以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
[基本構成]
まず、本実施形態に係る車両の動力伝達装置10の構成の一例について図1を用いて説明する。
図1は、車両の動力伝達装置10の構成図である。動力伝達装置10は、主に、入力軸14と、トルクリミッタ付きダンパー51と、無段変速部11と、有段変速部20と、出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、例えばハイブリッド車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものである。動力伝達装置10は、走行用の駆動力源たるエンジン8と一対の駆動輪(図示せず)との間に設けられている。エンジン8は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であり、入力軸14に連結されている。駆動輪は出力軸22に連結されている。動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1においてはその下側が省略されている。入力軸14は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材である。無段変速部11は、この入力軸14に対し、トルクリミッタ付きダンパー51を介して間接に連結された電気的な変速部である。有段変速部20は、その無段変速部11と駆動輪(図示せず)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている有段式の変速機として機能する変速部である。駆動軸22は、この有段変速部20に連結されている出力回転部材である。
無段変速部11は、モータMG1と、動力分配機構16と、モータMG2と、を備える。動力分配機構16は、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力をモータMG1および伝達部材18に分配する差動機構として機能する。モータMG1およびモータMG2は発電機能をも有するいわゆるモータジェネレータである。そして、モータMG1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、モータMG2は走行用の駆動力源として駆動力を出力するための電動機機能を少なくとも備える。また、モータMG2は、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている。なお、このモータMG2は伝達部材18から駆動輪までの間の動力伝達経路を構成するいずれの部分に設けられてもよい。モータMG1は、本発明における「第1電動機」の一例であり、モータMG2は、本発明における「第2電動機」の一例である。
動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24を主体として構成されている。この第1遊星歯車装置24は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR
1である。
この動力分配機構16においては、第1キャリヤCA1は、トルクリミッタ付きダンパー51を介して入力軸14に連結され、第1サンギヤS1は、モータMG1に連結され、第1リングギヤR1は、モータMG2及び伝達部材18に連結されている。動力分配機構16は、第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が働く差動状態とされる。そのため、エンジン8の出力がモータMG1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部でモータMG1から発生させられた電気エネルギが蓄電され、または、モータMG2が回転駆動される。これにより、無段変速部11(動力分配機構16)は、いわゆる無段変速状態(電気的CVT状態)とされ、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転を連続的に変化させることが可能となる。なお、第1キャリアCA1は、本発明における「第1要素」の一例であり、第1サンギアS1は、本発明における「第2要素」の一例であり、第1リングギアR1は、本発明における「第3要素」の一例である。
有段変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28、および、シングルピニオン型の第4遊星歯車装置30を備えている。第2遊星歯車装置26は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、および、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置28は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第4遊星歯車装置30は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転および公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
有段変速部20では、第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結されている。第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結されている。第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とは一体的に連結されて出力軸22に連結され、第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とは一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は従来の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置である。これらの油圧式摩擦係合装置は、油圧を加えることにより、2つの部材(例えばクラッチ)間の間に摩擦力を発生させ、当該2つの部材を互いに係合する装置である。油圧式摩擦係合装置としては、例えば、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどを有し、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
また、車両は、第1コントローラ31と、第2コントローラ32と、蓄電装置33と、油圧制御装置34と、ECU40と備える。
第1コントローラ31は、モータMG1を制御するためのものであり、第2コントローラ32は、モータMG2を制御するためのものである。これらのコントローラ31、32は、例えばインバータを主体として構成され、それぞれに対応するモータMG1、MG2とを電動機として機能させ、あるいは発電機として機能させるように制御し、併せてそれぞれの場合における回転数やトルクを制御するように構成されている。また、各モータMG1、MG2は、各コントローラ31、32を介して蓄電装置33に接続されている。この蓄電装置33は、各モータMG1、MG2に電力を供給し、また各モータMG1、MG2が発電機として機能した場合に、その電力を充電して蓄える装置であって、二次電池(バッテリ)、リチウムイオン電池、キャパシタ、ニッケル水素イオン電池等から構成されている。
油圧制御装置34は、各クラッチやブレーキの係合圧や解放圧を制御するためのものである。油圧制御装置34は、オイルポンプ(図示せず)で発生した油圧をライン圧に調圧するとともに、そのライン圧を元圧として各摩擦係合装置の係合圧を制御し、あるいは摩擦係合装置を解放させる際の解放圧を制御する。この油圧制御装置34としては、具体的には従来の自動変速機で使用されている油圧制御装置を採用することができる。
ECU40は、後に詳しく説明するが、CPU、R0M、RAMおよび入出カインターフェースなどを有し、各コントローラ31、32や油圧制御装置34を電気信号によって制御することにより、動力伝達装置10の全体を制御する。
以上のように構成された動力伝達装置10では、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられる。これにより、第1速ギヤ段(第1変速段:1st)ないし第4速ギヤ段(第4変速段:4th)のいずれかあるいは後進ギヤ段(後進変速段:R)あるいはニュートラル(N)が選択的に成立する。そして、ほぼ等比的に変化する変速比「Y」がギヤ段毎に得られるようになっている。ここで、変速比Yは、伝達部材18の回転数(以後、「入力回転数Nin」と呼ぶ。)と、出力軸22の回転数(以後、「出力回転数Nout」と呼ぶ。)とを用いて、以下の式(1)により表せられる。
Y=Nin/Nout 式(1)
図2は、これらの係合作動表を示している。図2に示す係合作動表は、丸印は係合状態になることを示し、無印は解放状態になることを示している。
図2の係合作動表に示すように、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により第1速ギヤ段(1st)が成立し、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により第2速ギヤ段(2nd)が成立し、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により第3速ギヤ段(3rd)が成立する。また、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により第4速ギヤ段(4th)が成立し、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により後進ギヤ段(変速機によるRev)が成立させられる。ここで、図2に示すように、車両を後進させるモードとしては、上述の有段変速部20に後進ギヤ段よるモードの他、モータMG2によるモード(MG2によるRev)もある。この場合には、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合が成立した状態で、車両が後進するようにモータMG2を逆回転させる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、全ての係合機構が解放される。
図3は、動力伝達装置10における各回転要素の回転数の相対関係を示す共線図である。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転数を示す縦軸とから成る二次元座標である。図3において、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転数「0」を示し、上側の横線X2が回転数「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転数(以後、「エンジン回転数Ne」と呼ぶ。)を示し、横線XGが伝達部材18の回転数を示している。
また、無段変速部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応する第1サンギヤS1、第1回転要素RE1に対応する第1キャリヤCA1、第3回転要素RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転数を示すものである。縦線Y1、Y2、Y3の間隔は第1遊星歯車装置24のギヤ比ρ1に応じて定められている。さらに、有段変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素RE4、第5回転要素RE5、第6回転要素RE6、第7回転要素RE7、第8回転要素RE8を示している。ここで、第4回転要素RE4は、相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3であり、第5回転要素RE5は、第2キャリヤCA2であり、第6回転要素RE6は、第4リングギヤR4である。また、第7回転要素RE7は、相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、第4キャリヤCA4であり、第8回転要素RE8は、相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4である。縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8の間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とするとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔となる。すなわち、無段変速部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応する間隔に設定される。また、有段変速部20では各第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がギヤ比ρに対応する間隔に設定される。
上記図3の共線図を用いて表現すれば、動力伝達装置10は、動力分配機構16(無段変速部11)において、第1遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(第1キャリヤC A1)が入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第2回転要素RE2がモータMG1に連結され、第3回転要素(第1リングギヤR1)RE3が伝達部材18およびモータMG2に連結されている。これにより、入力軸14の回転は、伝達部材18を介して有段変速部20へ伝達される。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転数と第1リングギヤR1の回転数との関係が示される。
また、モータMG1の発電による反力を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転数を上昇あるいは下降させると、直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転数が下降あるいは上昇する。
また、有段変速部20において、第4回転要素RE4は、第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結されている。第5回転要素RE5は、第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は、第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結されている。第7回転要素RE7は、出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は、第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
有段変速部20では、先にも述べたように、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により第1速ギヤ段(1st)が成立する。このとき、第6回転要素RE6の回転数は「0」となり、第8回転要素RE8の回転数は第3回転要素RE3の回転数と等しくなる。従って、図3でいうと、縦線Y8と横線XGとの交点と、縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1が、第1速ギヤ段の共線図となる。なお、直線L1と縦線Y7との交点が第1速ギヤ段のときの出力回転数Noutを示している。
第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により第2速ギヤ段(2nd)が成立する。このとき、第5回転要素RE5は「0」となり、第8回転要素RE8の回転数は第3回転要素RE3の回転数と等しくなる。従って、図3でいうと、縦線Y8と横線XGとの交点と、縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L2が、第2速ギヤ段の共線図となる。なお、直線L2と縦線Y7との交点が第2速ギヤ段のときの出力回転数Noutを示している。
第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により第3速ギヤ段(3rd)が成立する。このとき、第4回転要素RE4は「0」となり、第8回転要素RE8の回転数は第3回転要素RE3の回転数と等しくなる。従って、図3でいうと、縦線Y8と横線XGとの交点と、縦線Y4と横線X1との交点とを通る斜めの直線L3が、第3速ギヤ段の共線図となる。なお、直線L3と縦線Y7との交点が第3速ギヤ段のときの出力回転数Noutを示している。
第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により第4速ギヤ段(4th)が成立する。このとき、第4回転要素RE4および第8回転要素RE8の回転数は第3回転要素RE3の回転数と等しくなる。従って、図3でいうと、横線XGに沿った直線L4が、第4速ギヤ段の共線図となる。なお、直線L4と縦線Y7との交点が第4速ギヤ段のときの出力回転数Noutを示している。
第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により変速機による後進ギヤ段(Rev)が成立する。このとき、第4回転要素RE4の回転数は第3回転要素RE3の回転数と等しくなり、第6回転要素RE6の回転数は「0」となる。従って、図3でいうと、縦線Y4と横線XGとの交点と、縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線LRが、後進ギヤ段の共線図となる。なお、直線LRと縦線Y7との交点が後進ギヤ段のときの出力回転数Noutを示している。
次に、ECU40と他の構成要素との電気的な関係について図4を用いて説明する。図4は、ECU40に入力される信号およびECU40から出力される信号を例示している。
ECU40は、CPU、R0M、RAM、および入出カインターフェースなどから成るいわゆるマイクロコンピュータを含んで構成されている。ECU40は、RAMの一時記憶機能を利用しつつR0Mに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、モータMG1、MG2に関するハイブリッド駆動制御、有段変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。ECU40は、図4左側に示すような各センサやスイッチなどから信号を受信し、受信した信号に基づいて、図4右側に示すような制御信号を各装置に送信する。
ECU40は、図4左側に示すような各センサやスイッチなどから信号を受信する。例えば、ECU40は、エンジン水温センサよりエンジン水温を示す信号を受信し、シフトポジションセンサよりシフトポジションを表す信号を受信する。さらにECU40は、電池温度センサより蓄電装置33の電池温度を示す信号を受信し、電池容量センサより蓄電装置33の残容量等の充電状態(SOC:State of Charge)を受信する。ECU40は、MG1回転数センサよりモータMG1の回転数(以後、「MG1回転数Nmg1」と呼ぶ。)を示す信号を受信し、MG2回転数センサよりモータMG2の回転数(以後、「MG2回転数Nmg2」と呼ぶ。)を示す信号を受信し、エンジン回転数センサによりエンジン回転数Neを示す信号を受信する。また、ECU40は、M(モータ走行)モードスイッチよりMモードを指示する信号を受信し、エアコンスイッチよりエアコンの作動を示すエアコン信号を受信し、車速センサより出力回転数Noutに対応する車速を示す信号を受信する。
また、ECU40は、AT油温センサより有段変速部20の作動油温(以後、「油温Tat」と呼ぶ。)を示す油温信号を受信し、ECTスイッチよりECT(Electronic Controlled Transmission)モード設定を示す設定信号を受信し、サイドブレーキスイッチよりサイドブレーキ操作を示す信号を受信し、フットブレーキスイッチよりフットブレーキ操作を示す信号を受信し、触媒温度センサより触媒温度を示す触媒温度信号を受信し、アクセル開度センサより運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量を示すアクセル開度(以後、「アクセル開度Acc」と呼ぶ。)に相当する信号を受信する。ECU40は、カム角センサよりカム角を示す信号を受信し、スノーモードスイッチよりスノーモード設定を示すスノーモード設定信号を受信し、車両加速度センサより車両の前後加速度を示す加速度信号を受信する。ECU40は、オートクルーズ設定スイッチよりオートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号を受信し、車重センサより車重信号を受信する。また、ECU40は、タービン回転数センサにより入力回転数Ninに相当するタービン回転数を示す信号を受信する。
ECU40は、図4右側に示すような各装置に対して制御信号を送信する。例えば、ECU40は、電子スロットル弁の開度を操作するための制御信号をスロットルアクチュエータに送信し、過給圧を調整するための制御信号をターボチャージャへ送信し、電動エアコンを作動させるための制御信号を電動エアコンに送信し、エンジン8の点火時期を指令する制御信号を点火装置に送信する。ECU40は、モータMG1、MG2の作動を指令する制御信号を第1及び第2コントローラ31、32に送信し、蓄電可能な及び放電可能な電力量を調整するための制御信号を蓄電装置33に送信し、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号をギヤ比インジケータに送信し、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号をスノーモードインジケータに送信する。ECU40は、油圧を調整するための制御信号をATライン圧コントロールソレノイド、ATソレノイドに送信し、制動時の車輸のスリップを防止するためのABS作動信号をABSアクチュエータに送信し、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号をMモードインジケータに送信する。ECU40は、油圧制御装置34の油圧源である機械式オイルポンプおよび電動オイルポンプを作動させるための制御信号を機械式オイルポンプおよび電動オイルポンプに送信する。ECU40は、電動ヒータを駆動するための制御信号を電動ヒータに送信し、クルーズコントロールのための制御信号をクルーズコントロール制御用コンピュータに送信し、エンジン8の気筒内に供給される燃料噴射量を調整するための制御信号を燃料噴射装置に供給する。
図5は、有段変速部20の変速制御で使用される変速線図を示しており、車速を横軸にとり、アウトプットトルク(駆動トルク)を縦軸にとって、これら車速およびアウトプットトルクをパラメータとして変速段領域が定められている。
図5における実線は、アップシフト線を示し、アップシフトする際の各変速段領域の境界となっている。また、図5における破線は、ダウンシフト線を示し、ダウンシフトする際の各変速段領域の境界となっている。また、一点鎖線で囲まれる領域は、モータ走行領域となっており、エンジン8が作動していない状態で、例えばモータMG2により走行が行われる。これらの変速段の全ては、ドライブレンジ(ドライブポジション)が選択されている場合に設定可能であるが、手動変速モード(マニュアルモード)では高速側の変速段が制限されるようになっている。
図6は上記のECU40に対してシフトポジション信号を出力するシフト装置42におけるシフトポジションの配列を示しており、車両を停止状態に維持するパーキング(P)、後進段(R:リバース)、ニュートラル(N)、ドライブ(D)の各ポジションがほぼ直線的に配列されている。この配列方向は、例えば車両の前後方向に沿う方向である。そのドライブポジションに対して車両の幅方向で隣接する位置にマニュアルポジション(M)が設けられ、そのマニュアルポジションを挟んで車両の前後方向での両側にアップシフトポジション(+)とダウンシフトポジション(−)とが設けられている。これらの各シフトポジションは、シフトレバー43を案内するガイド溝44によって連結されており、したがってシフトレバー43をガイド溝44に沿って移動させることにより適宜のシフトポジションが選択され、その選択されたシフトポジション信号がECU40に入力されるようになっている。
そして、ドライブポジションが選択された場合には、有段変速部20での第1速ギヤ段から第4速ギヤ段の全ての前進段が走行状態に応じて設定されるようになっている。これに対して、ドライブポジションからマニュアルポジションにシフトレバー43を移動させた状態ではドライブポジションが維持され、第4速ギヤ段までの変速が可能であるが、この状態から1回ダウンシフトポジションにシフトレバー43を移動する都度、ダウンシフト信号(ダウンレンジ信号)が出力され、第4速ギヤ段以上が禁止された3レンジ、第3速ギヤ段以上が禁止された3レンジ、第1速ギヤ段に固定されるLレンジに切り替えられるようになっている。なお、アップシフトポジションを選択する都度、アップシフト信号(アップレンジ信号)が出力されて、順次、高速側のレンジに切り替えられるようになっている。
以後では、「イナーシャ相」とは、有段変速部20を構成する係合装置のうち、変速前の変速段で解放状態及び変速後の変速段で締結状態を採る係合装置(以下、「変速後係合装置」と呼ぶ。)が係合油圧の制御により締結状態に徐々に移行し、且つ、変速前の変速段で締結状態及び変速後の変速段で解放状態を採る係合装置(以下、「変速前係合装置」と呼ぶ。)が、係合油圧の制御により解放状態に移行する過程で、実際に入力回転数Ninが変速前の同期回転数から変速後の同期回転数へと上昇する期間を意味する。また、「充電許容電力Win」とは、蓄電装置33の充電可能な電力の上限値を指し、「放電許容電力Wout」とは、蓄電装置33の放電可能な電力の下限値を指す。
[変速ショック抑制方法]
次に、本実施形態でECU40が実行する変速ショックを抑制するための制御について具体的に説明する。ECU40は、変速中の全期間又は一部の期間で、当該期間における伝達部材18に入力されるトルク(以後、「入力トルクTin」と呼ぶ。)が変化する範囲(以後、「入力トルク変化範囲Wtin」と呼ぶ。)を制限する。言い換えると、ECU40は、変速中の全期間又は一部の期間で、入力トルクTinが所定範囲内に収まるように制限する。ECU40は、入力トルク変化範囲Wtinを制限する範囲を、例えば、制限開始時の入力トルクTinに基づき所定のマップ等を参照して決定する。上述のマップは、制限開始時の入力トルクTinと、変速ショックを抑制可能な入力トルク変化範囲Wtinとのマップであり、具体的には実験等に基づき予め作成される。
以下では、入力トルク変化範囲Wtinを制限するための具体的な手段の一例について説明する。概略的には、ECU40は、入力トルク変化範囲Wtinを制限する期間中では、入力トルクTinの変化勾配の絶対値(以後、「入力トルク変化dTin」と呼ぶ。)を、モータMG1又は/及びモータMG2を制御することで制限する。言い換えると、ECU40は、変速中では、エンジン回転数Neの実値の目標値への追従性低下を許容し、入力トルク変化dTinを制限する。これにより、ECU40は、入力トルク変化範囲Wtinを、変速ショックを抑制可能な範囲に制限し、入力トルクTinの過度な変動に伴う変速ショック及び応答遅れを抑制する。
以下、これについて、第1制御乃至第4制御で具体的に説明する。なお、ECU40は、第1制御乃至第4制御を任意に組み合わせて実行してもよい。
(第1制御)
第1制御では、ECU40は、イナーシャ相中に、入力トルク変化dTinを制限するようにモータMG1、MG2を制御する。これにより、ECU40は、入力トルク変化範囲Wtinを制限し、変速ショックを抑制する。
これについて補足説明する。一般に、変速時では、イナーシャ相中に、有段変速部20の入力回転数Ninの変化及びアクセル開度Accの変化等の過渡状態によりエンジン回転数Neの目標値と実値とが乖離し、変速ショックが発生する虞がある。一方、エンジン回転数Neの目標値と実値とが乖離した場合であっても、入力トルク変化dTinが適切に制限された場合、入力トルク変化範囲Wtinが制限され、変速ショックは低減される。
以上を勘案し、ECU40は、入力トルク変化dTinをイナーシャ相中に制限する。具体的には、ECU40は、入力トルク変化dTinが所定の制限値(以後、「制限値dTinth」と呼ぶ。)以下になるようにモータMG1、MG2を制御する。ここで、ECU40は、上述の制限値dTinthを、例えば運転状態等に基づき、所定のマップを参照して決定する。制限値dTinthの設定方法の具体例は、第3制御及び第4制御で詳しく説明する。これにより、ECU40は、エンジン回転数Neの実値の目標値への追従性低下を許容しつつも、入力トルク変化dTinを制限することで、変速ショックの発生を抑制することができる。
また、好適には、ECU40は、ダウンシフト時に、変速前後での入力トルクTinの変化幅が小さいと推定される場合には、変速開始時より入力トルク変化dTinを制限するように、モータMG1、MG2を制御する。これにより、ECU40は、変速ショックを確実に抑制する。例えば、ECU40は、変速開始時のアクセルペダルの踏み込み速度、即ちアクセル開度Accの変化勾配が所定値以下の場合、変速前後での入力トルクTinの変幅が小さいと判断し、変速開始時より入力トルク変化dTinを制限する。上述の所定値は、例えば実験等に基づき予め定められる。即ち、この場合、ECU40は、変速開始時点で既に入力トルクTinが大きいと判断し、入力トルク変化dTinを変速開始時から制限することで変速ショックを抑制する。
(第2制御)
ECU40は、第1制御に代えて、又はこれに加えて、充電許容電力Win又は/及び放電許容電力Woutに基づき、モータMG2のトルク操作、又は、モータMG1及びモータMG2のトルク操作のいずれのトルク操作により入力トルク変化dTinを制限するか決定する。これにより、ECU40は、入力トルク変化範囲Wtinの制限中に、過度の充放電に基づく蓄電装置33の劣化を抑制しつつ、変速ショックを抑制する。
これについて具体的に説明する。まず、ECU40は、変速開始時に、充電許容電力Win及び放電許容電力Woutを推定する。例えば、ECU40は、蓄電装置33の電池温度等に基づき所定のマップを参照して充電許容電力Win及び放電許容電力Woutを推定する。
次に、ECU40は、モータMG2のトルク(以後、「MG2トルクTmg2」と呼ぶ。)の操作により入力トルク変化dTinを制限しても充電許容電力Win及び放電許容電力Woutを超える充放電が生じないか否か判定する。例えば、ECU40は、MG2トルクTmg2を抑制することにより入力トルク変化dTinを制限する場合、充電許容電力Winが所定値以上のとき、当該MG2トルクTmg2の抑制により生じた充電量が充電許容電力Winを超える虞が無いと判断する。上述の所定値は、例えば実験等に基づき予め定められ、ECU40のメモリに記憶される。
そして、ECU40は、MG2トルクTmg2の操作により入力トルク変化dTinを制限しても充電許容電力Win及び放電許容電力Woutを超える充放電が生じないと判断した場合、MG2トルクTmg2を操作することにより入力トルク変化dTinを制限する。即ち、ECU40は、充放電が充電許容電力Win及び放電許容電力Woutを超えない範囲で、MG2トルクTmg2に基づき入力トルク変化dTinを制限する。言い換えると、この場合、ECU40は、蓄電装置33の過度な充放電を生じさせることなく、かつ、エンジン8の反力トルクに相当するモータMG1のトルク(以後、「MG1トルクTmg1」と呼ぶ。)を操作することなく入力トルク変化dTinを制限する。これにより、ECU40は、蓄電装置33の劣化を生じさせず、かつ、エンジン回転数Neに影響を与えることなく入力トルク変化dTin及び入力トルク変化範囲Wtinを制限することができる。
一方、ECU40は、MG2トルクTmg2により入力トルク変化dTinを制限すると充電許容電力Win又は放電許容電力Woutを超える充放電が生じる虞があると判断した場合、MG2トルクTmg2に加え、MG1トルクTmg1を操作することにより、入力トルク変化dTinを制限する。具体的には、ECU40は、MG2トルクTmg2の操作により生じる充放電分をMG1トルクTmg1の操作により低減させるように、MG1トルクTmg1及びMG2トルクTmg2を調整する。例えば、ECU40は、入力トルク変化dTinを制限するときにMG2トルクTmg2を抑制する場合には、MG1トルクTmg1を上昇させることで蓄電装置33の充電量を充電許容電力Win以下になるように調整する。これにより、ECU40は、入力トルク変化dTinを抑制して入力トルク変化範囲Wtinを制限しつつ、過充電を抑制することができる。
また、好適には、ECU40は、イナーシャ相の開始前後で、入力トルク変化dTinの制限値dTinthを変更する。例えば、ECU40は、イナーシャ相の開始前を、イナーシャ相の開始後よりも、制限値dTinthを大きくする。一般に、イナーシャ相の開始前では、イナーシャ相の開始後より、入力トルク変化dTinの制限に伴う充放電が大きくなる。従って、ECU40は、イナーシャ相の開始前の制限値dTinthをイナーシャ相中よりも制限を緩和するように大きくすることで、蓄電装置33の負担を低減し、蓄電装置33の劣化を抑制することができる。
(第3制御)
第3制御では、第1乃至第2制御に代えて、又はこれに加え、ECU40は、油温Tatに応じて制限値dTinthを決定する。これにより、ECU40は、入力トルク変化範囲Wtinを有段変速部20の油圧の応答性に応じて適切に制限する。
これについて、図7(a)を参照して説明する。図7(a)は、ダウンシフトに基づく変速中に、ECU40が油温Tatに基づき制限値dTinthを決定する場合に使用するマップの一例を示す。図7(a)に示すマップは、例えば実験等に基づき予め作成され、ECU40のメモリに記憶される。
まず、ECU40は、変速時に油温Tatを検出し、図7(a)に示すマップを参照し、制限値dTinthを決定する。このとき、図7に示すように、制限値dTinthは、油温Tatが大きいほど大きく、即ち油温Tatが大きいほど入力トルクTinの制限が緩和されるように設定される。
これについて補足説明する。一般に、ECU40は、入力トルクTinに応じて有段変速部20の油圧を設定する必要がある。一方、油温Tatが低い場合には、油圧の応答性が低下する。以上を勘案し、ECU40は、油温Tatが小さい場合には、油圧の応答性を考慮して制限値dTinthを小さく設定する。これにより、ECU40は、油圧の応答性を考慮して制限値dTinthを適切に定めることができる。
(第4制御)
第4制御では、第1乃至第3制御に代えて、又はこれに加え、ECU40は、アクセル開度Acc又はアクセル開度Accの変化勾配(以後、「アクセル開度変化dAcc」と呼ぶ。)に基づき制限値dTinthを設定する。これにより、ECU40は、入力トルク変化範囲Wtinを制限して変速ショックを抑制しつつ、要求駆動力を満たし応答性を向上させる。
これについて、図7(b)、(c)を参照して具体的に説明する。図7(b)は、ダウンシフトに基づく変速中に、ECU40がアクセル開度Accに基づき制限値dTinthを決定する場合に参照するマップの一例を示す。また、図7(c)は、ダウンシフトに基づく変速中に、ECU40がアクセル開度変化dAccに基づき制限値dTinthを決定する場合に参照するマップの一例である。図7(b)又は図7(c)に示すマップは、例えば実験等に基づき予め作成され、少なくとも一方がECU40のメモリに記憶される。
第4制御では、ECU40は、変速時に、アクセル開度Acc又はアクセル開度変化dAccを算出する。例えば、ECU40は、アクセル開度変化dAccを、連続して取得されたアクセル開度Accの差分に設定する。そして、ECU40は、算出したアクセル開度Acc又はアクセル開度変化dAccに基づき、図7(b)又は図7(c)を参照し、制限値dTinthを算出する。ここで、図7(b)において、制限値dTinthは、アクセル開度Accが大きいほど大きく、即ち、アクセル開度Accが大きいほど入力トルクTinの制限が緩和されるように設定される。同様に、図7(c)において、制限値dTinthは、アクセル開度変化dAccが大きいほど大きく、即ち、アクセル開度変化dAccが大きいほど入力トルクTinの制限が緩和されるように設定される。
このように、ECU40は、アクセル開度Acc又はアクセル開度変化dAccが大きく、要求駆動力が高い場合には、車両の駆動応答性を優先する。これにより、ECU40は、車両の駆動応答性と変速ショックの抑制との両立を実現することができる。
ここで、第3制御と第4制御とを同時に実行する場合について補足説明する。この場合、ECU40は、油温Tatと、アクセル開度Acc又はアクセル開度変化dAccと、に基づき所定のマップを参照して制限値dTinthを決定する。この場合、上述のマップは、油温Tatと、アクセル開度Acc又はアクセル開度変化dAccと、に対応する制限値dTinthが指定されたマップであり、具体的には実験等に基づき予め作成され、ECU40のメモリに記憶される。この場合であっても、アクセル開度Acc又はアクセル開度変化dAccが大きいほど、即ち要求駆動力が高いほど、制限値dTinthが高く設定されると共に、油温Tatが高いほど制限値dTinthが高く設定される。これにより、ECU40は、油圧応答性を考慮しつつ、車両の駆動応答性と変速ショックの抑制との両立を実現することができる。
[タイムチャート]
次に、ダウンシフトの場合とアップシフトの場合とのそれぞれの場合にECU40が実行する処理概要について図8、図9のタイムチャートを参照して説明する。
(ダウンシフト)
図8は、ダウンシフトを実行した場合の処理概要を示すタイムチャートの一例である。なお、図8では、上述の第1制御乃至第4制御に基づく処理の他、エンジン回転数Neの目標値と実値とが乖離するのを抑制するためにMG1トルクTmg1を操作する場合の比較例の処理も合わせて示している。
図8は、上から順に、ギヤ段、アクセル開度Acc、MG2回転数Nmg2、エンジン回転数Ne、入力回転数Ninに相当するMG2トルクTmg2、MG1トルクTmg1、入力トルクTin、アウトプットトルク「Tout」を示す。図8において、グラフ「A3」は、第1乃至第4制御に基づくMG2回転数Nmg2の時間変化に相当し、グラフ「B1」は、比較例に係るMG2回転数Nmg2の時間変化に相当する。また、グラフ「A4」は、第1乃至第4制御に基づくエンジン回転数Neの実値の時間変化に相当し、グラフ「A5」は、エンジン回転数Neの目標値の時間変化に相当し、グラフ「B2」は、比較例に係るエンジン回転数Neの実値の時間変化に相当する。また、グラフ「A6」は、第1制御乃至第4制御に基づくMG2トルクTmg2の時間変化に相当し、グラフ「B3」は、比較例に係るMG2トルクTmg2の時間変化に相当する。そして、グラフ「A7」は、第1乃至第4制御に基づくMG1トルクTmg1の時間変化に相当し、グラフ「B4」は、比較例に係るMG1トルクTmg1の時間変化に相当する。また、グラフ「A8」は、第1乃至第4制御に基づく入力トルクTinの時間変化に相当し、グラフ「B5」は、比較例に係る入力トルクTinの時間変化に相当する。さらに、グラフ「A9」は、第1乃至第4制御に基づくアウトプットトルクToutの時間変化に相当し、グラフ「B6」は、比較例に係るアウトプットトルクToutの時間変化に相当する。また、時刻「t1」から時刻「t3」までが変速を行う期間に相当し、時刻「t2」から時刻「t3」までがイナーシャ相の期間に相当する。
まず、第1乃至第4制御に基づく処理について説明する。時刻t1で、アクセル開度Accの上昇に伴い、ギヤ段が「2速」から「1速」へ変更される(グラフA1、A2参照)。そして、時刻t1以後、ECU40は、図2に示すマップに基づき、第2ブレーキB2を係合状態から解放状態へ第2ブレーキB2の係合圧を変化させるように第2ブレーキB2の油圧を調整する。また、ECU40は、第3ブレーキB3を解放状態から係合状態へ第3ブレーキB3の係合圧を変化させるように、第3ブレーキB3の油圧を調整する。
また、ECU40は、変速を開始する時刻t1で、アクセル開度Accの変化勾配が所定値以下であると判断し、第1制御に基づき、変速開始時刻である時刻t1から入力トルク変化dTinを制限する(グラフA2、A8参照)。
このとき、ECU40は、電池温度等に基づき充電許容電力Winが十分にあると判断し、第2制御に基づき、MG2トルクTmg2のみを操作することで、入力トルク変化dTinを制限値dTinthに基づき制限する(グラフA6参照)。これにより、ECU40は、入力トルク変化dTinの変動に起因した変速ショックを抑制することができる。そして、ECU40は、MG2トルクTmg2を抑制することにより生じた余剰電力を充電する(グラフB3及びグラフA6間の斜線部分参照)。
なお、ECU40は、上述の制限値dTinthを、第3制御又は/及び第4制御に基づき決定する。例えば、ECU40は、第4制御に基づき、アクセル開度Acc又はアクセル開度変化dAccと制限値dTinthとのマップを参照して制限値dTinthを決定する。これにより、ECU40は、適切に要求駆動力と変速ショックの抑制とを両立させることができる。
次に、時刻t2では、イナーシャ相が開始され、入力回転数Ninと等価であるMG2回転数Nmg2が上昇し始める(グラフA3参照)。また、時刻「t2α」では、ECU40は、MG1トルクTmg1を上昇させる(グラフA7参照)。そして、ECU40は、時刻t2α以後、MG1トルクTmg1を上昇させる分(グラフA7及びグラフB4間の斜線部分参照)電力を消費する。このとき、エンジン8の反力トルクに相当するMG1トルクTmg1が上昇したことにより、エンジン回転数Neの実値が上昇する(グラフA4参照)。これによりエンジン回転数Neの実値がエンジン回転数Neの目標値と乖離する方向に変動する(グラフA4、A5参照)。この場合であっても、ECU40は、入力トルク変化dTinを制限値dTinthに基づき制限していることにより、入力トルク変化範囲Wtinを制限して変速ショックの発生を抑制することができる。そして、時刻t3で、MG2回転数Nmg2が安定し、変速が終了する。
次に、比較例について説明する。比較例では、ECU40は、時刻t1以後、エンジン回転数Neの実値と目標値との乖離を抑制するようにMG1トルクTmg1を操作する。そして、MG1トルクTmg1の操作に起因して、時刻t1以後、入力トルクTinが変動する(グラフB5参照)。そして、イナーシャ相中に、入力トルクTinの変動に起因して入力回転数Ninに相当する入力回転数Ninが大きく変化する(グラフB1参照)。従って、比較例では、変速ショックが生じることとなる。これに対し、本実施形態では、ECU40は、入力トルク変化dTinを制限値dTinthに基づき制限することで、入力トルク変化範囲Wtinを制限し、変速ショックの発生を抑制することができる。
(アップシフト)
図9は、アップシフトを実行した場合の処理概要を示すタイムチャートの一例である。なお、図9では、上述の第1乃至第4制御に基づく処理の他、エンジン回転数Neの目標値と実値とが乖離するのを抑制するためにMG1トルクTmg1を操作する場合の比較例の処理も合わせて示している。
図9は、上から順に、ギヤ段、アクセル開度Acc、MG2回転数Nmg2、MG2トルクTmg2、MG1トルクTmg1、入力トルクTin、アウトプットトルクToutを示す。図9において、グラフ「C3」は、第1乃至第4制御に基づくMG2回転数Nmg2の時間変化に相当し、グラフ「D1」は、比較例に係るMG2回転数Nmg2の時間変化に相当する。グラフ「C5」は、第1乃至第4制御に基づくMG2トルクTmg2の時間変化に相当し、グラフ「D2」は、比較例に係るMG2トルクTmg2の時間変化に相当する。グラフ「C6」は、第1乃至第4制御に基づくMG1トルクTmg1の時間変化に相当し、グラフ「D3」は、比較例に係るMG1トルクTmg1の時間変化に相当する。グラフ「C7」は、第1乃至第4制御に基づく入力トルクTinの時間変化に相当し、グラフ「D4」は、比較例に係る入力トルクTinの時間変化に相当する。グラフ「C8」は、第1乃至第4制御に基づくアウトプットトルクToutの時間変化に相当し、グラフ「D5」は、比較例に係るアウトプットトルクToutの時間変化に相当する。また、時刻「t11」から時刻「t13」までが第1乃至第4制御に基づく変速期間に相当し、時刻t12から時刻t13までが第1乃至第4制御に基づくイナーシャ相に相当する。
まず、第1乃至第4制御に基づく処理について説明する。時刻t1で、ギヤ段が「1速」から「2速」へ変更される(グラフC1参照)。そして、時刻t1以後、ECU40は、図2に示すマップに基づき、第3ブレーキB3を係合状態から解放状態へ第3ブレーキB3の係合圧を変化させるように第3ブレーキB3の油圧を調整する。また、ECU40は、第2ブレーキB2を解放状態から係合状態へ第2ブレーキB2の係合圧を変化させるように、第2ブレーキB2の油圧を調整する。
次に、ECU40は、イナーシャ相が開始する時刻t12から、入力トルク変化dTinが制限値dTinth以下になるように制限する(グラフC7参照)。このとき、ECU40は、入力トルク変化dTinの制限値dTinthを、第3制御又は/及び第4制御に基づき決定する。例えば、ECU40は、第3制御に基づき油温Tatから図7(a)に相当する所定のマップを参照して制限値dTinthを決定する。
そして、時刻「T12α」では、運転者のアクセルペダルの踏み込みに基づき、アクセル開度Accが上昇する(グラフC2参照)。これに起因して、エンジン回転数Neが上昇する(グラフC4参照)。しかし、この場合であっても、ECU40は、MG2トルクTmg2の上昇を抑制することにより、入力トルク変化dTinを制限値dTinthに基づき抑制している(グラフC5、C7参照)。そして、ECU40は、MG2トルクTmg2を抑制した分(グラフC5とグラフD2との間の斜線部分参照)、及び、MG1トルクTmg1を変動させなかった分(グラフC6とグラフD3の間の斜線部分参照)だけ、比較例と比べて蓄電装置33を充電させる。
そして、時刻t13で、入力回転数Ninに相当するMG2回転数Nmg2が安定し、変速が終了する(グラフC3参照)。
一方、比較例では、アクセル開度Accが変化する時刻t12α以後、エンジン回転数Neの目標値と実値との乖離を抑制するため、MG1トルクTmg1を一時的に上昇させている(グラフD3参照)。これに伴い、時刻t12α以後、入力トルク変化dTinが上昇する(グラフD4参照)。そして、入力トルクTinの増加に起因して、入力回転数Ninと等価であるMG2回転数Nmg2の変化勾配が変動する(グラフD1参照)。その結果、比較例では、変速期間が時刻「t13α」まで拡大することになる。
これに対し、第1乃至第4制御に基づく処理では、ECU40は、イナーシャ相開始に相当する時刻t12以後入力トルク変化dTinを制限することにより、MG2回転数Nmg2の変化勾配の変動を抑制している(グラフC3参照)。これにより、ECU40は、変速期間の拡大を抑制することができる。
[処理フロー]
次に、本実施形態の処理手順について図10を参照して説明する。図10は、第2制御及び第4制御を実行した場合の処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU40は、図10に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
まず、ECU40は、変速中であるか否か判定する(ステップS101)。そして、ECU40は、変速中であると判断した場合(ステップS101;Yes)、ステップS102へ処理を進める。一方、ECU40は、変速中でないと判断した場合(ステップS101;No)、フローチャートの処理を終了する。
次に、ECU40は、アクセル開度Acc又はアクセル開度変化dAccに基づき制限値dTinthを決定する(ステップS102)。例えば、ECU40は、図7(b)又は図7(c)に相当するマップを参照し、アクセル開度Acc又はアクセル開度変化dAccから制限値dTinthを決定する。これにより、ECU40は、変速ショックを抑制しつつ、要求駆動力を満たすように、制限値dTinthを決定することができる。
そして、ECU40は、入力トルク変化dTinが制限値dTinthより大きいか否か判定する(ステップS103)。これにより、ECU40は、変速ショックを抑制するために入力トルク変化dTinを抑制する必要があるか否か判定する。そして、ECU40は、入力トルク変化dTinが制限値dTinthより大きいと判断した場合(ステップS103;Yes)、ステップS104以降の処理を行い、入力トルク変化dTinを抑制する。一方、ECU40は、入力トルク変化dTinが制限値dTinthより大きくないと判断した場合(ステップS103;No)、即ち入力トルク変化dTinが制限値dTinth以下である場合、入力トルク変化dTinを抑制する必要はないと判断し、フローチャートの処理を終了する。
次に、ECU40は、充電許容電力Win、放電許容電力Woutに余裕があるか否か判定する(ステップS104)。具体的には、ECU40は、ステップS105でMG2トルクTmg2を操作する際に、充電許容電力Win又は放電許容電力Woutを超える充放電が行われる虞があるか否か判定する。そして、ECU40は、充電許容電力Win、放電許容電力Woutに余裕があると判断した場合(ステップS104;Yes)、即ちMG2トルクTmg2を操作する際に、充電許容電力Win及び放電許容電力Woutを超える充放電が行われる虞がないと判断した場合、MG2トルクTmg2の操作に基づき入力トルク変化dTinを抑制する(ステップS105)。これにより、ECU40は、エンジン回転数Neへの影響を防ぎつつ、入力トルク変化範囲Wtinを制限して変速ショックを抑制することができる。
一方、ECU40は、充電許容電力Win、放電許容電力Woutに余裕がないと判断した場合(ステップS104;No)、即ち、MG2トルクTmg2のみを操作する際に、充電許容電力Win又は放電許容電力Woutを超える充放電が行われる虞があると判断した場合、MG1トルクTmg1及びMG2トルクTmg2の操作に基づき入力トルク変化dTinを抑制する(ステップS106)。これにより、ECU40は、蓄電装置33の過度な充放電を抑制して蓄電装置33の劣化を抑制しつつ、入力トルク変化範囲Wtinを制限して変速ショックを抑制することができる。
[変形例]
図6の説明では、マニュアルポジションを挟んで車両の前後方向での両側にアップシフトポジション(+)とダウンシフトポジション(−)とが設けられていた。これに代えて、動力伝達装置10は、エンジン8、モータMG1、又は/及びモータMG2からの負荷トルクによるブレーキに基づく減速度を運転者が任意に設定可能であってもよい。この場合、ECU40は、図6中の(+)を運転者が押す回数に応じて、減速度を増加させると共に、図6中の(−)を運転者が押す回数に応じて、減速度を低減させる。この場合であっても、ECU40は、変速時に入力トルク変化dTinを制限することで、変速ショックを抑制することができる。