以下、本発明の装飾部品用セラミックスの実施の形態の例について説明する。
本発明の装飾部品用セラミックスは、窒化チタン質焼結体からなる装飾部品用セラミックスであって、コバルトを5質量%以上25質量%以下、クロムを1質量%以上10質量%以下、炭素を0.3質量%以上1質量%以下の含有量で含むことを特徴とするものである。
本発明において、窒化チタン質焼結体とは、窒化チタン(TiN)を主成分とする焼結体であり、ここでいう主成分とは、装飾部品用セラミックスを構成する全成分100質量%に対して、55質量%以上を占める成分である。この主成分である窒化チタンは、装飾品として良好な黄金色を呈するとともに、強度や硬度等の機械的特性が高いという特徴を有していることから、本発明の窒化チタン質焼結体からなる装飾部品用セラミックスにおいては、窒化チタンを70質量%以上の含有量で含有させることが好適である。
また、コバルトは、主成分である窒化チタンの結晶を結合する結合剤として作用する。クロムは、セラミックスの表面で空気中の酸素と結合して装飾面に緻密な酸化被膜を生成して耐食性を向上させるとともに、コバルトに固溶して窒化チタンとの濡れ性を改善して焼結性を改善する。そして、炭素は、靱性や硬度等の機械的特性を向上させるとともに、色差を小さくすることができる。
本発明の装飾部品用セラミックスにおいて、コバルトの含有量を5質量%以上25質量%以下としたのは、コバルトが窒化チタンの結晶粒子の間で結合剤として均一に存在してセラミックスの強度を保つことができるとともに、硬度を保ち傷が付きにくいものとすることができるためである。コバルトは5質量%未満になると、コバルトが窒化チタンの結晶粒子の間で不足して組織が不均一となって強度が低下しやすくなり、25質量%を超えると、セラミックスの硬度が低下して傷が付きやすくなるためである。また、コバルトの一部は窒素,チタン,炭素と化合物を形成する場合があり、Co5.47N,Co3Ti,CoCxなどの組成がX線回折で検出される。これらの組成は、主にコバルトと窒化チタンの界面近傍に存在してセラミックスの強度を高めていると考えられる。
さらに、コバルトは耐食性が高いことに加えて、近年ヨーロッパなどの諸外国では金属アレルギー対策として特にニッケルの溶出が少ない材料が要望されていることから、その動向にも対応することができる。
また、クロムの含有量を1質量%以上10質量%以下としたのは、コバルトと窒化チタンとの濡れ性が高まり焼結性が改善されるとともに、結合相の表面では空気中の酸素と結合して酸化クロムの皮膜が形成されて耐食性が増加し、コバルトに適度に固溶して強度を保つことができるためである。クロムが1質量%未満になると、コバルトと窒化チタンとの濡れ性が低下して焼結性が悪くなることからボイドが発生しやすくなり、結合相の表面に酸化クロムの皮膜が形成されにくいため耐食性が低下し、10質量%を超えると、結合相が硬くなりすぎるため強度が低下する。クロムは、主に結合相の中でコバルトに固溶しているが、一部が炭化物として存在してもよい。
また、炭素の含有量を0.3質量%以上1質量%以下としているので、上記構成の窒化チタン質焼結体に炭素がこの含有量で含まれることにより、炭素は窒化チタンや結合相に拡散して固溶体を形成して焼結を促進するため、硬度や靱性等の機械的特性を高くすることができる。また、炭素はクロマティクネス指数a*および以下の式(A)で規定される色調感の差である色差(△E*ab)に影響を与える。
△E*ab=((△L*)2+(△a*)2+(△b*)2))1/2・・・(A)
炭素をこの含有量で含むことによって、炭素の呈する黒色により無彩色化の傾向が僅かに現れて色むらが抑制されるため、装飾部品間で発生する色差をほとんど感じることのない好ましい黄金色とすることができる。
炭素の含有量が0.3質量%未満では、靱性や硬度等の機械的特性を十分高くすることができず、炭素の呈する黒色による無彩色化の傾向がほとんど表れずに、色差(△E*ab)は大きくなる。一方、炭素の含有量が1質量%を超えると、色調は赤みを帯びた黄金色となる。また、脆くなるため加工時にチッピングが生じやすくなる。
このように装飾的価値を求める所有者に高級感,美的満足感および精神的安らぎ等を与える黄金色を呈する装飾部品用セラミックスとするには、装飾面の算術平均粗さRaが0.03μm以下であるとともに、装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が72以上84以下であり、クロマティクネス指数a*,b*がそれぞれ2以上9以下,25以上36以下であることが好ましい。
ここで、明度指数L*とは色調の明暗を示す指数であり、明度指数L*の値が大きいと色調は明るく、明度指数L*の値が小さいと色調は暗くなる。また、クロマティクネス指数a*は色調の赤から緑の度合いを示す指数であり、a*の値がプラス方向に大きいと色調は赤色になり、その絶対値が小さくなるにつれて色調は鮮やかさに欠けたくすんだ色調になり、a*の値がマイナス方向に大きいと色調は緑色になる。さらに、クロマティクネス指数b*は色調の黄から青の度合いを示す指数であり、b*の値がプラス方向に大きいと色調は黄色になり、その絶対値が小さくなるにつれて色調は鮮やかさに欠けたくすんだ色調になり、b*の値がマイナス方向に大きいと色調は青色になる。
また、装飾面の算術平均粗さRaは、光の反射率に影響を及ぼして色調が変わるため、装飾面の算術平均粗さRaを0.03μm以下としておくことが好ましい。これにより、光の反射率が高くなり、明度指数L*の値を上昇させることができる。この算術平均粗さRaが0.03μmを超えると、明度指数L*の値が低下し、色調は暗くなり高級感が低下するおそれがある。
この光の波長は380〜780nmを有する可視光線の集合であり、算術平均粗さRaを0.03μm以下とすることによって、可視光線を分光し、青色を示す波長域450〜500nmの光の反射を少なくするとともに、黄色を示す波長域570〜590nmの光の反射を多くするように作用するので、高級感,美的満足感および精神的安らぎ等を与える黄金色を呈することができる。特に、波長域570〜700nmの光に対する装飾面の反射率は、50%以上であることが好適である。
なお、算術平均粗さRaはJIS B 0601−2001に準拠して測定すればよく、測定長さおよびカットオフ値をそれぞれ5mmおよび0.8mmとし、触針式の表面粗さ計を用いて測定する場合であれば、例えば、装飾部品用セラミックスの装飾面に、触針先端半径が2μmの触針を当て、触針の走査速度は0.5mm/秒に設定し、この測定で得られた5箇所の平均値を算術平均粗さRaの値とする。
そして、明度指数L*の値を72以上84以下としたのは、黄金色の色調に程良い明るさが発現するからであり、クロマティクネス指数a*の値を2以上9以下としたのは、色調の鮮やかさを落とさずに赤味を抑えることができるためである。また、クロマティクネス指数b*の値を25以上36以下としたのは、色調の鮮やかさを落とさずに黄金色を出せるからである。特に明度指数L*の値は、72以上79以下であることが好適である。
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、装飾面における開気孔率が2.5%以下であることが好ましい。装飾面における開気孔率は、特に明度指数L*の値に影響を及ぼし、開気孔率が高いと明度指数L*の値は小さくなり、開気孔率が低いと明度指数L*の値は大きくなる。装飾面における開気孔率を2.5%以下にすることで、明度指数L*の値を77以上にすることができ、より好まれる色調となる。さらに、明度指数L*の値を78以上とすることが好適であり、この場合には開気孔率は1.1%以下とすることが好ましい。
なお、装飾面における開気孔率は、金属顕微鏡を用いて、倍率を200倍にしてCCDカメラで装飾面の画像を取り込み、画像解析装置((株)ニレコ製LUZEX−FS等)により画像内の1視野の測定面積を2.25×10−2mm2,測定視野数を20,つまり測定総面積が4.5×10−1mm2における開気孔の面積を求めて測定総面積における割合を装飾面の開気孔率とすればよい。
なお、本発明の装飾部品用セラミックスにおける装飾面とは、装飾部品の装飾的価値が要求される面を指し、全ての面を指すものではない。例えば、本発明の装飾部品用セラミックスを時計用ケースに用いる場合では、この時計用ケースの外側の面は、鑑賞の対象となるものでもあり装飾的価値が要求されるので装飾面である。
そして、このような装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*の値およびクロマティクネス指数a*,b*の値は、JIS Z 8722−2000に準拠して測定することで求められる。例えば、分光測色計(コニカミノルタホールディングス(株)製CM−3700d等)を用い、光源をCIE標準光源D65,視野角を10°,測定範囲を5mm×7mmに設定して測定することができる。
チタン,コバルトおよびクロムの含有量は、蛍光X線分析(XRF)法を用いて測定することができる。具体的には、予め窒化チタン,コバルトおよびクロムの各元素の濃度の異なる混合粉末を少なくとも2種類以上用意して、それぞれプレス法により成形して標準試料とする。次に、これら各標準試料にX線を照射して、蛍光X線の強度と既知の濃度との関係から最小二乗法を用いて検量線を作成する。そして、本発明の装飾部品用セラミックスを粉砕して粉末とし、プレス法により成形して測定試料とする。この測定試料にX線を照射して、蛍光X線の強度を測定し、検量線より濃度である含有率を求める。また、チタン,コバルトおよびクロムの含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法を用いて測定することもできる。具体的には、作製したセラミックスを放電プラズマで蒸発気化して励起し、励起した原子が低いエネルギー順位に戻るときに発する固有のスペクトルを測定することで原子の種類を特定し、その発光強度から各原子の定量分析をする。さらにまた、窒素については酸素・窒素分析装置で測定することができ、炭素は炭素分析装置で測定することができる。
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、窒化チタン質焼結体の組成式をTiNxとしたときにX線回折による主成分のピークは0.8≦x≦1の範囲であることが好ましい。組成式をTiNxとしたときの原子数xの値により、その色調は影響を受ける。原子数xが小さくなると色調は黄金色から薄い黄金色になり、原子数xが大きくなると色調はくすんだ濃い黄金色になる。このような観点から組成式をTiNxとしたときの原子数xの値は、0.8以上1以下であることが好ましく、原子数xの値がこの範囲であるときには、光沢のある黄色の色調感がさらに増すため、より高い高級感および美的満足感を得ることができる。
また、本発明の装飾部品用セラミックスの原料を調合するときに、窒化チタンの一部を2〜8質量%の範囲で酸化チタンに置き換えると、黄金色を淡い色調に調整することができる。従って、X線回折で分析すると、他の成分の調合比や焼成温度にもよるが、本発明のセラミックスから酸化チタンが検出される場合もある。
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、ニオブを2質量%以上10質量%以下の含有量で含むことが好ましい。ニオブの含有量を2質量%以上10質量%以下としたのは、ニオブが主にコバルトに固溶することによって、明度指数L*の値を高くする色調調整剤としての作用や窒化チタンとコバルトとの濡れ性を改善する作用がある反面、ニオブの含有量が多いと結合相の液相温度が高くなるため焼結性が低下するおそれがあるからである。
また、ニオブの含有量は4質量%以上8質量%以下であることがより望ましい。これは、ニオブは粒成長を抑制するように働くので、結晶粒界は増加し、入射した光は装飾面を形成する結晶による鏡面反射と併せて結晶粒界による拡散反射の影響を強く受ける結果、装飾面における明度指数L*は高くなるとともに、その色調は優れた相乗効果を生むため、光沢のある色調感が増し、さらに高級感,美的満足感を得ることができる。その結果、視覚を通じて精神的安らぎが得られるからである。
さらに、ニオブが主に結合相のコバルトの中に存在することにより、結合相が汗や唾液などに対する腐食に対して強くなるため、セラミックスの表面が安定した状態に維持されて色調も安定し、製品間の色差を小さくすることができる。
また、ニオブはタンタルに置換することも可能であり、その場合、タンタルの添加量は3質量%以上20質量%以下である。タンタルもニオブと同様の効果を有しており、結合相は腐食に対して強くなるが、材料が高価であることからコストに応じて用いることが好ましい。
さらに、ニオブはコバルトと化合してコバルトニオブ、例えばNbCo3として析出していることが好適で、NbCo3の析出により、明度指数L*の値は大きくなって、気品漂う明るさが醸し出される。このNbCo3等のコバルトニオブは、X線回折法で検出することができる。
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、ジルコニアの含有量を9質量%以上30質量%以下の含有量で含むことが好ましい。ジルコニアは、釣糸などがセラミックスの表面に接触しながら移動したとき接触部の窒化チタンや結合相が酸化されて体積膨張しクラックや磨耗が進行するという問題を抑制する。そして、炭素は、硬度や靱性等の機械的特性を向上させるとともに、色差を小さくすることができる。
ジルコニアの含有量を9質量%以上30質量%以下としたのは、釣糸などがセラミックスの表面に接触しながら移動すると摩擦により接触面の温度が上昇する場合があり、そこに水分が介在すると、接触面の窒化チタンや結合相が徐々に酸化して体積膨張し周囲の組織とクラックを生じて磨耗が進行するという問題を抑制するためである。釣糸などがセラミックスの表面を接触しながら移動して窒化チタンや結合相が磨耗しても、ジルコニアの結晶粒子は表面に突起状に残り、これが釣糸と接触することから、窒化チタンや結合相の酸化は進行が遅くなり磨耗(機械的特性)抑制される。ジルコニアが9質量%未満になると、セラミックスの表面に存在するジルコニアの結晶粒子の数が少なくなり、窒化チタンや結合相の酸化や磨耗を抑える効果が低下する傾向がある。一方、30質量%を超えると、焼結時のジルコニアの相変態に伴う体積膨張や体積収縮の変化量のセラミックス全体の体積に対する比率が大きくなり、焼結後のセラミックスにクラックが残留しやすくなるという問題がある。
また、ジルコニアの含有量は、上記と同様の方法で蛍光X線分析(XRF)法またはICP発光分光分析法を用いて測定することができる。
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、ニッケルの含有量が1質量%以下であることが好ましい。ニッケルは展性に富み、主成分である窒化チタンの結晶を結合する結合剤として作用し、耐食性に優れることから長期間にわたって高級感および美的満足感を得ることができるとともに、結合相のコバルトにニッケルが含まれると、焼結性の改善ができる。また、ニッケルの含有量を1質量%以下としたのは、装飾部品用セラミックスを身に付けているときや使用しているときにニッケルが汗や唾液などに溶出することを抑制するためである。1質量%を超えると、微量ではあるがニッケルが汗や唾液などに溶出し、場合によっては使用者にアレルギー反応が現れることもある。
また、ニッケルの含有量は、上記と同様の方法で蛍光X線分析(XRF)法またはICP発光分光分析法を用いて測定することができる。
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、モリブデンをコバルトに対して35質量%以下の含有量で含むことが好ましい。モリブデンがコバルトに対して35質量%以下の含有量で含まれると、焼成温度を下げることができて結晶粒の成長を抑制するため、加工時には脱粒やチッピングが生じにくくなり、美しい表面を有する装飾部材を作製することができる。また、モリブデンはコバルトと共晶合金を形成するが、コバルトに対して35質量%以上の含有量になると、結合相にモリブデンリッチな相が析出して製品を加工する時に脱粒やチッピングが生じやすくなり、表面が荒れて色調ばらつきの原因となる場合もある。
さらに、本発明の装飾部品用セラミックスに、ニッケルを1質量%以下で添加し、モリブデンも10質量%以上35質量%以下の範囲で同時に添加して焼結性を改善することもできる。
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、チタンを除く金属元素中にクロムを10質量%以上40質量%未満の含有量で含むことが好ましい。クロムはコバルトと窒化チタンとの結晶粒界に固溶して、結合相と窒化チタンとの濡れ性を改善して焼結性を向上する。クロムが10質量%未満であると、濡れ性を改善する効果が小さくなって焼結性が低下し、40質量%を超えるとクロムリッチな相が現れて脱粒しやすくなり、ボイドが発生してセラミックスの表面を均一に美しく形成することが困難となり、色差が大きくなる。
さらに、本発明の装飾部品用セラミックスに、ニッケルを1質量%以下で添加し、モリブデンを10質量%以上35質量%以下の範囲で添加し、チタンを除く金属元素中にクロムを10質量%以上40質量%未満の含有量で同時に添加して、焼結性を改善することもできる。
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、チタンを除く金属元素中にニオブを10質量%以上40質量%未満の含有量で含むことが好ましい。ニオブはコバルトと窒化チタンとの結晶粒界に固溶して、結合相と窒化チタンとの濡れ性を改善して焼結性を向上する。ニオブが10質量%未満であると、濡れ性を改善する効果が小さくなって焼結性が低下し、40質量%を超えるとニオブリッチな相が現れて脱粒しやすくなり、ボイドが発生してセラミックスの表面を均一に美しく形成することが困難となり、色差が大きくなる。
さらに、本発明の装飾部品用セラミックスに、ニッケルを1質量%以下で添加し、モリブデンを10質量%以上35質量%以下の範囲で添加し、チタンを除く金属元素中にニオブを10質量%以上40質量%未満の含有量で同時に添加して、焼結性を改善することもできる。
また、本発明の時計用装飾部品は、上記構成の本発明の装飾部品用セラミックスからなることを特徴とし、その例としては、時計用ケースや時計用バンド駒がある。
本発明の装飾部品用セラミックスは、製品間の色差が小さいため、時計用ケースや時計用バンド駒に用いると、個々の部品を組み付けたとき部品間の色調バラツキによって美観を損ねることがなく、色調に統一感を有しており、時計としての高級感,美的満足感を十分に得ることができ、視覚を通じて精神的安らぎを得ることができる。さらに、本発明の時計用装飾部品は、セラミックスの結合相の主成分がコバルト,クロムであることから、ニッケルに対するアレルギーが生じにくく、耐食性も高いため長期間身につけて使用しても製品が変色して高級感が低下することはない。
図1は本発明の時計用装飾部品である時計用ケースの一例を示しており、(a)は時計用ケースを表側から見た斜視図であり、(b)は(a)の時計用ケースを裏側から見た斜視図である。また、図2は本発明の時計用装飾部品である時計用ケースの他の例を示す斜視図である。また、図3は本発明の時計用装飾部品である時計用バンドの構成の一例を示す模式図である。なお、これらの図において同じ部位を示す場合は同じ符号を付してある。
図1に示す時計用ケース10Aは、図示しないムーブメント(駆動機構)を収容する凹部11と、腕に時計を装着するための時計用バンド(図示しない)を固定する足部12とを備えており、凹部11は厚みの薄い底部13と厚みの厚い胴部14とからなる。また、図2に示す時計用ケース10Bは、図示しないムーブメント(駆動機構)が入る穴部15と、胴部14に形成された腕に時計を装着するための時計用バンド(図示しない)を固定する足部12とを備えている。
そして、図3に示す時計用バンド50を構成するバンド駒は、ピン40が挿入される貫通孔21を有する中駒20と、中駒20を挟むようにして配置され、ピン40の両端が差し込まれるピン穴31を有する外駒30とから構成されており、中駒20の貫通孔21にピン40が挿入され、挿入されたピン40の両端が外駒30のピン穴31に差し込まれることにより、中駒20と外駒30とが順次連結されて時計用バンド50が構成されている。
これら、時計用ケース10A,10Bおよび時計用バンド50を構成するバンド駒として用いられる本発明の時計用装飾部品は、本発明の装飾部品用セラミックスからなるものであることから、時計としての高級感,美的満足感を十分に得ることができ、視覚を通じて精神的安らぎを得ることができる。
なお、本発明の装飾部品用セラミックスでは、装飾面のビッカース硬度(Hv)が長期信頼性に影響を与える要因の一つとなり、ビッカース硬度(Hv)が8GPa以上であることが好ましい。ビッカース硬度(Hv)をこの範囲にすると、装飾面は傷が入りにくくなるので、ガラスまたは金属からなる塵埃のような硬度の高い物質と接触しても装飾面に容易に傷が生じることがないからである。この装飾面のビッカース硬度(Hv)はJIS R 1610−2003に準拠して測定することができる。
また、破壊靱性は装飾面の耐摩耗性に影響し、その値は高いほどよく、本発明の装飾部品用セラミックスでは4MPa・m1/2以上であることが好ましい。この破壊靱性はJIS R 1607−1995で規定する圧子圧入法(IF法)に準拠して測定することができる。
装飾部品用セラミックスが身に付けて用いられるようなものである場合は、軽い方が好まれるため、本発明の装飾部品用セラミックスでは、その見掛密度は6g/cm3以下(0を除く)であることが好適であり、この見掛密度はJIS R 1634−1998に準拠して測定される。装飾部品用セラミックスが時計用バンド駒の一部である中駒20の場合であれば、引張荷重が頻繁に中駒20にかかるため、本発明の装飾部品用セラミックスでは、引張強度は196N(ニュートン)以上であることが好適である。この引張強度を求めるには、貫通孔21の長さより長い、超硬製のピン(図示しない)を中駒20の貫通孔21a,21bに挿入した後、このピンを引き離す方向に引っ張り、中駒20が破壊したときの強度をロードセルで読み取ればよい。
また、本発明の釣糸案内用装飾部品は、上記構成の本発明の装飾品用セラミックスからなることを特徴とし、その具体的な例としては、釣糸用ガイドリングおよびこの釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドがある。
本発明の装飾部品用セラミックスは、釣糸用ガイドリングおよびこの釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドに用いると、釣竿に釣糸用ガイドとして組み付けたときガイド間の色調バラツキによって美観を損ねることがなく、色調に統一感を有しており、釣竿としての高級感,美的満足感を十分に得ることができ、視覚を通じて精神的安らぎを得ることができる。さらに、本発明の釣糸案内用装飾部品は、セラミックスの結合相の主成分がコバルト,クロムおよびジルコニアであることから、耐食性も高いため、長期間釣竿に使用しても製品が変色して高級感が低下することはない。
図4は本発明の釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングおよびこの釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドの一例を示しており、(a)は釣糸用ガイドリングの平面図であり、(b)は(a)の釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドの斜視図である。
図4に示す例の釣糸用ガイドリング60は、その内周側に釣糸(図示しない)を挿通して案内するものであり、釣糸用ガイド65は、釣糸用ガイドリング60を保持する保持部61を備え、この保持部61の支持部62および釣竿(図示しない)に固定する固定部63が一体的に形成された枠体5に釣糸用ガイドリング60を備えたものである。この釣糸用ガイドリング1を本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる。
また、黄金色の色調の釣糸用ガイドリング60と、釣糸用ガイド64や釣竿の色調との調和がよいので釣具に好適に用いることができる。特に、黄金色の色調を呈することから、嗜好品に高級感を求める人の好む釣具とすることができる。なお、釣糸用ガイドリング60の表面を透明な耐磨耗性の高い膜、例えば、非晶質硬質炭素からなる膜で被覆して、耐磨耗性をさらに向上させてもよい。
また、本発明装飾部品用セラミックスの耐磨耗性は、以下に示す構成の耐磨耗性評価装置を作製し、これを用いることにより評価することができる。
図5は、本発明の装飾部品用セラミックスの耐磨耗性(機械的特性)の評価に用いる耐磨耗性評価装置の概略構成図である。この耐磨耗性評価装置70は、ナイロン製の糸72と、所定位置で糸72に張力を与える複数のプーリー73と、プーリー73の1つであるプーリー73aに連結して糸72を矢印の向きに走行させるモーター(図示しない)と、糸72に泥水を付着させる水槽74とからなり、おもり75の質量分の荷重が与えられ、水槽74を通って泥水が付着した糸72が、所定位置に治具(図示しない)等で固定された円柱状の装飾部品用セラミックス71の外周面を摺動する構造となっており、ナイロン製の糸72の号数は、例えば3号とすればよい。
この耐磨耗性評価装置70を用いて装飾部品用セラミックス71の耐磨耗性を評価する際の条件は、例えば、おもり75の質量を500gとし、糸72が円柱状の装飾部品用セラミックス71の外周を摺動する速度を60m/分とし、糸72の走行距離が3000m以上になるように設定すればよい。そして、モーターを駆動し糸72を摺動させた後に、円柱状の装飾部品用セラミックス71が磨耗して生じた傷の最も深い部分を表面形状測定顕微鏡(キーエンス製 測定部VF−7510/コントローラVF−7500)を用いて測定し、この測定値を比較することにより耐磨耗性を評価することができる。
次に、本発明の装飾部品用セラミックスの製造方法について説明する。
本発明の装飾部品用セラミックスを得るには、まず、焼結体中で主成分となる窒化チタンと、コバルト,クロムおよび炭素の各粉末とを所定量秤量し、粉砕・混合して調合原料とする。より具体的には、平均粒径が10〜30μmの窒化チタンの粉末と、平均粒径が10〜20μmのコバルトの粉末とを準備し、コバルトの粉末が5〜25質量%、クロムまたは炭化クロムの粉末が1〜10質量%、炭素の粉末が0.3〜1質量%であって、残部が窒化チタンの粉末となるように秤量して粉砕・混合すればよい。
なお、粉砕・混合時間は50時間以上にすればよい。このとき、この調合原料における不可避不純物としては珪素,リン,イオウ,マンガン,鉄等が挙げられるが、これらは装飾面の色調に悪影響を及ぼすおそれがあるので、各々0.5質量%未満であることが好適である。
また、窒化チタンの粉末は化学量論的組成のTiNであっても、あるいは非化学量論的組成のTiC1−xNx(0.8≦x≦1)であってもいいが、耐摩耗性および装飾的価値が高い色調という観点からは、各粉末の純度は99%以上であることが好ましく、窒化チタンの粉末が一部コバルトの粉末と反応してCo3Tiなどの化合物を微量生成しても何等差し支えない。特に、装飾部品用セラミックスを成す窒化チタン質焼結体について組成式をTiNxとしたときに0.8≦x≦1とするには、窒化チタンの粉末は組成式をTiNxとしたときに0.7≦x≦1のものを用いればよい。
次いで、調合原料に有機溶媒として、例えばイソプロパノールを加え、ミルを用いて混合粉砕した後、結合剤としてパラフィンワックスを所定量添加し、所望の成形法、例えば、乾式加圧成形法,冷間静水圧加圧成形法,押し出し成形法等により円板,平板,円環体等の所望形状に成形する。
また、成形法として乾式加圧を選択した場合は、成形圧力は装飾面における開気孔率およびビッカース硬度(Hv)に影響を与えることから、成形圧力を49〜196MPaとすることが好適である。成形圧力を49〜196MPaとするのは、相対密度が95%以上で開気孔率が2.5%以下の焼結体を得ることができるとともに、ビッカース硬度(Hv)を8GPa以上にすることができるからである。また、金型の寿命を長くすることもできる。
そして、得られた成形体を必要に応じて真空雰囲気、窒素雰囲気あるいは不活性ガス雰囲気等の非酸化性雰囲気中で脱脂した後、窒素および不活性ガスから選択される少なくとも1種のガス雰囲気中あるいは真空中で焼成し、理論密度に対する相対密度が95%以上の焼結体を得る。なお、窒素および不活性ガスから選択される少なくとも1種のガス雰囲気中あるいは真空中で焼成するのは、酸化性雰囲気中で焼成すると、チタンが酸化してそのほとんどが組成式TiO2で表される酸化チタンとなり、この酸化チタンが本質的に備えている白色の色調の影響を受けてしまい、装飾部品用セラミックスの全体の色調が白っぽくかすむからである。
また、真空中で焼成して装飾部品用セラミックスを得る場合は、その真空度が5Pa以下であることが好適である。真空度を5Pa以下とするのは、チタンが焼成中に酸化することがなく、黄金色の装飾部品用セラミックスを得るためである。さらに、焼成温度を1200〜1800℃とすることが好適である。これにより、相対密度が95%以上で開気孔率が2.5%以下の焼結体を得ることができるとともに、焼成コストも下げられるからである。
そして得られた焼結体の装飾的価値が求められる面に、ラップ盤を用いてラップ加工を行なった後、バレル研磨を行なうことにより、焼結体のその表面は黄金色の色調を有する装飾面となって、本発明の装飾部品用セラミックスを得ることができる。なお、このような装飾面に現れる気孔は、その開口部の最大径を30μm以下にすることが好適で、この範囲にすることで、気孔内への雑菌,異物や汚染物等の凝着を低減することができる。
装飾部品用セラミックスからなる製品の形状が複雑な形状の場合には、予め乾式加圧成形法,冷間静水圧加圧成形法,押し出し成形法,射出成形法等によってブロック形状または製品形状に近い形状に成形し、焼結した後に、製品形状になるように研削加工を施した後、順次ラップ加工,バレル研磨を行なってもよく、あるいは最初から射出成形法によって製品形状とし、焼成後に、順次ラップ加工,バレル研磨を行なってもよい。
ここで、装飾面となる表面は、算術平均粗さRaを0.03μm以下とすることが好ましく、錫製のラップ盤に平均粒径の小さいダイヤモンド砥粒を供給してラップ加工すればよく、例えば平均粒径1μm以下のダイヤモンド砥粒を用いればよい。また、バレル研磨では、回転バレル研磨機を用い、メディアとしてアルミナやグリーンカーボランダム(GC)などを回転バレル研磨機に投入し、湿式で24〜150時間行なえばよい。
以上のようにして得られる本発明の装飾部品用セラミックスは、特に美しい色調として評価の高い黄金色を呈し、高級感があって、美的満足感を得ることができ、その結果、視覚を通じて精神的安らぎを得ることができるので、時計ケース,バンド駒,バックルなどの時計用装飾部品や、釣糸用ガイド等の釣糸案内用装飾部品,ナンバーキー,各種入力キー等の操作ボタン,ケース,ディスプレイを固定する枠状部品等の携帯端末機用装飾部品や、浴室または洗面室の蛇口や洗面具,スプーン,フォーク,バターナイフ,万年筆ステーショナリー,印材,名刺,火葬用副葬品などの生活用品用装飾部品や、ブローチ,ネックレス,イヤリング,リング,ネクタイピン,タイタック,ボタン,イニシャルロゴ,バッグ等の止め金具などの装身具用装飾部品や、ナンバーキー,各種入力キー等の操作ボタン,ケース,ディスプレイを固定する枠状部品等のPDA(Personal Digital Assistants:個人用情報機器)用装飾部品や、ナンバーキー,各種入力キー等の操作ボタン,ケース,ディスプレイを固定する枠状部品等の携帯音楽再生装置用装飾部品や、携帯型データ記憶装置の筐体用装飾部品や、タイル,取っ手,庭石,表示板,道路用誘導マーカーなどの建材用装飾部品や、釣り具用品,ゴルフクラブ,ポーカーチップ,将棋の駒,碁石などのスポーツ用品または娯楽用品等の装飾部品や、弦楽器用駒,ギター用保護板,バイオリン用弓取っ手,イヤホン,スピーカボックスなどの楽器部品または音響機器部品等の装飾部品や、歯冠,楽器用マウスピースなどの口に含む部品や、ディスクブレーキパッド,取っ手,エンブレムなどの自動車用装飾部品などに用いられる、美しい黄金色の色調を醸し出す装飾部品用セラミックスとしても好適に用いることができる。
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
まず、窒化チタン粉末(純度99%,平均粒径22.3μm),コバルト粉末(純度99%以上,平均粒径1.3μm),クロム粉末(純度99%,平均粒径55μm),および炭素粉末(純度99%以上,平均粒径0.5μm)を焼結体での比率(含有量)が表1に示す比率になるように秤量し、粉砕・混合して調合原料とした。
次に、得られた各調合原料にイソプロパノール溶液を加えて、振動ミルを用いて72時間粉砕・混合した後、バインダとしてパラフィンワックスを調合原料に対し3質量部添加して、噴霧乾燥法により乾燥させて顆粒とした。そして、得られた顆粒を98MPaの圧力で加圧成形して、成形体を作製した。次に、この成形体を窒素雰囲気中にて600℃で脱脂した後、1450〜1600℃で2時間保持して焼成して、直径が15〜18mm、厚みが2〜3mmの円板状の焼結体を得た。
そして、錫製のラップ盤に平均粒径が1μmのダイヤモンド砥粒を供給して焼結体の表面をラップ加工した。引き続き、回転バレル研磨機を用いて、水とメディアとしてアルミナとグリーンカーボランダム(GC)とを入れて、70時間バレル研磨を行ない表面を鏡面に仕上げ、試料No.1〜18の窒化チタン質焼結体からなる装飾部品用セラミックスを得た。
その後、各試料を構成するチタン,コバルト,クロムの含有量はICP発光分光分析装置を用いて測定し、炭素については、炭素分析装置を用いて測定した。
また、各試料の明度指数とクロマティクネス指数について、JIS Z 8722−2000に準拠して、分光測色計(コニカミノルタホールディングス(株)製CM−3700d)の光源をCIE標準光源D65,視野角を10°,測定範囲を3×5mmに設定して装飾面の色調を測定し色差を計算した。その方法は、同じ試料No.の焼結体をそれぞれ20個作製し、各試料の明度指数L*およびクロマティクネス指数a*,b*を測定し、相互の試料間の色差を式(A)で計算した。
そして、20歳代〜50歳代の各年代について男女5名ずつ計40名のモニターに、試料を黒色の台に並べて色むらを感じるかのアンケート調査を実施し、色むらを感じる人数が3名以下の場合は◎、色むらを感じる人数が4〜10名の場合は○、として使用可能で合格と判定し、色むらを感じる人数が11名以上の場合は×、として使用不可能で不合格とした。
また、チッピングについては、各試料10個のラップ加工が終了した時点で表裏の端部に長さが0.5mm以上のチッピングが試料1個につき計2個以下である場合は◎とし、計2個以上4個以下の場合は○として、それぞれ使用可能であり合格と判定し、計5個以上である場合は×として、使用不可能であり不合格とした。
また、耐傷性については、図1に示す時計用ケースに図3に示す時計用バンドを組み付けたものを製作して、20歳代〜50歳代の各年代について男女5名ずつ計40名のモニターが300時間(約30日間)身に付けた後、時計用ケースおよび時計用バンドを目から30〜40cm離した位置に置き、蛍光灯で照らして5人以下のモニターが目視で傷を見つけた場合は◎とし、6人以上10人以下のモニターが目視で傷を見つけた場合は○として、それぞれ使用可能であり合格と判定し、11以上のモニターが目視で傷を見つけた場合は×として、使用不可能であり不合格とした。結果を表1に示す。
表1に示す通り、本発明の範囲外である試料No.1,2,7,8,13,14および18は、最大色差が2を超える場所や、色むら,チッピング,耐傷性についても各評価が×のものもあり、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得られるような美しい黄金色の装飾面を形成することができなかった。それに比べて、本発明の範囲内の試料である試料No.3〜6,9〜12および15〜17は、同じ試料番号の中での最大色差が2以下で、色むら,チッピング,耐傷性についても○または◎となり、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得られるような美しい黄金色の装飾面を形成することができた。
まず、コバルトについて、本発明の範囲外である試料No.1,2は、コバルトの含有量が5質量%未満と少なく、焼結時には窒化チタン結晶粒子の表面を均一に濡らすことが困難なため、緻密化が進まず、加工時に窒化チタンの結晶粒子が脱粒して鏡面が荒れた状態となったために色むらおよび色差が大きくなったことが分かる。また、窒化チタンの結晶粒子が脱粒しやすいため試料の角部は脆くなりチッピングが発生しやすくなったために、試料の平面部でも脱粒痕が筋状に残って耐傷性が低下したことが分かる。また、試料No.7はコバルトの含有量が25質量%を超えていることから、セラミックスの表面で結合相の占める割合が大きくなって耐傷性が低下したため、鏡面が荒れた状態となり色差が大きくなったことが分かる。
これに対して、本発明の実施例である試料No.3〜6は、コバルトの含有量が5質量%以上25質量%以下の範囲であることから、窒化チタンが脱粒しにくく、試料の角部の強度が保たれてチッピングが生じにくいため、試料の平面部では脱粒痕が残らず、耐傷性に優れたセラミックスになったことが分かる。従って、窒化チタンの脱粒や傷跡などの機械的な因子により、色差が大きくなったり色むらが悪化したりすることを抑制できたことが分かる。
次に、クロムについて、本発明の範囲外である試料No.8は、クロムの含有量が1質量%未満と少ないことから、セラミックスの表面に酸化クロムの被膜を十分に形成できず耐食性が低下し、試料の表面が研削液や洗浄液などと反応したり乾燥時に水垢が付着しやすくなって色調がばらついて色差が大きくなったと考えられる。また、試料No.13は、クロムの含有量が10質量%を超えているため、結合相が硬くなり過ぎて窒化チタンの結晶粒子が脱粒しやすくなり、鏡面が荒れた状態となって色むらや色差が大きく、さらに試料の角部は脆くなりチッピングが発生しやすく、試料の平面部でも脱粒痕が筋状に残って耐傷性が低下したことが分かる。
これに対して、本発明の試料である試料No.9〜12は、クロムの含有量が1質量%以上10質量%以下の範囲であることから、セラミックスの表面に酸化クロムの被膜が形成されて色調が安定し、色差も小さくなったことが分かる。また、結合相が適度な硬さに保たれるため、窒化チタンの脱粒が抑制されて、チッピングや耐傷性は良好な評価となったことが分かる。
次に、炭素について、本発明の範囲外である試料No.14は、炭素の含有量が0.3より少ないため、炭素の呈する黒色による無彩色化の影響が小さく、焼成雰囲気や脱脂雰囲気のバラツキによるセラミックスの色調の変化を抑制する効果も現れにくくなったことから、色差が発生したことが分かる。また、試料No.18は、炭素の含有量が1質量%を超えているため、脆くなりチッピングが生じやすくなったことが分かる。
これに対して、本発明の試料である試料No.15〜17は、炭素の含有量が0.3質量%以上1質量%以下の範囲であるため、炭素は窒化チタンや結合相に拡散して固溶体を形成して焼結を促進し、靱性や硬度等の機械的特性を高くし、チッピングや耐傷性が保たれて機械的な因子による色むらの低下を抑制できたことが分かる。
(実施例2)
ニオブを含有することによる特性の変化を確認する試験を行なった。
まず、窒化チタン粉末(純度99%,平均粒径22.3μm),コバルト粉末(純度99%以上,平均粒径1.3μm),クロム粉末(純度99%,平均粒径55μm),ニオブ粉末(純度99.5%,平均粒径33μm)および炭素粉末(純度99%以上,平均粒径0.5μm)を焼結体での比率(含有量)が表2に示す比率になるように秤量し、粉砕・混合して調合原料とした。次に、実施例1と同様の製造方法にて、試料No.19〜24の窒化チタン質焼結体からなる装飾部品用セラミックスを得た。
その後、実施例1と同様に各試料を構成するチタン,コバルト,クロムおよびニオブの含有量はICP発光分光分析装置を用いて測定し、炭素については炭素分析装置を用いて測定した。
その後、実施例1と同様に、色差,色むら,チッピングおよび耐傷性のテストを行ない、さらに、耐食性試験について、同じ試料No.の焼結体をそれぞれ20個作製し、ISO(国際標準化機構)規格に則した人工汗(pH4.7)を腐食液として使用し、温度を40℃±2℃に保持した人工汗中に試料を72時間浸して、色差に影響が生じるかどうかをテストした。そして、耐食性試験をする前の試料で行なった各試料の色差に変化がない場合を○とし、変化があった場合を×として判断した。結果を表2に示す。
表2に示す通り、試料No.19は、ニオブの含有量が2質量%未満と少なく、結合相の表面の化学的安定性が低下して変色しやすくなり、セラミックスの色調がばらついて色差が大きくなり、人工汗に対する耐食性も低下したことが分かる。試料No.24は、ニオブの含有量が10質量%を超えているため、結合相の液相温度が高くなり、焼結性が低下し結合力が低下して窒化チタンの結晶粒が脱粒しやすくなったことから、セラミックスの表面が荒れた状態となり、色むらが発生して色差が大きくなったことが分かる。
これに対して、試料No.20〜23は、ニオブの含有量が2質量%以上10質量%以下の範囲であるため、ニオブが主に結合相のコバルトに固溶することにより、結合相はセラミックスの表面で安定した状態に維持され、色調も安定して色むらが発生することなく、色差も小さくなったためである。また、コバルトと窒化チタンとの結合力が高く保たれると考えられ、窒化チタンの脱粒が抑制されて、チッピングや耐傷性は良好な評価となったことが分かる。
(実施例3)
ジルコニアを含有することによる特性の変化を確認する試験を行なった。
まず、窒化チタン粉末(純度99%,平均粒径22.3μm),コバルト粉末(純度99%以上,平均粒径1.3μm),クロム粉末(純度99%,平均粒径55μm),ジルコニア粉末(純度99%以上,平均粒径1.5μm)および炭素粉末(純度99%以上,平均粒径0.5μm)を焼結体での比率(含有量)が表3に示す比率になるように秤量し、粉砕・混合して調合原料とした。
次に、実施例1と同様の製造方法にて直径が10mmで高さが10mmの円柱状の試料No.25〜30の窒化チタン質焼結体からなる装飾部品用セラミックスを得た。
その後、実施例1と同様に各試料を構成するチタン,コバルト,クロムおよびジルコニア含有量は蛍光X線分析(XRF)装置を用いて測定し、炭素については、炭素分析装置を用いて測定した。
その後、実施例1と同様に、色差,色むら,チッピングおよび耐傷性のテストを行ない、さらに、耐食性試験について、同じ試料No.の焼結体をそれぞれ20個作製し、ISO(国際標準化機構)規格に則した人工汗(pH4.7)を腐食液として使用し、温度を40℃±2℃に保持した人工汗中に試料を72時間浸して、色差に影響が生じるかどうかをテストした。そして、耐食性試験をする前の試料で行なった各試料の色差に変化がない場合を○とし、変化があった場合を×として判断した。
また、耐磨耗性の評価については、図5に示す例の耐磨耗性評価装置を用いて、試料No.25〜30の円柱状の装飾部品用セラミックスを所定位置(図5において、装飾部品用セラミックス71の位置)に治具で固定した後、水0.001m3に対して半磁器土(粘土の中に磁器土(陶石)を配合した粘土)を10g投入し混合して水槽74中に泥水を準備した。そして、おもり75の質量を500gに、糸72が円柱状の装飾部品用セラミックスの外周側を摺動する速度を60m/分に、糸72の走行距離を3000mとなるように設定し、泥水が付着したナイロン製(東レ製 銀鱗Σ3号)の糸72を、円柱状の装飾部品用セラミックスの外周側で摺動させた。その後、表面形状測定顕微鏡(キーエンス製 測定部VF−7510/コントローラVF−7500)を用いて、糸72を摺動させることによって円柱状の装飾部品用セラミックスが磨耗して生じた傷の最も深い部分を測定し、各試料6個の平均値を磨耗深さとして算出した。そして、磨耗深さが5μm以下の場合は磨耗痕が目立たないため○として使用可能で合格と判定し、磨耗深さが5μmを超える場合は磨耗痕が目立つため×として使用不可能で不合格とした。結果を表3に示す。
表3に示す通り、試料No.25は、ジルコニアの含有量が9質量%未満と少ないことから、セラミックスの表面にジルコニアの粒子が十分に存在せず、釣糸が接触しながら移動したときに窒化チタンや結合相の酸化や磨耗を抑える効果が低下し、そのために磨耗量が増加したと考えられる。また、試料No.30は、ジルコニアの含有量が30質量%を超えているため、焼結時のジルコニアの相変態に伴う体積膨張や体積収縮の変化量のセラミックス全体の体積に対する比率が大きくなり、焼結後のセラミックスにクラックが残留して、チッピング、耐傷性、耐磨耗性が低下したことが分かる。
これに対して、試料No.26〜29は、ジルコニアの含有量が9質量%以上30質量%以下の範囲のため、釣糸などがセラミックスの表面を接触しながら移動して窒化チタンや結合相が磨耗しても、ジルコニアの結晶粒子は表面に突起状に残り、これが釣糸と接触することから、窒化チタンや結合相の酸化は進行が遅くなり磨耗(機械的特性)も抑制されたことが分かる。
(実施例4)
ニッケルを含有することによる特性の変化を確認する試験を行なった。
まず、窒化チタン粉末(純度99%,平均粒径22.3μm),コバルト粉末(純度99%以上,平均粒径1.3μm),クロム粉末(純度99%,平均粒径55μm),ニオブ粉末(純度99.5%,平均粒径33μm),ジルコニア粉末(純度99%以上,平均粒径1.5μm),ニッケル粉末(純度99.5%,平均粒径12.8μm)および炭素粉末(純度99%以上,平均粒径0.5μm)を、焼結体での比率(含有量)が表4に示す比率になるように秤量し、粉砕・混合して調合原料とした。次に、実施例1と同様の製造方法にて、試料No.31〜42の窒化チタン質焼結体からなる装飾部品用セラミックスを得た。
その後、実施例1と同様に各試料を構成するチタン,コバルト,クロム,ニオブ,ジルコニアおよびニッケルの含有量は蛍光X線分析(XRF)装置を用いて測定し、炭素については炭素分析装置を用いて測定した。
その後、実施例1と同様に、色差,色むら,チッピングおよび耐傷性のテストを行ない、さらに、耐食性試験について、同じ試料No.の焼結体をそれぞれ20個作製し、ISO(国際標準化機構)規格に則した人工汗(pH4.7)を腐食液として使用し、温度を40℃±2℃に保持した人工汗中に試料を72時間浸して、色差に影響が生じるかどうかをテストした。そして、耐食性試験をする前の試料で行なった各試料の色差に変化がない場合を○とし、変化があった場合を×として判断した。結果を表4に示す。
表4に示す通り、試料No.34,38,42は、ニッケルの含有量が1質量%を超えるものであり最大色差は1.3以下であり、色むら,チッピングおよび耐傷性の評価は◎であったが、耐食性については×であった。これは、結合相の表面から微量のニッケルが溶出したため、評価前の試料に対して色差が発生したためである。これに対して、試料No.31〜33,35〜37および39〜41は、ニッケルの含有量が1質量%以下であることから、コバルト,クロムおよび炭素の組成が適正であり、さらにニッケルにより焼結性が向上したため、機械的強度が保たれたことで、色差は1.2以下となり、その他の評価項目の色むら,チッピングおよび耐傷性の評価は◎、耐食性については○となったことが分かる。このことから、ニッケルの含有量が1質量%以下であれば、より色差を抑えられ、色むら,チッピング,耐傷性を抑えられることから、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得られるような美しい黄金色の装飾面を形成することができるとともに、機械的強度が保たれたことが分かる。
(実施例5)
モリブデンのコバルトに対する割合を変化させることによる特性の変化を確認する試験を行なった。
まず、窒化チタン粉末(純度99%,平均粒径22.3μm),コバルト粉末(純度99%以上,平均粒径1.3μm),クロム粉末(純度99%,平均粒径55μm),ニオブ粉末(純度99.5%,平均粒径33μm),ジルコニア粉末(純度99%以上,平均粒径1.5μm),炭素粉末(純度99%以上,平均粒径0.5μm)およびモリブデン粉末(純度99%以上,平均粒径3.3μm)を焼結体での比率(含有量)が表5に示す比率になるように秤量し、粉砕・混合して調合原料とした。
次に、実施例1と同様の製造方法にて試料No.43〜60の窒化チタン質焼結体からなる装飾部品用セラミックスを得た。
その後、実施例1と同様に各試料を構成するチタン,コバルト,クロム,クロム,ニオブ,ジルコニアおよびモリブデンの含有量はICP発光分光分析装置を用いて測定し、炭素については炭素分析装置を用いて測定した。
その後、実施例1と同様に、色差,色むら,チッピングおよび耐傷性のテストを行なった。結果を表5に示す。
表5に示す通り、試料No.48,54および60は、モリブデンのコバルトに対する割合が35%を超えているため、結合相にモリブデンリッチな相が析出して組織が部分的に不均一な状態となり、セラミックスを全体的に均一に加工することが難しくなって、脱粒やチッピングが増加したことが分かる。これに対して、試料No.43〜47,49〜53および55〜59は、モリブデンのコバルトに対する含有量の割合が35%以下であることから、色差が1.4以下と小さいことに加えて、焼成温度が下がって結晶粒の粒成長を抑制し、加工時には脱粒やチッピングが生じにくくなったことが分かる。このことから、モリブデンのコバルトに対する割合が35%以下であれば、より高級感,美的満足感および精神的安らぎを得られるような美しい黄金色の装飾面を形成することができるとともに、色差が小さく、色むらも少なく、機械的加工時の脱粒やチッピングが抑制され、機械的強度が保たれたことが分かる。
(実施例6)
チタンを除く金属元素中におけるクロムの含有量を変化させることによる特性の変化を確認する試験を行なった。
まず、窒化チタン粉末(純度99%,平均粒径22.3μm),コバルト粉末(純度99%以上,平均粒径1.3μm),クロム粉末(純度99%,平均粒径55μm),ジルコニア粉末(純度99%以上,平均粒径1.5μm)および炭素粉末(純度99%以上,平均粒径0.5μm)を焼結体での比率(含有量)が表6に示す比率になるように秤量し、粉砕・混合して調合原料とした。
次に、実施例1と同様の製造方法にて試料No.61〜70の窒化チタン質焼結体からなる装飾部品用セラミックスを得た。
その後、実施例1と同様に各試料を構成するチタン,コバルト,クロムおよびジルコニアの含有量はICP発光分光分析装置を用いて測定し、炭素については、炭素分析装置を用いて測定した。
その後、実施例1と同様に、色差,色むら,チッピングおよび耐傷性のテストを行なった。結果を表6に示す。
表6に示す通り、試料No.61および66は、チタンを除く金属元素中におけるクロムの含有量が10質量%未満であるため、焼結性が僅かに低下して、窒化チタンの脱粒が生じて加工時にチッピングが発生し、セラミックスの表面が荒れて僅かに色差が大きくなった。また、試料No.65および70は、チタンを除く金属元素中におけるクロムの含有量が40質量%を超えるため、クロムリッチな相が現れて窒化チタンの脱粒やボイドが発生したため、セラミックスの表面が荒れて色差が大きくなったことが分かる。これに対して、試料No.62〜64および67〜69は、チタンを除く金属元素中においてクロムが10質量%以上40質量%未満の含有量であるため、焼結性が良く、セラミックスの表面が滑らかとなり、色差が1.3以下と小さくなった。また、クロムがコバルトと窒化チタンとの結晶粒界に固溶して、結合相と窒化チタンとの濡れ性を改善して焼結性を向上したため、加工時に窒化チタンの脱粒やチッピングが抑制されたことが分かる。このことから、チタンを除く金属元素中にクロムを10質量%以上40質量%未満の含有量で含むものであれば、より高級感,美的満足感および精神的安らぎを得られるような美しい黄金色の装飾面を形成することができるとともに、色差が小さく、色むらも少なく、機械的加工時の脱粒やチッピングが抑制され、機械的強度が保たれたことが分かる。
(実施例7)
チタンを除く金属元素中におけるニオブの含有量を変化させることによる特性の変化を確認する試験を行なった。
まず、窒化チタン粉末(純度99%,平均粒径22.3μm),コバルト粉末(純度99%以上,平均粒径1.3μm),クロム粉末(純度99%,平均粒径55μm),ニオブ粉末(純度99.5%,平均粒径33μm)および炭素粉末(純度99%以上,平均粒径0.5μm)を焼結体での比率(含有量)が表7に示す比率になるように秤量し、粉砕・混合して調合原料とした。
次に、実施例1と同様の製造方法にて試料No.71〜76の窒化チタン質焼結体からなる装飾部品用セラミックスを得た。
その後、実施例1と同様に各試料を構成するコバルト,クロム,ニオブの含有量は蛍光X線分析(XRF)装置を用いて測定し、炭素については、炭素分析装置を用いて測定した。
その後、実施例1と同様に、色差,色むら,チッピングおよび耐傷性のテストを行なった。結果を表7に示す。
表7に示す通り、本発明の範囲外の試料No.71は、チタンを除く金属元素中におけるニオブの含有量が10質量%未満であるため、焼結性が僅かに低下して、窒化チタンの脱粒が生じて加工時にチッピングが発生し、セラミックスの表面が荒れて僅かに色差が大きくなった。また、本発明の範囲外の試料No.76は、チタンを除く金属元素中におけるニオブの含有量が40質量%を超えるため、ニオブリッチな相が現れて窒化チタンの脱粒やボイドが発生したため、セラミックスの表面が荒れて色差が大きくなったことが分かる。これに対して、試料No.72〜75は、チタンを除く金属元素中においてニオブが10質量%以上40質量%未満の含有量であるため、焼結性が良く、セラミックスの表面が滑らかとなり、色差が小さく◎となった。また、ニオブがコバルトと窒化チタンとの結晶粒界に固溶して、結合相と窒化チタンとの濡れ性を改善して焼結性を向上したため、加工時に窒化チタンの脱粒やチッピングが抑制されたことが分かる。このことから、チタンを除く金属元素中にニオブを10質量%以上40質量%未満の含有量で含むものであれば、より高級感,美的満足感および精神的安らぎを得られるような美しい黄金色の装飾面を形成することができるとともに、色差が小さく、色むらも少なく、機械的加工時の脱粒やチッピングが抑制され、機械的強度が保たれたことが分かる。
(実施例8)
また、本発明の装飾部品用セラミックスを用いて、時計用装飾部品である時計用ケースや時計バンド駒,釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングおよびこの釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイド,携帯端末機用装飾部品である携帯電話の各種操作キーやケース,生活用品用装飾部品である蛇口やシャワーヘッドを作製したところ、耐磨耗性に優れ高い硬度を有していることから表面に傷が付きにくく、黄金色の色調を長期にわたり維持することができるので、これらの装飾部品を用いれば、高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与え続ける魅力的な商品を構成することができることが分かった。
以上説明したような本発明の装飾部品用セラミックスを用いて、時計用装飾部品,釣糸案内用装飾部品,携帯電話機用装飾部品,腕時計型携帯電話機用装飾部品を始め、装身具用装飾部品,建材用装飾部品や生活部品用装飾部品として用いれば、美しい色調として評価の高い黄金色を呈し、高級感があって、美的満足感を得ることができ、その結果、視覚を通じて精神的安らぎを得ることができて好適である。