以下、本発明の装飾部品用セラミックスの実施の形態の例について説明する。
まず、本発明の装飾部品用セラミックスは、窒化チタンを主成分とし、酸化ジルコニウム,窒化タンタルおよびニッケルを含むものである。
なお、ここでいう主成分とは、装飾部品用セラミックスを構成する全成分100質量%に対して50質量%以上を占める成分である。この主成分である窒化チタンは、装飾部品として良好な黄金色の色調を呈するとともに、強度や硬度等の機械的特性が高いという特長を有していることから、本発明の装飾部品用セラミックスにおいては、窒化チタンを70質量%以上の含有量で含有させることが好適である。
また、酸化ジルコニウムは、耐磨耗性に影響を与える。窒化チタンを主成分とし、窒化タンタルおよびニッケルを含み、酸化ジルコニウムが含まれていないセラミックスに汗や泥水等が付着すると、表層が酸化されて窒化チタンおよび窒化タンタルがそれぞれ酸化チタン,酸化タンタルとなるときに体積膨張して窒化チタンおよび窒化タンタルの各結晶粒子が脱粒しやすい状態となる。一方、窒化チタンを主成分とし、酸化ジルコニウム,窒化タンタルおよびニッケルを含むセラミックスに汗や泥水等が付着しても、酸化ジルコニウムの結晶粒子は、このセラミックスの表層が酸化されるときの体積膨張を抑えて窒化チタンおよび窒化タンタルの各結晶粒子の脱粒を抑制することができる。
また、窒化タンタルを含むことにより、装飾部品用セラミックスの硬度を向上させることができる。さらに、ニッケルを含むことにより、窒化チタンおよび窒化タンタルの各結晶粒子同士ならびに窒化チタンの結晶粒子と窒化タンタルの結晶粒子とを強固に結合する結合剤として作用し破壊靱性を向上させることができる。本発明の装飾部品用セラミックスを構成する窒化チタン,酸化ジルコニウム,窒化タンタルおよびニッケルは、X線回折法にて同定することができる。
このように、本発明の装飾部品用セラミックスは、窒化チタンを主成分とし、酸化ジルコニウム,窒化タンタルおよびニッケルを含むことから、窒化チタンおよび窒化タンタルの各結晶粒子の表層が酸化されて体積膨張したとしても酸化ジルコニウムによって保護されているのでこれら結晶粒子が脱粒することがほとんどなく、しかも窒化チタンが呈する黄金色系の色調に,窒化タンタルが呈する光沢を帯びた茶褐色系の色調とニッケルが呈する銀色系の色調とが絶妙に融合されるので、装飾的価値の極めて高い黄金色の色調を醸し出すことができる。このように、窒化チタンを主成分とし、酸化ジルコニウム,窒化タンタルおよびニッケルを含むことから、装飾的価値の高い色調を醸し出しながら、耐磨耗性,破壊靱性に優れ、硬度の高い装飾部品用セラミックスとすることができる。
なお、本発明の装飾部品用セラミックスを構成する成分の含有量は、酸化ジルコニウム
の含有量が9質量%以上23質量%以下であり、窒化タンタルの含有量が9質量%以上23質量%以下であり、ニッケルの含有量が3質量%以上6質量%以下である。
酸化ジルコニウムの含有量が9質量%以上23質量%以下であることにより、上述した理由により窒化チタンおよび窒化タンタルの各結晶粒子が脱粒しにくくなるとともに、高温に加熱し焼結させた後、常温まで冷却したときに酸化ジルコニウムが相転移に伴って発生する体積膨張が抑制されるために、ニッケルが形成する結合相内にクラックが入りにくくなるので、耐磨耗性を向上させることができる。
なお、本発明の装飾部品用セラミックスでは、常温における酸化ジルコニウムの結晶構造のほとんどは単斜晶であり、焼結時の加熱によって体積収縮を伴いながら正方晶,立方晶へと順に相転移し、冷却されると体積膨張を伴いながら正方晶,単斜晶へと順に相転移する。
また、窒化タンタルの含有量が9質量%以上23質量%以下であることにより、装飾部品用セラミックスの色調の鮮やかさをほとんど損なうことなく、装飾部品用セラミックスの硬度を高くすることができる。
また、ニッケルの含有量が3質量%以上6質量%以下であることにより、装飾部品用セラミックスの硬度をほとんど低下させることなく、窒化チタンおよび窒化タンタルの各結晶粒子同士ならびに窒化チタンの結晶粒子と窒化タンタルの結晶粒子とを強固に結合する結合剤として作用し破壊靱性がより高くなるため、耐磨耗性を向上させることができる。
なお、本発明の装飾部品用セラミックスを構成する窒化チタン,酸化ジルコニウム,窒化タンタルおよびニッケルの各含有量は、蛍光X線分析法またはICP(Inductivity Coupled Plasma)発光分析法により求めることができる。具体的には、窒化チタンおよび窒化タンタルについては、それぞれTi,Taの金属元素の含有量を測定して窒化物に換算し、酸化ジルコニウムについては、Zrの金属元素の含有量を測定して酸化物に換算すればよい。また、ニッケルについては、Niの金属元素の測定値が含有量となる。
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、さらにクロムを6質量%以下含むことが好適である。クロムは、空気中の酸素と結合して表面に緻密な酸化皮膜を生成するので耐食性を向上させることができるとともに、ニッケルがクロムを包囲した状態で、窒化チタンおよび窒化タンタルの各結晶粒子同士ならびに窒化チタンの結晶粒子と窒化タンタルの結晶粒子とを結合する結合相を形成すると、ニッケルがクロムと反応してニッケルクロム化合物を生成して、ニッケルがイオン化して流出することを抑制することができる。しかしながら、クロムの含有量は色の鮮やかさに影響を及ぼすため、ニッケルの流出を抑制し、耐食性と鮮やかさを兼ね備えるためには、特に、クロムを1.5質量%以上5質量%以下の
含有量で含むことが好適である。
なお、ニッケルがクロムを包囲した状態とは、クロムが窒化チタンの結晶粒子と接することなく結合相に周囲を取り囲まれた状態をいい、この状態については、走査型電子顕微鏡で得られた装飾面の画像と、エネルギー分散型(EDS)X線マイクロアナライザーによって検出されるニッケル,クロムの分布状態を示す装飾面の画像とを照合することで確認することができる。
ここで、本発明の装飾部品用セラミックスにおける装飾面とは、装飾部品の装飾的価値が要求される面を指し、装飾的価値が要求されない面を含む必要はないので、全ての面を指すものではない。例えば、本発明の装飾部品用セラミックスを時計用ケースに用いる場合では、この時計用ケースの外側の面は、鑑賞の対象となるものであり装飾的価値が要求されるので装飾面であるが、時計の駆動機構が嵌め込まれる内側の面等は、通常は装飾的価値を要求されないので装飾面ではない。
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、さらにマンガンを0.4質量%以下含むことが好適である。マンガンは、イオン化傾向が大きく、強い酸素吸着作用があるため、マンガンを含むことにより、噴霧乾燥によって得られた顆粒の酸化を抑制し、装飾面の色調のばらつきを抑えることができるからである。
そして、クロム,マンガンが装飾部品用セラミックスに含まれているか否か、および含有量については、蛍光X線分析法またはICP(Inductivity Coupled Plasma)発光分析法により求めることができる。
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*の値が60以上70以下であり、クロマティクネス指数a*およびb*の値がそれぞれ4.5以上6.5以下,10以上20以下であることが好適である。この範囲であれば、程良い明るさと鮮やかさとを有する黄金色の色調となり、高級感、美的満足感および精神的安らぎを長期間与え続けることができる。
ここで、明度指数L*とは色調の明暗を示す指数であり、明度指数L*の値が大きいと色調は明るく、明度指数L*の値が小さいと色調は暗くなる。また、クロマティクネス指数a*は色調の赤から緑の度合いを示す指数であり、a*の値がプラス方向に大きいと色調は赤色になり、その絶対値が小さくなるにつれて色調は鮮やかさに欠けたくすんだ色調になり、a*の値がマイナス方向に大きいと色調は緑色になる。さらに、クロマティクネス指数b*は色調の黄から青の度合いを示す指数であり、b*の値がプラス方向に大きいと色調は黄色になり、その絶対値が小さくなるにつれて色調は鮮やかさに欠けたくすんだ色調になり、b*の値がマイナス方向に大きいと色調は青色になる。
そして、このような装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*の値およびクロマティクネス指数a*,b*の値は、JIS Z 8722−2000に準拠して測定することで求められる。例えば、分光測色計(コニカミノルタホールディングス(株)製CM−3700d等)を用い、光源をCIE標準光源D65,視野角を10°,測定範囲を5mm×7mmに設定して測定することができる。
また、装飾面の算術平均高さRaは、光の反射率に影響を及ぼして色調が変わるため、装飾面の算術平均高さRaを0.03μm以下としておくことが好ましい。これにより、光の反射率が高くなり、明度指数L*の値を上昇させることができる。この算術平均高さRaが0.03μmを超えると、明度指数L*の値が低下し、色調は暗くなり高級感が低下するおそれがある。
この光とは、波長域380〜780nmの可視光線の集合であり、算術平均高さRaを0.03μm以下とすることによって、可視光線を分光し、青色を示す波長域450〜500nmの光の反射を少なくするとともに、黄色を示す波長域570〜590nmの光の反射を多くするように作用するので、高級感,美的満足感および精神的安らぎ等を与える黄金色を呈することができる。特に、波長域570〜700nmの光に対する装飾面の反射率は、50%以上であることが好適である。
なお、算術平均高さRaはJIS B 0601−2001に準拠して測定すればよく、測定長さおよびカットオフ値をそれぞれ5mmおよび0.8mmとし、触針式の表面粗さ計を用いて測定する場合であれば、例えば、装飾部品用セラミックスの装飾面に、触針先端半径が2μmの触針を当て、触針の走査速度は0.5mm/秒に設定し、この測定で得られた5箇所の平均値を算術平均高さRaの値とする。
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、装飾面における開気孔率が明度指数L*の値に影響を及ぼし、開気孔率が高いと明度指数L*の値は小さくなり、開気孔率が低いと明度指数L*の値は大きくなる。そのため、装飾面における開気孔率は2.5%以下であることが好ましく、開気孔率が1.1%以下であることがさらに好ましい。
なお、装飾面における開気孔率は、金属顕微鏡を用いて、倍率を200倍にしてCCDカメラで装飾面の画像を取り込み、画像解析装置((株)ニレコ製LUZEX−FS等)により画像内の1視野の測定面積を2.25×10−2mm2,測定視野数を20,つまり測定総面積が4.5×10−1mm2における開気孔の面積を求めて測定総面積における割合を装飾面の開気孔率とすればよい。
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、主成分である窒化チタンの組成式をTiNxとしたときに0.8≦x≦0.96であることが好ましい。組成式をTiNxとしたときの原子数xの値により、その色調は影響を受ける。原子数xが小さくなると色調は黄金色から薄い黄金色になり、原子数xが大きくなると色調はくすんだ濃い黄金色になる。このような観点から組成式をTiNxとしたときの原子数xの値は、0.8以上0.96以下であることが好ましく、原子数xの値がこの範囲であるときには、光沢のある色調感がさらに増すため、より高い高級感および美的満足感を得ることができる。
そして、本発明の釣糸案内用装飾部品は、上記構成の本発明の装飾部品用セラミックスからなることを特徴とし、その具体的な例としては、釣糸用ガイドリングおよびこれを備えた釣糸用ガイドがある。
図1は、本発明の釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングおよびこの釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドの一例を示しており、(a)は釣糸用ガイドリングの平面図であり、(b)は(a)の釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドの斜視図である。
図1に示す例の釣糸用ガイドリング1は、その内周側に釣糸(図示しない)を挿通して案内するものであり、釣糸用ガイド6は、釣糸用ガイドリング1を保持する保持部2を備え、この保持部2の支持部3および釣竿(図示しない)に固定する固定部4が一体的に形成された枠体5に釣糸用ガイドリング1を備えたものである。この釣糸用ガイドリング1を本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる。
また、黄金色の色調の釣糸用ガイドリング1と、釣糸用ガイド6や釣竿の色調との調和がよいので釣具に好適に用いることができる。特に、黄金色の色調を呈することから、嗜好品に高級感を求める人の好む釣具とすることができる。なお、釣糸用ガイドリング1の表面を透明な耐磨耗性の高い膜、例えば、非晶質硬質炭素からなる膜で被覆して、耐磨耗性をさらに向上させてもよい。
図2は本発明の時計用装飾部品である時計用ケースの一例を示しており、(a)は時計用ケースを表側から見た斜視図であり、(b)は(a)の時計用ケースを裏側から見た斜視図である。また、図3は本発明の時計用装飾部品である時計用ケースの他の例を示す斜視図である。また、図4は本発明の時計用装飾部品である時計用バンドの構成の一例を示す模式図である。なお、これらの図において、同じ部位を示す場合は同じ符号を付してある。
図2に示す例の時計用ケース10Aは、図示しないムーブメント(駆動機構)を収容する凹部11と、腕に時計を装着するための時計用バンド(図示しない)を固定する足部12とを備えており、凹部11は厚みの薄い底部13と厚みの厚い胴部14とからなる。また、図3に示す例の時計用ケース10Bは、図示しないムーブメント(駆動機構)が入る穴部15と、胴部14に形成された腕に時計を装着するための時計用バンド(図示しない)を固定する足部12とを備えている。
そして、図4に示す例の時計用バンド50を構成するバンド駒は、ピン40が挿入される貫通孔21を有する中駒20と、中駒20を挟むようにして配置され、ピン40の両端が差し込まれるピン穴31を有する外駒30とから構成されており、中駒20の貫通孔21にピン40が挿入され、挿入されたピン40の両端が外駒30のピン穴31に差し込まれることにより、中駒20と外駒30とが順次連結されて時計用バンド50が構成されている。
また、中駒20には、引張荷重が頻繁にかかるため、196N以上の引張強度が求められる。この引張強度を求めるには、貫通孔21の長さより長い、超硬製のピン(図示しない)を中駒20の貫通孔21a,21bに挿入した後、このピンを引き離す方向に引っ張り、中駒20が破壊したときの強度をロードセルで読み取ればよい。
これら、時計用ケース10A,10Bおよび時計用バンド50を構成するバンド駒として用いられる本発明の時計用装飾部品は、本発明の装飾部品用セラミックスからなるものであることから、時計としての高級感,美的満足感を十分に得ることができ、視覚を通じて精神的安らぎを得ることができる。
図5は、本発明の携帯端末機用装飾部品を用いた携帯電話機の一例を示す斜視図であり、図6は、図5に示す例の携帯電話機の筐体が開いた状態を示す斜視図である。
本発明の携帯端末機用装飾部品は、本発明の装飾部品用セラミックスからなることを特徴とし、その具体例としては、図5,6に示す例の押下する各種操作キー,ケース等がある。
図5に示す例の携帯電話機60は、携帯電話機60のモードを、ラジオを聴くモードであるラジオモードや音楽を聴くモードである音楽モードなどに変更するモードキー61aと、携帯電話機60をマナーモードにするマナーキー61bとを第1の筐体62に備え、指などの接触を検知してこの接触により入力が行なわれるタッチセンサ63と、被写体を撮像するカメラ64と、ライト65と、タッチセンサ63等の入力の有効又は無効を設定するスライドスイッチ66とを第2の筐体67に備えている。
次に、図6に示す例の携帯電話機60は、第2の筐体67が開いた状態を示すものであり、第1の筐体62と第2の筐体67とは、ヒンジ68を介して連結されており、これにより第2の筐体67は、自在に開閉することができる。また、第2の筐体67は、フロントケース69aとリアケース69bとを有しており、フロントケース69aには液晶表示ユニット70が設けられている。
また、第1の筐体62もフロントケース71aとリアケース71bとを有しており、フロントケース71aには各種操作キーが設けられている。この操作キーには、電話番号等を入力するテンキー72a,各種機能のメニューについてカーソルを移動するカーソル移動キー72b,着信時に押下操作することによって通話を開始する通話キー72c,電源のオンオフおよび通話中に押下操作することによって通話を終了する電源/終話キー72d,カーソル移動キー72bの中心に配置されたセンターキー72fの左右に配置されたファンクションキー73L,73R等がある。
上記したケースであるフロントケース69aや71a,リアケース69bや71b,操作キーであるテンキー72a,カーソル移動キー72b,通話キー72c,電源/終話キー72d,センターキー72f,ファンクションキー73LやR等の少なくともいずれか1種を本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与え、このような色調を呈する携帯電話を所有することによる満足感を感じさせることができる。また、本発明の装飾部品用セラミックスは、他の色調との相性がよいことから、様々な色調の部材と組み合わせて用いることもできるので、需要者の嗜好の多様化に応えることができる。
なお、携帯端末機の一例として携帯電話機を用いて説明したが、本発明の携帯端末機が用いられる携帯端末機は携帯電話機に限定されるものではなく、携帯情報端末(PDA),携帯型のカーナビゲーションやオーディオプレーヤー等の携帯型の端末機であって、部品に装飾性が求められるものであれば、様々な携帯端末機が該当する。
図7は、本発明の生活用品用装飾部品を用いた石鹸ケースの構成の一例を示す模式図である。
この石鹸ケース80は、本体83と蓋82とからなり、本体83の石鹸81の載置面84には、石鹸81の表面に付着している水を切るための排出孔85が形成されている。石鹸81を使用しないときには、本体83の載置面84に石鹸81は載置され、蓋82を本体83に嵌め合わすことにより収納されており、石鹸81を使用するときには、本体83から蓋82を外して石鹸81を取り出して使用する。そして、使用後の石鹸81を本体83の載置面84に載置することにより、排出孔85により石鹸81の表面に付着している水を切ることができ、石鹸81が溶けるのを防ぐことができるものである。
この石鹸ケース80である本体83と蓋82とを本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、多くの需要者に所有することによる満足感および使用の際に視覚を通じて高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる。また、石鹸ケース80だけではなく、ハブラシやカミソリの柄,耳かきおよびハサミ等の生活用品用装飾部品に好適に用いることができる。特に、高級ホテルの浴室や洗面所において、各種ロゴ等のマーキングされたアメニティーグッズに本発明の装飾部品用セラミックスを用いることにより、非日常感が強く演出された高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる。
そして、本発明の装飾部品用セラミックスのビッカース硬度は、JIS R 1610−2003に準拠して測定することができる。また、本発明の装飾部品用セラミックスの耐磨耗性は、以下に示す構成の耐磨耗性評価装置を作製し、これを用いることにより評価することができる。
図8は、本発明の装飾部品用セラミックスの耐磨耗性の評価に用いる耐磨耗性評価装置の概略構成図である。この耐磨耗性評価装置100は、ナイロン製の糸102と、所定位置で糸102に張力を与える複数のプーリー103と、プーリー103の1つであるプーリー103aに連結して糸102を矢印の向きに走行させるモーター(図示しない)と、糸102に泥水を付着させる水槽104とからなり、おもり105の質量分の荷重が与えられ、水槽104を通って泥水が付着した糸102が、所定位置に治具(図示しない)等で固定された円柱状の装飾部品用セラミックス101の外周面を摺動する構造となっており、ナイロン製の糸102の号数は、例えば3号とすればよい。
この耐磨耗性評価装置100を用いて装飾部品用セラミックス101の耐磨耗性を評価する際の条件は、例えば、おもり105の質量を500gとし、糸102が円柱状の装飾部品用セラミックス101の外周を摺動する速度を60m/分とし、糸102の走行距離が3000m以上になるように設定すればよい。そして、モーターを駆動し糸102を摺動させた後に、円柱状の装飾部品用セラミックス101が磨耗して生じた傷の最も深い部分を表面形状測定顕微鏡(キーエンス製 測定部VF−7510/コントローラVF−7500)を用いて測定し、この測定値を比較することにより耐磨耗性を評価することができる。
次に、本発明の装飾部品用セラミックスの製造方法の一例を説明する。
本発明の装飾部品用セラミックスを得るには、まず、主成分となる窒化チタンと、酸化ジルコニウム,炭化タンタルまたは窒化タンタルおよびニッケルの各粉末とを所定量秤量し、粉砕・混合して調合原料とする。より具体的には、平均粒径が10μm以上30μm以下の窒化チタンの粉末と、平均粒径が1μm以上2μm以下の酸化ジルコニウムの粉末と、平均粒径が1μm以上3μm以下の炭化タンタルの粉末または平均粒径が1μm以上3μm以下の窒化タンタルの粉末および平均粒径が10μm以上20μm以下のニッケルの粉末とを準備し、酸化ジルコニウムの粉末が8質量%以上32質量%以下、炭化タンタルの粉末または窒化タンタルの粉末が8質量%以上25質量%以下、ニッケルの粉末が2質量%以上12質量%以下であって、残部が窒化チタンの粉末となるように秤量して粉砕・混合すればよい。
なお、酸化ジルコニウムの含有量が9質量%以上30質量%以下であり、窒化タンタルの含有量が9質量%以上23質量%以下であり、ニッケルの含有量が3質量%以上10質量%以下である装飾部品用セラミックスを得るには、調合原料における各成分の比率が焼結体における各成分の含有量と同じになるようにすればよい。
さらに、クロムを含む装飾部品用セラミックスを得るには、平均粒径が3μm以上10μm以下のクロムの粉末または組成式がCr3C2として表される、平均粒径が3μm以上10μm以下の炭化クロムの粉末を調合原料の一部とし、クロムの粉末を用いる場合には、その比率を1.5質量%以上5質量%以下とし、炭化クロムの粉末を用いる場合には、その比率を1.8質量%以上6.2質量%以下とすればよい。
さらに、マンガンを含む装飾部品用セラミックスを得るには、平均粒径が13μm以上23μm以下のマンガンの粉末または組成式がMnCO3として表される、平均粒径が13μm以上23μm以下の炭酸マンガンの粉末を調合原料の一部とし、マンガンの粉末を用いる場合には、その比率を0.2質量%以上0.4質量%以下とし、炭酸マンガンの粉末を用いる場合には、その比率を0.4質量%以上0.8質量%以下とすればよい。
なお、ニッケルがクロムを包囲した状態で、窒化チタンおよび窒化タンタルの各結晶粒子同士ならびに窒化チタンの結晶粒子と窒化タンタルの結晶粒子とを結合する結合相を形成するには、ニッケルの粉末とクロムの粉末または炭化クロムの粉末とが接触する頻度を高くすることが必要である。この頻度を高くするためには、粉砕・混合時間を長くすればよく、例えば、粉砕・混合時間を150時間以上にすればよい。このとき、この調合原料における不可避不純物としては珪素,リン,イオウ,鉄等が挙げられるが、これらは装飾面の色調に悪影響を及ぼすおそれがあるので、各々0.5質量%未満であることが好適である。
また、窒化チタンの粉末は化学量論的組成のTiNであっても、あるいは非化学量論的組成のTiNx(0<x<1)であってもよいが、耐磨耗性および装飾的価値が高い色調という観点からは、各粉末の純度は99%以上であることが好ましく、窒化チタンの粉末が一部ニッケルの粉末と反応してTiNiを微量生成しても何等差し支えない。特に、装飾部品用セラミックスの主成分である窒化チタンの組成式をTiNxとしたときに0.8≦x≦0.96とするには、窒化チタンの粉末は組成式をTiNxとしたときに0.7≦x≦0.9のものを用いればよい。
次いで、調合原料に有機溶媒として、例えばイソプロパノールを加え、ミルを用いて混合粉砕した後、結合剤としてパラフィンワックスを所定量添加し、所望の成形法、例えば、乾式加圧成形法,冷間静水圧加圧成形法,押し出し成形法等により円板,平板,円環体等の所望形状に成形する。
また、成形法として乾式加圧を選択した場合は、成形圧力は装飾面における開気孔率およびビッカース硬度(Hv)に影響を与えることから、成形圧力を49MPa以上196MPa以下とすることが好適である。成形圧力を49MPa以上196MPa以下とすることにより、成形型の寿命を長くすることができるとともに、相対密度が95%以上であり,開気孔率が2.5%以下であり,ビッカース硬度(Hv)が13GPa以上の焼結体を得ることができる。
そして、得られた成形体を必要に応じて窒素雰囲気または不活性ガス雰囲気等の非酸化性雰囲気中で脱脂した後、窒素雰囲気中で焼成し、理論密度に対する相対密度が95%以上の焼結体を得る。なお、窒素雰囲気中で焼成するのは、酸化性雰囲気中で焼成すると、チタンが酸化してそのほとんどが組成式TiO2で表される酸化チタンとなり、この酸化チタンが本質的に備えている白色の色調の影響を受けてしまい、装飾部品用セラミックスの全体の色調が白っぽくかすむからである。
さらに、焼成温度を1400℃以上1550℃以下とすることが好適である。これにより、相対密度が95%以上で開気孔率が2.5%以下の焼結体を得ることができるとともに、焼成コストも下げられるからである。
そして得られた焼結体の装飾的価値が求められる面に、ラップ盤を用いてラップ加工を行なった後、バレル研磨を行なうことにより、焼結体のその表面は黄金色の色調を有する装飾面となって、本発明の装飾部品用セラミックスを得ることができる。なお、このような装飾面に現れる気孔は、その開口部の最大径を30μm以下にすることが好適で、この範囲にすることで、気孔内への雑菌,異物や汚染物等の凝着を低減することができる。
装飾部品用セラミックスからなる製品の形状が複雑な形状の場合には、予め乾式加圧成形法,冷間静水圧加圧成形法,押し出し成形法,射出成形法等によってブロック形状または製品形状に近い形状に成形し、焼結した後に、製品形状になるように研削加工を施した後、順次ラップ加工,バレル研磨を行なってもよく、あるいは最初から射出成形法によって製品形状とし、焼成後に、順次ラップ加工,バレル研磨を行なってもよい。
ここで、装飾面となる表面の算術平均高さRaを0.03μm以下とするには、錫製のラップ盤に平均粒径の小さいダイヤモンド砥粒を供給してラップ加工すればよく、例えば平均粒径1μm以下のダイヤモンド砥粒を用いればよい。また、バレル研磨では、回転バレル研磨機を用い、メディアとしてグリーンカーボランダム(GC)を回転バレル研磨機に投入し、湿式で24時間行なえばよい。
以上のようにして得られる本発明の装飾部品用セラミックスは、高い硬度を有するとともに、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与えることができる黄金色の色調を有するので、釣糸用ガイドリング等の釣糸案内用装飾部品、腕時計用ケースや時計用バンド駒等の時計用装飾部品、押下する各種操作キーやケース等の携帯端末機用装飾部品および石鹸ケースやハサミ等の生活用品用装飾部品を始め、ブローチ,ネックレス,イヤリング,リング,ブレスレット,アンクレット,ネクタイピン,タイタック,メダル,ボタン等の装身具用装飾部品、床,壁,天井を飾るタイルあるいはドアの取手等の建材用装飾部品、スプーン,ナイフ,フォーク等のキッチン用装飾部品および宗教用工芸品として好適に用いることができる。また、装身具を装飾するイニシャルロゴやブランドロゴ、エンブレム等の自動車用装飾部品、その他の家電用装飾部品、ポーカーチップやゴルフパター等の趣味や嗜好用としても好適に用いることができる。
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
まず、窒化チタン(TiN),酸化ジルコニウム(ZrO2),窒化タンタル(TaN)およびニッケル(Ni)の各粉末を、装飾部品用セラミックスにおける含有量が表1に示す含有量となるように秤量し、混合して調合原料とした。
次に、上記各調合原料に有機溶媒としてイソプロパノールを加え、振動ミルを用いて72時間粉砕・混合した後、ポリエチレングリコール等のバインダを調合原料に対して3質量%添加し混合して、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し顆粒とした。そして、得られた顆粒を成形型に充填し、98MPaの圧力で加圧成形して、円柱状の成形体を試料毎に6個および円板状の成形体を試料毎に1個ずつ作製した。これら成形体を窒素雰囲気中にて600℃で脱脂した後、窒素雰囲気中にて1450℃で2時間保持することで焼結体を得た。その後、円柱状の焼結体については、回転バレル研磨機を用いてバレル研磨して、JIS B 0601−2001で規定する算術平均高さ(Ra)が0.05〜0.23μmの表面を有する試料No.1〜15の装飾部品用セラミックスを得た。
また、円板状の焼結体については、錫製のラップ盤に平均粒径が1μmのダイヤモンド砥粒を供給して焼結体の表面を1時間ラップ加工して、JIS B 0601−2001で規定する算術平均高さ(Ra)が0.05〜0.23μmの表面を有する試料No.1〜15の装飾部品用セラミックスを得た。
この装飾部品用セラミックスを構成する窒化チタン,酸化ジルコニウム,窒化タンタルおよびニッケルの各含有量はICP発光分光分析法により金属元素の含有量を測定し、Niは測定値が含有量であり、TiおよびTaは窒化物に換算し、Zrは酸化物に換算して求めた。また、ビッカース硬度をJIS R 1610−2003に準拠して測定し、破壊靱性をJIS R 1607−1995に規定される圧子圧入法(IF法)で測定した。
また、耐磨耗性の評価については、図8に示す例の耐磨耗性評価装置を用いて、試料No.1〜15の円柱状の装飾部品用セラミックスを所定位置(図8において、装飾部品用セラミックス101の位置)に治具で固定した後、水0.001m3に対して半磁器土(粘土の中に磁器土(陶石)を配合した粘土)を10g投入し混合して水槽104中に泥水を準備した。そして、おもり105の質量を500gに、糸102が円柱状の装飾部品用セラミックスの外周側を摺動する速度を60m/分に、糸102の走行距離を3000mとなるように設定し、泥水が付着したナイロン製(東レ製 銀鱗Σ3号)の糸102を、円柱状の装飾部品用セラミックスの外周側で摺動させた。その後、表面形状測定顕微鏡(キーエンス製 測定部VF−7510/コントローラVF−7500)を用いて、糸102を摺動させることによって円柱状の装飾部品用セラミックスが磨耗して生じた傷の最も深い部分を測定し、各試料6個の平均値を磨耗深さとして算出した。
また、JIS Z 8722−2000に準拠して分光測色計(コニカミノルタホールディングス製 CM−3700d)を用い、光源にCIE標準光源D65を用い、視野角を10°に設定して、円板状の装飾部品用セラミックスの表面の色調を測定した。
さらに、色調については、20歳代〜50歳代の各年代について男女5名ずつ計40名のモニターに、高級感,美的満足感および精神的安らぎの3項目でアンケート調査を実施した。高級感,美的満足感,精神的安らぎの3項目の調査結果に対して、「得られる」と回答したモニターの比率がいずれも90%以上のものは「優」、上記3項目のうち1項目でも70%以上90%未満があるものは「良」、1項目でも70%未満となっているものは「劣」と評価した。
結果を表1に示す。
表1に示す結果からわかるように、試料No.1〜14は、窒化チタンを主成分とし、酸化ジルコニウム,窒化タンタルおよびニッケルを含むことから、試料No.15より硬度が高く、磨耗が少なく耐磨耗性に優れており、モニターのアンケート調査結果においても高級感,美的満足感および精神的安らぎの3項目が85%以上となり、モニターを満足させられていることが分かった。
そして、酸化ジルコニウムの含有量が9質量%以上23質量%以下であり、窒化タンタルの含有量が9質量%以上23質量%以下であり、ニッケルの含有量が3質量%以上6質量%以下である試料No.2,4,6,7,10,12は、試料No.1,3,5,8,9,11,13,14よりも、硬度,耐磨耗性(磨耗深さ),破壊靱性,色調の評価のいずれか若しくは全てにおいて優れており、特に満足度の高い装飾部品用セラミックスとなることが分かった。
(実施例2)
クロムの含有量の違いによる特性の変化を確認する試験を行なった。
まず、実施例1と同じ窒化チタン(TiN),酸化ジルコニウム(ZrO2),窒化タンタル(TaN)およびニッケル(Ni)の粉末とクロム(Cr)の粉末とを用意し、試料No.16については、装飾部品用セラミックスにおける含有量が試料No.7と同様の含有量となるように秤量し、試料No.17〜20については、クロムを含有させて装飾部品用セラミックスにおける含有量が表2に示す含有量となるように秤量し、粉砕・混合して調合原料とした。次に、実施例1と同様の製造方法にて試料No.16〜20の円板状の装飾部品用セラミックスを得た。
その後、実施例1と同様に窒化チタン、酸化ジルコニウム,窒化タンタル,ニッケルおよびクロムの各含有量および色調を測定した。次に、JIS B 7001−1995で規定する耐食試験のうち、人工汗半浸せき試験(40±2℃、24時間放置)を行ない、試験後の各試料の色調を測定し、試験前後の明度指数L*,クロマティクネス指数a*,b*の差を算出した。
結果を表2に示す。
表2に示す通り、クロムを含まない試料No.16に比べて、試料No.17〜20は、クロムを含むことから、空気中の酸素と結合して装飾面に緻密な酸化皮膜を生成して耐食性を向上させ、明度指数L*,クロマティクネス指数a*,b*とも試験前後の変化が少なく、耐食性が良好であることが分かった。
また、試料No.17〜19は、クロムの含有量が1.5質量%以上5質量%以下であることから、クロムの含有量が5質量%を超える試料No.20に比べて、クロマティクネス指数a*の値が大きく鮮やかな黄金色の色調を呈しており、良好であることが分かった。
(実施例3)
マンガンの含有量の違いによる特性の変化を確認する試験を行なった。
まず、実施例2と同じ窒化チタン(TiN),酸化ジルコニウム(ZrO2),窒化タンタル(TaN),ニッケル(Ni)およびクロム(Cr)の粉末とマンガン(Mn)の粉末とを用意し、試料No.21については、装飾部品用セラミックスにおける含有量が試料No.18と同様の含有量となるように秤量し、試料No.22〜24については、マンガンを含有させて装飾部品用セラミックスにおける含有量が表3に示す含有量となるように秤量し、粉砕・混合して調合原料とした。次に、実施例1と同様の製造方法にて試料No.21〜24の円板状の装飾部品用セラミックスを得た。
その後、実施例1と同様に窒化チタン,酸化ジルコニウム,窒化タンタル,ニッケル,クロムおよびマンガンの各含有量を測定した。また、表面の中央部1箇所および周辺部4箇所の計5箇所における色調を測定し、平均値ならびに標準偏差を算出した。
結果を表3に示す。
表3に示す通り、マンガンを含まない試料No.21に比べて、試料No.22〜24は、マンガンを含むことから、噴霧乾燥によって得られた顆粒がほとんど酸化されていないので、表面における色調のばらつきが少なく、良好であることが分かった。
また、本発明の装飾部品用セラミックスを用いて、釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリング,時計用装飾部品である時計用ケースや時計バンド駒,携帯端末機用装飾部品である携帯電話の各種操作キーやケース,生活用品用装飾部品である石鹸ケースやハサミを作製したところ、耐磨耗性に優れ高い硬度を有していることから表面に傷が付きにくく、黄金色の色調を長期にわたり維持することができるので、これらの装飾部品を用いれば、高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与え続ける魅力的な商品を構成することができることが分かった。