JP5222105B2 - 狭開先溶接方法及び狭開先溶接装置 - Google Patents
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従来、特に厚板構造物の溶接においては、溶接工数の低減や溶接継手の高品質化等が望まれている。そして、たとえば狭開先MAG溶接法を用いた立向き溶接や全姿勢溶接を実施する場合には、左右対称の溶接条件を用いた円弧状反復運動オシレートによるガスシールド溶接が行われている。
また、大径の圧力容器を現地で溶接する場合には、開先の方向が水平方向等のように上下方向以外となることもあり、従って、立向き、横向き、下向き及び上向き等の様々な姿勢での溶接や、複数の姿勢を連続的に変化させる全姿勢溶接が必要となる。
すなわち、図7に示す狭開先ガスシールドアーク溶接では、上下方向へ延在する開先1に対してチップ2が挿入され、チップ2の先端から突出するワイヤ3の先端3aにアークを形成して溶接する。この場合、ワイヤ3の先端3aは、上向きの溶接進行方向と反対側の下向きとされ、左右対称の円弧状軌跡を描くように反復するオシレートを行いながら溶接を行っている。
従って、揺動工程B,Dにおいては、図8に示す拡大図のように、オシレート開始直後から開先1の幅方向中心位置(軸線)まで下向きに進んで円弧形状を描く下進オシレート部が生じている。この下進オシレート部では、重力の影響を受ける溶融プールがアーク4に先行するので、スパッタ5の発生や溶け込み確保が困難になる。なお、図中の符号6はビードである。
また、立向き及び全姿勢溶接では、図10に示すように、上昇工程A,Cにおいて左右の溶金量が不均一となり、開先1の幅方向(左右)で溶金量が異なる非対称ビード形状8が発生する。このような非対称ビード形状8も、中央凸ビード形状7と同様に、アーク長の急変による融合不良を生じさせるので、溶金の少ない開先1の一端部側(図示の例では右側)に対して、溶金を増加することが必要となる。
このような背景から、立向き溶接及び全姿勢溶接に適用されて反復オシレートを行う狭開先ガスシールドアーク溶接においては、円弧状運動によるスパッタや融合不良の発生を防止または抑制することができる狭開先溶接方法及び狭開先溶接装置が望まれる。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、立向き溶接及び全姿勢溶接に適用されて反復オシレートを行う狭開先ガスシールドアーク溶接において、円弧状運動によるスパッタや融合不良の発生を防止または抑制できる狭開先溶接方法及び狭開先溶接装置の提供することにある。
本発明に係る狭開先溶接方法は、溶接方向へ延在する開先に挿入されたチップから突出するワイヤの先端にアークを形成し、前記ワイヤの先端が溶接進行方向と反対側に円弧状軌跡を描くように反復するオシレートを行うとともに、前記オシレートの反転時停止時間及び速度を制御して狭開先をガスシールド溶接する狭開先溶接方法において、前記狭開先の幅方向中心位置を起点にして一方の開先端部近傍まで溶接進行方向にオシレートを行う正進第1工程と、前記一方の開先端部近傍で所定時間だけオシレートを停止する進行第1工程と、前記一方の開先端部近傍を起点にして前記狭開先の幅方向中心位置まで溶接進行方向と逆向きにオシレートを行う逆進第1工程と、前記狭開先の幅方向中心位置を起点にして他方の開先端部近傍まで溶接進行方向にオシレートを行う正進第2工程と、前記他方の開先端部近傍で所定時間だけオシレートを停止する進行第2工程と、前記他方の開先端部近傍を起点にして前記狭開先の幅方向中心位置まで溶接進行方向と逆向きにオシレートを行う逆進第2工程とにより1サイクルの溶接工程が形成され、さらに、非対称ビード形状の発生を検出する非対称ビード形状発生検出工程を有し、前記オシレートの速度は、鉛直方向下向きのオシレート速度が鉛直方向上向きのオシレート速度より増速され、前記非対称ビード形状の発生を検出した場合には、前記非対称ビード形状の発生を検出しない場合に比べて、前記進行第1工程または前記進行第2工程で電流値が増加されることを特徴とするものである。
すなわち、立向き溶接等のように上下方向の上向きに溶接を進める場合には、逆進第1工程及び逆進第2工程のオシレート速度を正進第1工程及び正進第2工程のオシレート速度より増速する。また、横向き溶接のように水平方向へ溶接を進めるような場合には、正進第1工程及び正進第2工程のオシレート速度と、逆進第1工程及び逆進第2工程のオシレート速度とのうち、鉛直方向下向きにオシレートする工程のオシレート速度を増速すればよい。
すなわち、立向き溶接では、鉛直方向下向きの速度成分を含む逆進第1工程及び逆進第2工程のオシレート速度が、鉛直方向上向きの速度成分を含む正進第1工程及び正進第2工程のオシレート速度より増速されることにより、逆進第1工程及び逆進第2工程で溶融プールがアークに先行することを防止し、スパッタの発生や融合不良を防止または抑制することができる。
また、横向き溶接では、その溶接方向に応じて、正進第1工程及び正進第2工程のオシレート速度と、逆進第1工程及び逆進第2工程のオシレート速度とのうち、鉛直方向下向きの速度成分を含んでオシレートするいずれか一方の工程でオシレート速度が増速されるため、鉛直方向下向きにオシレートする工程で溶融プールがアークに先行することを防止し、スパッタの発生や融合不良を防止または抑制することができる。
この場合、前記非対称ビード形状の発生は、前記ワイヤの突き出し長または前記電流値の変化を検出することにより、確実に判断することができる。
図5は、たとえば図6に示す大型の圧力容器10について、胴部11の構成例を示している。このような胴部11は、円筒形状の真円度を確保するため、構成部材となる板材12を縦置きにして溶接することが望ましい。すなわち、図示の胴部11は、円周方向に並べた複数枚の板材12について、隣接する端部間に形成されて上下方向に延在する複数本の開先1を同時に、狭開先MAG溶接を用いた立向きのガスシールド溶接によって一体化することが望ましい。なお、板材12の数や同時に溶接する開先1の数については、図示の例に限定されることはない。
以下、本発明の狭開先溶接方法について、オシレートの反転停止時間及び速度の制御を具体的に説明する。なお、以下の説明では、開先1が上下の溶接方向へ延在し、上向きに溶接を進行していく立ち向き溶接の場合を例に示して説明する。
最初の上進(正進)第1工程Paは、狭開先とした開先1の幅方向中心位置を起点にして、一方の開先端部近傍まで溶接進行方向の上向き(鉛直方向上向きの速度成分を含む)にオシレートを行う工程である。図示の上進第1工程Paは、開先1の中心位置を起点とし、先端3aが右上がりの円弧を描くようにして開先1の右側端部近傍までオシレートする。
次の上昇(進行)第1工程Pbは、一方の開先端部近傍で所定時間Tbだけオシレートを停止する工程である。この工程では、オシレートのみ停止しているので、ワイヤ3の先端3aは所定の進行速度(チップ上昇速度)で溶接方向へ移動する。図示の上行第1工程Pbは、開先1の右側端部近傍に沿って、先端3aが溶接方向へ上昇する。
次の上進(正進)第2工程Pdは、狭開先とした開先1の幅方向中心位置を起点にして、他方の開先端部近傍まで溶接進行方向の上向き(鉛直方向上向きの速度成分を含む)にオシレートを行う工程である。図示の上進第2工程Pdは、開先1の中心位置を起点とし、先端3aが左上がりの円弧を描くようにして開先1の左側端部近傍までオシレートする。
最後の下進(逆進)第2工程Pfは、他方の開先端部近傍を起点にして、開先1の幅方向中心位置まで溶接進行方向と逆向きとなる下向き(鉛直方向下向きの速度成分を含む)にオシレートを行う工程である。図示の下進第2工程Pfは、開先1の左側端部近傍を起点とし、先端3aが右下がりの円弧を描くようにして開先1の幅方向中心位置までオシレートする。
すなわち、立ち向き溶接では、オシレートが溶接進行方向とは逆向きとなる下向きに進んで円弧を描くことから、溶融プールがアークに先行しやすい下進第1工程Pc及び下進第2工程Pfにおいては、オシレート速度を増速することにより溶融プールがアークに先行することを防止または抑制している。従って、上進第1工程Pa及び上進第2工程Pdにおける増速後のオシレート速度は、図2に示すように、溶融プール9がアーク4に先行することなく適切な位置関係を維持できるような速度とすればよい。
この結果、オシレート速度が増速された下進第1工程Pc及び下進第2工程Pfでは、溶融プール9とアーク4との位置関係が適切に保たれるので、スパッタの発生や融合不良についても防止または抑制することができる。
そこで、横向き溶接の場合には、その溶接方向が左右のいずれであるかに応じて、正進第1工程Pa及び正進第2工程Pfのオシレート速度と、逆進第1工程Pc及び逆進第2工程Peのオシレート速度とのうち、鉛直方向下向きの速度成分を含んでオシレートする工程のオシレート速度を増速する。この結果、鉛直方向下向きにオシレートする速度成分を含む工程において、溶融プールがアークに先行することを防止し、スパッタの発生や融合不良を防止または抑制することができる。
また、凸ビード形状7や非対称ビード形状8についても、開先1の両端部付近における溶接電流値やオシレート停止時間を調整し、溶金量を増加させることで発生を防止または抑制することができる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
3 ワイヤ
3a 先端
4 アーク
5 スパッタ
6 ビード
7 凸ビード形状
8 非対称ビード形状
9 溶金プール
Claims (4)
- 溶接方向へ延在する開先に挿入されたチップから突出するワイヤの先端にアークを形成し、前記ワイヤの先端が溶接進行方向と反対側に円弧状軌跡を描くように反復するオシレートを行うとともに、前記オシレートの反転時停止時間及び速度を制御して狭開先をガスシールド溶接する狭開先溶接方法において、
前記狭開先の幅方向中心位置を起点にして一方の開先端部近傍まで溶接進行方向にオシレートを行う正進第1工程と、
前記一方の開先端部近傍で所定時間だけオシレートを停止する進行第1工程と、
前記一方の開先端部近傍を起点にして前記狭開先の幅方向中心位置まで溶接進行方向と逆向きにオシレートを行う逆進第1工程と、
前記狭開先の幅方向中心位置を起点にして他方の開先端部近傍まで溶接進行方向にオシレートを行う正進第2工程と、
前記他方の開先端部近傍で所定時間だけオシレートを停止する進行第2工程と、
前記他方の開先端部近傍を起点にして前記狭開先の幅方向中心位置まで溶接進行方向と逆向きにオシレートを行う逆進第2工程とにより1サイクルの溶接工程が形成され、
さらに、非対称ビード形状の発生を検出する非対称ビード形状発生検出工程を有し、
前記オシレートの速度は、鉛直方向下向きのオシレート速度が鉛直方向上向きのオシレート速度より増速され、
前記非対称ビード形状の発生を検出した場合には、前記非対称ビード形状の発生を検出しない場合に比べて、前記進行第1工程または前記進行第2工程で電流値が増加されることを特徴とする狭開先溶接方法。 - 前記非対称ビード形状発生検出工程で前記非対称ビード形状の発生を検出した場合は、前記非対称ビード形状の発生を検出しない場合に比べて、前記進行第1工程及び/または前記進行第2工程で前記オシレートの停止時間が増加されることを特徴とする請求項1に記載の狭開先溶接方法。
- 前記非対称ビード形状の発生は、前記ワイヤの突き出し長または前記電流値の変化を検出して判断されることを特徴とする請求項1または2に記載の狭開先溶接方法。
- 溶接方向へ延在する開先に挿入されたチップから突出するワイヤの先端にアークを形成し、前記ワイヤの先端が溶接進行方向と反対側に円弧状軌跡を描くように反復するオシレートを行うとともに、前記オシレートの反転時停止時間及び速度を制御して立向き狭開先をガスシールド溶接する狭開先溶接装置において、
請求項1から3のいずれかに記載の狭開先溶接方法による溶接制御を行う制御部を備えていることを特徴とする狭開先溶接装置。
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