図1は本発明の一実施例としての動力伝達装置20が組み込まれた自動車10の構成の概略を示す構成図であり、図2は実施例の動力伝達装置20が備えるオートマチックトランスミッション30の構成の概略を示す構成図であり、図3はオートマチックトランスミッション30の作動表を示す説明図である。
実施例の自動車10は、図1に示すように、ガソリンや軽油などの炭化水素系の燃料の爆発燃焼により動力を出力する内燃機関としてのエンジン12と、エンジン12のクランクシャフト14に接続されると共に左右の車輪86a,86bにデファレンシャルギヤ84を介して連結された駆動軸82に接続されてエンジン12からの動力を駆動軸82に伝達する実施例の動力伝達装置20と、を備える。
エンジン12は、エンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)18により運転制御されている。エンジンECU18は、詳細に図示しないが、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備える。このエンジンECU18には、クランクシャフト14に取り付けられた回転数センサ16などのエンジン12を運転制御するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されており、エンジンECU18からは、スロットル開度を調節するスロットルモータへの駆動信号や燃料噴射弁への制御信号,点火プラグへの点火信号,エンジン12をクランキングするスタータモータ13への駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。エンジンECU18は、車両全体をコントロールするメイン電子制御ユニット(以下、メインECUという)70と通信しており、メインECU70からの制御信号によってエンジン12を制御したり、必要に応じてエンジン12の運転状態に関するデータをメインECU70に出力する。
実施例の動力伝達装置20は、エンジン12からの動力を駆動軸82に伝達するトランスアクスル装置として構成されており、エンジン12のクランクシャフト14に接続された入力側のポンプインペラ22aと出力側のタービンランナ22bとからなるロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ22と、トルクコンバータ22の後段に配置されエンジン12からの動力により作動油を圧送する機械式オイルポンプ42と、トルクコンバータ22のタービンランナ22b側に接続された入力軸36と駆動軸82に接続された出力軸38とを有し入力軸36に入力された動力を変速して出力軸38に出力する油圧駆動の有段のオートマチックトランスミッション30と、このオートマチックトランスミッション30を駆動するアクチュエータとしての油圧回路40と、オートマチックトランスミッション30(油圧回路40)を制御するオートマチックトランスミッション用電子制御ユニット(以下、ATECUという)26と、メインECU70とを備える。
オートマチックトランスミッション30は、図2に示すように、ダブルピニオン式の遊星歯車機構30aとシングルピニオン式の二つの遊星歯車機構30b,30cと三つのクラッチC1,C2,C3と四つのブレーキB1,B2,B3,B4と三つのワンウェイクラッチF1,F2,F3とを備える。ダブルピニオン式の遊星歯車機構30aは、外歯歯車としてのサンギヤ31aと、このサンギヤ31aと同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤ32aと、サンギヤ31aに噛合する複数の第1ピニオンギヤ33aと、この第1ピニオンギヤ33aに噛合すると共にリングギヤ32aに噛合する複数の第2ピニオンギヤ34aと、複数の第1ピニオンギヤ33aおよび複数の第2ピニオンギヤ34aとを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア35aとを備え、サンギヤ31aはクラッチC3を介して入力軸36に接続されると共にワンウェイクラッチF2を介して接続されたブレーキB3のオンオフによりその回転を自由にまたは一方向に規制できるようになっており、リングギヤ32aはブレーキB2のオンオフによりその回転を自由にまたは固定できるようになっており、キャリア35aはワンウェイクラッチF1によりその回転を一方向に規制されると共にブレーキB1のオンオフによりその回転を自由にまたは固定できるようになっている。シングルピニオン式の遊星歯車機構30bは、外歯歯車のサンギヤ31bと、このサンギヤ31bと同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32bと、サンギヤ31bに噛合すると共にリングギヤ32bに噛合する複数のピニオンギヤ33bと、複数のピニオンギヤ33bを自転かつ公転自在に保持するキャリア35bとを備え、サンギヤ31bはクラッチC1を介して入力軸36に接続されており、リングギヤ32bはダブルピニオン式の遊星歯車機構30aのリングギヤ32aに接続されると共にブレーキB2のオンオフによりその回転を自由にまたは固定できるようになっており、キャリア35bはクラッチC2を介して入力軸36に接続されると共にワンウェイクラッチF3によりその回転を一方向に規制できるようになっている。また、シングルピニオン式の遊星歯車機構30cは、外歯歯車のサンギヤ31cと、このサンギヤ31cと同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32cと、サンギヤ31cに噛合すると共にリングギヤ32cに噛合する複数のピニオンギヤ33cと、複数のピニオンギヤ33cを自転かつ公転自在に保持するキャリア35cとを備え、サンギヤ31cはシングルピニオン式の遊星歯車機構30bのサンギヤ31bに接続されており、リングギヤ32cはシングルピニオン式の遊星歯車機構30bのキャリア35bに接続されると共にブレーキB4のオンオフによりその回転を自由にまたは固定できるようになっており、キャリア35cは出力軸38に接続されている。
オートマチックトランスミッション30は、図3に示すように、クラッチC1〜C3のオンオフとブレーキB1〜B4のオンオフにより前進1速〜5速と後進とニュートラルとを切り替えることができるようになっている。前進1速の状態、即ち入力軸36の回転を最も大きな減速比で減速して出力軸38に伝達する状態は、クラッチC1をオンとすると共にクラッチC2,C3とブレーキB1〜B4とをオフとすることにより形成することができる。この前進1速の状態では、エンジンブレーキ時には、ブレーキB4がオンとされる。前進2速の状態は、クラッチC1とブレーキB3とをオンとすると共にクラッチC2,C3とブレーキB1,B2,B4とをオフとすることにより形成することができる。この前進2速の状態では、エンジンブレーキ時には、ブレーキB2がオンとされる。前進3速の状態は、クラッチC1,C3とブレーキB3とをオンとすると共にクラッチC2とブレーキB1,B2,B4とをオフとすることにより形成することができる。この前進3速の状態では、エンジンブレーキ時には、ブレーキB1がオンとされる。前進4速の状態は、クラッチC1〜C3とブレーキB3とをオンとすると共にブレーキB1,B2,B4をオフとすることにより形成することができる。前進5速の状態、即ち入力軸36の回転を最も小さな減速比で減速(増速)して出力軸38に伝達する状態は、クラッチC2,C3とブレーキB1,B3とをオンとすると共にクラッチC1とブレーキB2,B4とをオフとすることにより形成することができる。また、オートマチックトランスミッション30では、ニュートラルの状態、即ち入力軸36と出力軸38との切り離しは、すべてのクラッチC1〜C3とブレーキB1〜B4とをオフとすることにより行なうことができる。また、後進の状態は、クラッチC3とブレーキB4とをオンとすると共にクラッチC1,C2とブレーキB1〜B3をオフとすることにより形成することができる。
オートマチックトランスミッション30におけるクラッチC1〜C3のオンオフとブレーキB1〜B4のオンオフは、油圧回路40により行なわれる。図4は、油圧回路40におけるクラッチC1の駆動系の構成の概略を示す部分構成図である。油圧回路40は、図4に示すように、エンジン12からの動力により駆動する機械式オイルポンプ42からストレーナ41を介して圧送された作動油の圧力(ライン圧PL)を調節するレギュレータバルブ60と、レギュレータバルブ60を駆動するリニアソレノイドとして機能すると共に電磁力により作動油を圧送する電磁ポンプとしても機能する電磁弁100と、ライン圧PLを入力する入力ポート45aとD(ドライブ)ポジション用出力ポート45bとR(リバース)ポジション用出力ポート45cなどが形成されシフトレバー71の操作に連動して各ポートの連通と遮断とを行なうマニュアルバルブ45と、マニュアルバルブ45のDポジション用ポート45bからの作動油を入力ポート142を介して入力しドレンポート146からの排出を伴って調圧して出力ポート144を介して出力するリニアソレノイドSLC1と、リニアソレノイドSLC1から出力された作動油と電磁ポンプとして機能している電磁弁100から圧送された作動油とを選択的にクラッチC1側に供給するための切替バルブ50と、クラッチC1に接続された油路48に連結されクラッチC1に作用する油圧を蓄圧するアキュムレータ49などにより構成されている。ここで、リニアソレノイドSLC1は、マニュアルバルブ45を介して入力されるライン圧PLからクラッチC1の係合に最適なクラッチ圧に調圧してクラッチC1をダイレクトに制御可能なダイレクト制御用のリニアソレノイドバルブとして用いている。なお、図4では、クラッチC1以外の他のクラッチC2,C3やブレーキB1〜B4の油圧系については本発明の中核をなさないから省略しているが、これらの油圧系については周知のリニアソレノイドなどを用いて構成することができる。
レギュレータバルブ60は、信号圧を入力する信号圧用入力ポート62aと機械式オイルポンプ42の出力側の油路44に接続されライン圧PLをフィードバック圧として入力するフィードバック用入力ポート62bと油路44に接続された入力ポート62cと図示しないセカンダリーレギュレータバルブ側の油路に接続された出力ポート62dとドレンポート62eなどが形成されたスリーブ62と、スリーブ62内を軸方向に摺動するスプール64と、スプール64を軸方向に付勢するスプリング66とにより構成されている。このレギュレータバルブ60では、スプール64が図中下方(すなわち、スプリング66が縮む方向)に移動するほど入力ポート62cから出力ポート62dを介して出力される油量や入力ポート62cからドレンポート62eを介してドレンされる油量を増やして、機械式オイルポンプ42からの油圧を降圧することにより、ライン圧を調整する。スプール64はスプリング66のバネ力と信号圧用入力ポート52aに作用する油圧により図中上方に付勢されると共にフィードバック用入力ポート62bに作用するライン圧PLにより図中下方に付勢されるから、信号圧用入力ポート52aに作用する油圧を高くするほどライン圧PLを高くすることができる。
図5は、電磁弁100の構成の概略を示す構成図である。電磁弁100は、レギュレータバルブ60を駆動するために信号圧用入力ポート62aに信号圧を出力するリニアソレノイドバルブとして機能すると共に油圧を発生させる電磁ポンプとしても機能するよう構成されており、ソレノイド部110と、このソレノイド部110により駆動されてライン圧PLを入力すると共に入力したライン圧PLを調圧して出力する調圧バルブ部120と、同じくソレノイド部110により駆動されて作動油を圧送するポンプ部130とを備える。
ソレノイド部110は、底付き円筒部材としてのケース111と、ケース111の内周側に配置され絶縁性のボビンに絶縁導線が巻回されてなるコイル(ソレノイドコイル)112と、ケース111の開口端部にフランジ外周部が固定されたフランジ部114aとフランジ部114aからコイル112の内周面に沿って軸方向に延伸された円筒部114bとからなる第1のコア114と、ケース111の底部に形成された凹部の内周面と接触すると共にコイル112の内周面に沿って第1のコア114の円筒部114bと所定間隔を隔てた位置まで軸方向に延伸された円筒状の第2のコア115と、第2のコア115に挿入され第1のコア114の内周面および第2のコア115の内周面を軸方向に摺動可能なプランジャ116と、第1のコア114の円筒部114bに挿入されプランジャ116の先端に当接すると共に円筒部114bの内周面を軸方向に摺動可能なシャフト118とを備える。また、ソレノイド部110は、コイル112からの端子がケース111の外周部に形成されたコネクタ部119に配策されており、この端子を介してコイル112への通電が行なわれる。ケース111と第1のコア114と第2のコア115とプランジャ116は、いずれも純度の高い鉄などの強磁性材料により形成されており、第1のコア114の円筒部114bの端面と第2のコア115の端面との間の空間は、非磁性体として機能するよう形成されている。なお、この空間は、非磁性体として機能させればよいから、ステンレススチールや黄銅などの非磁性金属を設けるものとしても構わない。ソレノイド部110では、コイル112に通電すると、ケース111,第2のコア115,プランジャ116,第1のコア114,ケース111の順にコイル112の周囲を周回するよう磁束が流れる磁気回路が形成され、これにより第1のコア114とプランジャ116との間に吸引力が作用してプランジャ116が吸引される。前述したように、プランジャ116の先端には第1のコア114の内周面を軸方向に摺動可能なシャフト118が当接されているから、プランジャ116の吸引に伴ってシャフト118は前方(図中左方向)に押し出される。
調圧バルブ部120とポンプ部130は、その共用の部材として、バルブボディ102に組み込まれ一端がソレノイド部110のケース111により第1のコア114に取り付けられた略円筒状のスリーブ122と、スリーブ122の内部空間に挿入され一端がソレノイド部110のシャフト118の先端に当接されたスプール124と、スリーブ122の他端にネジ止めされたエンドプレート126と、スプール124をソレノイド部110側の方向へ付勢するスプリング128とを備える。
スリーブ122は、調圧バルブ部120を形成する領域の開口部としては、マニュアルバルブ45のDポジション用出力ポート45bからの作動油を入力する入力ポート122aと、クラッチC1側に入力した作動油を吐出する出力ポート122bと、入力した作動油をドレンするドレンポート122cと、出力ポート122bから出力される作動油をバルブボディ102の内面とスリーブ122の外面とにより形成された油路122eを介して入力してスプール124にフィードバック力を作用させるフィードバックポート122dとが形成されている。また、スリーブ122のソレノイド部110側の端部には、スプール124の摺動に伴ってスリーブ122の内周面とスプール124の外周面との間から漏れ出た作動油を排出するための排出孔122fも形成されている。また、スリーブ122は、ポンプ部130を形成する領域の開口部としては、作動油を吸入する吸入ポート132aと、吸入した作動油を吐出する吐出ポート132bと、ポンプ部130の機能を停止したときに残存している作動油を排出するドレンポート132cとが形成されている。
スプール124は、スリーブ122の内部に挿入される軸状部材として形成されており、スリーブ122の内壁を摺動可能な円柱状の三つのランド124a,124b,124cと、ランド124aとランド124bとの間を連結しランド124a,124bの外径よりも小さな外径で且つ互いのランド124a,124bから中央部に向かうほど外径が小さくなるようテーパ状に形成され入力ポート122aと出力ポート122bとドレンポート122cの各ポート間を連通可能な連通部123aと、ランド124bとこれよりも外径が小さなランド124cとの間を連結しスリーブ122の内壁と共にスプール124に対してソレノイド部110側の方向にフィードバック力を作用させるためのフィードバック室を形成する連結部123bと、三つのランド124a,124b,124cとこれらを連結する連通部123aおよび連結部123bとからなる本体とは別体としてランド124cに接続された吸入用逆止弁134と、吸入用逆止弁134とエンドプレート126との間に介在する吐出用逆止弁136と、を備え、スリーブ122とスプール124の連通部123aとランド124a,124bとにより調圧室121を形成し、スリーブ122とスプール124の吸入用逆止弁134と吐出用逆止弁136とによりポンプ室131を形成する。
ポンプ部130の吸入用逆止弁134は、ランド124cと連結され中央にポンプ室131と吸入ポート132aとを連通する開口部133が形成された円筒状の本体134aと、ボール134bと、このボール134bを本体134aの開口部133に押し付けるスプリング134cとを備え、ポンプ室131内が正圧のときにスプリング134cの付勢力により開口部133を閉塞して閉弁しポンプ室131内が負圧のときにスプリング134cの収縮を伴って開口部133を開放して開弁する。一方、吐出用逆止弁136も、スプリング128と吸入用逆止弁134のスプリング134cとを受けるスプリング受けとして機能すると共に中央に吐出ポート132bとを連通する開口部135が形成された円筒状の本体136aと、ボール136bと、エンドプレート126をスプリング受けとしてボール136bを本体136aの開口部135に押し付けるスプリング136cとを備え、ポンプ室131内が負圧のときにスプリング136cの付勢力により開口部135を閉塞して閉弁しポンプ室131内が正圧のときにスプリング136cの収縮を伴って開口部135を開放して開弁する。したがって、ソレノイド部110のコイル112への通電をオンからオフしたときにはスプリング136cおよびスプリング128の付勢力によりスプール124をソレノイド部110側に移動させることによりポンプ室131内を負圧として作動油を吸入用逆止弁134を介して吸入ポート132aからポンプ室131内に吸入し、ソレノイド部110のコイル112への通電をオフからオンしたときにはソレノイド部110からの推力によりスプール124をエンドプレート126側に移動させることによりポンプ室131内を正圧として吸入した作動油を吐出用逆止弁136を介して吐出ポート132bから吐出することができる。
次に、電磁弁100の動作すなわちリニアソレノイドとして機能する際の動作と電磁ポンプとして機能する動作について説明する。まず、リニアソレノイドとして機能する際の動作について説明する。いま、コイル112への通電がオフされている場合を考える。この場合、スプール124はスプリング128,134c,136cの付勢力によりソレノイド部110側へ移動しているから、ランド124bにより入力ポート122aが閉塞されると共に連通部123aを介して出力ポート122bとドレンポート122cとが連通された状態となる。したがって、クラッチC1には油圧は作用しない。コイル112への通電がオンされると、コイル112に印加される電流の大きさに応じた吸引力で第1のコア114にプランジャ116が吸引され、これに伴ってシャフト118が押し出されてシャフト118の先端に当接されたスプール124がエンドプレート126側に移動する。これにより、入力ポート122aと出力ポート122bとドレンポート122cとが互いに連通した状態となり、入力ポート122aから入力された作動油は一部が出力ポート122bに出力されると共に残余がドレンポート122cに出力される。また、フィードバックポート122dを介してフィードバック室に作動油が供給され、スプール124には出力ポート122bの出力圧に応じたフィードバック力がソレノイド部110側の方向に作用する。したがって、スプール124は、プランジャ116の推力(吸引力)とスプリング128のバネ力とフィードバック力とが丁度釣り合う位置で停止することになる。この際、コイル112に印加される電流が大きくなるほど、即ちプランジャ116の推力が大きくなるほど、スプール124がエンドプレート126側に移動し、入力ポート122aの開口面積を広げると共にドレンポート122cの開口面積を狭める。コイル112への通電が最大となると、スプール124はプランジャ116の可動範囲の最もエンドプレート126側に移動し、連通部123aにより入力ポート122aと出力ポート122bとが連通されると共にランド124aによりドレンポート122cが閉塞されて出力ポート122bとドレンポート122cとが遮断される。これにより、クラッチC1には最大油圧が作用することになる。このように、実施例の電磁弁20では、コイル112への通電がオフされている状態で入力ポート122aを遮断すると共に出力ポート122bとドレンポート122cとを連通するから、ノーマルクローズ型の電磁弁として機能することがわかる。
続いて、電磁弁100を電磁ポンプとして機能させる場合の動作について説明する。いま、コイル112への通電がオンされている状態からオフされた場合を考える。この場合、スプール124はエンドプレート126側からソレノイド部110側へ移動するから、ポンプ室131内は負圧となり、吸入用逆止弁134が開弁すると共に吐出用逆止弁136が閉弁して作動油を吸入用逆止弁134を介して吸入ポート132aからポンプ室131内に吸入する。この状態からコイル112への通電をオンすると、スプール124はソレノイド部110側からエンドプレート126側に移動するから、ポンプ室131内は正圧となり、吸入用逆止弁134が閉弁すると共に吐出用逆止弁136が開弁してポンプ室131内に吸入した作動油を吐出用逆止弁136を介して吐出ポート132bから吐出する。このように、コイル112への通電のオンとオフとを繰り返す矩形波電流を印加(以下、これを矩形波電流制御という)することにより、実施例の電磁弁20を作動油を圧送する電磁ポンプとして機能させることができる。
電磁弁100は、実施例では、調圧バルブとしての機能(調圧性能)よりも電磁ポンプとしての機能(圧送性能)を重視してソレノイド部110の吸引力特性が設計されている。具体的には、調圧バルブとして機能させたときには、出力圧を高低5段階で調圧することができ、電磁ポンプとして機能させたときには、クラッチC1のピストンとドラムとの間に設けられたシールリングなどから漏れ出る量だけ作動油が補充できる程度の圧送性能が得られるよう設計するものとした。これは、リニアソレノイドSLC1を調圧精度の比較的高いダイレクト制御用のリニアソレノイドバルブとして構成することにより、レギュレータバルブ60によるライン圧PLの設定を無段階(リニア)に切り替える必要がないため、電磁弁100には高い調圧精度は要求されないことに基づいている。以上、電磁弁100の詳細について説明した。
切替バルブ50は、ライン圧PLを信号圧として入力する信号圧用入力ポート52aとストレーナ41と機械式オイルポンプ42との間の油路46に接続された入力ポート52bとポンプ部130の吸入ポート132aに接続された出力ポート52cとドレンポート52dとリニアソレノイドSLC1の出力ポート144に接続された入力ポート52eとポンプ部130の吐出ポート132bに接続された入力ポート52fとクラッチC1側の油路48に接続された出力ポート52gとポンプ部130のドレンポート132cに接続された入力ポート52hとドレンポート52iの各種ポートが形成されたスリーブ52と、スリーブ52内を軸方向に摺動するスプール54と、スプール54を軸方向に付勢するスプリング56とにより構成されている。この切替バルブ50は、ライン圧PLが信号圧用入力ポート52aに入力されているときにはスプリング56の付勢力に打ち勝ってスプール54が図中右半分の領域に示す位置に移動し入力ポート52eと出力ポート52gとを連通することによりリニアソレノイドSLC1の出力ポート144とクラッチC1側の油路48とを連通すると共に入力ポート52fを閉塞することによりポンプ部130の吐出ポート132bとクラッチC1側の油路48との連通を遮断し、ライン圧PLが信号圧用入力ポート52aに入力されていないときにはスプリング56の付勢力によりスプール54が図中左半分の領域に示す位置に移動し入力ポート52bと出力ポート52cとを連通することによりストレーナ41と機械式オイルポンプ42との間の油路46に切替バルブ50を介してポンプ部130の吸入ポート132aを接続し入力ポート52eを閉塞することによりリニアソレノイドSLC1の出力ポート144とクラッチC1側の油路48との連通を遮断し入力ポート52fと出力ポート52gとを連通することによりポンプ部130の吐出ポート132bとクラッチC1側の油路48とを連通する。なお、ライン圧PLが信号圧用入力ポート52aに入力されているときには、入力ポート52bと出力ポート52cとの連通が遮断すると共に出力ポート52cとドレンポート52dとが連通することによりポンプ部130の吸入ポート132aに作動油が供給されないようになると共に入力ポート52hとドレンポート52iとが連通することによりポンプ部130のドレンポート132cから作動油がドレンされるようになっている。
ATECU26は、詳細には図示しないが、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備える。ATECU26には、入力軸36に取り付けられた回転数センサ24からの入力軸回転数Ninや出力軸38に取り付けられた回転数センサからの出力軸回転数Noutなどが入力ポートを介して入力されており、ATECU26からは、リニアソレノイドSLC1や電磁弁100などの各種ソレノイドへの駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。ATECU26は、メインECU70と通信しており、メインECU70からの制御信号によってオートマチックトランスミッション30(油圧回路40)を制御したり、必要に応じてオートマチックトランスミッション30の状態に関するデータをメインECU70に出力する。
メインECU70は、詳細には図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備える。メインECU70には、シフトレバー71の操作位置を検出するシフトポジションセンサ72からのシフトポジションSPやアクセルペダル73の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ74からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル75の踏み込みを検出するブレーキスイッチ76からのブレーキスイッチ信号BSW,車速センサ78からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。メインECU70は、エンジンECU18やATECU26と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU18やATECU26と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
こうして構成された自動車10では、シフトレバー62を「D(ドライブ)」の走行ポジションとして走行しているときに、車速Vが値0,アクセルオフ,ブレーキスイッチ信号BSWがオンなど予め設定された自動停止条件の全てが成立したときにエンジン12を自動停止する。エンジン12が自動停止されると、その後、ブレーキスイッチ信号BSWがオフなど予め設定された自動始動条件が成立したときに自動停止したエンジン12を自動始動する。
次に、こうして構成された自動車20が搭載する実施例の動力伝達装置20の動作、特に、エンジン12を自動停止する際の電磁弁100の動作について説明する。図6は、ATECU26により実行される自動停止時電磁弁制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、シフトレバー72をDポジションとして走行している最中に、エンジン12の自動停止条件が成立したときに実行される。なお、自動停止条件が成立したときには、エンジン12をアイドリング運転し、その後に燃料カットすることによりエンジン12の運転を停止する。
自動停止時電磁弁制御ルーチンが実行されると、ATECU26のCPUは、まず、エンジン12の自動停止条件が成立してから所定時間T1が経過するのを待ち(ステップS100)、所定時間T1が経過すると、電磁弁100が電磁ポンプとして機能するようソレノイド部110に矩形波電流を印加する矩形波電流制御を開始する(ステップS110)。ここで、所定時間T1は、自動停止条件の成立からエンジン12が燃料カットされるまでの時間よりも短い時間であり、例えば、100msecや150msec,200msecなどのように定めることができる。切替バルブ50は、エンジン12が燃料カット前のアイドリング運転中には機械式オイルポンプ42の作動に伴って生成されるライン圧PLによりポンプ部130の吐出ポート132bとクラッチC1側の油路48との接続を遮断しておりエンジン12が運転停止したときに機械式オイルポンプ42の停止に伴ってライン圧PLが抜けて吐出ポート132bとクラッチC1側の油路48とを接続するが、エンジン12の運転停止前に矩形波電流制御を行なうことによりポンプ部130の吐出ポート132bから切替バルブ50までの油路内の油圧を高め、クラッチC1に供給する準備が行なわれる。エンジン12の運転停止に伴って吐出ポート132bとクラッチC1側の油路48とが接続されると、ポンプ部130からの油圧がクラッチC1に供給される。
そして、次回にエンジン12の自動始動条件が成立してその成立から所定時間T2が経過するのを待ち(ステップS120,S130)、自動始動条件が成立し、その成立から所定時間T2が経過すると、矩形波電流制御を停止すると共に(ステップS140)、ソレノイド部110に印加する電流を最大とし(ステップS150)、エンジン12が完爆したときに(ステップS160)、本ルーチンを終了する。ここで、所定時間T2は、自動始動条件の成立によるエンジン12のクランキングにより機械式オイルポンプ42が作動してライン圧PLが十分に立ち上がるまでに要する時間であり、例えば、300msecや400msecなどのように定めることができる。ライン圧PLが立ち上がると、切替バルブ50は信号圧用入力ポート62にライン圧PLの入力を受けてポンプ部130の吐出ポート132bとクラッチC1側の油路48との接続を遮断すると共に調圧バルブ部120の出力ポート122bとレギュレータバルブ60の信号圧用入力ポート62aとを接続するから、ソレノイド部110に印加する電流を最大とすることにより、レギュレータバルブ60によりライン圧PLを最大圧に設定する。リニアソレノイドSLC1はこのライン圧PLを用いて最適なクラッチ圧に調圧してクラッチC1を完全に係合する。これにより、エンジン12からの動力が車輪86a,86b側に伝達され、車両が発進する。このようにエンジン12が自動停止している最中に電磁弁100を電磁ポンプとして機能させてクラッチC1に油圧を作用させておくことにより、エンジン12が自動始動した直後にクラッチC1を迅速に係合させることができるから、エンジン12の自動始動を伴う発進をスムーズに行なうことができる。
図7は、車速Vとエンジン回転数Neとアクセル開度Accとブレーキスイッチ信号BSWとライン圧PLとクラッチC1の油圧と電磁弁100のソレノイド部110の電流指令の時間変化の様子を示す説明図である。図示するように、時刻t11にブレーキオンされ、時刻t12にエンジン12の自動停止条件が成立してから所定時間T1が経過した時刻t13に電磁弁100が電磁ポンプとして機能するようソレノイド部110に矩形波電流を印加する。時刻t13の後の時刻t14に燃料カットされ、時刻t15にエンジン12の回転数が所定回転数を下回ると、機械式オイルポンプ42が停止してライン圧PLが抜け、ライン圧PLの入力を受けて作動する切替バルブ50はリニアソレノイドSLC1の出力ポート144とクラッチC1側の油路48との接続を遮断すると共にポンプ部130の吐出ポート132bとクラッチC1側の油路48とを接続することにより、ポンプ部130から圧送した作動油をクラッチC1に供給する。時刻t16にブレーキオフされてエンジン12の自動始動条件が成立すると、時刻t17にスタータモータ13によりエンジン12のクランキングが開始され、時刻t18に自動始動条件の成立から所定時間T2が経過して機械式オイルポンプ42の動作が開始されると共に時刻t19にライン圧PLが立ち上がると、電磁弁100のソレノイド部110への矩形波電流の印加に代えて最大電流を印加することにより、ライン圧PLを最大圧に設定する。
以上説明した実施例の動力伝達装置20によれば、レギュレータバルブ60を油圧駆動するための調圧バルブとして機能する調圧バルブ部120と、クラッチC1に油圧を供給する電磁ポンプとして機能するポンプ部130とをソレノイド部110を共用することにより一体化して電磁弁100を構成するから、レギュレータバルブ60を駆動する調圧バルブとエンジン12の自動停止中にクラッチC1に油圧を供給する電磁ポンプとを別体として設けるものに比して、装置全体をより小型化することができる。また、エンジン12の自動停止中にポンプ部130から前進1速を形成するクラッチC1に作動油を圧送することにより、次にエンジン12が自動始動した直後にクラッチC1を迅速に係合させることができ、発進をスムーズに行なうことができる。
実施例の動力伝達装置20では、電磁弁100を調圧バルブ部120がノーマルクローズ型の調圧バルブとして機能するよう構成するものとしたが、ノーマルオープン型の調圧バルブとして機能するよう構成するものとしてもよい。
実施例の動力伝達装置20では、電磁弁100を調圧バルブとして機能させたときには、出力圧を高低5段階で調圧するものとしたが、何段階に調圧するものとしてもよい。また、ダイレクト制御用のリニアソレノイドに比べて粗い精度をもって無段階に調圧するものとしても構わない。
実施例の動力伝達装置20では、ポンプ部130の吐出ポート132bとクラッチC1側の油路48とを切替バルブ50(入力ポート52c,出力ポート52d)を介して接続するものとしたが、切替バルブ50を介さずに直接に接続するものとしてもよい。
実施例の動力伝達装置20では、切替バルブ50をライン圧PLを用いて駆動するものとしたが、ライン圧PLを図示しないモジュレータバルブを介して降圧したモジュレータ圧PMODを用いて駆動するものとしてもよいし、ライン圧PLやモジュレータ圧がソレノイドバルブを介して切替バルブ50に供給されるようにしてこのソレノイドバルブを用いて駆動するものとしても構わない。
実施例の動力伝達装置20では、吸入用逆止弁132と吐出用逆止弁134とをスリーブ122内に内蔵するものとしたが、いずれか一方をスリーブ122外のバルブボディ102に組み込むものとしてもよいし、両方をバルブボディ102に組み込むものとしてもよい。
実施例の動力伝達装置20では、前進1速〜5速の5段変速のオートマチックトランスミッション30を組み込むものとしたが、これに限定されるものではなく、4段変速や6段変速,8段変速など、如何なる段数の自動変速機を組み込むものとしてもよいし、エンジン12のクランクシャフト14にクラッチを介して直接にデファレンシャルギヤ84を介して車輪86a,86bに接続するなどとしてもよい。
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「原動機」に相当し、機械式オイルポンプ42が「機械式ポンプ」に相当し、レギュレータバルブ60が「ライン圧生成用バルブ」に相当し、電磁弁100が「電磁弁」に相当する。また、レギュレータバルブ60の信号圧用入力ポート62aが「作動用入力ポート」に相当し、電磁弁100の入力ポート122aや出力ポート122b,ドレンポート122c,フィードバックポート122dが「第1のポート群」に相当し、電磁弁100の吸入ポート132aや吐出ポート132b,ドレンポート132cが「第2のポート群」に相当する。また、切替バルブ50が「切替バルブ」に相当する。ここで、「原動機」としては、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関に限定されるものではなく、水素エンジンなど、如何なるタイプの内燃機関であっても構わないし、内燃機関以外の電動機など、動力を出力可能なものであれば如何なるタイプの原動機であっても構わない。「電磁弁」としては、電磁ポンプとして機能させたときに前進1速を形成するクラッチC1に作動流体を圧送するものに限定されるものではなく、例えば、運転者の指示や走行状態などにより発進時の変速段が前進1速以外の変速段(前進2速など)に設定されたときにその変速段を形成するクラッチやブレーキに作動油を圧送するものとするなどとしても構わない。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。