本発明の第1実施例を図1乃至図11に基づいて説明する。
まず、図1,図2を用いて、本実施例の永久磁石回転電機1の構成を説明する。
本実施例の永久磁石回転電機1は、回転磁極位置を検出するための磁極位置センサ11を内蔵した回転電機であって、回転磁界を発生する固定子2と、固定子2との磁気的作用により回転すると共に、固定子2の内周側に空隙を介して回転可能なように、固定子2に対向配置された回転子3とを備えている。
固定子2は、固定子側の磁路を構成する固定子鉄心4と、通電により磁束を発生させる固定子巻線5とを備えている。
固定子鉄心4は、円筒状のヨ−ク部41(又はコアバック部という)と、ヨーク部41の内周表面から径方向内側(向心側)に突出し、ヨーク部41の内周面に沿って軸方向に延びた複数の固定子突極42,44(又はティース部という)とを備えている。固定子突極42,44はヨーク部41の内周面に沿って周方向に等間隔で配置されている。固定子突極44は回転子3との対向面に磁極位置センサ11を備えているが、固定子突極42はそれを備えていない。
本実施例では、固定子突極42,44の各々に付された相記号(U,V,W)から明確なように、相毎に2つの固定子突極42と1つの固定子突極44とが周方向に連続して配列されて各相の固定子突極郡が形成され、U相,V相,W相の順に固定子突極郡が周方向に配列されている。このような配列によれば、相毎に相巻線を連続して対応する固定子突極42,44に巻くことができ、固定子巻線5のコイルエンド部における相巻線の結線数を減らせる。
尚、相記号の次に付された番号は、各相に属する固定子突極42,44の相の番号を示し、番号の次に付された正負記号(+,−)は、固定子突極42,44に巻かれた相巻線に流れる電流の方向を示す。
また、固定子鉄心4は、板状の磁性部材(珪素鋼板)を軸方向に打ち抜いて形成した複数の板状の成型部材を軸方向に積層したものであり、ヨーク部41に対応するコア片と固定子突極42,44に対応するコア片とを一体に製作するコア方式、或いはヨーク部41に対応するコア片と、固定子突極42,44に対応するコア片とを別々に分割して製作するコア方式のいずれかによって形成されている。前者のコア方式は、ヨーク部41に対応する鉄心板部分と固定子突極42,44に対応する鉄心板部分とが一体になった複数の板状の成型部材を、板状の磁性部材を軸方向に打ち抜いて製作し、この製作した複数の板状の成型部材を積層して固定子鉄心4を製作するものである。後者のコア方式は、ヨーク部41に対応する複数の板状の成型部材と、固定子突極42,44に対応する複数の板状の成型部材とをそれぞれ別々に、板状の磁性部材を軸方向に打ち抜いて製作し、この製作した複数の板状の成型部材をそれぞれ積層して、ヨーク部41に対応するコア片と、固定子突極42,44に対応するコア片とをそれぞれ製作し、この後、ヨーク部41に対応するコア片に、固定子突極42,44に対応するコア片を結合して固定子鉄心4を製作するものである。
複数の固定子突極42,44のそれぞれには、絶縁部材(図示省略した巻線ボビン)を介して固定子巻線5の対応する相巻線が集中的に巻かれている。この集中巻は、固定子突極42,44のコア片の4つの側面に対して巻線導体を複数巻回する巻線方式である。固定子突極42,44が周方向に配列されることにより、周方向に隣接する固定子突極42間、及び固定子突極42と固定子突極44との間には、相巻線の直線部を収納するスロット43が形成される。相巻線の2つの直線部を接続するコイルエンド部は固定子鉄心4の軸方向両端から軸方向外側に突出している。本実施例では、固定子巻線5の各相巻線をY字状に結線するスター結線方式を採用しているが、固定子巻線5の各相巻線を△状に結線するデルタ結線を採用しても構わない。
回転子3は、回転側の磁路を構成する回転子鉄心7と、回転磁極を構成する永久磁石6と、回転軸を構成するシャフト8とを備えている。
回転子鉄心7は、板状の磁性部材(珪素鋼板)を軸方向に打ち抜いて形成した複数の板状の成型部材を軸方向に積層したものであり、シャフト8の外周に圧入され、シャフト8の外周表面上に嵌合された円筒状のものである。永久磁石6は、固定子鉄心7の外周面に沿って軸方向に延び、かつ径方向にN極とS極の磁極が形成された略かまぼこ状のものであり、回転子鉄心7の外周面に沿って周方向に等間隔で配置され、回転子鉄心7の外周表面上に接着剤を用いて固定されている。周方向に隣接する永久磁石6の極性は互いに逆極性になっている。永久磁石6には、回転電機の小型化,高効率化に最も寄与する希土類系磁石を用いている。
永久磁石6の径方向シャフト側磁極は回転子鉄心7の外周と同心の円弧面或いは平面になっている。永久磁石6の径方向固定子側磁極は径方向シャフト側磁極の円弧面とは非同心或いは平面とは異なり、かつ空隙に向けて磁極中心が突出するような円弧面になっている。このように、磁石の径方向の厚みが磁石の周方向両端部から磁石の周方向中央部に向かうにしたがって大きくなり、磁石の周方向中央部が最も空隙側に突出する磁石形状によれば、永久磁石6の空隙面(固定子2と回転子3との間の空隙)の磁束密度分布を正弦波状にできる。
シャフト8は回転子鉄心7の中心軸上に設けられものであり、回転子鉄心7の内周側が外周表面上に圧入などにより嵌合され、回転子鉄心7の軸方向両端部から軸方向外側に向かって突出(延伸)しており、軸方向両端部に配置されたベアリング10によって回転可能に支承されている。
尚、図示省略したが、複数の永久磁石6を外周側には、複数の永久磁石6を外周側から押え込む押え部材が設けられている。この部材は、回転子3の遠心力による永久磁石6の回転子鉄心7からの飛散を防止するために設けられた金属(例えばステンレス)製の円環状部材である。
固定子2は、ハウジングを構成するブラケット9によって固定子鉄心4の外周側の軸方向両端部が軸方向両側から挟み込まれることにより、ブラケット9の内側に保持されている。ブラケット9は、軸方向一方側端部が開放され、他方側端部が閉塞された環状円板状の部材である。シャフト8は、ブラケット9の閉塞面に固定されたベアリング10によって回転可能に支承されている。これにより、回転子3は、固定子2から回転可能に保持されていることになる。また、シャフト8の片方の端部はベアリング10よりもさらに軸方向外側に向かって突出(延伸)しており、永久磁石回転電機1によって駆動される被駆動体に機械的に連結されるようになっている。
尚、本実施例では、固定子突極42,44が9個、永久磁石6が8個のいわゆる8極9スロットの永久磁石回転電機1を例に挙げて説明する。永久磁石回転電機1としては、8極9スロットと同比の磁極−スロット数の関係のもの、10極12スロットのもの、10極12スロットと同比の関係磁極−スロット数の関係のもの、8極9スロットのもの、8極9スロットと同比の磁極−スロット数の関係のものを用いてもよい。また、その他の組み合わせでも可能である。
3相の各相に1つずつ設けられた固定子突極44の内周面の窪み(凹)部44aには磁極位置センサ11が設けられている。3相の各相の残りの2つの固定子突極42の内周面にも窪み(凹)部42aが設けられているが、そこには磁極位置センサ11が設けられていない。すなわち本実施例では、固定子突極42の軸方向断面形状を固定子突極44の軸方向断面形状と同一形状としている。固定子突極42の軸方向断面形状としては、磁極位置センサ11を保持するための窪み(凹)部42aのない構成にもできる。しかし、この場合、磁束量の増加によってより大きなトルクを得ることができるものの、凹部のある突極と凹部のない突極との併用により、より大きなコギングトルクを発生させることが考えられる。このため、本実施例では、固定子突極42の軸方向断面形状を固定子突極44の軸方向断面形状と同一形状としている。
固定子突極44の突端の内周面と回転子3の外周面との間の空隙に配置され、固定子突極44の内周面の窪み(凹)部44aに固定された、回転子3の回転磁極の位置を検出するための3つの磁極位置センサ11(U相用Hu,V相用Hv,W相用Hw)は、周方向に隣り合う相のものに対して120度(電気角)の位相差をもって配置されている。磁極位置センサ11はホール素子などの磁気感知素子であり、接着などの固定方法によって精度が確保できるように、固定子突極44の内周面の窪み(凹)部44a内に固定されている。ここで、磁極位置センサ11が3つ(Hu,Hv,Hw)あるのは、永久磁石回転電機1が3相の交流式同期機だからである。
磁極位置センサ11は、永久磁石6の磁束が鎖交することにより正弦波状の信号を出力する。本実施例では、前述したように、永久磁石6がかまぼこ形状をしているので、磁極位置センサ11の出力は回転子3の位置に応じたきれいな(歪のない)正弦波となる。磁極位置センサ11から出力された正弦波信号を、例えばマイクロプロセッサに設けられたアナログ・デジタル(A/D)変換器を介して取り込むことによって、回転子3の回転磁極の位置を検出できる。
次に、図3を用いて、本実施例の永久磁石回転電機装置の構成を説明する。
本実施例の永久磁石回転電機装置は、永久磁石回転電機1と、永久磁石回転電機1の駆動電源を構成する直流電源12と、永久磁石回転電機1に供給される電力を制御して駆動を制御する制御装置とを備えている。
永久磁石回転電機1は前述した通り構成されている。直流電源12は直流電力の供給が可能なものであり、例えば自動車のように、直流電力の充放電が可能な蓄電装置(車載バッテリ)に相当するものである。制御装置はインバータ装置であり、直流電源12から供給された直流電力を所定の交流電力に変換してその交流電力を永久磁石回転電機1の固定子巻線5に供給している。
インバータ装置は、直流電源12と固定子巻線5との間に電気的に接続された電力系のインバータ回路14(電力変換回路)と、インバータ回路14の動作を制御する制御回路とを備えている。
インバータ回路14は、スイッチング用半導体素子(例えばMOS−FET:金属酸化膜半導体形電界効果トランジスタ,IGBT:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)から構成されたブリッジ回路である。ブリッジ回路は、アームと呼ばれる直列回路が永久磁石回転電機1の相数分(本実施例では3相であるので3つ)電気的に並列に接続されて構成されている。各アームは、上アーム側のスイッチング用半導体素子と下アーム側のスイッチング用半導体素子とが電気的に直列に接続されて構成されている。各アームの高電位側回路端は直流電源2の正極側に電気的に接続され、低電位側回路端は直流電源2の負極側に電気的に接続されて接地されている。各アームの中点(上アーム側のスイッチング用半導体素子と下アーム側のスイッチング用半導体素子と間)は、固定子巻線5の対応する相巻線に電気的に接続されている。
インバータ回路14と直流電源2との間には平滑用のコンデンサ20が電気的に並列に接続されている。インバータ回路14と固定子巻線5との間には電流センサ13が設けられている。電流センサ13は変流器などから構成されたものであり、各相に流れる交流電流を検出するためのものである。
制御回路は、インバータ回路14のスイッチング用半導体素子の動作(オン・オフ)を入力情報に基づいて制御するものである。入力情報としては、永久磁石回転電機1に対する要求トルク(電流指令信号Is)と、永久磁石回転電機1の回転子3の磁極位置θが入力されている。要求トルク(電流指令信号Is)は、被駆動体に要求される要求量(例えば自動車では、運転者から車両に要求される加減速量(アクセル操作量))に応じて上位制御回路から出力された指令情報である。磁極位置θは、磁極位置センサ11の出力から得られた検出情報である。
3つの磁極位置センサ11から出力された出力信号Btは、電流センサ13から出力された出力信号(固定子巻線5に供給される3相電流の検知信号)Iaと共に、A/D変換器(図示省略)によってセンサ出力補正回路15に入力される。センサ出力補正回路15は、電流センサ13の出力信号から得られたセンサ出力情報に基づいてセンサ出力補正情報Baを生成し、このセンサ出力補正情報Baに基づいて、磁極位置センサ11の出力信号から得られたセンサ出力情報を補正する。さらに、位置センサ補正出力情報Boを作成し、制御回路に送る構成である。尚、センサ出力補正回路15におけるセンサ出力情報の具体的な補正方法については後述する。
ここで、電流センサ13から出力された出力信号には、パルス幅変調(PWM:パルスワイドモジュレーション)による高周波分が含まれている。回転子3の磁極位置検出精度を向上させるためにはその高周波分を取り除く必要がある。そこで、本実施例では、センサ出力補正回路15の入力側にフィルタ回路(図示省略)を設けてその高周波分を除去している。
補正されたセンサ出力情報は位置センサ補正出力情報Boとしてセンサ出力補正回路
15から角度演算回路16に入力される。角度演算回路16は位置センサ補正出力情報から回転子3の磁極位置情報θを算出して出力する。
角度演算回路16から出力された磁極位置情報θは変換回路18に入力される。変換回路18には、その他に、上位制御回路から出力された要求トルク(電流指令信号Is)が入力されている。変換回路18は、電流指令信号Isから得られた電流指令値を、角度演算回路16から出力された磁極位置情報θに基づいて、固定子巻線5の各相の誘起電圧と同相の正弦波出力に応じた、或いは位相シフトされた正弦波出力に応じた各相の電流指令値Isu,Isv,Iswに変換して出力する。
変換回路18から出力された各相の電流指令値Isu,Isv,Iswは、対応する相の電流制御系(ACR)17に入力される。各相の電流制御系(ACR)17には、その他に、対応する相の電流センサ13から出力された出力信号Ifu,Ifv,Ifwが入力されている。各相の電流制御系(ACR)17は、対応する相の電流センサ13の出力信号Ifu,Ifv,Ifwから得られた各相の電流値と、対応する相の電流指令値Isu,Isv,Iswに基づいて、対応する相のアームのスイッチング用半導体素子を駆動するための駆動信号を出力する。
各相の電流制御系(ACR)17から出力された駆動信号は、対応する相のアームを構成するスイッチング用半導体素子の制御端子に入力される。これにより、各スイッチング用半導体素子がオン・オフ動作し、直流電源12から供給された直流電力が交流電力に変換され、固定子巻線5の対応する相巻線に供給される。
本実施例のインバータ装置では、固定子巻線5に流れる電流が作る電機子起磁力の合成ベクトルを、永久磁石6が作る磁束又は磁界の方向に対して直交するように、或いは位相シフト(固定子巻線5に流れる電流が作る電機子起磁力の合成ベクトルを、永久磁石6が作る磁束又は磁界の方向に対して90度(電気角)以上進む)ように、固定子巻線5に流れる電流(各相巻線に流れる相電流)を常に形成している。これにより、本実施例の永久磁石回転電機装置では、無整流子(ブラシレス)の永久磁石回転電機1を用いて、直流機と同等の特性を得ることができる。尚、固定子巻線5に流れる電流が作る電機子起磁力の合成ベクトルを、永久磁石6が作る磁束又は磁界の方向に対して90度(電気角)以上進むように、固定子巻線5に流れる電流(各相巻線に流れる相電流)を常に形成する制御を弱め界磁制御という。
従って、本実施例の永久磁石回転電機装置では、固定子巻線5に流れる電流が作る電機子起磁力の合成ベクトルを、永久磁石6が作る磁束又は磁界の方向に対して直交するように、固定子巻線5に流れる電流(各相巻線に流れる相電流)を回転子3の磁極位置に基づいて制御すれば、永久磁石回転電機1から連続的に最大トルクを出力できる。弱め界磁制御が必要な時には、固定子巻線5に流れる電流が作る電機子起磁力の合成ベクトルを、永久磁石6が作る磁束又は磁界の方向に対して90度(電気角)以上進むように、固定子巻線5に流れる電流(各相巻線に流れる相電流)を回転子3の磁極位置に基づいて制御すればよい。
また、本実施例の永久磁石回転電機1では、固定子巻線5の各相巻線に誘起される電圧の波形が正弦波になる。これは、永久磁石回転電機1における永久磁石6の形状が図示したようにかまぼこ型であること、また、同相の固定子突極42に巻かれた相巻線、例えばU1+,U2−,U3+の各固定子突極42に巻かれた相巻線が永久磁石6に対して相互に位置的に同相、若しくは逆相よりずれた構成になっていることによる。このため、本実施例のインバータ装置では、その正弦波誘起電圧に対して、回転子3の磁極位置に応じた正弦波電流を固定子巻線5の各相巻線に180度(電気角)通電している。従って、本実施例の永久磁石回転電機装置では、永久磁石回転電機1の出力トルクの変動を小さく抑えることができる。
また、永久磁石回転電機1のインバータ制御に180度通電方式を用いた本実施例の回転電機装置では、120度通電方式のインバータ制御を用いた回転電機装置に比べて以下の利点がある。
(1)永久磁石回転電機1が被駆動体の位置決めに用いられる場合、永久磁石回転電機1の相切り換え時に生じるトルク脈動を抑えることができる。
(2)永久磁石回転電機1のトルク定数が回転子3の磁極位置により変化してインバータ制御が不安定になることを防止できる。
(3)180度の区間通電により、インバータ損失を低減し、永久磁石回転電機1の運転効率を向上できる。
(4)60度の区間内を識別できるため、最小分解能を向上できる。このため、磁極位置センサ11の出力を永久磁石回転電機1による被駆動体の位置制御に用いる場合(例えば永久磁石回転電機1の出力端に回転−直動変換装置を取り付け、永久磁石回転電機1の回転力を直動力に変換して被駆動体を直動させる際に、磁極位置センサ11の出力を被駆動体の位置検出のための信号として利用する場合)、永久磁石回転電機1による被駆動体の位置決め精度を向上できる。
また、本実施例の回転電機装置では、磁極位置センサ11として、磁気感知素子であるホール素子或いはホールICを用いたので、レゾルバなどの磁極位置センサに対して簡単な構成でしかも安価に磁極位置検出が行える。
また、本実施例の回転電機装置では、ホール素子を固定子鉄心4に取り付けたので、誘起電圧とホール素子或いはホールICの出力との間の位相調整作業を不要とし、磁極位置センサ11の取付作業を容易にできる。
次に、図5を用いて、本実施例の磁極位置センサ11の出力情報の補正を行う上での原理について説明する。
本実施例では、磁極位置センサ11を巻線5の作る磁界の中に積極的に配置することによって、回転子3の軸端にレゾルバなどの特別な磁極位置センサを不要としている。これにより、本実施例では、回転電機を小型化すると共に、磁極位置センサの磁極位置合わせなどの作業を省略できる。
これを実現するために本実施例では、駆動電流による磁界の影響を受けた磁極位置センサの出力情報(位置情報)から、電流センサの出力情報(電流情報)に応じて、駆動電流による磁界の影響分を排除し、駆動電流による磁界の影響分を排除した後の位置情報から回転子3の磁極位置を検出するようにしている。これにより、本実施例では、磁極位置センサの出力情報(位置情報)に含まれる誤差を低減でき、永久磁石回転電機1の脈動トルクを低減できる。
ここで、駆動電流による磁界の影響分は、図5に示すベクトルの関係から求めることができる。Btは負荷時における磁極位置センサ11の出力情報(位置情報)を、Iaは電流センサ13の出力情報(電流情報)をそれぞれ示す。図5のベクトルの関係から判るように、Btに含まれる、駆動電流による磁界の影響分Baは、Iaに対して同じ方向の成分であり、Iaの大きさにほぼ比例した関係にあることから、Iaから予め測定、或いは演算などによって求めておくことができ、これにより、駆動電流による磁界の影響を受けないセンサ出力Boを求めることができる。駆動電流による磁界の影響を受けないセンサ出力Boは、駆動電流を流さない時の無負荷時における磁極位置センサ11の出力情報に相当する。このため、本実施例では、Iaに応じてBaを決定し、BtからBaを除去してBoを出力するようにしている。
次に、図4を用いて、本実施例の磁極位置センサ11の出力情報の補正するためのセンサ出力補正回路の構成を説明する。
センサ出力補正回路15はマイクロコンピュータ(以下、「マイコン」と呼称する)により構成されている。センサ出力補正回路15を構成するマイコンは、インバータ装置の制御回路を構成するマイコンとは別に設けられてもよい。また、インバータ装置の制御回路を構成するマイコンによってセンサ出力補正回路15を構成してもよい。コスト低減を図る上では、後者が好ましい。
センサ出力補正回路15には、磁極位置センサ11及び電流センサ13から出力された出力信号(アナログ信号)Bt,Iaが入力される。磁極位置センサ11及び電流センサ13の出力信号はA/D変換器(図示省略)によってデジタル信号に変換される。これにより、磁極位置センサ11のセンサ出力情報Bt(波形データ)及び電流センサ13のセンサ出力情報Ia(波形データ)を得ることができる。磁極位置センサ11のセンサ出力情報Btは位置センサ出力情報補正手段50に、電流センサ13のセンサ出力情報Iaはセンサ出力補正情報決定部51にそれぞれ入力される。また、センサ出力補正情報決定部51には、記憶部52から出力されたセンサ出力補正基礎情報Kabが入力されている。記憶部52には、図5のベクトルの関係から予め測定や演算などにより求められた、電気角度1サイクル分についてのセンサ出力情報Ia(駆動電流)とセンサ出力補正情報Ba(駆動電流による磁界の影響分)との関係を示すマップ(データテーブル)がセンサ出力補正基礎情報Kabとして格納されている。
センサ出力補正情報決定部51は、センサ出力補正基礎情報Kabを用いて、電流センサ13のセンサ出力情報Iaに対応するセンサ出力補正情報Baを決定し、センサ出力補正情報Baを位置センサ出力情報補正手段50に出力する。非線形の場合、センサ出力情報Iaを参照することにより決定できる。
位置センサ出力情報補正手段50は、磁極位置センサ11のセンサ出力情報Btとセンサ出力補正情報Baとの差分を演算する。これにより、磁極位置センサ11のセンサ出力情報Btはセンサ出力補正情報Baに基づいて補正さる。磁極位置センサ11のセンサ出力情報Btとセンサ出力補正情報Baとの差分値はセンサ補正出力情報Boとして角度演算回路16に出力される。
次に、図6乃至図9を用いて、センサ出力補正回路15の動作とその結果を説明する。
図6は、1サイクル分の電気角度(度)(横軸)に対する磁束密度(T)(横軸)の関係を示す波形であり、電気角度(度)1サイクル分について、センサ出力情報Bt及びセンサ補正出力情報Boのそれぞれの波形を示す。
ここで、各波形は以下の波形を示す。
P0U:巻線電流0%におけるU相用Huの磁極位置センサ11の出力波形
P0V:巻線電流0%におけるV相用Hvの磁極位置センサ11の出力波形
P0W:巻線電流0%におけるW相用Hwの磁極位置センサ11の出力波形
すなわち上記各波形は、無負荷時の磁極位置センサ11の出力波形(無負荷時のセンサ出力情報Bt)に相当する。
P100U:巻線電流100%におけるU相用Huの磁極位置センサ11の出力波形
P100V:巻線電流100%におけるV相用Hvの磁極位置センサ11の出力波形
P100W:巻線電流100%におけるW相用Hwの磁極位置センサ11の出力波形
すなわち上記各波形は、全負荷時の磁極位置センサ11の出力波形(全負荷時のセンサ出力情報Bt)に相当する。
P100UC:巻線電流100%におけるU相用Huの磁極位置センサ11の出力波形
P100VC:巻線電流100%におけるV相用Hvの磁極位置センサ11の出力波形
P100WC:巻線電流100%におけるW相用Hwの磁極位置センサ11の出力波形
すなわち上記各波形は、全負荷時の磁極位置センサ11の補正後の出力波形(全負荷時のセンサ補正出力情報Bo)に相当する。
ここで、センサ出力補正情報Baの波形は省略したが、前述のように、電流センサの出力情報Iaに基づいてセンサ出力補正基礎情報Kabから決定される。
図から明らかなように、全負荷時のセンサ補正出力情報Boは、全負荷時のセンサ出力情報Btからセンサ出力補正情報Ba分が取り除かれ、無負荷時のセンサ出力情報Btとほぼ同じ波形になっている。これにより、磁極位置センサ11の検出精度を向上できることが判る。
図7は、1サイクル分の電気角度(度)(横軸)に対する誤差角度(度)(横軸)の関係を示す波形であり、電気角度(度)1サイクル分について、図6の3つの各状態における各相の波形を入力波形とした時の角度演算回路16の出力波形に含まれる誤差角度の波形を示す。誤差角度は、永久磁石回転電機1に駆動電流を供給した時の回転子3の実際の正確な磁極位置と、磁極位置センサ11の出力情報から演算により推定された磁極位置との差を示す。
ここで、e0は、巻線電流0%(無負荷時)における、角度演算回路16の出力波形に含まれる誤差角度の波形を、e100は、巻線電流100%(全負荷時)であって、かつセンサ出力補正が無い場合における、角度演算回路16の出力波形に含まれる誤差角度の波形を、e100Cは、巻線電流100%(全負荷時)であって、かつセンサ出力補正が有る場合(ここでは、電流に対する平均の誤差角度を補正する)における、角度演算回路16の出力波形に含まれる誤差角度の波形をそれぞれ示す。
図から明らかなように、センサ出力補正を行うことによって、巻線電流100%(全負荷時)の角度演算回路16の出力波形に含まれる誤差角度を、センサ出力補正を行わない巻線電流100%(全負荷時)の角度演算回路16の出力波形に含まれる誤差角度に比べて大幅に低減でき、巻線電流0%(無負荷時)の角度演算回路16の出力波形に含まれる誤差角度とほぼ同じにできる。これからも、磁極位置センサ11の検出精度を向上できることが判る。
図8は、無負荷時から全負荷時に至る駆動電流の変化(%)(横軸)に対する誤差角度平均量(度)及び誤差角度変動量(度)(縦軸)の関係を示す特性であり、センサ出力補正を行わない場合を示す。図9は、図8と同様の特性を示すものであり、センサ出力補正を行った場合を示す。これらの特性は、2次元の電磁界解析によるシミュレーションにより算出したものである。
誤差角度平均量とは、電気角度1サイクル分について、永久磁石回転電機1に駆動電流を供給した時の回転子3の実際の正確な磁極位置と、磁極位置センサ11の出力情報から演算により推定された磁極位置との差を平均したものを示す。すなわち図7の各波形の平均値である。また、誤差角度変動量とは、電気角度1サイクル分について、誤差角度の波形(高周波)の変動分を示す。すなわち図7の各波形のピークからピークまでの振幅を示す。
尚、図中、a1,a2は誤差角度平均量を、e1,e2は誤差角度変動量をそれぞれ示す。
図から明らかなように、誤差角度平均量は、センサ出力を補正を行わない場合、駆動電流が大きくなるにしたがって増える傾向にある。一方、センサ出力を補正を行った場合にはほぼ一定になり、磁極位置センサ11の検出精度を向上できることが判る。また、誤差角度変動量は、センサ出力を補正を行わない場合、図7のe0の波形の変動量の特性(図示省略)に対して大きなずれが生じる傾向にある。一方、センサ出力を補正を行った場合でも、図7のe100の波形の変動量の特性とほぼ同じ傾向になり、誤差角度変動量は残るが、誤差角度平均量を十分補正できたので、十分精度良く使用することができる。
尚、本実施例では、図5の関係から、電気角度1サイクル分についてのセンサ出力情報Ia(駆動電流)とセンサ出力補正情報Ba(駆動電流による磁界の影響分)との関係をを設定し、センサ出力情報Iaから決定されたセンサ出力補正情報Baと磁極位置センサ11のセンサ出力情報Btとの差分を求めることにより、磁極位置センサ11のセンサ出力情報Btを補正したが、電気角度1サイクル分(回転子3の同極性の磁極間のピッチに対応した電気角度分)について、フーリェ変換を用いて磁極位置センサ11のセンサ出力情報Btを補正するようにしてもよい。すなわちセンサ出力補正情報Baと磁極位置センサ11のセンサ出力情報Btとを複数の周波数(次数)成分に分解し、複数の周波数毎にセンサ出力補正情報Baと磁極位置センサ11のセンサ出力情報Btとの差分を求め、その差分値を足し合せるようにしてもよい。このようにすれば、前述の誤差角度変動量まで低減することができて、磁極位置センサ11の検出精度をより向上できる。
以上は補正の基本的な例について示したが、本発明は以上の例のみに限定されるものではない。
図10,図11は、フーリェ変換の方式を用いた場合の2次元の電磁界解析によるシミュレーションの結果であり、図8、図9と同様に、無負荷時から全負荷時に至る駆動電流の変化(%)(横軸)に対する誤差角度平均量(度)及び誤差角度変動量(度)(縦軸)の関係を示す特性である。図10は、電気角度1サイクル分について、1,3,5,7次の成分に分解して行った結果である。図11は、電気角度1サイクル分について1次成分のみで行った結果である。
尚、図中、a3,a4は誤差角度平均量を、e3,e4は誤差角度変動量をそれぞれ示す。
図から明らかなように、1次成分のみでも磁極位置センサ11の検出精度が向上し、実用に十分に供することができるものの、複数の周波数(次数)成分に分解した方が、磁極位置センサ11の検出精度をより向上でき、顕著な結果が得られる。
以上説明した本実施例によれば、磁極位置センサ11の出力情報を補正するセンサ出力補正回路15を備えたので、固定子巻線5が作る漏洩磁束の影響による誤差分の全て或いは誤差分の多くを磁極位置センサ11の出力情報から除去できる。これにより、本実施例によれば、固定子巻線5が作る漏洩磁束の影響による誤差分の全て或いは誤差分の多くが除去されたセンサ補正出力情報Boから磁極位置情報θを得て永久磁石回転電機1に供給される電流を制御できる。従って、本実施例によれば、固定子巻線5が作る漏洩磁束の影響による磁極位置センサ11の出力誤差を低減し、その出力誤差の影響による永久磁石回転電機1の脈動トルクの発生を抑えることができる。よって、本実施例によれば、小型のために磁極位置センサ11を固定子巻線5の近傍に配置した場合でも、正確な磁極位置による永久磁石回転電機1の駆動制御を行うことができるので、小型で高性能な電動駆動装置を提供できる。
尚、本実施例では、磁極位置センサ11を固定子突極44の回転子3との対向面に配置し、永久磁石6の磁束密度を検知するようにした場合を例に挙げて説明したが、磁極位置センサ11を固定子突極44の軸方向端部に配置し、永久磁石6の磁束密度を検知するようにしてもよく、同様の効果を得ることができる。