図1は、本発明の一実施例としての動力伝達装置20を搭載する車両10の構成の概略を示す構成図であり、図2は自動変速機構28の作動表である。
実施例の動力伝達装置20は、図示するように、例えば、FF(フロントエンジンフロントドライブ)タイプの車両10に搭載されるものとして構成されており、EGECU16による制御を受けて運転するエンジン12からの動力をトルクの増幅を伴って伝達するロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ26と、トルクコンバータ26からの動力を変速を伴って車輪18a,18bに伝達する自動変速機構28と、装置全体をコントロールするATECU29とを備える。実施例の車両10は、エンジン12と動力伝達装置20とを含む車両全体をコントロールするメインECU90を備えており、EGECU16やATECU29に対して通信により互いに制御信号やエンジン12,動力伝達装置20の運転状態に関するデータのやり取りを行なっている。このメインECU90には、シフトレバー91の操作位置を検出するシフトポジションセンサ92からのシフトポジションSPやアクセルペダル93の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ94からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル95の踏み込みを検出するブレーキスイッチ96からのブレーキスイッチ信号BSW,車速センサ98からの車速Vなどが入力されている。
トルクコンバータ26は、エンジン12のクランクシャフト14に接続されたポンプインペラ26aと、自動変速機構28の入力軸22に接続されポンプインペラ26aに対向配置されたタービンランナ26bとを備え、ポンプインペラ26aによりエンジントルクを作動油の流れに変換すると共にこの作動油の流れをタービンランナ26bが入力軸22上のトルクに変換することによりトルクの伝達を行なう。また、トルクコンバータ26は、ロックアップクラッチ26cを内蔵しており、ロックアップクラッチ26cを係合することによりエンジンのクランクシャフト14と自動変速機構28の入力軸22とを直結して直接にエンジントルクを伝達する。
自動変速機構28は、プラネタリギヤユニットPUと三つのクラッチC1,C2,C3と二つのブレーキB1,B2とワンウェイクラッチF1とを備える。プラネタリギヤユニットPUは、ラビニヨ式の遊星歯車機構として構成されており、外歯歯車の二つのサンギヤS1,S2と、内歯歯車のリングギヤRと、サンギヤS1に噛合する複数のショートピニオンギヤPSと、サンギヤS2および複数のショートピニオンギヤPSに噛合すると共にリングギヤRに噛合する複数のロングピニオンギヤPLと、複数のショートピニオンギヤPSおよび複数のロングピニオンギヤPLとを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリアCRと、を備え、サンギヤS1はクラッチC1を介して入力軸22に接続されており、サンギヤS2はクラッチC3を介して入力軸22に接続されると共にブレーキB1によりその回転が自由にまたは禁止されるようになっており、リングギヤRは出力軸24に接続されており、キャリアCRはクラッチC2を介して入力軸22に接続されている。また、キャリアCRは、ワンウェイクラッチF1によりその回転が一方向に規制されると共にワンウェイクラッチF1に対して並列的に設けられたブレーキB2によりその回転が自由にまたは禁止されるようになっている。なお、出力軸24に出力された動力は、図示しないカウンタギヤやデファレンシャルギヤを介して車輪18a,18bに伝達される。
また、自動変速機構28は、図2の作動表に示すように、クラッチC1〜C3とブレーキB1,B2のオンオフの組み合わせにより前進1速〜4速と後進とを切り替えることができるようになっている。なお、図3に、自動変速機構28の各変速段におけるサンギヤS1,S2とリングギヤRとキャリアCRの回転速度の関係を示す共線図を示す。
自動変速機構28におけるクラッチC1〜C3のオンオフとブレーキB1,B2のオンオフは、油圧回路30により行なわれる。図4は、油圧回路30の構成の概略を示す構成図である。油圧回路30は、図示するように、エンジンからの動力によりストレーナ31を介して作動油を圧送する機械式オイルポンプ32と、機械式オイルポンプ32から圧送された作動油を調圧してライン圧PLを生成するレギュレータバルブ33と、ライン圧PLから図示しないモジュレータバルブを介して生成されるモジュレータ圧PMODを調圧して信号圧として出力することによりレギュレータバルブ33を駆動するリニアソレノイドSLTと、ライン圧PLを入力する入力ポート42aとドライブポジション用出力ポート(Dポート)42bとリバースポジション用出力ポート(Rポート)42cなどが形成されシフトレバー91の操作に連動して入力ポート42aと出力ポート42b,42cとの間の連通と遮断とを行なうマニュアルバルブ40と、マニュアルバルブ40のDポート42bからの作動油を入力すると共に調圧して出力するリニアソレノイドとして機能すると共にクラッチC1に作動油を圧送する電磁ポンプとしても機能する電磁弁100と、リニアソレノイドとして機能している電磁弁100からの作動油と電磁ポンプとして機能している電磁弁100からの作動油とを選択的に入力してクラッチC1に出力する切替バルブ80と、クラッチC1のクラッチ用油路38に接続されたアキュムレータ39などにより構成されている。なお、図4では、クラッチC1以外の他のクラッチC2,C3やブレーキB1〜B4の油圧系については本発明の中核をなさないから省略しているが、これらの油圧系については周知のリニアソレノイドなどを用いて構成することができる。以下、油圧回路40が備える電磁弁100の詳細についてさらに説明する。
図5は、電磁弁100の構成の概略を示す構成図である。電磁弁100は、図示するように、コイル112への電流の印加により形成される磁気回路によってプランジャ114を吸引することによりシャフト116を押し出すソレノイド部110と、このソレノイド部110によりシャフト116を介して駆動されて調圧弁として機能する調圧バルブ部120と、同じくソレノイド部110によりシャフト116を介して駆動されて電磁ポンプとして機能するポンプ部130とを備える。
調圧バルブ部120とポンプ部130は、その共用の部材として、バルブボディ102に組み込まれ一端がソレノイド部110のケース111に取り付けられた略円筒状のスリーブ122と、スリーブ122の内部空間に挿入され一端がソレノイド部110のシャフト116の先端に当接されたスプール124と、スリーブ122の他端にネジ止めされたエンドプレート126と、スプール124をソレノイド部110側の方向へ付勢するスプリング128とを備える。
スリーブ122は、調圧バルブ部120を形成する領域の開口部としては、マニュアルバルブ40のDポート42bからの作動油を入力する入力ポート122aと、入力した作動油をクラッチC1側に吐出する出力ポート122bと、入力した作動油をドレンするドレンポート122cと、出力ポート122bから出力される作動油をバルブボディ102の内壁とスリーブ122の外壁とにより形成された油路122eを介して入力してスプール124にフィードバック力を作用させるフィードバックポート122dとが形成されている。また、スリーブ122のソレノイド部110側の端部には、スプール124の摺動に伴ってスリーブ122の内周面とスプール124の外周面との間から漏れ出た作動油を排出するための排出孔122fも形成されている。また、スリーブ122は、ポンプ部130を形成する領域の開口部としては、作動油を吸入する吸入ポート132aと、吸入した作動油を吐出する吐出ポート132bと、ポンプ部130の機能を停止したときに残存している作動油を排出するドレンポート132cとが形成されている。
スプール124は、スリーブ122の内部に挿入される軸状部材として形成されており、スリーブ122の内壁を摺動可能な円柱状の三つのランド124a,124b,124cと、ランド124aとランド124bとの間を連結しランド124a,124bの外径よりも小さな外径で且つ互いのランド124a,124bから中央部に向かうほど外径が小さくなるようテーパ状に形成され入力ポート122aと出力ポート122bとドレンポート122cの各ポート間を連通可能な連通部123aと、ランド124bとこれよりも外径が小さなランド124cとの間を連結しスリーブ122の内壁と共にスプール124に対してソレノイド部110側の方向にフィードバック力を作用させるためのフィードバック室を形成する連結部123bと、ランド124cに接続された吸入用逆止弁134と、吸入用逆止弁134とエンドプレート126との間に介在する吐出用逆止弁136と、を備え、スリーブ122とスプール124の連通部123aとランド124a,124bとにより調圧室121を形成し、スリーブ122とスプール124の吸入用逆止弁134と吐出用逆止弁136とによりポンプ室131を形成する。
ポンプ部130の吸入用逆止弁134は、ランド124cと連結され中央にポンプ室131と吸入ポート132aとを連通する開口部133が形成された円筒状の本体134aと、ボール134bと、このボール134bを本体134aの開口部133に押し付けるスプリング134cとを備え、ポンプ室131内が正圧のときにスプリング134cの付勢力により開口部133を閉塞して閉弁しポンプ室131内が負圧のときにスプリング134cの収縮を伴って開口部133を開放して開弁する。一方、吐出用逆止弁136も、スプリング128と吸入用逆止弁134のスプリング134cとを受けるスプリング受けとして機能すると共に中央に吐出ポート132bとを連通する開口部135が形成された円筒状の本体136aと、ボール136bと、エンドプレート126をスプリング受けとしてボール136bを本体136aの開口部135に押し付けるスプリング136cとを備え、ポンプ室131内が負圧のときにスプリング136cの付勢力により開口部135を閉塞して閉弁しポンプ室131内が正圧のときにスプリング136cの収縮を伴って開口部135を開放して開弁する。したがって、ソレノイド部110のコイル112への通電をオンからオフしたときにはスプリング136cおよびスプリング128の付勢力によりスプール124をソレノイド部110側に移動させることによりポンプ室131内を負圧として作動油を吸入用逆止弁134を介して吸入ポート132aからポンプ室131内に吸入し、ソレノイド部110のコイル112への通電をオフからオンしたときにはソレノイド部110からの推力によりスプール124をエンドプレート126側に移動させることによりポンプ室131内を正圧として吸入した作動油を吐出用逆止弁136を介して吐出ポート132bから吐出することができる。
次に、電磁弁100の動作すなわちリニアソレノイドとして機能する際の動作と電磁ポンプとして機能する動作について説明する。まず、リニアソレノイドとして機能する際の動作について説明する。いま、コイル112への通電がオフされている場合を考える。この場合、スプール124はスプリング128,134c,136cの付勢力によりソレノイド部110側へ移動しているから、ランド124bにより入力ポート122aが閉塞されると共に連通部123aを介して出力ポート122bとドレンポート122cとが連通された状態となる。したがって、クラッチC1には油圧は作用しない。コイル112への通電がオンされると、コイル112に印加される電流の大きさに応じた吸引力でプランジャ114が吸引され、これに伴ってシャフト116が押し出されてシャフト116の先端に当接されたスプール124がエンドプレート126側に移動する。これにより、入力ポート122aと出力ポート122bとドレンポート122cとが互いに連通した状態となり、入力ポート122aから入力された作動油は一部が出力ポート122bに出力されると共に残余がドレンポート122cに出力される。また、フィードバックポート122dを介してフィードバック室に作動油が供給され、スプール124には出力ポート122bの出力圧に応じたフィードバック力がソレノイド部110側の方向に作用する。したがって、スプール124は、プランジャ114の推力(吸引力)とスプリング128のバネ力とフィードバック力とが丁度釣り合う位置で停止することになる。この際、コイル112に印加される電流が大きくなるほど、即ちプランジャ114の推力が大きくなるほど、スプール124がエンドプレート126側に移動し、入力ポート122aの開口面積を広げると共にドレンポート122cの開口面積を狭める。コイル112への通電が最大となると、スプール124はプランジャ114の可動範囲の最もエンドプレート126側に移動し、連通部123aにより入力ポート122aと出力ポート122bとが連通されると共にランド124aによりドレンポート122cが閉塞されて出力ポート122bとドレンポート122cとが遮断される。これにより、クラッチC1には最大油圧が作用することになる。このように、実施例の電磁弁20では、コイル112への通電がオフされている状態で入力ポート122aを遮断すると共に出力ポート122bとドレンポート122cとを連通するから、ノーマルクローズ型の電磁弁として機能することがわかる。
続いて、電磁弁100を電磁ポンプとして機能させる場合の動作について説明する。いま、コイル112への通電がオンされている状態からオフされた場合を考える。この場合、スプール124はエンドプレート126側からソレノイド部110側へ移動するから、ポンプ室131内は負圧となり、吸入用逆止弁134が開弁すると共に吐出用逆止弁136が閉弁して作動油を吸入用逆止弁134を介して吸入ポート132aからポンプ室131内に吸入する。この状態からコイル112への通電をオンすると、スプール124はソレノイド部110側からエンドプレート126側に移動するから、ポンプ室131内は正圧となり、吸入用逆止弁134が閉弁すると共に吐出用逆止弁136が開弁してポンプ室131内に吸入した作動油を吐出用逆止弁136を介して吐出ポート132bから吐出する。このように、コイル112への通電のオンとオフとを繰り返す即ち所定デューティ比の電流を印加することにより、実施例の電磁弁20を作動油を圧送する電磁ポンプとして機能させることができる。
ソレノイド部110としては、実施例では、電磁ポンプとして機能させるために必要な吸引力よりも調圧弁として機能させるために必要な吸引力の方が大きいため、後者の吸引力が得られるよう設計されている。したがって、電磁弁100を電磁ポンプとして機能させるときには、ソレノイド部110の吸引力に余力が生じるから、所定時間毎にコイル112に所定デューティ比の電流を印加する期間と電流の印加を停止する期間とを交互に繰り返すことにより(間欠運転)、消費電力を低減させている。なお、電磁弁100を電磁ポンプとして駆動する際の間欠運転の詳細は後述する。以上、電磁弁100の詳細について説明した。
切替バルブ80は、ライン圧PLを信号圧として入力する信号圧用入力ポート82aと機械式オイルポンプ32を介さずにストレーナ31に接続された入力ポート82bとこの入力ポート82bから入力した作動油を出力する出力ポート82cとドレンポート82dと電磁弁100の調圧バルブ部120の出力ポート122bに接続された入力ポート82eと電磁弁100のポンプ部130の吐出ポート132bに接続された入力ポート82fとこれら二つの入力ポート82e,82fからの油圧を選択的に入力してクラッチC1に出力する出力ポート82gとポンプ部130のドレンポート132cに接続された入力ポート82hとこの入力ポート82hから入力した作動油をドレンするドレンポート82iの各種ポートが形成されたスリーブ82と、スリーブ82内を軸方向に摺動するスプール84と、スプール84を軸方向に付勢するスプリング86とにより構成されている。この切替バルブ80は、ライン圧PLが信号圧用入力ポート82aに入力されているときにはスプリング86の付勢力に打ち勝ってスプール84が図中右半分の領域に示す位置に移動し、入力ポート82bと出力ポート82cとの連通を遮断し入力ポート82eと出力ポート82gとを連通すると共に入力ポート82fを閉塞することにより、調圧バルブ部120の出力ポート122bとクラッチ用油路38とを連通する。一方、ライン圧PLが信号圧用入力ポート82aに入力されていないときには、スプリング86の付勢力によりスプール84が図中左半分の領域に示す位置に移動し、入力ポート82bと出力ポート82cとを連通してストレーナ31に切替バルブ80(入力ポート82b,出力ポート82c)を介してポンプ部130の吸入ポート132aを接続すると共に入力ポート82eを閉塞して入力ポート82fと出力ポート82gとを連通することによりポンプ部130の吐出ポート132bとクラッチ用油路38とを連通する。なお、ライン圧PLが信号圧用入力ポート82aに入力されているときには、入力ポート82bが閉塞されると共に出力ポート82cとドレンポート82dとが連通してポンプ部130の吸入ポート132aに作動油が供給されないようになると共に入力ポート82hとドレンポート82iとが連通してポンプ部130のドレンポート132cから作動油がドレンされるようになっている。
ATECU29は、図示しないが、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートおよび通信ポートとを備える。このATECU29には、入力軸22に取り付けられた回転速度センサ99aからのタービン回転数Ntbや油圧回路30内に配置された油温センサ99bからの油温Toなどが入力ポートを介して入力されている。
こうして構成された実施例の車両10では、シフトレバー91をD(ドライブ)の走行ポジションとして走行しているときに、車速Vが値0,アクセルオフ,ブレーキスイッチ信号BSWがオンなど予め設定された自動停止条件の全てが成立したときにエンジン12を自動停止する。エンジン12が自動停止されると、その後、ブレーキスイッチ信号BSWがオフなど予め設定された自動始動条件が成立したときに自動停止したエンジン12を自動始動する。
次に、こうして構成された実施例の車両10の動作、特に、自動停止しているエンジン12を自動始動させる際の動作について説明する。図6は、ATECU29により実行される自動停止時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、前述した自動停止条件が成立したときに実行される。
自動停止時制御ルーチンが実行されると、ATECU29は、まず、エンジン12が停止するのを待って(ステップS100)、油温センサからの油温Toやクラッチ滑り判定フラグFcを入力し(ステップS110)、入力した油温Toに基づいて電磁ポンプを間欠運転する際の停止期間Δt2を設定する(ステップS120)。ここで、停止期間Δt2は、実施例では、油温Toと停止期間Δt2との関係を予め求めてマップとしてROMに記憶しておき、油温Toが与えられるとマップから対応する停止期間Δt2を導出して設定するものとした。このマップの一例を図7に示す。停止期間Δt2は、図示するように、油温Toが低いほど長くなるよう設定される。これは、電磁弁100を間欠運転を伴って電磁ポンプとして駆動させる際にソレノイド部110のコイル112に所定デューティ比で電流を印加している期間(運転期間)ではクラッチC1に作用する油圧は上昇し電流の印加を停止している期間(停止期間)では漏れなどによりクラッチC1に作用する油圧は下降するが、油温Toが低いほど作動油の動粘性が高くなるために、油圧は上昇し易く下降し難くなることに基づいている。停止期間Δt2を設定すると、クラッチ滑り判定フラグFcの値を調べ(ステップS130)、クラッチ滑り判定フラグFcが値0のときにはそのまま次の処理に進み、クラッチ滑り判定フラグFcが値1のときにはステップS120で設定した停止期間Δt2から所定期間Δtsetを減じて停止期間Δt2を設定し直す(ステップS140)。クラッチ滑り判定フラグFcは、前回にエンジン12を自動始動した際にクラッチC1に滑りが生じたときに値1が設定され、クラッチC1に滑りが生じなかったときに値0が設定されるものであり、後述するクラッチ滑り判定処理により設定される。したがって、クラッチ滑り判定フラグFcが値1のときには、電磁弁100を電磁ポンプとして駆動した際にクラッチC1に作用する油圧が適正圧に対して不足が生じていると推定されるから、停止期間Δt2を短くするのである。停止期間Δt2を設定すると、周期ΔTから停止期間Δt2を減じることにより運転期間Δt1を設定し(ステップS150)、設定した運転期間Δt1と停止期間Δt2とが交互に生じるようソレノイド部110を制御することにより間欠運転を伴って電磁ポンプとしての駆動を開始する(ステップS160)。自動停止条件が成立してエンジン12が自動停止すると、これに伴って機械式オイルポンプ32も停止するから、ライン圧PLが抜け、切替バルブ80のスプール84は調圧バルブ部120の出力ポート122b側の入力ポート82eとクラッチC1側の出力ポート82gとの接続を遮断すると共にポンプ部130の吐出ポート132b側の入力ポート82fとクラッチC1側の出力ポート82gとを接続する。したがって、電磁弁100を電磁ポンプとして駆動することにより、クラッチC1に油圧を作用させることができる。
電磁ポンプとしての駆動を開始すると、次に自動始動条件が成立するのを待って(ステップS170)、メインECU90を介してEGECU16にエンジン始動指令を送信する(ステップS180)。なお、エンジン始動指令を受信したEGECU16は、エンジン12をクランキングして始動する。そして、図8に例示するクラッチ滑り判定処理を実行し(ステップS190)、状態判定フラグFpを調べる(ステップS200)。状態判定フラグFpが値0のときには、エンジン回転速度Neを入力すると共に(ステップS210)、入力したエンジン回転速度Neが機械式オイルポンプ32の作動が開始される所定回転速度Nref以上となるまでステップS190に戻って処理を繰り返す(ステップS220)。エンジン回転速度Neが所定回転速度Nref以上となると、状態判定フラグFpを値1に設定して(ステップS230)、電磁弁100を電磁ポンプとして駆動している状態から調圧弁として駆動する状態に切り替える(ステップS240)。電磁弁100を調圧弁に切り替えると、状態判定フラグFpは値1となるから、エンジン12が完爆するまで(ステップS250)、ステップS190に戻ってクラッチ滑り判定処理を繰り返して、本処理を終了する。エンジン12が自動始動すると、機械式オイルポンプ32が作動し、機械式オイルポンプ32から圧送された作動油は電磁弁100の調圧バルブ部120を介してクラッチC1に供給される。前述したように、エンジン12が自動停止しているときに電磁弁100を電磁ポンプとして機能させてクラッチC1に作動油を供給しているから、エンジン12が自動始動した直後にクラッチC1を迅速に係合することができ、発進をスムーズに行なうことができる。
次に、図8のクラッチ滑り判定処理について説明する。クラッチ滑り判定処理では、回転速度センサ99aからタービン回転数Ntbを入力し(ステップS300)、入力したタービン回転数Ntbと前回このルーチンで入力したタービン回転数(前回Ntb)との偏差により回転変化量ΔNtbを計算し(ステップS310)、計算した回転変化量ΔNtbと閾値THとを比較する(ステップS320)。ここで、閾値THは、入力軸22の吹き上がりを判定するための閾値であり、予め実験により求めたものを用いることができる。いま、車両10が停車している状態でエンジン12を自動始動する場合を考えると、クラッチC1に滑りが生じないときには自動始動に伴ってエンジン12からの動力がトルクコンバータ26を介して伝達されても入力軸22は回転しないが、クラッチC1に滑りが生じるとエンジン12からトルクコンバータ26を介して伝達される動力により入力軸22が回転し吹き上がりが生じる。実施例では、この入力軸22の吹き上がりを検出することにより、クラッチC1に滑りが生じているかを判定し、クラッチC1に作用させるべき油圧に不足が生じていないかを判断しているのである。回転変化量ΔNtbが閾値TH未満のときには、そのまま本処理を終了し、回転変化量ΔNtbが閾値TH以上のときには、クラッチ滑りありと判定してクラッチ滑り判定フラグFcに値1を設定して(ステップS330)、本処理を終了する。このクラッチ滑り判定処理では、図6の自動停止時処理ルーチンに示すように、エンジン12が完爆するまで繰り返し実行されるから、エンジン12が完爆したときにステップS330でクラッチ滑り判定フラグFcが値1に設定されなかったときには、クラッチC1に滑りは生じていないと判断されることになる。
図9に、車速Vとエンジン回転速度Neとアクセル開度Accとブレーキスイッチとライン圧とC1圧と電磁弁の駆動指令の時間変化の様子を示す。図示するように、時刻t1にブレーキスイッチがオンされ時刻t2に車速Vが値0となって自動停止条件が成立すると、エンジン12が自動停止したときに(時刻t3)、電磁弁100を電磁ポンプとして駆動を開始する。このとき、電磁ポンプとしての駆動は、1周期ΔT中に運転期間Δt1と停止期間Δt2とが交互に生じるよう間欠運転により行なう。したがって、クラッチC1に作用する油圧(C1圧)は、上昇と下降とを繰り返しながらクラッチC1に要求される必要油圧を下回らないよう保持されることになる。即ち、電磁ポンプの停止中にC1圧が下降しても必要油圧を下回る前に電磁ポンプの駆動が開始されるよう停止期間Δt2が定められる。具体的には、停止期間Δt2は、電磁ポンプの駆動を開始しても実際にクラッチC1に油圧が作用するまでにタイムラグが生じるため、これを考慮して定められることになる。時刻t4にブレーキスイッチがオフされ時刻t5にアクセルペダル93が踏み込まれてエンジン12の自動始動条件が成立したときにはエンジン12の自動始動が開始され、エンジン回転速度Neが所定回転速度Nrefに至って機械式オイルポンプ32の作動が開始されると、電磁弁100を電磁ポンプとして駆動している状態から調圧弁として機能する状態に切り替える。
以上説明した実施例の動力伝達装置20によれば、エンジン12の自動停止により電磁弁100を調圧弁として機能させて機械式オイルポンプ32から調圧弁を介してクラッチC1に油圧を作用させている状態から電磁弁100を電磁ポンプとして機能させて電磁ポンプからクラッチC1に油圧を作用させる状態に切り替える際には、運転期間Δt1と停止期間Δt2とが交互に生じるよう間欠運転により電磁弁100を電磁ポンプとして駆動するから、消費電力をより低減することができる。しかも、停止期間Δt2は、油温Toが低いほど長くなるよう設定するから、消費電力をさらに低減することができる。また、停止期間Δt2は、前回にエンジン12を自動始動した際にクラッチC1に滑りが生じたときに短くなるよう設定するから、クラッチC1に作用させる油圧をより確実に適正圧とすることができる。
実施例の動力伝達装置20では、油温Toとクラッチ滑り判定フラグFcとに基づいて停止期間Δt2を設定するものとしたが、油温Toだけに基づいて停止期間Δt2を設定するものとしてもよいし、クラッチ滑り判定フラグFcだけに基づいて停止期間Δt2を設定するものとしてもよい。また、油温Toやクラッチ滑り判定フラグFcに拘わらず停止期間Δt2に一定期間を定めるものとしても構わない。
実施例の動力伝達装置20では、油温Toやクラッチ滑り判定フラグFcに基づいて停止期間Δt2を設定すると共に設定した停止期間Δt2で周期ΔTを減じることにより運転期間Δt1を設定したが、油温Toやクラッチ滑り判定フラグFcに基づいて運転期間Δt1を設定すると共に設定した運転期間Δt1で周期ΔTを減じることにより停止期間Δt2を設定するものとしてもよい。また、周期ΔTも変更するものとしても差し支えない。
実施例の動力伝達装置20では、エンジン12を自動始動する際の自動変速機構28の入力軸22の回転変化量ΔNtbと閾値THとを比較してクラッチC1の滑りを判定(クラッチ滑り判定フラグFcの設定)することによりクラッチC1に作用している油圧が適正圧に対して不足しているか否かを判定するものとしたが、これに限定されるものではなく、エンジン12を自動始動する際にGセンサにより検出される振動の程度が閾値以上か否かにより判定するものとしてもよい。また、クラッチ用油路38に油圧センサを設けてこの油圧センサにより検出される油圧に基づいて判定するものとしても構わない。
実施例の動力伝達装置20では、電磁弁100を調圧弁として機能すると共に電磁ポンプとしても機能するよう構成するものとしたが、図10の変形例の油圧回路30Bに示すように、リニアソレノイドSLC1と電磁ポンプ70とを個別に設けるものとしてもよい。この変形例の油圧回路30Bでは、図示するように、実施例の油圧回路30の電磁弁100と切替バルブ80とに代えて、マニュアルバルブ40のDポート42bから出力された作動油を入力ポート52aから入力すると共に調圧して出力ポート52bから出力するノーマルクローズ型のリニアソレノイドSLC1と、リニアソレノイドSLC1の出力ポート52bと前進1速用(発進用)のクラッチC1との接続と遮断とを行なう切替バルブ60と、シリンダ72内を摺動するピストン73に吸入用逆止弁74と吐出用逆止弁76とを内蔵し機械式オイルポンプ32を介さずにストレーナ31に吸入ポート72aが接続されると共にクラッチC1に吐出ポート72bが接続されソレノイド部71をオンからオフしたときには吐出用逆止弁76が閉弁すると共に吸入用逆止弁74が開弁して作動油を吸入ポート72aから吸入しソレノイド部71がオフからオンしたときには吸入用逆止弁74が閉弁すると共に吐出用逆止弁76が開弁して吸入した作動油を吐出ポート72bから吐出する電磁ポンプ70と、を備える。切替バルブ60は、ライン圧PLを信号圧として入力する信号圧用入力ポート62aとリニアソレノイドSLC1の出力ポート52bに接続された入力ポート62bとクラッチC1に接続された出力ポート62cの各種ポートが形成されたスリーブ62と、スリーブ62内を軸方向に摺動するスプール64と、スプール64を軸方向に付勢するスプリング66とにより構成されている。この切替バルブ60は、ライン圧PLが信号圧用入力ポート62aに入力されているときにはスプリング66の付勢力に打ち勝ってスプール64が図中左半分の領域に示す位置に移動し入力ポート62bと出力ポート62cとを連通することによりリニアソレノイドSLC1の出力ポート52bとクラッチC1とを連通し、ライン圧PLが信号圧用入力ポート62aに入力されていないときにはスプリング66の付勢力によりスプール64が図中右半分の領域に示す位置に移動し入力ポート62bと出力ポート62cとの連通を遮断することによりリニアソレノイドSLC1の出力ポート52bとクラッチC1との連通を遮断する。図11に、車速Vとエンジン回転速度Neとアクセル開度Accとブレーキスイッチとライン圧とC1圧とリニアソレノイドSLC1の電流と電磁ポンプ70の駆動指令の時間変化の様子を示す。図示するように、時刻t1にブレーキスイッチがオンされ時刻t2に車速Vが値0となって自動停止条件が成立すると、エンジン12が自動停止したときに(時刻t3)、リニアソレノイドSLC1の電流を最大とすると共に電磁ポンプ70の駆動を開始する。このとき、電磁ポンプ70の駆動は、1周期ΔT中に運転期間Δt1と停止期間Δt2とが交互に生じるよう間欠運転により行なう。したがって、クラッチC1に作用する油圧(C1圧)は、上昇と下降とを繰り返しながら必要な油圧を下回らないよう保持されることになる。時刻t4にブレーキスイッチがオフされ時刻t5にアクセルペダル93が踏み込まれてエンジン12の自動始動条件が成立したときにはエンジン12の自動始動が開始され、エンジン12が完爆すると、電磁ポンプ70の駆動を停止する。
実施例の動力伝達装置20では、前進1速〜4速の4段変速の自動変速機構28を備えるものとしたが、自動変速機構としては、これに限定されるものではなく、2段変速や3段変速や5段以上の変速段とするなど如何なる段数のものを用いるものとしてもよい。
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、クラッチC1が「流体圧駆動の機器」に相当し、電磁ポンプ70が「電磁ポンプ」に相当し、図6の自動停止時制御ルーチンを実行するATECU29が「駆動制御部」に相当する。また、回転速度センサ99aと図8のクラッチ滑り判定処理を実行するATECU29とが「流体状態検出器」に相当する。さらに、油温センサ99bが「温度検出器」に相当する。また、機械式オイルポンプ32が「機械式ポンプ」に相当する。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。