しかしながら、この特許文献1に提案された装置では、エンジンが自動停止されたタイミングで電動モータの回転数を漸次低減するものであるため、例えば、エンジンの自動停止からある程度時間が経過した後に操舵操作を行った場合には、操舵アシストが急激に減少したような違和感を運転者に与えてしまう。
本発明の目的は、上記問題に対処するためになされたもので、アイドリングストップ機能によりエンジンが自動停止した場合に、運転者に違和感を与えないように操舵アシストを制限して車載電源の電力消費を抑制することにある。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、バッテリおよびエンジンの回転により発電するオルタネータを有する車載電源と、前記バッテリからの給電によりエンジンを始動するスタータと、予め設定されたアイドリングストップ条件に基づいてエンジンを自動停止・自動再始動させるアイドリングストップ制御装置とを備えた車両に適用され、前記車載電源から電源供給されてステアリング機構に対して操舵アシスト力を付与する電動モータと、操舵ハンドルの操舵状態に基づいて、前記電動モータの通電を制御するアシスト制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置において、
前記アイドリングストップ制御装置の制御状態情報であるアイドリングストップ情報を取得するアイドリングストップ情報取得手段と、前記アイドリングストップ情報取得手段により取得したアイドリングストップ情報がエンジンの自動停止中であることを表す情報である場合には、前記操舵ハンドルに入力された操舵量が予め設定された設定操舵量を上回った時点から、前記電動モータに流す事ができる上限値である上限電流値を時間経過とともに低減していく上限電流制御手段とを備えたことにある。
本発明は、アイドリングストップ制御装置を備えた車両に適用される電動パワーステアリング装置であって、エンジンの自動停止中に運転者に違和感を与えることなく電動モータの通電量を低減して車載電源の電力消費を抑制するために、アイドリングストップ情報取得手段と上限電流制御手段とを備えている。アイドリングストップ情報取得手段は、アイドリングストップ制御装置からその制御状態情報であるアイドリングストップ情報を取得する。上限電流制限手段は、取得したアイドリングストップ情報がエンジンの自動停止中であることを表す情報である場合には、操舵ハンドルに入力された操舵量が予め設定された設定操舵量を上回った時点から、電動モータに流す事ができる上限値である上限電流値を時間経過とともに低減していく。従って、エンジンの自動停止中であっても、設定操舵量を上回る操舵操作が行われていないあいだは、電動モータの上限電流値が低減されないため、操舵操作開始時においては大きな操舵アシストが得られる。そして、その後、時間の経過とともに上限電流値の低減により操舵アシスト力が次第に制限される。この結果、運転者に対して急激に操舵アシストが減少してしまったという違和感を与えることが無く、かつ、車載電源の電力消費を抑制してスタータにより次のエンジンの自動再始動を良好に行うことができる。
この場合、前記操舵量は、操舵ハンドルに入力された操舵トルク、あるいは、操舵ハンドルの操舵速度であることが好ましい。つまり、操舵ハンドルに入力された操舵トルク、あるいは、操舵ハンドルの操舵速度を検出する操舵量検出手段を備え、上限電流制御手段は、その検出した操舵トルク、あるいは、操舵速度が設定値を上回った時点から上限電流値を時間経過とともに低減する。これによれば、操舵操作の開始タイミングを適正に判断して、そのタイミングで上限電流値の低減を行うことができる。
本発明の他の特徴は、前記車載電源により充電され、前記電動モータへの電源供給を補助する副電源を備えたことにある。
本発明においては、車載電源により充電される副電源を備えているため、この副電源により電動モータへの電源供給を補助することができる。エンジンが自動停止している場合には、オルタネータが発電していないため、車載電源としてはバッテリしか利用できない。そこで、本発明では、副電源を備えることにより、車載電源に加えて副電源からも電動モータに電源供給できる。このため、エンジン自動停止中における電動モータの通電量の制限だけでなく、副電源による電源供給の補助により車載電源のバッテリの電力消費を抑制するため、スタータの作動に必要な電力を十分確保しておくことができ、次のエンジンの自動再始動を良好に行うことができる。
また、エンジン自動停止中における操舵操作は、ほとんどの場合、据え切り操作となるため電動モータの必要通電量が大きいが、副電源によるバックアップにより電動モータを良好に駆動することができる。また、エンジン自動再始動中においては、スタータが作動して車載電源のバッテリから大電流を引き出して車載電源電圧が変動するが、そのとき操舵操作が行われても、副電源が車載電源電圧の変動を補償して操舵アシスト用の電動モータに通電するため、良好な操舵アシストを得ることができる。
本発明の他の特徴は、前記電動モータへの電源供給能力を検出する電源供給能力検出手段と、前記時間経過とともに低減される上限電流値の最終値である最小上限値を、前記電動モータへの電源供給能力が低い場合には高い場合に比べて低く設定する最小上限値設定手段とを備えたことにある。
本発明においては、エンジンの自動停止中において、操舵ハンドルに入力された操舵量が予め設定された設定操舵量を上回った時点から、電動モータの上限電流値を時間経過とともに最小上限値にまで低減していく。この最小上限値は、最小上限値設定手段により、電動モータへの電源供給能力が低い場合には高い場合に比べて低く設定される。電動モータへの電源供給能力は、エンジン自動停止中における電源供給能力であって、車載電源のバッテリの電源供給能力となる。車載電源に加えて副電源を備えている場合には、バッテリと副電源とを合わせた電源供給能力としてもよい。こうした電源供給能力は、電源供給能力検出手段により検出される。そして、この電源供給能力が低い場合には最小上限値が低く設定されるため、バッテリの電源供給能力に適した電流制限を行うことができる。この結果、スタータの作動に必要な電力を十分確保しておくことができ、次のエンジンの自動再始動を良好に行うことができる。
本発明の他の特徴は、前記アシスト制御手段により制御される前記電動モータの通電電流が、前記最小上限値に制限される状態が設定時間以上継続した場合に、前記アイドリングストップ制御装置にエンジン再始動の指令を出力するエンジン再始動指令手段を備えたことにある。
本発明においては、エンジンの自動停止中において、操舵ハンドルに入力された操舵量が予め設定された設定操舵量を上回った時点から、電動モータの上限電流値を時間経過とともに最小上限値にまで低減していく。そして、アシスト制御手段により制御される電動モータの通電電流が最小上限値に制限される状態が設定時間以上継続すると、エンジン再始動指令手段がアイドリングストップ制御装置に対してエンジン再始動の指令を出力する。従って、車載電源のバッテリの過剰な電力消費を防止する。この結果、スタータの作動に必要な電力を十分確保しておくことができ、次のエンジンの自動再始動を良好に行うことができる。
本発明の他の特徴は、前記上限電流制御手段は、前記アイドリングストップ情報取得手段により取得したアイドリングストップ情報がエンジン停止中であることを表す情報からエンジンが始動されたこと表す情報に切り替わった後に、前記上限電流値を時間経過とともに増加させることにある。
本発明においては、エンジンが再び始動された後に、上限電流制御手段が上限電流値を時間経過とともに増加させる。このため、オルタネータの発電によりバッテリの負担を抑えた状態で操舵アシストを増加させることができる。また、運転者は操舵アシスト力の復帰(増加)に対して違和感を覚えない。
本発明の他の特徴は、前記電動モータへの電源供給能力を検出する電源供給能力検出手段と、前記電動モータへの電源供給能力が予め設定した基準値を下回っている場合には、前記アイドリングストップ制御装置にエンジン自動停止の禁止指令を出力するエンジン自動停止禁止指令手段とを備えたことにある。
本発明においては、電源供給能力検出手段により検出した電動モータへの電源供給能力が予め設定した基準値を下回っている場合には、エンジン自動停止禁止指令手段がアイドリングストップ制御装置にエンジン自動停止の禁止指令を出力する。このため、車載電源のバッテリに大きな負荷をかけることなく、電動モータを駆動して操舵アシストを行うことができる。
以下、本発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング装置について図面を用いて説明する。図1は、同実施形態として車両の電動パワーステアリング装置の概略構成を表している。
本実施形態の車両の電動パワーステアリング装置は、操舵ハンドル11の操舵操作により転舵輪を転舵するステアリング機構10と、ステアリング機構10に組み付けられ操舵アシストトルクを発生する電動モータ20と、電動モータ20を駆動制御するアシスト制御装置30と、電動モータ20の電源供給を補助する副電源50とを主要部として備えている。
ステアリング機構10は、操舵ハンドル11の回転操作により左右前輪FWL,FWRを転舵するための機構で、操舵ハンドル11を上端に一体回転するように接続したステアリングシャフト12を備える。このステアリングシャフト12の下端には、ピニオンギヤ13が一体回転するように接続されている。ピニオンギヤ13は、ラックバー14に形成されたラック歯と噛み合って、ラックバー14とともにラックアンドピニオン機構を構成する。ラックバー14の両端には、タイロッド15L,15Rを介して左右前輪FWL,FWRのナックル(図示略)が操舵可能に接続されている。左右前輪FWL,FWRは、ステアリングシャフト12の軸線回りの回転に伴うラックバー14の軸線方向の変位に応じて左右に操舵される。
ラックバー14には、操舵アシスト用の電動モータ20が組み付けられている。電動モータ20の回転軸は、ボールねじ機構16を介してラックバー14に動力伝達可能に接続されていて、その回転により左右前輪FWL,FWRの操舵をアシストする。ボールねじ機構16は、減速機および回転−直線変換器として機能するもので、電動モータ20の回転を減速するとともに直線運動に変換してラックバー14に伝達する。
ステアリングシャフト12には、操舵トルクセンサ21が設けられる。操舵トルクセンサ21は、操舵ハンドル11の回動操作によってステアリングシャフト12に作用する操舵トルクに応じた信号を出力する。この操舵トルクセンサ21から出力される信号により検出される操舵トルクの値を、以下、操舵トルクTxと呼ぶ。操舵トルクTxは、正負の値により操舵ハンドル11の操作方向が識別される。本実施形態においては、操舵ハンドル11の右方向への操舵時における操舵トルクTxを正の値で、操舵ハンドル11の左方向への操舵時における操舵トルクTxを負の値で示す。従って、操舵トルクTxの大きさは、その絶対値の大きさとなる。
電動モータ20には、回転角センサ22が設けられる。この回転角センサ22は、電動モータ20内に組み込まれ、電動モータ20の回転子の回転角度位置に応じた検出信号を出力する。この回転角センサ22の検出信号は、電動モータ20の回転角および回転角速度の計算に利用される。一方、この電動モータ20の回転角は、操舵ハンドル11の操舵角に比例するものであるので、操舵ハンドル11の操舵角としても共通に用いられる。また、電動モータ20の回転角を時間微分した回転角速度は、操舵ハンドル11の操舵角速度に比例するものであるため、操舵ハンドル11の操舵速度としても共通に用いられる。以下、回転角センサ22の出力信号により検出される操舵ハンドル11の操舵角の値を操舵角θxと呼び、その操舵角θxを時間微分して得られる操舵角速度の値を操舵速度ωxと呼ぶ。操舵角θxは、正負の値により操舵ハンドル11の中立位置に対する右方向および左方向の舵角をそれぞれ表す。本実施形態においては、操舵ハンドル11の中立位置を「0」とし、中立位置に対する右方向への舵角を正の値で示し、中立位置に対する左方向への舵角を負の値で示す。
尚、本願明細書においては、操舵トルクTx、あるいは、操舵速度ωxについて設定値と比較するが、この比較にあたっては、その大きさ、つまり、絶対値を使って比較する。
アシスト制御装置30は、電動モータ20を駆動するためのモータ駆動回路31と、モータ駆動回路31の通電量を制御して操舵アシストトルクを制御する操舵アシスト用電子制御装置32とを備えている。以下、操舵アシスト用電子制御装置32をアシストECU32と呼ぶ。
モータ駆動回路31は、MOS−FETからなる6個のスイッチング素子により3相インバータ回路を構成したものであり、上アームと下アームとの間から電動モータ20への電源供給ライン33が引き出されている。モータ駆動回路31には、電流センサ34が設けられている。電流センサ34は、各相(U相,V相,W相)に流れる電流をそれぞれ検出(測定)し、その検出した電流値に対応した検出信号をアシストECU32に出力する。以下、この検出された電流値を、モータ電流iuvwと呼び、電流センサ34をモータ電流センサ34と呼ぶ。
モータ駆動回路31の各スイッチング素子は、それぞれゲートがアシストECU32に接続され、アシストECU32からのPWM制御信号によりデューティ比が制御される。これにより電動モータ20の駆動電圧が目標電圧に調整される。
次に、電動パワーステアリング装置の電源供給系統について説明する。
電動パワーステアリング装置は、主電源100から電源供給される。主電源100は、定格出力電圧12Vの一般的な車載バッテリである主バッテリ101と、エンジンの回転により発電する定格出力電圧14Vのオルタネータ102とを並列接続して構成される。従って、主電源100は、14V系の車載電源を構成している。主バッテリ101には、電圧センサ61と電流センサ62とが設けられている。電圧センサ61は、主バッテリ101の端子電圧(電源電圧)を検出し、その検出した電圧値に対応した検出信号をアシストECU32に出力する。電流センサ62は、主バッテリ101に流れる電流をその通電方向(充電あるいは放電)を区別して検出、その検出した電流値に対応した検出信号をアシストECU32に出力する。以下、電圧センサ61を主電圧センサ61と呼び、主電圧センサ61により検出された電圧値を主電源電圧v1と呼ぶ。また、電流センサ62を主電流センサ62と呼び、主電流センサ62により検出された電流値を主バッテリ電流i1と呼ぶ。主バッテリ電流i1は、主バッテリ101が充電される方向に流れる電流を正の値で表し、主バッテリ101から放電する方向に流れる電流を負の値で表すことにする。
この主電源100は、電動パワーステアリング装置だけでなく他の車載電気負荷への電源供給も共通して行うもので本発明の車載電源に相当する。主電源100のプラス端子には電源供給元ライン103が接続され、接地端子には接地ライン104が接続される。電源供給元ライン103と接地ライン104との間には、エンジンの始動時に駆動されるエンジンスタータ105が設けられる。このエンジンスタータ105は、エンジン制御装置(以下、エンジンECUと呼ぶ)200からの駆動信号により、内蔵された電動モータ(図示略)を作動させてエンジンを始動させる。
電源供給元ライン103は、制御系電源ライン106と駆動系電源ライン107とに分岐する。制御系電源ライン106は、アシストECU32、エンジンECU200、アイドリングストップECU201など車両に設けられた制御システムの中枢である電子制御装置(ECU)への電源供給ラインとなる。一方、駆動系電源ライン107は、モータ駆動回路31などの車載大電力負荷への電源供給ラインとなる。
制御系電源ライン106には、電源バックアップ用昇圧回路108(図中においてはBBCと表示)が設けられる。車両に設けられる各ECUはマイクロコンピュータを備えているため、電源電圧が変動して最低作動電圧を下回ってしまうと適正に動作しなくなる。そこで、電源バックアップ用昇圧回路108を設けることにより、主電源100から供給される電源の電圧が一時的にドロップした場合であっても、制御系電源ライン106に接続される負荷に対して安定した電圧の電源を供給する。尚、図1においては、各ECUの接地ラインの記載を省略している。
駆動系電源ライン107と接地ライン104とは、モータ駆動回路31の電源入力部に接続される。また、駆動系電源ライン107および接地ライン104には、副電源ライン109および副電源接地ライン110が分岐して設けられる。副電源ライン109は副電源50のプラス端子に接続され、副電源接地ライン110は副電源50の接地端子に接続される。
副電源50は、主電源100により充電され、モータ駆動回路31への電源供給を補助する蓄電装置である。本実施形態においては、急速充放電可能な蓄電ディバイスであるキャパシタ(電気二重層コンデンサ)を用いるが、他の蓄電装置を用いることもできる。
副電源ライン109の途中には、スイッチ111が設けられる。このスイッチ111は、アシストECU32から出力される開閉制御信号により回路を開閉するもので電磁リレーや半導体スイッチング素子などを用いることができる。スイッチ111は、アシストECU32からオン信号を入力したときに、駆動系電源ライン107と副電源50とを接続して副電源50を充放電可能状態にし、アシストECU32からオフ信号を入力したときに、駆動系電源ライン107と副電源50との接続を遮断して副電源50を充放電不能状態にする。本実施形態においては、スイッチ111は、後述する操舵アシスト制御を開始するするときにオンされ、操舵アシスト制御を終了するときにオフされる。
副電源50には、電圧センサ63と電流センサ64とが設けられている。電圧センサ63は、副電源50の端子電圧(電源電圧)を検出し、その検出した電圧値に対応した検出信号をアシストECU32に出力する。電流センサ64は、副電源50に流れる電流をその通電方向(充電あるいは放電)を区別して検出、その検出した電流値に対応した検出信号をアシストECU32に出力する。以下、電圧センサ63を副電圧センサ63と呼び、副電圧センサ63により検出された電圧値を副電源電圧v2と呼ぶ。また、電流センサ64を副電流センサ64と呼び、副電流センサ64により検出された電流値を副電源電流i2と呼ぶ。副電源電流i2は、副電源50が充電される方向に流れる電流を正の値で表し、副電源50から放電する方向に流れる電流を負の値で表すことにする。
アシストECU32は、CPU,ROM,RAM等からなるマイクロコンピュータを主要部として構成される。また、アシストECU32は、後述する電源供給能力等を記憶保持するための不揮発性メモリも備えている。アシストECU32は、操舵トルクセンサ21、回転角センサ22、モータ電流センサ34、主電圧センサ61、主電流センサ62、副電圧センサ63、副電流センサ64、車速センサ23を接続し、操舵トルクTx、操舵角θx、モータ電流iuvw、主電源電圧v1、主バッテリ電流i1、副電源電圧v2、副電源電流i2、車速Vxを表すセンサ信号を入力する。
また、アシストECU32は、アイドリングストップECU201と相互に通信可能に接続されており、アイドリングストップECU201が行うアイドリングストップ制御の制御状態情報を表す信号を入力する。アシストECU32は、これらのセンサ信号、および、アイドリングストップ制御状態情報(以下、アイドリングストップ情報と呼ぶ)に基づいて、後述する操舵アシスト制御ルーチンを実行することにより、モータ駆動回路31にPWM制御信号を出力して電動モータ20を駆動制御し、運転者の操舵操作をアシストする。
アイドリングストップECU201は、マイクロコンピュータを主要部として構成され、予め設定されたアイドリングストップ条件にしたがって、エンジンECU200に対してエンジンの停止指令と再始動指令とを出力するもので、本発明のアイドリングストップ制御装置に相当する。アイドリングストップECU201は、車速センサ23や図示しないブレーキペダルセンサ、クラッチペダルセンサ、シフトポジションセンサ、エンジン回転数センサ等を接続する。そして、これらのセンサ信号に基づいて車両の停止状態あるいは車両の停止が予測される状態を検出したときにエンジンECU200に停止指令を出力してエンジンを自動停止させ、運転者の発進操作を検出したときにエンジンECU200に再始動指令を出力してエンジンを自動再始動させる。
アイドリングストップ条件は、エンジンの自動停止条件と自動再始動条件とからなりアイドリングストップECU201のROM内に記憶されている。アイドリングストップ条件は、オートマチックトランスミッション車(AT車)とマニュアルトランスミッション車(MT車)とで異なっている。AT車においては、例えば、車速がゼロで、かつ、ブレーキペダルが踏まれていることを検出したときにエンジンの自動停止条件が満たされてエンジンECU200に停止指令を出力する。また、エンジンの自動停止中においては、ブレーキペダルが開放されたことを検出したときエンジンの自動再始動条件が満たされてエンジンECU200に再始動指令を出力する。
また、MT車においては、例えば、車速が基準速度未満で、かつ、クラッチペダルが踏まれているかシフトポジションがニュートラルになっており、かつ、エンジン回転数がアイドリング回転数にまで低下していることを検出したときにエンジンの自動停止条件が満たされてエンジンECU200に停止指令を出力する。この場合、車両の停止が予測される状態を検出することにより、車速条件となる基準速度をゼロより大きな値に設定してもよい。また、エンジンの自動停止中においては、クラッチペダルによる半クラッチ操作、あるいは、開放されていたクラッチペダルが踏まれたことを検出したときにエンジンの自動再始動条件が満たされてエンジンECU200に再始動指令を出力する。
尚、アイドリングストップ条件は、他の条件を使用したり組み合わせたりすることもできる。例えば、エアコンディショナーの負荷が高い場合には、エンジンの自動停止を許可しないようにしてもよい。
アイドリングストップECU201は、その制御状態情報であるアイドリングストップ情報をアシストECU32に出力する。アイドリングストップ情報は、アイドリングストップECU201がエンジンECU200に対して停止指令を出力してエンジンが停止中となっている制御状態(自動停止状態)と、アイドリングストップECU201がエンジンECU200に対して再始動指令を出力してエンジンが始動中となっている制御状態(自動再始動状態)と、エンジンの始動が完了してアイドリングストップECU201がエンジンECU200に対して上記制御指令を出力していない状態(通常作動状態)との3種類に分けられる。尚、本実施形態においては、アシストECU32は、アイドリングストップ情報をアイドリングストップECU201から取得するが、エンジンECU200から取得するようにしてもよい。
次に、アシストECU32が行う操舵アシスト制御処理について説明する。図2は、アシストECU32により実施される操舵アシスト制御ルーチンを表す。操舵アシスト制御ルーチンは、アシストECU32のROM内に制御プログラムとして記憶され、イグニッションスイッチ(図示略)がオンされて初期診断が完了した後に起動し、所定の短い周期で繰り返される。
本制御ルーチンが起動すると、アシストECU32は、まず、ステップS11において、車速センサ23によって検出された車速Vxと、操舵トルクセンサ21によって検出された操舵トルクTxとを読み込む。
続いて、ステップS12において、図3に示すアシストトルクテーブルを参照して、入力した車速Vxおよび操舵トルクTxに応じて設定される基本アシストトルクTasを計算する。アシストトルクテーブルは、アシストECU32のROM内に記憶されるもので、操舵トルクTxの増加にしたがって基本アシストトルクTasも増加し、しかも、車速Vxが低くなるほど大きな値となるように設定される。尚、図3のアシストトルクテーブルは、右方向の操舵トルクTxに対する基本アシストトルクTasの特性を表すが、左方向の特性については方向が反対になるだけで絶対値でみれば同じである。
続いて、アシストECU32は、ステップS13において、この基本アシストトルクTasに補償トルクを加算して目標指令トルクT*を計算する。この補償トルクは、操舵角θxに比例して大きくなるステアリングシャフト12の基本位置への復帰力と、操舵速度ωxに比例して大きくなるステアリングシャフト12の回転に対向する抵抗力に対応した戻しトルクとの和として計算する。この計算に当たっては、回転角センサ22にて検出した電動モータ20の回転角(操舵ハンドル11の操舵角θxに相当)を入力して行う。また、操舵速度ωxについては、操舵ハンドル11の操舵角θxを時間で微分して求める。尚、操舵速度ωxについては、電動モータ20で発生する逆起電力から推定してもよい。
次に、アシストECU32は、ステップS14において、目標指令トルクT*に対応した電流値である目標電流ias*を計算する。目標電流ias*は、目標指令トルクT*をトルク定数で除算することにより求められる。
続いて、アシストECU32は、ステップS15において、電動モータ20に流すことのできる上限値である上限電流値ilimを設定する。上限電流値ilimは、電動モータ20やモータ駆動回路31の過電流保護を図るために設定されるが、アイドリングストップ制御によるエンジン自動停止中(始動中も含む)においては、主バッテリ101の電力消費を抑制するために低い値に設定される。この上限電流値ilimの設定処理については、図4に示すサブルーチンを用いて後述する。
続いて、アシストECU32は、ステップS16において、先のステップS14で計算した目標電流ias*がステップS15で設定した上限電流値ilimよりも大きいか否かを判断する。そして、目標電流ias*が上限電流値ilimよりも大きい場合には(S16:Yes)、ステップS17において、目標電流ias*を上限電流値ilimに設定する。つまり、ステップS14で計算した目標電流ias*では、大きすぎるため、上限電流値ilimを新たに目標電流ias*として設定するわけである。一方、目標電流ias*が上限電流値ilim以下であれば、目標電流ias*を変更しない。
続いて、アシストECU32はステップS18において、電動モータ20に流れるモータ電流iuvwをモータ電流センサ34から読み込む。続いて、ステップS19において、このモータ電流iuvwと先に計算した目標電流ias*との偏差Δiを計算し、この偏差Δiに基づくPI制御(比例積分制御)により目標指令電圧v*を計算する。尚、目標指令電圧v*の計算に当たっては、3相のモータ電流iuvwを3相/2相変換によりd−q座標系の2相電流(d軸電流、q軸電流)に変換し、2相の目標電流ias*(d軸目標電流、q軸目標電流)との偏差を計算する。そして、2相/3相変換により2相の電流偏差に応じた3相の目標指令電圧v*を計算する。
そして、アシストECU32は、ステップS20において、目標指令電圧v*に応じたPWM制御信号をモータ駆動回路31に出力して本制御ルーチンを一旦終了する。本制御ルーチンは、所定の速い周期で繰り返し実行される。従って、本制御ルーチンの実行により、モータ駆動回路31のスイッチング素子のデューティ比が制御されて、運転者の操舵操作に応じた所望のアシストトルクが得られる。尚、この操舵アシスト制御ルーチンを実行するアシストECU32およびモータ駆動回路31が本発明のアシスト制御手段に相当する。
次に、ステップS15の上限電流値設定処理について説明する。操舵アシスト制御の実行中においては、特に、停車時でのハンドル操作(据え切り操作)や、速いハンドル回動操作をしたときに大きな電力が必要とされる。ところが、アイドリングストップECU201によりアイドリングストップ制御が行われているとき(エンジン自動停止中あるいはエンジン自動再始動中)には、オルタネータ102が発電していないため、主電源100としては主バッテリ101しか利用できない。このため、アイドリングストップ制御中に、通常作動時(エンジン回転時)と同じ操舵アシスト制御を行ってしまうと主バッテリ101の電源供給能力が低下して、エンジンの自動再始動時にエンジンスタータ105に十分な電力供給を行えなくなるおそれがある。
そこで、本実施形態においては、副電源50を備えることにより、副電源50からも電動モータ20に電源供給して主バッテリ101の電力消費を抑える。しかし、副電源50を備えていても、主バッテリ101と副電源50とを合わせた電源供給能力が低下している場合には、アイドリングストップ制御中に、通常の操舵アシスト制御を継続してしまうと、主バッテリ101の電源供給能力の低下が進み、エンジン自動再始動時におけるエンジンスタータ105の作動に支障をきたすおそれがある。そこで、アイドリングストップ制御中においては、電動モータ20の上限電流値ilimを低減することにより主バッテリ101の電力消費を抑える。また、上限電流値ilimの低減にあたっては、運転者に対して違和感を与えないように行う。
図4は、上記操舵アシスト制御ルーチンにおけるステップS15の上限電流値設定処理を表したフローチャートである。この上限電流値設定ルーチンは、操舵アシスト制御ルーチンに組み込まれるものであるため、所定の短い周期で繰り返し行われる。また、上限電流値設定ルーチンの起動時においては、上限電流値ilimは、アイドリングストップ制御が行われていない通常時の上限電流値ilim1に設定されている。
上限電流値設定ルーチンが起動されると、アシストECU32は、ステップS51において、電源供給能力Aを読み込む。電源供給能力Aは、アシストECU32による別の制御ルーチンにより定期的に検出されている。本実施形態においては、主バッテリ101の電源電圧v1と副電源50の電源電圧v2とに基づいて電源供給能力Aを算出する。主バッテリ101および副電源50は、その電源電圧(出力電圧)が高いほど電源供給能力が高い状態にあると推定することができる。そこで、主バッテリ101と副電源50とを合わせた電源供給能力Aを次式のように設定する。
A=k1・v1+k2・v2
ここで、k1,k2は、重み付け係数であり主バッテリ101と副電源50の仕様等に基づいて任意に設定される。
アシストECU32は、図示しない電源供給能力検出ルーチンにより、主電圧センサ61,主電流センサ62,副電圧センサ63,副電流センサ64から主バッテリ101の電源電圧v1と副電源50の電源電圧v2を検出する。主電圧センサ61は、オルタネータ102が作動している場合は、オルタネータ102の出力電圧を検出してしまう可能性がある。そこで、主電流センサ62により主バッテリ電流i1を検出し、主バッテリ101から放電電流が流れ始めたタイミング(主バッテリ電流i1が正の値から負の値になるタイミング)を捉えて、そのときの主電圧センサ61により検出される電圧v1を主バッテリ101の電源電圧v1と判断して記憶する。同様に、副電流センサ64により副電源電流i2を検出し、副電源50から放電電流が流れ始めたタイミング(副電源電流i2が正の値から負の値になるタイミング)を捉えて、そのときの副電圧センサ63により検出される電圧v2を副電源50の電源電圧v2と判断して記憶する。そして、この記憶した電源電圧v1,v2の最新値を使って上記式により電源供給能力Aを算出し不揮発性メモリに記憶する。従って、ステップS51における処理は、この不揮発性メモリに記憶した電源供給能力Aを読み込む処理となる。尚、電源供給能力の検出は、電源電圧に基づいて行うものに限らず、充電量と放電量との積算値から算出するなど、種々の手法により行うことができる。
続いて、アシストECU32は、ステップS52において、電源供給能力Aが予め設定した基準値A0を下回っているか否かを判断する。電源供給能力Aが基準値A0以上あれば、そのまま上限電流値設定ルーチンを抜けて、上述したステップS16の処理(図2参照)に移行する。この場合、上限電流値ilimは、設定変更されないため、初期値である上限電流値ilim1に設定される。この上限電流値ilim1は、通常時(エンジン作動時)に適用される上限電流値であるため、以下、上限電流値ilim1を通常上限値ilim1と呼ぶ。
上限電流値設定ルーチンは、操舵アシスト制御ルーチンに組み込まれて所定の短い周期で繰り返される。ステップS52において、電源供給能力Aが基準値A0を下回っていると判断された場合は、ステップS53において、アイドリングストップECU201からアイドリングストップ情報を読み込む。続いて、ステップS54において、アイドリングストップ情報がエンジンの自動停止中であるか否かを判断する。尚、この場合、エンジンの自動停止中には、エンジンの再始動中も含まれている。
まず、エンジンの自動停止中における処理から説明する。エンジンが自動停止中である場合(S54:Yes)、アシストECU32は、ステップS55において、フラグFが「0」であるか否かを判断する。このフラグFは、後述する処理からわかるように、エンジンの自動停止中に所定の操舵操作が行われたときに「1」に設定されるもので、本ルーチンの起動時において「0」に設定されている。従って、ここでは、「Yes」と判断され、続くステップS56において、操舵トルクTxの大きさ|Tx|が予め設定された設定トルクT0を上回ったか否かを判断する。この設定トルクT0は、主バッテリ101の電力消費を抑制する必要があるほどの操舵状態(例えば、据え切り操作)か否かを判定する閾値として設定された値である。
操舵トルク|Tx|が設定トルクT0以下であれば、本ルーチンをそのまま抜ける。従って、上限電流値ilimは、設定変更されないため、通常上限値ilim1に設定された状態となる。こうした処理が繰り返され、エンジンの自動停止中に操舵トルク|Tx|が予め設定された設定トルクT0を上回ると(S56:Yes)、アシストECU32は、ステップS57において、フラグFを「1」に設定する。続いて、ステップS58において、現在の上限電流値ilimが最小上限値ilim0より大きいか否かを判断する。この最小上限値ilim0は、通常上限値ilim1よりも小さな値で、後述する処理からわかるように、時間経過とともに低減される上限電流値ilimの最終値である。この場合、上限電流値ilimは、初期値である通常上限値ilim1に設定されているため、ステップS58において「Yes」と判定され、続くステップS59において、現在の上限電流値ilimから所定量Δidownだけ減算した値を、新たな上限電流値ilimとして設定変更して本ルーチンを抜ける。
そして、短いインターバルをあけて本ルーチンが再度実行されると、フラグFが「1」に設定されていることから、ステップS56,S57の処理がスキップされる。このため、上限電流値ilimは、いったん所定の操舵操作(|Tx|>T0)が行われた後は、単位時間(制御インターバル)経過する毎に所定量Δidownずつ減算される。そして、上限電流値ilimが最小上限値ilim0にまで減算されると、ステップS58の判断は「No」となり、それ以降、上限電流値ilimは減算されなくなる。
次に、エンジンの自動停止が行われていない場合について説明する。アシストECU32には、ステップS53において読み込んだアイドリングストップ情報がエンジンの自動停止中(自動始動中も含む)でないことを表す情報、つまり、エンジンが作動中であることを表す情報である場合には、ステップS60において、フラグFが「1」であるか否かを判断する。上述した上限電流値ilimの低減処理が行われていない状態であれば、フラグFは「0」に設定されている。また、上限電流値ilimの低減処理が行われた後であれば、フラグFは「1」に設定されている。アシストECU32は、フラグFが「1」である場合には、ステップS61においてフラグFを「0」にリセットし、フラグFが「0」である場合には、ステップS61の処理をスキップする。
続いて、ステップS62において、現在の上限電流値ilimが通常上限値ilim1を下回っているか否かを判断し、上限電流値ilimが通常上限値ilim1と等しければ、そのまま本ルーチンを抜ける。一方、上述した上限電流値ilimの低減処理が行われた後である場合には、上限電流値ilimが通常上限値ilim1よりも小さな値に設定されている。この場合には、ステップS63において、現在の上限電流値ilimに所定量Δiupだけ加算した値を、新たな上限電流値ilimとして設定変更して本ルーチンを抜ける。こうした処理が繰り返されることにより、エンジンの作動中においては、上限電流値ilimが通常上限値ilim1より小さければ、単位時間(制御インターバル)経過する毎に上限電流値ilimが所定量Δiupずつ加算される。そして、上限電流値ilimが通常上限値ilim1に達すると、それ以降、上限電流値ilimは通常上限値ilim1に維持される。
以上説明した上限電流値設定ルーチンにより設定される上限電流値ilimの時間的な推移の一例を図9を用いて説明する。尚、この例は、電源供給能力Aが基準値A0を下回っている場合の例である。上限電流値ilimは、エンジンが回転しているあいだは通常上限値ilim1に設定されている。そして、時刻t1において、車両が停止状態となりエンジンの自動停止条件が満たされると、アイドリングストップECU201は、エンジンECU200にエンジンの停止指令を出力する。これにより、エンジンが停止される。アシストECU32には、アイドリングストップ情報としてエンジンの自動停止中を表す情報が入力される。上限電流値ilimは、この段階では、まだ低減されず通常上限値ilim1に維持される。そして、時刻t2において、運転者の操舵操作により操舵トルク|Tx|が設定トルクT0を上回ると、上限電流値ilimは時間の経過とともに低減される。このため、運転者は、操舵操作開始時において大きな操舵アシスト力を得ることができるため、違和感を覚えない。また、操舵開始後、上限電流値ilimが低減されるものの、時間をかけて低減されるものであるため、操舵フィーリングが急変することもない。この場合、上限電流値ilimの低減速度は、単位時間毎の低減量である所定量Δidownにより設定されるため、開発時に最適値に調整しておくことができる。
上限電流値ilimは、いったん所定の操舵操作が行われた後は、その後の操舵トルク|Tx|の大きさにかかわらず低減されていく。そして、時刻t3において、上限電流値ilimが最小上限値ilim0に達すると、上限電流値ilimは、最小上限値ilim0に維持される。この例では、時間Tdownかけて上限電流値ilimが低減される。上限電流値ilimが低減された状態においては、主バッテリ101の電力消費が抑制される。従って、次のエンジンの自動始動時においてエンジンスタータ105を作動させるだけの電力を確保しておくことができる。また、副電源50により電動モータ20への電源供給を補助しているため、この点においても、主バッテリ101の電力消費が抑制される。
運転者がブレーキペダルを開放するなどして、エンジンの自動再始動条件が満たされると、アイドリングストップECU201は、エンジンECU200の再始動指令を出力する。これによりエンジンが再始動される。アシストECU32には、アイドリングストップ情報を繰り返し読み込んでいる。そして、時刻t4において、エンジンの再始動が完了し、アイドリングストップ情報がエンジンの再始動の完了を表す情報に切り替わると、アシストECU32は、上限電流値ilimの増加を開始する。上限電流値ilimの増加速度は、単位時間毎の増加量である所定量Δiupにより設定されるため、開発時に最適値に調整しておくことができる。
上限電流値ilimが時間経過とともに増加し、時刻5において、通常上限値ilim1に達すると、上限電流値ilimは、通常上限値ilim1に維持される。この例では、時間Tupかけて上限電流値ilimが増加される。こうして上限電流値ilimの増加により、十分な操舵アシスト力が得られるようになる。
尚、上限電流値ilimの低減処理中に、エンジンの自動再始動が開始された場合には、上限電流値ilimは、アイドリングストップ情報によりエンジンの再始動完了が確認された時点における値から増加設定されることになる。
以上説明した本実施形態の電動パワーステアリング装置によれば、エンジンの自動停止中であっても、所定の操舵操作が行われまでは電動モータ20の上限電流値ilimを低減しないため、操舵アシスト力が急変せず、運転者に違和感を与えない。また、エンジンの自動停止時における電源供給能力A(主バッテリ101と副電源50とを合わせた電源供給能力)が高い場合には、上限電流値ilimの低減処理を行わないため、必要以上に操舵アシストを制限してしまうこともなく使い勝手がよい。また、エンジンの自動再始動時には、エンジンスタータ105が作動して主バッテリ101から大電流を引き出して主電源100の電圧が変動するが、そのとき操舵操作が行われても、副電源50が主電源100の電圧変動を補償して電動モータ20に通電するため、良好な操舵アシストを得ることができる。このため、エンジンの自動再始動と運転者の切り込み操作とが重なっても、ハンドル操作が引っ掛かるという違和感を運転者に与えない。
以上、本発明の実施形態の電動パワーステアリング装置について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上限電流値設定ルーチンにおいては、操舵トルク|Tx|と設定トルクT0との比較に基づいて、操舵ハンドル11に入力された操舵量が予め設定された設定操舵量を上回ったか否かを判定しているが、これに代えて、操舵速度ωxの大きさ|ωx|と設定速度ω0とを比較し、操舵速度|ωx|が設定速度ω0を上回ったときに、操舵ハンドル11に入力された操舵量が予め設定された設定操舵量を上回ったと判定するようにしてもよい。
また、例えば、図1に破線にて示すように、主電源100の電源供給路に昇圧回路120を設けて、主電源電圧を昇圧した電力をモータ駆動回路31と副電源50とに供給するように構成してもよい。この場合には、電動モータ20の高出力化を図ることができるとともに、副電源50を効率よく充電することができる。
また、電源供給能力Aが非常に低下している場合には、アイドリングストップECU201に対して、エンジンの自動停止を禁止する指令を出力するようにしてもよい。図5は、その機能を組み込んだ上限電流値設定ルーチンの変形例を表す。この変形例においては、上記ステップS52とステップS53との間に、ステップS71の判断処理を設ける。アシストECU32は、ステップS71において、電源供給能力Aが基準値A0’よりも低下しているか否かを判断する。この基準値A0’は、ステップS52の基準値A0よりも小さな値であって、エンジンの自動停止を行った場合に、上限電流制限を働かせて操舵アシストを行っても、エンジンスタータ105によるエンジンの自動再始動が困難になるおそれがあるような電源供給能力が非常に低下している状態を表す値に設定されている。アシストECU32は、電源供給能力Aが基準値A0’よりも低下している場合には、ステップS72において、アイドリングストップECU201に対して、エンジンの自動停止を禁止する指令を出力して上限電流値設定ルーチンをいったん抜ける。一方、電源供給能力Aが基準値A0’以上であれば、その処理をステップS53に進めて上述した処理を行う。
この変形例によれば、電源供給能力が非常に低下している場合には、エンジンの自動停止が行われなくなるため、主バッテリ101に大きな負担をかけることなく、電動モータ20を駆動して操舵アシストを行うことができる。
また、他の変形例として、電源供給能力Aに応じて、最小上限値ilim0を可変するようにしてもよい。図6は、その機能を組み込んだ上限電流値設定ルーチンの変形例を表す。この変形例においては、上記ステップS57とS58との間に、ステップS73の処理を設ける。アシストECU32は、図7に示すような電源供給能力Aと最小上限値ilim0との関係をROM等に記憶している。この例では、電源供給能力Aが小さくなるほど最小上限値ilim0が小さい値に設定されるが、電源供給能力Aが低い場合には高い場合に比べて最小上限値ilim0を低く設定するものであれば、どのような設定であってもよい。
アシストECU32は、ステップS73において、この電源供給能力Aと最小上限値ilim0との関係を使って、ステップS51で読み込んだ電源供給能力Aに基づいて最小上限値ilim0を設定する。そして、上述したステップS58において、現在の上限電流値ilimが、ステップS73において設定した最小上限値ilim0より大きいか否かを判断する。
この変形例によれば、電源供給能力Aの状態に応じた最小上限値ilim0を設定するため、主バッテリ101の電力消費制限を一層適切に行うことができる。この結果、エンジンスタータ105の作動に必要な電力を十分確保しておくことができ、次のエンジンの自動再始動を良好に行うことができる。
また、他の変形例として、アシストECU32により制御される電動モータ20の通電電流が最小上限値ilim0に制限されている状態が設定時間以上継続した場合には、アシストECU32からアイドリングストップECU201に対してエンジン自動再始動の指令を出力するようにしてもよい。図8は、その機能を組み込んだ操舵アシスト制御ルーチンの変形例を表す。この変形例においては、上記ステップS17とS18との間に、ステップS31〜S35の処理を設ける。
アシストECU32は、ステップS14あるいはステップS17において目標電流ias*を計算すると、ステップS31において、目標電流ias*が最小上限値ilim0と等しい値に設定されているか否かを判断する。つまり、目標電流ias*が最小上限値ilim0にまで制限されている状態か否かを判断する。目標電流ias*が最小上限値ilim0にまで制限されていない状態であれば(S31:No)、ステップS32において、タイマカウント値tをゼロクリアして、その処理をステップS18に進める。このタイマカウント値tは、目標電流ias*が最小上限値ilim0にまで制限されている状態の継続時間の計測値であって、操舵アシスト制御ルーチンの起動時においてはリセット(t=0)に設定されている。
一方、ステップS31において、目標電流ias*が最小上限値ilim0と等しいと判断した場合には、ステップS33において、タイマカウント値tを値「1」だけインクリメントする。続いて、ステップS34において、タイマカウント値tが予め設定した設定時間t0に達したか否かを判断し、タイマカウント値tが設定時間t0に達していない場合は、その処理をステップS18に進める。
目標電流ias*が最小上限値ilim0にまで制限されている状態においては、タイマカウント値tのインクリメント処理が繰り返される。そして、この状態が継続されてタイマカウント値tが設定時間t0に達すると(S34:Yes)、アシストECU32は、ステップS35において、アイドリングストップECU201に対してエンジン自動再始動の指令を出力した後、その処理をステップS18に進める。アイドリングストップECU201は、この指令を受信すると、エンジンECU200に対して、エンジン自動再始動指令を出力する。これにより、エンジンが再始動される。
エンジンが自動停止している状態においては、電動モータ20の上限電流制限をかけながら操舵アシストを行うが、操舵アシストが長時間続くと主バッテリ101の電力消費量が大きくなってしまう。そこで、この変形例においては、上述した時間制限を設けることにより主バッテリ101の過剰な電力消費を防止する。この結果、エンジンスタータ105の作動に必要な電力を十分確保しておくことができ、次のエンジンの自動再始動を良好に行うことができる。
また、他の変形例として、副電源50を備えない構成であってもよい。
また、本実施形態においては、上限電流値設定ルーチンのステップS51,S52に示すように、電源供給能力Aが基準値A0を下回っている場合にのみ、上限電流値ilimを低減設定するが、ステップS51,S52の処理を省略して、電源供給能力Aに関係なく、アイドリングストップ制御中(エンジンの自動停止中)においては、所定の操舵操作が行われたタイミングで上限電流値ilimを低減設定するようにしてもよい。
また、電源供給能力Aの計算にあたって、本実施形態では主バッテリ101と副電源50とを総合した電源供給能力を算出しているが、主バッテリ101のみの電源供給能力を算出するようにしてもよい。
また、本実施形態においては、ラックバー14に電動モータ20を組み付けたラックアシストタイプの電動パワーステアリング装置について説明したが、ステアリングシャフト12に電動モータを組み付けたコラムアシストタイプの電動パワーステアリング装置に適用することもできる。