持部材を持ち上げて、前記下型の成形面の球心または面頂と前記保持部材の回転中心とが一致するように前記熱可塑性素材の成形を完了する成形完了工程と、を有することを特徴とする、光学素子の製造方法。
  2. 請求項1記載の光学素子の製造方法において、
    前記下型の成形面は、球面であり、
    前記成形完了工程では、前記球心と前記回転中心とが一致するように成形を完了することを特徴とする、光学素子の製造方法。
  3. 請求項1記載の光学素子の製造方法において、
    前記下型の成形面は、非球面であり、
    前記球心は、前記成形面の近軸曲率半径を有する球の中心であることを特徴とする、光学素子の製造方法。
  4. 請求項1乃至3のいずれか記載の光学素子の製造方法において、
    前記保持部材は、前記熱可塑性素材の機能面予定面よりも外側の部位を支持することを特徴とする、光学素子の製造方法。
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