JP5239642B2 - 熱疲労特性、高温疲労特性および耐酸化性に優れるフェライト系ステンレス鋼 - Google Patents

熱疲労特性、高温疲労特性および耐酸化性に優れるフェライト系ステンレス鋼 Download PDF

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Description

本発明は、自動車やオートバイの排気管や触媒外筒材、火力発電プラントの排気ダクト等の高温環境下で使用される部材に用いて好適なCr含有鋼に関し、特に、優れた熱疲労特性、高温疲労特性および耐酸化性を兼ね備えたフェライト系ステンレス鋼に関するものである。
自動車のエキゾーストマニホールドや排気パイプ、コンバーターケース、マフラー等に代表される排気系環境下で使用される部材には、熱疲労特性や高温疲労特性および耐酸化性(以降、これらの特性を総称して「耐熱性」ともいう。)に優れていることが要求される。そのため、このような用途には、NbとSiを添加したType429(14Cr−0.9Si−0.4Nb系)鋼のようなCr含有鋼が多く使用されている。しかし、エンジン性能の向上に伴って、排ガス温度が上昇し、現状より高温の900℃程度まで上昇してくると、Type429鋼では、熱疲労特性が不足してくるおそれがある。
この問題に対しては、NbとMoを複合添加して高温耐力を向上させたCr含有鋼、例えば、JIS G4305に規定されるSUS444(19Cr−2Mo−0.5Nb)鋼や、Nb,Mo,Wを複合添加した特許文献1に記載のフェライト系ステンレス鋼などが開発されている。しかし、希少金属であるMo,Wの昨今における異常なまでの価格高騰から、これらの元素を用いないでも同等の耐熱性を有する材料の開発が求められるようになってきている。
高価な元素であるMoやWを用いないで、耐熱性に優れた材料としては、例えば、特許文献2〜4に開示されたフェライト系ステンレス鋼がある。これらの鋼は、熱疲労特性を主にCu添加により向上させているのが特徴である。また、特許文献5には、0〜30vol%のマルテンサイト相を含むフェライト系ステンレス鋼に、V,NおよびCuを添加して耐酸化性を向上させた、燃焼温度1400〜1500℃級ガスタービンの排気ガス経路用耐熱鋼材が開示されている。
特開2004−018921号公報 WO2003/004714号公報 特開2006−117985号公報 特開2000−297355号公報 特開2001−316774号公報
しかしながら、発明者らの研究によれば、Cuは、鋼自身の耐酸化性を低下させる元素であることが明らかになってきた。また、Cu添加のみでは、SUS444を超える熱疲労特性や高温疲労特性を得るには限界があることもわかってきた。
そこで、本発明の目的は、Mo,Wを用いることなく、また、Cu添加による耐酸化性の低下を招くことなく熱疲労特性、高温疲労特性および耐酸化性に優れるフェライト系ステンレス鋼を提供することにある。ここで、本発明でいう「熱疲労特性と高温疲労特性に優れる」とは、具体的には、100℃/850℃を昇温・降温したときの熱疲労特性と、750℃における高温疲労特性がSUS444より優れていることを、また、「耐酸化性に優れる」とは、950℃における耐酸化性がSUS444と同等以上(酸化増量が同等以下)であることを意味する。
発明者らは、上記課題を解決するために、Mnを0.5mass%以下、Nbを10×(C(mass%)+N(mass%))〜0.60mass%添加したCr含有鋼をベースとして鋭意研究を重ねた。その結果、上記鋼において、Nを0.015〜0.040mass%の範囲で添加すると同時に、Vを0.15〜0.60mass%の範囲で、かつNとVの含有量(mass%)の積(V×N)を0.003〜0.015を満たすよう添加した上で、さらにCuを0.8〜1.6mass%の範囲で添加することにより、Mo,Wを添加することなく、幅広い温度域で高い高温強度が実現でき、SUS444より優れた熱疲労特性、高温疲労特性が得られ、しかも、Cu添加に伴う耐酸化性の低下が抑制されてSUS444と同等以上の耐酸化性が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、C:0.015mass%以下、Si:1.0mass%以下、Mn:0.5mass%以下、P:0.040mass%以下、S:0.010mass%以下、Al:0.1mass%以下、Cr:16〜20mass%、Cu:0.8〜1.6mass%、N:0.015〜0.040mass%、V:0.15〜0.60mass%、Nb:10×(C(mass%)+N(mass%))〜0.60mass%、Ti:0.01mass%以下、Zr:0.01mass%以下、Ta:0.01mass%以下、Ni:0.4mass%以下、Mo:0.1mass%以下、W:0.1mass%以下を含有し、かつ、VとNの含有量(mass%)の積(V×N)が、(V×N):0.003〜0.015を満たして含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有することを特徴とする耐熱性に優れるフェライト系ステンレス鋼である。
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、上記成分組成に加えてさらに、B:0.0004〜0.0030mass%およびCo:0.03〜0.1mass%のうちから選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする。
本発明によれば、高価なMoやWを添加することなくSUS444より優れた熱疲労特性と高温疲労特性ならびにSUS444と同等以上の耐酸化性とを兼ね備えたフェライト系ステンレス鋼を得ることができる。本発明の上記フェライト系ステンレス鋼は、自動車排気部材等に用いて好適であり、産業上格段の効果を奏する。
本発明を開発する契機となった基礎的な実験について説明する。
まず、鋼の熱疲労特性に及ぼすN,Vの含有量(mass%)およびそれらの積(V×N)の影響について調べるため、下記実験1〜3を行った。
(実験1)
C:0.005〜0.011mass%、Si:0.14〜0.46mass%、Mn:0.09〜0.31mass%、Al:0.035〜0.055mass%、Cr:17.1〜17.6mass%、Nb:0.39〜0.49mass%、Nb/(C+N):10.2〜27.3、Cu:0.98〜1.07mass%、V:0.20〜0.25mass%を含有し、Nの含有量を0.008〜0.043mass%の範囲で種々に変化させた鋼を実験室で溶製し、得られた鋼塊を鍛造後、熱処理して、35mm×35mmの角材とし、この角材から図1に示した形状、寸法の熱疲労試験片を作製した。次いで、この熱疲労試験片を用いて、図2に示したように、拘束率0.8で100℃/850℃間を昇温・降温させる加熱冷却を繰り返す熱疲労試験に供して熱疲労寿命を測定した。ここで、上記「熱疲労寿命」は、100℃において検出された荷重を、試験片均熱平行部の断面積で割って応力を算出し、(n−1)サイクルの応力値よりnサイクルの応力値の方が連続して低い値となる最初のサイクル数nと定義した。この熱疲労寿命は、試験片に亀裂が生じたサイクル数に相当する。なお、比較のため、SUS444(18%Cr−2%Mo−0.5%Nb鋼)についても、同様の熱疲労試験を行った。
図3は、上記試験結果を示したものであり、この図から、N含有量が0.015〜0.040mass%の範囲において、SUS444(380サイクル)よりも優れる450サイクル以上の熱疲労寿命が得られていることがわかる。
(実験2)
C:0.004〜0.009mass%、Si:0.08〜0.38mass%、Mn:0.14〜0.42mass%、Al:0.038〜0.048mass%、Cr:17.1〜17.9mass%、Nb:0.38〜0.45mass%、Nb/(C+N):12.7〜15.7、Cu:0.99〜1.07mass%、N:0.020〜0.025mass%を含有し、V含有量を0.08〜0.67mass%の範囲で種々に変化させた鋼を実験室で溶製し、実験1と同様にして、35mm×35mmの角材としたのち図1に示した形状、寸法の熱疲労試験片を作製し、図2に示した条件の熱疲労試験に供して熱疲労寿命を測定した。
図4は、上記試験結果を示したものであり、この図から、V含有量が0.15〜0.60mass%の範囲において、SUS444(380サイクル)よりも優れた450サイクル以上の熱疲労寿命が得られていることがわかる。
(実験3)
上記実験1および実験2の結果(図3,4)に加えて、C:0.007mass%、Si:0.15〜0.22mass%、Mn:0.13〜0.21mass%、Al:0.034〜0.038mass%、Cr:17.4mass%、Nb:0.48mass%、Nb/(C+N):11.2〜11.4、Cu:1.02〜1.05mass%を含有し、N含有量、V含有量をそれぞれ0.036mass%、0.43mass%および0.035mass%、0.49mass%とした鋼を実験室で溶製し、実験1と同様にして、30mm×30mmの角材としたのち図1に示した形状、寸法の熱疲労試験片を作製し、図2に示した条件の熱疲労試験に供して熱疲労寿命を測定した。
図5は、上記実験結果について、VとNの含有量(mass%)の積(V×N)と熱疲労寿命との関係を示したものである。この図から、N含有量およびV含有量が実験1および2で得られた好適範囲内にあっても、(V×N)の値が0.003〜0.015の範囲にないと、SUS444より優れた450サイクル以上の熱疲労寿命が得られないことがわかる。
したがって、熱疲労特性の観点からは、N含有量は0.015〜0.040mass%、V含有量は0.15〜0.60mass%の範囲にあり、かつ、(V×N)の値は0.003〜0.015の範囲にあることが必要である。
次に、高温疲労特性に及ぼすCu添加量の影響について調査した。
(実験4)
C:0.004〜0.009mass%、Si:0.18〜0.27mass%、Mn:0.04〜0.18mass%、Al:0.041〜0.048mass%、Cr:16.9〜17.4mass%、Nb:0.39〜0.44mass%、Nb/(C+N):12.1〜14.8、N:0.021〜0.025mass%、V:0.21〜0.26mass%を含有し、Cuの含有量を0.02〜2.11mass%の範囲で種々に変化させた鋼を実験室で溶製し、得られた鋼塊を1170℃に加熱後、熱間圧延し、熱延板焼鈍し、冷間圧延し、仕上焼鈍して板厚2mmの冷延焼鈍板とした。この冷延焼鈍板から、図6に示した形状、寸法の疲労試験片を採取した。その後、上記試験片を、750℃において、板表面に110MPaの曲げ応力を負荷した状態でシェンク式の高温疲労試験(両振り、1600Hz)に供して、破断までのサイクル数を測定した。
図7に、高温疲労特性とCu含有量との関係を示した。この図から、Cu含有量が0.8〜1.6mass%の範囲において、SUS444に比べて高温疲労寿命が格段に優れた1.6×10サイクル以上の疲労寿命を示すことがわかる。したがって、SUS444より優れた高温疲労特性を得るには、Cu含有量は0.8〜1.6mass%の範囲で添加する必要があることがわかった。
次に、排気系部材に用いられる鋼において、熱疲労特性と並んで重要な特性である耐酸化性に及ぼすV含有量の影響について調査した。
(実験5)
実験2で得た鋼に加えて、C:0.006mass%、Si:0.22mass%、Mn:0.17mass%、Al:0.042mass%、Cr:17.6mass%、Nb:0.41mass%、Nb/(C+N):14.6、N:0.022mass%、Cu:0.99mass%を含有し、V含有量を0.04mass%とした鋼を実験室で溶製し、これらの鋼塊を熱間圧延し、熱延板焼鈍し、冷間圧延し、仕上焼鈍して板厚2mmの冷延焼鈍板を得た。この冷延焼鈍板から大きさが30mm×20mm×板厚の酸化試験用サンプルを採取し、このサンプルの表面を#320のエメリー紙で研磨した後、950℃に保持された大気雰囲気の炉中で300時間の連続酸化試験を行い、酸化試験前後の質量変化(酸化増量)から、耐酸化性を評価した。なお、比較材としてSUS444についても、同様の連続酸化試験を行い、耐酸化性を評価した。
上記連続酸化試験の結果を、図8に示した。この図から、Vの含有量が0.15mass%以上であれば、SUS444と同等以上の耐酸化性が得られることがわかる。
本発明は、上記知見にさらに検討を加えて完成したものである。
次に、本発明のフェライト系ステンレス鋼の成分組成について説明する。
C:0.015mass%以下
Cは、鋼の強度を高める元素であるが、0.015mass%を超えて含有すると、靱性および成形性が劣化する他、本発明の特徴であるVの添加効果が得られなくなる。よって、本発明では、Cは0.015mass%以下とする。なお、成形性をより高めるためおよびVの効果を最大限に引き出すためには、Cの含有量は低いほど望ましく、0.010mass%以下とするのが好ましい。
Si:1.0mass%以下
Siは、鋼の耐酸化性を向上する元素であり、脱酸剤としても添加される元素である。しかし、過剰な添加は加工性を低下させる。よって、本発明では、Siは1.0mass%以下とする。好ましくは0.5mass%以下である。
Mn:0.5mass%以下
Mnは、脱酸剤として作用する元素である。しかし、過剰な添加は、高温でのγ相の生成を促進し、耐熱性を低下させる。さらに、0.5mass%を超える添加は、耐酸化性を大きく低下させる。よって、本発明では、Mnは0.5mass%以下に制限する。好ましくは、0.35mass%以下である。
P:0.040mass%以下
Pは、鋼の靱性や延性を低下させる元素であり、できる限り低減するのが望ましい。よって、本発明では、Pは0.040mass%以下とする。好ましくは0.030mass%以下である。
S:0.010mass%以下
Sは、鋼の伸びおよびr値を低下させて成形性を劣化させるとともに、ステンレス鋼の基本特性である耐食性を低下させる元素であり、できる限り低減するのが望ましい。よって、本発明では、Sを0.010mass%以下に制限する。
Al:0.1mass%以下
Alは、強力な脱酸剤であり、また、鋼の耐酸化性の向上に有効な元素でもある。しかし、0.1mass%を超えて添加すると、鋼が硬質化し、加工性が低下するので、上限は0.1mass%とする。好ましくは0.03〜0.08mass%の範囲である。
Cr:16〜20mass%
Crは、鋼の耐酸化性を向上させる本発明鋼において重要な元素である。斯かる効果を得るためには、16mass%以上の添加が必要である。一方、Crは、鋼に固溶し、室温において硬質化、低延性化して加工性の低下を招く。特に、20mass%を超える添加は、加工性の低下が大きくなる。よって、Crは16〜20mass%の範囲とする。
Cu:0.8〜1.6mass%
Cuは、鋼の熱疲労特性および高温疲労特性の向上に有効な元素である。特に、図7に示したように、高温疲労特性の向上に顕著な効果がある。これは、750℃近傍で析出する微細なε−Cuの効果によるものであり、その効果は、0.8mass%以上の添加で得られる。一方、1.6mass%を超えて添加すると、その効果が得られなくなるばかりでなく、高温疲労特性がCu無添加の場合よりも低くなる。これは、析出したε−Cuが粗大化し、亀裂発生の起点として作用するためと考えられる。よって、本発明では、Cuは0.8〜1.6mass%の範囲とする。
N:0.015〜0.040mass%、V:0.15〜0.60mass%、(V×N):0.003〜0.015
N,Vは、本願発明において重要な添加元素である。図3〜5に示したように、SUS444より優れる熱疲労特性を得るには、N:0.015〜0.040mass%、V:0.15〜0.60mass%およびそれらの積(V×N):0.003〜0.015の全てを満たす必要がある。N含有量が0.015mass%未満、V含有量が0.15mass%未満あるいは(V×N)が0.003未満のいずれかの場合には、目的とする熱疲労特性が得られない。これは、熱疲労特性を向上させる微細なVN析出物が十分生成しないためである。一方、N含有量が0.04mass%超え、V含有量が0.60mass%超えあるいは(V×N)が0.015超えのいずれかの場合には、やはり熱疲労特性が低下する。このような過剰なV,Nの添加は、熱疲労特性の向上に寄与する微細なVN析出物が粗大化して、目的の熱疲労特性が得られなくなるためである。
さらに、Vについては、図8に示したように、0.15mass%以上の添加で、Cu添加に伴う耐酸化性の低下を改善する効果を有する。なお、上述したように熱疲労特性の面からVの上限は0.6mass%に限定されるが、耐酸化性の面からは、Vを0.60mass%以上添加しても悪影響はない。
Nb:10×(C(mass%)+N(mass%))〜0.60mass%
Nbは、C,Nを固定してCr炭窒化物の生成を抑制し、母材耐食性や溶接部の耐粒界腐食性を高める作用を有するとともに、高温強度を高めて熱疲労特性を向上させる、本発明において重要な元素である。特に、鋭敏化を防止し、耐粒界腐食性を高める観点からは、本発明のようにNを積極的に添加する鋼においても、10×(C+N)以上含有する必要がある。一方、過剰なNbの添加は、熱疲労特性向上に有効な微細なVNの析出を抑制する。特に、0.60mass%を超えて添加すると、たとえV,Nの含有量が上記範囲であっても、熱疲労特性の向上効果は得られなくなる。また、Nbの含有量が0.60mass%を超えると、Laves相の析出が起こり、脆化し易くする。よって、Nbの含有量は、10×(C+N)〜0.60mass%の範囲とする。好ましくは、10×(C+N)〜0.55mass%の範囲である。
Ti:0.01mass%以下、Zr:0.01mass%以下、Ta:0.01mass%以下
Ti,Zr,Taは、Vと比較して強力な窒化物形成元素である。そのため、これらの元素が0.01mass%を超えて含有すると、Ti,Zr,Ta窒化物が最初に生成し、それを核にしてNb,Vなどが窒化物の析出が生じるため、熱疲労特性の向上に有効に作用する微細なVNの析出が起こらなくなる。よって、これらの元素は、それぞれ0.01mass%以下に制限する必要がある。
Ni:0.4mass%以下
Niは、鋼の溶製時に鋼原料から不純物として混入する元素である。Niは、強力なオーステナイト安定化元素であるため、過剰に混入すると、高温でオーステナイト相が生成して耐酸化性を劣化させる。よって、Niは、0.4mass%以下に制限する。
Mo:0.1mass%以下、W:0.1mass%以下
MoおよびWは、高価な元素であり、安価な材料の開発を目的とする本発明においては積極的に添加しない。しかし、溶解原料のスクラップ等からの混入により、0.1mass%以下含有することがある。よって、本発明では、MoおよびWの上限をそれぞれ0.1mass%とする。
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、上記必須とする成分に加えてさらに、BおよびCoのうちの1種または2種を下記の範囲で含有することができる。
B:0.0004〜0.0030mass%
Bは、加工性、とくに2次加工性を向上するのに有効な元素である。この効果は、0.0004mass%以上の添加で得られる。しかし、0.0030mass%を超える添加は、BNを生成して加工性の低下を招く。よって、Bを添加する場合は、0.0004〜0.0030mass%の範囲とする。
Co:0.03〜0.1mass%
Coは、鋼の靭性向上に有効な元素であり、その効果は0.03mass%以上の添加で認められる。しかし、Coは、高価な元素であり、0.1mass%を超えて添加しても上記効果は飽和してしまう。よって、Coを添加する場合は、0.03〜0.1mass%の範囲とする。
本発明のフェライト系ステンレス鋼において、上記以外の成分は、Feおよび不可避的不純物である。
次に、本発明のフェライト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
本発明鋼の製造方法は、特に限定されるものではなく、フェライト系ステンレス鋼の製造方法として一般的なものであれば、いずれも好適に用いることができる。例えば、前述した本発明に適合する成分組成の鋼を転炉、電気炉等の溶製炉、あるいはさらに取鍋精錬、真空精錬等の二次精錬を適用して溶製し、連続鋳造法あるいは造塊−分塊圧延法で鋼片(スラブ)とし、その後、熱間圧延、熱延板焼鈍、酸洗、冷間圧延、仕上焼鈍、酸洗等の各工程を経て冷延焼鈍板とするのが好ましい。上記方法において、冷間圧延は、1回または中間焼鈍を挟む2回以上でもよい。また、冷間圧延、仕上焼鈍、酸洗の各工程は、必要に応じて繰り返し行ってもよく、熱延板焼鈍は、省略してもよい。さらに、鋼板表面の光沢性が要求される場合には、スキンパス等を施してもよい。
表1−1および表1−2に示した成分組成を有する鋼を真空溶解炉で溶製して50kg鋼塊とし、2分割し、その一方の鋼塊を1170℃に加熱後、熱間圧延して150mm幅×30mm厚の熱延シートバーとし、これを鍛造して35mm×35mmの角材とし、1040℃の焼鈍を施した。その後、その角材から、機械加工により図1に示した形状、寸法の熱疲労試験片を作製し、図2に示したように、拘束率0.8で100℃−850℃間を繰り返し昇温・降温させる熱疲労試験に供して、熱疲労寿命を測定した。なお、昇温・降温速度は10℃/sとし、850℃の保持時間は1分、100℃の保持時間は0分とした。また、熱疲労寿命は、100℃において検出された荷重を、試験片均熱平行部の断面積で割って応力を算出し、(n−1)サイクルの応力値よりnサイクルの応力値の方が連続して低い値となる最初のサイクル数nと定義した。
また、参考例として、特許文献2,3および5に開示された成分組成を有する鋼(No.34〜37)およびSUS444(No.33)についても、上記と同様にして熱疲労特性を評価した。
実施例1で得たもう一方の鋼塊を1170℃に加熱後、熱間圧延して5mm厚の熱延板とし、次いで、この熱延板を、熱延板焼鈍(焼鈍温度:1040℃)し、酸洗し、冷間圧延(圧下率:60%)し、仕上焼鈍(焼鈍温度:1040℃、平均冷却速度:20℃/s)し、酸洗して板厚2mmの冷延焼鈍板とした。
上記のようにして得た各冷延焼鈍板から、図6に示した形状、寸法の疲労試験片を採取し、高温疲労試験に供した。上記高温疲労試験は、シェンク式の高温疲労試験機を用いて、750℃の温度で、上記試験片の板表面に110MPaの曲げ応力を負荷した状態で、両振り、1600Hzの条件で行い、破断までのサイクル数を測定した。
また、実施例1と同様、No.33〜37の参考例の鋼についても、上記と同様にして高温疲労特性を評価した。
実施例2で得た板厚2mmの冷延焼鈍板から、30mm×20mm×板厚のサンプルを切り出し、サンプル上部に4mmφの穴を開けてから、その表面および端面を#320のエメリー紙で研磨し、脱脂し、その後、そのサンプルを、950℃に加熱・保持した大気雰囲気の炉内に吊り下げて300時間保持する大気中連続酸化試験に供した。試験後、サンプルの質量を測定し、試験前の質量との差を算出して、酸化増量を求めた。連続酸化試験は、各冷延焼鈍板のそれぞれについて2回実施し、その平均値で耐酸化性を評価した。
また、実施例1と同様、No.33〜37の参考例の鋼についても、上記と同様にして耐酸化性を評価した。
上記実施例1〜3の結果を、表1−2に併記して示した。これらの結果から、本発明の成分組成に適合する発明例の鋼(No.1〜14)は、いずれも、SUS444を超える耐熱疲労特性(熱疲労寿命:450サイクル以上)と高温疲労特性(疲労寿命:1.6×10サイクル以上)を有するとともに、SUS444と同等以上の耐酸化性(酸化増量:28g/m以下)を兼備し、本発明の目的が達成されていることがわかる。一方、本発明の成分組成を満たさない比較例の鋼(No.15〜32)および従来技術の鋼(No.33〜37)は、耐熱疲労特性、高温疲労特性および耐酸化性のいずれか1以上の特性が本発明鋼より劣っている。

Figure 0005239642


Figure 0005239642
本発明のフェライト系ステンレス鋼の用途は、自動車の排気部材に限定されるものではなく、本発明の鋼と同様の特性が要求される火力発電システムの排気経路部材や固体酸化物タイプの燃料電池用部材としても好適に用いることができる。
熱疲労試験に用いた試験片を説明する図である。 熱疲労試験の試験条件を説明する図である。 Cr含有鋼の熱疲労特性に及ぼすN含有量の影響を示すグラフである。 Cr含有鋼の熱疲労特性に及ぼすV含有量の影響を示すグラフである。 Cr含有鋼の熱疲労特性に及ぼす(V×N)の影響を示すグラフである。 シェンク式疲労試験に用いた試験片を説明する図である。 Cr含有鋼の高温疲労特性に及ぼすCu含有量の影響を示すグラフである。 Cr含有鋼の耐酸化性に及ぼすV含有量の影響を示すグラフである。

Claims (2)

  1. C:0.015mass%以下、
    Si:1.0mass%以下、
    Mn:0.5mass%以下、
    P:0.040mass%以下、
    S:0.010mass%以下、
    Al:0.1mass%以下、
    Cr:16〜20mass%、
    Cu:0.8〜1.6mass%、
    N:0.015〜0.040mass%、
    V:0.15〜0.60mass%、
    Nb:10×(C(mass%)+N(mass%))〜0.60mass%、
    Ti:0.01mass%以下、
    Zr:0.01mass%以下、
    Ta:0.01mass%以下、
    Ni:0.4mass%以下、
    Mo:0.1mass%以下、
    W:0.1mass%以下を含有し、かつ、
    VとNの含有量(mass%)の積(V×N)が、
    (V×N):0.003〜0.015を満たして含有し、
    残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有することを特徴とする耐熱性に優れるフェライト系ステンレス鋼。
  2. 上記成分組成に加えてさらに、B:0.0004〜0.0030mass%およびCo:0.03〜0.1mass%のうちから選ばれる1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼。
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