以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。本発明に係る力覚センサは、3組以上の基本センサを組み合わせて構成される装置である。そこで、ここでは便宜上、基本センサの具体例の構成および動作を§1,§2で述べ、この基本センサを利用して構成した力覚センサの実施形態を§3以降で説明することにする。
<<< §1. 具体的な基本センサの構成例 >>>
ここでは、まず、本発明に係る力覚センサの一部品として利用される基本センサの具体的な構成例を述べる。ここで述べる基本センサは、前掲の特許文献2(特許第4987162号公報)に開示されているセンサであり、その詳細は、特許文献2に説明されている。そこで、以下の説明では、その構造と動作を簡単に述べることにする。
図1には、この基本センサを構成する基本構造体の上面図(上段の図(a) )および側面図(下段の図(b) )が示されている。下段の側面図に示されているように、この基本構造体の主たる構成要素は、起歪体10、接続部材20、受力体30である。
図1の上段の上面図に示されているとおり、起歪体10は、XY平面に平行な上面および下面をもった板状部材によって構成されている。起歪体10の内部には、下段の側面図に破線で示すように、検出用溝G1が設けられており、この検出用溝Gの底部によってダイアフラム部11が形成されている。一方、この検出用溝G1の周囲には側壁部12が形成されている。また、検出用溝G1の底面(ダイアフラム部11の上面)には、歪検出基板40が配置されている。
ここでは、説明の便宜上、この歪検出基板40の中心位置に原点Oをとり、図示の各方向にX軸,Y軸,Z軸をとることにより、XYZ三次元直交座標系を定義する。すなわち、上段の上面図では、右方向にX軸、上方向にY軸が定義され、Z軸は紙面に垂直な方向を向く。また、下段の側面図では、右方向にX軸、上方向にZ軸が定義され、Y軸は紙面に垂直な方向を向く。
ここに示す例の場合、受力体30も、XY平面に平行な上面および下面をもった板状部材によって構成されている。そして、その内部には、図に破線で示すように、検出用溝G2が設けられており、この検出用溝Gの底部によってダイアフラム部31が形成されている。一方、この検出用溝G2の周囲には側壁部32が形成されている。図示する例の場合、起歪体10および受力体30は、同じ直径をもった円盤状の部材によって構成されており、Z軸が中心軸となるように配置されているため、上面図において、受力体30は起歪体10に完全に重なった状態になっている。
受力体30は、起歪体10の下方に所定間隔をおいて配置され、両者間は接続部材20によって接続される。接続部材20は、Z軸上に配置された柱状部材(この例の場合は、円柱状の部材)によって構成され、その上端はダイアフラム部11の下面中央部に接続され、その下端はダイアフラム部31の上面中央部に接続されている。
ここに示す例の場合、起歪体10、接続部材20、受力体30は、同一材料(たとえば、コバールや42−アロイなどのシリコン基板と線膨張係数の近い金属、もしくはステンレスやアルミニウムなどの金属)からなる一体構造体によって構成されている。したがって、起歪体10と接続部材20との接続部および接続部材20と受力体30との接続部は、接着剤などによる接合ではなく、同一材料からなる連続構造体によって構成されている。
図1上段の上面図に描かれている花弁状のカバー18は、検出用溝G1の上部を覆う蓋として機能する。後述するように、検出用溝G1の平面形状は、このカバー18の輪郭形状よりもひとまわり小さい花弁状をしている。下段の側面図に破線で描かれている検出用溝G1は、起歪体10をXZ平面で切断したときの検出用溝G1の輪郭位置を示すものである。図1上段に示すとおり、起歪体10の側壁部12には、4箇所にネジ孔15が形成されている(下段の側面図では、これらのネジ孔は図示省略)。また、起歪体10の側壁部12から外部へ突き出している回路基板50は、検出回路を実装するための基板であり、その一端は検出用溝G1にまで達している。
この基本センサの内部の基本構造は、図2を参照することにより更に明瞭になる。図2には、図1に示す基本構造体のカバー18を取り外した状態を示す上面図(上段の図(a) )およびXZ平面で切断した側断面図(下段の図(b) )が示されている。ここで、上段の上面図において、花弁状の輪郭f1と輪郭f2との間に挟まれたドットによるハッチングを施した部分は、カバー18の下面周辺部を接着するためのカバー接着部19の領域を示すものである(ハッチングは領域を示すためのものであり、断面を示すものではない)。
図2下段の側断面図に示されているとおり、カバー接着部19は、起歪体10の上面から、カバー18の厚みに相当する寸法だけ下がった位置に形成された段差部である。また、図2上段に示す花弁状の輪郭f2は、図1に示すカバー18の輪郭形状に一致する。したがって、図にハッチングを施して示したカバー接着部19の部分に接着剤を塗布し、上方からカバー18を段差部に嵌合すれば、カバー18の下面周囲部をカバー接着部19に接着固定することができる。
一方、カバー接着部19の内側の輪郭f1は、検出用溝G1の輪郭を示すものである。すなわち、起歪体10の上面の中央部には、花弁状の輪郭f1の内部に相当する検出用領域が定義されており、この検出用領域には、起歪体10の下面側に向かって均一の深さをもつ検出用溝G1が形成されている。図2下段の側断面図は、この基本構造体をXZ平面で切断した断面を示しているため、検出用溝G1の一部の縦断面しか現れていないが、図2上段の上面図に示すとおり、検出用溝G1は、花弁状の平面形状を有している。検出用溝G1の深さは均一であり、この検出用溝G1の底部には、均一の厚みをもった花弁状のダイアフラム部11が形成されている。ダイアフラム部11は、肉厚が薄いため、検出対象となる力の作用を受けると撓み(機械的変形)を生じる。図示のとおりダイアフラム部11の下面と側壁部12の下面とは同一平面上に位置する。
歪検出基板40は、上面および下面がXY平面に平行な面をなす正方形状の半導体基板であり、Z軸が中心軸となるように配置される。図2上段の上面図に示すとおり、検出用溝G1の花弁状の平面形状は、この正方形状をした歪検出基板40を収容するのに適した形状になっている。図2下段の側断面図に示すとおり、歪検出基板40は、検出用溝G1の底面(すなわち、ダイアフラム部11の上面)にダイアフラム部11の変形によって生じる応力が伝達されるように接合される(具体的には、歪検出基板40は、下面全面に接着剤を塗布して、ダイアフラム部11の上面に接着される)。
歪検出基板40の上面の所定箇所にはピエゾ抵抗素子Aが形成されている(下段の側断面図では図示省略)。ここに示す例の場合、歪検出基板40はシリコン基板によって構成されており、ピエゾ抵抗素子Aは、このシリコン基板の上面層にP型もしくはN型の不純物を注入した領域として構成できる。図2上段の例では、破線で示す接続部材20の位置の外側直近部に8組のピエゾ抵抗素子Aが配置されているが、ピエゾ抵抗素子の数や配置は、この例に限定されるものではない。
要するに、この基本センサに用いる歪検出基板40は、上面および下面がXY平面に平行な面をなし、検出用溝G1の底面にダイアフラム部11の変形によって生じる応力が伝達されるように接合され、上面の所定箇所にピエゾ抵抗素子が形成されたものであればよい。回路基板50には、ピエゾ抵抗素子Aの電気抵抗の変化に基づいて、受力体30が受けた力を示す電気信号を出力する検出回路(図示省略)が実装されている。
一方、受力体30は、起歪体10とほぼ同じ構造をもった構成要素である。起歪体10には、上面側に検出用溝G1が設けられているのに対して、受力体30には、下面側に検出用溝G2が設けられている。ここで、検出用溝G2の平面形状は、円形をしている。検出用溝G1内には、歪検出基板40が配置されているのに対して、検出用溝G2内には、そのような構成要素は設けられておらず、カバーも設けられていない。なお、前掲の特許文献2(特許第4987162号公報)に開示されているセンサの場合、受力体30側には検出用溝G2は設けられていない。本発明に用いる基本センサでは、受力体30側にも検出用溝G2を設けることにより、受力体30自身にも可撓性をもたせ、本願に示す6軸力覚センサの検出感度の向上を図っている。
結局、この基本センサは、ダイアフラム部11を有する起歪体10と、ダイアフラム部31を有する受力体30と、両ダイアフラム部11,31を接続する接続部材20と、XYZ三次元直交座標系の原点Oの位置に配置され、ダイアフラム部11に接合された歪検出基板40と、検出対象となる力を電気信号として出力する検出回路(回路基板50上に実装された回路)と、を備え、XYZ三次元直交座標系における所定軸方向の力成分および所定軸まわりのモーメント成分を検出する機能を有している。
起歪体10の側壁部12の4箇所に形成されたネジ孔15は、起歪体10を外部の物体に固定するための貫通孔(ネジは切られていない)である。図2下段の側断面図には、左右のネジ孔15に、それぞれネジNを挿通させた状態が描かれている。これらのネジNは、起歪体10の上方に配置された物体(§3で述べる実施形態の場合は、内側構造体200)に形成されたネジ孔内の雌ネジに螺合する。こうして、起歪体10は、4本のネジNによって、当該物体にしっかりと固定されることになる。
なお、図2下段の側断面図に示すとおり、受力体30の側壁部32の外周部分には、4箇所に開口部33が設けられている。各開口部33は、各ネジ孔15の真下の位置に形成されおり、ネジ孔15に挿通されたネジNを回転するための器具(ドライバー)を挿入するために利用される。
図3は、図1に示す基本構造体の下面図であり、図4は、図3に示す基本構造体に4本のネジNを挿通した状態を示す下面図である。上述したとおり、受力体30の外周部には、起歪体10のネジ孔15に挿通されたネジNを回転するための器具(ドライバー)を挿入するための開口部33(図示のとおり、受力体30の外周部から中心軸方向に向かって形成されたU字状の切り欠き部)が形成されている。
この基本センサを相手方の物体(§3で述べる実施形態の場合は、内側構造体200)に取り付けるには、4箇所にある開口部33を利用して、受力体30の下面側から4本のネジNを起歪体10のネジ孔15に挿通し、器具(ドライバー)で回転させることにより、4本のネジNを固定すればよい。図4は、こうして4本のネジNによる固定が完了した状態を示している。
開口部33が、それぞれX軸もしくはY軸に沿った位置に形成されているのに対して、受力体30の外周部における45°ずれた4箇所には、受力体30をその下方に配置されている物体(§3で述べる実施形態の場合は、外側構造体100)に固定するためのネジ孔35が形成されている。
図5は、図1に示す基本構造体のカバー18を取り外した状態を示す上面図(上段の図(a) )およびその側断面図(下段の図(b) )である。ここで、図5上段の上面図は、図2上段の上面図を時計まわりに45°回転させたものに相当し、図5下段の側断面図は、図5上段に示す構造体を切断線W−Wの位置で切断した断面を示している。したがって、この側断面図には、左右にネジ孔35が現れている。受力体30に形成されたネジ孔35の内部には、雌ネジが形成されており、下方に配置された物体(§3で述べる実施形態の場合は、外側構造体100)側から導出された4本のネジの先端部と螺合する。これにより、受力体30を当該物体にしっかりと固定することができる。
なお、図5下段の側断面図に示された検出用溝G1の輪郭形状は、図2下段の側断面図に示された検出用溝G1の輪郭形状とは異なっているが、これは前者が切断線W−Wの位置における断面を示しているのに対して、後者はXZ平面による断面を示しているためである。図5下段の側断面図には、輪郭f1,f2の相違によって生じる段差構造により、カバー接着部19が形成される様子が明瞭に示されている。また、起歪体10の側壁部12に、外部から検出用溝G1へ向かって貫通した挿入口が設けられ、検出回路が実装された回路基板50が、この挿入口に挿入固定されている状態も明瞭に示されている。歪検出基板40の上面に設けられた各ピエゾ抵抗素子A(下段の側断面図では図示省略)と、回路基板50上に設けられた検出回路との間には、ボンディングワイヤ47を含む配線が施される。
<<< §2. 具体的な基本センサの動作 >>>
続いて、§1で述べた基本センサの動作を説明する。ここでは、まず、この基本センサに外力が作用したとき、ダイアフラム部11がどのように変形し、歪検出基板40にどのような応力が作用するかを考えてみよう。図6は、図1に示す基本構造体にY軸まわりのモーメント成分+Myが作用したときの変形状態を示すXZ平面での側断面図である。図において、Y軸は、原点Oにおいて紙面に垂直奥方向を向いた軸である。
なお、本願では、特定の座標軸まわりのモーメント成分の符号は、当該特定の座標軸の正方向に右ネジを進めるための回転方向を正にとることにする。したがって、図示の例の場合、モーメント成分+Myは、Y軸を中心軸として、受力体30を時計まわりに回転させる力になり、モーメント成分−Myは、Y軸を中心軸として、受力体30を反時計まわりに回転させる力になる。
ダイアフラム部11,31は、他の部分よりも肉厚が薄い膜状の構造部であるため、外力が作用すると弾性変形により撓みを生じることになる。したがって、起歪体10を固定した状態において、受力体30に対してモーメント成分+Myが作用すると、ダイアフラム部11,31は図示のように変形し、歪検出基板40には図示のような変形が生じることになる。その結果、歪検出基板40の上面には、図に矢印で示すような応力が加わる。すなわち、歪検出基板40の上面の中央付近(接続部材20の接続領域の外側直近部)に着目すると、図の左側では伸びる方向への応力(引張り応力)が加わり、図の右側では縮む方向への応力(圧縮応力)が加わる。その結果、各位置に配置されたピエゾ抵抗素子の電気抵抗に変化が生じることになる。
たとえば、シリコン基板上に形成されたP型のピエゾ抵抗素子の場合、伸びる方向への応力が作用すると抵抗値は増加し、縮む方向への応力が作用すると抵抗値は減少する。N型のピエゾ抵抗素子の場合は、これと逆の結果が生じる。そこで、回路基板50上に、このようなピエゾ抵抗素子の抵抗値の変化を検知する検出回路を設けておけば、受力体30に作用した外力成分を電気信号として検出することができる。
各ピエゾ抵抗素子に加わる応力は、受力体30に作用した外力成分の種類によって異なる。たとえば、負のモーメント成分−Myが作用した場合、図6とは左右逆転した変形態様が得られることになる。図7は、図1に示す基本構造体にZ軸方向の力成分+Fzが作用したときの変形状態を示すXZ平面での側断面図である。歪検出基板40の中央部が上方(Z軸正方向)に押し上げられ、歪検出基板40の上面の中央付近に着目すると、左右いずれの位置においても伸びる方向への応力が加わる。負の力成分−Fz(図7の下方へ向かう力成分)が作用した場合は、これとは逆に、左右いずれの位置においても縮む方向への応力が加わることになる。
図8は、図5に示す8組のピエゾ抵抗素子Aの配置を詳細に示す上面図である。説明の便宜上、8組のピエゾ抵抗素子にA1〜A8の符号を付して示してある。なお、この図8におけるハッチングは、ピエゾ抵抗素子A1〜A8の形成領域を示すものであり、断面を示すものではない。
具体的には、この例の場合、歪検出基板40の上面には、X軸方向が長手方向となるように、X軸正領域に沿って配置された第1のピエゾ抵抗素子A1および第2のピエゾ抵抗素子A2と、X軸方向が長手方向となるように、X軸負領域に沿って配置された第3のピエゾ抵抗素子A3および第4のピエゾ抵抗素子A4と、Y軸方向が長手方向となるように、Y軸正領域に沿って配置された第5のピエゾ抵抗素子A5および第6のピエゾ抵抗素子A6と、Y軸方向が長手方向となるように、Y軸負領域に沿って配置された第7のピエゾ抵抗素子A7および第8のピエゾ抵抗素子A8と、が設けられている。
ここで、第1〜第8のピエゾ抵抗素子A1〜A8は、同一材料かつ同一サイズのピエゾ抵抗素子によって構成されており、その電気的特性は同一になる。したがって、各素子に同じ条件で応力が加われば、いずれも同じ抵抗値変化を生じることになる。また、各ピエゾ抵抗素子A1〜A8の配置パターンは、XZ平面およびYZ平面に関して対称形をなすようになっており、図8の上面図に示されている平面パターンは、X軸に関して線対称、Y軸に関しても線対称の図形になっている。
図9は、図8に示す8組のピエゾ抵抗素子A1〜A8の抵抗値の変化を示す表である。図に「+Mx」と標記された行の各欄は、受力体30にX軸正まわりのモーメント成分+Mxが作用したときの抵抗値変化を示し、「+My」と標記された行の各欄は、受力体30にY軸正まわりのモーメント成分+Myが作用したときの抵抗値変化を示し、「+Fz」と標記された行の各欄は、受力体30にZ軸正方向の力成分+Fzが作用したときの抵抗値変化を示している。ここで、「+」は抵抗値が増加することを示し、「−」は抵抗値が減少することを示し、「0」は抵抗値に変化が生じないことを示す。
図9の表において、「+My」の欄の結果がこのようになることは、図6の変形態様を見れば容易に理解できよう。8組のピエゾ抵抗素子A1〜A8は、いずれもP型のピエゾ抵抗素子であるので、図6の変形態様を考慮すれば、図8に示す上面図において、素子A1,A2には長手方向に縮む応力が作用して抵抗値は減少し、素子A3,A4には長手方向に伸びる応力が作用して抵抗値は増加することがわかる。これに対して、素子A5〜A8については、長手方向に関する伸縮応力は発生しないため、抵抗値に変化は生じない。「+Mx」の欄の結果が得られる理由も同様である。
一方、「+Fz」の欄の結果がこのようになることは、図7の変形態様を見れば容易に理解できよう。図7の変形態様を考慮すれば、図8に示す上面図において、すべてのピエゾ抵抗素子A1〜A8には長手方向に伸びる応力が作用して抵抗値は増加することがわかる。なお、逆まわりのモーメント成分「−Mx」,「−My」や、逆方向の力成分「−Fz」が作用した場合は、図9の表に示す各符号を逆転した結果が得られることになる。
この図9の表に示す結果を踏まえれば、図10および図11に示す検出回路により、Y軸まわりのモーメント成分MyおよびX軸まわりのモーメント成分Mxの検出が可能になることがわかる。
図10に示す検出回路は、第1のピエゾ抵抗素子A1と第2のピエゾ抵抗素子A2とを第1の対辺に配置し、第3のピエゾ抵抗素子A3と第4のピエゾ抵抗素子A4とを第2の対辺に配置したホイートストンブリッジを用いてY軸まわりのモーメント成分Myの検出を行う回路である。直流電源Eから所定の電源電圧を供給すると、ブリッジが平衡条件を維持している間は、両端子Ty1,Ty2は等電位を保つが、平衡状態が崩れると、両端子間に電位差Vyが生じることになる。この電位差Vyは、Y軸まわりのモーメント成分Myの向きおよび大きさを示す電気信号になる。
たとえば、モーメント成分+Myが作用すると、図9の表に示すとおり、ピエゾ抵抗素子A1,A2の抵抗値は減少し、ピエゾ抵抗素子A3,A4の抵抗値は増加するので、端子Ty1側が正、端子Ty2側が負となる電圧Vyが発生する。逆まわりのモーメント成分−Myが作用した場合は、電圧Vyの符号が逆転する。また、作用したモーメント成分が大きければ、電圧Vyの絶対値も大きくなる。
同様に、図11に示す検出回路は、第5のピエゾ抵抗素子A5と第6のピエゾ抵抗素子A6とを第1の対辺に配置し、第7のピエゾ抵抗素子A7と第8のピエゾ抵抗素子A8とを第2の対辺に配置したホイートストンブリッジを用いてX軸まわりのモーメント成分Mxの検出を行う回路である。直流電源Eから所定の電源電圧を供給すると、ブリッジが平衡条件を維持している間は、両端子Tx1,Tx2は等電位を保つが、平衡状態が崩れると、両端子間に電位差Vxが生じることになる。この電位差Vxは、X軸まわりのモーメント成分Mxの向きおよび大きさを示す電気信号になる。
なお、モーメント成分Mxが作用した場合は、ピエゾ抵抗素子A1〜A4の抵抗値変化は生じないので、図10に示す検出回路が、モーメント成分Mxを誤検出することはない。また、力成分Fzが作用した場合は、ピエゾ抵抗素子A1〜A8のすべての抵抗値が増加することになるので、図10に示す検出回路は、ブリッジの平衡条件を維持し、力成分Fzを誤検出することはない。同様に、図11に示す検出回路は、モーメント成分Myや力成分Fzを誤検出することはない。このように、図10および図11に示す検出回路は、他軸成分の干渉を排除した正確な検出値を得ることができる。
また、図10および図11に示す検出回路は、いずれもホイートストンブリッジを用いた差分検出を行う回路になっており、回路基板50に実装されることになる。差分検出が行われるため、実使用環境(特に温度環境)の変化によって各ピエゾ抵抗素子の電気的特性に変化が生じても、その影響が検出値として出力されることはない。たとえば、温度変化によって、8組のピエゾ抵抗素子の電気抵抗が増減したとしても、これらの増減は8組のピエゾ抵抗素子すべてに対して生じる現象であるため、外力が作用していない状態では、ブリッジ回路の平衡条件はそのまま維持され、検出電圧が出力されることはない。このように、図10および図11に示す検出回路は、実使用環境の影響を排除した正確な検出を行うことが可能である。
なお、図9の表の「+Fz」の欄の結果を踏まえれば、8組のピエゾ抵抗素子A1〜A8の抵抗値の総和の変動量として、Z軸方向の力成分を検出できることがわかる。すなわち、外力が何ら作用していない状態における8組のピエゾ抵抗素子A1〜A8の抵抗値の総和を基準値として測定しておけば、当該抵抗値の総和が基準値より増加すれば、増加分はZ軸正方向の力成分+Fzの大きさを示すものになり、当該抵抗値の総和が基準値より減少すれば、減少分はZ軸負方向の力成分−Fzの大きさを示すものになる。ただ、Z軸方向の力成分に関しては、差分検出を行うことはできないため、実使用環境の変化に起因した検出誤差が含まれることになる。
もっとも、§3以降で述べる力覚センサに利用する場合、基本センサは、X軸まわりのモーメント成分MxおよびY軸まわりのモーメント成分Myを検出する機能を有していれば足り、Z軸方向の力成分Fzを検出する機能は不要である。よって、ここで述べたセンサを、本発明に係る力覚センサ用の基本センサとして利用するにあたっては、Z軸方向の力成分Fzについての正確な検出ができなくても何ら支障は生じない。
<<< §3. 第1の実施形態の構造 >>>
ここでは、本発明に係る力覚センサの第1の実施形態の構造を説明する。図12は、この第1の実施形態に係る力覚センサの横断面図である。この力覚センサは、三次元直交座標系における所望の座標軸方向の力成分および所望の座標軸まわりのモーメント成分を検出する機能を有している。そこで、ここでは、図面の右方向にα軸、上方向にβ軸、紙面に垂直な手前方向にγ軸をとったαβγ三次元直交座標系を定義し、以下の説明を行うことにする。
なお、§1,§2で述べた基本センサの説明では、XYZ三次元直交座標系を定義し、X軸まわりのモーメント成分MxおよびY軸まわりのモーメント成分Myを検出する機能を説明したが、本願では、便宜上、基本センサの動作説明に用いる三次元直交座標系をXYZ三次元直交座標系、本発明に係る力覚センサの動作説明に用いる三次元直交座標系をαβγ三次元直交座標系と区別することにする。XYZ三次元直交座標系は、個々の基本センサごとに定義されるローカル座標系であるのに対して、αβγ三次元直交座標系は、力覚センサ全体に定義されるグローバル座標系ということになる。
図12は、この力覚センサをαβ平面で切断した横断面図であり、図の中心に示す点Qは、αβγ三次元直交座標系の原点を示している(γ軸は、点Qにおいて紙面に直交する軸になる)。この力覚センサは、α軸方向に作用した力成分Fα、β軸方向に作用した力成分Fβ、γ軸方向に作用した力成分Fγ、α軸まわりに作用したモーメント成分Mα、β軸まわりに作用したモーメント成分Mβ、γ軸まわりに作用したモーメント成分Mγの6成分を検出することが可能な6軸力覚センサとして機能する。
図示のとおり、この力覚センサの基本的な構成要素は、内部に収容空間を有する円筒状の外側構造体100、この収容空間内に収容された内側構造体200、外側構造体100の更に外側に配置された外殻構造体300、3組の基本センサS1,S2,S3、そして図示されていない演算手段である。演算手段は、後述するように、基本センサS1〜S3の出力に基づいて、検出対象となる6成分を求めるために必要な演算を行う機能を有する。
基本センサS1〜S3は、図示のとおり、起歪体10、接続部材20、受力体30によって構成されている。ここでは、この3組の基本センサを相互に区別するため、「S1〜S3」という異なる符号を付しているが、この3組の基本センサは、いずれも、§1,§2で説明した基本センサSである。別言すれば、この第1の実施形態に係る力覚センサには、§1,§2で説明した基本センサSが3組用いられていることになる。基本センサSの構造については既に詳細に説明したので、以降の図では、各基本センサの内部構造の図示は省略する。したがって、図12は、基本的には横断面図であるが、基本センサS1〜S3の部分については上面図が示されている。
内側構造体200は、断面が正三角形をした柱状の構造体であり、γ軸が中心軸となるように配置されている。一方、外側構造体100および外殻構造体300は、γ軸を共通の中心軸とする同心円筒状の構造体によって構成されている。3組の基本センサS1〜S3は、内側構造体200の側面と外側構造体100の内周面との間に配置され、両者を接続する機能を果たしている。すなわち、この第1の実施形態では、外側構造体100は、内側構造体200を内部に収容する筒状の構造体によって構成され、各基本センサS1〜S3が、この筒状の外側構造体100の内周面上の外側接続点と内側構造体200の外周面上の内側接続点とを連結するように接続されていることになる。
ここでは、各基本センサS1〜S3の具体的な配置を説明するため、αβ平面上において、α軸の方向を0°とし、反時計まわりに360°までの方位角を定義する。また、図示のとおり、α軸,β軸に加えて、更に、δ軸およびε軸を定義する。α軸,β軸,δ軸,ε軸は、いずれもαβ平面上の軸であり、それぞれの方位角は、0°,90°,210°,330°である(いずれも、各軸の正方向の方位角)。したがって、β軸,δ軸,ε軸の3軸に着目すると、これら3軸は、αβ平面上において互いに120°をなす軸ということになる。そして、3組の基本センサS1〜S3は、この3軸に沿って配置されている。
具体的には、第1の基本センサS1は、β軸が中心軸となるように配置されており、外側構造体100の内周面とβ軸正領域との交点に位置する外側接続点Jβと、内側構造体200の外周面とβ軸正領域との交点に位置する内側接続点Iβとを連結するように接続されている。同様に、第2の基本センサS2は、δ軸が中心軸となるように配置されており、外側構造体100の内周面とδ軸正領域との交点に位置する外側接続点Jδと、内側構造体200の外周面とδ軸正領域との交点に位置する内側接続点Iδとを連結するように接続されており、第3の基本センサS3は、ε軸が中心軸となるように配置されており、外側構造体100の内周面とε軸正領域との交点に位置する外側接続点Jεと、内側構造体200の外周面とε軸正領域との交点に位置する内側接続点Iεとを連結するように接続されている。
なお、§1で述べたとおり、各基本センサSを構成する起歪体10および受力体30は、いずれも板状の部材であるため、取付対象となる相手方の物体面は平面であることが望ましい。この第1の実施形態の場合、内側構造体200は、断面が正三角形であり、その外周面は平面であるので、起歪体10を取り付けるには支障はない。これに対して、外側構造体100は、完全な円筒形にすると、内周面が曲面になるため、板状の受力体30をそのまま取り付けるには好ましくない。そこで、ここに示す実施例では、図示のとおり、外側構造体100の内周面のうち、基本センサS1〜S3の受力体30を取り付ける部分については平面となるような形状を採用している。
このため、外側構造体100は、β軸正領域,δ軸正領域,ε軸正領域と交差する部分近傍の肉厚が若干厚くなっている。また、この肉厚部分の外周面には、図示のとおり、制御溝111,112,113が設けられており、外殻構造体300の内周面に設けられた制御突起311,312,313の先端部を収容できる構造となっている。これら制御突起および制御溝の機能については後述する。
このように、各基本センサS1〜S3の起歪体10は、内側構造体200の外周面上の所定位置に設けられた内側接続点Iβ,Iδ,Iε(図では黒丸で示す)に接合固定され、各基本センサS1〜S3の受力体30は、外側構造体100の内周面上の所定位置に設けられた外側接続点Jβ,Jδ,Jε(図では黒丸で示す)に接合固定される。§1で述べたとおり、実際には、起歪体10および受力体30はネジで固定されているが、図12以降の各図では、ネジの図示は省略する。
なお、図1(b) に示すように、起歪体10の上面には検出用溝G1が形成されており、受力体30の下面には検出用溝G2が形成されている。このため、図12に示す構造において、起歪体10は内側接続点Iβ,Iδ,Iεに直接接続されるわけではなく、受力体30も外側接続点Jβ,Jδ,Jεに直接接続されるわけではないが、これらは各接続点の周囲部分に直接固定されるので、結局、各基本センサS1〜S3は、外側構造体100の所定位置に設けられた外側接続点Jβ,Jδ,Jεと内側構造体200の所定位置に設けられた内側接続点Iβ,Iδ,Iεとを間接的に連結する連結機能を果たすことになる。
もちろん、一端が外側接続点に直接固定され、他端が内側接続点に直接固定されるような構造をもった基本センサを用いて、両接続点間を直接的に連結するようにしてもかまわない。また、内側構造体200は、その側面に基本センサS1〜S3を接続する機能を有していれば足りるので、内部を空洞にした筒状体によって構成してもかまわない。
図12に示す力覚センサの構造は、図13の縦断面図を参照することにより、更に明確になる。図13に示す縦断面図は、図12に示す力覚センサをεγ平面で切断した縦断面図に相当する。すなわち、この力覚センサを、αβ平面上において、150°および−330°の方位角に対応する断面(ε軸に沿った位置)で切断した断面図ということになる。この図13でも、基本センサS3については、断面図ではなく側面図が示されている。
前述したとおり、外側構造体100および外殻構造体300は、γ軸を共通の中心軸とする同心円筒状の構造体によって構成されているが、外側構造体100の下方には、円板状の底板部材150が取り付けられており、外殻構造体300の上方には、円板状の連結部材250が取り付けられている。そして、内側構造体200の上部は連結部材250の下面中央部に取り付けられており、底板部材150は、台座400の上面に固定されている。
図13において、外側構造体100の左側の側壁(ε軸負領域と交差する部分)に比べて、右側の側壁(ε軸正領域と交差する部分)の方が厚くなっているのは、前述したように、右側の側壁の内面に、第3の基本センサS3の受力体30を接続するための平面を設けたためである。この肉厚部分の外周面には制御溝113が設けられており、外殻構造体300の内周面に設けられた制御突起313の先端部が収容されている。
第3の基本センサS3の受力体30は、外側構造体100の内周面に固定され、起歪体10は、内側構造体200の外周面に固定されており、第3の基本センサS3によって、外側接続点Jεと内側接続点Iεとが接続されることになる。図13には現れていないが、第1の基本センサS1および第2の基本センサS2の取付具合も、全く同様である。別言すれば、図12に示す力覚センサを、β軸に沿って切断した縦断面図やδ軸に沿って切断した縦断面図も、図13の縦断面図と同様の図になる。
ここに示す実施形態の場合、内側構造体200は、正三角形の横断面をもつ三角柱によって構成されている。図13において、内側構造体200の縦断面部分が、γ軸に対して左右対称になっていないのは、三角柱の縦断面を示しているためである。この三角柱からなる内側構造体200の各側面におけるβ軸,δ軸,ε軸との交点位置に、それぞれ内側接続点Iβ,Iδ,Iεが設けられ、3組の基本センサS1〜S3が、それぞれ内側接続点Iβ,Iδ,Iεと外側構造体100の対向位置に設けられた外側接続点Jβ,Jδ,Jεとを連結する連結機能を果たすことになる。
ここに示す実施例の場合、図にドットによるハッチングを施して示すとおり、外側構造体100と底板部材150とは、同一材料によって構成された一体構造をなすカップ状の構造体によって構成されており、その底面は、台座400の上面に接着されている。また、底板部材150の上面には、回路基板500が固着されている。この回路基板500は、後述する演算手段を構成する演算回路が形成された半導体基板である。図示は省略するが、各基本センサS1〜S3と回路基板500との間には、各基本センサS1〜S3によって検出された検出値を伝達するための配線が施される。
一方、この実施例の場合、図に斜線によるハッチングを施して示すとおり、内側構造体200、連結部材250、外殻構造体300も、同一材料からなる一体構造をなす構造体によって構成されている。連結部材250は、内側構造体200と、その外側に設けられた筒状の外殻構造体300とを接続する機能を有し、外力が作用したときに、内側構造体200、連結部材250、外殻構造体300は、一体となって変位することになる。
この例の場合、外殻構造体300は、γ軸を中心軸とする円筒状構造体であり、図13に示すように、γ軸が上下方向を向くように配置したときに、筒状の外殻構造体300の上方開口部を覆う円形の板状部材によって連結部材250が構成されている。そして、この板状部材250の下面周囲部に外殻構造体300が接合され、板状部材250の下面中央部に内側構造体200の上面が接続されていることになる。
もちろん、連結部材250は、必ずしも板状部材によって構成する必要はなく、内側構造体200と外殻構造体300とを接続する機能を果たす構造体であれば、どのような構造体によって構成してもかまわない。ただ、図示の例のように、連結部材250を、筒状の外殻構造体300の上方開口部を覆う板状部材によって構成すれば、装置内部を覆うカバーとしての機能を果たす利点が得られる。
外側構造体100、内側構造体200、連結部材250、外殻構造体300は、できるだけ剛性を有する構造体で構成するのが好ましい。これらを十分な剛性を有する構造体によって構成しておけば、検出対象となる外力を各基本センサS1〜S3に効率的に伝達することができ、検出感度を向上させることができる。ここに示す実施例の場合、図にドットによるハッチングを施して示した外側構造体100と底板部材150とをアルミニウム合金によって構成し、図に斜線によるハッチングを施して示した内側構造体200、連結部材250、外殻構造体300もアルミニウム合金によって構成し、更に、台座400もアルミニウム合金によって構成している。もちろん、各部の材質は、アルミニウム合金に限定されるものではなく、たとえば、SUS(ステンレス鋼)などの鉄系合金を用いてもかまわない。
一方、各基本センサS1〜S3は、図1に示すように、ダイアフラム部11,31を有しており、外力が作用すると、たとえば、図6や図7に示すような弾性変形を生じる性質を有している。結局、図13に示す力覚センサは、外側構造体100、底板部材150、台座400からなる第1の剛体群と、内側構造体200、連結部材250、外殻構造体300からなる第2の剛体群とを、弾性変形可能な基本センサS1〜S3によって接続した構造を有していることになる。
したがって、たとえば、台座400を固定した状態とし、連結部材250もしくは外殻構造体300に対して何らかの外力を作用させたとすると、当該外力によって基本センサS1〜S3が弾性変形することになり、上記第1の剛体群に対して、上記第2の剛体群が変位を生じることになる。逆に、第2の剛体群を固定した状態において、第1の剛体群に外力を作用させた場合は、第2の剛体群に対して、第1の剛体群が変位を生じることになる。もっとも、作用反作用の法則により、これらの現象は根本的には同じであるため、本願では、前者のケースを例にとって以下の説明を行うことにする。
台座400を固定した状態にすると、図12の横断面図において、外側構造体100は固定された状態になる。その状態で、外殻構造体300(もしくは、その上方に接続された円板状の連結部材250)に対して外力が作用すると、当該外力は内側構造体200へと伝達される。この内側構造体200は、基本センサS1〜S3によって、三方から支持されているが、上述したとおり、基本センサS1〜S3は外力の作用により弾性変形するので、この弾性変形に応じて、内側構造体200は外側構造体100の内部の収容空間内で変位する。
ここで、基本センサS1〜S3は、作用した外力のモーメント成分MxおよびMyを検出する機能を有しており、その検出値は、前述した回路基板500上の演算回路へ電気信号として与えられる。演算回路は、各基本センサS1〜S3から与えられた検出値に対して所定の演算処理を行うことにより、外殻構造体300(もしくは、その上方に接続された円板状の連結部材250)に作用した外力について、各座標軸方向の力成分Fα,Fβ,Fγおよび各座標軸まわりのモーメント成分Mα,Mβ,Mγを検出する処理を行うことになる。具体的な演算内容については、§4において詳述する。
上述したように、基本センサS1〜S3は、外力の作用により弾性変形する性質を有している。すなわち、外力が作用すると、当該外力に応じた態様で変形するが、外力が作用しなくなると、元の状態に復帰する性質を有している。しかしながら、通常、このような弾性変形の性質が維持されるのは、作用した外力の大きさが所定の許容範囲内である場合に限られ、過度の外力が作用した場合、弾性変形の性質は損なわれてしまう。そうなると、基本センサは正常な検出機能を果たすことができなくなる。そこで、この第1の実施形態に係る力覚センサには、基本センサS1〜S3に過度の外力が加わらないようにするための2通りの制御構造が組み込まれている。
第1の制御構造は、外側構造体100と外殻構造体300とを、共通のγ軸を中心軸とする同心円筒状の構造体によって構成したことにより実現されている。図12に示すように、外側構造体100の外周面と外殻構造体300の内周面との間には所定の空隙が形成されている。そこで、この空隙の寸法を適切に設定することにより、外側構造体100に対する外殻構造体300の変位を適切な範囲内に制御し、基本センサS1〜S3に過度の外力が加わらないようにしている。外側構造体100に対する外殻構造体300の変位を適切な範囲内に制御できれば、外側構造体100に対する内側構造体200の変位も所定の許容範囲内に制御することができるので、各基本センサS1〜S3は、正常な検出機能を果たすことができる。
要するに、外側構造体100に対する内側構造体200の変位が所定の許容範囲に達した場合に(すなわち、作用する外力の大きさが、各基本センサS1〜S3が正常な検出機能を果たすことが可能な範囲内の所定値に達した場合に)、外側構造体100の外周面と外殻構造体300の内周面とが接触し、それ以上の変位が制限されるように、外側構造体100と外殻構造体300との間隔を所定値に設定する設計を行うようにすればよい。
本願発明者が試作した具体的な力覚センサの場合、すなわち、各基本センサS1〜S3として、直径10mm、高さ7mmのサイズの構造体を用い、外殻構造体300として、直径25mmのサイズの円筒状構造体を用いた実施例の場合、外側構造体100と外殻構造体300との間隔を10〜20μm程度に設定すれば、実用上、十分な検出感度が得られ、基本センサS1〜S3に対して加わる外力を、正常な検出機能を果たすことができる範囲内に制限することが可能であった。
図12に示す力覚センサが採用している第2の制御構造は、制御突起と制御溝との組み合わせである。図示のとおり、外殻構造体300の内周面には、内側に向かう制御突起311,312,313が設けられており、外側構造体100の外周面には、これらの制御突起の先端部を収容する制御溝111,112,113が設けられている。しかも、外側構造体100に対する内側構造体200の変位が所定の許容範囲に達した場合に(すなわち、外側構造体100に対する外殻構造体300の変位が所定の許容範囲に達した場合に)、各制御突起311,312,313の先端部と各制御溝111,112,113の溝形成面とが接触し、それ以上の変位が制限されるように、各制御突起の先端部と各制御溝の溝形成面との間隔が適切な値(この実施例の場合は、10〜20μm程度)に設定されている。
各基本センサS1〜S3は、外側構造体100に対する内側構造体200の変位が、上述した許容範囲内である限りにおいて、正常な検出機能を果たすことができるので、これら制御突起と制御溝とによる制御構造により、基本センサS1〜S3に対して加わる外力を、正常な検出機能を果たすことができる範囲内に制限することが可能になる。
図示のとおり、ここに示す実施例の場合、制御突起311と制御溝111との組み合わせはβ軸上に配置されており、制御突起312と制御溝112との組み合わせはδ軸上に配置されており、制御突起313と制御溝113との組み合わせはε軸上に配置されている。このように、制御突起と制御溝との組み合わせを、120°ずつずれた位置に合計3組配置すれば、様々な方向に作用する外力成分に対して、効率的な変位制御を行うことが可能になる。
特に、β軸上に配置された制御突起311と制御溝111との組み合わせは、第1の基本センサS1に対して高さ方向(図1におけるZ軸方向)に加わる力を許容範囲内に制御するのに効果的であり、δ軸上に配置された制御突起312と制御溝112との組み合わせは、第2の基本センサS2に対して高さ方向に加わる力を許容範囲内に制御するのに効果的であり、ε軸上に配置された制御突起313と制御溝113との組み合わせは、第3の基本センサS3に対して高さ方向に加わる力を許容範囲内に制御するのに効果的である。
このように、図12に示す実施形態の場合、外側構造体100と外殻構造体300とを、γ軸を共通の中心軸とする同心円筒状の構造体によって構成し、両者間の空隙寸法を適切な値に設定するという第1の制御構造と、制御突起と制御溝との組み合わせを配置するという第2の制御構造と、の2通りの制御構造を採用することにより、各基本センサS1〜S3に加わる外力を所定の許容範囲内に維持している。
なお、図12に示す例では、外殻構造体300の内周面に、内側に向かう制御突起を形成し、外側構造体の外周面に、これら制御突起の先端部を収容する制御溝を設ける構造としているが、制御突起と制御溝の位置関係は逆にしてもかまわない。すなわち、外側構造体100の外周面に、外側に向かう制御突起を設け、外殻構造体300の内周面に、制御突起の先端部を収容する制御溝を設けるようにしてもかまわない。この場合も、外側構造体100に対する内側構造体200の変位が所定の許容範囲に達した場合に、制御突起の先端部と制御溝の溝形成面とが接触し、それ以上の変位が制限されるように、制御突起の先端部と制御溝の溝形成面との間隔を適切な値に設定しておけば、各基本センサS1〜S3に加わる外力を所定の許容範囲内に維持することができ、正常な検出機能を維持させることができる。
<<< §4. 第1の実施形態の検出動作 >>>
続いて、§3で述べた本発明の第1の実施形態に係る力覚センサの検出動作を説明する。図12に示す力覚センサの主要な構成要素は、既に述べたとおり、内部に収容空間を有する外側構造体100と、この収容空間内に収容された内側構造体200と、3組の基本センサS1〜S3と、これら基本センサS1〜S3の出力に基づいて演算を行う演算手段(図12には示されていない)である。
なお、§3で述べた力覚センサには、更に、外殻構造体300および連結部材250が設けられているが、これらの構成要素は、外力を内側構造体200に効率よく伝達させるための補助的な構成要素であり、本発明に係る力覚センサを構成する上で必須のものではない。
図13に示すとおり、この力覚センサには、外側構造体100を中心軸が上下方向を向くように配置した場合に、外側構造体100の下方開口部を覆うような底板部材150が設けられており、この底板部材150の上面に回路基板500が固定されている。上述した演算手段は、この回路基板500上に形成された演算回路によって構成され、後述する検出動作は、この回路基板500上に形成された演算回路によって実行されることになる。なお、この底板部材150や台座400も、本発明に必須の構成要素ではないが、回路基板500を支持する上では有用である。
回路基板500上にマイクロプロセッサを設けておけば、後述する検出動作は、このマイクロプロセッサによるデジタル演算によって行うことも可能である。更に、必要があれば、このマイクロプロセッサによって、感度補正、温度補正、他軸感度補正等の信号処理を行うことも可能である。
内部構造体200は、図13に示すとおり、外側構造体100の内部に収容された柱状の構造体(この例の場合は断面が正三角形となる三角柱)によって構成され、3組の基本センサS1〜S3は、図12に示すとおり、外側構造体100の内周面上の外側接続点Jβ,Jδ,Jεと内側構造体(三角柱)200の外周面上の内側接続点Iβ,Iδ,Iεとを連結する役割を果たすことになる。
ここで、本発明に係る力覚センサに用いられる各基本センサS1〜S3の基本機能を整理しておこう。各基本センサの第1の基本機能は、外側構造体100の所定位置に設けられた外側接続点Jβ,Jδ,Jεと内側構造体200の所定位置に設けられた内側接続点Iβ,Iδ,Iεとを連結する連結機能である。外側接続点と内側接続点とは、必ずしも直接的に連結する必要はなく、その周囲にセンサの端部を固定することにより間接的に連結されていてもかまわない。
図12に示す例の場合、基本センサS1〜S3の起歪体10や受力体30には、検出用溝G1,G2が形成されており、外側接続点および内側接続点はこれら溝G1,G2内に位置する。このため、両者は直接的に接続されているわけではないが、その周囲に起歪体10および受力体30を接合することにより、間接的に連結された状態になっている。
各基本センサの第2の基本機能は、外側接続点および内側接続点のうちの一方を固定した状態において他方に作用する外力に基づいて、両点の相対位置関係が変化するように弾性変形する変形機能である。図12に示す力覚センサに外力が作用したときに(たとえば、外側構造体100を固定した状態において、内側構造体200に力を加えたときに)、外側構造体100に対して内側構造体200が変位するのは、各基本センサS1〜S3が弾性変形する変形機能を有しているためである。図1に示す基本センサSの場合、少なくともダイアフラム部11,31が弾性変形する機能をもっているため、図6や図7に例示するような弾性変形が生じることになる。
そして、各基本センサの第3の基本機能は、外側接続点および内側接続点のうちの一方を固定した状態において他方に作用する外力を検出する検出機能である。もっとも、検出対象となる外力は、所定軸まわりのモーメント成分だけで十分である。より具体的には、外側接続点と内側接続点とを結ぶ連結線上に位置する原点Oと、この連結線上に配置されたZ軸と、このZ軸に直交するX軸と、Z軸およびX軸の双方に直交するY軸と、を有するXYZ三次元直交座標系を定義したときに、作用した外力のX軸まわりのモーメント成分MxおよびY軸まわりのモーメント成分Myを検出する検出機能を有していればよい。
§1,§2で述べた具体的な基本センサは、上述した3つの基本機能を備えた理想的なセンサと言える。演算手段は、3組の基本センサS1〜S3のそれぞれが検出した検出値を用いた演算を行うことにより、外側構造体100および内側構造体200について、一方を固定した状態において他方に作用した力およびモーメントを検出することができる。以下、その検出原理を詳細に説明する。
はじめに、各座標系の関係を正確に定義しておく。図1および図2では、XYZ三次元直交座標系を図示のとおりに定義して、基本センサSの構造および動作を説明した。当該説明によれば、基本センサSは、このXYZ座標系において、X軸まわりのモーメント成分MxおよびY軸まわりのモーメント成分Myを検出することができる。
なお、この基本センサSは、Z軸方向の力成分Fzの検出も可能であるが、本発明の力覚センサでは、力成分Fzの検出値は利用しない。本願発明者が基本センサSを試作して感度測定を行ったところ、モーメント成分Mx,Myの検出感度が、力成分Fzの検出感度に比べて極めて高い結果が得られた。たとえば、モーメント成分Mx,Myとして、10N・cmの大きさのモーメントを加える測定と、力成分Fzとして10Nを加える測定を行ったところ、前者の感度を100とすると、後者の感度は1〜10程度であった。もちろん、このような感度差は、増幅回路で補正可能な範囲内なので、基本センサSをMx,My,Fzの検出が可能な3軸センサとして利用する上では何ら支障は生じないが、本発明では、Z軸方向の力成分Fzの検出は不要であり、感度の高いMx,My成分のみを用いた効率的な検出が可能になる。
このように、XYZ三次元直交座標系が、個々の基本センサSについて定義されたローカル座標系であるのに対して、αβγ三次元直交座標系は、力覚センサの検出対象となる力やモーメントの方向を示すためのグローバル座標系である。図12に示す例の場合、内側構造体200の内部(三角柱の中心軸上の1点)に原点Qを定義し、この原点Qにおいて互いに直交するα軸,β軸,γ軸を有するαβγ三次元直交座標系が定義されている。したがって、このαβγグローバル座標系内に、3つの基本センサS1〜S3のそれぞれについて定義されたXYZローカル座標系が配置されることになる。
図14は、図12に示す力覚センサの構成要素となる基本センサS1〜S3の座標軸(X軸,Y軸,Z軸)の方向を示す横断面図(αβ平面で切った断面図)である。図1(b) に示すとおり、基本センサSの座標系の原点Oは、歪検出基板40の中心位置に定義されており、板状部材によって構成された起歪体10および受力体20の上面および下面がXY平面に平行になるように、XYZ座標系が定義されている。したがって、図14においても、各基本センサS1〜S3について、同様の方法でXYZ座標系を定義している。
すなわち、基本センサS1の原点Oはβ軸上に位置し、基本センサS2の原点Oはδ軸上に位置し、基本センサS3の原点Oはε軸上に位置するように配置されており、各基本センサS1〜S3についてそれぞれ定義されたXYZ座標系のZ軸が、αβγ座標系の原点Qを通る方向に定義されている(原点Qに向かう方向がZ軸の正方向になる)。また、各基本センサS1〜S3のそれぞれについて定義された各X軸および各Z軸は、αβ平面に含まれる軸となり、各基本センサS1〜S3のそれぞれについて定義された各Y軸は、γ軸に平行になるように定義されている(図の紙面に対して垂直に、紙面裏側に向かう方向がY軸の正方向になる)。
結果的に、各基本センサS1〜S3のそれぞれについて定義された各X軸の正方向は、図14において、原点Qを中心とした円についての反時計まわりの接線方向になり、各Z軸は互いに120°をなすように配置されることになる。すなわち、第1の基本センサS1について定義されたZ軸正方向がβ軸負方向に一致し、第2の基本センサS2について定義されたZ軸正方向がδ軸負方向に一致し、第3の基本センサS3について定義されたZ軸正方向がε軸負方向に一致するように、互いに検出感度が等しい3組の基本センサが配置されることになる。このような構成を採ると、演算手段による演算を単純化することができる。
演算手段は、第1の基本センサS1が検出したX軸まわりのモーメント成分Mx1、第1の基本センサS1が検出したY軸まわりのモーメント成分My1、第2の基本センサS2が検出したX軸まわりのモーメント成分Mx2、第2の基本センサS2が検出したY軸まわりのモーメント成分My2、第3の基本センサS3が検出したX軸まわりのモーメント成分Mx3、第3の基本センサS3が検出したY軸まわりのモーメント成分My3に基づいて、次のような原理で、この力覚センサに作用した力のα軸方向に作用した力成分Fα、β軸方向に作用した力成分Fβ、γ軸方向に作用した力成分Fγ、α軸まわりに作用したモーメント成分Mα、β軸まわりに作用したモーメント成分Mβ、γ軸まわりに作用したモーメント成分Mγを検出することができる。以下、各成分の検出原理を説明する。
図15は、図12に示す力覚センサの内側構造体200に対して、α軸正方向の力+Fαが作用したときの各基本センサS1〜S3の検出動作を示す横断面図である。たとえば、台座400を固定した状態において、外殻構造体300をα軸正方向に平行移動させるような力+Fαを加えると、外殻構造体300と一体となった内側構造体200に対しても、力+Fαが作用することになる。図15において、α軸正方向を向いた白矢印は、力+Fαの作用方向を示すものである。
内側構造体200に対して、このような外力+Fαが作用すると、各基本センサS1〜S3には、図に白矢印で示す回転方向を向いたモーメントが作用し、それぞれ所定の態様で弾性変形を生じることになる。そして、このような基本センサの弾性変形により、内側構造体200はα軸正方向に変位する。換言すれば、内側構造体200をα軸正方向に変位させると、各基本センサS1〜S3には、図に白矢印で示す回転方向を向いたモーメントが作用することなる。
具体的には、内側構造体200に対してα軸正方向の力+Fαが作用すると、第1の基本センサS1には、図の下面(内側構造体200に接触した面)をα軸正方向に移動させる力が作用するため、原点O1に関しては、図示のとおり、Y軸負まわりのモーメント成分−My1(図において、原点O1の近傍を反時計まわりに回転させる力)が作用する。この場合、力+Fαは、内側構造体200をα軸正方向に平行移動させる力であるから、原点O1に関して作用するX軸まわりのモーメント成分Mx1は零である。
一方、第2の基本センサS2には、図の右上面(内側構造体200に接触した面)をα軸正方向に移動させる力が作用するため、原点O2に関しては、図示のとおり、Y軸正まわりのモーメント成分+My2(図において、原点O2の近傍を時計まわりに回転させる力)が作用する。この場合も、原点O2に関して作用するX軸まわりのモーメント成分Mx2は零である。
同様に、第3の基本センサS3には、図の左上面(内側構造体200に接触した面)をα軸正方向に移動させる力が作用するため、原点O3に関しては、図示のとおり、Y軸正まわりのモーメント成分+My3(図において、原点O3の近傍を時計まわりに回転させる力)が作用する。この場合も、原点O3に関して作用するX軸まわりのモーメント成分Mx3は零である。
このように、α軸正方向の力+Fαが作用したとき、各基本センサS1〜S3からは、いずれもY軸まわりのモーメント成分Myの値を示す検出値が得られる(X軸まわりのモーメント成分Mxの値を示す検出値は零である)。ただ、図に示す各基本センサS1〜S3の配置を見ればわかるとおり、検出感度は、基本センサごとに若干異なっている。
すなわち、各基本センサS1〜S3に対して、Y軸まわりのモーメントMyの発生に寄与する力は、内側構造体200に加えられた外力+Fαのうち、内側構造体200の側面方向成分ということになり、各側面とα軸とのなす角をφとすれば、「Fα×cosφ」なる成分のみがモーメントMyの発生に寄与する力ということになる。ここで、第1の基本センサS1の場合、φ=0°であるから、Fα×cosφ=Fαとなるが、第2および第3の基本センサS2,S3の場合、φ=60°であるから、Fα×cosφ=1/2・Fαになる。
別言すれば、内側構造体200に対して、同じ大きさの外力+Fαが加えられたとしても、基本センサS1から出力されるY軸まわりのモーメントMyの絶対値を1とすると、基本センサS2,S3から出力されるY軸まわりのモーメントMyの絶対値は1/2になる。結局、内側構造体200に対して、α軸正方向の外力+Fαが作用した場合、各基本センサS1〜S3から出力されるX軸まわりのモーメントMx1〜Mx3およびY軸まわりのモーメントMy1〜My3の検出値は、その符号を考慮してまとめると、図15の下段に示す表のようになる。
なお、説明の便宜上、断面図の白矢印には、回転方向を示す符号+もしくは−を付して、「−My1」,「+My2」,「+My3」のように記載しているが、図の下段の表における検出値「Mx1」,「My1」,......は、符号を含んだ変数値(すなわち、正もしくは負の値)を示している。後述する図16〜図20についても同様である。
図15の表に示すとおり、X軸まわりのモーメントMx1〜Mx3の検出値は、いずれも零になり、Y軸まわりのモーメントMy1〜My3の各検出値は、My1=−1、My2=+1/2、My3=+1/2になる。ここで、各検出値の符号は、各基本センサに作用したモーメントの回転方向(各座標軸の正方向に右ネジを進める回転方向を正とする)を示しており、各検出値の絶対値は、内側構造体200に作用した外力のうち、各基本センサにモーメントとして寄与する有効成分の割合を示している。具体的には、上述したとおり、各基本センサの最大感度方向(Mxを検出する際にはY軸方向、Myを検出する際にはX軸方向)と作用した外力の方向とのなす角をφとすれば、各検出値の絶対値は、cosφで与えられることになる。
各基本センサS1〜S3を、モーメントMx,Myの値を線形検出値として出力できるように調整しておけば、図15の下段に示す表の値も、線形出力値として得られることになる。たとえば、単位外力+Fαが加えられたときに、図示のように、My1=−1、My2=+1/2、My3=+1/2なる検出値が得られたとすれば、その2倍の外力+2Fαが加えられたときには、My1=−2、My2=+1、My3=+1なる検出値が得られることになる。また、逆方向(α軸負方向)を向いた単位外力−Fαが加えられたときには、各検出値の符号は逆転し、My1=+1、My2=−1/2、My3=−1/2なる検出値が得られることになる。
図16は、図12に示す力覚センサの内側構造体200に対して、β軸正方向の力+Fβが作用したときの各基本センサS1〜S3の検出動作を示す横断面図である。このような外力+Fβが作用すると、各基本センサS1〜S3には、図に白矢印で示す回転方向を向いたモーメントが作用する。
具体的には、第1の基本センサS1には、原点O1に対してZ軸方向の力が作用するものの、モーメントは作用しないので、モーメント成分は、Mx1=0,My1=0になる。一方、第2の基本センサS2には、図の右上面(内側構造体200に接触した面)をβ軸正方向に移動させる力が作用するため、原点O2に関しては、図示のとおり、Y軸負まわりのモーメント成分−My2(図において、原点O2の近傍を反時計まわりに回転させる力)が作用するが、X軸まわりのモーメント成分Mx2は零である。同様に、第3の基本センサS3には、図の左上面(内側構造体200に接触した面)をβ軸正方向に移動させる力が作用するため、原点O3に関しては、図示のとおり、Y軸正まわりのモーメント成分+My3(図において、原点O3の近傍を時計まわりに回転させる力)が作用するが、X軸まわりのモーメント成分Mx3は零である。
ここでも、各基本センサの最大感度方向と作用した外力の方向とのなす角をφとすれば、基本センサS2,S3についてはφ=30°になるので、モーメント発生に寄与する有効成分の割合は、cos30°=√3/2になる。したがって、内側構造体200に対して、β軸正方向の外力+Fβが作用した場合、各基本センサS1〜S3から出力されるX軸まわりのモーメントMx1〜Mx3およびY軸まわりのモーメントMy1〜My3の検出値は、図16の下段に示す表のようになる。
図17は、図12に示す力覚センサの内側構造体200に対して、γ軸正方向の力+Fγ(紙面垂直上方に向かう力)が作用したときの各基本センサS1〜S3の検出動作を示す横断面図である。このような外力+Fγが作用すると、各基本センサS1〜S3には、図に白矢印で示す回転方向を向いたモーメントが作用する。
具体的には、第1の基本センサS1には、図の下面(内側構造体200に接触した面)をγ軸正方向に移動させる力が作用するため、原点O1に関しては、図示のとおり、X軸正まわりのモーメント成分+Mx1(図において、原点O1の近傍を矢印の進行方向を向いて時計まわりに回転させる力)が作用するが、Y軸まわりのモーメント成分My1は零である。
同様に、第2の基本センサS2には、図の右上面(内側構造体200に接触した面)をγ軸正方向に移動させる力が作用するため、原点O2に関しては、図示のとおり、X軸正まわりのモーメント成分+Mx2(図において、原点O2の近傍を矢印の進行方向を向いて時計まわりに回転させる力)が作用するが、Y軸まわりのモーメント成分My2は零である。全く同様に、第3の基本センサS3には、図の左上面(内側構造体200に接触した面)をγ軸正方向に移動させる力が作用するため、原点O3に関しては、図示のとおり、X軸正まわりのモーメント成分+Mx3(図において、原点O3の近傍を矢印の進行方向を向いて時計まわりに回転させる力)が作用するが、Y軸まわりのモーメント成分My3は零である。
ここでも、各基本センサの最大感度方向と作用した外力の方向とのなす角をφとすれば、いずれの基本センサS1〜S3についてもφ=0°になるので、モーメント発生に寄与する有効成分の割合は、cos0°=1になる。したがって、内側構造体200に対して、γ軸正方向の外力+Fγが作用した場合、各基本センサS1〜S3から出力されるX軸まわりのモーメントMx1〜Mx3およびY軸まわりのモーメントMy1〜My3の検出値は、図17の下段に示す表のようになる。
図18は、図12に示す力覚センサの内側構造体200に対して、α軸正まわりのモーメント+Mαが作用したときの各基本センサS1〜S3の検出動作を示す横断面図である。このようなモーメント+Mαが作用すると、各基本センサS1〜S3には、図に白矢印で示す回転方向を向いたモーメントが作用する。
具体的には、第1の基本センサS1には、図の下面(内側構造体200に接触した面)をγ軸正方向(紙面垂直上方)に移動させる力が作用するため、原点O1に関しては、図示のとおり、X軸正まわりのモーメント成分+Mx1(図において、原点O1の近傍を矢印の進行方向を向いて時計まわりに回転させる力)が作用するが、Y軸まわりのモーメント成分My1は零である。
一方、第2の基本センサS2には、図の右上面(内側構造体200に接触した面)をγ軸負方向(紙面垂直下方)に移動させる力が作用するため、原点O2に関しては、図示のとおり、X軸負まわりのモーメント成分−Mx2(図において、原点O2の近傍を矢印の進行方向を向いて反時計まわりに回転させる力)が作用するが、Y軸まわりのモーメント成分My2は零である。同様に、第3の基本センサS3には、図の左上面(内側構造体200に接触した面)をγ軸負方向(紙面垂直下方)に移動させる力が作用するため、原点O3に関しては、図示のとおり、X軸負まわりのモーメント成分−Mx3(図において、原点O3の近傍を矢印の進行方向を向いて反時計まわりに回転させる力)が作用するが、Y軸まわりのモーメント成分My3は零である。
ここでも、各基本センサの最大感度方向と作用した外力の方向とのなす角をφとすれば、基本センサS1についてはφ=0°であるため、モーメント発生に寄与する有効成分の割合は、cos0°=1になるが、基本センサS2,S3についてはφ=60°になるので、モーメント発生に寄与する有効成分の割合は、cos60°=1/2になる。したがって、内側構造体200に対して、α軸正まわりのモーメント+Mαが作用した場合、各基本センサS1〜S3から出力されるX軸まわりのモーメントMx1〜Mx3およびY軸まわりのモーメントMy1〜My3の検出値は、図18の下段に示す表のようになる。
図19は、図12に示す力覚センサの内側構造体200に対して、β軸正まわりのモーメント+Mβが作用したときの各基本センサS1〜S3の検出動作を示す横断面図である。このようなモーメント+Mβが作用すると、各基本センサS1〜S3には、図に白矢印で示す回転方向を向いたモーメントが作用する。
具体的には、第1の基本センサS1には、図の下面(内側構造体200に接触した面)をβ軸まわりに回転させるモーメント、すなわち、Z軸まわりのモーメントが作用することになるが、X軸まわりのモーメント成分Mx1とY軸まわりのモーメント成分My1は零である。
一方、第2の基本センサS2には、図の右上面(内側構造体200に接触した面)をγ軸正方向(紙面垂直上方)に移動させる力が作用するため、原点O2に関しては、図示のとおり、X軸正まわりのモーメント成分+Mx2(図において、原点O2の近傍を矢印の進行方向を向いて時計まわりに回転させる力)が作用するが、Y軸まわりのモーメント成分My2は零である。同様に、第3の基本センサS3には、図の左上面(内側構造体200に接触した面)をγ軸負方向(紙面垂直下方)に移動させる力が作用するため、原点O3に関しては、図示のとおり、X軸負まわりのモーメント成分−Mx3(図において、原点O3の近傍を矢印の進行方向を向いて反時計まわりに回転させる力)が作用するが、Y軸まわりのモーメント成分My3は零である。
ここでも、各基本センサの最大感度方向と作用した外力の方向とのなす角をφとすれば、基本センサS1についてはφ=0°であるため、モーメント発生に寄与する有効成分の割合は、cos0°=1になるが、基本センサS2,S3についてはφ=30°になるので、モーメント発生に寄与する有効成分の割合は、cos30°=√3/2になる。したがって、内側構造体200に対して、β軸正まわりのモーメント+Mβが作用した場合、各基本センサS1〜S3から出力されるX軸まわりのモーメントMx1〜Mx3およびY軸まわりのモーメントMy1〜My3の検出値は、図19の下段に示す表のようになる。
なお、図1に示す基本センサSは、その構造上、Z軸まわりのモーメント成分Mzが作用したときに、必ずしも十分な変形を生じる可撓性を有していない。したがって、図19において、力覚センサの内側構造体200に対して、β軸正まわりのモーメント+Mβが作用したときに、第1の基本センサS1が、第2および第3の基本センサS2,S3に生じる変形を抑制する作用を生じさせる可能性がある。後述する§8.2では、この点を改善するための変形例を例示する。
図20は、図12に示す力覚センサの内側構造体200に対して、γ軸正まわりのモーメント+Mγが作用したときの各基本センサS1〜S3の検出動作を示す横断面図である。このようなモーメント+Mγが作用すると、図において、内側構造体200を反時計まわりに回転させる力が加わることになり、各基本センサS1〜S3には、図に白矢印で示す回転方向を向いたモーメントが作用する。
具体的には、第1の基本センサS1には、図の下面(内側構造体200に接触した面)をα軸負方向に移動させる力が作用するため、原点O1に関しては、図示のとおり、Y軸正まわりのモーメント成分+My1(図において、原点O1の近傍を時計まわりに回転させる力)が作用する。このとき、X軸まわりのモーメント成分Mx1は零である。全く同様に、第2の基本センサS2については、原点O2の近傍を時計まわりに回転させる力、すなわち、Y軸正まわりのモーメント成分+My2が作用するが、X軸まわりのモーメント成分Mx2は零である。また、第3の基本センサS3については、原点O3の近傍を時計まわりに回転させる力、すなわち、Y軸正まわりのモーメント成分+My3が作用するが、X軸まわりのモーメント成分Mx3は零である。
ここで、各基本センサの最大感度方向と作用した外力の方向とのなす角φを考慮すると、いずれの基本センサについても、φ=0°となるため、モーメント発生に寄与する有効成分の割合は、cos0°=1になる。したがって、内側構造体200に対して、γ軸正まわりのモーメント+Mγが作用した場合、各基本センサS1〜S3から出力されるX軸まわりのモーメントMx1〜Mx3およびY軸まわりのモーメントMy1〜My3の検出値は、図20の下段に示す表のようになる。
以上、図12および図13に示す力覚センサについて、台座400を固定した状態において、内側構造体200に対して、外力の6軸成分Fα,Fβ,Fγ,Mα,Mβ,Mγを作用させた場合に、各基本センサS1〜S3からどのような出力(モーメントMxおよびMyの検出値)が得られるかを説明した。図21は、これらの結果をまとめたテーブルである。
このテーブルには、外力の6軸成分として、それぞれ正の力成分+Fα,+Fβ,+Fγ、および正のモーメント成分+Mα,+Mβ,+Mγを作用させた結果が示されているが、負の成分−Fα,−Fβ,−Fγ,−Mα,−Mβ,−Mγを作用させた場合は、テーブル内の各検出値の符号を逆転させた結果が得られることになる。また、このテーブル内の各検出値の絶対値は、上述したとおり、基本センサの最大感度方向と作用した外力の方向とが一致した場合(φ=0°の場合)を基準値1としたものであり、各基本センサS1〜S3の検出感度を示す相対的な値になる。
この図21のテーブルに示す結果を考慮すると、図22に示すような演算式に基づいて、6軸成分Fα,Fβ,Fγ,Mα,Mβ,Mγが得られることがわかる(詳細は後述する具体的な数値を代入した例を参照)。これらの演算式は、6つの検出値Mx1,My1,Mx2,My2,Mx3,My3に、図21のテーブルに示す各検出値を係数として乗じて加算する式になっている。たとえば、α軸方向の力成分Fαを算出するための演算式は
Fα=K11(−My1+1/2・My2+1/2・My3)
となっているが、これは、6つの検出値Mx1,My1,Mx2,My2,Mx3,My3に、それぞれ図21のテーブルの第1行目に示されている検出値「0」,「−1」,「0」,「+1/2」,「0」,「+1/2」を係数として乗じて加算した式になっている。なお、右辺最初の係数K11は、最終的なFαの値のスケーリングを行うためのファクタである。
結局、この力覚センサの場合、3組の基本センサS1〜S3から得られた6組のモーメント検出値Mx1,My1,Mx2,My2,Mx3,My3に基づいて、
Fα=K11(−My1+1/2・My2+1/2・My3)
Fβ=K12(−√3/2・My2+√3/2・My3)
Fγ=K13(Mx1+Mx2+Mx3)
Mα=K14(Mx1−1/2・Mx2−1/2・Mx3)
Mβ=K15(√3/2・Mx2−√3/2・Mx3)
Mγ=K16(My1+My2+My3)
なる演算を行うことにより、α軸方向に作用した力成分Fα、β軸方向に作用した力成分Fβ、γ軸方向に作用した力成分Fγ、α軸まわりに作用したモーメント成分Mα、β軸まわりに作用したモーメント成分Mβ、γ軸まわりに作用したモーメント成分Mγの6軸成分を検出することができる。
回路基板500上には、このような演算を行うための演算回路を組み込んでおけばよい。なお、上記式におけるK11,K12,K13,K14,K15,K16は、それぞれ適切なスケーリングを行うためのファクタであり、実用上は、力覚センサの試作品を用いた較正プロセスにおいて、正しい単位系での最終出力が得られるように、各係数値の値を定めるようにすればよい。
ここで重要な点は、上記演算式により6軸成分を求めると、他軸成分の干渉を受けることなく、各成分の検出値を独立して得ることができる点である。以下、この点を、図22に示す各演算式の変数に、具体的な検出値を代入することによって示そう。
まず、力成分Fαについての演算式について考えてみよう。いま、内側構造体200に外力+Fαが作用したとすると、図21のテーブルの第1行目に示すような検出値(Mx1=0,My1=−1,Mx2=0,My2=+1/2,Mx3=0,My3=+1/2)が得られることになる。そこで、図22の第1行目の式に、これらの検出値を代入すると、Fα=K11(−(−1)+1/2(+1/2)+1/2(+1/2))=K11(3/2)なる演算結果が得られる。すなわち、力成分Fαの検出値として、K11(3/2)なる値が出力されることになる。係数K11を適切な値に設定しておけば、この検出値は力成分Fαについての正しい値を示すことになる。
このとき、他の5軸成分が同時に作用していたとしても、上記演算式を用いた演算を行えば、他軸成分が、力成分Fαの検出値として誤検出されることはない。たとえば、力成分+Fβが作用していたとすると、図21のテーブルの第2行目に示すように、My1=0,My2=−√3/2,My3=+√3/2が検出値として得られるが、図22の第1行目の式に、これらの検出値を代入すると、Fα=K11(0+1/2(−√3/2)+1/2(+√3/2))=0になり、力成分Fαの検出値として出力されることはない。また、力成分+Fγが作用していたとすると、図21のテーブルの第3行目に示すように、My1=0,My2=0,My3=0が検出値として得られるので、図22の第1行目の式に、これらの検出値を代入すると、Fα=K11(0+0+0)=0になり、やはり力成分Fαの検出値として出力されることはない。
モーメント成分Mα,Mβ,Mγについても同様である。たとえば、モーメント成分+Mαや+Mβが作用していたとすると、図21のテーブルの第4行目および第5行目に示すように、My1=0,My2=0,My3=0が検出値として得られるので、図22の第1行目の式に、これらの検出値を代入すると、Fα=K11(0+0+0)=0になり、やはり力成分Fαの検出値として出力されることはない。また、モーメント成分+Mγが作用していたとすると、図21のテーブルの第6行目に示すように、My1=+1,My2=+1,My3=+1が検出値として得られるので、図22の第1行目の式に、これらの検出値を代入すると、Fα=K11(−(+1)+1/2(+1)+1/2(+1))=0になり、力成分Fαの検出値として出力されることはない。結局、図22の第1行目の式による演算結果は、力成分Fαの検出値のみを示すものになり、他軸成分の干渉を受けることはない。
次に、力成分Fβについての演算式について考えてみる。内側構造体200に外力+Fβが作用したとすると、図21のテーブルの第2行目に示すような検出値(Mx1=0,My1=0,Mx2=0,My2=−√3/2,Mx3=0,My3=+√3/2)が得られることになる。そこで、図22の第2行目の式に、これらの検出値を代入すると、Fβ=K12(−√3/2(−√3/2)+√3/2(+√3/2))=K12(3/2)なる演算結果が得られる。すなわち、力成分Fβの検出値として、K12(3/2)なる値が出力されることになる。係数K12を適切な値に設定しておけば、この検出値は力成分Fβについての正しい値を示すことになる。
このとき、他の5軸成分が同時に作用していたとしても、誤検出されることはない。たとえば、力成分+Fαが作用していたとすると、図21のテーブルの第1行目に示すように、My2=+1/2,My3=+1/2が検出値として得られるが、図22の第2行目の式に、これらの検出値を代入すると、Fβ=K12(−√3/2(+1/2)+√3/2(+1/2))=0になり、力成分Fβの検出値として出力されることはない。また、力成分+Fγが作用していたとすると、図21のテーブルの第3行目に示すように、My2=0,My3=0が検出値として得られるので、図22の第2行目の式に、これらの検出値を代入すると、Fβ=K12(0+0)=0になり、やはり力成分Fβの検出値として出力されることはない。
モーメント成分Mα,Mβ,Mγについても同様である。たとえば、モーメント成分+Mαや+Mβが作用していたとすると、図21のテーブルの第4行目および第5行目に示すように、My2=0,My3=0が検出値として得られるので、図22の第2行目の式に、これらの検出値を代入すると、Fβ=K12(0+0)=0になる。また、モーメント成分+Mγが作用していたとすると、図21のテーブルの第6行目に示すように、My2=+1,My3=+1が検出値として得られるので、図22の第2行目の式に、これらの検出値を代入すると、Fβ=K12(−√3/2(+1)+√3/2(+1))=0になり、力成分Fβの検出値として出力されることはない。結局、図22の第2行目の式による演算結果は、力成分Fβの検出値のみを示すものになり、他軸成分の干渉を受けることはない。
同様に、力成分Fγについての演算式について考えてみる。内側構造体200に外力+Fγが作用したとすると、図21のテーブルの第3行目に示すような検出値(Mx1=+1,My1=0,Mx2=+1,My2=0,Mx3=+1,My3=0)が得られることになる。そこで、図22の第3行目の式に、これらの検出値を代入すると、Fγ=K13((+1)+(+1)+(+1))=K13×3なる演算結果が得られる。すなわち、力成分Fγの検出値として、K13×3なる値が出力されることになる。係数K13を適切な値に設定しておけば、この検出値は力成分Fγについての正しい値を示すことになる。
このとき、他の5軸成分が同時に作用していたとしても、誤検出されることはない。たとえば、力成分+Fαや+Fβが作用していたとすると、図21のテーブルの第1行目および第2行目に示すように、Mx1=0,Mx2=0,Mx3=0が検出値として得られるので、図22の第3行目の式に、これらの検出値を代入すると、Fγ=K13(0+0+0)=0になり、力成分Fγの検出値として出力されることはない。
モーメント成分Mα,Mβ,Mγについても同様である。たとえば、モーメント成分+Mαが作用していたとすると、図21のテーブルの第4行目に示すように、Mx1=+1,Mx2=−1/2,Mx3=−1/2が検出値として得られるので、図22の第3行目の式に、これらの検出値を代入すると、Fγ=K13((+1)+(−1/2)+(−1/2))=0になり、力成分Fγの検出値として出力されることはない。同様に、モーメント成分+Mβが作用していたとすると、図21のテーブルの第5行目に示すように、Mx1=0,Mx2=+√3/2,Mx3=−√3/2が検出値として得られるので、図22の第3行目の式に、これらの検出値を代入すると、Fγ=K13((0)+(+√3/2)+(−√3/2))=0になり、力成分Fγの検出値として出力されることはない。
また、モーメント成分+Mγが作用していたとすると、図21のテーブルの第6行目に示すように、Mx1=0,Mx2=0,Mx3=0が検出値として得られるので、図22の第3行目の式に、これらの検出値を代入すると、Fγ=K13(0+0+0)=0になり、力成分Fγの検出値として出力されることはない。結局、図22の第3行目の式による演算結果は、力成分Fγの検出値のみを示すものになり、他軸成分の干渉を受けることはない。
続いて、モーメント成分Mαについての演算式について考えてみる。内側構造体200にモーメント+Mαが作用したとすると、図21のテーブルの第4行目に示すような検出値(Mx1=+1,My1=0,Mx2=−1/2,My2=0,Mx3=−1/2,My3=0)が得られることになる。そこで、図22の第4行目の式に、これらの検出値を代入すると、Mα=K14((+1)−1/2(−1/2)−1/2(−1/2))=K14(3/2)なる演算結果が得られる。すなわち、モーメント成分Mαの検出値として、K14(3/2)なる値が出力されることになる。係数K14を適切な値に設定しておけば、この検出値はモーメント成分Mαについての正しい値を示すことになる。
このとき、他の5軸成分が同時に作用していたとしても、誤検出されることはない。たとえば、力成分+Fαや+Fβが作用していたとすると、図21のテーブルの第1行目および第2行目に示すように、Mx1=0,Mx2=0,Mx3=0が検出値として得られるので、図22の第4行目の式に、これらの検出値を代入すると、Mα=K14(0+0+0)=0になり、モーメント成分Mαの検出値として出力されることはない。また、力成分+Fγが作用していたとすると、図21のテーブルの第3行目に示すように、Mx1=+1,Mx2=+1,Mx3=+1が検出値として得られるので、図22の第4行目の式に、これらの検出値を代入すると、Mα=K14((+1)−1/2(+1)−1/2(+1))=K14(0)=0になり、モーメント成分Mαの検出値として出力されることはない。
モーメント成分Mβ,Mγについても同様である。たとえば、モーメント成分+Mβが作用していたとすると、図21のテーブルの第5行目に示すように、Mx1=0,Mx2=+√3/2,Mx3=−√3/2が検出値として得られるので、図22の第4行目の式に、これらの検出値を代入すると、Mα=K14((0)−1/2(+√3/2)−1/2(−√3/2))=K14(0)=0になり、モーメント成分Mαの検出値として出力されることはない。
また、モーメント成分+Mγが作用していたとすると、図21のテーブルの第6行目に示すように、Mx1=0,Mx2=0,Mx3=0が検出値として得られるので、図22の第4行目の式に、これらの検出値を代入すると、Mα==K14((0)−1/2(0)−1/2(0))=0になり、モーメント成分Mαの検出値として出力されることはない。結局、図22の第4行目の式による演算結果は、モーメント成分Mαの検出値のみを示すものになり、他軸成分の干渉を受けることはない。
次に、モーメント成分Mβについての演算式について考えてみる。内側構造体200にモーメント+Mβが作用したとすると、図21のテーブルの第5行目に示すような検出値(Mx1=0,My1=0,Mx2=+√3/2,My2=0,Mx3=−√3/2,My3=0)が得られることになる。そこで、図22の第5行目の式に、これらの検出値を代入すると、Mβ=K15(√3/2(+√3/2)−√3/2(−√3/2))=K15(3/2)なる演算結果が得られる。すなわち、モーメント成分Mβの検出値として、K15(3/2)なる値が出力されることになる。係数K15を適切な値に設定しておけば、この検出値はモーメント成分Mβについての正しい値を示すことになる。
このとき、他の5軸成分が同時に作用していたとしても、誤検出されることはない。たとえば、力成分+Fαや+Fβが作用していたとすると、図21のテーブルの第1行目および第2行目に示すように、Mx2=0,Mx3=0が検出値として得られるので、図22の第5行目の式に、これらの検出値を代入すると、Mβ=K15(0+0)=0になり、モーメント成分Mβの検出値として出力されることはない。また、力成分+Fγが作用していたとすると、図21のテーブルの第3行目に示すように、Mx2=+1,Mx3=+1が検出値として得られるので、図22の第5行目の式に、これらの検出値を代入すると、Mβ=K15(√3/2(+1)−√3/2(+1))=K15(0)=0になり、モーメント成分Mβの検出値として出力されることはない。
モーメント成分Mα,Mγについても同様である。たとえば、モーメント成分+Mαが作用していたとすると、図21のテーブルの第4行目に示すように、Mx2=−1/2,Mx3=−1/2が検出値として得られるので、図22の第5行目の式に、これらの検出値を代入すると、Mβ=K15(√3/2(−1/2)−√3/2(−1/2))=K15(0)=0になり、モーメント成分Mβの検出値として出力されることはない。
また、モーメント成分+Mγが作用していたとすると、図21のテーブルの第6行目に示すように、Mx2=0,Mx3=0が検出値として得られるので、図22の第4行目の式に、これらの検出値を代入すると、Mβ=K15(√3/2(0)−√3/2(0))=K15(0)=0になり、モーメント成分Mβの検出値として出力されることはない。結局、図22の第5行目の式による演算結果は、モーメント成分Mβの検出値のみを示すものになり、他軸成分の干渉を受けることはない。
最後に、モーメント成分Mγについての演算式について考えてみる。内側構造体200にモーメント+Mγが作用したとすると、図21のテーブルの第6行目に示すような検出値(Mx1=0,My1=+1,Mx2=0,My2=+1,Mx3=0,My3=+1)が得られることになる。そこで、図22の第6行目の式に、これらの検出値を代入すると、Mγ=K16((+1)+(+1)+(+1))=K16×3なる演算結果が得られる。すなわち、モーメント成分Mγの検出値として、K16×3なる値が出力されることになる。係数K16を適切な値に設定しておけば、この検出値はモーメント成分Mγについての正しい値を示すことになる。
このとき、他の5軸成分が同時に作用していたとしても、誤検出されることはない。たとえば、力成分+Fαが作用していたとすると、図21のテーブルの第1行目に示すように、My1=−1,My2=+1/2,My3=+1/2が検出値として得られるので、図22の第6行目の式に、これらの検出値を代入すると、Mγ=K16((−1)+(+1/2)+(+1/2))=0になり、モーメント成分Mγの検出値として出力されることはない。
また、力成分+Fβが作用していたとすると、図21のテーブルの第2行目に示すように、My1=0,My2=−√3/2,My3=+√3/2が検出値として得られるので、図22の第6行目の式に、これらの検出値を代入すると、Mγ=K16((0)+(−√3/2)+(+√3/2))=0になり、モーメント成分Mγの検出値として出力されることはない。一方、力成分+Fγが作用していたとすると、図21のテーブルの第3行目に示すように、My1=0,My2=0,My3=0が検出値として得られるので、図22の第6行目の式に、これらの検出値を代入すると、Mγ=K16((0)+(0)+(0))=0になり、モーメント成分Mγの検出値として出力されることはない。
モーメント成分Mα,Mβについても同様である。モーメント成分+MαやMβが作用していたとすると、図21のテーブルの第4行目および第5行目に示すように、My1=0,My2=0,My3=0が検出値として得られるので、図22の第6行目の式に、これらの検出値を代入すると、Mγ=K16((0)+(0)+(0))=0になり、モーメント成分Mγの検出値として出力されることはない。結局、図22の第6行目の式による演算結果は、モーメント成分Mγの検出値のみを示すものになり、他軸成分の干渉を受けることはない。
このように、本発明の第1の実施形態に係る力覚センサでは、外側構造体100に内側構造体200を収容する構成を採り、両者間を3組の基本センサS1〜S3によって接続し、演算手段によって、これら基本センサS1〜S3によって検出したモーメント成分MxおよびMyに基づく演算を行うことにより、αβγ座標系に作用した外力の6軸成分Fα,Fβ,Fγ,Mα,Mβ,Mγを、他軸干渉を受けることなしに検出することが可能になる。基本センサS1〜S3としては、2軸まわりのモーメント成分MxおよびMyのみを検出する機能を設けておけばよいので、たとえば、図1に例示したような比較的単純な構造を有するセンサを利用することができる。
<<< §5. 第2の実施形態 >>>
続いて、本発明の第2の実施形態に係る力覚センサについて説明する。図23は、この第2の実施形態に係る力覚センサの縦断面図である(基本センサS3については側面図)。図23の縦断面図と図13の縦断面図とを比較するとわかるとおり、第2の実施形態の構造は、上述した第1の実施形態の構造とほとんど同じであるが、外殻構造体300、連結部材250、底板部材150が省略されており、代わりに、蓋板部材270が設けられている。
図23の縦断面図においても、図13に示す縦断面図と同様に、αβγ三次元直交座標系が定義されており、図示の断面は、第2の実施形態に係る力覚センサをεγ平面で切断した断面に対応する。この第2の実施形態をαβ平面で切断した横断面図は、図12に示す横断面図から外殻構造体300を省略したものになる。このように、第1の実施形態と第2の実施形態とは、多くの部分において構成要素を共通にするため、第2の実施形態の各構成要素の符号には、第1の実施形態の対応する構成要素の符号に「A」を付した符号を用いることにする。
たとえば、図23に示す外側構造体100Aは、図13に示す外側構造体100に対応するものであり、両者は、制御溝111〜113の有無を除いて、全く同じ円筒状の構造を有している。ただ、図13に示す外側構造体100の下面には、底板部材150が一体構造として連なっているが、図23に示す力覚センサでは、底板部材150に対応する構成要素は省略されている。
また、図23に示す内側構造体200Aは、図13に示す内側構造体200に対応するものであり、両者は、全く同じ三角柱(横断面は正三角形)からなる柱状の構造体である。ただ、図13に示す内側構造体200の上面には、連結部材250が一体構造として連なっており、更に、外殻構造体300が一体構造として連なっているが、図23に示す力覚センサでは、連結部材250や外殻構造体300に対応する構成要素は省略されている。その代わりに、内側構造体200Aの上面には、段差をもった円板状の蓋板部材270の下面中心部が接合されている。また、蓋板部材270の下面周縁部と外側構造体100Aの上面との間には、図示のとおり、シリコンゴムからなる充填層280が介挿されている。シリコンゴムは柔軟性を有する材料であるため、蓋板部材270は外側構造体100Aに対して自由に変位することができる。
図23に示す台座400Aは、図13に示す台座400に対応するものである。いずれも内側構造体100Aもしくは100を指示する土台としての機能を果たすが、図13に示す台座400の上面には底板部材150が接合されているのに対して、図23に示す台座400Aの上面には内側構造体100Aの下面が接続されている。また、図13に示す台座400の外縁部は、外殻構造体300の位置まで延びているが、図23に示す台座400Aの外縁部は、内側構造体100Aの周囲部の位置で終端している。
図23に示す回路基板500Aは、図13に示す回路基板500に対応するものである。ただ、回路基板500は、底板部材150の上面に固定されていたが、図23に示す力覚センサでは底板部材が省略されているため、回路基板500Aは台座400Aの上面に固定されている。別言すれば、図23に示す力覚センサの場合、台座400Aが底板部材としての機能を兼ねていることになる。
上述したとおり、この図23に示す力覚センサをαβ平面で切断した横断面図は、図12に示す横断面図から外殻構造体300を省略したものとほぼ同じである。したがって、この第2の実施形態に係る力覚センサの検出原理は、上述した第1の実施形態に係る力覚センサの検出原理と全く同じであり、回路基板500Aの検出処理機能は、§4で述べた回路基板500の検出処理機能と全く同じである。
図13に示す第1の実施形態と図23に示す第2の実施形態とを比べると、前者よりも後者の方が装置の構造が単純化され、小型化が図られていることがわかる。用いられている3組の基本センサS1〜S3は、両者で共通しており、外側構造体100,100Aおよび内側構造体200,200Aの基本的な部分のサイズも両者で共通しているため、両者の検出機能や感度は全く同じである。
また、前者では、内側構造体200の上部の一部が、外側構造体100の内部に設けられた収容空間から上方に食み出した構造になっているのに対して、後者では、外側構造体100Aの内部に設けられた収容空間内に内側構造体200Aの全体が収容された構造となっている。内側構造体は、少なくともその一部が、外側構造体の内部に設けられた収容空間内に収容されていれば、基本センサSを両者間に配置することができるので、前者のように、その一部分が収容空間から食み出す構造にしてもかまわない。ただ、後者のように、その全体を収容空間内に収容する構造を採れば、装置全体の小型化を図ることができる。
このように、図23に示す第2の実施形態は、図13に示す第1の実施形態に比べて、構造を単純化し、小型化を図ることができるという点においてメリットを有している。台座400Aを固定した状態において、内側構造体200Aに作用する外力を検出する用途に利用する場合は、検出対象となる外力を蓋板部材270に伝達させればよい。ただ、デメリットとしては、内側構造体200Aのすべての方向に関する変位を制御する構造を採用することが困難であるため、基本センサS1〜S3に過度の外力が加わらないようにするための変位の制御対策が不十分になる。なお、蓋板部材270およびシリコンゴム充填層280は、外側構造体100Aの内部に塵埃などが入るのを防ぐカバーとしての役割を果たすが、防塵対策が不要な環境で用いる場合には、省略してもかまわない。
この図23に示す第2の実施形態に対して、図13に示す第1の実施形態は、外殻構造体300や連結部材250を設けたため、構造は若干複雑になり、サイズも若干大きくなるが、外側構造体100の内部空間は連結部材250によって覆われているため、内部に塵埃などが入りにくい構造になっている。また、検出対象となる外力は、外殻構造体300の外周面に作用させてもよいし、連結部材250の上面に作用させてもよいので、様々な実環境で利用することができる。
更に、図13に示す第1の実施形態の重要なメリットは、各基本センサSに過度の外力が加わることを防ぐための制御構造を実現できる点である。すなわち、§3で述べたように、外側構造体100と外殻構造体300とを、γ軸を共通の中心軸とする同心円筒状の構造体によって構成し、両者間の間隔を所定値に設定することにより第1の制御構造が実現でき、制御突起311,312,313と制御溝111,112,113との組み合わせにより第2の制御構造が実現できる。
結局、一般的な用途に利用する場合には、§3,§4で述べた第1の実施形態が好ましいが、より小型のセンサを必要とする特定の用途向けには、第2の実施形態を利用すればよい。
<<< §6. 第3の実施形態 >>>
続いて、本発明の第3の実施形態に係る力覚センサについて説明する。図24は、この第3の実施形態に係る力覚センサの縦断面図である(基本センサS3については側面図)。図24の縦断面図と図13の縦断面図とを比較するとわかるとおり、第3の実施形態の構造は、第1の実施形態の構造とほとんど同じであるが、内側構造体および外側構造体の形状が若干異なっており、その結果、3組の基本センサS1〜S3の向きが異なっている。
この図24の縦断面図においても、図13に示す縦断面図と同様に、αβγ三次元直交座標系が定義されており、図示の断面は、第3の実施形態に係る力覚センサをεγ平面で切断した断面に対応する。この第3の実施形態の各構成要素の符号には、第1の実施形態の対応する構成要素の符号に「B」を付した符号を用いることにする。
まず、図24に示す外殻構造体300Bおよび連結部材250Bは、図13に示す外殻構造体300および連結部材250と同じものである。また、図24に示す底板部材150B,台座400B,回路基板500Bは、それぞれ図13に示す底板部材150,台座400,回路基板500と同じものである(回路基板500,500Bに形成される検出回路の機能は若干異なる)。但し、外殻構造体300Bには、制御突起311〜313は設けられておらず、内側構造体100B側には、制御溝111,112,113は設けられていない。したがって、この実施例の場合、外側構造体100Bと外殻構造体300Bとの間隔を所定値に設定することにより、制御構造を実現している。
一方、図13に示す内側構造体200と図24に示す内側構造体200Bとを比べると、両者では形状が大きく異なっていることがわかるであろう。前述したとおり、図13に示す内側構造体200は、正三角形の横断面をもつ三角柱によって構成されており、この三角柱の各側面にそれぞれ3組の基本センサS1〜S3が取り付けられている。
これに対して、図24に示す内側構造体200Bは、正三角形の横断面をもつ三角錐によって構成されている。すなわち、この内側構造体200Bを、αβ平面に平行な面で切断すると、得られる切断面は正三角形になるが(3つの頂点は、図12に示す例と同様に、β軸、δ軸、ε軸上に位置する)、切断面の位置を図24に示すγ軸に沿って上方に移動させてゆくと、断面に得られる正三角形は徐々に小さくなってゆく。
図24に示す第3の実施形態の場合、この内側構造体200Bを構成する三角錐の各側面にそれぞれ内側接続点が設けられ、3組の基本センサS1〜S3が、それぞれ各内側接続点と外側構造体100Bの対向位置に設けられた外側接続点とを連結する連結機能を有する。そのため、外側構造体100Bの内周面の上方部分は、内側構造体200Bを構成する三角錐の各側面に平行となるような対向面を形成している。各基本センサS1〜S3は、内側構造体200Bを構成する三角錐の各側面と、外側構造体100Bの内周に設けられた各対向面と、の間に接続されることになる。
図24には、第3の基本センサS3の接続状態が示されている。この第3の基本センサS3は、内側構造体200Bを構成する三角錐の側面上に設けられた内側接続点Iθ(黒丸で示す)と、外側構造体100Bの内周に設けられた対向面上の外側接続点Jθ(白丸で示す)と、を接続する役割を果たしている。ここで、内側接続点Iθと外側接続点Jθとを通る直線は、第3の基本センサS3について定義されたZ軸に対応し、αβ平面に対して傾斜角θをなす方向を向いている。第1の基本センサS1および第2の基本センサS2も、同様に三角錐の側面とその対向面との間に取り付けられている。
結局、この第3の実施形態の場合、各基本センサS1〜S3について定義された各Z軸が、αβ平面に対して傾斜角θをなす方向を向くことになり、その結果、各基本センサS1〜S3について定義された各Y軸は、γ軸に対して傾斜角θをなす方向を向くようになる。別言すれば、この第3の実施形態は、図13に示す第1の実施形態における各基本センサS1〜S3の向きを、原点Qを中心として仰角(傾斜角)θだけγ軸正方向に傾斜させて配置したものと言うことができる。
このように、第3の実施形態では、各基本センサS1〜S3について定義されるXYZ座標系の向きが、第1の実施形態とは異なるため、各基本センサS1〜S3によって検出されたモーメント成分Mx1,My1,Mx2,My2,Mx3,My3に基づいて、作用した外力のαβγ座標系における各座標軸方向の力成分Fα,Fβ,Fγおよび各座標軸まわりのモーメント成分Mα,Mβ,Mγを求めるために必要な演算処理は、§4で述べた第1の実施形態の検出動作で説明した演算処理(図22に示す演算式に基づく演算処理)とは異なったものになる。
すなわち、6軸成分Fα,Fβ,Fγ,Mα,Mβ,Mγを、モーメント成分Mx1,My1,Mx2,My2,Mx3,My3に基づいて求める演算式(他軸干渉を排除可能な演算式)は、傾斜角θに関する三角関数を含む式になる。この演算式は、かなり複雑な式になるため、ここでは掲載を省略するが、第1の実施形態と同様の原理により、各基本センサS1〜S3の幾何学的な配置に基づいて求めることができる。したがって、回路基板500Bには、当該演算式に基づいて必要な演算処理を行う演算回路を設けておけばよい。
このように、ここで述べた第3の実施形態に係る力覚センサでは、各基本センサS1〜S3がαβ平面に対して傾斜角θだけ傾斜した方向に取り付けられているため、各検出値を得るために必要な演算処理は若干複雑になる。しかしながら、各基本センサS1〜S3の配置の自由度が増すため、装置全体の設計自由度を向上させることができる。たとえば、「高さを抑制してできるだけ平らなセンサを設計したい」といった要望や、「高さは増してもよいが、径ができるだけ小さいセンサを設計したい」といった要望など、設計上の様々な要望に応えることが容易になる。
<<< §7. 第4の実施形態 >>>
ここで述べる第4の実施形態は、外側構造体と内側構造体との間に3組の基本センサを接続する、という基本原理に関しては、これまで述べてきた各実施形態と同じであるが、個々の基本センサの構造とその接続方法が大きく異なっている。
図25は、この第4の実施形態に係る力覚センサをαβ平面で切断した横断面図、図26は、εγ平面で切断した縦断面図である(いずれも各基本センサS1′〜S3′の部分については上面図や側面図を示す)。αβγ座標系上におけるδ軸およびε軸の向きは、これまで述べてきた各実施形態の例と全く同様である。この第4の実施形態の各構成要素の符号には、第1の実施形態の対応する構成要素の符号に「C」を付した符号を用いることにする。
図25に示すとおり、この力覚センサの主たる構成要素は、外側構造体100C、内側構造体200C、3組の基本センサS1′〜S3′である。外側構造体100Cおよび内側構造体200Cは、それぞれ筒状の構造体によって構成されており、外側構造体100Cの内側に、内側構造体200Cが配置されている。特に、ここに示す実施例の場合、外側構造体100Cと内側構造体200Cは、γ軸を共通の中心軸とする同心円筒状の構造体によって構成されている。
第1〜第3の実施形態の場合、外側構造体100,100A,100Bは筒状の構造体であるが、その内側に配置される内側構造体200,200A,200Bは柱状もしくは錐状の構造体であった(もちろん、内部を空洞にして筒状にする変形例も可能)。これに対して、ここに示す第4の実施形態では、内側構造体200Cも筒状の構造体によって構成されている。これは、各基本センサS1′〜S3′が、内側構造体200Cの内周面に設けられた内側接続点Iβ,Iδ,Iε(図では黒丸で示す)と、外側構造体100Cの内周面に設けられた外側接続点Jβ,Jδ,Jε(図では白丸で示す)とを連結する構造を採用するためである。
図25に示すとおり、第1の基本センサS1′は、β軸に沿って伸びる方向に配置され、第2の基本センサS2′は、δ軸に沿って伸びる方向に配置され、第3の基本センサS3′は、ε軸に沿って伸びる方向に配置されている。そこで、ここでは説明の便宜上、β軸を第1の基本センサS1′に対応する参照線と定義し、δ軸を第2の基本センサS2′に対応する参照線と定義し、ε軸を第3の基本センサS3′に対応する参照線と定義することにする。
そうすると、各参照線は、外側構造体100Cの第1の側壁、内側構造体200Cの第1の側壁、内側構造体200Cの第2の側壁、外側構造体100Cの第2の側壁を貫通する直線になり、各参照線が貫通する内側構造体200Cの第1の側壁にはそれぞれ挿通孔が形成されていることになる。
たとえば、第1の基本センサS1′に対応する参照線であるβ軸を図の下方(座標軸βの負方向)から図の上方(座標軸βの正方向)へと順に辿ってゆくと、当該参照線は、外側構造体100Cの第1の側壁(図の下方の壁)、内側構造体200Cの第1の側壁(図の下方の壁)、内側構造体200Cの第2の側壁(図の上方の壁)、外側構造体100Cの第2の側壁(図の上方の壁)を貫通する直線になる。そして、内側構造体200Cの第1の側壁(図の下方の壁)には挿通孔211が形成されている。
同様に、第2の基本センサS2′に対応する参照線であるδ軸を図の右上(座標軸δの負方向)から図の左下(座標軸δの正方向)へと順に辿ってゆくと、当該参照線は、外側構造体100Cの第1の側壁(図の右上の壁)、内側構造体200Cの第1の側壁(図の右上の壁)、内側構造体200Cの第2の側壁(図の左下の壁)、外側構造体100Cの第2の側壁(図の左下の壁)を貫通する直線になる。そして、内側構造体200Cの第1の側壁(図の右上の壁)には挿通孔212が形成されている。
また、第3の基本センサS3′に対応する参照線であるε軸を図の左上(座標軸εの負方向)から図の右下(座標軸εの正方向)へと順に辿ってゆくと、当該参照線は、外側構造体100Cの第1の側壁(図の左上の壁)、内側構造体200Cの第1の側壁(図の左上の壁)、内側構造体200Cの第2の側壁(図の右下の壁)、外側構造体100Cの第2の側壁(図の右下の壁)を貫通する直線になる。そして、内側構造体200Cの第1の側壁(図の左上の壁)には挿通孔213が形成されている。
ここで述べる第4の実施形態に用いられている3組の基本センサS1′〜S3′は、これまで述べてきた第1〜第3の実施形態に用いられている基本センサS1〜S3(§1,§2で述べたセンサ)とは若干構造が異なっているが、その基本機能は同じである。すなわち、図25に示す基本センサS1′〜S3′は、起歪体10に竿状部21〜23を取り付けた構造を有する。なお、ここでは、説明の便宜上、各竿状部21,22,23にそれぞれ異なる符号を付して示すが、これら各竿状部は実質的に全く同一の構造体である。起歪体10は、図1に示す基本センサSの起歪体10と同じものであり、竿状部21,22,23は、連結機能を果たすための細長い部材である。
一方、外側構造体100Cの第1の側壁の参照線との交差部分近傍には、他の部分に比べて肉厚の薄いダイアフラム部が形成されており、各基本センサS1′〜S3′の一端は、このダイアフラム部に接合されている。具体的には、図25に示す外側構造体100Cの下方内周面には、取付溝121が掘られており、肉厚の薄いダイアフラム部131が形成されており、第1の基本センサS1′の竿状部21の端部は、このダイアフラム部131の内側面に接合されている。同様に、外側構造体100Cの右上内周面には、取付溝122が掘られており、肉厚の薄いダイアフラム部132が形成されており、第2の基本センサS2′の竿状部22の端部は、このダイアフラム部132の内側面に接合されており、外側構造体100Cの左上内周面には、取付溝123が掘られており、肉厚の薄いダイアフラム部133が形成されており、第3の基本センサS3′の竿状部23の端部は、このダイアフラム部133の内側面に接合されている。
結局、この第4の実施形態の場合、各基本センサS1′〜S3′は、対応する参照線(β軸,δ軸,ε軸)が貫通する外側構造体100Cの第1の側壁の内周面に設けられた外側接続点Jβ,Jδ,Jεと、対応する参照線が貫通する内側構造体200Cの第2の側壁の内周面に設けられた内側接続点Iβ,Iδ,Iεとを、対応する参照線が貫通する内側構造体200Cの第1の側壁に形成された挿通孔211,212,213を通して連結する連結機能を有していることになる。
また、各基本センサS1′,S2′,S3′の起歪体10には、図1(b) に示すように、ダイアフラム部11が設けられているため、各基本センサS1′,S2′,S3′は、外側接続点Jβ,Jδ,Jεと内側接続点Iβ,Iδ,Iεとを連結する連結機能に加えて、両接続点の相対位置関係が変化するように弾性変形する変形機能も有していることになる。
更に、図示の実施例の場合、竿状部21,22,23の端部は、外側構造体100Cに設けられたダイアフラム部131,132,133に接続されている。そのため、各基本センサS1′,S2′,S3′の弾性変形機能と、ダイアフラム部131,132,133の弾性変形機能とが協働動作することができるようになり、内側構造体200Cを固定した状態において外側構造体100Cに外力が作用した場合、この力覚センサを円滑に変形させることが可能になる。
もちろん、各基本センサS1′〜S3′は、第1〜第3の実施形態に用いられていた基本センサS1〜S3と同様の検出機能を有している。すなわち、外側接続点と内側接続点とを結ぶ連結線上に原点Oを定義し、この連結線上に配置されたZ軸と、このZ軸に直交するX軸と、Z軸およびX軸の双方に直交するY軸と、を有するXYZ三次元直交座標系を定義したとき、各基本センサS1′〜S3′は、内側構造体200Cを固定した状態において外側構造体100Cに作用した外力のX軸まわりのモーメント成分MxおよびY軸まわりのモーメント成分Myを検出することができる。
したがって、図14に示す例と同様に、各基本センサS1′〜S3′について、歪検出基板40の中心位置に原点Oをとり、各座標軸β,δ,εの方向にZ軸を定義し、紙面垂直方向にY軸を定義し、Z軸とY軸との双方に直交する方向にX軸を定義して、個々の基本センサS1′〜S3′ごとにXYZ座標系を定義すれば、演算手段は、各基本センサS1′〜S3′のそれぞれが検出したX軸まわりのモーメント成分Mx1,Mx2,Mx3およびY軸まわりのモーメント成分My1,My2,My3を用いた演算を行うことにより、外側構造体100Cおよび内側構造体200Cについて、一方を固定した状態において他方に作用した外力のαβγ座標系の各座標軸方向の力成分Fα,Fβ,Fγと各座標軸まわりのモーメント成分Mα,Mβ,Mγとを求めることができる。具体的な演算方法は、§4で述べた演算方法と同様であり、図22に示す演算式を利用した演算を行うことにより、他軸干渉を排除した検出値を得ることができる。
この第4の実施形態に係る力覚センサの内部構造は、図26の縦断面図に詳細に示されている。上述したとおり、外側構造体100Cおよび内側構造体200Cは、γ軸を共通の中心軸とする同心円筒状の構造体によって構成されている。そして、図示のとおり、外側構造体100Cには、中心軸γが上下方向を向くように配置したときに、その上方開口部を覆う円板状の天板部材150Cが設けられている。また、内側構造体200Cの下方には、その下方開口部を覆う円板状の底板部材250Cが取り付けられており、この底板部材250Cは、台座400Cの上面に固定されている。
図26は、図25に示す力覚センサをεγ平面で切断した縦断面図であり(基本センサS3′の部分は側面図)、図の横方向がε軸の方向になる。そして、このε軸(参照軸)に沿って第3の基本センサS3′が配置されている。具体的には、外側構造体100Cの左側の側壁(第1の側壁)の内周面には、取付溝123が掘られており、肉厚の薄いダイアフラム部133が形成されている。そして、第3の基本センサS3′を構成する竿状部23は、このダイアフラム部133の内側面に左端部が接合されており、内側構造体200Cの左側の側壁(第1の側壁)に形成された挿通孔213を通ってε軸(参照軸)に沿って右方へと伸びている。竿状部23の右端部には、起歪体10のダイアフラム部が接続されており、この起歪体10は、内側構造体200Cの右側の側壁(第2の側壁)の内周面に固着されている。
こうして、第3の基本センサS3′は、図の左方に示す外側接続点Jε(ε軸とダイアフラム133の内面との交点)と、図の右方に示す内側接続点Iε(ε軸と内側構造体200Cの内周面との交点)と、を挿通孔213を通して連結する連結機能を果たすことになる。図26では、図が繁雑になるのを避けるため、第1の基本センサS1′および第2の基本センサS2′については、竿状部21および22をεγ平面で切断した断面部分のみが示されているが、これら基本センサS1′,S2′についての連結形態も全く同様である。
なお、3組の基本センサS1′,S2′,S3′を配置する参照線となるβ軸,δ軸,ε軸は、αβγ座標系の原点Qで交差するため、竿状部21,22,23を直線状の部材によって構成すると、原点Q付近で互いに接触してしまうことになる。このような相互干渉を避けるためには、少なくとも一部の基本センサの竿状部を、他の基本センサの竿状部との接触を回避できるように湾曲させればよい。
図示の例の場合、第1の基本センサS1′の竿状部21は直線状の細長い円柱状部材によって構成されているが(図では、原点Qの位置に楕円状の切断面が示されている)、第3の基本センサS3′の竿状部23は、図示のとおり、基本的には直線状の細長い円柱状部材によって構成されているものの、原点Q付近では、竿状部21の上方を通過できるように上方に湾曲している。一方、第2の基本センサS2′の竿状部22も、基本的には直線状の細長い円柱状部材によって構成されているものの、原点Q付近では、竿状部21の下方を通過できるように下方に湾曲している(図では、原点Qの下方位置に楕円状の切断面が示されている)。
図26に示す力覚センサでは、図に斜線によるハッチングを施して示すとおり、内側構造体200Cと底板部材250Cとは、同一材料によって構成された一体構造をなすカップ状の構造体によって構成されており、その底面は、台座400Cの上面に接着されている。一方、図にドットによるハッチングを施して示すとおり、外側構造体100Cと天板部材150Cとは、やはり同一材料によって構成された一体構造をなすカップ状の構造体によって構成されている。
結局、この力覚センサは、2組のカップ状構造体を、弾性変形機能をもった3組の基本センサS1′〜S3′によって連結した基本構造を有していることになり、台座400Cを固定した状態において、外側構造体100Cもしくは天板部材150Cに外力を作用させると、前述したとおり、当該外力について、Fα,Fβ,Fγ,Mα,Mβ,Mγという6軸成分を検出することが可能になる。
この第4の実施形態では、基本センサS1′〜S3′の一部分(竿状部22,23の一部分)を湾曲構造にし、内側構造体200Cに挿通孔211〜213を設ける等の加工が必要になるが、第1の実施形態に比べると、外径を小さく設計できるという利点が得られる。
図26に示すとおり、底板部材250Cの上面には、回路基板500Cが固着されている。図示は省略するが、各基本センサS1′〜S3′と回路基板500Cとの間には、各基本センサS1′〜S3′によって検出された検出値Mx1,Mx2,Mx3,My1,My2,My3を伝達するための配線が施されており、回路基板500Cには、これらの検出値に基づいて上記6軸成分を求める演算を行うための演算回路が形成されている。
また、前述した第1の実施形態に係る力覚センサと同様に、この第4の実施形態に係る力覚センサにも、基本センサS1′〜S3′に過度の外力が加わらないようにするための2通りの制御構造が組み込まれている。
第1の制御構造は、外側構造体100Cと内側構造体200Cとを、γ軸を共通の中心軸とする同心円筒状の構造体によって構成したことにより実現されている。図26に示すように、外側構造体100Cの内周面と内側構造体200Cの外周面との間には所定の空隙が形成されている。そこで、この空隙の寸法を適切に設定することにより、内側構造体200Cに対する外側構造体100Cの変位を適切な範囲内に制御し、基本センサS1′〜S3′に過度の外力が加わらないようにしている。
要するに、内側構造体200Cに対する外側構造体100Cの変位が所定の許容範囲に達した場合に、内側構造体200Cの外周面と外側構造体100Cの内周面とが接触し、それ以上の変位が制限されるように、内側構造体200Cと外側構造体100Cとの間隔が所定値に設定されており、各基本センサS1′〜S3′が、内側構造体200Cに対する外側構造体100Cの変位が上記許容範囲内である限りにおいて、正常な検出機能を果たすように設計すればよい。
この第4の実施形態に係る力覚センサが採用している第2の制御構造は、竿状部21〜23と挿通孔211〜213との組み合わせである。たとえば、図26に示す竿状部23は、内側構造体200Cの側壁に設けられた挿通孔213を通るように配置されている。そこで、内側構造体200Cに対する外側構造体100Cの変位が所定の許容範囲に達した場合に、内側構造体200Cに形成された挿通孔213と、この挿通孔213を通る竿状部23(すなわち、基本センサS3′の一部分)とが接触し、それ以上の変位が制限されるように、挿通孔213との間隔を所定値に設定しておき、基本センサS3′が、内側構造体200Cに対する外側構造体100Cの変位が上記許容範囲内である限りにおいて、正常な検出機能を果たすように設計すればよい。基本センサS1′,S2′についても同様である。
なお、図25および図26に示す実施形態では、外側構造体100Cの外周面にダイアフラム部131,132,133が露出している。このため、側面から加えられた外力がダイアフラム部131,132,133に直接作用すると、この部分が直接変形し、正確な検出値を得ることができないおそれがある。
このような弊害を避けるためには、図27に示す変形例のように、外側構造体100Cの更に外側に、筒状の構造体からなる外殻構造体300Cを設け、その上方に円板状の連結部材350Cを設け、連結部材350Cを天板部材150Cの上面に接着することにより、外殻構造体300Cと外側構造体100Cとを接続するようにすればよい。この変形例では、台座400Cを固定した状態において、外殻構造体300Cもしくは連結部材350Cに外力を作用させると、当該外力は、天板部材150Cを介して外側構造体100Cに伝達され、各基本センサS1′〜S3′が弾性変形することにより、図にドットによるハッチングを施した構成部分が一体となって変位を生じることになる。しかも、ダイアフラム部131,132,133は、外殻構造体300Cによって保護されているため、外力の作用を直接受けることはない。また、外側構造体100Cの外周面と、外殻構造体300Cの内周面との間には、所定の空隙が確保されているため、ダイアフラム部131,132,133の自由変形が阻害されることもない。
<<< §8. 種々の変形例 >>>
これまで、本発明に係る力覚センサを、第1〜第4の実施形態に基づいて説明した。ここでは、これらの実施形態に対するいくつかの変形例を述べることにする。
<8.1 基本センサの数に関する変形例>
今まで述べた実施形態では、3組の基本センサが用いられていたが、本発明を実施するにあたり、基本センサの数は3組に限定されるものではない。本発明に係る力覚センサは、3組以上であれば、任意の数の基本センサを用いて構成することができる。要するに、本発明に係る力覚センサは、内部に収容空間を有する外側構造体と、少なくとも一部がこの収容空間内に収容された内側構造体との間を、複数n組(但し、n≧3)の基本センサによって連結し、演算手段によって、これらn組の基本センサの検出値を用いた演算を行うことにより、作用した外力の検出が行われるようにすればよい。
図28は、4組の基本センサを用いた変形例に係る力覚センサをαβ平面で切断した横断面図(基本センサS1〜S4については上面図)である。ここでは、図の上方に配置された基本センサを第1の基本センサS1と呼び、以下、反時計まわりの順に、第2の基本センサS2、第3の基本センサS3、第4の基本センサS4と呼ぶことにする。第1の基本センサS1は、β軸正領域が中心軸となるように配置され、第2の基本センサS2は、α軸負領域が中心軸となるように配置され、第3の基本センサS3は、β軸負領域が中心軸となるように配置され、第4の基本センサS4は、α軸正領域が中心軸となるように配置されている。
この変形例は、図12に示す第1の実施形態における基本センサの数を3組から4組に変更した例であり、基本的な構造は、§3で述べた第1の実施形態と同様である。そこで、この変形例の各構成要素の符号には、第1の実施形態の対応する構成要素の符号に「D」を付した符号を用いることにする。両者の相違は、第1の実施形態では、図12に示すように内側構造体200が三角柱によって構成されていたのに対し、図28に示す変形例の内側構造体200Dは四角柱によって構成されており、その4つの側面に、それぞれ基本センサS1〜S4が設けられている点である。
図示のとおり、内側構造体200Dは、正方形の断面をもつ四角柱によって構成されており、この内側構造体200Dの外側に、円筒状の外側構造体100Dが配置され、更にその外側に外殻構造体300Dが配置されている。その余の構成は、§3で述べた第1の実施形態と同様である。
すなわち、外殻構造体300Dの上方開口部を覆う円板状部材によって連結部材が構成され、内側構造体200Dの上面は、この連結部材の下面に接合されている。そして、この連結部材は、内側構造体200Dおよび外殻構造体300Dと一体構造をなす。また、外側構造体100Dの下方には、その開口部を覆う底板部材が形成されており、この底板部材は台座に固定されている。そして、演算手段は、底板部材の上面に固定された回路基板上に形成された演算回路によって構成されている。
外側構造体100Dと外殻構造体300Dとは、γ軸を共通の中心軸とする同心円筒をなし、両者の間には所定の空隙寸法が確保されている。この空隙の寸法は、外側構造体100Dに対する外殻構造体300Dの変位を適切な範囲内に制御可能な寸法に設定されており、基本センサS1〜S4に過度の外力が加わらないような制御構造が実現されている。なお、この変形例では、制御溝と制御突起からなる制御構造は省略されているが、もちろん必要に応じて、制御溝と制御突起からなる制御構造を追加してもかまわない。
内側構造体200Dを構成する四角柱の各側面には、4組の内側接続点(黒丸で示す)が設けられている。すなわち、α軸正領域との交点位置には内側接続点Iα+が設けられ、α軸負領域との交点位置には内側接続点Iα−が設けられ、β軸正領域との交点位置には内側接続点Iβ+が設けられ、β軸負領域との交点位置には内側接続点Iβ−が設けられている。これに対して、外側構造体100Dの内周面における対向位置には、4組の外側接続点(白丸で示す)が設けられている。すなわち、α軸正領域との交点位置には外側接続点Jα+が設けられ、α軸負領域との交点位置には外側接続点Jα−が設けられ、β軸正領域との交点位置には外側接続点Jβ+が設けられ、β軸負領域との交点位置には外側接続点Jβ−が設けられている。
4組の基本センサS1〜S4は、図示のとおり、これら各内側接続点と各外側接続点とを連結する連結機能を果たすことになる。各基本センサS1〜S4は、図1に示す基本センサSによって構成されており、上記連結機能の他に、外力の作用により弾性変形する変形機能と、作用した外力によって生じたモーメント成分を検出する検出機能と、を有している。各基本センサS1〜S4は、互いに検出感度が等しい同一のセンサである。
ここでも、力覚センサ全体について、中心点Qを原点とするαβγグローバル座標系を定義し、個々の基本センサS1〜S4のそれぞれについて、歪検出基板の中心位置を原点OとするXYZローカル座標系を定義すれば、各基本センサS1〜S4は、それぞれのXYZ座標系におけるX軸まわりのモーメント成分MxおよびY軸まわりのモーメント成分Myを検出することができる。ただ、図12に示す第1の実施形態の場合、3組の基本センサS1〜S3の各Z軸が、互いに120°をなすように、β軸,δ軸,ε軸に沿って配置されていたのに対し、図28に示す変形例の場合、4組の基本センサS1〜S4の各Z軸が、互いに90°をなすように、β軸負方向、α軸正方向、β軸正方向、α軸負方向に沿って配置されている。別言すれば、各基本センサS1〜S4のZ軸正方向は、いずれも原点Qに向かう方向を向いている。
具体的には、第1の基本センサS1について定義されたZ軸正方向はβ軸負方向に一致し、第2の基本センサS2について定義されたZ軸正方向はα軸正方向に一致し、第3の基本センサS3について定義されたZ軸正方向はβ軸正方向に一致し、第4の基本センサS4について定義されたZ軸正方向はα軸負方向に一致する。また、図14に示す第1の実施形態の場合と同様に、各基本センサS1〜S4についてのY軸正方向は、紙面垂直下方向(紙面の裏側に向かう方向)に定義され、X軸正方向は、原点Qを中心とした円について反時計まわりの接線方向に定義されるものとする。
結局、この変形例の場合、4組の基本センサS1〜S4のそれぞれから、X軸まわりのモーメント成分MxおよびY軸まわりのモーメント成分Myが検出され、演算手段は、合計8組の検出値に基づいて、作用した外力のαβγ座標系における6軸成分を求める演算を行うことができる。第1の実施形態の場合、図22に示す演算式に基づく演算により6軸成分が得られたのに対して、ここに示す変形例の場合、図29に示す演算式に基づく演算により6軸成分を得ることができる。
すなわち、この変形例に係る力覚センサの演算手段は、第1の基本センサS1が検出したX軸まわりのモーメント成分をMx1、第1の基本センサS1が検出したY軸まわりのモーメント成分をMy1、第2の基本センサS2が検出したX軸まわりのモーメント成分をMx2、第2の基本センサS2が検出したY軸まわりのモーメント成分をMy2、第3の基本センサS3が検出したX軸まわりのモーメント成分をMx3、第3の基本センサS3が検出したY軸まわりのモーメント成分をMy3、第4の基本センサS4が検出したX軸まわりのモーメント成分をMx4、第4の基本センサS4が検出したY軸まわりのモーメント成分をMy4としたときに、所定の係数値K21,K22,K23,K24,K25,K26を用いた
Fα=K21(−My1+My3)
Fβ=K22(−My2+My4)
Fγ=K23(Mx1+Mx2+Mx3+Mx4)
Mα=K24(Mx1−Mx3)
Mβ=K25(Mx2−Mx4)
Mγ=K26(My1+My2+My3+My4)
なる演算を行うことにより、力成分Fα,Fβ,Fγおよびモーメント成分Mα,Mβ,Mγの6成分を検出することができる。
しかも、上記演算式によって求めた6軸成分は、第1の実施形態と同様に、他軸干渉のない独立した検出値になる。ここでは、上記演算式によって、各軸成分の検出値が得られる理由および他軸成分の干渉を排除できる理由についての個別の説明は省略するが、§4で詳述した第1の実施形態についての検出動作を踏まえれば、上記演算式によって他軸干渉のない6軸成分が求まることは容易に理解できよう。
図22に示す演算式(120°おきに3組の基本センサを配置した場合の演算式)と、図29に示す演算式(90°おきに4組の基本センサを配置した場合の演算式)とを比べればわかるとおり、前者が各項にルート演算を含む係数値が乗じられた式であるのに対して、後者は単純な加減算のみである。したがって、90°おきに4組の基本センサを配置した変形例は、演算手段の演算負担が軽減されるというメリットを有している。しかしながら、120°おきに3組の基本センサを配置した変形例に比べると、基本センサの数が増えるため、装置が大型化し、コスト高になるというデメリットが生じることになる。
以上、§3,§4で述べた第1の実施形態を基本として、用いる基本センサの数を3組から4組に増やす変形例を述べたが、もちろん、§5〜§7で述べた第2〜第4の実施形態についても、基本センサの数を3組から4組に増やす変形が可能である。
たとえば、第3の実施形態では、図24に示すような三角錐状の内側構造体200Bを用いる例を示したが、内側構造体を、正方形の横断面をもつ四角錐(いわゆる、ピラミッド型)によって構成し、この四角錐の各側面にそれぞれ内側接続点を設け、4組の基本センサにより、それぞれ各内側接続点と外側構造体の対向位置に設けられた外側接続点とを連結すれば、第3の実施形態の基本センサの数を3組から4組に増やした変形例が実現できる。
この場合、4組の基本センサは、中心軸(Z軸)がαβ平面に対して傾斜角θだけ傾斜した状態で配置されることになるが、これら中心軸をαβ平面に投影した投影線は、α軸またはβ軸上に位置することになる。このように、4組の基本センサの中心軸(Z軸)を傾斜角θだけ傾斜させる変形例の場合、演算手段は、図29に示す演算式ではなく、角度θの三角関数を含んだより複雑な演算式を用いた演算を行う必要があるが、装置設計の自由度が増すため、高さを抑制したい、あるいは、径の大きさを抑制したい等の要望に応えることが容易になる。
もちろん、用いる基本センサの数は3組や4組に限定されるものではなく、5組以上の基本センサを用いる構成を採ることも可能である。ただ、基本センサの数を増やせば増やすほど、装置は大型化し、コストも高騰することになるので、実際には、3組もしくは4組の基本センサを用いるのが好ましい。一般に、外側構造体によって内側構造体を変位自在に安定して支持するには、3組の基本センサを用いれば十分であるので、実用上は、3組の基本センサを用いた実施形態が最適と言える。
なお、本発明に係る力覚センサを構成する基本センサは、外側接続点と内側接続点と連結する連結機能を有しているが、外側接続点の位置および内側接続点の位置は、これまで述べてきた実施形態や変形例に示されている位置に限定されるものではない。
ただ、実用上は、第1〜第3の実施形態のように、内側構造体として柱状の構造体を利用する場合には、外側接続点と内側接続点とを結ぶ連結線が、内側構造体を構成する柱状の構造体の外面に対して直交するように、各基本センサを配置するようにし、第4の実施形態のように、内側構造体および外側構造体として同心の円筒状構造体を利用する場合には、外側接続点と内側接続点とを結ぶ連結線が、外側構造体および内側構造体の共通中心軸に対して直交するように、各基本センサを配置するのが好ましい。このような配置を採れば、各基本センサのZ軸が、αβγ座標系のγ軸もしくは原点Gを中心として放射状に外側に向くような配置が可能になり、演算手段による演算処理をより単純化する効果が得られるようになる。
<8.2 基本センサ取付部の構造に関する変形例>
§3では、図12および図13に示す第1の実施形態の構造を説明した。この第1の実施形態では、外側構造体100は円筒状の構造体であり、3組の基本センサS1〜S3の受力体30は、この外側構造体100の内周面に固定されている。一方、§4では、この第1の実施形態による検出動作を説明した。特に、図19を参照した説明では、内側構造体200に対してβ軸正まわりのモーメント+Mβが作用したときの検出動作を述べた。
この図19に示す検出動作では、第1の基本センサS1に対しても、β軸正まわりのモーメント+Mβが作用することになるが、図1に示す基本センサSは、その構造上、Z軸まわりのモーメント成分Mzが作用したときに、必ずしも十分な変形を生じる可撓性を有していない。すなわち、図1(b) の側面図に示すとおり、接続部材20の上下両端はダイアフラム部11,31の中心部に接続されているため、この基本センサSは、図6や図7に例示するような変形は生じやすい。しかしながら、ダイアフラム部11,31に対してZ軸まわりのモーメントMzを加えても、必ずしも十分な変形が生じるわけではない。したがって、図19に示すように、力覚センサの内側構造体200に対して、β軸正まわりのモーメント+Mβが作用した場合、第1の基本センサS1はβ軸まわりに十分な変形を生じることができず、第2および第3の基本センサS2,S3に生じる変形を抑制し、検出感度を低下させてしまう可能性がある。
そもそも、図1に示す基本センサSは、X軸まわりのモーメントMx、Y軸まわりのモーメントMy、Z軸方向の力Fzを検出するセンサであるため、これらのモーメントや力が作用した場合は検出に十分な変形が生じるように設計されているが、Z軸まわりのモーメントMzが作用した場合には、必ずしも十分な変形が生じるわけではない。一方、この基本センサSを本発明に係る力覚センサに利用し、たとえば、図19に示すように、β軸まわりのモーメントMβの検出に利用する場合には、少なくとも第1の基本センサS1は、Z軸まわりのモーメントMzが作用したときに十分な変形が生じる構造を有しているのが好ましい。
図1に示す基本センサSにZ軸まわりに関する可撓性をもたせる方法の1つは、接続部材20の部分に加工を施し、Z軸を中心として捻れる方向に変形しやすい構造にすることである。ただ、この方法には、接続部材20の構造が複雑になり、製造コストの高騰を招くという問題がある。別な方法としては、接続部材20の全長を伸ばすという方法もある。一般的な金属によって接続部材20を構成した場合、ある程度の弾性変形が生じるので、その全長が長くなればなるほど、捻れ方向の変形は生じやすくなる。しかしながら、接続部材20の全長を長くすると、本発明に係る力覚センサの径は大きくならざるを得ず、小型化を図ることができなくなる。
ここで述べる変形例は、このような問題を解決する一方法を提案するものであり、その特徴は、基本センサS自体にZ軸まわりの可撓性を与える代わりに、外側構造体側に同等の機能を生じさせる構造を設ける点にある。図30は、第1の実施形態に係る力覚センサの外側構造体100の変形例に相当する外側構造体100Eを示す斜視図である。なお、この図30では、説明の便宜上、外側構造体100Eの内部に3組の基本センサS1〜S3(図では、破線で描かれている)を配置した状態を示す。実際には、第1の実施形態に係る力覚センサを構成するためには、3組の基本センサS1〜S3の内側に配置される三角柱状の内側構造体200や、外側構造体100Eの更に外側に配置される外殻構造体300等の構成要素が必要になるが、図30では、説明の便宜上、他の構成要素の図示は省略している。
図30に示す外側構造体100Eは、§3で述べた外側構造体100と同様に円筒状の構造体であるが、その壁部の所定箇所には、外側から内側まで貫通する壁部貫通スリットが設けられており、この壁部貫通スリットで囲まれた部分が基本センサ取付部を構成している。具体的には、図30に示す例の場合、外側構造体100Eには、3組の基本センサ取付部160,170,180が形成されている。
ここで、第1の基本センサ取付部160は、外側構造体100Eとβ軸とが交差する外側接続点近傍の円形部分であり、その内側には、破線で示すように第1の基本センサS1が取り付けられる。同様に、第2の基本センサ取付部170は、外側構造体100Eとγ軸とが交差する外側接続点近傍の円形部分であり、その内側には、破線で示すように第2の基本センサS2が取り付けられる。また、第3の基本センサ取付部180は、外側構造体100Eとε軸とが交差する外側接続点近傍の円形部分であり、その内側には、破線で示すように第3の基本センサS3が取り付けられる。
図30の正面に示されているとおり、第3の基本センサ取付部180は、輪郭が円形をした円板状部材(厳密に言えば、円筒の一部を構成する湾曲円板状部材)であり、その周囲には、4組の円弧状をした壁部貫通スリットSL1〜SL4が設けられている。また、隣接する一対の壁部貫通スリット間には、それぞれビーム部181〜184が形成されている。具体的には、壁部貫通スリットSL1,SL2の間にはビーム部181が形成され、壁部貫通スリットSL2,SL3の間にはビーム部182が形成され、壁部貫通スリットSL3,SL4の間にはビーム部183が形成され、壁部貫通スリットSL4,SL1の間にはビーム部184が形成されている。
結局、第3の基本センサ取付部180は、その周囲を4組の壁部貫通スリットSL1〜SL4で囲まれ、4組のビーム部181〜184によって周囲から支持されていることになる。ここで、4組のビーム部181〜184は、外側構造体100Eの本体部と同じ材質(たとえば、アルミニウム合金)からなる構造体であるが、厚みが小さいために変形に十分な可撓性を有している。このため、第3の基本センサ取付部180は、外力の作用により、所定の自由度の範囲内で外側構造体100Eの本体部に対して変位(たとえば、ε軸を中心として捩じれるような変位や、ε軸の軸方向への変位)を生じることができる。第1および第2の基本センサ取付部160,170についても全く同様である。
このように、図30に示す変形例では、外側構造体100Eの外側接続点(β軸,γ軸,ε軸との交点)の近傍部分が、基本センサ取付部160,170,180を構成しており、各基本センサS1,S2,S3は、これら基本センサ取付部160,170,180の内側に取り付けられている。しかも、基本センサ取付部160,170,180の周囲には、各基本センサ取付部の輪郭線に沿って、外側構造体100Eの壁部を貫通する複数の壁部貫通スリット(SL1〜SL4等)が設けられ、隣接する壁部貫通スリット間に可撓性をもったビーム部(181〜184等)が形成されている。その結果、基本センサ取付部160,170,180は、周囲からこれらビーム部によって支持されている。
特に、図30に例示する変形例の場合、基本センサ取付部160,170,180は、いずれも円形の輪郭線を有し、この輪郭線に沿って、4組の円弧状の壁部貫通スリット(SL1〜SL4等)が設けられており、隣接する壁部貫通スリット間にそれぞれ可撓性を有するビーム部(181〜184等)を配置することにより合計4組のビーム部が形成され、基本センサ取付部160,170,180は、それぞれ周囲から合計4組のビーム部によって支持されていることになる。
この図30に示す変形例では、図19に示すモーメントMβの検出動作においても、十分な検出感度を確保することが可能になる。すなわち、3組の基本センサS1〜S3自身は、Z軸まわりに関する十分な可撓性を有していなくても、基本センサ取付部160,170,180が、各基本センサのZ軸まわり(β軸,γ軸,ε軸まわり)に関する十分な可撓性を有しているため、図19に示す検出動作においても、第1の基本センサS1により変位が抑制されることはなく、第2および第3の基本センサS2,S3から、十分な感度をもった検出値が得られることになる。
なお、図30に示す変形例は、各基本センサS1〜S3に過度の外力が作用しないように制御構造を設ける際にもメリットがある。図12に示すように、第1の実施形態には、制御突起311,312,313と制御溝111,112,113との組合わせからなる制御構造が設けられており、両者の間隔が所定寸法となるような設計を行うことにより、各基本センサS1〜S3を破損から保護することができる。
たとえば、図1に示す基本センサSの場合、Z軸方向の力+Fzが作用すると、図7に示すような変形が生じることになる。本願発明者が試作した基本センサの場合、Z軸方向の力Fzに対する定格荷重を加えたときのダイアフラム部11および31の中心部の変位はそれぞれ5μm程度であった(ピエゾ抵抗素子を用いた基本センサでは、この程度の変位でも十分に検出が可能である)。この場合、定格荷重時のZ軸方向に関する変位は合計で10μm程度ということになる。ここで、たとえば、定格荷重の5倍以上の外力が作用した場合に変位が制御されるようにするには、Z軸方向に関する変位量を50μm以下に抑制する制御構造が必要になる。別言すれば、図12に示す構造の場合、各制御突起311,312,313と各制御溝111,112,113の底面との間隔を50μmに設定する必要がある。しかしながら、実際には、制御突起と制御溝との間隔を50μm程度とする加工を行うには、精度の高い加工技術が要求され、決して容易な作業ではない。
これに対して、図30の変形例に示す構造を採用すれば、基本センサ取付部160,170,180自身がZ軸方向(β軸,γ軸,ε軸方向)に変位するため、各基本センサS1〜S3のZ軸方向に関する変位量を、見かけ上、増幅させる効果が得られる。この見かけの増幅率は、ビーム部の縦、横、長さの寸法値に応じて定まるので、試作品を作成したり、FEM解析の手法を利用したりすることにより、求めることができる。たとえば、こうして求められた増幅率が4であったとすれば、制御突起と制御溝との間隔は、50μm×4=200μmに設定すればよいことになり、加工のし易さは格段に向上する。
以上、図12および図13に示す第1の実施形態について、筒状の外側構造体の壁部にスリットおよびビーム構造を採用し、基本センサ取付部が変位するようにした変形例を述べたが、このような変形例は、第2〜第4の実施形態についても同様に採用することが可能である。
<8.3 基本センサの構造に関する変形例>
第1〜第3の実施形態に示す3組の基本センサS1〜S3は、いずれも図1に示す基本センサSによって構成されており、第4の実施形態に示す3組の基本センサS1′〜S3′は、この図1に示す基本センサSを一部変形したもの(接続部材20および受力体30の部分を竿状部21〜23に置き換えたもの)である。前述したとおり、図1に示す基本センサSは、モーメントMx,Myの検出感度が優れており、本願発明者が知る限り、本発明に係る力覚センサに利用するのに最適のセンサである。
図1に示す基本センサSの主たる構成要素は、作用した外力を受ける受力体30、この受力体30が受けた力に基づいて変形するダイアフラム部11を有する起歪体10、受力体30と上記ダイアフラム部11とを接続する接続部材20、上記ダイアフラム部11の歪みを検出する検出素子A、この検出素子Aの検出結果に基づいてモーメント成分MxおよびMyを電気信号として出力する検出回路であり、検出素子Aとしては、図8に示すとおり、ダイアフラム部11の歪みを抵抗値の変化として検出するピエゾ抵抗素子A1〜A8が用いられている。
より具体的には、図1に示す基本センサSの場合、起歪体10が、XY平面に平行な上面および下面をもった板状部材によって構成され、起歪体10の上面の中央部に定義された検出用領域には、下面側に向かって検出用溝G1が形成されている。そして、この検出用溝G1の底部によってダイアフラム部11が形成され、この検出用溝G1の周囲には側壁部12が形成され、ダイアフラム部11の下面と側壁部12の下面とは同一平面上に位置する構造になっている。
一方、受力体30は、起歪体10の下方に所定間隔をおいて配置され、接続部材20は、Z軸上に配置された柱状部材によって構成され、その上端はダイアフラム部11の下面中央部に接続され、その下端は受力体30の上面中央部に接続されている。
また、検出用溝G1の底面(ダイアフラム部11の上面)には、歪検出基板40が接合されている。この歪検出基板40は、XYZ三次元直交座標系の原点Oの位置に配置され、上面および下面がXY平面に平行な面をなし、ダイアフラム部11の変形によって生じる応力が伝達されるように、ダイアフラム部11の上面に接合されている。そして、図8に示すように、この歪検出基板40の上面の所定箇所には、ピエゾ抵抗素子A1〜A8が形成されており、回路基板50上に形成された検出回路は、これらピエゾ抵抗素子A1〜A8の電気抵抗の変化に基づいて、モーメント成分Mx,Myを示す電気信号を出力する。
このように、図1に示す基本センサSは、ピエゾ抵抗素子A1〜A8によりダイアフラム部11の歪みを検出し、モーメント成分Mx,Myを示す電気信号を出力する機能をもったセンサであるが、ダイアフラム部11の歪みを検出する検出素子としては、必ずしもピエゾ抵抗素子を用いる必要はない。たとえば、ピエゾ抵抗素子の代わりに、ダイアフラム部の変位を静電容量値の変化として検出する静電容量素子を検出素子として用いることもできる。
図31は、静電容量素子を用いた基本センサの一例を示す側面図である。この基本センサは、図示のとおり、円板状の補助基板60、円板状の起歪体70、円柱状の接続部材80、円板状の受力体90を、Z軸を共通の中心軸として配置し、相互に接続したものである。
補助基板60は、単なる円板状の基板であるが、その下面中央には、円板状の共通固定電極E0が形成されている。起歪体70は、図1に示す基本センサSの起歪体10に類似した構造体であり、上面の円形領域には、検出用溝G3が掘られており、この検出用溝G3の底面は、肉厚の薄いダイアフラム部71、その周囲は側壁部72を構成している。一方、受力体90は、図1に示す基本センサSの受力体30と同様の構造体であり、下面の円形領域には、検出用溝G4が掘られており、この検出用溝G4の底面は、肉厚の薄いダイアフラム部91、その周囲は側壁部92を構成している。円柱状の接続部材80は、ダイアフラム部71の中央部とダイアフラム部91の中央部とを接続する機能を果たす。
図32は、図31に示す基本センサにおける起歪体70の上面図である。上述したとおり、起歪体70の上面には、円形の検出用溝G3が掘られており、その底面は薄い円板状のダイアフラム部71を形成している。そして、このダイアフラム部71の上面には、図示のとおり、4枚の扇形の個別変位電極E1〜E4が形成されている。図示の位置にXYZ座標系の原点Oを定義し、図の右方向にX軸、上方向にY軸を定義した場合、電極E1はX軸正領域に配置され、電極E2はY軸正領域に配置され、電極E3はX軸負領域に配置され、電極E4はY軸負領域に配置されている。これら4枚の個別変位電極E1〜E4は、外力の作用によって変形するダイアフラム部71の上面に形成されているため、外力の作用によって変位することになる。
一方、補助基板60の下面に形成された共通固定電極E0は、4枚の個別変位電極E1〜E4の全体に対して対向する1枚の円形の電極であり、ダイアフラム部71の変形の影響を受けずに固定状態を維持する電極である。ここで、4枚の個別変位電極E1〜E4と、これらに対向する共通固定電極E0の扇形の部分領域と、によって構成される静電容量素子をそれぞれ容量素子C1〜C4と呼ぶことにすると、各容量素子C1〜C4を構成する対向電極間の距離は、ダイアフラム部71の変形によって変化し、その結果、各容量素子C1〜C4の静電容量値に変動が生じることになる。
したがって、各容量素子C1〜C4の静電容量値の変動を電気的に検出すれば、この検出結果に基づいて、ダイアフラム部71の変形態様を認識することができ、補助基板60および受力体90のうちの一方を固定した状態において、他方に作用した外力を検出することができる。具体的には、X軸まわりのモーメント成分Mxは、容量素子C2,C4の静電容量値の差として得ることができ、Y軸まわりのモーメント成分Myは、容量素子C1,C3の静電容量値の差として得ることができる。このような検出原理は、たとえば、特許第2841240号公報などに開示されている公知の技術であるため、ここでは詳しい説明は省略する。
結局、図1に示す基本センサS(ピエゾ抵抗素子を検出素子として利用したセンサ)の代わりに、図31に示す基本センサ(容量素子を検出素子として利用したセンサ)を利用しても、本発明に係る力覚センサを構成することが可能である。このように、本発明に係る力覚センサに用いる基本センサは、図1に示す基本センサに限定されるものではなく、別な構造や別な検出原理をもったセンサであってもかまわない。
要するに、本発明に係る力覚センサに利用する基本センサは、外側接続点と内側接続点とを結ぶ連結線上に位置する原点Oと、この連結線上に配置されたZ軸と、このZ軸に直交するX軸と、Z軸およびX軸の双方に直交するY軸と、を有するXYZ三次元直交座標系を定義したときに、作用した外力のX軸まわりのモーメント成分MxあるいはY軸まわりのモーメント成分Myを検出する検出機能を有していれば、その実体構造はどのようなものであってもかまわない。
なお、図1に示す基本センサSでは、受力体30側にも検出用溝G2を堀り、ダイアフラム部31を形成しており、図31に示す基本センサでは、受力体90側にも検出用溝G4を堀り、ダイアフラム部91を形成しているが、受力体30,90側のダイアフラム部31,91は必須のものではない。すなわち、起歪体10,70側に掘られた検出用溝G1,G3によって形成されるダイアフラム部11,71は、外力の作用によって生じる撓みを電気的に検出するために必要なものであるが、受力体30,90側のダイアフラム部31,91は、このような検出に直接的に利用されるものではないので、受力体30,90側の検出用溝G2,G4は省略してもかまわない。
ただ、受力体30,90側に検出用溝G2,G4を堀り、ダイアフラム部31,91を形成しておくと、外力の検出に直接的に利用されるダイアフラム部11,71に対して、より効果的に撓みを生じさせることができるようになり、検出感度を向上させることができる。したがって、実用上は、図1や図31に示す例のように、受力体30,90側にも検出用溝G2,G4を堀り、ダイアフラム部31,91を形成しておくのが好ましい。
また、図1に示す基本センサSや図31に示す基本センサでは、各ダイアフラム部を薄い円板状の膜によって構成しているが、ダイアフラム部は、必ずしも膜状の構造体によって構成する必要はなく、たとえば、十字状のビーム構造体によって各ダイアフラム部を構成してもかまわない。図25に示す第4の実施形態におけるダイアフラム部131〜133についても同様である。要するに、本願におけるダイアフラム部は、一般的な膜状構造体である必要はなく、弾性変形する機能をもった可撓性部材であれば、どのような構造体で構成してもかまわない。
<8.4 その他の変形例>
以上、本発明に係る力覚センサを、第1〜第4の実施形態について説明し、更に、その変形例をいくつか述べたが、これまで述べてきた事項は自由に組み合わせて利用することが可能である。たとえば、第1の実施形態で述べた制御突起と制御溝による制御機構は、他の実施形態や変形例においても採用することが可能である。
また、これまで述べた実施形態の場合、基本センサSの起歪体10側を内側構造体に接続し、受力体30側を外側構造体に接続しているが、基本センサSは、一端を固定した状態において、他端に作用した外力のモーメント成分Mx,Myを検出する機能を有しているので、逆向き、すなわち、基本センサSの受力体30側を内側構造体に接続し、起歪体10側を外側構造体に接続して用いてもかまわない。
同様に、本発明に係る力覚センサ自体も、外側構造体および内側構造体について、一方を固定した状態において他方に作用した外力を検出する機能を有しているので、たとえば、図13に示す実施形態において、台座400を固定した状態において、外殻構造体300に作用した外力を検出する用途に利用することもできるし、逆に、外殻構造体300を固定した状態において、台座400に作用した外力を検出する用途に利用することもできる。
また、これまで述べた実施形態では、αβγ座標系において、作用した外力の6軸成分、すなわち、α軸方向に作用した力成分Fα、β軸方向に作用した力成分Fβ、γ軸方向に作用した力成分Fγ、α軸まわりに作用したモーメント成分Mα、β軸まわりに作用したモーメント成分Mβ、γ軸まわりに作用したモーメント成分Mγの6つの成分をすべて検出する機能をもった力覚センサを述べたが、本発明に係る力覚センサは、必ずしもこれら6軸成分のすべてを検出する機能を有している必要はなく、これら6軸成分のうちの少なくとも1成分を検出することができればよい。
すなわち、力覚センサの用途によっては、6軸成分すべてではなく、その一部の成分のみを検出できれば足りるケースもあるので、用途に応じて、6軸成分のうち必要な成分についての検出機能を設けておけば足りる。したがって、演算手段は、図22や図29に示すような演算式に基づいて6軸成分のすべてを求める演算機能を有している必要はなく、用途に応じて必要な成分についての演算機能を有していれば足りる。また、一部の成分の検出機能を省いた結果、特定の基本センサの特定のモーメント検出値が不要になった場合には、当該基本センサによる当該特定のモーメント検出値の検出機能も省くことができる。したがって、各基本センサは、必ずしもモーメント成分MxおよびMyの双方を検出する機能を有している必要はなく、少なくとも一方を検出する機能を有していればよい。
要するに、本発明に係る力覚センサは、内側構造体の少なくとも一部を外側構造体に収容する構成を採り、両者間を複数n組(但し、n≧3)の基本センサによって接続し、各基本センサによって検出したモーメント成分に対する演算を行い、要望に応じた任意の座標軸方向の力成分や任意の座標軸まわりのモーメント成分を検出するようにすればよい。そうすることにより、比較的単純な構造により小型化およびコストダウンを図りつつ、要望に応じた外力成分を検出することができるようになる。
もっとも、6軸成分のうちの一部の成分の検出機能を省略したとしても、大幅なコストダウンを図ることはできないので、実用上は、これまで述べてきた実施形態やその変形例のように、三次元αβγ座標系の各座標軸方向の力成分と各座標軸まわりのモーメント成分の6軸成分をすべて検出する機能をもった力覚センサを構成するのが好ましい。