JP2010125936A - 車両用動力伝達装置の制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】コースト走行時にエンジンフリクショントルクが回生トルクに加えて付与されているときの変速部の変速に際して、フリクショントルク及び回生トルクをブレーキトルクに置き換えるときの制御性を向上する。
【解決手段】コースト走行時にエンジンフリクショントルクが第2電動機M2による回生トルクに加えて付与されているときには、制動力協調制御手段94による制動力協調コーストダウン制御により、フリクショントルク分が一時的に回生トルクに置き換えられ、その後、回生トルク分がホイールブレーキ装置40によるブレーキトルクに置き換えられるので、フリクショントルク及び回生トルクの2自由度を持ったままでのブレーキトルクへの置換えに比べ、回生トルクへの一本化によりブレーキトルクへの置換えが容易になる。また、何れのトルクの置換えもフリクショントルクやブレーキトルクよりも制御性の良い電動機トルク(回生トルク)を介して行われる。
【選択図】図6
【解決手段】コースト走行時にエンジンフリクショントルクが第2電動機M2による回生トルクに加えて付与されているときには、制動力協調制御手段94による制動力協調コーストダウン制御により、フリクショントルク分が一時的に回生トルクに置き換えられ、その後、回生トルク分がホイールブレーキ装置40によるブレーキトルクに置き換えられるので、フリクショントルク及び回生トルクの2自由度を持ったままでのブレーキトルクへの置換えに比べ、回生トルクへの一本化によりブレーキトルクへの置換えが容易になる。また、何れのトルクの置換えもフリクショントルクやブレーキトルクよりも制御性の良い電動機トルク(回生トルク)を介して行われる。
【選択図】図6
Description
本発明は、変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機及びエンジンを備える車両用動力伝達装置の制御装置に係り、特に、コースト走行時に電動機を回生制御することにより車両に制動力を付与する際の技術に関するものである。
変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機を備え、コースト走行時には電動機を回生制御して車両に制動力を付与することによりエネルギ効率の向上(燃費向上)を図る車両用動力伝達装置が良く知られている。例えば、特許文献1、2の車両がそれである。ここで、コースト走行時に電動機による回生トルクを付与したままクラッチツウクラッチ変速を行うと変速ショックが生じる可能性があった。これに対して、特許文献1、2には、例えばコーストダウンシフト時は、変速前に電動機による回生トルク分をホイールブレーキ装置によるブレーキトルクに置き換え、車両に付与する制動力を維持しつつ、変速部内の解放側係合装置と係合側係合装置とを共に解放状態とする状態を介して変速を進行させる制動力協調制御を行うことにより、クラッチツウクラッチ変速に比べて変速ショックを抑制することが記載されている。
上記制動力は、例えばコースト走行時の目標減速度が達成されるように発生させられるが、目標減速度が大きくて回生トルクでは賄いきれないときや、特許文献3に示されるように蓄電装置の充電に制限があって充分な回生トルクを発生させられないときなどは、エンジンを連れ回し状態としてエンジンフリクショントルクを回生トルクに加えて付与することで目標減速度が達成される。
このようにコースト走行時にエンジンフリクショントルクが回生トルクに加えて付与されている場合、特許文献1、2のようにエンジンの動力が駆動輪へ伝達される動力伝達経路に変速部を介して電動機が連結される動力伝達装置、すなわち変速部へは電動機トルクのみが入力されてエンジントルクは変速部を介さずに駆動輪へ伝達されるような動力伝達装置では、エンジンフリクショントルクは変速部の変速の影響を受けないことから、コーストダウンシフト時の制動力協調制御においては例えば図13に示すようにエンジンフリクショントルクを一定に保ったまま回生トルク分をブレーキトルクに置き換えれば良い。
ところで、変速部の入力側に電動機及びエンジンが連結されて電動機トルク及びエンジントルクが変速部を介して駆動輪へ伝達されるような動力伝達装置もある。このような動力伝達装置では、エンジンフリクショントルクも変速部の変速の影響を受けることから、コースト走行時にエンジンフリクショントルクが回生トルクに加えて付与されている場合、コーストダウンシフト時の制動力協調制御においては例えば図14に示すように回生トルク分と共にエンジンフリクショントルク分もブレーキトルクに置き換える必要がある。この際、エンジンフリクショントルク分をブレーキトルクに置き換えるには、例えばエンジンフリクショントルクを零に向かって漸減すると共に、漸減されたエンジンフリクショントルク分を漸増するようにブレーキトルクを発生させる必要がある。
エンジンフリクショントルクを零に向かって漸減するには、例えばエンジン運転状態をフューエルカット状態から燃料を噴射してエンジン回転速度をエンジン自身が保持する自律回転状態としたり、或いはフューエルカット状態のままエンジン回転速度を零に向かって制御することが考えられるが、エンジンフリクショントルクは電動機トルク(回生トルク)と異なり制御性が悪い為、ホイールブレーキ装置にて精度良くエンジンフリクショントルク分をブレーキトルクに置き換えるのは困難であった。尚、上述したような課題は未公知である。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機及びエンジンを備える車両用動力伝達装置において、コースト走行時にエンジンによるフリクショントルクが電動機による回生トルクに加えて付与されているときの変速部の変速に際して、フリクショントルク及び回生トルクを制動装置によるブレーキトルクに置き換えるときの制御性を向上することができる制御装置を提供することにある。
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) 変速部と、その変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機及びエンジンと、車輪にブレーキトルクを付与する制動装置とを備え、コースト走行において前記電動機による回生トルクが付与されているときの前記変速部の変速に際してはその回生トルク分を前記ブレーキトルクに置き換えて車両に制動力を付与する制動力協調制御を行う車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) 前記制動力協調制御は、コースト走行において前記エンジンによるフリクショントルクが前記回生トルクに加えて付与されているときには、前記エンジンによるフリクショントルク分を一時的に前記回生トルクに置き換え、その回生トルクへの置換え完了後にその回生トルク分を前記ブレーキトルクに置き換えることにある。
このようにすれば、コースト走行において前記エンジンによるフリクショントルクが前記回生トルクに加えて付与されているときには、前記制動力協調制御により、前記エンジンによるフリクショントルク分が一時的に前記回生トルクに置き換えられ、その回生トルクへの置換え完了後にその回生トルク分が前記ブレーキトルクに置き換えられるので、フリクショントルク及び回生トルクから構成される変速部への入力トルクを、フリクショントルク及び回生トルクの2自由度を持ったままブレーキトルクに置き換えることに比較して、回生トルクに一本化して1自由度にされることによりブレーキトルクに置き換えることが容易になる。また、何れのトルクの置換えもフリクショントルクやブレーキトルクに比べて制御性の良い電動機トルク(回生トルク)を介して行われることになる。よって、コースト走行時にエンジンによるフリクショントルクが電動機による回生トルクに加えて付与されているときの変速部の変速に際して、フリクショントルク及び回生トルクを制動装置によるブレーキトルクに置き換えるときの制御性を向上することができる制御装置が提供される。また、精度良くフリクショントルク及び回生トルクがブレーキトルクに置き換えられるので、変速ショックが抑制される。
ここで、好適には、前記エンジンによるフリクショントルク分を前記回生トルクに置き換える際は、その回生トルクの増大に伴う発電電力の増大を抑制するように車両補機類を用いて電力を消費させる。このようにすれば、例えば回生トルク発生に伴う発電電力が蓄電装置に充電されるときに、蓄電装置の耐久性に問題が生じる程の充電量を超える電力がフリクショントルクから回生トルクへの置換えにより連続的に発電されたとしても、充電量過多となる発電電力が補機類により消費されて(放出されて)その蓄電装置が適切に保護される。
また、好適には、前記制動力協調制御は、前記変速部の変速開始前に前記回生トルク分を前記ブレーキトルクに置き換えると共に、前記変速部の変速中に前記ブレーキトルクにより車両に制動力を付与しながら、前記変速部内の動力伝達経路を解放状態として前記電動機により前記変速部の入力側回転部材を変速後の回転速度に同期させる変速時同期制御を行う。このようにすれば、コースト走行中において電動機による回生トルクが付与されているときの変速部の変速の際、制動力協調制御により変速前に精度良くフリクショントルク及び回生トルクがブレーキトルクに置き換えられて、変速ショックが適切に抑制される。
また、好適には、前記エンジンに動力伝達可能に連結された差動部を更に備え、前記変速部は、前記エンジンから駆動輪への動力伝達経路の一部を構成する。このようにすれば、エンジン、差動部、変速部、電動機を備えた実用的な車両用動力伝達装置において、コースト走行時にエンジンによるフリクショントルクが電動機による回生トルクに加えて付与されているときの変速部の変速に際して、フリクショントルク及び回生トルクを制動装置によるブレーキトルクに置き換えるときの制御性を向上することができる制御装置が提供される。
また、好適には、前記差動部は、前記エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有し、その差動用電動機の運転状態が制御されてその差動機構の差動状態が制御されることにより電気的な無段変速機として作動する。このようにすれば、電気的な無段変速機として機能する差動部を備えた実用的な車両用動力伝達装置において、コースト走行時にエンジンによるフリクショントルクが電動機による回生トルクに加えて付与されているときの変速部の変速に際して、フリクショントルク及び回生トルクを制動装置によるブレーキトルクに置き換えるときの制御性を向上することができる制御装置が提供される。また、差動機構の差動作用により差動用電動機を用いてエンジン回転速度を変化させられるので、エンジンによるフリクショントルクが適切に制御される。また、差動部から出力される駆動トルクを滑らかに変化させることが可能である。尚、差動部は、その変速比を連続的に変化させて電気的な無段変速機として作動させる他に変速比を段階的に変化させて有段変速機として作動させることも可能である。
また、好適には、前記変速部は、機械的に変速比が設定される有段変速機である。このようにすれば、複数の変速段が段階的に成立させられる有段変速機(変速部)を備えた実用的な車両用動力伝達装置において、コースト走行時にエンジンによるフリクショントルクが電動機による回生トルクに加えて付与されているときの変速部の変速に際して、フリクショントルク及び回生トルクを制動装置によるブレーキトルクに置き換えるときの制御性を向上することができる制御装置が提供される。
また、好適には、前記有段変速機は、複数組の遊星歯車装置の回転要素が摩擦係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進4段、前進5段、前進6段、更にはそれ以上の変速段を有する等の種々の遊星歯車式多段変速機により構成される。この遊星歯車式多段変速機における摩擦係合装置としては、油圧アクチュエータによって係合させられる多板式、単板式のクラッチやブレーキ、或いはベルト式のブレーキ等の油圧式摩擦係合装置が広く用いられる。この油圧式摩擦係合装置を係合させるための作動油を供給するオイルポンプは、例えば走行用駆動力源(エンジン)により駆動されて作動油を吐出するものでも良いが、走行用駆動力源とは別に配設された専用の電動モータなどで駆動されるものでも良い。また、クラッチ或いはブレーキは、油圧式摩擦係合装置以外に電磁式係合装置例えば電磁クラッチや磁粉式クラッチ等であってもよい。
また、好適には、上記油圧式摩擦係合装置を含む油圧制御回路は、例えばリニアソレノイドバルブの出力油圧を直接油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)にそれぞれ供給することが応答性の点で望ましいが、そのリニアソレノイドバルブの出力油圧をパイロット油圧として用いることによりシフトコントロールバルブを制御して、そのコントロールバルブから油圧アクチュエータに作動油を供給するように構成することもできる。
また、好適には、上記リニアソレノイドバルブは、例えば複数の油圧式摩擦係合装置の各々に対応して1つずつ設けられるが、同時に係合したり係合、解放制御したりすることがない複数の油圧式摩擦係合装置が存在する場合には、それ等に共通のリニアソレノイドバルブを設けることもできるなど、種々の態様が可能である。また、必ずしも全ての油圧式摩擦係合装置の油圧制御をリニアソレノイドバルブで行う必要はなく、一部乃至全ての油圧制御をON−OFFソレノイドバルブのデューティ制御など、リニアソレノイドバルブ以外の調圧手段で行っても良い。尚、この明細書で「油圧を供給する」という場合は、「油圧を作用させ」或いは「その油圧に制御された作動油を供給する」ことを意味する。
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに連結された第1回転要素と前記差動用電動機に連結された第2回転要素と前記走行用電動機に連結された第3回転要素との3つの回転要素を有する装置である。このようにすれば、前記差動機構が簡単に構成される。
また、好適には、前記差動機構はシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、前記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置10(以下、動力伝達装置10と表す)を説明する骨子図であり、この動力伝達装置10はハイブリッド車両に好適に用いられる。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12と表す)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪34(図6参照)との間の動力伝達経路で伝達部材18を介して直列に連結されている動力伝達部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図6参照)及び一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。
このように、本実施例の動力伝達装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。尚、動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
差動部11は、動力分配機構16と、動力分配機構16に動力伝達可能に連結されて動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1と、伝達部材18と一体的に回転するように動力伝達可能に連結されている第2電動機M2とを備える電気式差動部である。尚、伝達部材18は差動部11の出力側回転部材であるが自動変速部20の入力側回転部材にも相当するものである。
第1電動機M1及び第2電動機M2は、電気エネルギから機械的な駆動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な駆動力から電気エネルギを発生させる発電機としての機能を有する所謂モータジェネレータである。換言すれば、動力伝達装置10において、電動機Mは主動力源であるエンジン8の代替として、或いはそのエンジン8と共に走行用の駆動力を発生させる動力源(副動力源)として機能し得る。また、他の動力源により発生させられた駆動力から回生により電気エネルギを発生させ、インバータ54(図6参照)を介して他の電動機Mに供給したり、その電気エネルギを蓄電装置56(図6参照)に蓄積する等の作動を行う。
第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の第2駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。また、好適には、第1電動機M1及び第2電動機M2は、何れもその発電機としての発電量を連続的に変更可能に構成されたものである。また、第1電動機M1及び第2電動機M2は、動力伝達装置10の筐体であるケース12内に備えられ、動力伝達装置10の作動流体である自動変速部20の作動油により冷却される。
動力分配機構16は、エンジン8に動力伝達可能に連結された差動機構であって、例えば「0.416」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24を主体として構成されており、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構である。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転及び公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。尚、差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。このように構成された動力分配機構16は、差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動可能状態(差動状態)とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されると共に、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると差動部11も差動状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。このように動力分配機構16が差動状態とされると、動力分配機構16(差動部11)に動力伝達可能に連結された第1電動機M1及び第2電動機M2の一方又は両方の運転状態(動作点)が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される。
自動変速部20(変速部)は、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成しており、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26及びシングルピニオン型の第2遊星歯車装置28を備え、機械的に複数の変速比が段階的に設定される有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機である。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.488」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.455」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2である。
自動変速部20では、第1サンギヤS1は第3クラッチC3を介して伝達部材18に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2サンギヤS2が第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。更に第1キャリヤCA1と第2リングギヤR2とは一方向クラッチF1を介して非回転部材であるケース12に連結されてエンジン8と同方向の回転が許容され逆方向の回転が禁止されている。これにより、第1キャリヤCA1及び第2リングギヤR2は、逆回転不能な回転部材として機能する。
以上のように構成された自動変速部20では、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とにより例えばクラッチツウクラッチ変速が実行されて複数のギヤ段(変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速比γ(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られる。例えば、図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1の係合及び一方向クラッチFにより変速比が「3.20」程度となる第1速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により変速比が「1.72」程度となる第2速ギヤ速段が成立させられ、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により変速比が「1.00」程度となる第3速ギヤ段が成立させられ、第2クラッチC2及び第1ブレーキB1の係合により変速比が「0.67」程度となる第4速ギヤ段が成立させられ、第3クラッチC3及び第2ブレーキB2の係合により変速比が「2.04」程度となる後進ギヤ段が成立させられる。また、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の解放によりニュートラル「N」状態とされる。また、第1速ギヤ段のエンジンブレーキの際には、第2ブレーキB2が係合させられる。
このように、自動変速部20内の動力伝達経路は、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の係合と解放との作動の組合せにより、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態との間で切り換えられる。つまり、第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段及び後進ギヤ段の何れかが成立させられることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、何れのギヤ段も成立させられないことで例えばニュートラル「N」状態が成立させられることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
以上のように構成された動力伝達装置10において、無段変速機として機能する差動部11と自動変速部20とで無段変速機が構成される。また、差動部11の変速比を一定となるように制御することにより、差動部11と自動変速部20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。
具体的には、差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度(以下、自動変速部20の入力回転速度)すなわち伝達部材18の回転速度(以下、伝達部材回転速度N18)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、動力伝達装置10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、動力伝達装置10において無段変速機が構成される。この動力伝達装置10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTである。例えば、図2の係合作動表に示される自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対し伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
また、差動部11の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチC及びブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する動力伝達装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。したがって、動力伝達装置10において有段変速機と同等の状態が構成される。
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XG(X3)が伝達部材18の回転速度N18すなわち差動部11から自動変速部20に入力される後述する第3回転要素RE3の回転速度を示している。
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。更に、自動変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応する第2サンギヤS2を、第5回転要素RE5(第5要素)に対応する相互に連結された第1リングギヤR1及び第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する相互に連結された第1キャリヤCA1及び第2リングギヤR2を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応する第1サンギヤS1をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2遊星歯車装置26、28のギヤ比ρ1、ρ2に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2遊星歯車装置26、28毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18及び第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
例えば、差動部11においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度すなわちエンジン回転速度NEが上昇或いは下降させられる。また、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転がエンジン回転速度NEと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で差動部リングギヤR0の回転速度すなわち伝達部材18が回転させられる。或いは、差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転が零とされると、直線L0は図3に示す状態とされ、エンジン回転速度NEよりも増速されて伝達部材18が回転させられる。
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は第3クラッチC3を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結されている。
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第4回転要素RE4の回転速度を示す縦線Y4と横線X3との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第1速(1st)の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第2速(2nd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第3速(3rd)の出力軸22の回転速度が示され、第2クラッチC2と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L4と出力軸22と連結された第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5との交点で第4速(4th)の出力軸22の回転速度が示される。
図4は、本実施例の動力伝達装置10を制御するための制御装置である電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8や各電動機Mに関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の各種制御を実行するものである。
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン8の冷却流体の温度であるエンジン水温TEMPWを表す信号、シフトレバー52(図5参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、車速センサ72により検出された出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速V及び車両の進行方向を表す信号、自動変速部20の作動油温TOILを表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキスイッチ44により検出された車輪(駆動輪34、不図示の従動輪)にブレーキトルク(制動力)を付与する制動装置としての良く知られたフットブレーキ装置(ホイールブレーキ装置)40の作動中(すなわちフットブレーキ操作中)を示すブレーキペダル42(図6参照)の操作(オン)BONを表すブレーキ操作信号、触媒温度を表す信号、アクセル開度センサ48により検出された運転者の出力要求量に対応するアクセルペダル46(図6参照)の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、レゾルバ等からなるM1回転速度センサ74により検出された第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」と表す)及びその回転方向を表す信号、レゾルバ等からなるM2回転速度センサ76により検出された第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」と表す)及びその回転方向を表す信号、各電動機M1,M2との間でインバータ54を介して充放電を行う蓄電装置56(図6参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
また、上記電子制御装置80からは、エンジン8の出力PE(単位は例えば「kW」。以下、「エンジン出力PE」と表す。)を制御するエンジン出力制御装置58(図6参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1、M2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、ホイールブレーキ装置40を作動させるためのホイールブレーキ作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図6参照)に含まれる電磁弁(ソレノイドバルブ)等を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
ホイールブレーキ装置40は、ブレーキペダル42の操作などに関連して、車輪ブレーキに設けられたホイールシリンダへ制動油圧を供給する。このホイールブレーキ装置40では、通常は、マスタシリンダにおいて発生させられるブレーキペダル42の踏力に対応した大きさの制動油圧がホイールシリンダへ直接供給されるが、例えば制動力協調制御、ABS制御、トラクション制御、VSC制御、或いはヒルホールド制御時には、減速走行(コースト走行)時の回生トルクに置き換えられるホイールブレーキトルク(以下、ブレーキトルクという)の発生、低μ路での車両の制動、発進、旋回走行や、或いは坂路途中の車両停止の保持或いは維持の為に上記踏力に対応しない制動液圧がホイールシリンダへ供給されるようになっている。
図5は、複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。
そのシフトレバー52は、動力伝達装置10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、動力伝達装置10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、又は手動変速走行モード(手動モード)を成立させて上記自動変速制御における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
上記シフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路70が電気的に切り換えられる。
上記「P」乃至「M」ポジション(レンジ)に示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジション及び「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジション(レンジ)であって、自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする動力伝達経路の動力伝達遮断状態への切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジション及び「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジション(レンジ)であって、自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
具体的には、シフトレバー52が「P」ポジションへ手動操作されることでクラッチCおよびブレーキBのいずれもが解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされると共に自動変速部20の出力軸22がロックされ、「N」ポジションへ手動操作されることでクラッチCおよびブレーキBの何れもが解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされ、「R」、「D」、及び「M」ポジションのいずれかへ手動操作されることで各ポジションに対応した何れかのギヤ段が成立させられて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態とされる。
図6は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、有段変速制御手段82は、自動変速部20の変速を行う変速制御手段として機能するものである。例えば、有段変速制御手段82は、図7に示すような車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUT(或いはアクセル開度Acc等)とを変数として記憶手段84に予め記憶されたアップシフト線(実線)及びダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速V及びアクセル開度Acc等に対応する自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。
このとき、有段変速制御手段82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
ハイブリッド制御手段86は、エンジン出力制御装置58を介してエンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段としての機能と、インバータ54を介して第1電動機M1及び第2電動機M2による駆動力源又は発電機としての作動を制御する電動機作動制御手段としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン8、第1電動機M1、及び第2電動機M2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力(要求エンジン出力)PERを算出し、その目標エンジン出力PERが得られるエンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとなるようにエンジン8を制御すると共に各電動機Mの出力乃至発電を制御する。
以上のように、動力伝達装置10全体としての変速比である総合変速比γTは、有段変速制御手段82によって制御される自動変速部20の変速比γATと、ハイブリッド制御手段86によって制御される差動部11の変速比γ0とによって決定される。すなわち、ハイブリッド制御手段86及び有段変速制御手段82は、シフトポジションPSHに対応するシフトレンジの範囲内において、油圧制御回路70、エンジン出力制御装置58、第1電動機M1、及び第2電動機M2等を介して動力伝達装置10全体としての変速比である総合変速比γTを制御する変速制御手段として機能する。
例えば、ハイブリッド制御手段86は、動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮してエンジン8及び各電動機Mの制御を実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速V及び自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段86は、例えばエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて記憶手段84に予め記憶された例えば図8の破線に示すようなエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)にエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力PEを発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように、動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点とは、エンジン回転速度NE及びエンジントルクTEなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。尚、本実施例では、燃費とは例えば単位燃料消費量当たりの走行距離であったり、車両全体としての燃料消費率(=燃料消費量/駆動輪出力)等である。
このとき、ハイブリッド制御手段86は、例えば第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は電動機Mの発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが他の電動機Mへ供給され、電気エネルギによりその電動機Mから出力される駆動力が伝達部材18へ伝達される。この発電に係る電動機Mによる電気エネルギの発生から駆動に係る電動機Mで消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部が電気エネルギに変換され、その電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスが構成される。
ここで、有段変速制御手段82により自動変速部20の変速制御が実行される場合には、その自動変速部20の変速比が段階的に変化させられることに伴ってその変速前後で動力伝達装置10のトータル変速比γTが段階的に変化させられる。このような制御では、トータル変速比γTを段階的に変化させることにより、すなわち変速比が連続的ではなく飛び飛びの値をとることにより、連続的なトータル変速比γTの変化に比較して速やかに駆動トルクを変化させることが可能となる。その反面、変速ショックが発生したり、最適燃費率曲線に沿うようにエンジン回転速度NEを制御できず燃費が悪化する可能性がある。そこで、ハイブリッド制御手段86は、そのトータル変速比γTの段階的変化が抑制されるように、自動変速部20の変速に同期してその自動変速部20の変速比の変化方向とは反対方向の変速比の変化となるように差動部11の変速を実行する。換言すれば、自動変速部20の変速前後で動力伝達装置10のトータル変速比γTが連続的に変化するように自動変速部20の変速制御に同期して差動部11の変速制御を実行する。例えば、自動変速部20の変速前後で過渡的に動力伝達装置10のトータル変速比γTが変化しないような所定のトータル変速比γTを形成するために自動変速部20の変速制御に同期して、その自動変速部20の変速比の段階的な変化に相当する変化分だけその変化方向とは反対方向に変速比を段階的に変化させるように差動部11の変速制御を実行する。
また、ハイブリッド制御手段86は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1及び/又は第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段86は、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1及び/又は第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段86は車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。また、ハイブリッド制御手段86は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度NEを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度NEを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NM2の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
また、ハイブリッド制御手段86は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力PEを発生するようにエンジン8の出力制御を実行する。すなわち、エンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段として機能する。
例えば、ハイブリッド制御手段86は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、エンジン出力制御装置58は、ハイブリッド制御手段86による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、例えばエンジン8を用いず第2電動機M2を走行用の駆動力源とするモータ走行(EVモード走行)をさせることができる。例えば、前記図7の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図7に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数とする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図7中の実線及び一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に記憶手段84に予め記憶されている。
そして、ハイブリッド制御手段86は、例えば図7の駆動力源切換線図から実際の車速V及び自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、モータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段86によるモータ走行は、図7から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT(比較的低アクセル開度Acc)域すなわち低エンジントルクTE域、或いは車速Vの比較的低車速時すなわち低負荷域で実行される。
また、ハイブリッド制御手段86は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御して例えば第1電動機M1を無負荷状態とすることにより空転させて、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)により必要に応じてエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持する。
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行うエンジン走行領域であっても、前述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギ及び/又は蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行にはエンジン8を走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8及び第2電動機M2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。そして、本実施例のモータ走行とはエンジン8を停止して第2電動機M2を走行用の駆動力源とする走行である。
また、ハイブリッド制御手段86は、第1電動機M1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、差動部11がトルクの伝達を不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段86は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
また、ハイブリッド制御手段86は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やブレーキペダル42の操作によるホイールブレーキ作動時などには、燃費を向上(燃料消費率を低減)させるためにエンジン8を非駆動状態にして、駆動輪34から伝達される車両の運動エネルギを差動部11で電気エネルギに変換する回生制御を実行する。具体的には、駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第2電動機M2を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第2電動機発電電流をインバータ54を介して蓄電装置56へ充電する回生制御を実行する。すなわち、ハイブリッド制御手段86は上記回生制御を実行する回生制御手段として機能する。
ここで、車両のコースト走行時には目標減速度G*が設定され、その目標減速度G*が達成されるように制動トルク(制動力)が発生させられる。この制動トルクは、例えば回生やエンジンブレーキやホイールブレーキ等により得られるが、エネルギー効率を考えて回生による制動が最優先される。例えば、アクセルオフの減速走行時に目標減速度G*を回生にて達成するときには、ハイブリッド制御手段52によりフューエルカットにてエンジン8の作動が停止され且つ第1電動機M1が空転され、差動部11の差動作用によって車速Vに拘束されることなくすなわち自動変速部20の出力軸22の回転速度NOUTと変速比γATとに基づいて一意的に定められる伝達部材回転速度N18に拘わらずエンジン回転速度NEが零乃至略零に維持される。よって、エンジン8の引き摺り(回転抵抗)によるポンピングロスの発生が抑制され、その分制動力(減速度)が抑制されて回生量が増加される。
具体的には、図6に戻り、走行状態判定手段88は、アクセル開度Accに基づいて車両がアクセルオフの減速走行中すなわち惰性走行(コースト走行)中であるか否かを判定する。また、走行状態判定手段88は、シフトポジションPSHに基づいて前進走行レンジである「D」レンジで走行中であるか否かを判定する。
目標減速度制御手段90は、走行状態判定手段88により車両が減速走行中であると判定された場合には、減速走行中の目標減速度G*を算出すると共に、その目標減速度G*が達成されるように車両の制動トルクを発生させる。目標減速度制御手段90は、例えば車速Vが高い程目標減速度G*が大きくなるように予め実験的に求められて記憶手段84に記憶された車速Vと目標減速度G*との関係から実際の車速Vに基づいて減速走行中の目標減速度G*を算出する。そして、目標減速度制御手段90は、例えばエネルギー効率を考えて回生トルクにてその目標減速度G*を達成する為の制動力を得ることを最優先するという観点から、目標減速度G*を達成する為の制動力が回生トルクで得られるようにハイブリッド制御手段86に指令を出力する。ハイブリッド制御手段86は、その指令に従って目標減速度G*を達成する為の制動力が得られるように予め定められた回生トルクとなる回生量にて第2電動機M2による回生を行う。このとき、ハイブリッド制御手段86は、同時に、例えば燃料噴射装置66によるエンジン8への燃料供給を停止させ、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより空転させてエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持する。
ところで、車両のコースト走行中にハイブリッド制御手段86により回生制御が実施されているときに車速Vの減少に伴ってダウンシフト線(すなわちダウン変速点車速)に到達し、自動変速部20のダウンシフト(以下、コーストダウンシフトという)が判断されてそのコーストダウンシフトが実行される場合が考えられる。回生制御中に自動変速部20がダウンシフトされて変速比γATが大きくされると、第2電動機M2による回生トルクが変速比γATの増大変化分だけ大きくされて出力軸22側へ伝達される。そこで、回生協調制御手段(回生協調変速制御手段)92は、回生協調制御(回生協調コーストダウン制御)として、コースト走行において目標減速度G*を達成する為の制動力が得られるように第2電動機M2による回生トルクが付与されているときの自動変速部20のコーストダウンシフトに際しては、コーストダウンシフト後にその目標減速度G*を達成する為の制動力とされるように、コーストダウンシフト前に発生させていた第2電動機M2による回生トルクをコーストダウンシフト開始時点から漸減して変速比γATの増大変化分だけコーストダウンシフトの終了時点で小さくする指令をハイブリッド制御手段86に出力する。また、回生協調制御手段92は、このときのコーストダウンシフトをクラッチツウクラッチにより実行する指令を有段変速制御手段82に出力する。
一方で、制動力協調制御手段(制動力協調変速制御手段)94は、コースト走行において目標減速度G*を達成する為の制動力が得られるように第2電動機M2による回生トルクが付与されているときの自動変速部20のコーストダウンシフトに際しては、その第2電動機M2による回生トルク分をホイールブレーキ装置40によるブレーキトルクに置き換えて目標減速度G*を達成する為の制動力を車両に付与する制動力協調制御(制動力協調コーストダウン制御)を行う。例えば、制動力協調制御手段94は、自動変速部20のコーストダウンシフト開始前の所定の乗せ替え期間にて、第2電動機M2による回生トルクを零に向かって漸減する指令をハイブリッド制御手段86に出力すると共に、漸減された回生トルク分を漸増するようにブレーキトルクを発生させる指令をホイールブレーキ装置40に出力して、自動変速部20のコーストダウンシフト開始前に回生トルク分をブレーキトルクに置き換える。また、制動力協調制御手段94は、自動変速部20のコーストダウンシフト中にホイールブレーキ装置40によるブレーキトルクにより車両に制動力を付与しながら、自動変速部20内の動力伝達経路を解放状態として第2電動機M2により自動変速部20の入力側回転部材としての伝達部材18をコーストダウンシフト後の回転速度に同期させる変速時同期制御を行う。例えば、制動力協調制御手段94は、このときのコーストダウンシフトをクラッチフリーにより実行する指令すなわち解放側係合装置の解放油圧指令値を変速開始時点で零にし且つ変速期間中は係合側係合装置の係合油圧指令値を低圧待機圧とする指令を有段変速制御手段82に出力する。更に、制動力協調制御手段94は、このコーストダウンシフト中において、目標減速度G*を達成する為の制動力をブレーキトルクで得る為の指令を引き続きホイールブレーキ装置40に出力すると共に、第2電動機M2により伝達部材18をコーストダウンシフト後の同期回転速度に向かって上昇させる指令をハイブリッド制御手段86に出力する。
上述したように、コースト走行において回生トルクが付与されているときの自動変速部20のコーストダウンシフトの際の態様としては、回生協調コーストダウン制御と制動力協調コーストダウン制御とがある。制動力協調コーストダウン制御は、変速ショック抑制という観点から見れば、回生協調コーストダウン制御に比べて有利である。反面、制動力協調コーストダウン制御で用いられるホイールブレーキ装置40は耐久性の観点から見ればその作動回数や作動時間は少ない方が望ましく、制動力協調コーストダウン制御の実行を制限することが望ましいと考えられる。つまり、本実施例の自動変速部20では4th→3rd、3rd→2nd、2nd→1stの複数種類のコーストダウンシフトが発生することから、例えばこれら複数種類のコーストダウンシフトに制動力協調コーストダウン制御を適用すると、ホイールブレーキ装置40の作動回数が増えて耐久性が低下する可能性がある。また、一連のコースト走行中に複数種類のコーストダウンシフトが連続的に発生するときにその都度制動力協調コーストダウン制御を実行する場合には、ブレーキトルク分を逆に回生トルクに置き換える必要が生じ、またブレーキトルクと回生トルクとの置き換えが何度も生じ、制御が複雑になるという別の問題も生じる可能性がある。このようなことから本実施例では、一連のコースト走行中において制動力協調コーストダウン制御の実行を制限する。
例えば、複数種類のコーストダウンシフトの中で最初のコーストダウンシフトのみ制動力協調コーストダウン制御を行うことが考えられる。また、例えば、燃費向上の観点から自動変速部20の何れの変速比(変速段)γATにおいても第2電動機M2による回生制御を行うと共に、変速ショックを抑制するという観点から最も変速ショックが生じやすいと考えられる最もギヤステップの大きな最低速側(2nd→1st)のコーストダウンシフト時のみ制動力協調コーストダウン制御を行い、その他のコーストダウンシフト時には回生協調コーストダウン制御を行うことが考えられる。また、例えば、車両の走行車速領域(車速範囲)を判断(予測)し、例えば過去の走行状態やナビゲーションシステムからの情報に基づいて所定時間内に走行する車速帯の上限から下限までの範囲を予測し、その走行車速領域における最低速側変速比を成立させるときのコーストダウンシフト時にのみ制動力協調コーストダウン制御を行うことが考えられる。
制動力協調制御実施判定手段96は、コースト走行中に有段変速制御手段82によりコーストダウンシフトが判断された場合に、制動力協調コーストダウン制御を実行すべきか否かを判断する。例えば、制動力協調制御実施判定手段96は、一連のコースト走行中における最初のコーストダウンシフトであるか否かに基づいて、或いは最低速側のコーストダウンシフトであるか否かに基づいて、或いは走行車速領域を予測し、その走行車速領域における最低速側のコーストダウンシフトであるか否かに基づいて、制動力協調コーストダウン制御を実行すべきか否かを判定する。そして、制動力協調制御実施判定手段96により制動力協調コーストダウン制御を実行すべきであると判定された場合には制動力協調コーストダウン制御が実行される一方で、制動力協調コーストダウン制御を実行すべきでないと判定された場合には回生協調コーストダウン制御が実行される。
ところで、コースト走行時に設定される目標減速度G*によっては第2電動機M2による回生のみでは達成できなかったり、蓄電装置60の充電状態SOCによっては回生量が抑制されて目標減速度G*が達成できない可能性がある。例えば、蓄電装置56は蓄電装置温度THBATや充電容量SOCに応じて充電可能または放電可能(以下、充放電可能という)な電力(パワー)すなわち入力制限Winまたは出力制限Wout(以下、入出力制限Win/Woutという)が変化することから、耐久性を低下させないように入出力制限Win/Woutに基づいて蓄電装置56の充電または放電(以下、充放電という)を制限する必要が生じる。或いはまた、第2電動機M2は第2電動機温度THM2に応じて可能な出力(パワー)PM2が変化することから、出力PM2が制限され、その可能な出力PM2の範囲で駆動するように第2電動機M2の出力を制限する必要が生じる。そうすると、蓄電装置56の入力制限Winや第2電動機M2の出力制限がかかっている場合には、目標減速度G*を達成する為の回生トルクを第2電動機M2により発生できない可能性がある。
そこで、本実施例では、コースト走行時に設定される目標減速度G*を回生のみでは達成できないような場合には、回生トルクに加え、エンジン8の引き摺り(回転抵抗)によるエンジンフリクショントルク(エンジンブレーキトルク)を付与する。例えばエンジン8を連れ回し状態とすることにより、すなわちエンジン8のフューエルカット状態で第1電動機M1にてエンジン回転速度NEを零乃至略零から上昇させてエンジン8を回転状態に維持することにより、エンジンフリクショントルクを発生させて減速度を得る。
目標減速度制御手段90は、回生だけでは目標減速度G*を達成する為の制動力が得られない場合には、目標減速度制御手段90はその制動力を得る為に、回生トルクだけでは不足するトルク分をエンジンフリクショントルクで得られるようにハイブリッド制御手段86に指令を出力する。ハイブリッド制御手段86は、その指令に従って目標減速度G*を達成する為の制動力が得られるように予め定められた回生トルクとなる回生量にて第2電動機M2による回生を行うと共に、燃料噴射装置66によるエンジン8への燃料供給を停止させ、第1電動機M1を力行状態とすることにより回転上昇させて、エンジン8を予め定められたエンジンフリクショントルクとなるエンジン回転速度NEへ引き上げる。尚、コースト走行時に設定される目標減速度G*を回生トルクのみでは達成できないような場合のみではなく、元々その目標減速度G*を回生トルクとエンジンフリクショントルクとで得られるようにしても良い。
上述したようにコースト走行時に設定される目標減速度G*を回生トルクとエンジンフリクショントルクとで達成する場合には、本実施例の動力伝達装置10ではそれら回生トルクとエンジンフリクショントルクとが共に自動変速部20を介して駆動輪34側へ伝達されることから、コーストダウンシフト時の制動力協調制御においては回生トルク分と共にエンジンフリクショントルク分もブレーキトルクに置き換える必要がある。しかしながら、エンジンフリクショントルクは電動機トルク(回生トルク)と異なり制御性が悪い為、ホイールブレーキ装置40にて精度良くエンジンフリクショントルク分をブレーキトルクに置き換えるのは困難となる可能性がある。例えば、エンジンフリクショントルク分を零に向かって漸減するには、エンジン8をフューエルカット状態から自律回転状態としたり、或いはフューエルカット状態のままエンジン回転速度を零に向かって制御することが考えられるが、ブレーキトルクは電動機程の制御精度はないことから、エンジン8をフューエルカット状態から自律回転運転状態へ切り替える際のトルク変動をホイールブレーキ装置40にて精度良く補正するのは困難であったり、また精度良くエンジンフリクショントルク分をブレーキトルクに置き換えるのは困難である。また、回生トルクとエンジンフリクショントルクとの2自由度を持つトルクとブレーキトルクとの乗せ替えは困難である。
そこで、コースト走行においてエンジンフリクショントルクが回生トルクに加えて付与されているときには、前記制動力協調制御として、エンジンフリクショントルク分を一時的に回生トルクに置き換え、その回生トルクへの置換え完了後にその回生トルク分をブレーキトルクに置き換える。つまり、ホイールブレーキ装置40に比べて制御精度が高い(良い)電動機を用いることで、見方を換えれば何れのトルクの置換えもフリクショントルクやブレーキトルクに比べて制御性の良い電動機トルク(回生トルク)を介して行うことで、例えばエンジン8をフューエルカット状態から自律回転運転状態へ切り替える際のトルク変動を第2電動機M2にて精度良く補正したり、また精度良くエンジンフリクショントルク分を回生トルクを介してブレーキトルクに置き換えるのである。また、回生トルクに一本化して1自由度にすることによりブレーキトルクへの置換えを容易にするのである。
具体的には、エンジン連れ回し判定手段98は、コースト走行時に設定される目標減速度G*が回生トルクとエンジンフリクショントルクとで達成させられているか否か、すなわちコースト走行時に回生トルクに加えてエンジンフリクショントルクを発生させて目標減速度G*を達成しているか否かを、例えばコースト走行時の回生制動中にエンジン8が連れ回し状態とされているか否かに基づいて判断する。
制動力協調制御手段94は、エンジン連れ回し判定手段98によりコースト走行時の回生制動中にエンジン8が連れ回し状態とされていると判定された場合は、エンジンフリクショントルク分を一時的に第2電動機M2による回生トルクに置き換えて目標減速度G*を達成する為の制動力を車両に付与し、その回生トルクへの置換え完了後にその第2電動機M2による回生トルク分をホイールブレーキ装置40によるブレーキトルクに置き換えて目標減速度G*を達成する為の制動力を車両に付与する。例えば、制動力協調制御手段94は、自動変速部20のコーストダウンシフト開始前の所定のエンジンフリクショントルク→回生トルク乗せ替え期間にて、エンジンフリクショントルクを零に向かって漸減する指令例えばフューエルカット状態から自律回転運転状態とする指令(或いはフューエルカット状態のままエンジン回転速度NEを零に向かって低下させる指令)、及び漸減されたエンジンフリクショントルク分を漸増するように回生トルクを発生させる指令をハイブリッド制御手段86に出力して、エンジンフリクショントルク分を回生トルクに置き換える。その置き換え完了後、制動力協調制御手段94は、自動変速部20のコーストダウンシフト開始前の所定の回生トルク→ブレーキトルクの乗せ替え期間にて、第2電動機M2による回生トルクを零に向かって漸減する指令をハイブリッド制御手段86に出力すると共に、漸減された回生トルク分を漸増するようにブレーキトルクを発生させる指令をホイールブレーキ装置40に出力して、自動変速部20のコーストダウンシフト開始前に回生トルク分をブレーキトルクに置き換える。
ここで、エンジンフリクショントルク分を回生トルクに置き換える際に、回生パワー(発電電力)増加により蓄電装置56が充電量過多状態すなわち充電パワー(電力)制限超え状態になる恐れがある。この様な充電量過多状態は極短時間であれば問題は生じ難いが、その極短時間を超えるような場合は蓄電装置56の耐久性能上好ましいものではない。
そこで、エンジンフリクショントルク分を回生トルクに置き換える際は、その回生トルクの増大に伴う発電電力の増大を抑制するように車両補機類78を用いて電力を消費させるようにしても良い。具体的には、制動力協調制御手段94は、エンジンフリクショントルク分を一時的に第2電動機M2による回生トルクに置き換えるときは、第2電動機M2による発電電力を消費するように、例えばエンジンフリクショントルク分が回生トルクに置き換えられることで増加した回生トルク分に相当する発電電力を消費するようにエアコンや窓ヒータ等の車両補機類78を作動させる。つまり、エンジンフリクショントルク分が回生トルクに置き換えられる前の蓄電装置56における電力収支を守るように、車両補機類78を用いて第2電動機M2による発電電力を消費する。これにより、充電量過多となる発電電力(余った電力パワー)が車両補機類78により消費されて(放出されて)蓄電装置56が適切に保護される。
図9は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちエンジンフリクショントルクが回生トルクに加えて付与されているときの自動変速部20のコーストダウンシフトに際して、フリクショントルク及び回生トルクをブレーキトルクに置き換えるときの制御性を向上する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。図10は制動力協調コーストダウン制御が実行される場合のタイムチャートであり、図11はエンジンフリクショントルク分を回生トルクに置き換える際に蓄電装置56の電力収支を守る場合のタイムチャートであり、図12は回生協調コーストダウン制御が実行される場合のタイムチャートである。
図9において、先ず、走行状態判定手段88に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、シフトポジションPSHに基づいて前進走行レンジである「D」レンジで走行中であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合はエンジン連れ回し判定手段98に対応するS20において、コースト走行時の回生制動中にエンジン8が連れ回し状態とされているか否かに基づいて、コースト走行においてエンジンフリクショントルクが回生トルクに加えて付与されているか否かが判断される。尚、蓄電装置56の入力制限Winの状態に応じてコースト走行時に回生トルクに加えてエンジンフリクショントルクが発生させられる場合、このS20では、蓄電装置56の入力制限Winに基づいてコースト走行においてエンジンフリクショントルクが回生トルクに加えて付与されているか否かが判断されても良い。このS20の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、この際、例えばコーストダウンシフトが判断されると制動力協調制御実施判定手段96の判断結果に基づいて、自動変速部20のコーストダウンシフト開始前に第2電動機M2による回生トルク分をホイールブレーキ装置40によるブレーキトルクに置き換える制動力協調コーストダウン制御が実行されたり、或いは第2電動機M2による回生トルクを付与したままクラッチツウクラッチによりコーストダウンシフトを進行する回生協調コーストダウン制御が実行される。上記S20の判断が肯定される場合は制動力協調制御実施判定手段96に対応するS30において、コースト走行中に有段変速制御手段82によりコーストダウンシフトが判断された場合に、制動力協調コーストダウン制御を実行すべきか否かが判断される。
上記S30の判断が肯定される場合は制動力協調制御手段94に対応するS40において、自動変速部20のコーストダウンシフト開始前にエンジンフリクショントルク分を一時的に第2電動機M2による回生トルクに置き換えて目標減速度G*を達成する為の制動力を車両に付与し、その回生トルクへの置換え完了後にその第2電動機M2による回生トルク分をホイールブレーキ装置40によるブレーキトルクに置き換えて目標減速度G*を達成する為の制動力を車両に付与すると共に、自動変速部20のコーストダウンシフト中にホイールブレーキ装置40によるブレーキトルクにより車両に制動力を付与しながら自動変速部20内の動力伝達経路を解放状態として第2電動機M2により伝達部材18をコーストダウンシフト後の回転速度に同期させる制動力協調コーストダウン制御が実行される。例えば図10に示すように、コースト走行において目標減速度G*を達成する為の制動力が得られるように第2電動機M2による回生トルク及びエンジンフリクショントルクが付与されているときに自動変速部20のコーストダウンシフトが判断されると、コーストダウンシフト開始前の所定のエンジンフリクショントルク→回生トルク乗せ替え期間(t1時点乃至t2時点)にてエンジンフリクショントルクが零に向かって漸減されると共に漸減されたエンジンフリクショントルク分が漸増されるように回生トルクが発生させられてエンジンフリクショントルク分が回生トルクに置き換えられる。また、このエンジンフリクショントルク分の回生トルクへの置換え完了後のコーストダウンシフト開始前の所定の回生トルク→ブレーキトルクの乗せ替え期間(t3時点乃至t4時点)にて第2電動機M2による回生トルクが零に向かって漸減されると共に漸減された回生トルク分が漸増されるようにホイールブレーキ装置40によるブレーキトルクが発生させられて回生トルク分がブレーキトルクに置き換えられる。また、t5時点乃至t6時点におけるコーストダウンシフトがクラッチフリー(クラッチ解放状態)により実行され、このコーストダウンシフト中には、ホイールブレーキ装置40によるブレーキトルクにより車両に制動力が付与されつつ、第2電動機M2により伝達部材18がコーストダウンシフト後の同期回転速度に向かって上昇させられる。
上記S40において実行される制動力協調コーストダウン制御では、一時的ではあるがエンジンフリクショントルク分が回生トルクに置き換えられることから、回生パワー(発電電力)増加により蓄電装置56が充電量過多状態になる恐れがあるので、その回生トルクの増大に伴う発電電力の増大を抑制するように車両補機類78を用いて電力を消費させるようにしても良い。例えば図11に示すように、エンジンフリクショントルク→回生トルク乗せ替え期間(t1時点乃至t2時点)では、エンジン連れ回しの為の第1電動機M1の放電パワーが漸減されて回生パワーが漸増されることから、エンジンフリクショントルク→回生トルク乗せ替え期間前の蓄電装置56における電力収支が守られるように、すなわちその電力収支の増加が抑制されるように、エアコンや窓ヒータ等の車両補機類78を作動させて第2電動機M2による発電電力を消費する放電制御がt1時点から開始される。この放電制御は、エンジンフリクショントルクが回生トルクへ乗せ替えられている期間(t2時点乃至t3時点)にて実行されることはもちろんであるが、回生トルクが漸減される回生トルク→ブレーキトルクの乗せ替え期間(t3時点乃至t4時点)でも実行されても良い。尚、この回生トルク→ブレーキトルクの乗せ替え期間では、蓄電装置56における電力収支が零に向かうように放電制御が実行される。
上記S30の判断が否定される場合は回生協調制御手段92に対応するS50において、コーストダウンシフト後に目標減速度G*を達成する為の制動力とされるように、コーストダウンシフト前に発生させている第2電動機M2による回生トルクをコーストダウンシフト開始時点からコーストダウンシフトの終了時点まで漸減すると共にこのときのコーストダウンシフトをクラッチツウクラッチにより実行する回生協調コーストダウン制御が実行される。つまり、コーストダウンシフト後に目標減速度G*を達成する為の制動力とされるように、コーストダウンシフト前に目標減速度G*を達成する為に発生させているエンジンフリクショントルクと回生トルクとのトータル負トルクを変速比γATの増大変化分だけ小さくする為に、エンジンフリクショントルクよりも制御性の良い回生トルクのみを小さくする。例えば図12に示すように、コースト走行において目標減速度G*を達成する為の制動力が得られるようにエンジンフリクショントルクと第2電動機M2による回生トルクが付与されているときに自動変速部20のコーストダウンシフトが判断されると、t1時点乃至t2時点におけるコーストダウンシフトがクラッチツウクラッチにより実行されてクラッチ係合油圧で伝達部材18がコーストダウンシフト後の同期回転速度に向かって上昇させられ、このコーストダウンシフト中には、エンジンフリクショントルクと回生トルクとのトータル負トルクが変速比γATの増大変化分だけt2時点で小さくなるように第2電動機M2による回生トルクがt1時点から漸減されてコーストダウンシフト後にもコーストダウンシフト前と同様に目標減速度G*を達成する為の制動力が得られる。尚、トータル負トルクがコーストダウンシフト後に変速比γATの増大変化分だけ小さくなれば良いので、エンジンフリクショントルクと回生トルクとを共に小さくしても良い。
上述のように、本実施例によれば、コースト走行においてエンジンフリクショントルクが回生トルクに加えて付与されているときには、制動力協調制御手段94による制動力協調コーストダウン制御により、エンジンフリクショントルク分が一時的に第2電動機M2による回生トルクに置き換えられ、その回生トルクへの置換え完了後にその回生トルク分がホイールブレーキ装置40によるブレーキトルクに置き換えられるので、フリクショントルク及び回生トルクから構成される自動変速部20への入力トルクを、フリクショントルク及び回生トルクの2自由度を持ったままブレーキトルクに置き換えることに比較して、回生トルクに一本化して1自由度にされることによりブレーキトルクに置き換えることが容易になる。また、何れのトルクの置換えもフリクショントルクやブレーキトルクに比べて制御性の良い電動機トルク(回生トルク)を介して行われることになる。よって、コースト走行時にエンジンフリクショントルクが第2電動機M2による回生トルクに加えて付与されているときの自動変速部20のコーストダウンシフトに際して、フリクショントルク及び回生トルクをホイールブレーキ装置40によるブレーキトルクに置き換えるときの制御性を向上することができる。また、精度良くフリクショントルク及び回生トルクがブレーキトルクに置き換えられるので、変速ショックが抑制される。
また、本実施例によれば、エンジンフリクショントルク分を回生トルクに置き換える際は、その回生トルクの増大に伴う発電電力の増大を抑制するように車両補機類78を用いて電力が消費させられるので、例えば回生トルク発生に伴う発電電力が蓄電装置56に充電されるときに、蓄電装置56の耐久性に問題が生じる程の充電量を超える電力がフリクショントルクから回生トルクへの置換えにより連続的に発電されたとしても、充電量過多となる発電電力が補機類により消費されて(放出されて)その蓄電装置56が適切に保護される。
また、本実施例によれば、制動力協調制御手段94による制動力協調コーストダウン制御は自動変速部20のコーストダウンシフト開始前に第2電動機M2による回生トルク分をホイールブレーキ装置40によるブレーキトルクに置き換えると共に、自動変速部20のコーストダウンシフト中にそのブレーキトルクにより車両に制動力を付与しながら、自動変速部20内の動力伝達経路を解放状態として第2電動機M2により伝達部材18をコーストダウンシフト後の回転速度に同期させる変速時同期制御を行うので、コースト走行中において第2電動機M2による回生トルクが付与されているときの自動変速部20のコーストダウンシフトの際、制動力協調コーストダウン制御によりコーストダウンシフト前に精度良くフリクショントルク及び回生トルクがブレーキトルクに置き換えられて、変速ショックが適切に抑制される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例の車両用動力伝達装置10は、駆動力源としてのエンジン8及び第2電動機M2と、電気式変速機能としての差動部11と、機械式変速機能としての自動変速部20とを備えていたが、少なくとも変速部と、その変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機及びエンジンとを備えておれば、本発明は適用され得る。例えば、変速部は、自動変速機の一種である無段変速機(CVT)、手動変速機としてよく知られた常時噛合式平行2軸型ではあるがセレクトシリンダおよびシフトシリンダによりギヤ段が自動的に切り換えられることが可能な自動変速機等の他の形式の動力伝達装置(変速機)であっても良い。その無段変速機(CVT)の場合には、例えば有段変速機における変速段に対応するように予め複数の固定された変速比が記憶され、その複数の固定された変速比を用いて変速が実行されてもよい。
また、前述の実施例では、制動力協調制御実施判定手段96(例えば図9のS30)の判断結果に基づいて制動力協調コーストダウン制御の実行と回生協調コーストダウン制御の実行とが切り替えられたが、元々回生協調コーストダウン制御が実行されない車両用動力伝達装置10である場合にはこの制動力協調制御実施判定手段96は備えられなくとも良く、例えば図9のS30ではコーストダウンシフトが判断され、S50では制動力協調コーストダウン制御以外の他の通常制御が実行される。また、制動力協調コーストダウン制御は、コーストダウンシフトが判断された際に、実際に自動変速部20のコーストダウンシフトが実行されることに先立って実行開始されるものであったが、コースト走行中の車速Vの減速状態からダウン変速点車速に到達することを予測して実行開始するものであっても良い。要は、コースト走行において回生トルクが付与されているときの自動変速部20のコーストダウンシフトに際して、自動変速部20の変速開始(変速油圧指令値出力)よりも前にブレーキトルクへの置き換えが完了しておれば良い。
また、前述の実施例では、制動力協調コーストダウン制御(例えば図9のS40)における車両補機類78を用いて電力を消費させる制御は、例えば制動力協調コーストダウン制御において常時実行されても良いが、蓄電装置56が充電量過多状態になる恐れがある場合に実行されても良い。この蓄電装置56が充電量過多状態になる恐れがある場合とは、例えば蓄電装置56の充電が制限されている場合であって、蓄電装置温度THBAT及び充電容量SOCに基づいて算出された入力制限Winが予め充電量過多状態判定値として設定された入力制限閾値Winth以下であるか否かに基づいて判定される。
また、前述の実施例では、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、差動部11(動力分配機構16)はその変速比γ0が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、例えば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであってもよい。
また、前述の実施例の動力伝達装置10において、エンジン8と差動部11とは直結されているが、エンジン8が差動部11にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
また、前述の実施例の動力伝達装置10において、第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
また、前述の実施例では、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路において、差動部11の次に自動変速部20が連結されているが、自動変速部20の次に差動部11が連結されている順番でもよい。要するに、自動変速部20は、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成するように設けられて入力側回転部材に動力伝達可能に電動機及びエンジン8が連結されておればよい。
また、前述の実施例の図1によれば、差動部11と自動変速部20は直列に連結されているが、動力伝達装置10全体として電気的に差動状態を変更し得る電気式差動機能とその電気式差動機能による変速とは異なる原理で変速する機能とが備わっていれば、差動部11と自動変速部20とが機械的に独立していなくても本発明は適用される。
また、前述の実施例において、動力分配機構16はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。
また、前述の実施例の差動機構として動力分配機構16は、例えばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1及び伝達部材18(第2電動機M2)に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
また、前述の実施例においては、差動部遊星歯車装置24を構成する第1回転要素RE1にはエンジン8が動力伝達可能に連結され、第2回転要素RE2には第1電動機M1が動力伝達可能に連結され、第3回転要素RE3には駆動輪34への動力伝達経路が連結されているが、例えば、2以上の遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、電動機、駆動輪が動力伝達可能に連結されており、その遊星歯車装置の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により有段変速と無段変速とに切換可能な構成にも本発明は適用される。
また、前述の実施例においては、第2電動機M2は伝達部材18に直接連結されているが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
また、前述の実施例の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちの何れと連結されていても差し支えない。
また、前述の実施例において、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
また、前述の実施例では、第1電動機M1及び第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
また、前述の実施例において、自動変速部20は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20とは、例えば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケット及びチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
また、前述の実施例の動力分配機構16は1組の差動部遊星歯車装置24から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
また、前述の実施例の第2電動機M2はエンジン8から駆動輪34までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機M2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構16にも連結可能とされており、第1電動機M1の代わりに第2電動機M2によって動力分配機構16の差動状態を制御可能とする動力伝達装置10の構成であってもよい。
また、前述の実施例において、差動部11が、第1電動機M1及び第2電動機M2を備えているが、第1電動機M1及び第2電動機M2は差動部11とはそれぞれ別個に動力伝達装置10に備えられていてもよい。
また、前述の実施例において、差動部11は、動力分配機構16に設けられて差動作用を制限することにより少なくとも前進2段の有段変速機としても作動させられる差動制限装置を備えたものであってもよい。
また、前述の実施例では、第1クラッチC1や第2クラッチC2などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁紛)クラッチ、電磁クラッチ、噛合型のドグクラッチなどの磁紛式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。例えば電磁クラッチであるような場合には、油圧制御回路70は油路を切り換える弁装置ではなく電磁クラッチへの電気的な指令信号回路を切り換えるスイッチング装置や電磁切換装置等により構成される。
また、前述した複数の実施例はそれぞれ、例えば優先順位を設けるなどして、相互に組み合わせて実施することができる。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
8:エンジン
10:車両用動力伝達装置
11:差動部
16:動力分配機構(差動機構)
18:伝達部材(変速部の入力側回転部材)
20:自動変速部(変速部)
34:駆動輪(車輪)
40:ホイールブレーキ装置(制動装置)
78:車両補機類
80:電子制御装置(制御装置)
M1:第1電動機(差動用電動機)
M2:第2電動機(電動機)
10:車両用動力伝達装置
11:差動部
16:動力分配機構(差動機構)
18:伝達部材(変速部の入力側回転部材)
20:自動変速部(変速部)
34:駆動輪(車輪)
40:ホイールブレーキ装置(制動装置)
78:車両補機類
80:電子制御装置(制御装置)
M1:第1電動機(差動用電動機)
M2:第2電動機(電動機)
Claims (6)
- 変速部と、該変速部の入力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機及びエンジンと、車輪にブレーキトルクを付与する制動装置とを備え、コースト走行において前記電動機による回生トルクが付与されているときの前記変速部の変速に際しては該回生トルク分を前記ブレーキトルクに置き換えて車両に制動力を付与する制動力協調制御を行う車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記制動力協調制御は、コースト走行において前記エンジンによるフリクショントルクが前記回生トルクに加えて付与されているときには、前記エンジンによるフリクショントルク分を一時的に前記回生トルクに置き換え、該回生トルクへの置換え完了後に該回生トルク分を前記ブレーキトルクに置き換えることを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。 - 前記エンジンによるフリクショントルク分を前記回生トルクに置き換える際は、該回生トルクの増大に伴う発電電力の増大を抑制するように車両補機類を用いて電力を消費させることを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
- 前記制動力協調制御は、
前記変速部の変速開始前に前記回生トルク分を前記ブレーキトルクに置き換えると共に、
前記変速部の変速中に前記ブレーキトルクにより車両に制動力を付与しながら、前記変速部内の動力伝達経路を解放状態として前記電動機により前記変速部の入力側回転部材を変速後の回転速度に同期させる変速時同期制御を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。 - 前記エンジンに動力伝達可能に連結された差動部を更に備え、
前記変速部は、前記エンジンから駆動輪への動力伝達経路の一部を構成することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。 - 前記差動部は、前記エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構と該差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有し、該差動用電動機の運転状態が制御されて該差動機構の差動状態が制御されることにより電気的な無段変速機として作動することを特徴とする請求項4に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
- 前記変速部は、機械的に変速比が設定される有段変速機であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
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