JP5213321B2 - 磁気エンコーダおよび転がり軸受 - Google Patents

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Description

この発明は、磁気エンコーダおよび転がり軸受に関し、特に、回転軸を支持する転がり軸受に備えられる磁気エンコーダおよびこのような磁気エンコーダを備える転がり軸受に関するものである。
従来、自動車のABS(Antilock Brake System)装置に使用される軸受として、磁気エンコーダを備えたシール付きの転がり軸受がある。このような転がり軸受は、例えば、特開2005−221329号公報(特許文献1)に開示されている。特許文献1によると、回転数や回転方向を検出する回転検出装置は、磁気エンコーダとセンサとから構成される。磁気エンコーダは、円周方向に交互に磁極を形成した多極磁石と、これを支持するスリンガとからなる。センサは、回転軸と共に回転する磁気エンコーダの交互に配置される磁極を検出する。このようにして、回転検出装置は、回転数等を検出している。
特開2005−221329号公報(図1)
上記した磁気エンコーダが自動車用軸受として使用されると、塩水、泥水、雨水、融雪剤等に曝される場合が多い。そうすると、磁気エンコーダを構成する熱可塑性樹脂が劣化してしまう恐れがある。その結果、磁気エンコーダの磁気特性が低下してしまうことになる。また、このような磁気エンコーダを備える転がり軸受の長寿命を図ることができない。
この発明の目的は、磁気特性の低下を防止した磁気エンコーダを提供することである。
この発明の他の目的は、長寿命を図ることができる転がり軸受を提供することである。
この発明に係る磁気エンコーダは、周方向に交互に磁極が配置された多極磁石と、多極磁石を保持するスリンガとを含む。多極磁石は、磁性粉と、熱可塑性樹脂とを含む。ここで、熱可塑性樹脂の重量平均分子量Mwは、20000〜80000の範囲内にある。
磁気エンコーダに含まれる熱可塑性樹脂の重量平均分子量Mwが20000よりも小さいと、磁気エンコーダとして機能するのに必要な靭性を確保することができない。一方、重量平均分子量Mwが大きいと、靭性を向上させ、劣化を防止することができるが、重量平均分子量Mwが80000よりも大きいと、溶融時の粘度が高くなり、混練する際にトルク上昇や発熱を発生し、生産性が極めて悪くなる。したがって、熱可塑性樹脂の重量平均分子量Mwを上記の範囲とすることにより、磁気特性の低下を防止した磁気エンコーダを得ることができる。
好ましくは、熱可塑性樹脂は、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリフェニレンスルフィドからなる群から選択される1以上の化合物を含む。このような熱可塑性樹脂は、吸水性が乏しいため、上記した環境下においても、劣化に強い。
さらに好ましくは、磁性粉は、フェライト系磁性粉である。こうすることにより、防食性を向上させることができる。
この発明の他の局面においては、転がり軸受は、上記したいずれかの磁気エンコーダを含む。このような転がり軸受は、磁気特性の低下が防止された磁気エンコーダを備えるため、長寿命を図ることができる。
磁気エンコーダに含まれる熱可塑性樹脂の重量平均分子量Mwが20000よりも小さいと、磁気エンコーダとして機能するのに必要な靭性を確保することができない。一方、重量平均分子量Mwが大きいと、靭性を向上させ、劣化を防止することができるが、重量平均分子量Mwが80000よりも大きいと、溶融時の粘度が高くなり、混練する際にトルク上昇や発熱を発生し、生産性が極めて悪くなる。したがって、熱可塑性樹脂の重量平均分子量Mwを上記の範囲とすることにより、磁気特性の低下を防止した磁気エンコーダを得ることができる。
また、このような転がり軸受は、磁気特性の低下が防止された磁気エンコーダを備えるため、長寿命を図ることができる。
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1は、この発明の一実施形態に係る転がり軸受の一部を示す断面図である。図1を参照して、転がり軸受11は、回転軸(図示せず)を支持する。転がり軸受11は、転動体としての玉12と、玉12の内径側に配置される内輪13と、玉12の外径側に配置される外輪14と、玉12を保持する保持器15と、回転軸の回転数等を検出するための磁気エンコーダ16と、軸受内部を密封するためのシール17とを含む。内輪13は、回転軸に固定されており、回転軸と共に回転する。一方、外輪14は、ハウジング(図示せず)に固定されている。玉12は、回転軸の回転時において、内輪13および外輪14に設けられた軌道面18a、18b上を転動する。
シール17は、剛性を有する芯金31と、弾性を有するゴム部32とを含む。芯金31は、外輪14に取り付けられ、固定されている。ゴム部32は、芯金31の一部を覆うように構成されている。ゴム部32は後述するスリンガ24と適当な圧力で、複数の箇所において接触している。具体的には、シール17の内径側や軸受外部側に突出する複数のリップ部28a、28b、28cが、スリンガ24と接触している。このようにして、転がり軸受11の内部19を密封する。こうすることにより、内部19に封入された潤滑油の漏れの防止や、転がり軸受11の内部19内への異物の混入の防止を図っている。
回転軸の回転数等を検出する回転検出装置21は、転がり軸受11に含まれる磁気エンコーダ16と、回転センサ22とを含む。磁気エンコーダ16と回転センサ22は、互いに対向する位置に設けられている。回転センサ22は、例えば、外輪14等と共にハウジングに取り付けられ、固定されている。
ここで、磁気エンコーダ16の構成について説明する。磁気エンコーダ16は、周方向に交互に磁極が配置された多極磁石23と、多極磁石23を保持する金属製のスリンガ24とを含む。図2は、多極磁石23の構成を示す概念図である。図1および図2を参照して、多極磁石23は、環状であり、その中央に貫通孔を有する。多極磁石23は周方向において多極に磁化されており、PCD(Pitch Circle Diameter:ピッチ円直径)26上において、N極27aおよびS極27bを交互に配置するように構成されている。
スリンガ24は、円筒部29aと、円筒部29aの一方端から外径側に延びるフランジ29bとを含む。スリンガ24の断面は、略L字状である。多極磁石23の外径側の端部30は、鍵状である。多極磁石23は、端部30をフランジ29bの最外径に位置する外径部29cに引掛けるようにして、スリンガ24に保持されている。
スリンガ24に保持された多極磁石23は、回転軸の回転に伴って、内輪13と共に回転する。このとき、軸方向外側に配置され、多極磁石23に対向する位置に設けられた回転センサ22の検出部25により、多極磁石23のN極27aおよびS極27bの磁力の変化を読取る。このようにして、回転検出装置21は、回転軸の回転数等を検出する。
ここで、磁気エンコーダ16を構成する多極磁石23は、磁性粉と、バインダとしての熱可塑性樹脂とから構成される。
磁性を有する磁性粉は、バリウム系やストロンチウム系のフェライト粉であって、等方性のフェライト粉であってもよいし、異方性のフェライト粉であってもよい。このようなフェライト粉は、酸化しにくいため、磁気エンコーダ16の防食性を向上させることができる。また、フェライト粉のみでは磁力が不足する場合、サマリウム鉄系磁性粉やネオジウム鉄系磁性粉等の希土類系磁性粉をフェライト粉に混合してもよい。
熱可塑性樹脂としては、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。このような熱可塑性樹脂は、吸水性が乏しいため、上記した環境下において、特に有効である。また、上記した熱可塑性樹脂からなる群から選択される1以上の化合物を含むように構成してもよい。
ここで、磁気エンコーダの製造方法について簡単に説明すると、まず、2軸押出機や混練機等を用いて、磁性粉と溶融した熱可塑性樹脂とを混練し、磁性粉を熱可塑性樹脂に適当に分散させる。その後、上記した磁気エンコーダの形状となるよう射出成形等を行い、所望の磁気エンコーダを得る。
このようにして多極磁石23を得る。なお、このようにして得られた多極磁石23を、上記したようにスリンガ24に取り付け、磁気エンコーダ16を得る。
このような多極磁石23は、上記した熱可塑性樹脂を含んでいるため、塩水、泥水、雨水および融雪剤等に対して、劣化する恐れが少ない。したがって、このような多極磁石23を含む磁気エンコーダ16は、磁気特性の低下を防止することができる。また、磁気特性の低下を防止した磁気エンコーダ16を含む転がり軸受11は、破損の恐れが少なく、長寿命を図ることができる。
このような磁気エンコーダを含む転がり軸受は、自動車用の車軸の支持構造に備えられる。図3は、車軸支持構造を示す概略断面図である。図3を参照して、車軸支持構造41は、車軸(図示せず)と共に回転するハブ輪42と、車軸を支持する転がり軸受51とを含む。ハブ輪42のフランジ44は、ボルト43によって車輪(図示せず)に固定されている。転がり軸受51は、複列アンギュラ玉軸受であり、複列に配置される玉52と、内輪53と、外輪54と、保持器55と、シール56と、磁気エンコーダ(図示せず)とを含む。
内輪53はハブ輪42に固定され、車軸の回転と共に回転する。外輪54は、外径側に配置されるハウジング(図示せず)に固定される。また、シール56には、多極磁石およびスリンガを含む磁気エンコーダが含まれており、回転センサ57により、回転数を検出することができる。
このように、車軸支持構造41は構成されている。このような車軸支持構造41は、磁気エンコーダに含まれる多極磁石の性能の劣化を防止しているため、長寿命である。
ここで、以下の熱可塑性樹脂を用いて、磁気エンコーダを製造した。まず、フェライト系磁性粉として異方性フェライト粉(戸田工業株式会社製:BSF547)を用意した。また、熱可塑性樹脂として、PPS(ポリフェニレンスルフィド)を選択した。PPSについては、溶媒として1−クロロナフタレンを用い、200℃でPPSを溶解させ、粘度測定を行った。粘度測定の結果得られた粘度から、以下の数1を換算式として、PPSの重量平均分子量を求めた。なお、式中、[η]は、極限粘度とする。
Figure 0005213321
上記式により得られた重量平均分子量Mwが10000のPPSを2軸押出機でペレット化した後、ダンベル形状に射出成形を行い、ダンベル状の成形体を得た。この成形体を用い、ASTM(American Society for Testing and Materials)規格D−790に準じて曲げ弾性率を算出した。その結果、曲げ弾性率は、3×1000MPaであった。これは、重量平均分子量Mwが20000のPPSと比較して、20%程度の値であった。このような重量平均分子量MwのPPSは脆く、磁気エンコーダとして機能するのに必要な靭性を確保していない。
一方、上記式により得られた重量平均分子量Mwが80000よりも大きいPPSを用いて、2軸押出機で混練したところ、トルク上昇と発熱が大きく、製造できなかった。したがって、このような重量平均分子量MwのPPSは、生産性等を考慮すると不適である。
以上より、熱可塑性樹脂の重量平均分子量Mwを20000〜80000の範囲とすることにより、磁気特性の低下を防止した磁気エンコーダを得ることができる。
なお、スリンガの形状は、断面が略L字状、または略Z字状であってもよい。さらに円筒部が周方向に連なっていなくてもよいし、部分的に切り欠きが設けられた舌片状であってもよい。
また、上記の実施の形態においては、転動体として玉を使用した場合について説明したが、転動体として、円筒ころや針状ころ、棒状ころ等のころを使用した場合についても適用される。また、シールを含まないタイプの転がり軸受や、外輪、内輪等の軌道輪を含む転がり軸受についても適用される。
なお、上記した磁気エンコーダは、転がり軸受に含まれることにしたが、これに限らず、滑り軸受に含まれることにしてもよい。さらに、回転軸等に限らず、他の回転部材の回転数等を検出する際にも適用され、検出センサと共に、回転部材の回転数等を検出する回転検出装置を構成することにしてもよい。
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
この発明に係る磁気エンコーダおよび転がり軸受は、自動車用等、車軸用の転がり軸受等に、有効に利用される。
この発明の一実施形態に係る転がり軸受の一部を示す断面図である。 多極磁石の構成を示す概念図である。 この発明の一実施形態に係る転がり軸受を含む車軸支持構造を示す概略断面図である。
符号の説明
11,51 転がり軸受、12,52 玉、13,53 内輪、14,54 外輪、15,55 保持器、16 磁気エンコーダ、17,56 シール、18a,18b 軌道面、19 内部、21 回転検出装置、22,57 回転センサ、23 多極磁石、24 スリンガ、25 検出部、26 PCD、27a N極、27b S極、28a,28b,28c リップ部、29a、円筒部、29b,44 フランジ、29c 外径部、30 端部、31 芯金、32 ゴム部、41 車軸支持構造、42 ハブ輪、43 ボルト。

Claims (2)

  1. 周方向に交互に磁極が配置された多極磁石と、前記多極磁石を保持するスリンガとを含む磁気エンコーダであって、
    前記多極磁石は、磁性粉と、熱可塑性樹脂とを含み、
    前記熱可塑性樹脂は、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリフェニレンスルフィドからなる群から選択される1以上の化合物を含み、
    前記磁性粉は、フェライト系磁性粉および希土類系磁性粉の混合粉であり、
    前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量Mwは、20000〜80000の範囲内にある、磁気エンコーダ。
  2. 請求項1の磁気エンコーダを含む、転がり軸受。
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