JP3734768B2 - 四塩化炭素含有アンモニア水を用いた銅抽出法 - Google Patents

四塩化炭素含有アンモニア水を用いた銅抽出法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、酸化鉱,一次硫化鉱,二次硫化鉱等、種々の銅鉱石から高い溶解効率で銅を選択溶解させる銅抽出法に関する。
【0002】
【従来の技術】
銅鉱石には、孔雀石(主成分はCu2CO3(OH)2),赤銅鉱(Cu2O)等の酸化鉱,黄銅鉱(CuFeS2),斑銅鉱(Cu5FeS4)等の一次硫化鉱,輝銅鉱(Cu2S),銅藍(CuS)等の二次硫化鉱に分類される。従来の銅製錬では、精鉱を溶錬して得られる粗銅を電解して銅地金にする乾式精錬が主流である。乾式製錬では、酸化鉱や硫化鉱が対象鉱にされている。
たとえば、CuFeS2を主成分とする黄銅鉱を原料にする場合、コークス,石灰石と共に黄銅鉱を強加熱すると硫化銅(I)になる。次いで、硫化銅(I)を転炉に装入し、空気を吹き込みながら反応させると粗銅が得られる。
【0003】
硫化銅(I)が粗銅になる反応は2Cu2S+3O2→2Cu2O+2SO2,2Cu2O+Cu2S→6Cu+SO2であるが、粗銅が得られるまでの過程で酸性雨の原因物質・二酸化硫黄が多量に排出される。更に、粗銅を原料とする電解精錬では多量の電力が消費される。環境に有害な排ガスの多量発生や電力の多量消費を考慮すると、従来の銅を電解精錬する方法は、環境保全や省エネルギーが重視される二十一世紀型の工業技術理念に逆行している。
環境に及ぼす影響や省エネルギーの観点から、溶錬を必要とする乾式製錬に代わる技術として溶媒抽出の一つである湿式製錬が急速に採用され始めている。銅鉱石の湿式製錬に使用される溶媒は硫酸が主流を占めているため、湿式製錬では硫酸で簡単に溶ける酸化鉱に対象鉱が限られている。硫化鉱は硫酸にほとんど溶けず、硫酸を用いた硫化鉱の湿式製錬はほとんど応用されておらず、応用する場合にも何らかの前処理が必要になる。アンモニアによる抽出も一部で採用されているが、アンモニア抽出法の対象鉱も輝銅鉱に限られる。
【0004】
硫酸やアンモニアによる抽出の対象外になっている一次硫化鉱,二次硫化鉱等の銅鉱石に対しては、バクテリアリーチングが採用されている。たとえば、鉄細菌(チオバチルス・フェルオキシダンス)を使用すると、鉱石中の硫黄が酸化されて硫酸が生成し、結果として鉱石中の銅が硫酸銅(II)として溶出する。しかし,バクテリアリーチング法は、バクテリアの活性に依存することから、抽出に長時間を要することが欠点である。
銅資源の中で、硫化鉱に比較して酸化鉱の鉱量は一般的に少なく、従来より乾式製錬で処理していた硫化鉱への湿式製錬の適用が盛んに検討されている。しかし、乾式製錬は環境調和の観点から望ましくない方法であり、硫酸,アンモニア,バクテリア等を用いた湿式製錬はそれぞれに欠点や限界がある。すなわち、従来から採用されている各種製錬法には個々に一長一短があり、酸化鉱,硫化鉱の双方に適用可能で、且つ短時間で高い抽出効率を示す製錬法の開発が望まれている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
鉱石原料から有価金属を溶出させる場合、硫酸,塩酸,硝酸等の鉱酸が従来から使用されている。しかし、鉱酸は取扱い上の危険性に留意することが欠かせず、しかも大半の金属が鉱酸と反応して溶解する際にSO2,H2,NO,NO2等の有毒ガスや可燃ガスが排出される。また、鉱酸の廃液処理に多大の負担がかかる。
鉱酸を使用することなく、鉱石原料から有価金属を溶出する方法も提案されている。たとえば、極性有機溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)に四塩化炭素を配合した混合溶媒が温和な条件下で銅粉末を溶解させることが報告されている(Y. Tezuka et al., J. Chem. Soc., Chem. Commun. (1987) p.1642)。ハロゲン−ハロゲン化物−有機溶媒の三元系混合溶媒を金,銀,銅等の各種遷移金属の溶出に使用することも知られている(Y. Nakao, J. Chem. Res., (1991) p.228, J. Chem. Soc., Chem. Commun. (1992) p.426)。三元系混合溶媒の有機溶媒にメタノールを使用すると銀が溶解しにくく、塩素−トリメチルアミン塩酸塩−アセトニトリルの三元系では金に対する溶解能が王水以上と報告されている。
【0006】
これまでの報告内容を検討するとき、ハロゲン化物及び有機溶媒が金属の溶解に重要な役割を果たしていることが判る。そこで、本発明者は、種々のハロゲン化物及び有機溶媒が金属の溶解に及ぼす影響を調査・検討した。その結果、四塩化炭素が銅の溶解に有効であり、溶出した金属銅がアンモニア水によりアンミン錯体として安定化することを見出した。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、この知見をベースに完成されたものであり、銅の溶解に四塩化炭素を、溶解した銅の錯体化及び錯体の安定化にアンモニア水を使用することにより、環境に悪影響を及ぼす有害ガスを排出することなく、銅鉱石から効率よく銅を浸出・分離することを目的とする。
【0008】
本発明の銅抽出法は、その目的を達成するため、四塩化炭素を添加したアンモニア水に銅鉱石を浸し、銅を選択溶解させることを特徴とする。銅の溶解・抽出に先立って、水素化ホウ素ナトリウムで銅鉱石を改質還元することもできる。
四塩化炭素,アンモニア水の混合溶媒は、好ましくは銅1g(15.7mモル)に対し四塩化炭素濃度:20〜30mモル,アンモニア濃度:0.18〜0.24モル(12Mアンモニア水で15〜20ml)に調製される。水素化ホウ素ナトリウムは、濃度45〜80mモルの水溶液として使用される。
【0009】
【作用】
四塩化炭素は、ハロゲン化物の中でも容易に入手でき、金属とも比較的容易に反応する。四塩化炭素を含むアンモニア水に金属銅が溶解される機構は、以下に掲げる反応に示されるように、金属銅の溶解に伴って四塩化炭素が分解し、ジクロロカルベン(:CCl2)と称される特殊な化学種が中間体として発生し、この不安定な化学種によって金属銅の溶解が促進されるものと推察される。因みに、ジクロロカルベンが生じない、或いは生じても極少量の場合、金属銅の溶解が円滑に進行しない。この点、種々あるハロゲン化炭化水素化合物の中でも、四塩化炭素やクロロホルムが最適である。
Figure 0003734768
【0010】
有望な銅資源には種々の銅鉱石があるが、主成分の大半が塩基性炭酸銅(II),酸化銅(II),硫酸銅(II)である。したがって、溶解した銅を安定化させるためには銅(II)と錯体を形成しやすく、しかも形成された錯体が安定であることが重要である。錯体形成能及び錯体の安定化から、アンモニア水が溶媒として効果的である。銅(II)イオンは、水溶液中でアンモニアと次のように反応し、アンミン錯体を形成する。ただし、K1〜K4は平衡定数であり、逐次安定度定数βとlogβn=logK1・・・・Knの関係にある。
【0011】
Figure 0003734768
平衡定数、逐次安定度定数βが大きいほど、錯体形成能が大きく、生成した錯体も安定である。銅(II)イオンも含めた代表的なアンミン錯体の安定度定数を示す表1からも明らかなように、それぞれの金属イオンの安定度定数は異なり、銅(II)イオンはコバルト(III)イオンに次いで大きい。
【0012】
Figure 0003734768
【0013】
孔雀石,赤銅鉱,黄銅鉱,斑銅鉱,輝銅鉱,銅藍等の銅鉱石に含まれている銅以外の金属成分は主として鉄である。ところが、鉄(II)イオンとアンモニアとの錯体の安定度定数は、銅(II)に比較すると大幅に小さな1/4程度である。銅(II)と鉄(II)との間で安定度定数が大きく異なることは、アンモニアを溶媒に使用するとき銅(II)イオン,鉄(II)イオンが混在する系でも銅(II)イオンが選択分離されることを意味する。
したがって、四塩化炭素含有アンモニア水を使用するとき、銅鉱石から銅を溶出させ、選択的に分離できることが判る。なお、混合溶媒の調製には、市販されている12〜15Mのアンモニア水を希釈することなくそのまま使用した。アンモニア水は、毒性がないもののアンモニア特有の刺激臭があるので、使用量は可能な限り少量が好ましい。
【0014】
四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒による金属銅の溶解機構は、次の全反応式で表される。
Figure 0003734768
当該反応式から、金属銅に対する四塩化炭素の化学量論的な物質量の比はCu/CCl4=2と理解される。しかし、実際には金属銅の溶解反応を円滑に進行させるため、Cu/CCl4のモル比を変化させることもできる。
四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒に銅を溶解させるに先立って、水素化ホウ素ナトリウムで銅鉱石を前処理すると、銅の溶解反応が促進され、高い銅溶解率が短時間で得られる。銅溶解反応の促進は、銅鉱石中の硫化銅や塩基性炭酸銅等が四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒に溶出しやすい金属銅や酸化銅(I)に還元される結果である。前処理の効果は、水素化ホウ素ナトリウムの濃度45mモル以上で顕著になる。
【0015】
【実施例1:基礎実験】
アンモニア水を主溶媒にしたハロゲン化物含有アンモニア水の金属銅に対する溶解能を比較するため、種々のハロゲン化物をアンモニア水に添加し、ハロゲン化物の種類が銅の溶解率に及ぼす影響を調査した。使用したハロゲン化物は、次の9種類である。
Figure 0003734768
【0016】
粉砕した金属銅粉末をハロゲン化物含有アンモニア水に浸し、アンモニア水の濃度(12M),使用量(50ml),粉末金属銅の使用量(2.54g,40mモル),反応時間(3時間),反応温度(30℃),ハロゲン化物添加量(20mモル)が一定の条件下で銅を溶解させた。反応後に溶液中のCu2+を定量し、溶解率(%)={(反応液中のCu2+のモル数)/(出発金属銅のモル数)}×100として銅の溶解率を算出した。
銅溶解率は、表2の試験結果にみられるようにアンモニア水単独の場合に約15%であったが、ハロゲン化物の添加によって上昇した。なかでも、四塩化炭素を添加したアンモニア水で溶解させた場合に最も高い銅溶解率が得られ、銅の溶解が促進されたことが理解される。具体的には、アンモニア水のモル数に対して1/30、銅のモル数に対して1/2の四塩化炭素を添加することにより、アンモニア水単独の場合に比較して6倍以上の銅溶解率(95%)が得られた。
【0017】
Figure 0003734768
【0018】
次いで、四塩化炭素含有アンモニア水に銅を溶解させる場合の温度依存性を調査した。本試験では、アンモニア濃度を12M,四塩化炭素濃度を20.7mモルに調製した四塩化炭素含有アンモニア水を使用し、40mモルの金属銅粉末を四塩化炭素含有アンモニア水の3時間浸した。図1の試験結果にみられるように、銅溶解率は室温近傍の温度で最高値を示し、温度上昇に従って減少した。
更に、四塩化炭素含有アンモニア水に亜鉛,銀,錫,鉛,鉄を浸し、前掲した銅溶解の場合と同じ条件下で個々の金属の溶解させ、溶解率を測定した。測定結果を銅溶解率と比較して表3に示す。表3から明らかなように、Znの溶解率は約60%と銅の溶解率に次いで高いが、銀,錫はほとんど溶解せず、鉛,鉄は全く溶解しなかった。この対比から、四塩化炭素含有アンモニア水は、銅に対して高い選択溶解能を示すことが確認できる。
【0019】
Figure 0003734768
【0020】
更に、四塩化炭素含有アンモニア水の銅溶解能を塩酸,硫酸,硝酸等の鉱酸と比較した。本試験では、アンモニア,鉱酸の濃度を1〜12Mの範囲で変化させた抽出液を30℃に維持し、90mモルの金属銅粉末を3時間浸漬した。なお、四塩化炭素含有アンモニア水を抽出液に使用する場合には、アンモニア濃度に応じて四塩化炭素を増加し、アンモニア濃度12Mのときに四塩化炭素濃度を45mモルに調製した。表4の調査結果にみられるように、四塩化炭素含有アンモニア水の銅溶解能は、12Mの高濃度では同じ濃度の硝酸に匹敵し、1Mの低濃度では同じ濃度の全ての鉱酸より遥かに高い銅溶解能を示した。
【0021】
Figure 0003734768
【0022】
以上の結果から、四塩化炭素含有アンモニア水は既存の鉱酸に匹敵し、或いは凌駕する銅溶解能を示し、銅溶解の選択性も高いことが判る。すなわち、四塩化炭素含有アンモニア水は、銅鉱石から銅を抽出する溶媒として使用できる。
【0023】
【実施例2:二次硫化鉱の溶解試験】
天然の銅鉱石は酸化鉱,一次硫化鉱,二次硫化鉱に分類される。そこで、二次硫化鉱の主成分に相当し、市販試薬として入手容易な硫化銅(II)を用い、実施例1の金属銅粉末の溶解と同じ条件下で四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒に硫化銅(II)を溶解させた。その結果、30℃の四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒に硫化銅(II)を1時間浸したところ、銅溶解率は約25%であった。
硫化銅(II)の溶解率に及ぼす四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒の温度の影響を調査したところ、反応温度が高くなるほど硫化銅(II)の溶解率が減少する傾向が示された(表5)。
【0024】
Figure 0003734768
【0025】
反応温度を変化させても硫化銅(II)の溶解率が大きく増加しないため、四塩化炭素の添加量が銅溶解率に及ぼす影響を調査した。銅溶解率は、硫化銅(II)の物質量に対して過剰量の四塩化炭素を添加することにより増加した(表6)。
【0026】
Figure 0003734768
【0027】
四塩化炭素の密度は1.59g/mlとアンモニア水の密度に比較して大きく、アンモニア水及び四塩化炭素が互いに相溶性がないことから、あまりに過剰量の四塩化炭素を添加すると四塩化炭素含有アンモニア水が相分離し、却って銅溶解反応を妨げる虞がある。そこで、四塩化炭素の物質量を硫化銅(II)の物質量に対して2倍に設定し、反応時間の影響を再度調査した。その結果、12時間の反応で、硫化銅(II)の溶解率を約86%に向上できた(表7)。
【0028】
Figure 0003734768
【0029】
【実施例3:水素化ホウ素ナトリウムによる前処理】
実施例1,2の結果から一次硫化鉱,二次硫化鉱の主成分に相当する硫化銅(II)は、四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒を用い、四塩化炭素の物質量又は反応時間等の反応条件を選択するとき、約30〜85%の収率で銅を溶解できることが判った。しかし、四塩化炭素の過剰添加は、未反応の四塩化炭素が反応後の抽出液に残存する原因であり、環境保全上であまり望ましくない。また、長い反応時間を要することは、生産性,省エネルギーの面からも改善の余地がある。
【0030】
そこで、四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒による銅の溶解に先立つ銅鉱石の化学処理を検討した。四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒は、金属銅に対し十分な溶解能を呈すが、硫化銅(II)に対しては十分な溶解能が発現されない。金属銅,硫化銅(II)で溶解能が異なる理由は、構造組成の相違に起因するものと考えられる。すなわち、金属銅に比較して硫化銅(II)の四塩化炭素含有アンモニア水に対する反応性が低いことは、構成元素として硫化銅(II)に含まれる硫黄に原因があると推察される。かかる前提に立って、還元脱硫した硫化銅(II)を四塩化炭素含有アンモニア水に浸し銅溶解率を測定することにより、銅溶解能に及ぼす含有硫黄の影響を調査した。
【0031】
還元脱硫に水素化ホウ素ナトリウムを使用し、2.0g(52.9mモル)の水素化ホウ素ナトリウムを含む水溶液を調製した。1.06g(11.0mモル)の硫化銅(II)を水溶液60mlと30℃で1時間反応させた。反応後、沈殿物を濾過,洗浄し、乾燥させた。未反応の硫化銅(II)と乾燥後の反応生成物を比較検討するため、X線回折分析した。分析の結果、硫化銅(II)を水素化ホウ素ナトリウムで処理することにより得られた生成物のX線回折スペクトルが粉末X線回折データファイル(Joint Committee of Powder Diffraction Standards)にJCPDS 5−667として掲げられている酸化銅(I)と完全一致していた(図2)。X線回折スペクトルの完全一致は、硫化銅(II)が水素化ホウ素ナトリウムで還元され酸化銅(I)に変化したことを示している。
【0032】
銅藍の主成分に相当する硫化銅(II)を水素化ホウ素ナトリウムで処理することにより溶解率の高い酸化銅(I)に改質できたので、他の銅鉱石についても同様な処理を試みた。孔雀石,赤銅鉱,輝銅鉱それぞれの主成分に相当するCu2CO3(OH)2,Cu2O,Cu2Sを水素化ホウ素ナトリウムで処理し、生成物をX線回折分析したところ、何れの場合も酸化銅(I)と金属銅との混合物に還元された(図3〜5)。すなわち、各種銅鉱石の主成分に相当する銅化合物が水素化ホウ素ナトリウム処理で酸化銅(I)又は酸化銅(I)と金属銅の混合物に還元されることが確認される。
【0033】
【実施例4:前処理された銅化合物の溶解】
各種銅化合物を酸化銅(I)又は酸化銅(I)と金属銅との混合物に還元する水素化ホウ素ナトリウム処理を、四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒を用いた溶解反応に併用した。
銅鉱石の主成分に相当するCu2CO3(OH)2,Cu2O,Cu2S,CuSを未処理のままで四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒に溶かしても硫化銅(II)の25.0%を除きおおむね良好な銅溶解率が得られたが、水素化ホウ素ナトリウム処理された銅化合物では更に銅溶解率が上昇した(表8)。硫化銅(II)では、処理後の銅溶解率が約90%を示し、未処理の銅溶解率に比較して3.5倍になった。硫化銅(II)(CuO)では、四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒に対する銅溶解率が未処理で2.7%、処理後に95%と飛躍的に増加した。
【0034】
Figure 0003734768
【0035】
【実施例5:エルツベルグ銅鉱石からの銅抽出】
黄銅鉱(CuFeS2)を主成分とする銅鉱石で、実際の銅製錬に使用されているエルツベルグ銅鉱石(Cu:29.20%,Fe:24.09%,S:28.83%,SiO2:8.89%,CaO:0.64%,Al23:2.61%,MgO:0.45%,Pb:0.08%,Zn:0.36%,As:0.004%,Sb<0.001%,Bi:0.004%,Hg:0.2%,Se:0.015%,Te:0.001%,Cd:0.001%,Ni:0.003%)を用い、銅を溶解抽出した。
エルツベルグ銅鉱石の溶解反応の最適条件を決定するため、抽出溶媒に含まれる四塩化炭素の物質量の影響を調査した。銅鉱石,アンモニア水の量が一定の条件下で、エルツベルグ銅鉱石8.7gを30℃の四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒に12時間浸し、溶出したCuを定量した。銅鉱石に含まれるCuの物質量に対して3倍強の物質量で四塩化炭素を使用すると銅溶解率が減少し始めるので、Cuの物質量に対して2倍量の四塩化炭素が妥当であった(表9,図6)。
【0036】
Figure 0003734768
【0037】
表9の結果を踏まえ、Cu/CCl4=2のモル比一定条件下で溶解反応に及ぼす反応時間の影響を調査した。エルツベルグ銅鉱石2.54gを温度30℃の四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒(四塩化炭素濃度:80mモル,アンモニア濃度:12M)に浸し、所定の反応時間経過後に銅溶解率を測定した。その結果、長時間反応で銅溶解率は向上したが、12時間を越える溶解反応では銅溶解率がほぼ一定の値になった(表10,図7)。
表10,図7の結果から、四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒でエルツベルグ銅鉱石からCuを抽出する効率は、四塩化炭素の物質量に大きな影響を受けることが判る。Cu/CCl4=0.5(モル比)のとき、銅溶解率は30℃,1時間の処理で約20%であり、反応時間を12時間にすると約62%に上昇した。
【0038】
Figure 0003734768
【0039】
更に、四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒で処理する前のエルツベルグ銅鉱石を水素化ホウ素ナトリウムで処理し、水素化ホウ素ナトリウムの物質量が銅溶解率に及ぼす影響を調査した。本試験では、水素化ホウ素ナトリウムによる処理時間を1時間に設定した。
水素化ホウ素ナトリウム処理されたエルツベルグ銅鉱石0.62gを四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒(四塩化炭素濃度:6mモル,アンモニア濃度:12M)に浸し、30℃,1時間でCuを溶解させたところ、水素化ホウ素ナトリウムをある程度過剰に使用すると銅溶解率が多少向上したが、NaBH4/Cuのモル比が5倍以上になると銅溶解率にほとんど差がみられなくなった(表11,図8)。あまりに過剰な水素化ホウ素ナトリウムの使用は未反応物の残存を意味するので、水素化ホウ素ナトリウムの物質量はNaBH4/Cu=5(モル比)が妥当と考えられる。
【0040】
Figure 0003734768
【0041】
更に、水素化ホウ素ナトリウム処理時間を0.5〜12時間の範囲で変更し、処理時間が銅溶解率に及ぼす影響を調査したが、処理時間による有意差は検出されなかった。また、水素化ホウ素ナトリウム処理されたエルツベルグ銅鉱石をX線回折分析したところ、回折スペクトルは水素化ホウ素ナトリウム処理の前後でほとんど変わっていなかった(図9)。これらの結果は、他の銅鉱石に含まれている銅化合物が水素化ホウ素ナトリウム処理で酸化銅(I)や金属銅に還元されるのに対し、エルツベルグ銅鉱石では還元困難なことを示している。
【0042】
以上の結果から、エルツベルグ銅鉱石を水素化ホウ素ナトリウムで前処理した後、四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒で銅を溶解する場合の最適条件は次のとおりと理解される。
(1) 水素化ホウ素ナトリウムによるエルツベルグ銅鉱石の前処理
エルツベルグ銅鉱石0.63g(銅含有量:3.0mモル)に対し
水素化ホウ素ナトリウムの物質量:NaBH4/Cu=5(モル比)
処理時間:30分
処理温度:30℃
(2) 前処理されたエルツベルグ銅鉱石からの銅溶解
12Mアンモニア水5ml(60mモル)に対し、
四塩化炭素の物質量:Cu/CCl4=2(モル比)
処理時間:1〜12時間
処理温度:30℃
【0043】
四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒を用いたエルツベルグ銅鉱石からの銅抽出を従来の硫酸抽出法と比較するため、銅溶解率の経時変化を調査した。
本試験では、エルツベルグ銅鉱石0.63gを水素化ホウ素ナトリウム15mモルで前処理した後、30℃の四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒(四塩化炭素濃度:6mモル,アンモニア濃度:12M,60mモル)に浸し、所定時間経過後に銅溶解率を測定した。その結果、反応開始直後から50%を超える高い銅溶解率が示された。他方、水素化ホウ素ナトリウムで処理していないエルツベルグ銅鉱石では、反応開始から5時間経過した時点で銅溶解率が約50%に達した。これに対し、30℃又は100℃の硫酸にエルツベルグ銅鉱石を浸した従来の硫酸抽出法では、15時間以上経過しても銅溶解率が40%に達しなかった。(図10)
この対比から明らかなように、四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒を用いてエルツベルグ銅鉱石から銅を溶解させると、従来の硫酸抽出に比較して高い銅溶解率で銅を抽出できることが判る。また、水素化ホウ素ナトリウムで前処理すると、初期溶解速度が一段と速くなり、短時間処理でも一層高い溶解効率の達成が実証された。
【0044】
【発明の効果】
以上に説明したように、銅鉱石を四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒で処理するとき、高い溶解効率で銅が溶解・抽出される。この湿式製錬は、溶錬を必要とする従来の乾式製錬に比較して、環境に有害な排ガスの排出がなく、省エネルギーの面でも優れている。しかも、従来の湿式製錬が酸化鉱に限られていたのに対し、酸化鉱は勿論、一次硫化鉱や二次硫化鉱にも適用でき、高い溶解効率で銅が抽出される。また、対象鉱を水素化ホウ素ナトリウムで前処理することにより、反応開始直後から銅の溶解が促進され、銅溶解率が更に向上する。このようにして、本発明によるとき、環境保全や省エネルギーに適した銅製錬プロセスが確立される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 四塩化炭素含有アンモニア水に浸した金属銅粉末から溶解する銅の溶解率の温度依存性を示すグラフ
【図2】 硫化銅(II)を水素化ホウ素ナトリウム前処理したとき、硫化銅(II)が酸化銅(I)に還元されることを示す回折スペクトル
【図3】 Cu2CO3(OH)2が水素化ホウ素ナトリウム前処理で酸化銅(I),金属銅に還元されることを示す回折スペクトル
【図4】 Cu2Oが水素化ホウ素ナトリウム前処理で酸化銅(I),金属銅に還元されることを示す回折スペクトル
【図5】 Cu2Sが水素化ホウ素ナトリウム前処理で酸化銅(I),金属銅に還元されることを示す回折スペクトル
【図6】 エルツベルグ銅鉱石から溶解する銅の溶解率に及ぼすCu/CCl4モル比の影響を表したグラフ
【図7】 エルツベルグ銅鉱石から溶解する銅の溶解率に及ぼす反応時間の影響を表したグラフ
【図8】 水素化ホウ素ナトリウムで前処理したエルツベルグ銅鉱石から溶解する銅の溶解率に及ぼすNaBH4/Cuモル比の影響を表したグラフ
【図9】 水素化ホウ素ナトリウム前処理でエルツベルグ銅鉱石の構成成分に実質的な変化がないことを示す回折スペクトル
【図10】 四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒でエルツベルグ銅鉱石を処理したとき及び水素化ホウ素ナトリウム前処理後に四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒でエルツベルグ銅鉱石を処理したときの銅溶解率を従来の硫酸抽出法と比較したグラフ

Claims (2)

  1. 四塩化炭素を添加したアンモニア水に銅鉱石を浸し、銅を選択溶解させることを特徴とする四塩化炭素含有アンモニア水混合溶媒を用いた銅抽出法。
  2. 水素化ホウ素ナトリウムで銅鉱石を酸化銅 (I) 又は酸化銅 (I) と金属銅の混合物に改質還元した後、四塩化炭素を添加したアンモニア水に浸す請求項1記載の銅抽出法。
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