実施の形態1.
図1は、この発明を実施するための実施の形態1におけるヒートポンプ用熱交換器の斜視図である。ヒートポンプ用熱交換器1は、熱交換器2と、熱交換器2に面して設けられ、交換器2を誘導加熱するためのコイル6とによって構成される。熱交換器2は、穴開き金属プレートからなるフィン3と、金属パイプである冷媒管4とによって構成される。本実施の形態では、フィン3はアルミ製で、厚さ0.1mm程度であり、冷媒管4は銅またはアルミ製である。冷媒管4は、冷媒管4の延伸方向に並べて配置(積層)された複数のフィン3を貫通し、複数のフィン3と略直交して設けられている。そして、複数のフィン3と冷媒管4は電気的に接続されている。このように、複数のフィン3は、複数の冷媒管4と略直交し、複数の冷媒管4とともに格子状のループを形成するように設けられている。図1では、熱交換器2およびコイル6の構成を分かりやすく示すために、熱交換器2から距離を設けてコイル6を示しているが、実際には、コイル6は熱交換器2に対して数cm以下程度に接近あるいは一部が接するように近接させて配置されている。なお、コイル6は、複数の冷媒管4を並べた面に略平行に対向して配置されている。
熱交換器2の冷媒管4の端部5a、5bは、図示しないヒートポンプ装置の冷媒回路に接続され、冷媒が冷媒管4の内部を流入、流出して冷凍サイクルが行われる。コイル6の端部7a、7bは、高周波電源8に電気的に接続され、高周波電源8より高周波電流がコイル6へ供給される。図2は、本実施の形態におけるヒートポンプ用熱交換器1のコイルの巻き方を示す図である。コイル6は、例えば、直径0.3mmの被覆銅線を19本撚った所謂リッツ線を図2に示すように長方形状に巻いたものである。つまり、コイル6は、導線であるリッツ線を周回して形成したものである。コイル6は、熱交換器2の冷媒管4と平行な方向にはリッツ線を複数本束ねてコイル導線6a、6b、6c、6dを形成し、冷媒管4と垂直な方向にはコイル導線6a、6b、6c、6dに繋がる導線が全て束ねられている。コイル6の外見は、複数のコイル導線6a、6b、6c、6dが所定の間隔を隔てて平行に設けられた形状となっている。また、冷媒管4の長手方向と各コイル導線6a、6b、6c、6dとは平行になっている。このように、コイル6は、冷媒管4の長手方向に沿って略平行部分を有するように矩形状に周回されて、熱交換器2と略平行に対向して配置されている。
なお、図1および図2において示したコイル6は、冷媒管4に対して平行なコイル導線6a、6b、6c、6dの数を4本として示したが、これに限るものではなく、コイル導線が2つであってもよいし、6つであってもよく、5つといった奇数であってもよく、すなわち2つ以上の任意であればよい。コイル導線の数が奇数の場合には、例えば図1および図2において、コイル導線6bと6cを束ねれば3つになる。また、コイル6の巻数も任意であってよく、例えば10〜40ターンであってよい。なお、図2において示したコイル6の巻数は6ターンである。
図3は、図1に示したヒートポンプ用熱交換器1の面Aでの断面図である。図3では、コイル6と熱交換器2とが密着している場合について示しているが、コイル6と熱交換器2との間に間隔を設けてもよい。また、図3ではコイル導線6a、6b、6c、6dの断面形状を長方形として示しているが、円や楕円など任意の形状であってもよい。例えば、コイル6を直径0.3mmの被覆導線を19本束ねたリッツ線を用いて20ターン巻いて形成したとすると、コイル導線6a、6b、6c、6dの断面には直径0.3mmの被覆導線が190本あることになるので、概ね任意の形状にコイル導線6a、6b、6c、6dの断面形状を整形することができる。
また、コイル6を形成した後に、リッツ線をエポキシ系接着剤などで硬化させればコイル6の形状を任意の形状に形成したまま、容易に形状を保持することができる。このようなコイル6の形成に適した導線として、リッツ線の周囲にエポキシ系接着剤を設けた自己融着導線が導線メーカ各社から市販されており容易に入手することができる。さらに、コイル6を形成した後に、図示しない樹脂などの絶縁物でコイル6の表面を覆ってコイル6を保護してもよい。
図3に示すように、コイル6のコイル導線6a、6b、6c、6dの配置の間隔を、熱交換器2の冷媒管4の配置の間隔より広くすることによって、熱交換器2のフィン3と垂直方向(複数の冷媒管4を並べた面に対して垂直な方向)に空気流がある場合であっても空気流を妨げることがない。さらに、コイル導線6a、6b、6c、6dと冷媒管4とが対向した位置に配置されれば、空気流の流れから見てコイル導線6a、6b、6c、6dは冷媒管4に重なっているので、実質的にコイル6によって空気流がほとんど妨げられず、熱交換器2の空気通過性能を低下させることがない。なお、図3では空気流はコイル6側から流入し熱交換器2を通過するように示しているが、空気流がコイル6側から流出してもよい。
図4は、熱交換器2の一部を詳細に示した分解斜視図である。熱交換器2は、空気調和装置や冷凍機などのヒートポンプ装置において一般的に用いられているフィンチューブ型熱交換器であり、格別の特徴を有するものではないが、本発明の動作の本質において重要であるため説明する。従って、ここに示す熱交換器と同様の構成であり、同様の動作をするものであれば、本発明に用いられる熱交換器である。なお、以下に示す数値の具体例は一般家庭で用いられる空気調和装置の室外機用熱交換器の場合である。オフィスなどの施設で用いられる空気調和装置や冷凍機などの熱交換器の場合は、フィンの厚みがこれより厚く、フィンの間隔も広い場合もあるが、フィンチューブ型熱交換器の構造であれば一般家庭で用いられるものと同様に動作する。
熱交換器2には、厚さ0.1mm程度の短冊状のアルミなどの金属シートからなるフィン3に複数の穴が設けられており、穴の周囲にはフィン3と一体となったカラー9が設けられている。空気調和装置の場合には、カラー9の高さは1〜2mm程度であり、フィン3を所定の間隔を隔てて複数積層したときにカラー9がスペーサの役割をして、フィン3と他のフィン3との間で風路となる所定の間隔が設けられる。また、冷凍機の場合には、カラー9の高さは5mm程度であり、カラー9がフィン3の間隔を決めるスペーサの役割をすることもあるが、カラー9の高さよりもフィン3同士の間隔の方が広くなるとスペーサの役割をせずに、冷媒管4に固定されて保持の役目だけをする場合もある。
複数のフィン3を積層した後、フィン3の穴に銅やアルミなどの金属からなるU字型の冷媒管4を挿入し、フィン3と冷媒管4は一体に形成される。フィン3には複数の穴が設けられているので、U字型の冷媒管4を複数挿入し、各U字型の冷媒管4の端部を接続することで図1に示すような熱交換器2が形成される。冷媒管4は、拡管によって管外径を広げられてフィン3に設けられたカラー9に圧接されるので、フィン3と冷媒管4との熱抵抗は小さくなり、フィン3から冷媒管4へ、あるいは冷媒管4からフィン3への熱伝導が良い熱交換器2を得ることができる。
また、フィン3も冷媒管4も金属であるため、冷媒管4がフィン3に設けられたカラー9によって圧接されることで、フィン3と冷媒管4は電気的にも接続される。また、通常、大気中に放置された金属表面には酸化膜などの絶縁体膜(絶縁層)を有するが、このような絶縁体膜は非常に薄いため熱抵抗としては無視し得るが、電気抵抗としては接触抵抗として現れる。しかしながら、本発明の熱交換器2は、フィン3と冷媒管4との間の接触面に接触抵抗があってもよく、むしろ接触抵抗がある方が望ましい。従って、故意に酸化膜や窒化膜などの絶縁体膜をフィン3および冷媒管4のうちの少なくともいずれか一方に形成してもよい。酸化膜を形成する場合には、酸素雰囲気または大気中で高温加熱することによって容易に酸化膜が得られる。また、窒化膜を形成する場合には、窒素雰囲気中で高温加熱することによって容易に窒化膜が得られる。このように、フィン3や冷媒管4を酸化させるなどの簡単な方法によって、フィン3と冷媒管4との間に電気抵抗体を得ることができる。
さらに、フィン3や冷媒管4の材質がアルミである場合には、陽極酸化などの電気化学手法によって、低コストで酸化膜(いわゆるアルマイト)を形成することができる。また、アルミに窒化膜を形成する場合には、絶縁体膜は窒化アルミニウムとなるので、絶縁体膜の熱伝導率を高くすることができ、フィン3と冷媒管4との熱抵抗を極めて小さくすることができる。フィン3と冷媒管4との間に電気抵抗体を形成する方法はこれに限るものではなく、酸化膜や窒化膜以外の材質であってもよい。
次に、熱交換器2を誘導加熱する動作について説明する。図1に示したヒートポンプ用熱交換器1において、高周波電源8からコイル6に20〜100kHz程度の高周波電流を流すと、コイル6の導線の周囲に高周波磁場が発生し、熱交換器2が誘導加熱される。図5は、熱交換器2が誘導加熱される現象を詳しく説明するための説明図であり、図1と同じヒートポンプ用熱交換器1のコイル6に高周波電流を流した時のコイル6に流れるコイル電流の様子、高周波磁場の磁束の様子、熱交換器2に流れる渦電流の様子を示したものである。なお、高周波電流は半周期ごとに極性が反転し、コイル電流の向きが変わるが、説明のために一方の向きにコイル電流が流れている時点について示している。
高周波電源8を用いてコイル6に高周波電流を流すと、コイル6の導線の周囲に右ネジの法則に従う向きで高周波磁場が発生し、図5に示すように磁束が発生する。この磁束はコイル6に面した位置にある熱交換器2に鎖交し、熱交換器2に渦電流が流れる。熱交換器2に用いられたアルミ等の金属材料には通常電気抵抗があるため、金属に渦電流が流れると電気抵抗に比例したジュール熱が発生することによって、熱交換器2は誘導加熱されることになる。
図1および図3に示すように、コイル6は熱交換器2の冷媒管4に対向して複数のリッツ線を束ねたコイル導線6a、6b、6c、6dを有するので、これらのコイル導線6a、6b、6c、6dに対向した冷媒管4に起電力が誘起される。熱交換器2は水平方向に長手方向を有する冷媒管4と垂直方向に長手方向を有するフィン3とが電気的に接続されているので、格子状の導電路を形成しているといえる。このため、冷媒管4に誘起された起電力によって、冷媒管4からフィン3を通って、他の冷媒管4を通って他のフィン3を通り、再び元の冷媒管4に達するといったループ状の電流経路が形成されて熱交換器2に渦電流が流れる。本実施の形態におけるヒートポンプ用熱交換器1では、コイル導線6a、6b、6c、6dに近い冷媒管4が最も高温に誘導加熱されるが、フィン3と冷媒管4は熱的にも接続されているので、冷媒管4の発熱はフィン3や他の冷媒管4へも熱伝導し、熱交換器2が全体的に加熱される。また、フィン3と冷媒管4との間に接触抵抗などの電気抵抗体を有する場合には、この電気抵抗体が主たる発熱源となり、フィン3や冷媒管4は電気抵抗体への導電路のように働く。電気抵抗体は、フィン3と冷媒管4との交点に存在するため熱交換器2の全面に渡って存在するので、熱交換器2の誘導加熱する効率を向上させるとともに、熱交換器2を均一に誘導加熱するための働きもする。
次に、実験結果を用いて熱交換器が誘導加熱されることについて、さらに詳しく説明する。図6は、実験に用いたヒートポンプ用熱交換器の斜視図である。図7は、図6の面Bでの断面図に温度測定用熱電対の取付位置を示したものである。実験に用いた熱交換器2は、冷凍機用のフィンチューブ熱交換器であって、図6に示すように縦205mm、横300mm、幅90mm、フィン3の間隔6mmの熱交換器2である。フィン3の厚みは0.5mmで、フィン3の材質はアルミである。また、冷媒管4の材質は銅である。フィン3には幅5.5mmのカラー9が設けられており、冷媒管4を拡管してカラー9に圧接することによってフィン3と冷媒管4とを固定するとともに熱伝導を良くしている。
コイル6は、図1および図2に示すような構造をしており、直径0.3mmの被覆導線を19本撚り線にしたリッツ線を用いて巻数20ターンで作製した。コイル6のコイル導線6a、6b、6c、6dの断面形状は図7に示すように円形であり、コイル6を熱交換器2に接するように近接させて配置し、ヒートポンプ用熱交換器1を作製した。なお、コイル6は、熱交換器2に接するように近接させて配置されているが、接しているのはごく一部であり大部分は僅かに空間が空いているので熱コンタクトとしては良好な状態ではない。
図7において、黒点で示した箇所は温度測定用熱電対の取付位置である。また、図中に「冷媒管A〜E」、「フィンA〜C」、「コイルA、B」などと記しているのは、熱電対の取付位置がそれぞれ冷媒管4、フィン3、コイル導線6a、6bであることを示している。「コイルA」は、コイル導線6aの温度、「コイルB」は、コイル導線6bの温度を測定しているが、「冷媒管A〜E」、「フィンA〜C」については、図7に示したような位置の冷媒管4、フィン3の温度を測定している。なお、冷媒管4は、表面がフィン3のカラー9によって覆われているので、厳密にはフィン3のカラー9の温度である。
図8および図9は、図6および図7に示した熱交換器2を誘導加熱した際の温度測定結果である。縦軸は冷媒管4、フィン3またはコイル6の温度上昇値、横軸は電力の供給開始からの経過時間である。図8は、コイル6に28kHzの高周波電流を流して、ヒートポンプ用熱交換器1に220Wの高周波電力を供給した場合、図9は、コイル6に直流電流を流して、ヒートポンプ用熱交換器1に220Wの電力を供給した場合のそれぞれの温度測定用熱電対の取付位置での温度上昇を示したものである。
図8および図9いずれの場合も、時間0(分)で220Wの電力を供給し、コイル温度が約80K上昇した時点で電力の供給を停止した。ここで、図8および図9における冷媒管4およびフィン3の温度上昇の様子を比較する。その前に、コイル温度の上昇の違いについて説明する。電力供給開始後0.5分におけるコイル導線6a、6bの温度上昇は、図8の高周波電力を供給した場合には、それぞれ13.8K、14.0Kである。一方、図9の直流電力を供給した場合には、それぞれ52.5K、54.9Kである。直流電力を供給した方が高周波電力を供給した場合に比べて、それぞれ3.8倍、3.9倍温度上昇が大きくなっている。この理由は、直流電力を供給した場合には、供給した電力の100%がコイルの電気抵抗によるジュール熱として消費されるが、高周波電力を供給した場合には、供給した電力の一部がコイルの電気抵抗によるジュール熱として消費され、残りの電力は熱交換器の誘導加熱によって消費されるためである。
図8および図9の電力供給開始後0.5分のコイル導線6a、6bの温度上昇の比較から概略的な見積もりとして、高周波電力を供給した場合のコイルの電気抵抗による消費電力は、直流電力を供給した場合の約25%であり、残りの約75%が熱交換器の誘導加熱によって消費されていると推察される。なお、この見積もりはあくまでも概略的なものであって電力が消費される割合は厳密には正しくない。より厳密に測定するためには、直流電力を調整して高周波電力を供給した場合の温度上昇曲線とほぼ同一の温度上昇曲線が得られる直流電力を求め、この直流電力が高周波電力を供給した場合のコイルで消費される電力であると考えればよい。
次に、冷媒管4の温度上昇に着目して図8と図9とを比較する。図8の冷媒管4の温度上昇を見ると、冷媒管Aの温度上昇が最大で、次いで冷媒管B、冷媒管C、冷媒管Dとなっており、冷媒管Eの温度上昇は最も小さくなっている。図7に示すように、冷媒管Aはコイル導線6aに対向した位置にあり、コイル導線との距離が最も近いが、冷媒管Bはコイル導線6aと6bとの間にあり、冷媒管Aに比べてコイルからの距離が大きくなっているため温度上昇が小さくなっている。また、冷媒管Cは冷媒管Bと同様に2本のコイル導線の間にあるが、コイル導線6bとコイル導線6cでは電流の向きが逆であるので、冷媒管Cの位置の磁束は冷媒管Bの位置の磁束より弱くなっている。このため、冷媒管Cの温度上昇は冷媒管Bの温度上昇より小さくなっていると考えられる。そして、冷媒管A〜Cが、コイル6に対向する箇所に設けられているのに対して、冷媒管D、冷媒管Eは、コイル6から見て奥まった箇所に設けられている。このため、冷媒管D、冷媒管Eの温度上昇はさらに低くなっている。
図8において、コイル6へ高周波電力の供給を停止した後(電力供給開始後約6分経過後)、冷媒管A〜Cは高周波電力の供給停止と同時に温度低下しているが、冷媒管Dおよび冷媒管Eでは、高周波電力の供給停止と同時に温度低下が始まるという程ではない。これは、高周波電力を供給した場合の誘導加熱による熱交換器2の発熱源はコイル6に近い側が主であり、コイル6から遠くなるに従って誘導加熱によって温度上昇する割合は小さくなる。そして、熱交換器2内のコイル6から遠い側では、同じ熱交換器2内のコイル6に近い側の発熱源からの熱伝導によって温度上昇する割合が大きくなっているものと考えられる。
しかしながら、図8の高周波電力を供給した場合には、最も温度上昇が大きい冷媒管Aの最大温度上昇が約28Kであり、最も温度上昇が小さい冷媒管Eの温度上昇が約22Kであることから、熱交換器全体が誘導加熱によって比較的均一に温度上昇していることが分かる。一方、図9の直流電力を供給した場合には、コイル6が電気ヒータの役割を行い、コイル6の発熱からの輻射や熱伝導によって熱交換器2が加熱される。このため、図9に示すように、コイル6への直流電力の供給を停止した後も冷媒管A〜Eの温度は暫く上昇を続けている。そして、最もコイル6に近い冷媒管Aの温度上昇は3Kであり、コイル6に高周波電力を供給したときの温度上昇に比べて極めて小さく、熱交換器2を加熱する効率は低いと言える。
冷凍機では熱交換器に近接させて棒状の電気ヒータを配置し、デフロスト(霜取り)を行っている場合がある。しかしながら、このようなデフロスト方式は上記の実験結果からわかるように加熱効率が低いので、本発明のように誘導加熱によって熱交換器2を加熱してデフロストする方が、加熱効率が高いことが分かる。また、図8および図9に示すように、フィン3の温度上昇は冷媒管4の温度上昇とほぼ同じ傾向である。図8の高周波電力を供給した場合には、最も温度上昇が大きいフィンAの最大温度上昇は約27Kであり、冷媒管Aの温度上昇よりも小さいが、最も温度上昇の小さいフィン3でも温度上昇は冷媒管Eの最大温度上昇と同じ約22Kである。つまり、高周波電力を供給して熱交換器2を誘導加熱した場合には、熱交換器2が比較的均一に温度上昇していることが分かる。
次に、上記の実験に用いたヒートポンプ用熱交換器1において熱交換器2を誘導加熱する場合の加熱効率を見積もった。加熱効率はヒートポンプ用熱交換器1に入力した電力のうち熱交換器2に入力される電力の割合であり、電気抵抗の周波数測定の結果から見積もることができる。図10は、本実施の形態のヒートポンプ用熱交換器1の等価回路を示したものである。単体で測定したときのコイル6の抵抗の周波数特性をRc(f)、熱交換器2に面してコイル6を配置したときのコイル6両端で測定したヒートポンプ用熱交換器1の抵抗の周波数特性をRt(f)、熱交換器2の抵抗の周波数特性をRh(f)(=Rt(f)-Rc(f))、ヒートポンプ用熱交換器1のインダクタンスの周波数特性をL(f)とする。ここで、コイル電流がIのときのヒートポンプ用熱交換器1の消費電力はI2×Rt(f)、熱交換器2の消費電力はI2×Rh(f)であるので、加熱効率(入力電力のうち熱交換器に入力される電力の割合)の周波数特性η(f)は式(1)よって見積もることができる。
η(f)={I2×Rh(f)}/{I2×Rt(f)}×100 (%)
=Rh(f)/Rt(f)×100 (%)
={Rt(f)−Rc(f)}/Rt(f)×100 (%) (1)
このように、加熱効率を、コイル6の抵抗とヒートポンプ用熱交換器1の抵抗によって求めることができる。
図11は、上記の実験に用いたヒートポンプ用熱交換器1の抵抗Rt(f)と、このヒートポンプ用熱交換器1に用いたコイル6単体の抵抗Rc(f)とをインピーダンスアナライザで測定した結果の一例を示す図であり、ヒートポンプ用熱交換器1の周波数に対する抵抗の変化とコイル6単体の周波数に対する抵抗の変化とを示した図である。このように測定したヒートポンプ用熱交換器1の抵抗Rt(f)の周波数特性とコイル6単体の抵抗Rc(f)の周波数特性とを用いて、式(1)によって誘導加熱の効率の周波数特性η(f)を求めることができる。図12は、図11で得られた各抵抗の周波数特性の測定結果を式(1)に代入して計算したヒートポンプ用熱交換器の誘導加熱の効率の周波数特性を示したものである。図12より、23〜49kHzの周波数帯域において誘導加熱の効率は80%以上であり、上記実験でコイル6に流した高周波電流の周波数28kHzでの効率は約80%である。すなわち、上記実験では供給した高周波電力のうち約80%が熱交換器2の誘導加熱に利用されたものと見積もることができる。
次に、本実施の形態におけるヒートポンプ用熱交換器1の誘導加熱の効率を向上させるための検討を行った。ここでは、2種類のフィンチューブ熱交換器を作製し、図1に示すように熱交換器2に面してコイル6を配置し、ヒートポンプ用熱交換器1とし、インピーダンスアナライザによる抵抗測定結果から誘導加熱の効率を見積もった。作製した2種類のフィンチューブ熱交換器のうち、一方の熱交換器Aは通常の空気調和装置の室外機に用いられる熱交換器であって、フィン3は、材質がアルミで厚みが約0.1mm、フィン3の間隔は1.3mmであり、冷媒管4は、直径約7mmの銅管である。他方の熱交換器Bはフィン3の材質、厚み、間隔は熱交換器Aと同じであり、冷媒管4も直径約7mmの銅管であることは同じであるが、銅管の外周をバーナーで炙って加熱して銅管の外側に酸化膜を形成したものである。酸化膜の厚みは測定していないので不明であるが銅管の外周は茶褐色に変色しており、熱交換器Aの光沢のある銅色の銅管とは明らかに変質している。
図13は、上記2種類の熱交換器Aと熱交換器Bとの誘導加熱の効率の周波数特性を示したものである。最大効率は熱交換器Aが約82%であるのに対して、熱交換器Bが約89%となっている。このように、誘導加熱の効率が異なる理由は、熱交換器Bは冷媒管4の外周に酸化膜が形成されたことによって、この酸化膜がフィン3と冷媒管4との接触抵抗すなわち電気抵抗体として働き、図10に示した熱交換器2の抵抗Rh(f)が増加したため、誘導加熱の効率が向上したと考えられる。熱交換器2の抵抗Rh(f)を増加させるためには、フィン3を薄くしたり冷媒管4の肉厚を薄くしたり、さらにはフィン3や冷媒管4に体積抵抗率の大きな材質を使用することも考えられるが、フィン3や冷媒管4を薄くすると熱交換器2の機械的強度に対する信頼性が低下し、また体積抵抗率の大きな材質を使用すると熱交換器2の伝熱特性が劣化するという問題点がある。
一方、フィン3のカラー9と冷媒管4との間に電気抵抗体を形成する手段が、例えば酸化膜の場合、酸化膜の厚みが極薄であっても電気抵抗を増大させることができる。しかも、熱抵抗を無視し得る程に小さくすることができるので、伝熱特性を劣化させずに熱交換器2の電気抵抗を増大させて誘導加熱の効率を向上させることができる。また、冷媒管4にアルミを用いた場合には、陽極酸化法などによってアルミの冷媒管4の外周に酸化アルミであるアルマイトを形成してもよいし、窒素雰囲気中での熱処理によって窒化アルミ膜を形成してもよい。特に、窒化アルミは熱伝導率が金属に匹敵するほど高いので、フィン3と冷媒管4との間に電気抵抗体を形成しても伝熱特性の劣化が全く問題にならない。なお、電気抵抗体は上記に限るものでなくてもよく、他の材質のものであってもよい。また、上記では電気抵抗体を冷媒管4の外周に形成する場合について述べたが、フィン3のカラー9に形成してもよい。また、フィン3と冷媒管4がアルミや銅以外の材質であっても、フィン3と冷媒管4との間に電気抵抗体を形成することによって、上記と同様に誘導加熱の効率を向上できる。さらに、冷媒管4の拡管の度合いを小さくして、フィン3と冷媒管4との接触抵抗を増大することによって電気抵抗体を形成してもよい。
図14は、本実施の形態における別のヒートポンプ用熱交換器であって、図1に示したヒートポンプ用熱交換器1の面Aでの断面図である。コイル6と熱交換器2との間の熱導電性を高めるためにコイル6の配置を変えたものである。これまでは、図3に示したようにコイル6を熱交換器2に対して数cm以下程度に接近あるいは一部が接するように近接させて配置した場合について説明したが、ここでは、コイル6が熱交換器2と接触し、コイル6からの発熱を熱伝導によって熱交換器2へ伝熱する場合について説明する。
熱交換器2は、コイル6に流す高周波電流によって誘導加熱されるため、コイル6と熱交換器2は非接触であってよいが、図8に示した実験結果のように、コイル6に高周波電力を供給した場合であっても、コイル6は自身の電気抵抗によるジュール熱で発熱する。このため、このコイル6自身の発熱をより確実に熱交換器2に伝えることは、熱エネルギーの有効利用のために有益である。また、コイル6自身の電気抵抗によるジュール熱を熱交換器2に速やかに伝熱することができ、コイル6自身の温度が高温になることを防止することができる。そこで、図14のヒートポンプ用熱交換器1は、コイル6と熱交換器2との接触面積を増大させて熱伝導性を高めたものである。より具体的には、例えばコイル導線6a、6b、6c、6dの外周の概略半周がフィン3に埋め込まれるように接触するようにしている。
図15は、図14に示した熱交換器2の分解斜視図である。フィン3のコイル6と接触する部分には、コイル6とフィン3との熱導電性を高めるためのカラー10が設けられている。このようなフィン3を積層して作製したフィンチューブ熱交換器では、カラー10によってコイル6との接触面が形成される。このため、カラー10の部分にコイル6を挿入してヒートポンプ用熱交換器1とすることによって、コイル6から熱交換器2への熱伝導性を高めることができる。さらに、コイル6とカラー10が接する部分に、例えばシリコーン系接着剤などを塗布することによって、コイル6と熱交換器2との接触をより確実にして熱伝導性も高めることができる。コイル6とカラー10との間に設ける部材はシリコーン系接着剤に限らず、エポキシ系接着剤など他の接着剤であってもよく、接着性のないゴムなどの柔らかい樹脂系材料であってもよい。すなわち、コイル6とカラー10との間に、空気よりも熱伝導率の高い材質が存在すればよい。このように、コイル6が熱交換器2と接触しているので、誘導加熱に加えてコイル6自身の発熱を利用して熱交換器2を加熱することができる。また、電気抵抗によるジュール熱で発熱したコイル6を冷却することもできる。
次に、本発明のヒートポンプ用熱交換器を使用したヒートポンプ装置について説明する。ヒートポンプ装置は、蒸発器、圧縮機、および凝縮機を備えており、ヒートポンプ装置を暖房装置として使用する場合、蒸発器で低温の空気を取り込み、圧縮機で低温の空気を圧縮して高温・高圧化し、凝縮機で温熱を排出する。図16は、空気調和装置、給湯装置、床暖房装置などのヒートポンプ装置の蒸発器である室外機に、本発明のヒートポンプ用熱交換器を用いた場合のヒートポンプ装置の室外機を示す斜視図である。
図16において、室外機11は、図示しない圧縮機、コイル6に高周波電流を供給する高周波電源や圧縮機を運転させる駆動回路を含む電気回路、冷媒配管などとともに、本実施の形態のヒートポンプ用熱交換器1とファン12とを有する。ヒートポンプ用熱交換器1はL字型に折り曲がっているが、図1に示したものと同じ構造のコイル6を熱交換器2の形状に合わせてL字型に折り曲げたものである。また、L字型の熱交換器2の2面に対して図1に示したコイル6と同様のコイルをそれぞれ個別に設けてもよい。ヒートポンプ用熱交換器1は、熱交換器2に面して、熱交換器2とファン12との間にコイル6が配置されて構成される。なお、コイル6を熱交換器2とファン12との間に配置するのではなく、コイル6を熱交換器2の外側に配置してもよいが、その場合はコイル6が充電部となるので、コイル6が室外機11の筐体に触れることがないように保護カバーなどを設けるとよい。
図16に示したように、コイル6を熱交換器2とファン12との間、すなわち熱交換器2の内側に設けることによって、コイル6が室外機11の外部から触れることがないので、コイル6に対して保護カバーなどを設ける必要が無いといった利点がある。また、大型のヒートポンプ装置の室外機では熱交換器2を2段あるいは3段に重ねて用いることがあるが、その場合には複数の室外機2でコイル6を共有することもできる。例えば、熱交換器2と隣り合う熱交換器2との間にコイル6を設けることもできる。
冬季など、室外機11が設置された周囲の空気温度が低い場合には、室外機11が空気から熱を吸収するため、室外機11の熱交換器2の温度は、周囲の空気温度より低くなる。このため、熱交換器2の温度が氷点下になると空気中の水分が熱交換器2に氷や霜となって付着する(着霜)。熱交換器2に着霜すると、氷や霜は熱伝導率が低いため熱交換器2の加熱効率が低下するなどの性能が低下し、空気から十分な熱を吸収できなくなるので、熱交換器2に付着する氷や霜を溶かす(除霜)必要がある。
そこで、本実施の形態のヒートポンプ用熱交換器を用いたヒートポンプ装置では、熱交換器2に着霜が発生しても、例えば室外機11の圧縮機を停止し、ヒートポンプ用熱交換器1のコイル6に高周波電流を供給することによって熱交換器2を誘導加熱し、熱交換器2を除霜することができる。また、周囲の空気温度が氷点以上の場合には、圧縮機を停止させずに冷凍サイクルの状態のまま、コイル6に高周波電流を供給して熱交換器2の温度を氷点以上まで上昇させて、熱交換器2を除霜することもできる。
一般的なヒートポンプ装置では、冷凍サイクルを逆サイクル運転して、室外機の熱交換器に熱い冷媒を送り、熱交換器を加熱して氷や霜を溶かす除霜運転を行うものが多い。しかしながら、逆サイクルによる除霜運転においては、通常サイクルでは高温であった冷媒配管や凝縮器を低温にし、低温であった冷媒配管や蒸発器を高温にするため、冷媒配管、凝縮器、および蒸発器の大きな熱容量によって除霜開始までに長い時間を要し、除霜後に逆サイクルから通常サイクルに復帰する際にも長い時間を要する。このため、頻繁に除霜運転を行うことができず、ある程度着霜してから、まとめて除霜を行うので、着霜して加熱効率が低下した熱交換器で長く運転しなければならないし、着霜した氷や霜が大きくなって溶けにくくなった状態で除霜しなければならないため、除霜のために多くのエネルギーを要する。
また、圧縮機によって高温にされた冷媒は熱交換器の冷媒管の上流から下流に流れるため、例えば熱交換器の上方から下方に流れるといった流れ方をし、冷媒管を通る間に冷媒の熱は熱交換器に奪われて冷媒管の下流では冷媒の温度が低下する。このため、熱交換器の上方では除霜がすでに完了し、熱交換器も高温の状態になっているのに、熱交換器の下方では未だ除霜が行われていないといった現象が生じる。さらに、インバータで圧縮機を運転し、圧縮機で冷媒を圧縮して冷媒を高温にして、冷媒配管によって熱い冷媒を熱交換器に送るので、インバータの損失、圧縮機の損失、冷媒配管での損失が存在するため、入力した電力のうち熱交換器に入力されるエネルギーは大きく目減りしたものになる。
このように、従来の一般的な逆サイクルによる除霜運転では、エネルギーの消費に多くの無駄があり、さらなる省エネルギーが要求されるヒートポンプ装置にあっては解決すべき課題であった。これに対して、本発明のヒートポンプ用熱交換器1を用いたヒートポンプ装置では、コイル6に高周波電流を供給するだけで、着霜した熱交換器2を直接加熱することができるため、エネルギーの消費の無駄がなく、省エネルギーに有利である。すなわち、使用する電力のうち除霜に使用されない電力は、コイル6に高周波電流を供給するための高周波電源のインバータの損失だけであり、上述の実験結果を基に試算すればコイル6に入力した電力のうち80%以上は熱交換器2に直接入力され、残り20%以下がコイル導線の発熱となる。
コイル導線の発熱も熱伝達によって約半分はフィン3の加熱に利用されるとし、インバータの損失を10%とすれば、除霜に使用する電力のうち約80%(0.9×80%+0.5×20%=82%)が熱交換器2のフィン3に入力される。上述したように熱交換器2のフィン3と冷媒管4との間に、電気抵抗体を形成するなどの構成にすれば、除霜に使用される電力の割合はさらに増加する。これは一般的なサイクル運転による除霜運転のエネルギー利用効率に比べ十分に高いものと考えられる。
また、本発明のヒートポンプ用熱交換器1を用いたヒートポンプ装置では、コイル6に高周波電流を供給するだけで除霜を行うことができ、冷媒回路の各部の温度変化を待つ必要がないため、頻繁に除霜を行うことができる。従って、着霜して性能が低下した状態の熱交換器2を長く使用する必要がない。また、溶けやすい小さな氷や霜を溶かすので、短時間に除霜を終了することができる。このため、ヒートポンプ装置のエネルギー利用効率を向上させることができる。さらに、本発明のヒートポンプ用熱交換器1を用いたヒートポンプ装置では熱交換器2の全体に渡ってほぼ均一に加熱されるため、逆サイクルによる除霜運転を行う場合のように熱交換器の上方では除霜が完了しているのに下方では未だ除霜が行われておらず、熱交換器の上方が必要以上に高温になり、エネルギーの無駄が生じるといった問題がない。なお、ここでは室外機を有する空気調和装置、給湯装置、床暖房装置などのヒートポンプ装置について述べたが、熱交換器が配置された庫内を冷凍する冷凍庫や冷蔵庫などの除霜にも本発明のヒートポンプ用熱交換器1を同様に適用することができる。
以上のように、コイル6が金属パイプである冷媒管4の長手方向に沿って略平行部分を有するように矩形状に周回されて、熱交換器2と略平行に対向して配置されるので、誘導加熱による渦電流が、冷媒管4と金属プレートであるフィン3とによって形成されるループで流れるため熱交換器2を効率よく誘導加熱することができ、コイル6と熱交換器2を通過して空気を流すことができる。また、フィン3が所定の間隔を隔てて複数積層されているので、フィン3と冷媒管4とによってループが形成され、熱交換器2を効率よく誘導加熱することができる。さらに、本発明のヒートポンプ用熱交換器1をヒートポンプ装置に用いることによって、効率良く除霜を行うことができる。
実施の形態2.
実施の形態1においては、本発明のヒートポンプ用熱交換器を空気調和装置の室外機に使用して除霜を行う場合について説明したが、本実施の形態2においては、実施の形態1で詳細に述べたヒートポンプ用熱交換器を空気調和装置の凝縮機である室内機に使用する場合について説明する。図17は、この発明を実施するための実施の形態2におけるヒートポンプ用熱交換器を用いたヒートポンプ装置である空気調和装置の室内機の斜視図である。また、図18は、図17の面Cでの断面図である。
図17において、ヒートポンプ装置である空気調和装置の室内機13は、フィンチューブ型の熱交換器22と、樹脂などで形成されたラインフローファン14と、室内機13から空気を排出するための風路であるリアケーシング15と、熱交換器22を保護するためのカバー16とによって構成される。図17においては、熱交換器22の裏側の様子を分かり易くするために熱交換器22の一部を切り裂いて示している。本発明の空気調和装置の室内機13では、熱交換器22の一部または全部が本発明のヒートポンプ用熱交換器21となっている。なお、図17および図18では、本発明とは直接関係ないが空気調和装置の室内機として本来備わっているフラップ、ルーバー、フィルター、制御回路などは省略して示している。また、図17において、熱交換器22は簡略して示したが、実施の形態1で述べたものと同様のフィンチューブ熱交換器であり、アルミなどの金属材料からなる厚さ0.1mm程度の穴あき短冊状プレートであるフィンを複数積層して、穴の中に短冊状プレートと直交するように銅やアルミなどからなる金属パイプである冷媒管を挿入した構造である。
空気調和装置の室内機13には、少なくとも1個の熱交換器22があり、図17および図18では、ラインフローファン14を三方から囲むように熱交換器22が3個ある場合について示している。これらの熱交換器22のうちの少なくとも1個に面してコイル26が設けられている。図17および図18では、コイル26が1個の熱交換器22の内側に設けられている場合について示しているが、複数の熱交換器に対してそれぞれ個別のコイルを設けてもよく、複数の熱交換器に対して1個のコイルを設ける場合であっても任意の熱交換器に面してコイルを設けてもよい。さらに、1個の熱交換器に面して複数のコイルを設けてもよい。また、コイル26を熱交換器22の外側に設けてもよい。
コイル26は、実施の形態1で述べたものと同様のコイルである。図17および図18では、リッツ線を長方形状のリング状に巻いて、長方形状の長辺に相当するコイル導線26a、26bが冷媒管4に対向して平行となるような構造とした。従って、熱交換器22に面してコイル26を配置しても気流通過に対する妨げとならず、熱交換器22の性能を劣化させることがない。
次に、熱交換器22を誘導加熱する動作について説明する。高周波電源8からコイル26へ高周波電力が供給されると、コイル26に面した熱交換器22が誘導加熱されて温度上昇する。ラインフローファン14が回転すると、室内機13の外側の空気が熱交換器22を通過して室内機13の中に吸入される。そして、空気はリアケーシング15によって形成される風路より排出される。このとき、コイル26に供給した高周波電力によって誘導加熱された熱交換器22を通過した空気は熱交換器22から熱を奪い温風となって排出される。
図19は、ヒートポンプ装置である空気調和装置の室内機13から排出される吹出し空気の温度上昇を示した実験結果である。図17および図18に示した構造の室内機13において、空気の吹出し口での風速が3m/sになるように予めラインフローファン14を回転させておき、コイル26に1.5kWの高周波電力をいきなり供給した後の吹出し空気の温度上昇を測定したものである。図19において、横軸は高周波電力の供給開始からの経過時間、縦軸は吹出し空気の温度上昇である。
コイル26に高周波電力を供給してから6分後の吹出し空気の温度上昇は、ほぼ飽和しており、約23Kになっている。高周波電力を供給してから1分後の吹出し空気の温度上昇は、約14Kであり、飽和時の約60%の温度上昇が得られている。従来の冷凍サイクルを利用した空気調和装置を暖房運転する場合には、空気調和装置の電源を入れた直後に圧縮機を高回転で回転させることができないため、空気調和装置から温風が吹出すまでに数分間の時間を要するといった問題点がある。また、定期的に冷凍サイクルを逆回転させるなどして室外機熱交換器の除霜を行う必要があり、そのときに暖房が停止して室内温度が低下するといった問題点がある。
本発明のヒートポンプ用熱交換器21を熱交換器22として用いた空気調和装置の室内機13にあっては、電源を入れてから圧縮機が高回転になるまでの間、誘導加熱によって加熱した熱交換器22によって温風を得ることができるため、従来の冷凍サイクルによるヒートポンプのみで温風を得る空気調和装置に比べて、温風を得るまでの時間が短いため使用者に不快感を与えないといった効果がある。また、除霜のために冷凍サイクルによるヒートポンプで温風が得られない場合でも、誘導加熱によって加熱した熱交換器22によって温風を得ることができるため室温の低下を防ぎ使用者に不快感を与えないといった効果がある。
なお、図19の実験結果は予めラインフローファン14を回転させておき空気が吹出す状態で高周波電力を供給して吹出し空気の温度上昇を測定したため、高周波電力を供給してから1分後の吹出し空気の温度上昇が飽和時の約60%であった。しかしながら、始めはラインフローファン14を停止させておき、コイル26に高周波電力を供給してコイル26によって誘導加熱される熱交換器22が十分高温になってからラインフローファン14を回転させることによって、高周波電力を供給してから約1分後に温度飽和時と同等の吹出し空気の温度上昇を得ることも可能である。また、本実施の形態では温風を得る場合について述べたが、室内機13の熱交換器を誘導加熱して高温にすることによって殺菌や防カビを行うといった使用方法も可能である。
以上のように、本発明のヒートポンプ用熱交換器21をヒートポンプ装置に用いることによって、吹出し空気の温度上昇の立ち上げ時間を早くすることができる。
実施の形態3.
図20は、この発明を実施するための実施の形態3におけるヒートポンプ用熱交換器の斜視図である。本実施の形態3のヒートポンプ用熱交換器31は、1個の熱交換器2の複数の領域に対向するように、コイル36、37がフィンの長手方向に分割されて配置される。図20では、コイルの数を2個としたが、2個に限らず3個、4個など任意の数のコイルを用いることができる。コイル36には高周波電源38が接続され、コイル37には別の高周波電源39が接続され、それぞれ個別に高周波電流を供給することができる。コイル36は熱交換器2の上半分に面しており、コイル37は熱交換器2の下半分に面している。このようなヒートポンプ用熱交換器31であっても、コイル36、37に高周波電流を供給することで熱交換器2を誘導加熱できることは実施の形態1と同様である。
このような熱交換器2を複数に分割するように個別のコイル36,37を面して配置したヒートポンプ用熱交換器31にあっては、除霜運転を行う使用形態において格別の効果が得られる。冷凍サイクルを運転させたままの状態で、上半分のコイル36に高周波電源38から高周波電流を供給すると、コイル36に面した熱交換器2の上半分は誘導加熱され、除霜が行われる。一方、下半分のコイル37には高周波電流を供給していないので、熱交換器2の下半分は空気から熱を吸収して冷凍サイクルによるヒートポンプ動作が行われ続ける。そして、熱交換器2の上半分の除霜が完了すると、上半分のコイル36への高周波電流の供給を停止して、下半分のコイル37に高周波電源39から高周波電流を供給して熱交換器2の下半分を除霜しつつ、除霜が完了した熱交換器2の上半分から熱を吸収して冷凍サイクルによるヒートポンプ動作を行わせ続ける。
このように熱交換器2に複数のコイルを面して配置して、熱交換器2を分割して除霜することによって冷凍サイクルを停止させずにヒートポンプ動作を続けながら除霜を行うことができる。また、除霜のために熱交換器2を加熱したエネルギーもヒートポンプ動作に利用されるので、エネルギーが無駄にならなくて済むといった利点もある。なお、ここでは熱交換器2を2分割した場合について述べたが、コイルの数を多くして熱交換器2を細かく分割して除霜を行う方が、小さな電力で熱交換器2の温度を局部的に大きく上昇させることができるので、省エネルギーに適している。また、図21に示すヒートポンプ用熱交換器41のように熱交換器2を左右方向に複数に分割するようにコイル46、47を配置し、コイル46、47にそれぞれ個別に高周波電源48、49を接続し、冷凍サイクルを運転させながら除霜してもよい。
以上のように、1個の熱交換器2の複数の領域に対向するように、コイルを分割して配置し、順次除霜を行うことによって、冷凍サイクルを運転させたまま除霜を行うことができるので、例えば空気調和装置に用いた場合には連続した暖房運転が行え、使用者を常に快適な状態にすることができる。
実施の形態4.
実施の形態1〜3においては、熱交換器に面してコイルが固定して配置された場合について説明したが、本実施の形態4においては、熱交換器の一部に面して配置されたコイルが、熱交換器の面に沿って移動する場合について説明する。図22は、この発明を実施するための発明の実施の形態4のヒートポンプ用熱交換器を示す斜視図である。図22に示すヒートポンプ用熱交換器51において、熱交換器2は実施の形態1で示したものと同様のものである。コイル66自体は実施の形態1で示したものと原理的に同様であり、本実施の形態ではリッツ線を長方形状に巻いたリング状のコイルとした。
コイル66は、対向する熱交換器2より対向する側から見て小さく、直方体状のコイルケース52に保持され固定されている。コイルケース52は、樹脂などの絶縁体材料が望ましく、少なくともコイル66と熱交換器2との間の面には絶縁体が用いられる。コイルケース52は、熱交換器2の幅よりも広い間隔で設置されたレール53a,53bに支持されている。コイルケース52は、コイル66を保持したまま図示しない機械的な可搬手段によって、レール53a,53bをガイドとして熱交換器2に沿って上下方向に移動することができる。なお、コイルケース52は必ずしも必要ではなく、コイル66が熱交換器2に面したまま、熱交換器2に沿って移動するような構造であればよい。
次に、ヒートポンプ用熱交換器51の動作について説明する。ヒートポンプ用熱交換器51が冷凍サイクルによる通常のヒートポンプ動作を行っているとき、コイルケース52に保持されたコイル66は熱交換器2の上下いずれか一方の端の熱交換器2の外側にて停止している。このとき、コイル66には高周波電流は供給されていない。ヒートポンプ動作を継続し、熱交換器2に着霜が発生すると、コイル66に高周波電源8から高周波電流が供給され、コイルケース52に保持されたコイル66はレール53a,53bに沿って、熱交換器2の一端から他端に向かって移動する。そして、コイル66が熱交換器2の一部に面することになるが、このとき熱交換器2のコイル66に面した部分は誘導加熱され除霜が行われる。しかしながら、コイル66によって誘導加熱されている部分は熱交換器2の一部であるので、熱交換器2のその他の部分では冷凍サイクルによって空気から熱を吸収してヒートポンプ動作を持続している。すなわち、除霜中であっても冷凍サイクルを停止させなくてもよい。そして、コイルケース52に保持されたコイル66はレール53a,53bに沿って熱交換器2に沿って一端から他端に移動するので、最終的には熱交換器2の全体が除霜される。
以上のように、コイル66を可動にしてコイル66を熱交換器2に沿って移動させて除霜することによって、実施の形態3と同様に冷凍サイクルを運転させたまま除霜を行うことができる。また、実施の形態3とは異なり、コイル66や高周波電源8を複数設ける必要がなく、低コスト化が図れる。さらに、除霜が不要な場合には、コイル66を熱交換器2の外側に配置することができるので、コイル66によって熱交換器2への気流の通過が全く妨げられないといった利点がある。また、コイルケース52を気流が通り抜けない構造とすることによって、除霜中に誘導加熱されている熱交換器2の部分を気流が通り抜けないため、誘導加熱による発熱を空気に伝熱せず、熱交換器2に付着した氷や霜に効率良く伝熱することができるといった利点がある。なお、ここではコイル66が熱交換器2の上下方向に移動する場合について述べたが、左右方向に移動する場合であっても同様の効果が得られる。
実施の形態5.
図23は、この発明を実施するための実施の形態5におけるヒートポンプ用熱交換器の斜視図である。本実施の形態5のヒートポンプ用熱交換器61は、家庭用冷凍冷蔵庫などの冷凍機に好適なフィンチューブ型熱交換器である。図23において、構造を分かりやすくするために図1と同様にコイル6と熱交換器62とを離して示しているが、実施の形態1で説明したように、コイル6と熱交換器62との距離は数cm以下あるいは近接している。
一般に、家庭用の冷凍冷蔵庫にフィンチューブ型熱交換器を用いる場合には、図23に示すように熱交換器62の縦方向に気流を流して空気を冷却する場合が多い。家庭用の冷凍冷蔵庫では1個の熱交換器で冷蔵と冷凍とを兼用する必要があり、熱交換器と流入空気との温度差が大きくなり、熱交換器の入り口側に着霜しやすい。従って、図23に示す熱交換器62のように気流の入口側ではフィン63同士の間隔が広く、気流の出口側ではフィン63同士の間隔を狭くした方が都合良い場合が多い。図23に示したようなフィンチューブ型熱交換器にあっては、実施の形態1で説明したようなフィン3と冷媒管4との格子状の渦電流のループを形成することができず、このままでは冷媒管4と平行にコイル導線が形成されたコイル6を熱交換器62に面して配置しても、効率良く熱交換器62を誘導加熱することができない。
そこで、本実施の形態5では図23に示すように積層されたフィン63の両外側にアルミなどの金属からなる導電プレート64a,64bを配置している。導電プレート64a,64bは冷媒管4に圧接などの方法で電気的に接続されている。
熱交換器62を誘導加熱する動作について説明する。高周波電源8よりコイル6に高周波電流が供給されると、コイル6によって生じる磁束によって熱交換器62に渦電流が誘起される。渦電流は冷媒管4と導電プレート64a,64bとによって形成されるループ状の電流経路を通って流れるため、熱交換器62の冷媒管4が誘導加熱される。冷媒管4が誘導加熱されると温度が上昇するため冷媒管4に付着した霜が溶かされ、またフィン63が冷媒管4からの熱伝導によって加熱され、フィン63に付着した霜が溶かされる。このようにして熱交換器62の除霜が行われる。
以上のように、フィン63と冷媒管4とによってループ状の渦電流経路を形成しない構造のフィンチューブ熱交換器であっても、導電プレート64a,64bのような導電部材を用いて冷媒管4と導電部材とを通るループ状の渦電流の経路を形成したので、効率良く熱交換器62を誘導加熱することができる。