JP5235810B2 - Sn酸化物の定量方法およびフラックスの評価方法 - Google Patents
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Sn酸化物が表面に形成されたSn系めっき材を、所定のアンモニア系緩衝液に浸漬し、クロノポテンショメトリー法またはボルタンメトリー法を用いてSn酸化物の電解還元処理を行い、還元電位および還元に要した電気量からSn酸化物の定量を行うことを特徴とするSn酸化物の定量方法である。
請求項1に記載のSn酸化物の定量方法を2回繰り返し、第1回目の定量結果と第2回目の定量結果から、差分データを作成し、前記差分データに基づいて前記Sn酸化物の還元量を求めることを特徴とするSn酸化物の定量方法である。
Sn酸化物が表面に形成されたSn系めっき材におけるSn酸化物を定量する第1の定量工程と、
前記めっき材にフラックスを塗布した後にはんだ付け温度まで加熱する加熱工程と、
加熱後の前記めっき材におけるSn酸化物を定量する第2の定量工程と、
前記第1の定量工程で得られたSn酸化物量に対する前記第2の定量工程で得られたSn酸化物量の減少率を求めて、前記フラックスの活性力を評価する評価工程と
を有しており、
前記第1の定量工程および前記第2の定量工程が、請求項1または請求項2に記載のSn酸化物の定量方法による定量である
ことを特徴とするフラックスの評価方法である。
はじめに、Sn酸化物の定量方法に関する実施例について説明する。
[1]実施例1
本実施例は、電解液としてNH4OHとNH4Clを1:1のモル比で含有するアンモニア系緩衝溶液を用いたボルタンメトリー法によりSnの表面のSn酸化物を定量するものである。
はじめに、アンモニア系緩衝溶液の適切な濃度につき検討を行った。
イ.電気化学測定セルの構成
はじめに、本実施例に用いる電気化学測定セルについて説明する。図1は、本実施例に用いる電気化学測定セルの構成を模式的に示す図である。図1の(1)は、酸加皮膜が付着したサンプルの表面を示す図であり、(2)電解還元の途中で一旦電解還元を停止している状態を示す図であり。(3)は電解還元終了直前の状態を示す図である。
NH4OHとNH4Clの濃度がそれぞれ0.1M、0.3M、0.5M、1.0M、2.0M及び4.0Mの6種類の濃度のアンモニア系緩衝溶液を用いた。
ハ.試験用のサンプル(試験電極)
Sn板を180℃で4h(時間)加熱し、次いで85℃、相対湿度85%で24h加熱処理(以下、この加熱処理の条件を「標準加熱条件」ともいう)して表面に皮膜状のSn酸化物を形成させた。
ボルタンメトリー法としてリニアポテンシャルスイープ法を用いた。具体的には、前記6種類の濃度のアンモニア系緩衝溶液のそれぞれに前記のサンプルを浸漬し、試験電極の電位を浸漬電位(サンプルを電解液に浸漬させた際の電位)から10mV/secの速度で水素発生電位までスイープさせ、電流を測定した。
測定結果を図2に示す。図2に示すように、0.5M以上の濃度のアンモニア系緩衝溶液を用いた例の場合、−1200mV付近と−1450mV付近に還元ピークが観測された。−1200mV付近の還元ピークは、SnOの還元反応に対応する還元ピークである。なお、このピークがSnOの還元反応を示していることはX線回折による評価で確認されている。また、−1450mV付近の還元ピークは、SnO2の還元反応に対応する還元ピークである。
次に、電解液に0.5Mのアンモニア系緩衝溶液を用い、表面の酸化状態が異なるサンプルを用いて前記したリニアポテンシャルスイープ法による測定を行なった。以下、この実験について説明する。
Sn板を180℃で4h加熱し、次いで85℃、相対湿度85%で2h、4h、6h、8h、16h加熱処理して表面に皮膜状の酸化物を形成させた5種類のサンプルを作製した。
前記、アンモニア系緩衝溶液の濃度を0.5Mに固定し、1−1に記載した測定方法と
同じ測定方法により測定した。
図3に上記5種類のサンプルの測定結果を示す。また、前記した標準加熱条件で加熱処理されたサンプルの測定結果も併せて示す。図3に示すように、本実験では、いずれの試料も−1200mV付近に還元ピークが観測され、また、2h、4h以外の試料では−1450mv付近にも還元ピークが観測された。
前記したように水素発生反応の影響のため、図2や図3に示した測定結果から直接にSnO2の還元ピークのピーク面積を精度良く求めることは難しい。本実施の形態では、以下に示す手順により水素発生反応の影響を除去することによりSnO2の還元ピークのピーク面積を精度良く求める。以下、その内容について、図4を参照しつつ説明する。
図4は、リニアスイープボルタモグラムからSnOおよびSnO2を定量する手順を説明する図である。まず、前記した測定条件において1回目の測定を行う。即ち、サンプルの電位を浸漬電位から10mV/secの速度で水素発生電位までスイープさせ、電流を測定する。1回目の測定ではSn酸化物の還元反応に対応する還元電流と水素発生反応に対応する還元電流の合計値が測定される。測定結果を図4の上段に示す。
1回目の測定が終了したサンプル(1回目の測定により表面のSnOとSnO2が還元除去されたサンプル)の電位を1回目の測定の浸漬電位まで戻し、再び1回目の測定同様に水素発生電位までスイープさせ、電流を測定する。2回目の測定では水素発生反応に対応する還元電流のみが測定される。測定結果を図4の中段の図に示す。
1回目の測定結果から2回目の測定結果を差引く。結果を下段に示す。下段は、水素発生反応の影響による測定誤差を除去した差分(のデータ)を示す図である。下段に示すように、SnO2の還元ピーク部分のベースラインが平坦に近づくため、ピークの面積が求め易くなっていることが分かる。以上の手順によりSn酸化物を精度良く定量することができる。
本実施例は、電解液として0.5Mアンモニア系緩衝溶液を用いて、CP法によりSn板表面のSn酸化物を定量するSn酸化物定量方法に関する。
イ.サンプル
実施例1における標準加熱条件で加熱処理をしたSn板をサンプルに用いた。
ロ.測定法
CP法により一定電流で電解還元を行ったときの電位の時間的変化を測定した。具体的には、電流密度1mA/cm2で定電流にて電解還元を行い、その間の電位を測定した。
図5は、標準加熱条件で加熱処理されたSn板のホウ酸系の緩衝溶液とアンモニア系緩衝溶液を使用したCP法による測定結果を示す図であり、本実施例の測定結果を図5の下段に示す。電解液にアンモニア系緩衝溶液を用いた場合、図5の下段に示すように、SnOとSnO2の還元反応に対応する平坦部が観測された。このように、CP法を用いて電解還元を行った場合にもボルタンメトリー法を用いた場合と同様、アンモニア系緩衝溶液を用いることによりSnOとSnO2の2種類のSn酸化物を精度良く定量できることが分かった。
比較のため、電解液としてNH4Cl溶液とホウ酸系の緩衝溶液を用いたSn酸化物の電解還元によるSn酸化物の定量法についても試験を行った。以下、それぞれの試験方法および試験結果を説明する。
比較例1は、電解液にNH4Cl溶液を用い、ボルタンメトリー法で測定を行った例である。
a.サンプル
サンプルには上記の実施例における標準加熱条件で加熱処理されたサンプルおよびSnめっきCu板を180℃で2h、4h、6h、8h加熱処理したサンプルを用いた。
b.電解液
1MのNH4Cl溶液(pH4.9)を用いた。
c.測定法
リニアスイープボルタンメトリー法により測定を行った。具体的には実施例と同様にサンプル(試験電極)の電位を浸漬電位(0V)から10mV/secの速度で水素発生電位までスイープさせ、電流を測定した。
a.標準加熱条件で加熱処理したサンプルの測定結果
図6は、標準加熱条件で加熱処理されたSn板の1MのNH4Cl溶液と0.5Mアンモニア系緩衝溶液中におけるリニアスイープボルタモグラムである。1MのNH4Cl溶液を用いた場合の測定結果を、図6の上段に示す。また、0.5Mアンモニア系緩衝溶液(pH9.4)を用いた本発明の測定結果を比較のため図6の下段に示す。
測定結果を図7に示す。また、同じ熱履歴のCu板、即ちSnOの成長挙動が図7の測定に用いたサンプルと同じサンプルについて本発明のアンモニア系緩衝溶液を用いた場合の測定結果を比較のため図8に示す。
比較例2は、電解液としてホウ酸系の緩衝溶液を用い、ボルタンメトリー法およびCP法にてSn酸化物の定量を行った例である。
a.サンプル
サンプルには標準加熱条件で加熱処理されたサンプルを用いた。
b.電解液
ホウ酸系の緩衝溶液、具体的には、0.1MH3BO3+0.025MNa2B4O7溶液を用いた。
c.測定法
c−1.ボルタンメトリー法
リニアポテンシャルスイープ法により実施例1と同じ測定条件で測定した。
c−2.CP法
CP法により実施例2と同じ測定条件で測定した。
a.ボルタンメトリー法による測定結果
図9の上段にボルタンメトリー法による測定結果を示す。また、本発明の0.5Mアンモニア系緩衝溶液を用いた場合の測定結果を比較のため図9の下段に併せて示す。ホウ酸系の緩衝溶液を用いた場合、図9の上段に示すように、SnO、SnO2共にこれらの還元反応に対応する明確な還元ピークが観測されなかった。一方、アンモニア系緩衝溶液を用いた場合には、SnO、SnO2共に明確な還元ピークが観察された。
実施例2において用いた図5の上段に本比較例のCP法による測定結果を示す。また、図5の下段は、前記のように0.5Mアンモニア系緩衝溶液を用いた場合の測定結果である。図5の上段に示すように、CP法の場合、SnOとSnO2の分離ができていない。特に、SnO2の挙動が分かり難く、測定が困難であることが分かる。なお、CP法では電流密度として20μA/cm2が推奨されているが、このように小さい電流密度では、酸化皮膜の量によっては計測に数時間かかり、また不活性ガスによる溶存酸素の除去が不可欠であるため好ましくない。以上より、ホウ酸系の緩衝溶液を用いたCP法によるSn酸化物の定量は困難であることが確認された。
次に、アンモニア系緩衝溶液を適用したボルタンメトリー法を用いたフラックスの評価試験について説明する。本実施例は、2種類のサンプルに各々4種類のフラックスを塗布後、はんだ付けと同じ温度に加熱したときのフラックスによるSnの酸化物除去能力を測定すると共に、メニスコグラフ法にて加熱後のサンプルのはんだ濡れ性の評価を行なった例である。
イ.フラックス塗布前サンプルの測定
a.試験用サンプルの作製
はじめに、2種類のサンプル、サンプルA、サンプルBを幅10mm、長さ25mmに裁断した試験用サンプルをそれぞれ3個作製した。
次いで、作製したサンプルA、サンプルBそれぞれ3個のサンプル表面の初期酸化物量を、前記の実施例1において良好な測定結果が得られた0.5Mのアンモニア系緩衝溶液を用いたボルタンメトリー法によって測定した。なお、測定にはサイクリックボルタンメトリー法を用いて前記した手順の1回目の測定と2回目の測定を連続して測定し、水素発生反応の影響による測定誤差を除去した測定結果を得た。測定結果を、図10に示す。図10の(a)は、サンプルAの測定結果を示す図であり、(b)はサンプルBの測定結果を示す図である。サンプルAに関しては、(a)に示すように3個のサンプルのいずれにも1450mV辺りと1200mV辺りに2本の還元ピークが観測され、サンプルBに関しては、(b)に示すように3個のサンプルのいずれにも1450mV辺りに1本の還元ピークが観測された。サンプルA、サンプルBのそれぞれのサンプルについてピークの面積に基づいて求められる電気量から、Sn酸化物の合計量を求めた。
次いで、別途作製したサンプルAとサンプルBの表面に、各々評価対象の4種類のフラックス、フラックス1〜4を所定量付着させてはんだ付け温度である260℃まで加熱し、その後フラックスを洗浄により除去し、この状態で評価試験用の試料に付着している酸化物の量を前記と同様にサイクリックボルタンメトリー法によって測定し、Sn酸化物の合計量を求めた。
フラックス塗布前およびフラックス塗布・加熱後におけるサンプルAとサンプルBのSn酸化物の定量結果をそれぞれ表1と表2に示す。なお、表中のmCは電気量の単位ミリクーロンである。
イ.試験方法
フラックス1〜フラックス4を塗布・加熱したサンプルAとサンプルBのはんだ濡れ性を、メニスコグラフ試験機を用いJIS Z3198−4に準じて試験した。
また、試験条件は以下の通りである。
メニスコグラフ試験機:レスカ社製SAT−5100
浸漬速度:5mm/sec
浸漬深さ:2mm
浸漬時間:10sec
試験温度:260℃
使用したはんだ:千住金属工業社製M705
試験結果を、図11に示す。図11は、メニスコグラフ試験機を用いて測定されたはんだ濡れ性とボルタンメトリー法により測定した酸化物除去率の関係を示す図である。図11の横軸は表1および表2に示した各フラックスによる酸化物の除去率であり、縦軸はゼロクロスタイム(浸漬から反力が0となるまでの時間)(s)である。また、◆はサンプルAであり、□はサンプルBである。図11から、酸化物の除去率が大きいほどゼロクロスタイムが小さく、はんだ濡れ性が良好であり、酸化物の除去率とはんだ濡れ性との関係は理論と良く対応しており、フラックスの評価が正しく行われていることが分かる。この結果アンモニア系緩衝容液を適用したボルタンメトリー法やCP法によるSn酸化物の定量法を用いて酸化物除去率を測定することによってフラックスを評価できることが分かる。
11 多少酸化膜が除去されたサンプル
12 酸化皮膜が除去されたサンプル
20 Pt電極
21 Ag/AgCl極
30 ポテンショスタット/ガルバノスタット
41 閉の状態のスイッチ
42 開の状態のスイッチ
50 電解液容器
60 アンモニア系緩衝溶液
Claims (3)
- Sn酸化物が表面に形成されたSn系めっき材を、所定のアンモニア系緩衝液に浸漬し、クロノポテンショメトリー法またはボルタンメトリー法を用いてSn酸化物の電解還元処理を行い、還元電位および還元に要した電気量からSn酸化物の定量を行うことを特徴とするSn酸化物の定量方法。
- 請求項1に記載のSn酸化物の定量方法を2回繰り返し、第1回目の定量結果と第2回目の定量結果から、差分データを作成し、前記差分データに基づいて前記Sn酸化物の還元量を求めることを特徴とするSn酸化物の定量方法。
- Sn酸化物が表面に形成されたSn系めっき材におけるSn酸化物を定量する第1の定量工程と、
前記めっき材にフラックスを塗布した後にはんだ付け温度まで加熱する加熱工程と、
加熱後の前記めっき材におけるSn酸化物を定量する第2の定量工程と、
前記第1の定量工程で得られたSn酸化物量に対する前記第2の定量工程で得られたSn酸化物量の減少率を求めて、前記フラックスの活性力を評価する評価工程と
を有しており、
前記第1の定量工程および前記第2の定量工程が、請求項1または請求項2に記載のSn酸化物の定量方法による定量である
ことを特徴とするフラックスの評価方法。
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