図1は、本発明の第1の実施の形態に係るパターン形成システム100の構成を示す図である。パターン形成システム100は、フィルム状の対象物9上に配線パターンを形成する装置である。対象物9は、可撓性を有するフィルム状のフレキシブル基板であり、フィルム状の絶縁性基材、および、絶縁性基材の一の主面全体に形成された比抵抗が10−6Ω・cm以上103Ω・cm以下の導電層(本実施の形態では、銅箔(Cu))を備える。パターン形成システム100では、対象物9上に銅による配線パターンを形成することにより、複数のフレキシブル回路基板が連続したシート状部材である回路基板シートが形成される。
図1に示すように、パターン形成システム100は、対象物9の導電層の表面上にトナー画像を転写(すなわち、形成)し、当該トナー画像を導電層上に定着させてレジストパターンとする画像形成装置1、導電層のレジストパターンから露出している部位(すなわち、トナー画像により被覆されていない部位)にエッチング液を付与することによりエッチングを施して当該部位を絶縁性基材上から除去するエッチング装置61、エッチングが終了した対象物9を洗浄する第1洗浄装置62、対象物9上からトナー画像であるレジストパターンを剥離して除去するトナー画像除去装置63、および、レジストパターンが除去された対象物9を洗浄する第2洗浄装置64を備える。以下の説明では、画像形成装置1によりトナー画像が転写される対象物9の導電層の表面91を「被転写面91」という。
図2は、画像形成装置1を拡大して示す図である。図2に示すように、画像形成装置1は、対象物9を保持するとともに被転写面91に沿う移動方向である(+Y)方向に移動する移動機構2、電子写真法にて感光ドラム31上にトナー画像を形成するプロセスユニット3、当該トナー画像上から感光ドラム31の外周面に所定の電位を付与する第1電位付与部4、対象物9に接触して被転写面91に所定の電位を付与する第2電位付与部5、並びに、これらの構成を制御する制御部7を備える。制御部7は、トナー画像の設計パターンデータがラスタライズされたパターンデータを記憶するパターンデータ記憶部71、および、パターンデータ記憶部71に記憶されたパターンデータに基づいてプロセスユニット3の後述する潜像形成部33およびドラム回転機構313を制御する照射制御部72を備える。対象物9は、絶縁性基材93および導電層94を有する。
プロセスユニット3は、減速機を介してモータ(図示省略)に接続される感光ドラム31、および、感光ドラム31を図2中のX方向に平行な回転軸310を中心として図2中における時計回りに回転するドラム回転機構313を備える。感光ドラム31は、アルミニウム等の金属により形成されるとともに回転軸310を中心とするドラム本体311を有し、ドラム本体311は電気的に接地される。ドラム本体311の外周面には、例えば、フタロシアニン顔料を有する単層型有機感光体(以下、単に「感光体312」という。)が一様に塗布される(または、蒸着される)。なお、感光体312は、フタロシアニン顔料を有する単層型有機感光体以外に、例えば、アモルファスシリコン等の無機感光体により形成されてもよい。
プロセスユニット3は、また、感光ドラム31の(+Z)側において感光ドラム31に対向して設けられて感光体312を帯電させる帯電器32、帯電された感光体312の外周面(以下、「感光面3121」という。)に画像形成用の光を照射して静電潜像を形成する光照射部である潜像形成部33、静電潜像として描画されたパターンを現像して感光体312の感光面3121上に転写前のトナー画像を形成する現像部34、感光体312の表面をクリーニングするクリーナ35、および、光を出射して感光体312を除電する除電器36を備える。現像部34では、エッチング耐性を有する液体トナー(例えば、イソパラフィン系の絶縁性の溶媒(キャリア液)に分散している湿式トナー)が、感光体312の感光面3121上の静電潜像に付与されることにより、パターンが現像される。
プロセスユニット3では、帯電器32から感光ドラム31の回転方向(すなわち、図2中の時計回り)に沿って潜像形成部33、現像部34、クリーナ35および除電器36が、感光ドラム31の周囲に配置されており、現像部34には、現像液である液体トナーを供給するトナー供給部(図示省略)が接続されている。また、画像形成装置1では、第1電位付与部4も、現像部34とクリーナ35との間において感光ドラム31の周囲に配置されている。
図3は、潜像形成部33の構成を示す図である。図3に示すように、潜像形成部33は、ポリゴンミラー331、複数(本実施の形態では、4本)の光ビーム(以下、単に「光」という。)を出射する光源部332、光源部332からの光をポリゴンミラー331へと導く光学系333、および、ポリゴンミラー331にて反射された光を感光体312の感光面3121へと導く光学系334を備える。本実施の形態では、光源部332として半導体発光素子の1つである半導体レーザが利用される。
潜像形成部33からの4本の光により感光面3121上に形成される4つの照射領域は、ポリゴンミラー331の回転によりX方向(以下、「主走査方向」といい、この方向は感光ドラム31の回転軸310と平行である。)へと走査される。また、図2に示すプロセスユニット3では、ドラム回転機構313により感光ドラム31が回転されることにより、感光体312の感光面3121が、感光面3121の潜像形成部33と対向する部位における主走査方向に垂直な周方向(すなわち、当該部位における回転軸310に垂直な断面での周方向であり、以下、「副走査方向」という。)に移動する。上記4つの照射領域は、主走査方向および副走査方向に対して傾斜して配列されているが、ポリゴンミラー331の回転と照射タイミングを調整することにより、4つの照射領域の位置は感光面3121上において副走査方向に等間隔で並ぶようになっている。
画像形成装置1では、制御部7の照射制御部72により潜像形成部33およびドラム回転機構313が制御されることにより、図4に示すように、感光面3121上において主走査方向であるX方向に所定のピッチ(以下、「第1ピッチP1」という。)にて配列されるとともに、副走査方向に第1ピッチP1よりも大きいピッチ(以下、「第2ピッチP2」という。)にて配列された複数の照射位置335のそれぞれに向けてパルス状の光が出射される。図4では、図の理解を容易にするために、複数の照射位置335を結ぶ主走査方向または副走査方向を向く仮想線(図中において破線にて示す。)を併せて描いている(図9(A)、図9(B)、図11(A)および図11(B)においても同様)。画像形成装置1では、感光面3121上に形成される上記4つの照射領域の1回の主走査方向への移動により、図4中においてそれぞれが主走査方向に並ぶ複数の照射位置335の集合である5つの照射位置列のうち、右側の4つの照射位置列に対して光の照射が行われる。
プロセスユニット3では、図3に示す潜像形成部33の光源部332が、感光面3121上にて副走査方向に関するピッチが第2ピッチP2となる4つの照射領域に光を照射する光出射部となり、ポリゴンミラー331が、複数の照射領域を主走査方向へと感光面3121に対して相対的に移動する移動機構となる。また、図2に示すドラム回転機構313が、潜像形成部33からの光の4つの照射領域を、感光面3121に対して副走査方向へと相対移動する移動機構となる。本実施の形態では、上記第2ピッチP2が10μmとされ、第1ピッチP1は、第2ピッチP2の5分の1である2μmとされる。第1ピッチP1は、潜像形成部33のポリゴンミラー331の回転速度と光源部332から出射されるパルス状の光の照射間隔により決定される。
ここで、感光面3121上において副走査方向にて隣接する2つの照射位置(図4中において、符号335aおよび335bを付す。)に注目する。図5は、2つの照射位置335a,335bに照射される光の強度分布を示す図である。図5では、各照射位置に照射された光の強度分布を破線305にて示し、2つの照射位置に照射される光の合計強度分布を実線306にて示す。なおここでは光の照射時間は一定であり、光の強度分布はその照射によって与えられるエネルギ分布と等しい。また、感光体312の感光閾値を二点鎖線307にて示す(図10、図12(A)および図12(B)においても同様)。図5では、2つの照射位置335a,335bにそれぞれ、所定の基準となる強度(以下、「基準強度」という。)の光が照射された場合を示す。
図5に示すように、各照射位置335a,335bに照射される光の強度分布305の最大値は感光閾値307未満であるため、一の照射位置に照射される光のみでは感光体312に対する描画は行われない。これに対し、2つの照射位置335a,335bに照射される光の合計強度分布306は、その一部において感光閾値307以上となる。感光面3121上には、図4に示すように、合計強度が感光閾値307以上となる領域の中心を描画中心337とする略楕円形の感光スポット336が形成される。描画中心337は、2つの照射位置335の間に位置する。なお、当該2つの照射位置335への光の照射は、必ずしも1回の主走査(すなわち、(+X)方向または(−X)方向への1回の主走査)中に行われる必要はなく、2回の主走査により当該2つの照射位置335への光の照射が順次行われてもよい。
本実施の形態では、各照射位置335a,335bに基準強度の光が照射された場合の感光スポット336の副走査方向の幅(以下、「基準幅W1」という。)は、副走査方向における照射位置のピッチである第2ピッチP2の3倍に等しい30μmとされる。実際には、照射位置335bの図4中における右側の照射位置335にも光が照射されて感光スポット336よりも副走査方向および主走査方向に大きい感光スポットが形成されるが、感光スポットと描画との関係については後述する。
画像形成装置1では、図2に示す制御部7の照射制御部72は、パターンデータ記憶部71に記憶されたパターンデータに基づいて実際に露光に使用するための画像データを作成する画像データ作成装置としての機能を有し、ここで作成した画像データに基づき、ドラム回転機構313並びに潜像形成部33のポリゴンミラー331および光源部332(図3参照)が制御されることにより、感光面3121上の複数の照射位置335(図4参照)に向けて出射される光の強度が個別に変更される。これにより、副走査方向において隣接する各2つの照射位置335に照射される光の強度に応じた大きさの感光スポット336が、各2つの照射位置335の間に位置する各描画中心337を中心として形成される。感光スポット336の副走査方向の幅は、照射制御部72による潜像形成部33の制御により照射光強度を変更することで、基準幅よりも小さい値、または、大きい値に変更可能とされる。
図2に示す第1電位付与部4は、コロナ放電によりイオンを発生させ、当該イオンを感光体312に付与することにより感光体312を帯電させるコロナ帯電機構であり、本実施の形態では、第1電位付与部4としてスコロトロンが利用されて感光体312に電位(以下、「第1電位」という。)が付与される。また、プロセスユニット3の帯電器32も、第1電位付与部4と同様、コロナ放電により感光体312を帯電させるコロナ帯電機構である。
第2電位付与部5は2つの接触子51を備え、接触子51は、導電性材料にて形成されるブラシ(例えば、カーボンブラシや導電性毛ブラシ)を有する。各接触子51は図示省略の支持部材により支持されており、対象物9の導電性の被転写面91に直接当接する。各接触子51の電極は電気的に接地されているため、対象物9の被転写面91も電気的に接地される。換言すれば、第2電位付与部5の接触子51により、対象物9の被転写面91に接地電位である電位(以下、「第2電位」という。)が付与される。
画像形成装置1では、感光ドラム31の(−Z)側において、移動機構2により感光ドラム31に対向して移動する対象物9の被転写面91が、第1電位付与部4とクリーナ35との間にて感光ドラム31の感光面3121に最も接近する。そして、第1電位付与部4および第2電位付与部5による電位の付与により、感光ドラム31と対象物9とが最も接近する位置において、感光ドラム31と対象物9の被転写面91との間に所定の転写電圧が作用し、感光ドラム31の感光面3121上のトナー画像が対象物9の被転写面91上に転写される。以下の説明では、感光ドラム31の感光面3121と対象物9の被転写面91とが最も接近する位置を「転写位置」と呼ぶ。転写位置は、プロセスユニット3に対して相対的に固定された位置となる。画像形成装置1では、第1電位付与部4および第2電位付与部5が、転写位置において感光ドラム31と対象物9の被転写面91との間に所定の転写電圧を作用させてトナー画像を対象物9に転写するトナー画像転写部となっている。
画像形成装置1は、移動機構2による対象物9の移動方向において上記転写位置よりも下流側(すなわち、(+Y)側)に配置されて対象物9の被転写面91に転写されたトナー画像を被転写面91に定着させる定着部52をさらに備える。画像形成装置1では、定着部52により対象物9の被転写面91を非接触にて加熱することにより、トナー画像が被転写面91に定着されてレジストパターンとなる。
移動機構2は、対象物9を転写位置へと供給する対象物供給部203、転写位置において対象物9を下面側(すなわち、被転写面91とは反対側)である(−Z)側から支持する転写ローラ204、および、移動機構2による対象物9の移動方向において定着部52よりも下流側に配置される対象物回収部205を備える。対象物供給部203は、トナー画像が転写される前のロール状の対象物9を保持し、対象物回収部205は、定着部52によりトナー画像が定着された対象物9を巻き取って回収する。図2では、定着部52と対象物回収部205との間に配置されるエッチング装置61等の他の装置の図示を省略している。
図1に示すように、パターン形成システム100では、移動機構2による対象物9の移動方向において、エッチング装置61、第1洗浄装置62、トナー画像除去装置63および第2洗浄装置64が、画像形成装置1の定着部52と対象物回収部205との間に順に配置されており、対象物9上の一の部位に注目すると、当該部位は、移動機構2により一の装置から他の装置へと順に搬送される。換言すれば、対象物9を移動する移動機構2は、画像形成装置1、エッチング装置61、第1洗浄装置62、トナー画像除去装置63および第2洗浄装置64により共有される対象物搬送機構となっている。
エッチング装置61は、塩化鉄(FeCl3)や塩化銅(CuCl2)等を主成分とするエッチング液を、トナー画像が形成された対象物9の被転写面91に向けて噴射する複数のスプレー611を備え、第1洗浄装置62は、純水等の洗浄液を対象物9の被転写面91に向けて噴射する複数のスプレー621を備える。また、トナー画像除去装置63は、対象物9からトナー画像を剥離する剥離液を対象物9の被転写面91に向けて噴射する複数のスプレー631を備え、第2洗浄装置64は、第1洗浄装置62と同様に、純水等の洗浄液を対象物9の被転写面91に向けて噴射する複数のスプレー641を備える。
次に、図6に沿ってパターン形成システム100による配線パターンの形成の流れについて説明する。なお、ステップS11〜S15は感光体312の一部に注目した処理の流れを示しており、感光体312全体に対しては実際にはこれらのステップは時間的にほぼ並行して行われる。また、ステップS16〜S20は対象物9の一部に注目した処理の流れを示しており、対象物9全体に対しては実際にはこれらのステップは時間的にほぼ並行して行われる。
パターン形成システム100では、まず、画像形成装置1の感光ドラム31が回転軸310を中心として図2中における時計回りに一定の回転速度にて回転を開始するとともに、移動機構2において対象物供給部203および対象物回収部205がそれぞれ反時計回りに回転することにより、対象物9の(+Y)方向への移動が一定の速度にて開始される。プロセスユニット3では感光ドラム31の回転により、回転軸310を中心とする円筒ドラム状の環状部材である感光ドラム31が、周囲に配置された各周辺構成(すなわち、帯電器32、潜像形成部33、現像部34、第1電位付与部4、クリーナ35および除電器36)に対して、感光体312の感光面3121に沿って連続的に循環移動し、これらの周辺構成による感光体312に対する処理が開始される。
帯電器32では、対向する位置へと到達する感光体312の一部(以下、「対象部位」と呼ぶ。)に電荷が順次付与され、対象部位の表面を、例えば、+550V(ボルト)にて一様に帯電させる(ステップS11)。帯電後の対象部位は潜像形成部33による光の照射位置へと連続的に移動する。
潜像形成部33では、制御部7のパターンデータ記憶部71に予め記憶されているパターンデータに基づいて、ポリゴンミラー331および光源部332(図3参照)が照射制御部72により制御されることにより、感光体312の対象部位において、感光面3121に向けてパルス状の光が出射されて感光スポットが形成される。照射制御部72による潜像形成部33の制御の詳細については後述する。
感光面3121上において感光スポットが形成された部位(すなわち、感光領域)では、感光面3121の電荷が感光体312内に移動することにより表面電位が+80Vまで低減され、感光スポットが形成されない部位は帯電状態がそのまま維持される。これにより、電荷の分布による画像である静電潜像が感光体312上に形成される(ステップS12)。
感光ドラム31において静電潜像が形成された部分(対象部位)は現像部34に対向する位置へと移動する。現像部34では、現像ローラ341が現像バイアス電源343に接続されており、現像バイアス電源343により、+350Vの電位が付与されている。そして、現像ローラ341と静電潜像との間のバイアス電圧により、液体トナー中においてプラスに帯電している湿式トナー(すなわち、液体トナーの溶媒中に分散されるとともに感光体312の感光面3121と同じ極性に帯電している湿式トナー)が静電潜像に付与される(ステップS13)。本実施の形態では、湿式トナーとして、粒径が0.1μm以上2μm以下(より好ましくは、0.1μm以上0.5μm以下)のものが使用される。
図7(A)ないし図7(C)は、現像部34(図2参照)により湿式トナー92が付与された感光体312の感光面3121の電位分布を概念的に示す図である。図7(A)ないし図7(C)では、感光体312の感光面3121の電位を実線301にて描いており、実線301が感光体312の感光面3121からドラム本体311とは反対側に位置する場合をプラスとする。また、実線301と感光面3121との間の上下方向の距離は、電位の大きさを表す。
図7(A)に示すように、感光体312の感光面3121と同じ極性であるプラスに帯電している湿式トナー92は、感光体312上の対象部位において、潜像形成部33(図2参照)により表面電位が低減された部位にのみ付着し、これにより、静電潜像が現像される。換言すれば、感光体312の感光面3121上の対象部位に、湿式トナー92による転写前のトナー画像が形成される。図2に示す画像形成装置1では、感光ドラム31およびドラム回転機構313が、感光体312の感光面3121に転写前のトナー画像を保持するとともに感光体312を循環移動するトナー画像保持部となっている。
現像部34では、対象部位上の不要な液体トナーは、現像ローラ341の(−Z)側(すなわち、感光ドラム31の循環移動の下流側)に位置するスキージローラ342により掻き取られて現像部34へと戻される。スキージローラ342はスキージ用電源344に接続されており、スキージ用電源344により、+350Vの電位が付与されている。そして、スキージローラ342が図1中の時計回りに回転して液体トナーを掻き取ることにより、感光体312上の余剰の液体トナー(すなわち、潜像形成部33により表面電位が低減された部位上に過剰に付与された液体トナー、および、表面電位が低減されなかった部位であるバックグラウンド上に付与された液体トナー)が回収される。
次に、感光ドラム31の循環移動において転写位置よりも手前に配置された第1電位付与部4により、感光体312上に現像されたトナー画像上から、感光体312の感光面3121に湿式トナーの帯電極性と同じ極性であるプラスの第1電位が付与される(ステップS14)。これにより、図7(B)に示すように、感光体312の感光面3121の対象部位全体が、帯電器32による帯電と同程度、または、絶対値において大きい電位(本実施の形態では、約+600V)まで帯電する。なお、対象部位では、湿式トナー92の付着領域における電位と非付着領域における電位とが僅かに異なっているが、この程度の電位差は後述する湿式トナー92の転写にはほとんど影響しない。また、当該電位差は、第1電位付与部4による第1電位の付与時間を長くすることにより解消される。
図2に示す第1電位付与部4による第1電位の付与が終了すると、感光ドラム31の対象部位は、感光ドラム31の回転に同期して移動する対象物9の被転写面91に最も接近する転写位置へと到達し、転写位置では対象部位は感光ドラム31の回転速度に応じた速度(すなわち、感光面3121の回転軸310に垂直な断面における接線方向の速度)にて正確に(+Y)方向へと移動する。また、対象物9は、移動機構2により、転写位置における感光体312の対象部位と同じ速度にて、対象部位の進行方向と同じ(+Y)方向を移動方向として移動する。これにより、転写位置の極近傍において対象物9(の対象部位に対向する部位)の位置が対象部位に対して相対的に固定される。
このとき、対象物9は、転写位置の(+Y)側および(−Y)側にそれぞれ配置される第2電位付与部5の2つの接触子51を介して電気的に接地されており(換言すれば、第2電位付与部5により、対象物9の被転写面91に接地電位が付与されており)、転写位置における対象物9の被転写面91と感光体312の対象部位との間に所定の転写電圧が作用する。すなわち、対象部位から被転写面91へと向かう電界が発生し、図7(C)に示すように、感光体312から対象物9の被転写面91へと向かう方向(図7(C)中の符号302を付す矢印が向く方向)の力が湿式トナー92に作用する。これにより、感光体312の対象部位上に付着したプラスに帯電したトナー画像が、対象物9の被転写面91に順次転写される(ステップS15)。
湿式トナーの転写後の感光体312の対象部位は、図2に示すクリーナ35の位置へと続けて移動する。クリーナ35では、スプレーノズル351により対象部位に洗浄液が付与されることにより、対象物9に転写されずに対象部位に残留した湿式トナー等の不要物(以下、「残トナー」という。)が湿らされる。これにより、対象部位に固着している残トナーが膨潤し、残トナーの感光体312に対する固着力が低減される。
続いて、図2中における時計回り(すなわち、感光ドラム31の回転方向と同じ方向)に回転するスポンジローラ352,353,354により感光体312の対象部位が擦られることにより、残トナーがこれらのスポンジローラに付着して感光体312上から除去される。スポンジローラに付着した残トナーは吸引ノズルにより洗浄液と共に吸引されてスポンジローラ上から除去される。
クリーナ35により感光体312の感光面3121がクリーニングされて感光体312が機械的に初期状態に戻されると、ランプとフィルタとの組合せ、あるいは、LED等を有する除電器36により対象部位に光が照射されて感光体312が除電され、電気的に初期状態に戻される。
上述のように、ステップS11〜S15の処理は感光体312上の各部位に対してほぼ並行して行われ、転写位置へと順次到達する感光体312の各部位に対して連続的に処理が行われる。このため、感光体312の感光面3121上のトナー画像全体が転写位置において対象物9上に転写され、これが繰り返されることにより、最終的に複数のフレキシブル回路基板となる対象物9上に、複数のフレキシブル回路基板の配線パターンに対応するトナー画像が形成される。
画像形成装置1では、対象物9のトナー画像が形成された部位が、移動機構2により転写位置から(+Y)側へと移動されて定着部52の下方を通過することにより、被転写面91および被転写面91上のトナー画像が定着部52により加熱され、トナー画像が被転写面91に定着されてレジストパターンとなる(ステップS16)。
対象物9のトナー画像が定着された部位は、図1に示す移動機構2により画像形成装置1からエッチング装置61へと移動し、エッチング装置61においてエッチング液が付与されることにより、導電層94(図2参照)のトナー画像(すなわち、レジストパターン)から露出している部位にエッチングが施されて当該部位が絶縁性基材93(図2参照)上から除去される(ステップS17)。これにより、銅にて形成された導電層94のうちトナー画像により被覆された部分のみが絶縁性基材93上に残置され、フレキシブル回路基板の配線パターン(すなわち、銅電極および銅配線)となる。
対象物9のエッチングが施された部位は、移動機構2によりエッチング装置61から第1洗浄装置62へと移動し、第1洗浄装置62において純水が噴射されることにより、対象物9が洗浄されて対象物9上のエッチング液が除去される(ステップS18)。
対象物9の洗浄が終了した部位は、移動機構2により第1洗浄装置62からトナー画像除去装置63へと移動し、トナー画像除去装置63において剥離液が付与されることにより、対象物9上のトナー画像(すなわち、絶縁性基材93上に形成された配線パターン上のレジストパターン)が配線パターンから剥離されて除去される(ステップS19)。これにより、絶縁性基材93および絶縁性基材93上に銅にて形成された配線パターンを有するフレキシブル回路基板が形成される。
対象物9のトナー画像が剥離された部位は、移動機構2によりトナー画像除去装置63から第2洗浄装置64へと移動し、第2洗浄装置64において純水が噴射されることにより、対象物9が洗浄されて対象物9上の剥離液が除去される(ステップS20)。そして、対象物9の洗浄が終了した部位は、移動機構2により第2洗浄装置64から搬出され、必要に応じて加熱や送風等により乾燥された後、移動機構2の対象物回収部205により巻き取られて回収される。これにより、複数のフレキシブル回路基板が連続した回路基板シートが形成される。
次に、上述のステップS12において感光体312の感光面3121上に静電潜像が形成される際の(すなわち、パターンデータ記憶部71に記憶されているパターンデータが示すパターンが静電潜像として描画される際の)、照射制御部72による潜像形成部33の制御の詳細について説明する。
図8は、感光面3121上に描画されるパターンに含まれる図形要素81の一部を示す図であり、図の理解を容易にするために、図形要素81に平行斜線を付している。図8では、図中の上下方向が上述の主走査方向(すなわち、X方向)に対応し、図中の左右方向が副走査方向に対応する(図9(A)、図9(B)、図11(A)および図11(B)においても同様)。図8に示すように、図形要素81のエッジ811は、主走査方向および副走査方向に対して傾斜する傾斜エッジである。このような図形要素のエッジは、制御部7により、パターンデータ記憶部71に記憶されたパターンデータから認識される。
本発明では図形要素を描画する場合に、その描画しようとする図形要素81を、 図8に示すように、図形要素のエッジから内側に所定幅のエッジ領域81aと、そのエッジ領域81aの内側の所定幅の低減領域81bと、その低減領域81bの内側のベタ領域81cとに分けて、それぞれに対応する照射位置に照射すべき照射光の強度を、それぞれ設定している。なお、各領域の幅の広さは以下の説明のとおりであり、図は模式的に描いたものであるので、図中に示される各領域の幅や他の領域との幅の比率は実際の大きさ等を表すものではない。また図中に描いた平行斜線の密度も単に各領域の識別のために変えて描いたものであり、各領域の露光の強度などを表すものではない。以下、図形要素81を例に各領域への照射光の強度の設定について説明する。
〔エッジ領域81aの露光制御〕
図形要素81のエッジから内側に所定幅のエッジ領域81aに対する露光制御について説明する。図9(A)は、図形要素81のエッジ811近傍を拡大して示す図であり、図9(A)中では、感光面3121上において主走査方向の一の位置にて副走査方向に並ぶ複数の照射位置335をそれぞれ黒丸にて示し、複数の描画中心337をそれぞれ白丸にて示している(図9(B)、図11(A)および図11(B)においても同様)。この図9(A)では、エッジ811が照射位置335bと同じ位置にある場合を示している。図形要素81が描画される際には、図形要素81のエッジ811の一部が、当該一部と主走査方向の位置が等しい(すなわち、エッジ811の一部と副走査方向において並ぶ)複数の照射位置335に照射された光により形成された感光スポット336により形成される。なお、図9(A)では、エッジ811の右側が図形要素81の内部であることを示すために、エッジ811の右側に平行斜線を付す(図9(B)、図11(A)および図11(B)においても同様)。
ここで、図9(A)中において太線にて示すエッジ811の一部(以下、「部分エッジ812」という。)に注目すると、部分エッジ812が形成される際には、部分エッジ812の右側である図形要素81内において主走査方向の位置が部分エッジ812に等しい複数の照射位置のうち、エッジ811との間の副走査方向の距離が最小となる照射位置(以下、「第1照射位置335c」という。)に向けて、第1照射位置335cとエッジ811との間の副走査方向の距離に基づいて決定される第1強度の光が出射される。図9(A)中に示すように、第1照射位置335cと部分エッジ812との間の副走査方向の距離は、照射位置335の副走査方向のピッチである第2ピッチに等しく、この場合、第1強度は上述の基準強度とされる。
また、図形要素81内において主走査方向の位置が部分エッジ812に等しい複数の照射位置のうち、エッジ811との間の副走査方向の距離が2番目に小さい照射位置(以下、「第2照射位置335d」という。)に向けて、第1強度に対して所定の強度比となる第2強度の光が出射される。本実施の形態では、上記強度比は1であり、第2強度は第1強度に等しい基準強度とされる。図5は、この場合の第1照射位置335cおよび第2照射位置335dに照射される光の強度分布(エネルギ分布)を示す図である。図9(A)および図10に示すように、第1照射位置335cと第2照射位置335dとの副走査方向における中央に位置する描画中心337を中心として、基準幅W1(30μm)の感光スポット336が形成され、当該感光スポット336により部分エッジ812が形成される。
実際には、図9(A)に示す例では、第2照射位置335dの右側の照射位置335eにも光が照射される場合があり、この場合、感光スポット336よりも副走査方向および主走査方向に大きい感光スポットが形成されるが、第2照射位置335dよりも右側の照射位置335eに照射された光は、感光スポット336の左端近傍の形状には影響を与えることがないため、部分エッジ812の形成は、実質的に、第1照射位置335cおよび第2照射位置335dに照射される光のみによる感光スポット336により行われると考えてよい。したがって、本実施形態の説明では、第1照射位置335cおよび第2照射位置335dに照射される光のみによる感光スポット336により部分エッジ812が形成されるものとして説明する。
そして、この第1照射位置335cと第2照射位置335dに関して、第1照射位置335cは、図形要素81内の、第1照射位置335cが属する主走査方向の位置における副走査方向にならぶ照射位置のうち、部分エッジ812との間の前記副走査方向の距離が最小となり、同様に第2照射位置335dは、副走査方向の距離が2番目に小さい位置である。そしてこの第1照射位置335cへの照射光の強さ(第1強度)は第1照射位置335cと部分エッジ812との間の副走査方向の距離に基づいて決定される。また第2照射位置335dへの照射光の強さ(第2強度)は第1照射位置335cへの照射光強度である第1強度に基づいて決定される。さらに詳述すると、これら第1強度および第2強度は、それらの照射光が形成する感光スポット336の端部が、描画すべき図形要素81のエッジ811(部分エッジ812)を描くように感光体312の感度を考慮して決定される。すなわち、この第1照射位置335cと第2照射位置335dを含む領域が、エッジ領域81aに相当する。
次に図9(B)に示すように、エッジ811が照射位置335bと第1照射位置335cとの中間位置にある場合を示している。同様に、図9(B)に示す図形要素81の部分エッジ812が形成される際には、第1照射位置335cと部分エッジ812との間の副走査方向の距離が第2ピッチよりも小さい(すなわち、部分エッジ812が副走査方向に隣接する2つの照射位置の間に位置する)ため、第1強度は基準強度よりも小さい値として決定され、第2照射位置335dに照射される光の強度である第2強度は、第1強度に等しい強度に決定される。図10は、第1照射位置335cおよび第2照射位置335dに照射される光の強度分布を示す図である。図9(B)および図10に示すように、第1照射位置335cおよび第2照射位置335dに照射される光により、第1照射位置335cと第2照射位置335dとの副走査方向における中央に位置する描画中心337を中心として、基準幅W1(図5参照)よりも小さい幅W2(20μm)の感光スポット336が形成され、当該感光スポット336により部分エッジ812が形成される。すなわちこの場合も、第1照射位置335cと第2照射位置335dを含む領域が、エッジ領域81aに相当する。
以上に説明したように、画像形成装置1では、図形要素81のエッジ領域81aが描画される際に、照射制御部72により、第1照射位置335cに向けて出射される光の強度である第1強度が、第1照射位置335cと部分エッジ812との間の副走査方向の距離に基づいて決定され、第2照射位置335dに向けて出射される光の強度である第2強度が、第1強度に対し1対1となるように決定され、第1強度の光と第2強度の光とにより形成される感光スポット336により部分エッジ812が形成される。そして、部分エッジ812の形成が繰り返されることにより、図形要素81のエッジ811が描画される。すなわち、エッジ領域81aとは、図形要素81のエッジ811の位置を定めて描画すなわち形成するための露光を行う領域ともいうことができる。
このように、第1照射位置335cおよび第2照射位置335dに向けて出射される光の強度を、第1照射位置335cと部分エッジ812との間の副走査方向の距離、および、所定の強度比に基づいて容易に決定することにより、図形要素81のエッジ811の副走査方向の位置を照射位置335の副走査方向のピッチである第2ピッチよりも高分解能にて(すなわち、第2ピッチよりも小さい単位距離にて)容易に制御することができる(すなわち、エッジ811のアドレス(位置)分解能を容易に高くすることができる。)。その結果、対象物9上において、トナー画像の位置を容易に精度良く配置することができる。
またこの画像形成装置1では、第1強度に対する第2強度の強度比を1とすることにより、第2強度をより容易に決定することができる。また、潜像形成部33では、光源部332からの光の感光面3121上における照射領域を、ポリゴンミラー331により主走査方向へと高速にて移動することができる。その結果、潜像の形成に要する時間を短縮することができる。
上述の画像形成装置では、制御部7の照射制御部72による第1強度および第2強度の決定において、第1強度に対する第2強度の強度比は必ずしも1にされる必要はなく、第2強度が第1強度よりも大きくなるように、強度比が1よりも大きい値とされてもよい。この場合、第1照射位置335cおよび第2照射位置335dに照射される光により形成される感光スポット336の描画中心337は、第1照射位置335cと第2照射位置335dとの間におい第2照射位置335dに近い位置となる。また、上記強度比は1よりも小さい値とされてもよい。さらには、第2強度は第1強度に基づいて決定されるのであればよく、例えば、第2強度は、基準強度の所定の割合等に等しい一定値だけ第1強度よりも大きい(または、小さい)値とされてもよい。
〔低減領域81bの露光制御〕
次に、エッジ領域81aの内側の所定幅の低減領域81bに対する露光制御について説明する。図9(A)に示す場合、エッジ領域81aの内側にある所定幅の領域、すなわち、第3照射位置335e、第4照射位置335fを含む所定幅の領域が低減領域81bとなる。その幅については後述する。そしてこの低減領域81bへの照射光の単位面積あたりのエネルギ量は、後述するベタ量よりも低減される。
具体的に説明すると、図13は感光体312の感光面3121を初期電圧V0に帯電させ、そこに照射する光の単位面積あたりのエネルギ量を変化させたときの表面電位の変化(低下)を示すグラフである。このグラフによると、感光体312は、照射する光の単位面積あたりのエネルギ量が1.2μJ/cm2に至るとその電位の低下(変化)がほぼなくなっている(いわゆる「サチる」という状態となっている)ことがわかる。一般にこのときの単位面積あたりのエネルギ量の値1.2μJ/cm2が感光体の感度であり、このときの表面電位をVLと呼ぶ。本実施形態では、この感光体の感度、すなわち、単位面積あたりのエネルギ量の値1.2μJ/cm2を、帯電した感光体に光を照射したときのその電位の変化がほぼ飽和するエネルギ量として扱い、この値をベタ量とする。
低減領域81bへの照射光の単位面積あたりのエネルギ量は、ベタ量よりも低減される。その低減の程度および低減領域81bの幅の最適条件は、感光面3121の感度、トナーの特性、エッジ効果の起こりやすさや程度、対象とする図形要素の大きさ等の条件によって異なり、例えば実験的に定められる。本発明者らの実験によれば、低減領域81bの幅を100μm、低減領域81bへの照射光の単位面積あたりのエネルギ量をベタ量の80%、すなわち1.2μJ/cm2×0.8=0.96μJ/cm2とすることで、幅が300μm程度の図形要素81のパターンを形成する際に発生する転写ヌケの発生を最も良好に抑制できた。
〔ベタ領域81cの露光制御〕
次に、低減領域81bの内側のベタ領域81cに対する露光制御について説明する。図9(A)の場合も図9(B)の場合も、低減領域81bの内側にある領域がベタ領域81cとなる。図8で示す図形要素81の場合、副走査方向にみて、左側のエッジ811側にエッジ領域81aがありその内側に低減領域81bがある。同様に右側のエッジ812の側にもエッジ領域81aがありその内側に低減領域81bがある。そして、これら2つの低減領域81bの間の領域がベタ領域81cとなる。
そして、このベタ領域81への照射光の単位面積あたりのエネルギ量は、感光体312の対象部位の感光面3121の表面電位を電圧VLまで除電するために必要なエネルギ量、すなわちベタ量(1.2μJ/cm2)とする。
なお、図8に示す図形要素81の幅がより短い場合には、両側のエッジ811、812の両側の低減領域81bがつながってしまう。この場合、ベタ領域が存在せず、ベタ領域への露光は行われない。また図形要素81の幅がさらに短い場合には、両側のエッジ811、812の両側のエッジ領域81aがつながってしまうことも考えられる。この場合、低減領域も存在せず。低減領域への露光も行われない。
〔転写ヌケ発生の低減〕
本発明では、このように図形要素をエッジ領域81aと低減領域81bとベタ領域81cとに区分けし、それぞれに適した照射光のエネルギ量を設定する。特に、エッジ領域81aにはエッジ811との間の副走査方向の距離に基づいて決定されるエネルギ量の光が照射しているので、描画する図形要素のエッジの位置を細かく制御することができ、る。またエッジの位置に影響を与えない低減領域81bにはベタ量よりも低減したエネルギ量の光を照射しているので、転写ヌケの発生を低減することができる。この理由は、以下によるものと考えられる。図15は描画する図形要素にかかる各照射位置への光の照射エネルギ量(棒グラフ)と転写前および転写後のトナー厚(曲線)との関係を模式的に示した図である。図15(A)に示すように、描画しようとする図形要素の幅全体にわたる照射位置にベタ量のエネルギの光で露光すると、図形要素の両側のエッジ近傍の領域に、いわゆるエッジ効果によりトナーが集中しすぎてトナーの厚みが厚くなりすぎる。そして、転写の際にその両側のトナーの先端だけは対象物に接近または接触して転写されるが、その間の領域のトナーはエッジ効果が生じる部分ほどは厚くないため、対象物と十分に接触しないため良好に転写されず、図形要素の幅方向中央付近に転写ヌケが生じていた。
図15(B)は本発明の場合を示し、aはエッジ領域を、bは低減領域を、cはベタ領域をそれぞれ示す。本発明では、図15(B)中のbすなわち低減領域81bに照射する光の強度をベタ強度よりも低減して照射するエネルギ量を低減している。これにより、エッジ効果を抑制し、この部分のトナーが厚くなりすぎるのを防ぐ。従って、従来であれば転写ヌケになっていた部分も含めて図形要素全体にわたってトナーが対象物と十分に接触し、均一で良好に転写ができるためと考えられる。
なお、図形要素のエッジの位置を決めるエッジ領域81aに照射するエネルギ量まで低減してしまうと、エッジの位置が不所望に動いてしまうことが考えられるが、本実施形態ではそのエッジ位置に影響を与える照射位置への照射には、エッジ位置を決めるのに必要な量(これは必ずしもベタ量と等しいとは限らない)だけ照射しており、エッジ位置が不所望に変わってしまうことがない。なお、各照射位置への照射エネルギ量は図5等に示すような分布で照射されるが、この図15においては簡単のため棒グラフで表示している。
〔制御フロー〕
次に、本発明による感光体312への静電潜像の形成の処理(図6におけるステップS12)における潜像形成部33の制御、特に照射制御部72による各領域への照射光のエネルギ量の設定と露光処理について、図9(A)の場合のフローを示す図14を参照して説明する。
まず、描画しようとする図形要素のパターンデータを制御部7のパターンデータ記憶部71から読み込む(ステップS31)。このパターンデータには、描画しようとする図形要素とその内部に含まれる照射位置のデータが含まれる。そして、読み込んだパターデータについて、次に照射すべき照射位置が、図形要素のパターンの内部にあるか否かを判断する(ステップS32)。ここでいう次に照射すべき照射位置とは、感光ドラム31の回転の位置と、ポリゴンミラー331の回転の位置によって光源部332からの4本の光ビームが感光ドラム31に到達するその位置であり、4本の光ビームに対応する4点が同時に処理される。図形要素のパターンの外部であれば、光を照射せず、ステップS33に進み、露光対象領域全体の処理が終了したか否かを判断する。全領域が終了していれば、それで露光処理すなわち静電潜像形成処理は終了し、図6に示すステップS13に進む。全領域が終了していない場合にはステップS32に戻る。
ステップS32において図形要素のパターンの内部であると判断すると、次にその照射位置が図形要素のエッジ領域にあるか否かを判断する(ステップS34)。エッジ領域であれば、ステップS35に進み、光源部332から照射する光のエネルギ量が上述したように描画すべきエッジからの距離に応じたものとなるように設定し、ステップS36に進む。
ステップS34においてエッジ領域でないと判断すると、次にその照射位置が図形要素の低減領域にあるか否かを判断する(ステップS37)。低減領域であれば、ステップS38に進み、光源部332から照射する光のエネルギ量が上述したように低減照射量すなわちベタ量の80%となるように設定し、ステップS36に進む。
ステップS37において低減領域でないと判断すると、すなわちその照射位置はベタ領域であることになるので、ステップS39に進み、光源部332から照射する光のエネルギ量が上述したようにベタ量となるように設定し、ステップS36に進む。
ステップS36では設定したエネルギ量の照射光で露光処理を行うように光源部332等を制御し、露光処理が終わるとステップS33に進む。
次に、本発明の第2の実施の形態に係る画像形成装置について説明する。第2の実施の形態に係る画像形成装置は、図2に示す画像形成装置1と同様の構成を有するため、以下の説明では、画像形成装置1の構成と対応する構成に同符号を付す。また、画像形成装置によるトナー画像の形成の流れも第1の実施の形態と同様である。第2の実施の形態に係る画像形成装置では、図形要素の描画の際の照射制御部72による潜像形成部33の制御の、特にエッジ領域の設定が異なる。
図11(A)は、図形要素81のエッジ811近傍を拡大して示す図である。図11(A)中の部分エッジ812が形成される際には、第1の実施の形態と同様に、部分エッジ812の右側(すなわち、図形要素81内)において主走査方向の位置が部分エッジ812に等しい複数の照射位置のうち、エッジ811との間の副走査方向の距離が最小となる照射位置(以下、「第1照射位置335c」という。)に向けて、第1照射位置335cとエッジ811との間の副走査方向の距離に基づいて決定される第1強度の光が出射される。
第2の実施の形態に係る画像形成装置では、第1の実施の形態とは異なり、部分エッジ812の左側(すなわち、図形要素81外)において主走査方向の位置が部分エッジ812に等しい複数の照射位置のうち、エッジ811との間の副走査方向の距離が最小となる照射位置(以下、「第2照射位置335b」という。)に向けて、第1強度に対して所定の強度比となる第2強度の光が出射される。換言すれば、副走査方向において部分エッジ812を挟んで第1照射位置335cに隣接する第2照射位置335bに向けて第2強度の光が出射される。
図12(A)は、第1照射位置335cおよび第2照射位置335bに照射される光の強度分布を示す図であり、第1照射位置335cおよび第2照射位置335bにそれぞれ照射される光の強度である第1強度および第2強度は基準強度よりも小さくされる。第2の実施の形態に係る画像形成装置では、図11(A)および図12(A)に示すように、第1照射位置335cおよび第2照射位置335bに照射される光により、第1照射位置335cと第2照射位置335bとの副走査方向における中央に位置する描画中心337を中心として、基準幅W1(図5参照)よりも小さい幅W3の感光スポット336が形成され、当該感光スポット336により、第1照射位置335cと第2照射位置335bとの間に位置する部分エッジ812が形成される。
第2の実施の形態に係る画像形成装置では、第1強度に対する第2強度の強度比が1よりも小さい値とされてもよい。これにより、図11(B)および図12(B)に示すように、第1照射位置335cと第2照射位置335bとの間において第1照射位置335cに近い位置に位置する描画中心337を中心として、幅W4の感光スポット336が形成される。そして、感光スポット336により、第1照射位置335cと第2照射位置335bとの間に位置する部分エッジ812が形成される。
第2の実施の形態に係る画像形成装置では、第1の実施の形態と同様に、第1照射位置335cおよび第2照射位置335bに向けて出射される光の強度を、第1照射位置335cと部分エッジ812との間の副走査方向の距離、および、所定の強度比に基づいて容易に決定することにより、図形要素81のエッジ811の副走査方向の位置を照射位置335の副走査方向のピッチである第2ピッチよりも高分解能にて(すなわち、第2ピッチよりも小さい単位距離にて)容易に制御することができる。
次に、本発明の第3の実施の形態に係る画像形成装置について説明する。第3の実施の形態に係る画像形成装置は、図2に示す画像形成装置1と同様の構成を有するため、以下の説明では、画像形成装置1の構成と対応する構成に同符号を付す。また、画像形成装置によるトナー画像の形成の流れも第1の実施の形態と同様である。第3の実施の形態に係る画像形成装置では、図形要素の描画の際の照射制御部72による潜像形成部33の制御の、特にエッジ領域の設定が第1および第2の実施の形態とは異なる。
第3の実施の形態に係る画像形成装置では、部分エッジ812が、部分エッジ812の副走査方向の両側に位置する2つの照射位置335のうち、図形要素81外の照射位置335に近い場合には、上述の第2の実施の形態と同様の制御が行われ、図形要素81内の第1照射位置335cおよび図形要素81外の第2照射位置335b(図11(A)および図11(B)参照)にそれぞれ第1強度および第2強度の光が照射されて部分エッジ812が形成される。また、部分エッジ812が、部分エッジ812の副走査方向の両側に位置する2つの照射位置335のうち、図形要素81内の照射位置335に近い場合、または、上記2つの照射位置335の中央に位置する場合には、上述の第1の実施の形態と同様の制御が行われ、図形要素81内の第1照射位置335cおよび第2照射位置335d(図9(B)参照)にそれぞれ第1強度および第2強度の光が照射されて部分エッジ812が形成される。
第3の実施の形態に係る画像形成装置でも、第1および第2の実施の形態と同様に、図形要素81のエッジ811の副走査方向の位置を照射位置335の副走査方向のピッチである第2ピッチよりも高分解能にて容易に制御することができる。
第3の実施の形態に係る画像形成装置では、上述のように、部分エッジ812と第1照射位置335cとの間の距離が第2ピッチの半分以下である場合、第1照射位置335cおよび図形要素81内の第2照射位置335dに照射される光にて部分エッジ812が形成され、部分エッジ812と第1照射位置335cとの間の距離が第2ピッチの半分よりも大きい場合、第1照射位置335cおよび図形要素81外の第2照射位置335bに照射される光にて部分エッジ812が形成されるが、第2照射位置の位置の切り替えに係る制御則は適宜変更されてよい。例えば、部分エッジ812と第1照射位置335cとの間の距離と第2ピッチの75%の長さとの大小関係により、第1の実施の形態に係る照射制御と第2の実施の形態に係る照射制御との切り替えが行われてもよい。
そして、これら第2および第3の実施形態において、エッジ領域81aの内側に低減領域81bと、ベタ領域81cを設定し、それぞれに対応する照射位置に、それぞれに対応する強度の光を照射して露光描画処理することは上記第1の実施形態と同じである。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
上記実施の形態に係る画像形成装置では、照射光の強度を変化させて設定することにより、エッジ領域への照射光のエネルギ分布を制御し、それによって2つの照射位置への照射によってエッジの位置を制御したが、それ以外のエネルギ分布の制御、例えば、照射光の強度は変化させずに照射時間をデューティ制御してもよく、また光学系の配置変更などによる集光度合いの変更によってもよい。また、図形要素のエッジ全体が上記の制御により形成される必要はなく、感光面3121上に描画されるパターンの形状に合わせ、照射制御部72により潜像形成部33に対して上述の制御以外の制御が行われて図形要素のエッジの一部(例えば、図形要素の端部近傍のエッジ)が描画されてもよい。さらに、低減領域やベタ領域への照射光の単位面積当たりのエネルギ量の制御も、照射光の強度を変化させずに照射時間を変化させて行ってもよい。
潜像形成部33では、上述の光源部332およびポリゴンミラー331に代えて、複数のLED(Light emitting diode)素子がX方向(すなわち、図2中の感光ドラム31の回転軸310に平行な方向)に等しいピッチにて配列されたLEDヘッドが設けられてもよい。
また、上記実施の形態において、副走査方向の第2ピッチP2が10μmとされていて、エッジの位置をより細かく制御するために2つの照射位置へのエネルギ分布を制御して感光スポット336の大きさを制御していた。しかし、副走査方向の所望の分解能に対応した同程度のピッチで照射位置を配列できる場合、例えば要求される副走査方向のエッジの位置制御が5μm程度の細かさの場合に、副走査方向の第2ピッチP2をそれに応じた細かさ、例えば5μmとすれば、第2ピッチで配置される各照射位置のオンオフだけでエッジの位置を決めるようなエネルギ分布の照射を行えばよい。
潜像形成部33により形成される静電潜像は、ネガ型であってもポジ型であってもよい。また、現像部34では、マイナスに帯電した湿式トナーを含む液体トナーが感光体312に付与されてもよく、この場合、帯電器32および第1電位付与部4により感光体312(または、中間転写体)に付与される電位も同極性のマイナスとされる。また、現像部34では、湿式トナーに代えて乾式トナーにより静電潜像が現像されてもよい。
画像形成装置では、感光ドラム31から対象物9へのトナー画像の転写は、必ずしも転写電圧を利用した静電転写には限定されず、例えば、感光ドラム31上に熱溶融トナーにより形成されたトナー画像を加熱し、溶融状態のトナー画像を対象物9に向けて押圧する熱溶融転写によりトナー画像が転写されてもよい。
また、画像形成装置では、感光ドラム31と対象物9との間に、誘電材料にて形成された平ベルト状の環状部材である中間転写体が設けられてもよい。この場合、感光ドラム31上のトナー画像が、循環移動する中間転写体の外周面上に転写されて保持され、中間転写体上のトナー画像が対象物9上に転写される。
上述の画像形成装置は、対象物9上にトナー画像を形成する装置としてパターン形成システム100の他の装置から独立して使用されてもよい。また、画像形成装置における感光体312、ドラム回転機構313、潜像形成部33および照射制御部72にそれぞれ対応する構成を有する装置が、感光面に光を照射してパターンを描画するパターン描画装置として独立して使用されてもよい。この場合であっても、上述の画像形成装置と同様に、感光面上に描画される図形要素のエッジの副走査方向の位置を照射位置のピッチよりも高分解能にて容易に制御することができる。
また、画像形成装置では、フィルム状のフレキシブル基板以外に、板状のガラス基板等、様々な対象物に対するトナー画像の形成が行われてよく、対象物上に転写されるトナーは、平面表示装置用のカラーフィルタの画素形成材料等、様々な材料のトナーが対象物上に転写されてよい。ただし、画像形成装置では、図形要素のエッジの位置を照射位置のピッチよりも高分解能にて容易に制御することができるため、画像形成装置の構成は、上述のプリント基板の配線パターン等のような高精度なエッジの位置制御が必要となる微細パターンの形成に特に適している。