以下、図面を参照しつつ、本発明を太陽電池に適用した場合について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。
1.第1実施形態
図1は、第1実施形態にかかる本発明の太陽電池10の形態例を示す断面図である。図1では、一部符号の記載を省略している。図1に示すように、太陽電池10は、p層11と、n層12と、p層11とn層12との間に配設されたi層13と、p層11に接続された電極14と、n層12に接続された電極15と、を有している。i層13は、壁層13aと、該壁層13a中に配設された量子ドット13b、13b、…(以下において、単に「量子ドット13b」ということがある。)と、を有し、壁層13aは第1半導体によって構成され、量子ドット13b、13b、…は第1半導体よりもバンドギャップの狭い第2半導体によって構成されている。太陽電池10において、量子ドット13b、13b、…の間隔は、キャリアがトンネル伝導により移動可能な間隔とされている。i層13の厚さ方向(図1の紙面左右方向)中央部に配設されている量子ドット13b、13b、…は、それぞれ、障壁13c、13c、…(以下において、「障壁13c」という。)によって囲まれており、障壁13cは、第1半導体よりもバンドギャップの広い材料(半導体又は絶縁体)によって構成されている。これに対し、i層13に配設されている量子ドット13b、13b、…のうち、i層13のp層11側端部に配設されている量子ドット13b、13b、…(以下において、「量子ドット13bp」という。)は、障壁13cによって囲まれておらず、量子ドット13bpと壁層13a又はp層11とが接触している。また、i層13に配設されている量子ドット13b、13b、…のうち、i層13のn層12側端部に配設されている量子ドット13b、13b、…(以下において、「量子ドット13bn」という。)は、障壁13cによって囲まれておらず、量子ドット13bnと壁層13a又はn層12とが接触している。
図2は、太陽電池10のバンド図である。図2の紙面上側ほど電子のエネルギーが高く、紙面下側ほど正孔のエネルギーが高い。図2では、太陽電池10の各構成要素と対応する符号を付し、一部符号の記載を省略している。図2において、紙面左側から右側へと向かう矢印は、隣り合う量子ドット13b、13bの間をトンネル伝導により移動する電子の移動形態を示しており、紙面右側から左側へと向かう矢印は、隣り合う量子ドット13b、13bの間をトンネル伝導により移動する正孔の移動形態を示している。以下、図1及び図2を参照しつつ、太陽電池10について説明を続ける。
図2に示すように、太陽電池10は、p層11及びn層12によって内部電界が形成されており、バンドが傾斜している。障壁13cを構成する材料のバンドギャップは、壁層13aを構成する第1半導体のバンドギャップよりも広く、障壁13cの伝導帯下端と壁層13aの伝導帯下端との間、及び、障壁13cの価電子帯上端と壁層13aの価電子帯上端との間、並びに、障壁13cの伝導帯下端と量子ドット13bの伝導帯下端との間、及び、障壁13cの価電子帯上端と量子ドット13bの価電子帯上端との間には、段差がある。この段差は、太陽電池10が使用される温度環境下でキャリアが吸収する熱エネルギーよりも大きく、且つ、量子ドット13bで発生したキャリアが隣り合う量子ドット13b、13b間をトンネル伝導により移動可能な高さとされている。
太陽電池10では、i層13へと光が入射すると、壁層13a、及び、量子ドット13b、13b、…の双方で、電子−正孔対が発生する。ここで、上述のように、壁層13aと障壁13cとの段差は、キャリアが吸収する熱エネルギーよりも大きい。そのため、壁層13aで発生したキャリアがi層13の厚さ方向中央部を移動する際には、島状に配設されている量子ドット13b、13b、…への落ち込みが、障壁13cによって防止され、i層13の厚さ方向中央部の壁層13aをドリフト移動することができる。このようにしてi層13のp層11側端部へと達した正孔の少なくとも一部は、そのままp層11へと移動し、i層13のp層11側端部へと達した残りの正孔の少なくとも一部は量子ドット13bpへと落ち込む。これに対し、i層13のn層12側端部へと達した電子の少なくとも一部は、そのままn層12へと移動し、i層13のn層12側端部へと達した残りの電子の少なくとも一部は量子ドット13bnへと落ち込む。一方、量子ドット13b、13b、…で発生したキャリアは、トンネル伝導により、量子ドット13b、13b、…間を移動し、正孔は量子ドット13bpへ、電子は量子ドット13bnへと移動する。
図1及び図2に示すように、太陽電池10では、量子ドット13bpとp層11との間、及び、量子ドット13bnとn層12との間に、障壁13cが配設されていない。そのため、量子ドット13bpに存在する正孔は、障壁13cによって移動を妨げられることなく、熱励起されることによりp層11へと移動することができる。同様に、量子ドット13bnに存在する電子は、障壁13cによって移動を妨げられることなく、熱励起されることによりn層12へと移動することができる。ここで、量子ドット13b(量子ドット13bp及び量子ドット13bnも含む。以下において同じ。)は、離散的な量子準位を有し、各量子ドット13b、13b、…が収容できるキャリアの数には限度がある。また、量子ドット13bpへと収容される正孔は深い準位(相対的にエネルギーが低い量子準位)から収容されると考えられ、量子ドット13bnへと収容される電子も深い準位(相対的にエネルギーが低い量子準位)から収容されると考えられる。そのため、既に正孔が収容されている量子ドット13bpに後から収容される正孔は、量子ドット13bpの浅い準位(相対的にエネルギーが高い量子準位)に落ち込み、既に電子が収容されている量子ドット13bnに後から収容される電子は、量子ドット13bnの浅い準位(相対的にエネルギーが高い量子準位)に落ち込む。量子ドット13bpの浅い準位へと落ち込んだ正孔は、p層11へと移動するために乗り越えるべきエネルギー障壁が低い。そのため、熱エネルギーで励起されることによって、正孔は、量子ドット13bpからp層11へと容易に移動することができる。同様に、量子ドット13bnの浅い準位へと落ち込んだ電子は、n層12へと移動するために乗り越えるべきエネルギー障壁が低い。そのため、熱エネルギーで励起されることによって、電子は、量子ドット13bnからn層12へと容易に移動することができる。このように、量子ドット13bp及び量子ドット13bnが備えられる太陽電池10では、熱励起された正孔のp層11への移動、及び、熱励起された電子のn層12への移動が障壁13cによって妨げられない形態とすることにより、量子ドット13bp及び量子ドット13bnからキャリアを取り出しやすくしている。量子ドットからキャリアを取り出しやすくすることにより、光電変換効率を向上させることが可能になるので、本発明によれば、光電変換効率を向上させることが可能な太陽電池10を提供することができる。
また、上述のように、量子ドット13bは、離散的な量子準位を有し、特に低エネルギー側の量子準位は、他の量子構造(量子井戸や量子細線等)よりも離散的である。さらに、離散的な量子準位間をキャリアがエネルギー緩和するのに要する時間は、連続的な量子準位間をキャリアがエネルギー緩和するのに要する時間よりも長いと考えられる。そのため、量子ドット13bが備えられる太陽電池10によれば、電子と正孔とが再結合するまでの時間を長くすることが可能になり、その結果、光電変換効率を向上させることが容易になる。
また、太陽電池10の壁層13aには、電流方向にキャリア濃度の勾配が生じている。i層13のp層11側端部やp層11では電子が少数キャリアであり、i層13のn層12側端部やn層12では正孔が少数キャリアである。そのため、障壁13cによって囲まれていない量子ドット13bpがp層11の近傍に配設されていても、大量の電子が量子ドット13bpへと落ち込んで大きなエネルギー損失が生じることはない。同様に、障壁13cによって囲まれていない量子ドット13bnがn層12の近傍に配設されていても、大量の正孔が量子ドット13bnへと落ち込んで大きなエネルギー損失が生じることはない。
太陽電池10において、壁層13aは、ZnO、Zn1−xMgxO、ZnO1−x−ySxSey等によって構成することができる。また、p層11は壁層13aを構成する材料に元素を添加することによりp型材料としたものや、p型のCu2O等によって構成することができる。また、n層12は壁層13aを構成する材料に元素を添加することによりn型材料としたもの等によって構成することができる。また、量子ドット13bは、壁層13aを構成する材料よりもバンドギャップが狭い材料を適宜用いることができ、障壁13cは、壁層13aを構成する材料よりもバンドギャップが広い材料を適宜用いることができる。また、電極14及び電極15は、太陽電池の電極として使用可能な公知の材料を適宜用いることができる。なお、壁層13aの構成材料にZnO1−x−ySxSeyを用いた場合、酸素を硫黄やセレンと置換することによって組成を変化させていくと、バンドギャップが単調には広がらずに一度ZnOよりも狭くなる現象(bowing効果)が知られている。ZnOのbowing効果は強いことが知られているため、かかる材料を用いることにより、最適なバンドギャップに制御された壁層13aを備える太陽電池10を提供することが可能になる。
このような構造の太陽電池10のうち、i層13の厚さ方向中央部は、例えば、有機溶媒等を用いて壁層13aを構成する第1半導体を溶解させた溶液中に、市販されているコア・シェル構造のコロイダル量子ドット(壁層13aを構成する第1半導体よりもバンドギャップが狭い第2半導体によって構成される量子ドットの周囲に、第1半導体よりもバンドギャップが広い第3半導体によって構成される障壁が形成されているもの)を分散させた後、溶媒を揮発させて焼結させる等の工程により、作製することができる。また、太陽電池10のうち、i層13のp層11側端部やn層12側端部は、i層13の厚さ方向中央部を作製する際に用いたコア・シェル構造のコロイダル量子ドットに代えて、単一材料によって構成される量子ドットを用いるほかは同様の工程を経ることにより、作製することができる。このようにしてi層13を作製したら、i層13のp層11側端部にp層11を、i層13のn層12側端部にn層12を、それぞれ、MBE法等の公知の方法で作製し、さらに、p層11の表面に電極14を、n層12の表面に電極15を、それぞれ、電子線蒸着法等の公知の方法で作製することにより、太陽電池10を作製することができる。
2.第2実施形態
図3は、第2実施形態にかかる本発明の太陽電池20の形態例を示す断面図である。図3では、一部符号の記載を省略している。図3において、太陽電池10と同様に構成されるものには、図1及び図2で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
図3に示すように、太陽電池20は、p層21と、n層22と、p層21とn層22との間に配設されたi層23と、p層21に接続された電極14と、n層22に接続された電極15と、を有している。i層23は、壁層23aと障壁23cと量子井戸23bとが積層された構造を有し、壁層23a、23a、…(以下において、単に「壁層23a」ということがある。)は第1半導体によって構成され、量子井戸23b、23b、…(以下において、単に「量子井戸23b」ということがある。)は第1半導体よりもバンドギャップの狭い第2半導体によって構成されている。太陽電池40において、量子井戸23b、23b、…の間隔(2つの量子井戸23b、23bに挟まれた壁層23a及び障壁23c、23cの合計厚さ)は、キャリアがトンネル伝導により移動可能な間隔とされ、量子井戸23bと該量子井戸23bの上面及び/又は下面に形成されている障壁23cとの合計厚さは、キャリアがトンネル伝導により移動可能な厚さとされている。i層23の厚さ方向(図3の紙面上下方向)中央部に配設されている量子井戸23b、23b、…と壁層23a、23a、…との間には、障壁23c、23c、…(以下において、単に「障壁23c」という。)がそれぞれ配設されており、障壁23cは、第1半導体よりもバンドギャップの広い材料(半導体又は絶縁体)によって構成されている。これに対し、i層23のp層21側端部に配設されている量子井戸23b(以下において、「量子井戸23bp」という。)の上面及び下面、並びに、i層23のn層22側端部に配設されている量子井戸23b(以下において、「量子井戸23bn」という。)の上面及び下面には、障壁23cが配設されていない。
図4は、太陽電池20のバンド図である。図4の紙面上側ほど電子のエネルギーが高く、紙面下側ほど正孔のエネルギーが高い。図4では、太陽電池20の各構成要素と対応する符号を付し、一部符号の記載を省略している。図4において、紙面左側から右側へと向かう実線矢印は、隣り合う量子ドット23b、23bの間をトンネル伝導により移動する電子の移動形態を示しており、紙面左側から右側へと向かう点線矢印は、壁層23aに存在する電子のトンネル伝導による移動形態を示している。また、図4において、紙面右側から左側へと向かう実線矢印は、隣り合う量子ドット23b、23bの間をトンネル伝導により移動する正孔の移動形態を示しており、紙面右側から左側へと向かう点線矢印は、壁層23aに存在する正孔のトンネル伝導による移動形態を示している。以下、図3及び図4を参照しつつ、太陽電池20について説明を続ける。
図4に示すように、太陽電池20は、p層21及びn層22によって内部電界が形成されており、バンドが傾斜している。障壁23cを構成する材料のバンドギャップは、壁層23aを構成する第1半導体のバンドギャップよりも広く、障壁23cの伝導帯下端と壁層23aの伝導帯下端との間、及び、障壁23cの価電子帯上端と壁層23aの価電子帯上端との間、並びに、障壁23cの伝導帯下端と量子井戸23bの伝導帯下端との間、及び、障壁23cの価電子帯上端と量子井戸23bの価電子帯上端との間には、段差がある。この段差は、太陽電池20が使用される温度環境下でキャリアが吸収する熱エネルギーよりも大きく、且つ、壁層23aで発生したキャリアが障壁23c及び量子井戸23bを、量子井戸23bで発生したキャリアが隣り合う量子井戸23b、23bの間を、それぞれトンネル伝導により移動可能な高さとされている。
太陽電池20では、i層23へ光が入射すると、壁層23a、23a、…、及び、量子井戸23b、23b、…の双方で、電子−正孔対が発生する。ここで、上述のように、壁層23aと障壁23cとの段差は、キャリアが吸収する熱エネルギーよりも大きい。また、太陽電池10とは異なり、量子井戸23b及び障壁23cは平面状に形成されているので、壁層23aで発生したキャリアは、量子井戸23b及び障壁23cを避けて通ることができない。それゆえ、壁層23aで発生したキャリアは、壁層23a内をドリフト移動した後、トンネル伝導により、量子井戸23b及び障壁23cを通過する。このようにして、壁層23aで発生した正孔はi層23のp層21側端部へと達し、壁層23aで発生した電子はi層23のn層22側端部へと達する。トンネル伝導により移動する、壁層23aで発生した電子のエネルギー準位は、量子井戸23bの局在化した量子準位よりも高い、壁層23aの伝導帯下端近傍のエネルギー準位であり、トンネル伝導により移動する、壁層23aで発生した正孔のエネルギー準位は、量子井戸23bの局在化した量子準位よりも高い、壁層23aの価電子帯上端近傍のエネルギー準位である。図3及び図4に示すように、太陽電池20では、量子井戸23bpと壁層23aとの間、及び、量子井戸23bpとp層21との間に障壁23cが配設されていない。そのため、i層23のp層21側端部へと達した正孔の一部は、量子井戸23bpへと落ち込み、量子井戸23bpへと落ち込まなかった正孔の少なくとも一部は、トンネル伝導により量子井戸23bpを通過して、p層21へと達する。また、太陽電池20では、量子井戸23bnと壁層23aとの間、及び、量子井戸23bnとn層22との間にも障壁23cが配設されていない。そのため、i層23のn層22側端部へと達した電子の一部は、量子井戸23bnへと落ち込み、量子井戸23bnへと落ち込まなかった電子の少なくとも一部は、トンネル伝導により量子井戸23bnを通過して、n層22へと達する。
一方、量子井戸23bで発生したキャリアは、トンネル伝導により、隣り合う量子井戸23b、23bの間を移動し、量子井戸23bで発生した正孔は量子井戸23bpへと達し、量子井戸23bで発生した電子は量子井戸23bnへと達する。
図3及び図4に示すように、太陽電池20では、量子井戸23bpとp層21との間、及び、量子井戸23bnとn層22との間に、障壁23cが配設されていない。そのため、量子井戸23bpに存在する正孔は、障壁23cによって移動を妨げられることなく、熱励起されることによりp層21へと移動することができる。同様に、量子井戸23bnに存在する電子は、障壁23cによって移動を妨げられることなく、熱励起されることによりn層22へと移動することができる。ここで、量子井戸23b(量子井戸23bp及び量子井戸23bnも含む。以下において同じ。)は、離散的な量子準位を有し、各量子井戸23b、23b、…が収容できるキャリアの数には限度がある。また、量子井戸23bpへと収容される正孔は深い準位(相対的にエネルギーが低い量子準位)から収容されると考えられ、量子井戸23bnへと収容される電子も深い準位(相対的にエネルギーが低い量子準位)から収容されると考えられる。そのため、既に正孔が収容されている量子井戸23bpに後から収容される正孔は、量子井戸23bpの浅い準位(相対的にエネルギーが高い量子準位)に落ち込み、既に電子が収容されている量子井戸23bnに後から収容される電子は、量子井戸23bnの浅い準位(相対的にエネルギーが高い量子準位)に落ち込む。量子井戸23bpの浅い準位へと落ち込んだ正孔は、p層21へと移動するために乗り越えるべきエネルギー障壁が低い。そのため、熱エネルギーで励起されることによって、正孔は、量子井戸23bpからp層21へと容易に移動することができる。同様に、量子井戸23bnの浅い準位へと落ち込んだ電子は、n層22へと移動するために乗り越えるべきエネルギー障壁が低い。そのため、熱エネルギーで励起されることによって、電子は、量子井戸23bnからn層22へと容易に移動することができる。このように、量子井戸23bp及び量子井戸23bnが備えられる太陽電池20では、熱励起された正孔のp層21への移動、及び、熱励起された電子のn層22への移動が障壁23cによって妨げられない形態とすることにより、量子井戸23bp及び量子井戸23bnからキャリアを取り出しやすくしている。量子井戸からキャリアを取り出しやすくすることにより、光電変換効率を向上させることが可能になるので、本発明によれば、光電変換効率を向上させることが可能な太陽電池20を提供することができる。また、量子井戸23bは、量子構造の中でも製造が容易であることが知られている。そのため、量子井戸23bが備えられる形態とすることにより、容易に製造することが可能な太陽電池20を提供することができる。
太陽電池20の壁層23aには、電流方向にキャリア濃度の勾配が生じている。i層23のp層21側端部やp層21では電子が少数キャリアであり、i層23のn層22側端部やn層22では正孔が少数キャリアである。そのため、障壁23cによって囲まれていない量子井戸23bpがp層21の近傍に配設されていても、大量の電子が量子井戸23bpへと落ち込んで大きなエネルギー損失が生じることはない。同様に、障壁23cによって囲まれていない量子井戸23bnがn層22の近傍に配設されていても、大量の正孔が量子井戸23bnへと落ち込んで大きなエネルギー損失が生じることはない。
太陽電池20において、壁層23aは、GaAsや、低濃度のAlを含むAlGaAs等によって構成することができる。また、p層21は壁層23aを構成する材料に元素を添加することによりp型材料としたもの等によって構成することができる。また、n層22は壁層23aを構成する材料に元素を添加することによりn型材料としたもの等によって構成することができる。また、量子井戸23bは、InAs、InAlAs、又は、InGaAs等によって構成することができ、障壁23cは、壁層23aよりも高濃度のAlを含むAlGaAs等によって構成することができる。このほか、p層21、n層22、壁層23a、量子井戸23b、及び、障壁23cは、Pを含有する系(例えば、InP系等)によって構成することも有用である。
このような構造の太陽電池20のうち、p層21、n層22、並びに、i層23(壁層23a、量子井戸23b、及び、障壁23c)は、MBE法等の公知の方法によって作製することができる。また、電極14及び電極15は、電子線蒸着等の公知の方法によって作製することができる。
3.第3実施形態
図5は、第3実施形態にかかる本発明の太陽電池30の形態例を示す断面図である。図5では、一部符号の記載を省略している。図5において、太陽電池10と同様に構成されるものには、図1及び図2で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
図5に示すように、太陽電池30は、p層11と、n層12と、p層11とn層12との間に配設されたi層31と、p層11に接続された電極14と、n層12に接続された電極15と、を有している。i層31は、壁層31aと、該壁層31a中に配設された量子ドット31b、31b、…(以下において、単に「量子ドット31b」ということがある。)と、を有し、壁層31aは第1半導体によって構成され、量子ドット31bは第1半導体よりもバンドギャップの狭い第2半導体によって構成されている。太陽電池30において、隣り合う量子ドット31b、31bの間隔は、キャリアがトンネル伝導により移動可能な間隔とされている。i層31の厚さ方向(図5の紙面左右方向)中央部に配設されている量子ドット31bは、それぞれ、第1半導体よりもバンドギャップの広い材料(半導体又は絶縁体)によって構成される障壁31c、31c、…(以下において、単に「障壁31c」ということがある。)によって囲まれており、障壁31cを介して、i層31の厚さ方向中央部に配設された量子ドット31bと壁層31aとが接続されている。これに対し、i層31に配設されている量子ドット31bのうち、i層31のp層11側端部に配設されている量子ドット31b(以下において、「量子ドット31bp」ということがある。)のn層12側には障壁31cが配設される一方、量子ドット31bpのp層11側には障壁31cが配設されていない。すなわち、量子ドット31bpのn層12側は障壁31cを介して量子ドット31bpと壁層31aとが接触しているのに対し、量子ドット31bpのp層11側は量子ドット31bpと壁層31aとが接触している。また、i層31に配設されている量子ドット31bのうち、i層31のn層12側端部に配設されている量子ドット31b(以下において、「量子ドット31bn」ということがある。)のp層11側には障壁31cが配設される一方、量子ドット31bnのn層12側には障壁31cが配設されていない。すなわち、量子ドット31bnのp層11側は障壁31cを介して量子ドット31bnと壁層31aとが接触しているのに対し、量子ドット31bnのn層12側は量子ドット31bnと壁層31aとが接触している。
図6は、太陽電池30のバンド図である。図6の紙面上側ほど電子のエネルギーが高く、紙面下側ほど正孔のエネルギーが高い。図6では、太陽電池30の各構成要素と対応する符号を付し、一部符号の記載を省略している。図6において、紙面左側から右側へと向かう矢印は、隣り合う量子ドット31b、31bの間をトンネル伝導により移動する電子の移動形態を示している。また、図6において、紙面右側から左側へと向かう矢印は、隣り合う量子ドット31b、31bの間をトンネル伝導により移動する正孔の移動形態を示している。以下、図5及び図6を参照しつつ、太陽電池30について説明を続ける。
図6に示すように、太陽電池30は、p層11及びn層12によって内部電界が形成されており、バンドが傾斜している。障壁31cを構成する材料のバンドギャップは、壁層31aを構成する第1半導体のバンドギャップよりも広く、障壁31cの伝導帯下端と壁層31aの伝導帯下端との間、及び、障壁31cの価電子帯上端と壁層31aの価電子帯上端との間、並びに、障壁31cの伝導帯下端と量子ドット31bの伝導帯下端との間、及び、障壁31cの価電子帯上端と量子ドット31bの価電子帯上端との間には、段差がある。この段差は、太陽電池30が使用される温度環境下でキャリアが吸収する熱エネルギーよりも大きく、且つ、量子ドット31bで発生したキャリアが隣り合う量子ドット31b、31b間をトンネル伝導により移動可能な高さとされている。
太陽電池30では、i層31へと光が入射すると、壁層31a、及び、量子ドット31bの双方で、電子−正孔対が発生し、壁層31aと障壁31cとの段差は、キャリアが吸収する熱エネルギーよりも大きい。そのため、壁層31aで発生したキャリアがi層31の厚さ方向中央部を移動する際には、障壁31cによって量子ドット31bへの落ち込みが防止され、i層31の厚さ方向中央部の壁層31aをドリフト移動することができる。このようにしてi層31のp層11側端部へと達した正孔の少なくとも一部は、そのままp層11へと移動する。ここで、太陽電池10のように、量子ドット13bpの周囲全体に障壁13cが配設されていない場合は、壁層13aをドリフト移動してi層13のp層11側端部へと達した正孔は、量子ドット13bpへと落ち込みやすい。ところが、太陽電池30では、量子ドット31bpのn層12側に障壁31cが配設されている。そのため、太陽電池30では、量子ドット31bpへと落ち込む正孔の数を、太陽電池10の量子ドット13bpへと落ち込む正孔の数よりも低減することができる。一方、i層31のn層12側端部へと達した電子の少なくとも一部は、そのままn層12へと移動する。ここで、太陽電池10のように、量子ドット13bnの周囲全体に障壁13cが配設されていない場合は、壁層13aをドリフト移動してi層13のn層12側端部へと達した電子は、量子ドット13bnへと落ち込みやすい。ところが、太陽電池30では、量子ドット31bnのp層11側に障壁31cが配設されている。そのため、太陽電池30では、量子ドット31bnへと落ち込む電子の数を、太陽電池10の量子ドット13bnへと落ち込む電子の数よりも低減することができる。他方、量子ドット31bで発生したキャリアは、トンネル伝導により、隣り合う量子ドット31b、31bの間を移動し、正孔は量子ドット31bpへ、電子は量子ドット31bnへとそれぞれ移動する。
図5及び図6に示すように、太陽電池30では、量子ドット31bpとp層11との間、及び、量子ドット31bnとn層12との間に、障壁31cが配設されていない。そのため、量子ドット31bpに存在する正孔は、障壁31cによって移動を妨げられることなく、熱励起されることによりp層11へと移動することができる。同様に、量子ドット31bnに存在する電子は、障壁31cによって移動を妨げられることなく、熱励起されることによりn層12へと移動することができる。ここで、量子ドット31b(量子ドット31bp及び量子ドット31bnも含む。以下において同じ。)は、離散的な量子準位を有し、各量子ドット31b、31b、…が収容できるキャリアの数には限度がある。また、量子ドット31bpへと収容される正孔は深い準位(相対的にエネルギーが低い量子準位)から収容されると考えられ、量子ドット31bnへと収容される電子も深い準位(相対的にエネルギーが低い量子準位)から収容されると考えられる。そのため、既に正孔が収容されている量子ドット31bpに後から収容される正孔は、量子ドット31bpの浅い準位(相対的にエネルギーが高い量子準位)に落ち込み、既に電子が収容されている量子ドット31bnに後から収容される電子は、量子ドット31bnの浅い準位(相対的にエネルギーが高い量子準位)に落ち込む。量子ドット31bpの浅い準位へと落ち込んだ正孔は、p層11へと移動するために乗り越えるべきエネルギー障壁が低い。そのため、熱エネルギーで励起されることによって、正孔は、量子ドット31bpからp層11へと容易に移動することができる。同様に、量子ドット31bnの浅い準位へと落ち込んだ電子は、n層12へと移動するために乗り越えるべきエネルギー障壁が低い。そのため、熱エネルギーで励起されることによって、電子は、量子ドット31bnからn層12へと容易に移動することができる。このように、太陽電池30では、量子ドット31bpのp層11側に障壁31cが配設されない形態、及び、量子ドット31bnのn層12側に障壁31cが配設されない形態とすることにより、熱励起された正孔のp層11への移動、及び、熱励起された電子のn層12への移動が障壁31cによって妨げられない形態とし、これによって量子ドット31bp及び量子ドット31bnからキャリアを取り出しやすくしている。量子ドットからキャリアを取り出しやすくすることにより、光電変換効率を向上させることが可能になるので、本発明によれば、光電変換効率を向上させることが可能な太陽電池30を提供することができる。
また、上述のように、量子ドット31bは、離散的な量子準位を有し、特に低エネルギー側の量子準位は、他の量子構造(量子井戸や量子細線等)よりも離散的である。さらに、離散的な量子準位間をキャリアがエネルギー緩和するのに要する時間は、連続的な量子準位間をキャリアがエネルギー緩和するのに要する時間よりも長いと考えられる。そのため、量子ドット31bが備えられる太陽電池30によれば、電子と正孔とが再結合するまでの時間を長くすることが可能になり、その結果、光電変換効率を向上させることが容易になる。
また、太陽電池30の壁層31aには、電流方向にキャリア濃度の勾配が生じている。i層31のp層11側端部やp層11では電子が少数キャリアであり、i層31のn層12側端部やn層12では正孔が少数キャリアである。そのため、量子ドット31bpのp層11側に障壁31cが配設されていなくても、大量の電子が量子ドット31bpへと落ち込んで大きなエネルギー損失が生じることはない。同様に、量子ドット31bnのn層12側に障壁31cが配設されていなくても、大量の正孔が量子ドット31bnへと落ち込んで大きなエネルギー損失が生じることはない。
太陽電池30において、壁層31a、量子ドット31b、及び、障壁31cは、それぞれ、太陽電池10における壁層13a、量子ドット13b、及び、障壁13cと同様の材料によって構成することができる。また、i層31は、例えば以下の工程により作製することができる。すなわち、まず、有機溶媒等を用いて壁層31aを構成する第1半導体を溶解させた溶液中に、市販されているコア・シェル構造のコロイダル量子ドット(壁層31aを構成する第1半導体よりもバンドギャップが狭い第2半導体によって構成される量子ドットの周囲に、第1半導体よりもバンドギャップが広い第3半導体によって構成される障壁が形成されているもの)を分散させた後、溶媒を揮発させて焼結させる等の工程により、i層31の厚さ方向中央部と同様に構成される構造体を作製する。次いで、作製した構造体の厚さ方向の一方の端部、及び、他方の端部をそれぞれエッチングすることにより、障壁31cが半球状に除去された量子ドットを両端面に露出させた構造体(以下において、「第2構造体」という。)を作製する。このようにして第2構造体を作製したら、第2構造体の厚さ方向両端面に壁層31aを形成して、両端部に露出させた量子ドットを壁層31aに埋没させることにより、i層31を作製することができる。なお、太陽電池30を構成する、その他の要素(p層11、n層12、電極14、及び、電極15)は、太陽電池10と同様に、公知の方法により適宜作製することができる。
4.第4実施形態
図7は、第4実施形態にかかる本発明の太陽電池40の形態例を示す断面図である。図7では、一部符号の記載を省略している。図7において、太陽電池10や太陽電池20と同様に構成されるものには、図1〜図4で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
図7に示すように、太陽電池40は、p層21と、n層22と、p層21とn層22との間に配設されたi層41と、p層21に接続された電極14と、n層22に接続された電極15と、を有している。i層41は、壁層41aと、障壁41bと、濡れ層41c及び量子ドット41d、41d、…(以下において、単に「量子ドット41d」ということがある。)を備えた層41eとが積層された構造を有し、壁層41a、41a、…(以下において、単に「壁層41a」ということがある。)は第1半導体によって構成され、層41e、41e、…(以下において、単に「層41e」ということがある。)は第1半導体よりもバンドギャップの狭い第2半導体によって構成されている。太陽電池40において、隣り合う層41e、41eの間隔(2つの層41e、41eに挟まれた壁層41a及び障壁41b、41bの合計厚さ)は、キャリアが共鳴トンネルにより移動可能な間隔とされ、隣り合う層41a、41aの間隔(2つの層41a、41aに挟まれた層41e及び障壁41b、41b(又は、層41e及び障壁41b)の合計厚さ)は、キャリアが共鳴トンネルにより移動可能な厚さとされている。太陽電池40において、量子ドット41dは、MBE法を用いて自己組織化プロセスにより形成されており、量子ドット41dは濡れ層41cに形成されている。i層41の厚さ方向(図7の紙面上下方向)中央部に配設されている層41e、41e、…と壁層41a、41a、…との間には、障壁41b、41b、…(以下において、単に「障壁41b」という。)がそれぞれ配設されており、障壁41bは、第1半導体よりもバンドギャップの広い材料(半導体又は絶縁体)によって構成されている。これに対し、i層41のp層21側端部に配設されている層41e(以下において、「層41ep」という。)のp層21側、及び、i層41のn層22側端部に配設されている層41e(以下において、「層41en」という。)のn層22側には、障壁41bが配設されていない。
図8は、太陽電池40のバンド図である。図8の紙面上側ほど電子のエネルギーが高く、紙面下側ほど正孔のエネルギーが高い。図8では、太陽電池40の各構成要素と対応する符号を付し、一部符号の記載を省略している。図8において、紙面左側から右側へと向かう実線矢印は、隣り合う量子ドット41d、41dの間を共鳴トンネルにより移動する電子の移動形態を示しており、紙面左側から右側へと向かう点線矢印は、壁層41aに存在する電子の共鳴トンネルによる移動形態を示している。また、図8において、紙面右側から左側へと向かう実線矢印は、隣り合う量子ドット41d、41dの間を共鳴トンネルにより移動する正孔の移動形態を示しており、紙面右側から左側へと向かう点線矢印は、壁層41aに存在する正孔の共鳴トンネルによる移動形態を示している。以下、図7及び図8を参照しつつ、太陽電池40について説明を続ける。
図8に示すように、太陽電池40は、p層21及びn層22によって内部電界が形成されており、バンドが傾斜している。障壁41bを構成する材料のバンドギャップは、壁層41aを構成する第1半導体のバンドギャップよりも広く、障壁41bの伝導帯下端と壁層41aの伝導帯下端との間、及び、障壁41bの価電子帯上端と壁層41aの価電子帯上端との間、並びに、障壁41bの伝導帯下端と量子ドット41dの伝導帯下端との間、及び、障壁41bの価電子帯上端と量子ドット41dの価電子帯上端との間には、段差がある。この段差は、太陽電池40が使用される温度環境下でキャリアが吸収する熱エネルギーよりも大きく、且つ、壁層41aで発生したキャリアが障壁41b及び層41eを、量子ドット41dで発生したキャリアが隣り合う量子ドット41d、41dの間を、それぞれ共鳴トンネルにより移動可能な高さとされている。
太陽電池40では、i層41へ光が入射すると、壁層41a、41a、…及び層41e、41e、…(濡れ層41c、41c、…(以下において、単に「濡れ層41c」ということがある。)及び量子ドット41d、41d、…)の双方で、電子−正孔対が発生する。ここで、上述のように、壁層41aと障壁41bとの段差は、キャリアが吸収する熱エネルギーよりも大きい。また、太陽電池20と同様に、層41eは平面状に形成されているので、壁層41aで発生したキャリアは、層41eを避けて通ることができない。それゆえ、壁層41aで発生したキャリアは、壁層41a内をドリフト移動した後、共鳴トンネルにより、層41eを通過する。このようにして、壁層41aで発生した正孔はi層41のp層21側端部へと達し、壁層41aで発生した電子はi層41のn層22側端部へと達する。共鳴トンネルにより移動する、壁層41aで発生した電子のエネルギー準位は、濡れ層41c及び量子ドット41dの局在化した量子準位よりも高い、壁層41aの伝導帯下端近傍のエネルギー準位であり、共鳴トンネルにより移動する、壁層41aで発生した正孔のエネルギー準位は、濡れ層41c及び量子ドット41dの局在化した量子準位よりも高い、壁層41aの価電子帯上端近傍のエネルギー準位である。ここで、図7及び図8に示すように、太陽電池40では、層41epと該層41epのn層22側に配設されている壁層41a(以下において、「壁層41ap」という。)との間に障壁41bが配設されている。そのため、太陽電池40によれば、壁層41apに存在する正孔が層41epへと落ち込む事態を防止することが可能になり、共鳴トンネルによって、壁層41apに存在する正孔をp層21へと移動させることが可能になる。また、太陽電池40では、層41enと該層41enのp層21側に配設されている壁層41a(以下において、「壁層41an」という。)との間に障壁41bが配設されている。そのため、太陽電池40によれば、壁層41anに存在する電子が層41enへと落ち込む事態を防止することが可能になり、共鳴トンネルによって、壁層41anに存在する電子をn層22へと移動させることが可能になる。一方、層41eで発生したキャリアは、共鳴トンネルにより、隣り合う層41e、41eの間を移動し、正孔は層41epへ、電子は層41enへとそれぞれ移動する。
図7及び図8に示すように、太陽電池40では、層41epとp層21との間、及び、層41enとn層22との間に、障壁41bが配設されていない。そのため、層41epに存在する正孔は、障壁41bによって移動を妨げられることなく、熱励起されることによりp層21へと移動することができる。同様に、層41enに存在する電子は、障壁41bによって移動を妨げられることなく、熱励起されることによりn層22へと移動することができる。ここで、濡れ層41c及び量子ドット41dによって構成される層41e(層41ep及び層41enも含む。以下において同じ。)は、離散的な量子準位を有し、各層41e、41e、…が収容できるキャリアの数には限度がある。また、層41epへと収容される正孔は深い準位(相対的にエネルギーが低い量子準位)から収容されると考えられ、層41enへと収容される電子も深い準位(相対的にエネルギーが低い量子準位)から収容されると考えられる。そのため、既に正孔が収容されている層41epに後から収容される正孔は、層41epの浅い準位(相対的にエネルギーが高い量子準位)に落ち込み、既に電子が収容されている層41enに後から収容される電子は、層41enの浅い準位(相対的にエネルギーが高い量子準位)に落ち込む。層41epの浅い準位へと落ち込んだ正孔は、p層21へと移動するために乗り越えるべきエネルギー障壁が低い。そのため、熱エネルギーで励起されることによって、正孔は、層41epからp層21へと容易に移動することができる。同様に、層41enの浅い準位へと落ち込んだ電子は、n層22へと移動するために乗り越えるべきエネルギー障壁が低い。そのため、熱エネルギーで励起されることによって、電子は、層41enからn層22へと容易に移動することができる。このように、層41ep及び層41enが備えられる太陽電池40では、熱励起された正孔のp層21への移動、及び、熱励起された電子のn層22への移動が障壁41bによって妨げられない形態とすることにより、濡れ層41c及び量子ドット41dによって構成される層41ep並びに層41enからキャリアを取り出しやすくしている。濡れ層や量子ドットからキャリアを取り出しやすくすることにより、光電変換効率を向上させることが可能になるので、本発明によれば、光電変換効率を向上させることが可能な太陽電池40を提供することができる。
また、上述のように、量子ドット41dは、離散的な量子準位を有し、特に低エネルギー側の量子準位は、他の量子構造(量子井戸や量子細線等)よりも離散的である。さらに、離散的な量子準位間をキャリアがエネルギー緩和するのに要する時間は、連続的な量子準位間をキャリアがエネルギー緩和するのに要する時間よりも長いと考えられる。そのため、量子ドット41dが備えられる太陽電池40によれば、電子と正孔とが再結合するまでの時間を長くすることが可能になり、その結果、光電変換効率を向上させることが容易になる。
また、太陽電池40の壁層41aには、電流方向にキャリア濃度の勾配が生じている。i層41のp層21側端部やp層21では電子が少数キャリアであり、i層41のn層22側端部やn層22では正孔が少数キャリアである。そのため、層41epのp層21側に障壁41bが配設されていなくても、大量の電子が層41epへと落ち込んで大きなエネルギー損失が生じることはない。同様に、層41enのn層22側に障壁41bが配設されていなくても、大量の正孔が層41enへと落ち込んで大きなエネルギー損失が生じることはない。
太陽電池40において、壁層41a、及び、障壁41bは、それぞれ、太陽電池20における壁層23a、及び、障壁23cと同様の材料によって構成することができ、層41e(濡れ層41c及び量子ドット41d)は、太陽電池20における量子井戸23bと同様の材料によって構成することができる。また、太陽電池40において、i層41は、電極15の表面にMBE法等の方法で作製したn層22の上面に、MBE法によって層41enを形成し、形成した層41enの上面にMBE法によって障壁41bを形成し、形成した障壁41bの上面にMBE法によって壁層41aを形成する、という工程を繰り返し、最後に、層41epの上面に壁層41aを形成することにより、作製することができる。このほか、p層21、電極14、及び、電極15は、太陽電池20と同様の方法で作製することができる。
5.第5実施形態
図9は、第5実施形態にかかる本発明の太陽電池50の形態例を示す断面図である。図9では、一部符号の記載を省略している。図9において、太陽電池40と同様に構成されるものには、図7及び図8で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
図9に示すように、太陽電池50は、p層21と、n層22と、p層21とn層22との間に配設されたi層51と、p層21に接続された電極14と、n層22に接続された電極15と、を有している。i層51は、壁層51aと、該壁層51aに埋め込まれた量子ドット51b、51b、…(以下において、単に「量子ドット51b」ということがある。)と、量子ドット51b、51b、…のp層21側及び/又はn層22側に配設された障壁51c、51c、…(以下において、単に「障壁51c」ということがある。)とを有している。すなわち、太陽電池50のi層51は、太陽電池40のi層41における濡れ層41c及び該濡れ層41cの上面及び/又は下面に形成された障壁41bを除去し、除去した濡れ層41c及び壁層41bに代えて壁層51aを配設した構造となっており、i層51以外の構造は、太陽電池40と共通している。
壁層51aは第1半導体によって構成され、量子ドット51bは第1半導体よりもバンドギャップの狭い第2半導体によって構成され、障壁51cは第1半導体よりもバンドギャップの広い半導体によって構成されている。図9の紙面上下方向で隣り合う量子ドット51b、51bの間隔(当該2つの量子ドット51b、51bに挟まれた壁層51a及び障壁51c、51cの合計厚さ)は、キャリアが共鳴トンネルにより移動可能な間隔とされており、量子ドット51bは、太陽電池40における量子ドット41dと同様に、MBE法を用いた自己組織化プロセスによって形成されている。i層51の厚さ方向(図9の紙面上下方向)中央部に配設されている量子ドット51bのp層21側及びn層22側には、第1半導体よりもバンドギャップの広い半導体によって構成される障壁51cが配設されている。これに対し、i層51のp層21側端部に配設されている量子ドット51b(以下において、「量子ドット51bp」という。)のp層21側、及び、i層51のn層22側端部に配設されている量子ドット51b(以下において、「量子ドット51bn」という。)のn層22側には、障壁51cが配設されていない。このような形態とすることにより、壁層51aで発生したキャリアが量子ドット51bへと落ち込む事態を、障壁51cによって防止することが可能になる。そのため、かかる形態とすることにより、MBE法を用いた自己組織化プロセスによって形成された量子ドット51bが備えられていても、壁層51aで発生した正孔をドリフト移動によってp層21へと移動させることが可能になり、壁層51aで発生した電子をドリフト移動によってn層22へと移動させることが可能になる。また、太陽電池50において、量子ドット51bで発生したキャリアは、共鳴トンネルによって、隣り合う量子ドット51b、51bの間を移動することができる。太陽電池50では、量子ドット51bpとp層21との間、及び、量子ドット51bnとn層22との間に障壁51cが配設されていない。そのため、太陽電池50によれば、量子ドット51bpに存在する正孔を熱励起させることにより、障壁51cによって妨げられることなくp層21へと移動させることが可能になり、量子ドット51bnに存在する電子を熱励起させることにより、障壁51cによって妨げられることなくn層22へと移動させることが可能になる。したがって、太陽電池50によれば、太陽電池40と比較して、壁層51aで発生したキャリアを移動させやすい形態とすることが可能になるので、太陽電池40よりも光電変換効率を向上させることが可能になる。
太陽電池50において、壁層51a、及び、障壁51cは、それぞれ、太陽電池20における壁層23a、及び、障壁23cと同様の材料によって構成することができ、量子ドット51bは、太陽電池20における量子井戸23bと同様の材料によって構成することができる。
図10は、i層51の作製工程の一部を簡略化して示す図である。図10では、一部符号の記載を省略している。図10を参照しつつ、i層51の厚さ方向中央部の作製方法の一形態について説明する。
i層51の厚さ方向中央部を作製するには、i層51の厚さ方向中央部を構成すべき壁層51a(以下、本段落において「第1の壁層51a」という。)の上面に、MBE法によって障壁51cを作製し、作製した障壁51cの上面に、MBE法によって濡れ層51d及び量子ドット51bを備えた層51e(以下において、「層51e」ということがある。)を作製する。次いで、作製した層51e(以下において、当該層を「第1の層51e」という。)の上面に、MBE法によって障壁51c(以下、本段落において「第2の障壁51c」という。)を作製し、作製した第2の障壁51cの上面に壁層51a(以下、本段落において「第2の壁層51a」という。)を作製する。その後、作製した第2の壁層51aの上面に、MBE法によって障壁51c(以下、本段落において「第3の障壁51c」という。)を作製し、作製した第3の障壁51cの上面に、MBE法によって層51e(以下において、「第2の層51e」という。)を作製することにより、図10(a)に示す形態とする。このようにして第2の層51eを作製したら、異方的エッチング(以下において、「RIE」という。)を行うことにより、第2の層51eの濡れ層51d及び当該濡れ層51dの下に位置する第3の障壁51c、第2の壁層51aの一部、第1の層51eの濡れ層51d及び当該濡れ層51dの上下に形成されている障壁51c、並びに、第1の壁層51aの一部を順に除去し、図10(b)に示す形態とする。このようにして第1の壁層51aの一部までを除去したら、第1の壁層51aをエピタキシャル成長させることにより、図10(c)に示す形態とする。こうして第1の壁層51aをエピタキシャル成長させたら、第3の障壁51cをストッパーとして、化学機械研磨を行うことにより、エピタキシャル成長させた壁層51aの表面を平坦化する(図10(d)参照)。こうして壁層51aの表面を平坦化したら、上面全体を化学機械研磨することにより、第3の障壁51cを除去する(図10(e)参照)。i層51は、このような過程を繰り返すことにより、作製することができる。このほか、p層21、n層22、電極14、及び、電極15は、太陽電池20と同様の方法で作製することができる。
太陽電池40、50に関する上記説明では、濡れ層のp層側に量子ドットが形成される形態を例示したが、本発明の太陽電池は当該形態に限定されるものではない。本発明の太陽電池は、太陽電池40、50のp層21とn層22とを入れ替えた構造とすることも可能である。
また、本発明の太陽電池において、p層を構成する半導体のバンドギャップやn層を構成する半導体のバンドギャップは特に限定されるものではない。ただし、i層のp層側端部に配設されている量子構造部から正孔を取り出しやすい(量子構造部に存在する正孔を熱励起させることによってp層へと移動させやすい)形態の太陽電池を提供する等の観点からは、バンドギャップが第1半導体のバンドギャップと第2半導体のバンドギャップとの間である半導体によって、p層を構成することが好ましい。また、同様の観点から、バンドギャップが第1半導体のバンドギャップと第2半導体のバンドギャップとの間である半導体によって、n層を構成することが好ましい。
また、本発明に関する上記説明では、量子構造部が量子ドット又は量子井戸である形態を例示したが、本発明の太陽電池は当該形態に限定されるものではない。本発明の太陽電池は、i層に量子細線が用いられる形態とすることも可能である。量子構造部に量子細線が用いられる本発明において、例えば、量子細線の軸方向がi層における電流・電圧方向と交差するように、量子細線をi層に配設した太陽電池は、図1や図5と同様の断面によって表すことができる。本発明において、量子構造部に量子細線を用いる場合、量子細線を構成する材料や構造は特に限定されるものではなく、カーボンナノチューブ等、公知の量子細線を用いることができる。
また、本発明に関する上記説明では、i層のp層側端部に配設された量子構造部の少なくともp層側、及び、i層のn層側端部に配設された量子構造部の少なくともn層側に障壁が配設されていない形態について言及したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。本発明は、i層のp層側端部に配設された量子構造部の少なくともp層側、又は、i層のn層側端部に配設された量子構造部の少なくともn層側にのみ、障壁が配設されていない形態とすることも可能である。さらに、本発明は、i層のp層側端部に配設された量子構造部のp層側や、i層のn層側端部に配設された量子構造部のn層側にも障壁が配設された形態とすることも可能である。この場合、i層の厚さ方向中央部に配設された障壁を構成する材料のバンドギャップをG1、i層のp層側端部に配設された量子構造部のp層側に配設されている障壁を構成する材料のバンドギャップをG2、及び、i層のn層側端部に配設された量子構造部のn層側に配設されている障壁を構成する材料のバンドギャップをG3、とするとき、G1>G2、及び/又は、G1>G3、を満たすように構成すれば良い。G1>G2とすることにより、i層のp層側端部に配設された量子構造部からp層へと向かう正孔の移動が、障壁によって阻害され難い形態とすることが可能になる。また、G1>G3とすることにより、i層のn層側端部に配設された量子構造部からn層へと向かう電子の移動が、障壁によって阻害され難い形態とすることが可能になる。したがって、かかる形態であっても、光電変換効率を向上させることが可能になる。
また、これまで、本発明を太陽電池に適用した場合について説明したが、本発明の光電変換素子は太陽電池に限定されるものではない。本発明は、光検出素子等の他の光電変換素子にも適用することができる。