本発明の実施形態に係るスピーカ装置用ボイスコイルは、ボイスコイルの一軸方向の振動を、剛性の振動方向変換部を介して振動板に伝え、該振動板を前記一軸方向とは異なる方向に振動させるスピーカ装置に用いられるもので、そのボイスコイルは、平面状で且つ環状に巻かれた導電部材からなり、少なくとも平面方向に沿った振動方向に対して剛性を有することを特徴とする。
このような特徴を有することによって、従来の円筒形に形成されるボイスコイルに比べて、ボイスコイル自体を薄型化することができ、これによってスピーカ装置全体の薄型化が可能になる。また、このボイスコイルが適用されるスピーカ装置は、ボイスコイルの一軸方向の振動を剛性の振動方向変換部を介して振動板に伝え、振動板をボイスコイルの一軸方向の振動とは異なる方向に振動させるので、ボイスコイルの振動方向がスピーカ装置の全高に直接影響しない構造になっている。これによって、スピーカ装置の薄型化を達成しながらボイスコイルの振動を大きくした大音量の再生音を得ることができる。そして、ボイスコイル自体が剛性を有するので、ボイスコイルの振動を剛性の振動方向変換部を介して確実に振動板に伝えることができ、薄型化,大音量化を実現しながら再生効率の高いスピーカ装置を得ることができる。ここで言う剛性とは、曲がり、座屈や共振による撓みを起こしにくい性質を示し、完全な剛性のみを指すわけではない。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、剛性の基体にて支持されることによって剛性を有することを特徴とする。このような特徴を有することによって、ボイスコイルの導電部材自体は任意の材質を選択することができる。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、前記基体の表面に前記導電部材が配置されることを特徴とする。これによると、平面状の基体の表面に導電部材を配置することで、簡易に平面状で剛性を有するボイスコイルを形成することができる。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、前記基体には、環状の段部が形成されており、前記段部に前記導電部材が配置されていることを特徴とする。これによると、基体の環状の段部に環状の導電部材を位置決めすることができると共に、段部の凹みに導電部材の厚みを嵌め込むことができるのでボイスコイル自体の厚さが嵩張ることなく、基体に導電部材を配置することができる。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、基体及び導電部材が環状に形成されて、開口部を有することで、開口部の部分で肉抜きを行い、ボイスコイルの軽量化が可能である。また、基体の重量を軽量化することができ、ボイスコイルに生じる駆動力に対して感度良くボイスコイルを振動させることができる。導電部材の内側を開口部にすることで、導電部材の内側が振動して異音を発生することを抑止することができる。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、基体の内周部から内側に向かって形成される剛性の載置部には、導電部材の一部が載置されて接合されているので、導電部材をボイスコイルと一体化することができ、導電部材に生じる駆動力によって確実にボイスコイルを振動させることができる。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、少なくとも2つの基体にて、導電部材が挟持されていることを特徴とする。この特徴によると、剛性を有する基体によって導電部材が挟持されるので、剛性を有する基体で導電部材を保護することができる。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、2つの基体の間の空隙を埋めるように、内部充填部材が配置されていることを特徴とする。これによると、導電部材を2つの基体で挟持することで生じる基体間の空隙を内部充填部材で埋めるので、導電部材及び基体を含むボイスコイル全体の剛性を更に高めることができる。また、基体間に空隙があると、基体が振動して異音が発生するいわゆる‘鳴き’現象が生じることがあるが、この空隙を内部充填部材で埋めることで‘鳴き’現象を抑止することができる。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、内部充填部材が、前記基体より剛性が大きいことを特徴とする。この特徴によると、内部充填部材の剛性によって、内部充填部材、導電部材及び基体を含むボイスコイル全体の剛性を更に高めることができる。また、内部充填部材の剛性を基体よりも高めることで、基体がたわむことによって発生する異音を抑止することができ、また、基体のたわみを抑止することでボイスコイルの振動を効率よく伝達することができる。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、内部充填部材が、基体と同じ材質で構成されていることを特徴とする。この特徴によると、内部充填部材、導電部材及び基体を含むボイスコイル全体の一体性を高めることができる。言い換えれば、内部充填部材における共振周波数と、基体における共振周波数との差を比較的小さくすること、また特異な共振周波数の発生を抑止すること等が可能になる。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、基体の厚さが、前記内部充填部材又は前記導電部材の厚さより薄いことを特徴とする。これによると、基体の厚さを薄くすることで、導電部材に影響を与えることなくボイスコイル全体の厚さを薄くすることができる。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、基体における導電部材の外側の表面には、導電層がパターン形成されていることを特徴とする。基板上に導電層を設けることで、電流歪み(高調波歪み)の発生を抑止すること、又はボイスコイルの振動に対して制動力を作用させることができるので、ボイスコイルの過剰な振幅での振動を抑止することができる。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、導電層が、導電部材を取り囲むように一対配備され、導電部材に音声信号を入力するための中継線として機能することを特徴とする。これによると、導電部材の引き回しをその周囲の任意の箇所で行うことができ、音声信号入力の配線引き回しのスペース効率を向上させることができる。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、導電層が環状に形成されていることを特徴とする。これによると、導電層にショートリング機能を持たせることができ、効果的に電流歪み(高調波歪み)の発生を抑止することができる。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、複数の前記導電層が、ボイスコイルの振動方向に沿って、前記導電部材の両側にパターン形成されていることを特徴とする。これによると、ボイスコイルの振動に対して制動力を作用させることができ、過剰な振幅での振動に対してこれを抑止することができる。また、制動力をボイスコイルに作用させることで、音響特性を調整することができる。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、複数の導電層の一方は閉じた形状を有し、他方は開いた形状を有することを特徴とする。これによると、閉じた形状によって前述したショートリング機能を持たせ、開いた形状で、導電部材の端子引出構造を形成すること等が可能になる。一方の導電層をショートリング層にして、そのショートリング層の幅を導電部材の幅に対して略同じ又は小さくし、その幅を調整することで、ショートリング機能によってボイスコイルに作用する制動力を調整することが可能になる。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、導電部材は中心側から外側に向けて異なる径で巻かれ、2つの基体の間に配置されていることを特徴とする。この特徴によると、導電部材を通過する音声電流の大きさを、入力される音声電流に略等しくすることができ、導電部材に作用する電磁気力を比較的大きくすることができる。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、同径に巻かれた導電部材が、前記基体の厚さ方向に積層されていることを特徴とする。これによると、導電部材を密に巻くことができるので、駆動力を更に高めることができる。
また、前述したスピーカ装置用ボイスコイルは、導電部材が多角形断面を有することを特徴とする。これによると、導電部材の占有率を導電部材の断面が円形の場合と比較して高めることができる。これによると薄型化を達成しながらボイスコイルによって発生する駆動力を高めることが可能になる。
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図示においては、ボイスコイルの振動方向をX軸方向とし、X軸と直交する振動板の振動方向をZ軸方向とし、それらに直交する方向をY軸方向とする。
[ボイスコイル;図2〜図14]
図2は、本発明の実施形態に係るスピーカ装置用ボイスコイルの説明図(中心Oから右側の断面図)である。ボイスコイル40は平面状で且つ環状に巻かれた導電部材30からなり、少なくとも平面方向に沿った振動方向(X軸方向)に対して剛性を有している。導電部材30は各種形態の巻き線31を平面状に巻き回すことによって形成されている。同図(a),(b)に示した例では、巻き線31(31a,31b)自体が多角形(矩形)の断面を有し且つ少なくとも振動方向(X軸方向)に対して剛性を有している。同図(a)に示した例では、振動方向(X軸方向)に垂直な方向に長い断面形状を有する巻き線31aを1層巻きにしており、同図(b)に示した例では、振動方向に長い断面形状を有する巻き線31bを振動方向(X軸方向)に垂直な方向に重ねた多層巻きにしている。
同図(c),(d)に示した例は、巻き線31からなる導電部材30全体を固化剤32で固めて振動方向(X軸方向)に対する剛性を付与している。巻き線31は同図(c)に示したような円形断面の巻き線31cであってもよいし、同図(d)に示したような楕円形断面の巻き線31dであってもよい、図示の例ではいずれも振動方向と垂直な方向に2段に積層した多層巻きにしているが、単層であっても、3段以上の多層巻きであってもよい。固化剤32としては、樹脂接着剤等を用いることができる。なお、導電部材30は、1本の線状の導線で構成しても構わないし、或いは複数の導線にて構成されていても構わない。
図3は、本発明の実施形態に係るスピーカ装置用ボイスコイルの説明図(中心Oから右側の断面図)であって、平面状で且つ環状に巻かれた導電部材30からなり、少なくとも平面方向に沿った振動方向(X軸方向)に対して剛性を有するボイスコイル40が、剛性の基体41によって支持されている。導電部材30を形成する巻き線31は円形断面(同図(a),(c)),楕円形断面(同図(b),(d),(e)),多角形(矩形)断面(同図(f),(g))等各種の断面形状を採用することができる。また、巻き線31は1層巻き(同図(a),同図(b),同図(f)),2層巻き(同図(c),同図(d)),3層以上の多層巻き(同図(e),同図(g))の如何様にも形成することができる。基体41は、剛性を有すると共に絶縁性を有するプラスチック板等で形成することができる。
具体的には、プリント基板に用いる基板、例えば、紙フェノール基板(紙にフェノール系樹脂を含浸させたもの)、紙エポキシ基板(紙にエポキシ樹脂を含浸させたもの)、ガラスコンポジット基板(切り揃えたガラス繊維を重ねてエポキシ樹脂を含浸したもの)、ガラスエポキシ基板(ガラス繊維で構成される布や織物又は不織布等を重ねたシート状物にエポキシ系樹脂を含浸させたもの)、テフロン基板(テフロン(登録商標)で形成された基板)、アルミナ基板(酸化アルミニウムで形成された基板)、コンポジット基板(前述のガラスエポキシ基板を紙エポキシ基板で挟持して形成された基板)を用いることができる。
図示の例では基体41に取り付け開口を形成してその開口内に導電部材30を配置している。剛性の基体41によってボイスコイル40の剛性を得ることで、導電部材30自体の材料選択幅を広げることができる。
図3では、導電部材30は中心側から外側に向けて異なる径で巻かれた巻き線31からなり、多層巻きの場合は、同径に巻かれた導電部材30の巻き線31が、基体41の厚さ方向に積層されている。また、導電部材30の内周部の内側には開口部が形成されている。
導電部材30の断面形状が例えば円形である場合には、各導電部材30との間に隙間が形成される。一方で、導電部材の断面形状が矩形又は多角形である場合、断面形状が円形の導電部材30である場合と比べて、ボイスコイル40内の導電部材30の占有率が比較的大きくなり、ボイスコイル40に作用する電磁気力、詳細には、後述する磁気ギャップ内に配置されるボイスコイル40を構成して音声信号が入力される導電部材30に作用する電磁気力を比較的大きくすることができる。これによって、振動板に比較的大きい駆動力を作用させることができる。また、占有率を大きくできるので、ボイスコイル40の厚さを比較的小さくでき、スピーカ装置の薄型化に寄与することができる。ここでいう占有率とは、所定の面積Aを有する二次元領域(平面)を、断面積がBである導電部材がC本通過する際、導電部材が領域内を占める割合(=B×C/A)を言う。
特に、断面形状が円形である導電部材30と、断面形状が円形以外である導電部材30とを比較する際、導電部材30の断面積が同じであるという条件の下で前述した占有率を考えると、断面形状が円形である導電部材30を用いる場合と、各導電部材30との間に比較的大きい隙間が形成される一方で、断面形状が円形以外である導電部材30を用いると隙間は比較的小さく、又は隙間を無くすことができるので、断面形状が円形以外である導電部材30の方がその占有率を大きくすることができる。
図4は、本発明の実施形態に係るスピーカ装置用ボイスコイルの説明図(断面図)であって、導電部材30の支持形態を示した説明図である。ここでの導電部材30は図3に示したような形態を採用することができる。同図(a)に示した例は、図3に示した形態であり、基体41にボイスコイル取り付け箇所41aの開口が形成され、その開口内に導電部材30が配置されている。また、導電部材30の内周部の内側に開口部41bが形成されている。
同図(b)に示した例は、基体41の環状のボイスコイル取り付け箇所41aに環状の導電部材30が取り付けられ、導電部材30を覆うように基体41の両面に保護フィルム44が貼り付けられている。
同図(c)に示した例は、基体41の表面に導電部材30が配置されている。この際、基体41には導電部材30の中心開口に対応するように開口部41bが形成されている。同図(d),(e)に示した例は、少なくとも2つの基体41にて、導電部材30が挟持されている。同図(d)に示した例では、基体41のそれぞれに前述した開口部41bが形成されており、同図(e)には、開口部41bは形成されず、2つの基体41の間の空隙を埋めるように、内部充填部材45が配置されている。内部充填部材45は、基体41より大きい剛性を有するものにすることもできるし、基体41と同じ材質で構成することもできる。内部充填部材45における共振周波数と、基体41における共振周波数との差が比較的小さければ、基体41と異なる材質を用いることも可能である。また、基体41の剛性や内部損失に対し大きな差がない材質を内部充填部材45として用いても構わない。また、ボイスコイル40全体の厚さを薄くするためには、基体41の厚さを内部充填部材45又は導電部材30の厚さより薄くすることが好ましい。
図5〜図14は、より具体的なスピーカ用ボイスコイルの実施形態を示した説明図である。図5に示す例は、導電部材30のみによってボイスコイル40を形成している。同図(a)に示した例では、導電部材30を矩形に巻き回して平板状のボイスコイルを形成している。同図(b)に示した例では、導電部材30を円筒状に巻き回してボイスコイル40を形成している。先端部分に他部材を接続するために蓋部材40Xを先端に固着させることができる。同図(c)に示した例では、導電部材30を円柱状に巻き回してボイスコイル40を形成してその両端を樹脂製等の支持部材30Sで挟持している。これも先端部分に他部材を接続するために蓋部材40Xを先端に固着させることができる。何れの例も振動方向に剛性を有するものであるが、同図(a)のようにすることで薄型化が可能になる。
図6に示したボイスコイル40は、基体41に導電部材30が支持されている。基体41上に支持された導電部材30は、導線を端子Seから巻き始めて端子Enで巻き終わっている。巻き回された導電部材30の中心部に開口部41bが形成されている。ボイスコイル40は、その振動方向に直交する方向における幅h1が、振動方向における導電部材30の両端部の間で略同じであり、導電部材30の端部の近傍から後述する振動方向変換部と連結される端部(幅h2)に向かって徐々に幅狭に形成されている。また、ボイスコイル40は、ボイスコイル40の振動方向における長さに対し、ボイスコイル40の振動方向に対し直交する方向におけるボイスコイルの長さを比較的大きくすることで、スピーカ駆動時に比較的大きな駆動力又は電磁気力を得ることができる。
図7に示すボイスコイル40は、基体41に導電部材30が支持されている。基体41に導電部材30が支持されるボイスコイル取り付け箇所41aは段状の凹溝になっており、その底面に導電部材30が支持されている。また、基体41における導電部材30の内側には開口部41bが形成されている。
ボイスコイル40の平面形状は、その振動方向(X軸方向)に対して直交する方向に長い横長形状に形成されている。この形状によって振動方向の剛性を更に高めており、ボイスコイル40の振動を自身が変形することなく後述する振動方向変換部50に伝えている。また、ボイスコイル40は、ボイスコイル40の振動方向における長さに対し、ボイスコイル40の振動方向に対し直交する方向におけるボイスコイル40の長さを比較的大きくすることで、スピーカ装置の駆動時に比較的大きな駆動力を得ることができる。
基体41における導電部材30の外側の表面には、導電層46がパターン形成されており、導電部材30を取り囲むように一対の導電層46(46A,46B)が配備されている。この導電層46(46A,46B)は音声信号を導電部材30に入力するための中継線として機能している。導電層46のそれぞれには、導電部材30の巻き線の一端から引き出されるボイスコイル引き出し線43の端部が接続されるボイスコイル接続端子42が形成されており、また、導電層46に音声信号を入力するための接続端子47が設けられている。
また、基体41の一端には後述する連結部或いは振動方向変換部が接続される端部40Aが形成されると共に、他端には、後述する保持部が接続される係合突起41c,41cが形成されている。
ボイスコイル40は、後述する保持部が接続される係合突起41c,41cが形成される端部40Bと、後述する連結部或いは振動方向変換部が接続される端部40Aとの間で、その外周部40Cの幅が狭くなるように形成されている。特に、外周部40Cの幅は、ボイスコイル40の端部40Bから、ボイスコイル40の端部40A側における導電部材30の端部近傍にかけて、外周部40Cの幅が狭まっている。図6及び図7に示すように、外周部40Cの幅を狭める形状をボイスコイル40が有することで、ボイスコイル40が撓むこと等を抑止しながら、効果的にボイスコイル40の振動を後述する振動方向変換部及び振動板に伝達させることができる。
図7に示した例のように導電層46を導電部材30の周囲を囲むように設けるのは、導電部材30を流れる電流の電流歪み(高調波歪み)の発生を抑制するためである(導電層は開いた形状を有する)が、図9〜図13に示すように、導電部材30の周囲に閉じた導電層からなるショートリング層48を配置することによって、更に顕著に電流歪みを抑制することが可能になる(ショートリングは開いた形状を有する)。なお、図7に示される導電層46を設けることで、ボイスコイル40の振動方向にて、ボイスコイル40に制動力も作用させることが可能である。図7に示す例では、導電層46の端部に跨って絶縁層49を形成し、その絶縁層49の上にショートリング層48を形成している。このショートリング層48は、ボイスコイル40の振動方向に沿って、導電部材30の両側に環状にパターン形成している。
また、図8に示されるように、基体41に形成される開口部41bには、ボイスコイル40の内側に向かって突出する、載置部(突出部)が設けられている。この突出部は例えば図4(b)に示される保護フィルム44の内周部をボイスコイル40の内側、即ち開口部41bに向けて突出させて形成しても構わないし、基体41の内周部を開口部41bに向けて突出させて形成しても構わなく、ボイスコイル40を構成する部材のうち、導電部材30以外の部材で構成することができる。この突出部には、ボイスコイルの一部(例えば、引出線)が配置されており、突出部を含め、導電部材30と基体41とを接合すべく接着剤Mが塗布される。なお、突出部は剛性を備えることが導電部材30を支持する上で好ましい。このような突出部も含め、導電部材30と基体41とを接着剤等で接合することで、ボイスコイル40を振動させる際、導電部材30と基体41とが剥がれることを抑止でき、長期に渡ってスピーカ装置を駆動させることができる。
図9では、ショートリング層48が、ボイスコイル40の振動方向に対して直交する方向における、磁気ギャップ20Gの幅又は導電部材30の幅に対して小さい幅に形成されている。
また、図10では、ショートリング層48が、ボイスコイル40の振動方向に対して直交する方向における、磁気ギャップ20Gの幅又は導電部材30の幅と略同じ幅にて形成されている。
ショートリング層を前述のような形状にすることによって、ボイスコイル40の振動方向にて、ボイスコイル40に作用する制動力の大きさを調整することが可能になる。さらに、ボイスコイル40に過大な振動が生じるのを抑止することができる。特に、ショートリング層48の幅を磁気ギャップ20Gの幅又は導電部材30の幅に対して小さくした場合には、制動力は比較的小さくなり、ショートリング層48の幅を磁気ギャップ20Gの幅又は導電部材30の幅と略同じ幅にした場合には、制動力は比較的大きくなる。
図11に示す例では、導電層46の外周を囲むように基体41の上にショートリング層48を環状にパターン形成している。図12に示す例では、導電層46の内側の基体41上にショートリング層48を環状にパターン形成している。なお、ショートリング層48は、基体41の導電部材30側に配置されているが、これに限定されず、導電部材30側とは逆側に配置しても構わない。
図13は、導電部材30と逆側にショートリング層48を形成した例である。同図(a)がボイスコイル40の導電部材30が支持された面を示す平面図であり、同図(c)がボイスコイル40の背面図であり、同図(c)がX−X断面図である。基体41の背面にショートリング層48を形成することで、スペース上の制約無くショートリング層48を形成することができる。
図14は、導電部材30が複数の導線にて構成されている例を示している。導電部材が第1の導電部材301と第2の導電部材302で形成されている場合、例えば第2の導電部材302が基体41上に配置され、第1の導電部材301が第2の導電部材302を取り囲むように配置されている場合には、第1の導電部材301と第2の導電部材302に対応する複数の導電層(ショートリング層481,482)を配置しても構わない。
[ボイスコイルと磁気回路;図15〜図17]
図15〜図17は、前述した剛性を有するボイスコイル40を振動させるための磁気回路を説明するための説明図である。
ボイスコイル40を振動させるための磁気回路20は、ボイスコイル40の振動方向に沿った磁気ギャップ20Gを形成しているだけでなく、ボイスコイル40上で平面的に巻かれた導電部材30を流れる電流に対して同方向のローレンツ力を与えるために、磁気ギャップ20Gが逆向きで一対の磁場を形成している。図15〜図17には、ボイスコイル40の振動方向に沿って一対の磁気ギャップ20Gが形成されているが、これに限らず、1つの磁気ギャップ20Gのみを磁気回路20が備えていても構わない。また、図15〜図17では、ボイスコイル40の振動方向に沿って配列した2つの磁気ギャップ20Gを構成する2つの磁極部は、対向する面が略平行に形成されることで、両磁気ギャップ20Gの幅を同じにしている。
すなわち、磁気回路20は、磁石21とヨーク部22によって形成されており、Z軸方向で互いに逆向きの磁場方向を有する一対の磁気ギャップ20G(20G1,20G2)をX軸方向の所定間隔で並べて形成している。そしてこの磁気ギャップ20G(20G1,20G2)内を流れる電流がY軸方向で互いに逆方向になるように導電部材30を巻き回すことで、導電部材30にX軸方向に沿ったローレンツ力が働くようにしている。図示の例では、ボイスコイル40の導電部材30が一対の直線部30A,30Cを有し、一対の磁気ギャップ20G1,20G2で直線部30A,30Cに逆方向の電流が流れるように、導電部材30が一対の磁気ギャップ20G1,20G2を巡回するように配置されている。
磁石21とヨーク部22の配置を変えることによって同様の機能で様々な形態の磁気回路20を形成することができる。図15及び図16に示した例では、磁気回路20は、複数の磁石21(21A〜21D)を有する。この磁気回路20では、磁石21が、磁気ギャップ20Gの磁場の方向に沿った両側に設けられている。
図示の例では、ヨーク部22は、下側のヨーク部22A、上側のヨーク部22B、および支柱部22Cを有する。ヨーク部22A,22Bは規定間隔をあけて略平行に配置されており、中央部には、支柱部22Cがヨーク部22A,22Bに対して略直交する方向へ延在するように形成されている。
ヨーク部22A,22Bには磁石21A〜21Dが配置され、磁石21Aと磁石21Cとで一つの磁気ギャップ20G2が形成され、磁石21Bと磁石21Dとでもう一つの磁気ギャップ20G1が形成されている。この一対の磁気ギャップ20G1と磁気ギャップ20G2は、平面的に並べて形成され、互いに逆方向の磁場が形成されるようになっている。
一方、導電部材30は、平面形状が略矩形状に形成されており、Y軸方向に沿って形成された直線部30A,30Cと、X軸方向に沿って形成された直線部30B,30Dにより構成されている。導電部材30の直線部30A,30Cは、磁気回路20の磁気ギャップ20G内に配置され、磁場の方向がZ軸方向に沿うように規定されている。導電部材30の直線部30B,30Dには磁場を印加しないほうが好ましい。また、直線部30B,30Dに磁場が印加されている場合でも、その直線部30B,30Dに生じるローレンツ力が互いに相殺するように構成されている。導電部材30は、巻き数を比較的多くすることで、磁気ギャップ20G中の部分を比較的大きくすることができ、スピーカ駆動時、比較的大きな駆動力を得ることができる。
磁気回路20は、図16に示す例では、導電部材30の直線部30Aに係る磁場の向きが、直線部30Cに係る磁場の向きに対して逆向きとなるように、複数の磁石21A〜21Dに対して、磁石21Aと磁石21Cが同方向に着磁され、磁石21Bと磁石21Dがそれとは逆の同方向に着磁されている。磁石21の着磁は磁石21とヨーク部22とを組み付けた後に行うことができるが、図15,図16に示した例ではその際の着磁工程を2回行うことが必要になる。
これに対して、図17に示す例では、磁気ギャップ20G2を同方向に着磁された磁石21A,21Cによって形成し、磁気ギャップ20G1はヨーク部22A,22Bのそれぞれに形成したヨーク凸部22a,22b間に形成している。これによると、磁石21とヨーク部22とを組み付けた後に行う着磁工程を1回で済ませることができ、工程の簡略化が可能になる。また、図示していないが、磁気回路20は、磁気ギャップ20G1,20G2に両方が磁石とヨーク凸部で構成される場合や、磁気ギャップ20G1,20G2の一方が磁石とヨーク部で構成され、他方が2つの磁石又は2つのヨーク部とで構成される場合がある。
[スピーカ装置の全体構成;図18〜図20]
図18〜図20は、本発明の実施形態に係るボイスコイルを備えたスピーカ装置の全体構成を示した説明図である。スピーカ装置1,1A,1B,1C,1Dは、ボイスコイル40と、ボイスコイル40を振動させる磁気回路20とを備えた駆動部14と、音声信号によって駆動部14からの振動が伝えられる振動板10と、駆動部14と振動板10とを支持する静止部100とを備えている。静止部100は、振動板10及び駆動部14等の振動を支持する部位の総称であって、ここでは、フレーム12、フレーム12の機能を兼ねた後述するヨーク部、取付ユニット等が静止部100にあたる。静止部100は、それ自体が完全に静止していることを意図するわけではなく、それ全体が駆動部14の振動の影響を受けて、或いは他の力を受けて、振動するものであってもよい。振動板10の外周部はエッジ11を介して静止部100であるフレーム12に支持されている。また、フレーム12には必要に応じて通気孔12Bが設けられている。駆動部14は、ボイスコイル40の振動を角度変換して振動板10に伝える振動方向変換部50を備え、振動方向変換部50は、振動板10の振動方向およびボイスコイル40の振動方向それぞれに対して斜設された剛性のリンク部分51を備えている。
振動板10は、図示のように、振動方向(Z軸方向)に沿って振動自在にフレーム12に支持されている。振動板10は、スピーカ駆動時、音響放射方向SDに音波を放射する。また、振動板10は、エッジ11を介してフレーム12に支持されており、振動方向以外の方向、詳細にはX軸方向やY軸方向に沿った移動は、エッジ11により規制されている。このエッジ11と振動板10は一体形成されてもよい。
振動板10の形成材料としては、例えば、樹脂系材料、金属系材料、紙系材料、繊維系材料、セラミックス系材料、複合材料などを採用することができる。振動板10は、例えば剛性を有することが好ましい。振動板10は、例えば平板形状、ドーム形状、コーン形状などの規定形状に形成することができる。図示の例で振動板10は平板形状に形成されており、また、フレーム12の平面状の底部12Aに沿って支持されている。薄型化の実現を課題とする本発明の実施形態としては、平板形状の振動板10が特に好ましい。また、振動板10は、音響放射方向から視認した形状(平面形状)が、矩形状、楕円形状、円形状、多角形状など、規定形状に形成することができる。また、振動板10をハニカム構造にしても構わない。
また、必要に応じて、振動板10の表面(音響放射側の面)又は裏面(音響放射側とは逆側の面)に、突起部を形成しても構わない。突起部は振動板10の剛性を大きくする機能を有する。突起部は振動板10の表面に対し、直線状、環状、格子状に形成してもよく、例えば直線状の突起部を振動板の表面に複数形成するなど、適宜変更してもよい。
振動板10は、振動自在にフレーム12に支持されており、振動板10の背面側(音響放射方向とは逆側)における振動板10とフレーム12とで囲まれる空間が音響放射方向に対して遮断されている場合には、振動板10の背面側から発せられる音波が音響放射方向に向けて放射されるのを抑止できる。
エッジ11は、振動板10とフレーム12との間に配置され、内周部が振動板10の外周部を支持するとともに、外周部がフレーム12に接合することにより、振動板10を規定位置に保持する。詳細には、エッジ11は、振動板10を振動方向(Z軸方向)に沿って振動自在に支持するとともに、振動方向に直交する方向には制動する。図示のエッジ11は、音響放射方向から視認した場合、リング形状(環状)に形成されており、断面形状は規定形状、例えば凸形状、凹形状、波型形状などに形成されている。エッジ11は、音響放射方向に凸状に形成されても凹形状に形成されても構わない。エッジ11は、例えば、皮,布,ゴム,樹脂,それらに目止め加工を施したもの、ゴムや樹脂などを規定の形状に成形した部材等を採用することができる。
駆動部14は、前述した磁気回路20とボイスコイル40と振動方向変換部50を備えている。音声信号入力端子18からボイスコイル引き出し線43を介してボイスコイル40に音声信号SSが入力されると、前述した磁気ギャップ20G内のボイスコイル40にX軸方向に沿ったローレンツ力が作用して、ボイスコイル40がX軸方向に沿って振動する。
フレーム12は、振動板10を振動方向に沿って振動自在に支持すると共に駆動部14を内部で支持している。また、フレーム12は後述する振動方向変換部50のリンク機構の一部を支持してリンク機構の動作に対してフレーム12からの反力を加える。このようなフレーム12は平面状の底部12Aを有していることが望ましい。また、フレーム12は、ボイスコイル40に対して静止している状態にて配置されている静止部100でもある。なお、静止部100は、完全に静止している状態を意図するわけでなく、例えば、振動板10を支持できる程度に静止していれば良く、スピーカ装置1〜1Dを駆動する際に生じる振動が伝搬し、振動が静止部100全体に生じても構わない。ここでいう静止部100には、フレーム12以外にも、磁気回路20の一部やスピーカ装置1〜1Dが装着される被装着箇所等が該当する。また、静止部100は磁気回路20と機械的に一体となって配置されていれば良く、フレーム12は、磁気回路20に支持されているとも言えるので、静止部100となる。よって、例えば磁気回路20を構成する構成部材(例えば、後述するヨーク部22)、もしくは磁気回路20にて支持される部材は静止部100と成り得る。
振動方向変換部50は、ボイスコイル40の振動を方向変換して振動板10に伝えるものである。この振動方向変換部50は、剛性のリンク部分51を備えており、振動板10の振動方向およびボイスコイル40の振動方向それぞれに対して斜設された剛性のリンク部分51を角度変更させることによって、ボイスコイル40の振動を方向変換して振動板10に伝えている。
図18に示した実施形態に係るスピーカ装置1では、振動方向変換部50は一つのリンク部分51によって形成されており、振動方向変換部50のボイスコイル40側の端部50Aが関節部52(52A)によって形成され、振動方向変換部50の振動板10側の端部50Bがリンク部分51を振動板10に連結する関節部52(52B)によって形成されている。同図(a)が初期時の状態、同図(b),(c)がスピーカ駆動時の状態を示している。
図18(b),(c)に示すように、関節部52は、リンク部分51と連結対象とを回転自在に連結するものであり、ボイスコイル40の振動に伴って、ボイスコイル40側の関節部52Aはボイスコイル40の移動に沿ってX軸方向に移動し、振動板10側の関節部52Bは振動板10の振動方向(例えばZ軸方向)に沿って移動する。これによってボイスコイル40のX軸方向の振動が方向変換されて振動板10をX軸方向とは異なる方向(例えばZ軸方向)に振動させる。
図19に示した実施形態に係るスピーカ装置1Aは、図18に示した駆動部14を左右対称に互いに対向配置したものであり、駆動部14(R),14(L)を備え、それぞれの駆動部14(R),14(L)にリンク部分51(R),51(L)とボイスコイル40(R),40(L)と磁気回路20(R),20(L)を設けている。同図(a)が初期時の状態、同図(b),(c)がスピーカ駆動時の状態を示している。
これによると、図19(b),(c)に示すように、ボイスコイル40(R),40(L)の振動方向を同期させ、且つ逆向きにすることで、2つの駆動部14(R),14(L)の駆動力を合わせて振動板10を振動させることができる。また、振動板10側の関節部52Bを複数箇所に設けることができるので、振動板10の支持点が増え、振動板10の振動の位相を合わせることが可能になる。
図20に示した実施形態に係るスピーカ装置1B,1C,1Dでは、振動方向変換部50は剛性の第1のリンク部分51Aと第2のリンク部分51Bを備えたリンク機構50Lによって形成されている。振動方向変換部50のボイスコイル40側の端部50Aとボイスコイル40との連結が関節部52Aによって形成され、振動方向変換部50の振動板10側の端部50Bが第1のリンク部分51Aを振動板10に連結する関節部52Bによって形成されている。第1のリンク部分51Aと第2のリンク部分51Bはボイスコイル40の振動方向に対して異なる方向に傾斜配置され、第2のリンク部分51Bの一端は第1のリンク部分51Aの中間に関節部52Cで連結されており、第2のリンク部分51Bの他端は静止部100に関節部52Dで連結されている。ここで静止部100は、振動方向変換部50に対して振動板10側とは逆側に設けられている。図示した例では、静止部100は、フレーム12の底部12Aに形成された支持台13である。
また、フレーム12は平面状の底部12Aを有し、振動板10はフレーム12の底部12Aに沿って平面的に支持され、磁気回路20の磁気ギャップ20Gはフレーム12の底部12Aに沿って形成され、振動方向変換部50はフレーム12の底部12Aによって静止部100を形成し、底部12Aと交差する方向に振動板10を振動させる。
関節部52A,52B,52C,52Dは、第1のリンク部分51A,第2のリンク部分51Bと連結対象とを回転自在に連結するものであり、ボイスコイル40側の関節部52Aはボイスコイル40の移動に沿ってX軸方向に移動し、静止部100となる支持台13に連結された関節部52Dは固定された状態になり、静止部100の支持台13から受ける反力によって、関節部52Aの移動が第1のリンク部分51Aと第2のリンク部分51Bの角度を変換し、振動板10側の関節部52Bを振動板10の振動方向(例えばZ軸方向)に移動させる。
図20(a)に示した実施形態に係るスピーカ装置1Bは、一つの駆動部14によって振動板10を振動させるものであるが、図20(b),(c)に示した実施形態に係るスピーカ装置1C,1Dは、駆動部14を左右対称に互いに対向配置し、更に第1のリンク部分51A(R),(L)と平行リンクを形成する補助リンク51G(R),(L)を各ボイスコイル40(R),(L)の外側端部に連結している。補助リンク51G(R),(L)は、ボイスコイル40(R),(L)の外側端部と関節部52G(R),(L)で連結されており、振動板10と関節部52H(R),(L)で連結されている。それぞれの駆動部14(R),14(L)には、リンク機構50Lとボイスコイル40(R),40(L)と磁気回路20(R),20(L)を設けている。図20(b)に示したスピーカ装置1Cでは、第1のリンク部分51A(R),(L)及び第2のリンク部分51B(R),(L)において関節部52B,52Dを共通点としており、図20(c)に示したスピーカ装置1Dでは、第1のリンク部分51A(R),(L)及び第2のリンク部分51B(R),(L)において関節部52B,52Dを離間した点としている。なお、補助リング51G(R),(L)は必要に応じて省くことができる。
これによると、ボイスコイル40(R),40(L)の振動方向を同期させ、且つ逆向きにすることで、2つの駆動部14(R),14(L)の駆動力を合わせて振動板10を振動させることができる。また、振動板10側の関節部52B,51Gを複数箇所に設けることができるので、振動板10の支持点が増え、振動板10の振動の位相を合わせること、言い換えれば振動板10を略同位相にて振動させることが可能になる。また、ボイスコイル40(R)、40(L)が例えば水平方向に振動する場合には、振動板に水平方向への振動の発生を抑止することができる。
このような本発明の実施形態に係るスピーカ装置1〜1Dによると、音声信号SSが入力されると、振動板10の許容される振動方向とは異なる方向に沿って形成された磁気ギャップ20Gに沿ってボイスコイル40が振動することになり、この振動が振動方向変換部50によって方向変換されて振動板10に伝達され、振動板10を振動させて音響放射方向SDに音声信号SSに応じた音が放射される。
この際、磁気ギャップ20Gの方向を振動板10の振動方向及びスピーカ装置1〜1Dの厚さ方向に交差させているので、磁気回路20の駆動力或いはボイスコイル40の振動ストロークを大きくすることが直接的にスピーカ装置1〜1Dの厚さ方向(Z軸方向)の大きさに影響を与えない。よって、大音量化を図りながらスピーカ装置1〜1Dの薄型化を実現することが可能になる。
また、振動方向変換部50は、機械的なリンク機構によってボイスコイル40の振動方向を変換して振動板10に伝えているので、振動の伝達効率が高い。特に、図20に示した実施形態に係るスピーカ装置1B〜1Dでは、第1のリンク部分51Aと第2のリンク部分51Bの角度変更がボイスコイル40の振動と静止部100となる支持台13からの反力によって行われるので、より確実にボイスコイル40からの振動を振動板10に伝えることができる。これによって、スピーカ装置1B〜1Dの良好な再生効率を得ることができる。
[保持部,取り付けユニット;図21,図22]
図21及び図22は、本発明の実施形態に係るボイスコイルを静止部となるフレームに保持する機構を示す説明図である。本発明の実施形態に係るボイスコイル40は、保持部15によって直接又は他の部材を介して静止部100となるフレーム12に保持される。
保持部15は、ボイスコイル40が磁気回路20に接触しないように、ボイスコイル40を磁気ギャップ20G内の規定位置に保持するとともに、ボイスコイル40が直線的(X軸方向)に振動するように、フレーム12に直接又は他の部材を介して移動自在に保持している。この保持部15は、ボイスコイル40の振動方向と異なる方向、例えばZ軸方向やY軸方向には、ボイスコイル40が移動しないように規制している。
図21に示した保持部15は、例えば板形状に形成され可撓性を有する。この保持部15は、断面形状が曲線状に形成され屈曲可能となる形状を有している。また、保持部15はZ軸方向に所定の厚さ(X軸方向における厚さよりも大きい)を有し、特にZ軸方向における剛性を有するような形状に形成されている。保持部15は断面形状が、凸形状、凹形状、波型形状など、厚みが均一、不均一など各種形状に形成されていてもよい。保持部15は、一端部がボイスコイル40に接合し、他端部がフレーム12に接合している。保持部15は、この形態に限られるものではなく、例えば一端部がボイスコイル40に接合し、他端部が磁気回路20に接合した構成となっていてもよい。
図22は、取り付けユニットを介してボイスコイルをフレームに取り付ける例を示した説明図(同図(a)がX軸方向とY軸方向の中間方向からみた斜視図、同図(b)がその逆向きからみた斜視図)である。ここでは、連結部60を介してボイスコイル40を振動方向変換部50に接続するようにしており、この連結部60が取り付けユニット16を介してフレームに保持されている。
ボイスコイル40には、その振動方向の一端に連結部60が取り付けられ、連結部60はボイスコイル40の幅に沿って延在するように取り付けられている。ボイスコイル40は、前述したように、平板状の基体41にボイスコイル取り付け箇所41aが形成され、そのボイスコイル取り付け箇所41aに導電部材30が取り付けられている。ボイスコイル40における導電部材30の内側には開口部41bが形成され、ボイスコイル40の軽量化を図っている。
このボイスコイル40及び連結部60は保持部15によって取り付けユニット16を介してフレーム12に保持される。この例でも保持部15はボイスコイル40のX軸方向に沿った移動を許容しながらそれ以外の方向への移動を規制するための構造を備えており、具体的には、Z軸方向に沿った厚みを有する板材でX軸方向に沿った凸状の湾曲が形成され、湾曲の曲げ伸ばし方向に関する変形を許容しながらそれ以外の変形を規制している。
図22に示す例では、保持部15は、一端がボイスコイル40又は連結部60に接続され、他端が取り付けユニット16に接続されるか、或いは、その中間部がボイスコイル40又は連結部60に接続され、その両端が取り付けユニット16に接続されている。
この保持部15は第1の保持部15Aと第2の保持部15Bとを備えており、第1の保持部15Aと第2の保持部15Bは、取り付けユニット16を介してボイスコイル40をフレーム12に保持している。第1の保持部15Aは連結部60を取り付けユニット16に保持しており、左右それぞれに設けられた第1の保持部15Aの内側の端部が連結部60の両外側の端部に接続され、各第1の保持部15Aの外側の端部が取り付けユニット16にそれぞれ接続されている。より具体的には、連結部60の両外側端部には係合突起60a,60aが形成されており、第1の保持部15Aの内側の端部には係合突起60a,60aに係合する係合孔15a,15aが形成されている。また、取り付けユニット16には連結部60の左右両側に第1の接続部16a,16aが形成されており、第1の保持部15Aの外側の端部には第1の接続部16a,16aの係合突起16a1,16a1に係合する係合孔15aが形成されている。
第2の保持部15Bは、図示の例では、の中央部が取り付けユニット16の第2の接続部16bに接続され、その両端がボイスコイル40の左右端に接続されている。第2の接続部16bには係合突起16b1が形成され、この係合突起16b1に第2の保持部15Bの係合孔15bが係合されている。ボイスコイル40の左右端には係合突起41c,41cが形成され、この係合突起41c,41cに第2の保持部15Bの両端に形成された係合孔15bが係合している。ここでは、第2の保持部15Bをボイスコイル40の幅内に配置して、ボイスコイル40の保持機構がボイスコイル40の幅方向に嵩張らないようにしている。スペースに余裕が有る場合には、第2の接続部16bを第1の接続部16aと同様に左右両側に配置して、ボイスコイル40の左右端をそれぞれ第2の保持部15Bを介して左右の第2の接続部16bに接続するようにしてもよい。
取り付けユニット16は、第1の保持部15Aの端部が接続される第1の接続部16aが連結部60の左右両側に設けられ、第2の保持部15Bが接続される第2の接続部16bがボイスコイル40の後方に設けられ、第1の接続部16aと第2の接続部16bとを一体に支持する一体支持部16cを有する。また、取り付けユニット16は、フレーム12に対して取り付けられる取り付け係止部16d或いは取り付け係止孔16eを備えており、ボイスコイル40と連結部60と保持部15(第1の保持部15A,第2の保持部15B)と取り付けユニット16とをユニット化して1工程の取り付け作業でフレーム12に組み込むことができるようにしている。
また、このような実施形態では、取り付けユニット16の第1の接続部16aが音声信号入力端子を兼ねるようにし、音声信号が第1の保持部15Aを介して導電部材30に供給されるようにすることができる。この場合には、第1の保持部15Aに信号線を沿わせるか、第1の保持部15Aをフレキシブル配線板とするか、或いは第1の保持部15Aを導電性材料で形成してこれ自体を信号線とするかのいずれかにすることができる。そして、導電部材30からのボイスコイル引き出し線43を絶縁性の基体41上に形成し、このボイスコイル引き出し線43の先端をボイスコイル接続端子42に電気的に接続し、ボイスコイル接続端子42を第1の保持部15Aのボイスコイル側の端部に電気的に接続する。第1の保持部15Aのフレーム側端部は音声信号入力端子を兼ねる第1の接続部16aに電気的に接続されている。
このような音声信号の入力配線経路を形成することで、入力信号線の配線スペースを省くことができ、装置内でのスペース効率を高めることができる。また、ボイスコイル40の振動時にも信号線の暴れが無く、信号線が装置内の各部に接触して異音を発する不具合も生じない。
[振動方向変換部;図18〜図20,図23〜図26]
図18及び図19に示したスピーカ装置1,1Aでは、振動方向変換部50は一つのリンク部分51,関節部52A,52Bによって形成されており、リンク部分51の角度変化によってボイスコイル40のX軸方向の振動を振動板10のX軸方向以外(例えばZ軸方向)の振動に変換している。図20に示したスピーカ装置1B,1C,1Dでは、振動方向変換部50は、第1のリンク部分51A,第2のリンク部分51B,関節部52A,52B,52C,52Dによってリンク機構50Lが形成されている。この例では第2のリンク部分51Bと静止部100となる支持台13との関節部52Dが位置変位しない関節部であって、他の関節部52A,52B,52Cは位置が変位する関節部になっている。これによって、全体のリンク機構50Lは関節部52Dにおいて静止部100からの反力を受ける構造になっている。このリンク機構50Lでは、関節部52Aがボイスコイル40の振動によってX軸方向に移動すると、関節部52BはZ軸方向に沿って移動することになり、ボイスコイル40の振動を方向変換して振動板10に伝える。
本発明の実施形態に係る振動方向変換部50は、線状の屈折部を有する板状部材によって形成することができ、この屈折部を前述したリンク機構50Lの関節部にすることができる。例えば、図20に示した例では、第1のリンク部分51A及び第2のリンク部分51Bを板状部材によって形成し、リンク機構50Lの関節部52A,52B,52C,52Dを線状の屈折部によって形成することができる。これによると、振動板10との接合部分を線状に接合することができるので、平面状の振動板10に対して幅方向に沿って均一に振動を加えることができ、振動板全体を略同位相で振動させることが可能になる。すなわち、分割振動の発生を抑えて特に高音域側の再生が可能になる。また、各リンク部分は剛性を有するので、固有振動モードでの振動が発生しにくく、リンク部分のたわみ振動等が振動板10の振動へ悪影響を与えるのを抑止し、音響特性が低減することを抑止できる。
本実施形態に係る振動方向変換部50は、例えば通気孔を形成しても良い。通気孔は、スピーカ振動時の振動板10とフレーム12で囲まれる空間の空気圧の局所的な変動を低減することができ、空気圧による振動方向変換部50の制動を抑止する。また、通気孔によって例えばリンク部分に中抜きが形成されて、リンク部分を軽量化できるので、これによって高域再生が可能になる。また、振動方向変換部の軽量化は特に再生特性の広域化や、所定の音声電流に対する音波の振幅及び音圧レベルを大きくすることに有効である。
また、振動方向変換部50は、屈折部で繋がった一体部品からなるようにしてもよい。この場合は、複雑なリンク機構を形成する振動方向変換部50を即座にボイスコイル40や振動板10に接合することができ、装置の組立性が良好になる。また、振動方向変換部50は例えばボイスコイル40や振動板10と一体に形成することも可能である。
振動方向変換部50が備える関節部52A,52B,52C,52Dは、機械的な構造の関節(ジョイント)で構成されていてもよいし、ポリエステルやポリアラミド等の高分子から成る繊維にて構成される部材、ポリウレタン樹脂やゴム等から成る部材、可撓性フィルムなどの可撓性部材により構成されていてもよい。また、例えばボイスコイル40と振動方向変換部50とが樹脂材料などの規定材料により一体形成されて、所定箇所に折り曲げ自在となるように加工処理を施して関節部52A,52B,52C,52Dを形成してもよい。
図23は、図20に示した本発明の実施形態における振動方向変換部50の動作を説明するための説明図である。詳細には、図23(b)は振動板10が基準位置に位置した状態の振動方向変換部50の状態、図23(a)は振動板10が基準位置に対して音響放射側に変位している状態の振動方向変換部50の状態、図23(c)は振動板10が基準位置に対して音響放射側に対して反対方向に変位している状態の振動方向変換部50の状態を示している。
前述したように、関節部52Dが唯一位置変動しない関節部であり、これがフレーム12や支持台13等の静止部100に対して支持され、静止部100からの反力をリンク機構50Lに付与している。これによって、ボイスコイル40が基準位置X0からX軸方向にX1だけ移動すると、図23(a)に示すように、異なる方向に傾斜配置している第1のリンク部分51Aと第2のリンク部分51Bの角度がほぼ同角度立ち上がることになり、関節部52Dで静止部100からの反力を受けて関節部52Bは確実に振動板10を基準位置Z0からZ軸方向にZ1だけ押し上げる。また、ボイスコイル40が基準位置X0からX軸と逆方向にX2だけ移動すると、図23(c)に示すように、第1のリンク部分51Aと第2のリンク部分51Bの角度がほぼ同角度下がることになり、関節部52Dで静止部100からの反力を受けて関節部52Bは確実に振動板10を基準位置Z0からZ軸とは逆方向にZ2だけ押し下げる。
ここで、関節部52Aから関節部52Cまでのリンク部分の長さaと関節部52Cから関節部52Bまでのリンク部分の長さbと関節部52Cから関節部52Dまでのリンク部分の長さcを実質的に等しくして、ボイスコイル40の移動方向と略平行に関節部52Aと関節部52Dを配置していることが好ましい。このようなリンク機構はスコットラッセルの機構として知られており、関節部52A,52B,52Cは関節部52Dを中心として直径が第1のリンク部分70の長さ(a+b=2a)の円周上にある。すなわち、関節部52Aと関節部52Dを通る直線と、関節部52Bと関節部52Dを通る直線とがなす角は常に直角になる。これによって、ボイスコイル40をX軸方向に移動させると、第1のリンク部分51Aと振動板10との関節部52Bは常にX軸と垂直なZ軸に沿って移動することになり、ボイスコイル40の振動方向をそれとは垂直方向に変換して振動板10に伝えることができる。
図24は、本発明の実施形態における振動方向変換部50の一例を示す説明図である(同図(a)が側面図、同図(b)が斜視図、同図(c)が分解斜視図)。この振動方向変換部50は、駆動部を一対設けて、振動方向変換部50を互いに略左右対称に対向配置させる場合であって、しかも振動方向変換部50を一体部品で形成している。
この実施形態に係る振動方向変換部50は、一端を連結部60との関節部52A(R),52A(L)とし、他端を振動板10との関節部52B(R),52B(L)とする一対の第1のリンク部分51A(R),51A(L)を有する。また、一端を第1のリンク部分51A(R),51A(L)の中間部との関節部52C(R),52C(L)とし、他端を不動の後述する第6のリンク部分51Fとの関節部52D(R),52D(L)とする一対の第2のリンク部分51B(R),51B(L)を有する。更に、連結部60から一体的に延設される一対の第3のリンク部分51C(R),51C(L)と、振動板10に沿って固着される第4のリンク部分51Dとを有する。また、一端を第3のリンク部分51C(R),51C(L)の端部との関節部52E(R),52E(L)とし、他端を第4のリンク部分51Dとの関節部52F(R),52F(L)とする一対の第5のリンク部分51E(R),51E(L)を有する。そして、第4のリンク部分51Dの両端に第1のリンク部分51Aと振動板10(第4のリンク部分51D)との関節部52B(R),52B(L)を形成する。第2のリンク部分51B(R),51B(L)と不動の後述する第6のリンク部分51Fとの関節部52D(R),52D(L)を第4のリンク部分51Dとほぼ等しい長さの第6のリンク部分51Fの両端に形成する。更には、第1のリンク部分51A(R)と第5のリンク部分51E(R)又は第1のリンク部分51A(L)と第5のリンク部分51E(L)が平行リンクを形成し、第3のリンク部分51C(R),51C(L)と第4のリンク部分51Dがそれぞれ平行リンクを形成する。また、第3のリンク部分51Cの基端部には連結部60との接続部53(R),53(L)が形成されている。接続部53は前述した連結部60に接続される。
このような振動方向変換部50のリンク機構50Lは、実質的には、図20に示した実施形態のリンク機構と平行リンク機構を組み合わせた機能を有し、各リンク部分を板状部材によって形成し、リンク部分間の各関節部は線状の屈折部によって形成してリンク部分相互間が屈折部を介して一体的に形成されている。
この振動方向変換部50の動作を図25によって説明する。この例ではフレーム12に支持される第6のリンク部分51Fが静止部100として機能することになる。このような振動方向変換部50によると、ボイスコイル40の振動による連結部60の移動によって、関節部52A(R),(L)がX軸方向の基準位置X0からX1に移動すると、これによって平行リンクを形成している第3のリンク部分51C(R),(L)と第4のリンク部分51Dは平行状態を維持しながら、第4のリンク部分51Dが上昇し、平行リンクを形成している第1のリンク部分51A(R),(L)と第5のリンク部分51E(R),(L)が立ち上がるように角度変更する。その際、関節部52D(L),(R)が静止部100となる第6のリンク部分51Fに支持されているので、静止部100からの反力を受けて第1のリンク部分51A(R),(L)と第5のリンク部分51E(R),(L)の角度変更が確実に行われ、関節部52A(R),(L)の位置X0から位置X1への変位を振動板10の位置Z0から位置Z1への変位に確実に変換する。
同様に、関節部52A(R),(L)がX軸方向の基準位置X0からX2に移動すると、これによって平行リンクを形成している第3のリンク部分51C(R),(L)と第4のリンク部分51Dは平行状態を維持して、第4のリンク部分51Dが下降し、平行リンクを形成している第1のリンク部分51A(R),(L)と第5のリンク部分51E(R),(L)が倒れるように角度変更する。その際、関節部52D(R),(L)が静止部100に支持されているので、静止部100からの反力を受けて第1のリンク部分51A(R),(L)と第5のリンク部分51E(R),(L)の角度変更が確実に行われ、関節部52A(R),(L)の位置X0から位置X2への変位を振動板10の位置Z0から位置Z2への変位に確実に変換する。
このような実施形態によると、一つのボイスコイル40のX軸方向の振動が略同位相・略同振幅で振動する関節部52B(R),(L),52F(R),(L)及び第4のリンク部分51DにおけるZ軸方向の振動に変換されることになる。これによって、振動板10は、広い範囲で支持されて略同位相・略同振幅の振動が与えられることになるので、面積が広い平面的な振動板10に対してボイスコイル40の振動を略同位相で伝達することができる。
このような振動方向変換部50のリンク機構は、前述したように各リンク部分を板状部材によって形成することができ、各関節部はリンク部分相互を回転可能に接合したものであっても良いし、リンク部分相互が屈折自在又は屈曲自在に連結又は一体化しているものであっても良い。板状部材は、剛性が高く軽量の部材が好ましく、繊維強化プラスチックフィルム等を用いることができる。
図24(b)に示すように、第3のリンク部分51C(R),(L),第4のリンク部分51D,第5のリンク部分51E(R),(L)をそれぞれ一対に平行配置しており、第1のリンク部分51A(R),(L)を二股に形成してその中間部に第2のリンク部分51B(R),(L)との関節部52C(R),(L)が形成され、第2のリンク部分51B(R),(L)及び第6のリンク部分51Fは、一対に平行配置されている第3のリンク部分51C(R),(L),第4のリンク部分51D,第5のリンク部分51E(R),(L)の間に配備されている。
このようにリンク部分を1つの板状部材で形成することで、振動板10を面で支持して振動させることができるので、振動板10全体を略同位相で振動させることができ、分割振動を抑制することが可能になる。また、リンク部分を複数の板状部材で形成することもできるが、1つの板状部材で形成することで製造工程を簡略化することができる。リンク部分を1つの板状部材で形成する際、1つの平面状の板状部材からリンク部材を切り出しても構わない。
図24(b)に示すように、この実施形態の振動方向変換部50は、リンク部分を形成する一つの板状部材全体を凸台形状に屈折させて第1のリンク部分51A(R),(L)と第4のリンク部分51Dを形成し、この板状部材を部分的に切り出して凹台形状に屈折させて第2のリンク部分51B(R),(L)と第6のリンク部分51Fを形成している。
また、この振動方向変換部は、図24(c)に示すように、2枚の板状部材501,502を貼り合わせて形成し、一方の板状部材501に第1のリンク部分51A(R),(L),第2のリンク部分51B(R),(L),第4のリンク部分51D,第6のリンク部分51Fを形成し、他方の板状部材502に、第3のリンク部分51C(R),(L)と第5のリンク部分51E(R),(L)を形成している。そして、第1のリンク部分51A(R),(L)と第4のリンク部分51Dに沿って第3のリンク部分51C(R),(L)と第5のリンク部分51E(R),(L)を形成すると共に、第2のリンク部分51B(R),(L)と第6のリンク部分51Fに対応する開口502Aが板状部材502に形成されている。
図24(c)に示す例では、第2のリンク部分51B(R),(L)と第6のリンク部分51Fに対応する他方の板状部材502に形成される開口502Aの大きさが、他方の板状部材502の一端から内側に向かって拡大するように形成されている。このようにすることで、第2のリンク部分51B(R),(L)と第6のリンク部分51Fが他の板状部材502に接触することが無く、リンク機構の動きを円滑に行わせることができる。開口502Aは、必要に応じてその形状を適宜変更しても構わなく、他方の板状部材502の一端から内側に向かって略同じ幅にしても構わない。
また、各関節部の近傍において、各リンク部分の端部には傾斜面が形成されている。特に、傾斜面はリンク部分が関節部において屈折する際に、互いに近づき合うリンク部分の側面とは逆側の側面に形成されており、リンク部分が関節部において効率良く屈折できるように形成されている。
このような実施形態では、2つの対向するボイスコイル40に対して一つの一体部品の装着のみで振動方向変換部のリンク機構を形成することができるので、一対の駆動部を備えたスピーカ装置を形成する場合にも組み立て作業を簡易に行うことができる。また、第6のリンク部分51Fを設けることで、ボイスコイル40の対向振動(複数のボイスコイル40が互いに逆方向となるように振動すること)に対しては、特に関節部52D(R),(L)をフレーム12に支持しなくても、この関節部52D(R),(L)の位置が常に一定に保持されることになり、これによっても振動方向変換部のスピーカ装置への組み込みを簡易化することができる。
そして、リンク機構としては、右側の第1のリンク部分51A(R)と第3のリンク部分51C(R)、左側の第1のリンク部分51A(L)と第3のリンク部分51C(L)によって平行リンクが形成されているので、ボイスコイル40の対向振動に対して振動板10に固着される第4のリンク部分51DをZ軸方向に沿って安定に平行移動させることができる。これによって、平面状の振動板10に対して安定した振動を加えることが可能になる。
図26に示す実施形態は、図24に示した実施形態の改良例である。図26(a)に示す例では、ボイスコイル40の対向振動によって曲げが生じ易いリンク部分に対して凸部510を設けて剛性を高めている。図示の例では、第1のリンク部分51A(R),(L),第2のリンク部分51B(R),(L),第3のリンク部分51C(R),(L),第6のリンク部分51Fにそれぞれ凸部510が設けられている。また、同図(b)に示す例では、特に強度を必要としないリンク部分において開口部520を設けて振動方向変換部の軽量化を図っている。図示の例では、第4のリンク部分51Dに開口部520が設けられている。振動方向変換部の軽量化は特に再生特性の広域化や、所定の音声電流に対する音波の振幅及び音圧レベルを大きくすることに有効である。
[変形例;図27、図28,図29]
図27は、ボイスコイル40の変形例を示した説明図であり、巻き芯の外周に沿って巻き線等の導線を平面状に巻き回すことで環状の導電部材30が形成されている。同図(a)に示した例は、基体41の中央に形成された凸状の巻き芯41dの周りに導線を巻き回している。さらに必要に応じて、巻き線からなる導電部材30の表面に、例えば樹脂フィルム等からなる保護膜32を貼り付けてもよい。一方、導線で形成された導電部材30は、時間の経過と共に、経時的な形状変化により、導電を巻き回す際に生じる応力(ストレス)が原因で導線の一部が浮き上がってくる。この浮き上がりを保護膜32によって抑止することができる。
同図(b)に示した例は、基体41と一体又は別個に形成される巻き芯41eの外周に導線を平面状に巻き回して環状の導電部材30が形成されるとともに、この導電部材30からなるボイスコイル40の端部に連結ユニット61を介して振動方向変換部50が支持されている。連結ユニット61は、導電部材30の端部においてその厚さ方向へ挟み込むように取り付けることで、経時的な形状変化に伴いボイスコイル40の端部における導線の一部が浮き上がってくるのを抑止することができる。
同図(c)に示した例は、巻き芯41eの外周に導線を平面状に巻き回して環状の導電部材30が形成され、導電部材30の背面側に例えば樹脂フィルム等からなる保護膜32を貼り付けることで、経時的な形状変化に伴い導線の一部が浮上がってくるのを抑止することができる。必要に応じて同図(a)に示した例のように、導電部材30の表面に保護膜32を貼り付けてもよい。また、導電部材30と保護膜32が一体的に積層されたボイスコイル40の端部に連結ユニット61を介して振動方向変換部50が支持されることで、経時的な形状変化に伴いボイスコイル40の端部における導線の一部が浮上がってくるのを更に抑止することができる。なお、ボイスコイル40を導線からなる導電部材30で構成したが、導線に代えて、例えば金属箔や導電膜等のプリント基板で形成してもよい。
図28,図29は、磁気回路20の変形例を示した説明図である。この磁気回路20は、図16,図17に示したものと同様に、各磁気ギャップ20Gを構成する2つの磁極部が、対向する面を傾斜状に形成し、磁極部の一方の端部間における磁気ギャップ20Gの幅が、他方の端部間における磁気ギャップ20Gの幅に対して大きくなっており、この大きな一方の端部の近傍に、導電部材30の巻き線の一端から引き出されるボイスコイル引き出し線43の引出部43Aを配置している。
図28に示す例では、図16に示した磁気回路20において、複数の磁石21A〜21Dの導電部材30と対向する表面に、断面三角形の磁性体を固着するか、又は断面台形の磁石を用いることで、2つの磁気ギャップ20Gがそれぞれ同じ向きに傾斜するようにし、これら磁気ギャップ20Gの広い側からボイスコイル引き出し線43を引き出すようにしている。
図29に示す例では、図17に示した磁気回路20において、ヨーク部22A,22Bを湾曲させるとともに、導電部材30と対向する表面に、断面三角形の磁性体を固着するか、又は断面台形の磁石を用いることで、2つの磁気ギャップ20Gがそれぞれ同じ向きに傾斜するようにし、これら磁気ギャップ20Gの広い側からボイスコイル引き出し線43を引き出すようにしている。それによって、磁気ギャップ20Gの幅が大きい領域にて、ボイスコイル引き出し線43を引き出すことで、磁性体とボイスコイル引き出し線43とが接触することを抑止することができる。また、異音の発生を抑止することができる。
[実施例と搭載例;図30〜図33、図34,図35、図36〜図44]
以下に、本発明の実施例について、図面を参照しながら説明する。図30は、本発明の実施例に係るスピーカ装置1Sの斜視図である。図31は図30に示したスピーカ装置1Sの断面斜視図である。図32は、図30に示したスピーカ装置1Sの要部の上面図である。図33は、図30に示したスピーカ装置1Sの要部の上面図である。以下、前述した実施形態で説明した箇所は同一符号を付して一部説明を省略する。図32,図33では、振動板は省略している。図31において、図に向かって右側の磁気回路の一部は省略している。
スピーカ装置1Sは、前述した実施形態で説明したように、振動板10,フレーム12,エッジ11,磁気回路20,ボイスコイル40,振動方向変換部50,保持部15を有する。この実施例では、フレーム12は矩形の外周を備えており、フレーム12の矩形の開口部内に、その形状に対応する矩形外周を有する平面状の振動板10が配置されている。振動板10の外周縁にはエッジ11が設けられ、振動板10の全周がエッジ11を介してフレーム12の外周縁に支持されている。また、フレーム12は平面状の底部12Aを有し、振動板10は底部12Aに沿って平面的に支持されている。
一対の磁気回路20(R),20(L)によって駆動される一対のボイスコイル40には、振動方向に沿った両端部それぞれに振動方向変換部50が備えられている。この実施例では、中央に一対の第1のリンク部分51A(R),(L)と第2のリンク部分51B(R),(L)が設けられ、各ボイスコイル40の外側に補助リンク51G(R),(L)が設けられている。
第1のリンク部分51A(R),(L)は、振動板2の中央部(重心位置)に、関節部52Bを介して屈折自在に接合されている。一方、補助リンク51G(R),(L)は、振動板10の中央部(重心位置)より外周部側の位置にて、関節部52H(R),(L)を介して屈折自在に接合されている。
また、第1のリンク部分51A(R),(L)及び補助リンク51G(R),(L)の上端部付近には接合端部54が形成されており、接合端部54が振動板10に形成された溝部10Aに嵌合している。また、例えば、接合端部54は、振動板10の表側面から突出した状態で固定されている。この振動板10は、3箇所で線状に振動方向変換部50に支持されていることになり、線状の接合端部54が補強材になって内部に埋め込まれることになるので比較的大きな強度を有し、振動板のたわみ等の発生を抑止することができる。これによって振動板10全体を略同位相にて振動させることが可能になる。
また、第1のリンク部分51A(R),(L)及び補助リンク51G(R),(L)は2つの対向した平行リンクを形成しているので、ボイスコイル40の対向振動(複数のボイスコイル40が互いに逆方向となるように振動すること)によって、3箇所の接合部が略同位相・略同振幅で振動することになる。これによっても、振動板10全体が略同位相で振動することになり、分割振動の発生を抑制することができる。
第1のリンク部分51A(R),(L)及び補助リンク51G(R),(L)には、通気孔51Pが設けられている。この通気孔51Pを設けることで、空気抵抗を大きく受けることなく板状部材の各リンク部分を振動させることができる。また、通気孔51Pを設けることで各リンク部分の軽量化が可能になり、再生特性の広域化などが可能になる。
ボイスコイル40の移動方向を規制する手段は、保持部15と支持部17を有する。支持部17は、例えば、ボイスコイル40の両端部に沿って長手方向に形成されたL字形状の部材であり、各ボイスコイル40を長手方向に沿って支持している。支持部17の端部は、保持部15によりフレーム12に振動自在に支持されている。つまり、このような規制手段により、各ボイスコイル40は、X軸方向に沿ってのみ移動自在に形成されている。保持部15は、2つの磁気回路20(R),(L)間を横切るY軸方向に平行な軸に対して、略対称に、ダンパ形状が形成されている。具体的には、保持部15は、その軸から遠くに向かって凸形状に形成されている。
また、この実施例においては、フレーム12の側部に通気孔12Bが形成されており、フレーム12の内部とフレーム12の外部との空気流通を可能にしている。これによると、振動板10の振動に対してフレーム12内の圧力による制動が加わるのを抑止することができ、小さな駆動力で確実に振動板を振動させることができる。
図34は、本発明の他の実施例に係るスピーカ装置1Tの斜視図である。なお、図34に示したスピーカ装置1Tの断面斜視図、図34に示したスピーカ装置1Tの要部の上面図は、図32,図33におけるフレームがヨーク部で形成される以外には実質同じであるので、省略する。以下、前述した実施形態で説明した箇所は同一符号を付して一部説明を省略する。図34において、図に向かって右側の磁気回路の一部は省略している。
スピーカ装置1Tは、前述した実施形態で説明したように、振動板10,ヨーク部22,エッジ11,磁気回路20,ボイスコイル40,振動方向変換部50,保持部15を有する。この実施例では、ヨーク部22は矩形の外周を備えており、ヨーク部22の矩形の開口部内に、その形状に対応する矩形外周を有する平面状の振動板10が配置されている。振動板10の外周縁にはエッジ11が設けられ、振動板10の全周がエッジ11を介してヨーク部22の外周縁に支持されている。
ヨーク部22は、ボイスコイル40に対し静止している状態にて配置されている静止部100でもある。また、駆動部14を構成するヨーク部22は、磁石21の下方に配置される底面部22Dと、底面部22Dを囲むように形成される側面部22Eとを備える。なお、静止部100であるヨーク部22は、完全に静止している状態を意図するわけではなく、例えば、振動板10を支持できる程度に静止していれば良く、スピーカ装置1Tを駆動する際に生じる振動が伝播し、振動が静止部100の全体に生じても構わない。
また、この実施例においては、ヨーク部22の側部に通気孔22Fが形成されており、ヨーク部22の内部とヨーク部22の外との空気流通を可能にしている。これによると、振動板10の振動に対してヨーク部22内の圧力による制動が加わるのを抑止することができ、小さな駆動力で確実に振動板を振動させることができる。
図35は、本発明の参考例を示している。ここで示した参考例は、前述したように、静止部100となるフレーム12の側部に駆動部14(R),14(L)を備え、それぞれの駆動部14(R),14(L)に振動方向変換部50(R),50(L)とボイスコイル40(R),40(L)と磁気回路20(R),20(L)を設けている。同図(a)の例は、磁気回路20(R),20(L)がフレーム12の外側に装着されており、同図(b)の例は、磁気回路20(R),20(L)がフレーム12の内側に装着されている。この参考例では、剛性の円柱状のボイスコイル40が用いられており、このボイスコイル40が周知の支持手段によってフレームに支持されると共に、振動方向変換部50に連結されている。
図36〜図44は、本発明の実施例に係るスピーカ装置1Uを示した説明図である(図36が上面図、図37がX−X断面図、図38が背面図、図39が第1の構成部材を外した斜視図、図40が要部の分解斜視図、図41(a)(b)が要部の部分拡大断面斜視図、図42,図43が第2の構成部材を外した底面図、、図44が分解斜視図)。前述した説明と共通する部分は同一符号を付して重複説明を省略する。振動方向変換部50としては図24及び図25に示した例を採用している。
図36に示した例では、振動板10は、音響放射方向から視認した形状が矩形状に形成されており、その中央部付近に外形が楕円形であるとともに、断面形状が凹状の湾曲部10Aを形成することで、振動板10の振動方向及びボイスコイル40の振動方向において所定の曲げ剛性を有している。また、凹状の湾曲部10Aを振動板10に形成することで、湾曲部10Aにおける密度が他の振動板10の一部分における密度より大きくなり、剛性を比較的大きくすることもできる。また、一対の振動方向変換部50が対向して配置される場合には、振動方向変換部50と振動板10との間に形成される一対の関節部分52Bの間に湾曲部10Aが形成されている。
振動板10が振動板10の振動方向にて剛性(曲げ剛性を含む)を有しているので、振動板10のたわみなどの発生を抑止し、音波間に位相差が生じること、分割振動の発生による音響特性の低下などを抑止することができる。また、振動板10と振動方向変換部振動方向変換部50との間に形成される一対の関節部分52Bの間において、振動板10に湾曲部10Aを形成することで、たわみが発生することを抑止することができる。
また、振動板10は、ボイスコイル40の振動方向に沿う短軸と、ボイスコイル40の振動方向に対し直交する方向に沿う長軸を備えた略矩形状に形成されており、長軸又は短軸の方向に沿って、図示省略の補強部を形成しても構わない。補強部は、例えば断面形状がV字状又はその他の形状の溝部であり、振動板10の表面や裏面に対して、直線状、環状、格子状に形成され、この溝部の内には、例えばダンプ剤(ダンピング剤、制動材)等の充填材を塗布(付与)しても構わない。これにより、溝部を充填材で満たすことで、振動板10の剛性(曲げ剛性を含む)を向上させることができ、スピーカ音圧周波数特性のピークディップを小さくすることができる。また、補強部の他の例として、溝部を形成する代わりに、例えば不織布等からなる図示省略の繊維系部材を貼着しても構わない。これにより、補強部を繊維系部材にすることで、振動板10の剛性(曲げ剛性)を向上させることができ、振動板10が振動する際、振動方向変換部から伝搬する振動や空気抵抗によって振動板10にたわみなどの変形が生じることを抑止することができる。さらに、補強部が設けられることで、振動板10の内部損失を向上させることができる。
また、振動板10は、アクリル系樹脂等からなる発泡樹脂で構成された第1の層と、ガラス繊維等の繊維系部材で構成された第2の層とで形成され、第1の層を一対の第2の層にて挟んだ積層構造となっている。なお、振動板10の形成材料としては、例えば、樹脂系材料、金属系材料、紙系材料、繊維系材料、セラミックス系材料、複合材料などを採用することができる。
振動板10を静止部100であるフレーム12に振動自在に支持するエッジ11は、振動板10とフレーム12との間に配置され、その内周部が振動板10の外周部を支持するとともに、外周部がフレーム12に直接又は他の部材を介して接合することにより、振動板10を規定位置に保持する。他の部材としては、パッキンとしての機能を備える弾性部材(樹脂部材を含む)や接着用樹脂等が挙げられる。詳細には、エッジ11は、振動板10を振動方向(Z軸方向)に沿って振動自在に支持するとともに、振動方向に直交する方向(Y軸方向)には制動する。エッジ11は、音響放射方向から視認した形状がリング形状(環状)に形成されており、その断面形状は規定形状、例えば音響放射方向に凹形状、凸形状、波型形状などに形成されている。エッジ11の形成材料としては、例えば、皮,布,ゴム,樹脂,それらに目止め加工を施したもの、ゴムや樹脂などを規定の形状に成形した部材等、公知の材料を採用することができる。また、エッジ11の一部又は全周には、表面(音響放射側の面)又は裏面(音響放射側とは逆側の面)に向けて突出する突起部、凹形状を形成して、エッジ11の規定方向における剛性を向上させても構わない。
静止部100は第1の構成部材12Cと第2の構成部材12Dとに分割され、第1の構成部材12Cの中央開口部に振動板10がエッジ11を介して支持されている。磁気回路20は、ボイスコイル40を挟んで上側に配置される一部分と、下側に配置される他部分とに分離可能な構造となっており、上側の一部分が第1の構成部材12Cに支持され、下側の他部分が第2の構成部材12Dに支持されている。図示の例では、第1の構成部材12Cに対して上側のヨーク部22Bが、第2の構成部材12Dに対して下側のヨーク部22Aがそれぞれ略平行となるように支持されている。
静止部100は、振動板10を取り囲む外周枠部101と、外周枠部101の内側を橋渡しする橋渡し部102とを備え、橋渡し部102は、前述したリンク機構50L(振動方向変換部50)に反力を与えるとともに、リンク機構50Lの振動方向にて剛性を備えている。
前述したようにボイスコイル40が振動すると、その振動がリンク機構50Lを介して振動板10に伝達されるが、その際、リンク部分51を角度変換させるリンク機構50Lは、振動板10からの反力を受ける。このような反力をリンク機構50Lが受けた場合に、リンク機構50Lを支持する静止部100がたわむとリンク機構50L自体が振動してしまい、リンク機構50Lがリンク部分51に不要な振動を伝達することになる。リンク部分51に伝達された不要な振動が振動板10に伝達されると、ボイスコイル40の振動が効率よく振動板10に伝達できなくなる。そこで、リンク機構50Lを支持する静止部100の一部である橋渡し部102にたわみが生じることを抑止する機能を付与することで、不要な振動がリンク部分及び振動板10に伝達されることを抑止できる。これによって、ボイスコイル40の振動が効率よく振動板10に伝達される。
橋渡し部102がリンク機構50Lを支持し、振動板10からリンク機構50Lを介して受ける力に対して剛性を有するためには、振動板10の振動方向において、外周枠部101のコンプライアンスに対して、橋渡し部102のコンプライアンスが、実質的に同じか、または小さいことが好ましい。より具体的には、橋渡し部102における厚みが、振動板10又は磁気回路20を支持する静止部100の一部における厚みと実質的に同じか、又は大きいことが好ましい。
図示の例では、第2の構成部材12Dに設けられる橋渡し部102には、その延在する方向及び振動板10の振動方向に向かって突出する第1の突出部102Aが形成されている。この第1の突出部102Aは橋渡し部102の長手方向に沿って形成されるリブ構造であり、これによって橋渡し部102の曲げ剛性を高めている。また、振動板10と対向する橋渡し部102の面内には、第1の突出部102Aと交差する方向に延びる第2の突出部102Bが形成されている。この第2の突出部102Bは、橋渡し部102の両端部における補強リブになり、その両端で橋渡し部102を外周枠部101に剛性支持している。
さらに、橋渡し部102には、第1の突出部102A及び第2の突出部102Bに対して交差する方向に延びる第3の突出部102Cが、振動板10に対向する静止部100の面内に形成されており、複数の第2の突出部102B及び第3の突出部102Cにて、平面形状が多角形状の補強部103が形成されている。
また、第1の構成部材12Cは、静止部100における外周枠部101を第1の外周枠部101Aとして、この第1の外周枠部101Aの内側に振動板10を支持する第2の外周部101Bを備える。第2の外周枠部101Bの内側の開口は、エッジ11と振動板10によって塞がれることになる。振動板10がエッジ11を介して支持される第2の外周枠部101Bには、音響放射方向に向かって突起する突起部101B1が形成されている。この突起部101B1によって振動板10の周囲を支持するための剛性を得ている。
静止部100となる第1の構成部材12Cと第2の構成部材12Dは、長軸と短軸を有する平面形状を有し、橋渡し部102は、短軸方向に沿って形成されている。また、橋渡し部102を長軸方向に沿って形成すること、或いは長軸方向及び短軸方向に沿って形成することもでき、静止部100の剛性を得ることが可能となる。
第1の構成部材12Cの四隅に凸部100mが形成され、第2の構成部材12Dの四隅に凹部100nが形成されており、凸部100mと凹部100nとが嵌合して、第1の構成部材12Cと第2の構成部材12Dとが結合する。凸部100mは第1の構成部材12Cと第2の構成部材12Dの一方に形成されればよく、凹部100nは第1の構成部材12Cと第2の構成部材12Dの他方に形成されればよい。凹部100nは孔部として形成しても構わない。
振動方向変換部50は、リンク機構50Lとして第1のリンク部分51Aと第2のリンク部分51Bとを備え、第2のリンク部分51Bの一端は第1のリンク部分51Aに支持され、他端が橋渡し部102に支持されている。第2のリンク部分51Bを支持する橋渡し部102は、平板状に形成されており、第2のリンク部分51Bの他端と橋渡し部102とが連結される連結部104は、一平面を形成している。
第2のリンク部分51Bの他端は、橋渡し部102と嵌合することで、振動方向変換部50と橋渡し部102とが連結している。橋渡し部102の連結部104には突起部104Aが形成されており、第2のリンク部分51Bの端部に関節部分52を介して一体形成される連結部分53Cには、突起部104Aが挿入される孔部104Bが形成されている。
橋渡し部102における連結部104の突起部104Aは、静止部100に対する振動方向変換部50の位置を決める位置決め部102Eになっている。第2のリンク部分51Bの端部に関節部分52を介して一体形成される連結部分53Cが有する孔部104Bに突起部104Aが挿入されることで、静止部100に対し振動方向変換部50を位置決めしている。
静止部100となる第1の構成部材12Cと第2の構成部材12Dが結合した状態では、第1の構成部材12Cに支持される振動板10の背面に振動方向変換部50の第4のリンク部分51Dが連結され、第2の構成部材12Dにおける橋渡し部102の中央部分に形成される連結部104に振動方向変換部50の不動の第6のリンク部分51Fが連結される。
第4のリンク部分51Dは第1のリンク部分51Aの端部に関節部分52Bを介して一体化された部分であり、この第4のリンク部分51Dと振動板10とが連結することによって、第1のリンク部分51Aの端部と振動板10とが連結されている。なお、第4のリンク部分51Dと対向する振動板10の音響放射側の面には凹部が形成されており、振動板10は剛性を備えている。不動の第6のリンク部分51Fは第2のリンク部分51Bの端部に関節部分52Dを介して一体化された部分であり、この第6のリンク部分51Fには孔部104Bが形成されており、この孔部104Bに連結部104の突起部104Aが挿入され、連結部104と第2のリンク部分51Bの端部とが連結されている。
ボイスコイル40の基体41は、その振動方向の一端に連結部60が取り付けられ、連結部60はボイスコイル40の基体41の幅に沿って延在するように取り付けられている。連結部60には、振動方向変換部50の接続部53が着脱自在に接続される接続段部60sが形成されるとともに、ボイスコイル40の基体41の振動方向に沿って貫通する貫通孔60pが形成されている。貫通孔60pはボイスコイル40の振動に対して連結部60に作用する空気抵抗を低減するために形成される通気孔である。
この連結部60は、振動方向変換部50の接続部53とボイスコイル支持部41(基体)の端部とを間隔を開けて連結しており、これによって振動方向変換部50の高さ内に磁気回路20の高さが収まるようにしている。
このボイスコイル40の基体41及び連結部60は、保持部15によって第1の構成部材12C及び第2の構成部材12Dに保持される。保持部15は、ボイスコイル40の振動方向に沿った一方向の変形を許容して他の方向への変形を規制した湾曲板状部材からなる第1の保持部15Aと第2の保持部15Bとを備えている。第1の保持部15Aと第2の保持部15Bは、取り付けユニット16を介してボイスコイル40の基体41を第1の構成部材12C及び第2の構成部材12Dに保持している。第1の保持部15Aは連結部60を取り付けユニット16の一側部に保持しており、左右それぞれに設けられた第1の保持部15Aの内側の端部が連結部60の両外側の端部に接続され、各第1の保持部15Aの外側の端部が取り付けユニット16にそれぞれ接続されている。
また、第1の保持部15Aは導電性金属で形成され、ボイスコイル40の導電部材30から引き出されたボイスコイル引き出し線43と導電層46を介して電気的に接続されており、第1の保持部15Aを介して音声信号がボイスコイル40の導電部材30に供給されるようにしている。また、第1の保持部15Aは、フレーム12に支持される直線状の端子部81,81と電気的に接続し、これら端子部81,81にそれぞれ電気的に接続する配線82,82を介して、外部と電気的に接続されている。
第2の保持部15Bは、その中央部が取り付けユニット16の他側部に接続され、その両端がボイスコイル支持部41(基体)の左右端に接続されている。ここでは、第2の保持部15Bをボイスコイル支持部41(基体)の幅内に配置して、ボイスコイル支持部41(基体)の保持機構がボイスコイル支持部41(基体)の幅方向に嵩張らないようにしている。また、第2の保持部15Bは連続部材で形成されているので、中央部分においても連続した形状を有するが、複数の部材で形成しても構わなく、特に限定はしない。なお、第2の保持部15Bの一部は静止部100から外側に突出して配置されているが、これに限定されず、静止部100の内部に収納されるように変更しても構わない。
図40は、取り付けユニット16と第2の保持部15Bの取り付けを一方向から見た分解斜視図である。一体部品である第2の保持部15Bと取り付けユニット16は、接着用樹脂を介して連結されている。第2の保持部15Bの左右両端の平板部F,Fが、ボイスコイル支持部41(基体)の振動方向に配置される端縁41fの左右両端の接続部41g,41gにそれぞれ連結部品41g1,41g1を介して連結され、第2の保持部15Bの中央の平板部Fが取り付けユニット16の連結端部16fに連結される。なお、ボイスコイル支持部41(基体)の振動方向変換部側に対して逆側における、ボイスコイル支持部41(基体)の端縁41fは、ボイスコイル40側に凹状に形成されており、ボイスコイル40の振動によってボイスコイル支持部41(基体)が振動し、取り付けユニット16と接触することを抑止できる平面形状に、ボイスコイル支持部41(基体)は形成されている。具体的には、取り付けユニット16の連結端部16fとボイスコイル支持部41(基体)の端縁41fとの間に比較的大きい間隙を形成するとともに、第2の保持部15Bの左右両端の平板部F側に移るに連れて、第2の保持部15Bに向かって突出する平面形状になっている。なお、第2の保持部15Bの左右両端の平坦部Fには、ボイスコイル支持部41の他方側縁41fの左右両端の接続部41gが挿入される孔部が形成されている。
複数の駆動部14に対応するボイスコイル40,40に音声信号を入力するために、複数のボイスコイル40,40の一方のボイスコイル40から他方のボイスコイル40に向けて延在し、複数のボイスコイル40,40に対する共通の端子部81,81が一対、静止部100に設けられている。また、端子部81,81は、静止部100であるフレーム12を構成する第1の構成部材12Cと第2の構成部材12Dとの間に形成される図示省略の開口部の内部に端子部81,81が配置されている。このため、各ボイスコイル40の一端と他端にそれぞれ端子部を設ける場合と比較して端子部の配置を省スペース化でき、スピーカ装置の小型化或いは薄型化が可能になる。また、端子部81,81を安定に静止部100に固定することができ、ボイスコイル40,40との接続不良を回避できる。また、端子部81,81は、一方のボイスコイル40から他方のボイスコイル40に沿う長軸と、当該長軸と交差する短軸とを有する形状に形成されている。このように細長形状にすることで、設置スペースの効率を高めることができる。
端子部81,81には、外部と電気的に接続された配線82,82(第2の配線)との接続部81aが形成され、端子部81,81とが接続部81aで電気的に接続されている。配線82(第2の配線)は、静止部100の側面に固定されると共に、端子部81,81に接続される。静止部100の外周枠部101は、配線82が取り付けられる側面を備え、静止部100の側面には、配線82を案内する案内部106,106が形成されている。
一方、ボイスコイル40の導電部材30を支持するボイスコイル支持部41(基体)上には、導電部材30の端部から引き出されたボイスコイル引き出し線43に接続される導電層46が形成されている。導電層46は、ボイスコイル40の導電部材30を囲むようにボイスコイル支持部41(基体)上にパターン形成され、この導電層46がボイスコイル40の導電部材30と保持部15とを電気的に接続している。
保持部15には、ボイスコイル40の導電部材30と端子部81とを電気的に接続する配線が形成されており、端子部81,81の端部と配線とが電気的に接続され、保持部15の配線とボイスコイル引き出し線43とが接続され、端子部81,81に配線82が接続することで、ボイスコイル40の導電部材30に外部から音声信号が入力される。
保持部15には、端子部81,81と接続する接続部F1が形成されている。この接続部F1は、振動板10の振動方向(X軸方向)と交差する方向に延在し、端子部81,81に当接するように、平板状に形成されている。また、保持部15には、導電層46と接続する接続部F2も形成されており、振動板10の振動方向(Z軸方向)と交差する方向に延在し、導電層46の端部に当接するように、平板状に形成されている。
図41は、図39を異なる方向から見た部分拡大図であり、同図(a)は、第1の保持部15Aの一方の接続面F2が導電層46の接続端子部46aに接続しているところを詳細に示している。同図(b)は、第1の保持部15Aの他方の接続面F1が端子部81に接続しているところを詳細に示している。第1の保持部15Aは一端側の接続面F1が端子部81に接続され、他端側の接続面F2が導電層46の接続端子部46aを介してボイスコイル引き出し線43に接続されている。端子部81は一対の第1の保持部15Aの一端側を配線82(外部)と電気的に接続しており、配線82から入力される音声信号は端子部81及び第1の保持部15Aを介してボイスコイル引き出し線43に供給される。端子部81は、棒状の導電性部材であって、位置決め孔が形成されており、この位置決め孔に静止部100に設けられた位置決め突起111を挿入させることで静止部100における特定箇所に位置決めされる。なお、端子部81の一部分には絶縁処理が施されており、第1の保持部15Aの接続面F1と接続する領域における導電性部材の表面が露出しており、第1の保持部15Aと電気的に接続可能となっている。また、端子部81を樹脂部材等の絶縁性を備える部材(絶縁部材)で構成して、この絶縁部材の上に導電性部材を設けて、保持部15の接続面F1と電気的に接続しても構わない。
取り付けユニット16は、第1の保持部15Aの端部が接続される第1の接続部16aが連結部60の左右両側に設けられ、第2の保持部15Bが接続される第2の接続部16bがボイスコイル40の後方に設けられ、第1の接続部16aと第2の接続部16bとを一体に支持する一体支持部16cを有する。また、取り付けユニット16の四隅には、静止部100の第1の構成部材12Cが備える凸部100mと対向する接続孔部16dを備えている。この凸部100mを、接続孔部16d及び第2の構成部材12Dが有する凹部100n内に挿入することで、ボイスコイル支持部41(基体)と連結部60と保持部15と取り付けユニット16とがユニット化され、第1の構成部材12C及び第2の構成部材12Dの間に固定される。
そして、ボイスコイル40が有するボイスコイル引き出し線43は、図42に示されるように、導電部材30から引き出され、ボイスコイル引き出し線43の少なくとも一部が、磁気ギャップ20Gの外側に配置されている。また、ヨーク部22Bの外形が点線で示されており、点線で囲まれた領域がヨーク部22A,22Bとの間に形成される磁気空間となっており、更にこの磁気空間内に導電部材30の一部が配置される一対の磁気ギャップ20Gが形成されている。
図示の例では、基体41の表面に環状の導電部材30が支持され、その内周部と外周部から一対のボイスコイル引き出し線43A,43Bが、ボイスコイル40の振動方向であるX軸方向に沿ってそれぞれ引き出されている。基体41における導電部材30の外側の表面には、導電部材30を取り囲むように一対の導電層46C,46Dがパターン形成され、これら導電層46C,46Dに一対のボイスコイル引き出し線43の端部がそれぞれ接続されている。すなわち、一方のボイスコイル引き出し線43Aは、導電部材30の内周部に配置された内側の引出部43aと、一方の導電層46Cと接続する接続部43bを有し、他方のボイスコイル引き出し線43Bは、導電部材30の外周部に配置された外側の引出部43cと、他方の導電層46Dと接続する接続部43dを有し、これら引出部43a,43bから接続部43c,43dにかけて磁気ギャップ20Gの外側に配置している。さらに、一方のボイスコイル引き出し線43Aは、導電部材30の表面に沿って配置され、これら一方のボイスコイル引き出し線43Aと導電部材30との間を絶縁するため、これらの間には絶縁用シート44Aを介在している。
また、静止部100となる第1の構成部材12C又は第2の構成部材12Dには、ボイスコイル40に向かって突出する突出部が複数設けられている。この突出部は、ボイスコイル40の振動範囲を規制して過剰振動を抑止するための過剰振動抑止部12Eとして、複数形成されている。また、ボイスコイル40の振動方向において、基体41の端縁には切欠部41fが形成されている。過剰振動抑止部12Eは、切欠部41f内に配置されており、ボイスコイル40の振動方向における切欠部41fの幅はボイスコイル40の実質的な振幅となっている。ボイスコイル40が過剰振動をする際、過剰振動抑止部12Eがボイスコイル40の基体41等が当たることにより、ボイスコイル40の振動範囲を規制して過剰振動を抑止することができる。なお、図示の例では過剰振動抑止部12Eは第1の構成部材12Cの突起部で構成されている。これに限定されず、例えばボイスコイル40との接触時における異音の発生を抑止するために、シリコーン樹脂で形成されたチューブで突起部を覆ったものを過剰振動抑止部12Eとしても構わなく、必要に応じて変更しても構わない。
ところで、比較的大きな駆動力にてスピーカを駆動させるためには、磁気ギャップ20Gの幅を比較的小さくして、磁気ギャップ20G内の磁束密度をできるだけ大きくする場合がある。しかし、磁気ギャップ20Gには振動を発生させるボイスコイル40を配置する必要があり、ボイスコイル40の厚さと、ボイスコイル40が磁気ギャップ20Gを構成する磁性体(磁気回路20の磁石又はヨーク部)に接触しない程度の間隙を設ける必要がある。さらに、ボイスコイル40に音声信号を入力すべく、ボイスコイル引き出し線43を設ける必要があり、この厚さをも考慮しなければならない。そのため、磁気ギャップ20Gの幅は比較的大きくせざるを得ない状態である。しかし、このスピーカ装置1Uでは、ボイスコイル引き出し線43が磁気ギャップ20Gの外側に配置されているので、磁気ギャップの幅20Gを狭くすることができ、磁束密度も大きくすることが可能となる。また、ボイスコイル引き出し線43は、導電部材30の一部で構成される、つまり電線で構成される場合には、ボイスコイル40の表面から導電部材30の一部が浮き上がるという経時変化が生じる場合もある。この場合には、もし磁気ギャップ20G内にボイスコイル引き出し線43が磁気ギャップ20G内に配置されていれば、磁石21やヨーク部22A、22B等の磁気回路を構成する磁性体と接触することが懸念される。しかし、このスピーカ装置1Uでは、ボイスコイル引き出し線43が磁気ギャップ20Gの外側に配置されているので、磁性体と接触することを抑止することができる。
ボイスコイル40が過剰振動をする際、過剰振動抑止部12Eが基体41に当たることで、ボイスコイル40の過剰振動を抑止することができる。なお、図示の例では過剰振動抑止部12Eは第1の構成部材12Cの突起部で構成されている。これに限定されず、例えばボイスコイル40との接触時における異音の発生を抑止するために、シリコーン樹脂で形成されたチューブで突起部を覆ったものを過剰振動抑止部12Eとしても構わなく、必要に応じて変更しても構わない。
また、スピーカ装置1Uの磁気回路20は、ボイスコイル40の振動方向(X軸方向)に沿って磁束密度の大きさが異なる2つの磁気ギャップ20Gを配列しており、これら磁気ギャップ20Gのうち、磁束密度が小さい側の一方の磁気ギャップ20Gの近傍に、ボイスコイル引き出し線43が配置されている。図42に示される例では、ボイスコイル40の導電部材30に対する磁気回路20の磁石及びヨーク部の面積を、X軸方向内側よりも外側を小さくすることで磁束密度を小さくしており、ボイスコイル引き出し線43A,43BをX軸方向外側に向けて配置している。このため、ボイスコイル引き出し線43A,43Bに作用する電磁気力を比較的小さくでき、ボイスコイル40に不要な振動が生じることを抑止することができる。
なお、図42に示された例では、ボイスコイル引き出し線43A,43Bの引き出し方向を、ボイスコイル40の振動方向と同じX軸方向に沿って引き出しているが、それに限定されず、例えば図41に示されるように、ボイスコイル40の振動方向に対して交差するY軸方向に沿って引き出し、これら接続部43c,43dを導電層46E,46Fに接続するようにしてもよい。それによって、図43に示される導電層46C,46Dのように導電層46E,46Fを迂回させずに短くすることができる。
また、振動方向変換部50は、振動板10又はボイスコイル40、若しくは振動板10やボイスコイル40以外の他の部材を含む被取付部材200に対し、例えば接合部材としての接着剤や両面テープ、締結部材としてのネジ等の連結部材で連結されており、被取付部材200に近接するように関節部分52を配置している。振動方向変換部50の関節部分52に近接する被取付部材200の面側には、関節部分52との接触を避ける接触回避部70が形成されている。この接触回避部70は、振動方向変換部50と被取付部材200とを接合する接合部材を拘束する接合部材拘束部としても機能する。この接触回避部70は、関節部分52に沿って凹状に形成される、例えば凹部や切欠部や溝部等であり、関節部分52と、関節部分52の近傍に配置される被取付部材200の表面との間に所定の空間を形成して、振動方向変換部50と被取付部材200との間に介在する接着部材が関節部分52に拘わるのを抑止している。図37に示される例では、被取付部材200となる振動方向変換部50の第3のリンク部分51Cに接触回避部70として凹部71を関節部分52Aに近接するように形成し、振動板10に接触回避部70として凹部72を関節部分52Bに近接するように形成し、第4のリンク部分51Dに接触回避部70として凹部76を関節部分52Fに近接するように形成している。それによって、振動方向変換部50の一部や振動方向変換部50と振動板10の端面とが接着剤や両面テープ等の接合部材で貼り合わされる際、関節部分52に向けてはみ出た接着剤や両面テープの端部が、凹部71,72,76に入り込むことで、関節部分52に接触して付着することないようにしている。
また、接触回避部70は接着剤を収容する収容部として用いることも可能である。なお、振動方向変換部50が有する各関節部分は、屈曲又は屈折可能な連続部材で形成することができる。また、振動方向変換部50が有する各リンク部分は剛性部材で形成することができる。さらに、各関節部分と該関節部分に連続する剛性部分は一体形成することができる。各リンク部分は剛性部材で形成され、該リンク部分の両端に形成される各関節部分は、該関節部分を跨いだ両側の部分で連続する屈折自在な連続部材で形成されている。連続部材の具体例としては、高強度繊維の織物又は不織物、樹脂部材で構成される樹脂フィルム等が挙げられる。また、剛性部材としては、軽量で成形し易く硬化後に剛性を有するものがよく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、金属、紙等が挙げられる。なお、本願は振動方向変換部50に関する技術が2009年2月27日に国際出願したPCT/JP2009/053752の公報に記載されており、本願は、前記の公報に記載される内容を援用する。
図44は、スピーカ装置全体の組立工程を示した説明図である。このようなスピーカ装置1Tを組み立てる際には、振動方向変換部50の接続部53(R),53(L)を、連結部60にそれぞれ挿入することで、振動方向変換部50と、既にユニット化されたボイスコイル40、連結部60、保持部15(第1の保持部15A,第2の保持部15B)及び取り付けユニット16とを一体化し、これらボイスコイル40の上下に磁気回路20の上側のヨーク部22Bと下側のヨーク部22Aをそれぞれ配置するとともに、第1の構成部材12Cと第2の構成部材12Dで挟み込むようにしている。これによって、振動方向変換部50の不動の第6のリンク部分51Fが第2の構成部材12Dの底部12Aに形成される支持台13Aに嵌合して移動不能に支持され、取り付けユニット16等の他の部品も第1の構成部材12C及び第2の構成部材12Dに対して所定の位置に位置決めされる。また、静止部100の第1の構成部材12Cが備える凸部100mを、取り付けユニット16の四隅に設けられる接続孔部16dに挿入することで、静止部100に対して所定の位置で固定される。
図示の例では、第1の構成部材12Cの内面に対し、先ず、磁気回路20の上側のヨーク部22Bを組み込み、その後、取り付けユニット16、振動方向変換部50等を順次組み込んでそれぞれ位置決めし、その後、第2の構成部材12Dを重ね合わせて各部品を挟み込むとともに、磁気回路20の下側のヨーク部22Aを組み込んでいる。それに伴い、第1の構成部材12Cに形成される凸部100mが、取り付けユニット16の位置決め孔16d及び第2の構成部材12Bが有する凹部100n内に挿入されることで、ボイスコイル支持部41(基体)と連結部60と保持部15と取り付けユニット16とが、第1の構成部材12C及び第2の構成部材12Dの間にて固定される。そして、最後に振動方向変換部50の第2の連結部分53Bと振動板10とが接合部材としての接着剤で接合されるとともに、振動板10の外周部がエッジ11を介して第1の構成部材12Cの中央開口部の口縁部に取り付けられる。組立状態では、第1の構成部材12Cと、第1の構成部材12Cの近傍に配置される上側のヨーク部22Bとの間に間隙が形成されていることで、振動板10の振動が上側のヨーク部22Bを介して磁気回路20に伝搬し、磁気回路20とボイスコイル40との接触を誘発することを抑止している。
また、組立工程としては、以下のようにしても構わない。まず、接続端子81,81に配線82を接続し、ヨーク部22に磁石21を接合する。次に、第1の構成部材12Cの外周枠部101Aに、配線82が接続された接続端子81,81を取り付ける。次に、第1の構成部材12Cへ、前述したボイスコイル40が取り付けられた一対の取り付けユニット16を取り付ける。この時、接続端子81,81と取り付けユニット16に取り付けられている保持部15Aとを、半田等を用いて電気的に接続する。次に、振動方向変換部50を連結部104に取り付けて、振動方向変換部50とボイスコイル40とを接続する。次に、第1の構成部材12Cの上に第2の構成部材12Dを配置して、この第2の構成部材12Dの外周枠部101Aに磁石21を接合した磁極部材(ヨーク部)22を取り付ける。次に、第1の構成部材12Cの第2の外周枠部101Bに振動板10とエッジ11とを装着する。次に、第1の構成部材12Cの第1の外周枠部101Aに磁石21を接合した磁極部材(ヨーク部)22を取り付ける。最後に、第1の構成部材12Cの第1の外周枠部101Aに設けられた案内部106に、配線82を取り付ける。
静止部100となるフレーム12は前述のように、第1の構成部材(第1フレーム)12Cと第2の構成部材(第2フレーム)12Dとを備え、第1の構成部材12Cはスピーカ装置1Uの音響放射側に配置されており、第2の構成部材12Dは音響放射側と逆(背面)側に配置されている。スピーカ装置1の駆動部14は第1の構成部材12Cと第2の構成部材12Dとによって挟み込まれるように支持されている。
第1の構成部材12Cが備える環状に形成された外周枠部101は、磁気回路20の磁極部材(ヨーク部)22の片側(22B)を支持している。一方、第2の構成部材12Dは外周枠部101と橋渡し部102を備え、磁気回路20の磁極部材(ヨーク部)22の片側(22A)を支持する。
第1の構成部材12C及び第2の構成部材12Dは、ヨーク部22の一部を収容する凹状の受け部105を備える。この受け部105には突出部22pが嵌め込まれ、適切な磁気ギャップを形成するためにヨーク部22を位置決めする。また、第2の構成部材12Dにおける外周枠部101と橋渡し部102との間には、開口部101Sが形成されている。この外周枠部101には、開口部101Sの外周縁に沿って、図示省略の第4の突起部が形成されている。第4の突起部は外周枠部101の捩れ剛性を高めている。
さらに、第1の構成部材12Cには、ボイスコイル40の過剰振動を抑止するための図示省略の過剰振動抑止部が形成されている。過剰振動抑止部は、ボイスコイル40の可動領域内に突出しており、これにボイスコイル支持部41(基体)が当たることでボイスコイル40の過剰振動が抑止される。
磁気回路20は、磁極部材22が磁石を接合した状態で第1の構成部材12C、第2の構成部材12Dに装着されている。磁極部材22は複数の突出部22pを備えており、この突出部22pが受け部105に支持される。板状の磁性体であるヨーク部22は、振動方向変換部50から静止部100にかけて、その幅が小さくなっており、これによって、保持部15がヨーク部22に接触することを抑止している。
磁気回路20は、ヨーク部22A,22Bが第1の構成部材12C,第2の構成部材12Dに取り付けられ、第1の構成部材12Cと第2の構成部材12Dが結合されることで、ヨーク部22A,22Bの間又は磁石21の間に磁気ギャップ20Gとしての間隙を備える。
この実施例によると、磁気回路20の高さがほぼ装置全体の全高になっており、その磁気回路20の中心付近をボイスコイル40が振動する構造になり、ボイスコイル40の端部と振動方向変換部50の端部とが連結部60を介して異なる高さで接続されている。これによって、振動方向変換部50の各リンク部分は装置の高さ内で十分な長さを確保することができ、また、磁気回路20の高さの一部を振動方向変換部50の高さ内に収めることが可能になる。
図45は、本発明の実施例に係るスピーカ装置の変形例を示したものである。前述の説明と共通する部分は同じ符号を付して重複説明を省略する。この変形例では板状の磁性体で形成されるヨーク部22が積層された構造になっている。振動板10を支持する第1の構成部材12C側に、積層された2枚の磁性体からなるヨーク部22B,22B1が支持され、第2の構成部材12D側に、積層された2枚の磁性体からなるヨーク部22A,22A1が支持されている。磁気回路20の磁気ギャップは磁石21,21間と近接されたヨーク部22A,22B間に形成されている。
以上のように、本発明の実施形態に係るスピーカ装置は薄型化が可能であり、且つ大音量化の実現も可能である。また、比較的簡単な構造で大音量の再生音を放射することができる薄型のスピーカ装置は、ボイスコイルの振動方向と異なる方向に振動板を振動させることによって得ることができる。この際、機械的なリンク機構を用いてボイスコイルの振動方向を異なる方向に変換しようとすると、リンク機構の関節部分にはスピーカ装置に要求される高速の繰り返し振動に耐えうる耐久性が必要になると共に、高速の繰り返し振動時にも異音を生じない柔軟性が必要になる場合がある。上述したスピーカ装置の構成により、リンク機構の関節部分は耐久性や柔軟性を備えることができる。
また、ボイスコイルの振動を方向変換して振動板に伝えるには、方向変換後にもボイスコイルの振動が効率よく正確に再現されることが必要になり、リンク機構に機械的な歪みが生じないことやリンク機構自体が軽量であることが必要となる場合がある。更には、このようなリンク機構をスピーカ装置に組み込むときの作業容易性やリンク機構自体を製造する際の製造容易性が必要となる場合がある。上述したスピーカ装置の構成により、軽量化及び製造容易性が可能となる。
このようなスピーカ装置は各種電子機器や車載用として効果的に用いることができる。図46は、本発明の実施形態に係るスピーカ装置を備える電子機器を示した説明図である。同図(a)に示した携帯電話或いは携帯情報端末のような電子機器2、或いは同図(b)に示したフラットパネルディスプレイのような電子機器3では、電子機器3が備える被取付部材としての筐体内にスピーカ装置1を収納する、又は電子機器の被取付部材としての筐体側面にスピーカ装置1を取り付けても、スピーカ装置1の設置に必要な厚さスペースを小さくできるので、電子機器全体の薄型化が可能になる。また、薄型化された電子機器においても充分な音声出力を得ることができる。図47は、本発明の実施形態に係るスピーカ装置を備えた自動車を示した説明図である。同図に示した自動車4は、スピーカ装置1の薄型化によって車内スペースの拡大が可能になる。特に被取付部材としてのドアパネルや天井に本発明の実施形態に係るスピーカ装置1を取り付けても、ドアパネルや天井の出っ張りを比較的小さくでき、運転者の操作スペースの拡大や、室内のスペースを拡大することが可能になる。また、充分な音声出力が得られるので、雑音が多い高速走行時等でも車内で快適に音楽やラジオ放送を楽しむことができる。
また、スピーカ装置1を備える建築物として、人の居住を用途とする住宅(建築物)や会議、講演会、パーティー等、多数の人数を収容して催しを行うことができるホテル、旅館や研修施設等(建築物)では、被取付部材としての壁や天井にスピーカ装置1を設置した場合、スピーカ装置1の設置に必要な厚さスペースを小さくできるので、室内における不要なスペースを削除でき、スペースを有効に活用することができる。また、近年、プロジェクターや大画面テレビ等の普及に伴い、音響・映像設備を備える居室を設ける例が見られるようになっており、一方で音響・映像設備を備える居室を設けずに、リビングルーム等をシアタールームとして使用するケースも見られる。このようなケースにおいても、スピーカ装置1を用いることで、簡易にリビングルーム等をシアタールーム化でき、さらにリビングルーム内の空間を有効に活用することが可能である。なお、スピーカ装置1の配置場所は、例えば、居室内の天井や壁等(被取付部材)が挙げられる。
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用することができる。
また、上述の各実施形態における技術を、必要に応じ、平板状のボイスコイルを用いるダイナミック型のスピーカ装置(例:リッフェル型のスピーカ装置、リボン型スピーカ装置、平板状のボイスコイルの音響放射側及び音響放射側とは逆側に磁極部を配置するスピーカ装置)に適用することができ、スピーカ装置を薄型化することができる。なお、本出願には、2008年1月28に国際出願したPCT/JP2008/051197、2008年10月14日に国際出願したPCT/JP2008/068580、2008年10月27日に国際出願したPCT/JP2008/069480、2008年10月23日に国際出願したPCT/JP2008/069269、2009年2月27日に国際出願したPCT/JP2009/053752、2009年1月20日に国際出願したPCT/JP2009/050764、2009年03月19日に国際出願したPCT/JP2009/055533、2009年3月19日に国際出願したPCT/JP2009/055496、2009年3月19日に国際出願したPCT/JP2009/055497、2009年3月19日に国際出願したPCT/JP2009/055498、2009年3月19日に国際出願したPCT/JP2009/055534、2009年3月19日に国際出願したPCT/JP2009/055523、2009年3月19日に国際出願したPCT/JP2009/055524、2009年3月19日に国際出願したPCT/JP2009/055525、2009年3月19日に国際出願したPCT/JP2009/055526、2009年3月19日に国際出願したPCT/JP2009/055527、2009年3月19日に国際出願したPCT/JP2009/055528に記載される全ての内容は、本出願に組み込まれる。