実施の形態1.
図1は、本発明を実施するための実施の形態1における空気調和装置の室内ユニットを示す一部分解斜視図である。また、図2は、図1の破線で示した面Aでの空気調和装置の室内ユニットの断面図である。図1及び図2において、空気調和装置の室内ユニット1の内部には、円筒状で導電性を有するラインフローファン2と、ラインフローファン2の空気流入側に配置されたフィンチューブ型の熱交換器3a、3b、3cと、ラインフローファン2の空気流出側に配置されたリアケーシング4と、ラインフローファン2の側面に対向して配置されたコイル5とが設けられている。
ラインフローファン2は、熱交換器3a、3b、3cを通過した空気を送風する導電性の被加熱体である。コイル5は、被加熱体であるラインフローファン2を誘導加熱するものである。コイル5は、ラインフローファン2の円筒軸方向と略平行に配置されている。コイル5の両端子は、駆動回路12に接続される。駆動回路12は、半導体素子であるスイッチング用半導体素子9を有し、コイル5に高周波電流を供給するものである。駆動回路12は、放射ノイズを低減するために室内ユニット1内に配置されることが望ましい。そして、カバー17が熱交換器3a、3b、3cの外側に設けられて空気調和装置の室内ユニット1が構成される。
図1において、構成を分かりやすくするためにラインフローファン2、熱交換器3a、3b、3c、リアケーシング4などを離して示しているが、実際には図2に示すような位置関係で構成される。また、図1において、ラインフローファン2とコイル5の位置関係をわかりやすくするために、コイル5がリアケーシング4の内側(ラインフローファン2と対向する側)に配置されているように記載されているが、実際には図2に示すように、コイル5はリアケーシング4の外側に配置されている。なお、図1及び図2では、空気調和装置として本来備わっているものの、本発明とは直接関係ないフラップ、ルーバー、フィルター、室外ユニットなどを省略している。
ラインフローファン2は、室内ユニット1の外側から熱交換器3a、3b、3cを通過させて空気を取り込み、室内ユニット1の外部に空気を送風するものである。ラインフローファン2は、クロスフローファンと呼ばれることもあり、鉄、ステンレスあるいはアルミなどの金属材料によって構成されたり、樹脂などの絶縁物で形成した後、表面にめっき処理などにより導電膜を形成して構成される。ラインフローファン2は、導電性を有し、略円筒形状である。ラインフローファン2を金属材料で形成した場合には、ラインフローファン2の熱容量を小さくして温風を急峻に吹出すことができる。一方、ラインフローファン2を絶縁材料で形成し、絶縁材料の表面に導電膜を設けた場合には、空力を容易に最適にすることができるとともに、ラインフローファン2を安価に作製することができる。さらに、導電膜を銅めっきあるいはアルミめっきにより形成することによって、電気抵抗が小さい導電膜を薄く形成することができるので、空力を良好に保ったままラインフローファン2を効率良く誘導加熱することができる。
熱交換器3a、3b、3cは、一般的に空気調和装置の室内ユニットに用いられているフィンチューブ型の熱交換器であって、厚さ0.1mm前後の穴あきアルミプレートを1.0〜1.5mm程度の間隔を設けて多数積層し、アルミプレートの穴に銅やアルミなどの冷媒管を通した構造をしており、各アルミプレート間を通る空気と冷媒管を通る冷媒との間で熱交換を行うものである。熱交換器3a、3b、3cは、熱交換器3aを主熱交換器、熱交換器3b、3cを補助熱交換器と呼ぶこともある。補助熱交換器3b、3cは室内ユニットの熱交換能力を高めるために主熱交換器3aとは別体として形成し、主熱交換器3aに補助熱交換器3b、3cを取り付けて一体に形成して室内ユニットの熱交換器として用いられる。販売される空気調和装置にはいくつかの機種があるので、主熱交換器を機種ごとに変更したり、あるいは機種によっては誘導加熱手段を持たないが主熱交換器は共通であるといったような場合に、主熱交換器と補助熱交換器とを別体で形成して、主熱交換器と補助熱交換器とを目的に応じて組み合わせたりして、部品の共通化を図り、製造コストを低減することができる。
コイル5は、長円形あるいは長方形の形状であり、ラインフローファン2の羽根31の長手方向(つまり、ラインフローファン2の円筒軸の方向)と略平行な方向が長手方向となるようにリアケーシング4に配置されている。つまり、コイル5は、ラインフローファン2の下流側(排気側)に配置されている。このような配置によって、コイル5の長手方向の導線とラインフローファン2の羽根31とが略平行になるので、羽根31に渦電流が誘起されやすくなり、ラインフローファン2を誘導加熱する効率を高くすることができる。さらに、ラインフローファン2からの吹出し風によってコイル5を冷却することができる。コイル5は、リッツ線などの導線を長方形あるいは長円形のリング状に巻いて形成したものであり、例えばφ0.3mmの被覆銅線を19本撚り線にしたリッツ線を20回巻いて形成される。
コイル5は、ラインフローファン2の排気側に位置するリアケーシング4の一部に設けた耐熱材6の裏面あるいは表面に接して配置されている。耐熱材6を設けることによって、コイル5が発熱により100℃程度の高温になった場合でも周囲への熱の影響を低減することができる。耐熱材6は、難燃性樹脂、ガラス、セラミックスなどの難燃性絶縁物、あるいはアルミや銅などの非磁性金属で形成される。非磁性金属板が耐熱材6として用いられた場合には、非磁性金属板が放熱フィンの役割をしてコイル5を効率的に冷却することができる。
コイル5の両端子は、駆動回路12に接続される。駆動回路12は、20〜100kHzの高周波電流をコイル5へ供給する。コイル5に高周波電流が供給されると、コイル5から交番磁界が発生するため、この交番磁界によって導電性を有するラインフローファン2には渦電流が流れ、この渦電流によってラインフローファン2が誘導加熱される。
図3は、ラインフローファン2とコイル5との相対的な位置関係を示した斜視図で、コイル5に高周波電流を供給されたときにラインフローファン2に流れる渦電流の様子を示した図である。ラインフローファン2は、空気調和装置の室内ユニットに一般的に用いられているものと同一の形状である。ラインフローファン2は、円筒形状の円周に沿って複数の短冊状の羽根31を有し、外形が円形である複数の板に短冊状の羽根31が挟まれて固定され全体として概略円筒形状をしており、円筒軸を中心にして回転するものである。外形が円形である複数の板は、ラインフローファン2の円筒軸に略直交している。複数の板は、全て円板であってもよいし、全てドーナツ板であってもよいし、円板とドーナツ板とを組合せてもよい。なお、本実施の形態においては、両端に円板32を配置し、それ以外の中間部にはドーナツ板33を配置している。
短冊状の羽根31は、複数であり、円板32やドーナツ板33に略直交するように円板32やドーナツ板33の間に設けられている。複数の短冊状の羽根31は、図2の断面図に示すように、円筒形状の円周の接線と所定の角度を有し、互いに重なり合うように円筒軸方向に伸びている。したがって、ラインフローファンの外周からは各短冊状の羽根31は一部しか見えないようになっている。複数の短冊状の羽根31は、円板32やドーナツ板33と電気的に接続されている。
ここで、図3に示すように、羽根31が円板32及びドーナツ板33、あるいはドーナツ板33同士で挟まれて構成される円筒形状部分を区画と称する。羽根31の長手方向は、ラインフローファン2の円筒軸に対して平行ではなく、少し角度を持っている場合や、ラインフローファン2の円筒軸に平行であるが、隣り合った区画では羽根31の位置がずれている場合などがある。しかしながら、このような場合であっても、複数の短冊状の羽根31が円板32やドーナツ板33の円周方向に並んで、円板32やドーナツ板33で挟まれて固定された構造であれば、本発明が適用できるラインフローファンである。
次に、ラインフローファン2の誘導加熱について説明する。駆動回路12を用いて、ラインフローファン2の円筒側面に対向して配置されたコイル5に高周波電流を流すと、コイル5の長手方向の導線に流れる高周波電流によって発生する磁束がラインフローファン2の羽根31と略直交して鎖交し、羽根31にはこの磁束を打ち消す向きに渦電流が誘起される。なお本発明では、例えば電磁誘導加熱調理器などに用いられる誘導加熱と同様に渦電流という言葉を用いるが、渦電流とは一般には磁束が通過する金属内で磁束の周囲に発生する渦状の電流を言うので、図3に示すように短冊状の羽根31と円板32やドーナツ板33とからなる電気的な閉回路に流れる電流は誘導電流と呼ぶ方が適しているかもしれない。また本発明で言う誘導加熱は、厳密にはコイルで発生する磁束による電磁誘導でラインフローファンに誘導電流を流し加熱しているに過ぎないということもできる。しかしながら、電磁誘導によって誘導電流が流れ加熱されるのであるから、誘導加熱と呼ぶことにする。また、電磁誘導によって流れる電流を渦電流と呼ぶことにする。
ラインフローファン2は、鉄やアルミなどの金属で形成されていたり、樹脂で形成された後、樹脂表面にニッケルめっき、銅めっき、スズめっき、アルミめっきなどの導電膜が形成されていたりするので、羽根31と円板32やドーナツ板33とは電気的に接続されている。このため、図3に示すように、誘起された渦電流は、羽根31から円板32やドーナツ板33を通り、別の羽根31を通り、別の円板32やドーナツ板33を通って、元の羽根31にたどり着くといったループ状の導電性経路を形成して流れる。この渦電流が流れるループは、ラインフローファン2の1つの区画で形成されたり、複数の区画で形成されたり、ラインフローファン2の長手方向の全長に渡る大きなループで形成されたりする。本実施の形態では、コイル5の長手方向の導線の方向をラインフローファン2の羽根31の長手方向と略平行に配置されているので、高周波電流によって発生した磁束が羽根31と略直交して鎖交することによって羽根31に誘起される渦電流はほぼ最大となり、ラインフローファン2に大きな渦電流を流すことができる。この渦電流によって、ラインフローファン2を誘導加熱する効率を高くすることができる。
したがって、例えば羽根31と円板32やドーナツ板33とが電気的に接続されていない場合や、羽根31のみが導電性を有するなどによりループ状の導電性経路を形成しない場合には、大きな渦電流が流れなくなるのでラインフローファン2を加熱することができない。この場合、羽根31が強磁性体である鉄などで形成されていても、図3の断面図に示すように、コイルが配置される円周方向からは、羽根31は重なりあって見えるので、コイルによって発生する磁束は円周方向から見える部分にしか、すなわち羽根31の一部にしか届かずほとんど加熱されない。しかし本発明ではループ状の導電性経路を形成して、渦電流(誘導電流)を流して加熱するので羽根31の全体を加熱することができる。
なお、図3においては、1個のラインフローファン2に対して1個のコイル5をラインフローファン2の円筒形状側面に配置した場合について示した。しかしながら、ラインフローファン2を導電性にして羽根31と円板32やドーナツ板33とを電気的に接続し、ラインフローファン2の区画単位で渦電流が流れる経路も形成しているので、区画に合せてコイルが2個以上であってもよい。コイルの数は、ラインフローファン2の区画の数以上であってもよいが、区画の数より多くあってもコイルの端子が増加し煩雑になるので、区画の数と同数以下であることが望ましい。
また、コイルを複数とした場合、それぞれのコイルの巻き方向は同じである必要はなく、異なる方向であっても良い。さらに、1個のラインフローファン2に対して左右2個のコイルを配置した場合、例えば左側のコイルだけに高周波電流を流してラインフローファン2の左側だけを誘導加熱することによって、左側に集中して電力を投入して左側からだけ高温風を得たりすることができる。つまり、半分の電力の投入で左側からのみ高温風を得たりするといったことができる。このようにラインフローファン2の一部を選択的に加熱したり、全部を加熱したりするということが切り替えられることは、利用者の人数変化や趣向に応じて最適な空気調和ができるといった利点がある。
なお、図2に示すように、ラインフローファン2との間にコイル5が位置するように、フェライトコアやフェライトシートなど絶縁物の磁性体7が配置されている。ラインフローファン2の反対側には磁性体7が配置されることによって、コイル5から発生する磁束のうちラインフローファン2と反対側に発生する磁束は磁性体7を通る。このため、磁性体7より外側に、つまり、室内ユニット1の外側に磁束が漏れることを防ぐことができ、室内ユニット1の裏側に通常存在する住宅などの壁に鉄などの誘導加熱されやすい金属が利用されていても、このような金属が加熱されることを防ぐことができる。このように、コイル5の裏面にフェライトコアなどの磁性体7を配置することによって、ラインフローファン2の誘導加熱効率を高め、室内ユニット1の裏面への漏れ磁束が小さくすることができる。
次に、空気調和装置の動作について説明する。特許文献1にも記載されている冷凍サイクルを利用した空気調和装置の暖房運転では、スイッチを入れてすぐに圧縮機を高回転させることができず、圧縮機が高回転になるまでには数分間要し、この期間中、入力電力容量に余裕が生じる。図4は、空気調和装置を暖房運転する場合の起動時における電力パターンの一例を模式的に示した図である。
図4において、縦軸は電力、横軸は空気調和装置が暖房運転の起動を開始してからの経過時間である。ここで、IH電力とは空気調和装置のコイル5に高周波電流を供給しラインフローファン2を誘導加熱するための電力である。圧縮機電力とは圧縮機に供給される電力であり、圧縮機電力が大きいほど圧縮機は高回転で運転される。全電力は、IH電力と圧縮機電力を合計したものである。図4から分かるように、一例として示したこの空気調和装置の最大電力は2kWであるから入力電力容量は2kWである。IH電力の最大は1.5kWであり、起動直後に圧縮機で利用されない余裕電力2kWの全てを使用していないが、全てを使用してもよい。また、電力パターンはこれに限るものではない。
利用者が空気調和装置のスイッチを入れて、空気調和装置が暖房運転の起動を開始すると、ラインフローファン2が回転し、駆動回路12からコイル5へ高周波電流が供給され、ラインフローファン2が誘導加熱される。ラインフローファン2の回転数に比べて、高周波電流の周波数が桁違いに高いため、ラインフローファン2が回転していてもラインフローファン2を誘導加熱することができる。ラインフローファン2が回転すると室内ユニット1の吹出し口から空気が吹出されるが、この空気は図2に示すようにラインフローファン2を通過するため、誘導加熱により高温となったラインフローファン2によって加熱され温風となって吹出される。ラインフローファン2は高速で回転し、誘導加熱により直接羽根31が加熱され、しかも羽根31の全体が加熱されるので伝熱面積が広く空気への熱伝達が極めて良い。また、ラインフローファン2は、熱交換器3a、3b、3cに比べて熱容量が小さいので、ラインフローファン2が誘導加熱されると急速にラインフローファン2の温度が上昇する。さらに、ラインフローファン2が室内ユニット1の吹出し口の近くに配置されているので、ラインフローファン2によって加熱された空気が室内ユニット1内の他の部品によって熱を奪われることなく吹出される。このようにして利用者が空気調和装置のスイッチを入れてから短時間のうちに温風が吹出されるため、利用者はすぐに暖を得ることができる。
その後、圧縮機電力が徐々に増加し圧縮機の回転数が高くなってくると、冷凍サイクルが動作し始めて外気から熱を取り入れ、熱交換器3a、3b、3cから熱を放出するようになってくる。そして、全電力が空気調和装置の入力電力容量に近づき、入力電力容量に達すると、IH電力が減少するように制御して、全電力が入力電力容量を超えないように運転する。圧縮機電力が最大となって冷凍サイクルが定常動作になるとIH電力はゼロになるように制御する。
図5は、空気調和装置の室内ユニット1の吹出し空気の温度上昇の立ち上がり特性を示した図である。本発明のようにラインフローファン2を誘導加熱して温風を得る場合の温度上昇の経時変化を測定した実験結果である。図5において、縦軸は室内ユニット1の吹出し口での空気の温度上昇値、横軸は空気調和装置が暖房運転の起動を開始してからの経過時間である。実験に使用した空気調和装置の室内ユニット1は、図1及び図2に示すように、熱交換器3a、3b、3cが3個ある構造のものであり、ラインフローファン2を誘導加熱する場合は、ラインフローファン2には鉄製(実験に使用したものは磁性ステンレス)のラインフローファンを用いた。熱交換器を誘導加熱する場合は、3個の熱交換器のうち1個を誘導加熱し、樹脂製のラインフローファンを用いた。実験では、あらかじめ室内ユニット1の吹出し口での風速を2m/sに設定して回転させておき、いきなり誘導加熱のための電力を投入し、電力を投入してからの吹出し口での空気の温度上昇を測定した。誘導加熱のためにコイル5に入力した電力は1.5kWであり、図4のように時間の経過とともに入力電力は変化させていない。コイル5に流した高周波電流の周波数は26kHzである。
図5から分かるように、ラインフローファン2を誘導加熱した場合には、吹出し空気の温度は、電力投入直後から10秒程度で30K程度上昇し、その後飽和する。この理由は、ラインフローファン2は誘導加熱により急速に温度上昇し、空気への熱伝達率が高いためである。なお、ラインフローファン2を誘導加熱する場合は、ラインフローファン2の熱容量が熱交換器3a、3b、3cの熱容量に比べて小さいため、ラインフローファン2の温度上昇が急峻であり、ラインフローファン2は吹出し口に近く、ラインフローファン2によって加熱された空気は室内ユニット1の他の部分に熱を奪われることが非常に少ないため短時間に高温の温風を吹出すことができる。このように、ラインフローファン2を誘導加熱することによって短時間に温風を得ることができることが分かる。
次に、コイル5へ高周波電流を供給する誘導加熱用の駆動回路について説明する。図6は、誘導加熱用の駆動回路12を含めた全体回路図である。駆動回路12は、基板にスイッチング用半導体素子9と、スイッチング用半導体素子9にゲート信号などのスイッチング用の信号を供給するためのドライバ集積回路14を配置して構成される。スイッチング用半導体素子9としては、例えばIGBTやMOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)が用いられる。駆動回路12は、例えばスイッチング用半導体素子9を2個直列にして構成した、いわゆるハーフブリッジ回路で構成される。なお、駆動回路12の構成は、このようなハーフブリッジ回路に限るものではなく、ハーフブリッジ回路を2組並列にしたフルブリッジ回路や、一石型共振回路など、電磁誘導加熱調理器などで一般的に用いられている他の形態の回路構成であってもよい。本実施の形態では駆動回路12は、ハーフブリッジ回路で構成されるとして説明する。
整流用半導体素子10は、交流電源11から供給される交流電圧を全波整流して、脈流となった直流電圧に変換するものであり、この直流電圧をスイッチング用半導体素子9が配置された駆動回路12に供給する。交流電源11としては、100Vあるいは200Vなどの商用コンセントが一般的に用いられる。駆動回路12の出力端は、コイル5とコンデンサ13とを直列接続した直列接続体に接続される。なお、コンデンサ13は、図1では部品記号で示し、図2には図示していないが、コイル5の近傍であって室内ユニット1の内部に配置される。コンデンサ13がコイル5の近傍に配置される理由は、コイル5とコンデンサ13の直列接続が、いわゆる直列共振回路を構成し、コイル5とコンデンサ13との間の接続ケーブルには高電圧が発生するので、高電圧のケーブルを長くすると、高い絶縁性を必要とする部分が長くなり、高コストの要因となることが望ましくないためである。
駆動回路12は、望ましくは金属などの筐体15に覆われて充電部が露出しないようになっている。そして、室内ユニット1用の小電力回路16は、交流電源11から電力を供給され、ドライバ集積回路14にスイッチング用半導体9のスイッチングを制御する信号を出力するとともに、室内ユニット1全体の制御を行ったり、ラインフローファン2を回転するためのモータを駆動したりする。そして、駆動回路12、整流用半導体素子10、小電力回路16、コイル5、コンデンサ13などが室内ユニット1の内部に配置され、カバー17で覆うことによって空気調和装置の室内ユニット1が構成される。一方、室外ユニットに配置される大電力回路18にも交流電源11から交流電圧が供給され、大電力回路は室外ユニットの制御や室外ユニット内に配置された圧縮機の駆動を行う。
このように構成された空気調和装置の室内ユニット1において、駆動回路12に配置されたハーフブリッジ回路を構成する2個のスイッチング用半導体素子9を、20〜100kHzの周波数で交互にスイッチング(オン・オフ制御)すると、コイル5に20〜100kHzの高周波電流が流れる。この高周波電流はコイル5の周囲に高周波磁束を発生し、導電性のラインフローファン2を誘導加熱する。したがって、ラインフローファン2が回転することにより室内ユニット1の吹き出し口から温風が得られる。
ところで、コイル5に高周波電流を流すと、スイッチング用半導体素子9や整流用半導体素子10は、導通損失やスイッチング損失によって発熱し、適切に放熱されないとスイッチング用半導体素子9や整流用半導体素子10の許容温度を超えて温度上昇するため、スイッチング用半導体素子9や整流用半導体素子10が破損するおそれがある。
そこで、本実施の形態では、図1に示すように、熱伝導性のベース部材であるアルミベース8a、8bが補助熱交換器3bに設けられている。アルミベース8aにはIGBTやMOSFETなどのスイッチング用半導体素子9が取り付けられ、アルミベース8bにはブリッジダイオードなどの整流用半導体素子10が取り付けられている。アルミベース8a、8bは、補助熱交換器3bと良好に熱的に接続されている。このため、スイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10の発熱がアルミベース8a、8bを通じて補助熱交換器3bに良好に伝導される。つまり、熱交換器である補助熱交換器3bを介してスイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10の発熱を放熱することができる。
コイル5に高周波電流を流す場合、温風を得るためラインフローファン2が回転しているので、補助熱交換器3bにはラインフローファン2によって吸気される空気流が通るため、補助熱交換器3bに伝熱されたスイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10からの熱は効率良く空気に放熱される。したがって、スイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10の発熱は効率良く放熱されるので、スイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10の温度上昇を許容温度以下に抑えることができる。そして、放熱された熱は温風に利用されるためエネルギーの損失にもならないといった利点も得られる。なお、補助熱交換器3b内部の冷媒管内に液状の冷媒が存在する場合には、スイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10を冷却する能力はさらに高くなるが、冷媒管内に液状の冷媒が存在することを確実にするためには冷媒の制御が必要になる。しかしながら、本発明にあっては液状の冷媒の存在を必須とはしていないので、冷媒の制御も不要となる。なお、補助熱交換器3b内部の冷媒管内に液状の冷媒が存在する場合の実施を妨げるものではない。
図7は、スイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10を冷却するためのアルミベース8a、8bを備える補助熱交換器3bの製造方法を示す図である。なお、アルミベース8a、8bを備える熱交換器は補助熱交換器3bには限らないので、主熱交換器3aや他の補助熱交換器3cにアルミベース8a、8bを備える場合であっても同様の方法で製造することができる。補助熱交換器3bは、銅やアルミなどの金属製の冷媒管20と金属プレートである厚さ0.1mm程度のアルミ製のフィン21とが格子状に組み合わされて構成される。つまり、複数の冷媒管20は、複数のフィン21を貫通し、複数のフィン21に対して略直交して設けられている。フィン21は、短冊状のアルミ板であり、冷媒管20が通る穴22が複数設けられ、穴22の周囲にはアルミ板を折り曲げることで形成されるカラー部23が設けられている。カラー部23の高さは、フィン21の間隔を決定し、ルームエアコンの室内ユニットの場合には1〜2mmの範囲で設定されるのが一般的である。カラー部23は、フィン21の間隔を決定するとともに冷媒管20との熱的接触面積を増加させる役割を持つ。
図7(a)に示すように、冷媒管20に複数のフィン21を通した後、同様にアルミベース8aを通し、その後さらに複数のフィン21を通す。そして、図示していないアルミベース8bを通す。アルミベース8a、8bにはフィン21と同様に冷媒管20を通すための複数の穴が設けられている。このように冷媒管20とフィン21及びアルミベース8a、8bを組み合わせると図7(b)に示すような構成になる。
このままの状態では、冷媒管20とフィン21及びアルミベース8a、8bとの熱的接触は十分でなく、熱伝導率が小さい。そこで、図7(b)に示すように先端に鋼製などの球状体を設けた拡管治具24を冷媒管20の内部に通して冷媒管20の直径を広げる。拡管治具24は、冷媒管20の奥まで押し込まれ、その後引き抜かれる。これにより、フィン21及びアルミベース8a、8bを有する部分の冷媒管20の直径が大きくなり、冷媒管20はフィン21及びアルミベース8a、8bと密着されて熱伝導率が小さくなる。このようなプロセスを拡管といい、冷媒管20及びフィン21のみからなる熱交換器の製造プロセスでは一般に用いられる工程である。したがって、一般の熱交換器の製造プロセスを大きく変更することなく、本発明に示すアルミベースを有する熱交換器を簡単に製造することができる。なお、アルミベースを有する熱交換器の製造方法はここに示したものに限らず、例えばロウ付けなどの方法によりアルミベースを冷媒管に接続してもよい。
アルミベース8a、8bは、スイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10を固定するためのネジ穴25a、25bを有しており、スイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10は、ネジ穴25a、25bを利用してネジ止めによってアルミベース8a、8bに固定される。この固定方法は、半導体素子をヒートシンクなどにネジ止めにより固定する一般的な方法と全く同じである。
次に実験結果を示す。図1、2に示した構成の空気調和装置を作製し、ラインフローファン2を誘導加熱した場合のスイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10の温度上昇を測定した。実験では、交流電源11の周波数を60Hz、電圧を200V(実効値)とし、スイッチング用半導体素子9を駆動周波数25kHzでスイッチングさせて2.64kWの電力が交流電源11からコイル5に供給されるようにした。また、スイッチング用半導体素子9がスイッチングを開始するまではラインフローファン2を停止させておき、電力を供給してスイッチング用半導体素子9がスイッチングを開始するとラインフローファン2を低速で10秒間回転させ、その後高速で回転させて風速6m/sの温風が吹き出されるように運転した。そして、図5に示すように、誘導加熱開始後10秒の極めて短時間に十分に高温になった温風を得ることができる。
なお、実験では、スイッチング用半導体素子9としてIGBTを用い、整流用半導体素子10としてダイオードブリッジを用いた。IGBTは、アルミブロック8a側すなわちIGBT裏面のコレクタ(銅板)に幅1mm、深さ1mmの切り込みを入れて熱電対を埋め込み、その後切り込みをインジウムで埋めて取り付けた。ダイオードブリッジは、アルミブロック8bと反対側の表面に熱電対をテープで貼り付けた。IGBTとアルミブロックとの間には熱伝導性の絶縁シートを配置した。
図8は、2.64kWの電力を入力したときのスイッチング用半導体素子9であるIGBTと整流用半導体素子10であるダイオードブリッジの温度上昇を示したものである。ハーフブリッジ回路なのでIGBTは2個存在し、図8にも2個のIGBTの温度上昇を示したが、ほとんど重なったため図の注釈では2個まとめて「IGBT」とだけ示した。実験では、コイル5に2.64kWの電力を連続して20分間入力した。図8から分かるように、20分経過後のIGBTの温度上昇は約80K、ダイオードブリッジの温度上昇は約60Kであった。実験を行った時の周囲温度は30℃であるので、IGBTの温度は110℃、ダイオードブリッジの温度は90℃まで上昇していることになる。
図4に示すように、誘導加熱によってラインフローファン2から温風吹出しを行う時間は、ヒートポンプ運転が立ち上がるまでの数分間であり、ラインフローファン2を誘導加熱するためのIH電力も圧縮機電力の増大と共に徐々に低下する。このため、2.64kW入力での20分間連続動作は、このような目的に十分使用し得ることを意味する。また、空気調和装置を暖房運転するときの室温は概ね20℃以下であることから、周囲温度30℃の環境下でのこの実験結果は上記目的に十分使用し得ることを意味する。
なお、実験に使用したIGBT及びダイオードブリッジは、Siを原料とした半導体素子であり、Si半導体素子のPN接合部の最大定格温度は150℃である。上述のように、実験ではSi半導体素子のPN接合部を直接測定したわけではないので、実験における温度測定位置と接合部との間の熱抵抗及びIGBT、ダイオードブリッジの損失から、接合部が150℃になるときの周囲温度を計算する。IGBT及びダイオードブリッジは、それぞれ温度測定位置と内部のPN接合部との間にはパッケージングケースの熱抵抗が存在するため、内部のPN接合部の温度は温度測定を行った箇所より高くなる。別途、IGBT及びダイオードブリッジの損失を測定すると、IGBT1個当たりの損失は55W、ダイオードブリッジの損失は39Wである。IGBT及びダイオードブリッジのカタログ値からケースの熱抵抗がわかる。本実験に用いたIGBT及びダイオードブリッジの場合、温度測定位置と内部のPN接合部との間で、それぞれ32K、39Kの温度上昇を見積もることができる。図8に示すように、温度測定位置では、それぞれ80K、60Kの温度上昇であるので、PN接合部での温度上昇は、それぞれ32K+80K=112K、39K+60K=99Kとなる。
Si半導体素子のPN接合部の最大定格温度は150℃であり、IGBTの場合には最大112Kの温度上昇の可能性があるので、空気調和装置は周囲温度38℃の環境まで支障なく運転することができる。また、ダイオードブリッジの場合には最大99Kの温度上昇の可能性があるので、空気調和装置は周囲温度51℃の環境まで支障なく運転することができるが、装置全体としては温度上昇が高いIGBTに合わせて、周囲温度38℃以下で運転する。このような、周囲温度条件で、2.64kW入力で誘導加熱によってラインフローファン2から風速6m/sの温風を連続的に得ることができる。
IGBTとダイオードブリッジのそれぞれの損失は、IGBTが2個で約110W、ダイオードブリッジが約39Wであった。このようにIGBTの損失の方がダイオードブリッジの損失よりも大きいため、図1に示すようにIGBTを取り付けるアルミブロック8aは、補助熱交換器3bの両端部を除く中央部付近に配置して、アルミブロック8aが複数のフィン21に挟まれるようにしている。アルミブロック8aやフィン21と直交する冷媒管20は肉厚0.5mm以下の銅やアルミのパイプが用いられるのが一般的であり、冷媒管20の断面積が小さいため管長方向への熱伝導があまり良くないので、アルミブロック8aの両側10cm程度の領域の補助熱交換器3bが放熱に有効な範囲となる。このため、図1のように、アルミブロック8aを補助熱交換器3bの中央部付近に配置することによってアルミブロック8aの両側合計約20cmの領域の熱交換器を放熱のために利用することができる。また、スイッチング用半導体素子9のためのアルミブロック8aと、整流用半導体素子10のためのアルミブロック8bを、概ね20cm程度離して配置することによって、互いの放熱の受けないようにすることができ独立に熱設計を行うことができる。
以上のように、補助熱交換器3bを介して、ラインフローファン2を誘導加熱するために用いるスイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10の冷却を行うため、室内ユニット1内部にスイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10を冷却するためのヒートシンクや空冷ファンを設ける必要がないので、空気調和装置の室内ユニット1を大型化することなく、室内ユニット1を小型に保ったまま、誘導加熱を利用した温風が吹き出す空気調和装置を得ることができる。
実施の形態2.
図9は、本発明を実施するための実施の形態2における空気調和装置の室内ユニットを示す一部分解斜視図である。また、図10は、図9の破線で示した面Bでの空気調和装置の室内ユニットの断面図である。図9、図10において、図1、図2と同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものであり、このことは明細書の全文において共通することである。また、本発明とは直接関係ない部分は省略して示している。本実施の形態における空気調和装置は、コイルを熱交換器に面して配置している点が実施の形態1と異なる。なお、本実施の形態においても駆動回路は、実施の形態1で示したものと同様の回路構成のものを使用することができる。本実施の形態では、駆動回路について詳しく示さないが、図6に示したものと同一の駆動回路を用いた場合について説明する。
本実施の形態の室内ユニット51では、熱交換器は主熱交換器50a、50b、50cのみを有し、補助熱交換器3b、3cがない場合について述べるが、補助熱交換器3b、3cを用いた室内ユニット51であってもよい。図9、図10において、コイル5はリッツ線などの導線を長方形あるいは長円形のリング状に巻いて形成したものであり、例えばφ0.3mmの被覆銅線を19本撚り線にしたリッツ線を20回巻いて形成される。略長方形状のコイル5の2本の長辺5a、5bは主熱交換器50cの冷媒管20の直径と同程度の幅であり、主熱交換器50cを通る気流を妨げることなくラインフローファン2に導くことができる。コイル5は、主熱交換器50cの一部に面して配置され、コイル5に20〜100kHzの高周波電流を供給すると、コイル5が面する部分の主熱交換器50cが誘導加熱され、室内ユニット51の吹き出し口より温風が吹き出される。また、実施の形態1で示したように、導電性を有するラインフローファン2を用いることで、主熱交換器50c及びラインフローファン2の両方を誘導加熱して温風を得ることもできる。
本実施の形態においては、コイル5が面する主熱交換器50cが誘導加熱されるため、実施の形態1とは異なり駆動回路のスイッチング用半導体素子9や整流用半導体素子10を冷却するために用いる熱交換器の選択に制限がある。すなわち、誘導加熱される熱交換器は高温になるため半導体素子の冷却には不向きである。したがって、主熱交換器50a、50b、50cのうち、コイル5に面しない部分の主熱交換器50a、50bを利用して半導体素子の冷却を行えばよい。本実施の形態では、図9及び図10に示すように、主熱交換器50bを利用して、実施の形態1と同様にスイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10の冷却を行っている。
図9に示すように、熱伝導性のベース部材であるアルミベース58a、58bが主熱交換器50bに設けられている。アルミベース58aにはIGBTやMOSFETなどのスイッチング用半導体素子9が取り付けられ、アルミベース58bにはブリッジダイオードなどの整流用半導体素子10が取り付けられている。アルミベース58a、58bは、主熱交換器50bと良好に熱的に接続されている。このため、スイッチング用半導体素子9や整流用半導体素子10の発熱がアルミベース58a、58bを通じて主熱交換器50bに良好に伝導される。つまり、主熱交換器50bを介してスイッチング用半導体素子9や整流用半導体素子10の発熱を放熱することができる。
なお、実施の形態1の図1に示す室内ユニット1とは異なり本実施の形態では、スイッチング用半導体素子9を固定するためのアルミベース58aも、整流用半導体素子10を固定するためのアルミベース58bと同様、熱交換器50bの端に配置されている。これは、本実施の形態では、アルミベース58a、58bが主熱交換器50bに組み込まれており、主熱交換器の方が補助熱交換器より放熱能力が優れていることによるものである。すなわち、例えば市販の空気調和装置の室内ユニットでは、主熱交換器の或る一面の冷媒管の本数は12本(6列×2段)であり、補助熱交換器の冷媒管の本数は4本(4列×1段)である。このため、スイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10の放熱に寄与する冷媒管の断面積が、主熱交換器は補助熱交換器の3倍大きく、主熱交換器の方が補助熱交換器よりも放熱能力が優れている。したがって、熱交換器50bのアルミベース58aの片側の部分からしか放熱されなくても、スイッチング用半導体素子9を十分に冷却することができる。
なお、本実施の形態のように、コイル5が主熱交換器50cに面して配置する場合であっても、スイッチング用半導体素子9を冷却するためのアルミベース58aを熱交換器50bの中央付近に配置してもよい。また、実施の形態1と同様に、補助熱交換器3bにアルミベース8a、8bを設けて、スイッチング用半導体素子9や整流用半導体素子10を、これらのアルミベース8a、8bに取り付けてもよい。この場合、スイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10を冷却するために用いられる補助熱交換器3bが誘導加熱によって高温にならないように、コイル5の配置や熱交換器の選択を行えばよい。また、実施の形態1のようにリアケーシング4に面状コイルを配置してラインフローファン2を誘導加熱する場合であっても、主熱交換器50bにアルミベース58a、58bを設けてスイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10を冷却してもよい。
以上のように、ラインフローファン2を誘導加熱するためのコイル5を主熱交換器50cに面して配置する場合であっても、主熱交換器50bを介して、ラインフローファン2を誘導加熱するために用いるスイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10の冷却を行うため、室内ユニット51内部にスイッチング用半導体素子9及び整流用半導体素子10を冷却するためのヒートシンクや空冷ファンを設ける必要がないので、空気調和装置の室内ユニット51を大型化することなく、室内ユニット51を小型に保ったまま、誘導加熱を利用した温風が吹き出す空気調和装置を得ることができる。
実施の形態3.
図11は、本発明を実施するための実施の形態3における空気調和装置の室内ユニットを示す一部分解斜視図である。本実施の形態における空気調和装置は、整流用半導体素子としてワイドバンドギャップ半導体で形成したダイオードを用い、整流用半導体素子を冷却するためのアルミベースを設けずに、スイッチング用半導体素子を冷却するためのアルミベースのみを設けている点が実施の形態1と異なる。
本実施の形態では、整流用半導体素子は、室内ユニット61用の小電力回路66と一緒にパッケージングされており、図示していない。整流用半導体素子にワイドバンドギャップ半導体によって形成されたダイオードを適用し、スイッチング用半導体素子9にSi半導体によって形成されたMOSFETやIGBT等を適用している。ワイドバンドギャップ半導体は、シリコンに比べてバンドギャップが大きい半導体である。例えば、3−5族半導体、特に窒化物半導体は大きなバンドギャップを有する。ワイドバンドギャップ半導体の具体例としては、シリコンカーバイド(SiC)、窒化ガリウム系材料又はダイヤモンドがある。また、シリコンのバンドギャップ1.12eVの2倍程度以上のバンドギャップを有する半導体でもよい。ワイドバンドギャップ半導体によって形成されたダイオードを使用することによって整流用半導体素子の導通損を低減できる。また、整流用半導体素子のみをワイドバンドギャップ半導体によって形成するので、電力変換装置の製造コストの増加を軽減することができる。
図11において、補助熱交換器3dにスイッチング用半導体素子9を取り付けるためのアルミベース8aが設けられている。アルミベース8aは、補助熱交換器3dと良好に熱的に接続されている。このため、スイッチング用半導体素子9の発熱がアルミベース8aを通じて補助熱交換器3dに良好に伝導される。実施の形態1の図1と異なり、整流用半導体素子を取り付けるためのアルミベースが設けられていない。しかしながら、ワイドバンドギャップ半導体によって形成されたダイオードを使用することによって、整流用半導体素子での電力損失を低減することができ、整流用半導体素子の発熱を抑えることができる。このため、実施の形態1のように、アルミベースを設けて整流用半導体素子を冷却する必要がない。
以上のように、整流用半導体素子にワイドバンドギャップ半導体によって形成されたダイオードを使用することによって、整流用半導体素子の発熱が少ないので、整流用半導体素子を冷却するためのアルミベースを設けなくても、空気調和装置の室内ユニット61を大型化することなく、室内ユニット61を小型に保ったまま、誘導加熱を利用した温風が吹き出す空気調和装置を得ることができる。また、全ての半導体素子をワイドバンドギャップ半導体によって形成しないので、誘導加熱を行うための回路コストの増加を軽減することができる。
実施の形態4.
図12は、本発明を実施するための実施の形態4における空気調和装置の室外ユニットのヒートポンプ用熱交換器の斜視図である。実施の形態1〜3においては、空気調和装置の室内ユニット内のラインフローファンを誘導加熱する場合について説明したが、空気調和装置の室外ユニット内のヒートポンプ用熱交換器を誘導加熱する場合にも本発明を適用することができる。
図12において、ヒートポンプ用熱交換器101は、導電性の熱交換器102と、熱交換器102に面して設けられ、熱交換器102を誘導加熱するためのコイル105とによって構成される。熱交換器102は、穴開き金属プレートからなる複数のフィン103と、金属パイプである冷媒管104とによって構成される。熱交換器102には、スイッチング用半導体109及び整流用半導体素子110を取り付けるためのアルミベース108が設けられている。アルミベース108は、熱交換器102と良好に熱的に接続されている。このため、スイッチング用半導体素子109及び整流用半導体素子110の発熱がアルミベース108を通じて熱交換器102に良好に伝導される。つまり、スイッチング用半導体素子109及び整流用半導体素子110の発熱は熱交換器102を介して放熱される。なお、実施の形態1で示した補助熱交換器にアルミベースを取り付ける場合と同じ方法によって、熱交換器102にアルミベース108を取り付けることができる。
整流用半導体素子110は、交流電源111から供給される交流電圧を全波整流して、脈流となった直流電圧に変換するものであり、この直流電圧をスイッチング用半導体素子109が配置された駆動回路に供給する。また、小電力回路116は室外ユニット内に設けられ、交流電源111から電力の供給を受け、ドライバ集積回路へスイッチング用半導体109のスイッチングを制御する信号を出力する。スイッチング用半導体109を、20〜100kHzの周波数で交互にスイッチングすることによって、コイル105に20〜100kHzの高周波電流が流れる。なお、スイッチング用半導体素子109及び整流用半導体素子110は、コイル105自体の発熱の影響を避けるために、コイル105に対向しない面に設けられている。
本実施の形態では、フィン103はアルミ製で、厚さ0.1mm程度であり、冷媒管104は銅またはアルミ製である。冷媒管104は、冷媒管104の延伸方向に並べて配置(積層)された複数のフィン103を貫通し、複数のフィン103と略直交して設けられている。そして、複数のフィン103と冷媒管104は電気的に接続されている。このように、複数のフィン103は、冷媒管104と略直交し、冷媒管104とともに格子状のループを形成するように設けられている。図12では、熱交換器102及びコイル105の構成を分かりやすく示すために、熱交換器102から距離を設けてコイル105を示しているが、実際には、コイル105は熱交換器102に対して数cm以下程度に接近あるいは一部が接するように近接させて配置されている。なお、コイル105は、複数の冷媒管104を並べた面に略平行に対向して配置されている。
冷媒管104の端部104a、104bは、図示しないヒートポンプ装置の冷媒回路に接続され、冷媒が冷媒管104の内部を流入、流出して冷凍サイクルが行われる。コイル105は、例えば、直径0.3mmの被覆銅線を19本撚った所謂リッツ線を導線として周回して長方形状に巻いたものであり、冷媒管104の長手方向に沿って略平行部分を有するように矩形状に周回されて、熱交換器102と略平行に対向して配置されている。なお、コイル105の端部は、誘導加熱用の駆動回路に接続されている。図12において示したコイル105は、冷媒管104に対して平行なコイル導線の数を4本として示したが、これに限るものではない。また、コイル105の巻数も任意であってよく、例えば10〜40ターンであってよい。さらに、コイル105を形成した後に、リッツ線をエポキシ系接着剤などで硬化させればコイル105の形状を任意の形状に形成したまま、容易に形状を保持することができる。このようなコイル105の形成に適した導線として、リッツ線の周囲にエポキシ系接着剤を設けた自己融着導線が導線メーカ各社から市販されており容易に入手することができる。さらに、コイル105を形成した後に、樹脂などの絶縁物でコイル105の表面を覆ってコイル105を保護してもよい。
冷媒管104に対して平行なコイル導線の配置の間隔を、熱交換器102の冷媒管104の配置の間隔より広くすることによって、熱交換器102のフィン103と垂直方向(冷媒管104を配置した面に対して垂直な方向)に空気流がある場合であっても空気流を妨げることがない。また、冷媒管104に対して平行なコイル導線と冷媒管104とが対向した位置に配置されれば、空気流の流れから見てコイル導線は冷媒管104に重なっているので、実質的にコイル105によって空気流がほとんど妨げられず、熱交換器102の空気通過性能を低下させることがない。なお、空気流はコイル105側から流入し熱交換器102を通過してもよいし、空気流がコイル105側から流出してもよい。
熱交換器102は、空気調和装置や冷凍機などのヒートポンプ装置において一般的に用いられているフィンチューブ型熱交換器であり、格別の特徴を有するものではない。したがって、ここに示す熱交換器と同様の構成であり、同様の動作をするものであれば、本発明に用いられる熱交換器である。
次に、熱交換器102を誘導加熱する動作について説明する。図12に示したヒートポンプ用熱交換器101において、誘導加熱用の駆動回路からコイル105に20〜100kHz程度の高周波電流を流すと、コイル105の導線の周囲に高周波磁場が発生し、熱交換器102が誘導加熱される。図13は、熱交換器102が誘導加熱される現象を詳しく説明するための説明図であり、図12と同じヒートポンプ用熱交換器101のコイル105に高周波電流を流した時のコイル105に流れるコイル電流の様子、高周波磁場の磁束の様子、熱交換器102に流れる渦電流の様子を示したものである。誘導加熱の動作のみをわかりやすく説明するため、スイッチング用半導体素子、整流用半導体素子、アルミベース等を示していない。なお、高周波電流は半周期ごとに極性が反転し、コイル電流の向きが変わるが、説明のために一方の向きにコイル電流が流れている時点について示している。
誘導加熱用の駆動回路を用いてコイル105に高周波電流を流すと、コイル105の導線の周囲に右ネジの法則に従う向きで高周波磁場が発生し、図13に示すように磁束が発生する。この磁束はコイル105に面した位置にある熱交換器102に鎖交し、熱交換器102に渦電流が流れる。熱交換器102に用いられたアルミ等の金属材料には通常電気抵抗があるため、金属に渦電流が流れると電気抵抗に比例したジュール熱が発生することによって、熱交換器102は誘導加熱されることになる。図12に示すように、コイル105は熱交換器102の冷媒管104に対向して複数のリッツ線を束ねたコイル導線を有するので、これらのコイル導線に対向した冷媒管104に起電力が誘起される。熱交換器102は水平方向に長手方向を有する冷媒管104と垂直方向に長手方向を有するフィン103とが電気的に接続されているので、格子状の導電路を形成しているといえる。このため、冷媒管104に誘起された起電力によって、冷媒管104からフィン103を通って、他の冷媒管104を通って他のフィン103を通り、再び元の冷媒管104に達するといったループ状の電流経路が形成されて熱交換器102に渦電流が流れる。なお、ここで述べた渦電流も実施の形態1で述べたように誘導電流と呼び、ここで用いた加熱方法を誘導加熱と呼ばない方が学術的には適切かもしれないが、本発明はこれらの用語の解釈によって判断されるものではない。
本実施の形態におけるヒートポンプ用熱交換器101では、コイル導線に近い冷媒管104が最も高温に誘導加熱されるが、フィン103と冷媒管104は熱的にも接続されているので、冷媒管104の発熱はフィン103や他の冷媒管104へも熱伝導し、熱交換器102が全体的に加熱される。また、フィン103と冷媒管104との間に接触抵抗などの電気抵抗体を有する場合には、この電気抵抗体が主たる発熱源となり、フィン103や冷媒管104は電気抵抗体への導電路のように働く。電気抵抗体は、フィン103と冷媒管104との交点に存在するため熱交換器102の全面に渡って存在するので、熱交換器102の誘導加熱する効率を向上させるとともに、熱交換器102を均一に誘導加熱するための働きもする。
ここで、ヒートポンプ用熱交換器を使用したヒートポンプ装置について説明する。ヒートポンプ装置は、蒸発器、圧縮機、及び凝縮機を備えており、ヒートポンプ装置を暖房装置として使用する場合、蒸発器で低温の空気を取り込み、圧縮機で低温の空気を圧縮して高温・高圧化し、凝縮機で温熱を排出する。冬季など、室外ユニットが設置された周囲の空気温度が低い場合には、室外ユニットが空気から熱を吸収するため、室外ユニットの熱交換器の温度は、周囲の空気温度より低くなる。このため、室外ユニット内の熱交換器の温度が氷点下になると空気中の水分が熱交換器に氷や霜となって付着する(着霜)。熱交換器に着霜すると、氷や霜は熱伝導率が低いため熱交換器の加熱効率が低下するなどの性能が低下し、空気から十分な熱を吸収できなくなるので、熱交換器に付着する氷や霜を溶かす(除霜)必要がある。
そこで、本実施の形態のヒートポンプ用熱交換器101を用いたヒートポンプ装置では、熱交換器102に着霜が発生しても、例えば室外ユニット内の圧縮機を停止し、ヒートポンプ用熱交換器101のコイル105に高周波電流を供給することによって熱交換器102を誘導加熱し、熱交換器102を除霜することができる。また、周囲の空気温度が氷点以上の場合には、圧縮機を停止させずに冷凍サイクルの状態のまま、コイル105に高周波電流を供給して熱交換器102の温度を氷点以上まで上昇させて、熱交換器102を除霜することもできる。
また、本発明のヒートポンプ用熱交換器101を用いたヒートポンプ装置では、コイル105に高周波電流を供給するだけで除霜を行うことができ、冷媒回路の各部の温度変化を待つ必要がないため、頻繁に除霜を行うことができる。したがって、着霜して性能が低下した状態の熱交換器102を長く使用することがない。また、溶けやすい小さな氷や霜を溶かすので、短時間に除霜を終了することができる。このため、ヒートポンプ装置のエネルギー利用効率を向上させることができる。さらに、本発明のヒートポンプ用熱交換器101を用いたヒートポンプ装置では熱交換器102の全体に渡ってほぼ均一に加熱されるため、逆サイクルによる除霜運転を行う場合のように熱交換器の上方では除霜が完了しているのに下方では未だ除霜が行われておらず、熱交換器の上方が必要以上に高温になり、エネルギーの無駄が生じるといった問題がない。なお、ここでは室外ユニットを有する空気調和装置、給湯装置、床暖房装置などのヒートポンプ装置について述べたが、熱交換器が配置された庫内を冷凍する冷凍庫や冷蔵庫などの除霜にも本発明のヒートポンプ用熱交換器101を同様に適用することができる。
このような、ヒートポンプ用熱交換器101において、整流用半導体素子110及びスイッチング用半導体素子109などによって構成される誘導加熱用の駆動回路は、コイル105へ高周波電流を供給するものであるが、実施の形態1で説明した誘導加熱用の駆動回路と同様の動作を行う。実施の形態1と同様に、コイル105に高周波電流を流すと、スイッチング用半導体素子109や整流用半導体素子110は、導通損失やスイッチング損失によって発熱し、適切に放熱されないとスイッチング用半導体素子109や整流用半導体素子110の許容温度を超えて温度上昇するため、スイッチング用半導体素子109や整流用半導体素子110が破損するおそれがある。
そこで、本実施の形態では、図12に示すように、熱交換器102にスイッチング用半導体素子109及び整流用半導体素子110を取り付けるためのアルミベース108が設けられている。アルミベース108にはIGBTやMOSFETなどのスイッチング用半導体素子109及びブリッジダイオードなどの整流用半導体素子110が取り付けられている。アルミベース108は、熱交換器102と良好に熱的に接続されている。このため、スイッチング用半導体素子109及び整流用半導体素子110の発熱がアルミベース108を通じて熱交換器102に良好に伝導される。ここで、ヒートポンプ用熱交換器101は室外に設置され、熱交換器102自体も着霜するくらい低温である。このため、熱交換器102に伝熱されたスイッチング用半導体素子109及び整流用半導体素子110からの熱は効率良く熱交換器102に放熱される。また、スイッチング用半導体素子109及び整流用半導体素子110から熱交換器102に放熱された熱は、熱交換器102の除霜に利用されるので、損失とはならない。このように、スイッチング用半導体素子109及び整流用半導体素子110の発熱は効率良く放熱されるので、スイッチング用半導体素子109及び整流用半導体素子110の温度上昇を許容温度以下に抑えることができる。
また、図14に示した空気調和装置の室外ユニットのヒートポンプ用熱交換器121のように、スイッチング用半導体素子109や整流用半導体素子110などによって構成される誘導加熱用の駆動回路を、コイル125に面する側のアルミベース108に設けてもよい。この場合、コイル125自体の発熱で、誘導加熱用の駆動回路を加熱することを防ぐために、コイル125の外形面積を少し小さくして、コイル125と誘導加熱用の駆動回路が対向しないようにする必要がある。
また、実施の形態3に示したように、整流用半導体素子にワイドバンドギャップ半導体によって形成されたダイオードを適用してもよい。
以上のように、熱交換器102にアルミベース108を設けることによって、誘導加熱するために用いるスイッチング用半導体素子109及び整流用半導体素子110の冷却を行うため、室外ユニット内にスイッチング用半導体素子109及び整流用半導体素子110を冷却するためのヒートシンクや空冷ファンを設ける必要がない。
なお、すべての実施の形態において、半導体素子を取り付ける部材をアルミベースとしたが、最も一般的な材料としてアルミを例示したものであり、材料はアルミに限るものではなく、銅等他の金属材料であってもよく、窒化アルミニウムのような熱伝導率の高いセラミックス材料などであってもよい。