この発明において、高圧油路と低圧油路とは、高圧油路の目標油圧が、低圧油路の目標油圧よりも相対的に高く設定されることを意味する。また、この発明における高圧油路および低圧油路には、オイルの流通経路であるポート、油路、バルブなどの他に、オイルが供給される油圧室が含まれる。この発明を車両に用いる場合、駆動輪に伝達する動力を発生する動力源がオイルポンプを駆動するように構成されていてもよいし、駆動輪に伝達する動力を発生する動力源とは別に、オイルポンプを駆動するために専用の動力源が設けられていてもよい。以下、この発明の油圧制御装置を車両に用いる場合について説明する。
(第1具体例)
この第1具体例は、この発明の油圧制御装置を、車両1に搭載されている無段変速機2を含む動力伝達装置を制御するために用いたものである。前記無段変速機2は、従来知られているものと同様に構成されたベルト型無段変速機であり、駆動プーリ4と従動プーリ5とにベルト6を巻き掛けてこれらのプーリ4,5の間でトルクを伝達し、かつ各プーリ4,5に対するベルト6の巻き掛け半径を変化させることにより、入力回転数と出力回転数との間の変速比を、無段階(連続的)に変化させることができるように構成されている。また、従動プーリ5には車両1の駆動輪(図示せず)が動力伝達可能に接続されている。
前記駆動プーリ4は、駆動プーリ4の回転中心軸線に沿った方向に移動不可能に設けられた固定片7と、回転中心軸線に沿った方向に移動可能な可動片8とを備え、それらの固定片7と可動片8との間にV溝状のベルト巻き掛け溝が形成されている。また、従動プーリ5は、従動プーリ5の回転中心軸線に沿った方向に移動不可能に設けられた固定片9と、回転中心軸線に沿った方向に移動可能な可動片10とを備え、それらの固定片9と可動片10との間にV溝状のベルト巻き掛け溝が形成されている。さらに、駆動プーリ4の可動片8に推力を与えるプライマリ油圧室11が設けられており、そのプライマリ油圧室11には、ベルト6の巻き掛け半径を変化させて変速比を制御するためにオイルが供給または排出される。これに対して、従動プーリ5の可動片10に推力を与えるセカンダリ油圧室12が設けられており、このセカンダリ油圧室12には、従動プーリ5がベルト6を挟み付ける挟圧力を発生させる油圧が供給される。
上記の無段変速機2の駆動プーリ4に伝達する動力を発生するエンジン13が設けられている。このエンジン13は従来知られているものと同様に構成されており、燃料の燃焼により発生する熱エネルギを運動エネルギに変換して出力する動力源である。このエンジン13は、電子スロットルバルブ(図示せず)の開度を制御することにより、吸入空気量を制御することができるように構成されている。また、エンジン13から駆動プーリ4に至る動力伝達経路を構成する流体伝動装置14が設けられている。この流体伝動装置14は、従来知られているように入力回転部材と出力回転部材との間で流体(作動油)の運動エネルギにより動力伝達をおこなうものである。この流体伝動装置14は、入力回転部材から出力回転部材に伝達されるトルクを増幅する機能を備えたトルクコンバータ、または入力回転部材から出力回転部材に伝達されるトルクを増幅する機能のないフルードカップリングのいずれでもよい。この実施例においては、流体伝動装置14としてトルクコンバータが用いられているものとして説明し、以下、流体伝動装置14をトルクコンバータ14と記す。
つぎに、上記のプライマリ油圧室11およびセカンダリ油圧室12ならびにトルクコンバータ14に油圧を供給する油圧制御装置3の構成について説明する。図1に示す例においては、前記エンジン13によってオイルポンプ15が駆動されてオイルが吸入され、そのオイルポンプ15から吐出されたオイルが前記プライマリ油圧室11およびセカンダリ油圧室12ならびにトルクコンバータ14に供給されるように構成されている。具体的に説明すると、オイルポンプ15の吸入口16はオイルパン17に接続され、そのオイルポンプ15の吐出口18は油路19に接続されている。なお、エンジン13とオイルポンプ15との間にクラッチを設けておき、エンジン13が自律回転しているときにオイルポンプ15を停止させることもできる。また、オイルポンプ15は、エンジン13の動力により駆動することができることに加えて、車両1が惰力走行するときの運動エネルギをオイルポンプ15に伝達して、オイルポンプ15を駆動することもできるように構成されている。なお、オイルポンプ15は、ピストンポンプ、ギヤポンプ、ベーンポンプなどのうちのいずれでもよい。
一方、前記オイルポンプ15の吐出口18には、低圧油路31が接続されている。この低圧油路31は、オイルポンプ15から吐出されたオイルをトルクコンバータ14および潤滑系統に供給する経路である。この潤滑系統は、無段変速機2の駆動プーリ4および従動プーリ5を回転可能に支持する軸受(図示せず)、エンジン13から駆動輪に至る動力伝達経路に設けられた歯車同士の噛み合い部分(図示せず)などにオイルを供給して、それらの部位を潤滑および冷却するものである。このため、低圧油路31の目標油圧は、エンジン13からトルクコンバータ14に伝達されるトルク、潤滑系統における必要油量などに基づいて決定される。エンジン13からトルクコンバータ14に伝達されるトルクは、電子スロットルバルブの開度から求めることができる。また、潤滑系統における必要油量は、回転要素の回転数に基づいて求めることができる。
さらに、低圧油路31にはリリーフ弁32が設けられている。このリリーフ弁32は、従来知られているものと同様に構成されており、ポートを開閉する弁体33と、その弁体33を弁座(図示せず)に押し付ける力を与えるバネ34とを有している。具体的に説明すると、リリーフ弁32は、低圧油路31の油圧が最高圧未満では弁体33が弁座に押し付けられてポートが閉じられ、低圧油路31の油圧が最高圧以上では弁体33がバネ34の力に抗して移動してポートが開かれるように構成されている。このリリーフ弁32が開かれると低圧油路31の圧油がオイルパン17にドレーンされるように構成されている。このように、リリーフ弁32の機能により、低圧油路31の油圧が予め定められた最高圧以上となることを防止することができる。
この低圧油路31には増圧機20を介在させて高圧油路21が接続されている。この高圧油路21は、プライマリ油圧室11およびセカンダリ油圧室12に圧油を供給する経路を構成するものであり、この高圧油路21にはアキュムレータ22が接続されている。このアキュムレータ22は、従来知られているように、蓄圧室と背圧室とをピストンや弾性膨張体により流体密に区画したものであり、蓄圧室の圧力が背圧室の圧力を超えると、ピストンが移動したり弾性膨張体が膨張したりして蓄圧室の容積が拡大し、その蓄圧室に油圧を蓄えるように構成されている。
前記増圧機20は、従来知られているものと同様に構成されており、例えば、油圧室50および油圧室51と、この油圧室50および油圧室51との間に介在させたピストン52とを有している。このピストン52は往復動自在に構成されており、ピストン52には、油圧室50の油圧が作用する受圧面53が形成され、油圧室51の油圧が作用する受圧面54が形成されている。そして、受圧面53の受圧面積は受圧面54の受圧面積よりも広く構成されている。前記油圧室50は低圧油路31に接続されている。また、油圧室51は高圧油路21に接続され、かつ、油圧室51は油路62を介在させてオイルパン17に接続されている。
さらに、油圧室51と高圧油路21との間には逆止弁63が設けられている。この逆止弁63は、油圧室51からオイルが高圧油路21へ吐出される向きで開放され、高圧油路21のオイルが油圧室51へ流れる向きで閉じられるように構成されている。さらに、油圧室51と油路62との間には逆止弁64が設けられている。この逆止弁64は、油路62から油圧室51へオイルが吸入される向きで開放され、油圧室51のオイルが油路62へ流れる向きでは閉じられるように構成されている。なお、油圧室51にはバネ(図示せず)が設けられており、そのバネの力によりピストン52を油圧室50に向けて押圧する力が加えられている。さらに、ピストン52が上端までストロークしたときに、油圧室50のオイルをドレーンするとともに、ピストン52が下端までストロークしたときに、オイルポンプ15から吐出されたオイルを油圧室50に供給する切換弁(図示せず)が設けられている。
このように構成された増圧機20においては、オイルポンプ15から吐出された圧油の油圧が油圧室50に供給されると、ピストン52が図1で上向きに移動して油圧室51の容積が縮小される。すると、油圧室51の油圧が上昇するとともに、油圧室51の油圧がアキュムレータ22の内圧以上になると逆止弁63が開き、油圧室51のオイルが高圧油路21へ吐出され、アキュムレータ22に蓄圧される。このとき、逆止弁64は閉じられるため、油圧室51のオイルが油路62へ流れることはない。
上記のように、ピストン52が図1で上向きに移動する行程でバネが圧縮されている。ここで、ピストン52が上端までストロークすると、図示しない切換弁により油圧室50のオイルがドレンされてバネの力によりピストン52が下向きに移動する。すると、油圧室51が負圧となり、オイルパン17のオイルが油路62を経由して油圧室51に吸入されるとともに、逆止弁63が閉じられる。このようにして、ピストン52が図1で下向きに移動して下端までストロークすると、図示されていない切換弁が切り換えられて、オイルポンプ15から吐出されたオイルが油圧室50に供給される。すると、ピストン52が図1で上向きに移動し、油圧室51のオイルが高圧油路21へ吐出されてアキュムレータ22に蓄圧される。
以後、オイルポンプ15の吐出圧が油圧室50に供給されている間は、上記の作用が繰り返されてピストン52が往復動し、オイルパン17のオイルが増圧機20の油圧室51を経由して高圧油路21に供給される作用が継続され、アキュムレータ22の内圧が上昇する。そして、アキュムレータ22の内圧と、油圧室51の油圧とが同じになると、ピストン52の作動が停止する。すなわち、アキュムレータ22への蓄圧が終了する。また、増圧機20においては、前記受圧面53の面積が受圧面54の面積よりも広く構成されているため、油圧室50の油圧に対して、油圧室51から吐出される圧油が増圧される。具体的には、ピストン52が図1で上向きに移動して油圧室51の容積が縮小してその内圧が上昇するとき、受圧面53と受圧面54との面積比に応じて、油圧室50の油圧に対する油圧室51の圧力増幅比が定まる。このように、増圧機20は、オイルパン17からオイルを油圧室51へ吸入し、かつ、油圧室51から高圧油路21へオイルを吐出するオイルポンプとしての機能を備えているとともに、油圧室50の油圧に対して油圧室51の油圧を高くする増圧機能を備えている。
ここで、アキュムレータ22の蓄圧特性を図2に基づいて説明する。この図2において、横軸にはアキュムレータ22の容量が示され、縦軸にはアキュムレータ22の内圧が示されている。アキュムレータ22の内圧は高圧油路21の油圧と等しく、アキュムレータ22に蓄圧される圧力の下限圧PHL は、アキュムレータ22に蓄圧される圧力の上限圧PHH よりも低い。また、アキュムレータ22には背圧室が設けられているため、下限値PHL 未満の圧力がアキュムレータ22に蓄えられることはない。この下限値PHL は背圧室の圧力の調整により変更可能である。また、アキュムレータ22の上限圧PHH は容積などの条件から決まる値であり、アキュムレータ22の保持容量が最大になると、アキュムレータ22の内圧が上限圧PHH となる。
また、高圧油路21にはリリーフ弁56が設けられている。このリリーフ弁56は、従来知られているものと同様にポートを開閉する弁体57と、その弁体57を弁座(図示せず)に押し付ける力を与えるバネ58とを有している。具体的にはリリーフ弁56は、高圧油路21の油圧が所定圧未満では弁体57が弁座に押し付けられてポートが閉じられている一方、高圧油路21の油圧が所定圧以上では弁体57がバネ58の力に抗して移動してポートが開かれて、高圧油路21の圧油がオイルパン17にドレーンされるように構成されている。このように、リリーフ弁56の機能により、高圧油路21の油圧が予め定められた所定圧以上になることを防止することができる。
さらに、高圧油路21は2方向に分岐されており、その一方は第1制御バルブ23の入力ポート24に接続されている。また、第1制御バルブ23の出力ポート25が油路26を介在させてプライマリ油圧室11に接続されている。この第1制御バルブ23は、プライマリ油圧室11の油圧を制御する機能を備えた調圧弁、またはプライマリ油圧室11における圧油の流量を制御する機能を備えた流量制御弁のいずれでもよい。この第1制御バルブ23としては、従来から知られているソレノイドバルブを用いることができ、そのソレノイドバルブに供給される電流値を制御することにより、プライマリ油圧室11の油圧またはプライマリ油圧室11における圧油の流量を制御することができるように構成されている。
さらに、高圧油路21は第2制御バルブ27の入力ポート28にも接続されている。この第2制御バルブ27の出力ポート29が油路30を介在させてセカンダリ油圧室12に接続されている。この第2制御バルブ27は、セカンダリ油圧室12の油圧を制御する機能を備えた調圧弁、またはセカンダリ油圧室12における圧油の流量を制御する機能を備えた流量制御弁のいずれでもよい。この第2制御バルブ27としては、従来から知られているソレノイドバルブを用いることができ、そのソレノイドバルブに供給される電流値を制御することにより、セカンダリ油圧室12の油圧、またはセカンダリ油圧室12における圧油の流量を制御することができるように構成されている。
また、車両1には電子制御装置42が設けられており、その電子制御装置42には車速、アクセル開度、無段変速機2の入力回転数および出力回転数、アキュムレータ22の内圧、高圧油路21の油圧、エンジン回転数などを検知するセンサやスイッチの信号が入力され、この電子制御装置42からは、第1制御弁23および第2制御弁27を制御する信号を制御する信号、エンジン出力を制御する信号が出力される。
つぎに、油圧制御装置3の制御および作用を説明する。前記エンジン13の動力によりオイルポンプ15が駆動され、そのオイルポンプ15から低圧油路31へオイルが吐出される。低圧油路31に供給されたオイルは、トルクコンバータ14および潤滑系統に供給される。また、低圧油路31の油圧が最高圧未満ではリリーフ弁32のポートが閉じられており、低圧油路31の油圧が最高圧以上になるとリリーフ弁32のポートが開かれて、低圧油路31の圧油がオイルパン17にドレーンされて低圧油路31の油圧の上昇が抑制される。さらに、オイルポンプ15から低圧油路31に吐出されたオイルの一部は、増圧機20の油圧室50に供給される。すると、受圧面54と受圧面54との面積比率に基づいて、油圧室50の油圧に対して油圧室51の油圧が増圧されて高圧油路21に吐出される。
一方、車速およびアクセル開度に基づいて、車両1における要求駆動力(目標駆動力)が求められ、その要求駆動力に基づいて目標エンジン出力が求められる。さらに、実際のエンジン出力を目標エンジン出力に基づいて制御するにあたり、エンジン13の運転状態が最適燃費線に沿ったものとなるように、目標エンジン回転数および目標エンジン出力が求められる。そして、実際のエンジン回転数を目標エンジン回転数に近づけるように、無段変速機2の変速比が制御される。この無段変速機2の変速比を制御するために、第1制御弁23が制御されてプライマリ油圧室11のオイル量または油圧が制御される。
例えば、無段変速機2の変速比を相対的に小さくする制御(アップシフト)をおこなうために、駆動プーリ4の溝幅を狭くする(ベルト6の巻き掛け半径を大きくする)場合には、プライマリ油圧室11のオイル量を増加させるか、またはプライマリ油圧室11の油圧を高める制御がおこなわれる。また反対に、無段変速機2の変速比を相対的に大きくする制御(ダウンシフト)をおこなうために、駆動プーリ2の溝幅を広くする(ベルト6の巻き掛け半径を小さくする)場合には、プライマリ油圧室11のオイル量を減少させるか、またはプライマリ油圧室11の油圧を低下させる制御がおこなわれる。なお、無段変速機2の変速比を固定する場合は、プライマリ油圧室11のオイル量を一定に維持するか、または油圧を一定に維持する制御がおこなわれる。
一方、無段変速機2の変速比の制御と並行して無段変速機2のトルク容量を制御するために、第2制御弁27が制御されてセカンダリ油圧室12のオイル量または油圧が制御される。例えば、無段変速機2のトルク容量を低下させる場合は、セカンダリ油圧室12のオイル量が減少させるか、または、セカンダリ油圧室12の油圧を低下させる制御がおこなわれる。これに対して、無段変速機2のトルク容量を高める場合は、セカンダリ油圧室12のオイル量を増加させるか、または、セカンダリ油圧室12の油圧を上昇させる制御がおこなわれる。さらに、無段変速機2のトルク容量を一定に保持する場合は、セカンダリ油圧室12のオイル量を一定にするか、または、セカンダリ油圧室12の油圧を一定にする制御がおこなわれる。このようにして、無段変速機2の変速比およびトルク容量を制御するにあたり、プライマリ油圧室1における目標オイル量または目標油圧、セカンダリ油圧室12の目標オイル量または目標油圧に基づいて、高圧油路21の目標油圧が決定される。そして、アキュムレータ22の内圧の下限圧PHL は、高圧油路21の目標油圧以上の値に設定されている。このアキュムレータ22の内圧の下限圧PHL は、背圧室の制御により調整可能である。
前記のように、増圧機20の油圧室51の油圧が、アキュムレータ22の内圧が下限圧未満であるときは、油圧室51からオイルは吐出されないためにアキュムレータ22では蓄圧がおこなわれず、増圧機20の油圧室51の油圧が、アキュムレータ22の内圧の下限圧以上になると、油圧室51から圧油が吐出されてアキュムレータ22で蓄圧がおこなわれる。このようにして、アキュムレータ22に蓄圧された後は、プライマリ油圧室11およびセカンダリ油圧室12における目標オイル量、または目標油圧に基づいて、第1制御弁23および第2制御弁27を制御することにより、高圧油路21の圧油をプライマリ油圧室11およびセカンダリ油圧室12に供給することができる。さらに、アキュムレータ22の圧力がプライマリ油圧室11またはセカンダリ油圧室12に供給されなくなった後に、増圧機20の油圧室51から圧油が吐出されると、アキュムレータ22の内圧が上昇し、設定最高圧に復帰する。なお、アキュムレータ22の内圧が設定最高圧であるときに、増圧機20から圧油が吐出されて高圧油路21の油圧がさらに上昇すると、リリーフ弁56が開放されて高圧油路21のオイルがオイルパン17にドレーンされ、高圧油路21の油圧の上昇が抑制される。
この第1具体例における油圧制御装置3の作用の一例を、図3のタイムチャートにより説明する。まず、時刻t1以前にはオイルポンプ15は停止されており、そのオイルポンプ15の負荷トルクは零ニュートンメートルであり、低圧油路31の油圧(低圧回路制御圧)PLは零パスカルである。また、アキュムレータ15におけるオイルの保持容量は零リットルであり、アキュムレータ15の内圧は零パスカルである。そして、時刻t1でエンジン13の動力によりオイルポンプ15が駆動されて低圧油路31の油圧が上昇するとともに、増圧機20の油圧室51から高圧油路21へオイルが吐出され、アキュムレータ22では下限圧PHL 以上で蓄圧が開始される。
さらに、オイルポンプ15の駆動が継続されて、アキュムレータ15におけるオイルの保持容量が増加し、かつ、アキュムレータ15の内圧が上昇する。そして、時刻t2でアキュムレータ22におけるオイルの保持容量が最大値Qmaxになり、かつ、アキュムレータ22の内圧が上限圧PHH になっている。この時刻t2以降に、アキュムレータ22から圧力が放出されてアキュムレータ22の内圧が低下し、かつ、アキュムレータ22におけるオイルの保持容量が減少している。このように、時刻t2から時刻t3までの間、アキュムレータ22に蓄えられていた圧油が、プライマリ油圧室11およびセカンダリ油圧室12で使用されている。そして、時刻t3でアキュムレータ22の圧力を放出する制御が終了すると、アキュムレータ22の保持容量が再び増加し、かつ、アキュムレータ22の内圧が上昇する。さらに、時刻t4以降はアキュムレータ22のオイル保持容量が最大値Qmaxに維持され、かつ、アキュムレータ22の内圧が上限圧PHH に維持されている。
なお、時刻t1でエンジン13の動力によりオイルポンプ15が駆動された後は、アキュムレータ22の内圧が上昇しているとき、アキュムレータ22の内圧が低下しているとき、アキュムレータ2の内圧が一定であるときの全てにおいて、常時、低圧油路31の油圧PLは一定である。また、オイルポンプ15が駆動された後は、アキュムレータ22で蓄圧がおこなわれているとき、またはアキュムレータ22で放圧がおこなわれているときのいずれにおいても、オイルポンプ15の負荷トルクは一定である。
このように、第1具体例においては、オイルポンプ15の吐出圧を、増圧機20により増圧した油圧をアキュムレータ22に蓄圧することにより、アキュムレータ22の内圧を下限値PHL 以上に維持することができる。また、増圧機20を設けているため、アキュムレータ22の内圧を上昇させるときに、オイルポンプ15の吐出圧を高くせずに済み、オイルポンプ15の負荷トルクを常時一定とすることができる。このため、エンジン13の動力が、駆動輪およびオイルポンプ15に伝達される構成の車両において、駆動力が変化してショックとなることを回避できる。
この第1具体例は請求項1の発明に対応しており、この第1具体例とこの発明との対応関係を説明すると、オイルポンプ15が、この発明のオイルポンプに相当し、低圧油路31が、この発明の低圧油路に相当し、高圧油路21が、この発明の高圧油路に相当し、アキュムレータ22が、この発明のアキュムレータに相当し、増圧機20が、この発明の増圧機に相当し、下限圧PHL が、この発明の所定値に相当する。
(第2具体例)
つぎに、この発明における油圧制御装置1の第2具体例を、図4に基づいて説明する。この第2具体例において、第1具体例と同じ構成部分については、図1と同じ符号を付してある。前記第1具体例と第2具体例との相違点を説明すると、この第2具体例においては、オイルポンプ15の吐出口18から低圧油路31に至るオイルの供給経路に切替バルブ(遮断バルブ)59が設けられている。この切替バルブ59は、オイルポンプ15の吐出口18と低圧油路31とを接続または遮断するための機構であり、この切替バルブ59としては従来から知られているオンオフ型のソレノイドバルブを用いることができる。すなわち、ソレノイドへの通電または非通電を切り替えるにより、オイルポンプ15の吐出口18と低圧油路31とを接続または遮断することができる。
また、オイルポンプ15の吐出口と前記高圧油路21とを接続する油路60が設けられている。この油路60は、オイルポンプ15から吐出されたオイルを高圧油路21に供給する経路を構成している。また、油路60には逆止弁61が設けられている。この逆止弁61は、オイルポンプ15から吐出されたオイルが高圧油路21へ供給される向きでは開放され、高圧油路21のオイルがオイルポンプ15の吐出口18に向けて流れようとする向きでは閉じられるように構成された一方向弁である。
つぎに、第2具体例における油圧制御装置3の作用および制御を説明する。まず、アキュムレータ22への蓄圧を急ぐ必要がない条件では、切替バルブ59が制御されてオイルポンプ15の吐出口18と低圧油路31とが接続される。そして、オイルポンプ15から吐出されたオイルが低圧油路31に供給されて、第1具体例と同様の作用効果を得られる。このとき、高圧油路21の油圧はオイルポンプ15の吐出口18の圧力よりも高く、逆止弁61が閉じられている。
これに対して、アキュムレータ22への蓄圧を急ぐ必要がある条件では、切替バルブ59が制御されてオイルポンプ15の吐出口18と低圧油路31とが遮断される。このような制御は、例えば、車両1が惰力走行している間に、車両1が惰力走行しているときにおこなうことができる。車両1が惰力走行しているときの運動エネルギによりオイルポンプ15を駆動すると、オイルポンプ15から吐出されたオイルは低圧油路31には供給されず、オイルポンプ15から吐出されたオイルが油路60に供給されるとともに、逆止弁61が開放されて高圧油路21にオイルが供給されて、高圧油路21の油圧が上昇する。このとき、オイルポンプ15の負荷トルクは、オイルポンプ15の吐出口18と低圧油路31とが接続されているときよりも高くなり、第1具体例と同様にアキュムレータ22への蓄圧がおこなわれる。また、アキュムレータ22に蓄圧がおこなわれた後は、第1具体例と同様にアキュムレータ22の圧力放出、あるいは、アキュムレータ22への蓄圧がおこなわれる。
つぎに、第2具体例に対応するタイムチャートの一例を図5に基づいて説明する。時刻t3以前においては、エンジン13のトルクが駆動輪に伝達されて車両1が走行しているとともに、切替バルブ59によりオイルポンプ15の吐出口18と低圧油路31とが接続されている。この時刻t3以前の制御および作用は、図3のタイムチャートと同じである。そして、時刻t3でアクセルペダルが戻されて車両1が惰力走行すると、切替バルブ59が制御されて、オイルポンプ15の吐出口18と低圧油路31とが遮断される(低圧回路遮断)。このような車両1の惰力走行時、エンジン13では燃料の供給が停止されている。すると、車両1が惰力走行するときの運動エネルギによりオイルポンプ15が駆動されるとともに、オイルポンプ15から吐出されたオイルが油路60を経由して油路21に供給されて、アキュムレータ22のオイル保持容量が増加するとともに、アキュムレータ22の内圧が上昇する。この時刻t3以降は、オイルポンプ15の負荷トルクが時刻t3以前よりも高い。なお、時刻t3以降はオイルポンプ15から低圧油路31にオイルが供給されないため、低圧油路31の油圧PLは零パスカルである。
そして、時刻t4でアキュムレータ22におけるオイルの保持容量が最大値Qmaxとなり、かつ、アキュムレータ22の内圧が上限圧PHH になるとともに、アクセルペダルが踏み込まれてエンジン13に燃料が供給されて自律回転し、そのエンジン13の動力が駆動輪に伝達される走行状態に切り替わると、切替バルブ59が制御されてオイルポンプ15の吐出口18と低圧油路31とが接続され(通常状態)、オイルポンプ15から低圧油路31へオイルが吐出される。また、オイルポンプ15の負荷トルクは時刻t3以前の値に戻る。さらに、時刻t4以降はアキュムレータ22のオイル保持容量が一定に維持され、かつ、アキュムレータ22の内圧が上限圧PHH に維持されている。その後、時刻t5でアキュムレータ22内の圧力を放出する制御がおこなわれ、オイルの保持容量が減少している。さらに、時刻t6でアキュムレータ22の圧力放出が終了すると、再びアキュムレータ22に蓄圧する制御がおこなわれる。
このように、第2具体例においては、切替バルブ59が設けられており、車両1が惰力走行するときには、切替バルブ59を制御してオイルポンプ15の吐出口18と低圧油路31とを遮断し、オイルポンプ15から吐出されたオイルを油路60を経由して低圧油路31に供給し、かつ、アキュムレータ22に蓄圧することができる。つまり、オイルポンプ15から吐出されたオイルがトルクコンバータ14および潤滑系統に供給されることなく、全て高圧油路21に供給される。したがって、アキュムレータ22への蓄圧を迅速におこなうことができる。また、図5のタイムチャートにおける時刻t3から時刻t4までの間は、他の時間帯よりオイルポンプ15の負荷トルクが相対的に高くなっているが、この時刻t3から時刻t4までの間は、車両1が惰力走行し、かつ、エンジン13への燃料供給を停止しているときに、車両1の運動エネルギを用いてオイルポンプ15を駆動しているため、オイルポンプ15の負荷トルクが増加しても、エンジン13における燃料消費量が増加することはない。
この第2具体例は、請求項1および請求項2の発明に対応するものであり、この第2具体例の構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、オイルポンプ15が、この発明のオイルポンプに相当し、低圧油路31が、この発明の低圧油路に相当し、高圧油路21が、この発明の高圧油路に相当し、アキュムレータ22が、この発明のアキュムレータに相当し、増圧機20が、この発明の増圧機に相当し、切替バルブ59が、この発明の切替バルブに相当し、油路60が、この発明のバイパス油路に相当する。
(第3具体例)
つぎに、この発明における油圧制御装置3の第3具体例の構成を、図6に基づいて説明する。この第3具体例において、第1具体例と同じ構成部分については、図6で図1と同じ符号を付してある。第3具体例と第1具体例とを比べると、第3具体例では、高圧油路21の油圧上昇を抑制するリリーフ弁が設けられていない点が、第1具体例と相違している。また、第3具体例においては、増圧機20の油圧室51から吐出される油圧の最高圧と、アキュムレータ22の上限圧PHH とが等しくなるように、増圧機20の圧力増幅比が決定されている。具体的には、オイルポンプ15から吐出される油圧PLが一定であることを前提として、油圧室50に作用する油圧PLを増幅して油圧室51から圧油を吐出するにあたり、油圧室51の最高圧と、アキュムレータ22の上限圧PHH とが等しくなる圧力増幅比を得られるように、ピストン52の受圧面4と受圧面53との面積比率が決定されている。
ここで、第3具体例の油圧制御装置3の作用の一例を、図7のタイムチャートにより説明する。図7のタイムチャートは、オイルポンプ15はエンジン13のトルクにより駆動される例である。まず、時刻t1以前にはオイルポンプ15は停止されており、そのオイルポンプ15の負荷トルクは零ニュートンメートルであり、低圧油路31の油圧(低圧回路制御圧)PLは零パスカルである。このため、増圧機20は非作動であるとともに、アキュムレータ15におけるオイルの保持容量は零リットルであり、アキュムレータ15の内圧は零パスカルである。
そして、時刻t1でオイルポンプ15が駆動されて油圧PLが上昇するとともに、増圧機20が作動する。具体的には、油圧室50の油圧に対して増圧された油圧が油圧室51から吐出される。すると、アキュムレータ22におけるオイルの保持容量が増加し、かつ、下限圧PHL 以上で蓄圧が開始される。そして、時刻t2において、アキュムレータ22におけるオイルの保持容量が最大値Qmaxになり、かつ、アキュムレータ22の内圧が上限圧PHH になると、増圧機20の状態は非作動となる。増圧機20の状態が非作動とは、ピストン52が停止して油圧室51から圧油が吐出されないことを意味する。
さらに、時刻t2から時刻t3までの間、オイルポンプ15が駆動されており、その時刻t2から時刻t3までの間、オイルポンプ15の負荷トルクは一定であり、かつ、油圧PLも一定である。また、時刻t2から時刻t3までの間、アキュムレータ22の圧力放出はおこなわれておらず、アキュムレータ22におけるオイルの保持容量は最高値Qmaxに維持され、かつ、アキュムレータ22の内圧は上限圧PHH に維持されているとともに、増圧機20の状態は非作動である。
ついで、時刻t3からアキュムレータ22で圧力が放出される(アキュムレータ油使用)と、アキュムレータ22の内圧が低下し、かつ、アキュムレータ22におけるオイルの保持容量が減少する。このように、アキュムレータ22の内圧が上限圧PHH よりも低下すると、増圧機20が作動状態となり、油圧室51から圧油が高圧油路21へ吐出されるが、時刻t3から時刻t4までの間は、アキュムレータ22から放出されるオイル量の方が、油圧室51から高圧油路21へ吐出されるオイル量よりも多いため、アキュムレータ22におけるオイルの保持容量が減少して、アキュムレータ22の内圧は低下している。
そして、時刻t4になると、アキュムレータ22からオイルは放出されなくなるとともに、この時刻t4以降も増圧機20の作動が継続されている。このため、時刻t4以降は、アキュムレータ22におけるオイルの保持容量が増加して、アキュムレータ22の内圧が上昇する。さらに、時刻t5でアキュムレータ22におけるオイルの保持容量が最大値Qmaxになり、かつ、アキュムレータ22の内圧が上限圧PHH になると、増圧機20が非作動となる。なお、この第3具体例においても、時刻t1以降は、オイルポンプ15が常時駆動されているとともに、そのオイルポンプ15が駆動されている間、負荷トルクは常時一定である。
上記のように、第3具体例の油圧制御装置3において、第1具体例と同じ構成部分については第1具体例と同じ作用効果を得られる。また、第3具体例においては、増圧機20の油圧室51から吐出される油圧の最高圧と、アキュムレータ22の上限圧PHH とが等しくなるように、増圧機20の圧力増幅比が決定されているため、アキュムレータ22の内圧が上限圧PHH となって蓄圧が完了すると、増圧機20の油圧室51の油圧がアキュムレータ22の上限圧PHH を超えることはない。つまり、アキュムレータ22での蓄圧が完了すると、高圧油路21の油圧が上限圧PHH 以上になることはない。したがって、高圧油路21の油圧上昇を防止するためのリリーフ弁を設けずに済み、油圧制御装置3の構造を簡素化することができる。
この第3具体例は、請求項1および請求項3に対応するものであり、第3具体例の構成とこの発明の構成との対応関係を説明すると、オイルポンプ15が、この発明のオイルポンプに相当し、低圧油路31が、この発明の低圧油路に相当し、高圧油路21が、この発明の高圧油路に相当し、アキュムレータ22が、この発明の高圧油路に相当し、増圧機20が、この発明の増圧機に相当する。
(第4具体例)
つぎに、この発明における油圧制御装置3の第4具体例を、図8に基づいて説明する。この第4具体例において、第1具体例と同じ構成部分については、第1具体例と同じ符号を付してある。この第4具体例と第1具体例とを比べると、第4具体例では、高圧油路21の油圧の上昇を抑制するリリーフ弁が設けられていないことが異なる。また、第4具体例と第1具体例とを比べると、高圧油路21からオイルをプライマリ油圧室21に供給する経路の構成と、プライマリ油圧室11からオイルを排出する経路の構成と、高圧油路21からオイルをセカンダリ油圧室12に供給する経路の構成と、セカンダリ油圧室12からオイルを排出する経路の構成とが異なる。
以下、第4具体例において第1具体例とは異なる構成について具体的に説明する。まず、高圧油路21からプライマリ油圧室11に圧油を供給する経路には、供給側電磁開閉弁SP1が設けられており、その供給側電磁開閉弁SP1の入力ポート65が高圧油路21に接続され、供給側電磁開閉弁SP1の出力ポート66が油路26に接続されている。そして、供給側電磁開閉弁SP1を電気的に制御して、高圧油路21と油路26とを接続または遮断することにより、プライマリ油圧室11に対して圧油を供給し、また圧油の供給を停止するように構成されている。
これと同様に、プライマリ油圧室11の圧油をオイルパン17に排出する経路には、排出側電磁開閉弁SP2が設けられており、その排出側電磁開閉弁SP2の入力ポート67が油路26に接続され、排出側電磁開閉弁SP2のドレーンポート68がオイルパン17に接続されている。そして、排出側電磁開閉弁SP2を電気的に制御して、油路26とオイルパン17とを接続または遮断することにより、セカンダリ油圧室12から圧油をオイルパン17に排出し、またセカンダリ油圧室12からの圧油の排出を停止するように構成されている。
さらに、高圧油路21からセカンダリ油圧室12に圧油を供給する経路には、供給側電磁開閉弁SS1が設けられており、その供給側電磁開閉弁SS1の入力ポート69が高圧油路21に接続され、供給側電磁開閉弁SS1の出力ポート70が油路30に接続されている。そして、供給側電磁開閉弁SS1を電気的に制御して、高圧油路21と油路30とを接続または遮断することにより、セカンダリ油圧室12に対して圧油を供給し、あるいはセカンダリ油圧室12への圧油の供給を停止するように構成されている。さらに、供給側電磁開閉弁SS1には高圧油路21の油圧が伝達されるフィードバックポート71が設けられており、そのフィードバックポート71の油圧が弁体に作用するように構成されている。また、供給側電磁開閉弁SS1は、入力ポート69と出力ポート70とを閉じる向きの力を弁体に加えるバネ72が設けられている。そして、この第4具体例においては、高圧油路21の油圧PHが、アキュムレータ22の上限圧PHH 以上になると、フィードバックポート71の油圧により供給側電磁開閉弁SS1の弁体がバネ72の力に抗して移動し、高圧油路21と油路30とが接続されるように、バネ72のバネ定数が決定されている。
これと同様に、セカンダリ油圧室12の圧油をオイルパン17に排出する経路には、排出側電磁開閉弁SS2が設けられており、その排出側電磁開閉弁SS2の入力ポート73が油路30に接続され、排出側電磁開閉弁SS2のドレーンポート74がオイルパン17に接続されている。そして、排出側電磁開閉弁SS2を電気的に制御して、油路30とオイルパン17とを接続または遮断することにより、セカンダリ油圧室12から圧油をオイルパン17に排出し、またセカンダリ油圧室12からの圧油の排出を停止するように構成されている。これらの電磁開閉弁SP1,SS1,SP2,SS2は、閉弁状態においても油圧の漏れが生じないように構成されたバルブであり、例えばポペット弁によって構成されている。具体的には、先端部がテーパ状もしくは半球状に形成された弁体と、その弁体が押し付けられる弁座シート部とを有している。
つぎに、この第4具体例の油圧制御装置3の作用を説明する。この第4具体例においても、オイルポンプ15から吐出されたオイルをトルクコンバータ14および潤滑系統に供給することができる。また、第4具体例においても、増圧機20が設けられているため、増圧機20の油圧室51から吐出された油圧をアキュムレータ22に蓄えることができる。したがって、第1具体例と同様の効果を得られる。そして、この第3具体例においては、排出側電磁開閉弁SP2を制御して油路26とオイルパン17とを遮断し、かつ、供給側電磁開閉弁SP1を制御することにより、プライマリ油圧室11におけるオイル量または油圧を制御して、第1具体例と同様に無段変速機2でアップシフトをおこなうことができる。これに対して、供給側電磁開閉弁SP1を制御して高圧油路21と油路26とを遮断し、かつ、排出側電磁開閉弁SP2を制御することにより、プライマリ油圧室11からオイルパン17に排出されるオイル量を制御して、第1具体例と同様に無段変速機2でダウンシフトをおこなうことができる。
また、排出側電磁開閉弁SS2を制御して油路30とオイルパン17とを遮断し、かつ、供給側電磁開閉弁SS1を制御することにより、セカンダリ油圧室12におけるオイル量または油圧を制御して、第1具体例と同様に無段変速機2のトルク容量を増加することができる。これに対して、供給側電磁開閉弁SS1を制御して高圧油路21と油路30とを遮断し、かつ、排出側電磁開閉弁SS2を制御することにより、セカンダリ油圧室12からオイルパン17に排出されるオイル量を制御して、第1具体例と同様に無段変速機2のトルク容量を低下させることができる。
さらに、第4具体例においては、供給側電磁開閉弁SS1に通電がおこなわれておらず、バネ72の力で押圧された弁体により入力ポート69と出力ポート70とが遮断されているときに、高圧油路21の油圧PHが、アキュムレータ22の上限圧PHH 以上になると、フィードバックポート71の油圧により供給側電磁開閉弁SS1の弁体がバネ72の力に抗して移動し、高圧油路21と油路30とが接続される。このように、高圧油路21のオイルが油路30へ排出されて、高圧油路21の油圧が低下する。また、高圧油路21の圧油が油路30へ排出されたときに、油路30のオイルをオイルパン17に排出して、セカンダリ油圧室12のオイル量または油圧が目標値に維持されるように、排出側電磁開閉弁SS2のデューティ比が制御される。
このように、高圧油路21の油圧PHがアキュムレータ22の上限圧PHH 以上になると、セカンダリ油圧室12のオイル量または油圧を制御するために元々設けられている供給側電磁開閉弁SS1および排出側電磁開閉弁SS2を制御することにより、高圧油路21の油圧上昇を抑制することができる。したがって、高圧油路21の油圧上昇を抑制するために、専用のリリーフ弁を設けずに済み、油圧制御装置3を簡素化できる。また、高圧油路21の油圧PHがアキュムレータ22の上限圧PHH 以上になることを抑制できるため、オイルポンプ15の吐出流量を増加させて低圧油路31の圧力を上昇させることを許容できる。また、増圧器の圧力増幅比を自由に設定できるようになり、システムの搭載自由度が大幅に向上し、ユニットの小型化などが可能となる。したがって、油圧制御装置3を簡素化できる。
この第4具体例は請求項1および請求項4の発明に対応するものであり、この第4具体例の構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、オイルポンプ15が、この発明のオイルポンプに相当し、低圧油路31が、この発明の低圧油路に相当し、高圧油路21が、この発明の高圧油路に相当し、アキュムレータ22が、この発明のアキュムレータに相当し、増圧機20が、この発明の増圧機に相当し、供給側電磁開閉弁SS1が、この発明の制御弁に相当し、無段変速機2が、この発明の動力伝達装置に相当する。
ここで、第1具体例ないし第4具体例のような増圧機が設けられていない比較例について説明する。具体的には、動力源により駆動されるオイルポンプから吐出された圧油を、アキュムレータに蓄圧することができるように構成されている油圧制御装置において、増圧機が設けられていない比較例の作用を、図9のタイムチャートにより説明する。時刻t1以前においては、オイルポンプから吐出された圧油が低圧回路に供給されており、オイルポンプの負荷トルクも低い。また、アキュムレータには蓄圧されていない。時刻t1でアキュムレータに蓄圧するために、オイルポンプの吐出油圧が下限圧PHL 以上に高められて、アキュムレータの保持オイル容量が増加している。
このため、時刻t1以降は負荷トルクが増加している。そして、時刻t2でアキュムレータの容量が最大値Qmaxとなり蓄圧が終わると、オイルポンプの吐出油圧がPLL に低下され、負荷トルクも時刻t1以前の値に戻る。このように、比較例においてはアキュムレータに蓄圧するために、オイルポンプの負荷トルクを高めて低圧回路の油圧を上昇させなければならない。このためオイルポンプを駆動する動力源の動力が駆動輪にも伝達されるように構成されている車両においては、駆動力が急激に変化してショックを招く。
なお、各具体例においては、動力伝達装置の一例として無段変速機が挙げられているが、前後進切換装置のトルク容量を制御する油圧室にオイルポンプの油圧を供給するように構成された油圧制御装置においても、各制御例を実行可能である。また、無段変速機としてベルト型無段変速機が挙げられているが、トロイダル型無段変速機を備えた車両においても、各制御例を実行可能である。このトロイダル型無段変速機においては、パワーローラがトラニオンにより支持されており、油圧室の油圧を制御することにより、パワーローラの傾転角度が制御されて、変速比が制御される。また、トロイダル型無段変速機においては、入力ディスクおよび出力ディスクの回転軸線に沿った方向に挟圧力を与える油圧室が設けられており、その油圧室に供給される油圧を制御することにより、トルク容量が制御される。
さらに、この発明の動力伝達装置には、変速比を段階的に変更可能な有段変速機が含まれる。この有段変速機には、常時噛み合い式変速機、選択歯車式変速機、遊星歯車式変速機などが含まれる。いずれの構成の有段変速機においても、油圧室の油圧を制御することにより変速比が変更されるように構成されている。このように、無段変速機または有段変速機のいずれにおいても、油圧室の油圧を制御することにより、変速比またはトルク容量が制御されるように構成されていれば、オイルポンプから吐出されたオイルおよびアキュムレータに蓄圧された油圧をその油圧室に供給することができる。すなわち、油圧室が、この発明の高圧油路に相当する。また、この発明は、駆動輪に伝達する動力を発生する動力源として、前記エンジンに代えて、電動モータまたはフライホイールが設けられている車両にも適用可能である。