JP5359133B2 - 酸素発生用電極 - Google Patents

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本発明は、海水をはじめとする塩素イオンを含む水溶液の電解に陽極として使用し、塩素の発生を抑制しつつ酸素を発生するための酸素発生用電極に関する。
海水の電解は、通常、陰極では水素と水酸化ナトリウムを発生させ、陽極では塩素を発生させ、発生した水酸化ナトリウムと塩素とから次亜塩素酸ナトリウムを生成させために行なわれる。この電解に用いる陽極としては、耐食性金属であるチタンを白金族金属の酸化物で被覆した電極が、高性能電極として用いられている。
これに対し、通常の水電解と同様に、海水から水素と酸素とを分離して得ることを目的とする海水電解においては、陰極で水素を発生し、陽極では塩素を発生せずに酸素のみを発生させる必要があるから、その目的に合致した、特殊な陽極が求められる。
本発明者らはさきに、特定の金属の塩を溶剤に溶解した溶液を、導電性の電極基体塗布し、乾燥後、大気中で加熱して塩を分解して酸化物に変えるという操作を繰り返した後、熱処理することによって、基体に密着した酸化物を活物質として有する電極を製作し、これが食塩水を電気分解する陽極として使用したとき、酸素発生に対しては高活性を示すが、塩素発生には不活性であることを見出し、すでに開示した(特許文献1)。特許文献1に開示の酸素発生用電極は、電極活物質である酸化物に、下記のふたつの態様がある。
(1)陽イオンとして、MoおよびWの1種または2種を0.2〜20モル%含み、残部Mnからなる酸化物
(2)陽イオンとして、MoおよびWの1種または2種を0.2〜20モル%とZnを1〜30%含み、残部Mnからなる酸化物を形成した後、高温で濃厚なアルカリ溶液に浸漬してZnを溶出させることによって、有効表面積を増大した酸化物
上記した酸素発生用電極の発明は、金属塩の塗布に続く焼成においては、Mnは3価まで酸化されてMn23となることと、Mn23がMoまたはWを含むとさらに酸素発生効率が向上する、という知見にもとづいている。焼成法による電極の製作においては、焼成温度が低いと十分に結晶が成長せず、そのために電極の安定性が劣り、一方、高温で焼成した場合は、高次の酸化物が分解するため、Mnを3価以上に酸化することはできない。
しかし、より高次のMn酸化物がより高い活性を示すことが期待できたため、焼成法に代えて、金属塩の溶液から電極基体上に酸化物を陽極析出させる方法を、発明者らは試みた。その結果、電極活物質が4価のMnを含み、適用することによって、海水などの塩化ナトリウムを含有する水溶液を電解したときに、塩素を発生せず酸素を発生することができる電極が製造できることを知り、この電極がさらに高活性を示すことを確認したので、これも開示した(特許文献2)。特許文献2に開示したものは、「MoおよびWの1種または2種を0.2〜20モル%含み、残部Mnからなる酸化物を、陽極析出法により導電性電極基体に被覆してなる、海水電解のための酸素発生用電極」であって、陽極析出法の採用に特色がある。
関連する研究の成果として、この電極を陽極としイオン交換膜を電解質とした電解装置、この電極とダイオードを組み合わせた電極アセンブリー、および陽極の製造方法を開発して、これらも開示した(特許文献3、特許文献4および特許文献5)。さらに電極の改良を試み、Mn−Mo、Mn−WまたはMn−Mo−WにFeを加えた複酸化物を使用した電極が、沸騰直下までの高温を含む広い温度範囲にわたって、塩素イオンを含む溶液中で酸素発生用電極として有用であることを見出した(特許文献6)。また、複酸化物を陽極析出法により電着させるTi基板の調製法を始め、改良した電極製造法を提案した(特許文献7)。
酸素発生用電極の改良をさらに進めた発明者らは、Mn−Mo、Mn−WまたはMn−Mo−WにSnを加えた複酸化物が、塩化物溶液中で酸素を発生させた結果として強酸性になった溶液中でも、すぐれた酸素発生効率と耐久性を備えていることを見出し、続いて特許出願した(特許文献8)。特許文献8の酸素発生用電極は、「導電性の電極基体上に、陽イオンの原子%で、Snが0.1〜3モル%、Moおよび(または)Wが、Snとの合計量で0.2〜20モル%を占め、残部がMnからなる複酸化物を、陽極析出法により生成させてなる電極」である。
これらの電極においては、Ti製の電極下地を用い、上記のようにMnを含む複酸化物からなる電極活物質を用いるが、電極活物質を焼成により、または陽極析出により形成する際、および得られた電極を用いて電解を行なったときに、アノード分極によりTi上に絶縁性の酸化チタン皮膜が成長することを避けるため、これまで、Tiと電極活物質との間に、白金族金属、代表的にはIrの酸化物からなる中間層を設けたものを基体として用いていた。しかし、中間層の材料として、資源量の少ない貴金属の使用を避けることが望ましく、発明者らは、貴金属に代わる材料を用いた中間層を探索してきた。
チタン基体を被覆する層は、チタンの酸化物であるTiO2と同じルチル構造をもち、チタンと複酸化物を構成して導電性を維持し、TiO2単独の絶縁皮膜の生成を防止する機能をもつ必要がある。発明者らは、TiO2と同じルチル構造の酸化物の中にSnの酸化物であるSnO2があって、激しい酸化条件でも溶解することなく安定であることに着目し、これを貴金属酸化物とともに使用することを着想した。SnO2は導電性が高くないのが難点であるが、Sbを添加することによって導電性を増大させることができるので、SnとSbを併用するとよいことを見出し、これも同時に提案した。(特許文献9)。
特許文献9に提案した電極は、Ti製の電極下地の上に中間層および電極活物質の層を順次形成してなる、塩素イオンを含む水溶液を電解して塩素の発生は抑制して酸素を発生させるための電極において、中間層が、SnおよびSbと、白金族金属との複酸化物であって、Sn:Sbは陽イオンのモル比で1:1〜40:1の範囲にあり、かつ、SnおよびSbが複酸化物の全陽イオンの90モル%以下を占め、残部が白金属金属の酸化物である組成を有するものを焼成法で形成してなるものであり、電極活物質の層は、Snが陽イオンの0.1〜3モル%、Moおよび(または)Wが、Snとの合計量で陽イオンの0.2〜20モル%を占め、陽イオンの残部がMnからなる複酸化物を、陽極析出法により生成させてなるものであることを特徴とする。
特開平9−256181 特開平10−287991 特開平11−256383 特開平11−256384 特開平11−256385 特開2003−129267 特開2007−138254 特開2007−302925 特開2007−302927
特許文献9の発明の過程において、発明者らは、過剰のSbを中間層に添加すると、塩化物溶液電解中に導電性基体であるチタンの酸化防止に必ずしも有効でないことに着目し、貴金属の使用量を低減しながらもチタン基体の酸化を確実に防止し、かつ、酸化物電極の導電性を高く保つことにより電解電圧の上昇を防ぎ、省エネルギー電解を維持するためには、中間層にSbを添加せず、中間層として、薄いSnO2層に低濃度で白金族金属の陽イオンを含ませることが有効であることを見出した。本発明の目的は、この知見を活用し、Ti製の電極下地をTiの酸化を防止する中間層で被覆した上に、電極活物質としてMnを主とする複酸化物を被覆した酸素発生用電極において、中間層の複酸化物の貴金属の使用量を低減し、しかも十分な導電性を保証し、電極活物質の性能および耐久性の向上を実現した酸素発生用電極を提供することにある。
本発明の酸素発生用電極は、塩素イオンを含む水溶液を電解し、塩素の発生は抑制しつつ酸素を発生させるための電極であって、Ti製の電極下地の上に、いずれも金属の複酸化物である中間層(A)および電極活物質の層(B)を順次形成してなり、
(A)中間層が、全陽イオンに対する原子%で、Sn:50〜95モル%、残部が白金族金属である組成を有する複酸化物を、焼成法により形成したものであり、
(B)電極活物質の層が、全陽イオンに対する原子%で、MoおよびWの1種または2種(2種の場合は合計):0.2〜20モル%を占め、残部がMnである組成を有する複酸化物を、陽極析出法により形成したものである
ことを特徴とする酸素発生用電極である。
電極活物質の層(B)のMoおよびWの1種または2種は、その0.1〜3モル%をSnで置換してもよい。
本発明の酸素発生用電極は、Tiに接する中間層が、SnO2に低濃度の白金族金属の陽イオンを添加した複酸化物であって、TiO2と同じルチル構造を有する。SnO2は、白金族金属の酸化物にくらべ、酸化物としてより安定であるため、中間層の下にあるTiの酸化に対する酸素供給源としての作用は、白金族元素の酸化物に比べて遥かに低い。このため、電気抵抗が低い薄い酸化物であっても、十分にTiの酸化を防止することができる。このようなわけで、本発明の酸素発生用電極は劣化しにくく、耐久性が高い。
本発明の電極を製造する代表的な方法は、つぎのとおりである。電極の下地としては、耐食性の高いTiを用いることが好ましい。Tiの下地ヘの中間層の密着性を高めるため、酸による酸化皮膜の除去や、表面粗度を増すエッチングその他、既知の表面処理を施して、電極下地を用意することが推奨される。好ましくは、そのような処理を施したTi下地に、適当な濃度のSnの可溶性塩の溶液、たとえばブタノール溶液と白金族金属の塩を含む溶液、たとえばブタノール溶液を、所望するモル比で与えるように混合して、チタン基体にハケ塗りして乾燥させたのち、高温たとえば450℃に加熱して、Snおよび白金族金属を酸化物に変える操作を繰り返し、最後に、たとえば450℃で1時間焼成して、[Sn−白金族金属(1種または2種以上)]の複酸化物を中間層とする電極基材を得る。
白金族金属は、本発明の酸素発生用電極の中間層に導電性を保証する元素であって、Ru,Rh,Pd,Os,IrおよびPtは、大気中における熱処理で、MO2タイプの二酸化物を生じ、このうちPtを除く5種の白金族金属の二酸化物は、酸化チタンTiO2および酸化スズSnO2と同じルチル構造であって、これらと固溶する。二酸化白金PtO2も、結晶格子のa軸とc軸の格子定数が、TiO2およびSnO2のそれらにきわめて近く、これら二酸化物と単相酸化物を形成する。
中間層を構成する金属酸化物の各成分の組成割合を、上記のように限定した理由を述べれば、つぎのとおりである。Snは、安定な酸化物を形成し、基体であるTiの酸化を防止するために基本的な元素である。ただし、白金族金属のイオンが導電性に必要とされる量確保できるようにするために、Snの量は、酸化物中の陽イオンの95モル%以下に止める必要がある。一方、白金族金属をSnで置き換える割合が低くては、電極コストの低減という意図が達成できないので、Snは少なくとも50%存在させたい。高価な白金族元素の使用量を減らすという狙いと、中間層の導電性を確保するという要請とを調和させる、という観点から適切なSn量は、通常、60〜93モル%の好適な範囲内で、または70〜90%のより好適な範囲内で見出されるであろう。
酸素発生用電極の劣化は、主として、基体であるTiが酸化されて電極の導電性が低下し、電解電圧が高くなることによって、塩素が発生しやすくなることである。本発明の中間層を採用することによって、基体であるTiの酸化の防止が十分に行なえるので、酸素発生に寄与する電極活物質は、電極の製造直後に100%の酸素発生効率を示した、特許文献2、特許文献6、特許文献8のそれらのいずれを用いたときも、長時間の使用による劣化は見られなくなる。
チタン板の打抜きにより製造したチタンメッシュを、0.5M HF中に常温で5分間浸漬して、表面の酸化皮膜を除去した。ついで、80℃の11.5M H2SO4に、水素ガスの発生が停止するまで浸漬し、表面粗度を高めるエッチングを施した。流水で約60分間洗浄して、表面に生成した硫酸チタンを除去し、乾燥した。最後に、電極活物質で被覆する直前に、純水中で超音波洗浄し乾燥した。
0.1M SnCl4および0.1M K2IrCl6の2種のブタノール溶液を用意し、それぞれの7.6mlおよび2.4mlを混合し、スズイオンとイリジウムイオンの和が0.1Mである溶液10mlとした。有効面積が20cm2の上記のチタンメッシュに、この混合溶液をハケ塗りし、80℃で10分間、大気中で乾燥したのち、450℃で10分間焼成して酸化物に変える操作を、3回繰り返したのち、最後に450℃に60分間焼成することによって、中間層を設けた。この操作で生じた複酸化物の中間層はSn1−xIrx2の組成であって、その量は7.065g/m2であった。陽イオン組成を、EPMAを用いて解析したところ、91.8モル%Sn、8.2モル%Irからなっていた。
0.2M MnSO4−0.003M Na2MoO4−0.006M SnCl4の組成の水溶液に硫酸を加えてpHを−0.1に調整し、90℃に温めた。上記のようにして製造した、チタン基体上にSn1−xIrx2複酸化物中間層を設けたものを陽極とし、上記の水溶液を電解液として、600A/m2の電流密度で、30分間の陽極電着を、電解液を更新しながら3回行なった。
このようにして製造した電極を陽極として用い、pH1の0.5M NaCl溶液を、電流密度1000A/m2で1000クーロン電解した後、溶存した次亜塩素酸量をヨウ素滴定法で定量し、塩素発生効率を求めた。塩素の発生は全く検出されず、100%の酸素発生効率が得られた。上記の溶液中3200時間の電解を行なった後も、酸素発生効率は99.7%以上で、分析された塩素量は検出限界に近く、電極の劣化は実質上みられなかった。したがって、本発明の電極が酸素発生に対して高活性で、かつ耐久性のすぐれた電極であることが確認できた。
実施例1において、酸化皮膜の除去、エッチング、流水洗浄および超音波洗浄を順次おこなったチタンメッシュの、有効面積が20cm2のものを電極下地として使用した。白金族金属の原料として、RuCl3、RhCl3、PdCl3、OsCl3、K2IrCl6およびK2PtCl6を、それぞれの濃度が0.1Mであるブタノール溶液として用意した。これらの溶液と、0.1M SnCl4ブタノール溶液とを種々の割合で混合した混合溶液を使用し、実施例1と同じ、[ハケ塗り−大気中80℃で10分間乾燥−450℃で10分間焼成]の操作を3回繰り返した。最後に450℃で60分間焼成して、低濃度の白金族イオンを含むSn1−xx2複酸化物(Mは白金族元素)中間層を形成した。この中間層の陽イオン組成(モル%)を、EPMAにより分析した。その結果を、表1に示す。
0.2M MnSO4−0.003M Na2MoO4−0.006M SnCl4の組成の水溶液に硫酸を加えてpHを0.1に調整し、90℃に温めた。上記のようにして中間層を設けた電極基体を陽極とし、この水溶液を電解液として、600A/m2の電流密度で30分間の陽極析出を、電解液を更新しながら3回行なった。
上記の、陽極析出によりMn−Mo−Snの複酸化物の層を電極活物質として表面に形成した電極を、陽極として使用して、実施例1と同様に、pH1の0.5M NaCl溶液を、電流密度1000A/m2で1000クーロン電解した。その後、溶存した次亜塩素酸量をヨウ素滴定法で定量し、塩素発生効率を求めることを試みた。塩素の発生は全く検出されず、表1に示すように、いずれも100%の酸素発生効率を示した。したがって、この電極が塩素イオンを含む水溶液を電解する場合の陽極として、酸素発生に対し高活性な電極であることが確認できた。
表1
Figure 0005359133

Claims (2)

  1. 塩素イオンを含む水溶液を電解し、塩素の発生は抑制しつつ酸素を発生させるための電極であって、Ti製の電極下地の上に、いずれも金属の複酸化物である中間層(A)および電極活物質の層(B)を順次形成してなり、
    (A)中間層が、全陽イオンに対する原子%で、Sn 1-x Ir x 2 (Sn:50〜95モル%、残部:Ir)である組成を有する複酸化物を、焼成法により形成したものであり、
    (B)電極活物質の層が、全陽イオンに対する原子%で、MoおよびWの1種または2種(2種の場合は合計)が0.2〜20モル%を占め、残部がMnである組成を有する複酸化物を、陽極析出法により形成したものである
    ことを特徴とする酸素発生用電極。
  2. 電極活物質の層(B)におけるMoおよびWの1種または2種の0.1〜3モル%を、Snで置換した請求項1の酸素発生用電極。
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