本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
図1に、本発明における潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)の少なくとも一部に、基材と異なる色を有する印刷画像(3)が形成されており、印刷画像(3)は、背景部(4)と、情報部(5)から構成されている。説明の便宜上、印刷画像(3)の中にわずかに濃淡を有する桜模様が形成されているが、実際には桜模様は視認不可である。
図2に、背景部の構成を示す。背景部(4)は、図2(a)に示す潜像要素(6)が複数配置されて成る潜像要素群(9)と、図2(b)に示すカモフラージュ要素(7)が複数配置されて成るカモフラージュ要素群(10)から成る。背景部(4)は、潜像要素群(9)とカモフラージュ要素群(10)を嵌め合わせるように構成されている。
本発明における潜像要素(6)及びカモフラージュ要素(7)は、画線及び画素から選択される少なくとも一つ又はそれぞれの組合せで成る。それぞれの組合せとは、例えば、潜像要素(6)を画線で形成し、カモフラージュ要素(7)を画素で形成する等、要素同士を異なる組み合わせにしても良く、更に潜像要素群(9)を形成する複数の潜像要素(6)のそれぞれを画線で形成するか、又は画素で形成するといった組み合わせにしても良い。
本明細書における「画線」とは、印刷画像(3)を形成する最小単位である網点を一定方向に隙間なく連続して配置して構成した画像要素であって、点線や破線の分断線、直線、曲線及び波線のことであり、如何なる画線形状で構成しても本発明の技術思想に含まれる。また、同様に「画素」とは、網点を複数集合させて形成した一塊の画像要素であって、形状に関しては円でも多角形でも星型等でも良く、その他特殊な文字や記号等も含まれる。なお、本発明を実施するための形態においては、潜像要素(6)及びカモフラージュ要素(7)のいずれもが画線の場合で説明する。
図2(a)の一部拡大図に示すように、潜像要素群(9)は、特定の画線幅(W1)の潜像要素(6)が、一定のピッチ(P)で規則的に特定の方向に複数配置されて成る。また、図2(b)の一部拡大図に示すように、カモフラージュ要素群(10)は、特定の画線幅(W2)のカモフラージュ要素(7)が、一定のピッチ(P)で規則的に特定の方向に複数配置されて成る。本発明における「特定の方向」とは、潜像要素(6)及びカモフラージュ要素(7)が画線の場合、図面中におけるS1方向のことであり、画線と直交する方向に規則的に配置されている。
潜像要素(6)は、第一のインキによって形成され、カモフラージュ要素(7)は、第二のインキによって形成される。潜像要素(6)をカモフラージュ要素(7)よりも、淡くて太い画線幅(W1)とし、カモフラージュ要素(7)を潜像要素(6)よりも濃くて細い画線幅(W2)とすることで、一定の階調(濃度)を有した濃淡のない、フラットな画像を形成する。説明の便宜上、背景部(4)においても、わずかに濃淡を有する桜模様が形成されているが、実際には、濃淡が全くない、完全にフラットな画像である。
図3に、情報部(5)の構成を示す。情報部(5)は、特定の画線幅(W3)の情報要素(8)が、一定のピッチ(P)で規則的に特定の方向に複数配置されて成る。本発明における「特定の方向」とは、情報要素(8)が画線の場合、図面中におけるS1方向のことであり、画線と直交する方向に規則的に配置されている。
本発明における情報要素(8)とは、画線及び画素から選択される少なくとも一つ又はそれぞれの組合せのことであり、本明細書でいう「画素」及び「画線」は、前述したとおりである。
また、潜像要素(6)のピッチ(P)、カモフラージュ要素(7)のピッチ(P)及び情報要素(8)のピッチ(P)は、同一ピッチである。ただし、後述するように、潜像要素(6)とカモフラージュ要素(7)と情報要素(8)が、それぞれ重複しないように形成されていれば、潜像印刷物の作製段階において、多少のピッチのズレが生じても良い。
情報要素(8)は、第二のインキによって形成される。
なお、図面中の一部拡大図において、潜像要素(6)は横縞の画線で図示しており、カモフラージュ要素(7)は縦縞の画線で図示しており、情報要素(8)はドットで図示しているが、それぞれの要素の構成を区別しやすくするために横縞、縦縞及びドットで図示しているものであって、実際の各要素を横縞、縦縞及びドットの要素で形成されているわけではない。また、これ以降の図面においても、潜像要素、カモフラージュ要素及び情報要素をそれぞれ横縞、縦縞及びドットの要素で図示しているが、これらについても前述同様、それぞれの要素の構成を区別しやすくするために横縞、縦縞及びドットで図示しているものであって、実際の各要素が横縞、縦縞及びドットの要素で形成されているわけではない。
図4に、背景部(4)と情報部(5)の重ね合わせの適正な位置関係を示す。一部拡大図に示すように、背景部(4)における潜像要素群(9)を形成している潜像要素(6)と、背景部(4)におけるカモフラージュ要素群(10)を形成しているカモフラージュ要素(7)と、情報部(5)を形成している情報要素(8)は、それぞれ重複しないように形成する必要がある。これは、潜像要素(6)と、カモフラージュ要素(7)と、情報要素(8)のうちの、いずれか二つ以上の要素が重複して形成されると、重複した部分だけ階調が変化してしまい、本発明の潜像印刷物(1)を拡散反射光下で観察した際、印刷画像(3)に不必要な濃淡が生じてしまうか、又は本来視認することができないはずの潜像要素群(9)が視認されてしまう問題が生じることを防ぐためである。
各要素が重複した領域がある場合には、その領域に不必要な濃淡が生まれるため、それぞれの要素同士がオーバーラップした領域は、基本的には設けない。ただし、印刷の刷り合わせに冗長性を持たせることを目的として、各要素の輪郭部のみに、わずかなオーバーラップ部を設けることは本技術の技術的思想の範囲内である。
なお、後述される本発明における「正反射光下」とは、光源から印刷物へ入射する光の角度と、印刷物を反射した光の角度が略等しい場合、例えば、光源から潜像印刷物に入射角度−45°で光が入射した場合、受光角度45°近傍の領域の強い反射光が生じている領域のことであり、本発明における「正反射光下の観察」とは、観察者の視点が、前述した正反射光が生じている領域中にあって印刷物を観察している状況を示している。正反射光が多く存在するこの領域は、入射光と等しい角度を中心に生じるが、その角度範囲は使用する基材又は使用するペアインキによって異なる。
また、「拡散反射光下」とは、前述した正反射光下の領域以外のことであり、光源から印刷物へ入射する光の角度と、印刷物を反射した光の角度が大きく異なる場合で、正反射光がほとんど存在しない領域のことであり、本発明における「拡散反射光下の観察」とは、観察者の視点が、正反射光がほとんど存在しない領域中にあって印刷物を観察している状況を示している。
前述したように、潜像要素(6)、カモフラージュ要素(7)及び情報要素(8)は、それぞれ画線でも画素でも良く、また、それらの組合せについても、すべての組合せにおいて本発明の潜像印刷物が作製可能である。
これまで、本発明の潜像印刷物は、基材上の少なくとも一部の印刷画像が形成されており、その印刷画像は、画線を複数配置して成る潜像要素群と画線を複数配置して成るカモフラージュ要素群によって、背景部が形成されており、画線を複数配置して成る情報部が重なることで形成される場合について説明してきた。しかし、前述したとおり、本発明においては、画線ではなく画素でも形成可能であり、基材上の少なくとも一部の印刷画像が形成されており、その印刷画像は、画素を複数配置して成る潜像要素群と画素を複数配置して成るカモフラージュ要素群によって、背景部が形成されており、さらに背景部の上に、画素を複数配置して成る情報部が重なることで形成される場合でも良い。
ただし、図5(a)に示すように、背景部(4)における潜像要素群及びカモフラージュ要素群を画素によって形成する場合、潜像要素群は、特定の画素幅(R1)及び特定の画素高さ(H1)の潜像要素(6)が、一定のピッチ(P)で規則的に特定の方向に複数配置されて成り、カモフラージュ要素群は、特定の画素幅(R2)及び特定の画素高さ(H2)のカモフラージュ要素(7)が、一定のピッチ(P)で規則的に特定の方向に複数配置されて成る。ここで、潜像要素(6)とカモフラージュ要素(7)は面積率が異なっている必要があるが、それを満たせばそれぞれの要素の構成要件、具体的には、高さ(H1、H2)及び画素幅(R1、R2)の関係に制限はない。
なお、画素の高さ(H1)に関しては、画素幅(R1)と同一又は異なっていても良く、画素の高さ(H2)に関しても、画素幅(R2)と同一又は異なっていても良い。本発明における「特定の方向」とは、潜像要素(6)及びカモフラージュ要素(7)が画素の場合、図面中におけるS1方向及びS2方向の上下左右方向のことであり、図に示すように、マトリクス状に規則的に配置されて成る。
さらに、図5(b)に示すように、情報部(5)を画素によって形成する場合、情報部(5)は、特定の画素幅(R3)及び特定の画素高さ(H3)の情報要素(8)が、一定のピッチ(P)で規則的に特定の方向に複数配置されて成る。
なお、画素の高さ(H3)に関しては、画素幅(R3)と同一又は異なっていても良い。本発明における「特定の方向」とは、情報部(5)が画素の場合、図面中におけるS1方向及びS2方向の上下左右方向のことであり、図に示すようにマトリクス状に、規則的に配置されて成る。
図6に、図5(a)に示した背景部(4)と図5(b)に示した情報部(5)の重ね合わせ位置の詳細な図を示す。背景部(5)における潜像要素群を形成している潜像要素(6)と、背景部(5)におけるカモフラージュ要素群を形成しいているカモフラージュ要素(7)と、情報部(5)を形成している情報要素(8)を重ね合わせる位置関係に関しては、画線の場合と同様であり、潜像要素(6)とカモフラージュ要素(7)と情報要素(8)は、それぞれ重複しないように形成する必要がある。
以上のように、潜像要素(6)、カモフラージュ要素(7)及び情報要素(8)に関しては、画線の場合であっても、画素の場合であっても、それぞれ重複しないように形成することが条件となる。なお、潜像要素(6)、カモフラージュ要素(7)及び情報要素(8)を形成する要素として、画素で形成する例については、実施例2において記載する。
次に、第一のインキ及び第二のインキについて説明する。図7(a)に、第一のインキで形成する画像を示し、図7(b)に、第二のインキで形成する画像を示す。第一のインキで形成するのは、潜像要素群(9)のみであり、第二のインキで形成する画像は、カモフラージュ要素群(10)と情報部(5)を合わせた画像である。
潜像要素(6)によって形成された潜像要素群(9)と、カモフラージュ要素(7)で形成されたカモフラージュ要素群(10)は、等色関係にあることから、この二つの画像が嵌め合わされて形成される背景部(4)には、目視上認識可能な濃淡がなく、一定の濃度を有したフラットな画像として視認される。
第一のインキと第二のインキは、濃度の異なるペアインキとして用い、第一のインキは、第二インキに比べて淡く、第二のインキは、第一のインキに比べて濃い。そのため、潜像要素(6)とカモフラージュ要素(7)は、画線幅も画線の濃さも異なるものの、通常の観察距離(10cm〜30cm)から観察すると、同じ色として認識される構成と成るように、使用する第一のインキと第二のインキの濃度差に応じて、画線幅を変化させる必要がある。
本発明における濃度差とは、第一のインキと第二のインキを同じ面積率でそれぞれ印刷した場合に、その印刷したそれぞれの部分を色濃度計で測定した際の濃度値の差異のことである。
例えば、第一のインキと第二のインキの濃度差が小さい場合は、潜像要素(6)とカモフラージュ要素(7)の画線幅の差を小さく設計する必要があり、逆に、第一のインキと第二のインキの濃度差が大きい場合は、潜像要素(6)とカモフラージュ要素(7)の画線幅の差を大きく設計する必要がある。より具体的には、第二のインキの濃度が第一のインキの濃度の2倍であった場合には、画線幅(W1)は画線幅(W2)の2倍の値に設計する必要があり、第二のインキの濃度が第一のインキの濃度の4倍であった場合には、画線幅(W1)を画線幅(W2)の4倍の値に設計する必要がある。
また、潜像要素(6)の画線幅とカモフラージュ要素(7)の画線幅(画素の場合は画素面積率)を異ならせて形成する理由は、次のとおりである。本潜像印刷物のように、二種類のインキを用いて可視光下で観察される画像が、特定の条件下で観察すると異なる画像に変化する、いわゆるチェンジ効果を有する印刷物を形成する場合、特許文献1や特許文献2のような特殊な網点構成を用い、加えて、可視光下では、等色に視認され、特定の条件下では、いずれかのインキの色彩が変化することによって非等色と視認される関係にあるペアインキを用いて印刷画像を形成するのが一般的である。
ただし、前述した等色関係にあるペアインキとは、等しい網点面積率で印刷した場合に等色と視認されることが一般的であるために、潜像要素群(9)の網点面積率とカモフラージュ要素群(10)の網点面積率を等しく設計する必要がある。
しかしながら、ペアインキの少なくとも一方には、特定の条件下でインキの色彩が変化するようなインキ、いわゆる機能性インキを用いる必要があり、この機能性インキは、色彩や濃度に制約がある場合が多い。例えば、発明が解決しようとする課題において記載したが、機能性インキの代表である透かしインキは、濃度が淡くなければ機能せず、サーモクロミックインキやフォトクロミックインキも同様に濃い色で印刷することは困難である。また、赤外線吸収透過ペアインキやメタメリックペアインキでは、色彩が制限される。
このような機能性インキをペアインキの一方に用いる場合、当然のことながら、対となるもう片方のインキも同様の濃度や色彩にする必要がある。淡い濃度のインキでは、基材とのコントラストを得ることは困難であるから、充分な視認性を有する情報部(5)を形成できないという問題が生じ、情報部(5)の視認性を上げようして情報部(5)側の網点面積率を上げると、潜像要素群(9)の網点面積率が犠牲になり、潜像要素群(9)の視認性が低下するという問題が生じていた。
以上の問題を回避するため、本発明における潜像印刷物(1)に使用するペアインキについては、例えば、従来技術と同様に淡い濃度でしか印刷できない機能性インキを第一のインキとして用いたとしても、対となる第二のインキは、第一のインキと等色にするのではなく、あえて第一のインキよりも濃い設計とする必要がある。
また、画線設計については、潜像要素群(9)を形成する潜像要素(6)と、カモフラージュ要素群(10)を形成するカモフラージュ要素(7)は印刷した場合に目視上等色になるように、潜像要素(6)の画線幅(W1)をカモフラージュ要素(7)の画線幅(W2)よりも大きく設計する。これらの工夫を設けることにより、以下の効果を得ることができる。
まず、潜像要素(6)の画線幅を大きく設計することで、潜像要素群(9)の視認性を高く保つことが可能となった。さらに、ペアインキ自体は、非等色となったものの、カモフラージュ要素群(10)を形成するカモフラージュ要素(7)は、潜像要素群(9)を形成する潜像要素(6)と等色になるように設計されていることから、従来同様に潜像要素群(9)を隠ぺいする効果は失われることがなく、加えて、印刷画像(3)中の有意情報を形成する情報部(6)は、濃い第二のインキによって形成されることから、印刷画像(3)中の情報部(5)の視認性も従来の等色ペアインキで形成する技術と比較して、大きく向上した。
以上のように、本発明においても従来技術同様に潜像要素群(9)の隠ぺいのためにペアインキを用いるものの、従来技術のように、ペアインキ自体を等色とする必要はなく、ペアインキは、濃いインキと淡いインキの非等色のインキを用い、本インキを印刷して画線や画素を形成した段階で等色を成立させる構成であるために、ペアとなるインキの濃度と画線幅にそれぞれ濃淡や大小を設けることが可能となる。これによって、潜像要素群(9)と印刷画像(3)中の情報部(5)の視認性を同時に向上させる効果を得た。
次に、本発明の効果について使用するペアインキの特性別に、代表的な例について紹介する。
図8に示すのは、第一のインキに通常の淡い灰色のマットなインキを用い、第二のインキに濃い濃度の銀インキを用いて本潜像印刷物(1)を形成した例である。図8(a)に示す潜像印刷物(1)、光源(12)及び観察者(13a)のような位置関係にある、拡散反射光下の観察においては、情報部(5)を構成している「日本」の文字が主体的に視認される。この観察角度において潜像要素群(9)は完全に視認不可である。
なお、本発明において、情報部(5)を構成している「日本」の文字が主体的に視認されるとは、「日本」の文字のみが視認されるのではなく、背景部(4)が淡く視認される中に「日本」の文字が背景部(4)と強いコントラストを成して強調して視認される状態のことである。これは、背景部(4)を構成している潜像要素(6)及びカモフラージュ要素(7)が、拡散反射光下では、等色関係にあることから、背景要素群(9)は、カモフラージュ要素群(10)によって完全に隠ぺいされるために、背景部(4)は、目視上フラットな単一な階調として認識され、その中に情報部(5)が他の要素と重なり合わないように配置されているため、背景部(4)と情報部(5)の間に面積率の差による反射濃度の差(濃淡)が生まれ、「日本」の文字が主体的に視認されることとなる。
本発明における反射濃度の差異とは、画像の濃さのことであり、基材に印刷した画像に光を投射した場合、投射した光の量に対する反射した光の量のことである。
一方、図8(b)に示す潜像印刷物(1)、光源(12)及び観察者(13b)のような位置関係にある、正反射光下の観察においては、潜像要素群(9)のみが視認される。これは、銀インキを用いて形成された情報要素(8)及びカモフラージュ要素(7)が、光を強く反射することで淡く変化し、情報部(5)とカモフラージュ要素群(10)の間の面積率の違いを捉えづらくなり、目視上フラットで単一な階調として認識されるとともに、光を強く反射しない潜像要素(6)のみ拡散反射光下で観察した場合と同じ色彩で観察されることから、情報要素(8)及びカモフラージュ要素(7)に対して、潜像要素(6)は、濃い色として視認される。以上のように、正反射光下の観察においては、インキの違いが強調されることによって、強い濃淡のコントラストを生じ、潜像要素群(9)のみが視認される。本例の具体的な構成については、後述する実施例1に記載する。
図9に示すのは、第一のインキに淡い灰色の透過性インキを用い、第二のインキに通常の濃い灰色のインキを用いて潜像印刷物(1)を形成した例である。図9(a)に示す潜像印刷物(1)、光源(12)及び観察者(13c)のような位置関係にある、拡散反射光下の観察においては、情報部(5)を構成している「日本」の文字が主体的に視認される。この観察角度において潜像要素群(9)は、完全に視認不可である。主体的に視認されるとは、前述した図8(a)における視認状態と同様である。
一方、図9(b)に示すような、潜像印刷物(1)、光源(12)及び観察者(13d)の位置関係にある、透過光下の観察においては、潜像要素群(9)のみが視認される。本例の具体的な構成については、後述する実施例2に記載する。
また、本発明において使用する基材は、特に限定しないが、透過性インキを用いる場合に限り、光を遮断しない基材を用いることとする。
図10に示すのは、第一のインキに特定の波長の光を吸収する淡い色のメタメリックインキAを用い、第二のインキに特定の波長の光を透過する濃い色のメタメリックインキBを用いて潜像印刷物(1)を形成した例である。図10(a)に示す潜像印刷物(1)、光源(12)及び観察者(13e)のような位置関係にある、拡散反射光下の観察においては、情報部(5)を構成している「日本」の文字が主体的に視認される。この観察角度において潜像要素群(9)は完全に視認不可である。主体的に視認されるとは、前述した図8(a)における視認状態と同様である。
一方、図10(b)に示す潜像印刷物(1)、光源(12)及び観察者(13f)のような位置関係にある、特定の光のみを透過するフィルタ又はそのフィルタが付いたカメラ(IRビュア等)を通して観察した場合には、潜像要素群(9)のみが視認される。
このように、拡散反射光下の観察においては、印刷画像(3)が、潜像要素(6)及びカモフラージュ要素(7)が作り出している背景部(4)のフラットな階調の中に、情報部(5)を形成している情報要素(8)が重なり合うことなく配置されて成るため、印刷画像(3)の中に画線面積率の高い部位が生まれ、その面積率の差によって階調差(濃淡)が生まれることから、「日本」の文字が主体的に視認されることとなる。
以上のように、本発明は、使用するペアインキの特性に応じて様々な多様性を有する。その他のペアインキとすることが可能な機能性材料としては、サーモクロミックインキ、フォトクロミックインキ、パールインキ、液晶インキ、赤外線吸収インキ及び発光インキ等が考えられる。例えば、サーモクロミックインキを用いた場合には、特定の温度で見えていた画像が、異なる温度では全く違う画像にチェンジする効果を得ることができ、フォトクロミックインキを用いた場合には、通常の照明下で見えていた画像が強い光を照射すると全く異なる画像にチェンジする効果を得ることができる。また、パールインキを用いた場合には、拡散反射光下で見えていた画像が、正反射光下では全く異なる画像にチェンジする効果を得ることができる。このようにペアインキとする機能性材料の特性によって、様々な効果の潜像印刷物(1)を形成することができる。
また、第一のインキ及び第二のインキの関係は、色相が同じである必要があり、濃度に関しては、一方が淡く、他方を濃い濃度の関係とする必要がある。ただし、第一のインキと第二のインキ間の濃度差は1.5倍よりも大きく5倍以内程度に留めることが望ましい。
濃度差が小さすぎる場合は、潜像要素(6)の画線幅(W1)とカモフラージュ要素(7)の画線幅(W2)の差が小さくなり、潜像の視認性が従来の技術同様に低くなってしまうためである。また、濃度差が大きすぎる場合は、画線幅(W1)と画線幅(W2)の画線幅の違いが容易に目視可能となり、潜像を隠ぺいする効果が損なわれる可能性があるためである。
また、第一のインキと第二のインキの少なくともいずれか一方は、特定の条件下で色彩が変化する機能性を有する、いわゆる機能性インキである必要があり、第一のインキが機能性インキであっても良いし、第二のインキが機能性インキであっても良いし、第一のインキと第二のインキの両方が機能性インキであっても良い。ただし、第一のインキと第二のインキの両方が機能性インキである場合、それぞれの機能が異なっている必要がある。同じ機能では、第二の画像が視認できず、いずれの条件においても第一の画像のみしか観察できないためである。また、第一のインキと第二のインキの機能性は、それぞれ相反する特性であることが望ましい。例えば、赤外線を照射して観察することで第二の画像が出現する形態とする場合、第一のインキは赤外線吸収インキとし、第二のインキは赤外線透過インキとすれば、第一のインキと第二のインキによって強いコントラストを生じさせることができ、第二の画像の視認性を一層高められるためである。
なお、本発明における「等色」とは、二つの色において、観察者が二つの色を同じ色と認識することができる関係である。具体的な範囲は、CIE L*a*b*における色差ΔEで3以下とする。また、本発明における「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものである。
また、本発明における「色相」とは、赤、青、黄といった色の様相のことであり、具体的には、可視光領域(400〜700nm)の特定の波長の強弱の分布を示すものである。本発明でいう「同じ色相」とは、二つの色において赤、青、黄といった色の様相が一致することであり、より具体的には、可視光領域の波長の強弱の分布が二つの色において相関を有することである。
また、本発明における特定の条件下の観察とは、正反射光下での観察、透過光下での観察、紫外線波長帯の光を照射しての観察、赤外線波長帯の光での観察、可視光領域の限定された波長帯の光での観察又は特定の温度下での観察から選択されるいずれかの条件である。
背景部(4)の面積率は、10%から90%の範囲で形成することが望ましい。本明細書でいう面積率とは、一定の面積中に画線の面積又は画素の面積の占める割合のことを指す。また、背景部(4)を形成する画線のうち、潜像要素(6)は、20%から90%の範囲で形成することが望ましく、カモフラージュ要素(7)は、10%から50%の範囲で形成することが望ましい。
その理由は、潜像要素(6)の面積率が20%より小さい場合、潜像要素群(9)の視認性が低くなりすぎるためであり、同じく90%以上の場合、情報部(5)に割り当てることができる面積率が10%以下となるため、印刷画像(3)中の情報部(5)の視認性が極端に低下するためである。
また、カモフラージュ要素が10%以下の面積率となった場合、ピッチによっては印刷品質が安定しない可能性が生じるため、避けることが望ましく、50%以上で形成した場合は、結果的に背景部(4)全体が濃くなりすぎ、情報部(5)の視認性が低くなるため、この条件では形成しないことが望ましい。
潜像要素(6)とカモフラージュ要素(7)のピッチは、同じである必要がある。同じピッチでない場合には、潜像要素群(9)とカモフラージュ要素群(10)との輪郭部がピッチのずれによって視認されやすくなり、潜像要素群(9)の隠ぺい性が損なわれる可能性があるためである。潜像要素(6)とカモフラージュ要素(7)のピッチは、0.1mmから1mmの範囲で形成することが望ましく、この範囲で形成することで、安定した印刷物品質を得る上でも、潜像要素群(9)の隠ぺい性を維持するためにも望ましい。
本発明のような画像のチェンジ効果を得るためには、特定の条件下の観察において潜像要素群(9)のみ可視化されている必要がある。そのためには、拡散反射光下の観察において視認されていた情報部(5)が消失するか、又は視認性が大きく低下しなければならない。
そのような効果を得るためには、後述する実施例1のように、情報部(5)を形成する第二のインキに機能性インキ(実施例1の場合には、メタリックインキ)を用いて消失させるか、又は後述する実施例2のように、情報部(5)の形成に通常の非機能性インキを用いるものの、特定の条件下(実施例2の場合には透過光での観察)で情報部(5)が基材と目視上、等色に見える効果を利用する必要がある。
以上のように、情報部(5)は、拡散反射光下の観察においては、高い視認性を有しなければならないが、潜像要素群(9)が出現する特定の条件下においては、不可視となるように視認性が低下していなければならない。
そのような効果を得るためには、情報部(5)の面積率を制限する必要がある。具体的には、10%以上50%以下の面積率の範囲で形成することが望ましい。10%以下の面積率で情報部(5)を形成する場合、情報部(5)の視認性が低くなりすぎ、50%以上の面積率で情報部(5)を形成する場合、潜像要素群(9)が出現する特定の条件下で情報部(5)が消失しない問題が発生する可能性があるためである。情報部(5)を形成する適正な面積率は、使用する機能性インキの特性や通常インキの色彩等によって影響を受けることから、それぞれのインキについて効果が最も大きく保てる面積を実際に印刷して見極める必要がある。
本発明における潜像印刷物の印刷方式は、オフセット印刷、フレキソ印刷、凸版印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷及び凹版印刷等のあらゆる印刷方式で形成することが可能である。また、機能性インキを使用することができるのであれば、IJP等でも形成でき、この場合には一枚、一枚の出力物の情報を変える、いわゆる可変印刷を実施することができる。
また、本発明の潜像印刷物(1)を形成するための画線又は画素構成については、実施の形態に記載の構成に制限されるものではない。要素の構成としては、潜像要素(6)で形成された潜像要素群(9)と、カモフラージュ要素(7)で形成されたカモフラージュ要素群(10)とが組み合わさって濃淡のないフラットな階調を有する背景部(4)を構成し、かつ、背景部(4)と重ならない位置に情報部(5)が形成されることで、印刷画像が構成されていれば良い。
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例1について、図11から図15を用いて説明をする。本実施例1では、拡散反射光下で観察される画像と、正反射光下で観察される画像とが異なる画像である潜像印刷物を形成する例について説明する。本実施例1に用いた基材は、白色の上質紙(日本製紙株式会社製)とした。
図11に、本発明における潜像印刷物(1´)を示す。潜像印刷物(1´)は、基材(2´)の少なくとも一部に、基材と異なる色を有する印刷画像(3´)が形成されており、印刷画像(3´)は、背景部(4´)と、情報部(5´)から構成されている。
図12に、背景部(4´)の構成を示す。背景部(4´)は、図12(a)に示す潜像要素(6´)が複数配置されて成る潜像要素群(9´)と、図12(b)に示すカモフラージュ要素(7´)が複数配置されて成るカモフラージュ要素群(10´)から成る。潜像要素群(9´)は、桜の花びらを示す図柄であり、カモフラージュ要素群(10´)は、背景部(4´)の中から潜像要素群(9´)の桜の花びらを示す図柄を除いた構成となっており、潜像要素群(9´)とカモフラージュ要素群(10´)を嵌め合わせるように構成されている。
図12(a)の一部拡大図に示すように、潜像要素群(9´)は、画線幅が0.28mmの潜像要素(6´)が、ピッチ0.40mmで規則的にS1の方向に複数配置されて成る。また、図12(b)の一部拡大図に示すように、カモフラージュ要素群(10´)は、画線幅が0.10mmのカモフラージュ要素(7´)が、ピッチ0.40mmで規則的にS1の方向に複数配置されて成る。
本実施例における潜像要素群(9´)の面積率は70%であり、カモフラージュ要素群(10´)の面積率は25%である。
図13に、情報部(5´)の構成を示す。一部拡大図に示すように、情報部(5´)は、画線幅が0.08mmの情報要素(8´)が、ピッチ0.4mmで規則的にS1の方向に複数配置されて成る。本実施例1において、情報部(5´)の面積率は20%である。
図14に、背景部(4´)と情報部(5´)の重ね合わせの適正な位置関係を示す。印刷画像(3´)は、潜像要素(6´)及びカモフラージュ要素(7´)が作り出している背景部(4´)のフラットな階調の中に、情報部(5´)を形成している情報要素(8´)が、潜像要素(6´)及びカモフラージュ要素(7´)と重なり合うことなく配置されることで、印刷画像(3´)の中に画線面積率の高い部位が生まれ、その面積率の差によって階調差(濃淡)が生まれることから、観察者には、「日本」の文字が主体的に視認されることとなる。
図15(a)に、第一のインキで形成する画像を示し、図15(b)に、第二のインキで形成する画像を示す。第一のインキで形成するのは、潜像要素群(9´)のみであり、第二のインキで形成する画像は、カモフラージュ要素群(10´)と情報部(5´)を合わせた画像である。
図15(a)に示す画像を、表1に示す配合で作製した第一のインキを用いてオフセット印刷で基材(2´)上に印刷した。また、図15(b)に示す画像を、第二のインキとして銀色のメタリックインキ(T&K TOKA製 UV NO3 シルバー)用いてオフセット印刷で基材(2´)上に印刷した。本実施例1においては、第二のインキが機能性インキである。
拡散反射光下の観察において、第一のインキは淡い灰色であって、第二のインキは濃い灰色であり、両インキは、同じ灰色の色相である。また、基材(2´)に印刷した場合には、第二のインキは第一のインキより2.5倍から3倍程度の濃度を得ることができる濃さである。
本実施例1において使用した第一のインキと第二のインキは、基材に同じ面積率で印刷した場合には拡散反射光下の観察において非等色であるが、第一のインキで潜像要素(6´)を、第二のインキでカモフラージュ要素(7´)を印刷した場合には、面積率が異なるため、二つの画線が等色として視認される。
一方、正反射光下で観察した場合の潜像要素(6´)は、反射率が低く、色彩もほとんど変化しないが、カモフラージュ要素(7´)は、銀色のメタリックインキによって形成されているため、反射率が高く、光を反射することで明度が上昇し、淡い色へと変化する。よって、潜像要素(6´)とカモフラージュ要素(7´)は、拡散反射光下で観察した場合には、等色として観察されるが、正反射光下で観察した場合には、異なる色彩に見える。具体的には、正反射光下において潜像要素(6´)は、カモフラージュ要素(7´)よりも暗く見える。
本発明の実施例1における効果について、図16を用いて説明する。図16(a)に示すように、本発明の潜像印刷物(1´)を、拡散反射光下で観察した場合には、潜像要素(6´)とカモフラージュ要素(7´)が等色に視認されることから、観察者(13a´)には、図16(a)に示す「日本」の文字である情報部(5´)が主体的に灰色で視認することができる。
また、図16(b)に示すように、本発明の潜像印刷物(1´)を、正反射光が支配的な観察角度で観察した場合には、第二のインキで形成されたカモフラージュ要素群(10´)及び情報部(5´)は、光を強く反射することで淡く変化し、二つの画像間の面積率の違いをとらえづらくなり、目視上フラットで単一な階調として認識される。また、潜像要素(6´)で形成された潜像要素群(9´)は、第二のインキで形成されたカモフラージュ要素群(10´)及び情報部(5´)よりも暗く視認されることから、観察者には、図16(b)に示すように第一のインキによって形成された桜の花びらの図柄である潜像要素群(9´)のみを視認することができる。
以上のように、本潜像印刷物を拡散反射光下で観察した場合には、ペアインキ間の反射率の差よりも面積率の差によって生じた濃淡が強調されて、「日本」の文字から成る情報部(5´)が主体的に灰色で視認され、正反射光下で観察した場合には、第二のインキが光を強く反射することで、面積率の差によって生じていた濃淡が目視上消失して一定の階調に収束するとともに、インキ間の反射率の差が強調されることで、第一のインキよって形成された桜の花びらの潜像要素群(9´)が視認される。このように、拡散反射光下と正反射光下の観察において、全く相関のない異なる画像に変化する効果を確認することができた。
本発明の実施例2について、図17から図22を用いて説明をする。本実施例2は、拡散反射光下で観察される画像と、透過光下で観察される画像とが異なる画像である潜像印刷物を形成する例について説明する。また、本実施例2の潜像印刷物(1´´)においては、画線ではなく、画素によって印刷画像を形成した。基材(2´)としては、実施例1と同様に、白色の上質紙(日本製紙株式会社製)を用いた。
図17に、本発明における潜像印刷物(1´´)を示す。潜像印刷物(1´´)は、基材(2´´)の少なくとも一部に、基材と異なる色を有する印刷画像(3´´)が形成されており、印刷画像(3´´)は、背景部(4´´)と、情報部(5´´)から構成されている。
図18に、背景部の構成を示す。背景部(4´´)は、図18(a)に示す潜像要素(6´´)が複数配置されて成る潜像要素群(9´´)と、図18(b)に示すカモフラージュ要素(7´´)が複数配置されて成るカモフラージュ要素群(10´´)から成る。潜像要素群(9´´)は、桜の花びらを示す図柄であり、カモフラージュ要素群(10´´)は、背景部(4´´)の中から潜像要素群(9´´)の桜の花びらを示す図柄を除いた構成となっており、潜像要素群(9´´)とカモフラージュ要素群(10´´)を嵌め合わせるように構成されている。
図18(a)の一部拡大図に示すように、潜像要素群(9´´)は、直径が0.45mmの潜像要素(6´´)が、ピッチ0.50mmで規則的にS1の方向及びS2方向に複数配置されて成る。また、図18(b)の一部拡大図に示すように、カモフラージュ要素群(10´´)は、直径が0.30mmのカモフラージュ要素(7´´)が、ピッチ0.50mmで規則的にS1の方向及びS2方向に複数配置されて成る。
本実施例2における潜像要素群(9´´)の面積率は63%であり、カモフラージュ要素群(10´´)の面積率は28%である。
図19に、情報部(5´´)の構成を示す。一部拡大図に示すように、情報部(5´´)は、直径が0.22mmの情報要素(8´´)が、ピッチ0.50mmで規則的にS1の方向及びS2方向に複数配置されて成る。本実施例2において、情報部(5´´)の面積率は15%である。
図20に、背景部(4´´)と情報部(5´´)の重ね合わせの適正な位置関係を示す。印刷画像(3´´)は、潜像要素(6´´)及びカモフラージュ要素(7´´)が作り出している背景部(4´´)のフラットな階調の中に、情報部(5´´)を形成している情報要素(8´´)が、潜像要素(6´´)及びカモフラージュ要素(7´´)と重なり合うことなく配置されることで、印刷画像(3´´)の中に画線面積率の高い部位が生まれ、その面積率の差によって階調差(濃淡)が生まれることから、観察者には「日本」の文字が主体的に視認されることとなる。
図21(a)に、第一のインキで形成する画像を示し、図21(b)に、第二のインキで形成する画像を示す。第一のインキで形成するのは、潜像要素群(9´´)のみであり、第二のインキで形成する画像は、カモフラージュ要素群(10´´)と情報部(5´´)を合わせた画像である。
図21(a)に示す画像を第一のインキとして透過型インキ(帝国インキ製 ユニマーク)を用いてオフセット印刷で基材(2´´)上に印刷した。また、図21(b)に示す画像を、第二のインキとして表2に示すインキを用いてオフセット印刷で基材(2´´)上に印刷した。本実施例においては第一のインキが機能性インキである。
拡散反射光下の観察において、第一のインキは、白い基材(2´´)の上に印刷した場合淡い灰色として認識される。第二のインキは、拡散反射光下の観察において濃い灰色であり、両インキは、同じ灰色の色相として視認される。また、基材(2´´)に等しい面積率で印刷した場合には、第二のインキは第一のインキより2倍から2.5倍程度の濃度を得ることができる濃さである。
実施例2におけるペアインキは、基材に同じ面積率で印刷した場合には、拡散反射光下の観察において非等色であるが、第一のインキで潜像要素(6´´)を、第二のインキでカモフラージュ要素(7´´)を印刷した場合には、等色として視認される。一方、潜像印刷物(1´´)を光に透かした状態、すなわち、透過光下で観察した場合には、潜像要素(6´´)は白く変化して明るく観察されるが、カモフラージュ要素(7´´)の色彩は変化しない。よって、潜像要素(6´´)とカモフラージュ要素(7´´)は、拡散反射光下で観察した場合には等色に観察され、透過光で観察した場合には、異なる色彩に見える。具体的には、透過光下において潜像要素(6´´)は、カモフラージュ要素(7´´)よりも明るく見える。
本発明の実施例2における効果について、図22を用いて説明する。図22(a)に示すように、本発明の潜像印刷物(1´´)を、拡散反射光下で観察した場合には、潜像要素(6´´)カモフラージュ要素(7´)が等色に視認されることから、観察者(13e´´)には、図22(a)に示すように「日本」の文字である情報部(5´´)が主体的に灰色で視認することができる。
また、図22(b)に示すように、本発明の潜像印刷物(1´´)を、透過光で観察した場合には、第二のインキで形成されたカモフラージュ要素群(10´´)及び情報部(5´´)とは基材(2´´)と光の透過率が大きく違わないため、略視認不可能な状態となる。また、潜像要素(6´´)で形成された潜像要素群(9´´)だけは、光を透過して明るく視認されることから、観察者(13f´´)には、図22(b)に示すように第一のインキによって形成された桜の花びらの図柄である潜像要素群(9´´)のみを視認することができる。
以上のように、本潜像印刷物(1´´)を拡散反射光下で観察した場合には、ペアインキ間の透過率の差よりも面積率の差によって生じた濃淡が強調されて、「日本」の文字から成る情報部(5´´)が主体的に灰色で視認され、透過光で観察した場合には、第二のインキ及び基材が光を特に強く透過しないため、面積率の差によって生じていた濃淡が消失して一定の階調に収束するとともに、第一のインキよって形成された桜の花びらの潜像要素群(9´´)のみが明るく視認される。このように、拡散反射光下と透過光の観察において、全く相関のない異なる画像に変化する効果を確認することができた。