本発明の燃料電池スタックは、アノード極と電解質膜とカソード極とをこの順で備える2以上の単位電池を同一平面上に隙間を設けて配置してなる燃料電池層を、2以上積層してなる燃料電池スタックであり、燃料電池スタックが有するいずれかの単位電池におけるアノード極側からカソード極側への燃料透過量が、他のいずれかの単位電池におけるアノード極側からカソード極側への燃料透過量と異なることを特徴としている。また、本発明が提供する他の燃料電池スタックは、第1のカソード極、第1の電解質膜、第1のアノード極、第2のアノード極、第2の電解質膜および第2のカソード極をこの順で備える2以上の単位電池を同一平面上に隙間を設けて配置してなる燃料電池層を、2以上積層してなる燃料電池スタックであり、燃料電池スタックが有するいずれかの単位電池において、第1のアノード極側から第1のカソード極側への燃料透過量が、第2のアノード極側から第2のカソード極側への燃料透過量と異なることを特徴としている。複数の単位電池から構成される燃料電池スタックにおいては、該スタック内での単位電池あるいは単位電池を構成する単位電池構造体の配置位置によって、各単位電池および単位電池構造体は、異なる環境条件(温度、湿度、酸素濃度等)下に曝されることとなるが、このような環境条件の相違は、単位電池および単位電池構造体の電池性能に差異を生じさせる。本発明では、各単位電池または単位電池構造体の配置位置の相違およびこれに伴う環境条件の相違を考慮して、各単位電池または単位電池構造体の燃料透過量を最適なものとし、これにより、燃料電池スタックの耐久性および出力特性の向上を図る。
ここで、本発明において、単位電池における「アノード極側からカソード極側への燃料透過量」とは、単位電池の発電時における、電解質膜単位面積あたり単位時間あたりの、アノード極側からカソード極側に電解質膜を介して移動した燃料の量と定義され、単位電池の燃料透過量の値は、燃料電池スタックの実使用時での使用条件(燃料の種類および流量、使用温度など)とは無関係に、次の測定条件によって測定される。なお、上記定義における「燃料」とは、後述する式(b)に示されるとおり、直接メタノール型燃料電池の燃料として用いられるメタノール水溶液のうち、アノード極側からカソード極側に電解質膜を介して移動したメタノールのことを意味している。
図30は、単位電池の燃料透過量の測定方法を示す概略図である。燃料透過量の測定にあたっては、図30に示されるような測定系が用いられる。当該測定系において、測定に供される単位電池1のアノード極1c内に形成された燃料流路(図示せず)の一方端(燃料入り口側末端)には、接続管2を介して、燃料9が収容された燃料タンク3が接続されており、燃料流路の他端(燃料出口側末端)には、接続管4を介して廃液タンク5が接続されている。また、廃液タンク5の上部には生成した二酸化炭素ガスを排出するための排出孔6が設けられており、排出孔6から排出された二酸化炭素ガスおよびこれと同伴する燃料蒸気は、接続管7を通って、コールドトラップ8内にトラップされるように構成されている。上記測定系のうち、燃料タンク3、接続管2、単位電池1、接続管4および廃液タンク5から構成される部分は、燃料の収支ロスが生じないよう、排出孔6を除いて密閉された状態となっている。
単位電池の燃料透過量の測定にあたっては、測定の前に、あらかじめ測定に用いられる燃料であるメタノール水溶液(またはメタノール)のメタノール濃度を決定しておく。具体的には、まず、数種類の濃度を有する燃料を用いて、測定に供される単位電池それぞれの電流−電圧特性の濃度依存性を確認する。燃料濃度が高すぎると、燃料の透過量が過剰となり、カソード極でのメタノール酸化反応により、出力が低減し、十分に高い出力電流が得られない場合がある。また、燃料濃度が小さすぎても、燃料がアノード触媒にて供給不足になり、出力が低減し、十分に高い出力電流が得られない場合がある。そこで、測定に用いられる燃料の濃度は、測定に供される単位電池それぞれに同一の燃料濃度の燃料を供給した際に、各単位電池の出力電流が平均的に最も高く得られる濃度、およびその付近とすることが好ましい。
次に、上記測定系を準備し、ポンプ10を用いて、燃料タンク3内の燃料9を単位電池のアノード極1cに供給し、一定の出力電流Iで発電させる。このときの出力電流は、出力特性が最も低い単位電池が0.2Vの出力電圧になる際の出力電流とすることが好ましい。多くの場合、出力電圧0.2V付近で出力電流ピーク付近になることが多いためである。単位電池を一定の出力電流Iで発電させている際、アノード極1cに供給された燃料の一部は発電に使用され、また、他の一部は、電解質膜1bを通ってカソード極1aに透過され、残部は、燃料出口側末端から接続管4を通って廃液タンク5へ排出される。廃液タンク5へ排出される燃料は、発電により生成した二酸化炭素ガスを含んでおり、この二酸化炭素ガスは、一部の燃料を同伴しながら、排出孔6よりコールドトラップ8に排出され、このうち同伴した燃料はコールドトラップ8内にてトラップされる。本発明において、単位電池の燃料透過量の測定は、空気中、25℃の環境下で行なわれる。
次に、触媒層が形成された電解質膜1bの表面積(すなわち、MEA面積)をA(cm2)とし、発電を3時間行なった後、燃料9の供給を停止し、燃料タンク3内の燃料9の減少重量W0(g)およびメタノール濃度C0(重量%)〔メタノール濃度C0は、上記方法により決定された測定に使用する燃料のメタノール濃度である〕、廃液タンク5内の燃料9bの重量W2(g)およびメタノール濃度C2(重量%)、コールドトラップ8内の燃料9cの重量W3(g)およびメタノール濃度C3(重量%)を測定するとともに、発電に使用されたメタノール9aの重量W1(g)を下記式(a)から算出する。
発電に使用されたメタノール重量W1(g)=出力電流I(mA/cm2)×MEA面積A(cm2)×3(時間)÷(96500×6÷3600)×メタノールの分子量32(g) (a)
上記測定および算出結果から、単位電池1のアノード極1c側からカソード極1a側への燃料透過量X(g/cm2・秒)は、下記式(b)から算出される。
燃料透過量X(g/cm2・秒)=W0×C0/100−W1−W2×C2/100−W3×C3/100 (b)
また、後述する本発明の第3の実施形態で用いられる単位電池のように、単位電池が、燃料供給するための燃料流路を備える流路基板の上面および下面に単位電池構造体を備える構造を有する場合において、一方の単位電池構造体のアノード極側からカソード極側への燃料透過量は、他方の単位電池構造体のカソード極表面に弱粘着性のシートを貼り付け、カソード極表面全体をカバーすること以外は、上記と同様にして測定される。他方の単位電池構造体のカソード極表面全体を粘着性シートで被覆することにより、当該他方の単位電池構造体のカソード極への酸素の拡散および透過した燃料の漏洩を防止でき、これにより、当該他方の単位電池構造体における発電による燃料の消費および燃料透過による燃料消費を無視できる程度まで低減できることから、当該一方の単位電池構造体のアノード極側からカソード極側への燃料透過量を正確に評価することが可能となる。
以下、本発明の燃料電池スタックを実施の形態を示して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態はいずれも、メタノールから直接プロトンを取り出すことにより発電を行なう直接メタノール型燃料電池(DMFC)であり、燃料としてメタノール水溶液(またはメタノール)、酸化剤として空気(具体的には空気中の酸素)を用いるものである。DMFCは、(1)改質器を必要としない、(2)ガス燃料に比べ、体積エネルギー密度の高い液体メタノールを使用することから、水素に代表される高圧ガスボンベに比べ、燃料容器を小さくすることが可能である、等の利点を有する。したがって、小型機器用電源、特に、携帯機器用の二次電池代替用途として好適に適用することが可能である。また、DMFCは、燃料が液体であるため、従来の燃料電池システムではデッドスペースとなっていた狭い婉曲空間部を燃料スペースとして使用することが可能であり、デザインの制約を受けにくいという利点も有している。かかる点からも、DMFCは、携帯用小型電子機器等に好ましく適用され得る。ただし、本発明の燃料電池スタックは、DMFCに限らず、他の形式の燃料電池(たとえば、水素を燃料とするPEMFC、直接エタノール型燃料電池、直接蟻酸型燃料電池など)としても用いることができる。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の燃料電池スタックの好ましい一例を模式的に示す斜視図である。図1に示される燃料電池スタック100は、長辺と短辺を有する5つの短冊状の単位電池101aを、同一平面上に、各単位電池101aの間に隙間が形成されるように配置してなる第1の燃料電池層101と、長辺と短辺を有する5つの短冊状のスペーサ110aを、同一平面上に、各スペーサ110aの間に隙間が形成されるように配置してなるスペーサ層110と、長辺と短辺を有する5つの短冊状の単位電池102aを、同一平面上に、各単位電池102aの間に隙間が形成されるように配置してなる第2の燃料電池層102と、をこの順で積層してなる。このように、単位電池およびスペーサを井桁型に積層させることによって、第1の燃料電池層101、第2の燃料電池層102およびスペーサ層110が有する隙間は3次元的に連通することとなる。
単位電池101aおよび単位電池102aは、アノード極、電解質膜およびカソード極をこの順で積層してなるものである。図1において、「AN」はアノード極を、「CA」はカソード極を表し、アノード極とカソード極との間に配置される電解質膜の図示は省略されている(後述する図4および図5についても同様である)。燃料電池スタック100において、すべての単位電池におけるアノード極、電解質膜およびカソード極の積層順序は同じであり、図1を参照して、下から上にアノード極、電解質膜およびカソード極の順で積層されている。すなわち、第1の燃料電池層101を構成する単位電池101aはすべて、そのカソード極側がスペーサ層110(あるいは第2の燃料電池層102ともいえる)に対向するように配置され、第2の燃料電池層102を構成する単位電池102aはすべて、そのアノード極側がスペーサ層110(あるいは第1の燃料電池層101ともいえる)に対向するように配置される。したがって、最上層である第2の燃料電池層102を構成する単位電池102aのカソード極はすべて、燃料電池スタック100の外部に向けられており、燃料電池スタック100の上側外表面を形成している。なお、第1の燃料電池層101および第2の燃料電池層102は、ともに上記で定義した最外燃料電池層である。また、ここでいう「最上層」および「上側」における「上」とは、図1を参照して、燃料電池層の積層方向に関して「上」を意味している。
なお、本実施形態の燃料電池スタックを使用する際の向きは特に限定されず、必ずしも図1に示される向き(すなわち、第2の燃料電池層102が最上層となるような向き)で使用する必要はない。たとえば、第2の燃料電池層102が最下層となるような向きで使用してもよく、あるいは、燃料電池層の積層方向が、鉛直方向と平行にならないような向きで使用してもよい。この点は、他の実施形態についても同様である。
燃料電池スタック100に用いられている単位電池101aおよび単位電池102aは、長辺と短辺を有する短冊形状、より具体的には直方体形状である。第1の燃料電池層101および第2の燃料電池層102において、5つの単位電池101a、5つの単位電池102aはそれぞれ、同一平面上に、その長辺同士が対向するように、かつ、隣り合う単位電池間に隙間が形成されるように、平行または略平行に離間して配置されている。同様に、燃料電池スタック100に用いられているスペーサ110aは、長辺と短辺を有する短冊形状、より具体的には直方体形状である。スペーサ層110において、5つのスペーサ110aは、同一平面上に、その長辺同士が対向するように、かつ、隣り合うスペーサ間に隙間が形成されるように、平行または略平行に離間して配置されている。
第1の燃料電池層101とこれに隣接するスペーサ層110とは、第1の燃料電池層101が有する単位電池101aと、スペーサ層110が有するスペーサ110aとが交差するように積層され、好ましくは、直交または略直交するように積層される。これにより、スペーサ110aと単位電池101aとが接触する面積を小さくすることができ、単位電池101aのカソード極が3次元的に連通された隙間(空間)に露出する面積を大きくすることができる。このため、単位電池101aのカソード極への、空気中の酸素の供給抵抗をより低減させることができ、出力特性を良好に維持することができる。スペーサ層110とこれに隣接する第2の燃料電池層102との積層についても同様である。また、本実施形態の燃料電池スタック100においては、第1の燃料電池層101と第2の燃料電池層102とは、第1の燃料電池層101が有する単位電池101aの直上に、第2の燃料電池層102を構成する単位電池102aが配置されるように積層されている。
ここで、本実施形態の燃料電池スタック100において、第1の燃料電池層101を構成する単位電池101aには、最上層である第2の燃料電池層102を構成する単位電池102aと比較して、上記した燃料透過量がより低い単位電池を用いている。単位電池のカソード極側で発生する水(Wa)は、カソード極での反応(発電に寄与する反応)で生成する水(Wb)、燃料(たとえば、メタノール水溶液)に含まれる水がアノード極側から電解質膜を介してカソード極側に透過するクロスオーバー現象により運ばれてくる水(Wc)およびカソード極でのアノード極側から透過してきた燃料(メタノール)と酸素との反応により生成する水(Wd)の和となる(Wa=Wb+Wc+Wd)。単位電池のカソード極が燃料電池スタック外部に向けられている燃料電池層においては、これを構成する単位電池のカソード極が大気に面することとなるため、カソード極側で発生する水の蒸散は比較的容易になされる。したがって、第2の燃料電池層102に燃料透過量が比較的高い、すなわち、燃料のクロスオーバーが比較的抑制されていない単位電池102aを用いた場合であっても、単位電池102aのカソード極で発生した水は比較的容易に蒸散される。
これに対し、第1の燃料電池層101を構成する単位電池101aのカソード極は、燃料電池スタック100の内部に位置し、スペーサ110aを挟んで単位電池102aのアノード極に対向しているため、単位電池101aのカソード極と単位電池102aのアノード極との間の隙間(空間)の水蒸気圧が高くなり、単位電池101aのカソード極表面に水が結露しやすい傾向にある。カソード極表面での水の結露は、カソード極への空気(酸素)供給経路の閉塞および供給抵抗の悪化をもたらし、単位電池の発電効率を低下させる。燃料電池スタック内部に単位電池のカソード極が配置されることとなる第1の燃料電池層101に、燃料透過量が比較的低い、すなわち、燃料のクロスオーバーが比較的抑制された単位電池101aを用いることにより、クロスオーバー現象により運ばれてくる水Wcの量を低減することができ、結果、カソード極で発生する水Waを低減できる。これにより、単位電池101aのカソード極への空気(酸素)供給がより効率的に行なえるようになり、単位電池101aの発電効率を向上できるため、燃料電池スタック全体としての出力密度を向上させることができる。
なお、単位電池の湿潤状態が極度に低い場合には、電解質膜や触媒層中におけるイオン伝導度が低下し、出力特性が低下する傾向にある。したがって、第1の燃料電池層を構成する単位電池101aの燃料透過量は、単位電池周囲の水蒸気圧をある程度確保できる程度の適度な燃料透過量であることが好ましい。
また、単位電池101aの燃料透過量を比較的小さくすることにより、カソード極でのクロスオーバーした燃料と酸素との反応を抑制することができる。これにより、当該反応により生成する水Wdの低減およびカソード極での発電に寄与しない酸素消費の抑制を図ることができ、これによっても燃料電池スタックの出力密度が向上される。
また、単位電池101aのカソード極への空気(酸素)供給経路の閉塞および供給抵抗の悪化が効果的に改善されるため、空気を供給するポンプやブロア等の補機を用いないパッシブでの燃料電池スタックへの空気供給においても高い出力密度を実現することが可能となる。これにより、空気供給のための補機を必ずしも必要としなくなるため、補機の体積や消費電力を省くことができ、この点からも燃料電池スタックの出力密度向上が達成され得る。
また、単位電池101aの燃料透過量を比較的小さくすることにより、燃料の燃焼による発熱量が低減するため、燃料電池スタック内部の温度上昇を効果的に抑制することができる。過度な温度上昇を防ぐことができるため、単位電池101aの劣化を効果的に防止することができる。これにより、燃料電池スタックの耐久性を向上させることができる。また、燃料電池スタックの耐久性を向上させることができるとともに、電解質膜の液体燃料透過係数は温度の低下に従い小さくなることから、燃料電池スタック実使用時における単位電池101aの燃料透過量が低減され、燃料電池スタック出力密度のさらなる向上および燃料利用率の向上を図ることができる。
以上のような効果は、図1に示される燃料電池スタック100には勿論のこと、さらに高集積された燃料電池スタック(燃料電池層およびスペーサ層の積層数がさらに高次である燃料電池スタック)に極めて好適なものである。
また、図1に示される燃料電池スタック100および燃料電池層およびスペーサ層の積層数がさらに高次である燃料電池スタックは、そのスタック構造(単位電池およびスペーサを井桁型に配置した構造)に起因して、たとえば次のような利点を有する。
(i)燃料電池層およびスペーサ層がそれぞれ有する複数の隙間は3次元的に互いに連通し、空気の拡散性が良好であることから、燃料電池スタックの内部に位置する単位電池のカソード極にまで、効率よく空気を供給することができる。すなわち、燃料電池スタック内に入った空気を、連通した隙間を通して、燃料電池スタックの内部まで、自然対流または拡散によって効率的に供給させることができる。
(ii)燃料電池スタック内での空気の自然拡散性が良好である。発電に起因する熱によって温められた燃料電池スタック内の空気は、対流により、連通した隙間を通って、燃料電池スタック外部へ放出されるとともに、燃料電池スタックの側面や上下面から空気が効率的に吸入される。したがって、空気供給のためのエアポンプ、ファン等の補機を必ずしも必要とせず、このことは、燃料電池スタックを用いた燃料電池システムの小型化を可能とする。また、エアポンプ、ファン等の補機を用いる場合においても、燃料電池スタック内部まで空気を供給するために必要な風力を低減させることができる。このことは、補機の低消費電力化や小型化を可能とする。
本実施形態における燃料電池スタック100は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変形が施されてもよい。たとえば、燃料電池スタックが有する燃料電池層およびスペーサ層の数は特に制限されず、少なくとも2つの燃料電池層と少なくとも1つのスペーサ層とを有していればよい。また、燃料電池層とスペーサ層との積層順序も特に限定されるものではなく、たとえば、燃料電池層とスペーサ層とが無秩序な積層順序で積層されていてもよい。ただし、燃料電池スタック内に均一に空間を形成できる点および燃料電池スタックの機械的強度の均一化を図ることができる点などから、燃料電池層とスペーサ層とを交互に積層することが好ましい。また、燃料電池層内の単位電池の数およびスペーサ層内のスペーサの数も特に制限されず、それぞれ2以上、1以上あればよい。スペーサの数は、燃料電池スタック内部への空気の供給効率等に鑑みると、2以上とし、これらのスペーサを、同一平面内に、スペーサ間に隙間が形成されるように配置することが好ましい。
また、各燃料電池層およびスペーサ層が有する隙間の幅(隣り合う単位電池間および隣り合うスペーサ間の距離)は、すべて同じであってもよいし、いずれか1以上の隙間が異なる幅を有していてもよい。燃料電池層およびスペーサ層が有する隙間の幅(単位電池間の距離)は、たとえば0.2〜2mmとすることができる。
また、各単位電池およびスペーサの形状は、直方体形状に制限されるものではなく、たとえば、断面形状が円形や楕円形のものであってもよい。燃料電池スタックを構成するすべての単位電池は、同じ形状であってもよく、いずれか1以上の単位電池が異なる形状であってもよい。スペーサについても同様である。ただし、燃料電池層が有する隙間とスペーサ層が有する隙間とがスタック構造内部で3次元的に連通するように、かつ燃料電池スタックを安定性よく高強度に構築するためには、単位電池およびスペーサは、長辺と短辺を有する短冊形状を有していることが好ましく、直方体形状であることがより好ましい。また、すべての単位電池およびすべてのスペーサは、それぞれ同じ形状であることが製造コスト、歩留まりの点でより好ましい。
さらに、第1の燃料電池層101と第2の燃料電池層102とは、第1の燃料電池層101が有する単位電池101aの直上に、第2の燃料電池層102を構成する単位電池102aが配置されるように積層される必要は必ずしもなく、たとえば、第1の燃料電池層101が有する単位電池101aの直上に、第2の燃料電池層の単位電池間の隙間が配置されるように積層されてもよい。
本発明の燃料電池スタック(本実施形態および後述する他の実施形態に係る燃料電池スタックを含む)を構成する単位電池の燃料透過量は、大きすぎると単位電池の出力密度が低下し、燃料電池スタック全体の出力密度が低下することから、1.5μmol/cm2・s以下にすることが好ましい。
また、同じ燃料電池層を構成する単位電池間で燃料透過量を違えることも有効である。たとえば、本実施形態の燃料電池スタック100の第1の燃料電池層101および第2の燃料電池層102において、各燃料電池層内の中央に配置されている単位電池は、燃料電池層の両端に配置されている単位電池に比べて、発電時における環境温度が高くなる。これは、隣接する単位電池の数が多く、発電に伴う発熱の影響を受けやすいためである。そして、電解質膜に用いられる高分子膜は、温度上昇により燃料透過量が増大する傾向にある。したがって、各単位電池を均一に発電させるためには、中央に配置される単位電池の燃料透過量を、両端に配置される単位電池の燃料透過量よりも低くしておくことが好ましい。また、中央から両端に向かうに従い、次第に単位電池の燃料透過量が大きくなるようにすることも好ましい。また、中央に配置される単位電池に用いられる電解質膜として、燃料透過量が、他の単位電池に用いられる電解質膜に比べて、比較的低いことに加え、温度上昇による燃料透過量の増加量が比較的小さい電解質膜を用いることも好ましい。
また、本実施形態の燃料電池スタック100は、第1の燃料電池層101と第2の燃料電池層102との間にスペーサ層110を備えるが、これに限定されるものではなく、燃料電池層上に直接、他の燃料電池層が積層されていてもよい。この場合、第1の燃料電池層とこれに隣接する第2の燃料電池層とは、隣接して積層される単位電池同士が交差するように積層されることが好ましく、より好ましくは、直交または略直交するように積層される。
〔単位電池〕
次に、本実施形態の燃料電池スタックに好適に用いることができる単位電池のより具体的な構成について説明する。ここでは、本実施形態の燃料電池スタック100が備える単位電池101aおよび単位電池102aがともに有し得る共通的な単位電池構成について述べる。なお、本発明において「単位電池」とは、燃料電池スタックを構成する1ユニットであって、MEA(Membrane Electrode Assembly;膜電極複合体)と、発電機能の付与またはその他の目的のために、必要に応じてMEAに付加される他の構成部材とを備える構造体と定義される。他の構成部材としては、特に限定されず、たとえば、燃料を供給する燃料流路を付加するための燃料流路基板、空気を供給する空気流路を付加するための空気流路基板、アノード集電体、カソード集電体、セパレータなどが挙げられる。また、「MEA」とは、電解質膜とこれを挟持するアノード触媒層およびカソード触媒層とを少なくとも含む複合体と定義され、本発明においては、アノード触媒層上にアノード導電性多孔質層およびカソード触媒層上にカソード導電性多孔質層を備える場合も含まれる。また、「セパレータ」とは、燃料と酸化剤(空気など)とを分離する役割を果たす構成部材を意味する。なお、本発明において、「単位電池」は、上記MEAを備える単位電池構造体を2以上含んでいてもよい。
図2は、本実施形態の燃料電池スタックに用いられる単位電池の好ましい一例を示す概略断面図である。図2に示される単位電池200は、アノード極230、電解質膜201およびカソード極220をこの順で積層してなる。より具体的には、単位電池200は、電解質膜201;電解質膜201の一方の表面に配置されたアノード触媒層202;電解質膜201の他方の表面に配置されたカソード触媒層203;アノード触媒層202の電解質膜201に対向する面とは反対側の面に接して配置されたアノード導電性多孔質層204;カソード触媒層203の電解質膜201に対向する面とは反対側の面に接して配置されたカソード導電性多孔質層205;アノード導電性多孔質層204のアノード触媒層202に対向する面とは反対側の面に接して配置されたアノード集電体206;カソード導電性多孔質層205のカソード触媒層203に対向する面とは反対側の面に接して配置されたカソード集電体207;および、燃料輸送用の空間であり、単位電池200の長手方向と平行または略平行に延びる燃料流路209を形成する溝を一方の面に備える流路基板208;から主に構成されている。アノード集電体206は、燃料流路209内の燃料をアノード導電性多孔質層204側へ移動させることができるよう、燃料流路209の直上の位置に設けられた、厚み方向に貫通する貫通孔を有している。また、カソード集電体207は、単位電池外部から酸化剤(空気)をカソード導電性多孔質層205側へ取り込むことができるよう、厚み方向に貫通する貫通孔を有している。
単位電池200において、単位電池外部から燃料流路209の端部に供給された燃料(たとえばメタノール水溶液)は、燃料流路209を通って単位電池全面に供給され、アノード集電体206の貫通孔およびアノード導電性多孔質層204を通って、アノード触媒層202に供給される。一方、酸化剤(空気)は、大気中から、カソード集電体207の貫通孔およびカソード導電性多孔質層205を通じてカソード触媒層203に供給される。より具体的には、燃料電池スタックへ供給された酸化剤(空気)は、単位電池間およびスペーサ間に設けられた隙間を通って燃料電池スタックの内部にまで供給され、カソード集電体207の貫通孔およびカソード導電性多孔質層205が有する孔を通って、カソード触媒層203へと供給される。
燃料としては、メタノール水溶液およびメタノールに限定されるものではなく、分子構造の中に水素原子を含むその他の燃料を用いることができる。燃料とは、アノード触媒層に供給される還元剤である。具体的には、水素、DME(ジメチルエーテル)、メタン、ブタン、アンモニアなどの気体燃料;メタノール、エタノールなどのアルコール類、ジメトキシメタンなどのアセタール類、ギ酸などのカルボン酸類;ギ酸メチルなどのエステル類、ヒドラジン、もしくは亜硫酸、亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩、亜ジチオン酸塩、次亜リン酸、亜リン酸などの液体燃料;アスコルビン酸などの固体燃料を水に溶解させたものが例示できる。燃料は1種に限定されず、2種以上の混合物であってもよい。燃料のコストの低さや体積あたりのエネルギー密度の高さ、発電効率の高さ(過電圧の低さ)などの点から、メタノール水溶液およびメタノールが好ましく用いられる。また、酸化剤としては、酸素、過酸化水素、硝酸が例示できるが、酸化剤のコストなどの点から、空気(具体的には空気中の酸素)を用いることがより好ましい。なお、燃料濃度は、燃料電池スタックを構成する各単位電池の出力電流が平均的に最も高く得られる濃度、およびその付近とすることが好ましい。このような燃料濃度は、単位電池の燃料透過量の測定で述べた方法により決定することが可能である。
図2に示されるような直方体形状の単位電池において、その寸法は特に制限されないが、たとえば短辺長さを1〜3mm、長辺長さ30〜100mm、厚み0.5〜1mm程度とすることができる。
(アノード触媒層およびカソード触媒層)
アノード触媒層202は、燃料の酸化を促進する触媒を備える。該触媒上で燃料が酸化反応を起こすことにより、プロトンと電子が生成される。また、カソード触媒層203は、酸化剤の還元を促進する触媒を備える。該触媒上で酸化剤がプロトンと電子を取り込み還元反応が起きる。
上記アノード触媒層202およびカソード触媒層203としては、たとえば、触媒を担持した担持体と電解質とを含むものを用いることができる。この場合、アノード触媒層202におけるアノード触媒は、たとえばメタノールと水から、プロトンと電子とを生成する反応速度を促進させる機能を有し、電解質は、生成したプロトンを電解質膜201へ伝導する機能を有し、アノード担持体は、生成した電子をアノード導電性多孔質層204へ導電する機能を有する。一方、カソード触媒層203におけるカソード触媒は、酸素とプロトンと電子とから、水を生成する反応速度を促進する機能を有し、電解質は、電解質膜201からカソード触媒近傍にプロトンを伝導する機能を有し、カソード担持体は、カソード導電性多孔質層205からカソード触媒に電子を導電する機能を有する。なお、アノード担持体およびカソード担持体は、電子伝導の機能を有するが、触媒も電子伝導性を有するため、必ずしも担持体を設ける必要はなく、この場合、アノード導電性多孔質層204もしくはカソード導電性多孔質層205への電子授受は、それぞれアノード触媒、カソード触媒が行なう。
アノード触媒およびカソード触媒としては、たとえば、Pt、Ru、Au、Ag、Rh、Pd、Os、Irなどの貴金属;Ni、V、Ti、Co、Mo、Fe、Cu、Zn、Sn、W、Zrなどの卑金属;これら貴金属、卑金属の酸化物、炭化物および炭窒化物;ならびにカーボンが例示できる。これら材料の、単独もしくは2種類以上の組み合わせを触媒として用いることができる。アノード触媒およびカソード触媒は必ずしも同種類のものに限定されず、異なる物質が用いられてもよい。
アノード触媒層202およびカソード触媒層203に用いられる電解質は、プロトン伝導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材質であれば特に限定されないが、燃料、特にはメタノールによって溶解しない固体もしくはゲルであることが好ましい。具体的には、スルホン酸基、リン酸基などの強酸基やカルボキシル基などの弱酸基を有する有機高分子が好ましい。かかる有機高分子として、スルホン酸基含有パーフルオロカーボン(ナフィオン(NAFION(登録商標):デュポン社製))、カルボキシル基含有パーフルオロカーボン(フレミオン(登録商標:旭化成社製))、ポリスチレンスルホン酸共重合体、ポリビニルスルホン酸共重合体、イオン性液体(常温溶融塩)、スルホン化イミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)などが例示される。なお、後述するプロトン伝導性を付与した担持体を用いる場合には、該担持体がプロトン伝導を行なうため、必ずしも電解質は必要としない。これらの電解質は、担持体や触媒などの粉体を結着するバインダーとして機能することが好ましい。
アノード触媒層202およびカソード触媒層203に用いられる担持体は、電気伝導性の高い炭素系材料であることが好ましく、たとえば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、アモルファスカーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、活性炭などが例示される。これらの担持体は、表面積が高いことが好ましく、一般的に微細な粉体状のものが用いられる。また炭素系材料の他に、Pt、Ru、Au、Ag、Rh、Pd、Os、Irなどの貴金属;Ni、V、Ti、Co、Mo、Fe、Cu、Zn、Sn、W、Zrなどの卑金属;ならびにこれら貴金属、卑金属の酸化物、炭化物、窒化物および炭窒化物が例示できる。これら材料の、単独もしくは2種類以上の組み合わせを担持体として用いることができる。また、担持体にプロトン伝導性を付与した材料、具体的には硫酸化ジルコニア、リン酸ジルコニウムなどを用いてもよい。
アノード触媒層202およびカソード触媒層203の厚みは、プロトン伝導の抵抗および電子伝導の抵抗を小さくし、還元剤(燃料)および酸化剤の拡散抵抗を低減するために、それぞれ0.5mm以下とすることが好ましい。また、電池としての出力を向上させるために十分な触媒を担持させる必要があるため、それぞれ少なくとも0.1μm以上であることが好ましい。
(電解質膜)
電解質膜201は、プロトン伝導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材質であれば特に限定されないが、好ましくは従来公知の適宜の高分子膜、無機膜またはコンポジット膜にて形成される。高分子膜としては、たとえばパーフルオロスルホン酸系電解質膜(ナフィオン(デュポン社製)、ダウ膜(ダウ・ケミカル社製)、アシプレックス(ACIPLEX(登録商標):旭化成社製)、フレミオン(旭硝子社製)などのほか、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンなどの炭化水素系電解質膜などが挙げられる。無機膜としては、たとえばリン酸ガラス、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。また、コンポジット膜としては、たとえばゴアセレクト膜(ゴアセレクト(登録商標):ゴア社製)が挙げられる。
燃料電池スタックがその使用環境において100℃付近もしくはそれ以上の温度になる場合には、電解質膜の材料として、低含水時でも高いイオン伝導性を有する、スルホン化ポリイミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、ホスホン化ポリベンゾイミダゾール、硫酸水素セシウム、ポリリン酸アンモニウム、イオン性液体(常温溶融塩)等からなる膜を用いることもできる。電解質膜は、プロトン伝導率が10-5S/cm以上であることが好ましく、パーフルオロスルホン酸ポリマーや炭化水素系ポリマーなどのプロトン伝導率が10-3S/cm以上の高分子電解質膜を用いることがより好ましい。
(アノード導電性多孔質層)
アノード導電性多孔質層204は、アノード触媒層202と電子の授受を行なう機能を有する。アノード導電性多孔質層204としては、カーボン材料;導電性高分子;Au、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cr、Ag、Cu、Zn、Su等の金属;Si;これらの貴金属、金属、Siの窒化物、炭化物および炭窒化物;ならびにステンレス、Cu−Cr、Ni−Cr、Ti−Pt等の合金などからなる多孔質材料を用いることが好ましく、Pt、Ti、Au、Ag、Cu、Ni、Wからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含むことがより好ましい。また、Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pd等の耐腐食性を有する貴金属および金属材質や、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性炭窒化物、導電性酸化物等を表面コーティングとして用いることができる。これにより、単位電池の寿命を延ばすことができる。上記の元素を含むことにより、アノード導電性多孔質層204の比抵抗が小さくなるため、アノード導電性多孔質層204の抵抗による電圧低下を軽減し、より高い発電特性を得ることが可能となる。より具体的には、アノード導電性多孔質層204として、たとえば、上記貴金属、金属または合金からなる発泡金属、金属織物および金属焼結体;ならびにカーボンペーパー、カーボンクロスなどを好適に用いることができる。
(カソード導電性多孔質層)
カソード導電性多孔質層205は、カソード触媒層203と電子の授受を行なう機能を有し、単位電池の外部とカソード触媒層203とを連通する孔を有する。一般的に、単位電池の発電時においては、アノード導電性多孔質層204よりもカソード導電性多孔質層205は高い電位に保たれるため、カソード導電性多孔質層205の材質は、アノード導電性多孔質層204と同等か、それ以上に耐腐食性に優れていることが好ましい。
カソード導電性多孔質層205の材質は、アノード導電性多孔質層204と同様の材質とされてもよいが、特に、たとえば、カーボン材料;導電性高分子;Au、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Cr等の金属;これらの貴金属、金属の窒化物、炭化物等;ならびにステンレス、Cu−Cr、Ni−Cr、Ti−Ptの合金等を用いることが好ましい。また、Cu、Ag、Zn、Ni等の酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、耐腐食性を有する貴金属および金属材質や、導電性高分子、導電性酸化物、導電性窒化物、導電性炭化物等、導電性炭窒化物を表面コーティングとして用いることができる。より具体的には、カソード導電性多孔質層205として、たとえば、上記貴金属、金属または合金からなる発泡金属、金属織物および金属焼結体;ならびにカーボンペーパー、カーボンクロスなどを好適に用いることができる。
カソード導電性多孔質層205の空隙率は、酸化剤の拡散抵抗を低減させるために30%以上が好ましく、電気抵抗を低減させるために95%以下が好ましく、50%〜85%であることがより好ましい。カソード導電性多孔質層205の厚みは、カソード導電性多孔質層205の厚み方向に対して垂直方向への酸化剤の拡散抵抗を低減させるために10μm以上であることが好ましく、カソード導電性多孔質層205の厚み方向への酸化剤の拡散抵抗を低減させるために1mm以下であることが好ましく、100μm〜500μmであることがより好ましい。
(アノード集電体)
アノード集電体206は、電子取り出し電極に相当し、アノード導電性多孔質層204と電子の授受を行なう機能を有する。アノード集電体は、その長さ方向(面内方向)に電流を流すため、電子伝導の距離がアノード導電性多孔質層と比較して長くなる。したがって、導電性の良い材料を用いることが好ましい。アノード集電体の必要性は、アノード導電性多孔質層の導電性によって左右され、アノード導電性多孔質層が、たとえばカーボン材料、導電性高分子等であり導電性が比較的低い場合には、アノード集電体を設けることで導電性を向上させることができる。逆に、アノード導電性多孔質層が、たとえば金属等であり、導電性が比較的高い場合には、アノード集電体は省略されてもよい。
アノード集電体206の材質は、電圧降下を抑制するため電子伝導抵抗の低いAu、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cr、Ag、Cu、Zn、Su等の金属;Si;これら貴金属、金属、Siの窒化物、炭化物等;および、ステンレス、Cu−Cr、Ni−Cr、Ti−Pt等の合金などを用いることが好ましく、Pt、Ti、Au、Ag、Cu、Ni、Wからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含むことがより好ましい。また、Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pd等の耐腐食性を有する貴金属および金属材質や、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性酸化物等を表面コーティングとして用いることができる。
アノード集電体206の形状は、燃料流路209内の燃料をアノード導電性多孔質層204側に移動させるための厚み方向に貫通する貫通孔を有している限り特に制限はないが、たとえば、上記金属材料などからなるメッシュ形状、パンチングメタル形状などのような、厚み方向に貫通する貫通孔を複数備える平板構造のものを好適に用いることができる。なお、この貫通孔は、アノード触媒層202で生成したガス(二酸化炭素ガス等)を燃料流路209へ誘導する排出孔としても機能する。
(カソード集電体)
カソード集電体207は、電子供給電極に相当し、カソード導電性多孔質層と電子の授受を行なう機能を有する。カソード集電体は、その長さ方向(面内方向)に電流を流し、電子伝導の距離がカソード導電性多孔質層と比較して長くなるため、導電性の良い材料を用いることが好ましい。カソード集電体の必要性は、カソード導電性多孔質層の導電性によって左右され、カソード導電性多孔質層が、たとえばカーボン材料、導電性高分子等であり導電性が比較的低い場合には、カソード集電体を設けることで導電性を向上させることができる。逆に、カソード導電性多孔質層が、たとえば金属等であり、導電性が比較的高い場合には、カソード集電体は省略されてもよい。
カソード集電体207の材質は、アノード集電体と同様の材質とされてもよいが、たとえば、Au、Pt、Pd等の貴金属、Ti、Ta、W、Nb、Cr等の金属;およびこれら貴金属、金属の窒化物、炭化物等;ステンレス、Cu−Cr、Ni−Cr、Ti−Ptの合金等を用いることが好ましい。また、Cu、Ag、Zn、Ni等の酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、耐腐食性を有する貴金属および金属材質や、導電性高分子、導電性酸化物、導電性窒化物、導電性炭化物等を表面コーティングとして用いることができる。
カソード集電体の形状は、酸化剤(典型的には、カソード集電体外部の空気)をカソード導電性多孔質層やカソード触媒層まで供給することが可能な貫通孔を有していれば特に限定はないが、たとえば、上記金属材料などからなるメッシュ形状、パンチングメタル形状などのような、厚み方向に貫通する貫通孔を複数備える平板構造のものを好適に用いることができる。カソード集電体の空隙率は、酸化剤の拡散抵抗を低減させるために30%以上が好ましく、電気抵抗を低減させるために95%以下が好ましく、50%〜85%であることがより好ましい。
(流路基板)
流路基板208は、アノード触媒層202に燃料を供給する機能を有する部材であり、燃料流路209を有している。燃料流路は、流路基板におけるアノード集電体側の面に形成された、単位電池の長手方向に延びる(より具体的には、単位電池の長辺と平行または略平行に延びる)1または2以上の溝、および、サーペンタイン状に形成された溝として構成することができる。燃料流路の断面形状は特に制限されず、たとえば図3に示されるような四角形状のほか、曲面を有する形状(たとえば円形状、楕円形状等)であってもよい。燃料流路を構成する溝は、流路基板をアノード集電体に接合した際に、燃料流路がアノード集電体に形成された貫通孔の直下に配置されるような位置に形成される。
流路基板の材質は、アクリル、ABS、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリエーテルエーテルケトン、テフロン等の高分子材料(プラスチック材料);銅、ステンレス、チタン等の金属材料を用いることができる。特に、流路基板の材質には金属材料を用いることが好ましく、さらには、ステンレスやチタン等の耐腐食性金属材料を用いることがより好ましい。これは、流路基板の材質を金属材料にすることにより、アノード触媒層からの電子を集電する効果が付与され、MEAの内部抵抗を低下させ、出力の低下を抑制できるためである。また、耐腐食性金属材料を用いることにより、流路基板からの金属イオンの溶出が抑制され、MEAへのイオン交換を抑制できるため、同様にMEAの内部抵抗の低下を抑制でき、これにより、出力低下を抑制できる。
(シール層)
図2に示されるように、アノード導電性多孔質層204、アノード触媒層202、電解質膜201、カソード触媒層203およびカソード導電性多孔質層205の端面に、燃料の漏洩等の防止のため、たとえばエポキシ樹脂系の熱硬化性接着剤の硬化物などからなるシール層210に設け、該端面を封止しておくことが好ましい。このようなシール層を設けることにより、該端面からの燃料漏洩を防止できるとともに、アノード集電体との接着性を向上させることができる。
シール層の形成に用いる接着剤は、上記のものに限定されるものではないが、耐酸性、耐メタノール性(耐薬品性)などの点からエポキシ樹脂系接着剤が好ましく用いられる。また、100℃程度以下の比較的低温で熱硬化性を示すことが、MEAの溶解、分解、触媒の凝集による劣化を防ぐ点で好ましい。また、用いる接着剤は、室温保管中に硬化しないよう、その反応開始温度は60℃以上であることが好ましい。
以上説明したような構成部材を積層一体化することにより、単位電池を作製することができる。一体化の方法としては、たとえば、熱圧着、拡散接合などが好適である。上記一体化により、単位電池の各構成部材は、外部から圧力を加えなくとも分離しない程度に互いに接合されていることが好ましい。これにより、単位電池を構成する隣接する構成部材同士の密接な接触が確保され、隣接する構成部材間での良好な電子または物質の輸送を行なうことが可能となることから、単位電池の構成部材を締結するための部材が必要でなくなる。このことは、単位電池の小型化を可能とする。たとえば、各構成部材は、化学結合、アンカー効果、粘着力等により接合されていることが好ましい。
図3は、本実施形態の燃料電池スタックに用いられる単位電池の別の好ましい一例を示す概略断面図である。図3に示される単位電池300は、アノード導電性多孔質層204とアノード集電体206との間に配置され、アノード集電体206の貫通孔を覆うように形成された透過制御層301を備えていること以外は、図2に示される単位電池200と同じである。透過制御層301は、燃料流路209からアノード触媒層202へ供給される燃料の流量を制御するための層である。透過制御層は、単位電池内に形成された燃料流路全体の直上に設けられてもよいし、その一部の直上にのみ設けられてもよい。
透過制御層は、その厚さ方向に燃料の拡散抵抗を有し、燃料の透過流束を抑制する機能を有し、さらに気体を透過しない材料からなることがより好ましい。透過制御層は、その厚さ方向に貫通した微細孔を設けることにより燃料の透過機能を有していてもよい。燃料がメタノール水溶液の場合、透過制御層は、高分子膜、無機膜またはコンポジット膜にて形成されることが好ましい。高分子膜としては、たとえばシリコンゴム、パーフルオロスルホン酸系電解質膜(ナフィオン(デュポン社製)、ダウ膜(ダウ・ケミカル社製)、アシプレックス(旭化成社製)、フレミオン(旭硝子社製))やスルホン化ポリイミド、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンなどの炭化水素系電解質膜などが例示できる。無機膜としては、たとえば多孔質ガラス、多孔質ジルコニア、多孔質アルミナなどが例示できる。コンポジット膜としては、たとえばゴアセレクト膜(ゴア社製)が例示できる。また、貫通した微細孔を有する透過制御層として、感光性樹脂によって作製された透過制御層が例示できる。紫外線もしくはX線によって重合、硬化する感光性樹脂を用い、紫外線もしくはX線不透過性のマスクを利用して、層厚方向に円柱形の貫通孔、もしくはスリット状の貫通孔を設けることができる。
〔単位電池の燃料透過量の制御〕
次に、本実施形態の燃料電池スタック100に用いられる単位電池101aおよび単位電池102aの燃料透過量の制御手段について説明する。上記したように、第1の燃料電池層101を構成する単位電池101aには、最上層である第2の燃料電池層102を構成する単位電池102aと比較して、上記した燃料透過量がより低い単位電池が用いられている。このように、単位電池のアノード極側からカソード極側への燃料透過量に差異を生じさせる手段としては、たとえば、次のような方法が挙げられる。
(A)電解質膜の種類を変える。具体的には、電解質膜を構成する材料、電解質膜の厚み等を変えることが挙げられる。たとえば、高分子の分子構造が三次元ネットワークを有し、燃料により膨潤し難い電解質膜材料を用いることにより、燃料透過量を抑えることができる。また、三次元ネットワークを有する高分子材料において、三次元結合接点の数をより密にし、より硬く、より膨潤し難い物性を付与することにより、燃料透過量をさらに抑えることができる。また、電解質膜に燃料が透過する経路が存在する場合、経路の径を小さくすることで燃料透過量を抑えることができる。たとえば、ナフィオンのような直鎖状スルホン酸基含有パーフルオロカーボン電解質膜は、三次元ネットワークを有するポリアリーレン系スルホン酸基含有炭化水素電解質膜およびスルホン酸基含有ポリイミド電解質膜と比較して、同じ厚みで、スルホン酸基含有パーフルオロカーボン電解質膜の方が燃料透過量が高い傾向にある。また、電解質膜の膜厚を厚くすると、燃料透過量は減少する。材料が同じで、膜厚のみが異なる電解質膜としては、たとえば、「ナフィオン117」(膜厚175μm)、「ナフィオン115」(膜厚125μm)、「ナフィオン112」(膜厚50μm)〔いずれもデュポン社製〕などがある。
(B)透過制御層(図3参照)の構成を変える。具体的には、透過制御層の材料、単位電池内における透過制御層の設置面積等を変えることが挙げられる。また、燃料透過量を高くする単位電池(単位電池102a)には透過制御層を設けず、燃料透過量を低くする単位電池(単位電池101a)にのみ透過制御層を設けることもできる。
(C)アノード導電性多孔質層の多孔性を変える。具体的には、アノード導電性多孔質層の空隙率や細孔径等を変えることが挙げられる。たとえば、アノード導電性多孔質層には、上記したように、カーボン繊維の織物であるカーボンクロスや不織布であるカーボンペーパーなどを用いることができるが、これらは一般的に80〜90%の空隙率、200μm程度の細孔径を有する。かかるアノード導電性多孔質層内に、炭素粒子およびPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の高分子の混合物からなる数μm以下の微細径を有する多孔質体(マイクロポーラス)を形成することにより、たとえば、空隙率60%程度、細孔径5μm程度のアノード導電性多孔質層を得ることができる。空隙率や細孔径を小さくすることにより、燃料透過量を小さくすることができる。アノード導電性多孔質層内への多孔質体の形成は、カーボンとPTFE等の樹脂とからなる混合物を、溶媒を使用してペースト状とし、これをアノード導電性多孔質層内に充填して溶媒を乾燥することで形成できる。また、溶媒を用いず、カーボンと樹脂との混合物をアノード導電性多孔質層内に圧縮し、熱圧着で形成することもできる。樹脂は炭素粉末間のバインダーとして機能する。
(D)アノード触媒層の多孔性を変える。具体的には、アノード触媒層の空隙率や細孔径等を、触媒担持体の構造(たとえば、担持体の粒径)、触媒粒子径、電解質の含有率等を変えることが挙げられる。担持体は前述した通り、カーボン(炭素体)から構成されるものが一般的である。カーボンには粉体、ワイヤー構造など様々な形状があり、それらを適時用いることで、アノード触媒層の空隙率や細孔径を変えることができる。また、触媒や担持体を結着するバインダーとしての電解質の量と、触媒や担持体(カーボン)の量との比率を変えることにより、アノード触媒層の空隙率や細孔径を変えることができる。電解質の量を多くするほど、空隙率および細孔径を小さくすることができる。
また、上記のほか、単位電池の燃料透過量を制御する手段としては、(E)単位電池の流路基板に供給する燃料の流量速度を変える、(F)流路基板に形成する燃料流路の径(幅および/または高さ)を変える、(G)単位電池に供給する燃料の濃度を変える、などが挙げられる。燃料の流量速度を遅くするほど、燃料流路の径を小さくするほど、また、燃料濃度(たとえば、メタノール水溶液中のメタノール濃度)を低くするほど、燃料透過量を小さくすることができる。また、燃料を各単位電池に順々に供給する場合、最後に供給される単位電池の燃料濃度は最初に供給される単位電池の燃料濃度に比べて、発電による燃料の消費により濃度が低くなるため、各単位電池への燃料の供給順序を変えることで、各単位電池へ供給する燃料濃度を変えることができる。
〔スペーサおよびスペーサ層〕
次に、燃料電池層間に配置されるスペーサ層およびスペーサについてさらに詳細に説明する。図1に示されるスペーサ層110は、第1の燃料電池層101と第2の燃料電池層102との間に配置された層である。このようなスペーサ層を燃料電池層間に介在させることにより、燃料電池スタック内に多くの空間を作り出すことができ、これにより、燃料電池スタック内部への酸化剤(空気)供給効率を向上させることができる。本発明において、「スペーサ層」とは、燃料電池スタック内に空間を作り出す役割を果たす層と定義される。「スペーサ」とは、スペーサ層を構成する部材を意味する。スペーサ層は、1または2以上のスペーサを同一平面上に配置してなる。
スペーサ層は、燃料電池スタック内部の空間率向上の観点から、図2に示されるスペーサ層110のように、2以上のスペーサを同一平面上に、隣り合うスペーサ間に隙間が形成されるように、離間して配置することが好ましい。これにより、スペーサ層自体に空間(隙間)が形成され、該スペーサ層の空間によって、燃料電池スタック内の空間を3次元的に連通させることが可能となる。
スペーサの形状は、特に限定されるものではないが、上記したように、長辺と短辺を有する短冊形状とすることが好ましく、より好ましくは直方体形状である。この場合、スペーサ層は、好ましくは、2以上のスペーサを同一平面上に、その長辺同士が対向するように、かつ、隣り合うスペーサ間に隙間が形成されるように、平行または略平行に離間して配置してなる。燃料電池層を構成する単位電池の形状を短冊形状、好ましくは直方体形状とし、かつスペーサの形状を短冊形状、好ましくは直方体形状とすることにより、内部の空間率が高い燃料電池スタックを構築することが可能になるとともに、構造的安定性および強度に優れる燃料電池スタックを構築することができる。また、スペーサに燃料電池層間の電気的接続機能を付与している場合には、スペーサとこれに隣接する燃料電池層の単位電池とを面同士で接触させることができるため、電気的な接触抵抗を低減させることができる。上記したように、スペーサ層とこれに隣接する燃料電池層とは、燃料電池層が有する単位電池と、スペーサ層が有するスペーサとが交差するように積層され、好ましくは、直交または略直交するように積層される(図1参照)。
また、スペーサ層は、短冊状の複数のスペーサの端部が繋がった櫛型形状のスペーサから構成されていてもよい。この場合、各短冊状のスペーサの間隔は、あらかじめ所定値に固定されているため、燃料電池スタックを構築する際、各スペーサの間隔を調整する必要が無く、また部品点数が少なくなる点で、取り扱いが容易となり、量産性が向上する。
スペーサが長辺と短辺とを有する短冊形状(特には直方体形状)を有している場合において、スペーサの幅(短辺の長さ)は、特に限定されないが、燃料電池スタックの強度を保つために、0.5mm以上が好ましく、燃料電池スタック内部への酸化剤供給効率の観点から、5mm以下であることが好ましい。スペーサの厚み(スペーサ層の厚み)は、たとえば短辺長さを1〜3mm、長辺長さ30〜100mm、厚み0.5〜1mm程度の直方体形状の単位電池を用いる場合、燃料電池スタック内部への酸化剤供給効率の観点から、0.1mm以上が好ましく、燃料電池スタックの大型化を防ぐために、5mm以下であることが好ましい。スペーサの厚み(スペーサ層の厚み)は、0.2mm〜1mmの範囲であることがより好ましい。
スペーサを構成する材料は、燃料電池スタックに外力が加わっても燃料電池層間の空間部を確保できる程度の強度を有するものであることが好ましく、また導電性材料から構成されることがより好ましい。導電性材料を用いることによって、他に外部配線を用いることなく、燃料電池層同士を直列接続することができるため、燃料電池スタックの小型化に有利となる。スペーサを構成する導電性材料としては、たとえば、カーボン材料;導電性高分子;Au、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cr、Ag、Cu、Zn、Su等の金属;Si;これら貴金属、金属またはSiの窒化物、炭化物、炭窒化物等;ならびに、ステンレス、Cu−Cr、Ni−Cr、Ti−Pt等の合金等を挙げることができる。より好ましくは、Pt、Ti、Au、Ag、Cu、NiおよびWからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む。かかる元素を含むことにより、スペーサの比抵抗が小さくなるため、スペーサの抵抗による電圧低下を軽減し、より高い発電特性を得ることが可能となる。Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pd等の耐腐食性を有する貴金属および金属材質や、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性炭窒化物、導電性酸化物等を表面コーティングとして用いることができる。
また、スペーサは、多孔質体から構成されることが好ましい。これにより、燃料電池スタック内部の空隙率をさらに向上させることができる。すなわち、多孔質体からなるスペーサを用いることにより、酸化剤がスペーサ内部を通過することが可能となるため、燃料電池スタック内部での酸化剤供給効率をさらに向上させることができる。スペーサを構成する多孔質材料としては、たとえば、ポリイミド、PVDF、PTFE、PEEK(登録商標)などの耐酸性、耐薬品性に優れた高分子が好ましく、また、ポリアニリン、ポリチオフェンなどの導電性高分子等も挙げられる。さらに、耐酸性、耐薬品性の点で、酸化チタン、シリカ、酸化ジルコニアなどの金属酸化物が好ましく、さらに耐酸性、耐薬品性と電子伝導性の点でAu、Ptなどの貴金属や、耐腐食性のステンレス、チタンなどの表面に不動態を形成する金属、炭素等が好ましく挙げられる。上記の材料の内、一つ以上から形成されることが好ましい。スペーサは、メッシュ状や、不織布状、発泡体、焼結体、それらの二つ以上からなる混合体などから構成されていてもよい。
スペーサとこれに隣接する単位電池との接合(スペーサ層と燃料電池層との接合)は、たとえば、熱圧着、拡散接合、あるいは導電性接着剤を用いた接着などが好適である。なお、燃料電池スタックがスペーサ層を有さず、燃料電池層上に直接、他の燃料電池層が積層される場合においても同様の接合方法を採用することができる。
<第2の実施形態>
図4は、本発明の燃料電池スタックの別の好ましい一例を模式的に示す斜視図である。図4に示される燃料電池スタック400は、長辺と短辺を有する5つの短冊状の単位電池401aを、同一平面上に、各単位電池401aの間に隙間が形成されるように配置してなる第1の燃料電池層401と、長辺と短辺を有する5つの短冊状のスペーサ410aを、同一平面上に、各スペーサ410aの間に隙間が形成されるように配置してなる第1のスペーサ層410と、長辺と短辺を有する5つの短冊状の単位電池402aを、同一平面上に、各単位電池402aの間に隙間が形成されるように配置してなる第2の燃料電池層402と、長辺と短辺を有する5つの短冊状のスペーサ411aを、同一平面上に、各スペーサ411aの間に隙間が形成されるように配置してなる第2のスペーサ層411と、長辺と短辺を有する5つの短冊状の単位電池403aを、同一平面上に、各単位電池403aの間に隙間が形成されるように配置してなる第3の燃料電池層403と、をこの順で積層してなる。このように、単位電池およびスペーサを井桁型に積層させることによって、第1の燃料電池層401、第2の燃料電池層402、第3の燃料電池層403、第1のスペーサ層410および第2のスペーサ層411が有する隙間は3次元的に連通することとなる。
本実施形態の燃料電池スタック400において、すべての単位電池におけるアノード極、電解質膜およびカソード極の積層順序は同じである。すなわち、第1の燃料電池層401を構成する単位電池401aはすべて、そのカソード極側が第1のスペーサ層410(あるいは第2の燃料電池層402ともいえる)に対向するように配置され、第2の燃料電池層402を構成する単位電池402aはすべて、そのカソード極側が第2のスペーサ層411(あるいは第3の燃料電池層403ともいえる)に対向するように配置される。また、第3の燃料電池層403を構成する単位電池403aはすべて、そのカソード極側が、燃料電池スタック400の外部に向けられるように(そのアノード極側が第2のスペーサ層411に対向するように)配置される。本実施形態の燃料電池スタック400における最外燃料電池層は、第1の燃料電池層401および第3の燃料電池層403であり、上記第1の実施形態と同様、図4を参照して、第3の燃料電池層403を最上層の燃料電池層、第1の燃料電池層401を最下層の燃料電池層と称する。
ここで、本実施形態の燃料電池スタック400においては、中央に位置する第2の燃料電池層402を構成する単位電池402aには、最下層である第1の燃料電池層401を構成する単位電池401aと比較して、上記した燃料透過量がより低い単位電池を用いており、かつ、第1の燃料電池層401を構成する単位電池401aには、最上層である第3の燃料電池層403を構成する単位電池403aと比較して、上記した燃料透過量がより低い単位電池を用いている。すなわち、本実施形態の燃料電池スタック400は、単位電池の燃料透過量に関し、下記式(1)を満たす。
第2の燃料電池層402を構成する単位電池402aの燃料透過量<第1の燃料電池層401を構成する単位電池401aの燃料透過量<第3の燃料電池層403を構成する単位電池403aの燃料透過量 (1)
本実施形態のような3層の燃料電池層を用いた燃料電池スタックにおいては、中央の燃料電池層>最下層の燃料電池層>最上層の燃料電池層の順で、単位電池のカソード極周辺の水蒸気圧が高くなる傾向にある。これは、燃料電池スタックの発電時において、この順で単位電池の環境温度が高くなり、したがってこの順で、アノード極側からカソード側へのクロスオーバー量が大きくなるためである。上記式(1)に示される順に燃料透過量を調整することにより、カソード極側で発生する水(Wa)の量を、燃料電池層の配置位置に応じて適切な程度まで抑制することができ、また、単位電池周囲の水蒸気圧を、燃料電池層の配置位置に応じた適度な値に調整することが可能となり、その結果、燃料電池スタック全体としての出力密度を向上させることができる。その他、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
燃料電池スタックのその他の構成(たとえば、燃料電池層内における単位電池の配置、スペーサ層内におけるスペーサの配置、単位電池およびスペーサの外形形状、構造および材質など)ならびに単位電池の燃料透過量の制御手段は、上記第1の実施形態と同様とすることができる。また、上記第1の実施形態で示した変形例は、本実施形態についても同様に適用することができる。
<第3の実施形態>
図5は、本発明の燃料電池スタックの別の好ましい一例を模式的に示す斜視図である。図5に示される燃料電池スタック500は、燃料電池層を構成する単位電池の構造に特徴を有している。燃料電池スタック500は、長辺と短辺を有する5つの短冊状の単位電池501aを、同一平面上に、各単位電池501aの間に隙間が形成されるように配置してなる第1の燃料電池層501と、長辺と短辺を有する5つの短冊状のスペーサ510aを、同一平面上に、各スペーサ510aの間に隙間が形成されるように配置してなるスペーサ層510と、長辺と短辺を有する5つの短冊状の単位電池502aを、同一平面上に、各単位電池502aの間に隙間が形成されるように配置してなる第2の燃料電池層502と、をこの順で積層してなる。第1の燃料電池層501とこれに隣接するスペーサ層510とは、第1の燃料電池層501が有する単位電池501aと、スペーサ層510が有するスペーサ510aとが交差するように積層され、好ましくは、直交または略直交するように積層される。スペーサ層510とこれに隣接する第2の燃料電池層502との積層についても同様である。
燃料電池スタック500に用いられている単位電池501aおよび単位電池502aは、上記第1の実施形態と同様、長辺と短辺を有する短冊形状、より具体的には直方体形状である。第1の燃料電池層501および第2の燃料電池層502において、5つの単位電池501a、5つの単位電池502aはそれぞれ、同一平面上に、その長辺同士が対向するように、かつ、隣り合う単位電池間に隙間が形成されるように、平行または略平行に離間して配置されている。同様に、燃料電池スタック500に用いられているスペーサ510aは、長辺と短辺を有する短冊形状、より具体的には直方体形状である。スペーサ層510において、5つのスペーサ510aは、同一平面上に、その長辺同士が対向するように、かつ、隣り合うスペーサ間に隙間が形成されるように、平行または略平行に離間して配置されている。
図6は、本実施形態の燃料電池スタックに用いられる単位電池の好ましい一例を示す概略断面図であり、単位電池501aおよび単位電池502aの構造を示す概略断面図である。図6に示されるように、燃料電池スタック500を構成する単位電池501aおよび単位電池502aは、燃料流路609を備える流路基板608の上面および下面に単位電池構造体が形成された構造を有している。より具体的に説明すると、単位電池501aおよび単位電池502aは、第1のカソード極620a、第1の電解質膜601a、アノード極630、第2の電解質膜601bおよび第2のカソード極620bをこの順で積層してなる。第1のカソード極620aは、第1のカソード集電体607a、第1のカソード導電性多孔質層605aおよび第1のカソード触媒層603aをこの順で積層してなり、同様に、第2のカソード極620bは、第2のカソード触媒層603b、第2のカソード導電性多孔質層605bおよび第2のカソード集電体607bをこの順で積層してなる。また、アノード極630は、第1のアノード触媒層602a、第1のアノード導電性多孔質層604a、第1のアノード集電体606a、流路基板608、第2のアノード集電体606b、第2のアノード導電性多孔質層604bおよび第2のアノード触媒層602bをこの順で積層してなる。流路基板608の下側に形成された単位電池構造体(第1の単位電池構造体)のアノード極(第1のアノード極)は、第1のアノード触媒層602a、第1のアノード導電性多孔質層604aおよび第1のアノード集電体606aを有し、流路基板608の上側に形成された単位電池構造体(第2の単位電池構造体)のアノード極(第2のアノード極)は、第2のアノード集電体606b、第2のアノード導電性多孔質層604bおよび第2のアノード触媒層602bを有する。第1のアノード極と第2のアノード極とは、これらアノード極を構成する一部材として燃料流路609を備える流路基板608を共有している。本実施形態において、燃料流路609は、流路基板608を厚み方向に貫通する貫通穴とすることができる。なお、第1の燃料電池層501および第2の燃料電池層502は、ともに上記で定義した最外燃料電池層である。
このように、燃料電池スタック500が備える単位電池501aおよび単位電池502aは、その構成部材の積層方向の両端にカソード極(第1のカソード極および第2のカソード極)が配置される構成となっている。燃料電池スタック500を構成するすべての単位電池において、これを構成する部材の積層順序は同じであり、図5を参照して、下から上に第1のカソード極620a、第1の電解質膜601a、第1のアノード極、第2のアノード極(アノード極630)、第2の電解質膜601bおよび第2のカソード極620bの順で積層されている。
第1の単位電池構造体を構成する第1のアノード導電性多孔質層604a、第1のアノード触媒層602a、第1の電解質膜601a、第1のカソード触媒層603aおよび第1のカソード導電性多孔質層605aの端面、ならびに、第2の単位電池構造体を構成する第2のアノード導電性多孔質層604b、第2のアノード触媒層602b、第2の電解質膜601b、第2のカソード触媒層603bおよび第2のカソード導電性多孔質層605bの端面には、燃料の漏洩等の防止のため、好ましくはシール層610が設けられる。
このような流路基板の両側に単位電池構造体を備える単位電池501aおよび単位電池502aにおいて、単位電池外部から燃料流路609の端部に供給された燃料は、燃料流路609を通って各単位電池構造体全面に供給され、第1アノード集電体606aの貫通孔および第1のアノード導電性多孔質層604aを通って、第1のアノード触媒層602aに供給されるとともに、第2アノード集電体606bの貫通孔および第2のアノード導電性多孔質層604bを通って、第2のアノード触媒層602bに供給される。一方、酸化剤(空気)は、大気中から、第1のカソード集電体607aの貫通孔および第1のカソード導電性多孔質層605aを通じて第1のカソード触媒層603aに供給されるとともに、第2のカソード集電体607bの貫通孔および第2のカソード導電性多孔質層605bを通じて第2のカソード触媒層603bに供給される。
ここで、本実施形態の燃料電池スタック500において、第1の燃料電池層501を構成する単位電池501aには、第1のアノード極側から第1のカソード極620a側への燃料透過量が、第2のアノード極側から第2のカソード極620bへの燃料透過量より大きい単位電池を用いている。また、第2の燃料電池層502を構成する単位電池502aには、第1のアノード極側から第1のカソード極620a側への燃料透過量が、第2のアノード極側から第2のカソード極620bへの燃料透過量より小さい単位電池を用いている。すなわち、カソード極が燃料電池スタック内部に向けられている単位電池構造体の燃料透過量を、カソード極が燃料電池スタック外部に向けられている単位電池構造体の燃料透過量より小さくしている。これにより、流路基板の両側に単位電池構造体を備える単位電池を用いた場合でも、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
燃料電池スタックのその他の構成(たとえば、燃料電池層内における単位電池の配置、スペーサ層内におけるスペーサの配置、単位電池およびスペーサの外形形状、構造および材質など)ならびに単位電池構造体の燃料透過量の制御手段は、上記第1の実施形態と同様とすることができる(たとえば、電解質膜の種類を変えるなど)。また、上記第1の実施形態で示した変形例は、本実施形態についても同様に適用することができる。
たとえば、本実施形態の燃料電池スタック500において、第1の燃料電池層501を構成するいずれかの単位電池501aと他のいずれかの単位電池501aとが、異なる第1のアノード極側から第1のカソード極側への燃料透過量および/または異なる第2のアノード極側から第2のカソード極側への燃料透過量を示すように構成してもよい。より具体的には、たとえば、第1の燃料電池層501を構成する単位電池501aのうち、当該燃料電池層における両端に配置される単位電池501aの第1のアノード極側から第1のカソード極側への燃料透過量および第2のアノード極側から第2のカソード極側への燃料透過量を、それ以外の単位電池501a、特には燃料電池層の中央に配置される単位電池より大きくすることができる。第2の燃料電池層502についても同様である。
また、燃料流路を挟んで2つの単位電池構造体を備える単位電池としては、図6に示される構造のものに限定されるものではなく、たとえば、図2に示されるような単位電池を2つ用い、これらの流路基板同士を貼り合わせたような構造のものを用いることもできる。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1>
次の方法により燃料電池スタックを作製した。
(1)MEA(膜電極複合体)の作製
まず、触媒ペーストを下記の手順により作製した。Pt担持量32.5wt%、Ru担持量16.9wt%のPt−Ru粒子およびカーボン粒子からなる触媒担持カーボン粒子(TEC66E50、田中貴金属社製)と、20wt%のナフィオンのアルコール溶液(アルドリッチ社製)と、イオン交換水と、イソプロパノールと、ジルコニアビーズとを所定の割合で、PTFE製の容器に入れ、攪拌脱泡機を用いて50rpmで50分間の混合を行ない、ジルコニアビーズを除去し、アノード触媒ペーストを作製した。また、Pt担持量46.8wt%のPt粒子およびカーボン粒子からなる触媒担持カーボン粒子(TEC10E50E、田中貴金属社製)を用いて、アノード触媒ペーストと同様に、カソード触媒ペーストを作製した。
次に、片面がフッ素系の樹脂および炭素粒子からなる層で撥水処理されたカーボンペーパーであるGDL25BC(SGLカーボンジャパン株式会社製)を2.35mm×23mmの大きさにし、アノード導電性多孔質層として用いた。スクリーン印刷により、上述したアノード触媒ペーストをアノード導電性多孔質層の撥水処理された面に塗布した。アノード触媒ペーストは1回の塗布毎に60度の恒温室に保持し、アノード触媒ペーストに含有される溶媒を乾燥除去し、これを数回繰り返すことで約0.4mmの厚みのアノード触媒層をアノード導電性多孔質層上に形成した。以下、このアノード導電性多孔質層とアノード触媒層との積層体を「アノード部」という。同様にして、2.35mm×23mmのGDL25BCをカソード導電性多孔質層として用い、この撥水処理された面にカソード触媒層を0.1mmの厚みで形成した。以下、このカソード導電性多孔質層とカソード触媒層との積層体を「カソード部」という。
ついで、電解質膜として100mm×100mm、厚み約175μmのナフィオン117膜(デュポン社製)を用い、電解質膜を挟んでアノード触媒層とカソード触媒層が重なり、アノード触媒層およびカソード触媒層が電解質膜と接するようにして、下からアノード部、電解質膜、カソード部の順に積層した。この際、カソード部およびアノード部は、100×100mmの電解質膜内に2行、5列、等間隔となるように配置した。その後、この積層体から1cm離れた距離に、0.45mm厚みで縦10mm、横100mmのサイズのチタン板を、電解質膜の外側の4辺に配置した。このチタン板は、積層体をプレスする際にその厚みが0.45mm以下にならないようにするためのものである。ついで、1mm厚みのステンレス板上に、この積層体とチタン板を載せ、その上から更に1mm厚みのステンレス板を置くことにより、積層体およびチタン板をステンレス板で挟み、その厚み方向に130℃、10kgf/cm2の条件で2分間熱圧着し、積層体を一体化させ、導電性多孔質層のサイズ(2.35mm×23mm)に沿って切り出すことにより、厚み0.45mm、幅2.35mm、長さ23mmの短冊状のMEAを得た。
(2)流路基板、ならびにアノード集電体およびカソード集電体の作製
図7、図8および図9に、本実施例で作成した流路基板、アノード集電体およびカソード集電体の形状をそれぞれ示す。図7(a)は、作製した流路基板の形状を示す上面図であり、図7(b)は、図7(a)に示されるA−A’線における断面図である。図7に示される数値の単位は、mmである。流路基板は、図7(a)に示されるように、最長部における長さ36mm、厚さ0.2mmのSUS基板上に、エッチング加工により、サーペンタイン形状の燃料流路を形成してなる。図7(b)に示されるように、燃料流路の幅は1.5mm、深さは0.1mmである。SUS基板の長さ方向(縦方向)に延びる燃料流路の数は4本である。この流路基板は、幅1mm×長さ25mmのスリット状の貫通穴を3つ有している。この貫通穴、および、後述するアノード集電体に形成されたスリット状の貫通穴が燃料電池層およびこれを用いて得られる燃料電池スタックの空気経路となる。図7に示される流路基板において、スリット状の貫通穴とこれに隣接する流路との間に形成されている壁の幅は0.5mmである。また、この流路基板は、図7(a)に示されるように、その下端に2つの突起部(幅2.5mm×長さ3mm)を有している。この突起部は、マニホールドの差込口である。
図8(a)は、作製したアノード集電体の形状を示す上面図であり、図8(b)は、図8(a)に示されるアノード集電体の領域Aの拡大図である。図8に示される数値の単位は、mmである。このアノード集電体は、厚さ0.1mmのステンレス(SUS316L)からなる平板状の基板を用い、これをエッチング加工することにより作製した。領域Aの幅はそれぞれ2.5mmである。図8(a)に示されるように、このアノード集電体には、幅1mm×長さ25mmのスリット状の貫通穴が3つ形成されている。また、図8(b)に示されるように、アノード集電体の領域Aには、その領域Aの縦方向(長手方向)の中心線から両端に向けて0.75mmの間の領域に、一辺が0.25mmの六角形状の開口が0.1mmの線幅を残して複数設けられている。なお、燃料電池スタックの最下層の燃料電池層に設けられるアノード集電体には、出力取り出し端子を設けた。
図9(a)は、作製したカソード集電体の形状を示す上面図であり、図9(b)は、図9(a)に示されるカソード集電体の拡大図である。図9に示される数値の単位は、mmである。図9(a)および図9(b)に示されるカソード集電体は、幅2.5mm、長さ25mm、厚さ0.1mmのステンレス(SUS316L)からなる平板状の基板を用い、これをエッチング加工することにより作製した。本実施例においては、図9(a)に示されるカソード集電体を、燃料電池層1つにつき、4つ用いた。図9(b)に示されるように、カソード集電体には、縦方向(長手方向)の中心線から両端に向けて1.15mmの間の領域に、一辺が0.25mmの六角形状の開口が0.1mmの線幅を残して複数設けられている。(穴径0.6mm、開孔率70%)。図9(c)は、燃料電池スタックの最上層の燃料電池層に用いる複合カソード集電体の形状を示す上面図である。複合カソード集電体は、4本のカソード集電体を出力取り出し端子によって一体化することにより作製した。
このように、上記流路基板およびアノード集電体は、4つの短冊状のMEAが、1つの基板上に平行して所定の隙間領域を形成しつつ配置できるように加工されている。後で述べるように、この流路基板上にアノード集電体を積層し、その上に短冊状のMEAを配置するが、この際、各MEAは、2次元的にバラバラになることが防止されている。また、1枚の流路基板上に1枚のアノード集電体を積層し、その上に所定の隙間を設けて、MEAを配置することで、複数の単位電池を所定の隙間を設け、2次元的に配置した燃料電池層を備える機械的強度に優れた燃料電池スタックを作製することができる。
(3)燃料電池層の作製
次に、上記した流路基板とアノード集電体とを接合した(図10参照)。接合は、ホットプレス型の拡散接合により行なった。拡散接合は、ステンレスの腐食防止および拡散接合の接合性向上のため、アノード集電体の流路基板側表面に、金を1μmの厚みでメッキした後に行なった。得られた接合体において、流路基板上にはアノード集電体が積層されており、このアノード集電体の4つの領域Aが有する複数の貫通穴は、それぞれ流路基板が有する4本の燃料流路の直上に配置され、連通している。
次に、得られた流路基板とアノード集電体との接合体におけるアノード集電体の4つの領域A上に、上記MEAを、そのアノード部がアノード集電体側となるように、それぞれ配置した(図10参照)。配置された4つのMEAのピッチ(MEAの左端から隣のMEAの左端までの距離)は3.5mmである。ついで、上記した4本のカソード集電体のそれぞれを、MEAの各カソード導電性多孔質層上に、それらが一致するように配置した後(図10参照)、ホットプレスによって130℃、0.1kgf/cm2の条件で2分間熱圧着し、アノード集電体とMEAとカソード集電体とを仮接着した。その後、MEAの端部(側面)とカソード集電体の端部(側面)とアノード集電体の領域Aの端部(側面)にエポキシ系の接着剤を塗布し、MEAとアノード集電体およびカソード集電体との接着ならびにMEA端部(側面)のシール(シール層の形成)を行なった。こうして、燃料電池層を1層作製した。この燃料電池層を燃料電池層Iとする。なお、燃料電池層Iには、4本のカソード集電体として、上記した出力取り出し端子を有する複合カソード集電体を用いた。図11に、燃料電池層Iを構成する単位電池の概略断面図を示す。
また、4つのMEAの電解質膜として、厚み約50μmのポリアリーレン系のスルホン酸基含有炭化水素電解質膜を用いたこと以外は、燃料電池層Iと同様にして、燃料電池層IIを作製した。なお、燃料電池層IIには、上記した出力取り出し端子を有するアノード集電体を用いた。
燃料電池層IIに用いた単位電池の、上記測定を行ない、上記式(b)より算出された燃料透過量は、燃料電池層Iに用いた単位電池の1/3であった。電解質膜のイオン伝導性は、両単位電池で同等であった。燃料電池層Iおよび燃料電池層IIにおいて、各燃料電池層を構成する単位電池は、並列に電気接続されている。
(4)燃料電池スタックの作製
次に、スペーサとして、チタン多孔質体であるベキニット株式会社製のチタン不織布(空隙率60%、厚み0.5mm、幅1.5mm、長さ30mm、線形20μm)とコットンの多孔質体(厚み0.5mm、幅1.5mm、長さ30mmの直方体形状)とを用いて、これらのスペーサを交互に、長手方向が平行となるように配置し、スペーサ層とした。スペーサのピッチ(スペーサの左端から隣のスペーサの左端までの距離)は4mmである。次に、下から、燃料電池層II/スペーサ層/燃料電池層Iの順となるように、積層、接合して燃料電池スタック(以下、2層スタックとも称する)を得た。各スペーサと燃料電池層との接合には、2液系の導電性接着剤(藤倉化成株式会社製、ドータイトSH−3A)を用いた。次に、流路基板の突起部に燃料供給および排出用のマニホールドを差し込むとともに、燃料電池層Iの出力取り出し端子と燃料電池層IIの出力取り出し端子とを直列配線となるように接合した。マニホールドを差し込んだ後、シール剤でマニホールドと流路基板の入口、出口の隙間を封止した。マニホールドとしては、アクリル樹脂製のものを用いた。燃料電池層Iと燃料電池層IIとは、スペーサ層を介して直列接続されている。図12に本実施例で得られた2層スタックの概略斜視図を示す。本実施例で作製した2層スタックにおいて、燃料電池層IおよびIIを構成する単位電池とスペーサ層を構成するスペーサとは、直交するように配置されている。また、各燃料電池層を構成するすべての単位電池は、そのカソード極側を上にして積層されている。したがって、最上層の燃料電池層Iの単位電池はすべて、そのカソード極側を外側に向けている。
<比較例1>
2層スタックを構成するすべてのMEAの電解質膜として、ナフィオン117膜(デュポン社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして2層スタックを作製した。
<実施例2>
下から、燃料電池層III’/スペーサ層/燃料電池層II’/スペーサ層/燃料電池層I’の順に積層、接合し、3層の燃料電池層を備える燃料電池スタック(以下、3層スタックとも称する)としたこと以外は、実施例1と同様にして燃料電池スタックを作製した。ただし、最上層の燃料電池層I’を構成するMEAの電解質膜には、厚みが約125μmであるナフィオン115膜(デュポン社製)を用い、中央の燃料電池層II’および最下層の燃料電池層III’を構成するMEAの電解質膜には、厚み約50μmのポリアリーレン系のスルホン酸基含有炭化水素電解質膜を用いた。燃料電池層II’に用いた単位電池の、上記式(b)より算出された燃料透過量は、燃料電池層I’に用いた単位電池の1/5であった。また、燃料電池層III’に用いた単位電池の、上記式(b)より算出された燃料透過量は、燃料電池層I’に用いた単位電池の1/3であった。電解質膜のイオン伝導性は、すべての単位電池で同等であった。燃料電池層I’には、4本のカソード集電体として、上記した出力取り出し端子を有する複合カソード集電体を用い、燃料電池層III’には、上記した出力取り出し端子を有するアノード集電体を用いた。図13に本実施例で得られた3層スタックの概略斜視図を示す。本実施例で作製した3層スタックにおいて、燃料電池層I’、II’およびIII’を構成する単位電池とスペーサ層を構成するスペーサとは、直交するように配置されている。また、各燃料電池層を構成するすべての単位電池は、そのカソード極側を上にして積層されている。したがって、最上層の燃料電池層I’の単位電池はすべて、そのカソード極側を外側に向けている。
<比較例2>
3層スタックを構成するすべてのMEAの電解質膜として、ナフィオン117膜(デュポン社製)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして3層スタックを作製した。
〔燃料電池スタックの電池特性の評価〕
(1)実施例1の2層スタックと比較例1の2層スタックとの対比
図14は、2層スタックを構築する前における、比較例1で用いた上層の燃料電池層および下層の燃料電池層の個別の電流−電圧特性および電流−出力電力密度特性を示す図である。これらの電池特性の測定は、燃料として3mol/Lのメタノール水溶液をポンプで供給し、空気は補機を用いないパッシブにて供給し、環境温度25℃、相対湿度50%下で発電させることにより行なった。以下の電池特性の測定についても同様である。
図14に示されるように、比較例1で用いた、2層スタックを構築する前における単独の状態での上層の燃料電池層および下層の燃料電池層の最大の出力電力密度は、それぞれ35mW/cm2、38mW/cm2であり、ほぼ同等であった。
図15は、比較例1で作製した2層スタックの電流−電圧特性および電流−出力電力密度特性を示す図である。図16は、2層スタックとした状態における上層の燃料電池層および下層の燃料電池層のそれぞれの電流−電圧特性および電流−出力電力密度特性を示す図である。また、図17は、比較例1で作製した2層スタックならびに2層スタックとした状態における上層の燃料電池層および下層の燃料電池層の一定出力電流密度(150mA/cm2)における電流−時間特性を示す図である。図16に示されるように、2層スタックにおいては、下層の燃料電池層は、上層の燃料電池層に比べ、出力特性がより高いことがわかる。これは、下層の燃料電池層上に上層の燃料電池層が積層されることにより、下層の燃料電池層の温度がより高くなることに起因する。
しかしながら、比較例1の2層スタックにおいては、図17に示されるように、下層の燃料電池層の出力電圧が、発電開始約140分後より次第に低下することがわかる。これは、発電に伴う温度上昇により、下層の燃料電池層を構成する単位電池の電解質膜の燃料透過量が増大し、これにより、単位電池のカソード極側で発生する水(Wa)の量が増加して、カソード極表面への水の結露が生じ、空気供給経路の閉塞および供給抵抗の悪化をもたらしたためであると考えられる。
一方、図18は、実施例1で作製した2層スタックを構築する前における上層の燃料電池層(燃料電池層I)および下層の燃料電池層(燃料電池層II)の個別の電流−電圧特性および電流−出力電力密度特性を示す図である。図18に示されるように、実施例1において、2層スタックを構築する前における単独の状態での上層の燃料電池層(燃料電池層I)および下層の燃料電池層(燃料電池層II)の最大の出力電力密度は、それぞれ38mW/cm2、33mW/cm2であった。下層の燃料電池層(燃料電池層II)においては、単位電池の燃料透過量が小さく、カソード極の温度上昇がより低いためか、最大の出力電力密度がより低くなっている。
図19は、実施例1で作製した2層スタックの電流−電圧特性および電流−出力電力密度特性を示す図である。図20は、2層スタックとした状態における上層の燃料電池層(燃料電池層I)および下層の燃料電池層(燃料電池層II)のそれぞれの電流−電圧特性および電流−出力電力密度特性を示す図である。また、図21は、実施例1で作製した2層スタックならびに2層スタックとした状態における上層の燃料電池層(燃料電池層I)および下層の燃料電池層(燃料電池層II)の一定出力電流密度(150mA/cm2)における電流−時間特性を示す図である。図20に示されるように、2層スタックにおいては、下層の燃料電池層(燃料電池層II)は、上層の燃料電池層(燃料電池層I)に比べ、出力特性がより高いことがわかる。これは、下層の燃料電池層上に上層の燃料電池層が積層されることにより、下層の燃料電池層の温度がより高くなることに起因する。
また、下層の燃料電池層(燃料電池層II)の出力電力密度は、比較例1の2層スタックと比較して、より向上していることがわかる(図16と図20との比較)。これは、単独の状態では上層の燃料電池層より出力特性に劣るものの、2層スタックとすることにより、下層の燃料電池層の温度がより上昇し、これにより燃料透過量が増加し、出力特性が向上したこと、および、下層の燃料電池層(燃料電池層II)を構成する単位電池には、燃料透過量がより小さい単位電池が用いられており、これにより、温度上昇に伴う過度の燃料透過に起因する出力特性の低下が抑制されていることによる。そして、過度の燃料透過が抑えられていることから、カソード極での空気供給経路の閉塞および供給抵抗の悪化が効果的に抑制されており、その結果、下層の燃料電池層(燃料電池層II)の出力電圧は、一定時間経過後も低下することなく安定している(図21参照)。
(2)実施例2の3層スタックと比較例2の3層スタックとの対比
図22は、3層スタックを構築する前における、比較例2で用いた上層の燃料電池層、中層の燃料電池層および下層の燃料電池層の個別の電流−電圧特性および電流−出力電力密度特性を示す図である。これらの電池特性の測定条件は、上記と同様である。
図22に示されるように、比較例2で用いた、3層スタックを構築する前における単独の状態での上層の燃料電池層、中層の燃料電池層および下層の燃料電池層の最大の出力電力密度は、それぞれ38mW/cm2、35mW/cm2、34mW/cm2であり、ほぼ同等であった。
図23は、比較例2で作製した3層スタックの電流−電圧特性および電流−出力電力密度特性を示す図である。図24は、3層スタックとした状態における上層の燃料電池層、中層の燃料電池層および下層の燃料電池層のそれぞれの電流−電圧特性および電流−出力電力密度特性を示す図である。また、図25は、比較例2で作製した3層スタックならびに3層スタックとした状態における上層の燃料電池層、中層の燃料電池層および下層の燃料電池層の一定出力電流密度(150mA/cm2)における電流−時間特性を示す図である(5分間のエージングの後測定を開始した。)。図24に示されるように、3層スタックにおいては、中層および下層の燃料電池層は、上層の燃料電池層に比べ、出力特性がより高いことがわかる。これは、2層スタックの場合と同様、別の燃料電池層が積層されることにより、温度がより高くなることに起因している。
しかしながら、比較例2の3層スタックにおいては、図25に示されるように、中層の燃料電池層の出力電圧が、わずか30分程度で低下し始めることがわかる。これは、中層の燃料電池層において発電に伴う温度上昇が最も高く、これを構成する単位電池の電解質膜の燃料透過量が最も増大することにより、単位電池のカソード極側で発生する水(Wa)の量の増加およびこれに伴うカソード極表面への水の結露が最も多く、これによる空気供給経路の閉塞および供給抵抗の悪化が最も顕著であるためであると考えられる。
一方、図26は、実施例2で作製した3層スタックを構築する前における上層の燃料電池層(燃料電池層I’)、中層の燃料電池層(燃料電池層II’)および下層の燃料電池層(燃料電池層III’)の個別の電流−電圧特性および電流−出力電力密度特性を示す図である。図26に示されるように、実施例2において、3層スタックを構築する前における単独の状態での上層の燃料電池層(燃料電池層I’)、中層の燃料電池層(燃料電池層II’)および下層の燃料電池層(燃料電池層III’)の最大の出力電力密度は、それぞれ56mW/cm2、33mW/cm2、38mW/cm2であった。燃料電池層I’の最大の出力電力密度が高いのは、厚みがナフィオン117膜と比較して薄いナフィオン115膜を電解質膜として用いたことにより抵抗値が低減したこと、および、電解質膜の膜厚の低減に伴う燃料透過量の増大により、カソード極側に透過した燃料の燃焼量が多くなり、これにより温度が上昇したことによるものと考えられる。なお、燃料透過量の増大によるカソード極側で発生する水量の増大に伴う空気供給の阻害は、スタック構造ではない個別の燃料電池層においてはあまり問題とならない。また、スタック構造において、当該スタック構造の表面を形成し、水の蒸散が良好なカソード極を有する燃料電池層についても、上記空気供給の阻害はあまり問題とならない。一方、燃料電池層II’および燃料電池層III’においては、燃料の透過量が抑制されているため、燃料電池層I’に比べて温度が上昇しにくく、出力特性はより低くなっている。特に燃料電池層II’は、燃料の透過量が最も抑制されており、出力特性が最も低い。また、温度の影響だけでなく、燃料の透過量を抑えると、個別の燃料電池層においてはカソード極側が大気に面することになるため、乾燥しやすくなり、カソード触媒層中の電解質のイオン伝導性が低下して出力特性が低下しやすくなる。
図27は、実施例2で作製した3層スタックの電流−電圧特性および電流−出力電力密度特性を示す図である。図28は、3層スタックとした状態における上層の燃料電池層(燃料電池層I’)、中層の燃料電池層(燃料電池層II’)および下層の燃料電池層(燃料電池層III’)のそれぞれの電流−電圧特性および電流−出力電力密度特性を示す図である。また、図29は、実施例2で作製した3層スタックならびに3層スタックとした状態における上層の燃料電池層(燃料電池層I’)、中層の燃料電池層(燃料電池層II’)および下層の燃料電池層(燃料電池層III’)の一定出力電流密度(150mA/cm2)における電流−時間特性を示す図である(5分間のエージングの後測定を開始した。)。図28に示されるように、3層スタックにおいては、中層の燃料電池層(燃料電池層II’)および下層の燃料電池層(燃料電池層III’)は、スタック化されていない単独の状態と比較して、出力特性がより高いことがわかる。これは、中層および下層の燃料電池層では、温度がより上昇し、また、周囲の水蒸気圧が適度に高まることに起因する。このように、燃料透過量を適切に制御し、燃料電池層を構成する単位電池の温度、カソード極側で発生する水の量を最適にすることにより、燃料電池スタック全体としての平均出力電力密度を大幅に向上させることができる。このことは、図23と図27との比較から明らかである。
さらに、実施例2の3層スタックにおいては、燃料透過が適度に抑えられていることから、カソード極での空気供給経路の閉塞および供給抵抗の悪化が効果的に抑制されており、その結果、中層の燃料電池層(燃料電池層II’)の出力電圧は、一定時間経過後も低下することなく安定しており、燃料電池スタックとしての連続発電特性が大幅に向上されている(図29参照)。
なお、各燃料電池層に同一濃度の燃料を供給する場合、燃料濃度は燃料電池スタックの平均出力密度が最大となるように、選ばれることが好ましい。過度な燃料透過量は単位電池の出力密度を低下させてしまうため、高出力密度化のために最適な燃料濃度は、各単位電池の燃料透過量に依存する。逆に必要な燃料濃度が決定している際、各単位電池の燃料透過量を適切な範囲に調整することが必要であり、その方法は上述した通りである。本発明に記載のように燃料電池スタックの位置に応じて各単位電池の燃料透過量およびその大小を最適にすることにより、スタックの高出力密度化、高耐久性化が可能となる。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。