本発明は、手振れに起因する像振れを補正する像振れ補正装置、光学機器および撮像装置、ならびに像振れ補正装置の制御方法に関するものである。
スチルカメラ、ビデオカメラに代表される撮像装置あるいはこれらに装着可能なレンズユニットにおいて、外部から与えられた手振れ等の振れを補正する方式として、光学式像振れ補正方式と撮像素子式像振れ補正方式等がある。
これらの方式は、振れの度合いを検出する振れ検出センサからの信号に対して、A/D変換器を通してデジタル信号処理を行い、振れ補正量を算出してD/A変換し、その後に像振れ補正用の補正手段、詳しくはシフトレンズもしくは撮像素子を駆動している。
ここで、振れの度合いの検出には角速度センサがよく使用されており、この角速度センサは圧電素子等の振動材を一定周波数で振動させ、回転運動成分により発生するコリオリ力による力を電圧に変換して角速度信号を得ている。
上記角速度センサは、センサ出力のオフセットばらつきや、センサ自体が発生する熱やセンサの周辺に配置されたICによる温度の急激な変化により出力に温度ドリフト現象が発生することが知られている。そのため、従来から角速度センサの出力のオフセット及び温度ドリフト現象の発生を除去するために、振れ検出部において角速度センサの出力を処理するコンデンサと抵抗から構成されるアナログフィルタをもつ構成が広く使用されてきた。そして、振れ検出部にて検出された振れ信号から得られる振れ補正量をD/A変換し、上記のように像振れ補正用の補正手段(シフトレンズもしくは撮像素子)を駆動して、像振れ補正を行うようにしている。
ここで、A/D変換、デジタル信号処理、およびD/A変換を行う装置としては、マイクロコンピュータが使用されており、複数の所定周波数を遮断するフィルタと積分フィルタで構成されている。これらフィルタとしては非再帰型デジタルフィルタと再帰型デジタルフィルタがある。
図12(a)は、非再帰型1次デジタルフィルタの全体ブロック図である。非再帰型デジタルフィルタは、再帰型デジタルフィルタに比べると、フィードフォワード部のみから構成されていると言える。今回サンプリングにおける入力値をX[n]としたとき、前回サンプリングにおける入力値はX[n−1]となり、この値が非再帰型デジタルフィルタにおける中間値である。つまり、非再帰型デジタルフィルタにおいては遅延素子Z−1通過後の値が中間値に相当する。
図12(b)は、フィードフォワード部のゲインを定数a,bと設定したときの演算式を表している。所望の特性を持つフィルタとして構成するためには、上記定数a,bの値および符号を適切に設定する。この定数の設定により、デジタルハイパスフィルタやデジタルローパスフィルタとすることができる。また、2次以降の高次デジタルフィルタは、遅延素子Z−1を増やすことにより実現されるが、次数に応じて中間値の数は増えることになる。
図12(c)は、再帰型1次デジタルフィルタの全体ブロック図である。再帰型デジタルフィルタはフィードフォワード部とフィードバック部から構成されている。再帰型デジタルフィルタにおいて中間値とはフィードバック部の算出結果であり、ここでは図に示すZ[n]が今回サンプリングにおける中間値である。Z−1は遅延素子であり、遅延素子通過後の値は前回サンプリングを表す。デジタルフィルタの次数は、この遅延素子によって定まる。
図12(d)は、再帰型デジタルフィルタのフィードバック部を抽出した図である。サンプリング周期をnで表したとき、今回サンプリングにおける入力値X[n]と前回サンプリングにおける中間値Z[n−1]から今回サンプリングにおける中間値Z[n]を算出する。
図12(e)は、再帰型デジタルフィルタのフィードフォワード部を抽出した図である。サンプリング周期をnで表したとき、今回サンプリングにおける中間値Z[n]と前回サンプリングにおける中間値Z[n−1]から今回サンプリングにおける出力値Y[n]を算出する。
図12(f)は、フィードフォワード部、フィードバック部それぞれのゲインを定数a,b,cと設定したときの演算式を表している。また、2次以降の高次デジタルフィルタは、遅延素子Z−1を増やすことにより実現されるが、次数に応じて中間値の数は増えることになる。
光学式像振れ補正方式は、振れ補正量を用いて算出される駆動目標位置へ補正手段であるシフトレンズを光軸に直交する平面内で移動させることにより、撮像素子上の像振れを補正する(撮像素子上に結像された画像から画像振れを取り除く)方式である。また、撮像素子式像振れ補正方式は、振れ補正量を用いて算出される駆動目標位置へ補正手段である撮像素子を光軸に直交する平面内で移動させることにより、該撮像素子上の像振れを補正する方式である。何れの方式であっても後述の本発明を適用できるため、以下、光学式像振れ補正方式の構成を例として説明を行う。
上記方式の像振れ補正機能を有する撮像装置では、振れ補正量分の移動をシフトレンズ駆動部へ指令して、制御対象であるシフトレンズが駆動目標位置に達したとき、該シフトレンズの実位置を取得する。そして、これら駆動目標位置と実位置の偏差を零(ゼロ)にするようなフィードバック制御を行っている。
撮像装置の像振れ補正技術および振れ検出部に関しては、例えば特許文献1にて開示されている。
手振れ等による像振れ補正機能を有する撮像装置であるカメラにおいて、振れ信号を検出するための振れ検出部は、例えば図13で示すような構成になっている。角速度を検出する角速度センサ401よりの出力はアナログハイパスフィルタ(以下、アナログHPF)を構成する、直流低減カット用のコンデンサ402と抵抗器409に入力される。なお、抵抗器409は、抵抗406,407、及びアナログHPF制御部410により制御されるフィルタ定数変更スイッチ408により構成される。アナログHPFの出力は増幅器403により増幅されてA/D変換器404を介してデジタル数値化され、マイコン(制御部)に具備されるデジタルハイパスフィルタ(以下、デジタルHPF)を通して帯域制限されて使用される。
上述した振れ検出部においては、電源ON時において、角速度センサ401からの信号と増幅器403に入力される基準電圧との直流レベルに差がある。そのため、コンデンサ402に差分充電されるまでの間、アナログHPFの出力(フィルタ出力)である直流レベルは基準電圧のレベルとはならない。そのため、電源ON後のフィルタ出力が収束するまでの間、フィルタ出力後の信号を使用した像振れ補正制御は正しく機能しないといった問題が生じてしまう。
この点に鑑み、特許文献1では、角速度センサの出力を処理するフィルタ部と、フィルタを制御する制御部とを備える装置を提案している。そして、電源がONして角速度センサにより補正角度信号(振れ補正量)を得るまでの間、制御部は振れ補正量により像振れ補正が行われない状態とする。同時に制御部は、所定時間内はフィルタ定数変更スイッチにより、アナログHPFを構成する抵抗器に対して基準電圧に接続した抵抗器を並列に接続する。このことにより、上記フィルタ定数を変更してデジタルHPFの収束時間を改善するようにしている。
上記技術を使用することにより、図14(a)に示すように、角速度センサが揺らされていない状態で撮像装置の電源がONされた場合には、アナログHPF後の角速度出力を基準電圧(定常値)に急速に収束させることが出来る。
特許第3416953号
しかしながら、この方式は電源ON後のフィルタ定数の変更時間を固定時間で設定している。そのため、例えば図14(b)で示すように、電源ON後に撮像装置が大きく振られ、姿勢が安定しないような状態が長時間続いたとする。この場合には、角速度出力が安定しない状態でフィルタ定数をカットオフ周波数の低い状態に切り換えてしまう(戻してしまう)場合が起こり得る。このような場合、アナログHPFのカットオフ周波数は低いために、アナログHPFを構成するコンデンサの電荷が、基準電圧値(角速度出力定常値)から大きく離れた状態から、ゆっくりとした時定数で基準電圧まで収束する。このため、アナログHPFのフィルタ定数復帰後の振れ信号が安定せず、像振れ補正を正しく行えないという問題があった。
(発明の目的)
本発明の目的は、電源投入後の振れ検出出力の収束時間および収束状態と判定した後のフィルタ出力の変動を改善することできる像振れ補正装置および撮像装置を提供しようとするものである。
上記目的を達成するために、本発明は、振れを検出する振れ検出手段と、第1の周波数帯域と当該第1の周波数帯域よりも高い第2の周波数帯域とでカットオフ周波数を切り替え可能であり、前記振れ検出手段からの振れ信号を通過させるフィルタ手段と、前記フィルタ手段の出力信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する変換手段と、前記デジタル信号に基づいて補正部材を駆動することで像ぶれを補正する振れ補正手段と、前記変換手段により変換された振れ信号に対して前記フィルタ手段のカットオフ周波数を第1の周波数帯域と第2の周波数帯域とで切り替える切替手段とを有し、前記切替手段は、装置の電源が入ったときに前記フィルタ手段のカットオフ周波数を前記第2の周波数帯域に設定し、前記フィルタ手段からの出力の収束状態に基づいて前記フィルタ手段のカットオフ周波数を前記第2の周波数帯域から前記第1の周波数帯域に切り替えることを特徴とする像振れ補正装置とするものである。
同じく上記目的を達成するために、本発明は、上記本発明の像振れ補正装置を具備する光学機器もしくは撮像装置とするものである。
本発明によれば、電源投入後の振れ検出出力の収束時間および収束状態と判定した後のフィルタ出力の変動を改善することができる像振れ補正装置または撮像装置を提供できるものである。
本発明を実施するための最良の形態は、以下の実施例1ないし3に示す通りである。
図1は本発明の実施例1に係る像振れ補正機能を有する撮像装置を示す構成図である。図1において、101はズームユニットであり、変倍を行うズームレンズを含む。102はズーム駆動制御部であり、ズームユニット101の駆動を制御する。103は光軸100に対して直交する平面内での位置を変更することが可能な像振れ補正用の補正手段の一例であるシフトレンズである。104はシフトレンズ駆動制御部であり、シフトレンズ103の駆動を制御する。省電力時には、後述の制御部119によりシフトレンズ駆動制御部104への電源供給が停止される。
105は絞り・シャッタユニットである。106は絞り・シャッタ駆動制御部であり、絞り・シャッタユニット105の駆動を制御する。107はフォーカスユニットであり、ピント調節を行うレンズを含む。108はフォーカス駆動制御部であり、フォーカスユニット107の駆動を制御する。
109はCCD等の撮像素子が用いられる撮像部であり、各レンズ群を通ってきた光像を電気信号に変換する。110は撮像信号処理部であり、撮像部109から出力された電気信号を映像信号に変換処理する。111は映像信号処理部であり、撮像信号処理部110から出力された映像信号を用途に応じて加工する。112は表示部であり、映像信号処理部111から出力された映像信号に基づいて、必要に応じて画像表示を行う。113は表示制御部であり、撮像部109および表示部112の動作や表示を制御する。
114は角速度センサ等よりなる振れ検出部であり、撮像装置に与えられた振れの度合いを検出する。115は電源部であり、システム全体に用途に応じて電源を供給する。116は外部入出力端子部であり、外部との間で通信信号及び映像信号を入出力する。117はシステムを操作するための操作部である。118は記憶部であり、映像情報など様々なデータを記憶する。119はシステム全体を制御するマイコンよりなる制御部である。
次に、上記の構成を持つ撮像装置の動作について説明する。
操作部117は、押し込み量に応じて第1スイッチ(SW1)および第2スイッチ(SW2)が順にオンするように構成されたシャッタレリーズボタンを有している。シャッタレリーズボタンが約半分押し込まれたときに第1スイッチがオンし、シャッタレリーズボタンが最後まで押し込まれたときに第2スイッチがオンする構造となっている。そして、第1スイッチがオンされると、制御部119は、フォーカス駆動制御部108を介してフォーカスユニット107を駆動してピント調節を行わせる。同時に、絞り・シャッタ駆動制御部106を介して絞り・シャッタユニット105を駆動して適正な露光量に設定させる。さらに第2スイッチがオンされると、制御部119は、撮像部109にて露光された光像から得られた画像データを記憶部118に記憶させる。
このとき、操作部117より像振れ補正機能を有効にする指示があれば、制御部119は、シフトレンズ駆動制御部104に像振れ補正動作を指示する。すると、指示を受けたシフトレンズ駆動制御部104が、像振れ補正機能無効の指示がなされるまでシフトレンズ103を駆動、つまり光軸100と直交する平面内で振れをキャンセルする方向にシフトレンズ103を移動させ、像振れ補正の動作を行う。
上記操作部117が一定時間操作されなかった場合、制御部119は、省電力のために表示部112やシフトレンズ駆動制御部104への電源を遮断する。
また、この撮像装置では、静止画撮影モードと動画撮影モードのうちの一方を操作部117より選択可能であり、それぞれのモードにおいて各駆動制御部の動作条件を変更することができる。
また、操作部117により変倍の指示があると、制御部119は、ズーム駆動制御部102を介してズームユニット101を駆動して、指示されたズーム位置にズームレンズ101を移動させる。それとともに、撮像部109から送られた各信号処理部110,111にて処理された画像情報に基づいて、フォーカス駆動制御部108を介してフォーカスユニット107を駆動してピント調節を行わせる。
図2は、像振れ補正装置を形成するシフトレンズ駆動制御部104の内部構成およびその前段の回路構成を示すブロック図である。
まず、シフトレンズ駆動制御部104の前段側の構成について説明する。114aは通常姿勢の撮像装置の垂直方向(ピッチ方向)の振れを検出する縦方向振れ検出部、114bは通常姿勢の撮像装置の水平方向(ヨー方向)の振れを検出する横方向振れ検出部である。413a,413bはそれぞれ制御部119に含まれる防振制御部であり、ピッチ方向およびヨー方向の振れ補正量を算出してシフトレンズ103の駆動目標位置を決定し、シフトレンズ駆動制御部104に出力する。
次に、シフトレンズ駆動制御部104内の構成について説明する。301a,301bはピッチ方向およびヨー方向のフィードバック制御部としてのPID部であり、上記の駆動目標位置とシフトレンズ103の現在の位置を示す後述の実位置信号との偏差から制御量を求め、位置指令信号を出力する。302a,302bはピッチ方向およびヨー方向のドライブ部であり、PID部301a,301bから送られて来た位置指令信号に基づき、シフトレンズ103を駆動する。303a,303bはピッチ方向およびヨー方向の位置検出部であり、シフトレンズ103のそれぞれの方向の現在位置を検出して実位置信号をPID部301a,301bに出力する。
次に、シフトレンズ駆動制御部104によるシフトレンズ103の位置制御について説明する。
シフトレンズ103の位置制御では、振れ検出部114a,114bからの撮像装置の振れ出力(振れ信号)に基づいて、ピッチ方向およびヨー方向にシフトレンズ103を駆動する。シフトレンズ103には磁石が付けられており、この磁石の磁場を位置検出部303a,303bが検出し、該シフトレンズ103の実位置信号をPID部301a,301bに出力する。PID部301a,301bは、入力される実位置信号が、防振制御部413a,413bから送られて来る駆動目標位置にそれぞれ収束するようなフィードバック制御を行う。このとき、PID部301a,301bでは、比例(P)制御、積分(I)制御、及び微分(D)制御を選択的に組み合わせたPID制御が行われる。
以上により、撮像装置に手振れなどの振れが発生しても、像振れを適正に補正することができる。
図3は、図2の振れ検出部114(114aもしくは114b)および防振制御部413(413aもしくは413b)を具備する制御部119の振れ検出系の詳細な構成を示すブロック図であり、図13と同じ部分は同一符号を付してある。
401は振れであるところの角速度を検出する角速度センサであり、この出力は直流低減カット用のコンデンサ402と抵抗器409により構成されるアナログHPFに入力される。403はアナログHPFの出力を増幅してA/D変換器404に出力する増幅器である。なお、抵抗406,407およびフィルタ定数変更スイッチ408により抵抗器409が構成されている。以上の角速度センサ401からA/D変換器404までにより、図2に示した例えば振れ検出部114aに相当する振れ検出部114が構成される。なお、振れ検出部114bも同様であるのでその説明は省略する。
405はデジタル数値化されたアナログHPFの出力の帯域制限(カットオフ周波数)を行うデジタルHPFである。具体的には、角速度センサの持つ低域のDCオフセット成分、あるいは温度変化によるドリフト成分を取り除くために、例えば0.1Hz程度のカットオフ周波数を持つデジタルHPFを構成する。413は防振制御部であり、図2に示した例えば防振制御部413aに相当する。602はデジタルHPF405とは異なるカットオフ周波数を持つデジタルHPF、603はデジタルLPFである。604は遅延素子(1/Z)、605は加算器、606はフィルタ出力が収束したか否かを判定する収束判定部である。410は上記デジタルHPF602から収束判定部606までにより構成されるアナログHPF制御部である。以上のデジタルHPF405、防振制御部413およびデジタルHPF制御部410は、制御部119に具備されている。
次に、図3を用いて、図4のフローチャートにしたがって撮像装置の電源ON後のアナログHPF制御部410による起動処理について説明する。
撮像装置の電源ON(S701)後、まずアナログHPF制御部410は抵抗器409内のフィルタ定数変更スイッチ408をONにし(S702)、アナログHPFのカットオフ周波数を高くし、フィルタの収束速度を速い状態に設定する。つまり、アナログHPFの定数を定常値から変更する。角速度センサ401により検出された角速度信号はカットオフ周波数を高くされたアナログHPFを通過し、増幅器403によって増幅され、A/D変換器404にてデジタル数値化される。デジタル数値化された角速度信号は制御部119により取得され(S703)、デジタルHPF405に入力されてここで低周波数帯域のオフセットが除去され、実際に防振制御のための光学系の制御を行う防振制御部413に入力される。
一方、デジタル数値化された角速度信号はアナログHPFの定数変更を制御するアナログHPF制御部410にも入力される。アナログHPF制御部410内では、A/D変換器404によりデジタル数値化された角速度信号をデジタルHPF405とは異なるカットオフ周波数を持つデジタルHPF602を通す(S704)。このことで、低周波数領域のオフセットが除去される。以下、このデジタルHPF602の処理後の出力を信号HPF_OUTとする。信号HPF_OUTはさらにデジタルLPF603により高周波数帯域に存在するノイズ成分が除去される(S705)。以下、デジタルLPF603の処理後の出力を信号LPF_OUTとする。
このように2つのデジタルフィルタを通した信号をアナログHPF制御部410でのアナログHPFの収束判定に使用する。このことで、低周波数帯に存在するオフセットと、高周波数帯に存在するノイズによる影響を受けず、誤検出することなく正確にフィルタ出力が収束したか否かの判定を行える。また、防振制御に影響する周波数帯域を決めるデジタルHPF405とは別系統でデジタルHPF602及びデジタルLPF603を設計する。具体的には、角速度センサの持つオフセット成分による収束誤判定を避けるためのHPFと、高周波のノイズ成分による誤判定を避けるためのLPFを組み、例えば1Hz〜10Hzに帯域を制限して収束判定を行う。こうすることで、収束判定に最も影響する周波数帯の信号を使用して収束判定を行える。
本実施例1では、アナログHPF制御部410で使用するデジタルHPF602と防振制御で使用するデジタルHPF405とが異なるカットオフ周波数を持つ場合を示している。しかし、これらは同一のカットオフ周波数を使用してもよく、その場合には同じデジタルHPFを使用することで、制御プログラムの容量を減らすことが可能である。
また、アナログHPF制御部410は、信号の収束判定を行う制御サンプリング毎に遅延素子604により一つ前のサンプリングにおけるデジタルLPF603を通過後の信号LPF_OUTを信号LPF_OUT_OLDとして保持している(S707)。この1サンプリング前の信号LPF_OUT_OLDと、今回のサンプリングで得た信号LPF_OUTとの差分量を加算器605により算出する(S706)。以下、算出された差分量を信号LPF_ERRORとする。
そして、上記信号LPF_ERRORと信号HPF_OUTの絶対値(ABS)の両方が、予め決められた所定のスレッシュレベル(LPF_ERROR_THRおよびHPF_THR)より小さくなる状態が所定時間の間連続で続いたかを判定(S708)する。つまり、収束判定部606によりフィルタ出力が収束したか否かを判定する。この結果、収束していないと判定されない場合には、再度ステップS703に戻り、角速度信号の取得からの処理を繰り返す。
ここで、上記収束判定では、デジタルLPF603を通過後の信号の差分量とHPF_OUTから判定する方法を示したが、図6のフローチャートで示すようにしても良い。つまり、デジタルLPF603を通過後の信号の所定時間の平均値(Average)を得る(S1201)。そして、この平均値とHPF_OUTの絶対値の両方が予め決められた所定のスレッシュレベル(LPF_AVG_THRおよびHPF_THR)より小さくなる状態が所定時間の間連続で続いたかを判定(S1202)する。このような方法でも同様に収束判定を行うことが可能である。
上記ステップS708によりフィルタ出力が収束したと判定した場合には、フィルタ定数変更スイッチ408をOFFにする(S709)ことで、アナログHPFのカットオフ周波数を本来の低い状態に変更する。つまり、アナログHPFの定数を定常値に戻す。そして、起動処理を終了する(S710)。
ここで、上記のように特定の周波数帯域のみ抽出した振れ信号(角速度信号)の差分量(変化量)だけを収束判定に使用せず、デジタルHPF602を通した信号HPF_OUTも同時に観測する理由を述べる。
角速度センサ401により得られる振れ信号は、通常非常に小さな出力電圧であるため、増幅器403により次段のA/D変換器404で取得できる程度まで増幅して使用される。例えば、撮像装置の電源ON後に一定速度である一方向へパンニングされ続けたとする。この場合、増幅された振れ信号はA/D変換器404のダイナミックレンジを超えてある一方向の値に張り付く(シフトレンズ103は機械的端に張り付いたままとなる)虞がある。例えば10ビットのA/D変換器の場合には、0もしくは1023の値を取り続ける。よって、このような場合には特定の周波数帯域のみ抽出した振れ信号の差分量は0となってしまい、あたかも撮像装置の姿勢が静止状態にあるように誤判定してしまう可能性がある。このような誤判定を無くすために、収束判定部606では、特定の周波数帯域のみ抽出した振れ信号の差分量(LPF−ERROR)とデジタルHPF602通過後の信号HPF_OUTの両方をみて収束判定を行うようにしている。
図5は、撮像装置の電源ON後の従来方式と本実施例1による制御方式による角速度センサ401の出力信号(振れ出力)波形の一例を示したものである。上記のような制御を行うことにより、図5で示すように、固定時間(図13(b)参照)でアナログHPFの定数を定常値に戻す従来方式に比べて、フィルタ定数復帰後の振れ出力の収束を早めることが出来る。
以上のように、像振れ補正機能を有する撮像装置には、角速度センサ401の出力オフセットおよび温度変化によるドリフト現象の影響を除去するために、アナログHPFが付加されている。このような構成の場合、撮像装置の電源ON後の収束時間改善のためのフィルタ定数復帰および像振れ補正制御の開始を、従来技術のように固定時間で行うのではなく、以下のようにするようにしている。
つまり、アナログHPF制御部410にて、アナログHPFの出力信号およびデジタフィルタ出力信号の所定時間の平均値、あるいは、像振れ補正制御サンプリング間(振れ補正量を算出する所定のサンプリング間)の信号変化を監視する。そして、フィルタ出力の収束と撮像装置姿勢の静止状態を確認してフィルタの定数復帰を行うようにしている。
ここで、撮像装置の静止状態の確認と収束の確認の関係について簡単に説明する。なお、静止状態の確認はABS(HPF_OUT)に、フィルタ出力の収束はABS(LPF_ERROR)に相当する。フィルタ出力の収束は、フィルタの出力を差分で判定しているため、上記に説明しているように、一定速度で一方向へパンニングした際のA/D変換器のダイナミックレンジを越えた場合にも収束と判定してしまう虞がある。そのため、フィルタの出力(HPF_OUT)がAD変換後のデジタル値で中央付近(0−1023のDAC値で512付近)にあるという静止状態(パンニングしていないこと)の確認も必要になる。
次に、図7を用いて本発明の実施例2に係わる撮像装置について説明する。なお、図1や図2は実施例1と同様であるので、その説明は省略する。図7は本実施例2に係わる振れ検出部114および制御部119の振れ検出系の詳細な構成を示すブロック図であり、図3と同じ部分は同一符号を、その詳細は省略する。
本発明の実施例2では、上記実施例1に対して、増幅器901およびA/D変換器902をもう一系統追加した構成にしている。
上記実施例1では、アナログHPFを通した後の信号を、防振制御部413で使用すると共に、アナログHPF制御部410でフィルタ出力の収束判定のための信号としても使用していた。この場合、角速度センサ401で検出される信号は一般に非常に小さな電圧レベルであるため、この微弱な信号を防振制御に使用するためには増幅器403により非常に大きなゲインをかけて増幅してやる必要がある。
一方、増幅後の信号をデジタル値として取得するためのA/D変換器404はダイナミックレンジが決まっており、例えば10ビットの幅を持つA/D変換器の場合には0から1023までで表現される範囲内で制御を行う必要がある。防振制御で使用される角速度のレンジは一般に微小な振れ成分を想定しているために、出来るだけ増幅器403による増幅度を大きくしてやり、A/D変換器のダイナミックレンジをフルに使用する必要がある。
しかし、本発明におけるアナログHPF制御部410による角速度信号の収束判定では、撮像装置が大きく振られた場合なども想定している。このため、角速度センサ401の出力変化が大きいため、増幅器403によりあまりに大きな増幅を行った場合には、すぐにA/D変換器404のレンジを超えてしまう虞がある。よって、正しく収束判定を行えない懸念がある。
そこで、本実施例2では、防振制御用の信号を生成する増幅器403およびA/D変換器404とは別に、アナログHPF制御部410で使用する信号を生成するための専用の増幅器901およびA/D変換器902を別系統としてもう一組持つ構成としている。
ここで、増幅器901の増幅率は一般に防振制御部413側に使用する増幅器403より十分小さな増幅率を持つ。増幅器901の増幅率に関しては、撮像装置の電源ON後に想定している動作(振り上げ動作等)を考慮してA/D変換器902のレンジ内に納まる範囲で決定する。
以上のような構成にすることで、アナログHPF制御部410による収束判定を、より正確に判定することが可能となる。
次に、図8ないし図11を用いて、本発明の実施例3に係わる撮像装置について説明する。なお、図8は、上記実施例1における図3に相当するブロック図であり、図9はアナログHPFの出力にオフセット補償量を加算する部分の構成を示すブロック図である。また、図10は撮像装置の起動時の動作を示すフローチャートであり、図11は角速度出力の一例を示す図である。
図8において、上記実施例1の図3の構成に対して、A/D変換器404の出力信号にオフセット補償量を加算する加算器1000、および、オフセット補償量を推定するオフセット推定器1001を付加している。さらには、オフセット推定器1001内の遅延素子1003に初期値を設定するための中間値設定スイッチ1002を付している。
図9に、オフセット推定器1001等の詳細なブロック図を示している。
図9(a)からわかるように、A/D変換器404によりデジタル値に変換した後の信号(アナログHPF通過後の角速度出力)に対して、加算器1000により、オフセット推定器1001により推定されたオフセット補償量を符号反転して加算する。そして、オフセット補償量を加算の後、角速度出力としている。
オフセット量推定器1001は、図9(b)で示すように、図12(c)で説明した再帰型デジタルフィルタと同じ構成で、入力X[n]がない点が異なる。また、デジタルフィルタ演算の途中結果である中間値は外部から設定可能である。本実施例3では、1次の再帰型デジタルフィルタ構成をオフセット補償器1001として使用したが、同様に多次数型、非再帰型のデジタルフィルタについても適用可能である。
次に、本実施例3における処理について、図10のフローチャートを用いて説明する。
電源ON(S701)後の処理に関しては、基本的に実施例1と同様であり、同様の部分は同一のステップ番号を付してある。異なる点は、所定時間経っても収束条件を満たさない場合の処理(ステップS1300〜S1305)を加え、電源ON後、長時間撮像装置が揺らされつづけた場合には、タイムアウト時間を設け、強制的にフィルタ定数変更スイッチ408をOFFする点である。
つまり、単にフィルタ定数変更スイッチ408をOFFした場合には、従来の方式と同様に、フィルタ定数復帰後の出力信号が、基準電圧まで収束するのに時間がかかるという問題が発生してしまう。
そこで、本実施例3では、所定時間経っても収束条件を満たさない場合に(S1300のYES)、A/D変換器404により変換したアナログHPF通過後の信号を取得する。そして、中間値設定スイッチ1002をONした後、OFFすることで、オフセット推定器1001内の中間値の初期値として設定する(S1301)。その後、アナログHPF制御部410によりフィルタ定数変更スイッチ408をOFFにする(S1302)。中間値設定スイッチ1002及びフィルタ定数変更スイッチ408のON,OFFのタイミングはどちらもアナログHPF制御部410で制御する。これにより、ほぼ同一タイミングで設定される。
次に、オフセット推定器1001により、設定された中間値である初期値を用いて、オフセット補償量更新サンプリング毎にオフセット補償量を計算する(S1303)。そして、計算したオフセット補償量をA/D変換器404でのA/D変換後の値に加算する(S1304)。そして、オフセット推定器1001によるオフセット補償量が0もしくは0付近の所定量になったら(S1305のYES)、アナログHPF後の信号は基準電圧に収束したと判定し、オフセット推定器1001による演算を終了する。
ここで、オフセット推定器1001について、図9および図11を用いてその動作原理を説明する。
まず、オフセット推定器1001を構成するデジタルフィルタの各係数a,b,c(図9(b)参照)には、予め決められた収束判定後のアナログHPFのカットオフ周波数(定常値)と同じカットオフ周波数を持つような係数を設定しておく。また、オフセット推定器1001によるオフセット補償量の更新周期は、A/D変換器404によるアナログHPF通過後の角速度出力更新周期と同じサンプリング周期に設定する。
フィルタ定数復帰後のアナログHPFの出力は、もしもアナログHPFへの入力がない場合には、フィルタ定数復帰直後のコンデンサの電荷から、図11(a)で示すように、フィルタの時定数に応じた値を初期値応答として出力し続ける。そして、最終的に角速度出力定常値に収束する。このアナログHPFの初期応答出力の逆の値を図11(b)で示すようにデジタルオフセット量としてアナログHPF出力から差し引くことが出来れば、図11(c)のように、アナログHPFのフィルタ定数復帰後のオフセット出力を除去することが出来る。
先に説明したように、フィルタ定数復帰後のアナログHPFのオフセット出力は、フィルタ定数復帰直後のアナログフィルタ出力とアナログフィルタ時定数から一意に決定される。このため、アナログHPFと同じカットオフ周波数、更新周期を持つデジタルフィルタを構成し、アナログHPFの定数復帰タイミングでデジタルフィルタの中間値にアナログHPFの出力値を設定する。このことで、アナログHPFの初期応答と同じ出力値を計算から求めることが出来る。
このようにして得られたデジタルフィルタ出力値を符号反転してオフセット補償量としてアナログフィルタ定数復帰後に加算することで、定数復帰後のオフセットの影響を低減することが出来る。
なお、本実施例3では、上記実施例1の構成に対してオフセット推定器1001を加えた構成について説明したが、上記実施例2の構成に対してオフセット推定器1001を加えた構成についても同様である。
上記実施例3によれば、アナログHPF制御部410によるフィルタの収束がある規定時間過ぎても検出できなかった場合には、フィルタ定数復帰を強制的に行う。また、これと同時に、フィルタ定数復帰後のフィルタ収束を早めるために、オフセット推定器1001によって演算したオフセット補償量を加算器1000にてデジタルフィルタ出力(A/D変換器404の出力)に加算するようにしている。このことで、撮像装置の電源ON後の角速度センサ401の出力の収束時間およびアナログフィルタ定数復帰後のフィルタ出力信号の変動を改善することが可能となる。
本発明の実施例1に係る撮像装置の全体構成を示すブロック図である。
図1のシフトレンズ駆動制御部の構成およびその前段の回路構成を示すブロック図である。
図2に示す振れ検出部および制御部の構成およびその前段の回路構成を示すブロック図である。
本発明の実施例1に係る撮像装置の主要部分の動作を示すフローチャートである。
撮像装置の電源ON後の従来方式と本実施例1による制御方式による角速度センサの出力信号波形の一例を示す図である
本発明の実施例1に係る撮像装置の主要部分の動作を示すフローチャートである。
本発明の実施例2に係る振れ検出部および制御部の構成を示すブロック図である。
本発明の実施例3に係る振れ検出部および制御部の構成を示すブロック図である。
図7のアナログHPFの出力にオフセット補償量を加算する部分の構成を示すブロック図である。
本発明の実施例3に係る撮像装置の主要部分の動作を示すフローチャートである。
本発明の実施例3に係る角速度出力信号の一例を示す図である。
非再帰型および再帰型のデジタルフィルタについて説明するための図である。
従来の振れ検出部の構成を示すブロック図である。
従来方式に係る角速度出力信号の一例を示す図である。
符号の説明
103 シフトレンズ
104 シフトレンズ駆動制御部
109 撮像部
114 振れ検出部
119 制御部
401 角速度センサ
402 コンデンサ
403 増幅器
404 A/D変換器
405 デジタルハイパスフィルタ
406 抵抗器
407 抵抗器
408 フィルタ定数変更スイッチ
409 抵抗器
410 アナログHPF制御部
413 防振制御部
602 デジタルHPF
603 デジタルLPF
604 遅延素子
605 加算器
606 収束判定部
901 増幅器
902 A/D変換器
1000 加算器
1001 オフセット推定器
1002 中間値設定スイッチ