JP5193637B2 - メチルセルロースの製造方法 - Google Patents
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Description
このアルセル化工程では、アルセル化処理で調製したアルカリセルロースから過剰のアルカリや水を除くため、ろ過洗浄や圧搾等の煩雑な操作が行われている。このアルカリセルロースは、セルロース分子中の大部分の水酸基がアルコラートとなっていると考えられており、実際にセルロース分子中のグルコース単位当たり、通常1〜3モル量程度、少なくとも1モル量以上に相当するアルカリが含有されており、更にはセルロースと同重量以上の水も残存している。したがってエーテル化剤と反応を行う際には、この水もまたエーテル化剤と反応する可能性があるため、反応にともなって大量の中和塩が副生するだけでなく、これらの水和物に由来する副生物も生じることになる。
しかしながらアルカリおよび水量を大幅に減らすことが出来ない限り、中和塩等の副生物を大幅に低減することは、実質的には困難である。
しかしながらこれらの方法は、アルデヒドのような酸に敏感な官能基を有する場合には容易に副反応を引き起こし、例えばセルロース等の多糖類では主鎖の1,4-グリコシル結合が容易に切断され、著しく分子量が低下してしまう問題がある。
また特許文献4には、触媒としてカオリン系粘土鉱物を用い、反応管にこの触媒を充填し、反応温度200〜300℃で、エチレングリコールおよびメタノールを液相で流通させて反応させる方法が開示されている。
また特許文献5にはアルカリ金属−リン−ケイ素系複合酸化物等の固体酸塩基触媒を用いて、メタノールの臨界温度;Tc=239℃(512K)の0.9〜1.5倍の反応温度かつ臨界圧力;Pc=8.1MPaの0.5〜4.5倍の圧力条件下で、エチレングリコールのメタノール溶液を管型の触媒槽に流通させて反応させる方法が開示されている。しかしこの方法に応用しようとしても、通常セルロースはメタノールにほとんど溶解しないために、前述した液相で流通させる方法は難しく、またバッチ式で反応させる場合にも、固体である触媒と、同様に固体であるセルロースまたはメチルセルロースとを分離することは極めて困難となる。
したがって、簡便かつ効率的で廃棄物が少ないメチルセルロース製造法を開発することは、工業的な観点から極めて有用な課題である。
本発明で用いるセルロースは、特に制限されるものではないが、低結晶性の粉末セルロースを用いることが好ましい。中でも、低結晶性の粉末セルロースの結晶化度が50%以下のセルロースがより好ましい。
一般にセルロースは幾つかの結晶構造が知られており、また一部に存在するアモルファス部と結晶部との割合から結晶化度として定義されるが、本発明における「結晶化度」とは、天然セルロースの結晶構造に由来するI型の結晶化度を示し、粉末X線結晶回折スペクトルから求められる下記計算式(1)で表される結晶化度によって定義される。
結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100 ・・・計算式(1)
〔I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
一般的に知られている粉末セルロースにも極めて少量のアモルファス部が存在するため、それらの結晶化度は、本発明で用いる上記計算式(1)によれば、概ね60〜80%の範囲に含まれる、いわゆる結晶性のセルロースであり、セルロースエーテル合成における反応性は極めて低い。
また例えば、シート状パルプを粗粉砕して得られるチップ状パルプを、押出機で処理して、更にボールミルで処理することにより調製するような方法も挙げることができる。
この方法に用いられる押出機としては、単軸又は二軸の押出機を用いることができ、強い圧縮せん断力を加える観点から、スクリューのいずれかの部分に、いわゆるニーディングディスク部を備えるものであってもよい。押出機を用いる処理方法としては、特に制限はないが、チップ状パルプを押出機に投入し、連続的に処理する方法が好ましい。
また、ボールミルとしては、公知の振動ボールミル、媒体攪拌ミル、転動ボールミル、遊星ボールミル等を用いることができる。媒体として用いるボールの材質に特に制限はなく、例えば、鉄、ステンレス、アルミナ、ジルコニア等が挙げられる。ボールの外径は、効率的にセルロースを非晶化させる観点から、好ましくは0.1〜100mmである。また媒体としては、ボール以外にもロッド状のものやチューブ状のものも用いることが可能である。
尚、ボールミルの処理時間としては、結晶化度を低下させる観点から好ましくは5分〜72時間である。またこの処理の際には、発生する熱による変性や劣化を最小限に抑えるためにも、250℃以下、好ましくは5〜230℃、より好ましくは5〜200℃の温度範囲内で処理を行うことが好ましく、更には必要に応じて、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
本発明に用いる低結晶性の粉末セルロースの結晶化度は、好ましくは前記計算式(1)から求められる結晶化度が50%以下である。この結晶化度が50%以下であれば、各種エーテル化剤との反応が極めて良好に進行する。この観点から、40%以下がより好ましく、30%以下が更に好ましい。特に、本発明において、完全に非晶質化した、すなわち前記計算式から求められる結晶化度がほぼ0%となる非晶化セルロースを用いることが最も好ましい。
本発明のメチルセルロースの製造方法は、セルロースを、メタノールの亜臨界条件下、含水メタノールを用いて無触媒で反応させることを特徴とする。
本発明におけるメタノールの亜臨界条件とは、反応温度及び/又は反応圧力が、前述の特許文献5の段落〔0041〕で定義されているメタノールの亜臨界および超臨界条件領域〔すなわち臨界温度;Tc=512K(239℃)の0.9〜1.5倍の反応温度かつ臨界圧力;Pc=8.1MPaの0.5〜4.5倍の反応圧力領域〕よりも低い領域を示し、具体的には、反応温度として臨界温度;Tc=512K(239℃)の0.88〜1.0倍の範囲の反応温度領域(450〜512K(180〜239℃))、および反応圧力として臨界圧力;Pc=8.1MPaの0.1倍以上0.5倍未満の反応圧力領域(0.8MPa以上4.0MPa未満)を示す。このうち、本発明における反応温度領域としては、原料セルロースや生成メチルセルロースの分解や着色を抑える観点から、180〜230℃の範囲が更に好ましい温度領域である。
一方、本明細書で定義されるメタノールの亜臨界条件の温度領域は、例えば水和反応における水の反応性に著しい向上は見られない。しかしながら、このメタノールの亜臨界条件の温度領域を含む180〜250℃、特に200〜230℃では水のイオン積が最も大きな値を示し、これがメタノールの反応性を著しく向上させている可能性がある。
すなわち、本明細書で定義されるメタノールの亜臨界条件の反応温度・圧力領域であれば、含水メタノールによるセルロースのメチルエーテル化が、触媒を用いることなく、極めて良好に進行する結果となる。
本発明における含水メタノール中の含水量は、反応を効率良く進行させかつ加水分解が起こる可能性を避けるため、メタノールに対して20重量%以下とするのが好ましく、0.5〜15重量%とするのがより好ましく、1〜10重量%とするのが更に好ましい。
本発明におけるセルロースと含水メタノールとの反応は、通常は反応容器としてオートクレーブ等の耐圧容器を用いて行われるが、加温されている耐圧の管型反応容器中に、セルロースの含水メタノール分散液をスラリー状態で流通させて反応させることも可能である。
また更には、特開2002-114801号公報で開示しているような、樹脂等の混錬に用いられる、いわゆるニーダー等の混合機を反応容器として用い、含水メタノール使用量を反応時に耐圧圧力以下になるように調整し、熱油等の高温媒体により加温して反応させることも可能である。
本発明において、メチル基はセルロース分子中のグルコース単位におけるいかなる位置の水酸基に結合していてもよいが、反応時間や温度、含水メタノール量やその含水量といった反応条件を調製することで、グルコース単位あたり任意の置換度に調整することが可能であり、各種組成物用途の配合成分として極めて広範に利用することが可能である。
本発明で用いたセルロースの結晶化度の算出は、株式会社リガク製「Rigaku RINT 2500VC X-RAY diffractometer」を用いて以下の条件で測定した回折スペクトルのピーク強度から前記計算式に従って行った。
X線源:Cu/Kα−radiation,管電圧:40kv,管電流:120mA,測定範囲:2θ=5〜45°,測定用サンプル:面積320mm2×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製,X線のスキャンスピード:10°/min
尚、重合度は、ISO−4312法に記載の銅アンモニア法により測定した。また平均粒径は、株式会社堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−920」を用いて測定した。
(2)メチル化の置換度の算出
置換度はセルロース中のグルコース単位当たりの、メチル基の平均付加モル数を示す。その算出法としては、まずピリジン溶媒中でメトキシアセチルクロリドを用いて生成物中のメチルエーテル化されていない水酸基のメトキシアセチル化を行い、そのメトキシアセチル化物の1H NMRスペクトルを測定し、3.3〜4.3ppm(重クロロホルム溶媒中、トリメトキシシラン基準)に観察されるメトキシアセチル基中のメチルプロトンおよびメチレンプロトンシグナルと、メチルエーテル化されたメチル基中のメチルプロトンシグナルとの積分比から算出した。
まず木材パルプシート(ボレガード社製パルプシート、結晶化度74%)をシュレッダー(株式会社明光商会製、「MSX2000−IVP440F」)を用いて裁断しチップ状にした。
次に、得られたチップ状パルプを二軸押出機(株式会社スエヒロEPM製、「EA−20」)に2kg/hrで投入し、せん断速度660sec-1、スクリュー回転数300rpmで外部を冷却水により冷却しながら、1パスの処理で粉末状にした。
次に、得られた粉末セルロースを、バッチ式媒体攪拌ミル(五十嵐機械社製「サンドグラインダー」:容器容積800mL、5mmφジルコニアビーズを720g充填、充填率25%、攪拌翼径70mm)に投入した。容器外部を冷却水で冷却しながら、攪拌回転数2000rpm、温度30〜70℃の範囲で、2.5時間処理を行い、非晶化粉末セルロース(結晶化度0%、重合度600、平均粒径40μm)を得た。この粉末セルロースの反応には更に32μm目開きの篩をかけた篩下品(投入量の90%)を使用した。
なお、各結晶化度の異なる粉末セルロースは、ボールミル処理における処理時間を変えることで調製した。
小型のオートクレーブ(30ml)中に、非晶化セルロース(結晶化度0%、重合度600)0.50gおよび含水メタノール9.0g(含水量0.5g)を加え、窒素置換後、脱気を行った。そのまま攪拌しながら、高温オイルバスで220℃まで昇温した。容器内の圧力は初期に2MPaを示した。そのまま8時間攪拌後、室温まで冷却した。未反応メタノールを留去後、含水イソプロパノール(含水量15%)およびアセトンで洗浄後、減圧下乾燥して、メチルセルロースを淡茶色固体として得た。メトキシアセチル化後の
1H NMR分析から、メチルセルロースとしてのメチル基の置換度はグルコース単位当たり2.4となり、反応は良好に進行していた。
反応時間として16時間攪拌を行う以外は実施例1と同様に反応を行った結果、メチルセルロースとしてのメチル基の置換度はグルコース単位当たり2.6となり、反応は極めて良好に進行していた。
Claims (4)
- セルロースを、メタノールの亜臨界条件下、含水メタノールを用いて無触媒で反応させる、メチルセルロースの製造方法。
- セルロースが低結晶性の粉末セルロースである、請求項1に記載のメチルセルロースの製造方法。
- 低結晶性の粉末セルロースの結晶化度が50%以下である、請求項2に記載のメチルセルロースの製造方法。
- メタノール中の含水量が20重量%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のメチルセルロースの製造方法。
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