以下、本発明に係る加工方法について、それを実施する装置との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
1.加工ラインシステムの全体構成の説明
図1は、本発明の一実施形態に係る加工ラインシステム10の全体構成を模式的に示す平面図である。本実施形態に係る加工ラインシステム10は、ワークWが搬送及び加工される加工ライン12と、複数の工具Tを集約した多軸ヘッド14によって加工ライン12上のワークWを機械加工する4台の工作機械16と、各工作機械16への交換用の多軸ヘッド14を複数貯留するストッカ18と、各工作機械16とストッカ18との間で多軸ヘッド14を搬送し交換する搬送台車20とを備える。加工ラインシステム10で加工するワークWとしては、例えば、内燃機関のシリンダブロックやシリンダヘッド、車両のミッションケース等が挙げられる。
図1に示すように、加工ラインシステム10(以下、単に「システム10」ともいう)は、加工ライン12を挟むように配列された4台のモジュールマシンとしての工作機械16を備え、加工ライン12上を搬送され、所定位置に位置決めされたワークWに対し、1台乃至2台の工作機械16の多軸ヘッド14で同時に機械加工を行うことができる。システム10において、工作機械16は1台としてもよく、2台又は3台又は5台以上としてもよい。
工作機械16は、それぞれ多軸ヘッド14を先端で支持する複数本(本実施形態では6本)のアーム22を放射状に設けたインデックス機構24を有する。インデックス機構24でアーム22を回転制御することにより、所定の多軸ヘッド14をワークWに対する加工位相へと割り出し、ワークWに対する機械加工を行うことができる。多軸ヘッド14によるワークWへの加工時には、図示しない進退機構によって該多軸ヘッド14をワークWに対して前進及び後退する方向、及びワークWの加工面に対して平行する左右方向に進退させながら加工が実行される。他方、各多軸ヘッド14は、インデックス機構24によって搬送台車20による交換位相となる交換スペース25に割り出されることで、所望の多軸ヘッド14に交換可能である。
各工作機械16の周囲は、加工ライン12側とは反対側(背面側)に設置された開閉可能な一対の仕切り柵26、26及び所定の固定柵等により、搬送台車20の移動経路28等の外部スペースから仕切られた加工区(加工領域)30を形成している。加工区30は工作機械16の可動領域である。ワークWの加工中等には、仕切り柵26が閉じられ、これにより加工区30が外部から進入禁止に遮断される。
ストッカ18は、各工作機械16(各加工区30)から離間した位置に1台設置され、各工作機械16の交換用となる多軸ヘッド14を複数貯留することができる。ストッカ18は、加工区30外に設置されていればよく、その台数は1台に限られず、当該システム10の設置場所の条件等によっては、少数の多軸ヘッド14を貯留する比較的小規模のストッカ18を複数台配置した構成としてもよく、勿論、多数の多軸ヘッド14を貯留する中規模乃至大規模のストッカ18を1台のみ設置してもよい。
搬送台車20は、移動経路28上を走行し、ストッカ18と各工作機械16との間で多軸ヘッド14を搬送する台車であり、各工作機械16に対して多軸ヘッド14を交換するための交換装置32を備える。搬送台車20は、無人搬送車(自動搬送車)であるAGV(Automated Guided Vehicle)34に連結・牽引されることで移動経路28上を自動走行し、工作機械16への多軸ヘッド14の交換位置35(図2参照)に停車した状態で多軸ヘッド14の交換作業を実施する。AGV34は、搬送台車20と一体型で構成してもよい。
搬送台車20に搭載される交換装置32は、多軸ヘッド14を工作機械16に対して着脱するための着脱機構(係脱機構)36と、該着脱機構36を駆動制御する制御盤38とを備え、所定のプログラム動作によって多軸ヘッド14を自動で移載、搬送及び交換する。
2.加工ラインシステムの各構成要素の説明
次に、上記のような基本構成からなる加工ラインシステム10の各構成要素について順に説明する。
2.1.工作機械の説明
図2は、工作機械16に対する多軸ヘッド14の交換位置35に搬送台車20を配置する状態を説明する斜視図であり、図3は、搬送台車20に搭載した交換装置32によって工作機械16の多軸ヘッド14を交換している状態での要部拡大斜視図である。
図1、図2及び図3に示すように、工作機械16は、アーム22の下方で上下2段に設置されて多軸ヘッド14を吊下げ支持する円環状のレール40a、40bと、各多軸ヘッド14をレール40a、40bに沿って旋回させて所定位相に割り出すアーム22を有するインデックス機構24と、ワークWの加工位相に割り出された多軸ヘッド14の工具Tに動力(回転駆動力)を付与する動力機構42と、搬送台車20に搭載した交換装置32で多軸ヘッド14を交換するための交換スペース25と、当該工作機械16を駆動制御するマシン制御部44とを備える。工作機械16は、交換スペース25以外の部分は、基本的には多軸ヘッドを備える公知の工作機械を用いることができる。
多軸ヘッド14は、ワークWに対向する面に多種類且つ複数の工具Tを有するギャングヘッドと呼ばれるものであり、ワークWの所望の加工面に対し、複数の穴加工等を一挙に行うことができる。多軸ヘッド14には、動力機構42を構成する図示しない駆動源の駆動軸が着脱可能に連結されることで、該動力機構42からの駆動力を各工具Tに同時に伝達可能なギア機構(図示せず)が内蔵されている。
レール40a、40bは、アーム22の旋回方向に沿って工作機械16の周囲を上下2段で1周する円環状の部材である。一方、多軸ヘッド14の背面には、上下のレール40a、40bにそれぞれ係合可能な一対のフック部45a、45bが設けられると共に(図3参照)、フック部45aは一対のローラ46a、46aを備え、フック部45bは一対のローラ46b、46bを備える(図8A及び図9A)。これにより、多軸ヘッド14は、上下左右で合計4箇所に設けられたフック部45a、45b(ローラ部材46a、46b)によりレール40a、40bに係合して吊下げ支持される。また、この状態では、多軸ヘッド14の上面中央に設置された直方体状の被係止片48が、アーム22先端に設けられた一対の係止部材50、50間に係止される。
インデックス機構24は、放射状に延びた各アーム22の旋回中心にインデックスモータ52を有し(図1及び図2参照)、該インデックスモータ52の駆動作用下に、アーム22を、例えば60°刻みで間欠回転させることができる。従って、インデックスモータ52を駆動してアーム22を回転させると、係止部材50による被係止片48の係止作用下に、多軸ヘッド14をレール40a、40bに沿って所定の回転位置へと旋回させ、所定位相に割り出すことができる。
動力機構42は、前記駆動源(モータ)を有し、該駆動源の駆動軸が多軸ヘッド14の背面側に連結されることにより、ワークWに対する加工位相に割り出された多軸ヘッド14に内蔵された前記ギア機構を介して、前記駆動源からの動力が各工具Tへと分配・伝達され、各工具Tを同時に回転駆動することができる。
交換スペース25は、各工作機械16の加工ライン12側とは反対側(背面側)に設置され、レール40a、40bに対向する位置から仕切り柵26の内側まで延在し、該仕切り柵26が開かれた状態で搬送台車20が連結される。交換スペース25は、所定の多軸ヘッド14がインデックス機構24によって交換位相に割り出された状態で、この多軸ヘッド14の直下から当該工作機械16の後方へと延びる交換台(交換テーブル)54を備える。
交換台54は、上面が交換スペース25に割り出された多軸ヘッド14より多少下方となる高さ位置で床面上に設置された多軸ヘッド14の移送テーブルである。交換台54の上面には、工作機械16から搬送台車20に向かう方向(図3のZ方向)で両側部に延びて起立した一対のガイド板56a、56bと、各ガイド板56a、56bの対向する内面にそれぞれ回転自由に軸支された複数のカムフォロア(マシン側ローラ)60と、一方のガイド板56aの内面に固定されたラック部材62とが設けられる。
カムフォロア60は、各ガイド板56a、56bの延在方向に沿って複数並んでおり、その上部を搬送台車20の移送台(進退テーブル)64が移動可能である(図3及び図7B参照)。ラック部材62は、一方のガイド板56aの延在方向に沿って延びており、その内面には、移送台64に搭載されたピニオンギア66が噛み合うラックギア(マシン側ラックギア)68が設けられている。
マシン制御部44は、図1に示すように、各工作機械16が形成する各加工区30内にそれぞれ配置され、対応する工作機械16の駆動制御を行うものである。マシン制御部44は、AGV34の制御部69や搬送台車20(交換装置32)の制御盤38との間で情報の送受信を行うことができ、AGV34の位置認識等と連動してインデックス機構24等の制御を行うこともできる。マシン制御部44は、全ての工作機械16を同時に制御可能な1台のみを設置してもよい。
2.2.ストッカの説明
図1に示すように、ストッカ18は、各工作機械16に対する交換用の多軸ヘッド14を複数貯留する貯留台(貯留スペース)であり、工作機械16との間が搬送台車20によって間接的に接続されることで、工場内の比較的自由な位置にレイアウトすることができる。
ストッカ18は、貯留する多軸ヘッド14を搬送台車20に対して簡便に受け渡し可能であることが好ましい。そこで、例えば、図1に示すように、ストッカ18についても、工作機械16の交換スペース25と略同様な構成を有するストッカ側交換スペース70を設けてもよい。ストッカ側交換スペース70は、交換テーブル54と略同様に、ガイド板56a、56b、カムフォロア60及びラック部材62を備えるストッカ側交換台72を有し、搬送台車20の交換装置32を連結可能である。
2.3.搬送台車の説明
2.3.1.搬送台車の構成の説明
図4は、搬送台車20の一部省略斜視図である。また、図5Aは、搬送台車20に搭載される交換装置32の背面図であり、図5Bは、図5Aに示す交換装置32の一部切欠平面図である。
図4に示すように、搬送台車20は、下面に4つの車輪74を回転自由に設けた台車本体(本体)76と、台車本体76の前後縁部(Z方向縁部)から起立した一対のガイド壁78a、78bと、ガイド壁78a、78b間に配置された交換装置32とを備え、台車本体76にAGV34が連結されることで移動経路28に沿って自動走行可能である(図1参照)。
各ガイド壁78a、78bの対向する内面には、交換装置32の基台(載置台)80を上下動可能に支承するリニアガイド82a、82bがそれぞれ設けられると共に(図7A参照)、一方のガイド壁78bの内面には水平方向に突出したブラケット板84が固定されている。
ブラケット板84の上面には、リフトモータ86と、該リフトモータ86によって回転可能なナット部材87と、該ナット部材87に下端側が螺入されることで鉛直方向に設置されたボールねじ88とが設けられている(図7A及び図7B参照)。ボールねじ88の上端は基台80に固着されている。従って、リフトモータ86が駆動されてナット部材87が回転するとボールねじ88が昇降動作し、基台80がリニアガイド82a、82bによってガイドされつつガイド壁78a、78b間で昇降する(図7A及び図7B参照)。
図4、図5A及び図5Bに示すように、交換装置32は、所定の板厚を有する平板状の前記基台80と、基台80上に設けられる着脱機構36と、着脱機構36を駆動制御する制御盤38とを備える。
着脱機構36は、リフトモータ86によって昇降可能な基台80の上面に設けられ、交換用の多軸ヘッド14を工作機械16に自動で取り付けし、或いは、交換すべき多軸ヘッド14を工作機械16から自動で取り外すための装置である。
着脱機構36は、基台80の上面で移送台64の進退方向(Z方向)に延在して起立した一対のガイド板92a、92bと、各ガイド板92a、92bの対向する内面にそれぞれ回転自由に軸支された複数のカムフォロア(転動ローラ)94と、一方のガイド板92aの内面に設けられたラック部材96と、各ガイド板92a、92bに設けられたカムフォロア94、94の上部に跨って載置され、基台80に対して水平方向(Z方向)に進退可能な移送台64と、移送台64に設けられ、鉛直方向に進退可能な複数本(本実施形態では4本)のピン(係合部材)100とを備える。
移送台64の上面において、ピン100から離間した後方側(Z2側)には移送モータ102が鉛直下向きで立設固定されている。移送モータ102の駆動軸102aは、移送台64を貫通しており、移送台64の下面側でピニオンギア66と連結されている。ピニオンギア66は、一方のガイド板92aに沿って延びたラック部材96の内面側に形成されたラックギア106と噛み合いする(図4、図5A及び図5B参照)。
カムフォロア94は、各ガイド板92a、92bの延在方向(移送台64の進退方向であるZ方向)に沿って複数並んでおり(図5B参照)、その上部で移送台64を移動可能に支承する。これにより、移送モータ102が回転駆動されると、ピニオンギア66がラックギア106に噛み合いながら回転し、移送台64がカムフォロア94上をZ1方向及びZ2方向へと自走する。
ピン100は、移送台64の前方側(Z1側)で対角上に4本が設置されている。各ピン100には、移送台64上で移送モータ102に並設された油圧ポンプ(駆動機構)108からの図示しない油圧経路が連結されている。これにより、油圧ポンプ108から油圧が供給されると、全てのピン100は同時に鉛直方向へと進退(昇降)可能であり、多軸ヘッド14の交換時には、該多軸ヘッド14の下部(下面)に設けられた係合ブロック109の係合穴110へと係合可能である(図9A及び図9B参照)。
制御盤38は、基台80上で着脱機構36の側部に隣接配置されている。制御盤38は、工作機械16のマシン制御部44及びAGV34の制御部69との間で所定の情報を送受信することができ、工作機械16のインデックス機構24の割り出し位置情報や搬送台車20の位置情報等と連動して、着脱機構36を駆動制御する。
2.3.2.搬送台車に備えられる交換装置の動作の説明
次に、以上のように構成される交換装置32での多軸ヘッド14の着脱動作について説明する。
2.3.2.(1)多軸ヘッドの取り外し動作の説明
先ず、交換装置32による多軸ヘッド14の工作機械16からの取り外し動作の一例について、図6に示すフローチャートに基づき説明する。
図7Aは、AGV34によって搬送台車20を多軸ヘッド14の交換位置35へと移動させる様子を示す一部省略側面図であり、図7Bは、搬送台車20を交換位置35に配置し、交換装置32によって多軸ヘッド14を交換する様子を示す一部省略側面図である。図7A及び図7Bでは、理解の容易のため、一方のガイド板56a、92aを省略して図示している。また、図8A及び図8Bは、移送台64を多軸ヘッド14の下部へと進動させる様子を示す側面図及び正面図であり、図9A及び図9Bは、ピン100を係合穴110に係合させて多軸ヘッド14を持ち上げた状態を示す側面図及び正面図である。
例えば、工作機械16に搭載された6台の多軸ヘッド14のうち、所定の多軸ヘッド14を交換する(取り外す)必要が生じると、先ず、図6中のステップS1において、マシン制御部44からの要請又は管理者による入力操作等に基づき、AGV34の制御部69や交換装置32の制御盤38に多軸ヘッド14の取り外し指令が送信される。そうすると、制御部69の制御下にAGV34が移動経路28上を走行し、多軸ヘッド14を移送台64に積載していない空状態の搬送台車20が交換位置35に配置される(図2、図7A及び図7B参照)。この際、搬送台車20に搭載された交換装置32では、移送台64が後方側(Z2側)に最も退動した位置(初期位置)に設定され、ピン100が最も下降(縮退)した位置に設定されている。なお、前記取り外し指令は、例えば無線LAN等の非接触式の伝達手段によって各制御部間に送信され、以下で説明する他の情報の送受信についても同様に行うことができる。
当該ステップS1において、AGV34は、例えば、移動経路28上に敷設された図示しない磁気テープにより、又は通信機能等による他の誘導方法により、当該AGV34及び牽引する搬送台車20の位置を認識する位置認識機能を有する。このため、AGV34は、前記取り外し指令に基づき、予めプログラムされた経路に沿って搬送台車20を仕切り柵26手前の交換位置35へと円滑に配置することができる。
交換位置35に到着したAGV34は、制御部69から交換対象となる工作機械16のマシン制御部44へと搬送台車20の到着を通知する(ステップS2)。
そこで、ステップS3において、マシン制御部44は、交換対象となる多軸ヘッド14が交換スペース25に割り出されていることを確認してインデックス機構24の回転を規制し、仕切り柵26を開放する。この際、交換スペース25と反対側の加工位相に設定された多軸ヘッド14では、ワークWに対する加工を継続しておくことができる。つまり、マシン制御部44は、例えば、上記ステップS1での取り外し指令の通知処理と前後して又は該通知処理と同時に、インデックス機構24を回転制御して交換対象となる多軸ヘッド14を交換位相に割り出すと共に、加工に供される多軸ヘッド14を加工位相に割り出す。換言すれば、加工に供する必要のある多軸ヘッド14と反対位相にある多軸ヘッド14を優先的に交換対象として選択する。これにより、ワークWへの加工を当該取り外し動作中も継続することができ、当該システム10での生産効率が大幅に向上する。
仕切り柵26の開放完了がマシン制御部44から交換装置32の制御盤38に伝達されると、図7Bに示すように、交換装置32では、制御盤38の制御下にリフトモータ86を駆動してボールねじ88をナット部材90から上方に伸張させ、基台80を工作機械16の交換台54の高さ位置に設定する(ステップS4)。これにより、交換装置32を構成する着脱機構36のカムフォロア94及びラック部材96(ラックギア106)と、工作機械16を構成する交換台54のカムフォロア60及びラック部材62(ラックギア68)とが、水平方向に(Z方向)に連続した状態で連結配置される(図3及び図7B参照)。
そこで、ステップS5では、制御盤38の制御下に移送モータ102を駆動してピニオンギア66を回転させ、該ピニオンギア66とラックギア106との噛み合い作用下に、移送台64をカムフォロア94上でZ1方向へと進動(前進)させる(図3及び図7B参照)。
ピニオンギア66とラックギア106との噛み合い作用下にカムフォロア94上を進動した移送台64は、カムフォロア94及びラック部材96の先端(Z1側端)まで到達すると、これらカムフォロア94及びラック部材96に連結された交換台54(工作機械16)側のカムフォロア60及びラック部材62へと乗り移り、今度はピニオンギア66とラックギア68との噛み合い作用下に交換台54のカムフォロア60上を進動する(図7B、図8A及び図8B参照)。
移送台64が多軸ヘッド14下部の所定の取り外し位置に到達すると、図9A及び図9Bに示すように、制御盤38は油圧ポンプ108を駆動して4本のピン100を上昇させ、各ピン100を多軸ヘッド14下部の各係合穴110へとそれぞれ係合させるステップS6)。係合後、さらにピン100が上昇することにより、多軸ヘッド14がピン100によって持ち上げられ、フック部45a、45b(ローラ46a、46b)がレール40a、40bから外れて多軸ヘッド14が取り外される(図9A及び図9B参照)。
この際、ピン100の上昇量(上昇距離)は、フック部45a、45bをレール40a、40bから外すことができ(図9A参照)、多軸ヘッド14を後方に引き抜き可能な最小限の量に規定しておくとよい。そうすると、多軸ヘッド14がピン100によって過剰に上昇し、多軸ヘッド14の上面がアーム22の係止部材50等に干渉して破損や不具合を生じることを構造的に回避することができる。
以上より、多軸ヘッド14が工作機械16側から取り外され、該多軸ヘッド14はピン100によって移送台64に積載された状態となることから、移送モータ102をステップS5での進動時とは逆方向に回転駆動する。これにより、移送台64がカムフォロア60上からカムフォロア94上へと退動(後退)し、多軸ヘッド14が移送台64と共に搬送台車20側に移載・回収される(ステップS7)。なお、この退動動作の途中でピン100を下降させておくと、多軸ヘッド14を移送台64上でより低い位置に安定して保持しておくことができる。このように多軸ヘッド14を回収した後は、必要に応じてAGV34を駆動制御し、該回収した多軸ヘッド14をストッカ18に移載する等の動作を実行するとよい。
2.3.2.(2)多軸ヘッドの取り付け動作の説明
次に、交換装置32による多軸ヘッド14の工作機械16への取り付け動作の一例について、図10に示すフローチャートに基づき説明する。
例えば、上記多軸ヘッド14の取り外し動作によって所定のアーム22に対応する多軸ヘッド14が取り外された後、空状態となったアーム22に対して交換用の多軸ヘッド14を取り付ける必要が生じると、先ず、図10中のステップS11を実行する。
ステップS11では、マシン制御部44からの要請又は管理者による入力操作等に基づき、AGV34の制御部69や交換装置32の制御盤38に多軸ヘッド14の取り付け指令が送信される。そうすると、制御部69の制御下にAGV34が移動経路28上を走行し、交換用の多軸ヘッド14をストッカ18から移送台64へと移載した搬送台車20が交換位置35に配置される。ここで、前記取り付け指令は、例えば、上記の取り外し指令と一体的な取り外し及び取り付け指令として送信されていてもよい。
ここで、図10中のステップS12〜S15の各工程は、移送台64上に交換用の多軸ヘッド14がピン100と係合穴110の係合作用下に積載されている以外は、上記取り外し動作でのステップS2〜S5の各工程と略同様であるため、その詳細な説明は省略する。
次に、ステップS16では、多軸ヘッド14を載置した移送台64がレール40a、40bに臨む所定の取り付け位置に到達すると、制御盤38は油圧ポンプ108を駆動して4本のピン100を上昇させ、多軸ヘッド14のフック部45a、45b(ローラ46a、46b)をレール40a、40b上部の取り付け位置に配置する(図9A及び図9B参照)。そこで、ピン100を下降させると、ローラ46a、46bがレール40a、40bに係合した後、ピン100が係合穴110から抜けて、多軸ヘッド14が工作機械16に取り付けられる。
以上より、多軸ヘッド14が工作機械16側に取り付けられ、移送台64が空状態となることから、移送モータ102をステップS15での進動時とは逆方向に回転駆動する。これにより、移送台64がカムフォロア60上からカムフォロア94上へと退動し、空の移送台64が搬送台車20側に回収される(ステップS17)。このように移送台64を回収した後は、必要に応じてAGV34を駆動制御し、搬送台車20を適宜駆動制御して、他の工作機械16への多軸ヘッド14の交換等を行うとよい。
3.加工ラインシステムによるワークの加工方法の説明
次に、加工ラインシステム10によるワークWの加工方法の一例について、図11のフローチャートに基づき説明する。
先ず、ワークWの加工部位等を考慮し、必要に応じて各工作機械16の多軸ヘッド14の取り外し動作を実行する(ステップS21)。続いて、ストッカ18に貯留された交換用の多軸ヘッド14を搬送台車20に積載し(ステップS22)、所望の工作機械16へと取り付ける(ステップS23)。
この場合、ステップS21では、図6のステップS1〜S7に示される多軸ヘッド14の取り外し動作と略同様な工程を実行すればよく、ステップS23では、図10のステップS11〜S17に示される多軸ヘッド14の取り付け動作と略同様な工程を実行すればよい。これらステップS21〜S23に示す多軸ヘッド14の交換動作は、ワークWの加工に先立って予め実行しておくとよく、勿論、次のステップS24、S25におけるワークWの加工中に実行してもよい。
上記ステップS23での多軸ヘッド14の取り付け動作の実行後、仕切り柵26を閉じて加工区30を外部から遮断した後、ステップS24を実行し、インデックス機構24によって所定の多軸ヘッド14をワークWへの加工位相に割り出す。次いで、ステップS25において、マシン制御部44の制御下に動力機構42を駆動して、前記加工位相に配置された多軸ヘッド14を用いてワークWを加工する。以降は、所望の多軸ヘッド14の交換及びワークWの加工を順次繰り返すとよい。
以上のように、本実施形態に係る加工ラインシステム10では、交換用の多軸ヘッド14を貯留するストッカ18を工作機械16から離間して配置すると共に、これら工作機械16とストッカ18との間では、着脱機構36を備える交換装置32を搭載した搬送台車20によって多軸ヘッド14を搬送する。
ストッカ18を工作機械16から離間して設けることにより、工作機械16の周囲、つまり加工区30の占有スペースを可及的に低減することができる。換言すれば、交換用の多軸ヘッド14を貯留するストッカ18を工作機械16から離間した位置に配置し、その間を搬送台車20によって接続することができるため、工作機械16が形成する加工区30内にストッカ18や着脱機構36を設置する必要がなく、工作機械16を設備全体として小型化及び簡素化することができる。
特に、多軸ヘッド14の機種数が増加された場合であっても、該増加分の多軸ヘッド14はストッカ18に貯留しておけばよいことから、加工区30の省スペースを維持しておくことができる。このため、システム全体構成を一層簡素化することができると共に、将来の機種増加にも容易に対応することができる。
また、ストッカ18が加工区30外(オープンスペース)に設置されることにより、貯留している多軸ヘッド14のメンテナンス等が容易であると共に、メンテナンス中に工作機械16の稼動を停止する必要もない。この際、ストッカ18は、工作機械16との間が搬送台車20によって間接的に接続されることから、その設置自由度は高く、工場内のデッドスペース等を有効に活用して設置でき、将来的な多軸ヘッド14の機種数の増加等にも容易に且つ円滑に対応することができる。
一般に、工作機械16を複数台設置したシステムでは、各工作機械16に対してそれぞれストッカが配設されていると、システム全体の設置スペースが肥大化し、複雑化する傾向にある。これに対して、当該加工ラインシステム10では、交換装置32を搭載した搬送台車20を用いたシステムを構築したことにより、少なくとも1台のストッカ18で全ての工作機械16に対応することができ、ストッカ18の設置自由度の向上と、各工作機械16の設置スペースの最小化とにより、システムの全体構成を一層小型化及び簡素化することができる。
特に、工作機械16は、ワークWが搬送される加工ライン12との配置の都合上、その設置スペースが限定され易い。このため、当該加工ラインシステム10のように、ストッカ18を工作機械16から離間して配置し、工作機械16(加工区30)を小型化して設置自由度を向上させることは、システム全体の構造設計において極めて有効である。
そして、このような加工ラインシステム10によりワークWを加工することにより、ワークWの加工条件等に適合した種類の工具を持つ多軸ヘッドを容易に且つ迅速に交換しながら加工を行うことができ、システム構成の簡素化と共に、生産効率の向上を図ることができる。
工作機械16は、多軸ヘッド14をレール40a、40bによって吊下げ支持し、インデックス機構24によって所定位相に割り出す構成であると共に、搬送台車20が連結配置される交換スペース25をレール40a、40bに対向する位置に有する。このように交換スペース25を工作機械16側に設けたことにより、搬送台車20に搭載した交換装置32を構成する着脱機構36を工作機械16に対して容易に連結することができ、多軸ヘッド14の交換、つまり多軸ヘッド14のレール40a、40bへの取り付け動作及び取り外し動作を、例えば上記のピン100を用いた簡便な機構によって容易に実行することができる。
工作機械16では、搬送台車20が連結配置される交換スペース25を、ワークWに対する加工位相以外の位相(本実施形態では反対側)に設置している。このため、所定の多軸ヘッド14をワークWに対する加工位相に設定して加工状態を維持したまま、交換位相に設定された多軸ヘッド14の交換作業を行うことができ、生産効率が高い。
また、交換スペース25に設置された交換台54には、搬送台車20が交換スペース25に連結配置された状態で、着脱機構36のカムフォロア94及びラックギア106に対して連続配置されるカムフォロア60及びラックギア68が備えられている。従って、移送台64は、移送モータ102で回転駆動されるピニオンギア66が、ラックギア106に噛み合い、さらにラックギア68に噛み合うことにより、着脱機構36側のカムフォロア94上から工作機械16側のカムフォロア60上へと自走して、多軸ヘッド14下部の交換位置まで容易に且つ迅速に進退し、多軸ヘッド14を容易に交換可能である。
一方、搬送台車20に搭載される交換装置32は、台車本体76に支持された基台80と、該基台80に設けられ、多軸ヘッド14を工作機械16に対して着脱する着脱機構36とを備える。このように、交換装置32を構成する基台80と着脱機構36とが、多軸ヘッド14を搬送する搬送台車20に搭載されていることにより、多軸ヘッド14のストッカ18等からの搬送と、工作機械16に対する着脱とを効率的に行うことができる。
この場合、着脱機構36は、基台80に対して水平方向に進退可能な移送台64と、移送台64に設けられ、駆動機構である油圧ポンプ108によって鉛直方向に進退して多軸ヘッド14下部の係合穴110に係合可能なピン100を備える。このため、着脱機構36では、移送台64の進退動作とピン100の昇降動作とからなる簡素な構成のみで、多軸ヘッド14を容易に工作機械16のレール40a、40bから取り外し、又はレール40a、40bに取り付けすることができ、システム構成の一層の小型化及び低コスト化を図ることができる。特に、複数の工具Tを備える多軸ヘッド14は、相当な重量物であることから、上記の通り簡素な構成からなる着脱機構36を用いることは、その耐久性や信頼性の点からも有効である。
着脱機構36では、複数本(4本)設けられた全てのピン100が、油圧ポンプ108によって同時に昇降可能である。このため、制御や構造の一層の簡素化と、多軸ヘッド14の安定した交換が可能である。
また、移送台64には、移送モータ102と、該移送モータ102によって回転駆動されるピニオンギア66とが設けられ、基台80には、移送台64を水平方向に進退自由に支承するカムフォロア94と、ピニオンギア66が噛み合い可能なラックギア106とが設けられている。このため、移送モータ102が回転駆動されると、移送台64は、ピニオンギア66とラックギア106との噛み合い作用下に基台80上を容易に進退可能である。つまり、搬送台車20を工作機械16の所定の交換スペース25に連結配置するだけで、移送台64を工作機械16側に容易に進退させ、ピン100による多軸ヘッド14の取り付け及び取り外しを迅速に行うことができる。
このような交換装置32を搭載する搬送台車20は、無人搬送車であるAGV34に連結されることにより、当該加工ラインシステム10の領域内を自在に自動走行することができ、作業性や汎用性が高い。しかも、交換装置32は、AGV34の制御部69との間で位置情報等の所定の情報を送受信し、少なくとも搬送台車20の位置情報に基づき、着脱機構36を駆動制御する制御盤38を備えるため、多軸ヘッド14の搬送及び交換を容易に自動制御可能である。
4.搬送台車に備えられる交換装置の変形例の説明
次に、変形例に係る交換装置について説明する。以下、図1〜図11によって説明した上記交換装置32と同一又は同様な構成要素には同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
4.1.変形例に係る交換装置の構成の説明
図12は、変形例に係る交換装置32aの斜視図である。この交換装置32aは、ガイド壁78a、78b、リニアガイド82a、82b、リフトモータ86及びボールねじ88等によって台車本体76上で昇降可能に設けられた基台80を備えて搬送台車20に搭載される点は、図4に示す交換装置32と同様な構成であるが、交換装置32の着脱機構36と異なる構成の着脱機構36aを基台80上に備える点が相違する。なお、図12では、基台80を含む交換装置32aのみを図示しており、搬送台車20を構成する他の要素である台車本体76やガイド壁78a、78b等は省略しているが、図12に示される基台80もリフトモータ86等によって昇降可能であることは勿論である。
図14A及び図14Cに示すように、交換装置32aでは、係合穴110を設けた係合ブロック109を設置した多軸ヘッド14に代えて、多軸ヘッド14aを交換対象とする。多軸ヘッド14aの下部(下面)には、移送台64の進退方向(Z方向)に対する左右両側に設けられた位置決めブロック127a、127bと、位置決めブロック127a、127b間の略中央に設けられた傾斜ブロック129とが備えられる。多軸ヘッド14aは、係合ブロック109に代えて、位置決めブロック127a、127b及び傾斜ブロック129を備える以外は、基本的には多軸ヘッド14と同様なものを用いることができる。
図12、図14A、図14B及び図14Cに示すように、交換装置32aを構成する着脱機構36aは、移送台64の上面に、着脱機構36のピン100に代えて、一対のガイド部材(スライドガイド)120a、120b及び押込み部材(テーパ部材)122を備える。
一対のガイド部材120a、120bは、移送台64上で該移送台64の進退方向(Z方向)に直交するX方向、つまり互いに離間及び近接する方向に移動可能であり、この移動は、移送台64上面に掘り下げ形成された一対の溝部124、124によってガイドされる。なお、通常時、ガイド部材120a、120bが、互いに最も近接した位置(初期位置)へと自動的に設定されるように、X方向に両者を近接させるコイルばね135(図14Bにのみ例示的に図示する)等の弾性部材を溝部124、124内等に配設しておくとよい。勿論、ガイド部材120a、120bの移動は、溝部124ではなく、所定のレール等によってガイドしてもよい。
各ガイド部材120a、120b外面の前方側(Z1側)には、扁平板状(小片状)の位置決め部材(嵌合ブロック)126a、126bがそれぞれ外方に向けて突設されている。位置決め部材126a、126bは、ガイド部材120a、120bと一体にX方向へと移動可能である。位置決め部材126a、126bは、互いに離間する方向に移動した際に、多軸ヘッド14下部の位置決めブロック127a、127bに貫通形成された孔部131a、131bへとそれぞれ係合可能である(図15C参照)。
図15Cに示すように、各孔部131a、131bは、位置決め部材126a、126bが係合された状態であっても、鉛直方向に十分な余裕(高さh0)を持った寸法に設定されている。このため、多軸ヘッド14aは、位置決め部材126a、126bと孔部131a、131bとが互いに係合し、この係合によるガイド作用下に水平方向への位置ずれが防止された状態で、鉛直方向へと高さh0(距離h0)だけ移動可能である。
より具体的には、図15Cに示すように、位置決め部材126a、126bの鉛直方向寸法を高さh1(距離h1)と称し、孔部131a、131bの鉛直方向寸法を高さh2(距離h2)と称すると、位置決め部材126a、126bと孔部131a、131bとが係合した状態での多軸ヘッド14aの鉛直方向移動可能高さ(距離)は、高さh0(=h2−h1)である。この高さh0は、多軸ヘッド14aが位置決め部材126a、126bにガイドされた状態で鉛直方向に移動可能な寸法であり、多軸ヘッド14aをフック部45a、45b(ローラ46a、46b)を介してレール40a、40bに着脱する際の移動量として規定される。
図12及び図14A〜図14Cに示すように、押込み部材122は、一対のガイド部材120a、120b間へと進入可能に設置された段付きブロック状の部材である。移送台64上面の後方側(Z2側)には、進退モータ(駆動機構)128が固定され、該進退モータ128の駆動軸として延びたボールねじ130の先端が、押込み部材122の基端面(Z2側面)に設けられたねじ穴(図示せず)へと螺入されている。従って、進退モータ128が回転駆動され、ボールねじ130が回転されることにより、押込み部材122は、移送台64の進退方向と同一方向であるZ方向へと十分なトルクで進退可能である。
押込み部材122は、その進退方向(Z方向)に対する左右両面に設けられた一対の第1傾斜面132、132と、該進退方向に対向する上面に設けられた第2傾斜面134とを有する。
一対の第1傾斜面132は、押込み部材122の先端方向(Z1方向)に向かって互いに近接する方向に傾斜した鉛直面であり、当該一対の第1傾斜面132により、押込み部材122の先端側(Z1側)は先細り形状(テーパ形状)となっている。各第1傾斜面132は、一対のガイド部材120a、120bの各内面をそれぞれX方向外側に向けて押圧するためのものである。
第2傾斜面134は、第1傾斜面132の後方上部に設けられ、後方(Z2方向)に向かって上昇しながら傾斜した面であり、当該押込み部材122の進退方向(Z方向)で前方上部を指向する傾斜面である。第2傾斜面134は、多軸ヘッド14aの傾斜ブロック129を押圧し、該多軸ヘッド14aを押し上げるためのものであり、傾斜ブロック129に形成されたヘッド側傾斜面136と対面して互いに摺接可能である(図15A及び図16A参照)。
4.2.変形例に係る交換装置の動作の説明
次に、以上のように構成される交換装置32aでの多軸ヘッド14aの着脱動作について説明する。
4.2.1.多軸ヘッドの取り外し動作の説明
先ず、交換装置32aによる多軸ヘッド14aの工作機械16からの取り外し動作の一例について、図13に示すフローチャートに基づき説明する。
図13のステップS31〜S35に示される各工程は、上記交換装置32での図6のステップS1〜S5に示される各工程と略同様であるため、その詳細な説明は省略する。
ここで、当該ステップS31〜S35に示される工程時、ガイド部材120a、120bは、その間隔が最も近接した位置(初期位置)に設定され、押込み部材122は、後方側(Z2側)に最も退動し又は少なくとも前記初期位置にあるガイド部材120a、120bから離間した位置(初期位置)に設定されている(図14A及び図14B参照)。
図15A〜図15Cに示すように、移送台64が多軸ヘッド14a下部の所定の取り外し位置に到達すると、制御盤38は進退モータ128(ボールねじ130)を駆動して押込み部材122をZ1方向に進動(前進)させる(ステップS36)。なお、前記所定の取り外し位置とは、ガイド部材120a、120bが多軸ヘッド14a下部の位置決めブロック127a、127b間に配置され、各位置決め部材126a、126bが各孔部131a、131bに臨む位置である(図15A参照)。
このように押込み部材122が進動されると、先ず、押込み部材122先端面から拡幅する各第1傾斜面132が、各ガイド部材120a、120bの内面間に進入して摺接する。そうすると、押込み部材122の進動に伴ってガイド部材120a、120bが互いに離間する方向(X方向外側)の押圧力を第1傾斜面132から受け、溝部124に沿って移動する。従って、各位置決め部材126a、126bは、位置決めブロック127a、127bの内側から孔部131a、131bへと挿入・嵌合され(図15A及び図15C参照)、位置決め部材126a、126bと位置決めブロック127a、127bとが互いに係合される(ステップS37)。
この状態において、位置決め部材126a、126bは、図15Cに示すように、孔部131a、131bの鉛直方向位置で上方側に挿入される。つまり、多軸ヘッド14aがレール40a、40bに係合された状態で(図15A参照)、孔部131a、131bは位置決め部材126a、126bの挿入位置よりも下方に十分な余裕となる高さh0を有するため、多軸ヘッド14aは該高さh0分だけ上方に移動できる余裕を持っている。
ステップS38では、押込み部材122をさらに進動させ、第1傾斜面132後方の第2傾斜面134を、多軸ヘッド14a下部の傾斜ブロック129のヘッド側傾斜面136に対して摺接させる。つまり、第2傾斜面134で多軸ヘッド14aを押し上げて、レール40a、40bからフック部45a、45b(ローラ46a、46b)を取り外す(図16A及び図16C参照)。この際、多軸ヘッド14aは、位置決め部材126a、126bと孔部131a、131bとの係合による鉛直方向への高さh0分のガイド作用下に、安定して鉛直方向へと移動し、レール40a、40bから円滑に取り外される。
従って、図16A〜図16Cに示すように、多軸ヘッド14aは、位置決めブロック127a、127bが位置決め部材126a、126bに嵌合・支持され、傾斜ブロック129の底面が押込み部材122の上面に着地した状態で、移送台64上に載置される。なお、多軸ヘッド14aの上昇量(上昇距離)は、押込み部材122の第2傾斜面134の鉛直方向高さ分のみに規定されているため、多軸ヘッド14aが過剰に上昇し、その上面がアーム22の係止部材50等に干渉して破損や不具合を生じることを構造的に回避することができる。
以上より、多軸ヘッド14aが工作機械16側から取り外しされ、該多軸ヘッド14aは移送台64上に積載された状態となることから、移送モータ102をステップS35での進動時とは逆方向に回転駆動する。これにより、移送台64がカムフォロア60上からカムフォロア94上へと退動し、多軸ヘッド14aが移送台64と共に搬送台車20側に移載・回収される(ステップS39)。このように多軸ヘッド14aを回収した後は、必要に応じてAGV34を駆動制御し、該回収した多軸ヘッド14aをストッカ18に移載する等の動作を実行するとよい。
4.2.2.多軸ヘッドの取り付け動作の説明
次に、交換装置32aによる多軸ヘッド14aの工作機械16への取り付け動作の一例について、図17に示すフローチャートに基づき説明する。
図17のステップS41〜S45に示される各工程は、上記交換装置32での図10のステップS11〜S15に示される各工程と略同様であるため、その詳細な説明は省略する。
これらステップS41〜S45に示される工程時、例えばストッカ18から搬送台車20の交換装置32aに移載された多軸ヘッド14aは、位置決めブロック127a、127aが位置決め部材126a、126bに係合し、傾斜ブロック129の底面が押込み部材122の上面に着地した状態で、移送台64上に安定して積載されている(図16A及び図16C参照)。換言すれば、交換装置32aに積載された多軸ヘッド14aは、上記取り外し動作によって移送台64上に積載された状態と同様な状態にある。
次に、ステップS46では、制御盤38の制御下に、多軸ヘッド14aを載置した移送台64がレール40a、40bに臨む所定の取り付け位置に到達すると、フック部45a、45b(ローラ46a、46b)がレール40a、40b上部の取り付け位置に配置される(図16A及び図16C参照)。
従って、制御盤38は、進退モータ128を逆方向に駆動して押込み部材122を緩やかに退動させ、位置決めブロック127a、127bと位置決め部材126a、126bとの鉛直方向でのガイド作用下に多軸ヘッド14aを下降させる。そうすると、フック部45a、45b(ローラ46a、46b)がレール40a、40bに係合し、多軸ヘッド14が工作機械16に取り付けられる。
以上より、多軸ヘッド14aが工作機械16側に取り付けられ、移送台64が空状態となることから、移送モータ102をステップS45での進動時とは逆方向に回転駆動する。これにより、移送台64がカムフォロア60上からカムフォロア94上へと退動し、空の移送台64が搬送台車20側に回収される(ステップS47)。このように移送台64を回収した後は、必要に応じてAGV34を駆動制御し、搬送台車20を適宜駆動制御して、他の工作機械16への多軸ヘッド14aの交換等を行うとよい。
なお、加工ラインシステム10では、図4に示す交換装置32に代えて、その変形例に係る交換装置32aを適用した場合にも、図11のステップS21〜S25に示される加工方法と同様にワークWの加工を行うことができることは勿論であるため、当該交換装置32aを備える加工ラインシステム10でのワークWの加工方法の説明は省略する。
以上のように、当該交換装置32aは、搬送台車20を構成する台車本体76に支持された基台80と、該基台80に設けられ、多軸ヘッド14aを工作機械16に対して着脱する着脱機構36aとを備える。そして、着脱機構36aには、基台80に対して水平方向に進退可能な移送台64と、移送台64上で進退可能であると共に、多軸ヘッド14a下部に設けられた位置決めブロック127a、127bへと係合可能な位置決め部材126a、126bと、移送台64上で進退モータ128によって進退可能な押込み部材122とが設けられる。さらに、押込み部材122は、初期位置(図14B参照)から進動されることで、位置決め部材126a、126bを位置決めブロック127a、127bへの係合方向に押し進める第1傾斜面132と、多軸ヘッド14aを上方に押し上げる第2傾斜面134とを有する。
従って、交換装置32aを構成する着脱機構36aでは、移送台64を多軸ヘッド14a下部の交換位置に配置した後は、実質的に押込み部材122の進退動作のみで多軸ヘッド14aを安定して持ち上げることができる。すなわち、着脱機構36aでは、移送台64の進退動作と押込み部材122の進退動作とからなる簡素な構成のみで、多軸ヘッド14aを容易に工作機械16のレール40a、40bから取り外し、又はレール40a、40bに取り付けすることができ、システム構成の一層の小型化及び低コスト化を図ることができる。
交換装置32aは搬送台車20に搭載されるため、多軸ヘッド14aの搬送と、工作機械16に対する着脱とを効率よく行うことができる。特に、複数の工具Tを備える多軸ヘッド14aは、相当な重量物であることから、上記着脱機構36と略同様に、簡素な構成からなる着脱機構36aを用いることは、その耐久性や信頼性の点からも有効である。
ここで、交換装置32aに対応する多軸ヘッド14aは、位置決め部材126a、126bを設けた一対のガイド部材120a、120bをまとめて跨ぐ位置に配置された一対の位置決めブロック127a、127bを有する。一方、押込み部材122は、一対のガイド部材120a、120bに対応する一対の第1傾斜面132を有すると共に、一対のガイド部材120a、120bの内面間に進動し、各第1傾斜面132によって各ガイド部材120a、120bを互いの離間方向へと押し進め、各位置決め部材126a、126bを各位置決めブロック127a、127bの孔部131a、131bへと係合させる構成からなる。このため、押込み部材122の進動のみの簡単な動作で、着脱機構36a側の位置決め部材126a、126bと多軸ヘッド14a側の位置決めブロック127a、127bとを係合させることができ、多軸ヘッド14aを一層容易に且つ安定して交換することができる。
しかも、多軸ヘッド14aの下部には、押込み部材122の第2傾斜面134と対面して互いに摺接可能な傾斜ブロック129が設けられていることにより、押込み部材122の進動のみの簡単な動作で、多軸ヘッド14aを容易に持ち上げることができ、多軸ヘッド14aの交換が一層容易且つ安定したものとなる。
なお、多軸ヘッド14aの位置決めブロック127a、127bと着脱機構36aの位置決め部材126a、126bとは、第2傾斜面134による多軸ヘッド14aの押し上げ距離以上の隙間(高さh0)を介して係合される(図15C参照)。このため、位置決めブロック127a、127bへの位置決め部材126a、126bの嵌合による鉛直方向へのガイド作用下に、第2傾斜面134によって多軸ヘッド14aを押し上げることができるため、多軸ヘッド14aの交換をより安定して行うことができる。しかも、工作機械16から取り外した多軸ヘッド14aは、位置決めブロック127a、127bと位置決め部材126a、126bとが係合された状態で移送台64上に積載されるため、搬送台車20に回収した多軸ヘッド14aが落下等を生じることを防止できる。
5.搬送台車の変形例の説明
上記では、多軸ヘッド14、14aを交換するための交換装置32、32aを、AGV34に連結される搬送台車20に搭載する構成を例示したが、交換装置32、32aは、AGV34によって自走する搬送台車20以外の搬送台車に搭載してもよい。
例えば、図18に、変形例に係る搬送台車20aの側面図を示す。図18では、理解の容易のため、着脱機構36(36a)を構成する一方のガイド板92aを省略して図示している。
図18に示すように、搬送台車20aは、下面に4つの車輪140を回転自由に設けた台車本体(本体)142と、台車本体142の上面に図示しない油圧シリンダ等によって昇降可能に設けられた昇降機構144と、台車本体142の後方側に鉛直方向に沿って設置されたハンドル146及び操作制御部148及びバッテリ150とを備える。昇降機構144の上部には基台80が固定され、これにより交換装置32(32a)が台車本体142上で昇降可能である。
このような搬送台車20aでは、AGV34に代わって、使用者がハンドル146を把持・操作して当該搬送台車20aを移動経路28(図1参照)に沿って走行させ、搬送台車20aを交換位置35に配置する。そして、操作制御部148を適宜操作して、昇降機構144を駆動することにより、交換装置32(32a)を工作機械16の交換スペース25(交換台54)に連結し、多軸ヘッド14(14a)の交換作業を行うことができる。この際、操作制御部148と交換装置32(32a)の制御盤38と工作機械16のマシン制御部44との間で、上記搬送台車20の場合と略同様に、当該搬送台車20aの位置情報等の所定の情報の送受信が行われ、多軸ヘッド14(14a)の交換作業が円滑に且つ正確に実行される。
なお、上記において、本発明の好適な実施の形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
例えば、移送台64の進退機構は、ピニオンギア66、ラックギア68、106からなるラックアンドピニオン機構を用いた上記構成以外にも、例えば、ボールねじや油圧シリンダ等による進退機構等であってもよい。
また、加工ラインシステム10では、搬送台車20(20a)が1台のみ設置された構成を例示したが、搬送台車は2台以上設置してもよい。