JP5298870B2 - 酸性水中油型乳化食品の製造方法 - Google Patents
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更に、耐熱性だけでなく、同時に高粘度を有することも求められている。通常、マヨネーズやドレッシング類の粘度は、弾性成分と粘性成分とに分けられるが、特にテクスチャー(いわゆる食感)にとって、弾性成分が重要とされている。更に、テクスチャーは、食品の美味しさを決める第一の要因であることが報告されている。〔Food Technology17(1), 74-77, 1963〕
マヨネーズや半固体状ドレッシング類等の粘度は、主に弾性成分から構成されており、粘度がテクスチャーにとって重要なことが判る。即ち、粘度が低いとマヨネーズ様の食感を感じ難くなり、美味しさが低下してしまうことになる。野菜等の具材や調味料類等と和える場合は、粘度変化が大きくなるので、注意を要する点である。
本技術でのホスホリパーゼA2処理卵黄とは、ホスホリパーゼA2により卵黄中のリン脂質がリゾ化された卵黄をいう。この為、ホスホリパーゼA2処理卵黄は、別名、リゾ化卵黄とも呼ばれている。
ホスホリパーゼA2処理卵黄を乳化剤として使用したマヨネーズやドレッシング類は、優れた耐熱性を示し、更に粒子径が小さくなるなど、物性が向上することも知られている。このため、ホスホリパーゼA2処理卵黄は、マヨネーズやドレッシング類の機能性を劇的に向上させる素材として、よく使用されているものである。
しかしながら、ホスホリパーゼA2処理卵黄を使用する場合、当然のことながら、別途に卵黄をホスホリパーゼA2処理する必要があり、タンクにて処理を行う場合、時間、エネルギー、設備等の処理コストを要したり、更に、手間がかかるのみならず、処理の段階で、微生物汚染が生じたり、或いは風味劣化が生じたりするなどの問題点があった。
即ち、本発明の第1は、卵黄を主要な乳化剤とする酸性水中油型乳化食品の製造方法において、酸性原料を除く水相部にホスホリパーゼA2を添加・保存した後、該水相部を酸性水中油型乳化食品に用いることを特徴とする高粘度及び耐熱性に優れた酸性水中油型乳化食品の製造方法を提供するものである。
本発明の第2は、酸性原料を除く水相部中のホスホリパーゼA2の添加量が500〜10,000IU/kg、及び保存温度が2〜10℃、並びに保存時間が1〜24時間であることを特徴とする前記記載の高粘度及び耐熱性に優れた酸性水中油型乳化食品の製造方法を提供するものである。
しかも、本発明によれば、別途にホスホリパーゼA2処理された卵黄を用いる必要がなく、タンクにて処理を行う場合に見られる、時間、エネルギー、設備等の処理コストを要したり、手間がかかるのみならず、処理の段階で微生物汚染が生じたり、或いは、風味劣化が生じたりするなどの問題点もない。
本発明の酸性水中油型乳化食品とは、水相と油相とが卵黄により乳化されてなるものをいい、代表的なものとしてマヨネーズやドレッシング類などが挙げられる。酸性水中油型乳化食品としては、従来公知のものを用いることができる。
本発明の特徴は、このような油相と水相とが卵黄により乳化されてなる酸性水中油型乳化食品を製造するにあたり、酸性原料を除く水相部に、ホスホリパーゼA2を添加・保存した後、該水相部を酸性水中油型乳化食品に用いることを特徴とするものである。
卵黄を含む卵原料以外、本発明の酸性水中油型乳化食品の水相部とは、一般にマヨネーズやドレッシング類の製造に際して使用される原料であり、その配合割合に準じて決定すればよく、特に制限されない。
通常、用いられる水相原料の例としては、水のほかに、卵黄、卵白、食塩、食酢、かんきつ類の果汁、グルタミン酸ナトリウム及びイノシン酸ナトリウム等の調味料、クエン酸等の酸味料、乳化剤、糖類、澱粉、ガム類、香辛料、着香料、着色料などがある。ここで、酸性原料とは、pH5以下の原料で、例えば、食酢、かんきつ類の果汁やクエン酸等の酸味料等が該当する。後述するように、ホスホリパーゼA2の活性領域は、pH5〜11の範囲にあるため、ホスホリパーゼA2を添加した水相部のpHが5未満とならないよう酸性原料を除外してある。但し、酸性原料が少量で、しかも、水相部をpH5以下に低下させない場合は、添加しても差し支えない。
卵黄量が2質量%未満では、酸性水中油型乳化食品に、十分な粘度や耐熱性を付与できないおそれがあり、一方、卵黄量が15質量%を超えると、調製時に転相し易くなったり、調製されても粘度が大幅に増加してハンドリング性が低下したりするため、いずれも好ましくない。
本発明において好適に用いられるノボザイムズジャパン(株)製のホスホリパーゼA2について述べると、このホスホリパーゼA2は、ブタの膵臓より抽出精製されたものであり、pH5〜11に活性領域を有するホスホリパーゼであり、かつ、作用至適pHが6〜10であり、作用至適温度が40〜60℃であって、35〜90℃の安定性上限温度を有するものである。しかしながら、作用至適温度が40℃未満の領域、即ち、2〜10℃付近でも処理時間を長くとれば、十分な酵素活性を示すことが見出され、この知見が本発明の基盤となっている。
実施例1〜6
(1)酸性原料を除く水相部の製造例
製造例1〔本発明品1の製造〕
下記表1の実施例1に示した配合組成において、酸性原料を除く水相部を調製し、これにホスホリパーゼA2「レシターゼ10L」を500IU/kg添加し、8℃の温度にて13時間保存して、水相部(本発明品1)を得た。
下記表1の実施例2に示した配合組成において、酸性原料を除く水相部を調製し、これにホスホリパーゼA2「レシターゼ10L」を1,000IU/kg添加し、8℃の温度にて13時間保存して、水相部(本発明品2)を得た。
下記表1の実施例3に示した配合組成において、酸性原料を除く水相部を調製し、これにホスホリパーゼA2「レシターゼ10L」を500IU/kg添加し、8℃の温度にて13時間保存して、水相部(本発明品3)を得た。
下記表1の実施例4に示した配合組成において、酸性原料を除く水相部を調製し、これにホスホリパーゼA2「レシターゼ10L」を1,000IU/kg添加し、8℃の温度にて13時間保存して、水相部(本発明品4)を得た。
下記表1の実施例5に示した配合組成において、酸性原料を除く水相部を調製し、これにホスホリパーゼA2「レシターゼ10L」を1,000IU/kg添加し、8℃の温度にて13時間保存して、水相部(本発明品5)を得た。
下記表1の実施例6に示した配合組成において、酸性原料を除く水相部を調製し、これにホスホリパーゼA2「レシターゼ10L」を10,000IU/kg添加し、8℃の温度にて1時間保存して、水相部(本発明品6)を得た。
下記表1に示す処方に従い、製造例1〜6で得られた酸性原料を除く水相部(本発明品1〜6)を用いて、6種類の酸性水中油型乳化食品(マヨネーズ)2kgを、コロイドミルにてそれぞれ調製した。
上記(2)で得られた実施例1〜6の酸性水中油型乳化食品(マヨネーズ)についての耐熱性評価を以下のようにして行った。
約20g容のプラスチック容器に、上記(2)で得られた実施例1〜6の酸性中油型乳化食品(マヨネーズ)15gを充填・シールした後、90℃にて30分間加熱した。冷却後、酸性水中油型乳化食品(マヨネーズ)の耐熱性を次の3段階で評価した。なお、評価は経験豊かな5名のパネラーによる視覚観察の平均値で示した。結果を表1に示す。
〔耐熱性の評価〕
・安定 : 油分離していない。
・やや安定: 僅かな油分離がみられる。
・不安定 : かなりの油分離がみられる。
上記(1)で得られた実施例1〜6の酸性水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)の粘度を次のような条件で測定した。即ち、(2)で得られた酸性水中油型エマルジョン食品マヨネーズ)を約200mlの容器に充填し、24℃で1日保存後、ブルックフィールド粘度計を用い、スピンドル:TC及び回転数:5rpmの条件にて、測定した。測定された粘度に基づき、好ましい粘度領域を以下のようにして評価した。結果を表1に示す。
〔粘度の評価〕
・100,000mPa・s以上で、250,000mPa・s : 良好
・70,000mPa・s以上で、100,000mPa・s未満 : やや良好
・70,000mPa・s未満 : 不良
実施例1〜6の酸性水中油型エマルジョン食品(マヨネーズ)の耐熱性及び粘度の評価結果より、以下のようにして総合評価を行った。結果を表1に示す。
〔総合評価〕
・耐熱性及び粘度共に良好なもの : 良好
・耐熱性及び粘度が良好とやや良好の組み : やや良好
合わせのもの又は何れもやや良好なもの
・耐熱性又は粘度が不良なもの : 不良
(1)酸性原料を除く水部の比較製造例
比較製造例1〔比較品1の製造〕
製造例2において、ホスホリパーゼA2「レシターゼ10L」を添加しないことを除いては、製造例1と同様にして、水相部(比較品1)を得た。
製造例4において、ホスホリパーゼA2「レシターゼ10L」を添加しないことを除いては、製造例5と同様にして、水相部(比較品2)を得た。
製造例2において、8℃の温度にて13時間保存しないことを除いては、製造例1と同様にして、水相部(比較品3)を得た。
製造例4において、8℃の温度にて13時間保存しないことを除いては、製造例4と同様にして、水相部(比較品4)を得た。
製造例2において、酸性原料(食酢)を含む水相部を調製し、製造例2と同様にして水相部(比較品5)を得た。
製造例6において、酸性原料(食酢)を含む水相部を調製し、製造例6と同様にして、水相部(比較品6)を得た。
比較製造例1〜6で得られた水相部(比較品1〜6)を下記表2に示す所定量用い、下記表2に示す配合割合の比較例1〜6の酸性水中油型乳化食品(マヨネーズ)2kgを実施例1〜6と同様にして調製した。
上記(2)で得られた比較例1〜6の酸性水中油型乳化食品(マヨネーズ)についての耐熱性評価を、実施例1〜6と同様にして評価した。評価結果を表2に示す。
上記(2)で得られた比較例1〜6の酸性水中油型乳化食品(マヨネーズ)の粘度の測定及び評価を、実施例1〜6と同様にして評価した。評価結果を表2に示す。
上記(2)で得られた比較例1〜6の酸性水中油型乳化食品(マヨネーズ)の耐熱性及び粘度の総合評価を、実施例1〜6と同様にして評価した。評価結果を表2に示す。
実施例1〜5の酸性水中油型乳化食品(マヨネーズ)の酸性原料(食酢)を除く水相部は、それぞれ異なった組成を持つものであるが、これら水相部中にホスホリパーゼA2を500IU/kg以上添加し、8℃で13時間保存した後、酸性水中油型乳化食品(マヨネーズ)に用いた場合、いずれの粘度及び耐熱性の総合評価はやや良好〜良好であることが判った。
又、実施例6の酸性水中油型乳化食品(マヨネーズ)の酸性原料(食酢)を除く水相部にホスホリパーゼA2を10,000IU/kg添加し、8℃で1時間保存した後、酸性水中油型乳化食品(マヨネーズ)に用いた場合、粘度及び耐熱性の総合評価は、やや良好であることが判った。
以上の結果より、酸性原料を除く水相部の組成が異なったものでも、ホスホリパーゼA2を500IU/kg以上添加し、8℃で13時間保存した後、酸性水中油型乳化食品(マヨネーズ)に用いた場合、総合評価がやや良好〜良好であることが理解される。
更に、酸性原料を除く水相部中のホスホリパーゼA2の添加量を増加することにより、保存時間を短縮できることが理解される。
酸性原料(食酢)を除く水相部の組成がかなり異なっている比較例1及び2の酸性水中油型乳化食品(マヨネーズ)において、酸性原料を除く水相部にホスホリパーゼA2を添加しないこと以外は実施例と同様に保存したものを用いた比較例1及び2の酸性水中油型乳化食品では、耐熱性が不良であり、耐熱性及び粘度との総合評価においても不良であることが判った。
又、比較例1及び2と同様な組成で、酸性原料を除く水相部にホスホリパーゼA2を1,000IU/kg添加するのみで、保存しないものを用いた比較例3及び4の酸性水中油型乳化食品(マヨネーズ)では、耐熱性が不良であり、総合評価においても、不良であることが判った。
更に、比較例1及び2と同様な組成で、酸性原料を含んだ水相部にホスホリパーゼA2を1,000IU/kg添加し、実施例と同様に保存したものを用いた比較例5及び6の酸性水中油型乳化食品(マヨネーズ)では、耐熱性が不良であり、総合評価においても、不良であることが判った。
以上の結果より、酸性原料を除く水相部の組成が異なったものでも、ホスホリパーゼ無添加の場合、ホスホリパーゼA2を添加しても、保存しない場合及び酸性原料を含んだ水相にホスホリパーゼA2を添加した場合の何れにおいても、耐熱性が不良であり、総合評価において、不良であることが理解される。
よって、本発明は、食品工業分野において有用である。
Claims (1)
- 卵黄を主要な乳化剤とする酸性水中油型乳化食品の製造方法において、酸性原料を除く水相部にブタ膵臓由来のホスホリパーゼA2を500〜10,000IU/kg添加し、2〜10℃で1〜24時間保存した後、該水相部を酸性水中油型乳化食品に用いることを特徴とする高粘度及び耐熱性に優れた酸性水中油型食品の製造方法。
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