まず、この発明の一の実施形態による熱可塑性樹脂の成形方法である、繊維強化熱可塑性樹脂の成形方法について説明する。この実施形態においては、被成形材として、長炭素繊維で織られた織物に熱可塑性樹脂であるアクリル樹脂をマトリックスとして含浸させてなる平板状のものを用い、これを熱成形し、成形品として義歯床の補強材を得る場合を例に説明する。
図1は、この成形方法に使用される熱成形用の鋳型である鋳型1の構成を示す適部縦断面図である。
鋳型1は、被成形材を熱成形して成形品を得るために用いられ、被成形材を両側から挟んで押圧するための一対の要素鋳型である下鋳型2、上鋳型3を備えている。下鋳型2、上鋳型3は、それぞれ、有底略筒状(椀状)に構成された要素鋳型枠である下鋳型枠20、上鋳型枠30内に、鋳型材料を充填して固化することにより形成されている。
この実施形態においては、鋳型1は、下鋳型2、上鋳型3ともに金属で構成されたものを用いているが、鋳型1の材質はこれに限定されるものではない。たとえば、鋳型1の材質として、セラミックでもよいし、上記熱成形に耐えうる耐熱性を有するものであれば合成樹脂であってもよい。なお、鋳型1は、上記熱成形に際し鋳型1が塑性変形又は破損しない程度の強度を備えていれば問題ない。
要素鋳型枠に充填されて固化した状態の鋳型材料を要素鋳型本体と呼ぶこととすれば、下鋳型2は、下鋳型枠20と、下鋳型枠20内に形成された要素鋳型本体である下鋳型本体23とを備えており、上鋳型3は、上鋳型枠30と、上鋳型枠30内に形成された要素鋳型本体である上鋳型本体33とを備えていることになる。
この例においては、下鋳型枠20は一体に構成されているが、上鋳型枠30は、両端が開放された略筒状の上鋳型枠本体31と、上鋳型枠本体31の一方の端部を覆う略板状の上鋳型枠蓋体32とが別体として構成され、上鋳型枠本体31と上鋳型枠蓋体32とは、ボルト・ナット等の締結具(図示せず)を用いて、相互に着脱自在に構成されている。
なお、この例では、鋳型枠として歯科用フラスコを用いている。したがって、以後、下鋳型枠20をフラスコ下輪20、上鋳型枠本体31をフラスコ上輪31、上鋳型枠蓋体32をフラスコ蓋32と呼ぶことがある。換言すれば、フラスコ下輪20、フラスコ上輪31及びフラスコ蓋32により、歯科用フラスコが構成されている。
下鋳型2及び上鋳型3の少なくとも一方に、発熱体を内蔵するよう構成され、発熱体により、下鋳型2及び上鋳型3の少なくとも一方の型面の温度が被成形材の軟化温度以上の温度になるよう加熱し、加熱された型面に接するように配置された被成形材を、発熱体に基づく加熱下において要素鋳型により押圧することで、要素鋳型の型面の形状を反転した形状を有する成形品を得るよう構成されている。
図1に示すように、この例では、下鋳型本体23の内部に、発熱体である電熱コイル4が埋設されている。この、電熱コイル4により、下鋳型2の型面である下鋳型本体23の型面24のうち、少なくとも被成形材9が載置される部分(図6A,図6B参照)の温度が被成形材9の軟化温度以上の所定の温度になるよう加熱するのである。
軟化温度以上の所定の温度とは、とくに限定されるものではなく、被成形材9の材質、厚さや面積、下鋳型本体23の材質や量、上鋳型本体33の材質や量、電熱コイル4の位置、発熱量や通電解除のタイミング等により異なるものであるが、低くとも、被成形材9の軟化温度そのもの、高くとも、熱成形時に焼け焦げ等の変色やボイドが被成形材9に生じない限度の温度である(以下同様)。
下鋳型本体23の型面24に、被成形材9の厚さを超える高さの凸部25を設けるとともに、上鋳型3の型面である上鋳型本体33の型面34に、凸部25を収容可能な凹部35を設けている(図3A,図3B、図5A,図5B参照)。
凹部35の内径は、凸部25を収容可能であれば、とくに限定されるものではないが、下鋳型2と上鋳型3とを接合する際の位置決め用ガイドとしての機能を重視するのであれば、下鋳型2の凸部25の外径と略同一になるよう(同一又は僅かに大きくなるよう)形成するのが好ましい。
また、図6Bに示すように、この例では、凸部25の高さは、下鋳型本体23の型面24に平板状の被成形材9の下面92が接するよう載置したときに、凸部25の頂部25aが、被成形材9の上面93より高くなるよう構成されている。凸部25の高さは、下鋳型2と上鋳型3とを接合したときに(図1参照)凸部25の頂部25aが上鋳型3の上鋳型枠蓋体32の内面に接するような高さを越えてはならない。
なお、図7に示すように、被成形材9にガイド孔95を設け、被成形材9を下鋳型2及び上鋳型3で挟む際、凸部25の外径と略同一になるよう(同一又は僅かに大きくなるよう)形成された被成形材9のガイド孔95を貫通して、凸部25が上鋳型3の凹部35に進入するよう構成している。
凸部25の頂部25aが、図6Bに示す状態における被成形材9の上面93より、どの程度高くなるよう構成するかは、とくに限定されるものではないが、被成形材9の厚さの1倍程度以上高くするのが好ましく、より好ましくは、5倍程度以上、さらに好ましくは10倍程度以上、最も好ましくは30倍程度以上である。
このように構成することで、被成形材9を下鋳型2の型面24に載置する際、より確実に、凸部25を被成形材9のガイド孔95に通すことができる。
また、このように構成することで、被成形材9の素材となる、より大きい素材平板(この例では、繊維強化熱可塑性樹脂素材平板)から、下鋳型本体23の型面24に合う形状となるよう被成形材9を切り出す作業が必要となるような場合に、凸部25を、この作業の際の位置決め用のガイドとして利用することが可能となる。
つぎに、図2Aないし図5Bを参照しつつ、鋳型1の作製方法を説明する。図2Aは、下鋳型本体23の一部を構成するレプリカ模型5の平面図、図2Bは、図2AにおけるIIB−IIB線断面図である。図3Aは、下鋳型2の平面図、図3Bは、図3AにおけるIIIB−IIIB線断面図である。図4は、下鋳型2に基づいて上鋳型3を作製する手順を説明するための下鋳型2及びフラスコ上輪31の適部縦断面図である。図5Bは、上鋳型3の底面図、図5Aは、図5BにおけるVA−VA線断面図である。
まず、図2A,図2Bに示すレプリカ模型5を用意する。この例では、レプリカ模型5は、義歯を装着する患者の口腔内粘膜の形状を再現した形状を有する模型型面54と、その反対側の面である模型底面53と、模型底面53に略直交する模型側面52とにより囲まれた立体である。
レプリカ模型5の作製方法はとくに限定されるものではないが、たとえば、患者の口腔内粘膜の形状を模したマスター模型の複製として作製される。
この例では、レプリカ模型5を構成する材料(鋳型材料)として、高温鋳造用埋没材(たとえば、スノーホワイト:株式会社松風製)を用いているが、レプリカ模型5の材料はとくに限定されるものではなく、熱伝導性、保温性をある程度兼ね備えるとともに、所望の耐熱性及び機械的強度を備えたもの、すなわち、被成形材9を熱成形する際の、電熱コイル4(発熱体)による加熱や、下鋳型2及び上鋳型3による加圧によっても、変形、割れ等が発生しないものであればよい。
レプリカ模型5の材料として、たとえば、上記高温鋳造用埋没材その他の歯科用埋没材、歯科用石膏、又は、これらを適当な割合で混合して所望の耐熱性等を持たせた材料を用いることができる。
つぎに、図3A,図3Bに示すように、フラスコ下輪20を用意し、フラスコ下輪20内に電熱コイル4を配置するとともに、泥状の鋳型材料(粉状のものを水及び/又は専用液等で練って泥状にしたもの)をフラスコ下輪20に流し込んで、電熱コイル4を埋没する。その上に、レプリカ模型5を載せ、レプリカ模型5の周囲にも鋳型材料を流し込んでレプリカ模型5を埋没する。そして、流し込んだ鋳型材料が固まる前に鋳型材料の表面の形を整え、放置して鋳型材料が固化するのを待つ。
この例では、フラスコ下輪20内に流し込む鋳型材料として、レプリカ模型5を構成する材料と同じ材料(高温鋳造用埋没材)を用いているが、フラスコ下輪20内に流し込む鋳型材料と、レプリカ模型5を構成する材料とが異なるよう構成することもできる。なお、フラスコ下輪20内に流し込む鋳型材料のバリエーションは、上述のレプリカ模型5を構成する材料のバリエーションと同様である。
このようにしてフラスコ下輪20内に流し込まれて固化した鋳型材料と、当該鋳型材料に埋没されたレプリカ模型5とにより、下鋳型本体23が構成される。下鋳型本体23の型面24は、下鋳型本体23の表面に露出するよう配置されたレプリカ模型5の模型型面54と、この模型型面54に滑らかに連続するように形成されたフラスコ下輪20内に流し込まれて固化した鋳型材料の表面とにより構成されている。
電熱コイル4の配置は、とくに限定されるものではないが、レプリカ模型5の模型型面54の中央に可能な限り近い位置に設けるのが好ましい。とくに、電熱コイル4の上下方向(図中のY方向)の位置としては、レプリカ模型5の模型底面53に略接する位置が好ましい。
このように構成することで、電熱コイル4からの熱が被成形材9に伝わりやすいからである。また、このように構成することで、電熱コイル4とフラスコ下輪20の底部20b及び側壁部20cとの間に固化した鋳型材料が介在することになるから、電熱コイル4からの熱がフラスコ下輪20に伝わり難い。
このため、フラスコ下輪20の温度上昇を抑制することができるうえ、フラスコ下輪20を介して電熱コイル4からの熱が逃げるのを抑制することができる。この結果、フラスコ下輪20の取り扱いが容易になるとともに、熱成形のための電熱コイル4も発熱量の小さいものを用いれば済むので、設備コストをさらに抑えることが可能となる。
電熱コイル4は、温度センサーを内蔵するものが好ましく、温度センサーを内蔵していない場合には、別途、温度センサーを併用することが好ましい。また、電熱コイル4は、温度調整可能となっているものが好ましい。もっとも、温度センサー機能や温度調節機能を用いない電熱コイルであっても、発熱量が当該被成形材9の熱成形に適したものであれば、とくに問題ない。
なお、電熱コイル4は、これを泥状の鋳型材料に埋没する工程において水等の液体に接するため、耐水性(耐液性)を有することが好ましい。
電熱コイル4の電源コード41は、下鋳型本体23の中をとおり、フラスコ下輪20の接合縁20aの一部に形成された切欠き部20dからフラスコ下輪20の外部に導出され、外部の電源(図示せず)に接続されている。
なお、この実施形態においては、ピン(たとえば円柱状の金属製ピン)を1本用意しておき、フラスコ下輪20に流し込んだ鋳型材料が固まる前に、鋳型材料の表面からピンの一部を差し込むようにしている。ピンは、フラスコ下輪20の接合縁20a(フラスコ下輪20とフラスコ上輪31とを接合する際に、フラスコ上輪31の接合縁31aと接する部分)に直交する方向に差し込む。ピンの長手方向を、フラスコ下輪20とフラスコ上輪31とを接合・分離する方向に一致させるためである。
このようにして差し込まれたピンのうち鋳型材料の表面から露出している部分が、凸部25を構成している。凸部25の形状、数、位置等は限定されるものではないが、この実施形態においては、直径5mm程度の略円柱状の1つの凸部25を、レプリカ模型5の模型型面54に可能な限り近い位置(好ましくは、レプリカ模型5の模型側面52に略接する位置)に設けるようにしている。もちろん、凸部25の直径は、被成形材9の寸法や材質等に応じて適宜変更することができる。
凸部25の形状を略円柱状としているのは、製作が容易である等の理由からであり、数を1つとしているのは、2つ以上設けると、被成形材9を熱成形する際に、複数の凸部間で被成形材9の引っ張り合いが生じ、被成形材9の部分的な伸びやちぎれ、凸部の破損等を招き、成形に支障をきたすおそれがあるからである(とくに被成形材が繊維強化熱可塑性樹脂の場合には、そのおそれが大きい)。なお、2つ以上の凸部を設ける場合については後述する。
また、凸部25を、レプリカ模型5の模型型面54に可能な限り近い位置としているのは、被成形材9の大きさをできるだけ小さくするためである。つまり、被成形材9には、凸部25に通されるガイド孔95を設ける必要があるため、仮にレプリカ模型5の模型型面54と凸部25との距離が大きいと、成形品の大きさに比し必要以上に大きい被成形材9を用意して熱成形しなければならず、材料コストが増加するほか、熱成形のための発熱体も発熱量の大きいものを用いなければならず、設備コストも増加するからである。
また、下鋳型本体23の型面24のうち被成形材9の成形に用いるべき部分が略線対称の形状である場合には、凸部25を、被成形材9の成形に用いるべき部分の対称軸5に対して略線対称の位置に設けることが好ましい。図6Aに示すように、この例では、当該対称軸5上に凸部25を設けている。
このように構成すると、熱成形時に被成形材9が凸部25から受ける力は、対称軸5に対して線対称となる(この例では、対称軸5方向の引っ張り力のみを受ける)。これにより、熱成形時に被成形材9に非対称な歪みが生ずることを防止することができるのである。
なお、この実施形態においては、凸部25を形成するために鋳型材料の表面から差し込むピンとして、円柱状の金属製ピンを用いているが、ピンはこれに限定されるものではない。ピンの材料として、金属以外に、たとえば、セラミック、石膏、耐熱性樹脂などを用いることができる。ピンの形状として、円柱以外に、たとえば、四角柱や六角注などの角柱や、テーパ形状を有する柱体を用いることもできる。
また、この実施形態においては、フラスコ下輪20に流し込んだ鋳型材料が固まる前に、鋳型材料の表面からピンの一部を差し込んで凸部25を形成するようにしているが、凸部の形成方法は、これに限定されるものではない。たとえば、フラスコ下輪20に流し込んだ鋳型材料が固まったあとで、固まった鋳型材料に穴をあけ、その穴にピンを差し込んで固定することで凸部を形成するようにしてもよい。さらに、ピンを用いることなく、フラスコ下輪20に流し込んだ鋳型材料自体で凸部を形成するようにしてもよい。
このようにして、下鋳型2が作製される。つぎに、下鋳型2の型面24に分離剤(たとえばワセリン)を塗布し、その後、図4に示すように、下鋳型2を構成するフラスコ下輪20の上にフラスコ上輪31を載置する。この際、フラスコ下輪20の接合縁20aと、フラスコ上輪31の接合縁31aとが接するよう、位置合わせをしておく。
図4に示す状態で、フラスコ上輪31内に、泥状の鋳型材料を流し込んだあと、図1に示すように、フラスコ蓋32をかぶせ、フラスコ上輪31とフラスコ蓋32とをボルト・ナットなどの締結具(図示せず)で固定し、そのまま放置し、あるいは、上鋳型枠30と下鋳型枠20とを、ボルト・ナットなどの締結具(図示せず)や油圧による加圧装置等(図示せず)を用いて固定しつつ放置して、フラスコ上輪31内の鋳型材料が固化するのを待つ。鋳型材料が固化した後、フラスコ下輪20とフラスコ上輪31とを分離すれば、図5A,図5Bに示す上鋳型3が得られる。
この例では、フラスコ上輪31内に流し込む鋳型材料(上鋳型本体33を構成する材料)として、下鋳型本体23を構成する材料と異なる材料(たとえば歯科用石膏)を用いているが、これは、上鋳型3には発熱体を内蔵していないため、下鋳型本体23ほどの耐熱性が要求されないことから、コスト低減のため、より安価な材料を選択したためである。
上鋳型本体33を構成する材料は、これに限定されるものではなく、下鋳型本体23を構成する材料と同一であってもよい。そして、上鋳型本体33を構成する材料のバリエーションは、上述のレプリカ模型5を構成する材料のバリエーションと同様であり、自由に選択することができる。
このようにして形成された上鋳型3を構成する上鋳型本体33の型面34の形状は、図3A及び図3Bに示す下鋳型2を構成する下鋳型本体23の型面24の形状を反転した形状となっている。上鋳型本体33の型面34には、下鋳型本体23に設けられた凸部25の形状を反転した形状を有する凹部35が形成されている。
つぎに、図6Aないし図8を参照しつつ、鋳型1を用いた繊維強化熱可塑性樹脂の熱成形方法について説明する。
図6Aは、下鋳型2を構成する下鋳型本体23の型面24に被成形材9を載置した状態を示す平面図、図6Bは、図6AにおけるVIB−VIB線断面図である。図7は、図6Bに示す状態の被成形材9の上に上鋳型3を載せた状態を示す適部縦断面図である。図8は、図7に示す状態からさらに下鋳型2、上鋳型3間に押圧力を付与し、被成形材9を所望の形状に成形した状態を示す適部縦断面図である。
まず、図6A,図6Bに示すように、予め所定の形状に形成された平板状の被成形材9を用意し、下鋳型本体23の型面24の上に被成形材9を載置する。
このとき、下鋳型本体23の型面24のうち被成形材9の成形に用いるべき部分(この例では、型面24の盛り上がった部分及びその内側、すなわち、略馬蹄形の顎堤部分に対応する部分およびその内側の口蓋部分に対応する部分)を覆うように、被成形材9を位置決めするが、下鋳型本体23の型面24に設けられた凸部25を、被成形材9に設けられたガイド孔95に通すことで、この位置決めが容易となる。
被成形材9を上記所定の形状に形成する方法は、とくに限定されるものではなく、たとえば、この実施形態では、長炭素繊維で織られた織物に熱可塑性樹脂であるアクリル樹脂をマトリックスとして含浸させてなる素材平板(たとえば、パイロフィルシート:三菱レイヨン株式会社製(軟化温度90〜130℃)、図示せず)から、下鋳型本体23の型面24に合う形状となるよう、鋳型ごとに一つひとつ、被成形材9を切り出している。
もっとも、同一形状の成形品を多数作製する場合や、異なる形状の成形品を作製する場合(すなわち、下鋳型本体の型面の形状が鋳型ごとに異なる場合)であっても、被成形材9の形状が同一で済むような場合は、たとえば、型による打ち抜きなど、量産に適した方法で、被成形材9を得るようにしてもよい。
なお、電熱コイル4が内蔵されている下鋳型本体23の型面24に被成形材9を載置する際、型面24と被成形材9との間に、離型用の部材(たとえば、耐熱性を有する薄膜部材、ペースト状部材等)を介在させるのが好ましい。熱成形時に被成形材9が型面24に融着して離型が困難になるのを防止するためである。
たとえば、離型用の薄膜部材として、ゴム状の薄膜部材を用いることができる。ゴム状の薄膜部材は、成形時に、型面24に沿って容易に弾性変形するため、好都合である。
電熱コイル4が内蔵されていない上鋳型本体33の型面34と被成形材9との間にも離型用の部材を介在させるよう構成してもよい。型面34と被成形材9との型離れをよくする必要がある場合もあるからである。
つぎに、電熱コイル4に通電し、下鋳型本体23を介して、その型面24を、被成形材9の軟化温度以上の所定の温度になるよう加熱する。
つぎに、図7に示すように、被成形材9を載置した下鋳型2の型面24と上鋳型3の型面34とが対向する位置にくるよう、下鋳型2の上に、被成形材9を介して上鋳型3を載置する。このとき、下鋳型2の下鋳型本体23に設けられた凸部25と、上鋳型3の上鋳型本体33に設けられた凹部35とがかみ合って、下鋳型2に対する上鋳型3の位置決めが、より正確に行われる。
つぎに、図7に示す状態から、油圧による加圧装置等(図示せず)を用いて、下鋳型2と上鋳型3とを互いに近接する方向に押圧する。
下鋳型2の型面24の温度が被成形材9の軟化温度以上の所定の温度になっているため、型面24に接して載置された被成形材9が加熱され軟化するとともに、下鋳型2の型面24と上鋳型3の型面34との間で押圧されるため、図8に示すように、被成形材9は、型面24と型面34とに沿った形状に変形する。
つぎに、電熱コイル4への通電を解除したのち、図8に示す状態を維持したまま冷却(たとえば、徐冷、急冷、室温下での放置等による冷却)し、冷却後、下鋳型2と上鋳型3とを分離して、成形品(変形して固化した被成形材9)を取り出す。
このようにして、鋳型1を用いて熱成形を行うことにより、被成形材9から成形品を得ることができる。典型的には、1つの鋳型は1回の熱成形にのみ用いられるが、鋳型の損耗が軽微であれば、同一の鋳型を用いて2回以上の熱成形を行うことも可能であり、この場合には、同一の鋳型を用いて同一形状の2つ以上の成形品を得ることも可能である。
なお、鋳型1から取り出された成形品は、そのまま、あるいは必要に応じてカット、研磨等の後加工が施され、義歯床の補強材が完成する。このようにして、鋳型1を用いて、長炭素繊維で織られた織物に熱可塑性樹脂であるアクリル樹脂をマトリックスとして含浸させてなる平板状の素材から、成形品である義歯床の補強材を得ることができる。
なお、上述の例では、電熱コイル4に通電する前に、被成形材9を型面24に載置するよう構成しているが、被成形材9を型面24に載置するタイミングはこれに限定されるものではない。たとえば、電熱コイル4に通電開始したあと、下鋳型2の型面24の温度が被成形材9の軟化温度を下回る所定の温度になった後に、被成形材9を型面24に載置するようにしてもよいし、型面24の温度が被成形材9の軟化温度以上の所定の温度になった後に、被成形材9を型面24に載置するようにしてもよい。
また、下鋳型2の上に被成形材9を介して上鋳型3を載置するタイミングも、とくに限定されるものではない。上述の例では、下鋳型2の型面24の温度が被成形材9の軟化温度以上の所定の温度になった後に、上鋳型3を載置するようにしているが、たとえば、電熱コイル4に通電を開始したあと、型面24の温度が被成形材9の軟化温度を下回る所定の温度になった後に、上鋳型3を載置するようにしてもよいし、電熱コイル4に通電する前に、上鋳型3を載置するようにしてもよい。
また、加圧装置等による押圧のタイミングも、とくに限定されるものではないが、被成形材9が部分的に軟化を開始した後であって完全に軟化する前に押圧を開始するのが好ましい。被成形材9が全く軟化していない状態で押圧を開始すると被成形材9が破壊するおそれがある一方、被成形材9が繊維強化熱可塑性樹脂で構成されている場合、被成形材9を構成するマトリックスの樹脂が完全に軟化してしまうと、被成形材9を構成する繊維がマトリックスの樹脂から離脱するおそれがあるからである。
また、電熱コイル4への通電を解除するタイミングもとくに限定されるものではない。上述の例では、加圧装置等による押圧が完了した時点で、電熱コイル4への通電を解除しているが、余熱による熱成形が可能であれば、加圧装置等による押圧の途中、あるいは、加圧装置等による押圧の開始前に、電熱コイル4への通電を解除してもよいし、さらには、上鋳型3を下鋳型2の上に載置する前や、被成形材9を下鋳型2の型面24の上に載置する前に、電熱コイル4への通電を解除してもよい。
このようにして得られた義歯床の補強材は、歯科で多用されるアクリル系の床用レジンとの接合性が良好である。このため、アクリル系の床用レジンにより義歯床を作製する際に、たとえば、当該床用レジンの間にこの補強材を芯材として挟み込んで、サンドイッチ構造の義歯床を得ることができる。本例では、厚さ約0.25mmの補強材をアクリル系の床用レジンで挟み込んでなる合計厚さ約1mmのサンドイッチ構造の義歯床(炭素繊維強化義歯床)を得ている。
このようにして、金属による補強材を用いなくても高強度の義歯床を実現することができる。すなわち、金属アレルギーのおそれがなく、高強度で、しかも軽量の義歯床を実現することが可能となる。
なお、上述の実施形態においては、下鋳型2の型面24に1つの凸部25を設ける場合を例に説明したが、凸部の数は1つに限定されるものではなく、2以上の凸部を設けるようにしてもよい。
一般的には、2以上の凸部の位置はとくに限定されるものではないが、下鋳型本体の型面のうち被成形材の成形に用いるべき部分が略線対称の形状である場合には、下鋳型2の場合と同様の理由から、すべての凸部を、被成形材の成形に用いるべき部分の対称軸に対して略線対称の位置に配置するのが好ましい。
図9は、凸部を2つ設けた下鋳型102の型面24に被成形材109を載置した状態を示す平面図である。下鋳型102においては、型面24に2つの凸部125a、125bを設けている。この例においては、凸部125a、125bの双方を、下鋳型本体23の型面24のうち被成形材109の成形に用いるべき部分の対称軸5上に設けている。
より詳しくは、図9に示す下鋳型102においては、凸部125a、125bを、対称軸5上であって、型面24のうち被成形材109の成形に用いるべき部分の両端近傍に配置している。そして、凸部125aは、図3Aに示す凸部25と同様の位置に設けられている。
下鋳型102を用いた熱成形の対象となる被成形材109には、下鋳型102の凸部125a、125bに対応する位置に、これらの凸部を通すためのガイド孔195a、195bが設けられているが、これらのガイド孔のうち一方は丸孔、他方は長孔になっている。図9の例では、ガイド孔195aが丸孔、ガイド孔195bが長孔になっている。
ガイド孔195bの長軸上にガイド孔195aの中心が位置するよう構成されている。ガイド孔195bの長軸方向の寸法はとくに限定されるものではないが、下鋳型102の型面24に被成形材109を載置したとき、下鋳型102の凸部125a及び125bのいずれもが、熱成形の前後いずれの時点においても、干渉なくガイド孔195a、195bに挿通可能であるような寸法であることが好ましい。
このように構成すれば、図9に示すように、下鋳型102の型面24に被成形材109を載置したとき、被成形材109は、型面24に対して平行移動のみならず回転移動も不能になるため、被成形材109の位置決めをより正確かつ容易に行うことができる。また、下鋳型2の場合と同様に、熱成形時に被成形材109がこれら凸部から受ける力は、対称軸5に対して線対称となる(この例では、凸部125aから、対称軸5方向の引っ張り力のみを受ける)。このため、熱成形時に、被成形材109に非対称な歪みが生ずることを防止することができる。また、熱成形時に2つの凸部125a、125b間で被成形材109の引っ張り合いが生ずることもない。
下鋳型102の、この余の構成は、下鋳型2と同様であり、下鋳型2に適用される種々のバリエーションは、その性質上、下鋳型102に適用不能なものを除き、すべて、下鋳型102にも適用される。
なお、下鋳型102と組み合わせて用いられる上鋳型には、上鋳型3の場合と同様に、凸部125a、125bが進入可能な2つの凹部が設けられている。
図10は、凸部を3つ設けた下鋳型202の型面24に被成形材209を載置した状態を示す平面図である。下鋳型202においては、型面24に3つの凸部225a、225b、225cを設けている。この例においては、凸部225a、225b、225cを、下鋳型本体23の型面24のうち被成形材209の成形に用いるべき部分の対称軸5に対して略線対称の位置に配置している。
図10に示す下鋳型202においては、凸部225a、225b、225cを、対称軸5に略直行する線6上であって対称軸5に対して略線対称となる位置に配置している。そして、凸部225aは、図3Aに示す凸部25と同様の位置に設けられている。もっとも、凸部225a、225b、225cを、対称軸5に対して略線対称の位置に配置する場合、必ずしもこれらを一直線上に配置する必要はなく、たとえばV字状に配置することもできる。
下鋳型202を用いた熱成形の対象となる被成形材209には、下鋳型202の凸部225a、225b、225cに対応する位置に、これらの凸部を通すためのガイド孔295a、295b、295cが設けられているが、これらのガイド孔のうち、中央のガイド孔は丸孔、他のガイド孔は長孔になっている。図10の例では、ガイド孔295aが丸孔、ガイド孔295b、295cが長孔になっている。
ガイド孔295b、295cのそれぞれの長軸の交点にガイド孔295aの中心が位置するよう構成されている。ガイド孔295b、295cの長軸方向の寸法はとくに限定されるものではないが、下鋳型202の型面24に被成形材209を載置したとき、下鋳型202の凸部225a、225b、225cのいずれもが、熱成形の前後いずれの時点においても、干渉なくガイド孔295a、295b、295cに、それぞれ挿通可能であるような寸法であることが好ましい。
このように構成すれば、図10に示すように、下鋳型202の型面24に被成形材209を載置したとき、被成形材209は、型面24に対して平行移動のみならず回転移動も不能になるため、被成形材209の位置決めをより正確かつ容易に行うことができる。また、下鋳型2の場合と同様に、熱成形時に被成形材209がこれら凸部から受ける力は、対称軸5に対して線対称となる(図10の例では、凸部225a、225b、225cから、それぞれ対称軸5方向の引っ張り力を受け、凸部225b、225cから受ける力は略同一となる)。このため、熱成形時に、被成形材209に非対称な歪みが生ずることを防止することができる。また、熱成形時に3つの凸部225a、225b、225c間で被成形材209の引っ張り合いが生ずることもない。
下鋳型202の、この余の構成は、下鋳型2と同様であり、下鋳型2に適用される種々のバリエーションは、その性質上、下鋳型202に適用不能なものを除き、すべて、下鋳型202にも適用される。
なお、下鋳型202と組み合わせて用いられる上鋳型には、上鋳型3の場合と同様に、凸部225a、225b、225cが進入可能な3つの凹部が設けられている。
なお、上述の各実施形態においては、発熱体(電熱コイル4)を、下鋳型2におけるレプリカ模型5とフラスコ下輪20の底部20bとの間に設ける場合を例に説明したが、発熱体を設ける場所はこれに限定されるものではない。たとえば、発熱体をレプリカ模型5内に設けるようにしてもよいし、フラスコ下輪20の底部20bなどフラスコ下輪20自体に設けるようにしてもよい。
発熱体をレプリカ模型5内に設けることができれば、被成形材9に熱が伝わりやすい上、外部に熱が漏れにくくなるので好都合である。一方、発熱体をフラスコ下輪20自体に設けると、被成形材9への熱の伝達や、外部への熱の漏れ等に関し難があるものの、下鋳型本体23を形成する毎に発熱体を埋め込んだり取り外したりする必要がなく、作業の簡素化が期待できるうえ、発熱体の損耗を抑制することができる。
また、発熱体の個数は、とくに限定されるものではなく、型面24の形状や大きさ、被成形材9の材質等に応じて、複数用いることもできる。
また、上述の実施形態においては、発熱体として電熱コイルを用いているが、発熱体の形状や種類も限定されるものではない。たとえば、コード状の発熱体やシート状に形成された発熱体を用いることもできる。シート状に形成された発熱体として、たとえば、シリコンラバーシートの間に発熱体を挟みこんで薄いシート状に仕上げたシリコンラバーヒーター(株式会社加島製)を例示することができる。
また、発熱体は、電源コードにより電気エネルギーを供給されて発熱するものが典型例であるが、発熱体へのエネルギーの供給方法はこれに限定されるものではない。たとえば、液体や気体のような熱媒体を介して発熱体にエネルギーを供給するよう構成することもできる。この場合には、外部熱源からパイプ、ホースその他の管路を介して、発熱体に熱エネルギーが供給される。
また、電磁誘導やマイクロ波等により、非接触で、発熱体にエネルギーを供給して発熱するよう構成することもできる。
電磁誘導により発熱させる方法においては、たとえば、発熱体として鉄等の磁性体を鋳型に内蔵しておき、外部に設置された交流コイルから発せられた磁力線により磁性体を発熱させる。ただし、この方法では、外部に設置された交流コイルと鋳型に内蔵された磁性体とが、ある程度以上離れると磁界強度が急減することから、両者が近接していないと機能しない。このため、磁性体(発熱体)を設ける位置に対する制限が大きいのが難点である。
一方、マイクロ波による方法は、電子レンジ等に内蔵されたマグネトロンから発せられたマイクロ波を照射して発熱体を発熱させるため、マイクロ波が届く範囲であれば発熱体を発熱させることができる。このため、マグネトロンと発熱体とがある程度離れていても機能するので、上記の電磁誘導による方法に比し、発熱体を設ける位置に対する制限は小さい。マイクロ波による発熱方法については後述する。
さらに、非接触で発熱体を過熱する方法として、化学反応(発熱反応)を利用する方法も考えられる。鋳型に、特定条件下で発熱反応を起こす化学物質を内蔵しておき、反応条件を付与することにより発熱反応を生ぜしめるのである。
また、上述の実施形態においては、発熱体を下鋳型2のみに内蔵する場合を例に説明したが、この発明はこれに限定されるものではない。たとえば、発熱体を上鋳型3に内蔵するよう構成することもできる。さらに、発熱体を下鋳型2及び上鋳型3の双方に内蔵するよう構成することもできる。これらの場合、発熱体を下鋳型2に内蔵する場合における発熱体の設置方法や、位置、個数、種類その他の各種バリエーションは、その性質上、発熱体を上鋳型3に内蔵する場合に適用不能なものを除き、発熱体を上鋳型3に内蔵する場合にも適用される。
図11Aは、マイクロ波により非接触で発熱体にエネルギーを供給して発熱させる場合に用いられる下鋳型の一例である下鋳型302の構成を示す適部縦断面図である。下鋳型302においては、マイクロ波を吸収して発熱する微小なマイクロ波発熱材304を発熱体として用い、これを、下鋳型本体23の所定領域(この例では、下鋳型本体23のうちレプリカ模型5が占める領域を除く領域内の所定の領域)に多数、分散して配置している。
マイクロ波発熱材304の構成はとくに限定されるものではないが、μmオーダーのピッチでコイル状に巻かれた非晶質の炭素繊維(たとえば、カーボンマイクロコイル(CMC):シーエムシー技術開発株式会社製)を例示することができる。
マイクロ波発熱材304を配置する領域はとくに限定されるものではないが、上述の発熱コイル4の場合と同様に、型面24のうち被成形材9の成形に用いるべき部分の中央(すなわち、レプリカ模型5の模型型面54の略中央)に可能な限り近い位置に設けるのが好ましい。
図11Aの例では、型面24のうち被成形材の成形に用いるべき部分の、図面上、略直下の領域であって、レプリカ模型5の模型底面53に略接する位置から、図面上、下方に所定の厚さをもった領域の内部に、多数のマイクロ波発熱材304(図中、小円を用いて概念的に示している)を配置している。
このように構成することで、マイクロ波発熱材304からの熱が、比較的、被成形材9に伝わりやすいからである。また、このように構成することで、マイクロ波発熱材304とフラスコ下輪20の底部20b及び側壁部20cとの間に、マイクロ波発熱材304を含まない固化した鋳型材料の領域が介在することになるから、マイクロ波発熱材304からの熱がフラスコ下輪20に伝わり難い。
このため、図3A、図3Bに示す下鋳型2における電熱コイル4の場合と同様に、フラスコ下輪20の温度上昇を抑制することができるうえ、フラスコ下輪20を介して発熱体からの熱が逃げるのを抑制することができ、保温性に優れる。
もっとも、図11Aに示す領域以外の任意の領域にマイクロ波発熱材304を配置してもよいし、下鋳型302を構成する下鋳型本体23のうちレプリカ模型5を除く領域全体にマイクロ波発熱材304を配置してもよい。
下鋳型本体23の内部に、マイクロ波発熱材304を配置した領域と、マイクロ波発熱材304を含まない領域とを併存させる方法はとくに限定されるものではないが、たとえば、下鋳型本体23を形成するために泥状の鋳型材料を用意するにあたり、所定個数(所定量)のマイクロ波発熱材304を混入した発熱体入りの鋳型材料と、マイクロ波発熱材304を混入しない通常の鋳型材料との2種類の鋳型材料を用意しておき、フラスコ下輪20に鋳型材料を充填する際に、これら2種類の鋳型材料を適宜使い分けて充填すればよい。
なお、下鋳型本体23の内部にマイクロ波発熱材304を配置するにあたり、マイクロ波発熱材304をそのまま用いてもよいが、マイクロ波発熱材304に加工を施してなる2次加工品や、2次加工品にさらに加工を施してなる3次以上の加工品を用いてもよい。
マイクロ波発熱材304の2次加工品として、たとえば、複数のマイクロ波発熱材304を合成樹脂等により固めて粒状にしたもの(たとえば、複数のマイクロ波発熱材をアクリル系樹脂で固めて、直径0.1mm〜1mm程度の粒状にしたCMCビーズ:シーエムシー技術開発株式会社製)が例示される。3次加工品として、たとえば、このCMCビーズを素材として形成されたシートが例示される。
下鋳型302を構成するフラスコ下輪20(下鋳型枠20)の材質は、マイクロ波を透過するものであればとくに限定されるものではなく、たとえば、熱成形に耐えうる耐熱性を有する合成樹脂を用いて構成することができる。
下鋳型302のその余の構成は、下鋳型2と同様であり、その性質上、下鋳型302に適用不能なものを除き、下鋳型2に適用される種々のバリエーションは、下鋳型302にも適用される。
図11Bは、マイクロ波により非接触で発熱体にエネルギーを供給して発熱させる場合に用いられる、下鋳型の他の例である下鋳型402の構成を示す適部縦断面図である。下鋳型402は、多数のマイクロ波発熱材304を、レプリカ模型5内の所定領域に分散して配置している点で、図11Aに示す下鋳型302と異なる。
レプリカ模型5内においてマイクロ波発熱材304を配置する領域はとくに限定されるものではないが、上述の下鋳型302の場合と同様に、型面24のうち被成形材9の成形に用いるべき部分の中央に可能な限り近い位置に設けるのが好ましい。
図11Bの例では、型面24のうち被成形材の成形に用いるべき部分の、図面上、略直下の領域であって、型面24から、図面上、下方に所定の厚さをもった領域の内部に、多数のマイクロ波発熱材304を配置している。このように構成することで、マイクロ波発熱材304からの熱が被成形材9に、さらに伝わりやすくなるからである。
もっとも、レプリカ模型5内において、図11Bに示す領域以外の任意の領域にマイクロ波発熱材304を配置してもよいし、レプリカ模型5全体にマイクロ波発熱材304を配置してもよい。さらに、レプリカ模型5内のいずれかの領域、及び、下鋳型本体23のうちレプリカ模型5を除く領域全体若しくはその一部の領域にも、併せてマイクロ波発熱材304を配置するようにしてもよい。
下鋳型402のその余の構成は、下鋳型302と同様であり、その性質上、下鋳型402に適用不能なものを除き、下鋳型302に適用される種々のバリエーションは、下鋳型402にも適用される。
マイクロ波発熱材304を配置する対称は下鋳型に限定されるものではない。図12Aは、マイクロ波発熱材304を上鋳型本体33の所定領域に多数、分散配置してなる上鋳型の一例である上鋳型503の構成を示す適部縦断面図である。
マイクロ波発熱材304を配置する領域はとくに限定されるものではないが、上鋳型本体33の型面34のうち被成形材9の成形に用いるべき部分の中央に可能な限り近い位置に設けるのが好ましい。
図12Aの例では、型面34のうち被成形材の成形に用いるべき部分の、図面上、略直上の領域であって、型面34から、図面上、上方に所定距離隔てた面と、フラスコ蓋32の内面から、図面上、下方に所定距離隔てた面とによって囲まれた領域の内部に、多数のマイクロ波発熱材304を配置している。
このように構成することで、マイクロ波発熱材304からの熱が被成形材9に、比較的伝わりやすいうえ、フラスコ上輪31、フラスコ蓋32を介して発熱体からの熱が逃げるのを抑制することができるため、保温性に優れる。
上鋳型503を構成するフラスコ上輪31及びフラスコ蓋32(上鋳型枠30)の材質は、マイクロ波を透過するものであればとくに限定されるものではなく、たとえば、熱成形に耐えうる耐熱性を有する合成樹脂を用いて構成することができる。
上鋳型503のその余の構成は、上鋳型3と同様であり、その性質上、上鋳型503に適用不能なものを除き、上鋳型3に適用される種々のバリエーションは、上鋳型503にも適用される。
図12Bは、マイクロ波発熱材304を上鋳型本体33の所定領域に多数、分散配置してなる上鋳型の他の例である上鋳型603の構成を示す適部縦断面図である。
図12Bの例では、型面34のうち被成形材の成形に用いるべき部分の、図面上、略直上の領域であって、型面34と、型面34から、図面上、上方に所定距離隔てた面とによって囲まれた領域の内部に、多数のマイクロ波発熱材304を配置している。
このように構成することで、マイクロ波発熱材304からの熱が被成形材9に、さらに伝わりやすくなる。
もちろん、図12Aに示す領域や図12Bに示す領域以外の任意の領域にマイクロ波発熱材304を配置してもよいし、上鋳型603を構成する上鋳型本体33全体にマイクロ波発熱材304を配置してもよい。
上鋳型603のその余の構成は、上鋳型503と同様であり、その性質上、上鋳型603に適用不能なものを除き、上鋳型503に適用される種々のバリエーションは、上鋳型603にも適用される。
また、マイクロ波発熱材304を配置するのは、下鋳型、上鋳型のいずれか一方に限定されるものではなく、下鋳型、上鋳型の双方にマイクロ波発熱材304を配置するよう構成することもできる。
なお、下鋳型、上鋳型の双方に発熱体を設ける場合、上述のように、双方に同方式・同種の発熱体を設けるようにしてもよいが、方式及び/又は種類の異なる発熱体を設けるようにしてもよい。たとえば、下鋳型に、電熱コイルやシリコンラバーヒーター等の電気コードにより電気エネルギーを供給する方式の発熱体を設け、上鋳型に、マイクロ波発熱材や磁性体等の非接触でエネルギーを供給する方式の発熱体を設けるようにしてもよいし、その逆にしてもよい。
つぎに、発熱体としてマイクロ波発熱材304の配置された下鋳型及び/又は上鋳型を用いて被成形材9の熱成形を行う場合の手順について、まず、図11Aに示す下鋳型302を例に説明する。
この場合の手順として、まず、下鋳型302を電子レンジ(図示せず)内にいれ、マイクロ波を照射する。これにより、下鋳型本体23内に配置されたマイクロ波発熱材304が発熱する。マイクロ波発熱材304の発熱により、下鋳型本体23が熱せられ、型面24の温度が上昇する。型面24の温度が被成形材9の軟化温度以上の所定の温度になったとき、下鋳型302を電子レンジから取出し、所定の場所(たとえば、油圧による加圧装置等(図示せず))にセットする。
つぎに、このようにして加熱された下鋳型302の型面24に被成形材9を載置する。この後の工程は、前述の、発熱体として電熱コイル4を備えた下鋳型2を用いて被成形材9の熱成形を行う場合の手順と同様である。
つぎに、図12Aに示す上鋳型503を用いて被成形材9の熱成形を行う場合の手順について説明する。
この場合は、まず、上鋳型503と組み合わされる下鋳型(図示せず。図6A、図6B参考)の型面24に被成形材9を載置したものを、所定の場所(たとえば、油圧による加圧装置等(図示せず))にセットしておく。つぎに、上述の下鋳型302の場合と同様の方法で上鋳型503を加熱し、その型面34の温度が被成形材9の軟化温度以上の所定の温度になったところで電子レンジから取り出し、被成形材9を載置した下鋳型の型面24と上鋳型503の型面34とが対向する位置にくるよう、下鋳型の上に、被成形材9を介して上鋳型503を載置する(図7参考)。
この後の工程は、前述の、発熱体として電熱コイル4を備えた下鋳型2を用いて被成形材9の熱成形を行う場合の手順と同様である。
なお、上述の各実施形態においては、熱成形用の鋳型が、被成形材を両側から挟んで押圧するための一対の要素鋳型により構成されている場合を例に説明したが、この発明はこれに限定されるものではない。熱成形用の鋳型が3つ以上の要素鋳型により構成される場合、たとえば、熱成形用の鋳型が、被成形材を三方から挟んで押圧するための3つの要素鋳型により構成されている場合にも、この発明を適用することができる。
また、上述の各実施形態においては、成形品として、義歯床の補強材を得る場合を例に説明したが、この発明はこれに限定されるものではない。成形品として、たとえば、人工歯や人工骨の補強材(構成材)、義足や義肢の補強材(構成材)、その他の多種・小ロット品を得るために用いることができる。
また、上述の各実施形態においては、被成形材として、長炭素繊維で織られた織物に熱可塑性樹脂であるアクリル樹脂をマトリックスとして含浸させてなる平板状のものを用いた場合を例に説明したが、この発明はこれに限定されるものではない。
たとえば、マトリックスとして、アクリル樹脂以外の熱可塑性樹脂を用いたものでも良い。また、たとえば、長炭素繊維を一方向に配列してなる炭素繊維強化熱可塑性樹脂平板の繊維方向が異なるよう複数枚積層してなる積層平板を被成形材として用いることもできる。また、強化繊維として、炭素繊維以外の繊維、たとえば、ガラス繊維、ケブラー(デュポン社)等のアラミド繊維を用いることもできるし、異種の繊維を組み合わせて強化繊維としてもよい。さらに、被成形材として、強化繊維を含まない、熱可塑性樹脂のみで構成されたものを用いる場合にも、この発明を適用することができる。
また、上述の各実施形態においては、板状の被成形材として、平板状のものを例に説明したが、板状の被成形材としては、他に、曲面板状のものや、曲面状の部分と平面状の部分が混在する板状のものも含まれる。また、被成形材の形態としては、板状のもの以外に、シート状のものやフィルム状のものも含まれる。これらは、平面的なものであってもよいし、曲面から構成される部分を含むものであってもよい。さらに、被成形材の形態は、板状、シート状、フィルム状のものに限定されるものではなく、たとえば、中実ブロック状のもの、中空ブロック状のもの、開口を有する箱状のものなど、あらゆる形態・形状のものを含む。
上記においては、本発明を好ましい実施形態として説明したが、各用語は、限定のために用いたのではなく、説明のために用いたものであって、本発明の範囲および精神を逸脱することなく、添付のクレームの範囲において、変更することができるものである。また、上記においては、本発明のいくつかの典型的な実施形態についてのみ詳細に記述したが、当業者であれば、本発明の新規な教示および利点を逸脱することなしに上記典型的な実施形態において多くの変更が可能であることを、容易に認識するであろう。したがって、そのような変更はすべて、本発明の範囲に含まれるものである。