JP5243821B2 - 無機膜とその製造方法、圧電素子、及び液体吐出装置 - Google Patents

無機膜とその製造方法、圧電素子、及び液体吐出装置 Download PDF

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Description

本発明は、圧電膜等のパターニングに有効な新規な無機膜のパターニング技術、この技術を用いて得られる無機膜、及びこの技術を用いて得られる圧電膜を備えた圧電素子と液体吐出装置に関するものである。
電界印加強度の増減に伴って伸縮する圧電性を有する圧電膜と、圧電膜に対して所定方向に電界を印加する電極とを備えた圧電素子が、インクジェット式記録ヘッドに搭載されるアクチュエータ等として使用されている。圧電材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等のペロブスカイト型酸化物が知られている。
圧電膜は、連続膜ではなく、互いに分離した複数の凸部からなるパターンで形成することで、個々の凸部の伸縮がスムーズに起こり、より大きな変位量が得られるとされている。圧電膜は、所望の歪変位量を得るため、例えば1〜5μm程度の厚みで形成される。この厚みはnmオーダーの電極(例えば厚み200nm)等に比して厚いものである。特許文献1に記載されているように、従来、PZT等の圧電膜は、ドライエッチングによりパターニングすることが一般になされている。
一般にドライエッチングは異方性エッチングとして知られる。しかしながら、PZT等はエッチングされにくい材料であり、しかもnmオーダーの電極等に比して厚いため、圧電膜のドライエッチングは電極等に比して難しい。そのため、圧電膜のパターニングに時間を要する傾向にある。また、完全な異方性エッチングにはならず、凸部の側面形状がテーパ状となり、高精度のエッチングが難しい傾向にある。
インクジェット式記録ヘッドでは、より一層の高画質化のため、圧電膜をなす複数の凸部の圧電特性の均一性がより高レベルで求められるようになってきている。しかしながら、凸部の側面形状がテーパ状となるドライエッチングでは、複数の凸部の側面の角度を高精度に合わせることが難しく、今後は、凸部の形状のばらつきによる圧電特性のばらつきが画質に与える影響が無視できなくなる可能性がある。凸部の側面形状の精度を考慮すれば、凸部の側面形状を安定的に略垂直形状とすることができるパターニング方法が好ましい。
一方、特許文献2〜4に記載されているように、電極や誘電体膜等の無機膜のパターニング方法としては、リフトオフ法が知られている。これは、基板上の無機膜の非パターン形成領域に選択的に除去可能なレジストをパターン形成し、この基板上にベタ無機膜を成膜し、最後にレジストを除去してベタ無機膜のレジスト上に位置する部分をレジストと共に除去することで、所定のパターンの無機膜を形成する方法である。
特表2003-532289号公報 特開昭53-70764号公報 特開2000-164575号公報 特開2005-3737号公報
上記リフトオフ法では、レジストの存在下で無機膜の成膜を行うので、レジストの耐熱温度以上の温度で成膜を行うことができない。特許文献2,3では無機膜の成膜を150℃以下、特許文献4では無機膜の成膜を250℃以下で行っている。PZT系等のペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜では、ペロブスカイト構造を良好に成長させるために、350℃以上、好ましくは400℃以上の成膜温度が必要であり、レジストを用いるリフトオフ法を圧電膜に適用することはできない。
また、nmオーダーの厚みの電極等の薄膜のパターニングであれば、リフトオフ法により、精度良くパターニングを実施することができ、凸部の側面形状を略垂直形状とすることもできる。しかしながら、リフトオフ法をμmオーダーと厚い圧電膜のパターニングにそのまま適用しても、レジスト上にある圧電膜の厚みが厚く、レジストの除去及びその上に位置する圧電膜の不要部分の除去が難しい。また、互いに繋がった圧電膜の不要部分と必要部分とを引き剥がして、不要部分を除去するため、形状精度の良好なパターンを得ることは難しい。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、圧電膜等のパターニングが難しい無機膜のパターニングに有効であり、パターン形状精度が良好で、パターニングが容易で低コストな新規な無機膜のパターニング技術、及びこの技術を用いて得られる無機膜を提供することを目的とするものである。
本発明はまた、上記新規な無機膜のパターニング技術の中間工程の技術を適用して得られる新規な結晶構造の無機膜を提供することを目的とするものである。
本発明の第1の無機膜は、単数又は複数の凸部からなる所定パターンの無機膜において、
表面酸化レベルが低い低酸化部と表面酸化レベルが高い高酸化部とを有する金属膜を下地として形成され、前記単数又は複数の凸部が前記低酸化部上にパターン形成されたことを特徴とするものである。
本明細書において、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)により金属膜の表面組成分析を実施した際に、金属酸化物を示すピーク/金属を示すピークの面積比が2.0超である部分を「高酸化部」と定義し、同面積比が2.0以下である部分を「低酸化部」と定義する。「低酸化部」は、非酸化でもよい。ESCAでは、ある金属が酸化されると、その金属の特定の電子軌道のピークが、酸化されることによりシフトして検出される。従って、金属酸化物を示すピーク/金属を示すピークの面積比とは、金属におけるシフトしたある特定の電子軌道を示すピーク面積/金属におけるある特定の電子軌道を示すピーク面積を意味する。ピークが分裂している場合は、特定の電子軌道のピークであれば同一ピークと見なし、ピーク面積は、分裂したピーク全ての面積の和とする。
本発明の第1の無機膜では、前記凸部の側面を前記金属膜の表面に対して略垂直とすることができる。
本明細書において、「略垂直」は90±10°の範囲内と定義する。
本発明の第1の無機膜は、前記低酸化部と前記高酸化部とを有する前記金属膜上にベタ無機膜を成膜した後、該ベタ無機膜の前記高酸化部上に位置する部分を除去して、製造することができる。
本発明の第1の無機膜は、ペロブスカイト構造を有する圧電膜に好ましく適用できる。低酸化部と高酸化部とを有する金属膜上に圧電膜を形成すれば、低酸化部上に位置する部分がペロブスカイト構造を有し、高酸化部上に位置する部分がパイロクロア構造を含むベタ圧電膜を成膜することができ、パイロクロア構造を含む部分を容易に選択的に除去することができる。特にPb含有化合物を含む圧電膜では、低酸化部上にのみパターン形成された圧電膜を形成しやすい。
ここで、「パイロクロア構造を含む」とは、得られた圧電膜が、微細なクラックを多く含む脆弱な構造となる量のパイロクロア構造を含むことを意味し、パイロクロア構造の割合は特に限定されない。組成にもよるが、パイロクロア構造を50%以上含んでいれば、容易に選択的に除去することができる。
本発明の第2の無機膜は、表面酸化レベルが異なる複数の表面酸化レベル部を有する金属膜を下地として形成され、該下地の表面酸化レベルが異なる部分間の結晶構造が異なっていることを特徴とするものである。
本明細書において、「表面酸化レベルが異なっている」とは、ESCAにより金属膜の表面組成分析を実施した際に、金属酸化物を示すピーク/金属を示すピークの面積比が異なっていることを意味する。表面酸化レベル部の1つは、非酸化でもよい。また、「結晶構造が異なっている」とはX線回折(XRD)パターンが異なっていることを意味する。
本発明の第2の無機膜は、上記本発明の第1の無機膜のパターニング技術の中間工程の技術を適用して得られる新規な結晶構造の無機膜である。
本発明の第2の無機膜は、圧電膜に好ましく適用できる。下地である金属膜が、表面酸化レベルが低い低酸化部と表面酸化レベルが高い高酸化部とを有する膜の場合、その上に圧電膜を形成すれば、低酸化部上に位置する部分がペロブスカイト構造を有し、高酸化部上に位置する部分がパイロクロア構造を含む圧電膜を提供することができる。特にPb含有化合物を含む圧電膜では、このような結晶構造の異なる複数の部分からなる圧電膜を形成しやすい。
本発明の第1,第2の無機膜において、下地である前記金属膜の主成分が貴金属であることが好ましい。
本明細書において、「主成分」は含量90質量%以上の成分と定義する。
本発明の第1,第2の無機膜は、前記金属膜の表面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜であることが好ましい。
本発明の第1の無機膜の製造方法は、単数又は複数の凸部からなる所定パターンの無機膜の製造方法において、
表面酸化レベルが低い低酸化部と表面酸化レベルが高い高酸化部とを有する金属膜を形成する工程(A)と、
前記金属膜上に、前記無機膜の材料を成膜してベタ無機膜を形成する工程(B)と、
前記ベタ無機膜の前記高酸化部上に位置する部分を除去して、所定パターンの前記無機膜を形成する工程(C)とを有することを特徴とするものである。
工程(A)は、非酸化金属膜を成膜する工程(A−1)と、前記非酸化金属膜の前記無機膜の非パターン形成領域を選択的に表面酸化する工程(A−2)とからなることが好ましい。
工程(B)において、前記ベタ無機膜として、前記金属膜の表面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜を成膜することが好ましい。
本発明の第2の無機膜の製造方法は、結晶構造の異なる複数の部分を有する無機膜を製造する無機膜の製造方法であって、
表面酸化レベルが異なる複数の表面酸化レベル部を有する金属膜を形成する工程と、
前記金属膜上に前記無機膜を成膜する工程とを有することを特徴とするものである。
本発明の圧電素子は、圧電膜からなる上記の本発明の第1の無機膜を備えたことを特徴とするものである。
本発明の液体吐出装置は、上記の本発明の圧電素子と、液体が貯留される液体貯留室及び該液体貯留室から外部に前記液体が吐出される液体吐出口を有する液体貯留吐出部材とを備えたことを特徴とするものである。
本発明の第1の無機膜は、単数又は複数の凸部からなる所定パターンの無機膜であり、表面酸化レベルが低い低酸化部と表面酸化レベルが高い高酸化部とを有する金属膜を下地として形成され、低酸化部上にのみパターン形成されたものである。
本発明では、低酸化部上に位置する部分と高酸化部上に位置する部分との結晶構造が異なるベタ無機膜を成膜することができ、高酸化部上に位置する部分を容易に選択的に除去することができる。低酸化部上に位置する部分と高酸化部上に位置する部分との境界面でベタ無機膜を分離し、低酸化部上に位置する部分のみを選択的に高精度に残すことができる。本発明では、凸部の側面形状を金属膜の表面に対して略垂直とすることができる。
本発明は、圧電膜等のパターニングが難しい無機膜のパターニングに有効であり、パターン形状精度が良好で、パターニングが容易で低コストなパターニングが可能である。
上記本発明の第1の無機膜のパターニング技術の中間工程の技術を適用することにより、表面酸化レベルが異なる複数の表面酸化レベル部を有する金属膜を下地として形成され、該下地の表面酸化レベルが異なる部分間の結晶構造が異なっている新規な結晶構造の本発明の第2の無機膜を提供することができる。
「圧電素子及びインクジェット式記録ヘッド」
図1を参照して、本発明に係る実施形態の圧電素子及びこれを備えたインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)の構造について説明する。図1はインクジェット式記録ヘッドの要部断面図(圧電素子の厚み方向の断面図)である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
本実施形態の圧電素子1は、基板10上に、下部電極20と圧電膜(無機膜)30と上部電極40とが順次積層された素子である。圧電膜30に対して、下部電極20と上部電極40とにより厚み方向に電界が印加されるようになっている。
下部電極20は基板10の略全面に形成されており、この上にライン状の単数又は複数の凸部31がストライプ状に配列したパターンの圧電膜30が形成され、各凸部31の上に上部電極40が形成されている。凸部31のない部分32が、圧電膜30の非パターン形成領域である。圧電膜30のパターンは図示するものに限定されず、適宜設計される。
圧電アクチュエータ2は、圧電素子1の基板10の裏面に、圧電膜30の伸縮により振動する振動板50が取り付けられたものである。
インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)3は、概略、圧電アクチュエータ2の裏面に、インクが貯留されるインク室(液体貯留室)61及びインク室61から外部にインクが吐出されるインク吐出口(液体吐出口)62を有するインクノズル(液体貯留吐出部材)60が取り付けられたものである。インク室61は、圧電膜30の凸部31の数及びパターンに対応して、複数設けられている。
インクジェット式記録ヘッド3では、圧電素子1に印加する電界強度を増減させて圧電素子1を伸縮させ、これによってインク室61からのインクの吐出や吐出量の制御が行われる。
基板10とは独立した部材の振動板50及びインクノズル60を取り付ける代わりに、基板10の一部を振動板50及びインクノズル60に加工してもよい。例えば、基板10を裏面側からエッチングしてインク室61を形成し、基板自体の加工により振動板50とインクノズル60とを形成することができる。
基板10としては特に制限なく、シリコン、ガラス、ステンレス、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、アルミナ、サファイヤ、シリコンカーバイド等の基板が挙げられる。基板10としては、シリコン基板上にSiO膜とSi活性層とが順次積層されたSOI基板等の積層基板を用いてもよい。
本実施形態において、下部電極20は表面酸化レベルが低い低酸化部(第1の表面酸化レベル部)21と表面酸化レベルが高い高酸化部(第2の表面酸化レベル部)22とからなる金属膜である。下部電極20の低酸化部21と高酸化部22とは、圧電膜30のパターンに合わせたパターンで形成されている。具体的には、下部電極20は、圧電膜30の凸部31の形成領域が低酸化部21からなり、圧電膜30の凸部31の非形成領域32が高酸化部22からなっている。
下部電極20の主成分は特に制限なく、Au,Pt,及びIr等の1種又は2種以上の貴金属が好ましい。例えば、貴金属からなるベタ電極を成膜した後、高酸化部22の形成領域を選択的に表面酸化することにより、表面酸化されていない低酸化部21と表面酸化された高酸化部22とからなる下部電極20を形成することができる。表面酸化は自然酸化によっても若干起り得るが、ここで言う「表面酸化されていない」とは、積極的な表面酸化を行っていないことを意味する。
上部電極40の主成分は特に制限なく、Au,Pt,Ir,IrO,RuO,LaNiO,及びSrRuO等の金属又は金属酸化物、Al,Ta,Cr,及びCu等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極材料、及びこれらの組合せが挙げられる。
圧電膜30は、低酸化部21と高酸化部22とを有する下部電極20上にベタ圧電膜を成膜した後、ベタ圧電膜の高酸化部22上に位置する部分を除去することにより、パターン形成されたものである。
圧電膜30としては、ペロブスカイト構造を有するものが好ましい。すなわち、圧電膜30は、1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい)ことが好ましい。圧電膜30は、下記一般式(P)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい)ことがより好ましい。
一般式ABO・・・(P)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pb,Ba,La,Sr,Bi,Li,Na,Ca,Cd,Mg,及びKからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni,及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素元素、
Aサイト元素の総モル数及びBサイト元素の総モル数の、酸素原子のモル数に対する比は、それぞれ1:3が標準であるが、ペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1:3からずれてもよい。)
上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物としては、
チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ジルコニウム酸鉛、チタン酸鉛ランタン、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、ニッケルニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、亜鉛ニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等の鉛含有化合物、及びこれらの混晶系;
チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムバリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム等の非鉛含有化合物、及びこれらの混晶系が挙げられる。
圧電膜30の膜厚(凸部31の高さ)は特に制限なく、通常1μm以上であり、例えば1〜5μmである。この厚みは、nmオーダーの電極20、40(例えば厚み200nm)に比して大きいものである。
詳細については後記するが、下部電極20の低酸化部21上にのみパターン形成された圧電膜30を形成しやすいことから、圧電膜30はPZT系等のPb含有化合物を含むことが好ましい。
下部電極20の低酸化部21上にのみパターン形成された圧電膜30を形成しやすいことから、圧電膜30は、下部電極20の表面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜であることが好ましい。圧電膜30は、柱状構造の圧電膜30を形成しやすいことから、結晶性を有することが好ましいが、多数の柱状体からなる圧電膜30を形成することができれば、アモルファス構造でも構わない。
圧電膜30をなす多数の柱状体の平均柱径は特に制限なく、30nm〜1μmが好ましい。柱状体の平均柱径が過小では、圧電膜として充分な結晶成長が起こらない、所望の圧電性能が得られないなどの恐れがある。柱状体の平均柱径が過大では、パターニング後の形状精度が低下するなどの恐れがある。
本実施形態では、圧電膜30を、凸部31の側面31aに露出した多数の柱状体が柱状体の界面で切れた構造とすることができる。また、下部電極20の表面に対する凸部31の側面31aの角度を略垂直(90±10°)とすることができる。
多数の柱状体からなる無機膜に関しては、成膜条件(基板温度及び成膜圧力)と生成される柱状体の形状や柱径との関係、及び柱状体の分類について、研究がなされている。
上記研究は、蒸着膜では、Movchan and Demchishin,Phys.Met.Mettallogr.,28,83(1969)に詳細に記載されている。圧電膜30が蒸着膜の場合、該文献に記載の分類で言えば、圧電膜30をなす柱状体はZone2であることが好ましい。
上記研究は、スパッタ膜では、Thonton,J.Vac.Sci.Technol.,11,666(1974)に詳細に記載されている。圧電膜30がスパッタ膜の場合、該文献に記載の分類で言えば、圧電膜30をなす柱状体はZoneT〜ZoneIIであることが好ましい。
本実施形態の圧電素子1及びインクジェット式記録ヘッド3は、以上のように構成されている。
「製造方法」
図2(a)〜(f)を参照して、圧電素子1及びインクジェット式記録ヘッド3の製造方法について説明する。図2は工程図であり、図1に対応した断面図である。
(工程(A))
<工程(A−1)>
はじめに、図2(a)に示す如く、基板10上の略全面に、非酸化のベタ電極(非酸化金属膜)20Xを成膜する。非酸化のベタ電極20Xの主成分は、Au,Pt,及びIr等の1種又は2種以上の貴金属が好ましい。
<工程(A−2)>
次に、図2(a)に示す如く、フォトリソグラフィ法により、ベタ電極20X上に圧電膜30のパターンに合わせてレジスト33をパターン形成する。レジスト33は圧電膜30の凸部31の形成領域にのみパターン形成されるようにする。
次に、図2(b)に示す如く、レジスト33をマスクとして、ベタ電極20Xに対して圧電膜30の非パターン形成領域32を選択的に表面酸化する処理を実施する。表面酸化 処理としては特に制限なく、酸素プラズマアッシング及びオゾン処理等が挙げられる。
この工程において、ESCAによりベタ電極20Xの表面組成分析を実施した際に、圧電膜30の非パターン形成領域32における金属酸化物を示すピーク/金属を示すピークの面積比が2.0超となるように、表面酸化処理を実施する。
次に、図2(c)に示す如く、レジスト33を除去する。以上の工程によって、表面酸化されていない低酸化部(第1の表面酸化レベル部)21と表面酸化された高酸化部(第2の表面酸化レベル部)22とからなる下部電極20が形成される。
(工程(B))
次に、図2(d)に示す如く、表面酸化されていない低酸化部21と表面酸化された高酸化部22とからなる下部電極20上にベタ圧電膜30Xを成膜する。この工程において、下部電極20の表面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造のベタ圧電膜を成膜することが好ましく、下部電極20の表面に対して略垂直方向に成長した柱状体からなる柱状構造のベタ圧電膜を成膜することが特に好ましい。ベタ圧電膜30Xの膜厚は通常1μm以上、例えば1〜5μmが好ましく、圧電膜30をなす多数の柱状体の平均柱径は例えば30nm〜1μmが好ましい。
ベタ圧電膜30Xの成膜方法としては制限なく、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法やスパッタ法等の気相成長法等が好ましい。材料に応じて、成膜温度、圧力等の条件を調整することで、所望の平均柱径の柱状体を所望の方向に成長させることができる。
表面酸化されていない低酸化部21と表面酸化された高酸化部22とからなる下部電極20上にベタ圧電膜30Xを成膜すると、下地の表面酸化レベルが異なる部分間の結晶構造が異なるベタ圧電膜30Xを成膜することができる。具体的には、低酸化部21上には良質なペロブスカイト結晶構造を成長させ、高酸化部22にパイロクロア構造を含む結晶を成長させることができる。ベタ圧電膜30Xにおいて、ペロブスカイト結晶構造部分に符号34、パイロクロア構造を含む部分(以下、パイロクロア構造部分とする)に符号35を付してある。
特に、ベタ圧電膜30XがPZT系等のPb含有化合物を含む場合、高酸化部22にパイロクロア構造が形成されやすい。これは、Pbイオンと下地表面のO元素との反応性が高く、PbOが生成されて、Pb欠陥が生じやすいためと考えられる。
ベタ圧電膜30Xの成膜温度は特に制限なく、多数の柱状体からなる柱状構造膜を安定的に成膜でき、低酸化部21上にペロブスカイト結晶構造を安定的に成長できる温度に設定される。PZT系では350℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましい。PZT系等のPb含有化合物を含む場合、600℃以上の成膜ではPb抜けが起りやすくなるので、成膜温度は600℃未満が好ましい。
下部電極20の表面に対して略垂直方向に成長した柱状体からなる柱状構造のベタ圧電膜30Xを成膜する場合、低酸化部21上には、例えば(100)配向のペロブスカイト結晶構造を成長することができる。
本発明者は、高酸化部22に形成されるパイロクロア構造部分35は、微細なクラックを多く含む脆弱な構造となることを見出している(図8の表面光学顕微鏡写真を参照)。これは、基板との熱膨張係数差によって基板から受ける応力、ペロブスカイト構造部分34から受ける応力等によるのではないかと考えられる。
(工程(C))
次に、図2(e)に示す如く、ベタ圧電膜30Xの高酸化部22上に位置するパイロクロア構造部分35を選択的に除去する。この工程においては、低酸化部21上に位置する部分34と高酸化部22上に位置する部分35との境界面でベタ圧電膜30Xを分離し、低酸化部21上に位置する部分のみを選択的に高精度に残すことができる。この工程後に、所定パターンの圧電膜30が形成される。
パイロクロア構造部分35は微細なクラックを多く含む脆弱な構造であるので、ウエットエッチングあるいはドライエッチング等により、容易に除去できる。本発明者は、パイロクロア構造部分35の微細なクラック部分にエッチング液が浸み入り、パイロクロア構造部分35をウエットエッチングにより容易に除去できることを見出している。
先の工程において、下部電極20の表面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造のベタ圧電膜30Xを成膜することが好ましいことを述べた。隣接する柱状体同士は互いに機械的に分離されやすいので、この工程においては、ベタ圧電膜30Xの不要部分と必要部分とを柱状体の界面で良好に分離し、不要部分のみを簡易に高精度に除去することができ、パターン欠損等のパターン不良を高レベルに抑制することができる。
この場合、ベタ圧電膜30Xの不要部分と必要部分とは柱状体の界面で分離されるので、圧電膜30の凸部31の側面31aに露出した多数の柱状体は、柱状体の界面で切れたものとなる。
ベタ圧電膜30Xの不要部分と必要部分とを柱状体の界面で分離することができるので、凸部31の側面31aの面方向を柱状体の成長方向と一致させることができる。柱状体を略垂直方向に成長させることで、圧電膜30の凸部31の側面31aの形状を安定的に略垂直形状とすることができる。
本実施形態によれば、パターン欠損等のパターン不良を高レベルに抑制でき、凸部31の側面31aの角度の凸部31ごとのばらつきがなく、凸部31の側面31aの平滑性が良好であり、形状精度が良好な単数又は複数の凸部31からなる圧電膜30を安定的に形成できる。この効果は、圧電膜30の材料や厚みに関わらず得られる。
(工程(D))
最後に、図2(f)に示す如く、各凸部31上に上部電極40を形成し、必要に応じて、基板10の下面をエッチングして基板10の厚みを薄くして、圧電素子1が完成する。
上記圧電素子1に振動板50及びインクノズル60を取り付けることにより(図示略)、インクジェット式記録ヘッド3が製造される。基板10を裏面側からエッチングしてインク室61を形成し、基板自体の加工により振動板50とインクノズル60とを形成してもよい。
本実施形態の圧電膜30は、表面酸化レベルが低い低酸化部21と表面酸化レベルが高い高酸化部22とを有する下部電極20を下地として形成され、低酸化部21上にのみパターン形成されたものである。
本実施形態では、低酸化部21上に位置する部分34と高酸化部22上に位置する部分35との結晶構造が異なるベタ圧電膜30Xを成膜することができ、高酸化部22上に位置する部分35を容易に選択的に除去することができる。低酸化部21上に位置する部分34と高酸化部22上に位置する部分35との境界面でベタ圧電膜30Xを分離し、低酸化部21上に位置する部分34のみを選択的に高精度に残すことができる。本実施形態では、凸部31の側面形状を下部電極20の表面に対して略垂直とすることができる。本実施形態の技術によれば、パターン形状精度が良好で、パターニングが容易で低コストな圧電膜30のパターニングが可能である。
本実施形態のパターニング技術では、ドライエッチングの工程を要することなく、圧電膜30のパターニングが可能である。本実施形態のパターニング技術では、圧電膜30の厚みがμmオーダーと厚くても、従来のドライエッチングによるパターニングに比して短時間でパターニングを実施でき、パターニングに際してドライエッチングのように高真空プロセスを要しないため、コスト面でも優れている。
本実施形態において、高酸化部22上に位置する部分35の除去にドライエッチングを用いてもよい。この場合も、高酸化部22上に位置する部分35は脆弱な構造であるので、従来のドライエッチングによるパターニングに比して、エッチングははるかに容易である。
本実施形態では、低酸化部21と高酸化部22という2つの表面酸化レベル部からなる下部電極20を形成する場合について説明したが、3以上の表面酸化レベル部からなる下部電極20を形成してもよい。この場合にも、下地の表面酸化レベルが異なる部分間の結晶構造が異なるベタ圧電膜30Xを形成することができる。
本発明のパターニング技術は、圧電膜に限らず、任意の無機膜のパターニングに適用可能である。本発明のパターニング技術は、材料自体がエッチングされにくく、しかもnmオーダーの電極等に比して厚く成膜される無機膜のパターニングに好ましく適用できる。
本発明のパターニング技術は、柱状構造膜を成膜可能な無機膜のパターニングに特に好ましく適用できる。柱状構造膜を成膜可能な圧電材料以外の無機材料としては、ZrO,ZnO,Al,TiO等の酸化物;AlN,Si,TiN等の窒化物;SiC,BC等の炭化物等の誘電体、Al,Cu,Ta,Ti等の金属等、及びこれらの組合せが挙げられる。
「インクジェット式記録装置」
図3及び図4を参照して、上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド3を備えたインクジェット式記録装置の構成例について説明する。図3は装置全体図であり、図4は部分上面図である。
図示するインクジェット式記録装置100は、インクの色ごとに設けられた複数のインクジェット式記録ヘッド(以下、単に「ヘッド」という)3K,3C,3M,3Yを有する印字部102と、各ヘッド3K,3C,3M,3Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部114と、記録紙116を供給する給紙部118と、記録紙116のカールを除去するデカール処理部120と、印字部102のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙116の平面性を保持しながら記録紙116を搬送する吸着ベルト搬送部122と、印字部102による印字結果を読み取る印字検出部124と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部126とから概略構成されている。
印字部102をなすヘッド3K,3C,3M,3Yが、各々上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド3である。
デカール処理部120では、巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム130により記録紙116に熱が与えられて、デカール処理が実施される。
ロール紙を使用する装置では、図3のように、デカール処理部120の後段に裁断用のカッター128が設けられ、このカッターによってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター128は、記録紙116の搬送路幅以上の長さを有する固定刃128Aと、該固定刃128Aに沿って移動する丸刃128Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃128Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃128Bが配置される。カット紙を使用する装置では、カッター128は不要である。
デカール処理され、カットされた記録紙116は、吸着ベルト搬送部122へと送られる。吸着ベルト搬送部122は、ローラ131、132間に無端状のベルト133が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)となるよう構成されている。
ベルト133は、記録紙116の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(図示略)が形成されている。ローラ131、132間に掛け渡されたベルト133の内側において印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ134が設けられており、この吸着チャンバ134をファン135で吸引して負圧にすることによってベルト133上の記録紙116が吸着保持される。
ベルト133が巻かれているローラ131、132の少なくとも一方にモータ(図示略)の動力が伝達されることにより、ベルト133は図3上の時計回り方向に駆動され、ベルト133上に保持された記録紙116は図3の左から右へと搬送される。
縁無しプリント等を印字するとベルト133上にもインクが付着するので、ベルト133の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部136が設けられている。
吸着ベルト搬送部122により形成される用紙搬送路上において印字部102の上流側に、加熱ファン140が設けられている。加熱ファン140は、印字前の記録紙116に加熱空気を吹き付け、記録紙116を加熱する。印字直前に記録紙116を加熱しておくことにより、インクが着弾後に乾きやすくなる。
印字部102は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙送り方向と直交方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図4を参照)。各印字ヘッド3K,3C,3M,3Yは、インクジェット式記録装置100が対象とする最大サイズの記録紙116の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
記録紙116の送り方向に沿って上流側から、黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応したヘッド3K,3C,3M,3Yが配置されている。記録紙116を搬送しつつ各ヘッド3K,3C,3M,3Yからそれぞれ色インクを吐出することにより、記録紙116上にカラー画像が記録される。
印字検出部124は、印字部102の打滴結果を撮像するラインセンサ等からなり、ラインセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まり等の吐出不良を検出する。
印字検出部124の後段には、印字された画像面を乾燥させる加熱ファン等からなる後乾燥部142が設けられている。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
後乾燥部142の後段には、画像表面の光沢度を制御するために、加熱・加圧部144が設けられている。加熱・加圧部144では、画像面を加熱しながら、所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ145で画像面を加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
こうして得られたプリント物は、排紙部126から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット式記録装置100では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部126A、126Bへと送るために排紙経路を切り替える選別手段(図示略)が設けられている。
大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列にプリントする場合には、カッター148を設けて、テスト印字の部分を切り離す構成とすればよい。
インクジェット式記録装置100は、以上のように構成されている。
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
成膜基板として、Si基板上に10nm厚のTi密着層と250nm厚のIr下部電極とが順次積層された電極付き基板を用意した。この基板上に、レジスト材料としてクラリアント社製「AZ9245」を用い、10μm厚の200μmφ及び100μmφのドットパターンを形成した。この基板に対して、パワー150W、O濃度100%の条件で酸素プラズマアッシング処理を実施した。アッシング時間を10分とした。その後、基板をアセトンに浸し、レジストを溶解させた。
レジストを溶解させるまでの工程を上記と同様に実施して、分析用の試料を得た。この試料について、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)により、レジストでマスクした部分としなかった部分とについてそれぞれ下部電極の表面組成分析を実施した。
結果を図5(a)及び図5(b)に示す。図5(a)は下部電極のレジストでマスクした部分のスペクトルであり、図5(b)は下部電極のレジストでマスクしなかった部分のスペクトルである。図中の時間はスパッタリングによる試料表面の掘り下げ時間を表している。
下部電極のレジストでマスクした部分はIrメタルのピークしか検出されず、酸化されていない低酸化部であったのに対して、レジストでマスクしなかった部分は最表面にIr酸化物のピークが検出され(スパッタリングによる試料表面の掘り下げ時間0minのスペクトルを参照)、表面が酸化された高酸化部であった。高酸化部のスペクトルについてピークフィッティングを実施してIr酸化物のピーク/Irメタルのピーク面積比を求めたところ、約2.5であった。
表面が酸化されていない低酸化部と表面が酸化された高酸化部とからなる上記下部電極上に、スパッタリング装置を用いて、真空度3×10−5Pa、Ar/O混合雰囲気(O体積分率2.5%)、450℃の条件下で、Pb1.3Zr0.52Ti0.48のターゲットを用いて、4μm厚のPZTベタ圧電膜の成膜を行った。
得られたベタ圧電膜のX線回折(XRD)測定を実施した。結果を図6(a)及び図6(b)に示す。図6(a)は下部電極の高酸化部上に位置する部分のXRDパターンであり、図6(b)は下部電極の低酸化部上に位置する部分のXRDパターンである。
下部電極の高酸化部上に位置する部分はパイロクロア相構造であり、下部電極の低酸化部上に位置する部分は(100)配向のペロブスカイト結晶構造であった。高酸化部上に位置する部分のXRDパターンについて、パイロクロア/(ペロブスカイト+パイロクロア)のピーク強度比を求めたところ、100%であった。低酸化部上に位置する部分のXRDパターンについて、パイロクロア/(ペロブスカイト+パイロクロア)のピーク強度比を求めたところ、0%であった。
下部電極のIr酸化物/IrメタルESCAピーク比と、その上に成長したPZTのパイロクロア/(ペロブスカイト+パイロクロア)XRDピーク比との関係を図7に示す。図7において、下部電極のIr酸化物/IrメタルESCAピーク比=0(低酸化部),約2.5(高酸化部)のデータが本実施例のデータである。
上記ベタ圧電膜表面の光学顕微鏡観察を実施した。写真を図8に示す。パイロクロア構造部分には多数の微細なクラックが見られ、脆弱な構造であった。
(100)配向のペロブスカイト結晶構造部分をクラリアント社製「AZ9245」にてマスクして保護した後、HCl 6%を含むバッファードオキサイドエッチャントの0.9%溶液(HCl:BOE=6:1)に浸漬させたところ、パイロクロア相構造部分のみがエッチングされ、(100)配向のペロブスカイト結晶構造のPZTパターンが得られた。得られたパターンの断面をSEMにて観察したところ、200μmφ及び100μmφのドットパターンが良好に形成されていた。得られた圧電膜の凸部の側面形状は略垂直形状であった。また、得られた圧電膜は基板の表面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜であり、凸部の側面に露出した柱状体は、柱状体の界面で切れていた。
圧電膜の圧電定数d31を片持ち梁法により測定したところ、圧電定数d31は250pm/Vと高く、良好であった。
最後に、ドットパターンの圧電膜上に10nm厚のTi密着層と200nm厚のPt上部電極とをスパッタリング法にて形成し、本発明の圧電素子を得た。
(比較例1,2)
成膜基板として、Si基板上に10nm厚のTi密着層と250nm厚のIr下部電極とが順次積層された電極付き基板を2枚用意し、実施例1と同様に、これらの基板上にそれぞれレジストのドットパターンを形成した。これらの基板に対して、パワー150W、O濃度100%の条件で酸素プラズマアッシング処理を実施した。アッシング時間は3分(比較例1)及び5分(比較例2)とした。
実施例1と同様に、レジストでマスクした部分としなかった部分とについてそれぞれ下部電極のESCA表面組成分析を実施した。レジストでマスクせず、酸素プラズマアッシング処理を施した酸化部についてピークフィッティングを実施してIr酸化物のピーク/Irメタルのピーク面積比を求めたところ、比較例1,2のいずれも2.0未満であり、充分に酸化されていなかった。
上記下部電極上に、実施例1と同様にして、4μm厚のPZTベタ圧電膜の成膜を行った。実施例1と同様に、得られたベタ圧電膜のXRD測定を実施した。比較例1,2のいずれも、下部電極において、レジストでマスクせず、酸素プラズマアッシング処理を施した酸化部の上に成長したPZTのパイロクロア相のピークは小さく、ペロブスカイト構造のPZTが成長していた。実施例1と同様に、このPZT部分のパイロクロア/(ペロブスカイト+パイロクロア)のXRDピーク強度比を求めたところ、10%以下であった。
比較例1,2で得られた下部電極の酸化部におけるIr酸化物/IrメタルESCAピーク比と、その上に成長したPZTのパイロクロア/(ペロブスカイト+パイロクロア)XRDピーク比との関係のデータを図7に合わせてプロットしておく。
実施例1と同様にPZTのエッチングを実施したが、下部電極において、レジストでマスクせず、酸素プラズマアッシング処理を施した酸化部の上に成長したPZTを良好にエッチング除去することはできなかった。
実施例1及び比較例1,2の結果から、エッチング除去したいPZTの下地は、Ir酸化物/IrメタルESCAピーク比が2.0超である酸化レベルが必要であることが明らかとなった。
(比較例3)
実施例1と同じ電極付き基板を用意し、この上に、レジスト材料としてクラリアント社製「AZ9245」を用い、10μm厚の200μmφ及び100μmφのドットパターンを形成した。
酸素プラズマアッシング処理を実施せずに、上記基板上に、実施例1と同様の成膜条件(この条件は柱状構造膜が成長する条件である。)で、4μm厚のPZTベタ圧電膜の成膜を行った。レジストが高温加熱により酸化されており、レジスト上に膜は成長していなかった。また、レジストを形成しなかった部分においても、パイロクロア構造を70%以上含む脆弱な膜が成長しており、良質な結晶構造のPZTを成長することができなかった。
(比較例4)
実施例1と同じ電極付き基板を用意し、この上に、レジスト材料としてクラリアント社製「AZ9245」を用い、10μm厚の200μmφ及び100μmφのドットパターンを形成した。
酸素プラズマアッシング処理を実施せずに、上記基板上に、真空度3×10−5Pa、Ar/O混合雰囲気(O体積分率2.5%)、室温の条件(この条件はアモルファス構造が成長する条件である。)で、4μm厚のPZTベタ圧電膜の成膜を行った。その後、アセトンに浸漬させてレジストを溶解させるリフトオフ法により圧電膜をパターニングした。得られた圧電膜を650℃にて加熱して、アモルファスPZTを結晶化させた。このとき得られたパターンの断面をSEMで観測したところ、凸部の端部が欠けるパターン欠陥が見られた。
得られた圧電膜のXRD測定を実施した。結果を図9に示す。結晶配向性を有しないランダム配向膜であった。圧電膜の圧電定数d31を片持ち梁法により測定したところ、圧電定数d31は50pm/Vと低く、不良であった。
最後に、上記PZT膜上に10nm厚のTi密着層と200nm厚のPt上部電極とをスパッタリング法にて形成し、比較用の圧電素子を得た。
本発明は、単数又は複数の凸部からなる所定パターンの無機膜のパターニングに適用することができ、圧電膜等に好ましく適用することができる。
本発明に係る実施形態の圧電素子及びインクジェット式記録ヘッドの構造を示す断面図 (a)〜(f)は、図1の圧電素子の製造方法を示す工程図 図1のインクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェット式記録装置の構成例を示す図 図3のインクジェット式記録装置の部分上面図 (a)は実施例1の下部電極の低酸化部のESCAスペクトル、(b)は実施例1の下部電極の高酸化部のESCAスペクトル (a)は実施例1のパターニング前の圧電膜のXRDパターン1(パイロクロア構造部分)、(b)は実施例1のパターニング前の圧電膜のXRDパターン2(ペロブスカイト結晶構造部分) 下部電極のIr酸化物/IrメタルESCAピーク比と、その上に成長したPZTのパイロクロア/(ペロブスカイト+パイロクロア)XRDピーク比との関係を示す図 実施例1のパターニング前の圧電膜の表面光学顕微鏡写真 比較例4の圧電膜のXRDパターン
符号の説明
1 圧電素子
3,3K,3C,3M,3Y インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)
10 基板
20 下部電極(金属膜)
21 低酸化部(第1の表面酸化レベル部)
22 高酸化部(第2の表面酸化レベル部)
40 上部電極
30 圧電膜(無機膜)
30X ベタ圧電膜(柱状構造膜)
31 凸部
31a 凸部の側面
32 圧電膜の非パターン形成領域
34 ペロブスカイト結晶構造部分
35 パイロクロア構造部分
60 インクノズル(液体貯留吐出部材)
61 インク室(液体貯留室)
62 インク吐出口(液体吐出口)
100 インクジェット式記録装置

Claims (11)

  1. 単数又は複数の凸部からなる所定パターンの無機膜において、
    表面に非酸化部と表面酸化レベルが高い高酸化部とを有するIr膜の前記表面を下地として形成されてなり、
    前記単数又は複数の凸部が前記非酸化部上にパターン形成されてなるPb含有ペロブスカイト型酸化物を含む圧電膜であることを特徴とする無機膜。
  2. 前記凸部の側面が前記表面に対して略垂直であることを特徴とする請求項1に記載の無機膜。
  3. 前記Irの前記表面上にベタ無機膜を成膜した後、該ベタ無機膜の前記高酸化部上に位置する部分を除去して、製造されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の無機膜。
  4. 表面に非酸化部と表面酸化レベルが高い高酸化部とを有するIrの前記表面を下地として形成され、前記非酸化部上に位置する部分がペロブスカイト構造を有し、前記高酸化部上に位置する部分がパイロクロア構造を含むPb含有圧電膜であることを特徴とする無機膜。
  5. 前記Ir膜前記表面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の無機膜。
  6. 単数又は複数の凸部からなる所定パターンのPb含有ペロブスカイト型酸化物を含む圧電膜を製造する無機膜の製造方法において、
    表面に非酸化部と表面酸化レベルが高い高酸化部とを有するIr膜を形成する工程(A)と、
    前記Irの前記表面に、前記無機膜の材料を成膜してベタ無機膜を形成する工程(B)と、
    前記ベタ無機膜の前記高酸化部上に位置する部分を除去して、所定パターンの前記無機膜を形成する工程(C)とを有することを特徴とする無機膜の製造方法。
  7. 工程(A)は、非酸化Ir膜を成膜する工程(A−1)と、前記非酸化Ir金属膜の前記無機膜の非パターン形成領域を選択的に表面酸化する工程(A−2)とからなることを特徴とする請求項に記載の無機膜の製造方法。
  8. 工程(B)において、前記ベタ無機膜として、前記金属膜の表面に対して非平行方向に延びる多数の柱状体からなる柱状構造膜を成膜することを特徴とする請求項6又は7に記載の無機膜の製造方法。
  9. 結晶構造の異なる複数の部分を有するPb含有ペロブスカイト型酸化物を含む圧電膜を製造する無機膜の製造方法であって、
    表面に非酸化部と表面酸化レベルが高い高酸化部とを有するIr膜を形成する工程と、
    前記Ir膜上に前記無機膜を成膜する工程とを有することを特徴とする無機膜の製造方法。
  10. 請求項1〜4のいずれか一項に記載の無機膜を備えたことを特徴とする圧電素子。
  11. 請求項10に記載の圧電素子と、
    液体が貯留される液体貯留室及び該液体貯留室から外部に前記液体が吐出される液体吐出口を有する液体貯留吐出部材とを備えたことを特徴とする液体吐出装置。
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