JP5352179B2 - ヒドロキシエチルセルロースの製造方法 - Google Patents
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このアルセル化により活性化したアルカリセルロースへ酸化エチレンを添加することでヒドロキシエチルセルロースが得られるが、前述したアルセル化処理後に残存する同質量以上の水もまた酸化エチレンと反応(水和)するため、エチレングリコール等の副生物が大量に生じることになる。
この酸化エチレンとの反応も通常はスラリー状態で行われるが、このスラリー状態での反応をより効率良く行うため、水だけでなく、種々の極性溶媒が添加されることもある。
例えば上記特許文献1及び2には、tert-ブタノールやメチルイソブチルケトン等の、水と容易には相溶しない極性溶媒を添加し、反応後に溶媒を水相と分離・回収する方法が開示されている。しかしながらアルカリ量および水量を大幅に減らすことが出来ない限り、大量の中和塩とともに、エチレングリコール等の副生物を大幅に低減することは、実質的には困難である。
したがって、簡便でかつ効率の良い廃棄物の少ないヒドロキシエチルセルロース製造方法を開発、特に触媒反応による効率的な製造方法を開発することは、工業的な観点からも極めて有用な課題であった。
すなわち本発明は、低結晶性の粉末セルロースを、触媒量の塩基触媒存在下、酸化エチレンと反応させる、ヒドロキシエチルセルロースの製造方法である。
一般にセルロースは幾つかの結晶構造が知られており、また一部に存在するアモルファス部と結晶部との割合から結晶化度として定義されるが、本発明における「結晶化度」とは、天然セルロースの結晶構造に由来するI型の結晶化度を示し、粉末X線結晶回折スペクトルから求められる下記計算式(1)で表される結晶化度によって定義される。
〔I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
一般的に知られている粉末セルロースにも極めて少量のアモルファス部が存在するため、それらの結晶化度は、本発明で用いる上記計算式(1)によれば、概ね60〜80%の範囲に含まれる、いわゆる結晶性のセルロースであり、本発明におけるヒドロキシエチルセルロース合成等、セルロースエーテル合成における反応性は極めて低い。
この方法に用いられる押出機としては、単軸又は二軸の押出機を用いることができ、強い圧縮せん断力を加える観点から、スクリューのいずれかの部分に、いわゆるニーディングディスク部を備えるものであってもよい。押出機を用いる処理方法としては、特に制限はないが、チップ状パルプを押出機に投入し、連続的に処理する方法が好ましい。
また、ボールミルとしては、公知の振動ボールミル、媒体攪拌ミル、転動ボールミル、遊星ボールミル等を用いることができる。媒体として用いるボールの材質には特に制限はなく、例えば、鉄、ステンレス、アルミナ、ジルコニア等が挙げられる。ボールの外径は、効率的にセルロースを非晶化させる観点から、好ましくは 0.1〜100mmである。媒体としては、ボール以外にもロッド状のものやチューブ状のものも用いることが可能である。
また、セルロースの結晶化度を効率的に低下させることができることから、ボールミルの処理時間としては、5分〜72時間が好ましい。またこの処理の際には、発生する熱による変性や劣化を最小限に抑えるためにも、250℃以下、好ましくは5〜200℃の範囲で処理を行うことが好ましい。更に必要に応じて、窒素等の不活性ガス雰囲気下で処理を行うことが好ましい。
前述のような方法を用いれば、分子量の制御も可能である。すなわち一般には入手困難な、重合度が高く、かつ低結晶性の粉末セルロースを容易に調製することも可能であるが、好ましい重合度としては 100〜2000であり、より好ましくは100〜1000である。
本発明において、上記で得られた低結晶性の粉末セルロースに、触媒量の塩基触媒の存在下、酸化エチレンを反応させて、ヒドロキシエチルセルロースを得ることができる。
本発明では、酸化エチレンとの反応は触媒的に進行するが、セルロースへの反応選択率が極めて高いことから、セルロース分子中のグルコース単位当たりのヒドロキシエチル基としての置換度は、酸化エチレンの反応量により所望の置換度とすることが可能である。しかしながら、ヒドロキシエチルセルロースを前述した分散剤やセルロースエーテル誘導体の出発原料として用いる場合の好ましい置換度は0.01〜3.0であり、より好ましい置換度は0.1〜2.6である。
本発明に用いる酸化エチレンの使用量としては、好ましくはセルロース分子中のグルコース単位当たり0.001〜20モル倍の範囲、より好ましくは0.005〜10モル倍の範囲、特に好ましくは0.01〜5モル倍である。酸化エチレンの使用量がこの範囲であると、酸化エチレンのセルロースに対する反応効率が極めて高いために、所望の置換度のヒドロキシエチルセルロースを得ることができる。
なお、酸化エチレンをセルロース分子中のグルコース単位当たり3モル倍以上反応させれば、セルロース分子上に効率良くポリオキシエチレン基を導入することも可能である。
本発明では反応が触媒的に進行することから、前記塩基触媒の使用量としては、セルロースや酸化エチレンに対して触媒量を用いるだけで十分であるが、具体的にはセルロース分子中のグルコース単位当たり、0.01〜0.5モル倍に相当する量を用いるのが好ましく、更には 0.05〜0.3モル倍に相当する量を用いるのがより好ましい。
本発明におけるセルロースと酸化エチレンとの反応状態としては、膨潤をともなうスラリー状態や粘度の高い状態あるいは凝集状態とはならずに、流動性のある粉末状態で十分に分散されている状態を保つことが好ましい。このような観点から、前述した希薄水溶液で塩基を添加する際には、その水分量としては、セルロースに対して100質量%以下となるように調整するのが好ましい。
一方、トルエンやキシレン、ベンゼン、あるいはヘキサン、シクロヘキサンや他の炭化水素油といった非水低極性または非極性溶媒を用いた分散状態で反応を行うことも可能である。
これら溶媒を用いて分散状態で反応させる際には、溶媒中でも凝集を起こさずに良好に分散できるだけの量を用いる必要がある。しかしながら多量に用いると、触媒量しか用いていないアルカリ等の塩基が必要以上に希釈されるために、反応速度が著しく低下する。したがって、これらの非水溶媒の使用量としては、粉末セルロースに対して20質量倍以下とするのが望ましく、更には10質量倍以下にするのがより好ましい。
本発明の製造方法においては反応は粉末状態で進行するが、粉末状態ではスラリー状態よりも流動性が乏しいために、ニーダー内壁面に付着し、十分な攪拌を受けないため反応効率が悪い部分が存在する場合がある。この点を改善するために、ニーダー型反応装置の反応容器の駆動軸と水平との成す角度を変えることで、反応容器の内壁面に付着している内容物を落下させ、内容物が隈なく攪拌されるようにすることが望ましい。このような角度可変式のニーダー型反応装置の好適例としては、角度可変式のリボンミキサー、コニーダー、単軸スクリュー型ニーダー、双腕型ニーダーが挙げられる。角度可変式のリボンミキサー型反応装置の具体例を図1及び図2に示すが、本発明における反応に用いられる装置は、図1及び図2に示す装置に限られるものではない。
双腕型ニーダー型反応装置に用いて粉末状態の反応を行う場合には、リボン型、パドル型、ブレード型の攪拌翼を用いることが好ましい。ニーダー型反応装置は回分式でも連続式でもよい。
本発明において、反応終了後は、未反応の酸化エチレンを除去した後、酸を用いて塩基触媒を中和し、また必要に応じて、含水イソプロパノール、含水アセトン溶媒等で洗浄等を行った後、乾燥することにより、ヒドロキシエチルセルロースを得ることができる。
すなわち、本発明を利用すれば、ヒドロキシエチルセルロースを出発原料とする種々のセルロースエーテル誘導体が、セルロースからワンポットで合成することが可能となる。
セルロースに対する水分含有量の測定は、株式会社ケット科学研究所製の赤外線水分計「FD−610」を使用し、150℃にて行った。
本発明における酸化エチレンとの反応を行うにあたり本発明における最適なセルロースの水分含有量を確認するため、後述する製造例1で得られた非晶化セルロースに所定量の水を添加した後、激しく攪拌・振とうさせ、目視によりその凝集状態を繰り返し観察した。
その結果、製造した低結晶性の粉末セルロースには少なくとも5質量%の水分が含まれているが、セルロースを流動性のある粉末状態で反応させるためには、含水量として100質量%以下とするのが好適であり、80質量%以下とするのがより好ましく、50質量%以下とするのが最も好ましく、更には30質量%以下とするのが特に好ましいと判断した。
セルロースの結晶化度の算出は、株式会社リガク製「Rigaku RINT 2500VC X-RAY diffractometer」を用いて以下の条件で測定した回折スペクトルのピーク強度から前記計算式に従って行った。
X線源:Cu/Kα−radiation,管電圧:40kv,管電流:120mA,測定範囲:2θ=5〜45°,測定用サンプル:面積320mm2×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製,
X線のスキャンスピード:10°/min
粉末セルロースの重合度は、ISO−4312法に記載の銅アンモニア法により測定した。
(4)置換度の算出
ヒドロキシエチル基としての置換度は、セルロース中のグルコース単位当たりのヒドロキシエチル基の平均導入モル数を示し、Macromol.Biosci., 5, 58(2005)に記載されている方法を利用し、生成物へのアセチル化を行い、その各種NMR(装置;Varian社製、Unity Inova 300)スペクトルから確認を行った。
(5)粉末セルロースの平均粒径の測定
粉末セルロースの平均粒径は、株式会社堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−920」を用いて測定した。なお、用いた屈折率は、1.2である。
木材パルプシート(ボレガード社製パルプシート、結晶化度74%)をシュレッダー(株式会社明光商会製、「MSX2000−IVP440F」)にかけてチップ状にした。
次に、得られたチップ状パルプをスクリューの中央部にニーディングディスク部を備えた二軸押出機(株式会社スエヒロEPM製、「EA−20」)に2kg/hrで投入し、せん断速度660sec-1、スクリュー回転数300rpmの条件で、外部から冷却水を流しながら、1パス処理して粉末状にした。
次に、得られた粉末セルロースを、バッチ式媒体攪拌型ボールミル(三井鉱山株式会社製「アトライタ」:容器容積800mL、6mmφ鋼球を1400g充填、攪拌翼の直径65mm)に前記粉末状のセルロース100gを投入した。容器ジャケットに冷却水を通しながら、攪拌回転数600rpmで3時間粉砕処理を行い、粉末セルロース(結晶化度0%、重合度600、平均粒径40μm)を得た。この粉末セルロースの反応には更に32μm目開きの篩をかけた篩下品(投入量の90%)を使用した。
なお、各結晶化度の異なる粉末セルロースは、ボールミル処理における処理時間を変えることで調製した。
酸化エチレンの計量槽を備えた反応装置(日東高圧株式会社製1.5Lオートクレーブ)中に、前記製造例1で得られた非晶化セルロース(結晶化度 0%、重合度 600)50g及び20質量%水酸化ナトリウム水溶液10g(NaOH量 0.06mol)を加え、分散溶媒としてジエチレングリコールジブチルエーテル450g(510ml)を加えて、窒素で反応容器内を置換し、そのまま1時間攪拌した。次いで、酸化エチレン50g(1.14mol)を仕込み,攪拌しながら70℃に昇温した。容器内は初期に0.17MPaを示した。そのまま70℃で12時間攪拌したところ、容器内の圧力は0.10MPaまで減少した。その後、未反応の酸化エチレンを系外へ除去し、反応容器から生成物を取り出した。酢酸で中和後、含水イソプロパノール(含水量15質量%)及びアセトンで洗浄し、減圧下乾燥して、ヒドロキシエチルセルロースを75gの白色固体として得た。ヒドロキシエチル基としての置換度は、セルロース分子中のグルコース単位当たり2.0となり、酸化エチレンのセルロースへの反応選択性は96%であった。
容器内の圧力が0.01MPa以下となるまで攪拌を続ける以外は実施例1と同様にして反応を行ったところ、反応時間として24時間を要したが、酸化エチレンは完全に消費されており、ヒドロキシエチルセルロースを98g(理論量100g)の白色固体として得た。ヒドロキシエチル基としての置換度はグルコース単位当たり3.8となり、酸化エチレンのセルロースへの反応選択性は96%であった。
分散溶媒としてtert-ブタノール−水混合溶媒(混合比率9:1)450gを用いる以外は実施例1と同様にして反応を行った結果、ヒドロキシエチルセルロースを73gの白色固体として得た。ヒドロキシエチル基としての置換度はグルコース単位当たり1.9となり、酸化エチレンのセルロースへの反応選択性は78%であった。
実施例1記載の1.5Lオートクレーブ中に、前記製造例1で得られた非晶化セルロース(結晶化度 0%、重合度 600)150g及び粉末水酸化ナトリウム7.4gを加え、窒素で反応容器内を置換後、攪拌しながら70℃に昇温した。次いで、容器内の圧力を0.10MPaに維持しながら、酸化エチレン100gを4時間かけて容器内に注入した。仕込み後、そのまま70℃で1時間攪拌したところ、容器内の圧力は0.06MPaまで減少した。その後、未反応の酸化エチレンを系外へ除去し、反応容器から生成物を取り出した。酢酸で中和後、含水イソプロパノール(含水量15質量%)及びアセトンで洗浄し、減圧下乾燥して、ヒドロキシエチルセルロースを209gの黄白色固体として得た。ヒドロキシエチル基としての置換度は、セルロース分子中のグルコース単位当たり1.5となり、酸化エチレンのセルロースへの反応選択性は75%であった。
図2に示す1.1Lの耐圧性を備えた角度可変式リボンミキサー型反応装置中に、前記製造例1で得られた非晶化セルロース(結晶化度 0%、重合度 600)100g及び粉末水酸化ナトリウム5.0gを加え、窒素で反応容器内を置換した後、攪拌しながら50℃に昇温した。次いで、容器内の圧力を0.10MPaに維持しながら、酸化エチレン71gを4時間かけて容器内に注入した。その後50℃で1時間攪拌・熟成した。仕込み開始から熟成終了までの間、30分に一度、反応容器の駆動軸(図2における線(a))と水平が成す角度を、45°→0°→−45°→0°→45°と変化させた。その後、未反応の酸化エチレンを系外へ除去し、反応容器から生成物を取り出した。酢酸で中和後、含水イソプロパノール(含水量15質量%)及びアセトンで洗浄し、減圧下乾燥して、ヒドロキシエチルセルロースを170gの白色固体として得た。ヒドロキシエチル基としての置換度は、セルロース分子中のグルコース単位当たり2.6となり、酸化エチレンのセルロースへの反応選択性は95%であった。
1Lフラスコ中に高結晶性の粉末セルロース(日本製紙ケミカル株式会社製セルロースパウダー KCフロック W-400G;結晶化度 74%、重合度 500)50gを入れ、窒素雰囲気下、20質量%水酸化ナトリウム水溶液1000mlを加えて1日間浸漬した。更に室温でスターラーにより5時間攪拌した後、余分な水酸化ナトリウム水溶液をろ過により除き、圧搾して約100gのアルカリセルロースを得た。得られたアルカリセルロース中にはNaOH量として18g(0.45mol)のアルカリを含有していた。
得られたアルカリセルロース全量を前記実施例3で使用したオートクレーブに移し、更にtert-ブタノールおよび水を加えて、実施例3と同じ溶媒比率(tert-ブタノール-水混合比率=9:1、全質量450g)に調製した。その後、酸化エチレン50g(1.14mol)を仕込み,攪拌しながら70℃に昇温した。そのまま70℃で12時間反応を行ったところ、酸化エチレンは全て消費されていた。その後、生成物を反応容器から取り出し、酢酸で中和後、含水イソプロパノール(含水量15質量%)及びアセトンで洗浄し、減圧下乾燥して、ヒドロキシエチルセルロースを68gの淡茶白色固体として得た。ヒドロキシエチル基としての置換度はグルコース単位当たり1.45、酸化エチレンのセルロースへの反応選択性は39%であり、実施例1〜5と比較して反応選択性は極めて低かった。
2;反応容器支持部
3;反応容器角度制御部
4;攪拌翼
5;攪拌翼の駆動軸
6;原料仕込み口
7;酸化エチレン仕込み口
8;酸化エチレン抜き出し口
9;熱媒入口
10;熱媒出口
11;モーター
Claims (4)
- 結晶化度が50%以下である低結晶性の粉末セルロースを、セルロース分子中のグルコース単位当たり0.01〜0.5モル倍に相当する量の塩基触媒存在下、酸化エチレンと反応させる、ヒドロキシエチルセルロースの製造方法であって、低結晶性の粉末セルロースに対する水分含有量が100重量%以下であり、低結晶性の粉末セルロースに対して0〜10重量倍の非水溶媒を用いて反応させる、ヒドロキシエチルセルロース。
- 塩基としてアルカリ金属水酸化物を用いる、請求項1に記載のヒドロキシエチルセルロースの製造方法。
- ニーダー型反応装置を用いる、請求項1又は2に記載のヒドロキシエチルセルロースの製造方法。
- 酸化エチレンの使用量がセルロース分子中のグルコース単位当たり0.01〜5モル倍の範囲である、請求項1〜3のいずれかに記載のヒドロキシエチルセルロースの製造方法。
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