JP5237618B2 - ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法 - Google Patents
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しかしながら、このろ過や圧搾操作を行っても、通常アルカリセルロース中には、これと同重量以上の水が残存している。アルセル化処理により得られるアルカリセルロースは、セルロース分子中の大部分の水酸基がアルコラートとなっていると考えられており、実際にセルロース分子中のグルコース単位当たり、通常3モル量程度、少なくとも1モル量以上のアルカリが含有されている。このアルセル化により活性化したセルロースへ酸化プロピレンを添加することでヒドロキシプロピルセルロースが得られるが、アルセル化の際に残存する同重量以上の水もまた酸化プロピレンと反応(水和)するため、プロピレングリコール等の副生物が大量に生じることになる。従ってセルロースへの反応率を上げるために、通常は酸化プロピレンを過剰に用いる必要がある。
例えば、特許文献1には、溶媒としてベンゼンやトルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等から選ばれる炭化水素溶媒と、イソプロパノールやtert-ブタノール等の極性溶媒との混合溶媒を用いる方法が開示されている。特許文献2には、溶媒としてイソプロパノールやtert-ブタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の親水性極性溶媒を用いる方法が開示されている。特許文献3には、溶媒としてメチルイソブチルケトン、メチル-n-アミルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、エチル−n-ブチルケトン、ジ-n-プロピルケトン、ジイソブチルケトン等の脂肪族ケトン類を用いる方法が開示されている。特許文献4には溶媒として脂肪族ケトン類の他、エチレングリコールジメチルエーテルやジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等の(ポリ)エチレングリコールジアルキルエーテル類を用いる方法が開示されている。しかしながら、これらいずれの方法においても、アルカリセルロースを用いる必要があることから、前述したプロピレングリコール等の副生を抑制することは難しく、また反応後にはアルセル化に用いた過剰のアルカリに由来する大量の中和塩の除去操作も必要となる。従って、簡便でかつ効率的なヒドロキシプロピルセルロース製造方法の開発、特に触媒反応による効率的なヒドロキシプロピルセルロース製造方法の開発は、工業的な観点から極めて有用な課題であった。
すなわち、本発明は、低結晶性の粉末セルロースを、触媒の存在下、酸化プロピレンと反応させる、ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法である。
一般にセルロースは幾つかの結晶構造が知られており、また一部に存在するアモルファス部と結晶部との割合から結晶化度として定義されるが、本発明における「結晶化度」とは、天然セルロースの結晶構造に由来するI型の結晶化度を示し、粉末X線結晶回折スペクトルから求められる下記計算式(1)で表される結晶化度によって定義される。
結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100 ・・・計算式(1)
〔I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
また、本発明における低結晶性の粉末セルロースの「低結晶性」とは、上記のセルロースの結晶構造においてアモルファス部の割合が多い状態を示し、好ましくは上記計算式(1)から得られる結晶化度が50%以下となることが望ましい。
一般的に知られている粉末セルロースにも極めて少量のアモルファス部が存在するため、それらの結晶化度は、本発明で用いる上記計算式(1)によれば、概ね60〜80%の範囲に含まれる、いわゆる結晶性のセルロースであり、セルロースエーテル合成における反応性は極めて低い。
この方法に用いられる押出機としては、単軸又は二軸の押出機を用いることができ、強い圧縮せん断力を加える観点から、スクリューのいずれかの部分に、いわゆるニーディングディスク部を備えるものであってもよい。押出機を用いる処理方法としては、特に制限はないが、チップ状パルプを押出機に投入し、連続的に処理する方法が好ましい。
また、ボールミルとしては、公知の振動ボールミル、媒体攪拌ミル、転動ボールミル、遊星ボールミル等を用いることができる。媒体として用いるボールの材質に特に制限はなく、例えば、鉄、ステンレス、アルミナ、ジルコニア等が挙げられる。ボールの外径は、効率的にセルロースを非晶化させる観点から、好ましくは0.1〜100mmである。また媒体としては、ボール以外にもロッド状のものやチューブ状のものも用いることが可能である。
ボールミルの処理時間としては、結晶化度を低下させる観点から、好ましくは5分〜72時間である。またこの処理の際には、発生する熱による変性や劣化を最小限に抑えるためにも、250℃以下、好ましくは5〜200℃の範囲で処理を行うことが好ましく、さらには必要に応じて、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
前述のような方法を用いれば、分子量の制御も可能であり、一般には入手困難な、重合度が高く、かつ低結晶性の粉末セルロースを容易に調製することが可能であるが、好ましい重合度としては、100〜2000であり、より好ましくは100〜1000である。
この低結晶性の粉末セルロースの平均粒径は、粉体として流動性の良い状態が保てるならば特に限定されないが、300μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、50μm以下が特に好ましい。なお、工業実施化の観点から、20μm以上であるが、25μm以上が好ましい。しかしながら、凝集等による微量な粗大粒子の混入を避けるため、反応には必要に応じて25〜100μm程度の篩を用いた篩下品を用いるのが好ましい。
本発明において、上記で得られた低結晶性の粉末セルロースに、酸化プロピレンと反応させて、ヒドロキシプロピルセルロースを得ることができる。
触媒の使用量としては、セルロースおよび酸化プロピレンの双方に対して、触媒量で十分であり、具体的にはセルロース分子中のグルコース単位当たり0.1〜50モル%に相当する量が好ましく、更には1〜30モル%に相当する量がより好ましく、5〜25モル%に相当する量が最も好ましい。
一方、トルエン、ベンゼン、ヘキサンや他の炭化水素油等の非水低極性または非極性溶媒を用いた分散状態で反応を行うことも可能である。
これら溶媒は、いずれも酸化プロピレンと容易に混和が可能であるが、粉末セルロースを溶解させる必要はなく、セルロースが凝集を起こさずに良好に分散できる状態で用いるのが好ましい。しかし、これらの溶媒を多量に用いると、アルカリ等の塩基触媒が希釈されて反応速度が低下する可能性があり、したがって、非水溶媒を用いる場合におけるその使用量としては、低結晶性の粉末セルロースに対して10重量倍以下にするのが好ましい。
いずれの方法においても、反応系内のセルロースに対する水分含有量が100重量%以下であることが好ましい。セルロースに対する水分含有量がこの範囲内であれば、セルロースが過度に凝集することなく、流動性のある粉末状態で反応させることができる。この観点から、80重量%以下がより好ましく、5〜50重量%が最も好ましい。
本発明においては、低結晶性の粉末セルロース、触媒及び酸化プロピレンを流動性のある粉末状態で反応させることが好ましいが、セルロース粉末と触媒とを予めミキサー等の混合機や振とう機、あるいは混合ミル等で必要に応じて均一に混合分散させた後に、酸化プロピレンを添加して反応させることも可能である。
本発明で使用できる反応装置としては、低結晶性のセルロース、触媒及び酸化プロピレンをできる限り均一に混合出来るものが好ましく、前述したミキサー等の混合機の他、特開2002-114801号公報明細書段落〔0016〕で開示しているような、樹脂等の混錬に用いられる、いわゆるニーダー等の混合機が最も好ましい。
また、本発明における反応は、常圧下で行うことが好ましいが、反応時の着色を避ける観点から、必要に応じて窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
反応終了後は、微量の未反応酸化プロピレンを留去した後、触媒を酸またはアルカリを用いて中和し、必要に応じて、含水イソプロパノール、含水アセトン溶媒等で洗浄等を行った後、乾燥することにより、ヒドロキシプロピルセルロースを得ることができる。また、例えば反応終了後に触媒除去を行わずに、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリドを反応させてカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを合成する等の、更なる誘導体化が可能である。
セルロースに対する水分含有量の測定は、赤外線水分計として、株式会社ケット科学研究所製「FD−610」を使用し、150℃にて行った。
本発明における最適なセルロースの水分含有量を確認するため、後述する製造例1で得られた非晶化セルロースに所定量の水を添加した後、激しく攪拌・振とうさせ、目視によりその凝集状態を繰り返し観察した。
その結果、製造した非晶化粉末セルロースには少なくとも5重量%の水分が含まれているが、低結晶性の粉末セルロースを流動性のある粉末状態で反応させるためには、水分含有量として100重量%以下とするのが好適であり、80重量%以下とするのがより好ましく、50重量%以下とするのが最も好ましく、更には30重量%以下とするのが特に好ましいと判断した。
セルロースの結晶化度の算出は、株式会社リガク製「Rigaku RINT 2500VC X-RAY diffractometer」を用いて以下の条件で測定した回折スペクトルのピーク強度から前記計算式に従って行った。
X線源:Cu/Kα−radiation,管電圧:40kv,管電流:120mA,測定範囲:2θ=5〜45°,測定用サンプル:面積320mm2×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製,X線のスキャンスピード:10°/min
(3)粉末セルロースの重合度の測定
粉末セルロースの重合度は、ISO−4312法に記載の銅アンモニア法により測定した。
(4)置換度の算出
置換度は、セルロース中のグルコース単位当たりのヒドロキシプロピル基の平均導入量を示し、Macromol.Biosci., 5,58(2005)に記載されている方法を利用し、生成物への常法によるアセチル化を行い、このアセチル体の各種NMRスペクトル分析から算出した。
(5)粉末セルロースの平均粒径の測定
粉末セルロースの平均粒径は、株式会社堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−920」を用いて測定した。
木材パルプシート(ボレガード社製パルプシート、結晶化度74%)をシュレッダー(株式会社明光商会製、「MSX2000−IVP440F」)にかけてチップ状にした。
次に、得られたチップ状パルプを二軸押出機(株式会社スエヒロEPM製、「EA−20」)に2kg/hrで投入し、せん断速度660sec-1、スクリュー回転数300rpm、外部から冷却水を流しながら、1パス処理して粉末状にした。
次に、得られた粉末セルロースを、バッチ式媒体攪拌ミル(五十嵐機械社製「サンドグラインダー」:容器容積800mL、5mmφジルコニアビーズを720g充填、充填率25%、攪拌翼径70mm)に投入した。容器ジャケットに冷却水を通しながら、攪拌回転数2000rpm、温度30〜70℃の範囲で、2.5時間粉砕処理を行い、粉末セルロース(結晶化度0%、重合度600、平均粒径40μm)を得た。この粉末セルロースの反応には更に32μm目開きの篩をかけた篩下品(投入量の90%)を使用した。
なお、各結晶化度の異なる粉末セルロースは、ボールミル処理における処理時間を変えることで調製した。
1Lニーダー(株式会社入江商会製、PNV―1型)に、前記製造例1で得られた非晶化セルロース(結晶化度0%、重合度600)100gを仕込み、次に、24%水酸化ナトリウム水溶液16g(NaOH量0.10mol)を噴霧しながら加え、窒素雰囲気下4時間攪拌した。その後、酸化プロピレン35g(0.62mol、関東化学株式会社製、特級試薬)を3時間で滴下した後、そのまま室温で22時間攪拌した。反応中、セルロースは流動性のある粉末状態を保っていた。未反応の酸化プロピレン(原料の6mol%残留)を留去後、酢酸で中和し、生成物をニーダーから取り出し、含水イソプロパノール(含水量15%)及びアセトンで洗浄後、減圧下乾燥して、ヒドロキシプロピルセルロースを117gの白色固体として得た。ピリジン中、無水酢酸を用いた常法によるアセチル化後のNMR分析から、ヒドロキシプロピル基としての置換度はグルコース単位当たり0.71となり、反応は良好に進行していた。
冷却管を接続した1Lニーダー(株式会社入江商会製、PNV―1型)に、前記製造例1で得られた非晶化セルロース(結晶化度0%、重合度600)90.0gを仕込み、溶媒としてジメチルスルホキシド700ml(非晶化セルロースに対して8重量倍)を加え、攪拌しながら、24%水酸化ナトリウム水溶液16.0g(NaOH量0.10mol)を加えた後、窒素雰囲気下、室温で3時間攪拌した。その後50℃に昇温し、酸化プロピレン30g(0.52mol、関東化学株式会社製、特級試薬)を3時間かけて滴下した後、そのまま5時間攪拌した。その後、未反応の酸化プロピレンを留去後、酢酸で中和し、生成物をニーダーから取り出した。含水イソプロパノール(含水量15%)及びアセトンで洗浄後、減圧下乾燥して、ヒドロキシプロピルセルロースを108gの白色固体として得た。ヒドロキシプロピル基としての置換度はグルコース単位当たり0.65となり、反応は良好に進行していた。
前記製造例1で得られた非晶化セルロース(結晶化度0%、重合度600)100g及び水酸化ナトリウム4.0g(NaOH量0.10mol)を撹拌型ボールミル(三井鉱山株式会社製アトライタ)に加え、窒素雰囲気下、鋼球(充填率30%)を用いて混合した。これを、冷却管を備えた1Lニーダーに移し、70℃に加温後、窒素流通下、酸化プロピレン35g(0.62mol、関東化学株式会社製、特級試薬)を5時間かけて滴下した後、更にそのまま5時間攪拌したところ、原料酸化プロピレンの残留は見られなかった。反応中、セルロースは流動性のある粉末状態を保っていた。酢酸で中和し、生成物をボールミルから取り出し、含水イソプロパノール(含水量15%)及びアセトンで洗浄後、減圧下乾燥して、ヒドロキシプロピルセルロースを115gの白色固体として得た。ヒドロキシプロピル基としての置換度はグルコース単位当たり0.69となり、反応は良好に進行していた。
冷却管を接続した1Lフラスコ中に、前記製造例1で得られた非晶化セルロース(結晶化度0%、重合度600)60.0g、トリエチレングリコールジメチルエーテル360g(非晶化セルロースに対して6重量倍)を仕込み、48%水酸化ナトリウム水溶液10.0g(NaOH量0.120mol)を加え、窒素雰囲気下、室温で30分間攪拌した後、攪拌しながら50℃に昇温した。次いで酸化プロピレン30g(0.52mol、関東化学株式会社製、特級試薬)を3時間かけて滴下し、そのまま50℃で5時間攪拌した。未反応の酸化プロピレンを留去後、酢酸で中和し、生成物を含水イソプロパノール(含水量15%)及びアセトンで洗浄後、減圧下乾燥して、ヒドロキシプロピルセルロースを70gの白色固体として得た。ヒドロキシプロピル基としての置換度はグルコース単位当たり0.63となり、反応は良好に進行していた。
3L四つ口フラスコ中に、高結晶性粉末セルロース(日本製紙ケミカル株式会社製、セルロースパウダー KCフロック W-50(S);結晶化度 74%、重合度 500)100gを入れ、ジメチルスルホキシド2Lを加えて分散させた。次いで48重量%水酸化ナトリウム水溶液32g(NaOH量0.38mol)を、窒素雰囲下攪拌しながら加えた。室温で1時間攪拌後、酸化プロピレン40g(0.69mol)を1時間かけて滴下し、そのまま室温で22時間攪拌した。酢酸で中和し、未反応の酸化プロピレン及び溶媒を留去後、生成物をフラスコから取り出し、含水イソプロパノール(含水量15%)及びアセトンで洗浄後、減圧下乾燥して、ヒドロキシプロピルセルロースを102gの淡茶白色固体として得た。ヒドロキシプロピル基としての置換度はセルロース分子中のグルコース単位当たりわずか0.06であった。
Claims (3)
- 結晶化度が50%以下である低結晶性の粉末セルロースを、セルロース分子中のグルコース単位当たり0.1〜25モル%に相当する量の触媒の存在下、酸化プロピレンと反応させる、ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法であって、低結晶性の粉末セルロースに対する水分含有量が5〜50重量%であり、低結晶性の粉末セルロースに対して0〜10重量倍の非水溶媒を用いて反応させる、ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法。
- 触媒としてアルカリ金属水酸化物を用いる、請求項1に記載のセルロース誘導体の製造方法。
- 酸化プロピレンの使用量がセルロース分子中のグルコース単位当たり0.01〜3モル倍の範囲である、請求項1又は2に記載のセルロース誘導体の製造方法。
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