実施の形態1.
先ず、比較のために、一般的なリラクタンスモータ500について、図1乃至図7を参照しながら説明する。
図1乃至図7は比較のために示す図で、図1は一般的なリラクタンスモータ500の横断面図、図2は一般的なリラクタンスモータ500の固定子510の横断面図、図3は一般的なリラクタンスモータ500の回転子520の横断面図、図4は図3のA−A断面図、図5は図3のB−B断面図、図6は一般的なリラクタンスモータ500のd軸方向の磁束線図、図7は一般的なリラクタンスモータ500のq軸方向の磁束線図(図6とは回転子520の位置が45°(機械角)異なる)である。
図1に示す一般的なリラクタンスモータ500は、円筒状の固定子510と、この円筒状の固定子510の内周部に所定の径方向寸法の空隙(図示せず、径方向の寸法が略一定の空間)を介して設けられる回転子520と、を備える。
固定子510は、回転子に永久磁石を用いる永久磁石型モータもしくは誘導電動機の固定子と同様の構成である。図2に示すように、固定子510は、円筒状の固定子鉄心511(所定の形状に打ち抜いた電磁鋼板(板厚が、0.1〜1.0mm程度)を、所定枚数積層して構成される)と、この固定子鉄心511の内周縁に沿って複数個周方向に略等間隔に形成されるスロット515に絶縁部材(図示せず)を介して挿入される巻線513と、を備える。
固定子鉄心511は、外周部が円筒状のコアバック512で、このコアバック512から内側にティース514(歯部)が複数径方向に放射状に形成されている。図2の例は、スロット515の数が24であり、ティース514の数も、スロット515の数と同じ24である。
巻線513は、例えば、分布巻もしくは集中巻の三相の巻線(例えば、Y結線)である。
固定子510の内周部に所定の空隙(径方向の寸法が略一定の空間)を介して、回転子520が配置される。
図3乃至図7を参照しながら、回転子520について説明する。回転子520を単に、ロータと呼ぶ場合もある。回転子520の極数は、4極である。回転磁界を発生する固定子510の内周部に所定の空隙を介して配置される回転子520は、所定の形状に打ち抜かれた電磁鋼板を所定枚数積層して構成される回転子鉄心521と、回転子鉄心521に嵌合する回転軸524と、を備える。
回転子鉄心521を構成する電磁鋼板には、第1のスリット部522a、第2のスリット部522b、第3のスリット部522c、第4のスリット部522dが設けられる。
これらの第1のスリット部522a、第2のスリット部522b、第3のスリット部522c、第4のスリット部522dは、回転軸524が嵌合する軸孔に頂点を向け、一方のd軸から他方のd軸(図3の例では、一方のd軸と他方のd軸間の角度は90°(機械角)である)へ向かう円弧形状(逆円弧形状)である。且つ、これらの第1のスリット部522a、第2のスリット部522b、第3のスリット部522c、第4のスリット部522dは、当該極数分(図3では4極)だけ回転子鉄心521の外周に沿って周方向に所定の間隔で形成されている。
回転子鉄心521を構成する電磁鋼板は、例えば、各電磁鋼板に形成される切り起こし突起を軸方向に隣接する電磁鋼板で嵌合させて固定する一般的なカシメ523により積層される。
複数の第1のスリット部522a、第2のスリット部522b、第3のスリット部522c、第4のスリット部522dは、フラックスバリアとして機能する。そのため、固定子鉄心511からのq(quadrature)軸磁束(一方のq軸から他方のq軸への磁束)を通りにくくし(q軸磁路が小さい)、一方、第1のスリット部522a、第2のスリット部522b、第3のスリット部522c、第4のスリット部522dの間の磁路(鉄心部)は固定子鉄心511からのd(direct)軸磁束(一方のd軸から他方のd軸への磁束)を通す(d軸磁路が大きい)。
ロータが図6の位置にあるとき、磁束はスリットの間の鋼板部を通過する(磁束の流れの妨げが無い)。それに対しロータが図7の位置にあるときは、スリットが磁束の流れの妨げとなるので、磁束はスリット端部とロータ外周部の間の薄肉部を主に通過しようとする。しかし,ある一定量以上の磁束がその薄肉部を通過しようとすると磁気飽和を起こし,それ以上磁束が通過できなくなる。その結果、図7のようにスリット間を磁束が通過してしまい、ロータ内で磁束の通過しやすい向き(d軸)と通過しにくい向き(q軸)の双方で生まれる極性が無くなり,トルクが小さくあるいは発生できなくなる。
このように、ロータにおいて磁束が流れやすい向きをd軸方向とし、スリットにより流れにくい向きをq軸方向とする。
磁束は鉄心部(電磁鋼板)を磁路として通過するため、図3に示すように、回転軸524が嵌合する軸孔に頂点を向け、一方のd軸から他方のd軸へ向かう円弧形状の第1のスリット部522a、第2のスリット部522b、第3のスリット部522c、第4のスリット部522dを設けることにより、図6に示すように磁束の流れができる。この磁束の流れている向きがd軸方向であり、スリット(第1のスリット部522a、第2のスリット部522b、第3のスリット部522c、第4のスリット部522d)によって磁束が流れにくくなっている向きがq軸方向となる。この磁束の流れているd軸と、磁束が流れにくくなっているq軸によって回転子520に突極性が生まれ、リラクタンストルクを発生することができる。
しかし、このスリット幅Ls(図3)が小さかったり、回転子520内を通過する磁束が大きくなると磁気飽和を起こし、磁束がスリットを通過してしまう。こうなると、突極性が失われ、トルクが小さくなってしまう。
図8は比較のために示す図で、回転子520よりもスリット幅を大きくした回転子620の横断面図である。より高トルクにするにはq軸インダクタンスを低減、つまりq軸方向の磁束をより流しにくくすることが有効策の一つである。その為には、図8に示す回転子620のように、スリット幅Ls1を回転子520のスリット幅Lsより大きくするか(Ls1>Ls)、スリットの層数を増やすのが良い。
しかし、図8に示す回転子620のように、スリット幅Ls1を回転子520のスリット幅Lsより大きくすると(Ls1>Ls)、図8に示すように、d軸方向の磁路幅Lf1が回転子520のd軸方向の磁路幅Lfよりもせまくなり(Lf1<Lf)、Ldが小さくなってしまう。
また、スリットの層数を増やすのは、例えば、図9に示す回転子720のように、追加する第5のスリット部722e(破線で示す)が回転軸724が嵌合する軸孔にかかるため、現実には追加することはできない。
尚、図8、図9における説明していない符号は、図3に示す符号に対して、一桁目を「5」から「6」もしくは「7」に変えているが、その他の桁の数字もしくはアルファベットが同じものは、同じ箇所を指す。例えば、カシメ623は、カシメ523と同じものである。
図10乃至図12は実施の形態1を示す図で、図10は回転子120の縦断面図(図11、図12のC−C断面図)、図11は図10のD−D断面図、図12は図10のE−E断面図である。
図10乃至図12を参照しながら、実施の形態1の回転子120について説明する。回転子120を、単にロータと呼ぶ場合もある。実施の形態1の回転子120は、所定の形状に打ち抜かれた電磁鋼板を所定枚数積層して構成される第1の回転子鉄心121−1(軸孔がなく、スリットの数が1磁極につき5本)と、所定の形状に打ち抜かれた電磁鋼板を所定枚数積層して構成される第2の回転子鉄心121−2(軸孔があり、スリットの数が1磁極につき4本)とから成る回転子鉄心121と、第2の回転子鉄心121−2に嵌合する回転軸124と、を備える。回転子120は、4極のロータである。
実施の形態1の回転子120は、回転子鉄心121が二種類の第1の回転子鉄心121−1(軸孔がなく、スリットの数が1磁極につき5本)と第2の回転子鉄心121−2(軸孔があり、スリットの数が1磁極につき4本)とから構成される点に特徴がある。
第1の回転子鉄心121−1は、回転軸124が嵌合する軸孔がないため、スリットの数を軸孔のある第2の回転子鉄心121−2よりも増やすことができる。なお、ここでは、第1の回転子鉄心121−1は、1層分のスリットを追加しているが、この追加するスリットの数は多いほうが好ましい。
但し、前提として、ロータが片側で支持される片持ち構造のモータとする。例えば、冷凍サイクルに用いられるロータが片持ち構造のロータリ圧縮機等のモータが対象となる。
二種類の第1の回転子鉄心121−1と第2の回転子鉄心121−2とを組み合わせることで、第2の回転子鉄心121−2のみで構成されるモータよりも、高トルク化が図れる。
図11に示すように、第1の回転子鉄心121−1には、内周側から外周側に向けて、第1のスリット部122a、第2のスリット部122b、第3のスリット部122c、第4のスリット部122dが設けられ、さらに第1のスリット部122aの内側に第5のスリット部122eが形成されている。
これらの第1のスリット部122a、第2のスリット部122b、第3のスリット部122c、第4のスリット部122d、第5のスリット部122eは、ロータの中心に頂点を向け、一方のd軸から他方のd軸(図11の例では、一方のd軸と他方のd軸間の角度は90°(機械角)である)へ向かう円弧形状(逆円弧形状)である。且つ、これらの第1のスリット部122a、第2のスリット部122b、第3のスリット部122c、第4のスリット部122d、第5のスリット部122eは、当該極数分(図11では4極)だけ第1の回転子鉄心121−1の外周に沿って周方向に所定の間隔で形成されている。
第1の回転子鉄心121−1を構成する電磁鋼板は、例えば、各電磁鋼板に形成される切り起こし突起を軸方向に隣接する電磁鋼板で嵌合させて固定する一般的なカシメ123により積層される。但し、第1の回転子鉄心121−1の電磁鋼板の固定は、カシメ123に限定されるものではない。例えば、リベットでの固定、溶接等でもよい。
また、図12に示すように、第2の回転子鉄心121−2には、内周側から外周側に向けて、第1のスリット部122a、第2のスリット部122b、第3のスリット部122c、第4のスリット部122dが形成されている。
これらの第1のスリット部122a、第2のスリット部122b、第3のスリット部122c、第4のスリット部122dは、ロータの中心に頂点を向け、一方のd軸から他方のd軸(図12の例では、一方のd軸と他方のd軸間の角度は90°(機械角)である)へ向かう円弧形状(逆円弧形状)である。且つ、これらの第1のスリット部122a、第2のスリット部122b、第3のスリット部122c、第4のスリット部122dは、当該極数分(図12では4極)だけ第2の回転子鉄心121−2の外周に沿って周方向に所定の間隔で形成されている。
第2の回転子鉄心121−2を構成する電磁鋼板は、例えば、各電磁鋼板に形成される切り起こし突起を軸方向に隣接する電磁鋼板で嵌合させて固定する一般的なカシメ123により積層される。但し、第2の回転子鉄心121−2の電磁鋼板の固定は、カシメ123に限定されるものではない。例えば、リベットでの固定、溶接等でもよい。
このようにスリット(第5のスリット部122e)を追加した図11に示す第1の回転子鉄心121−1は、図12に示す第2の回転子鉄心121−2に対し、q軸方向の磁束の流れを抑制することができ、Lqを低減することができる。また、スリット(第5のスリット部122e)の追加によってd軸方向の磁路幅が小さくなるようなことは無いので、Ldは低減することは無い。即ち、図12に示す第2の回転子鉄心121−2の第1のスリット部122a間のd軸方向の磁路幅は、他の部分よりも広いため、そこに第5のスリット部122eを二本追加しても、第1のスリット部122aと第5のスリット部122eとの間の磁路幅、及び第5のスリット部122e間の磁路幅は、他の部分の磁路幅より狭くなることはない。
図13、図14は実施の形態1を示す図で、図13は第2の回転子鉄心121−2のみで積層されたロータ(基本形状)と、第1の回転子鉄心121−1のみで積層されたロータとのd軸インダクタンス(Ld)及びq軸インダクタンス(Lq)を示す図、図14は第2の回転子鉄心121−2のみで積層されたロータ基本形状のロータと、第1の回転子鉄心121−1のみで積層されたロータとのトルクを示す図である。なお、比較のために両者とも同じ積厚(ロータコア幅)としている。
図13からわかるように、第1の回転子鉄心121−1のみで積層されたロータのLqは、基本形状のLqに対し低減しているのが確認できる。しかし第1の回転子鉄心121−1のみで積層されたロータのLdは、基本形状のLdに対し低減していない。
また、前述したように、リラクタンスモータで発生するトルクは、(Ld−Lq)に比例するので、第1の回転子鉄心121−1のみで積層されたロータは、基本形状より高トルクとなっていることが図14より確認できる。
本実施の形態の回転子120は、二種類のロータコア(第1の回転子鉄心121−1、第2の回転子鉄心121−2)をそれぞれ別々に積層し、軸方向で組み合わせて1台のロータとしている。この回転子120端部のうち、軸孔のある第2の回転子鉄心121−2側から回転軸124を挿入している。回転軸124を挿入する深さは、軸孔のない第1の回転子鉄心121−1に回転軸124が当接すると、第1の回転子鉄心121−1と第2の回転子鉄心121−2との境界面から第1の回転子鉄心121−1が外れてしまう可能性があるので、境界面とシャフト端部間に若干の余裕(隙間、図10参照)があると安全である。
回転子120の回転時の応力(遠心力)は、回転軸124が挿入される第2の回転子鉄心121−2では、回転軸124が受ける。しかし、第1の回転子鉄心121−1は、第2の回転子鉄心121−2にカシメ123により第2の回転子鉄心121−2に固定されているので、回転子120の回転時の応力(遠心力)に対しては弱い。従って、第1の回転子鉄心121−1の積厚L1は、第2の回転子鉄心121−2の積厚L2よりも小さくするのが好ましい(L1<L2)。
図15乃至図17は実施の形態1を示す図で、図15は変形例1の回転子220の縦断面図(図16、図17のF−F断面図)、図16は図15のG−G断面図、図17は図15のH−H断面図である。
回転時の応力に対する強度を高めるには、図15に示すように、回転子鉄心221の軸方向両端面に端板(第1の端板225a、第2の端板225b)を設けるようにしてもよい。図15乃至図17を参照しながら、変形例1の回転子220について説明する。回転子220を、単にロータと呼ぶ場合もある。変形例1の回転子220は、所定の形状に打ち抜かれた電磁鋼板を所定枚数積層して構成される第1の回転子鉄心221−1(軸孔がなく、スリットの数が1磁極につき5本)と、所定の形状に打ち抜かれた電磁鋼板を所定枚数積層して構成される第2の回転子鉄心221−2(軸孔があり、スリットの数が1磁極につき4本)とから成る回転子鉄心221と、第2の回転子鉄心221−2に嵌合する回転軸224と、ロータの軸方向両端部に設けられる第1の端板225a及び第2の端板225bと、回転子鉄心221を貫通して第1の端板225a及び第2の端板225bと回転子鉄心221とを一体化するリベット226とを備える。回転子120は、4極のロータである。
第1の回転子鉄心221−1は、図16に示すように、d軸上のロータ外周部近傍に、リベット226用のリベット挿入用孔227が四箇所に形成されている。第1の回転子鉄心121−1(図11)と異なるのは、カシメ123の代わりにリベット挿入用孔227が形成されている点である。尚、図16における説明していない符号は、図11に示す符号に対して、一桁目を「1」から「2」に変えているが、その他の桁の数字もしくはアルファベットが同じものは、同じ箇所を指す。例えば、第1のスリット部222aは、第1のスリット部122aと同じものである。
また、第2の回転子鉄心221−2は、図17に示すように、d軸上のロータ外周部近傍に、リベット226用のリベット挿入用孔227が四箇所に形成されている。第2の回転子鉄心121−2(図12)と異なるのは、カシメ123の代わりにリベット挿入用孔227が形成されている点である。尚、図17における説明していない符号は、図12に示す符号に対して、一桁目を「1」から「2」に変えているが、その他の桁の数字もしくはアルファベットが同じものは、同じ箇所を指す。例えば、第1のスリット部222aは、第1のスリット部122aと同じものである。
図18、図19は実施の形態1を示す図で、図18は第1の端板225aの平面図、図19は第2の端板225bの平面図である。
第1の回転子鉄心221−1の軸方向端部に設けられる第1の端板225aは、図18に示すように、円板状であり、外周縁部の近傍に周方向に略等間隔に配置される四個のリベット挿入用孔225a−1が形成されている。第1の回転子鉄心221−1に軸孔がないので、第1の端板225aにも軸孔はない。但し、後述する第2の端板225bと共通に使用する場合は、第1の端板225aに軸孔を形成してもよい。
第2の回転子鉄心221−2の軸方向端部に設けられる第2の端板225bは、図19に示すように、円板状であり、外周縁部の近傍に周方向に略等間隔に配置される四個のリベット挿入用孔225b−1が形成されている。また、第2の端板225bの中心部に、回転軸224を挿入する軸孔225b−2が形成されている。
回転子220を、例えば、ロータリ圧縮機に使用する場合に、回転子220に要求される要件について説明する。先ず、ロータリ圧縮機について、簡単に説明する。図20は実施の形態1を示す図で、ロータリ圧縮機800の縦断面図である。
図20に示すロータリ圧縮機800の一例は、密閉容器870内が高圧の縦型のものである。密閉容器870内の下部に圧縮要素820が収納される。密閉容器870内の上部で、圧縮要素820の上方に圧縮要素820を駆動する電動要素であるリラクタンスモータ810が収納される。
密閉容器870内の底部に、圧縮要素820の各摺動部を潤滑する冷凍機油890が貯留されている。
先ず、圧縮要素820の構成を説明する。内部に圧縮室が形成されるシリンダ801は、外周が平面視略円形で、内部に平面視略円形の空間であるシリンダ室(図示せず)を備える。シリンダ室は、軸方向両端が開口している。シリンダ801は、側面視で所定の軸方向の高さを持つ。
シリンダ801の略円形の空間であるシリンダ室に連通し、半径方向に延びる平行なベーン溝が軸方向に貫通して設けられる。
また、ベーン溝の背面(外側)に、ベーン溝に連通する平面視略円形の空間である背面室が設けられる。
シリンダ801には、冷凍サイクルからの吸入ガスが通る吸入ポート(図示せず)が、シリンダ801の外周面からシリンダ室に貫通している。
シリンダ801には、略円形の空間であるシリンダ室を形成する円の縁部付近(リラクタンスモータ810側の端面)を切り欠いた吐出ポート(図示せず)が設けられる。
シリンダ801の材質は、ねずみ鋳鉄、焼結、炭素鋼等である。
ローリングピストン802が、シリンダ室内を偏心回転する。ローリングピストン802はリング状で、ローリングピストン802の内周が回転軸224の偏心軸部に摺動自在に嵌合する。
ローリングピストン802の外周と、シリンダ801のシリンダ室の内壁との間は、常に一定の隙間があるように組立られる。
ローリングピストン802の材質は、クロム等を含有した合金鋼等である。
ベーン803がシリンダ801のベーン溝内に収納され、背圧室に設けられるベーンスプリング808でベーン803が常にローリングピストン802に押し付けられている。ロータリ圧縮機800は、密閉容器870内が高圧であるから、運転を開始するとベーン803の背面(背圧室側)に密閉容器870内の高圧とシリンダ室の圧力との差圧による力が作用するので、ベーンスプリング808は主にロータリ圧縮機800の起動時(密閉容器870内とシリンダ室の圧力に差がない状態)に、ベーン803をローリングピストン802に押し付ける目的で使用される。
ベーン803の形状は、平たい(周方向の厚さが、径方向及び軸方向の長さよりも小さい)略直方体である。
ベーン803の材料には、高速度工具鋼が主に用いられている。
主軸受け804は、回転軸224の主軸部(偏心軸部より上の部分で、回転子220に嵌合する部分)に摺動自在に嵌合するとともに、シリンダ801のシリンダ室(ベーン溝も含む)の一方の端面(リラクタンスモータ810側)を閉塞する。
主軸受け804は、吐出弁(図示せず)を備える。但し、主軸受け804、副軸受け805のいずれか一方、または、両方に付く場合もある。
主軸受け804は、側面視略逆T字状である。
副軸受け805が、回転軸224の副軸部(偏心軸部より下の部分)に摺動自在に嵌合するとともに、シリンダ801のシリンダ室(ベーン溝も含む)の他方の端面(冷凍機油890側)を閉塞する。
副軸受け805は、側面視略T字状である。
主軸受け804、副軸受け805の材質は、シリンダ801の材質と同じで、ねずみ鋳鉄、焼結、炭素鋼等である。
主軸受け804には、その外側(リラクタンスモータ810側)に吐出マフラ807が取り付けられる。主軸受け804の吐出弁から吐出される高温・高圧の吐出ガスは、一端吐出マフラ807に入り、その後吐出マフラ807から密閉容器870内に放出される。但し、副軸受け805側に吐出マフラ807を持つ場合もある。
密閉容器870の横に、冷凍サイクルからの低圧の冷媒ガスを吸入し、液冷媒が戻る場合に液冷媒が直接シリンダ801のシリンダ室に吸入されるのを抑制する吸入マフラ821が設けられる。吸入マフラ821は、シリンダ801の吸入ポートに吸入管822を介して接続する。吸入マフラ821本体は、溶接等により密閉容器870の側面に固定される。
密閉容器870には、電力の供給源である電源に接続する端子824(ガラス端子という)が、溶接により固定されている。図20の例では、密閉容器870の上面に端子824が設けられる。端子824には、電動要素であるリラクタンスモータ810からのリード線823が接続される。
密閉容器870の上面に、両端が開口した吐出管825が嵌挿されている。圧縮要素820から吐出される吐出ガスは、密閉容器870内から吐出管825を通って外部の冷凍サイクルへ吐出される。
ロータリ圧縮機800の一般的な動作について説明する。端子824、リード線823から電動要素であるリラクタンスモータ810の固定子812に電力が供給されることにより、回転子220が回転する。すると回転子220に固定された回転軸224が回転し、それに伴いローリングピストン802はシリンダ801のシリンダ室内で偏心回転する。シリンダ801のシリンダ室とローリングピストン802との間の空間は、ベーン803によって2分割されている。回転軸224の回転に伴い、それらの2つの空間の容積が変化し、片側はだんだん容積が広がることにより吸入マフラ821より冷媒を吸入し、他側は容積が除々に縮小することにより、中の冷媒ガスが圧縮される。圧縮された吐出ガスは、吐出マフラ807から密閉容器870内に一度吐出され、更に電動要素であるリラクタンスモータ810を通過して密閉容器870の上面にある吐出管825より密閉容器870外へ吐出される。
電動要素であるリラクタンスモータ810を通過する吐出ガス(冷凍機油890を含む)は、回転子220の第1の端板225a、第2の端板225bに吐出ガスが通過する開口部がないときは、
(1)固定子812のスロットオープニング含む空隙;
(2)固定子812の外周に配置された固定子切欠。
を通過することになるが、これでは、流路面積が足りない。
そこで、回転子220の第1の端板225a、第2の端板225bに、吐出ガスを通過させる開口部を設ける必要がある。回転子鉄心221には、空間であるスリット(第1のスリット部222a、第2のスリット部222b、第3のスリット部222c、第4のスリット部222d)が軸方向に貫通している。回転子220の第1の端板225a、第2の端板225bに、回転子鉄心221のスリットに連通する開口部を設けられば、回転子鉄心221のスリット(第1のスリット部222a、第2のスリット部222b、第3のスリット部222c、第4のスリット部222d)を、吐出ガスの流路として利用できる。
図21、図22は実施の形態1を示す図で、図21は第1の端板225cの平面図、図22は第2の端板225dの平面図である。
図21、図22に示す第1の端板225c、第2の端板225dは、夫々回転子鉄心221のスリット(第1のスリット部222a、第2のスリット部222b、第3のスリット部222c、第4のスリット部222d)に連通する開口部225c−3,225d−3を有する。ここでは、開口部225c−3,225d−3の形状を、スリット(第1のスリット部222a、第2のスリット部222b、第3のスリット部222c、第4のスリット部222d)と同じ形状にしているが、この形状に限定されるものではない。回転子鉄心221のスリット(第1のスリット部222a、第2のスリット部222b、第3のスリット部222c、第4のスリット部222d)に連通する開口部であれば、形状は問わない。尚、リベット挿入用孔225c−1,225d−1は、リベット挿入用孔225a−1,225b−1と同じものである。また、軸孔225d−2は、軸孔225b−2と同じものである。
このように、第1の端板225c、第2の端板225dを回転子220に設けることにより、例えば、片持ち構造のリラクタンスモータ810(固定子812、回転子220)をロータリ圧縮機800に搭載した場合でも、吐出ガス(冷凍機油890を含む)の流れを妨げることなく、端板(第1の端板225c、第2の端板225d)により、回転子220の強度を増すことができる。
以上のように、実施の形態1の回転子120は、回転子鉄心121が二種類の第1の回転子鉄心121−1(軸孔がなく、スリットの数が1磁極につき5本)と第2の回転子鉄心121−2(軸孔があり、スリットの数が1磁極につき4本)とから構成されることにより、q軸インダクタンスLqが低減し、リラクタンスモータの高トルク化が期待できる。
また、軸孔がない回転子鉄心部分の強度を補うために、端板を設けることにより、回転子の強度を増すことができる(回転子220の例)。
さらに、回転子鉄心221のスリットに連通する開口部を端板に設けることにより、例えば、片持ち構造のリラクタンスモータ810(固定子812、回転子220(端板付き))をロータリ圧縮機800に搭載した場合でも、吐出ガス(冷凍機油890を含む)の流れを妨げることなく、端板(第1の端板225c、第2の端板225d)により、回転子220の強度を増すことができる。
図23乃至図25は実施の形態1を示す図で、図23は変形例2の回転子320の縦断面図(図24、図25のJ−J断面図)、図24は図23のK−K断面図、図25は図23のM−M断面図である。
以上説明した図10の回転子120、図15の回転子220では、軸孔がなくスリットの数が1磁極につき5本の第1の回転子鉄心121−1,221−1と、軸孔がありスリットの数が1磁極につき4本の第2の回転子鉄心121−2,221−2とを組み合わせることで、高トルク化を図った。しかし、軸孔がない第1の回転子鉄心121−1,221−1の軸と回転軸124,224の中心軸とを精度良く一致させることは、容易とは言えない。
そこで、上記の課題を解決する変形例2の回転子320について、図23乃至図25を参照しながら説明する。
変形例2の回転子320は、第1の回転子鉄心321−1と第2の回転子鉄心321−2とで構成される回転子鉄心321と、大径部324aと小径部324bとで構成される回転軸324とを備える。
変形例2の回転子320が、変形例1の回転子220と異なるのは、以下に示す点である。
(1)第1の回転子鉄心321−1は、中心部に回転軸324の小径部324bが挿入される軸孔を有する。但し、第1の回転子鉄心321−1の軸孔の直径は、第2の回転子鉄心321−2の軸孔の直径よりも小さい;
(2)回転軸324が、大径部324aと小径部324bとで構成される。
第1の回転子鉄心321−1は、図24に示すように、図11に示す第1の回転子鉄心121−1に、中心部に回転軸324の小径部324bが挿入される軸孔を追加している。この軸孔の直径は、第2の回転子鉄心321−2の軸孔の直径よりも小さい。
第2の回転子鉄心321−2は、図25に示すように、図12に示す第2の回転子鉄心121−2と同じ構成である。但し、図12に示す符号に対して、一桁目を「1」から「3」に変えているが、その他の桁の数字もしくはアルファベットが同じものは、同じ箇所を指す。例えば、カシメ323は、カシメ123と同じものである。
変形例2の回転子320は、第2の回転子鉄心321−2の軸孔の直径よりも小さいが、第1の回転子鉄心321−1にも回転軸324の小径部324bが挿入される軸孔を追加している。従って、変形例2の回転子320は、図10に示す回転子120よりも、精度良く第1の回転子鉄心321−1と第2の回転子鉄心321−2との軸(軸中心)を合わせることが可能となる。
さらに、変形例2の回転子320は、第1の回転子鉄心321−1にも回転軸324の小径部324bが挿入されるので、図10に示す回転子120よりも回転時の応力に対する強度が増す。
第1の回転子鉄心321−1のスリットの数が、第2の回転子鉄心321−2のスリットの数よりも多いことによる、高トルク化は変わりない。
尚、ロータの強度は、回転軸径が大きいほど強いので、図23のL3とL4は、L3<L4の関係を満たすことが好ましい。
図26乃至図32は実施の形態1を示す図で、図26は変形例3の回転子420の縦断面図(図24、図25のN−N断面図)、図27は図26のP−P断面図、図28は図26のQ−Q断面図、図29は第1の端板425aの平面図、図30は第2の端板425bの平面図、図31は第1の端板425cの平面図、図32は第2の端板425dの平面図である。
変形例2の回転子320の強度をさらに上げるには、変形例1の回転子220と同じように、端板をロータに追加すればよい。
図26乃至図32を参照しながら変形例3の回転子420について説明する。変形例3の回転子420は、図26に示すように、変形例2の回転子320に端板(第1の端板425a、第2の端板425b、第1の端板425c、第2の端板425d)とそれらを一体化するリベット426を追加したものである。
変形例3の回転子420は、第1の回転子鉄心421−1と第2の回転子鉄心421−2とにより構成される回転子鉄心421と、大径部424aと小径部424bとを備える回転軸424と、第1の回転子鉄心421−1の軸方向端部に設けられる第1の端板425aと、第2の回転子鉄心421−2の軸方向端部に設けられる第2の端板425bと、回転子鉄心421を貫通して第1の端板425a及び第2の端板425bと回転子鉄心421とを一体化するリベット426とを備える。
第1の回転子鉄心421−1は、図27に示すように、d軸上のロータ外周部近傍に、リベット426用のリベット挿入用孔427が四箇所に形成されている。第1の回転子鉄心321−1(図24)と異なるのは、カシメ323の代わりにリベット挿入用孔427が形成されている点である。尚、図27における説明していない符号は、図24に示す符号に対して、一桁目を「3」から「4」に変えているが、その他の桁の数字もしくはアルファベットが同じものは、同じ箇所を指す。例えば、第1のスリット部422aは、第1のスリット部322aと同じものである。
また、第2の回転子鉄心421−2は、図28に示すように、d軸上のロータ外周部近傍に、リベット426用のリベット挿入用孔427が四箇所に形成されている。第2の回転子鉄心321−2(図25)と異なるのは、カシメ323の代わりにリベット挿入用孔427が形成されている点である。尚、図28における説明していない符号は、図25に示す符号に対して、一桁目を「3」から「4」に変えているが、その他の桁の数字もしくはアルファベットが同じものは、同じ箇所を指す。例えば、第1のスリット部422aは、第1のスリット部322aと同じものである。
変形例3の回転子420は、リベット426により第1の端板425a及び第2の端板425bと回転子鉄心421とを一体化しているので、ロータコアの強度を変形例2の回転子320よりもさらに上げることができる。
第1の回転子鉄心421−1の軸方向端部に設けられる第1の端板425aは、図29に示すように、円板状であり、外周縁部の近傍に周方向に略等間隔に配置される四個のリベット挿入用孔425a−1が形成されている。また、第1の端板425aには、回転軸424の小径部424bが挿入される軸孔425a−2が形成されている。
第2の回転子鉄心421−2の軸方向端部に設けられる第2の端板425bは、図30に示すように、円板状であり、外周縁部の近傍に周方向に略等間隔に配置される四個のリベット挿入用孔425b−1が形成されている。また、第2の端板425bの中心部に、回転軸424を挿入する軸孔425b−2が形成されている。
変形例3の回転子420を、ロータリ圧縮機800に用いる場合は、端板に回転子鉄心421のスリットに連通する開口部が必要になる。その場合は、図31、図32に示す第1の端板425c、第2の端板425dのように、開口部425c−3,425d−3を設ける。開口部425c−3,425d−3は、夫々回転子鉄心421のスリット(第1のスリット部422a、第2のスリット部422b、第3のスリット部422c、第4のスリット部422d)に連通している。ここでは、開口部425c−3,425d−3の形状を、スリット(第1のスリット部422a、第2のスリット部422b、第3のスリット部422c、第4のスリット部422d)と同じ形状にしているが、この形状に限定されるものではない。回転子鉄心421のスリット(第1のスリット部422a、第2のスリット部422b、第3のスリット部422c、第4のスリット部422d)に連通する開口部であれば、形状は問わない。尚、リベット挿入用孔425c−1,425d−1は、リベット挿入用孔425a−1,425b−1と同じものである。また、軸孔425c−2,425d−2は、軸孔425a−2,425b−2と同じものである。
このように、第1の端板425c、第2の端板425dを回転子420に設けることにより、例えば、片持ち構造のリラクタンスモータ810(固定子812、回転子420)をロータリ圧縮機800に搭載した場合でも、吐出ガス(冷凍機油890を含む)の流れを妨げることなく、端板(第1の端板425c、第2の端板425d)により、回転子420の強度を増すことができる。
図33、図34は実施の形態1を示す図で、図33は変形例4の回転子920の第1の回転子鉄心921−1における横断面図、図34は変形例4の回転子920の第2の回転子鉄心921−2における横断面図である。
変形例4の回転子920は、トルクリップル低減を目的としたものである。回転子920も、回転子120〜420と同様、二種類の第1の回転子鉄心921−1、第2の回転子鉄心921−2で構成される。
トルクリップル低減法の一つとしてスキューカシメを用いることは一般的であるが、カシメの部分には応力が働くため、磁気特性が悪化してしまう。よって、スキューカシメはd軸方向の磁路となる場所に配置することは好ましくなく、q軸方向に配置するのが好ましい。
スキューカシメは、例えば、特開平5−42332号公報に開示されている周知技術である。電磁鋼板に形成したスキュー用逃げ孔に連通して設けた切起し突起孔と、切起し突起とからなるかしめ部(スキューカシメ)を介して隣接の電磁鋼板と嵌合させてかしめ連結し、さらに所定のスキューを形成するために積層鉄心を受けるダイを回転させて形成されるものである。
変形例4の回転子920が、回転子120〜420と異なるのは、d軸上のカシメもしくはリベット挿入用孔を廃止し、q軸上の最外周の第4のスリット部122d,222d,322d,422dの代わりに円弧状のスキューカシメ928を設けた点である。スキューカシメ928は、回転子920の外周縁に沿うように形成され、スキュー用逃げ孔に連通して設けた切起し突起孔と、切起し突起とからなるものである。
変形例4の回転子920の第1の回転子鉄心921−1及び第2の回転子鉄心921−2を積層して、ロータコアを形成する場合、スキュー用逃げ孔に連通して設けた切起し突起孔と、切起し突起とからなるスキューカシメ928により、スリット(第1のスリット部922a、第2のスリット部922b、第3のスリット部922c、第5のスリット部922e)は、電磁鋼板毎に所定角度ずれて、スキューされた形状となる。これによって、トルクリップルを低減することができる。