JP5321749B2 - 保磁力特定装置 - Google Patents
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Description
本発明は、モータ等に使用される保磁力分布磁石の分割領域ごとの減磁曲線を作成するとともに各分割領域の平均保磁力を特定し、これを全ての分割領域で実施することで保磁力分布磁石の保磁力を特定する保磁力特定装置に関するものである。
IPMモータ等のロータ内に埋設される永久磁石には、ステータコア側から入射してくる外部磁界による減磁に抗し得る保磁力が要求されている。
この永久磁石に作用する外部磁界は、永久磁石の埋設されたロータを平面的に見た際に永久磁石のステータコア側の隅角部が最も大きく、ロータコアの中央側が小さくなるのが一般的である。
一方、焼結された永久磁石に対して、その表面から当該永久磁石の保磁力性能を高めるための金属粒が粒界拡散等されているが、この金属粒はジスプロシウムやテルビウム等のレアアースが使用されていることから、永久磁石の製造コスト低減の観点から所望する保磁力性能を担保しつつその使用量を如何にして低減できるかが当該技術分野における重要な解決課題の一つとなっている。
この保磁力性能は、上記するように永久磁石の部位ごとに作用する外部磁界の大きさが異なることから要求される保磁力も永久磁石の部位ごとに相違しており、保磁力性能を高めるレアアースの使用量を低減することを含めて、永久磁石の部位ごとに保磁力の異なる(保磁力分布のある)保磁力分布磁石を製造することにより、要求される保磁力性能を満足しながらジスプロシウム等のレアアースの使用量が可及的に低減され、製造コストの削減を図ることのできる永久磁石の製造を実現することができる。
この保磁力分布磁石の内部の保磁力分布、すなわち、内部の部位ごとの平均保磁力を精度よく特定することは、保磁力分布磁石の品質保証の観点から極めて重要である。たとえば、上記IPMモータ用ロータ内に埋設される保磁力分布磁石においては、ステータ側からの磁束の流れに起因して、そのステータ側側面部位の磁気特性を相対的に良好にするような最適設計がなされる場合がある。その際に、たとえば供用開始前の段階における保磁力分布磁石において、その内部の部位ごとの保磁力を精度よく特定し、特定対象となっている保磁力分布磁石の品質を所望部位ごとに、より精度よく保証することは、今後の製品(たとえば磁石)開発にとっても、磁石メーカーや磁石使用メーカーの信用にとっても極めて重要である。
しかし、現在は、保磁力分布磁石を破壊して分割片とし、その保磁力を特定する方法が適用されているに過ぎない。また、従来の公開技術である特許文献1,2で開示される保磁力測定方法を適用しても、保磁力分布磁石の全体の平均保磁力を測定できるに留まり、保磁力分布磁石の部位ごと(分割領域ごと)の平均保磁力を特定することはできない。
このように、一つの保磁力分布磁石に関し、磁石を破壊して部位ごとの保磁力を特定していた従来の特定方法に代わって、磁石を破壊することなく、任意にエリア分けされた分割領域ごとの減磁曲線を作成し、かつ平均保磁力を特定できる装置が当該分野で模索されている。
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、保磁力分布磁石を破壊等することなく、当該保磁力分布磁石を任意にエリア分けしてできる分割領域ごとの減磁曲線を作成することができ、かつ分割領域ごとの平均保磁力を特定することができ、これを全ての分割領域で実施することで保磁力分布磁石の保磁力を分割領域ごとに精度よく特定することのできる保磁力特定装置を提供することを目的とする。
前記目的を達成すべく、本発明による保磁力特定装置は、保磁力が部位ごとに異なる保磁力分布磁石が挿入される挿入空間を具備するヨークと、該ヨークに磁界を発生させる励磁コイルと、保磁力分布磁石に該磁界が印加された際の磁化変化を検出するサーチコイルと、該磁化変化によって生じた電圧値に基づいて減磁曲線を作成するトレーサと、を少なくとも具備し、ヨークの前記挿入空間に臨む端面には2以上のループ状の溝条が開設され、それぞれの溝条内に導線とその周囲の絶縁被膜からなる前記サーチコイルが配設されて、保磁力分布磁石において2以上のサーチコイルのそれぞれが対応する分割領域が規定され、それぞれのサーチコイルにて検出された磁化変化による電圧値がトレーサに送信されて対応する分割領域の減磁曲線が作成されるとともに平均保磁力が特定され、これが全ての分割領域で実施されて保磁力分布磁石の保磁力が特定されるものである。
本発明の保磁力特定装置が特定対象とする保磁力分布磁石は、製造後の性能確認のために、磁石製造時、この磁石を内蔵したIPMモータ製造時、このIPMモータを内蔵した車両製造時のいずれかのタイミングにおける保磁力分布磁石や、車両の市場走行後などの任意の環境下に置かれた後でロータから取り出された保磁力分布磁石などである。また、この保磁力分布磁石としてはモータ用で保磁力分布のある永久磁石を挙げることができ、ネオジムに鉄とボロンを加えた3成分系のネオジム磁石、サマリウムとコバルトとの2成分系の合金からなるサマリウムコバルト磁石、鉄酸化物粉末を主原料としたフェライト磁石、アルミニウム、ニッケル、コバルトなどを原料としたアルニコ磁石などを挙げることができる。
磁性体であるヨークの挿入空間に臨む端面に設けられるループ状の溝条とこの溝条内に配設されるサーチコイルの基数や各サーチコイルの包含する面積は、保磁力分布磁石の面積と、平均保磁力を特定したい分割領域面積(分割領域とはサーチコイルで囲まれた領域のことであり、本発明の保磁力特定装置によって当該各領域の平均保磁力を求めることができる。)などによって多様に変化するものであり、2つのループ状のサーチコイルを適用する場合は保磁力分布磁石が2つの分割領域に分割されてそれぞれの分割領域の減磁曲線が作成されるとともに各分割領域の平均保磁力が特定されることになり、3つのループ状のサーチコイルを適用する場合は3つの分割領域の減磁曲線が作成されるとともにそれらの平均保磁力が特定される。
減磁曲線を作成するトレーサとしては、たとえばB−Hカーブトレーサを適用することができ、励磁コイルで発生された磁界が保磁力分布磁石に印加された際の保磁力分布磁石の磁化変化に基づく電圧値がサーチコイルで検出され、この電圧値がサーチコイルからB−Hカーブトレーサに内蔵された積分器に送信され、該磁化変化によって生じた電圧値が積分器で時間積分されて磁束密度が算定され、これに基づいて減磁曲線(B−Hカーブや4πI−Hカーブ)が作成される。
また、この減磁曲線から特定された保磁力(Hcj)は、各サーチコイルが対応する保磁力分布磁石の分割領域の平均保磁力となる。
上記する保磁力特定装置を用いることにより、サーチコイルの基数やその分担面積を任意に調整することで、所望する範囲の分割領域ごとにその減磁曲線を作成し、その平均保磁力を特定することができ、もって、高精度に保磁力分布磁石の部位ごとの平均保磁力を特定することが可能となる。
ここで、前記溝条の深さは1mm以下であるのが好ましい。
本発明者等の磁場解析によれば、溝条の深さを1mm以下としてその内部に導線およびその周囲の絶縁被膜からなるサーチコイルを配設することで、保磁力分布磁石の材料特性値(Hcj)に対して0.1%以内の誤差精度で対象エリアの保磁力を特定できることが実証されている。
また、前記溝条の幅は0.3mm以下であるのが好ましい。
本発明者等の磁場解析によれば、溝条の幅を0.3mm以下とした場合でも、保磁力分布磁石の材料特性値(Hcj)に対して0.1%以内の誤差精度で対象エリアの保磁力を特定できることが実証されている。
以上より、溝条は深さが1mm以下で幅が0.3mm以下のものが望ましく、さらにその内部に配設されるサーチコイルの製造可能な寸法(絶縁被膜となるエナメル線や銅素材の導線などの寸法)を勘案すれば、たとえば深さが1mmで幅が0.3mmの溝条とするのがよい。
さらに本発明による保磁力特定装置の好ましい実施の形態は、保磁力が部位ごとに異なる保磁力分布磁石が挿入される挿入空間を具備するヨークと、ヨークに磁界を発生させる励磁コイルと、保磁力分布磁石に該磁界が印加された際の磁化変化を検出するサーチコイルと、該磁化変化によって生じた電圧値に基づいて減磁曲線を作成するトレーサと、を少なくとも具備し、ヨークの前記挿入空間に臨む端面には、樹脂フィルムとその表面に導電性素材がループ状にパターニングされてなるサーチコイルが2以上配設されて、保磁力分布磁石において2以上のサーチコイルのそれぞれが対応する分割領域が規定され、それぞれのサーチコイルにて検出された磁化変化による電圧値がトレーサに送信されて対応する分割領域の減磁曲線が作成されるとともに平均保磁力が特定され、これが全ての分割領域で実施されて保磁力分布磁石の保磁力が特定されるものである。
既述するヨークの挿入空間に臨む端面に溝条が設けられた形態では、保磁力分布磁石が挿入空間に挿入されてこの表面がヨークの端面と密着した際に、保磁力分布磁石は磁性体(ヨーク)とエアギャップ(溝条)が交互に現れる密着面と当接することになり、パーミアンス(磁石の減磁曲線上での動作点のことで、この値が小さい程、反磁場(磁石内で磁石の磁化方向と逆向きに通る磁界)が大きくなる)が分布し易い。
これに対して、本実施の形態の装置によれば、溝条を設ける代わりに、樹脂フィルムとその表面に導電性素材がループ状にパターニングされてなるサーチコイルが2以上配設されたものをヨークの挿入空間に臨む端面に設けたことで、これに密着する保磁力分布磁石の表面には均一素材の樹脂フィルム等が当接し、もって均一磁界を保磁力分布磁石に印加することが可能となる。そして、このことにより、パーミアンスを分布し難くすることができる。
なお、上記する導電性素材(銅などの金属)のパターニングの形態は任意であり、印刷による形態やエッチングによる形態などを挙げることができる。
上記する本発明の保磁力特定装置を、たとえば以下で示す保磁力分布磁石の保磁力特定方法に適用することができる。
この保磁力分布磁石の保磁力特定方法は、保磁力分布磁石のうち、容易磁化方向に沿う方向で切断してできる平面内で保磁力が相違し、該平面においてその中心から外周側に向かって保磁力が大きくなる保磁力分布を呈している保磁力分布磁石において、該平面における任意箇所の保磁力を特定する保磁力分布磁石の保磁力特定方法であって、保磁力分布磁石の前記平面に対して容易磁化方向に延びる複数の分割領域を仮想的に設定し、該保磁力分布磁石を逆磁界付与装置に配設するとともにそれぞれの前記分割領域に対応した位置にサーチコイルを配し、それぞれのサーチコイルによる測定結果から各分割領域に固有の減磁曲線を作成する第1のステップ、作成されたそれぞれの前記減磁曲線から最低保磁力:Hminと平均保磁力:Hcjを特定し、かつ、分割領域の中心位置をx1とし、中心位置から左右の外周側に保磁力を特定したい位置:±x2、±x3を設定する第2のステップ、以下(1)〜(3)の仮定事項を利用して分割領域の中心から外周側への距離をX軸とし、各距離における保磁力をY軸とした座標系にて保磁力分布グラフを作成する第3のステップ、(1)保磁力分布グラフにおいて、中心位置:x1における保磁力:Hx1を最低保磁力:Hminとする、(2)位置:±x2、±x3それぞれの保磁力をH−x2、H+x2、H−x3、H+x3とした際に、(H−x3+H−x2+Hx1+H+x2+H+x3)/5=平均保磁力:Hcjとする、(3)H+x2−Hx1=H+x3−H+x2とする、前記分割領域ごとに特定される前記保磁力分布グラフを利用して、保磁力分布磁石内の前記平面内における任意の位置における保磁力を特定する第4のステップからなるものである。
この保磁力特定方法は、保磁力分布磁石を容易磁化方向で切断した際の平面、すなわち、この磁石がロータスロット内に配設された際にこのスロット軸に対して直交する方向で磁石を切断した際の断面(平面)において、その中心から外周側に向かって保磁力が大きくなる保磁力分布を呈している保磁力分布磁石の平面内における任意位置の保磁力を精緻に特定することのできる保磁力特定方法である。
平面視が矩形の保磁力分布磁石に関して言えば、上記する平面において、その一側がステータ側の側面となり、これに対向する他側がロータ中央側の側面となる。
一般に、焼結されてできた永久磁石に対して、その表面からジスプロシウムやテルビウム等の磁石保磁力を高める重希土類元素が粒界拡散されるため、磁石の外周から中心に向かって保磁力が低減する保磁力分布磁石となる。
したがって、直方体形状の永久磁石であっても、これを高さ方向の任意レベルで切断してできる平面における保磁力の分布状態はどのレベルで切断してもほぼ同程度の傾向、すなわち、平面における中心から外周側に向かって同心状に保磁力が高くなる傾向を示すと言ってよい。
そこで、ジスプロシウム等が粒界拡散されてできた保磁力分布磁石をある高さレベルで切断してできる平面において、この平面内における保磁力分布を特定し、これを磁石の高さ方向に展開することで3次元的に任意の位置(任意の高さの平面内における任意の位置)での保磁力を特定することも可能となる。
まず、第1のステップにおいて、保磁力分布磁石の前記平面に対して容易磁化方向に延びる複数の分割領域を仮想的に設定し、該保磁力分布磁石を本発明の保磁力特定装置に配設するとともに、それぞれの前記分割領域に対応した位置にサーチコイルを配し、それぞれのサーチコイルによる測定結果からそれぞれの分割領域に固有の減磁曲線を作成する。
たとえば平面視矩形の磁石平面に対して容易磁化方向に沿う帯状の分割領域を仮想的に設定することにより、この磁石平面を複数の帯状領域に仮に分割する。この容易磁化方向とはたとえば、既述するように当該保磁力分布磁石がロータスロット内に配設された際に、ロータ中心側からステータ側に向かう方向である。
本発明の保磁力特定装置を使用して、被特定対象である保磁力分布磁石に外部の逆磁界をかけて減磁させていき、保磁力座標と残留磁束密度(磁化)座標からなる座標系(の第二象限)に減磁曲線を作成できる。
この特定方法では上記する仮想的に分割された分割領域ごとにサーチコイルを配設し、各サーチコイルに対応する分割領域の減磁曲線を作成する。
なお、上記する平面において5つの分割領域が形成される場合を例示すると、その中央の分割領域の保磁力が低く、これに隣接する上下の分割領域は同程度に保磁力が高くなり、さらにこれらに隣接する上下の分割領域は同様に同程度に保磁力がさらに高くなる傾向を示す。すなわち、中央の分割領域をBA1、これに隣接する容易磁化方向に対して垂直方向の上下の分割領域をBA2,3、さらにこれらに隣接する上下の分割領域をBA4,5とした際に、保磁力の大小は、BA1<BA2=BA3<BA4=BA5となる。
したがって、この実施の形態では、中央の分割領域に対応する位置(BA1)と、たとえばこれに隣接する上方の分割領域(BA2)とさらにこれに隣接する上方の分割領域(BA4)の合計3箇所にサーチコイルを設けておけばよい(BA3、BA5の減磁曲線はそれぞれ、BA2、BA4のそれを使用できる)。
次に、第2のステップとして、作成されたそれぞれの前記減磁曲線から最低保磁力:Hminと平均保磁力:Hcjを特定し、かつ、分割領域の中心位置をx1とし、その左右の外周側に保磁力を特定したい位置:±x2、±x3を設定する。より具体的には、中心位置:x1から、そのステータ側へ+x2、+x3が設定されるとともに、ロータ中央側へも同様に−x2、−x3が設定され、各分割領域において、5箇所の平面位置(x1、±x2、±x3)が設定されることになる。
ここで、作成された減磁曲線から、残留磁束密度が低下する変曲点(もしくは、最大磁束密度から数%減磁した時点)の保磁力をもって最低保磁力とすることができ、さらに減磁して当該減磁曲線が保磁力座標と交わる点をもって平均保磁力とすることができる。
たとえば3つのサーチコイルにて3つの分割領域の減磁曲線を作成した場合には、それぞれの減磁曲線ごとに最低保磁力と平均保磁力が設定される。
中心位置:x1における保磁力が最も小さく、位置±x2、±x3と分割領域の左右の外周側に向かって保磁力が大きくなることは言うまでもない。
次に、第3のステップとして、以下(1)〜(3)の仮定事項を利用して分割領域の中心から外周側への距離をX軸とし、各距離における保磁力をY軸とした座標系に保磁力分布グラフを作成する。ここで、3つの仮定事項とは、(1)保磁力分布グラフにおいて、中心位置:x1における保磁力:Hx1を最低保磁力:Hminとする、(2)位置:±x2、±x3それぞれの保磁力をH−x2、H+x2、H−x3、H+x3とした際に、(H−x3+H−x2+Hx1+H+x2+H+x3)/5=平均保磁力:Hcjとする、(3)H+x2−Hx1=H+x3−H+x2とする、からなる。
ここで、H−x3とH+x3、H−x2とH+x2は、中心位置から同距離にある保磁力であることからそれぞれの値は等しい。
したがって、実質的に変数はH+x2とH+x3となり、上式(2)、(3)からH+x2とH+x3が特定される。
また、(1)にて設定される、中心位置:x1における保磁力:Hx1=Hminを勘案して、分割領域の中心から外周側への距離をX軸とし、各距離における保磁力をY軸としたX−Y座標系において一次関数(たとえばH=kx+Hmin(xは中心からの距離))の保磁力分布グラフが作成できる。
以上の説明から理解できるように、本発明の保磁力特定装置によれば、保磁力分布磁石を破壊することなく、任意にエリア分けされた分割領域ごとの減磁曲線を作成することができ、かつそれぞれの平均保磁力を精度よく特定することができ、もって保磁力分布磁石の分布する保磁力を高精度で特定することができる。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示例では、保磁力分布磁石を3つの分割領域に仮に分割して各分割領域の減磁曲線を作成し、平均保磁力を特定する実施の形態を示しているが、この分割領域の数は2つ、4つ以上などであってもよいことは勿論のことである。
図1は本発明の保磁力特定装置の一実施の形態を説明した模式図であり、図2は図1のII−II矢視図であり、図3aは図1のIII部の拡大図である。
図示する保磁力特定装置10は、保磁力が部位ごとに異なる保磁力分布磁石Mが挿入される挿入空間1aを具備する平面視が略Cの字状のヨーク1と、ヨーク1に磁界を発生させる(磁気流れX方向)励磁コイル2と、励磁コイル2に電流を通電する不図示の電源と、保磁力分布磁石Mに磁界が印加された際の磁化変化を検出するサーチコイル3と、この磁化変化によって生じた電圧値に基づいて減磁曲線を作成するトレーサ4(B−Hカーブトレーサ)とから大略構成されている。
ヨーク1の挿入空間1aに臨む端面1bには図2で示す平面図から明らかなように3つのループ状の溝条1c,1c,1cが開設され、それぞれの溝条1c内には銅製の導線3aとその周囲の絶縁被膜3bからなるサーチコイル3が配設されている。
保磁力分布磁石Mにおいて各サーチコイル3には対応する保磁力分布磁石の分割領域M1,M2,M3が規定され、各サーチコイル3から延びる導線はトレーサ4内に内蔵される積分器4aに繋がっている。
励磁コイル2で発生された磁界が保磁力分布磁石Mに印加されると、保磁力分布磁石M内で磁化変化が生じ、この磁石変化に基づく電圧値がサーチコイル3で検出される。
検出された電圧値はサーチコイル3からに内蔵された積分器に送信され、積分器4aで時間積分されて磁束密度が算定され、これに基づいて分割領域M1,M2,M3(各サーチコイルで囲まれた領域)ごとの減磁曲線(B−Hカーブや4πI−Hカーブ)が作成される。
作成された分割領域M1,M2,M3ごとの減磁曲線から特定される保磁力(Hcj)は、各分割領域における平均保磁力となる。
ここで、端面1bに開設されるループ状の溝条1cの溝深さhと溝幅w(図3a参照)に関しては、後述する磁場解析結果より、溝深さhは1mm以下、溝幅wは0.3mm以下とするのが好ましく、さらにその内部に配設されるサーチコイルの製造可能な寸法(絶縁被膜となるエナメル線や銅素材の導線などの寸法)を勘案すれば、たとえば深さが1mmで幅が0.3mmの溝条とするのがよい。なお、同図において、溝条1c内にはサーチコイル3が収容され、その上部(保磁力分布磁石側)にはエアギャップAが形成されている。
また、コイルの配設形態は図3a以外にも、図3bで示すように、一つ溝条1c内に2つのコイル3をラップさせるようにして収容する形態であってもよい。
ここで、被特定対象である保磁力分布磁石Mは、たとえばIPMモータを構成する不図示のロータ内に埋設される焼結永久磁石の表面からジスプロシウムやテルビウムなどを粒界拡散等しながら保磁力が所望に分布する態様で形成された磁石である。そして、この永久磁石としては、ネオジムに鉄とボロンを加えた3成分系のネオジム磁石、サマリウムとコバルトとの2成分系の合金からなるサマリウムコバルト磁石、鉄酸化物粉末を主原料としたフェライト磁石、アルミニウム、ニッケル、コバルトなどを原料としたアルニコ磁石などがある。
保磁力特定装置10を用いることで、保磁力分布磁石を破壊等することなく、当該保磁力分布磁石を任意にエリア分けしてできる分割領域ごとの減磁曲線を作成することができ、かつ分割領域ごとの平均保磁力を精度よく特定することができ、これを全ての分割領域で実施することで保磁力分布磁石の保磁力を分割領域ごとに精度よく特定することが可能となる。
図4は、本発明の保磁力特定装置の他の実施の形態を説明した模式図である。
図示する保磁力特定装置10Aは、ヨーク1の挿入空間1aに臨む端面1bにおいて、樹脂フィルム5aの表面に導電性素材がループ状にパターニングされてなる3つのサーチコイル3A,3A,3Aが配設され、さらにこれらサーチコイル3Aを樹脂フィルム5aとともに挟持する別途の樹脂フィルム5bが配設されたものであり、保磁力分布磁石Mにおいて3つのサーチコイル3A,3A,3Aのそれぞれが対応する分割領域M1,M2,M3が規定され、それぞれのサーチコイル3Aにて検出された磁化変化による電圧値がトレーサに送信されるようになっている。
ここで、銅などの導電性素材のパターニング形態としては、印刷による形態やエッチングによる形態などを挙げることができる。
図1で示す保磁力特定装置10では、保磁力分布磁石Mが挿入空間1aに挿入されてこの表面がヨーク1の端面1bと密着した際に、保磁力分布磁石Mは磁性体(ヨーク1)とエアギャップA(溝条1c)が交互に現れる密着面に当接することになり、パーミアンスが分布し易くなってしまう。
そこで、保磁力特定装置10Aを適用することにより、溝条を設ける代わりに、樹脂フィルム5a,5bとその表面に導電性素材がループ状にパターニングされてなる3つのサーチコイル3A,3A,3Aが配設されたものをヨーク1の端面1bに設けたことで、これに密着する保磁力分布磁石Mの表面には均一素材の樹脂フィルム5bが当接することとなり、もって均一磁界を保磁力分布磁石Mに印加することが可能となる。そして、このことによってパーミアンスを分布し難くすることができる。
[磁場解析とその結果]
本発明者等は、図1で示す保磁力特定装置10において、溝条の最適な溝深さ範囲と溝幅範囲を特定するための磁場解析をおこなった。
本発明者等は、図1で示す保磁力特定装置10において、溝条の最適な溝深さ範囲と溝幅範囲を特定するための磁場解析をおこなった。
解析条件としては、励磁コイルのターン数を140、励磁コイルへの印加電流を0.1A/ステップで印加したい磁界に到達するまで印加し(本装置にて得られる励磁磁界(横軸)と、サーチコイルにて得られる磁石の磁化変化(縦軸)を表す図5参照)、磁石印加磁界として解析にて入力する磁石の保磁力(Hcj)以上の磁界値を設定した(図5参照)。
最適な溝深さ範囲を特定する解析では、溝幅を0.3mmに設定して溝深さを0mm〜7mmまで変化させ、各溝深さの溝条を具備する装置から求められる磁石保磁力を求めるとともに、求められた磁石保磁力と磁石材料特性値から特定される保磁力(真値)との差を求め、その結果を図6に示している。
一方、最適な溝幅範囲を特定する解析では、溝深さを0.8mmに設定して溝幅を0.15mm〜0.45mmまで変化させ、各溝幅の溝条を具備する装置から求められる磁石保磁力を求めるとともに、求められた磁石保磁力と磁石材料特性値から特定される保磁力(真値)との差を求め、その結果を図7に示している。
なお、図6,7ともに、磁石の中央および端部に位置する2箇所のサーチコイルにて保磁力(真値)との差を求めている。なお、磁石の中央とは、たとえば図1で示す保磁力分布磁石Mのうちの中央の分割領域M2のことであり、磁石の端部とは、同図1で示す分割領域M1もしくは分割領域M3のことである。
図6より、溝深さに関しては1mmを超えると磁石材料特性値との差が増加する傾向を呈し、溝深さ1mmがその変曲点となっていることが実証されており、この結果を踏まえて最適な溝深さ範囲を1mm以下に規定した。
一方、図7より、溝幅に関しては0.3mmを超えると磁石材料特性値との差が顕著に増加する傾向を呈し、溝幅0.3mmがその変曲点となっていることが実証されており、この結果を踏まえて最適な溝幅範囲を0.3mm以下に規定した。
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
1…ヨーク、1a…挿入空間、1b…挿入空間に臨む端面、1c…溝条、2…励磁コイル、3,3A…サーチコイル、3a…導線、3b…絶縁被膜、4…トレーサ、4a…積分器、5a,5b…樹脂フィルム、10,10A…保磁力特定装置、M…保磁力分布磁石(永久磁石)、M1,M2,M3…分割領域
Claims (1)
- 保磁力が部位ごとに異なる保磁力分布磁石が挿入される挿入空間を具備するヨークと、該ヨークに磁界を発生させる励磁コイルと、保磁力分布磁石に該磁界が印加された際の磁化変化を検出するサーチコイルと、該磁化変化によって生じた電圧値に基づいて減磁曲線を作成するトレーサと、を少なくとも具備し、
ヨークの前記挿入空間に臨む端面には2以上のループ状で深さが1mm以下、幅が0.3mm以下の溝条が開設され、それぞれの溝条内に導線とその周囲の絶縁被膜からなる前記サーチコイルが配設されて、保磁力分布磁石において2以上のサーチコイルのそれぞれが対応する分割領域が規定され、
それぞれのサーチコイルにて検出された磁化変化による電圧値がトレーサに送信されて対応する分割領域の減磁曲線が作成されるとともに平均保磁力が特定され、これが全ての分割領域で実施されて保磁力分布磁石の保磁力が特定される保磁力特定装置。
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