以下、本発明の実施形態を車両の車輪の回転状態を検出して、回転情報をABSや横滑り防止装置(ESC : electronic stability control)などの制御を行うECU(electronic control units)に出力する車輪の状態検出装置を例として説明する。図1及び図2に示すように、回転体としての車両の車輪9の回転状態を検出するための被検出体として、マグネットロータ8が車輪9に対して固定されて設けられる。マグネットロータ8は、車輪9に直接に固定されていても良いし、図1に示すように、車輪9を固定するシャフト7(回転軸)に固定されていても良い。車輪9の回転(マグネットロータ8の回転)を検出するための検出素子であるセンサ10は、ハブベアリング等、車輪9と共に回転しない車両側に取り付けられる。センサ10は、マグネットロータ8に対して所定の間隔Aを有して対向配置される。センサ10は、ホール素子やホール素子を備えたホールICなどの磁気検出センサである。
センサ10は、車輪9及びマグネットロータ8の回転に応じて交流の検出信号Sを出力する。マグネットロータ8には、図2に示すように所定ピッチでN極及びS極が交互に設けられており、NS両極がセンサ10を通過することによって交流の検出信号Sが出力される。マグネットロータ8がセンサ10を通過する速度によって検出信号Sの交流周波数が変化する。これによって、マグネットロータ8と一体回転する車輪9の回転速度(所定時間当たりの回転数)を知ることができる。センサ10による磁気検出の原理については、公知であるので、詳細な説明は省略する。
車両の走行に伴い、車輪9には図1におけるシャフト7に沿った方向の力が印加され、いわゆる回転ブレが生じる。この回転ブレによって、対向配置されるセンサ10とマグネットロータ8との間の所定の間隔Aに変化が生じる。その結果、センサ10の磁界の強さ、又は磁束の大きさが変化するので、センサ10が出力する交流成分の検出信号Sの振幅(波高値)が変化する。検出信号Sは、このような波高値の変化の他、温度変化による直流成分の増減なども有するので、車輪の状態検出装置は、正確に交流周波数を検出するべく、以下のような信号処理を行う。
本実施形態において、車輪の状態検出装置は、図3に示すように、受取部1と、波高検出部2と、周期信号生成部(回転検出信号生成部)3と、出力部4と、付加信号生成部5とを備えて構成される。受取部1は、上述したように、回転体の回転に応じて出力される交流の検出信号Sを受け取る機能部である。回転センサなどのセンサから出力される検出信号Sは高インピーダンスの信号であることが多い。受取部1は、入力インピーダンスが高く、出力インピーダンスが低いバッファ11などを備えて構成される。波高検出部2は、検出信号Sの波高を検出する機能部である。周期信号生成部3は、検出信号Sの波高に応じて設定されるしきい値(Th)に基づいて検出信号Sの周期に応じた周期を有する周期信号(回転検出信号)F1を生成する機能部である。付加信号生成部5は付加信号F3を、生成する機能部である。出力部4は、周期信号F1及び付加信号F3を合成して1つの出力信号Fとして出力する機能部である。周期信号生成部3、付加信号生成部5、出力部4の詳細については後述する。
初めに、波高検出部2及び周期信号生成部3の機能について詳述する。本実施形態において、車輪の状態検出装置は、マイクロコンピュータなどを中核とする電子回路によって構成される。各機能部は、ハードウェア及びハードウェアとソフトウェアとの協働によって実現される。以下、本実施形態では、検出信号Sをデジタル変換して、デジタル信号処理する場合を例として説明する。図4は、検出信号Sをデジタルカウント値Dへ変換する方法の一例をし、図5は、周期信号F1を生成する方法の一例を示す。図3に示すように、本実施形態において、波高検出部2は、A/D変換部21と、反転しきい値設定部22と、コンパレータ23と、カウンタ24と、レジスタ25とを有して構成される。そして、検出された波高値に基づいて、周期信号生成部3が周期信号F1を生成する。
上述したように、受取部1において検出信号Sはインピーダンス変換されており、この際、同時に信号の増幅処理等を施されることも可能である。従って、厳密には受取部1が受け取る検出信号Sではなく、受取部1から出力される信号がデジタル変換されることになるが、情報処理上の信号処理においては、受取部1の前後において同様の信号であると考えることができる。従って、以下、受取部1から出力される信号についても、検出信号Sと称して説明する。
A/D変換部21は、検出信号Sを所定の条件に従ってデジタル変換する機能部であり、A/Dコンバータを有して構成される。A/Dコンバータには、フラッシュ型、逐次比較型、積分型など種々の種類のものがあり、変換速度や変換精度などに応じて、適宜最適なものが選択される。また、A/Dコンバータの出力形態も、アナログの入力に対して絶対的な値をデジタル値として出力するものや、アナログの入力が所定量の変化をするごとにトリガ信号を出力するものなど、種々の形態のものがあり、適宜選択される。本実施形態においては、絶対的な値をデジタル値として出力するものではなく、所定量の変化(所定のステップ)ごとに、トリガ信号を出力するタイプのA/Dコンバータが用いられる場合を例として説明する。
本実施形態において、このタイプのA/Dコンバータを用いるのは以下の対策のためである。つまり、回転センサの検出信号Sの振幅中心が揺れた場合、即ち、直流分のオフセットに変動が生じた場合であっても、検出信号Sの振幅(波高)に応じて適切な信号処理を可能とするためである。直流分のオフセットは、カップリングコンデンサや直流バイアスなどを利用した別の信号処理回路によって解消させることも可能である。当業者であれば、以下に示す本実施形態の説明を理解して、絶対的な値をデジタル値として出力するタイプのA/Dコンバータを用いて本発明のセンサ信号処理装置を構成することが可能であろう。従って、本実施形態は本発明を限定するものではない。
A/D変換部21は、検出信号Sが所定量だけ変化するごとに、具体的には、振動する波形のピークPの側に向かって所定量だけ変化するごとに、トリガ信号を出力する。振動する波形の波高値のことを「ピーク・トゥ・ピーク(peak to peak)」と称するように、本実施形態において「波形のピークP」とは、波形の山側及び谷側の双方を指すものとする。図4に示すように、所定の反転しきい値RよりもピークPの側において、トリガ信号が出力され、このトリガ信号がカウンタ24において計数されて、デジタルカウント値Dとなる。図4において、正弦波状の検出信号Sに沿って、階段状に変化し、5、6、7・・・24、25と値が付記されたものがデジタルカウント値Dである。反転しきい値Rについては後述する。
検出信号SがピークPに達すると、ピークPに向かって検出信号Sが所定量だけ変化することがなくなる。従って、デジタルカウント値Dは、検出信号SのピークPの近傍において一定値が継続する状態となる。図4に示す例においては、デジタルカウント値Dが25において継続しており、デジタルカウント値Dのピーク値DPとなっている。カウンタ24がアップ・ダウン・カウンタであり、検出信号SがピークPの方向及びその反対方向に所定量だけ変化した場合に、それぞれ異なるトリガ信号がA/D変換部21から出力される構成であれば、検出信号Sの波形に応じたデジタルカウント値Dを得ることが可能である。しかし、この場合には、ノイズなどにより検出信号SがピークP以外の位置で増減した場合にも追従してしまう可能性が生じる。そこで、本実施形態においては、カウンタ24はアップ・カウンタとして構成される。そして、検出信号Sが逆方向へ変化する(ピークPとは反対方向への変化する)際には、デジタルカウント値Dの複数カウント分に相当する所定の変化幅hを超えた場合に、ピークPを超えて反転したと判定されるように構成される。つまり、ヒステリシスが設定される。
具体的には、本実施形態においては、反転しきい値設定部22において、検出信号SがピークPを超えて反転したか否かを判定するための反転しきい値Rが設定される。ここでは、反転しきい値Rは、デジタルカウント値Dの5カウント分に当たる変化幅hを有して設定される。A/D変換部21は、最新のトリガ信号の出力時の検出信号Sのアナログ値(又は、A/D変換しきい値であるアナログ値)を反転しきい値設定部22に伝達する。反転しきい値設定部22は、受け取った当該アナログ値に所定の変化幅h(ヒステリシス値)を加味して、反転しきい値Rを設定する。検出信号Sが上昇している時(ピークPが山側の時)には、当該アナログ値から上記ヒステリシス値hが減算されて、反転しきい値Rが設定される。検出信号Sが下降している時(ピークPが谷側の時)には、当該アナログ値に上記ヒステリシス値hが加算されて、反転しきい値Rが設定される。
反転しきい値Rは、反転判定部として機能するコンパレータ23に入力される。コンパレータ23は、検出信号Sと反転しきい値Rとを比較して、検出信号SがピークPを超えて反転したか否かを判定する。コンパレータ23からの判定出力を受け取ったカウンタ24は、デジタルカウント値Dのピーク値DPをレジスタ25に転送して記憶させると共に、自身(カウンタ24)のデジタルカウント値Dをプリセットする。図2に示す例では、カウンタ24は、レジスタ25にデジタルカウント値Dのピーク値DPとして「25」を記憶させ、自身(カウンタ24)のデジタルカウント値Dを「5」にプリセットする。プリセットされる値「5」は、上記ヒステリシス値hに対応するデジタルカウント値Dのステップ数である。
コンパレータ23からの判定出力を受けたA/D変換部21は、それ以降は、当該判定出力を受け取る前とは逆方向へ検出信号Sが所定量変化した場合に、トリガ信号を出力する。このトリガ信号により、カウンタ24はデジタルカウント値Dをインクリメントする。また、コンパレータ23からの判定出力を受けた反転しきい値設定部22は、反転しきい値Rを設定する際の演算方法を切り替える。即ち、反転しきい値設定部22は、A/D変換部21から受け取る上記アナログ値に対してヒステリシス値hを「減算」するか、「加算」するかの切り替えを行う。
周期信号生成部3は、レジスタ25から最新のデジタルカウント値Dのピーク値DPを取得してしきい値Thを設定する。本実施形態において、このしきい値Thは、周期信号判定用のしきい値である。しきい値Thは、ピーク値DPに対して所定の係数kを乗じることによって設定される。尚、しきい値Thがレジスタ25において設定されて、周期信号生成部3がしきい値Thをレジスタ25から取得する構成であってもよい。いずれにせよ、周期信号生成部3は、しきい値Thとカウンタ24から取得するデジタルカウント値Dとに基づいて、周期信号F1の出力タイミングを決定する。本実施形態においては、この出力タイミングごとに、周期信号F1が出力される。但し、周期信号生成部3は、必ずしも周期信号F1の波形を生成する必要はなく、パルス波形の変化点などの出力タイミングを決定すれば足りる。波形生成に関しては、出力部4において実施してもよい。
以下、具体的な数値を用いて説明する。ここでは、理解を容易にするために波形を生成する場合を例として説明する。図5における検出信号Sの左側の谷のピーク値DPは「23」である。例えば、係数kが0.8の場合、しきい値Thは「18」となる。ここでは、説明を容易にするために端数は切り捨てとする。カウンタ24から受け取るデジタルカウント値Dが「18」となると、周期信号生成部3は周期信号F1を生成する。周期信号F1は、基準値Cから正方向へ信号レベルPLの波高、幅W1のパルス幅を有するパルスとして生成される。パルス幅W1(W)は、検出信号Sの周期Tに比べて充分に狭幅である。
また、図5における検出信号Sの山のピーク値DPは「25」である。この場合、しきい値Thは「20」となる。カウンタ24から受け取るデジタルカウント値Dが「20」となると、周期信号生成部3は上記と同様の波高(C→PL)及びパルス幅(W1)を有する周期信号F1を生成する。このように、周期信号F1は、検出信号Sの山と谷とにおいて1つずつ生成される。従って、周期信号F1のパルス間隔は、検出信号Sの半周期(=T/2)となる。このように、周期信号生成部2は、検出信号Sの波高(ピーク値DP)に応じて設定されるしきい値Thに基づいて検出信号Sの周期に応じた(周期に比例する)周期を有する周期信号F1を生成する。尚、当然ながら、周期信号F1は、検出信号Sの山と谷との何れか一方において1つのみ生成されてもよい。周期信号F1はその周期により第1の物理量である回転速度を伝達する第1パルスに相当する。
一方、付加信号F3は、周期信号F1の出力タイミングに依存されることなく生成される。付加信号F3は、付加信号生成部5において生成されるが、周期信号F1と同様に、付加信号生成部5が必ずしも周期信号F1の波形を生成する必要はない。付加信号生成部5は、パルス波形の変化点などの出力タイミングを決定すれば足り、波形生成に関しては、出力部4において実施してもよい。付加信号F3は本発明の第2パルスに相当する。
付加信号生成部5は、空気圧センサ、温度センサなどから付加情報Xを受け取る。本実施形態では、空気圧センサから付加情報Xを受け取り、付加信号F3を生成する場合を例として説明する。初めに、周期信号F1及び付加信号F3が共通の信号線により出力信号Fとして出力される様子を俯瞰的に示した図6を用いて説明する。図6における時刻t0は、車両のイグニッションスイッチがオンされた時点であるIGONを示している。この時、空気圧を示す付加情報Xに対する内部データMは初期値である。本実施形態においては、付加信号F3と周期信号F1とは、相補的にデータ値を増加又は減少させて第2の物理量である付加情報X(空気圧)を伝達する。付加情報F3は、第2パルスに相当する。付加信号F3と周期信号F1とによって、付加情報Xの値そのものを示すことができないため、初期値から徐々に付加情報Xに近づけるべく、伝達済みのデータの値と実際のデータの値(現在のデータの値、付加情報X)との間の差分が縮められていく。この伝達済みのデータ値が内部データMに相当する。内部データ値Mは、車両内のECUが受け取る付加情報(空気圧)の値でもある。
空気圧は、所定の値以下に低下した場合に問題となる。従って、初期値は、高圧側に設定され、付加信号F3と周期信号F1とによって、初期値から徐々に測定値である実際(現在)のデータの値へと近づけられていく。付加信号F3は、初期値又は伝達済みのデータ値である内部データMと、実際のデータの値(付加情報X)との間に所定方向の差分が生じている場合に所定のパルス間隔Tdで出力される。ここでは、所定方向の差分とは、M>Xとなる方向である。IGONから電子回路がセットアップされる初期時間Toが経過した後、時刻t10から所定のパルス間隔Tdで付加信号F3が出力され始める。付加信号F3の1パルスは、本実施形態においては「−2」を示し、付加信号F3が出力されるごとに、内部データMが減少していく。
例えば、時刻t20において、内部データMが実際のデータの値(X)と一致、あるいは内部データMが実際のデータの値(X)を下回ると、内部データMと実際のデータの値(X)との間に生じていた所定方向の差分が解消される。図6では、内部データMが実際のデータの値(X)を下回った場合を例示している。実際のデータの値(X)に変化が無ければ、これ以降、付加信号F3の出力条件を満たさなくなるため、時刻t20を過ぎた後は付加信号F3の出力が停止される。
車両が動き始めると、車輪9が回転して周期信号F1が出力される。周期信号F1は、第2の物理量を伝達するに際して「1」を示し、周期信号F1が出力されるごとに内部データMが増加する。例えば、時刻t30及び時刻t40において周期信号F1が出力されると、内部データMは、再び実際のデータの値(X)よりも大きくなり、付加信号F3の出力条件を満たすようになる。従って、時刻t41において付加信号F3が出力され、内部データ値Mが減少する。
上述したように、内部データ値Mは、車両内のECUが受け取る付加情報X(空気圧)の値でもある。図7に示すように、周期信号F1と付加信号F3とは、異なる形状のパルスである。本実施形態では、波高値が異なるパルスである。車両内のECUは、例えば、図7に示すa及びbを基準として、パルスの存在を認識する。車両内のECUは、所定期間内において基準aで認識されたパルス数、及び基準bで認識されたパルス数、及び初期値に基づいて、付加情報Xの値を再現する。ECUが演算により再現する付加情報Xの値は、内部データ値Mに相当する。従って、情報を送信する側の車輪の状態検出装置は、送信済みのデータ値を把握していることとなる。
以下、図8のフローチャートも参照して、図6に例示したような共通の信号線で異なる物理量を伝送する際の付加信号F3のパルス生成の具体例について説明する。主として、上述した付加信号生成部5を中核とし、部分的に周囲信号生成部3や出力部4が関与する機能に相当する。但し、ここでは機能部を特定せず、これらの機能部が実現されるマイクロコンピュータのプログラムの実行例として説明する。周期信号F1のパルス生成については、上述した通りであるのでフローチャートは省略する。
図6における時刻t0(IGON)において、車両のイグニッションスイッチがオンされると、車輪の状態検出装置に電源が供給され、マイクロコンピュータが起動する。図8に示すように、マイクロコンピュータは、初期化処理として通信フラグJ、タイマ値t、差分係数dを初期値に設定する(ステップ#10)。本例において、これらの初期値は全てゼロである。また、付加情報Xを付加信号生成部5に供給するセンサもIGONによって起動され、付加情報Xを出力する。
マイクロコンピュータは、初期化処理を終えると付加情報Xの値を取得する(ステップ#20)。また、付加情報Xに関する内部データMの値を演算する(ステップ#30)。内部データMの値は、差分係数dと分解能との積を、所定の初期値に加算して求められる。本実施形態では、付加情報Xとして車輪の空気圧の値を用いる。従って、内部データMの初期値は平常値よりも高い値に設定され、分解能は負の値である。例えば、初期値が「400kPa(キロパスカル)」、分解能が「−10kPa」に設定される。ステップ#20とステップ#30との処理順序は、逆であってもよい。また、初期値や分解能の値は固定値でも良いし、ステップ#10の初期化処理において設定されてもよい。
付加情報Xの値と、内部データMの値とが得られると、次に内部データMの値が付加情報Xの値よりも大きいか否かが判定される(ステップ#32)。本実施形態では、上述したように、付加信号F3のパルスは減少を指示し、周期信号F1のパルスは増加を指示する。従って、内部データMの値が付加情報Xの値よりも大きい場合には、ステップ#40以下の処理の実行によって付加信号F3のパルスが生成される。一方、内部データMの値が付加情報Xの値以下の場合には、付加信号F3のパルスは生成されず、ステップ#20へ戻る。
内部データMの値が付加情報Xの値以下であって、付加情報Xの値に変化がなく、周期信号F1も出力されない場合には、周期信号F1のパルスによって内部データMの増加も指示されない。従って、内部データMの値にも変化はなく、ステップ#20、#30、#32が繰り返し実行されることになる。一方、図4及び図5を利用して上述したように、周期信号F1が出力されると、周期信号F1のパルスによって内部データMの値を増加させる必要がある。そこで、周期信号F1が出力されると、後述する割り込み処理によって、差分係数dの値が更新される(ステップ#62に相当する。)。
差分係数dは、内部データMの値が初期値に近づく方向へ更新される際には減算され、初期値から離れる方向へ更新される際には加算される。本実施形態では、周期信号F1のパルスにより内部データMの値が増加して初期値に近づく方向へ更新されるので、差分係数dの値が減算される。また、差分係数dは、周期信号F1のパルスによる変化量(増減量、ここでは増加量。)である「1」に対応して、「1」減算される。ステップ#62によれば、周期信号F1のパルス生成に伴ってタイマ値tがリセットされるが、これについては後述する。
ステップ#32において内部データMの値が付加情報Xの値よりも大きいと判定された場合には、通信フラグJの状態が判定される(ステップ#40)。通信フラグJが「0」の場合には通信不可を示し、「1」の場合には通信可能を示す。通信フラグJが「0」の場合には、タイマ値tがTo以上か否かが判定される(ステップ#42)。タイマ値tがTo以上となるまで、このステップ#42が繰り返される。そして、タイマ値tがTo以上となると、通信フラグJが「1」に変更され、通信可能状態となる(ステップ#43)。つまり、ステップ#40〜ステップ#43において、図6に示すようにIGONから所定の初期時間Toを経過したか否かが判定される。
ステップ#42において、IGONから所定の初期時間Toを経過したと判定されると、付加信号F3のパルスが生成される(ステップ#50)。このパルスは、図6において時刻t10で出力される付加パルスF3に対応する。ステップ#60については後述し、周期信号F1による割り込みが無かったとして説明を続ける。ステップ#50において付加信号F3のパルスが生成されると、タイマ値tがゼロにリセットされ、差分係数dに「2」が加算される(ステップ#64)。差分係数dに加算される「2」は、付加信号F3のパルスが出力されるごとに減少する内部データMの「−2」に対応する。符号の「−」は、上述したように、負の値で設定される分解能によって定められる。
ステップ#64を終えると、ステップ#20に戻り、再度、付加情報Xの値を取得し、ステップ#30において内部データMの値を再計算する。このとき、差分係数dの値は、先のステップ#64において更新されているので、内部データMの値は、前回に対して、「分解能×2」だけ減少することになる。図6の時刻t10において内部データMが減少しているのは、これに対応する。
本実施形態では、付加情報Xの値に変化がないものとして、以下説明を続ける。図6にも示すように、2度目のステップ#32においても「M>X」であるのでステップ#40に進む。2度目のステップ#41では、既に初期時間Toが経過して通信フラグJが1になっているので、ステップ#44に進む。ステップ#44では、前回のステップ#50における付加信号F3のパルスを生成後に、所定のパルス間隔Tdが経過したか否かが判定される。経過していなければ、パルス間隔Tdが経過するまでステップ#44の判定を繰り返し、経過していれば、ステップ#50に進んで付加信号F3のパルスを生成する。
周期信号F1のパルスが出力されるまで、このような処理が繰り返し実行され、図6に示す時刻t20まで付加信号F3のパルスが出力される。時刻t20に出力される付加信号F3のパルスに応じてステップ#64で更新された差分係数dを用いて次のステップ#30で演算される内部データMは、図6に示すように付加情報Xの値を下回る。このため、ステップ#30に続くステップ#32において「M>X」が「偽」となる。付加情報Xの値に変化が生じる(この場合は減少する)か、周期信号F1の出力により内部データMの値が増加するまで、ステップ#20、ステップ#30、ステップ#32の処理が繰り返される。この期間は、図6の時刻t20の経過後から時刻t30の期間に対応する。
周期信号F1のパルスが生成されると、上述したように、差分係数dは、周期信号F1のパルスによる変化量(増加量)である「1」に対応して、「1」減算される必要がある。そこで、周期信号F1のパルスが生成されると、割り込み処理(ステップ#60及び#62)が実行される。図8に示すフローチャートでは、便宜上、ステップ#50に続く処理としてステップ#60を記載しているが、当然ながら一般的なコンピュータの割り込み処理と同様に、何れのステップからでもステップ#60に移行することが可能である。上記においては、付加情報Xの値に変化が生じる(この場合は減少する)か、周期信号F1の出力により内部データMの値が増加するまで、繰り返されると説明した。しかし、これらに加えて、割り込み処理によっても繰り返し処理から離脱する。
割り込み処理により、タイマ値tがリセットされ、差分係数dが「1」減算される(ステップ#62)。差分係数dが「1」減算されることは、周期信号F1のパルスが出力されるごとに内部データMが「1」増加することに対応する。つまり、差分係数dに「−1」が加算されると考えた時の負の符号と、負の値で設定される分解能との積によって、内部データMの値が正方向へ変化することになる。図6の時刻t30に示すように、周期信号F1のパルスが出力されることによって、次のステップ#30において演算される内部データMの値が増加している。タイマ値tのリセットについては後述する。
図6に示すように、時刻t30において出力される周期信号F1によって更新された内部データMの値は、本実施形態では付加データXの値と一致する。テップ#30に続くステップ#32の判定は、依然として「偽」であり、ステップ#20、ステップ#30、ステップ#32の処理が繰り返される。
図6の時刻t40に示すように、周期信号F1のパルスが生成されると、ステップ#20、ステップ#30、ステップ#32の繰り返し処理から、割り込み処理(ステップ#60及び#62)が実行される。図6に示すように、時刻t40において生成された周期信号F1のパルスにより更新された差分係数dを用いて次のステップ#30で演算された内部データMの値は、付加情報Xの値を上回る。従って、ステップ#32の判定は「真」となり、以下、ステップ#40、ステップ#44、ステップ#50と進んで付加信号F3のパルスが生成される。ステップ#44においてパルス間隔Tdが管理されるので、図6における時刻t40と時刻t41との間には、パルス間隔Tdが確保される。
時刻t41において出力される付加信号F3に応じて、差分係数dに「2」が加算される(ステップ#64)。ステップ#30における内部データMの値を再計算により、内部データMの値は、減少し、付加情報Xの値と同値となる。回転体の回転状態の検出状況に応じて、付加信号F3のパルスとは非同期に出力される周期信号F1のパルスにより、内部データMの値が変更されるが、このようにして修正可能である。
本実施形態によれば、周期信号F1が生成されないような、例えば車両が停止中であっても、周期信号F1とは非同期に生成され、周期の依存性もない独自高速パルスである付加信号F3のパルスを用いて付加情報Xを良好に伝達することができる。
また、周期信号F1及び付加信号F3のパルスは、車両内の他のECUによって区別可能に受信される必要がある。従って、両パルスの間隔は、車両内の他のECUによって区別可能な所定のパルス間隔(例えば、上述したパルス間隔Td)を有していることが好ましい。上述したように、周期信号F1のパルスが出力された際に、ステップ#62においてタイマ値tがリセットされるので、周期信号F1のパルスの出力後にパルス間隔Tdを確保した上で付加信号F3のパルスが出力される。
また、図8の破線枠C内に示したように、ステップ#50において付加信号F3のパルスを出力している最中に、周期信号F1のパルスが出力された場合には、図7に示すように破線aにおけるパルス数が1つであると受信側で判定される。従って、ステップ#50において付加信号F3が生成されなかったものとして、差分係数dの値が更新される。従って、このような場合を想定しても、非同期のパルスを用いて良好に複数の情報を伝達可能である。
さらに、付加信号F3のパルスの出力直後に、周期信号F1のパルスが出力された場合を想定して、パルス間隔Tdを確保するための工夫を加えると好適である。これは、受信側のECUでは2つのパルスを区別することができないにも拘わらず、送信側では2つのパルスを出力したものとして処理を継続する可能性に対応するためである。つまり、送信されたデータ(内部データM)と、受信されたデータとの間に差異が生じる可能性を抑制するためである。具体的には、ステップ#50からステップ#60を経てステップ#64へ至るフローの間に、少しウェイト時間を設けるようにするとよい。差分係数dの更新に先立ってタイマ値tを先にリセットしておけば、このウェイト時間の間もタイマ値tの計数が継続するので、パルス間隔Tdが延長されることもない。
尚、初期時間Toが経過する前に周期信号F1のパルスが出力されると、タイマ値tがリセットされることから、ステップ#42の条件を満たさず、通信フラグJが「0」のまま更新されない可能性がある。しかし、周期信号F1の出力に際しても初期時間Toを設ける、周期信号F1の最小周期よりも短い初期時間Toを設定する等、使用環境に応じて、適宜対応可能であるので問題はない。又は、ステップ#62に、「J=1」として通信フラグJを「1」に強制的に設定する処理を加えておいてもよい。
ここで、周期信号F1のパルス、付加信号F3のパルスのパルス数によって、伝送される付加情報Xの値(内部データM)の初期値からの差であるデータ値Δを表す換算式について説明を加えておく。分解能の符号を加味し、周期信号F1のパルスにより値が「1」増加し、付加信号F3のパルスにより値が「2」減少するものとする。また、下記式(1)中のajは、図7において基準aと交差したパルス数であり、bjは、図7において基準bと交差したパルス数である。
データ値Δ = −(2・Σaj − 3・Σbj)・・・(1)
本実施形態では、初期値から減算される場合を例示しているので、式の全体に「−1」を乗算する形式で式(1)を記載している。初期値がゼロなどであり、初期値から加算される場合には、式(1)は括弧内の形となる。また、実際には、Δは式(1)に分解能を乗じた値となるが、ここでは説明を容易にするために、分解能を乗じていない形式で示す。
ここで、図6の例に対して、上記式(1)を当てはめてみる。時刻t10〜時刻t20において、付加信号F3のパルスが20ケ出力されたとする。この間、周期信号F1のパルスの出力数はゼロであるから、データ値Δは以下のようになる。付加信号F3の1つのパルスは「−2」を示すから、パルス数20で「Δ=−40」と、正しく計算される。
データ値Δ = −(2×20 − 3×0)= −40
次に、時刻t30において、周期信号F1のパルスが出力された場合を考える。基準aにおけるパルスの総数は21となり、基準bにおけるパルスの総数は1となる。周期信号F1の出力により、時刻t20に時点に対して1だけ増加し、「Δ=−39」と、正しく計算される。
データ値Δ = −(2×21 − 3×1)= −39
次に、時刻t40において、周期信号F1のパルスが出力された場合に当てはめる。基準aにおけるパルスの総数は22となり、基準bにおけるパルスの総数は2となる。周期信号F1の出力により、時刻t30に時点に対してさらに1だけ増加し、「Δ=−38」と、正しく計算される。
データ値Δ = −(2×22 − 3×2)= −38
次に、時刻t41において、周期信号F1のパルスが出力された場合に当てはめる。基準aにおけるパルスの総数は23となり、基準bにおけるパルスの総数は2のままである。周期信号F1の出力により、時刻t40に時点に対して2だけ減少し、「Δ=−40」と、正しく計算される。
データ値Δ = −(2×23 − 3×2)= −40
このように、何れの時刻においても、周期信号F1と付加信号F3のパルスにより、伝送された情報を正しく計算し、復元することが可能である。本実施形態におけるこの通信プロトコルは、任意の時刻において、伝送された情報を正しく復元できるだけではなく、既に伝送された情報に対して、その差分値δ(=2・an−3・bn)を伝送するものと考えることも可能である。つまり、下記式(2)のように解釈することも可能である。
ここで、式(2)の右辺の第1項は、既に伝送された情報のデータ値Δn-1を示している。例えば、図6における時刻t40においては、基準aに対するパルスが1、基準bに対するパルスが1つ追加されるので、式(1)のΣaj及びΣbjにそれぞれ1を代入すると、「−(2−3)」となって、「δ=1」となる。つまり、周期信号F1のパルスによって、データ値Δが「1」増加する。図6における時刻t41においては、基準aに対するパルスのみが1つ追加されるので、式(1)のΣajに「1」、Σbjに「0」を代入すると、「−(2−0)」となって、「δ=−2」となる。つまり、付加信号F3のパルスによって、データ値Δが「2」減少する。
つまり、本通信プロトコルによれば、出力信号Fを受け取ったECUが、所定の期間の満了時にまとめて演算してデータ値Δや付加情報Xの値を求めることが可能であるばかりではなく、差分値δに応じて値を更新することも可能であることが一層よく理解できる。既に伝送された値に差分値δを加える(マイナスの値を含む)という簡単な演算でデータ値Δや付加情報Xの値を更新可能であるので、出力信号Fを受け取るECUの演算負荷が軽減され、演算時間も短縮される。また、データを一時記憶するためのRAMなどの一時記憶手段の容量も抑制することが可能である。
〔第2実施形態〕
本発明においては、周期信号F1のパルスに対して、非同期に付加信号F3のパルスを出力可能な構成とすることで、周期信号F1が出力されない時でも付加情報Xの伝送を可能としている。しかし、周期信号F1が出力されるようになった以降は、周期信号F1に同期して付加信号F3を出力するようにしてもよい。つまり、周期信号F1が出力され始めた後には、例えば、図8に示すフローチャートを、ステップ#20、ステップ#60、ステップ#62、ステップ#30、ステップ#32、ステップ#40、ステップ#44、ステップ#50、ステップ#64の順に実行するように変更すればよい。この説明により、当業者であれば容易に第1実施形態を改変可能であるので、詳細な説明は省略する。
周期信号F1が出力されるようになる前であっても、内部データMと付加情報Xの値との差分が所定の定常差分値未満となった後に、周期信号F1に同期して付加信号F3を出力するようにしてもよい。図6及び図8に示す例において、定常差分値をゼロとすれば、ステップ#32の判定を、付加信号F3の出力タイミングを周期信号F1に同期させる切り換えの判定として利用することができる。また、この際、図6における時刻t20以降において、付加信号F3の出力タイミングが周期信号F1に同期することになる。
〔第3実施形態〕
第2実施形態のように、周期信号F1に同期させて付加信号F3を出力する場合、周期信号F1のパルスと、付加信号F3のパルスとの持つ数値的な意味を変更してもよい。非同期の周期信号F1と付加信号F3とを用いて伝送する場合には、両信号のパルスのそれぞれに数値的な意味を持たせていた。しかし、両信号が同期する場合には、周期信号F1には情報伝送のトリガとしての役割だけを持たせ、付加信号F3に増減の双方の数値的な意味を持たせてもよい。
図9は、周期信号F1のパルスに同期して出力され、増減の双方の数値的な意味をもつ付加信号F3のパルスの一例である。図9に示す波形Faは、リセット状態を示し、例えば、付加情報Xの値を初期値に戻すものである。このリセット状態は、基準aでのパルス数と基準bでのパルス数とが一致する場合とすると好適である。
波形Fbは差分値δが「1」減少する時の波形を示し、波形Fdは差分値δが「1」増加する時の波形を示し、波形Fcは差分値δがゼロの場合を示す。また、波形Faに示すリセット後であれば、周期信号F1の複数周期に亘る基準aでのパルス数と、基準bでのパルス数とに基づき、下記式(3)によって初期値との差を示すデータ値Δを求めることも可能である。式(1)及び式(2)を提示して上述したように、式(3)は、差分値δ及びデータ値Δの双方を求める際に利用可能な式である。
データ値Δ = −(Σaj − 3・Σbj)・・・(3)
〔第4実施形態〕
第3実施形態では、周期信号F1に同期して出力される付加信号F3のパルス数の最大値が3である場合を例として説明した。しかし、付加信号F3のパルス数の最大値は、「3」に限定されるものではない。例えば、第2実施形態は、図9の波形Faに示すリセット状態が存在せず、上記式(1)に基づいて差分値δ及びデータ値Δの双方を求めることが可能な1つの実施形態である。この場合には、付加信号F3のパルス数の最大値は「1」である。
周期信号F1に同期して出力される付加信号F3のパルス数の最大値が2である場合には、下記式(4)に基づいて差分値δ及びデータ値Δの双方を求めることが可能である。尚、この場合には、基準aでのパルス数と基準bでのパルス数とが一致する場合をリセットとすることができる。
データ値Δ = −(2・Σaj − 5・Σbj)・・・(4)
周期信号F1に同期して出力される付加信号F3のパルス数の最大値が3以上の奇数Nである場合には、下記式(5)に基づいて差分値δ及びデータ値Δの双方を求めることが可能である。この場合にも、基準aでのパルス数と基準bでのパルス数とが一致する場合をリセットとすることができる。Σbjに対する係数は、付加信号F3のパルス数の最大値の中央値に周期信号F1のパルスの1つ分を加算した値である。
尚、周期信号F1に同期して出力される付加信号F3のパルス数の最大値が4以上の偶数Nである場合には、下記式(6)に基づいて差分値δ及びデータ値Δの双方を求めることが可能である。この場合にも、基準aでのパルス数と基準bでのパルス数とが一致する場合をリセットとすることができる。Σbjに対する係数は、付加信号F3のパルス数の最大値の中央値に周期信号F1のパルスの1つ分を加算した値である。付加信号F3のパルス数の最大値が偶数である場合、付加信号F3のパルス数の最大値の中央値は1つに定まらない。従って、下記式(7)を用いてもよい。
〔その他の実施形態〕
周期信号F1は、回転状態を示す信号に限定されることなく、周期が物理量(第1の物理量)を示すものであれば他の信号であってもよい。また、第2の物理量は、空気圧に限定されることなく、例えば温度などの他の物理量であってもよい。また、本実施形態では、付加情報が初期値から減少する場合を例示したが、当然ながら本発明はこれに限定されない。初期値がゼロなどの低い値であって、その値が増加する物理量であってもよい。
以上説明したように、本発明によって信号処理装置やプログラムなどの規模の増大を抑制しつつ、一方の情報を伝送するタイミングに他方の情報を伝送するタイミングが依存されることなく、共通の信号線で複数の情報を伝送することができるデータ通信方法を提供することができる。このデータ通信方法は、特に車輪の状態を示す物理量と共に他の物理量を伝送する車輪の状態検出装置に適用することが可能である。