JP5235810B2 - Sn酸化物の定量方法およびフラックスの評価方法 - Google Patents

Sn酸化物の定量方法およびフラックスの評価方法 Download PDF

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Description

本発明は、Sn酸化物の定量方法およびフラックスの評価方法に関し、詳しくは、Snを含むめっき層が設けられたSn系めっき材表面に形成されたSn酸化物の定量方法および前記定量方法を用いたはんだ付け用フラックスの評価方法に関する。
一般に、端子、コネクター、接触子等の電気・電子部品には、銅や銅合金の表面にSnを含むめっき層、具体的には、SnやSn合金のめっき層が設けられたSn系めっき材が広く用いられている。
しかし、このSn系めっき材の表面には、空気や化学薬品に接触したり、熱履歴を受けたりすることにより、Sn酸化物の皮膜(以下、「酸化皮膜」と言う)が形成されていることが多い。
はんだ付けが行われる箇所にこのような酸化皮膜が形成されていると、この酸化皮膜の融点はSnやSn合金よりも高いため、Sn系めっき材表面のはんだ濡れ性を低下させ、充分な強度を有するはんだ付けを行うことができない。
このため、はんだ付けを行うにあたっては、Sn系めっき材表面に形成された酸化皮膜を除去して、SnやSn合金の表面を露出させて活性化し、充分なはんだ濡れ性を確保しておく必要がある。そして、このような機能を有する材料として、一般にフラックスが用いられている。
しかし、フラックスはその種類により、酸化皮膜の除去能力(以下、「フラックスの活性力」とも言う)が異なり、はんだ濡れ性に対する特性も異なっているため、はんだ付けを行うに際しては、Sn系めっき材表面に形成された酸化皮膜の組成や量を予め把握し、これに基づいて、酸化皮膜を充分に除去して、はんだ濡れ性を向上させることができる適切なフラックスを採用する必要がある。
そして、このためには、Sn系めっき材表面に形成された酸化皮膜を正確に定量すると共に、正確な定量に基づいて、種々のフラックスについて、予めフラックスの活性力を評価しておく必要がある。
予め活性力が評価されたフラックスから適切なフラックスを採用することにより、はんだ付け作業の効率化やはんだ付け後の工程の最適化を図ることが可能となる。
上記の酸化皮膜の定量やフラックスの活性力の評価に関しては、以下に示すような技術が開示されている。
特許文献1には、フラックスの活性力を評価する方法として、20℃(常温)と400℃の金属板を評価対象のフラックスに20分間浸漬した後、溶出した金属量を原子吸光分析またはICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分析法によって測定し、溶出金属量が多いほどそのフラックスを用いたときのはんだ濡れ性が良いと判断する技術が開示されている。
しかしながら、この方法は、常温と400℃の2つの温度条件で評価を行うものであり、実装温度で効果を発揮するように作られているはんだ付け用フラックスのはんだ付け温度(250〜300℃)における活性力の評価として十分であるとは言い難い。
また、この方法で定量される金属の含有濃度は10−2ppmのオーダと非常に希薄であるため、精度の高い定量測定が困難である。
次に、特許文献2には、ホウ酸系の緩衝液(0.1M HBO+0.025M Na)を用いたクロノポテンショメトリー(Chronopotentiometry)法(CP法)により、Sn酸化物(SnOおよびSnO)を定量すると共に、はんだ濡れ性を評価する方法が開示されている。
この方法は、試料に対して一定の負電流を与えて酸化皮膜を還元し、時間に対する電位をモニターするものであり、酸化物が還元される間は電位の変化が少ない(プラトー)ことを利用している。即ち、測定結果を電位と時間の関係でグラフに表すと、特定の酸化物(SnOとSnO)が還元される過程で平坦部(プラトー部)が現れる。そして、与えた負電流と平坦部の長さ(時間)の積、即ち電気量に基づき、ファラデーの法則の成立を仮定して、Sn酸化物の重量を求めることができる。
なお、この計測過程においては、SnOが先に還元され、引き続きSnOが還元されると考えられ、はんだ濡れ性に対する悪影響は、SnOよりもSnOの方が大きいと言われている(非特許文献1)。
上記の方法においては、Sn酸化物の状態別の評価を行い、はんだ濡れ性との関係を調べているが、XPS(X線光電子分光分析)やXRD(X線回折)等、金属表面の状態別分析として汎用的に用いられている表面機器分析法では、Sn酸化物を状態別に評価することが難しいため、電気化学的なCP法が用いられている。
しかし、このCP法にホウ酸系緩衝液を用いた場合には計測条件により測定値が大きく変動し、また、前記したSnOとSnOの2つのプラトー部の分離を正しく確認することが困難な場合が多い。
特開昭63−104776号公報 米国特許5262022号
S.Cho 他3名、「Oxidation study of pure tin and its alloys via electrochemical reduction analysis」、J.Electronic Mater.34(2005)P635
以上のように、従来の方法を用いた場合には、Sn系めっき材表面に形成された酸化皮膜を正確に定量することが困難であり、このためフラックスの活性力を確実に評価することも困難であった。
本発明は、上記の問題に鑑み、Sn系めっき材表面に形成された酸化皮膜の組成や量を正確に定量することができるSn酸化物の定量方法を提供すると共に、はんだ付け用フラックスの活性力を正確に評価することができるフラックスの評価方法を提供することを課題とする。
本発明者は、鋭意検討の結果、以下の各請求項に示す各請求項の発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。以下、各請求項の発明を説明する。
請求項1に記載の発明は、
Sn酸化物が表面に形成されたSn系めっき材を、所定のアンモニア系緩衝液に浸漬し、クロノポテンショメトリー法またはボルタンメトリー法を用いてSn酸化物の電解還元処理を行い、還元電位および還元に要した電気量からSn酸化物の定量を行うことを特徴とするSn酸化物の定量方法である。
本発明者は、Sn酸化物を、測定条件の如何によらず、正確に定量することができる方法につき種々の実験を行い、クロノポテンショメトリー法やボルタンメトリー法を用い、電解液としてアンモニア系緩衝液を採用することにより、Sn酸化物の定量を正確にかつ安定して行うことができることを見出した。
具体的には、これらの方法に電解液としてアンモニア系緩衝液を採用して電解還元処理を行うことにより、Sn系めっき材表面に形成された2種類のSn酸化物(SnOおよびSnO)のそれぞれを正確に確認することができ、これに基づいてそれぞれのSn酸化物を正確に定量することができる。
即ち、測定試料に対して一定の負電流を与えながら電位を計測するクロノポテンショメトリー法においては、電解液としてアンモニア系緩衝液を採用することにより、SnOおよびSnOそれぞれのプラトー部を正しく確認することができる。そして、与えた負電流と平坦部(プラトー部)の長さ(時間)の積、即ち電気量に基づき、各Sn酸化物の量を正確に定量することができる。
また、電位を変化させながら電流を測定するボルタンメトリー法においては、電解液としてアンモニア系緩衝液を採用することにより、SnOおよびSnOそれぞれの還元ピークを明確に確認することができる。そして、そのピーク面積を求めることにより、各Sn酸化物の量を正確に定量することができる。
このように、本請求項の発明によれば、電解液としてアンモニア系緩衝液を採用することにより、クロノポテンショメトリー法とボルタンメトリー法、いずれの方法によってもSn酸化物の量を正確に定量することができる。なお、ボルタンメトリー法では還元ピークによりSnOおよびSnOを確認するため、測定結果を視覚的に把握しやすく、クロノポテンショメトリー法よりも好ましい。
アンモニア系緩衝液としては、例えば、アンモニウムイオン(NH )としてのトータルのモル濃度が0.1〜1.5Mであるアンモニア水(NHOH)と塩化アンモニウム(NHCl)の混合溶液やアンモニア水(NHOH)と硫酸アンモニウム((NHSO)の混合溶液等が好ましく用いられる。
アンモニア系緩衝液の濃度としては、特にボルタンメトリー法においては、上記の混合溶液中の2種類の試薬がそれぞれ0.5M程度であるアンモニア緩衝液が好ましい。濃度が低い場合には、特にSnOの還元ピークが不明確となり易く好ましくない。一方、濃度が高い場合には、SnOの還元ピークはシャープで強度も増大するものの、SnOの還元ピークがより低電位側に現れて水素発生の影響を受けるため、ピーク面積の見積もりが困難となり、正確な定量が困難となる。
なお、本請求項の発明において、「Sn系めっき材」とは、基材の表面にSnやSn合金など、Snを含むめっき層が設けられためっき材を言う。
請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載のSn酸化物の定量方法を2回繰り返し、第1回目の定量結果と第2回目の定量結果から、差分データを作成し、前記差分データに基づいて前記Sn酸化物の還元量を求めることを特徴とするSn酸化物の定量方法である。
ボルタンメトリー法においては、SnOの還元ピークは低電位側に現れるが、水素発生反応の影響を受けやすいため、ピーク面積を見積もって定量を行うことが困難となる。
本請求項の発明においては、定量を2回繰り返し、第1回目の定量結果と第2回目の定量結果から、差分データを作成することにより、前記した水素発生の影響を緩和させている。このため、より正確な定量を行うことができる。
請求項3に記載の発明は、
Sn酸化物が表面に形成されたSn系めっき材におけるSn酸化物を定量する第1の定量工程と、
前記めっき材にフラックスを塗布した後にはんだ付け温度まで加熱する加熱工程と、
加熱後の前記めっき材におけるSn酸化物を定量する第2の定量工程と、
前記第1の定量工程で得られたSn酸化物量に対する前記第2の定量工程で得られたSn酸化物量の減少率を求めて、前記フラックスの活性力を評価する評価工程と
を有しており、
前記第1の定量工程および前記第2の定量工程が、請求項1または請求項2に記載のSn酸化物の定量方法による定量である
ことを特徴とするフラックスの評価方法である。
本請求項の発明においては、請求項1または請求項2に記載のSn酸化物の定量方法を用いて、第1の定量工程においてフラックス塗布前の酸化物量を正確に定量すると共に、第2の定量工程においてフラックスによる酸化物還元除去後の酸化物量を正確に定量しているため、Sn酸化物量の減少率を正確に求めることができ、フラックスの活性力を正確に評価することができる。
そして、第2の定量工程においては、フラックスをはんだ付け温度まで加熱しているため、評価結果は、実装温度に沿った評価と言うことができる。
なお、通常は、第1の定量工程と第2の定量工程では、同じ測定法が用いられる。即ち、第1の定量工程でクロノポテンショメトリー法を用いられた場合には、第2の定量工程においてもクロノポテンショメトリー法が用いられ、第1の定量工程でボルタンメトリー法を用いられた場合には、第2の定量工程においてもボルタンメトリー法が用いられる。
本発明により、Sn系めっき材表面に形成された酸化皮膜の組成や量を正確に定量することができるSn酸化物の定量方法を提供すると共に、はんだ付け用フラックスの活性力を正確に評価することができるフラックスの評価方法を提供することができる。
本発明の実施の形態に用いる電気化学測定セルの構成を模式的に示す図である。 酸化皮膜が形成されたSn板についての濃度が異なる各種アンモニア系緩衝溶液中におけるリニアスイープボルタモグラムである。 酸化皮膜形成処理時間の異なる6種類のSn板についてのリニアスイープボルタモグラムである。 リニアスイープボルタモグラムからSnOおよびSnOを定量する手順を説明する図である。 酸化皮膜が形成されたSn板についてのホウ酸系の緩衝溶液とアンモニア系緩衝溶液を使用したクロノポテンシオメトリー(CP)法の測定結果を示す図である。 酸化皮膜が形成されたSn板についての1MのNHCl溶液と0.5Mアンモニア系緩衝溶液中におけるリニアスイープボルタモグラムである。 180℃で酸化皮膜形成処理したSnめっき銅板についての1MのNHCl溶液中におけるリニアスイープボルタモグラムである。 180℃で加熱処理したSnめっき銅板についての0.5Mアンモニア系緩衝溶液中におけるリニアスイープボルタモグラムである。 酸化皮膜が形成されたSn板についてのホウ酸系の緩衝溶液とアンモニア系緩衝溶液中におけるリニアスイープボルタモグラムである。 フラックス塗布前のSn板についてのアンモニア系緩衝溶液中におけるサイクリックボルタモグラムである。 酸化皮膜除去率とはんだ濡れ性(ゼロクロスタイム)の関係を示す図である。
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
A.Sn酸化物の定量方法
はじめに、Sn酸化物の定量方法に関する実施例について説明する。
1.実施例
[1]実施例1
本実施例は、電解液としてNHOHとNHClを1:1のモル比で含有するアンモニア系緩衝溶液を用いたボルタンメトリー法によりSnの表面のSn酸化物を定量するものである。
1−1.アンモニア系緩衝溶液の濃度の選定
はじめに、アンモニア系緩衝溶液の適切な濃度につき検討を行った。
(1)測定方法
イ.電気化学測定セルの構成
はじめに、本実施例に用いる電気化学測定セルについて説明する。図1は、本実施例に用いる電気化学測定セルの構成を模式的に示す図である。図1の(1)は、酸加皮膜が付着したサンプルの表面を示す図であり、(2)電解還元の途中で一旦電解還元を停止している状態を示す図であり。(3)は電解還元終了直前の状態を示す図である。
図1において、10は、加熱処理されて酸化皮膜が付着したサンプルであり、11は、リニアポテンシャルスイープ途中のサンプルで、電解還元により多少酸化膜が除去されたサンプル(試験電極:負極)であり、12は酸化皮膜が除去されたサンプルであり、20はPt製の対極(正極)であり、21はAg/AgCl極(参照電極)であり、30はポテンショスタット/ガルバノスタットであり、41は開状態のスイッチであり、42は閉状態のスイッチであり、50は電解液容器であり、60はアンモニア系緩衝溶液(電解液)である。
ロ.濃度選定試験において使用したアンモニア系緩衝溶液の濃度
NHOHとNHClの濃度がそれぞれ0.1M、0.3M、0.5M、1.0M、2.0M及び4.0Mの6種類の濃度のアンモニア系緩衝溶液を用いた。
ハ.試験用のサンプル(試験電極)
Sn板を180℃で4h(時間)加熱し、次いで85℃、相対湿度85%で24h加熱処理(以下、この加熱処理の条件を「標準加熱条件」ともいう)して表面に皮膜状のSn酸化物を形成させた。
ニ.ボルタンメトリー法による測定
ボルタンメトリー法としてリニアポテンシャルスイープ法を用いた。具体的には、前記6種類の濃度のアンモニア系緩衝溶液のそれぞれに前記のサンプルを浸漬し、試験電極の電位を浸漬電位(サンプルを電解液に浸漬させた際の電位)から10mV/secの速度で水素発生電位までスイープさせ、電流を測定した。
(2)測定結果
測定結果を図2に示す。図2に示すように、0.5M以上の濃度のアンモニア系緩衝溶液を用いた例の場合、−1200mV付近と−1450mV付近に還元ピークが観測された。−1200mV付近の還元ピークは、SnOの還元反応に対応する還元ピークである。なお、このピークがSnOの還元反応を示していることはX線回折による評価で確認されている。また、−1450mV付近の還元ピークは、SnOの還元反応に対応する還元ピークである。
このように、0.5M以上の濃度のアンモニア系緩衝溶液を用いた場合、SnOとSnOの還元反応に対応する還元ピークを確実に観測することができる。そして、それぞれの還元ピークの面積から還元反応に要した電気量を求め、求めた電気量に基づいてSnOとSnOを定量することができることが分かった。
一方、0.3M以下のモル濃度ではSnOの還元のピークの形状が不明確であり、SnOとSnOとが存在するSnの酸化状態別の分析に適さないことが分かる。また、図2より、アンモニア系緩衝溶液の濃度が0.5Mより大きい場合、水素発生の影響が強くなる(SnOの還元反応と同時に水素が発生するため、SnOの還元に対応する還元電流に水素発生反応による還元電流が重畳されてベースラインが左下がりとなる)ためピークの面積を、即ち電気量を求め難くなる。このため、測定には約0.5Mの濃度が適当であることが分かった。
1−2.表面の酸化状態が異なるサンプルを用いた実験
次に、電解液に0.5Mのアンモニア系緩衝溶液を用い、表面の酸化状態が異なるサンプルを用いて前記したリニアポテンシャルスイープ法による測定を行なった。以下、この実験について説明する。
イ.サンプルの作製
Sn板を180℃で4h加熱し、次いで85℃、相対湿度85%で2h、4h、6h、8h、16h加熱処理して表面に皮膜状の酸化物を形成させた5種類のサンプルを作製した。
ロ.測定方法
前記、アンモニア系緩衝溶液の濃度を0.5Mに固定し、1−1に記載した測定方法と
同じ測定方法により測定した。
ハ.測定結果
図3に上記5種類のサンプルの測定結果を示す。また、前記した標準加熱条件で加熱処理されたサンプルの測定結果も併せて示す。図3に示すように、本実験では、いずれの試料も−1200mV付近に還元ピークが観測され、また、2h、4h以外の試料では−1450mv付近にも還元ピークが観測された。
また、−1200mV付近のピークは、85℃、相対湿度85%において4h以上加熱した試料ではほぼ同じであるのに対して、−1450mV付近のピークは加熱時間の増加と共に大きくなっている。これより、高湿度の状態ではSnOが選択的に増加することが分かる。このように、本実施の形態によれば、各サンプルの表面の酸化状態を反映した測定結果が得られることが確認された。なお、ボルタンメトリー法の場合は、測定結果が還元ピークとして表されるため後記のCP法に比べて視覚的に分かり易い。
1−3.還元ピークのピーク面積を求める手順
前記したように水素発生反応の影響のため、図2や図3に示した測定結果から直接にSnOの還元ピークのピーク面積を精度良く求めることは難しい。本実施の形態では、以下に示す手順により水素発生反応の影響を除去することによりSnOの還元ピークのピーク面積を精度良く求める。以下、その内容について、図4を参照しつつ説明する。
イ.手順1
図4は、リニアスイープボルタモグラムからSnOおよびSnOを定量する手順を説明する図である。まず、前記した測定条件において1回目の測定を行う。即ち、サンプルの電位を浸漬電位から10mV/secの速度で水素発生電位までスイープさせ、電流を測定する。1回目の測定ではSn酸化物の還元反応に対応する還元電流と水素発生反応に対応する還元電流の合計値が測定される。測定結果を図4の上段に示す。
ロ.手順2
1回目の測定が終了したサンプル(1回目の測定により表面のSnOとSnOが還元除去されたサンプル)の電位を1回目の測定の浸漬電位まで戻し、再び1回目の測定同様に水素発生電位までスイープさせ、電流を測定する。2回目の測定では水素発生反応に対応する還元電流のみが測定される。測定結果を図4の中段の図に示す。
ハ.手順3
1回目の測定結果から2回目の測定結果を差引く。結果を下段に示す。下段は、水素発生反応の影響による測定誤差を除去した差分(のデータ)を示す図である。下段に示すように、SnOの還元ピーク部分のベースラインが平坦に近づくため、ピークの面積が求め易くなっていることが分かる。以上の手順によりSn酸化物を精度良く定量することができる。
[2]実施例2
本実施例は、電解液として0.5Mアンモニア系緩衝溶液を用いて、CP法によりSn板表面のSn酸化物を定量するSn酸化物定量方法に関する。
(1)サンプルおよび測定法
イ.サンプル
実施例1における標準加熱条件で加熱処理をしたSn板をサンプルに用いた。
ロ.測定法
CP法により一定電流で電解還元を行ったときの電位の時間的変化を測定した。具体的には、電流密度1mA/cmで定電流にて電解還元を行い、その間の電位を測定した。
(2)測定結果
図5は、標準加熱条件で加熱処理されたSn板のホウ酸系の緩衝溶液とアンモニア系緩衝溶液を使用したCP法による測定結果を示す図であり、本実施例の測定結果を図5の下段に示す。電解液にアンモニア系緩衝溶液を用いた場合、図5の下段に示すように、SnOとSnOの還元反応に対応する平坦部が観測された。このように、CP法を用いて電解還元を行った場合にもボルタンメトリー法を用いた場合と同様、アンモニア系緩衝溶液を用いることによりSnOとSnOの2種類のSn酸化物を精度良く定量できることが分かった。
2.比較例
比較のため、電解液としてNHCl溶液とホウ酸系の緩衝溶液を用いたSn酸化物の電解還元によるSn酸化物の定量法についても試験を行った。以下、それぞれの試験方法および試験結果を説明する。
[1]比較例1
比較例1は、電解液にNHCl溶液を用い、ボルタンメトリー法で測定を行った例である。
イ.測定法
a.サンプル
サンプルには上記の実施例における標準加熱条件で加熱処理されたサンプルおよびSnめっきCu板を180℃で2h、4h、6h、8h加熱処理したサンプルを用いた。
b.電解液
1MのNHCl溶液(pH4.9)を用いた。
c.測定法
リニアスイープボルタンメトリー法により測定を行った。具体的には実施例と同様にサンプル(試験電極)の電位を浸漬電位(0V)から10mV/secの速度で水素発生電位までスイープさせ、電流を測定した。
ロ.測定結果
a.標準加熱条件で加熱処理したサンプルの測定結果
図6は、標準加熱条件で加熱処理されたSn板の1MのNHCl溶液と0.5Mアンモニア系緩衝溶液中におけるリニアスイープボルタモグラムである。1MのNHCl溶液を用いた場合の測定結果を、図6の上段に示す。また、0.5Mアンモニア系緩衝溶液(pH9.4)を用いた本発明の測定結果を比較のため図6の下段に示す。
図6の上段より、1MのNHCl溶液でもSnOとSnOの還元反応に対応する還元ピークが分離して現れ、NH イオンとして1M程度の濃度があれば、SnOとSnOを分離して測定することが可能であることが分かる。しかし、1MのNHCl溶液は、下段に示した本発明のアンモニア系緩衝溶液に比べて水素発生の影響を受け易いことが分かる。
b.SnめっきCu板を180℃で加熱処理したサンプルの測定結果
測定結果を図7に示す。また、同じ熱履歴のCu板、即ちSnOの成長挙動が図7の測定に用いたサンプルと同じサンプルについて本発明のアンモニア系緩衝溶液を用いた場合の測定結果を比較のため図8に示す。
図7に示すように1MのNHCl溶液を用いた場合でもSnOの還元反応に対応する還元ピークが観測される。また、SnOの還元ピークの右側にCu−Sn合金の複合酸化物の還元反応に対応すると思われる2つのピークが観測されるが、図7と図8の還元ピークの挙動に差が認められる。即ち、図7の場合は、2h加熱したサンプルのSnOの還元ピークの右隣の還元ピークを除くと図8に示す2つの還元ピークに比べてピーク強度が小さいことが分かる。これは、若干酸性の1MのNHCl溶液中では測定前にCu−Sn合金の複合酸化物が溶解したためと考えられる。このように、アンモニア系緩衝溶液を用いた場合には、より正確に測定を行なうことができる。なお、図7、図8の測定に用いたサンプルはSnOが生成しない条件で熱処理されているため、SnOの還元ピークは観測されていない。
以上より、SnOとSnOの評価に限定すれば、1MのNHCl液の使用も可能であるが、アンモニア系緩衝溶液に比べて水素発生反応の影響を受け易い欠点がある。また、SnめっきCu板を測定対象とする場合は、必要な情報を充分に得られない恐れがあることが分かった。
[2]比較例2
比較例2は、電解液としてホウ酸系の緩衝溶液を用い、ボルタンメトリー法およびCP法にてSn酸化物の定量を行った例である。
イ.測定法
a.サンプル
サンプルには標準加熱条件で加熱処理されたサンプルを用いた。
b.電解液
ホウ酸系の緩衝溶液、具体的には、0.1MHBO+0.025MNa溶液を用いた。
c.測定法
c−1.ボルタンメトリー法
リニアポテンシャルスイープ法により実施例1と同じ測定条件で測定した。
c−2.CP法
CP法により実施例2と同じ測定条件で測定した。
ロ.測定結果
a.ボルタンメトリー法による測定結果
図9の上段にボルタンメトリー法による測定結果を示す。また、本発明の0.5Mアンモニア系緩衝溶液を用いた場合の測定結果を比較のため図9の下段に併せて示す。ホウ酸系の緩衝溶液を用いた場合、図9の上段に示すように、SnO、SnO共にこれらの還元反応に対応する明確な還元ピークが観測されなかった。一方、アンモニア系緩衝溶液を用いた場合には、SnO、SnO共に明確な還元ピークが観察された。
b.CP法による測定結果
実施例2において用いた図5の上段に本比較例のCP法による測定結果を示す。また、図5の下段は、前記のように0.5Mアンモニア系緩衝溶液を用いた場合の測定結果である。図5の上段に示すように、CP法の場合、SnOとSnOの分離ができていない。特に、SnOの挙動が分かり難く、測定が困難であることが分かる。なお、CP法では電流密度として20μA/cmが推奨されているが、このように小さい電流密度では、酸化皮膜の量によっては計測に数時間かかり、また不活性ガスによる溶存酸素の除去が不可欠であるため好ましくない。以上より、ホウ酸系の緩衝溶液を用いたCP法によるSn酸化物の定量は困難であることが確認された。
B.フラックスの評価方法
次に、アンモニア系緩衝溶液を適用したボルタンメトリー法を用いたフラックスの評価試験について説明する。本実施例は、2種類のサンプルに各々4種類のフラックスを塗布後、はんだ付けと同じ温度に加熱したときのフラックスによるSnの酸化物除去能力を測定すると共に、メニスコグラフ法にて加熱後のサンプルのはんだ濡れ性の評価を行なった例である。
(1)サンプル表面のSn酸化物の定量方法
イ.フラックス塗布前サンプルの測定
a.試験用サンプルの作製
はじめに、2種類のサンプル、サンプルA、サンプルBを幅10mm、長さ25mmに裁断した試験用サンプルをそれぞれ3個作製した。
b.ボルタンメトリー法によるサンプル表面のSn酸化物の定量
次いで、作製したサンプルA、サンプルBそれぞれ3個のサンプル表面の初期酸化物量を、前記の実施例1において良好な測定結果が得られた0.5Mのアンモニア系緩衝溶液を用いたボルタンメトリー法によって測定した。なお、測定にはサイクリックボルタンメトリー法を用いて前記した手順の1回目の測定と2回目の測定を連続して測定し、水素発生反応の影響による測定誤差を除去した測定結果を得た。測定結果を、図10に示す。図10の(a)は、サンプルAの測定結果を示す図であり、(b)はサンプルBの測定結果を示す図である。サンプルAに関しては、(a)に示すように3個のサンプルのいずれにも1450mV辺りと1200mV辺りに2本の還元ピークが観測され、サンプルBに関しては、(b)に示すように3個のサンプルのいずれにも1450mV辺りに1本の還元ピークが観測された。サンプルA、サンプルBのそれぞれのサンプルについてピークの面積に基づいて求められる電気量から、Sn酸化物の合計量を求めた。
ロ.フラックス塗布・加熱後のサンプルの測定
次いで、別途作製したサンプルAとサンプルBの表面に、各々評価対象の4種類のフラックス、フラックス1〜4を所定量付着させてはんだ付け温度である260℃まで加熱し、その後フラックスを洗浄により除去し、この状態で評価試験用の試料に付着している酸化物の量を前記と同様にサイクリックボルタンメトリー法によって測定し、Sn酸化物の合計量を求めた。
(2)Sn酸化物の定量結果
フラックス塗布前およびフラックス塗布・加熱後におけるサンプルAとサンプルBのSn酸化物の定量結果をそれぞれ表1と表2に示す。なお、表中のmCは電気量の単位ミリクーロンである。
Figure 0005235810
Figure 0005235810
試験の結果、フラックス1〜フラックス4のそれぞれについてサンプルA、サンプルBのそれぞれのサンプルに対する酸化物除去能力が表1、表2に示す酸化物除去率として定量的に評価された。
(3)はんだ濡れ性の試験
イ.試験方法
フラックス1〜フラックス4を塗布・加熱したサンプルAとサンプルBのはんだ濡れ性を、メニスコグラフ試験機を用いJIS Z3198−4に準じて試験した。
なお、サンプルAとサンプルBの浸漬は、高さ方向とした。
また、試験条件は以下の通りである。
メニスコグラフ試験機:レスカ社製SAT−5100
浸漬速度:5mm/sec
浸漬深さ:2mm
浸漬時間:10sec
試験温度:260℃
使用したはんだ:千住金属工業社製M705
以上の条件でメニスコグラフ試験を行い、ゼロクロスタイムを用いて濡れ性を評価した。
ロ.試験結果
試験結果を、図11に示す。図11は、メニスコグラフ試験機を用いて測定されたはんだ濡れ性とボルタンメトリー法により測定した酸化物除去率の関係を示す図である。図11の横軸は表1および表2に示した各フラックスによる酸化物の除去率であり、縦軸はゼロクロスタイム(浸漬から反力が0となるまでの時間)(s)である。また、◆はサンプルAであり、□はサンプルBである。図11から、酸化物の除去率が大きいほどゼロクロスタイムが小さく、はんだ濡れ性が良好であり、酸化物の除去率とはんだ濡れ性との関係は理論と良く対応しており、フラックスの評価が正しく行われていることが分かる。この結果アンモニア系緩衝容液を適用したボルタンメトリー法やCP法によるSn酸化物の定量法を用いて酸化物除去率を測定することによってフラックスを評価できることが分かる。
以上の通り本実施例のアンモニア系緩衝溶液を用いたボルタンメトリー法による酸化物の定量法はフラックスの評価方法として有効な方法であることが確認された。また、アンモニア系緩衝溶液を用いたCP法も有効な方法である。なお、幾種類かのフラックスの優劣を評価する場合には、酸化皮膜の形成状態が同一のサンプルに評価対象の各フラックスを実際のはんだ付けを基準に塗布し、加熱し、その後フラックスを拭取った各サンプルを、アンモニア系緩衝溶液を用いたボルタンメトリー法またはCP法で完全に還元し、各フラックスのSn酸化物除去率を求めることによりなされる。
10 酸化皮膜が付着したサンプル
11 多少酸化膜が除去されたサンプル
12 酸化皮膜が除去されたサンプル
20 Pt電極
21 Ag/AgCl極
30 ポテンショスタット/ガルバノスタット
41 閉の状態のスイッチ
42 開の状態のスイッチ
50 電解液容器
60 アンモニア系緩衝溶液

Claims (3)

  1. Sn酸化物が表面に形成されたSn系めっき材を、所定のアンモニア系緩衝液に浸漬し、クロノポテンショメトリー法またはボルタンメトリー法を用いてSn酸化物の電解還元処理を行い、還元電位および還元に要した電気量からSn酸化物の定量を行うことを特徴とするSn酸化物の定量方法。
  2. 請求項1に記載のSn酸化物の定量方法を2回繰り返し、第1回目の定量結果と第2回目の定量結果から、差分データを作成し、前記差分データに基づいて前記Sn酸化物の還元量を求めることを特徴とするSn酸化物の定量方法。
  3. Sn酸化物が表面に形成されたSn系めっき材におけるSn酸化物を定量する第1の定量工程と、
    前記めっき材にフラックスを塗布した後にはんだ付け温度まで加熱する加熱工程と、
    加熱後の前記めっき材におけるSn酸化物を定量する第2の定量工程と、
    前記第1の定量工程で得られたSn酸化物量に対する前記第2の定量工程で得られたSn酸化物量の減少率を求めて、前記フラックスの活性力を評価する評価工程と
    を有しており、
    前記第1の定量工程および前記第2の定量工程が、請求項1または請求項2に記載のSn酸化物の定量方法による定量である
    ことを特徴とするフラックスの評価方法。
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