燃料の供給停止(いわゆるフューエルカット)や減速ダウンシフトを伴う減速時におけるいわゆるエンジンブレーキを実行した場合、駆動トルクが正の状態から負の状態に変化し、またその変化量が大きいので、上記の特許文献1の発明は、エンジンに連結されてエンジンに対しては負荷トルクとなっているオイルポンプによる負荷を軽減するように構成されている。すなわち、エンジンブレーキ時には、オイルポンプによる負荷もブレーキ力となるので、エンジンブレーキ実行時におけるオイルポンプによる負荷を軽減することにより駆動トルクの変化量を抑制して、急激なブレーキ力が生じないようにしている。
このように特許文献1に記載された装置は、駆動状態からエンジンブレーキ状態に切り替わる際の駆動トルクの変化量を小さくするように構成されているが、フューエルカットやダウンシフトなどの制御が、既にエンジンブレーキを作用させている状態で生じることがあり、特許文献1に記載された装置では、そのような場合の駆動トルク(制動トルク)の変化を抑制し、あるいはショックを防止することができない可能性がある。
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、動力源ブレーキ状態における制動トルクの急激な変化やそれに伴うショックを防止することのできる駆動力制御装置を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、オイルポンプが連結されている駆動力源の出力側に変速機が連結され、その変速機から出力されたトルクを駆動輪に伝達するように構成された車両の駆動力制御装置において、前記駆動輪から前記変速機を介して伝達されるトルクによって前記駆動力源を強制的に回転させる減速状態で前記駆動輪での制動トルクをステップ的に増大させる前記駆動力源もしくは変速機の動作状態の変化を判断する制動変化判断手段と、前記駆動力源もしくは変速機の動作状態の変化に合わせて、前記オイルポンプによって前記駆動力源に作用する負荷を低下させるポンプ負荷低減手段と、前記制動トルクをステップ的に増大させる前記駆動力源もしくは変速機の動作状態の変化が生じるタイミングを推定する推定手段とを備え、前記ポンプ負荷低減手段は、前記推定手段で推定されたタイミングに合わせて前記オイルポンプによる負荷を低下させる手段を含むことを特徴とするものである。
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記制動トルクをステップ的に増大させる前記駆動力源もしくは変速機の動作状態の変化に先立って前記オイルポンプによって前記駆動力源に作用する負荷を増大させておくポンプ負荷増大手段を更に備えていることを特徴とする車両の駆動力制御装置である。
請求項3の発明は、オイルポンプが連結されている駆動力源の出力側に変速機が連結され、その変速機から出力されたトルクを駆動輪に伝達するように構成された車両の駆動力制御装置において、前記駆動輪から前記変速機を介して伝達されるトルクによって前記駆動力源を強制的に回転させる減速状態で前記駆動輪での制動トルクをステップ的に増大させる前記駆動力源もしくは変速機の動作状態の変化を判断する制動変化判断手段と、前記駆動力源もしくは変速機の動作状態の変化に合わせて、前記オイルポンプによって前記駆動力源に作用する負荷を低下させるポンプ負荷低減手段と、前記制動トルクをステップ的に増大させる前記駆動力源もしくは変速機の動作状態の変化に先立って前記オイルポンプによって前記駆動力源に作用する負荷を増大させておくポンプ負荷増大手段とを備えていることを特徴とするものである。
請求項4の発明は、請求項2または3の発明において、前記オイルポンプから吐出した油圧を油圧制御機器における元圧であるライン圧に調圧する調圧機構を更に備え、前記ポンプ負荷低減手段は、前記ライン圧が高くなるように前記調圧機構における調圧レベルを高くする手段を含み、前記ポンプ負荷増大手段は、前記ライン圧が低くなるように前記調圧機構における調圧レベルを低下させる手段を含むことを特徴とする車両の駆動力制御装置である。
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記制動変化判断手段は、前記変速機での変速比を増大させるダウンシフトを、前記駆動輪での制動トルクをステップ的に増大させる前記変速機の動作状態の変化として判断する手段を含むことを特徴とする車両の駆動力制御装置である。
請求項6の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記駆動力源は、内燃機関を含み、前記制動変化判断手段は、前記内燃機関に対する燃料の供給が停止されることを、前記駆動輪での制動トルクをステップ的に増大させる前記駆動力源の動作状態の変化として判断する手段を含むことを特徴とする車両の駆動力制御装置である。
請求項7の発明は、請求項1ないし5のいずれかの発明において、前記推定手段は、前記減速時における車速の変化割合に基づいて前記変速機でダウンシフトが生じる時間を求めかつその求められた時間によって、前記制動トルクをステップ的に増大させる前記変速機の動作状態の変化が生じるタイミングを推定する手段を含むことを特徴とする車両の駆動力制御装置である。
請求項8の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記駆動力源は、アクセルペダルの踏み込み量に応じたトルクを出力する内燃機関を含み、前記推定手段は、前記アクセルペダルを戻す際の前記踏み込み量の変化割合に基づいて前記制動トルクをステップ的に増大させる前記駆動力源の動作状態の変化のタイミングを推定する手段を含むことを特徴とする車両の駆動力制御装置である。
請求項1の発明によれば、車両が減速状態になっている場合に変速機での変速が生じたり、駆動力源で生じる正もしくは負のトルクが変化すると、それに伴って制動トルクがステップ的に増大することがあり、このような制動トルクのステップ的な変化を生じさせる要因となる駆動力源のトルクもしくは変速機の変速比などの動作状態の変化が制動変化判断手段で判断される。その判断が成立した場合、駆動力源に連結されているオイルポンプによって駆動力源に作用する負荷が低下させられる。すなわち、駆動力源の単体で生じる負のトルクもしくは制動トルクの増大が、オイルポンプによる負荷の低下によって緩和される。すなわち、制動トルクのステップ的な変化が防止もしくは抑制されるので、いわゆるショックを回避または緩和することができる。
また、請求項1の発明によれば、前記制動トルクをステップ的に増大させる要因となる前記駆動力源もしくは変速機の動作状態の変化のタイミングを事前に推定し、その推定されたタイミングに合わせてオイルポンプによる前記負荷が低下させられるので、制動トルクのステップ的な変化あるいはそれに起因するショックを、より効果的に回避もしくは抑制することができる。
請求項3の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果に加えて、オイルポンプによる負荷を増大させ、それに伴う負のトルクを制動トルクとすることができるので、制動トルクを必要十分に大きくすることができ、また前記の駆動力源もしくは変速機の動作状態の変化の際にはオイルポンプによる負荷を低下させるので、制動トルクのステップ的な変化を防止もしくは抑制してショックを防止もしくは緩和することができる。
請求項4の発明によれば、ライン圧の調圧レベルを変えることによりオイルポンプによる前記負荷を変更できるので、減速時に制動トルクがステップ的に変化することを防止もしくは抑制する制御を、ライン圧の調圧レベルを変更することによって容易に行うことができる。
請求項5の発明によれば、車両が減速状態にある場合にダウンシフトが生じることが判断されると、オイルポンプによる駆動力源に対する負荷を低下させるので、制動トルクがステップ的に増大することを防止もしくは抑制してショックを回避もしくは緩和することができる。
請求項6の発明によれば、車両の減速状態で駆動力源に対する燃料の供給が停止されることが判断されると、オイルポンプによる駆動力源に対する負荷を低下させるので、制動トルクがステップ的に増大することを防止もしくは抑制してショックを回避もしくは緩和することができる。
請求項7の発明によれば、ダウンシフトが生じる時間が、車速の変化の割合に基づいて求められ、その求められた時間によって、制動トルクがステップ的に変化する変速機の動作状態の変化のタイミングを推定するので、オイルポンプの負荷を低下させるタイミングが適正化され、その結果、制動トルクがステップ的に変化することを効果的に防止もしくは抑制することができる。
請求項8の発明によれば、駆動力源の動作状態が変化するタイミングが、アクセルペダルの踏み込み量の変化の割合に基づいて推定され、その推定されたタイミングに基づいてオイルポンプの負荷を低下させるので、オイルポンプの負荷を低下させるタイミングが適正化され、その結果、制動トルクがステップ的に変化することを効果的に防止もしくは抑制することができる。
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする車両は、例えば図7に示すように、駆動力源1とその出力側に連結された変速機2とを備え、その変速機2から出力したトルクを駆動輪3に伝達するように構成されている。また、その駆動力源1には、オイルポンプ4が連結されており、駆動力源1の動力でそのオイルポンプ4を駆動して所定の油圧を発生させるように構成されている。なお、特には図示しないが、そのオイルポンプ4によって発生させた油圧を、油圧制御機器の元圧であるライン圧に調圧する油圧制御機構が設けられており、そのライン圧はその油圧制御機構での調圧レベルに応じて高低に変化するように構成されている。この種の油圧制御機構はプライマリーレギュレータバルブと称されるバルブを含む従来知られている機構であってよい。
その駆動力源1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関が一般的であるが、これに限らず電気モータや、内燃機関と電気モータとを組み合わせたハイブリッドタイプのものであってもよい。駆動力源1として内燃機関を採用した車両の場合、走行中にその内燃機関に対する燃料の供給を一時的に停止できるように構成される。そのために、電子制御装置(E−ECU)5が設けられる。燃料の供給を一時的に停止する制御は、フューエルカット制御として従来知られている制御であり、アクセルペダル(図示せず)が完全に戻された減速状態での車速(もしくは内燃機関の回転数)が予め決めた復帰回転数以上の場合に、内燃機関に対する燃料の供給を停止し、その復帰回転数にまで車速(もしくは内燃機関の回転数)が低下した際に、燃料の供給を再開する制御である。このような制御を行った場合、内燃機関の出力トルク(正のトルクあるいは負のトルク)が、燃料の供給停止や供給再開によって変化する。
また、変速機2は、要は、入力回転数と出力回転数との比率を変化させることができるものであればよく、有段式と無段式とのいずれであってもよく、また手動式および自動式のいずれであってもよい。なお、後述するように、制動トルクがステップ的に変化する要因として、変速が行われることを判断する場合には、自動変速機が搭載されている車両がこの発明の対象となる。そして、自動変速機と併せてその制御のための電子制御装置(T−ECU)6が設けられる。その自動変速機用の電子制御装置6と前述した内燃機関用の電子制御装置5とは、相互にデータ通信可能に接続され、あるいはこれら二つの電子制御装置5,6を総合的に制御する他の電子制御装置(図示せず)が設けられる。
さらに、この発明で対象とする車両におけるオイルポンプは、その形式を問わないが、発生させる油圧に応じて、駆動力源1に掛かる負荷が変化するオイルポンプであり、駆動力源1にいわゆる外付けされたオイルポンプや変速機2に内蔵されて駆動力源1によって駆動されるタイプのものなどのいずれも採用することができる。
この発明に係る制御装置は、上述した車両が、前記駆動力源1を車両の走行慣性力によって強制的に回転させる動力源ブレーキ状態(もしくはエンジンブレーキ状態)で減速している時に、制動トルクがステップ的に変化することを防止もしくは抑制するように、駆動力源1のトルクを制御する。この制御は、上述した電子制御装置5,6もしくはこれを統合する他の電子制御装置によって実行することができ、その制御例を説明すると以下のとおりである。
図1は、車速の低下に伴って変速機2でダウンシフトが生じ、これが制動トルクのステップ的な変化の要因となる場合の制御例を示しており、この図1に示すルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図1において、ステップS1では、先ず、情報が収得される。その情報は、車速、スロットル開度、アクセル開度(アクセルペダルの踏み込み量)、アイドルスイッチのオン・オフの信号、ライン圧もしくはその調圧レベルなどの情報を含む。ついで、アイドル判定が行われる(ステップS2)。この判定は、スロットル開度もしくはアクセル開度が「0」となっているか否か、もしくはアイドルスイッチがオンとなっているか否かによって判定することができる。
アイドル・オフであることによりステップS2で否定的に判定された場合には特に制御を行うことなくリターンする。これに対して、アイドリング状態であることによりステップS2で肯定的に判定された場合には、車両が減速状態となっているか否かが判断される(ステップS3)。この判断は、車速を繰り返し検出し、現在時点の車速とそれ以前の車速とを比較することにより行うことができる。あるいは、車両の前後G(加速度)を検出し、その検出結果に基づいて判断することができる。
車両が減速していないことによりステップS3で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンし、これとは反対に減速していることによりステップS3で肯定的に判断された場合には、減速している速度の変化率(減速度a)が求められる(ステップS4)。これは、逐次検出している車速の差として求め、もしくはその差を時間で除算して求めることができる。その減速度aに基づいて、予め定めたb秒後の車速cが算出される(ステップS5)。その演算は、例えば
c=V0+a×b
とすればよい。なお、V0は現在時点の車速である。
上記のステップS5で求めた車速cに基づいてダウン変速の判定が行われる(ステップS6)。すなわち、b秒後にダウンシフトが生じるか否かが判断される。自動変速機を搭載した車両では、アクセル開度で代表される駆動要求量と車速あるいはこれに替わる所定の回転部材の回転数とによって変速段領域を設定し、その変速段領域を変速線図として保持もしくは記憶し、アクセル開度および車速などの実際の動作状態を変速線図と対比して、設定するべき変速段を求め、その変速段を設定するように変速制御を実行しているのが一般的である。上記のステップS6の判定は、そのような変速線図に基づいて行うことができる。これを模式的に示すと図2のとおりであって、現在時点の車速V0と減速度aとに基づいて、上記の式からb秒後の車速cを算出し、その車速cがダウンシフト車速となっていれば、b秒後にダウンシフトが生じることになる。したがって、ステップS4ないしステップS6では、減速状態でのダウンシフトが生じるタイミングを推定していることになる。
ダウンシフトの判定が成立していないことによりステップS6で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンし、ダウンシフトの判定が成立してステップS6で肯定的に判定された場合には、オイルポンプ4の負荷が算出される(ステップS7)。このオイルポンプ4の負荷とは、オイルポンプ4が油圧を発生することによりオイルポンプ4から駆動力源1に掛かるトルクであり、減速時には駆動力源1を介して制動トルクとして作用する負荷トルクである。ステップS7では、上記のb秒後に生じる変速(ダウンシフト)によるトルク段差(ステップ的に変化する制動トルクの変化幅)を小さくするオイルポンプ4の負荷が計算される。そのトルク段差は、図3にΔTe1で示すように、内燃機関の排気量や特性、変速機の特性もしくは変速比幅などによって決まる。なお、図3で、Teは駆動力源1の出力トルクを示し、Neは駆動力源1の回転数を示す。
また、オイルポンプ4の負荷は、オイルポンプ4の回転数、1回転当たりの吐出油量、ライン圧、オイルの粘度などを考慮した補正係数などを含む演算式によって求められる。そして、このステップS7で求められた負荷が発生するようにライン圧が上昇させられる(ステップS8)。すなわち、前述した油圧制御機構による調圧レベルが増大させられる。
そして、上記のステップS6で判定されたダウンシフトが開始したか否かが判断される(ステップS9)。これは、前述したb秒の経過によって判定でき、あるいは変速機用の電子制御装置6から変速指令信号が出力されたか否かによって判定することができる。ダウンシフトが開始していないことによりステップS9で否定的に判断された場合には特に制御を行うことなくリターンし、これとは反対にダウンシフトが開始したことによりステップS9で肯定的に判断された場合には、上記のステップS8で実行したライン圧の上昇が中止され、ライン圧の上昇分を低下させて元のライン圧に戻す(ステップS10)。すなわち、ダウンシフトによって変速比が増大し、それに応じて駆動輪3での制動トルクが増大するのに対して、駆動力源1を介して制動トルクとして作用するオイルポンプ4の負荷トルクが低下し、変速比の増大に伴う制動トルクのステップ的な増大がオイルポンプ4の負荷トルクの低下によって相殺される。その結果、車速の低下に伴ってダウンシフトが生じても、実際に生じる制動トルクの変化が小さくなり、いわゆるショックが防止もしくは緩和される。
上述したオイルポンプ4の負荷を変更することにより、制動トルクのステップ的な変化を防止もしくは緩和する制御は、内燃機関に対する燃料の供給を一時的に停止する制御(フューエルカット(F/C)制御)の際にも行うことができる。その制御の一例を図4にフローチャートで示してあり、この図4に示すルーチンは所定の短時間毎に繰り返し実行される。図4において、先ず、情報が収得される(ステップS11)。このステップS11は前述したステップS1と同様の制御であり、その情報には、更に、燃料供給の有無、冷却水温度、排気浄化触媒の温度などが含まれる。
ついで、アクセル戻し判定が行われる(ステップS12)。アクセル戻し判定とは、踏み込まれたアクセルペダルが戻されていることの判定であり、アクセル開度を逐次検出することにより行うことができる。アクセルペダルが踏み込まれたままであることによりステップS12で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンする。これとは反対にアクセルペダルが戻されていることによりステップS12で肯定的に判断された場合には、フューエルカット制御を実行する条件が成立しているか否かが判断される(ステップS13)。フューエルカット制御は、燃料の供給を停止してもエンジンストールに到らないこと、燃料の供給を再開することにより内燃機関が安定的な自律回転に復帰できること、燃焼が再開した際の排気を所期どおりに浄化できることなどを条件として実行されるから、ステップS13ではそのような条件が成立しているか否かが判断される。
したがって、ステップS13で否定的に判断された場合には、フューエルカット制御が実行されないので、特に制御を行うことなくリターンする。また、フューエルカット制御を実行する条件が成立していることによりステップS13で肯定的に判断された場合には、アクセル開度(pap)変化率が求められる(ステップS14)。アクセル開度は、図3に示すルーチンが実行される時間間隔で検出されているので、その検出されたアクセル開度の差を変化率とすることができ、あるいはそのアクセル開度の差を時間で除算して変化率を求めてもよい。こうして求められたアクセル開度変化率dpapが予め定めた所定の閾値(−f)より小さいか否かが判断される(ステップS15)。このステップS15は、アクセルペダルの戻しが急激であるか否かを判断するためのものである。すなわち、アクセルペダルを急激に戻すと、駆動トルクが正から負に急激に変化し、ショックになる可能性があり、そのような事態が生じるアクセル開度の変化か否かをステップS15で判断している。したがって、閾値(−f)はショックの可能性の有無を考慮して実験的に、もしくは設計上定めることができる。
アクセル開度の変化率dpap(絶対値)が小さいことによりステップS15で否定的に判断された場合には特に制御を行うことなくリターンする。これとは反対にアクセル開度が急速に減少していることによりステップS15で肯定的に判断された場合には、フューエルカット(F/C)制御が実行されるまでの時間が予測される(ステップS16)。フューエルカット制御は、その実行条件が成立している状態で駆動要求量すなわちアクセル開度がゼロになることにより開始されるから、現在時点のアクセル開度papをその時点の変化率dpapで除算することにより、アクセル開度がゼロになる時間すなわちフューエルカット制御が開始される時間を求めることができる。その一例を図5に模式的に示してある。
図5に示すように、アクセルペダルの戻し速度すなわちアクセル開度変化率dpapが大きい(a1)と、車速を低下させるだけでなく、制動状態に移行することが殆どであり、したがって現在時点のアクセル開度papをその時点の変化率dpapで除算することにより、アイドル・オンとなる時間すなわちフューエルカット制御が開始される時間を求めることができる。なお、図5には、アクセル開度変化率dpapが小さい(a2)場合を併記してあり、この場合には、車速を幾分低下させることにとどまり、アクセルペダルが踏み込まれた状態に維持される。前述した閾値(−f)は、このような判別をも可能になるように設定することが好ましい。
上記のステップS16と併せて、フューエルカット制御の開始前後での駆動力の段差が算出される(ステップS17)。このようなトルク段差は、図3にΔTe2で示すように変化し、これは、内燃機関の排気量や特性、仕様などによって決まる。したがって、フューエルカット制御の開始前後での駆動力の段差は、従来知られている手法で行うことができ、その時点の内燃機関の回転数や変速比、内燃機関の排気量、シリンダの数などに基づいて算出することができる。
ついで、オイルポンプ4による負荷が求められる(ステップS18)。このオイルポンプ4の負荷とは、オイルポンプ4が油圧を発生することによりオイルポンプ4から駆動力源1に掛かるトルクであり、減速時には駆動力源1を介して制動トルクとして作用する負荷トルクである。ステップS18では、ステップS17で求められた駆動力(トルク)の段差(ステップ的に変化する制動トルクの変化幅)を小さくするオイルポンプ4の負荷が計算される。したがって、その演算は、オイルポンプ4の回転数、1回転当たりの吐出油量、ライン圧、オイルの粘度などを考慮した補正係数などを含む演算式によって行うことができる。そして、このステップS18で求められた負荷が発生するようにライン圧が上昇させられる(ステップS19)。すなわち、前述した油圧制御機構による調圧レベルが増大させられる。
そして、上記のステップS16で開始の時間が予測されたフューエルカット制御が開始したか否かが判断される(ステップS20)。これは、前述したステップS16で予測された時間の経過によって判定でき、あるいは駆動力源用の電子制御装置5からフューエルカット指令信号が出力されたか否かによって判定することができる。フューエルカット制御が開始していないことによりステップS20で否定的に判断された場合には特に制御を行うことなくリターンし、これとは反対にフューエルカット制御が開始したことによりステップS20で肯定的に判断された場合には、上記のステップS19で実行したライン圧の上昇が中止され、ライン圧の上昇分を低下させて元のライン圧に戻す(ステップS21)。すなわち、フューエルカット制御によって内燃機関のポンピングロスが増大し、それに応じて駆動輪3での制動トルクが増大するのに対して、駆動力源1を介して制動トルクとして作用するオイルポンプ4の負荷トルクが低下し、フューエルカット制御に伴う制動トルクのステップ的な増大がオイルポンプ4の負荷トルクの低下によって相殺される。その結果、減速時にアクセル開度がゼロになることに伴ってフューエルカット制御が開始されても、実際に生じる制動トルクの変化が小さくなり、いわゆるショックが防止もしくは緩和される。
上述した減速状態(コースト状態)でダウンシフトが生じた場合、およびフューエルカット制御が開始された場合の出力駆動力または出力トルクの変化と、ライン圧を変化させてオイルポンプ負荷を変化させる制御を併用した場合の出力駆動力または出力トルクの変化を図6に線図で示してある。図6の比較例は、オイルポンプ4の負荷を変化させる制御を併用しない例であり、t0時点にn段から(n−1)段へのダウンシフトが生じ、あるいはフューエルカット(F/C)制御が開始されると、変速比の増大あるいは内燃機関でのポンピングロスなどの増大によって、出力駆動力または出力トルクがステップ的に低下する(負の方向に増大する)。これは、制動トルクのステップ的な増大として現れ、その結果、ショックとして体感され、乗り心地の悪化要因となる場合がある。
これに対して、アクセルペダルが戻された減速状態になることによりライン圧を高くし、それに伴ってオイルポンプ4の負荷を増大させると、その負荷が制動トルクに加えられることにより、出力駆動力または出力トルクは、図6に本発明例として記載してあるように、大きく低下する(負の方向に増大する)。なお、図6で「制御なし」は、オイルポンプ4の負荷を増大させる制御を行わない場合を示し、「制御あり」は、オイルポンプ4の負荷を増大させる制御を行う場合を示している。そして、t0時点に、n段から(n−1)段へダウンシフトし、あるいはフューエルカット制御を開始し、これと併せてライン圧を元に戻すことによりオイルポンプ4の負荷の増大を解消すると、出力駆動力または出力トルクの段差(換言すれば、制動トルクの段差)が小さくなる。これは、オイルポンプ4の負荷を利用して制動トルクを事前に大きく低下させていることによる効果であり、あるいはダウンシフトやフューエルカット制御による制動トルクのステップ的な変化をオイルポンプ4の負荷を減少させて相殺することによる効果である。このように、減速中のダウンシフトの際、あるいはフューエルカット制御の開始の際にオイルポンプ4の負荷を低下させることにより、制動トルクもしくは駆動トルクの変化を小さくしてショックを回避もしくは抑制することができる。
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、前述したステップS2およびステップS3を実行する機能的手段、およびステップS12ないしステップS13を実行する機能的手段が、この発明における制動変化判断手段に相当し、ステップS10を実行する機能的手段およびステップS21を実行する機能的手段が、この発明におけるポンプ負荷低減手段に相当する。また、ステップS4およびステップS5を実行する機能的手段、およびステップS14ないしステップS16を実行する機能的手段が、この発明における推定手段に相当する。さらに、ステップS8を実行する機能的手段、およびステップS19を実行する機能的手段が、この発明におけるポンプ負荷増大手段に相当する。
なお、駆動力源1に連結されたオイルポンプ4は、減速時であっても駆動力源1の動力によって回転させられて油圧を発生し、それに伴う負荷を駆動力源1に与えている。したがって、その負荷を上述した具体例で説明したように低下させれば、負荷を事前に増大させていなくても、ショックを回避もしくは抑制できる。したがって、この発明では、減速中にオイルポンプ4の負荷を増大させずに、ダウンシフト時もしくはフューエルカット制御の開始時にその負荷を低下させることとしてもよい。そして、この発明における変速機は、制動トルクをステップ的に増大させることができるように構成されていればよいので、その変速機は有段変速機以外に、変速比をステップ的に変化させるように制御可能な無段変速機であってもよい。