JP5338153B2 - 部材接合方法および接合材 - Google Patents
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(1)本発明の部材接合方法は、第1部材の第1鉄鋼材からなる第1端部と第2部材の第2鉄鋼材からなる第2端部との間に介在させた接合材を圧接する圧接工程と、該第1端部と該第2端部と該接合材とにより形成される接合部を該第1鉄鋼材および該第2鉄鋼材の融点よりも低い接合温度で加熱して、該接合部を少なくとも部分的に溶融させた後に凝固させることにより前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合工程と、を備える部材接合方法であって、前記接合材は、少なくとも前記接合工程の溶融前の段階で、M 3C型(M:金属元素)であって実質的にFeとCの化合物からなる鉄炭化物であることを特徴とする。
先ず、Fe−C系状態図(図3参照)を見ると、比較的低温(1150℃付近)で液相を生じ易い共晶の組成はFe−4.3質量%Cである。一方、本発明に係る鉄炭化物のセメンタイト(Fe3C:θ)中のC量は質量割合で6.7質量%(正確には6.67質量%)である。他方、被接合部(第1端部または第2端部)は鉄鋼材からなるため、通常、そのC量は2.1質量%未満である。
なお、本発明の部材接合方法も形式的には液相拡散接合方法の一つであるため、「液相拡散接合」という表現を本明細書中で適宜使用する。しかし、本発明の部材接合方法では、接合時に接合材をその融点以上に加熱する必要はないし、また、必ずしも接合材から先行的に溶融させる必要もない。このことから、前述した従来の一般的な液相拡散接合方法に該当するものではないことを断っておく。
このため、セメンタイト(Fe3C)をそのまま用いると、例えば、接合温度を高くすることができず、迅速な接合が困難となり得る。そこで、迅速な部材接合を容易に行えるようにするために、高温域でもより安定な鉄炭化物を接合材として用いることが好適である。この点に関して本発明者は、既に、CrやMoなどの特有の元素を含有させたセメンタイトを用いることで、高温下でも安定で、容易にはFeとGrに分解しない接合材(鉄炭化物)を得ることに成功している。この接合材を用いれば、高温下でもセメンタイト構造が維持され、被接合部側へのCの排出が除々に進行する。そして、接合加熱中に、接合材の内部から液相化が先行することなく、接合部と被接合部の界面付近から最初に液相が生成し、接合部がほぼ均一な組成となり、等温凝固を経て接合が完了される。
上述したように、本発明は接合材に鉄炭化物を用いる点で画期的であり、従来の部材接合方法とは全く異なっている。そこで本発明は次のような接合材としても把握できる。
(1)一般的に「鉄鋼」とは、C含有量が0.02〜2.1質量%(以下単に「%」という。)程度のものをいうが、本明細書でいう「鉄鋼材」は、被接合部の母材となるものであればよい。つまり、鉄鋼材は、Feを主成分とするものであればよく、その中のC量は問わない。例えば、部材接合前の鉄鋼材中のC量が0%でもよいし、逆に、見かけのC量が2.1%を超える鋳鉄等であってもよい。
鉄炭化物は、基本的にFeとCの化合物である。典型は前述したようにM3C型のセメンタイトである。この鉄炭化物はFeとCのみからなる必要はない。ただし、鉄炭化物は、高温環境下でも、そのM3C型のセメンタイト構造が維持されるものであると好ましい。特に、鉄鋼材が溶融し始める温度(共晶温度)未満の範囲で、安定であると好ましい。
このように安定な鉄炭化物を用いれば、高温の接合温度でも安定した部材接合を迅速に行うことができる。もっとも、本発明によれば、接合材自体の融点以上に加熱する必要はないから、比較的低い温度で接合が可能となり、部材接合時の環境負荷の低減も図れる。
鉄鋼材は、Feを主成分とするものであれば、その組成は問わない。本発明の部材接合方法を用いることで、少なくとも接合部周辺の鉄鋼材中のC濃度は、接合材からのCの拡散により高くなり得る。また、接合材の鉄炭化物中に安定化元素であるCrが含まれている場合であれば、接合部周辺の鉄鋼材中のCr濃度もその拡散により高くなる。これはCr以外の安定化元素についても同様である。
従って、いずれにしても、本発明の部材接合方法により、鉄鋼材の元々の特性を崩すような事態が生じることは少ない。
圧接工程は、接合する部材の端部間に接合材を介在させ、この接合材を各端部の表面に圧接する工程である。
接合材の圧接自体は、Cが接合材から被接合部(端部)へ拡散し得る程度に、接合材の表面と被接合部の端面とが密接していれば足る。ただし、加熱中に熱膨張が生じたり、接合部の一部に液相化が生じても、その端面間に安定した押圧力が印加されるように、弾性体などを介して付勢しておくと好ましい。
なお、付着工程または塗布工程を行うに際して、接合材粉末の粒径は50μm以下さらには20μm以下であると、部材接合を迅速化する上で好ましい。
いずれにしても、薄い接合材を被接合部の端面に確実に密接させることで、綺麗で高精度な接合がなされる。
接合材は、被接合部の端面間に圧接する前から、セメンタイト構造をしていると、取扱が容易となり好ましい。もっとも、後述する接合工程で加熱を行うことから、この加熱を利用して、前述した原料粉末等からセメンタイトが形成されるようにしてもよい。すなわち本発明では、少なくとも接合工程中に接合部が溶融する前の段階で、接合材となる鉄炭化物が形成されればよい。
接合工程は、被接合部の鉄鋼材の融点よりも低い接合温度で加熱しつつも、Cの拡散により接合部を溶融させると共にその後に凝固させて、第1部材と第2部材とを接合する工程である。
そこで接合温度は、例えば、1150〜1500℃であると好ましい。このときの上下限はその数値範囲内で任意に選択され得るが、特に、1170℃、1180℃、1200℃、1250℃、1280℃、1300℃または1350℃から任意に選択した数値を上下限にすると好ましい。
この加熱は加熱炉等を用いた緩やかな加熱でもよいが、迅速な接合を行い、また、省エネルギー化を図る上で、急加熱が好ましい。しかも、接合部またはその近傍のみを集中的に加熱するのが好ましい。例えば、高周波誘導加熱装置を用いることで、このような加熱を容易に行い得る。
本発明により接合される部材の一例を挙げると、ドライブシャフト、クランクシャフト等の比較的複雑な形状であり、現在は鍛造加工で一体物として製作される部品がある。
〈接合材の製造〉
(1)接合材を製造するための原料粉末として、純鉄粉(平均粒径7μm)と、黒鉛粉末(Gr粉末)、Fe−Cr粉末(Cr:16質量%/平均粒径:25μm)を用意した。Fe−Cr粉末はCr添加用である。
これら各種粉末を全体組成(原子%)が次のようになるように配合した。
Fe:70.98%、C:25.00%、Cr:4.01%
これを質量%に換算すると次のようになる。
Fe:88.62%、C:6.714%、Cr:4.66%
この組成は、セメンタイト(Fe3C)中の約5質量%分をFeからCrへ置換したものである。
乾燥したシート材を不活性ガス中で脱脂加熱(400℃x60分間)した。さらにこの脱脂加熱後のシート材へ安定化熱処理(1100℃x15分間)を、同じ不活性ガス中で行った。
こうして、全体を100質量%としたときにCr:5質量%、θ:95%からなる接合材シート(以下、「Cr−θシート」という。)を得た。
(1)接合する被接合部材(第1部材および第2部材/第1端部および第2端部)として、鉄鋼材である添加高強度鍛造用鋼からなるφ12mmx15mmの円柱状の試験片を用意した。
二つの試験片の両端面間に前述したCr−θシートを介在させ、熱間加工再現装置を用いて両被接合部材へ4MPaの荷重を印加した(圧接工程)。なお、Cr−θシートと接触する被接合部材の接合面は予めエタノールで脱脂処理しておいた。
(2)上記のCr−θシートに替えて、前述したCr−θペーストを一方の被接合部材の端面へ膜厚80μmとなるように直接塗布し、乾燥させた(塗布工程)。乾燥条件はCr−θシートを製造した場合と同様である。
この状態の両被接合部材を真空雰囲気で400℃x3分間、高周波誘導加熱した。その後、炉内をArガスで置換して、前述の場合と同様に高周波誘導加熱して接合した(接合工程)。このときの接合温度は1300℃、接合時間は3分間とした。
(3)比較例として、上記のCr−θシートをFe−Gr材(Gr:4.3質量%)へ変更して、上記と同様な高周波誘導加熱等を行った。なお、このときの接合温度は1180℃、接合時間は3分間とした。なお、このFe−Gr材は、純鉄粉とグラファイトをボールミルで8時間混合することにより製造した。
上述した各試験片の製造条件は表1にまとめて示した。
(1)先ず、上記のCr−θシート自体をX線解析した。このX線回折結果(XRDパターン)を図2に示す。
(2)接合した各試験片の破断強度を、室温の大気中で引張試験装置を用いて測定した。この際、各試験片の破断位置の観察も行った。これらの結果を表1に併せて示した。
(3)また接合部の化学組成分布をX線マイクロアナライザ(EPMA)で測定した。これらの結果も表1に併せて示した。
(1)図2のX線回折図からわかるように、加熱前のCr−θペーストでは原料粉末のα−Fe(図中「α」)とGrのみが観察されたのに対して、脱脂加熱(400℃)および安定化熱処理(1100℃焼成)後のCr−θシートではほぼセメンタイト((Fe5%Cr)3C)単相が観察された。
また、接合部の強度は、接合温度が高く、接合時間が長いほど大きくなり得るが、Cr−θシートを用いた場合、接合温度が1180℃と比較的低くても、また、接合時間が3分間と比較的短くても、いずれも十分に大きくなり得ることもわかった。
(a)先ず、同図(a)にNi系接合材を用いた場合を示した。Niの拡散速度は遅いため、加熱中もNi系接合材の組成変化は緩やかである。このためNi系接合材は、当初予定された比較的低い接合温度で、接合材だけが全体的に液相化し始め、その後の冷却で凝固することにより、被接合部材の接合が完了する。
但し、このNi系接合材を用いた接合には、高温で長時間の加熱が必要となる。また、10MPa以上の強い押圧力を被接合部材へ印加する必要があり、エネルギー的にも設備的にも効率が悪い。
このようにFe−4.3%C系接合材を用いた場合、母材側の溶出が生じず、接合材のみの等温凝固となって、被接合部材の十分な接合が得られ難い。
ここで、接合端部側のC濃度は接合材自体の元のC濃度よりは低いが、共晶組成の4.3%近傍(融点1153℃)には近づく。このため、Cr−θ系接合材を用いると、比較的低い接合温度で、接合に重要な界面部分から液相化が進行する。具体的には、母材側から接合材側へ溶出が始まり液相が生成される。そして接合材の厚さは通常薄いので、短時間のうちに、接合部の組成がほぼ母材側の組成に接近し、接合部および被接合部材の両端部は等温凝固して被接合部材の接合が完了する。
このようにCr−θ系接合材を用いた場合、母材側の溶出が生じるため、被接合部材への押圧力が低くても、十分に高強度な接合が迅速に形成され得る。
なお、Cr−θ系接合材では、Crの存在により、Fe−4.3%C系接合材よりもCの拡散が緩やかであり、セメンタイトが急激に分解することもない。
Claims (8)
- 第1部材の第1鉄鋼材からなる第1端部と第2部材の第2鉄鋼材からなる第2端部との間に介在させた接合材を圧接する圧接工程と、
該第1端部と該第2端部と該接合材とにより形成される接合部を該第1鉄鋼材および該第2鉄鋼材の融点よりも低い接合温度で加熱して、該接合部を少なくとも部分的に溶融させた後に凝固させることにより前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合工程と、を備える部材接合方法であって、
前記接合材は、少なくとも前記接合工程の溶融前の段階で、M 3C型(M:金属元素)であって実質的に鉄(Fe)と炭素(C)の化合物からなる鉄炭化物であることを特徴とする部材接合方法。 - 前記接合材は、少なくとも前記接合温度まで、前記鉄炭化物の分解を抑制して安定化させる安定化元素を含む請求項1に記載の部材接合方法。
- 前記安定化元素はクロム(Cr)であり、該Crは前記鉄炭化物全体を100質量%(以下単に「%」という。)としたときに0.6〜12%である請求項2に記載の部材接合方法。
- 前記接合材は、前記鉄炭化物の粉末からなる接合材粉末であり、
前記圧接工程は、該接合材粉末を前記第1端部または前記第2端部の少なくとも一方の表面へ付着させる付着工程である請求項1〜3のいずれかに記載の部材接合方法。 - 前記接合材は、前記鉄炭化物をシート状に成形した接合材シートであり、
前記圧接工程は、該接合材シートを前記第1端部または前記第2端部の少なくとも一方の表面へ貼付する貼付工程である請求項1〜4のいずれかに記載の部材接合方法。 - 第1部材の第1鉄鋼材からなる第1端部と第2部材の第2鉄鋼材からなる第2端部との間に介在され、該第1鉄鋼材および該第2鉄鋼材の融点よりも低い接合温度で加熱されることにより前記第1部材と前記第2部材とを接合する部材接合方法に用いられる接合材であって、
該接合材は、鉄と炭素を有し、且つ、少なくとも前記接合温度で加熱されることで、M 3C型(M:金属元素)であって実質的にFeとCの化合物である鉄炭化物となることを特徴とする接合材。 - 前記鉄炭化物は、鉄粉末とGr粉末と鉄合金粉末とを混合した混合粉末を加熱して得られる請求項6に記載の接合材。
- 粉末状またはシート状である請求項6または7に記載の接合材。
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