JP2010158966A - 車両用動力伝達装置の制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備え、第1駆動力源走行と第2駆動力源走行との切換えが可能な車両用動力伝達装置において、駆動力源の切換えと変速部の変速比の切換えとの同時切換えの発生を回避してドライバビリティの低下を抑制する。
【解決手段】変速点設定手段96により、自動変速部20の変速を実行する為の変速点(変速パターン)がエンジン走行の場合とモータ走行の場合とで同車速に設定されるので、エンジン走行とモータ走行とが切り換えられたとしても、その切換えに伴う自動変速部20の変速は発生しない。つまり、エンジン走行とモータ走行との切換えと、自動変速部20の変速とが同時に発生することが回避される。よって、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速比γATの切換えとの同時切換えの発生を回避してドライバビリティの低下を抑制することができる。
【選択図】図6
【解決手段】変速点設定手段96により、自動変速部20の変速を実行する為の変速点(変速パターン)がエンジン走行の場合とモータ走行の場合とで同車速に設定されるので、エンジン走行とモータ走行とが切り換えられたとしても、その切換えに伴う自動変速部20の変速は発生しない。つまり、エンジン走行とモータ走行との切換えと、自動変速部20の変速とが同時に発生することが回避される。よって、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速比γATの切換えとの同時切換えの発生を回避してドライバビリティの低下を抑制することができる。
【選択図】図6
Description
本発明は、第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置の制御装置に係り、特に、第1駆動力源と第2駆動力源とで走行に用いられる駆動力源が切換え可能とされるときの制御に関するものである。
第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備える車両用動力伝達装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された車両用駆動装置がそれである。この車両用駆動装置は、エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された第1電動機とを有し第1電動機の運転状態が制御されることにより差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、動力伝達経路の一部を構成する自動変速部と、動力伝達経路に動力伝達可能に連結された第2電動機とを備えている。このように構成された特許文献1の車両用駆動装置の制御装置は、エンジンと第2電動機とで走行用の駆動力源を切り換える為の予め定められた関係(駆動力源切換線図、駆動力源マップ)から車速及び出力トルク等で表される車両状態に基づいて走行用駆動力源を切り換え、エンジンを走行用駆動力源として走行するエンジン走行または第2電動機を走行用駆動力源として走行するモータ走行を実行する。また、上記車両用駆動装置の制御装置は,予め定められた関係(変速線図、変速マップ)から車両状態に基づいて自動変速部の変速を実行する。
ところで、一般的に、エンジンと電動機とではその運転効率と運転状態との関係は異なり、例えばエンジンと電動機とを同一出力のもとで比較すれば、電動機はエンジンと比較して高回転速度で且つ低出力トルクである運転状態の方が運転効率(例えばエンジンで言えば燃費、電動機で言えば単位消費電力量当たりの仕事量)は良いとされている。従って、燃費の向上すなわち運転効率の向上を優先して考えると、エンジン走行と電動機走行とでは、変速部において異なる変速比を用いることが考えられる。例えば、電動機走行において比較的低速側変速比(ロー側変速比)が用いられるように、電動機走行時の変速点をエンジン走行時の変速点よりも高車速側に設定することが考えられる。そうすると、エンジン走行と電動機走行との切換え(すなわち駆動力源の切換え)と、変速部の変速(すなわち変速比の切換え)とが同時に発生する可能性がある。このような同時切換えは、制御が複雑で難しく、それぞれの切換えショックが増大する可能性がある。そして、このような切換えショック増大によりドライバビリティ(例えば快適性)が低下する可能性がある。尚、これらの課題は未公知である。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、第1駆動力源と第2駆動力源と変速部とを備え、第1駆動力源走行と第2駆動力源走行との切換えが可能な車両用動力伝達装置において、駆動力源の切換えと変速部の変速比の切換えとの同時切換えの発生を回避してドライバビリティの低下を抑制することができる制御装置を提供することにある。
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) 第1駆動力源と第2駆動力源と動力伝達経路の一部を構成する変速部とを備え、車両状態に基づいて前記第1駆動力源を用いて走行する第1駆動力源走行と前記第2駆動力源を用いて走行する第2駆動力源走行とを切り換える車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) 前記変速部の変速を実行する為の変速点を、前記第1駆動力源走行の場合と前記第2駆動力源走行の場合とで同車速に設定することにある。
このようにすれば、変速部の変速を実行する為の変速点が第1駆動力源走行の場合と第2駆動力源走行の場合とで同車速に設定されるので、第1駆動力源走行と第2駆動力源走行とが切り換えられたとしても、その切換えに伴う変速部の変速は発生しない。つまり、第1駆動力源走行と第2駆動力源走行との切換えと、変速部の変速とが同時に発生することが回避される。よって、駆動力源の切換えと変速部の変速比の切換えとの同時切換えの発生を回避してドライバビリティの低下を抑制することができる。
ここで、好適には、前記第1駆動力源及び前記第2駆動力源のうちで何れか一方の駆動力源から他方の駆動力源への切換え時に、前記他方の駆動力源を用いて走行する場合の変速点を前記一方の駆動力源を用いて走行する場合の変速点と同車速とする。このようにすれば、一方の駆動力源から他方の駆動力源への切換えと変速部の変速とが同時に発生することが回避される。
また、好適には、前記変速点は、アップシフト変速点である。このようにすれば、第1駆動力源走行と第2駆動力源走行との切換えと、変速部のアップシフトとが同時に発生することが回避される。
また、好適には、前記変速点は、ダウンシフト変速点である。このようにすれば、第1駆動力源走行と第2駆動力源走行との切換えと、変速部のダウンシフトとが同時に発生することが回避される。
また、好適には、前記第1駆動力源はエンジンであり、前記第2駆動力源は電動機であり、エンジン走行時のアップシフト変速点をエンジン効率が可及的に向上させられるアップシフト変速点に対して高車速側となる電動機効率が可及的に向上させられるアップシフト変速点に設定することで、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との各場合の変速点を同車速に設定する。このようにすれば、エンジン走行と電動機走行との切換えと、変速部のアップシフトとが同時に発生することが回避される。例えば、電動機走行領域がエンジン走行領域と比較して低車速、低出力トルク域に設定されている場合、アクセル踏込み(出力トルク増大)に伴うエンジン走行への切換えと変速部のアップシフトとが同時に発生することが回避される。但し、エンジン走行時のアップシフト変速点が高車速側にずれることとなり、エンジン走行中の燃費は低下する可能性がある。つまり、エンジン走行においては燃費上不利となる可能性がある。しかしながら、モータ走行時のアップシフト変速点に合わせられるので、モータ走行においては燃費上有利となる。ここで、車両走行状態としては低アクセル開度での走行すなわちモータ走行領域となる機会(場面)が多いと考えられる。従って、例えばモータ走行時のアップシフト変速点をエンジン走行時のアップシフト変速点に合わせることで変速点を同車速に設定する場合(すなわち燃費上有利となる走行がエンジン走行である場合)に比較して、車両全体として燃費上有利となる。
また、好適には、前記第1駆動力源はエンジンであり、前記第2駆動力源は電動機であり、エンジン走行時のダウンシフト変速点をエンジン効率が可及的に向上させられるダウンシフト変速点に対して高車速側となる電動機効率が可及的に向上させられるダウンシフト変速点に設定することで、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との各場合の変速点を同車速に設定する。このようにすれば、エンジン走行と電動機走行との切換えと、変速部のダウンシフトとが同時に発生することが回避される。例えば、電動機走行領域がエンジン走行領域と比較して低車速、低出力トルク域に設定されている場合、アクセル戻し(出力トルク減少)に伴う電動機走行への切換えと変速部のダウンシフトとが同時に発生することが回避される。但し、エンジン走行時のダウンシフト変速点が高車速側にずれることとなり、エンジン走行中の燃費は低下する可能性がある。つまり、エンジン走行においては燃費上不利となる可能性がある。しかしながら、モータ走行時のダウンシフト変速点に合わせられるので、モータ走行においては燃費上有利となる。ここで、車両走行状態としては低アクセル開度での走行すなわちモータ走行領域となる機会(場面)が多いと考えられる。従って、例えばモータ走行時のダウンシフト変速点をエンジン走行時のダウンシフト変速点に合わせることで変速点を同車速に設定する場合(すなわち燃費上有利となる走行がエンジン走行である場合)に比較して、車両全体として燃費上有利となる。
また、好適には、前記第1駆動力源はエンジンであり、前記第2駆動力源は電動機であり、電動機走行時のアップシフト変速点を電動機効率が可及的に向上させられるアップシフト変速点に対して低車速側となるエンジン効率が可及的に向上させられるアップシフト変速点に設定することで、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との各場合の変速点を同車速に設定する。このようにすれば、エンジン走行と電動機走行との切換えと、変速部のアップシフトとが同時に発生することが回避される。例えば、電動機走行領域がエンジン走行領域と比較して低車速、低出力トルク域に設定されている場合、アクセル踏込み(出力トルク増大)に伴うエンジン走行への切換えと変速部のアップシフトとが同時に発生することが回避される。また、エンジン走行時のアップシフト変速点に合わせられるので、エンジン走行においては燃費上有利となる。
また、好適には、前記第1駆動力源はエンジンであり、前記第2駆動力源は電動機であり、電動機走行時のダウンシフト変速点を電動機効率が可及的に向上させられるダウンシフト変速点に対して低車速側となるエンジン効率が可及的に向上させられるダウンシフト変速点に設定することで、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との各場合の変速点を同車速に設定する。このようにすれば、エンジン走行と電動機走行との切換えと、変速部のダウンシフトとが同時に発生することが回避される。例えば、電動機走行領域がエンジン走行領域と比較して低車速、低出力トルク域に設定されている場合、アクセル戻し(出力トルク減少)に伴う電動機走行への切換えと変速部のダウンシフトとが同時に発生することが回避される。また、エンジン走行時のダウンシフト変速点に合わせられるので、エンジン走行においては燃費上有利となる。
また、好適には、各駆動力源の効率が可及的に向上させられる変速点が予め定められた所定の変速パターンを有し、前記所定の変速パターンが選択されないときに、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との各場合の変速点を同車速に設定する。このようにすれば、所定の変速パターンが選択されないときは、第1駆動力源走行と第2駆動力源走行との切換えと、変速部の変速とが同時に発生することが回避される。また、所定の変速パターンが選択されるときは、各駆動力源の効率が可及的に向上させられる変速点が設定される。よって、ドライバビリティ低下の抑制と燃費の向上とを図ることができる。
また、好適には、前記第1駆動力源はエンジンであり、前記第2駆動力源は電動機であり、前記所定の変速パターンでは、エンジン走行時の変速点としてエンジン効率が可及的に向上させられる変速点が設定され、且つ電動機走行時の変速点として電動機効率が可及的に向上させられる変速点が前記エンジン走行時の変速点よりも高車速側に設定されており、前記電動機走行時は、前記エンジン走行時に比べて、所定の車両状態において低速側の変速比が設定される。このようにすれば、所定の変速パターンが選択されないときは、エンジン走行と電動機走行との切換えと、変速部の変速とが同時に発生することが回避される。また、所定の変速パターンが選択されるときは、エンジン及び電動機の各駆動力源の効率が可及的に向上させられる変速点が設定され、エンジン走行及び電動機走行の何れの走行でも燃費が向上させられる。
また、好適には、前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との駆動力源の切換えが発生する場合にのみ、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との各場合の変速点を同車速に設定する。このようにすれば、第1駆動力源と第2駆動力源との駆動力源の切換えが発生する場合は、駆動力源の切換えと変速部の変速とが同時に発生することが回避される。また、第1駆動力源と第2駆動力源との駆動力源の切換えが発生しない場合は、例えば各駆動力源の効率が可及的に向上させられる変速点が設定されて、燃費が向上させられる。
また、好適には、前記第1駆動力源はエンジンであり、前記第2駆動力源は電動機であり、前記エンジンの暖機が完了していないとき、或いは前記電動機へ電力を供給する蓄電装置から電動機走行をする為の電力供給が行えないときは、前記駆動力源の切換えが発生しない。このようにすれば、エンジンと電動機との駆動力源の切換えが発生する場合は、駆動力源の切換えと変速部の変速とが同時に発生することが回避される。また、エンジンの暖機前であったり或いは電動機への電力供給が行われ得なかったりして駆動力源の切換えが発生しない場合は、例えば各駆動力源の効率が可及的に向上させられる変速点が設定されて、燃費が向上させられる。具体的には、エンジンの暖機前であったり或いは電動機への電力供給が行われ得なかったりして電動機走行への切換えが行われないエンジン走行であるときには、エンジン効率が可及的に向上させられる変速点が設定され、そのエンジン走行において燃費が向上させられる。
また、好適には、前記変速点を同車速に設定するとは、同一車速と判断される車両状態において、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行とで前記変速部に同じ変速比を設定することである。このようにすれば、第1駆動力源走行と第2駆動力源走行とが切り換えられたとしても、その切換えに伴う変速部の変速は確実に発生しない。つまり、駆動力源の切換えと変速部の変速とが同時に発生することが確実に回避される。
また、好適には、前記車両用動力伝達装置は、エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有しその差動用電動機の運転状態が制御されることにより差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、動力伝達経路の一部を構成する自動変速部と、動力伝達経路に動力伝達可能に連結された走行用電動機とを備える。このようにすれば、エンジン、電気式差動部、自動変速部、走行用電動機を備えた実用的な車両用動力伝達装置において、駆動力源の切換えと変速部の変速比の切換えとの同時切換えの発生を回避してドライバビリティの低下を抑制することができる。
また、好適には、前記電気式差動部は、前記差動用電動機の運転状態が制御されることにより無段変速機として作動する。このようにすれば、電気的な無段変速機として機能する電気式差動部を備えた実用的な駆動装置において、駆動力源の切換えと変速部の変速比の切換えとの同時切換えの発生を回避してドライバビリティの低下を抑制することができる。また、電気式差動部から出力される駆動トルクを滑らかに変化させることが可能である。尚、電気式差動部は、その変速比を連続的に変化させて電気的な無段変速機として作動させる他に変速比を段階的に変化させて有段変速機として作動させることも可能である。
また、好適には、前記自動変速機は、複数組の遊星歯車装置の回転要素が摩擦係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進4段、前進5段、前進6段、更にはそれ以上の変速段を有する等の種々の遊星歯車式多段変速機により構成される。この遊星歯車式多段変速機における摩擦係合装置としては、油圧アクチュエータによって係合させられる多板式、単板式のクラッチやブレーキ、或いはベルト式のブレーキ等の油圧式摩擦係合装置が広く用いられる。この油圧式摩擦係合装置を係合させるための作動油を供給するオイルポンプは、例えば走行用駆動力源により駆動されて作動油を吐出するものでも良いが、走行用駆動力源とは別に配設された専用の電動モータなどで駆動されるものでも良い。また、クラッチ或いはブレーキは、油圧式摩擦係合装置以外に電磁式係合装置例えば電磁クラッチや磁粉式クラッチ等であってもよい。
また、好適には、上記油圧式摩擦係合装置を含む油圧制御回路は、例えばリニアソレノイドバルブの出力油圧を直接油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)にそれぞれ供給することが応答性の点で望ましいが、そのリニアソレノイドバルブの出力油圧をパイロット油圧として用いることによりシフトコントロールバルブを制御して、そのコントロールバルブから油圧アクチュエータに作動油を供給するように構成することもできる。
また、好適には、上記リニアソレノイドバルブは、例えば複数の油圧式摩擦係合装置の各々に対応して1つずつ設けられるが、同時に係合したり係合、解放制御したりすることがない複数の油圧式摩擦係合装置が存在する場合には、それ等に共通のリニアソレノイドバルブを設けることもできるなど、種々の態様が可能である。また、必ずしも全ての油圧式摩擦係合装置の油圧制御をリニアソレノイドバルブで行う必要はなく、一部乃至全ての油圧制御をON−OFFソレノイドバルブのデューティ制御など、リニアソレノイドバルブ以外の調圧手段で行っても良い。尚、この明細書で「油圧を供給する」という場合は、「油圧を作用させ」或いは「その油圧に制御された作動油を供給する」ことを意味する。
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに連結された第1回転要素と前記差動用電動機に連結された第2回転要素と前記走行用電動機に連結された第3回転要素との3つの回転要素を有する装置である。このようにすれば、前記差動機構が簡単に構成される。
また、好適には、前記差動機構はシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、前記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置10(以下、動力伝達装置10と表す)を説明する骨子図であり、この動力伝達装置10はハイブリッド車両に好適に用いられる。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12と表す)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪34(図6参照)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている動力伝達部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の第1駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図6参照)及び一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。
このように、本実施例の動力伝達装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
本発明の電気式差動部に対応する差動部11は、動力分配機構16と、動力分配機構16に動力伝達可能に連結されて動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1と、伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機M2とを備えている。
本実施例の第1電動機M1及び第2電動機M2は、何れも電力授受可能に構成されたものである。すなわち、電気エネルギから機械的な駆動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な駆動力から電気エネルギを発生させる発電機としての機能を有する所謂モータジェネレータである。換言すれば、動力伝達装置10において、電動機Mは何れも主動力源であるエンジン8の代替として、或いはそのエンジン8と共に走行用の駆動力を発生させる動力源(副動力源)として機能し得る。また、他の動力源により発生させられた駆動力から回生により電気エネルギを発生させ、インバータ54(図6参照)を介して他の電動機Mに供給したり、その電気エネルギを蓄電装置56(図6参照)に蓄積する等の作動を行う。
第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の第2駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。また、好適には、第1電動機M1及び第2電動機M2は、何れもその発電機としての発電量を連続的に変更可能に構成されたものである。また、第1電動機M1及び第2電動機M2は、動力伝達装置10の筐体であるケース12内に備えられ、動力伝達装置10の作動流体である自動変速部20の作動油により冷却される。
動力分配機構16は、エンジン8に動力伝達可能に連結された差動機構であって、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24と、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0とを主体として構成されており、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構である。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転及び公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は差動部サンギヤS0とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0との間に設けられている。このように構成された動力分配機構16は、それら切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が解放されると、差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動可能状態(差動状態)とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されると共に、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると差動部11も差動状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。このように動力分配機構16が差動状態とされると、動力分配機構16(差動部11)に動力伝達可能に連結された第1電動機M1及び第2電動機M2の一方又は両方の運転状態(動作点)が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される。
この状態で、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合させられると動力分配機構16は前記差動作用をしないすなわち差動作用が不能な非差動状態(差動制限状態)とされる。具体的には、切換クラッチC0が係合させられて差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが一体的に係合させられると、動力分配機構16は差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0が共に回転すなわち一体回転させられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。次いで、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて差動部サンギヤS0がケース12に連結させられると、動力分配機構16は差動部サンギヤS0が非回転状態とさせられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、差動部リングギヤR0は差動部キャリヤCA0よりも増速回転されるので、動力分配機構16は増速機構として機能するものであり、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。尚、動力分配機構16は切換クラッチC0または切換ブレーキB0が滑らされるスリップ係合状態とされることもあり、切換クラッチC0または切換ブレーキB0が係合させられた動力分配機構16の非差動状態も上記スリップ係合状態も、差動部11(動力分配機構16)の予め定められた差動状態つまり差動部遊星歯車装置24の3要素S0,CA0,R0が自由に相対回転可能な差動状態が得られない差動制限状態であると言える。また本実施例では、動力分配機構16の差動可能状態は切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が解放され差動部遊星歯車装置24の3要素が自由に相対回転可能な差動状態であるとして説明しているので、上記差動可能状態には差動制限状態は含まれない。
このように、本実施例では、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0は、差動部11(動力分配機構16)の変速状態を差動状態すなわち非ロック状態と非差動状態すなわちロック状態とに、すなわち差動部11(動力分配機構16)を電気的な差動装置として作動可能な差動状態例えば変速比が連続的変化可能な無段変速機として作動する電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と、電気的な無段変速作動しない変速状態例えば無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する電気的な無段変速作動をしないすなわち電気的な無段変速作動不能な定変速状態(非差動状態)、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに選択的に切換える差動状態切換装置として機能している。言い換えれば、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0は差動部11(動力分配機構16)を非差動状態やスリップ係合状態を含む差動制限状態にすることができる差動制限装置として機能している。
自動変速部20は、差動部11から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成しており、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28、及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置30を備え、有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機である。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置30は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転及び公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3である。
自動変速部20では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第3リングギヤR3は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2と第3キャリヤCA3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
このように、自動変速部20内と差動部11(伝達部材18)とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1又は第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1及び第2クラッチC2は、動力分配機構16(差動部11)と駆動輪34との間の動力伝達経路の一部に設けられた動力伝達を選択的に遮断可能な係合装置であり、すなわち、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1及び第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用有段式自動変速機においてよく用いられている係合装置すなわち油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
以上のように構成された動力伝達装置10では、例えば、図2の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)の何れか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。従って、動力伝達装置10では、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、動力伝達装置10は、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、差動部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
例えば、動力伝達装置10が有段変速機として機能する場合には、図2に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2及び第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。尚、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば全てのクラッチ及びブレーキC0,C1,C2,B0,B1,B2,B3が解放される。
一方、動力伝達装置10が無段変速機として機能する場合には、図2に示される係合表の切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置10全体としてのトータル変速比(総合変速比)γT(=エンジン回転速度NE/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られるようになる。
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1及び第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第1キャリヤCA1を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第1リングギヤR1、第2キャリヤCA2、第3キャリヤCA3を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3サンギヤS3をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ1、ρ2、ρ3に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結されると共に切換クラッチC0を介して第2回転要素(差動部サンギヤS0)RE2と選択的に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結されると共に切換ブレーキB0を介してケース12に選択的に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18及び第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
例えば、差動部11において上記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の解放により無段変速状態(差動可能状態)に切換えられたときは、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされるので、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度が上昇或いは下降させられる。また、切換クラッチC0の係合により差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが連結されると、動力分配機構16は上記3回転要素が一体回転する非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。或いは、切換ブレーキB0の係合によって差動部サンギヤS0の回転が停止させられると動力分配機構16は増速機構として機能する非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線XGとの交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速(1st)の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速(2nd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速(3rd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速(4th)の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第8回転要素RE8に差動部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。一方、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速(5th)の出力軸22の回転速度が示される。
図4は、本実施例の動力伝達装置10を制御するための制御装置である電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8や各電動機Mに関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の各種制御を実行するものである。
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン8の冷却流体の温度であるエンジン水温THWを表す信号、シフトレバー52(図5参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速V及び車両の進行方向を表す信号、自動変速部20の作動油温THOILを表す信号、運転席近傍に設けられて搭乗者によって操作され走行モードを選択するための走行モード切換スイッチ40からの自動変速部20の変速パターンを指示する信号、サイドブレーキ操作を表す信号、車輪(駆動輪34、不図示の従動輪)に制動力を付与する制動装置としての良く知られたフットブレーキ装置(ホイールブレーキ装置)72(図6参照)の作動中(すなわちフットブレーキ操作中)を示すブレーキペダルの操作(オン)BONを表すブレーキ操作信号、エンジン8の排気管74に備えられた触媒装置76(図6参照)の触媒温度THCを表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」と表す)及びその回転方向を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」と表す)及びその回転方向を表す信号、各電動機M1,M2との間でインバータ54を介して充放電を行う蓄電装置56(図6参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号、蓄電装置(バッテリ)56のバッテリ温度THBATを表す信号などが、それぞれ供給される。
また、上記電子制御装置80からは、エンジン8の出力PE(単位は例えば「kW」。以下、「エンジン出力PE」と表す。)を制御するエンジン出力制御装置58(図6参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1、M2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図6参照)に含まれる電磁弁(ソレノイドバルブ)等を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
図5は、複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。
そのシフトレバー52は、動力伝達装置10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、動力伝達装置10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、又は手動変速走行モード(手動モード)を成立させて上記自動変速制御における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
上記シフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路70が電気的に切り換えられる。
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジション及び「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1及び第2クラッチC2の何れもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1及び第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジション及び「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1及び第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1及び/又は第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
具体的には、シフトレバー52が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー52が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、シフトレバー52が「R」ポジションから「P」ポジション或いは「N」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされ、シフトレバー52が「D」ポジションから「N」ポジションへ手動操作されることで、第1クラッチC1及び第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。
図6は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、有段変速制御手段82は、自動変速部20の変速を行う変速制御手段として機能するものである。例えば、有段変速制御手段82は、図7に示すような車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUT(或いはアクセル開度Acc等)とを変数として記憶手段84に予め記憶されたアップシフト線(実線)及びダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速V及びアクセル開度Acc等に対応する自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。
このとき、有段変速制御手段82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0を除いた自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
ハイブリッド制御手段86は、エンジン出力制御装置58を介してエンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段としての機能と、インバータ54を介して第1電動機M1及び第2電動機M2による駆動力源又は発電機としての作動を制御する電動機作動制御手段としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン8、第1電動機M1、及び第2電動機M2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
また、ハイブリッド制御手段86は、動力伝達装置10の無段変速状態すなわち差動部11の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力(要求エンジン出力)PERを算出し、その目標エンジン出力PERが得られるエンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとなるようにエンジン8を制御すると共に各電動機Mの出力乃至発電を制御する。
以上のように、動力伝達装置10全体としての変速比である総合変速比γTは、有段変速制御手段82によって制御される自動変速部20の変速比γATと、ハイブリッド制御手段86によって制御される差動部11の変速比γ0とによって決定される。すなわち、ハイブリッド制御手段86及び有段変速制御手段82は、シフトポジションPSHに対応するシフトレンジの範囲内において、油圧制御回路70、エンジン出力制御装置58、第1電動機M1、及び第2電動機M2等を介して動力伝達装置10全体としての変速比である総合変速比γTを制御する変速制御手段として機能する。
例えば、ハイブリッド制御手段86は、動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮してエンジン8及び各電動機Mの制御を実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速V及び自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段86は、例えばエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められた例えば図8の破線に示すようなエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線LEF(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線LEFにエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)PEGが沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力PEを発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように、動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点PEGとは、エンジン回転速度NE及びエンジントルクTEなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。尚、本実施例では、燃費とは例えば単位燃料消費量当たりの走行距離であったり、車両全体としての燃料消費率(=燃料消費量/駆動輪出力)等である。また、燃費の向上とはその単位燃料消費量当たりの走行距離が大きくなることであり、或いは、その燃料消費率が小さくなることである。
このとき、ハイブリッド制御手段86は、例えば第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は電動機Mの発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが他の電動機Mへ供給され、電気エネルギによりその電動機Mから出力される駆動力が伝達部材18へ伝達される。この発電に係る電動機Mによる電気エネルギの発生から駆動に係る電動機Mで消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部が電気エネルギに変換され、その電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスが構成される。
ここで、有段変速制御手段82により自動変速部20の変速制御が実行される場合には、その自動変速部20の変速比が段階的に変化させられることに伴ってその変速前後で動力伝達装置10のトータル変速比γTが段階的に変化させられる。このような制御では、トータル変速比γTを段階的に変化させることにより、すなわち変速比が連続的ではなく飛び飛びの値をとることにより、連続的なトータル変速比γTの変化に比較して速やかに駆動トルクを変化させることが可能となる。その反面、変速ショックが発生したり、最適燃費率曲線に沿うようにエンジン回転速度NEを制御できず燃費が悪化する可能性がある。そこで、ハイブリッド制御手段86は、そのトータル変速比γTの段階的変化が抑制されるように、自動変速部20の変速に同期してその自動変速部20の変速比の変化方向とは反対方向の変速比の変化となるように差動部11の変速を実行する。換言すれば、自動変速部20の変速前後で動力伝達装置10のトータル変速比γTが連続的に変化するように自動変速部20の変速制御に同期して差動部11の変速制御を実行する。例えば、自動変速部20の変速前後で過渡的に動力伝達装置10のトータル変速比γTが変化しないような所定のトータル変速比γTを形成するために自動変速部20の変速制御に同期して、その自動変速部20の変速比の段階的な変化に相当する変化分だけその変化方向とは反対方向に変速比を段階的に変化させるように差動部11の変速制御を実行する。
また、ハイブリッド制御手段86は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1及び/又は第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段86は、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1及び/又は第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段86は車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。また、ハイブリッド制御手段86は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度NEを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度NEを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NM2の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
また、ハイブリッド制御手段86は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力PEを発生するようにエンジン8の出力制御を実行する。すなわち、エンジン8の駆動を制御するエンジン駆動制御手段として機能する。
例えば、ハイブリッド制御手段86は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、エンジン出力制御装置58は、ハイブリッド制御手段86による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、例えばエンジン8を用いず第2電動機M2を走行用の駆動力源とするモータ走行(EVモード走行)をさせることができる。例えば、前記図7の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図7に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数とする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図7中の実線及び一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に記憶手段84に予め記憶されている。
そして、ハイブリッド制御手段86は、例えば図7の駆動力源切換線図から実際の車速V及び自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、モータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段86によるモータ走行は、図7から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT(比較的低アクセル開度Acc)域すなわち低エンジントルクTE域、或いは車速Vの比較的低車速時すなわち低負荷域で実行される。
また、ハイブリッド制御手段86は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御して例えば第1電動機M1を無負荷状態とすることにより空転させて、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)により必要に応じてエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持する。
また、ハイブリッド制御手段86は、エンジン8を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行うエンジン走行領域であっても、前述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギ及び/又は蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行にはエンジン8を走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8及び第2電動機M2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。そして、本実施例のモータ走行とはエンジン8を停止して第2電動機M2を走行用の駆動力源とする走行である。
ハイブリッド制御手段86は、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるために、エンジン8の作動状態を運転状態と停止状態との間で切り換える、すなわちエンジン8の始動および停止を行うエンジン始動停止制御手段92を備えている。このエンジン始動停止制御手段92は、ハイブリッド制御手段86により例えば図7の駆動力源マップから車両状態に基づいてモータ走行とエンジン走行と切換えが判断された場合に、エンジン8の始動または停止を実行する。このように、ハイブリッド制御手段86は、エンジン走行とモータ走行とを切り換える、すなわちエンジン8と第2電動機M2とで走行用駆動力源を切り換える。
例えば、エンジン始動停止制御手段92は、図7の実線Bの点a→点bに示すようにアクセルペダルが踏込操作されて要求出力トルクTOUTが大きくなり、ハイブリッド制御手段86により車両状態がモータ走行領域からエンジン走行領域へ変化したと判断されてモータ走行からエンジン走行への切り換えが判断された場合にはすなわちハイブリッド制御手段86によりエンジン始動が判断された場合には、第1電動機M1に通電して第1電動機回転速度NM1を引き上げることで、すなわち第1電動機M1をスタータとして機能させることで、エンジン回転速度NEを完爆可能な所定回転速度NE’例えばアイドル回転速度以上の自律回転可能な所定の自律回転速度NEIDL以上に引き上げるエンジン回転駆動制御を行うと共に、所定回転速度NE’以上にて燃料噴射装置66により燃料を供給(噴射)し点火装置68により点火してエンジントルクTEを発生させるエンジントルク発生制御を行うことによってエンジン8を始動し、モーター走行からエンジン走行へ切り換える。また、エンジン始動停止制御手段92は、図7の実線Bの点b→点aに示すように、アクセルペダルが戻されて要求出力トルクTOUTが小さくなり車両状態がエンジン走行領域からモータ走行領域へ変化した場合には、燃料噴射装置66により燃料供給を停止させるように、すなわちフューエルカットによりエンジン8の停止を行って、ハイブリッド制御手段86によるエンジン走行からモータ走行へ切り換える。
また、ハイブリッド制御手段86は、第1電動機M1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、差動部11がトルクの伝達を不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段86は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
また、ハイブリッド制御手段86は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上(燃料消費率を低減)させるためにエンジン8を非駆動状態にして、駆動輪34から伝達される車両の運動エネルギを差動部11で電気エネルギに変換する回生制御を実行する。具体的には、駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第2電動機M2を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第2電動機発電電流をインバータ54を介して蓄電装置56へ充電する回生制御を実行する。すなわち、ハイブリッド制御手段86は上記回生制御を実行する回生制御手段として機能する。
増速側ギヤ段判定手段88は、動力伝達装置10を有段変速状態とする際に切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて記憶手段84に予め記憶された前記図7に示す変速線図に従って動力伝達装置10の変速されるべき変速段が増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。
切換制御手段90は、車両状態に基づいて前記差動状態切換装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)の係合/解放を切り換えることにより、前記無段変速状態と前記有段変速状態とを、すなわち前記差動状態と前記ロック状態とを選択的に切り換える。例えば、切換制御手段90は、記憶手段84に予め記憶された前記図7の破線及び二点鎖線に示す関係(切換線図、切換マップ)から車速V及び要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、動力伝達装置10(差動部11)の変速状態を切り換えるべきか否かを判断して、すなわち動力伝達装置10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか或いは動力伝達装置10を有段変速状態とする有段制御領域内であるかを判定することにより動力伝達装置10の切り換えるべき変速状態を判断して、動力伝達装置10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える変速状態の切換えを実行する。
具体的には、切換制御手段90は、有段変速制御領域内であると判定した場合は、ハイブリッド制御手段86に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力すると共に、有段変速制御手段82に対しては、予め設定された有段変速時の変速を許可する。このときの有段変速制御手段82は、記憶手段84に予め記憶された例えば図7に示す変速線図に従って自動変速部20の自動変速を実行する。例えば記憶手段84に予め記憶された図2は、このときの変速において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。すなわち、動力伝達装置10全体すなわち差動部11及び自動変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
例えば、増速側ギヤ段判定手段88により第5速ギヤ段が判定される場合には、動力伝達装置10全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段が得られるために切換制御手段90は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路70へ出力する。また、増速側ギヤ段判定手段88により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、動力伝達装置10全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段が得られるために切換制御手段90は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路70へ出力する。このように、切換制御手段90によって動力伝達装置10が有段変速状態に切り換えられると共に、その有段変速状態における2種類の変速段のいずれかとなるように選択的に切り換えられて、差動部11が副変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、動力伝達装置10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
一方、切換制御手段90は、動力伝達装置10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域内であると判定した場合は、動力伝達装置10全体として無段変速状態が得られるために差動部11を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0及び切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路70へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段86に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力すると共に、有段変速制御手段82には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは記憶手段84に予め記憶された例えば図7に示す変速線図に従って自動変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段82により、図2の係合表内において切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、切換制御手段90により無段変速状態に切り換えられた差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
ここで前記図7について詳述すると、図7は自動変速部20の変速判断の基となる記憶手段84に予め記憶された関係(変速線図、変速マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとを変数とする二次元座標で構成された変速線図の一例である。図7の実線はアップシフトが判断されるための変速線(アップシフト線)であり、一点鎖線はダウンシフトが判断されるための変速線(ダウンシフト線)である。この図7の変速線図における変速線は、例えば自動変速部20の要求出力トルクTOUTを示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否か、また例えば車速Vを示す縦線上において自動変速部20の要求出力トルクTOUTが線を横切ったか否か、すなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点)を横切ったか否かを判断するためのものであり、この変速点の連なりとして予め記憶されている。
また、図7の破線は切換制御手段90による有段制御領域と無段制御領域との判定のための判定車速V1及び判定出力トルクT1を示している。つまり、図7の破線はハイブリッド車両の高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1の連なりである高車速判定線と、ハイブリッド車両の駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが高出力となる高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高出力走行判定線とを示している。さらに、図7の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。
つまり、この図7は切換制御手段90により有段制御領域と無段制御領域との何れであるかを領域判定する基となる記憶手段84に予め記憶された高車速判定線及び高出力走行判定線を有する関係(切換線図、切換マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとを変数とする二次元座標で構成された切換線図の一例である。見方を換えれば、高車速判定線及び高出力走行判定線は、差動部11を差動状態と差動制限状態との間で切り換える為の切換線であり、例えば自動変速部20の要求出力トルクTOUTを示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否か、また例えば車速Vを示す縦線上において自動変速部20の要求出力トルクTOUTが線を横切ったか否か、すなわち切換線上の切換を実行すべき値(切換点、判定車速V1或いは判定出力トルクT1)を横切ったか否かを判断するためのものであり、この切換点の連なりとして予め記憶されている。尚、この切換線図を含めて変速マップとして記憶手段84に予め記憶されてもよい。また、この切換線図は判定車速V1及び判定出力トルクT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速V及び出力トルクTOUTの何れかを変数とする予め記憶された切換線であってもよい。
また、判定車速V1は、例えば高速走行において動力伝達装置10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において動力伝達装置10が有段変速状態とされるように設定されている。また、判定トルクT1は、車両の高出力走行において第1電動機M1の反力トルクをエンジンの高出力域まで対応させないで第1電動機M1を小型化するために、例えば第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機M1の特性に応じて設定されている。
上記変速線図、切換線図、或いは駆動力源切換線図等は、マップとしてではなく例えば実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTOUTと判定出力トルクT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。この場合には、切換制御手段90は、車両状態例えば実際の車速が判定車速V1を越えたときに動力伝達装置10を有段変速状態とする。また、切換制御手段90は、車両状態例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが判定出力トルクT1を越えたときに動力伝達装置10を有段変速状態とする。
図7の関係に示されるように、出力トルクTOUTが予め設定された判定出力トルクT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。
これによって、例えば、車両の低中速走行及び低中出力走行では、動力伝達装置10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、実際の車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行では動力伝達装置10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪34へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上する。また、出力トルクTOUTなどの前記駆動力関連値が判定トルクT1を越えるような高出力走行では動力伝達装置10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪34へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行及び低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて第1電動機M1或いはそれを含む車両の動力伝達装置が一層小型化される。また、他の考え方として、この高出力走行においては燃費に対する要求より運転者の駆動力に対する要求が重視されるので、無段変速状態より有段変速状態(定変速状態)に切り換えられるのである。これによって、ユーザは、例えば有段自動変速走行におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度NEの変化すなわち変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度NEの変化が楽しめる。
前記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪34での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTOUT、エンジントルクTE、車両加速度や、例えばアクセル開度或いはスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度NEとに基づいて算出されるエンジントルクTEなどの実際値や、運転者のアクセルペダル操作量或いはスロットル弁開度θTH等に基づいて算出される要求(目標)エンジントルクTE、自動変速部20の要求(目標)出力トルクTOUT、要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、駆動輪34の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。
このように、本実施例の差動部11(動力伝達装置10)は無段変速状態と有段変速状態(定変速状態)とに選択的に切換え可能であって、切換制御手段90により車両状態に基づいて差動部11の切り換えるべき変速状態が判断され、差動部11が無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えられる。また、本実施例では、ハイブリッド制御手段86により車両状態に基づいてモータ走行或いはエンジン走行が実行される。
尚、差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下時、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の機能低下すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ54、蓄電装置56、それらを接続する伝送路などの故障(フェイル)や、故障とか低温による機能低下が発生したような車両状態となる場合には、無段制御領域であっても車両走行を確保するために切換制御手段90は動力伝達装置10を優先的に有段変速状態としてもよい。
ここで、エンジン8と第2電動機M2とでは効率の良い動作点(例えば、回転速度と出力トルクとで表される運転点)が異なっている。例えば、エンジン8は、図8に示した最適燃費率曲線からも明らかなように高出力トルク、低回転速度域にて効率が良くなる。また、第2電動機M2は、第2電動機回転速度NM2と第2電動機トルクTM2とを変数とする二次元座標内において予め実験的に定められた例えば図9に示す第2電動機M2の等効率線(マップ、関係)において第2電動機M2の動作点が斜線(破線)部分に近くなる程効率が良くなることを示していることからも明らかなように、力行時、回生時共に低出力トルク、高回転速度域にて効率が良くなる。従って、燃費を重視すれば、ハイブリッド制御手段86によるモータ走行時はエンジン走行時と比較して、高回転速度で作動されるように自動変速部20の変速比γATが低速側(ロー側)に設定されることが望ましい。
図10は、図7からモータ走行領域とその近傍のエンジン走行領域を抜粋した図であって、エンジン8及び第2電動機M2の効率が可及的に向上させられる変速点が予め定められた所定の変速パターンとしての燃費優先変速線の一例を示す図である。この燃費優先変速線では、燃費が向上されるように、エンジン走行領域内においてはエンジン走行時の変速点としてエンジン効率が可及的に向上させられる変速点が設定され、且つモータ走行領域内においてはモータ走行時の変速点として電動機効率が可及的に向上させられる変速点が設定されている。具体的には、図10において、エンジン走行領域内に設定されるエンジン走行用の1→2アップシフト線(実線)及び2→1ダウンシフト線(一点鎖線)は、図7におけるエンジン走行領域内の1→2アップシフト線及び2→1ダウンシフト線と同じである。また、モータ走行領域内に設定されるモータ走行用の1→2アップシフト線及び2→1ダウンシフト線は、それぞれエンジン走行用の1→2アップシフト線及び2→1ダウンシフト線よりも高車速側に設定されている。これにより、モータ走行時は、エンジン走行時に比べて、所定の車両状態(同じ車両状態)において自動変速部20の変速比(変速段)γATが低速側に設定される。尚、上記燃費優先変速線において、自動変速部20の第2速と第3速との間の変速線も上記第1速と第2速との間の変速線と同様に図7の変速線に対して変更されても良いが、図面を簡潔にするためこの図10では第2速と第3速との間の変速線を省略している。
ところで、例えば図10に示すようにエンジン走行用の変速線とモータ走行用の変速線とを設定すると、ある車両状態において、エンジン走行とモータ走行との切換え(すなわちエンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換え)と、自動変速部20の変速(すなわち自動変速部20の変速比γATの切換え)とが同時に発生する可能性がある。例えば、図10の実線Aに示すようなアクセルペダルの踏込み操作が行われる車両状態では、モータ走行時は自動変速部20が変速比γ1の第1速ギヤ段とされ、エンジン走行時は自動変速部20が変速比γ2の第2速ギヤ段とされることから、第2電動機M2からエンジン8への駆動力源の切換と、1→2アップシフトとが同時に発生する。また、図10の実線Bに示すようなアクセルペダルの戻し操作が行われる車両状態では、エンジン走行時は自動変速部20が変速比γ2の第2速ギヤ段とされ、モータ走行時は自動変速部20が変速比γ1の第1速ギヤ段とされることから、エンジン8から第2電動機M2への駆動力源の切換と、2→1ダウンシフトとが同時に発生する。このような同時切換えは、制御が複雑で難しく、それぞれの切換えショックが増大する可能性がある。そして、このような切換えショック増大によりドライバビリティ(例えば快適性)が低下する可能性がある。
そこで、本実施例では、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速との同時切換えの発生を回避して切換えショック増大によるドライバビリティの低下を抑制する為に、自動変速部20の変速を実行する為の変速点を、エンジン走行の場合とモータ走行の場合とで同車速に設定する。ここで、変速点を同車速に設定するとは、同一車速Vと判断される車両状態において、エンジン走行とモータ走行とで自動変速部20に同じ変速比γATを設定することである。これにより、エンジン走行とモータ走行とが切り換えられたとしても、その切換えに伴う自動変速部20の変速は確実に発生しないことになる。つまり、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生することが確実に回避される。
具体的には、図11の1→2アップシフト線(実線)及び2→1ダウンシフト線(一点鎖線)に示すように、エンジン走行時の1→2アップシフト線及び2→1ダウンシフト線をエンジン効率が可及的に向上させられる例えば図10に示したエンジン走行時の1→2アップシフト線及び2→1ダウンシフト線に対して高車速側となるモータ効率が可及的に向上させられる例えば図10に示したモータ走行時の1→2アップシフト線及び2→1ダウンシフト線に設定する。或いは、図12の1→2アップシフト線(実線)及び2→1ダウンシフト線(一点鎖線)に示すように、モータ走行時の1→2アップシフト線及び2→1ダウンシフト線をモータ効率が可及的に向上させられる例えば図10に示したモータ走行時の1→2アップシフト線及び2→1ダウンシフト線に対して低車速側となるエンジン効率が可及的に向上させられる例えば図10に示したエンジン走行時の1→2アップシフト線及び2→1ダウンシフト線に設定しても良い。尚、図11、12は、図10に相当する関係図であって、図10に示す燃費優先変速線を比較の為に破線にて示してある。また、図11、図12に示す変速線を、図10の燃費優先変速線に対して、ショック対策優先変速線と称す。
上記図11或いは図12に示すようなショック対策優先変速線を自動変速部20の変速に用いることで、本実施例のようにモータ走行領域がエンジン走行領域と比較して低車速、低出力トルク域に設定されている場合に、図10に示すような燃費優先変速線を用いるときに発生する可能性のある駆動力源の切換えと変速部の変速との同時切換え(図10実線A、B参照)が回避される。
ここで、図11の変速線と図12の変速線とを比較する。図11のショック対策優先変速線では、図10の燃費優先変速線におけるモータ走行時の変速点に合わせられているので、モータ走行においては燃費上有利となる。反面、エンジン走行時の変速点が図10の燃費優先変速線に対して高車速側にずらされており、エンジン走行中の燃費は低下する可能性がある。つまり、エンジン走行においては燃費上不利となる可能性がある。一方、図12のショック対策優先変速線では、図10の燃費優先変速線におけるエンジン走行時の変速点に合わせられているので、エンジン走行においては燃費上有利となる。反面、モータ走行時の変速点が図10の燃費優先変速線に対して低車速側にずらされており、モータ走行中の燃費は低下する可能性がある。つまり、モータ走行においては燃費上不利となる可能性がある。ところで、車両走行状態としては低アクセル開度での走行すなわちモータ走行領域となる機会(場面)が多いと考えられる。従って、燃費上有利になる走行がモータ走行となる図11のショック対策優先変速線の方が、燃費上有利になる走行がエンジン走行となる図12のショック対策優先変速線に比較して、車両全体として燃費上有利になると考えられる。
また、図10の燃費優先変速線と図11、図12のショック対策優先変速線とを比較する。図10の燃費優先変速線では、エンジン走行及びモータ走行の何れの走行においても燃費上有利となる。反面、駆動力源の切換えと変速部の変速との同時切換えが発生し、ドライバビリティが低下する可能性がある。一方、図11、図12のショック対策優先変速線では、駆動力源の切換えと変速部の変速との同時切換えが回避され、ドライバビリティの低下が抑制される。反面、エンジン走行及びモータ走行の何れかの走行において燃費上不利となる。
そこで、自動変速部20の変速に用いる変速線として、図10の燃費優先変速線と図11或いは図12のショック対策優先変速線との何れの変速線を設定するかについて検討する。つまり、自動変速部20の変速パターンとして予め定められて記憶手段84に記憶されている燃費優先変速線及びショック対策優先変速線の何れの変速線を自動変速部20の変速に用いる変速線として設定するのかについて検討する。例えば、燃費重視時はドライバビリティが低下してもエンジン走行及びモータ走行の何れの走行においても燃費上有利となる例えば図10の燃費優先変速線を設定する。燃費重視時以外は、多少燃費上不利となってもドライバビリティの低下が抑制される例えば図11或いは図12のショック対策優先変速線を設定する。また、ショック対策優先変速線を設定する場合には、燃費上有利になると考えられる図11のショック対策優先変速線を設定しても良い。
上記燃費重視時とは、例えば搭乗者が燃費向上を重視する走行を望んでいるときである。例えば、走行モード切換スイッチ40は、走行モードとして燃費向上を重視する走行モードであるエコノミーモードが選択可能に構成されている。そして、走行モード切換スイッチ40の切換状態に応じて、燃費優先変速線及びショック対策優先変速線のうちの何れかの変速線を設定する。すなわち、走行モード切換スイッチ40によりエコノミーモードが選択されているときは燃費優先変速線を設定する一方で、走行モード切換スイッチ40によりエコノミーモードが選択されていないときはショック対策優先変速線を設定する。このように、走行モード切換スイッチ40により燃費優先変速線が選択されないときに、エンジン走行とモータ走行との各場合の変速点を同車速に設定するショック対策優先変速線が選択される。
具体的には、図6に戻り、車両状態判定手段94は、走行モード切換スイッチ40からの信号に基づいて、走行モードとしてエコノミーモードが選択されているか否かを判断する。変速点設定手段96は、車両状態判定手段94により走行モードとしてエコノミーモードが選択されていると判断された場合には、燃費優先変速線を自動変速部20の変速に用いる変速線すなわち自動変速部20の変速パターンとして設定する。また、変速点設定手段96は、車両状態判定手段94により走行モードとしてエコノミーモードが選択されていないと判断された場合には、ショック対策優先変速線を自動変速部20の変速パターンとして設定する。
図13は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわち駆動力源の切換えと自動変速部20の変速比γATの切換えとの同時切換えの発生を回避してドライバビリティの低下を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。図14は、図13の制御作動に対応するタイムチャートであり、アクセルペダルの踏込操作に伴いモータ走行からエンジン走行への切換えが行われる場合の一例である。
図13において、先ず、車両状態判定手段94に対応するステップ(以下、ステップを省略する)SA10において、走行モード切換スイッチ40からの信号に基づいて、走行モードとしてエコノミーモードが選択されているか否かが判断される。走行モード切換スイッチ40にてエコノミーモードが選択されておらず上記SA10の判断が否定される場合は変速点設定手段96に対応するSA20において、自動変速部20の変速パターンとしてショック対策優先変速線が設定される。一方で、走行モード切換スイッチ40にてエコノミーモードが選択されており上記SA10の判断が肯定される場合は変速点設定手段96に対応するSA30において、自動変速部20の変速パターンとして燃費優先変速線が設定される。
図14において、実線は2→1ダウン前或いは自動変速部20の第2速ギヤ段での走行中の場合であり、破線は燃費優先変速線が設定された場合であり、二点鎖線はショック対策優先変速線が設定された場合である。t1時点は、2→1ダウン指令が出力されたことを示している。そして、t2時点からのアクセルペダルの踏込操作によって、t3時点にてエンジン始動制御が開始され、t3時点からt4時点までの間で第1電動機回転速度NM1の上昇及び第2電動機の出力トルクTM2の増大によりエンジン回転速度NEがエンジン始動可能な回転速度にまで引き上げられ、t4時点でエンジン8が点火されている。このエンジン始動の際に、破線の場合はアクセルペダルの踏込操作によってエンジン始動と共に1→2アップシフト指令が出力され、駆動力源の切換えと変速部の変速との同時切換えが行われる。一方、二点鎖線の場合は第1速ギヤ段が継続された状態でエンジン始動のみが単独で行われるだけであり、駆動力源の切換えと変速部の変速との同時切換えが回避される。尚、実線の場合は、燃費優先変速線及びショック対策優先変速線のうちの何れの変速線が設定されても自動変速部20の第2速ギヤ段が継続された状態でエンジン8が始動されている。また、破線及び二点鎖線ではt1時点にて2→1ダウンが行われたが、この破線及び二点鎖線をt1時点以前に既に自動変速部20が第1速ギヤ段とされており、第1速ギヤ段での走行中にアクセルペダルの踏込操作に伴いモータ走行からエンジン走行への切換えが行われる場合の一例としても良い。
上述のように、本実施例によれば、走行用駆動力源としてのエンジン8及び第2電動機M2と自動変速部20とを備える動力伝達装置10の電子制御装置80において、自動変速部20の変速を実行する為の変速点(変速パターン)がエンジン走行の場合とモータ走行の場合とで同車速に設定されるので、エンジン走行とモータ走行とが切り換えられたとしても、その切換えに伴う自動変速部20の変速は発生しない。つまり、エンジン走行とモータ走行との切換えと、自動変速部20の変速とが同時に発生することが回避される。よって、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速比γATの切換えとの同時切換えの発生を回避してドライバビリティの低下を抑制することができる。
また、本実施例によれば、エンジン走行時の変速点をエンジン効率が可及的に向上させられる変速点に対して高車速側となるモータ効率が可及的に向上させられる変速点に設定することで、エンジン走行とモータ走行との各場合の変速点が同車速に設定されるので、エンジン走行とモータ走行との切換えと、自動変速部20の変速とが同時に発生することが回避される。例えば、図11に示すようなショック対策優先変速線を自動変速部20の変速に用いることで、モータ走行領域がエンジン走行領域と比較して低車速、低出力トルク域に設定されている場合に図10に示すような燃費優先変速線を用いるときに発生する可能性のある駆動力源の切換えと変速部の変速との同時切換え(図10実線A、B参照)が回避される。但し、エンジン走行時の変速点が燃費優先変速線に対して高車速側にずれることとなり、エンジン走行中の燃費は低下する可能性がある。つまり、エンジン走行においては燃費上不利となる可能性がある。しかしながら、燃費優先変速線におけるモータ走行時の変速点に合わせられるので、モータ走行においては燃費上有利となる。
また、本実施例によれば、モータ走行時の変速点をモータ効率が可及的に向上させられる変速点に対して低車速側となるエンジン効率が可及的に向上させられる変速点に設定することで、エンジン走行とモータ走行との各場合の変速点が同車速に設定されるので、エンジン走行とモータ走行との切換えと、自動変速部20の変速とが同時に発生することが回避される。例えば、図12に示すようなショック対策優先変速線を自動変速部20の変速に用いることで、モータ走行領域がエンジン走行領域と比較して低車速、低出力トルク域に設定されている場合に図10に示すような燃費優先変速線を用いるときに発生する可能性のある駆動力源の切換えと変速部の変速との同時切換え(図10実線A、B参照)が回避される。但し、モータ走行時の変速点が燃費優先変速線に対して低車速側にずれることとなり、モータ走行中の燃費は低下する可能性がある。つまり、モータ走行においては燃費上不利となる可能性がある。しかしながら、燃費優先変速線におけるエンジン走行時の変速点に合わせられるので、エンジン走行においては燃費上有利となる。
また、本実施例によれば、車両走行状態としては低アクセル開度での走行すなわちモータ走行領域となる機会(場面)が多いと考えられることから、燃費上有利になる走行がモータ走行となる図11のショック対策優先変速線の方が、燃費上有利になる走行がエンジン走行となる図12のショック対策優先変速線に比較して、車両全体として燃費上有利になると考えられる。
また、本実施例によれば、各駆動力源の効率が可及的に向上させられる変速点が予め定められた所定の変速パターンとしての燃費優先変速線(例えば図10の変速線)を有し、この燃費優先変速線が選択されないときに、エンジン走行とモータ走行との各場合の変速点が同車速に設定されるので、燃費優先変速線が選択されないときは、エンジン走行とモータ走行との切換えと、自動変速部20の変速とが同時に発生することが回避される。また、燃費優先変速線が選択されるときは、各駆動力源の効率が可及的に向上させられる変速点が設定される。よって、ドライバビリティ低下の抑制と燃費の向上とを図ることができる。
また、本実施例によれば、所定の変速パターン(燃費優先変速線)では、エンジン走行時の変速点としてエンジン効率が可及的に向上させられる変速点が設定され、且つモータ走行時の変速点としてモータ効率が可及的に向上させられる変速点がエンジン走行時の変速点よりも高車速側に設定される。この燃費優先変速線により、モータ走行時はエンジン走行時に比べて所定の車両状態において低速側の変速比γATが設定される。これにより、燃費優先変速線が選択されないときは、エンジン走行とモータ走行との切換えと、自動変速部20の変速とが同時に発生することが回避される。また、燃費優先変速線が選択されるときは、エンジン及び第2電動機M2の各駆動力源の効率が可及的に向上させられる変速点が設定され、エンジン走行及びモータ走行の何れの走行でも燃費が向上させられる。
また、本実施例によれば、変速点を同車速に設定するとは、同一車速と判断される車両状態において、エンジン走行とモータ走行とで自動変速部20に同じ変速比γATを設定することであるので、エンジン走行とモータ走行とが切り換えられたとしても、その切換えに伴う自動変速部20の変速は確実に発生しない。つまり、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生することが確実に回避される。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
前述の実施例では、走行モード切換スイッチ40の切換状態に応じて、燃費優先変速線及びショック対策優先変速線のうちの何れかの変速線を設定した。ところで、エンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えが発生しないような場合には、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生することはなく、走行モード切換スイッチ40の切換状態に拘わらずショック対策優先変速線を設定する必要はない。そこで、本実施例では、前述の実施例に替えて、或いは加えて、エンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えが発生する場合にのみ、エンジン走行とモータ走行との各場合の変速点を同車速に設定する。つまり、駆動力源の切換えが発生しないような場合には、一律に燃費優先変速線を設定する。
エンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えが発生しないような場合とは、例えばエンジン8の暖機が完了していないとき、蓄電装置56がモータ走行をする為の電力を第2電動機M2へ供給することができないときすなわちモータ走行ができないときなどである。つまり、エンジン8の暖機が完了していないときやモータ走行ができないときはエンジン走行のみとなり、駆動力源の切換えが発生しない。
図15は、エンジン走行のみとなり、駆動力源の切換えが発生しないときに自動変速部20の変速に用いられるエンジン走行のみ用燃費優先変速線の一例を示す図である。図15において、1→2アップシフト線(実線)及び2→1ダウンシフト線(一点鎖線)は、エンジン走行において燃費が向上させられる為に設定されたエンジン効率が可及的に向上させられる変速点であり、図7に示した1→2アップシフト線及び2→1ダウンシフト線そのものである。尚、図15は、図10に相当する関係図であって、エンジン走行のみが行われるときに対応する変速点であるので図10に示すモータ走行領域はなく全域がエンジン走行領域である。
具体的には、図6に戻り、車両状態判定手段94は、前述の実施例に替えて、或いは加えて、エンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えが発生するか否かを判断する。例えば、車両状態判定手段94は、エンジン水温THWを表す信号や触媒温度THCを表す信号に基づいてエンジン8の暖機が完了しているか否かを判断し、エンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えが発生するか否かを判断する。また、車両状態判定手段94は、充電容量SOCを表す信号やバッテリ温度THBATを表す信号に基づいて蓄電装置56から第2電動機M2への電力供給が可能でありモータ走行が可能であるか否かを判断し、エンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えが発生するか否かを判断する。より具体的には、車両状態判定手段94は、エンジン水温THWがエンジン8の暖機完了を判断する為の予め定められた所定水温未満であるとき、或いは触媒温度THCがエンジン8の暖機完了を判断する為の予め定められた所定触媒温度未満であるときには、エンジン8の暖機が完了していないと判断し、エンジン8から第2電動機M2への駆動力源の切換えが発生しないと判断する。また、車両状態判定手段94は、充電容量SOCが蓄電装置56から第2電動機M2への電力供給が可能であることを判断する為の予め定められた所定充電容量未満であるとき、或いはバッテリ温度THBATが蓄電装置56から第2電動機M2への電力供給が可能であることを判断する為の予め定められた所定バッテリ温度未満であるときには、モータ走行が不可能であると判断し、エンジン8から第2電動機M2への駆動力源の切換えが発生しないと判断する。
変速点設定手段96は、前述の実施例に替えて、或いは加えて、車両状態判定手段94によりエンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えが発生しないと判断された場合には、燃費優先変速線を自動変速部20の変速パターンとして設定する。例えば、車両状態判定手段94によりエンジン8から第2電動機M2への駆動力源の切換えが発生しないと判断された場合には、図15に示すようなエンジン走行のみ用燃費優先変速線を自動変速部20の変速パターンとして設定する。また、変速点設定手段96は、車両状態判定手段94によりエンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えが発生すると判断された場合には、ショック対策優先変速線を自動変速部20の変速パターンとして設定する。
図16は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわち駆動力源の切換えと自動変速部20の変速比γATの切換えとの同時切換えの発生を回避してドライバビリティの低下を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
図16において、先ず、車両状態判定手段94に対応するSB10において、エンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えが発生するか否かが判断される。例えば、エンジン8の暖機が完了していないときや充電容量SOCが所定充電容量未満でありモータ走行が不可能であるときはエンジン走行のみとなり、エンジン8から第2電動機M2への駆動力源の切換えが発生しないと判断されて、このSB10の判断が否定される。上記SB10の判断が肯定される場合は変速点設定手段96に対応するSB20において、自動変速部20の変速パターンとしてショック対策優先変速線が設定される。一方で、上記SB10の判断が否定される場合は変速点設定手段96に対応するSB30において、自動変速部20の変速パターンとして燃費優先変速線が設定される。例えば、エンジン8から第2電動機M2への駆動力源の切換えが発生しないと判断された場合には、図15に示すようなエンジン走行のみ用燃費優先変速線が自動変速部20の変速パターンとして設定される。
上述のように、本実施例によれば、前述の実施例での効果に替えて、或いは加えて、エンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えが発生する場合にのみ、エンジン走行とモータ走行との各場合の変速点が同車速に設定されるので、エンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えが発生する場合は、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生することが回避される。また、エンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えが発生しない場合は、例えば各駆動力源の効率が可及的に向上させられる変速点が設定されて、燃費が向上させられる。
また、本実施例によれば、エンジン8の暖機が完了していないとき、或いは第2電動機M2へ電力を供給する蓄電装置56からモータ走行をする為の電力供給が行えないときは、駆動力源の切換えが発生しないので、エンジン8と第2電動機M2との駆動力源の切換えが発生する場合は、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生することが回避される。また、エンジン8の暖機前であったり或いは第2電動機M2への電力供給が行われ得なかったりして駆動力源の切換えが発生しない場合は、例えば各駆動力源の効率が可及的に向上させられる変速点が設定されて、燃費が向上させられる。具体的には、エンジン8の暖機前であったり或いは第2電動機M2への電力供給が行われ得なかったりしてモータ走行への切換えが行われないエンジン走行であるときには、エンジン効率が可及的に向上させられる変速点が設定され、そのエンジン走行において燃費が向上させられる。
図17は本発明の他の実施例における動力伝達装置110の構成を説明する骨子図、図18はその動力伝達装置110の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせを示す係合表、図19はその動力伝達装置110の変速作動を説明する共線図である。
動力伝達装置110は、前述の実施例と同様に第1電動機M1、動力分配機構16、及び第2電動機M2を備えている差動部11と、その差動部11と出力軸22との間で伝達部材18を介して直列に連結されている前進3段の自動変速部120とを備えている。動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24と切換クラッチC0及び切換ブレーキB0とを有している。自動変速部120は、例えば「0.532」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置126と例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ2を有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置128とを備えている。第1遊星歯車装置126の第1サンギヤS1と第2遊星歯車装置128の第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1遊星歯車装置126の第1キャリヤCA1と第2遊星歯車装置128の第2リングギヤR2とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第1リングギヤR1は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結されている。
このように、自動変速部120内と差動部11(伝達部材18)とは自動変速部120の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1又は第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1及び第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部120との間の動力伝達経路すなわち差動部11(伝達部材18)から駆動輪34への動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1及び第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
以上のように構成された動力伝達装置110では、例えば、図18の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第4速ギヤ段(第4変速段)の何れか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。従って、動力伝達装置110では、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部120とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部120とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、動力伝達装置110は、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。
例えば、動力伝達装置110が有段変速機として機能する場合には、図18に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2ブレーキB2の係合により、変速比γ1が最大値例えば「2.804」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.531」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2クラッチC2の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2及び第2ブレーキB2の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「2.393」程度である後進ギヤ段が成立させられる。尚、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば全てのクラッチ及びブレーキC0,C1,C2,B0,B1,B2,B3が解放される。
一方、動力伝達装置110が無段変速機として機能する場合には、図18に示される係合表の切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部120が有段変速機として機能することにより、自動変速部120の第1速、第2速、第3速の各ギヤ段に対しその自動変速部120の入力回転速度NINすなわち伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置110全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
図19は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部120とから構成される動力伝達装置110において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が解放される場合、及び切換クラッチC0又は切換ブレーキB0が係合させられる場合の動力分配機構16(差動部11)の各要素の回転速度は前述の場合と同様である。
図19における自動変速部120の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1及び第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応し且つ相互に連結された第1キャリヤCA1及び第2リングギヤR2を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応する第1リングギヤR1をそれぞれ表している。また、自動変速部120において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は自動変速部120の出力軸22に連結され、第7回転要素RE7は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
自動変速部120では、図19に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7と横線X2との交点と第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速(1st)の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速(2nd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速(3rd)の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第3速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第7回転要素RE7に差動部11からの動力が入力される。一方、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速(4th)の出力軸22の回転速度が示される。
本実施例においても、動力伝達装置110は無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と、有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部120とから構成されるので、前述の実施例と同様の効果が得られる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明は実施例相互を組み合わせて実施可能であると共にその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、走行モード切換スイッチ40の切換状態や駆動力源の切換えが発生するか否かに基づいて、燃費優先変速線或いはショック対策優先変速線を設定した。これに替えて、或いは加えて、例えばエンジン8及び第2電動機M2のうちで何れか一方の駆動力源から他方の駆動力源への切換え時に、他方の駆動力源を用いて走行する場合の変速点を一方の駆動力源を用いて走行する場合の変速点と同車速としても良い。より具体的には、エンジン8から第2電動機M2への切換え時には、図12に示すようなショック対策優先変速線を設定し、反対に、第2電動機M2からエンジン8への切換え時には、図11に示すようなショック対策優先変速線を設定しても良い。このようにしても、駆動力源の切換えと自動変速部20の変速とが同時に発生することが回避される。また、駆動力源の切換え前の走行においては、切換え前の駆動力源の効率が可及的に向上させられる変速点が用いられるので、燃費が向上させられる。
また、前述の実施例では、走行モード切換スイッチ40の切換状態や駆動力源の切換えが発生するか否かに基づいて、燃費優先変速線或いはショック対策優先変速線を設定した。これに替えて、或いは加えて、ホイールブレーキ装置(制動装置)72が作動させられたか否かに基づいて燃費優先変速線或いはショック対策優先変速線を設定しても良い。例えば、ホイールブレーキ装置72の作動時には燃費優先変速線を設定し、ホイールブレーキ装置72の未作動時にはショック対策優先変速線を設定しても良い。このようにすれば、ホイールブレーキ装置72の作動に伴って発生するショックに紛れる形で切換えショックが隠されるので、ショック対策優先変速線を設定しなくともドライバビリティ低下が抑制される。更に、これに替えて、或いは加えて、走行モード切換スイッチ40は走行モードとして快適性を重視する走行モードであるコンフォートモードが選択可能に構成され、コンフォートモードが選択されているときにはショック対策優先変速線を設定し、コンフォートモードが選択されていないときには燃費優先変速線を設定しても良い。
また、前述の実施例では、燃費優先変速線或いはショック対策優先変速線を設定する際は、アップシフト線及びダウンシフト線を共に変更設定したが、アップシフト線及びダウンシフト線の何れか一方の変速線のみを変更して燃費優先変速線或いはショック対策優先変速線として設定しても良い。このようにすれば、少なくとも駆動力源の切換えと自動変速部20のアップシフトとが同時に発生することが回避されるか、或いは少なくとも駆動力源の切換えと自動変速部20のダウンシフトとが同時に発生することが回避される。
また、前述の実施例においては、走行モードすなわち自動変速部20の変速パターンは走行モード切換スイッチ44の操作に基づいて選択されるが、手動操作である必要はなく、例えば、車速Vやアクセル開度Accなどに基づき自動的に選択されてもよい。
また、前述の実施例の車両用動力伝達装置10、110は、駆動力源としてのエンジン8及び第2電動機M2と、電気式変速機能としての差動部11と、機械式変速機能としての自動変速部20、120とを備えていたが、少なくとも車両状態に応じて切り換えられる2つの駆動力源と変速部とを備えておれば、本発明は適用され得る。
また、前述の実施例の車両用動力伝達装置10、110は、動力分配機構16が差動状態と非差動状態とに切り換えられることで電気的な無段変速機として機能する無段変速状態と有段変速機として機能する有段変速状態とに切換可能に構成されたが、動力伝達装置10、110が有段変速状態に切換可能に構成されない変速機構すなわち差動部11が切換クラッチC0及び切換ブレーキB0を備えず電気的な無段変速機(電気的な差動装置)としての機能のみを有する電気式差動部(無段変速部)11であっても本実施例は適用され得る。この場合には例えば切換制御手段90や増速側ギヤ段判定手段88は備えられる必要はない。
また、前述の実施例において、動力分配機構16が、差動制限装置として機能する切換クラッチC0及び切換ブレーキB0を備えているが、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0は動力分配機構16とは別個に動力伝達装置10、110に備えられていてもよい。また、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れか一方がない構成も考え得る。また、切換クラッチC0は、サンギヤS1とキャリヤCA1とを選択的に連結するものであったが、サンギヤS1とリングギヤR1との間や、キャリヤCA1とリングギヤR1との間を選択的に連結するものであってもよい。要するに、第1遊星歯車装置24の3要素のうちのいずれか2つを相互に連結するものであればよい。
また、前述の実施例では、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、差動部11(動力分配機構16)はその変速比γ0が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、例えば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであってもよい。
また、前述の実施例の動力伝達装置10、110において、エンジン8と差動部11とは直結されているが、エンジン8が差動部11にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
また、前述の実施例の動力伝達装置10、110において、第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
また、前述の実施例では、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路において、差動部11の次に自動変速部20、120が連結されているが、自動変速部20、120の次に差動部11が連結されている順番でもよい。要するに、自動変速部20、120は、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成するように設けられておればよい。
また、前述の実施例の図1、13によれば、差動部11と自動変速部20、120は直列に連結されているが、動力伝達装置10、110全体として電気的に差動状態を変更し得る電気式差動機能とその電気式差動機能による変速とは異なる原理で変速する機能とが備わっていれば、差動部11と自動変速部20、120とが機械的に独立していなくても本発明は適用される。
また、前述の実施例において、動力分配機構16はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。
また、前述の実施例の差動機構として動力分配機構16は、例えばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1及び伝達部材18(第2電動機M2)に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
また、前述の実施例においては、差動部遊星歯車装置24を構成する第1回転要素RE1にはエンジン8が動力伝達可能に連結され、第2回転要素RE2には第1電動機M1が動力伝達可能に連結され、第3回転要素RE3には駆動輪34への動力伝達経路が連結されているが、例えば、2以上の遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、電動機、駆動輪が動力伝達可能に連結されており、その遊星歯車装置の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により有段変速と無段変速とに切換可能な構成にも本発明は適用される。
また、前述の実施例では、差動部11すなわち動力分配機構16の出力部材である伝達部材18と駆動輪34との間の動力伝達経路に、自動変速部20、120が介挿されていたが、例えば自動変速機の一種である無段変速機(CVT)、手動変速機としてよく知られた常時噛合式平行2軸型ではあるがセレクトシリンダおよびシフトシリンダによりギヤ段が自動的に切り換えられることが可能な自動変速機、手動操作により変速段が切り換えられる同期噛み合い式の手動変速機等の他の形式の動力伝達装置(変速機)が設けられていてもよい。その無段変速機(CVT)の場合には、動力分配機構16が定変速状態とされることで全体として有段変速状態とされる。有段変速状態とは、電気パスを用いないで専ら機械的伝達経路で動力伝達することである。或いは、上記無段変速機は有段変速機における変速段に対応するように予め複数の固定された変速比が記憶され、その複数の固定された変速比を用いて自動変速部20、120の変速が実行されてもよい。
また、前述の実施例においては、第2電動機M2は伝達部材18に直接連結されているが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、エンジン8又は伝達部材18から駆動輪34までの間の動力伝達経路に直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
また、前述の実施例の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちの何れと連結されていても差し支えない。
また、前述の実施例において、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
また、前述の実施例では、第1電動機M1及び第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
また、前述の実施例において、自動変速部20、120は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20、120が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20、120とは、例えば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケット及びチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
また、前述の実施例の動力分配機構16は1組の差動部遊星歯車装置24から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
また、前述の実施例の第2電動機M2はエンジン8から駆動輪34までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機M2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構16にも連結可能とされており、第1電動機M1の代わりに第2電動機M2によって動力分配機構16の差動状態を制御可能とする動力伝達装置10の構成であってもよい。
また、前述の実施例において、差動部11が、第1電動機M1及び第2電動機M2を備えているが、第1電動機M1及び第2電動機M2は差動部11とはそれぞれ別個に動力伝達装置10、110に備えられていてもよい。
また、前述の実施例では、第1クラッチC1や切換クラッチC0や切換ブレーキB0などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁紛)クラッチ、電磁クラッチ、噛合型のドグクラッチなどの磁紛式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。例えば電磁クラッチであるような場合には、油圧制御回路70は油路を切り換える弁装置ではなく電磁クラッチへの電気的な指令信号回路を切り換えるスイッチング装置や電磁切換装置等により構成される。
また、前述した複数の実施例はそれぞれ、例えば優先順位を設けるなどして、相互に組み合わせて実施することができる。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
8:エンジン(第1駆動力源)
10、110:車両用動力伝達装置
20、120:自動変速部(変速部)
56:蓄電装置
80:電子制御装置(制御装置)
M2:第2電動機(第2駆動力源)
10、110:車両用動力伝達装置
20、120:自動変速部(変速部)
56:蓄電装置
80:電子制御装置(制御装置)
M2:第2電動機(第2駆動力源)
Claims (13)
- 第1駆動力源と第2駆動力源と動力伝達経路の一部を構成する変速部とを備え、車両状態に基づいて前記第1駆動力源を用いて走行する第1駆動力源走行と前記第2駆動力源を用いて走行する第2駆動力源走行とを切り換える車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記変速部の変速を実行する為の変速点を、前記第1駆動力源走行の場合と前記第2駆動力源走行の場合とで同車速に設定することを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。 - 前記第1駆動力源及び前記第2駆動力源のうちで何れか一方の駆動力源から他方の駆動力源への切換え時に、前記他方の駆動力源を用いて走行する場合の変速点を前記一方の駆動力源を用いて走行する場合の変速点と同車速とすることを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
- 前記変速点は、アップシフト変速点であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
- 前記変速点は、ダウンシフト変速点であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
- 前記第1駆動力源はエンジンであり、
前記第2駆動力源は電動機であり、
エンジン走行時のアップシフト変速点をエンジン効率が可及的に向上させられるアップシフト変速点に対して高車速側となる電動機効率が可及的に向上させられるアップシフト変速点に設定することで、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との各場合の変速点を同車速に設定することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。 - 前記第1駆動力源はエンジンであり、
前記第2駆動力源は電動機であり、
エンジン走行時のダウンシフト変速点をエンジン効率が可及的に向上させられるダウンシフト変速点に対して高車速側となる電動機効率が可及的に向上させられるダウンシフト変速点に設定することで、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との各場合の変速点を同車速に設定することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。 - 前記第1駆動力源はエンジンであり、
前記第2駆動力源は電動機であり、
電動機走行時のアップシフト変速点を電動機効率が可及的に向上させられるアップシフト変速点に対して低車速側となるエンジン効率が可及的に向上させられるアップシフト変速点に設定することで、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との各場合の変速点を同車速に設定することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。 - 前記第1駆動力源はエンジンであり、
前記第2駆動力源は電動機であり、
電動機走行時のダウンシフト変速点を電動機効率が可及的に向上させられるダウンシフト変速点に対して低車速側となるエンジン効率が可及的に向上させられるダウンシフト変速点に設定することで、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との各場合の変速点を同車速に設定することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。 - 各駆動力源の効率が可及的に向上させられる変速点が予め定められた所定の変速パターンを有し、
前記所定の変速パターンが選択されないときに、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との各場合の変速点を同車速に設定することを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。 - 前記第1駆動力源はエンジンであり、
前記第2駆動力源は電動機であり、
前記所定の変速パターンでは、エンジン走行時の変速点としてエンジン効率が可及的に向上させられる変速点が設定され、且つ電動機走行時の変速点として電動機効率が可及的に向上させられる変速点が前記エンジン走行時の変速点よりも高車速側に設定されており、
前記電動機走行時は、前記エンジン走行時に比べて、所定の車両状態において低速側の変速比が設定されることを特徴とする請求項9に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。 - 前記第1駆動力源と前記第2駆動力源との駆動力源の切換えが発生する場合にのみ、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行との各場合の変速点を同車速に設定することを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
- 前記第1駆動力源はエンジンであり、
前記第2駆動力源は電動機であり、
前記エンジンの暖機が完了していないとき、或いは前記電動機へ電力を供給する蓄電装置から電動機走行をする為の電力供給が行えないときは、前記駆動力源の切換えが発生しないことを特徴とする請求項11に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。 - 前記変速点を同車速に設定するとは、同一車速と判断される車両状態において、前記第1駆動力源走行と前記第2駆動力源走行とで前記変速部に同じ変速比を設定することである請求項1乃至12の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
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