JP5249244B2 - 複数種の酵母を利用した発酵飲料の製造方法 - Google Patents

複数種の酵母を利用した発酵飲料の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、複数種の酵母を利用することによる、香味が付与され、かつ抗酸化能を十分に有した発酵飲料の製造方法、及びその方法により得られる発酵飲料に関する。
清酒酵母は、ビール酵母に比べてカプロン酸エチルなどのような香気成分の産生能が高い。発酵飲料の製造において、清酒酵母を利用すれば、発酵飲料中のカプロン酸エチルなどのような香気成分の含有量を増やすことができ、香味豊かな発酵飲料が得られる。従って、清酒酵母等の香気成分の産生能の高い酵母をビール醸造に使用できれば、香味豊かなビールが得られる。しかし、清酒酵母はマルトースの発酵能が低く、マルトースを主成分とする麦汁等を用いた発酵飲料の製造には適さない。このマルトースの発酵能がビール酵母に比較して著しく低いという問題は他の醸造用酵母に関しても同様であり、この問題のためにビール酵母以外の醸造用酵母を用いた麦芽発泡酒の製造を実現している例は少ない。例を挙げれば、特許第2919341号には、ビール醸造に使用し得るビール酵母以外のマルトース発酵能の高い醸造用酵母、その取得方法、およびその方法によって得られる麦芽発酵飲料が開示されている。
一方、多くの食品では、酸化を受けると香りや味が悪くなり、商品価値が低下するという問題がある。そのため、食品の酸化を防止するために、脱酸素処理及び抗酸化処理は食品製造に欠かせないものとなっている。ビール又は発泡酒においても酸化による品質低下は重要な問題であり、酸化を防止するために様々な方法が提案されている。代表的なものとして、製造工程において徹底的に酸素との接触を断つ、抗酸化製造システムが挙げられる(特開2000−4866号公報)。
また、酸化に対する他の安定化方法としては例えば重亜硫酸ナトリウム又は重亜硫酸カリウム等の重亜硫酸塩、又はピロ亜硫酸塩をビールに添加する方法がある。ビール又は発泡酒において、劣化臭である酸化したモルトの風味は、一般に不飽和アルデヒド、特にトランス-2-ノネナール(trans-2-nonenal)とその関連化合物が原因であると言われている。これらの化合物は不飽和脂肪酸から発生すると考えられており、水素原子2つを失い(酸化)アルデヒドとなる。このアルデヒドによる酸化に対する安定化方法としては、重亜硫酸ナトリウム又は重亜硫酸カリウム等の重亜硫酸塩、又はピロ亜硫酸塩から遊離するSOを上記のアルデヒドに結合・作用させる方法が知られている。しかしながら、ビールへの重亜硫酸塩の添加が多くの国で禁止されており、また許可されている場合でも適切なラベルを貼ることが要求され、添加量も制限されている(例えば、濃度10ppmまで)。一方、ビール酵母自体がSO生成能を有し、飲料の酸化を防止する効果があることが知られているが、下面ビール酵母以外の酵母は発酵中に抗酸化物質であるSOを生成できない、もしくは、生成したとしてもごく微量である。
他方、複数種の酵母を利用することによる発酵飲料の製造を試みた例は極めて少ない。例としては、特表2007−514428号が挙げられるが、パラチノースを含有した麦汁を用いた発酵飲料の製造において、サッカロミッセスセレビシエ等に加えて、アルコールの生成を抑制する目的で他の酵母が添加されている例である。
特許第2919341号 特開2000−4866号公報 特表2007−514428号
本発明は、以上の背景から、下面ビール酵母以外の酵母由来の香味を付与し、かつ醸造工程にて抗酸化能を有するのに十分な濃度のSOを含む発酵飲料の製造方法、及びその方法により得られる発酵飲料を提供することを目的とする。
本発明者は、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、発酵飲料の製造方法において、下面ビール酵母と下面ビール酵母以外の酵母を使用して発酵を行うことにより、下面ビール酵母以外の酵母由来の種々の香味を付与し、さらに抗酸化物質であるSOを所定量以上含むことで優れた劣化耐性を有する発酵飲料を製造できることを見出した。即ち、複数種の酵母を用いることにより、両者由来の有益な特徴を併せ持った発酵飲料を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下面ビール酵母、および下面ビール酵母以外の醸造用酵母によってアルコール発酵させる工程を含む発酵飲料の製造方法である。
本発明の一態様では、下面ビール酵母以外の醸造用酵母は、上面ビール酵母、清酒酵母、焼酎酵母、およびワイン酵母からなる群から選択される一種またはそれ以上である。
本発明の他の態様では、下面ビール酵母以外の醸造用酵母はマルトースの発酵能の低い酵母である。
また、本発明は、下面ビール酵母、および下面ビール酵母以外の醸造用酵母によってアルコール発酵させる工程を含む発酵飲料の製造方法において、発酵工程にて下面ビール酵母を、発酵開始時または発酵途中に総発酵液量基準として1×10〜50×10個/mlとなるように添加する、上記発酵飲料の製造方法である。
また、本発明は、下面ビール酵母、および下面ビール酵母以外の醸造用酵母によってアルコール発酵させる工程を含む発酵飲料の製造方法において、発酵工程にて下面ビール酵母以外の醸造用酵母を、発酵開始時または発酵途中に総発酵液量基準として104〜10個/mlとなるように添加する、上記発酵飲料の製造方法である。
さらに本発明は、上記記載の方法により製造される発酵飲料である。
本発明は、発酵飲料の製造工程中の発酵工程において、下面ビール酵母と下面ビール酵母以外の醸造用酵母を発酵原液に添加して発酵させることによって、発酵飲料に対して下面ビール酵母以外の酵母由来の香味を付与することと抗酸化物質であるSOを所定量以上含むことで優れた劣化耐性を付与することを狙ったものである。
発酵原液
本発明において、発酵原液とは発酵工程に入る前の原料液のことをいい、これは酵母が資化するための単糖類、2糖類及び3糖類を含むものである。単糖類としては、グルコース、フラクトースなどが挙げられ、2糖類としては、マルトース、スクロースなどが挙げられる。3糖類としてはマルトトリオース、イソマルトトリオースなどが挙げられる。
発酵原液製造のための原料
本発明において、発酵原液製造のための原料は、発酵飲料の製造に使用することができる原料であれば、何ら制限されるものではない。すなわち、(1)麦芽および分画麦芽、あるいはコーン・米などの副原料、およびホップを利用したビールのための麦汁や、(2)水を除く原料に麦、糖化スターチなどの糖類、ホップなどを用いた発泡酒用麦汁、(3)非麦芽原料である麦以外の各種穀物、例えば、コーン、米、そば、ソルガム、粟、ひえ、および大豆やエンドウといった豆類や、それらをさらに酵素処理・脱臭処理・分画などして得られた蛋白質または蛋白分解物等と、糖化スターチと、ホップとをベースにして製造された非麦芽発酵原液など、発酵原液が2糖類及び3糖類を含むのであればよい。中でも、麦芽などの麦を用いるのが好ましい。
糖類
本発明において、糖類とは発酵飲料の製造工程において糖化工程を経ることなく酵母が炭素源として資化できる糖を含有する原料のことをいう。例えば、それはデンプンなどの主に穀物原料を酵素で、又は酸やアルカリで加水分解して得られるものである。あるいは、それは、水飴あるいは市販されているもしくは合成などにより得られる液糖のことをいう。
ホップ
ホップは、発酵飲料がビールテイスト飲料の場合の製造に使用される。ホップはビール等の製造に使用する通常のペレットホップ、粉末ホップ、ホップエキスを香味に応じて適宜選択して使用することができる。さらに、イソ化ホップ、ヘキサホップ、テトラホップなどのホップ加工品を用いることもできる。
発酵原液の製造方法
本発明において、発酵原液製造方法は、通常発酵原液の製造に使用することができる方法であれば、何ら制限はない。例えば、公知の麦汁製造工程によって製造されたビール麦汁または発泡酒麦汁において、実施可能である。また、上記に示したような原料を使用した非麦芽原料を用い、煮沸・静置などして、製造した発酵原液でもよい。
酵母
i)下面ビール酵母
下面ビール酵母は、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)とサッカロミセス・バヤナス(S. bayanus)との交雑体であってサッカロミセス・パストリアヌス(S. pastorianus)に分類されるという見解が一般的となっている。従って、サッカロミセス・パストリアヌス(S. pastorianus)に分類されるビール醸造に用いられる酵母を用いることができる。ただし、アルコール発酵能を消失した菌株やSO生成能を消失した菌株については本発明での使用には適さない。例えば、Weihenstephan-34株を用いることができる。
ii)下面ビール酵母以外の酵母
本発明で用いる下面ビール酵母以外の酵母については、香り豊かな香味を付与できる酵母、例えば、上面ビール酵母、清酒酵母、焼酎酵母、ワイン酵母などを好適に用いることができる。これらの上面ビール酵母、清酒酵母、焼酎酵母、またはワイン酵母については、マルトース資化能の低い酵母であっても良い。
マルトースの資化能の低い酵母とは、マルトースを全く資化しないか、もしくはマルトースを資化できる程度が下面ビール酵母と比較して低いものをいう。
上面ビール酵母とは、エールタイプのビール醸造に用いられる酵母である。ビール醸造に用いられる上面ビール酵母は、主としてサッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)に分類される。例えば、Weihenstephan-165株、Weihenstephan-184株、Weihenstephan-197株などが挙げられる。好ましくは、Weihenstephan-197株を用いることができる。
清酒酵母とは、清酒醸造に用いられる酵母である。清酒醸造に用いられる酵母は、主としてサッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)に分類される。例えば、協会6号(財団法人 日本醸造協会頒布)、協会601号(財団法人 日本醸造協会頒布)、協会1501号(財団法人 日本醸造協会頒布)などが挙げられる。好ましくは、協会1501号を用いることができる。
焼酎酵母とは、焼酎醸造に用いられる酵母である。焼酎醸造に用いられる酵母は、主としてサッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)に分類される。例えば、焼酎用協会2号(財団法人 日本醸造協会頒布)、焼酎用協会3号(財団法人 日本醸造協会頒布)などである。好ましくは、焼酎用協会2号を用いることができる。
ワイン酵母とは、ワイン醸造に用いられる酵母である。ワイン醸造に用いられる酵母であれば特に限定されないが、例えば、サッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)や サッカロミセス・バヤナス(S. bayanus)に分類されるワイン酵母を好適に用いることができる。好ましくは、LalvinEC-1118株を用いることができる。
発酵工程
本発明の発酵工程について詳しく説明する。上記に示す通りに得られた発酵原液を発酵槽に入れ、適切な量の空気、好ましくは、溶存酸素が飽和になるまで、さらに好ましくは10個/mlの酵母当たりの溶存酸素濃度を1ppmになるまで発酵原液に吹き込んだ後、アルコール発酵酵母をそれぞれ添加して発酵を行う。
発酵温度は約5〜25℃、好ましくは10℃〜20℃である。発酵時間は、約4〜20日程度、好ましくは約5〜10日程度である。発酵時間や発酵温度といった発酵条件、ろ過、殺菌または充填などの製造条件は、製造する発酵飲料に持たせる特徴を適宜考慮して設定すればよい。
下面ビール酵母は、発酵工程にて、発酵開始時または発酵途中に総発酵液量基準として約1×10〜50×10個/ml、より好ましくは約5×10〜20×10個/ml、最も好ましくは10×10〜14×10個/mlとなるように添加する。
下面ビール酵母以外のもう1種類の酵母の添加濃度は、酵母由来の香味を付与することができれば特に制限されない。香味の設計方針や酵母の香味付与能力を考慮して、適宜設定すればよい。例えば、発酵工程にて、発酵開始時または発酵途中に総発酵液量基準として約104〜10個/ml、より好ましくは約1×105〜50×10個/ml、最も好ましくは1.5×10〜5×10個/mlとなるように添加する。これらの範囲とすることで、もう1種類の酵母由来の香味を付与することができる。また、通常のビールテイスト飲料としての香味を得るためには下面ビール酵母以外の酵母の濃度をある範囲に規定する必要がある。それにより、通常のビールテイスト飲料としての香味を得ることができる。
また、下面ビール酵母と下面ビール酵母以外の酵母の各々の添加タイミングは、特に限定されない。例えば、下記1)〜3)のいずれでも良い。1)発酵開始時に、複数種の酵母を同時に添加する。2)発酵開始時に下面ビール酵母を、発酵途中に下面ビール酵母以外の酵母を添加する。3)発酵開始時に下面ビール酵母以外の酵母を、発酵途中に下面ビール酵母を添加する。ただし、グルコースの資化速度を考慮すると、下面ビール酵母と下面ビール酵母以外の酵母の比較においてグルコースの資化速度が遅い酵母を発酵開始時に先に添加する方が好ましい。
上述2)や3)において、発酵途中に別の酵母を添加するタイミングは任意に設定でき、発酵開始後30分〜2日間で設定できる。好ましくは、発酵開始後1時間〜24時間が望ましい。
また、発酵原液の供給方法については、全量を発酵開始時から用いてもよいし、発酵開始時には発酵原液の一部を用い、発酵途中で残りの発酵原液を添加する方法を用いても良い。後者の場合には、発酵原液を添加するタイミングは適宜設定することができる。また、後者の場合、発酵途中に添加する別の酵母を、残りの発酵原液に懸濁させて添加することができる。
上記の発酵条件で下面ビール酵母を使用することにより、発酵飲料中の抗酸化能を向上させることができる。したがって、長期間保存した場合であっても発酵飲料の香味は劣化が少ない。得られる発酵飲料中のSO濃度は特に限定されないが、好ましくは10ppm以上であり、さらに好ましくは12ppm以上である。下面ビール酵母を使用することにより、重亜硫酸塩等の化合物の添加や設備装置の改修を必要とすることなく、発酵飲料の抗酸化能を向上させることができる。また、下面ビール酵母を使用することにより、発酵液中のエキス分は通常の発酵飲料の製造の場合と同程度まで消費することができる。
発酵飲料
本発明における発酵飲料としては、その原料や製法によって、穀物醸造酒及び果実醸造酒等が挙げられるが、発酵飲料であればどのような酒類でもよく、特に限定されるものではない。つまり、本発明の発酵飲料は、酵母による発酵工程を経て製造される飲料を全て包含する。例えば、発泡酒、ビール、低アルコール発酵飲料(例えばアルコール分1%未満の発酵飲料)、雑酒、リキュール類、スピリッツ類などが挙げられる。本発明はビールテイスト飲料の製法に適している。ビールテイスト飲料とは、炭素源、窒素源、ホップ類などを原料とし、酵母で発酵させた飲料であって、ビールのような風味を有するものをいい、例えば、発泡酒、ビール、雑酒、リキュール類、スピリッツ類、低アルコール発酵飲料(例えばアルコール分1%未満の麦芽発酵飲料)などが挙げられる。日本酒税法上のビール、発泡酒、その他醸造酒(発泡性)(1)、リキュール(発泡性)(1)、あるいは過去の日本酒税法上の分類で言えば、リキュール類、その他雑酒などに用いることができる。
本発明の発酵飲料のアルコール分は特に限定されないが、1〜15%(v/v)が望ましい。特にビールや発泡酒といったビールテイスト飲料として消費者に好んで飲用されるアルコールと同程度の濃度、すなわち1〜6%(v/v)の範囲が望ましいが特に限定されるものではない。
容器
得られた発酵飲料については、通常の発酵飲料と同様、ビン、缶、樽、またはペットボトル等の密封容器に充填して、容器入り飲料とすることができる。
本発明の発酵飲料の製造方法では、下面ビール酵母と下面ビール酵母以外の酵母を利用して発酵を行う。下面ビール酵母が効果的に働いて発酵飲料中の抗酸化物質を抗酸化能が発揮されるのに十分な濃度にすることができ、長期間保存した場合も香味劣化が少ない。
本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
以下の各実施例は、2Lスケールの醸造設備において試験的に実施したものである。
〔実施例1〕
実施例1は、発泡酒製造の発酵工程において、下面ビール酵母および香味の付加を目指して下面ビール酵母以外の酵母を併せて用い、特に下面ビール酵母以外の酵母として清酒酵母を使用した例である。
以下の原料を使用して発酵用麦汁を調製した。
麦芽使用比率24%、大麦使用比率16%、糖液使用比率60%にて原料を用いて、常法により通常の糖化工程を経て発酵用麦汁を得た。
上記で得られた発酵用麦汁の溶存酸素濃度を10ppmに調整した後、下面ビール酵母(Weihenstephan-34株)を10×10個/mlで、清酒酵母(協会1501号)をそれぞれ以下の濃度になるように添加して、17℃で7日間発酵させた。その後、−1℃で貯酒を行った。発酵液はろ過により酵母を取り除き、最終的な発泡酒を得た。
上述したように本実施例では、下面ビール酵母以外の酵母を清酒酵母として発泡酒を製造し、それぞれ清酒酵母の添加濃度を0、2.5、5、10×10個/mlとして試験を実施した。この製造方法によって製造した発泡酒について官能検査、あるいはSO2濃度、マルトース濃度を定量した。SO2濃度は、衛生試験法亜硫酸測定法に基づいて測定した。マルトース濃度(重量/容量%)は、公知の液体クロマトグラフィー法にて測定した(Analytica-EBC 1998.8.7)。
清酒酵母無添加をコントロールとした。清酒酵母の寄与による特徴香付加の判断は官能試験によって行った。官能での判断としては清酒酵母特有のフルーティ香に着目し、その尺度をフルーティ香付加度とした。
フルーティ香付加度の評価は、フルーティ香を感知したときの強度を1、2、3、4の4段階評価することによって行い、パネラー全員の評価結果を集計し、その平均値が1〜2未満の場合を×、2以上〜3未満の場合を△、3以上〜4の場合を○と表現し3段階評価にて最終評価とした。
また、ビールらしさは、ビールテイスト飲料としてのバランスの良さを、1、2、3、4の4段階評価することによって行い、パネラー全員の評価結果を集計し、その平均値が1〜2未満の場合を×、2以上〜3未満の場合を△、3以上〜4の場合を○と表現し3段階評価にて最終評価とした。
Figure 0005249244
下面ビール酵母と下面ビール酵母以外の酵母(清酒酵母)を用いた場合のみ、マルトースは完全に資化されていた。
SOによる劣化耐性を維持してかつ特徴香味を付加することのできる清酒酵母の濃度は2.5〜5×10個/mlが望ましい。
〔実施例2〕
本実施例は、60Lスケールの醸造設備において試験的に実施したものである。実施例2は、発泡酒の製造工程のうち発酵工程において、下面ビール酵母と香味の付加を目指して下面ビール酵母以外の酵母を用い、特に下面ビール酵母以外の酵母として清酒酵母を使用することにより本発明を適用した例で以下の手順で実施した。
以下の原料を使用して発酵用麦汁を調製した。
麦芽使用比率24%、大麦使用比率16%、糖液使用比率60%の原料を用いて、常法により通常の糖化工程を経て発酵用麦汁を得た。
上記で得られた発酵用麦汁の溶存酸素濃度を10ppmに調整した後、30Lの麦汁に清酒酵母(協会1501号)を10×10個/ml(総発酵液量基準としては5×10個/ml)の濃度になるように添加し、発酵を開始した。発酵10時間後に、30Lの麦汁とともに、下面ビール酵母(Weihenstephan-34株)を、60L液中の下面ビール酵母の濃度が10×10個/mlがなるように添加し、17℃で7日間発酵させた。その後、−1℃で貯酒を行った。発酵液はろ過により酵母を取り除き、最終的な発泡酒を得た。この製造方法によって製造した発泡酒について、官能検査およびSO2濃度、マルトース濃度を定量した。官能検査方法とSO2濃度、マルトース濃度の測定方法は実施例1に準じた。
Figure 0005249244
以上のように、SOを所定量以上産生しつつ、かつ特徴香味が付加された発泡酒を60Lのスケールにおいても製造できることが確認された。
この水準において、マルトースは完全に資化されていた。
〔実施例3〕
本実施例は、2Lスケールの醸造設備において実施したものである。麦芽発酵飲料(ビール)の製造工程中の発酵工程において、下面ビール酵母と香味の付加を目指して下面ビール酵母以外の酵母を用い、下面ビール酵母以外の酵母として清酒酵母、ワイン酵母、上面ビール酵母のいずれかを使用した。
以下の原料を使用して発酵用麦汁を調製した。
麦芽使用比率100%の原料を用いて、常法により通常の糖化工程を経て発酵用麦汁を得た。
上記で得られた発酵用麦汁の溶存酸素濃度を10ppmに調整した後、下面ビール酵母(Weihenstephan-34株)を13.5×10個/mlで、下面ビール酵母以外の酵母として清酒酵母(協会1501号)、ワイン酵母(LalvinEC-1118)、上面ビール酵母(Weihenstephan-197株)のいずれかをそれぞれ1.5×10個/mlの濃度になるように添加して、18℃で7日間発酵させた。その後、−1℃で貯酒を行った。発酵液はろ過により酵母を取り除き、最終的な麦芽発酵飲料(ビール)を得た。
この製造方法によって製造した麦芽発酵飲料(ビール)について官能検査を実施したところ、フルーティ香及びビールらしさが感じられ、清酒酵母、ワイン酵母、上面ビール酵母のいずれの酵母の場合も複数種酵母による香味の特徴の付加が確認された。
〔実施例4〕
本実施例は、2Lスケールの醸造設備において実施したものである。非麦芽発酵飲料の製造工程中の発酵工程において、下面ビール酵母と香味の付加を目指して下面ビール酵母以外の酵母を用い、特に下面ビール酵母以外の酵母として清酒酵母を使用した。
以下の原料を使用して非麦芽発酵原液を調製した。
仕込水85kgに対し、糖シロップを15kg、とうもろこしタンパク分解物300g(0.3重量%)、酵母エキス200g(0.2重量%)、カラメル色素30g、ペレットホップ30gを加えた。これらを60分間煮沸した後、静置してホップ粕を除き、非麦芽発酵原液を得た。
上記で得られた非麦芽発酵原液の溶存酸素濃度を10ppmに調整した後、下面ビール酵母(Weihenstephan-34株)を10×10個/mlで、清酒酵母(協会1501号)をそれぞれ以下の濃度になるように添加して、20℃で7日間発酵させた。その後、−1℃で貯酒を行った。発酵液はろ過により酵母を取り除き、最終的な非麦芽発酵飲料を得た。
上述したように本実施例では、下面ビール酵母以外の酵母として清酒酵母を用いて非麦芽発酵飲料を製造し、それぞれ清酒酵母の添加濃度を0、2.5、5×10個/mlとして試験を実施した。この製造方法によって製造した非麦芽発酵飲料について官能検査、およびSO2濃度、マルトース濃度を定量した。官能検査方法とSO2濃度、マルトース濃度の測定方法は実施例1に準じた。
Figure 0005249244
どの水準においてもマルトースは完全に資化されていた。SOによる劣化耐性を維持してかつ特徴香味を付加することのできる清酒酵母の濃度は2.5〜5×10個/mlが望ましい。
〔実施例5〕
本実施例は、2Lスケールの醸造設備において実施したものである。実施例5は、非麦芽発酵飲料の製造工程中の発酵工程において、下面ビール酵母と香味の付加を目指して下面ビール酵母以外の酵母を用い、特に下面ビール酵母以外の酵母としてワイン酵母を使用した例である。
以下の原料を使用して非麦芽発酵原液を調製した。
仕込水85kgに対し、糖シロップを15kg、とうもろこしタンパク分解物300g(0.3重量%)、酵母エキス200g(0.2重量%)、カラメル色素30g、ペレットホップ30gを加えた。これらを60分間煮沸した後、静置してホップ粕を除き、非麦芽発酵原液を得た。
上記で得られた非麦芽発酵原液の溶存酸素濃度を10ppmに調整した後、下面ビール酵母(Weihenstephan-34株)を10×10個/mlの濃度で、ワイン酵母(LalvinEC-1118)を5×10個/mlの濃度になるように添加して、20℃で7日間発酵させた。その後、−1℃で貯酒を行った。発酵液はろ過により酵母を取り除き、最終的な非麦芽発酵飲料を得た。この製造方法によって製造した非麦芽発酵飲料について、官能検査およびSO2濃度、マルトース濃度を定量した。官能検査方法とSO2濃度、マルトース濃度の測定方法は実施例1に準じた。
ワイン酵母無添加をコントロールとした。ワイン酵母の寄与による特徴香付加の判断は官能によって行った。官能での判断としてはワイン酵母特有のフルーティ香に着目し、その尺度をフルーティ香付加度とした。
フルーティ香付加度の評価は、フルーティ香を感知したときの強度を1、2、3、4の4段階評価することによって行い、パネラー全員の評価結果を集計し、その平均値が1〜2未満の場合を×、2以上〜3未満の場合を△、3以上〜4の場合を○と表現し3段階評価にて最終評価とした。
また、ビールらしさは、ビールテイスト飲料としてのバランスの良さを、1、2、3、4の4段階評価することによって行い、パネラー全員の評価結果を集計し、その平均値が1〜2未満の場合を×、2以上〜3未満の場合を△、3以上〜4の場合を○と表現し3段階評価にて最終評価とした。
Figure 0005249244
どの水準においてもマルトースは完全に資化されていた。上記製造例において、SOによる劣化耐性を維持しつつ、かつワイン酵母の特徴香味が付加された非麦芽発酵飲料を製造することができた。
以上説明したように、上記の結果から本発明の麦芽発酵飲料の製造において、下面ビール酵母以外の醸造用酵母として、清酒酵母、上面ビール酵母、焼酎酵母、またはワイン酵母を用いることにより所望の効果が得られることが確認できた。よって、本発明によると、ビール又は発泡酒の発酵飲料の製造工程中の発酵工程において、下面ビール酵母と下面ビール酵母以外の醸造用酵母を利用することによって、下面ビール酵母以外の酵母由来の香味を付与することができ、かつ重亜硫酸塩等の化合物を添加や設備装置の改修を必要とすることなく、醸造工程にて抗酸化物質であるSOを10ppm以上含むことで優れた劣化耐性を有する発酵飲料を提供することができる。
〔実施例6〕
本実施例は、2Lスケールの醸造設備において試験的に実施したものである。実施例6は、発泡酒の製造工程のうち発酵工程において、下面ビール酵母と香味の付加を目指して下面ビール酵母以外の酵母を用い、特に下面ビール酵母以外の酵母として清酒酵母を使用することにより本発明を適用した例で以下の手順で実施した。
以下の原料を使用して発酵用麦汁を調製した。
麦芽使用比率24%、大麦使用比率16%、糖液使用比率60%の原料を用いて、常法により通常の糖化工程を経て発酵用麦汁を得た。
上記で得られた発酵用麦汁の溶存酸素濃度を10ppmに調整した後、2Lの麦汁に下面ビール酵母(Weihenstephan-34株)を5×106個/mlの濃度で、清酒酵母(協会1501号)を0.1×106個/mlの濃度になるように添加して、17℃で7日間発酵させた。その後、−1℃で貯酒を行った。発酵液はろ過により酵母を取り除き、最終的な発泡酒を得た。この製造方法によって製造した発泡酒について官能検査を実施したところ、フルーティ香及びビールらしさが感じられ、複数種酵母による香味の特徴の付加が確認された。
〔実施例7〕
本実施例は、2Lスケールの醸造設備において試験的に実施したものである。実施例7は、発泡酒の製造工程のうち発酵工程において、下面ビール酵母と香味の付加を目指して下面ビール酵母以外の酵母を用い、特に下面ビール酵母以外の酵母として清酒酵母を使用することにより本発明を適用した例で以下の手順で実施した。
以下の原料を使用して発酵用麦汁を調製した。
麦芽使用比率24%、大麦使用比率16%、糖液使用比率60%の原料を用いて、常法により通常の糖化工程を経て発酵用麦汁を得た。
上記で得られた発酵用麦汁の溶存酸素濃度を10ppmに調整した後、1Lの麦汁に下面ビール酵母(Weihenstephan-34株)を40×106個/ml(総発酵液量基準としては20×106個/ml)の濃度になるように添加し、発酵を開始した。発酵10時間後に、1Lの麦汁とともに、清酒酵母(協会1501号)を、2L液中の清酒酵母の濃度が50×106個/mlがなるように添加し、17℃で7日間発酵させた。その後、−1℃で貯酒を行った。発酵液はろ過により酵母を取り除き、最終的な発泡酒を得た。この製造方法によって製造した発泡酒について官能検査を実施したところ、フルーティ香及びビールらしさが感じられ、複数種酵母による香味の特徴の付加が確認された。
産業上の利用の可能性
本発明の発酵飲料の製造方法によれば、ビール又は発泡酒の発酵飲料の製造工程中の発酵工程において、複数種の酵母を利用することによって、基本的にビール又は発泡酒のような発酵飲料の香味を保持した上で、下面ビール酵母以外の酵母由来の香味を付与することができ、かつ重亜硫酸塩等の化合物を添加や設備装置の改修を必要とすることなく醸造工程にて抗酸化物質であるSOを10ppm以上含むことで優れた劣化耐性を有する発酵飲料が製造できる。

Claims (7)

  1. i)下面ビール酵母、およびii)下面ビール酵母以外の醸造用酵母による複数種の酵母によってアルコール発酵させる工程を含む、ビールの製造方法であって、
    ビール中のSO の濃度が10ppm以上であり、
    下面ビール酵母以外の醸造用酵母は清酒酵母および/またはワイン酵母であり、
    発酵工程において、下面ビール酵母を発酵開始時または発酵途中に総発酵液量基準として1×10〜50×10個/mlとなるように添加し、下面ビール酵母以外の醸造用酵母を発酵開始時または発酵途中に総発酵液量基準として2.5×10 〜50×10 個/mlとなるように添加する、
    前記製造方法。
  2. 下面ビール酵母以外の醸造用酵母がマルトースの発酵能の低い酵母である、請求項1に記載の製造方法。
  3. 発酵工程に用いる発酵原液がマルトースを成分として含むものである、請求項1または2記載の製造方法。
  4. 発酵原液が麦を原料として調製される、請求項3に記載の製造方法。
  5. 麦が麦芽である、請求項4に記載の製造方法。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られるビール。
  7. 醗酵飲料中のSOの濃度を10ppm以上とする方法であって、
    i)下面ビール酵母、およびii)下面ビール酵母以外の醸造用酵母による複数種の酵母によってアルコール発酵させる工程を含み、
    下面ビール酵母以外の醸造用酵母は清酒酵母および/またはワイン酵母であり、
    発酵工程において、下面ビール酵母を発酵開始時または発酵途中に総発酵液量基準として1×10〜50×10個/mlとなるように添加し、下面ビール酵母以外の醸造用酵母を発酵開始時または発酵途中に総発酵液量基準として2.5×10 〜50×10 個/mlとなるように添加する、前記方法。
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