JP5251131B2 - 半導体受光素子 - Google Patents
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シリコンを原料とするアバランシェ・フォトダイオード(以下APD)を用いた単一光子検出器はよく知られているが、光ファイバ通信によく用いられる波長 1.55μm帯では感度がなく、そのままでは量子情報通信などの応用には適さない。
そこで、波長1.55μm帯で光子検出するための技術として、
(1)InGaAs系APDを用いた手法
(2)波長変換素子等を用いて可視光の波長帯へ変換後、Si-APDを用いた検出を行う手法
(3)超伝導型検出素子を用いる手法
などが提案されている。
この手法は、あらかじめブレークダウン近傍にDCバイアスを印加しておき、光子がAPDに到達するタイミングと同期してブレークダウンを超えるような電圧のゲートパルスをバイアスに加算して印加することで、瞬間的に高い増倍率を得て、その出力を検知する方法である。
一方、従来の光通信で用いられてきた手法は、バイアス電圧V0を印加する方法である。この方法ではバイアス電圧は時間に依らず一定であり、利得は100以下が一般的であり、高S/N比を得るには 増倍率M=10程度のこともある。
ゲートモードでは、バイアス電圧を一定に保つ手法と比べて高い増倍率とS/N比を同時に得ることができる。
なお、本発明の背景技術に関連する公報としては、以下の特許文献1〜3があげられる。
図3および図4に本実施形態の半導体受光素子1を示す。
図3は半導体受光素子1の断面図であり、図4は半導体受光素子1を模式的に示した図である。
はじめに、半導体受光素子1の概要について説明する。
半導体受光素子1は、半導体基板11上に設けられたn型のバッファ層(第一の層)12と、このバッファ層12上に設けられた第一増倍層13と、この第一増倍層13上に設けられた電界調整層14と、電界調整層14上に設けられた第二増倍層15と、第二増倍層15上に設けられたp型の電界緩和層16と、電界緩和層16上に設けられたp型の光吸収層17とを備える。
第一増倍層13および第二増倍層15はp型の不純物濃度およびn型の不純物濃度の各不純物濃度が5×1015cm−3以下である。
また、動作電圧を印加した状態において、電界調整層14により、第一増倍層13の電界強度は第二増倍層15の電界強度よりも大きくなっている。
半導体受光素子1は、前述した基板11、バッファ層12、第一増倍層13、電界調整層14、第二増倍層15、電界緩和層16、光吸収層17に加えて、光吸収層17上に設けられるバッファ層18、このバッファ層18上に設けられるコンタクト層19を有する。
この半導体受光素子1は、III-V族化合物半導体層を含んで構成されるIII-V族半導体受光素子であり、各層の材料等の一例は、表1に示す通りである。なお、表1における不純物濃度は、基板11、層12,14,16,17,18,19の導電型と同じ導電型の不純物濃度を示している。第一増倍層13および第二増倍層15においては、p型の不純物濃度およびn型の不純物濃度の各不純物濃度を示す。
また、各層12〜19で構成されるメサに対し、溝を挟んで隣接する部分には、n側電極22が形成されている。
第一増倍層13は、第二増倍層15に比べ電界が高くなる層であり、バッファ層12上に直接設けられている。この第一増倍層13は、ダークキャリア発生を低減するため、層厚を一定以上とし、均一電界で作製する必要がある。第一増倍層13は層厚を0.2μm以上とすることが好ましい。このようにすることで、第一増倍層13の増倍機能を確実に確保することができる。
また、第一増倍層13のn型の不純物濃度、p型の不純物濃度はそれぞれ5×1015cm−3以下である。このような不純物濃度を採用することで、受光素子1の動作時において、第一増倍層13の電界強度が層方向に沿って一定(均一電界)とすることができる。
なお、層厚2.0μm以上で形成する場合には、その電界強度の均一性を確保するためn型の不純物濃度、p型の不純物濃度は、それぞれ1×1015cm−3以下とすることが望ましい。
なお、n型の不純物濃度、p型の不純物濃度の下限値は特に規定はないが、オージェ分光装置や、2次イオン質量分析装置等による検出限界以下であればよい。
一方で、第二増倍層15が増倍機能を有するためには、一定の電界強度が必要である。電界強度が低下すると一回の増倍過程に必要な走行距離λが長くなるため、層厚を厚くする必要がある。
最も電界が高い場合でもキャリア注入の増倍利得を10倍程度に高めるため、5回程度 (その際の増倍率の最大値は25=32倍)イオン化するための走行距離が必要である。 このためには通常のブレークダウン時の平均イオン化距離200〜300Åを考えると、その5倍を計算して、200〜300Å×5=0.1〜0.15μmの均一電界が必要である。すなわち、少なくとも0.1μmが必要な厚みである。
第二増倍層15の電界強度が第一増倍層13の50% 程度の場合で、イオン化に必要な走行距離が2倍程度になると見積もった場合、400〜600Å×5=0.2〜0.3μm となり、第二増倍層15で最低限必要な層厚は、0.2μmである。
第二増倍層15の電界強度が第一増倍層13の60%程度の場合で、イオン化に必要な走行距離が1.66倍程度になると見積もった場合、332〜500Å×5=0.16 〜 0.25μm となり、第二増倍層15で最低限必要な層厚は、0.16μmである。
第二増倍層15の電界強度が第一増倍層13の80% 程度の場合で、イオン化に必要な走行距離が1.25倍程度になると見積もった場合、250〜375Å×5=0.13〜0.19μm となり、第二増倍層15で最低限必要な層厚は、0.13μmである。
第二増倍層15の厚みと、第二増倍層15の第一増倍層13に対する相対電界強度との関係を図5に示す。第二増倍層15の電界強度を下げることにより、第二増倍層15の必要な層厚は厚くなっていくことがわかる。
なお、図5では、第一増倍層13を領域Aとし、第二増倍層15を領域Bとしている。
このようにすることで、第二増倍層15の増倍率が第一増倍層13の増倍率を超えてしまうことを確実に防止できる。
良好な増倍特性を得るために、第二増倍層15に用いる材料は第一増倍層13と同等かそれ以上のバンドギャップの材料が望ましい。具体的には、第一増倍層13と同様のInxAlyGa(1−x−y)As(0<x<1,0<y<1、0<x+y≦1)、なかでも、InAlAsが好ましい。さらには InGaAsP などであってもよい。これら材料を交互に用いて形成する超格子構造のようなバンドオフセットを持つ構造を導入することもできる。
さらに、電界調整層14の厚みを500Å(0.05μm)以下とすることで、電界調整層14内部でのイオン化確率を小さくできる。500Åであれば、平均イオン化距離の3倍以内であり、イオン化はほとんどおきない。
また、電界調整層14の厚みは薄いほど、イオン化が少なくなり好ましいが、電界調整層14を薄くした場合には、電界調整層14中のp型不純物濃度を高くして、電界調整を行う必要がある(表2参照)。しかしながら、p型不純物濃度を高くしすぎると、電界調整層14の結晶性が劣化してしまう可能性がある。
そこで、電界調整層14の厚みを、10Å(0.001μm)以上とすることで、無理のない(結晶性で劣化の生じる恐れが少ない)ドーピング濃度で電界調整層が形成可能となる。
さらに、電界調整層14の厚みは、第一増倍層13の1/5以下が望ましく、1/10以下に設定することが好ましい。
このようにすることで、第二増倍層15でのダークキャリアの発生を確実に抑制できる。
また、電界調整層14の膜厚とp型の不純物濃度は、第一増倍層13の平均電界強度をEA、第二増倍層の平均電界強度をEBとした場合、EBがEA×0.1以上となるように設定されてもよい。このようにすることで、第二増倍層15での増倍機能を確実に確保することができる。なお、EBがEA×0.1となる場合には、第二増倍層15の厚みは1μm以上であることが好ましい。
さらに、EBは、EA×0.2以上となることが好ましい。このようにすることで、第二増倍層15での増倍機能をより確実に確保することができる。
図6からも、第一増倍層13の電界強度E1は、第二増倍層15の電界強度E2よりも高くなっており、これらの電界強度E1,E2は電界調整層14により調整されていることがわかる。
半導体基板11上に各層12〜19をエピタキシャル成長させ、その後、メサ型にエッチング加工する。
その後、メサ全体をパッシベーション膜21により被覆し、各電極20,22を形成する。そして、光信号が入射する基板裏面にARコーティング23を施す。
信号光は半導体受光素子1の基板側より入射し、バイアス印加状態では素子内部にて光電変換及び増倍をへて、両端の電極に電流出力として現れる。
APDの増倍層を、増倍時の電界強度分布が均一となる均一電界とした場合、そのイオン化利得(=増倍利得)やダークキャリアの発生確率は層厚方向で一定の値となる。例えば、ダークキャリアの発生確率は図2に示すように層厚方向で一様の分布となる。
図2では、符号91が光吸収層、符号92が電界緩和層、符号93が増倍層を示している。また、符号94は、増倍層中で均一に分布して発生するダークキャリアを示す。
電子増倍型の特性を持つ材料(イオン化率比 k < 1)で構成した増倍層の場合、電界強度の高い第一増倍層13のキャリアは電子注入型モデルに近い増倍を起こすため、その平均の利得<M>は高く、過剰雑音Fは小さい。一方、電界強度の低い第二増倍層15のキャリアはホール注入モデルに近づくため、平均の利得<M>は小さく、過剰雑音Fは大きくなる。
本実施形態では、第一増倍層13または第二増倍層15のうち、第一増倍層13の電界強度を、第二増倍層15の電界強度よりも高くしている。
これにより、半導体受光素子1をゲートモードで動作させた場合、ゲートパルス印加によるダークカウントは主に電界の高い第一増倍層13で発生することとなる。
一方で、第二増倍層15の電界強度は、第一増倍層13よりも低いため、第二増倍層15では、ダークキャリアが発生しにくくなっている。信号光由来の電子は、第二増倍層15で増倍されて、第一増倍層13に進む。このとき、電界強度が大きい第一増倍層13では、ダークキャリアが発生しやすくなっているが、第一増倍層13で発生するダークキャリアの数に比べ、すでに、第二増倍層15にて、増倍された電子の数が非常に多いことから、S/N比が向上する。図7には、半導体受光素子1をゲートモードで動作させ、光子検出した場合のキャリアの出現回数が示されている。図7からもS/N比が向上していることがわかる。
これに加え、第一増倍層13、第二増倍層15は不純物濃度が5×1015cm−3以下であることから、増倍時の電界分布が均一となる。そのため、ある電圧を印加した場合におけるダークキャリアの発生量は、不均一電界型の増倍層で発生するキャリア数より少なくなっている。
ここで、説明する高確率イオン化状態とは、ゲートモードに特有の増倍過程で、通常用いられているDCバイアス下での増倍条件と異なる。
通常の増倍条件では、有限個のキャリアに対して有限の増倍率を得る。
一方、ゲートモードで用いるブレークダウン以上のバイアス条件では、増倍率はバイアスの印加時間とともに大きくなっていくため、印加時間を無限とした場合の増倍率は理論上無限大となる。実際の素子をこの状態におくと過電流により素子は故障する。
このため、有限のゲート幅を持つパルスにより有限のバイアス時間とすることで、増倍率を有限値に収束させている。 このような動作をする結果、シグナルとノイズの増倍パルスの波高値では差が大きくなり、適当な閾値を設けて検出することで両者を弁別し、S/N比を向上させることが出来る。
また、第二増倍層15も、InAlAsで構成することにより良好な増倍特性を得ることができる。
さらに、第一増倍層13の厚みを0.2μm以上とすることで、第一増倍層13の増倍機能を確実に確保することができる。
たとえば、前記実施形態では、バッファ層12をn型、電界緩和層16をp型としたが、これに限らず、バッファ層をp型、電界緩和層をn型としてもよい。このようにした場合であっても、前記実施形態と同様の効果を奏することができる。第二増倍層の電界強度は、第一増倍層よりも低いため、第二増倍層では、ダークキャリアが発生しにくくなっている。信号光由来のホールは、第二増倍層で増倍されて、第一増倍層に進む。このとき、電界強度が大きい第一増倍層では、ダークキャリアが発生しやすくなっているが、第一増倍層で発生するダークキャリアの数に比べ、すでに、第二増倍層にて、増倍されたホールの数が非常に多いことから、S/N比が向上する。
また、バッファ層をn型、電界緩和層をp型、光吸収層をi型としてもよい。
さらには、前記実施形態では受光素子をメサ型としたが、これに限らず、プレーナー型の受光素子としてもよい。
また、前記実施形態では、受光素子に対し、ゲートモードの印加電圧が行われるとしたが、これに限らず、従来のように受光素子に対し、バイアス電圧を印加して受光素子を動作させてもよい。
(実施例1)
前記実施形態と同様の受光素子を形成した。各エピタキシャル層の厚みは表3に示すように形成する。
電界調整層14の層厚とp型不純物濃度とを、第一増倍層13の電界強度EA 、第二増倍層15の電界強度EB としたとき、EA-EBが100kV /cm以上となるよう設定することで、第二増倍層15で発生するダークキャリアを抑えることができた。
ゲートによりブレークダウン以上のバイアスをそのゲート幅で決まる時間Δtだけ印加された状態において、高強度均一電界型増倍層(第一増倍層13)でブレークダウンのための利得のほとんどを得た。
一方で、光キャリアはそのキャリア走行上、低強度の増倍層(第二増倍層15)を横断した後に高強度の増倍層(第一増倍層13)でブレークダウンする。 その際、低強度の増倍層(第二増倍層15)でも利得を得るため、ダークカウントに比して全利得は高くなった。 その結果、光子検出信号とダークキャリア、アフターパルスキャリアなどの波高分布の差が強調されて通常素子よりも高いS/N比を得ることができた。
各エピタキシャル層の厚みは表4に示すように形成した受光素子を作製した。
第二増倍層15及び電界調整層14についても、InP基板11上に格子整合するInAlGaAsのうち、最も大きなバンドギャップを持つInAlAsで構成することにより良好な増倍特性を得ることができた。
電界調整層14の層厚とp型不純物濃度との組み合わせを第一増倍層の電界強度EA 、第二増倍層15の電界強度EBとしたとき、EBがEA×0.2となるよう形成することで、第二増倍層15で利得を得ることができた。
電界調整層14での電界緩和量はおよそ500kV/cmであり、ブレークダウン時に主たる増倍がおきるのは高強度均一電界型増倍層(第一増倍層13)であった。
低強度均一増倍層(第二増倍層15)の平均電界強度は、高強度均一増倍層(第一増倍層13)の平均電界強度の20%以下にまで下がっていた。このため、第二増倍層15での利得を得るために第二増倍層15の厚みを0.5μmとした。
このようにして作製した受光素子にゲートモードのバイアスを印加した。
ゲートパルスにより、ブレークダウン以上のバイアスをゲート幅Δtの時間だけ印加された状態において、ブレークダウンのための利得のほとんどを高強度均一電界型増倍層(第一増倍層13)で得た。
一方、光キャリアはそのキャリア走行上、低強度の増倍層(第二増倍層15)を横断した後に高強度の増倍層(第一増倍層13)でブレークダウンする。 その際、低強度の増倍層でも利得を得るため、ダークカウントに比して全利得は高くなる。 その結果、光子検出信号とダークキャリア、アフターパルスキャリアなどの波高分布の差が強調されて通常素子よりも高いS/N比を得ることができた。
11 半導体基板(基板)
12 バッファ層
13 第一増倍層
14 電界調整層
15 第二増倍層
16 電界緩和層
17 光吸収層
18 バッファ層
19 コンタクト層
20 p側電極
21 パッシベーション膜(絶縁膜)
22 n側電極
23 ARコーティング
91 光吸収層
92 電界緩和層
93 増倍層
94 倍層中で均一に分布して発生するダークキャリア
Claims (7)
- 第一増倍層と、
この第一増倍層上に設けられた電界調整層と、
前記電界調整層上に設けられた第二増倍層と、
前記第二増倍層上に設けられた電界緩和層と、
前記電界緩和層上に設けられた光吸収層とを備え、
前記第一増倍層および前記第二増倍層の各層は、p型の不純物濃度およびn型の不純物濃度の各不純物濃度が、5×1015cm−3以下であり、
動作電圧を印加した状態において、前記電界調整層により、前記第一増倍層の電界強度を前記第二増倍層の電界強度よりも大きくした半導体受光素子。 - 請求項1に記載の半導体受光素子において、
上部に前記第一増倍層が設けられる第一の層を有し、
前記第一の層はn型であり、
前記電界緩和層はp型である半導体受光素子。 - 請求項1または2に記載の半導体受光素子において、
前記電界調整層の膜厚と、前記電界調整層のp型あるいはn型の不純物濃度とは、前記第一増倍層の電界強度EA、前記第二増倍層の電界強度をEBとした場合、EA−EBが100kV/cm以上となるように設定されている半導体受光素子。 - 請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体受光素子において、
前記電界調整層の膜厚と、前記電界調整層のp型あるいはn型の不純物濃度とは、前記第一増倍層の電界強度EA、前記第二増倍層の電界強度をEBとした場合、EBがEA×0.1以上となるように設定されている半導体受光素子。 - 請求項1乃至4のいずれかに記載の半導体受光素子において、
前記第一増倍層、前記電界調整層、前記第二増倍層、前記電界緩和層、および前記光吸収層が積層される基板を有し、
前記基板は、InPであり、
前記第一増倍層がInAlAsを含んで構成され、
前記第一増倍層の厚みが0.2μm以上である半導体受光素子。 - 請求項5に記載の半導体受光素子において、
前記第二増倍層および前記電界調整層がInAlAsを含む半導体受光素子。 - 請求項1乃至6のいずれかに記載の半導体受光素子において、
前記電界調整層の膜厚を、0.001μm以上、0.05μm以下とする半導体受光素子。
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