JP5328235B2 - 加圧部材、及びこの加圧部材を有する像加熱装置 - Google Patents

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Description

本発明は、電子写真複写機、電子写真プリンタなどの画像形成装置に搭載する加熱定着装置に用いれば好適な加圧部材、及びこの加圧部材を有する像加熱装置に関する。
電子写真式のプリンタや複写機に搭載する定着装置として、ハロゲンヒータと、このハロゲンヒータにより加熱される定着ローラと、その定着ローラと接触してニップ部を形成する加圧ローラと、を有する熱ローラ方式の像加熱装置がある。また、定着装置として、セラミックス製の基板上に発熱抵抗体を有するヒータと、このヒータに接触しつつ移動する定着フィルムと、その定着フィルムを介してヒータとニップ部を形成する加圧ローラと、を有するフィルム加熱方式の像加熱装置がある。
上記熱ローラ方式の像加熱装置を搭載するプリンタで小サイズの記録材を大サイズの記録材と同じプリント間隔で連続プリントすると、定着ニップ部長手方向において記録材が通過しない領域(非通紙領域)が過度に昇温する現象(非通紙領域昇温)が発生する。非通紙領域が過昇温すると、像加熱装置を構成している各パーツにダメージを与える可能性がある。また、非通紙領域が過昇温している状態で大サイズの記録材にプリントすると、その記録材において非通紙領域と対応する領域が必要以上に加熱されるため、高温オフセットが発生してしまう。
特に、加熱体として低熱容量のセラミックヒータを用いることのできるフィルム加熱タイプの場合、加熱体の熱容量が熱ローラ方式に比べて小さいので、加熱体の非通紙部昇温も大きく、加圧ローラの耐久性能低下や高温オフセットも発生しやすい。また、フィルム駆動の不安定性、フィルムのシワ等の問題も発生しやすい。
また、プリンタの処理速度(プロセススピード)が速くなるほど非通紙領域の昇温は発生しやすい。なぜなら、高速化に伴い記録材がニップ部を通過する時間が短くなるので、未定着トナー像を記録材に加熱定着するために必要な定着温度を高くせざるを得ないからである。また、連続プリント工程中はニップ部に記録材が介在しない時間(所謂、紙間時間)がプリンタの高速化に伴い減少するので、紙間時間中に温度分布ムラを均すことが難しくなるからである。
この非通紙部昇温を低減させる手段の一つとして、加圧ローラの熱伝導率を高くするという手法が一般的に知られている。これは、加圧ローラの有する弾性層の伝熱性を積極的に良化させる事で非通紙部昇温の温度の低下、つまり加圧ローラの長手方向の熱の高低差が減少するという効果を得る事ができるというものである。
特許文献1、特許文献2、特許文献3には、定着ローラや加圧ローラの弾性層の熱伝導率を良化させるためにアルミナ、酸化亜鉛、炭化珪素などの高熱伝導性フィラーをベースゴムに添加することが開示されている。
特許文献4には、弾性層を有する回転体(加圧ローラではなく定着ベルトであるけれども)の熱伝導を良化させるために、弾性層にカーボンファイバーを含有させる方法が開示されている。
特許文献5には、エラストマ−層にグラファイトのような異方性充填材を含有させ、ローラ厚み方向に熱伝導率を良化させる発明が開示されている。
特許文献6には、ピッチ系炭素繊維を用いた織物の層を加圧ローラの弾性層中に設ける発明が開示されている。
特許文献7には、ピッチ系炭素繊維を加圧ローラ弾性層中に分散させる発明が開示されている。
特開平11−116806号公報 特開平11−158377号公報 特開2003−208052号公報 特開2002−268423号公報 特開2000−039789号公報 特開2002−351243号公報 特開2005―273771号公報
しかしながら、特許文献1〜特許文献5に記載されているようなアルミナ、酸化亜鉛、炭化珪素、カーボンファイバー、グラファイト等のフィラーを熱伝導率アップのために弾性層に添加しても、少量添加の場合は所望の熱伝導率を得る事が出来ない。また、多量に添加した場合は加圧ローラの硬度が高くなりすぎてしまい、トナー画像の記録材への加熱定着に必要な所定のニップ幅を得る事が出来なくなるという問題が生じる。このように、加圧ローラの高熱伝導化と低硬度化の両立を図ることは困難であった。
特許文献6に開示されている加圧ローラは、熱伝導率が非常に優れている。しかしながら、織物或いはそれに準ずる構成であるので高熱伝導ゴム複合体層は硬度が高くなってしまう。その場合、加圧ローラ全体としての硬度を下げるには、下層の弾性層に発泡スポンジゴムを用いるのが好適である。従って下層の弾性層が発泡スポンジで構成されるため、消耗による耐久性に改善の余地がある。
また、特許文献7に開示されている加圧ローラはローラ長手方向の熱伝導率が優れ、かつローラの硬度を適度にできるが、弾性層から芯金への伝熱が良すぎてしまい、ローラ表面温度が低くなり過ぎるという課題があることが判明した。加圧ローラ表面温度が低すぎる場合は、記録材が加熱ニップを通過する際に発生する水蒸気が加圧ローラ表面に結露し、記録材の搬送が不安定になる。
本発明は上述の課題に鑑み成されたものであり、その目的は、記録材が通過しない領域の昇温を抑えられる像加熱装置に用いられる加圧部材、及びこの加圧部材を有する像加熱装置を提供することにある。
上述の課題を解決するための本発明は、像加熱装置に用いられるローラであって、芯金と、平均長さが0.05mm以上1mm以下であって長さ方向における熱伝導率λ がλ ≧500W/(m・k)である熱伝導性フィラーが、5vol%以上40vol%以下分散しており、ローラ軸方向の熱伝導率λ がλ ≧2.5W/(m・k)である弾性層と、前記芯金と前記弾性層の間に設けられており、厚み方向の熱伝導率λが0.16W/(m・k)以上0.40W/(m・k)以下のソリッドゴム層と、を有することを特徴とする。
本発明によれば、非通紙部昇温を抑えつつ、加圧部材の耐久性の確保及び記録紙搬送性の安定化を図れる加圧部材、及びこの加圧部材を有する像加熱装置を提供することが可能となる。
(実施例1)
(1)画像形成装置例
図1は本発明に係る像加熱装置を加熱定着装置として搭載できる画像形成装置の一例の概略構成模型図である。この画像形成装置は電子写真式のレーザービームプリンタである。
本実施例に示すプリンタは、像担持体として回転ドラム型の電子写真感光体(以下、感光ドラムと記す)1を有する。感光ドラム1は、OPC・アモルファスSe・アモルファスSi等の感光材料層を、アルミニウムやニッケルなどのシリンダ(ドラム)状の導電性基体の外周面に形成した構成から成る。
感光ドラム1は、矢印aの時計方向に所定の周速度(プロセススピード)にて回転駆動され、その回転過程で感光ドラム1の外周面(表面)が帯電手段としての帯電ローラ2により所定の極性・電位に一様に帯電処理される。その感光ドラム1表面の一様帯電面に対してレーザービームスキャナ3から出力される、画像情報に応じて変調制御(ON/OFF制御)されたレーザービームによる走査露光Lがなされる。これによって、感光ドラム1表面に目的の画像情報に応じた静電潜像が形成される。
その潜像が現像手段としての現像装置4によりトナーTを用いることによって現像され可視化される。現像方法としては、ジャンピング現像法、2成分現像法、FEED現像法などが用いられ、イメージ露光と反転現像との組み合わせで用いられることが多い。
一方、給送ローラ8の駆動により給送カセット9内に収納されている記録材Pが一枚づつ繰り出されガイド10・レジストローラ11を有するシートパスを通ってレジストローラ11に搬送される。記録材Pは、レジストローラ11によって、感光ドラム1表面と転写ローラ5の外周面(表面)との間の転写ニップ部Tに所定の制御タイミングにて給送される。給送された記録材Pは転写ニップ部Tで挟持搬送され、その搬送過程において転写ローラ5に印加される転写バイアスによって感光ドラム1表面のトナー画像が順次に記録材Pの面に転写されていく。これによって記録材Pは未定着トナー画像を担持する。
未定着トナー画像を担持した記録材Pは感光ドラム1表面から順次に分離して転写ニップ部Tから排出され、搬送ガイド12を通じて像加熱装置6のニップ部Nに導入される。ニップ部Nに導入された記録材Pは像加熱装置6のニップ部Nにより熱と圧力を受けることによって未定着トナー画像が記録材Pの面に加熱定着される。
像加熱装置6を出た記録材Pは搬送ローラ13・ガイド14・排紙ローラ15を有するシートパスを通って、排出トレイ16にプリントアウトされる。
また、記録材分離後の感光ドラム1表面はクリーニング手段としてのクリーニング装置7により転写残りトナー等の付着汚染物の除去処理を受けて清浄面化され、繰り返して作像に供される。
本実施例のプリンタは、A3サイズ紙対応のプリンタであって、プリントスピードが50枚/分(A4横)である。またトナーとしては、スチレンアクリル樹脂を主材とし、これに必要に応じて荷電制御剤、磁性体、シリカ等を内添、外添したガラス転移点55〜65℃のものを使用した。
(2)定着装置6
以下の説明において、定着装置及び定着装置を構成する部材について、長手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向である。短手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と平行な方向である。幅とは短手方向の寸法である。
図2は定着装置6の概略構成模型図である。この定着装置6は、フィルム加熱方式の定着装置である。
21は横断面略半円弧状・樋型で、図面に垂直方向を長手方向とする横長のフィルムガイド部材(ステイ)である。22はこのフィルムガイド部材21の下面の略中央部に長手方向に沿って形成した溝内に収容保持させた横長の加熱体(ヒータ)である。23は可撓性部材である。可撓性部材23は、加熱体付きのフィルムガイド部材21にルーズに外嵌させたエンドレスベルト状(円筒状)の耐熱性フィルム(可撓性スリーブ)である。本実施例では、ヒータ22と、このヒータ22と接触しつつ回転する筒状のフィルム23と、によって加熱部材を構成している。
24はフィルム23を挟ませて加熱体22の下面に圧接させた加圧部材としての横長の弾性加圧ローラである。Nはフィルム23を挟ませて加熱体22に接触させた加圧ローラ24の弾性層24aと高熱伝導弾性ゴム層(フィラーを含有する弾性層)24bの弾性変形によって加熱体22との間に形成されたニップ部(定着ニップ部)である。加圧ローラ24は駆動源Mの駆動力が不図示のギア等の動力伝達機構を介して伝達されて所定の周速度で矢印bの反時計方向に回転駆動される。
フィルムガイド部材21は、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイト)や液晶ポリマー等の耐熱性樹脂の成形品である。
加熱体22は、全体に低熱容量のセラミックス製のヒータである。本実施例に示すヒータ22は、アルミナ等の横長・薄板状のヒータ基板22aと、その表面側(フィルム摺動面側)に長手に沿って形成具備させた線状あるいは細帯状のAg/Pdなどの通電発熱体(抵抗発熱体)22bと、を有する。また、ヒータ22は、通電発熱体22bを覆って保護するガラス層等の薄い表面保護層22cを有する。そしてヒータ基板22aの裏面側にサーミスタ等の検温素子22dなどが設けられている。このヒータ22は、通電発熱体22bに対する電力供給により迅速に昇温した後、検温素子22dを含む電力制御系(不図示)により所定の定着温度(目標温度)を維持するように制御される。
フィルム23は、熱容量を小さくして装置のクイックスタート性を向上させるために、膜厚を総厚100μm以下、好ましくは60μm以下20μm以上とした単層フィルム、或いはベースフィルムの表面に離型層をコーティングした複合層フィルムである。単層フィルムの材料としては、耐熱性・離型性・強度・耐久性等のあるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)・PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル)・PPS等が用いられる。ベースフィルムの材料としては、ポリイミド・ポリアミドイミド・PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)・PES(ポリエーテルスルホン)等が用いられる。離型層の材料としては、PTFE・PFA・FEP(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル)等が用いられる。
加圧ローラ24は、鉄やアルミニウム等の材質の芯金24dと、次の(3)項で詳述する材料、製造法にて得られるソリッドゴム弾性層24aと、高熱伝導弾性ゴム層24bと、離型層24cなどを有する。
フィルム23は、少なくとも画像形成実行時に加圧ローラ24が矢印bの反時計方向に回転駆動されることにより、加圧ローラ24の回転に従動する。つまり、加圧ローラ24を回転駆動するとニップ部Nにおいて加圧ローラ24の外周面(表面)とフィルム23の外周面(表面)との摩擦力でフィルム23に回転力が作用する。フィルム23が回転している際には、フィルム23の内周面(内面)がニップ部Nにおいてヒータ22の表面保護層22cに接触して摺動する。この場合、フィルム23内面とヒータ22の表面保護層22cとの摺動抵抗を低減するために両者間に耐熱性グリス等の潤滑剤を介在させるとよい。
記録材がニップ部Nで挟持搬送されることにより記録材上のトナー像は加熱定着される。そして、ニップ部Nを出た記録材Pはフィルム23表面から分離されて搬送され、定着装置6から排出される。
本実施例のようなフィルム加熱方式の定着装置6は、熱容量が小さく昇温の速い加熱体(セラミックヒータ)22を用いているために、ヒータ22が所定の定着温度に達するまでの時間を大幅に短縮できる。そのため、常温からでも容易に高温の定着温度に立ち上げることができる。従って、非プリント時において定着装置6が待機状態にあるときにスタンバイ温調をする必要がなく省電力化できる。
また、回転するフィルム23にはニップ部N以外には実質的にテンションが作用しておらず、フィルム寄り移動規制手段としてフィルム23の端部を受け止めるだけのフランジ部材(不図示)のみを配設している。
(3)加圧ローラ24
上記の加圧ローラ24について、それを構成する材料、成型方法等を以下に詳細に説明する。
3−1)加圧ローラ24の層構成
図3は加圧ローラ24の層構成模型図である。
加圧ローラ24の層構成は、丸軸の芯金24dの外周に、少なくとも、第1の弾性層としてソリッドゴム弾性層(耐熱性ゴム層)24aと、第2の弾性層として、フィラーを含有するソリッドゴム弾性層24aよりも高い熱伝導性を有する弾性層24bを有する。以下、フィラーを含有する弾性層24bを高熱伝導弾性ゴム層と記す。また、高熱伝導弾性ゴム層24bの外周に離型層24cを有する。つまり、加圧ローラ24の層構成は、丸軸の芯金24dの外周に、ソリッドゴム弾性層(耐熱性ゴム層)24aと、高熱伝導弾性ゴム層(フィラーを含有する弾性層)24bと、離型層24cと、をその順に積層した構成である。即ち、加圧ローラは、芯金の外周に形成されたソリッドゴム弾性層を有し、フィラーを含有する弾性層は、ソリッドゴム弾性層の外周上に形成されている。
ソリッドゴム弾性層24aは、シリコーンゴムに代表されるような柔軟で耐熱性のある材料からなる。また、上述したように、ソリッドゴム弾性層24aはフィラーを含有する弾性層24bよりも熱伝導率が低い。
高熱伝導弾性ゴム層24bは、ソリッドゴム弾性層24aの外周上に形成されている。つまり、熱伝導性を有する弾性層はソリッドゴム弾性層24aよりも加圧部材の表層側に設けてある。この高熱伝導弾性ゴム層24bは、シリコーンゴムに代表されるような柔軟で耐熱性のある材料からなるゴムに熱伝導性フィラーを含有させたものからなる。
離型層24cは、高熱伝導弾性ゴム層24bの外周上に形成されている。つまり、加圧部材は、加圧部材の最も外側の層(最表層)に離型層を有する。この離型層24cは、フッ素樹脂またはフッ素ゴムに代表されるような加圧ローラ表面に好適な材料からなる。
3−1−1)ソリッドゴム弾性層24a
加圧ローラ24に用いられるソリッドゴム弾性層24aと高熱伝導弾性ゴム層24bの厚みを加算した弾性層全体の厚さは、所望の幅のニップ部Nを形成することができる厚さであれば特に限定されないが、2〜10mmであることが好ましい。その中でソリッドゴム弾性層24aの厚みは特に限定されるものではなく、次項で詳しく述べる高熱伝導弾性ゴム層24bの硬度に応じて適宜必要な厚みで調整すれば良い。
ソリッドゴム弾性層24aは、シリコーンゴム或いはフッ素ゴムなど一般的な耐熱性ソリッドゴム弾性材料を用いる事が出来る。どちらの材料も、定着装置6で使用した場合に充分な耐熱性・耐久性を有し、かつ、好ましい弾性(軟らかさ)を有している。従って、シリコーンゴム或いはフッ素ゴムはソリッドゴム弾性層24aの主たる材料として好適である。
シリコーンゴムとしては、例えば、ジメチルポリシロキサンを、ビニル基とケイ素結合水素基との付加反応によりゴム架橋化して得る付加反応型ジメチルシリコーンゴムが代表的な例として例示できる。フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンの二元共重合体をベースポリマーとし、パーオキサイドによるラジカル反応によりゴム架橋化して得る二元のラジカル反応型フッ素ゴムが代表的な例として例示できる。その他、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンの三元共重合体をベースポリマーとし、パーオキサイドによるラジカル反応によりゴム架橋化して得る三元のラジカル反応型フッ素ゴムが代表的な例として例示できる。
但し、加圧ローラ24において、ソリッドゴム弾性層24aの代わりに所謂発泡スポンジゴムなどを適用する構成は、断熱面では有効ではあるが耐久性能面で劣るため、ソリッドゴムを弾性層24aの材料に用いる事が重要である。
ここで言うソリッドゴム弾性層24aとは、発泡スポンジゴムのような発泡ゴム層ではないゴムポリマーのみからなる層、或いは発泡スポンジゴムではないゴムポリマーと無機充填材からなる層を指す。
本発明で使用する非発泡ゴム層であるソリッドゴム弾性層24aの厚み方向(加圧ローラのラジアル方向)の熱伝導率λは、0.16W/(m・k)以上0.40W/(m・k)以下である。この熱伝導率は京都電子工業(株)製のQuick Thermal Conductivity Meter QTM−500を用いて、測定した。
ソリッドゴム弾性層24aの形成方法としては特に限定されないが、一般的な型成型が好適に用いる事ができる。
3−1−2)高熱伝導弾性ゴム層24b
高熱伝導弾性ゴム層24bは、ソリッドゴム弾性層24aの上に均一な厚みで形成されている。高熱伝導弾性ゴム層24bの厚みは、上記の3−1−1)の項で述べた範囲内であれば加圧ローラ24として有用な任意の厚みで用いることができる。この高熱伝導弾性ゴム層24bは、耐熱性弾性材料24e中に熱伝導性フィラーとしてカーボンファイバー24fが分散されて形成されていることが必須である(図6(a)、(b)参照)。
耐熱性弾性材料24eとしては、ソリッドゴム弾性層24aと同様、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の耐熱性ゴム材料を用いることができる。シリコーンゴムを耐熱性弾性材料24eとして用いる場合には、入手のしやすさ、加工しやすさの観点から、付加型シリコーンゴムが好まれる。
なお、原料ゴムの硬化前にはその粘度が低すぎると加工時に液ダレが生じ、高すぎると混合・分散が困難になるため、0.1〜1000Pa・s程度の原料ゴムが望ましい。
カーボンファイバー24fは、高熱伝導弾性ゴム層24bの熱伝導性を確保するための充填剤としての役割を有している。カーボンファイバー24fを耐熱性弾性材料24e中に分散することで熱流路を形成することができる。また、カーボンファイバー24fは細長い繊維形状(針状)をしているため、硬化前の液状の耐熱性弾性材料24eと混練すると、成型する際に流れの方向、即ちソリッドゴム弾性層24aの長手方向に配向し易い。そのため、高熱伝導弾性ゴム層24bの長手方向の熱伝導性を高めることができる。これにより、記録材搬送方向(図2)に直交する長手方向の熱の流れが他方向の熱の流れより大きくなり、ヒータ22の非通紙部などの高温側から通紙部への効率的な熱分散が可能となる。
次に、高熱伝導弾性ゴム層24bの中でカーボンファイバー24fが配向している様子について詳しく説明する。
図4は加圧ローラ24の製造過程において形成されるローラの説明図であって、(a)は芯金24a上のソリッドゴム弾性層24aの外周に高熱伝導弾性ゴム層24bを成型したローラの全体斜視図、(b)は(a)に示すローラの右側面図である。図5は図4の(a)に示すローラの高熱伝導弾性ゴム層24bの切り出しサンプル24b1の拡大斜視図である。図6の(a)は図5の切り出しサンプル24b1のa断面の拡大図、(b)は図5の切り出しサンプル24b1のb断面の拡大図である。図7はカーボンファイバー24fの一例を表わす説明図であって、そのカーボンファイバー24fの繊維直径部分Dと繊維長部分Lを表わす説明図である。
図4の(a)に示すように、芯金24d上のソリッドゴム弾性層24aの外周に高熱伝導弾性ゴム層24bを形成したローラにおいて、高熱伝導弾性ゴム層24bをx方向(周方向)、y方向(長手方向)にてカットして切り出す。そしてその高熱伝導弾性ゴム層24bの切り出しサンプル24b1において、図5のようにx方向のa断面及びy方向のb断面をそれぞれ観察する。すると、x方向のa断面では図6の(a)のようにカーボンファイバー24fの繊維直径部分D(図7参照)が主に観察されるのに対し、y方向のb断面では図6の(b)のようにカーボンファイバー24fの繊維長部分L(図7参照)が多く観察される。
ここで、カーボンファイバー24fにおいて、繊維長部分Lの平均値が10μmより短いと、高熱伝導弾性ゴム層24b中の熱伝導率異方性効果が現れ難い。つまり、高熱伝導弾性ゴム層24bの長手方向に熱伝導率が高く周方向に熱伝導率が低いと、非通紙部での熱量をニップ内で中央部に供給できるので同じ定着性を得るのにも省エネが図れる。繊維長部分Lの平均値が1mmより長いと、カーボンファイバー24fの高熱伝導弾性ゴム層24b中への分散加工成型が難しい。従って、カーボンファイバー24fの長さは0.01mm以上1mm以下、好ましくは0.05mm以上1mm以下がよい。
このようなカーボンファイバー24fとして、その熱伝導性能から、石油ピッチや石炭ピッチを原料として製造されたピッチ系カーボンファイバー、つまりピッチ系炭素繊維(pitch based carbon fiber)が好ましい。
また、カーボンファイバー24fの耐熱性弾性材料24e中の分散含有量下限としては5vol%であり、これを下回ると熱伝導が低下してしまい期待する熱伝導の値が得られない。カーボンファイバー24fの耐熱性弾性材料24e中の分散含有量上限としては40vol%であり、これを上回ると加工性形状難しいのと同時に硬度が上がってしまい期待する硬度の値が得られない。つまり、高熱伝導弾性ゴム層24bは、熱伝導性フィラーが5vol%以上40vol%以下分散してある。好ましくは高熱伝導弾性ゴム層24bには、熱伝導性フィラーが15vol%以上40vol%以下分散してある。
また、カーボンファイバー24fの長さ方向(繊維軸方向)における熱伝導率λは500W/(m・k)以上(λ≧500W/(m・k))がよい。熱伝導率λの測定は、アルバック理工(株)製のレーザーフラッシュ法熱定数測定装置(TC−7000)を用いて、レーザーフラッシュ法で行った。
高熱伝導弾性ゴム層24bの成形方法としては特に限定されないが、一般には型成型、コート成型等の成型方法が用いることができる。また、特開2003−190870号公報や特開2004−290853号公報に開示されているリングコート法によることも可能である。上記の各種方法によりソリッドゴム弾性層24aの外周に高熱伝導弾性ゴム層24bをシームレス形状で形成することができる。
高熱伝導弾性ゴム層24bの厚さとしては0.10〜5mmが性能上、成型上において好ましいが、下層のソリッドゴム弾性層24aの厚みによって適宜調整することができる。この場合、上層の高熱伝導弾性ゴム層24bと下層のソリッドゴム弾性層24aの厚み比を、(高熱伝導弾性ゴム層24bの厚み)/(ソリッドゴム弾性層24aの厚み)と定義する場合、0.02から2の範囲が好適である。
高熱伝導弾性ゴム層24bの硬度は、所望のニップ幅を確保する観点から、所定の硬度の範囲にあることが好ましい。
本実施例では、高熱伝導弾性ゴム層24bの硬度は、JIS K7312や、SRIS0101規格に準じた高分子計器(株).製のASKER Durometer Type C(ASKER−C型硬度計)を用いて測定した。硬度(以下ASKER−C硬度と記載)で、5〜60度の範囲にある。高熱伝導弾性ゴム層24bのASKER−C硬度をこの範囲にすることにより、所望のニップ幅を十分に確保できる。なお、ASKER−C硬度を測定するのに充分な厚みが確保できない試料では、高熱伝導弾性ゴム層24bだけを切り出し、適宜必要枚数を重ねて測定する。重ねた被測定試料のASKER−C硬度の測定を行う。本実施例では、被測定試料について15mmの厚さを確保した上で測定を行った。
また、高熱伝導弾性ゴム層24bの記録材搬送方向(ローラの周方向、以後x方向と称す)及びそのx方向と直交する方向(ローラの長手方向、以後y方向と称す)の熱伝導率に関して、ホットディスク法で測定することができる。その測定装置として、京都電子工業(株)製のTPA−501を用いた。測定するのに充分な厚みを確保するために、図4(a)、図5に示したように高熱伝導弾性ゴム層24bだけを切り出し、所定枚数重ねた被測定試料のx方向とy方向のそれぞれの熱伝導率の測定を行なう。
図8は高熱伝導弾性ゴム層24bの熱伝導率の測定方法を表わす説明図である。
本実施例では、高熱伝導弾性ゴム層24bにおいて、x方向(15mm)×y方向(15mm)×厚み(設定厚み)に切り出し、厚みが約15mmになるよう重ねたものを被測定試料24b2とする(図8(a)参照)。次に、その被測定試料24b2が固定できるように幅10mmのカプトンテープTで固定する(図8(b)参照)。次に、被測定試料24b2の被測定面の平面度を揃えるために剃刀にて被測定面及び被測定面裏面をカットする。この被測定試料24b2を2セット用意し、センサSを2つの被測定試料で挟み熱伝導率の測定を行う(図8(c)参照)。被測定試料24b2について、方向(x方向、y方向)を変えて測定を行う場合は、測定方向を変更し前述した通りの方法にて行えばよい。なお、本実施例では測定5回の平均値を用いた。
本実施例の加圧ローラ24における高熱伝導弾性ゴム層24bは、上記測定法により測定したときに、y方向(長手方向)の熱伝導率λが2.5W/(m・k)以上(λ≧2.5W/(m・k))であることが必須である。さらに好ましくは、y方向(長手方向)の熱伝導率λが10W/(m・k)以上(λ≧10W/(m・k))である。
高熱伝導弾性ゴム層24bのy方向の熱伝導率λがλ≧2.5W/(m・k)以上であることにより高速プリント時においても、記録材Pが通過しない領域(非通紙領域)の昇温を充分に抑えられることができる。さらにλが10W/(m・k)以上であることにより、記録材Pが通過しない領域の昇温をより一層抑えられることができる。
3−1−3)離型層24d
離型層24cは高熱伝導弾性ゴム層24b上にPFAチューブを被せることにより形成しても良いし、フッ素ゴムまたは、PTFE、PFA、FEPなどのフッ素樹脂を弾性層上にコーティングすることによって形成しても良い。なお、離型層24cの厚さは加圧ローラ24に充分な離型性を付与することができる厚さであれば特に限定されないが、好ましくは20〜100μmである。
さらに、ソリッドゴム弾性層24aと高熱伝導弾性ゴム層24bの間、及び高熱伝導弾性ゴム層24bと離型層24dの間には接着、通電等の目的によりプライマー層や接着層が形成されていても良い。また、各々の層は本発明の範囲内において多層構成となっても良い。また、加圧ローラ24において、摺動性、発熱性、離型性等の目的でここに示した層以外の層が形成されていても良い。これらの層を形成する順序は特に限定されず、それぞれの工程等の都合により適宜入れ替えて行っても良い。
(4)加圧ローラ24の性能評価
加圧ローラ24について、以下の各種の実施例ローラ1〜18、及び比較例ローラ19〜21を作製してそれぞれのローラの性能を評価した。
まず、実施例ローラ1〜18、及び比較例ローラ19〜21で使用するカーボンファイバーを示す。
・100−05M:ピッチ系カーボンファイバー、商品名:XN−100−05M、日本グラファイトファイバー(株)製、平均繊維直径:9μm、平均繊維長L:50μm、熱伝導率900W/(m・k)。
・100−15M:ピッチ系カーボンファイバー、商品名:XN−100−15M、日本グラファイトファイバー(株)製、平均繊維直径:9μm、平均繊維長L:150μm、熱伝導率900W/(m・k)。
・100−25M:ピッチ系カーボンファイバー、商品名:XN−100−25M、日本グラファイトファイバー(株)製、平均繊維直径:9μm、平均繊維長L:250μm、熱伝導率900W/(m・k)。
・100−50M:ピッチ系カーボンファイバー、商品名:XN−100−50M、日本グラファイトファイバー(株)製、平均繊維直径:9μm、平均繊維長L:500μm、熱伝導率900W/(m・k)。
・100−01:ピッチ系カーボンファイバー、商品名:XN−100−01、日本グラファイトファイバー(株)製、平均繊維直径:10μm、平均繊維長L:1mm、熱伝導率900W/(m・k)
・90C−15M:ピッチ系カーボンファイバー、商品名:XN−90C−15M、日本グラファイトファイバー(株)製、平均繊維直径:10μm、平均繊維長L:150μm、熱伝導率500W/(m・k)。
・80C−15M:ピッチ系カーボンファイバー、商品名:XN−80C−15M、日本グラファイトファイバー(株)製、平均繊維直径:10μm、平均繊維長L:150μm、熱伝導率320W/(m・k)。
・60C−15M:ピッチ系カーボンファイバー、商品名:XN−60C−15M、日本グラファイトファイバー(株)製、平均繊維直径:10μm、平均繊維長L:150μm、熱伝導率180W/(m・k)。
4−1)実施例ローラ1
まず、φ22のAl製芯金24dの外周上に、密度が1.20g/cm3である付加反応硬化型のシリコーンゴムを用いて型成型法により肉厚3mmのソリッドゴム弾性層24aを形成したφ28の弾性層形成物1を得る。ここで温度条件としては150℃×30分にて加熱硬化させた。
次に高熱伝導弾性ゴム層24bの成型法を説明する。
まず、
重量平均分子量Mw=65000
数平均分子量 Mn=15000
A液‥ビニル基濃度(0.863mol%)、SiH濃度(無し)
粘度(7.8Pa・s)
B液‥ビニル基濃度(0.955mol%)、SiH濃度(0.780mol%)
粘度(6.2Pa・s)
A/B=1/1のときH/Vi=0.43
となるA、B両液を1:1の割合になるように配合し、触媒の白金化合物を加えて付加硬化型シリコーンゴム原液を得る。
この付加硬化型シリコーンゴム原液に対し、ピッチ系カーボンファイバー100−05Mを体積比率で15%の割合になるように均一に配合・混練して、シリコーンゴム組成物1を得た。
次に内径φ30の金型にφ28の弾性層形成物1を芯軸が等しくなるようセットし、金型と弾性層形成物1の間にシリコーンゴム組成物1を注入し、150℃×60分の加熱硬化を経て外径φ30の高熱伝導弾性ゴム層24bを備えた弾性層形成物2を得る。さらにこの弾性層形成物2の外面にPFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)チューブ(厚み50μm)を被覆し、両端部を切断して、長手方向の長さ320mmの加圧ローラを得た。その加圧ローラを実施例ローラ1としている。
なお、別途、上記と同様にして弾性層形成物1の外周上に高熱伝導弾性ゴム層24bを形成した。この高熱伝導弾性ゴム層24bを切り出し厚みが15mmになるように15枚を重ね合わせた状態で測定したASKER−C硬度は17°であった。そして、高熱伝導弾性ゴム層24bを切り出し、前述した方法にてy方向(長手方向)の熱伝導率を測定したところ2.55W/(m・k)であった。結果を下記の表1に示した。
4−2)実施例ローラ2〜18
カーボンファイバーとして表1に示したものを、表1に示す充填量で用いた。
実施例ローラ4は実施例ローラ1で示したA/B比をA/B=0.5になるよう調整した以外は実施例ローラ1と同様にして加圧ローラを作製した。この加圧ローラを実施例ローラ4としている。
また、実施例ローラ5、8、11、14は以下に示す付加硬化型シリコーンゴム原液を用いた。
重量平均分子量Mw=33000、
数平均分子量 Mn=16000、
A液‥ビニル基濃度(0.820mol%)、SiH濃度(無し)
粘度(1.1Pa・s)
B液‥ビニル基濃度(0.827mol%)、SiH濃度(0.741mol%)
粘度(1.1Pa・s)
A/B=1/1のときH/Vi=0.45
それ以外は、実施例ローラ1と同様にして実施例ローラ5、8、11、14を作製した。それ以外の実施例ローラ2、3、6、7、9、10、12、13、15〜18は、表1に示す充填量で用いた以外は実施例ローラ1と同様にして実施例ローラ2、3、6、7、9、10、12、13、15〜18を得た。そして高熱伝導弾性ゴム層24bのx方向、y方向の熱伝導率、及びASKER−C硬度を測定した。その結果を表1に示す。
4−3)比較例ローラ19
比較例ローラ19は、ソリッドゴム弾性層24aにASKER−C硬度32°、熱伝導率0.4W/(m・k)からなるシリコーンゴムを肉厚4mmで構成した。比較例ローラ19に使用しているシリコーンゴムは熱伝導率が一般的な0.2W/(m・k)以下というものよりも熱伝導性フィラーを若干多く添加することで熱伝導率を高めに設定してある。熱伝導性フィラーは補強剤としても用いられているシリカを用いた。比較例ローラ19では、高熱伝導弾性ゴム層24bを設けず全てソリッドゴム弾性層でのみ構成し、それ以外は実施例ローラ1と同じ構成としてある。
4−4)比較例ローラ20
比較例ローラ20は、ソリッドゴム弾性層24aの代わりに、ASKER−C硬度29°、熱伝導率0.11W/(m・k)の発砲スポンジゴムを用いた以外は実施例ローラ1と同じ構成としてある。この発泡スポンジの平均セル径は50μmであった。
4−5)比較例ローラ21
比較例ローラ21は、芯金の外周上に形成される弾性層を、厚さ4mmの実施例ローラ6にて示されるカーボンファイバーを用いた高熱伝導弾性ゴム層24bのみで構成した。つまり比較例ローラ21は、ソリッドゴム弾性層を有していない構成である。それ以外は実施例ローラ1と同じ構成としてある。
Figure 0005328235
[性能評価]
<非通紙部昇温>
性能評価には、上記手法にて作製した加圧ローラを定着装置(図2)に用い、前述のとおりA3サイズ紙対応のプリントスピードが50枚/分(A4横)のレーザープリンタに組み込んだものを使用した。
上記プリンタにおいて、加圧ローラの表面移動スピード(周速)を234mm/secとなるように調整し、定着温度の温調を220℃に設定し、そのときの非通紙領域(非通紙部)の温度を測定した。ニップ部に通紙した紙はLTR横サイズ紙(75g/m2)であり、50枚/分にて連続500枚通紙した時の非通紙部のフィルム表面温度を測定した。
◎‥非通紙部温度280℃未満
○‥非通紙部温度280℃以上300℃未満
×‥非通紙部温度300℃以上
本発明では、非通紙部温度が300℃以上の場合を、非通紙部が過昇温した状態と判断している。
<耐久性(ゴム層の硬度低下が要因)>
非通紙部昇温が発生すると、非通紙部昇温が発生した領域の硬度は下がる傾向にある。また、非通紙部昇温が発生したまま15万枚通紙してしまうと、非通紙部の温度が過昇温してゴム層が破壊されてしまう、或いは液状化してしまう可能性がある。本発明による非通紙部昇温抑制効果を検証するために、ヒータ加熱温度を220°にして、LTR横サイズ紙(75g/mm2)を50枚/分にて15万枚通紙して、加圧ローラの非通紙部昇温発生部におけるASKER−C硬度を測定する。15万枚通紙した加圧ローラのASKER−C硬度の測定結果により、非通紙部昇温抑制効果を評価した。
◎‥硬度低下3°以内
○‥硬度低下3〜5°
×‥破壊或いは液状化
本発明では、硬度低下が5°以内の場合を非通紙部昇温抑制効果があると判断している。特に、硬度低下が3〜5°以内の場合を非通紙部昇温抑制が十分に達成されていると判断している。
<搬送性>
高温高湿環境下(32℃/80%)にて充分に放置され、吸湿したLTR横サイズ紙(75g/m)を定着装置が充分に冷えている状態からのプリント、つまり常温状態からヒータ加熱温度を220°にして20枚連続通紙させたときの搬送性評価。
○‥搬送性良好
×‥搬送不良JAM発生
実施例ローラ1では、y方向の熱伝導率は2.55W/(m・k)であり、非通紙部温度は290.5℃となって昇温抑制効果が見られる。そのため、耐久性(硬度)も良好である。なお、この時非通紙部ではないフィルム中央部表面温度は205度であった。以後いずれの実施例ローラの場合もフィルム中央部温度は実施例ローラ1と同じ205度であるため記載を省略する。一方、ASKER−C硬度は17°と十分な軟らかさを有している。また、芯金の外周上にソリッドゴム層を形成しているので搬送性も良好であった。
実施例ローラ2では、分散させるカーボンファイバーの繊維長、熱伝導率は実施例ローラ1と同じにして、分散含有量を25%に増やしてある。実施例ローラ1に比べ、y方向の熱伝導率が10.67W/(m・k)と大きくなり、ASKER−C硬度も増加したものの27°と十分な軟らかさを有している。非通紙部温度は272.5℃であり高い昇温抑制効果が見られる。そのため、耐久性(硬度)も良好である。また、搬送性も良好であった。
実施例ローラ3では、分散させるカーボンファイバーの繊維長、熱伝導率は実施例ローラ1と同じにして、分散含有量を35%に増やしてある。実施例ローラ1に比べ、y方向の熱伝導率が39.22W/(m・k)と非常に高く、ASKER−C硬度も増加したものの39°と十分な軟らかさを有している。非通紙部温度は256.2℃であり非常に高い昇温抑制効果が見られる。そのため、耐久性(硬度)も良好である。また、搬送性も良好であった。
実施例ローラ4では、実施例ローラ3に対して付加硬化型のシリコーンゴム原液のA/B比をA/B=0.5になるよう調整し架橋度を高めている。そのためASKER−C硬度が60°と高くなったが、ソリッドゴム弾性層を形成する上では問題無い軟らかさを有している。熱伝導率に関してはy方向の熱伝導率が38.15W/(m・k)と実施例ローラ3と同様、非常に高く、非通紙部温度は257.1℃であり非常に高い昇温抑制効果が見られる。そのため、耐久性(硬度)も良好である。また搬送性も良好であった。
実施例ローラ5では、ベースゴム粘度を下げ、カーボンファイバー分散含有量を40vol%まで高めた。従ってy方向の熱伝導率が85.67W/(m・k)と非常に高く、非通紙部温度は247.7℃であり非常に高い昇温抑制効果が見られる。そのため、耐久性(硬度)も良好である。ASKER−C硬度も47°と十分な軟らかさを有している。実施例ローラ5では、ベースゴム粘度を下げているため、硬度低下がやや大きかったものの問題の無い範囲である。また搬送性も良好であった。なお、40vol%より多くカーボンファイバーを分散含有させることは成型上困難であった事を付記しておく。
実施例ローラ6では、実施例ローラ1において、分散させるカーボンファイバーの繊維長を50μmから150μmに変更したものである。15vol%の分散含有量でもy方向の熱伝導率が7.66W/(m・k)と実施例ローラ1のy方向の熱伝導率より大きくなり、ASKER−C硬度も20°と十分な軟らかさを有している。非通紙部昇温抑制効果は高く、そのため、耐久性(硬度)も良好である。また、搬送性も良好であった。
実施例ローラ7では、実施例ローラ6に対してカーボンファイバー分散含有量を30vol%と増加させた。y方向の熱伝導率が65.78W/(m・k)と非常に高く、ASKER−C硬度も35°と十分な軟らかさを有している。非通紙部昇温抑制効果は高く、そのため、耐久性(硬度)も良好である。また、搬送性も良好であった。
実施例ローラ8では、実施例ローラ6に対してベースゴム粘度を下げ、カーボンファイバー分散含有量を35vol%まで高めた。y方向の熱伝導率が117.2W/(m・k)と実施例ローラ1〜18中最も高く、ASKER−C硬度も42°と十分な軟らかさを有している。非通紙部温度は244.2℃であり非常に高い昇温抑制効果が見られる。実施例ローラ8は、ベースゴム粘度を下げているため、硬度低下がやや大きくなってしまったが、非常に高い昇温抑制効果によって耐久性(硬度)も問題の無い範囲である。また、搬送性も良好であった。
実施例ローラ9では、分散させるカーボンファイバーの繊維長を250μmとやや長めのものを選択し、その他の構成は実施例ローラ1と同じである。同じ15vol%のカーボンファイバー分散含有量である実施例ローラ1に比べて、y方向の熱伝導率が9.96W/(m・k)と大きく、ASKER−C硬度も24°と十分な軟らかさを有している。非通紙部昇温抑制効果は高く、そのため耐久性(硬度)も良好である。また、搬送性も良好であった。
実施例ローラ10では、実施例ローラ9に対してカーボンファイバー分散含有量を25vol%と増加させた。y方向の熱伝導率が41.6W/(m・k)と非常に高く、ASKER−C硬度も34°と十分な軟らかさを有している。非通紙部昇温抑制効果は高く、そのため耐久性(硬度)も良好である。また、搬送性も良好であった。
実施例ローラ11では、実施例ローラ10に対してベースゴム粘度を下げ、カーボンファイバー分散含有量を30vol%まで高めた。y方向の熱伝導率が80.23W/(m・k)と非常に高く、ASKER−C硬度も39°と十分な軟らかさを有している。非通紙部温度は248.2℃であり非常に高い昇温抑制効果が見られる。実施例ローラ11は、実施例ローラ8と同様にベースゴム粘度を下げているため、硬度低下がやや大きくなってしまったが、非常に高い昇温抑制効果によって耐久性(硬度)は問題の無い範囲である。また、搬送性も良好であった。
実施例ローラ12では、分散させるカーボンファイバーの繊維長を500μmと長めのものを選択し、分散含有量は5vol%である。その他の構成は実施例ローラ1と同じである。5vol%の分散含有量で、y方向の熱伝導率が3.56W/(m・k)であり、ASKER−C硬度も29°と十分な軟らかさを有している。非通紙部温度は286.8℃であり昇温抑制効果が見られる。そのため耐久性(硬度)も良好である。また、搬送性も良好であった。
実施例ローラ13では、実施例ローラ12に対してカーボンファイバー分散含有量を15vol%と増加させた。y方向の熱伝導率が21.44W/(m・k)と高く、ASKER−C硬度も34°と十分な軟らかさを有している。非通紙部昇温抑制効果は高く、そのため耐久性(硬度)も良好である。また、搬送性とも良好であった。
実施例ローラ14では、実施例ローラ13に対してベースゴム粘度を下げ、カーボンファイバー分散含有量を25vol%まで高めた。y方向の熱伝導率が89.6W/(m・k)と非常に高く、ASKER−C硬度も44°と十分な軟らかさを有している。非通紙部温度は247.2℃であり非常に高い昇温抑制効果が見られる。実施例ローラ14は、実施例ローラ8と同様にベースゴム粘度を下げているため、硬度低下がやや大きくなってしまったが、非常に高い昇温抑制効果によって耐久性(硬度)は問題の無い範囲である。また、搬送性も良好であった。
実施例ローラ15では、分散させるカーボンファイバーの繊維長を1mmとかなり長めのものを選択し、分散含有量は5vol%である。その他の構成は実施例ローラ1と同じである。5vol%の分散含有量でもy方向の熱伝導率が6.35W/(m・k)であり、ASKER−C硬度も49°と十分な軟らかさを有している。非通紙部温度は278.9℃であり昇温抑制効果が見られる。そのため耐久性(硬度)も良好である。また、搬送性も良好であった。
実施例ローラ16では、実施例ローラ15に対してカーボンファイバー分散含有量を1
5vol%と増加させた。y方向の熱伝導率が38.3W/(m・k)と高く、ASKER−C硬度も55°と十分な軟らかさを有している。非通紙部昇温抑制効果は高く、耐久性(硬度)も良好である。また、搬送性も良好であった。
実施例ローラ17では、カーボンファイバー自身の熱伝導率λを500W/(m・k)にし、繊維長は極わずかに長い150μmを用いた。分散含有量を15vol%にした時のy方向の熱伝導率は4.26W/(m・k)であり、ASKER−C硬度も20°と十分な軟らかさを有している。非通紙部温度は284.4℃であり昇温抑制効果が見られる。そのため、耐久性(硬度)も良好である。また、搬送性も良好であった。
実施例ローラ18では、実施例ローラ17に対してカーボンファイバー分散含有量を30vol%と増加させた。y方向の熱伝導率が37.89W/(m・k)と高く、ASKER−C硬度も35°と十分な軟らかさを有している。非通紙部温度は257.1℃であり非通紙部昇温抑制効果は高く、そのため、耐久性(硬度)も良好である。また、搬送性も良好であった。
即ち、実施例ローラ1〜18全てにおいて非通紙部昇温抑制効果があり、そのため耐久性(硬度)も良好であり、尚且つ、搬送性も良好であった。また、芯金の外周上にソリッドゴム弾性層を形成しているため、耐久性を改善できた。
比較例ローラ19では、ソリッドゴム弾性層の熱伝導率が0.4W/(m・k)程度であるため、非通紙部温度は311.2℃と高く、フィルム表層及び比較例ローラ1表層のフッ素樹脂層が溶けてしまった。また、比較例ローラ19のゴム層も液状化が見られた。即ち、耐久性(硬度)の評価は、×である。搬送性は、良好であった。
比較例ローラ20では、y方向の熱伝導率が2.48W/(m・k)であるが非通紙部温度は295.6℃であり昇温抑制効果が見られる。一方、硬度も17°と十分な軟らかさを有している。しかし、ソリッドゴム弾性層に換えて発泡スポンジが形成されているため耐久性が低く、約8万枚通紙時点で発泡スポンジ層が破壊した。そのため、昇温抑制効果があるにも関わらず、耐久性(硬度)の評価は×である。搬送性は、良好であった。
比較例ローラ21では、y方向の熱伝導率が6.52W/(m・k)、x方向の熱伝導率が4.23W/(m・k)となっている。比較例ローラ21では、芯金の外周に積層される弾性層の全層にカーボンファイバーを分散含有させており、熱伝導率としては十分な値を有している。そのため非通紙部温度が273.2℃であり高い昇温抑制効果が得られている。しかしながら、カーボンファイバーの長手方向の配向度が低下している。比較例ローラ21のx方向の熱伝導率と、y方向の熱伝導率の比であるy/xは、実施例ローラ1〜18に比べて低くなっている。そのため、芯金の厚み方向にも熱が逃げ易くなってしまい、ローラ表面温度が低くなり易くなる。定着器が常温状態からプリントを開始する場合などに、加圧ローラ表面の温度が上昇せず記録材が加熱ニップを通過する際に発生する水蒸気が加圧ローラ表面に結露した結果、比較例ローラ21では、搬送性JAMが発生し、記録材の搬送が不安定であった。即ち、搬送性の評価は×である。
即ち、比較例ローラ19〜21の構成では、非通紙部昇温抑制、耐久性(硬度)の確保、搬送性の確保、のうち少なくとも1つが良好な基準に達していない。
これまで説明してきた実施例ローラ1〜18までのゴム層の熱伝導率λと非通紙部温度の関係のグラフを図9に、ゴム層の熱伝導率λとゴム硬度の関係のグラフ2を図10に、それぞれ示す。
本実施例の加圧ローラ24は、細長い繊維形状(針状)の高熱伝導性を有するフィラーを用い、高熱伝導弾性ゴム層24bの記録材搬送方向に直交する方向(y方向)の熱伝導率λをλ≧2.5W/(m・k)としている。これにより、図9からも明らかなように、比較例ローラ1よりも約20度の昇温抑制効果が見られた。更に、λ≧2.5W/(m・k)を達成しつつ、高熱伝導弾性ゴム層24bのASKER−C硬度を60°以下(図10に示す実施例ローラ4)に設定している。そのため、上記の昇温抑制効果とともに加圧ローラとしてのニップ形成に支障をきたさず十分な定着性を確保できる。
更に、芯金の外周にソリッドゴム弾性層を形成し、そのソリッドゴム弾性層の外周上にフィラーを含有する層を形成するので、非通紙部昇温抑制効果、耐久性(硬度)ともに良好であり、尚且つ、搬送性も良好にすることが可能になる。
また、本実施例の加圧ローラ24は、熱伝導率λyをλy≧10W/(m・k)以上にすることにより、図9に示すように、比較例ローラ1よりも約35度以上の高い昇温抑制効果が見られた。更に、λ≧10W/(m・k)を達成しつつ、高熱伝導弾性ゴム層24bのASKER−C硬度を55°以下に設定している。そのため、上記の昇温抑制効果とともに加圧ローラとしてのニップ形成に支障をきたさず十分な定着性を確保できる。また図10から明らかなように、高熱伝導弾性ゴム層24bのy方向の熱伝導率λyが同じでもカーボンファイバーの繊維長が長いほどASKER−C硬度が高いことがわかる。即ち、耐熱性弾性材料24eにカーボンファイバー24fを含有させる場合、本実施例で示される程度の繊維長のカーボンファイバー24fを分散させるとよい。これにより、加圧ローラ24において、弾性層全体(ソリッドゴム弾性層24a+高熱伝導弾性ゴム層24b)の軟らかさ(低硬度化)を維持する上で適している事がわかる。所望のニップ幅を確保するためには、ソリッドゴム弾性層の硬度は、ASKER−C硬度は65°以内が好ましい。
(5)その他
5−1)上記実施例におけるフィルム加熱方式の定着装置6において、ヒータ22はセラミックヒータに限られるものではない。例えば、ニクロム線等を用いた接触加熱体等や、鉄板片等の電磁誘導発熱性部材等であってもよい。ヒータ22は必ずしもニップ部Nに位置していなくてもよい。
フィルム23自体を電磁誘導発熱性の金属フィルムにした電磁誘導加熱方式の加熱定着装置にすることもできる。
フィルム23は複数本の懸架部材間に懸回張設して駆動ローラで回動駆動させる装置構成にすることもできる。またフィルム23は繰り出し軸にロール巻きにした有端の長尺部材にして巻取り軸側に走行移動させる装置構成にすることもできる。
5−2)定着装置の加熱部材として、ハロゲンヒータ或いはセラミックスヒータによって加熱される定着ローラを用いてもよい。
5−3)像加熱装置は、実施例の定着装置6に限られず、記録材が担持する未定着画像を仮定着する像加熱装置、画像を担持した記録材を再加熱してつや等の表面性を改質する像加熱装置であってもよい。
画像形成装置の一例の概略構成模型図 像加熱装置の概略構成模型図 加圧ローラの層構成模型図 加圧ローラの製造過程において形成されるローラの説明図 図4に示すローラの高熱伝導弾性ゴム層の切り出しサンプルの拡大斜視図 (a)は図5の切り出しサンプルのa断面の拡大図、(b)は図5の切り出しサンプルのb断面の拡大図 カーボンファイバーの一例を表わす説明図 高熱伝導弾性ゴム層の熱伝導率の測定方法を表わす説明図 実施例ローラ1〜18までのゴム層の熱伝導率と非通紙部温度の関係を表わすグラフ 実施例ローラ1〜18までのゴム層の熱伝導率とゴム硬度の関係を表わすグラフ
符号の説明
6 定着装置
23 耐熱性フィルム
24 加圧部材
24a ソリッドゴム弾性層
24b 高熱伝導弾性ゴム層
24f 熱伝導性フィラー
N ニップ部
P 記録材

Claims (8)

  1. 像加熱装置に用いられるローラであって、
    芯金と、
    平均長さが0.05mm以上1mm以下であって長さ方向における熱伝導率λ がλ ≧500W/(m・k)である熱伝導性フィラーが、5vol%以上40vol%以下分散しており、ローラ軸方向の熱伝導率λ がλ ≧2.5W/(m・k)である弾性層と、
    前記芯金と前記弾性層の間に設けられており、厚み方向の熱伝導率λが0.16W/(m・k)以上0.40W/(m・k)以下のソリッドゴム層と、
    を有することを特徴とするローラ。
  2. 前記弾性層には前記熱伝導性フィラーが15vol%以上40vol%以下分散しており、前記弾性層の前記軸方向の熱伝導率λ がλ ≧10W/(m・k)であることを特徴とする請求項1に記載のローラ。
  3. 前記弾性層のASKER−C硬度は60°以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のローラ。
  4. 前記熱伝導性フィラーは、ピッチ系炭素繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のローラ。
  5. 前記ローラは、表面に離型層を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のローラ。
  6. 記録材に形成された画像を加熱する加熱部材と、前記加熱部材と共に記録材を挟持搬送するニップ部を形成するローラと、を有する像加熱装置において、
    前記ローラが請求項1〜5のいずれか一項に記載のローラであることを特徴とする像加熱装置。
  7. 前記加熱部材は、前記ローラと接触する筒状のフィルムを有することを特徴とする請求項6に記載の像加熱装置。
  8. 前記加熱部材は、前記フィルムの内面に接触するヒータを有し、前記フィルムを介して前記ヒータと前記ローラで前記ニップ部を形成することを特徴とする請求項7に記載の像加熱装置。
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