JP5286473B2 - 累進屈折力眼鏡レンズの設計方法 - Google Patents
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Description
この設計分野では、眼鏡レンズ、特に老視を補正するために使われる累進屈折力眼鏡レンズの光学特性を、ユーザーの眼科的な処方のみならず、個人毎に異なるライフスタイル、例えば、眼鏡の使用目的、シーン、使用の頻度等や、眼鏡として完成され装用された状態のレンズの眼に対する位置や視線に対する姿勢、傾き等の個々の装用時条件を考慮し、光学性能を最適化する設計が行われる。
例えば、特許文献1には、ユーザーの眼に関連するカスタマイズ情報やユーザーのライフスタイルに関連したカスタマイズ情報を使いカスタム設計を行う製造方法が開示されており、このユーザーの眼に関連するカスタマイズ情報の中は、度数(球面度数、乱視度数及び乱視軸)、加入度数や遠用部から近用部にかけての眼の輻輳等の眼科的な処方情報や、眼鏡装用時のフィッティングデータとして角膜頂間距離や装用時前傾角、フレームのそり角度がある。特許文献1では、ライフスタイルに関連した情報により遠用や近用の広さや位置といった基本設計パラメーラをカスタマイズし、それにより累進面を計算するとともに、さらに装用時前傾角等のフィッティング情報により光学特性の補正が行われる。
図1には累進屈折力眼鏡レンズの一般的な構造が示されている。図1(A)は累進屈折力眼鏡レンズ1の正面図が示され、図1(B)は、その垂直断面図が示されている(ハッチングを省略)。
図1(A)(B)において、累進屈折力眼鏡レンズ1は、物体側屈折面2(以下、外面と称する)と眼球側屈折面3(以下、内面と称する)の2つの屈折面により構成され、遠方視に対応する遠用部4、近方視に対応する近用部5、及び遠用部4から近用部5にかけて屈折力が連続的に変化する累進部6aを備えている。
近用部5では遠用部4に対して加入度数分だけ屈折力が増加している。レンズほぼ中央には装用時に頻繁に視線が通過するレンズ上の位置である主注視線7がほぼ垂直に形成されており、近用部5では近距離を見るときの輻輳により鼻側に(図1では右寄り)に偏寄している。遠用部4と近用部5の間の領域は中間部と呼ばれており、この中間部は、主注視線7の近傍部分の比較的収差の小さな領域である累進部6aと、この累進部6aの外側の中間側方部6bとから構成される。中間側方部6bは非点収差や歪曲収差が大きくなり、物を鮮明に歪みなく見るには適さない領域である。主注視線7上にはレンズを眼鏡フレームに入れたときに第一眼位(水平正面視の位置)で視線が通過するフィッティングポイント9があり、その垂直下方数ミリの位置にプリズム測定基準点8がある。このプリズム測定基準点8はレンズを図示しない眼鏡フレームに枠入れしたときに、眼鏡フレームの垂直方向の幅のほぼ中間位置になるように意図して設定されることが多い。
累進屈折力眼鏡レンズの前述のような遠用部4、近用部5、中間部6a,6bは累進面と称される1つの面上に構成される。累進面は外面あるいは内面、場合によっては両面に構成される。
図2(A)(B)では、レンズの幾何学中心にプリズム測定基準点8が設けられており、眼鏡フレームへの枠入れ時にはこの幾何学中心、つまり、プリズム測定基準点8が玉型の中心と一致する。この場合、図2(B)に示される通り、装用時前傾角PAはプリズム測定基準点8の断面図における外面の法線がその点を含む水平平面となす角として定義される。装用時前傾角PAの定義については、種々の解釈があるが、ここでの説明では、第一眼位における視軸に対するレンズ枠入れ時のレンズ中心位置での外面(前面)の法線の傾きをもって、装用時前傾角と定義する。以降、この説明においては、外面のプリズム測定基準点を原点とし、水平平面上で眼に向かう方向にZ軸(+)、Z軸に直交する垂直平面で上方向にY軸(+)、を設定する。装用時前傾角PAは図2(B)のように遠用部が眼から遠ざかり、近用部が眼に近づく方向すなわちレンズが伏せる方向の場合を正の値(+)にとる。
一般的に、レンズメーカーでは、設計パラメータとなる装用時前傾角PAを8°〜12°の間の所定値を標準値として設定して設計が行われる。そして、レンズメーカーは、眼鏡店にその情報を伝え、眼鏡店では、標準の装用時前傾角になるようにユーザーの選んだ眼鏡フレームのフィッティング調整が行われる。
各段において、(A)(E)(I)がレンズ垂直断面図を示し、(B)(F)(J)が主注視上での外面の面屈折力を示し、(C)(G)(K)が主注視線上の内面の面屈折力を示し、(D)(H)(L)が主注視線上の各位置でレンズを透して対象物を見たときのレンズの屈折作用(以下、透過屈折力と称す)を示している。なお、累進屈折力眼鏡レンズでは対象物の眼からの距離を遠用部では遠方、例えば、10mないし無限遠に、近用部では近方、例えば40cmないし25cmに設定し、累進部では遠用部から近用部に徐々に距離が変化するように距離を設定して透過屈折力を評価する必要がある。各図の縦軸はプリズム測定基準点を基準とした垂直方向のY座標を表し、横軸は垂直断面図ではZ座標を示し、屈折力の図ではディオプトリの単位での屈折力を表している。
図3(A)(E)(I)のレンズ垂直断面図によれば、このレンズの断面形状と装用時前傾角PAが、0°、10°、20°のときの実際の眼鏡レンズ1の姿勢が示されている。
Cm1 : 外面の主注視線に沿った断面の曲率
Cs1 : 外面の主注視線に直交する断面の曲率
Cm2 : 内面の主注視線に沿った断面の曲率
Cs2 : 内面の主注視線に直交する断面の曲率
Dm1 : 外面の主注視線に沿った断面の面屈折力 =(N−1)・Cm1
Ds1 : 外面の主注視線に直交する断面の面屈折力 =(N−1)・Cs1
Dm2 : 内面の主注視線に沿った断面の面屈折力 =(1−N)・Cm2
Ds2 : 内面の主注視線に直交する断面の面屈折力 =(1−N)・Cs2
さらに、主注視線上での透過屈折力についても、同様に主注視線に沿った方向とそれに直交する方向に添え字m、sをつけ、
Pm : レンズの主注視線に沿った断面での透過屈折力
Ps : レンズの主注視線に直交する断面での透過屈折力
で表現される。
一方、内面側の累進面では、Y=3mmからY=−11mmまでの間が累進部であり、屈折力が−7(D)から−5(D)に加入屈折力2(D)分だけ増加している。Y=3mmより上方の遠用部では実線で示される主注視線に沿った断面の面屈折力Dm2は上方に向かって徐々にプラス側に移行し、主注視線に直交する断面の面屈折力Ds2はほぼ一定のままである。累進部ではDm、Dsはほぼ同じであり、近用部では下方に向かってDsはほぼ一定であるがDmはわずかにマイナス側に移行している。DmとDsが異なっているということは面非点収差を持っていると言うことを意味している。このレンズの処方には乱視は含まれていないが、このように面非点収差を載せる設計を行うのは、レンズの周辺部において視線がレンズを斜めに通過するときに発生する収差を補正するためであり、近年の累進屈折力眼鏡レンズの設計に用いられる設計手法(以下、軸外収差非球面補正と称する)。この設計手法の効果は、PA10°のときの透過屈折力の図で理解できる。すなわち、PA=10°においては、主注視線に沿った断面の透過屈折力Pmと、この透過屈折力Pmに直交する断面の透過屈折力Psは同じ値になっており、図では実線で示されるPmと波線で示されるPsとは重なっている。つまり、目的とした遠用部、累進部、近用部での屈折効果が得られている。
これに対して、装用時前傾角PAが0°と20°のものでは、遠用部において、それぞれ約0.3(D)、約0.6(D)程度の非点収差が発生する(図3(D)(L)参照)。これは通常のレンズの処方が0.25(D)を単位に処方されていることを考えると非常に大きな光学エラーといえる。また非点収差のみでなくDmとDsの平均値として定義される平均屈折力においても、狙いとした一定の値ではなくズレを生じている。
従来例2は累進面が外面にある点が従来例1とは異なる。外面は累進面であり、y=3mmからy=−11mmが累進部である。この間で主注視線の面屈折力Dm、Dsは6(D)から8(D)へ約2(D)の加入屈折力分だけ増加している。y=3mm以上の遠用部ではDsはほぼ一定であるがDmは上方に向かって徐々に小さくなっている。一方、近用部ではDsはほぼ一定であるのに対し、Dmは下方に向かって徐々に小さくなっている。これは、従来例1と同様に、軸外収差非球面補正の設計手法が採用されているためである。その結果。PA10°では目的とした光学特性が得られていることが図4(H)の透過屈折力の図から理解できるが、PAが0°、20°ではそれぞれ遠用部で約0.4(D)近用部で約0.7(D)及び遠用部で約0.8(D)、近用部で約0.3(D) という大きな非点収差が発生するのが分かる。
一方、既に累進屈折力眼鏡レンズのカスタマイズ設計の思想の下に、装用時前傾角を含む要素によって光学的な補正を行うという概念は特許文献1等で示されているものの、実現方法については大まかな方法が示されるのみで、レンズ処方等の様々な条件に対応した具体的な累進屈折力眼鏡レンズの構造については、特許文献1〜3には開示されておらず、実施できるものではない。
SV=SPH+CYL・{cos(AX)} 2 ……(1)
Dm1=(N−1)・Cm1 ……(2)
Dm2=(1−N)・Cm2 ……(3)
であり、標準的な装用時前傾角を想定して設計されたレンズの外面の主注視線に沿った断面の曲率をCm1oとし、外面の主注視線に直交する断面の曲率をCs1oとし、内面の主注視線に沿った断面の曲率をCm2oとし、内面の主注視線に直交する断面の曲率をCs2oとし、外面の主注視線に沿った断面の面屈折力をDm1oとし、内面の主注視線に直交する断面の面屈折力をDs1oとし、内面の主注視線に沿った断面の面屈折力をDm2oとし、内面の主注視線に直交する断面の面屈折力をDs2oとし、装用時前傾角であってレンズが伏せる方向の場合を正の値とする角度をPAoとすると、
Dm1o=(N−1)・Cm1o ……(2A)
Dm2o=(1−N)・Cm2o ……(3A)
であり、実際に装用されるレンズの装用時前傾角と標準的なレンズの装用時前傾角との差である装用時前傾角の変化量をΔPAとし、実際に装用されるレンズの外面と内面との主注視線に沿った断面の面屈折力の和と、標準的なレンズの外面と内面との主注視線に沿った断面の面屈折力との和との差を、ΔDm(Y)とすると、
ΔPA=PA−PAo ……(4)
ΔDm(Y)={Dm1(Y)+Dm2(Y)}−{Dm1o(Y)+Dm2o(Y)} …(5)
であって、
ΔPA≠0 かつ ΔDm(Yf)≠ΔDm(Yn) …(6)
の関係を有することを特徴とする。
なお、ここにいう実際に装用されるレンズとは、本願によるところの装用時前傾角を考慮しカスタマイズ設計されたレンズのことを言う。
つまり、本発明では、垂直距離Yの主注視線上での位置が5<Y<15にあるいずれかの点のY座標Yfでの式(5)の値ΔDm(Yf)と、垂直距離Yの主注視線上での位置が−15<Y<−5にあるいずれかの点のY座標Ynでの式(5)の値ΔDm(Yn)とを同一にしないとの条件の下、眼鏡レンズの種々の状況に応じて遠用部や近用部で生じる非点収差を補正することで、装用時前傾角の標準値からのズレにより生ずる光学特性の劣化を防止することができる。
この構成の発明では、実際に装用される装用時前傾角PAが標準の装用時前傾角PA0よりも傾いており、遠用部の処方が近視の場合の累進屈折力眼鏡レンズの光学特性の劣化を防止することができる。
この構成の発明では、実際に装用される装用時前傾角PAが標準の装用時前傾角PA0よりも傾いており、遠用部の処方が遠視の場合の累進屈折力眼鏡レンズの光学特性の劣化を防止することができる。
この構成の発明では、実際に装用される装用時前傾角PAが標準の装用時前傾角PA0よりも傾きが小さく、遠用部の処方が近視の場合の累進屈折力眼鏡レンズの光学特性の劣化を防止することができる。
この構成の発明では、実際に装用される装用時前傾角PAが標準の装用時前傾角PA0よりも傾きが小さく、遠用部の処方が遠視の場合の累進屈折力眼鏡レンズの光学特性の劣化を防止することができる。
この構成の発明では、実際に装用される装用時前傾角PAが標準の装用時前傾角PA0よりも傾いており、遠用部の処方が遠視の場合の累進屈折力眼鏡レンズの光学特性の劣化を防止することができる。
この構成の発明では、実際に装用される装用時前傾角PAが標準の装用時前傾角PA0よりも傾きが小さく、遠用部の処方が遠視の場合の累進屈折力眼鏡レンズの光学特性の劣化を防止することができる。
この構成の発明では、レンズ外面を従来と同様の形状とすることができる。
この構成の発明では、レンズ内面を従来と同様の形状とすることができる。
SV=SPH+CYL・{cos(AX)} 2 ……(1)
Dm1=(N−1)・Cm1 ……(2)
Dm2=(1−N)・Cm2 ……(3)
であり、標準的な装用時前傾角を想定して設計されたレンズの外面の主注視線に沿った断面の曲率をCm1oとし、外面の主注視線に直交する断面の曲率をCs1oとし、内面の主注視線に沿った断面の曲率をCm2oとし、内面の主注視線に直交する断面の曲率をCs2oとし、外面の主注視線に沿った断面の面屈折力をDm1oとし、内面の主注視線に直交する断面の面屈折力をDs1oとし、内面の主注視線に沿った断面の面屈折力をDm2oとし、装用時前傾角(レンズが伏せる方向の場合を正の値とする)をPAoとすると、
Dm1o=(N−1)・Cm1o ……(2A)
Dm2o=(1−N)・Cm2o ……(3A)
であり、実際に装用されるレンズの装用時前傾角と標準的なレンズの装用時前傾角との差である装用時前傾角の変化量をΔPAとし、実際に装用されるレンズの外面と内面との主注視線に沿った断面の面屈折力の和と、標準的なレンズの外面と内面との主注視線に沿った断面の面屈折力との和との差を、ΔDm(Y)とすると、
ΔPA=PA−PAo ……(4)
ΔDm(Y)={Dm1(Y)+Dm2(Y)}−{Dm1o(Y)+Dm2o(Y)} …(5)
であって、
ΔPA≠0 かつ ΔDm(Yf)≠ΔDm(Yn) …(6)
の関係を有するように前記累進面を設計することを特徴とする。
この構成の発明では、前述の効果を奏することができる累進屈折力眼鏡レンズの設計方法を提供することができる。
本実施形態を簡単に説明すると、累進屈折力眼鏡レンズ1は、図1及び図2に示される通り、外面である物体側屈折面2と、内面である眼球側屈折面3の2つの屈折面により構成され、遠用部4、近用部5及び累進部6aを備えており、そのレンズのほぼ中央に主注視線7がほぼ垂直に形成されている。累進部6aの外側には中間側方部6bが形成されている。主注視線7上にはフィッティングポイント9が形成され、その垂直下方数ミリの位置にプリズム測定基準点8が位置する。このような遠用部4、近用部5、中間部6a,6bは累進面と称される1つの面上に構成されており、本実施形態では、累進面はレンズ内面又はレンズ外面、あるいは、レンズ内面及びレンズ外面の双方に形成されている。
プリズム測定基準点8の断面図における外面の法線であってその点を含む水平平面となす角が装用時前傾角PAと定義される。
SV=SPH+CYL・{cos(AX)} 2 ……(1)
Dm1=(N−1)・Cm1 ……(2)
Ds1=(N−1)・Cs1 ……(7)
Dm2=(1−N)・Cm2 ……(3)
Ds2=(1−N)・Cs2 ……(8)
である。
Dm1o=(N−1)・Cm1o ……(2A)
Ds1o=(N−1)・Cs1o ……(7A)
Dm2o=(1−N)・Cm2o ……(3A)
Ds2o=(1−N)・Cs2o ……(8A)
である。
実際に装用されるレンズの装用時前傾角PAと標準的なレンズの装用時前傾角PA0との差である装用時前傾角の変化量をΔPAとし、実際に装用されるレンズの外面と内面との主注視線に沿った断面の面屈折力の和と、標準的なレンズの外面と内面との主注視線に沿った断面の面屈折力との和との差を、ΔDm(Y)とし、実際に装用されるレンズの外面と内面との主注視線に直交する断面の面屈折力の和と、標準的なレンズの外面と内面との主注視線に直交する断面の面屈折力との和との差をΔDs(Y)とすると、
ΔPA=PA−PAo ……(4)
ΔDm(Y)={Dm1(Y)+Dm2(Y)}−{Dm1o(Y)+Dm2o(Y)} …(5)
ΔDs(Y)={Ds1(Y)+Ds2(Y)}−{Ds1o(Y)+Ds2o(Y)} …(9)
である。
ΔPA≠0 かつ ΔDm(Yf)≠ΔDm(Yn) …(6)
の関係を有する。
そして、前述の式の関係を有するように本実施形態では、眼鏡レンズを設計する。
(実施例1)
実施例1は、遠用部の処方が近視の場合の累進屈折力眼鏡レンズを説明する。この実施例1は、従来例1を改善したもので、従来例1と同様に、レンズの球面屈折力SPHが−4.00ディオプトリであり、乱視屈折力CYLが0.00ディオプトリであり、乱視軸方向AXが0°であり、加入屈折力ADDが2.00ディオプトリであり、累進帯長PLが14mmであり、レンズの屈折率Nが1.67であり、ベースカーブBCが3.00ディオプトリの累進屈折力眼鏡レンズである。ここで、装用時前傾角PAは、前述の通り、レンズが伏せる方向の場合を正の値とする。
図5は実施例1の結果を示しており、図5の構成は図3及び図4とほぼ同じであるが、新たに、装用時前傾角PAが標準である10°以外の0°と20°には面屈折力補正値が追加され図示されている。
つまり、上段の(A)〜(D)が装用時前傾角PA=0°の場合であり、中段の(E)〜(H)がPA=10°の場合(標準値として設定される装用時前傾角の角度)であり、下段の(I)〜(L)がPA=20°の場合である。各段において、(A)(E)(I)がレンズ垂直断面図を示し、(B)(F)(J)が主注視上での外面の面屈折力を示し、(C)(G)(K)が主注視線上の内面の面屈折力を示し、(D)(H)(L)が主注視線上の各位置でレンズを透して対象物を見たときのレンズの屈折作用(以下、透過屈折力と称す)を示している。そして、上段の(M)には装用時前傾角PA=0°の場合の面屈折力補正値が示され、下段の(N)には装用時前傾角PA=20°の場合の面屈折力補正値が示されている。
ΔDm(Y)={Dm1(Y)+Dm2(Y)}−{Dm1o(Y)+Dm2o(Y)} (5)
ΔDs(Y)={Ds1(Y)+Ds2(Y)}−{Ds1o(Y)+Ds2o(Y)} (9)
図5(M)(N)において、マイナス処方をもつ累進屈折力眼鏡レンズでは、標準の装用時前傾角PA10°から装用時前傾角PA0°にレンズを起こした場合、ΔDsは全域でほとんど変化しないが、Dmは遠用部では上方に徐々にマイナス方向に減少させ約−0.4(D)まで屈折力の補正が行われている。一方、累進部から近用部では遠用部のそれに比べ補正量は符号が逆であり、量も約0.1(D)程度と少ない。
累進屈折力眼鏡レンズが眼鏡フレームに枠入れされ使用されるときのレンズの垂直方向での範囲を考慮したとき、遠用部および近用部を代表する主注視線上での位置をそれぞれYf及びYnとしたとき、それらは次のように定義することができる。
Y:プリズム測定基準点からの垂直距離(レンズの枠入れにに上となる方向を正の値)
Yf:注注視線上で 5<Y<15 の範囲のいずれかのY座標
Yn:主注視線上で −15<Y<−5 の範囲のいずれかのY座標
ここで遠用部あるいは近用部を代表する主注視線上の位置とは、例えば、遠用部度数測定位置、近用部度数測定位置としてメーカーにより設定される位置を意味する。累進屈折力眼鏡レンズの光学特性は累進帯長によって大きく左右され、その設計のコンセプトによって累進帯長は様々に設定されるが、ほとんどの累進屈折力眼鏡レンズはこの定義によるYf、Ynの範囲に遠用部及び近用部の主注視線上での実質的な使用範囲が含まれている。
この主注視線上の遠用部の範囲Yf及び近用部の範囲Ynについて、面屈折力補正値が表1に示されている。実施例1は式(1)から垂直方向屈折力SVは−4.00(D)である。
ΔDm(Yf)≠ΔDm(Yn)
ΔDm(Yf)<0 となり、
標準の装用時前傾角PAoより前傾角が大きい場合(PA>PAo)には、
ΔDm(Yf)≠ΔDm(Yn)
ΔDm(Yf)>0 となることがわかる。
なお、ΔDm(Yn)は0.1(D)以下の僅かな変化であり、明確な傾向とは認められなかった。
実施例2は、遠用部の処方が遠視の場合の累進屈折力眼鏡レンズを説明する。この実施例2は、従来例2を改善したものであり、従来例2と同様に、レンズの球面屈折力SPHが4.00ディオプトリであり、乱視屈折力CYLが0.00ディオプトリであり、乱視軸方向AXが0°であり、加入屈折力ADDが2.00ディオプトリであり、累進帯長PLが14mmであり、レンズの屈折率Nが1.60であり、ベースカーブBCが6.00ディオプトリの累進屈折力眼鏡レンズである。
図6の実施例2を、その改善前の従来例2と比べると、従来例2でのPAが0°及び20°の透過屈折力の図4(D)(L)で見られた非点収差や平均屈折力のズレがほぼ解消されていることが分かる。その最適化をもたらすために、内面側累進面の面屈折力に補正が加えられており、その屈折力補正値(量)は、図6(M)(N)に示されている。
図6(M)(N)において、標準のPA10°からPA0°にレンズを起こした場合、ΔDsは全域でほとんど変化しないが、Dmは遠用部では上方に徐々にプラス方向に増加され約0.4(D)まで屈折力の補正が行われている。一方、累進部から近用部では遠用部のそれに比べ補正量は符号が逆である。
これに対して、PA10°からPA20°にレンズを伏せていった場合、ΔDsの変化は小さいが、ΔDmに大きな変化が見られる。つまり、ΔDmは近用部から累進部にかけてプラス方向の補正量を有し、累進部の中間辺りから上方に徐々にマイナス方向に補正量が増え約−0.5(D)の屈折力の補正が行われている。
実施例2は式(1)より、垂直方向屈折力SVが4.00となる。
表2は面屈折力補正値について示したものである。
ΔDm(Yf)≠ΔDm(Yn)
ΔDm(Yf)>0
ΔDm(Yn)<0 となり、
標準の装用時前傾角PAoより装用時前傾角PAが大きい場合(PA>PAo)には、
ΔDm(Yf)≠ΔDm(Yn)
ΔDm(Yf)<0
ΔDm(Yn)>0 ということがわかる。
実施例3は外面に累進面を有し、内面側の面で補正を行う累進屈折力眼鏡レンズである。
実施例3は、レンズの球面屈折力SPHが−6.00ディオプトリであり、乱視屈折力CYLが0.00ディオプトリであり、乱視軸方向AXが0°であり、加入屈折力ADDが2.00ディオプトリであり、累進帯長PLが12mmであり、レンズの屈折率Nが1.74であり、ベースカーブBCが2.00ディオプトリの累進屈折力眼鏡レンズである。
図7は実施例3の結果を示しており、図7の構成は図5と同じである。
図7において、外面側では装用時前傾角PAに関わらずDm1、Ds1は同じ値で遠用から近用にかけて典型的な累進屈折力眼鏡レンズに見られる屈折力変化をしている。一方、内面側の屈折面は、Dm2、Ds2が部分的に異なり、かつレンズの上方および下方に向かって一定でなく変化するいわゆる非球面となっている。標準の装用時前傾角PAo=10°での透過屈折力を示す図7(H)では、その非球面により狙いの透過屈折力が得られているのがわかる。
表3は面屈折力補正値について示したものである。
実施例3は式(1)より、垂直方向屈折力SVが−6.00となる。
ΔDm(Yf)≠ΔDm(Yn)
ΔDm(Yf)<0 となり、
標準の装用時前傾角PAoより前傾角が大きい場合(PA>PAo)には、
ΔDm(Yf)≠ΔDm(Yn)
ΔDm(Yf)>0 となることがわかる。
実施例4は外面と内面に累進面を有し、内面側の累進面で補正を行う累進屈折力眼鏡レンズである。
実施例4は、レンズの球面屈折力SPHが+2.00ディオプトリであり、乱視屈折力CYLが0.00ディオプトリであり、乱視軸方向AXが0°であり、加入屈折力ADDが2.00ディオプトリであり、累進帯長PLが14mmであり、レンズの屈折率Nが1.67であり、ベースカーブBCが5.00ディオプトリの累進屈折力眼鏡レンズである。
図8(B)(F)(J)において、外面側では装用時前傾角PAの角度に関わらず同じ累進面であり、その累進面においてDm1は遠用から近用にかけて典型的な累進屈折力眼鏡レンズに見られる屈折力変化をし、一方、Ds1は遠用部、中間部、近用部に関わりなく一定値である。一方の内面側の屈折面は、Dm2、Ds2が部分的に異なり、Ds2が遠用から近用にかけて典型的な累進屈折力眼鏡レンズに見られる屈折力変化をし、Dm2がDs2に比べて大きな変化はしないものの上方および下方に向かって変化している。
図8(H)において、標準の装用時前傾角PA10°での透過屈折力は、それらの2つの累進面により狙いの透過屈折力が得られているのがわかる。一方、装用時前傾角PAが0°と20°とでは、さらに、補正を加えた累進面により、透過屈折力が良好に補正されていることがわかる。その装用時前傾角PAの変化による面屈折力補正値は図8(M)(N)に示されている。
表4は面屈折力補正値について示したものである。
実施例4は式(1)より、垂直方向屈折力SVが2.00となる。
ΔDm(Yf)≠ΔDm(Yn)
ΔDm(Yf)>0
ΔDm(Yn)<0 となり、
標準の装用時前傾角PAoより装用時前傾角PAが大きい場合(PA>PAo)には、
ΔDm(Yf)≠ΔDm(Yn)
ΔDm(Yf)<0
ΔDm(Yn)>0 となることがわかる。
実施例5は外面が球面であり、内面側に乱視の矯正を含む累進面において補正を行う累進屈折力眼鏡レンズである。
実施例5は、レンズの球面屈折力SPHが−3.00ディオプトリであり、乱視屈折力CYLが−2.00ディオプトリであり、乱視軸方向AXが30°であり、加入屈折力ADDが2.50ディオプトリであり、累進帯長PLが10mmであり、レンズの屈折率Nが1.67であり、ベースカーブBCが3.00ディオプトリの累進屈折力眼鏡レンズである。
図9(B)(F)(J)において、外面は装用時前傾角PAの角度に関わらず共通の面であり、球面であるのでDm1、Ds1は同じ値で一定である。一方、図9(C)(G)(K)に示される通り、内面側は乱視が処方されていることによりDm2、Ds2は基本的に異なる値であり、かつ両方とも累進的な屈折力変化を有する。Ds2は装用時前傾角PAが変化してもほぼ変わらず、典型的な累進屈折力眼鏡レンズに見られる屈折力変化をしているが、Dm2はDs2に比べて補正による大きな変化が見られる。
図9(H)に示される通り、標準の装用時前傾角PA10°での透過屈折力は、その補正の入った内面累進面により乱視を含めた狙いの透過屈折力が得られているのがわかる。一方、図9(D)(L)に示される通り、装用時前傾角PAが0°と20°との場合では、補正を加えた非球面により、透過屈折力が良好に補正されていることが分かる。その装用時前傾角PAの変化による面屈折力補正値は図9(M)(N)に示されている。
表5は面屈折力補正値について示したものである。
実施例5は式(1)より、垂直方向屈折力SVが−4.50となる。
ΔDm(Yf)≠ΔDm(Yn)
ΔDm(Yf)<0 となり、
標準の装用時前傾角PAoより装用時前傾角PAが大きい場合(PA>PAo)には、
ΔDm(Yf)≠ΔDm(Yn)
ΔDm(Yf)>0 となることがわかる。
面屈折力補正値は垂直方向屈折力SVのプラス、マイナスおよび装用時前傾角PAの変化の方向、つまり、ΔPAのプラス、マイナスによって補正の方向(プラス、マイナス)が次の通り規定される。
SV<0 かつ ΔPA>0 のときは、ΔDm(Yf)>0
SV>0 かつ ΔPA>0 のときは、ΔDm(Yf)<0
SV<0 かつ ΔPA<0 のときは、ΔDm(Yf)<0
SV>0 かつ ΔPA<0 のときは、ΔDm(Yf)>0
SV>0 かつ ΔPA>0 のときは、ΔDm(Yn)>0
SV>0 かつ ΔPA<0 のときは、ΔDm(Yn)<0
例えば、前記実施形態では、標準的な装用時前傾角PAoを10°とし、実際に装用されるレンズの装用時前傾角PAを0°と20°の場合について説明したが、本発明では、標準的な装用時前傾角PAoや実際に装用されるレンズの装用時前傾角PAはこれらの角度に限定されるものではない。
Claims (5)
- 対をなす外側屈折面と内側屈折面とを有し、遠方視に対応する遠用部と、近方視に対応する近用部と、前記遠用部から前記近用部にかけて屈折力が連続的に変化する累進部とを備え、前記外側屈折面と内側屈折面の少なくとも一方が面内の位置によって屈折力の異なる累進面である累進屈折力眼鏡レンズを設計する方法において、
実際に装用されるレンズの球面屈折力をSPHとし、乱視屈折力をCYLとし、乱視軸方向をAX(単位は「°」)とし、加入屈折力をADDとし、レンズの屈折率をNとし、垂直方向の屈折力をSVとし、外面の主注視線に沿った断面の曲率をCm1とし、内面の主注視線に沿った断面の曲率をCm2とし、外面の主注視線に沿った断面の面屈折力をDm1とし、内面の主注視線に沿った断面の面屈折力をDm2とし、装用時前傾角(レンズが伏せる方向の場合を正の値とする)をPAとし、プリズム測定基準点からの垂直距離(レンズの枠入れ時に上となる方向を正の値とする)をYとし、この垂直距離Yの主注視線上での位置が5<Y<15にあるいずれかの点のY座標(単位はmm)をYfとし、垂直距離Yの主注視線上での位置が−15<Y<−5にあるいずれかの点のY座標をYnとすると、
SV=SPH+CYL・{cos(AX)} 2 ……(1)
Dm1=(N−1)・Cm1 ……(2)
Dm2=(1−N)・Cm2 ……(3)
であり、
標準として設定している装用時前傾角を想定して設計されたレンズの外面の主注視線に沿った断面の曲率をCm1oとし、内面の主注視線に沿った断面の曲率をCm2oとし、外面の主注視線に沿った断面の面屈折力をDm1oとし、内面の主注視線に直交する断面の面屈折力をDs1oとし、内面の主注視線に沿った断面の面屈折力をDm2oとし、内面の主注視線に直交する断面の面屈折力をDs2oとし、装用時前傾角であってレンズが伏せる方向の場合を正の値とする角度をPAoとすると、
Dm1o=(N−1)・Cm1o ……(2A)
Dm2o=(1−N)・Cm2o ……(3A)
であり、
実際に装用される状態を想定して注文時に指定されたレンズの装用時前傾角と標準として設定している装用時前傾角との差である装用時前傾角の変化量をΔPAとし、実際に装用されるレンズの外面と内面との主注視線に沿った断面の面屈折力の和と、標準として設定しているレンズの外面と内面との主注視線に沿った断面の面屈折力との和との差を、ΔDm(Y)とすると、
ΔPA=PA−PAo ……(4)
ΔDm(Y)={Dm1(Y)+Dm2(Y)}−{Dm1o(Y)+Dm2o(Y)} …(5)
であって、
ΔPA≠0 かつ ΔDm(Yf)≠ΔDm(Yn) …(6)
の関係を有し、
前記垂直方向の屈折力SV、前記実際に装用される状態を想定して注文時に指定されたレンズの装用時前傾角と前記標準として設定している装用時前傾角との差である装用時前傾角の変化量ΔPA、前記主注視線のY座標の上部範囲にある位置Yfにおける実際に装用されるレンズの外面と内面との主注視線に沿った断面の面屈折力の和と、標準として設定しているレンズの外面と内面との主注視線に沿った断面の面屈折力との和との差ΔDm(Yf)は、
SV<0 かつ ΔPA>0 の場合には、0<ΔDm(Yf)<0.7、
SV>0 かつ ΔPA>0の場合、−0.5<ΔDm(Yf)<0、
SV<0 かつ ΔPA<0 の場合には、−0.6<ΔDm(Yf)<0、あるいは、
SV>0 かつ ΔPA<0 の場合には、0<ΔDm(Yf)<0.4
の関係を有することを特徴とする累進屈折力眼鏡レンズの設計方法。 - 請求項1に記載された累進屈折力眼鏡レンズの設計方法において、
前記主注視線のY座標の下部範囲にある位置Ynにおける実際に装用されるレンズの外面と内面との主注視線に沿った断面の面屈折力の和と、標準として設定しているレンズの外面と内面との主注視線に沿った断面の面屈折力との和との差ΔDm(Yn)は、
SV>0 かつ ΔPA>0 の場合には、0<ΔDm(Yn)<0.3
の関係を有することを特徴とする累進屈折力眼鏡レンズの設計方法。 - 請求項1に記載された累進屈折力眼鏡レンズの設計方法において、
前記主注視線のY座標の下部範囲にある位置Ynにおける実際に装用されるレンズの外面と内面との主注視線に沿った断面の面屈折力の和と、標準として設定しているレンズの外面と内面との主注視線に沿った断面の面屈折力との和との差ΔDm(Yn)は、
SV>0 かつ ΔPA<0 の場合には、−0.6<ΔDm(Yn)<0
の関係を有することを特徴とする累進屈折力眼鏡レンズの設計方法。 - 請求項1から請求項3のいずれかに記載された累進屈折力眼鏡レンズの設計方法において、
前記累進面がレンズ内面に形成されていることを特徴とする累進屈折力眼鏡レンズの設計方法。 - 請求項1から請求項4のいずれかに記載された累進屈折力眼鏡レンズの設計方法において、
前記累進面がレンズ外面に形成されていることを特徴とする累進屈折力眼鏡レンズの設計方法。
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