EGRガス中の異物を捕集する捕集装置をEGR通路の途中に備えたEGR装置においては、捕集装置に排気中の煤、HC、凝縮水等の異物以外の物質が堆積し、捕集装置に詰まりが生じる場合がある。捕集装置に詰まりが生じた場合、捕集装置の上流側と下流側とにおける圧力損失が大きくなり、EGR装置によって吸気系に排気を流入させることが困
難となる。
これに対して、捕集装置に詰まりが生じた場合に、捕集装置を昇温することによって、捕集装置に堆積したこれらの物質を除去する処理を行うことが考えられる。しかしながら、このような処理によって捕集装置の詰まりを確実に解消するためには、最も除去しにくい堆積物(例えば、煤)を確実に除去可能なほどの高温まで捕集装置を昇温する必要がある。そのため、捕集装置の詰まりの原因が、より低温で除去可能な物質(例えば、凝縮水やHC)の堆積であった場合には、本来なら不必要な高温にまで無駄に捕集装置が昇温されることになり、昇温処理の実施に伴う燃費の悪化や捕集装置の劣化の問題があった。
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、EGR通路の途中にEGRガス中の異物を捕集する捕集装置を備えたEGRシステムにおいて、燃費の悪化を抑制しつつ捕集装置の詰まりを確実に除去することを可能にする技術を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の内燃機関のEGRシステムは
内燃機関の排気通路と吸気通路とを連通し、前記内燃機関からの排気の一部を前記吸気通路に流入させるEGR通路と、
前記EGR通路に設けられ、前記EGRガス中に含まれる異物を捕集する捕集装置と、
前記捕集装置に流入する排気の温度を取得する排気温度取得手段と、
前記捕集装置における煤の堆積量を取得する煤堆積量取得手段と、
前記捕集装置の上流側と下流側における圧力損失を取得する圧力損失取得手段と、
前記圧力損失取得手段により取得される圧力損失が所定の基準値を超えたことが検知された場合に、前記捕集装置を昇温することにより前記捕集装置に堆積した排気成分を除去する除去手段と、
前記除去手段が前記捕集装置を昇温する際の目標温度を、前記排気温度取得手段により取得される温度と、前記煤堆積量取得手段により取得される堆積量と、に応じて設定する設定手段と、
を備えることを特徴とする。
上記本発明の構成において、捕集装置は、内燃機関の燃焼室より下流側の排気系に設けられる触媒やターボチャージャ等の部品が破損してその破片が排気中に流出したり、排気通路の配管溶接の際に生じたスパッタ等の異物が排気中に混入したりした場合に、それらの異物を排気から分離させて捕集することが可能な装置である。
捕集装置には、その本来の目的である異物が捕集される他、排気中の凝縮水、HC、煤(微粒子物質、PM)等の排気成分が付着堆積し、捕集装置に詰まりを生じさせる場合がある。その場合、捕集装置の上流側と下流側との間における圧力損失が大きくなり、EGRガスを適切に吸気通路へ流入させることが困難になる。
本発明のEGRシステムでは、捕集装置の上流側と下流側との間における圧力損失が基準値を超えたことを検知した場合に、捕集装置に詰まりが生じていると判定し、捕集装置を昇温することによって捕集装置に堆積した排気成分を除去する処理を行う。この圧力損失の基準値は、燃費への影響が許容範囲内となるような圧力損失の上限値や、EGRガス量を適切に制御可能な圧力損失の上限値等に基づいて定めることができる。
ところで、捕集装置に堆積した排気成分を捕集装置の昇温によって除去するために必要な昇温の温度は、排気成分の種類によって異なる。例えば、凝縮水は100℃以上、HCは200℃以上、煤は500℃以上に昇温すると好適に捕集装置から除去することができる。
ここで、捕集装置に詰まりが生じていると判定される場合(捕集装置の上流側と下流側との間における圧力損失が基準値を超えたことが検知される場合)に捕集装置に堆積している排気成分の種類は、捕集装置に流入する排気の温度と、捕集装置における煤の堆積量と、に関連性がある。
例えば、捕集装置に流入する排気の温度が、排気中の凝縮水が蒸発する温度(例えば100℃前後)よりも低い場合、捕集装置には主に凝縮水が付着して堆積していると考えられる。すなわち、このような低温の排気温度条件では、捕集装置10の詰まりの原因は主に凝縮水であると判定することができる。
捕集装置に流入する排気の温度が、排気中の凝縮水が蒸発する温度より高いがHCが蒸発する温度(例えば200℃前後)よりも低い場合は、捕集装置には主にHCが付着して堆積していると考えられる。すなわち、このような中程度の排気温度条件では、捕集装置の詰まりの原因は主にHCであると判定することができる。
捕集装置に流入する排気の温度が、排気中のHCが蒸発する温度より高いが煤の酸化反応が進行し易い温度(例えば500℃前後)よりも低い場合は、捕集装置には主に煤が堆積していると考えられる。すなわち、このような中高温の排気温度条件では、捕集装置の詰まりの原因は主に煤であると判定することができる。
但し、このような中高温の排気温度条件であっても、ある程度以上の温度(例えば400℃前後)の排気が継続的に捕集装置に流入するような場合には、捕集装置における煤の堆積量が単調に増加していくことはないと考えられる。すなわち、煤の酸化反応が進行し易い温度(例えば500℃前後)よりは低いが、ある程度以上の温度(例えば400℃前後)の排気温度条件が一定期間以上継続した、という機関運転履歴に基づいて、捕集装置の詰まりの原因は煤ではないと判定することもできる。
また、前回捕集装置の昇温を行って排気成分の除去を行ってからの走行時間、燃料噴射量の積算値、煤の排出量が多い加速過渡のような運転条件での運転履歴、EGRガス量の制御履歴等に基づいて、捕集装置に堆積している煤の量を推定し、推定した煤堆積量に基づいて、捕集装置に詰まりを生じさせる主要な原因となっている排気成分の種類を特定することができる。煤の堆積量が、捕集装置に詰まりを生じさせるほど多い場合には、上述した排気温度条件にかかわらず、捕集装置に堆積している排気成分は主に煤であると判定することができる。
また、捕集装置に流入する排気の温度が、煤の酸化反応が進行し易い温度(例えば500℃前後)より高い場合は、捕集装置の詰まりの原因は凝縮水やHC、煤等の排気成分以外にあると考えられる。すなわち、このような高温の排気温度条件では、捕集装置の詰まりの原因は、例えば、EGR通路の接続箇所より上流側の排気通路に設けられる排気浄化触媒の破損による破片や、排気通路の配管溶接のスパッタ等の異物の堆積であると判定することができる。
このような関連性に着目して、本発明に係る内燃機関のEGRシステムでは、捕集装置に流入する排気の温度と、捕集装置における煤の堆積量と、に応じて、捕集装置を昇温する際の目標温度を設定するようにした。
すなわち、本発明のEGRシステムにおいては、捕集装置に堆積している排気成分の種類に応じて、当該排気成分を捕集装置から除去可能な温度を昇温の目標温度として設定することができる。
例えば、捕集装置に堆積している排気成分は主に凝縮水であると判定される場合には、凝縮水を捕集装置から除去するために必要最低限の昇温温度(例えば100℃)を目標温度として設定することができる。このようにして設定される目標温度に従って捕集装置の昇温を行うようにすれば、実際に捕集装置に堆積している排気成分を除去するために必要最低限の温度に、昇温温度を制限することができるので、捕集装置の詰まりを除去する処理において不必要なエネルギー消費による燃費の悪化や捕集装置の過昇温による熱劣化を抑制しつつ、捕集装置に堆積している排気成分を好適に除去し、捕集装置の詰まりを解消することが可能となる。
本発明における捕集装置は、メッシュ状のフィルタや、遠心力や重力の作用により排気から異物を分離し捕集する装置等を用いることができる。
本発明における排気温度取得手段は、EGR通路における捕集装置の上流側における排気の温度、排気通路における排気の温度、排気マニホールドにおける排気の温度、内燃機関の冷却水温、吸気温度等の計測又はそれらに基づく演算、内燃機関の運転条件に基づく演算等により、捕集装置に流入する排気の温度を取得することができる。
本発明における煤堆積量取得手段は、内燃機関の運転履歴、内燃機関の運転条件、排気温度履歴、前回除去手段による詰まりの除去が行われてからの経過時間等に基づいて、捕集装置における煤の堆積量を取得することができる。
本発明における圧力損失取得手段は、捕集装置の上流側と下流側との間の圧力差、ガス流量差、温度差等に基づいて、捕集装置の上流側と下流側との間における圧力損失を取得することができる。
本発明における除去手段が捕集装置を昇温させる方法としては、例えば、燃料噴射量の増量、アフター噴射やポスト噴射の実行、排気開弁時期の進角、排気への燃料添加、排気絞り弁開度の閉弁側への変更、VN開度の開弁側への変更等の種々の機関制御の他、捕集装置に電気ヒータ等の直接加熱装置を備える方法も採用できる。いずれの昇温方法で捕集装置を昇温する場合であっても、本発明のEGRシステムによれば、捕集装置の詰まりを生じさせている排気成分の堆積物を捕集装置から除去するために必要最低限の昇温温度を目標温度として捕集装置の昇温を行うようにすることができるので、捕集装置の詰まりの解消に係るエネルギー消費量を低減することができるという効果を奏する。
本発明において、捕集装置に詰まりが生じていると判定された場合に、捕集装置の昇温が行われて捕集装置に堆積している排気成分が除去されると、捕集装置から除去された排気成分がEGR通路を流通する排気の流れによって搬送され、吸気通路に流入する可能性がある。その場合、高濃度の排気成分がコンプレッサや内燃機関に流入し、ターボチャージャの動作不良や内燃機関の燃焼変動が生じる虞がある。
そこで、本発明において、
前記EGR通路における前記捕集装置より下流側に設けられ、該EGR通路から前記吸気通路へ流入するEGRガスの量を調節するEGR弁と、
前記EGR弁の開度を制御する制御手段と、
を更に備え、
前記制御手段は、前記除去手段による前記捕集装置の昇温が行われる場合には、前記除去手段による前記捕集装置の昇温が行われない場合と比較して、前記EGR弁をより閉じ側の開度で開弁するようにしても良い。
これにより、除去手段により捕集装置の昇温が行われた場合においても、捕集装置から流出した高濃度の排気成分を含むEGRガスが一挙に吸気通路に流入することを抑制できる。従って、EGR通路がコンプレッサより上流側の吸気通路に接続された構成において、コンプレッサの動作異常を招くことを好適に抑制することができる。また、内燃機関に高濃度の排気成分が吸入されることが抑制され、燃焼変動を好適に抑制することができる。
本発明において、
前記EGR通路における前記捕集装置より下流側と前記排気通路とを連通する連通路と、
前記EGR通路における前記連通路の接続箇所より下流側に設けられ、該EGR通路から前記吸気通路へ流入するEGRガスの量を調節するEGR弁と、
前記EGR弁の開度を制御する制御手段と、
を更に備え、
前記制御手段は、前記除去手段による前記捕集装置の昇温が行われる場合には、前記EGR弁を閉弁するようにしても良い。
これにより、除去手段により捕集装置の昇温が行われた場合においても、捕集装置から流出した高濃度の排気成分を含むEGRガスは、連通路を経由して排気通路に流入し、吸気通路へは流入しなくなる。従って、EGR通路がコンプレッサより上流側の吸気通路に接続された構成において、コンプレッサの動作異常を招くことをより確実に抑制することができる。また、内燃機関に高濃度の排気成分が吸入されることが抑制され、燃焼変動をより確実に抑制することができる。
また、捕集装置の下流側と排気通路とが連通路によって常に連通された状態となるので、EGR弁が閉弁されている状態においても捕集装置における圧力損失を計測することができるという副次的な効果もある。従って、EGR弁が閉弁されてEGR通路を介したEGRガスの還流が停止される運転条件下においても、捕集装置に詰まりが生じているか否かの判定を行うことが可能となる。
除去手段が捕集装置を昇温することによって捕集装置から除去することができる堆積物は、上述した凝縮水、HC、煤等の排気成分である。もし、捕集装置に生じた詰まりの原因がこれら排気成分の堆積ではなく、破損した排気系部品の破片等の異物の堆積であった場合には、除去手段が捕集装置を昇温することによっては、捕集装置に生じた詰まりを解消することは困難である。従って、このような場合には、除去手段による捕集装置の昇温が行われた直後においても、捕集装置の上流側と下流側との間における圧力損失が十分に低下しないことが考えられる。
そこで、本発明において、前記除去手段により前記捕集装置の昇温が行われた直後において、前記圧力損失取得手段により取得される圧力損失が所定の第2基準値を超えていることが検知された場合に、前記内燃機関に異常が生じていると判定する機関異常判定手段を更に備えても良い。
ここで、「内燃機関に異常が生じている」とは、内燃機関の燃焼室より下流側に配置されるタービンや排気浄化触媒、排気マニホールド、各種配管等の排気系の構成要素に異常が生じていることを包括的に意味するものとする。特に、EGR通路が排気浄化触媒より下流側の排気通路から排気を取り出すように構成されている場合には、捕集装置に堆積している異物は、排気浄化触媒が過昇温によって破損して生じた破片である可能性が考えられる。
第2基準値は、捕集装置における堆積物が排気成分であった場合に除去手段による捕集装置の昇温制御を実行すれば実現されると推測される捕集装置の圧力損失に基づいて定めることができる。捕集装置に異物が堆積している場合であっても、同時に多少の排気成分も堆積していると考えられるので、除去手段による捕集装置の昇温を行うことによって、当該排気成分の堆積量に相当する分は圧力損失が低減する。従って、第2基準値は第1基準値より小さい値に設定することができる。
捕集装置の上流側と下流側との間には、異物や排気成分が何も堆積していない状態であっても、ある程度の圧力損失がある。ところが、捕集装置が破損した場合には、正常な捕集装置と比較して圧力損失が小さくなることがある。例えば、メッシュ状のフィルタの捕集装置において、フィルタが破損してメッシュの一部に穴が空いた状態となった場合、正常な場合のフィルタよりも排気が通過し易くなるため、圧力損失は小さくなる。
そこで、本発明において、前記圧力損失取得手段により取得される圧力損失が所定の第3基準値より小さいことが検知された場合、前記捕集装置に異常が生じていると判定する捕集装置異常判定手段を更に備えても良い。
ここで、第3基準値とは、捕集装置に異物や排気成分が何も堆積していない状態における捕集装置の上流側と下流側との間の圧力損失に基づいて定めることができる。
捕集装置が破損している場合には、排気中の異物が捕集装置において捕集されず、EGR通路を経由して吸気通路に流入する虞がある。そこで、上記構成の捕集装置異常判定手段により捕集装置が破損していると判定された場合には、EGR弁を閉弁してEGR通路を介した排気の還流を停止するようにしても良い。こうすることにより、排気中の異物がコンプレッサや内燃機関に流入して不具合を生じさせることを抑制できる。
本発明により、低圧EGR通路の途中に異物を捕集する捕集装置を有する低圧EGRシステムにおいて、燃料消費量の増大を抑制しつつ捕集装置の詰まりを好適に除去することが可能になる。
図1は、本実施例に係る内燃機関のEGRシステムを適用する内燃機関とその吸気系及び排気系の概略構成を模式的に示す概念図である。
図1のエンジン1は4つの気筒30を有するディーゼルエンジンである。各気筒30の燃焼室(図示略)は吸気バルブ(図示略)によって開閉される吸気ポート(図示略)を介して吸気マニホールド17に連通している。また、各気筒30の燃焼室は排気バルブ(図示略)によって開閉される排気ポート(図示略)を介して排気マニホールド18に連通している。
吸気マニホールド17には吸気通路19が接続されている。吸気通路19には吸気マニホールド17から吸気の流れに関して下流側から上流側に向かって、後述する高圧EGR通路15の接続部、ディーゼルスロットル弁9、インタークーラ2、ターボチャージャ13のコンプレッサ11、後述する低圧EGR通路24の接続部、吸気絞り弁22、エアフ
ローメータ7、エアクリーナ3が備えられている。
排気マニホールド18には排気通路20が接続されている。排気通路20には排気マニホールド18から排気の流れに関して上流側から下流側に向かって、高圧EGR通路15の接続部、ターボチャージャ13のタービン12、PMフィルタ21、低圧EGR通路24の接続部、排気絞り弁6、後述する連通路8の接続部、排気浄化装置5が備えられている。PMフィルタ21は、排気中の微粒子物質を捕集するフィルタとフィルタ上に担持された酸化触媒を有する。排気浄化装置5は、吸蔵還元型NOx触媒を有する。
本実施例のエンジン1には、エンジン1からの排気の一部を吸気通路19に流入させるEGRシステムが備えられている。本実施例のEGRシステムは、エンジン1から排出される排気の一部を比較的高温高圧の状態で吸気通路19に流入させる高圧EGR装置32と、エンジン1から排出される排気の一部を比較的低温低圧の状態で吸気通路19に流入させる低圧EGR装置33と、の2系統のEGR装置を有している。
高圧EGR装置32は、タービン13より上流側の排気通路20とコンプレッサ11より下流側の吸気通路19とを連通する高圧EGR通路15を有する。高圧EGR通路15の途中には高圧EGR通路15を経由して排気通路20から吸気通路19に流入する排気の量を調節する高圧EGR弁14が備えられている。高圧EGR弁14の開度は後述するECU26によって制御される。
低圧EGR装置33は、タービン13より下流側の排気通路20とコンプレッサ11より上流側の吸気通路19とを連通する低圧EGR通路24を有する。低圧EGR通路24の途中には低圧EGR通路24を経由して排気通路20から吸気通路19に流入する排気の量を調節する低圧EGR弁23が備えられている。低圧EGR弁23の開度はECU26によって制御される。本実施例では、低圧EGR通路24が、本発明の「EGR通路」に相当する。また、低圧EGR弁23が、本発明の「EGR弁」に相当する。
高圧EGR装置32によって吸気通路19に再循環する排気(以下高圧EGRガスという)の量と、低圧EGR装置33によって吸気通路19に再循環する排気(以下低圧EGRガスという)の量とは、それぞれエンジン1の運転条件に応じてその目標値が予め定められている。図2は、エンジン1の運転領域(回転数及び負荷)に応じて定められた、高圧EGR装置32及び低圧EGR装置33の切り替え制御マップを概略的に示した図である。
図2に示すように、本実施例に係るEGRシステムでは、エンジン1の運転条件が低負荷・低回転の運転領域に属する場合には、主に高圧EGR装置32によって排気の再循環を行い、中負荷・中回転の運転領域に属する場合には、高圧EGR装置32及び低圧EGR装置33を併用して排気の再循環を行い、高負荷・高回転の運転領域に属する場合には、主に低圧EGR装置33によって排気の再循環を行う。各EGR制御領域において、高圧EGR通路15経由で再循環する排気の量及び低圧EGR通路24経由で再循環する排気の量のそれぞれが目標値になるように、高圧EGR弁14の開度及び低圧EGR弁23の開度がECU26によって制御される。
本実施例の低圧EGR装置33は、上記説明した構成に加えて、低圧EGR通路24の低圧EGR弁23から上流側(排気通路20側)に向かって、低圧EGR通路24を流れる排気を冷却する低圧EGRクーラ4と、低圧EGR通路24を流れる低圧EGRガス中に含まれる異物を捕集する捕集装置10が備えられている。
捕集装置10は、タービン12、PMフィルタ21、排気通路20等の排気系部品に何
らかの故障が起きてそれらの部品から生じた破片等の異物が排気中に流出した場合や、排気通路20の配管溶接のスパッタが排気中に混入した場合に、これらの異物を排気から分離して捕集する可能なメッシュ状のフィルタである。捕集装置10が低圧EGR通路24に設けられることにより、当該異物が低圧EGR通路24を経由して吸気通路19に流入することを抑制することができる。なお、捕集装置10としては、本実施例で採用したメッシュ状のフィルタに限らず、重力や遠心力等の作用で排気中から異物を分離して捕集する捕集装置を用いることもできる。本実施例においては、捕集装置10が、本発明における「捕集装置」に相当する。
低圧EGR通路24における捕集装置10の下流側(吸気通路19側)且つ低圧EGRクーラ4の上流側の位置には、低圧EGR通路24と排気通路20とを連通する連通路8が接続されている。また、低圧EGR装置33には、捕集装置10の上流側と下流側との間の差圧を測定する差圧センサ25と、低圧EGR通路24における捕集装置10の上流側(排気通路20側)に設けられ、捕集装置10に流入する排気の温度を測定する排気温度センサ16が備えられている。
捕集装置10の上流側(排気通路20側)には、捕集装置10に流入する排気の温度を測定する排気温度センサ16が備えられている。また、捕集装置10の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧を測定する差圧センサ25が備えられている。本実施例においては、排気温度センサ16が、本発明における「排気温度取得手段」に相当する。また、差圧センサ25が、本発明における「圧力損失取得手段」に相当する。
ECU26はエンジン1の運転状態を制御するコンピュータユニットである。CPU、ROM、RAM、I/Oポート、通信バス、DAC、ADC等の既知のコンポーネントを含み構成されている。ECU26には、上述した吸気絞り弁22、低圧EGR弁23、ディーゼルスロットル弁9、高圧EGR弁14、燃料噴射弁29、排気絞り弁6の他各種の機器が接続され、ECU26から出力される制御信号によってこれらの機器の動作が制御される。また、ECU26には、上述した排気温度センサ16及び差圧センサ25の他、アクセルペダル31の踏み込み量を測定するアクセル開度センサ27、クランクシャフトの回転角度を測定するクランク角度センサ28等の各種センサが接続され、これらのセンサによる測定値がECU26に入力される。ECU26はこれら各種センサから入力されるデータに基づいて取得されるエンジン1の運転状態や運転者の要求に基づいて、各種機器の動作を制御する制御信号を出力する。
捕集装置10は上述のように排気中の異物を捕集することを目的として設置されているが、そのような異物だけでなく排気中の凝縮水、HC、煤(微粒子物質、PMを含む)等の排気成分も付着堆積し、捕集装置10に詰まりを生じさせる場合がある。その場合、捕集装置10の上流側と下流側との間における圧力損失が大きくなり、低圧EGR装置33によって低圧EGRガスを適切に吸気通路19に再循環させることが困難になる可能性がある。
そこで、本実施例のEGRシステムでは、捕集装置10の上流側と下流側との間における圧力損失が所定の基準値を超えたことを検知した場合に、捕集装置10に詰まりが生じていると判定し、捕集装置10を昇温することによって捕集装置10に堆積した排気成分を除去する処理を行う。この圧力損失の基準値は、燃費への影響が許容範囲内となるような圧力損失の上限値に基づいて定める。或いは、低圧EGRガス量の制御が適切に実行可能な圧力損失の上限値に基づいて定めるようにしても良い。
本実施例では、捕集装置10の上流側と下流側との間における圧力損失が基準値を超えているか否かの判定を、差圧センサ25によって測定される捕集装置10の前後差圧ΔP
に基づいて判定するようにした。具体的には、差圧センサ25によって測定される捕集装置10の前後差圧ΔPが所定の第1基準差圧ΔP1を超えた場合に、捕集装置10の上流側と下流側との間における圧力損失が基準値を超えたと判定し、捕集装置10に詰まりが生じていると判定する。第1基準差圧ΔP1は、捕集装置10の上流側と下流側との間における圧力損失が基準値である場合の捕集装置10の前後差圧に基づいて定める。
なお、捕集装置10の上流側と下流側との間における圧力損失が基準値を超えているか否かの判定は、捕集装置10の下流側における低圧EGRガス流量と、エアフローメータ7によって測定される吸入空気量と、に基づいて算出した捕集装置10の上流側と下流側との間における圧力損失に基づいて行うこともできる。或いは、捕集装置10の下流側における排気の温度と、捕集装置10の上流側における排気の温度と、に基づいて圧力損失の判定を行うようにしても良い。この場合、捕集装置10のすぐ下流の低圧EGR通路24と、捕集装置10からある程度離れた、例えばPMフィルタ21のすぐ下流の排気通路20と、にそれぞれ温度センサを設けて、両者の温度差に基づいて圧力損失を算出すると良い。その他既知の圧力損失推定方法を用いて算出される圧力損失に基づいて判定を行うことができる。
本実施例では、捕集装置10の昇温を、エンジン1からの排気の温度を上昇させることにより行う。排気温度の上昇は、燃料噴射弁29による燃料噴射量の増量、燃料噴射量29による副噴射(アフター噴射又はポスト噴射)の実施により行う。その他、排気バルブの開閉特性を可変とするVVTを備えた構成において、排気バルブの開弁時期を進角させることや、排気通路20におけるPMフィルタ21より上流側に燃料添加弁を備えた構成において、当該燃料添加弁から排気中に燃料を添加することや、タービン12に可変ノズルベーンを備えた構成において、可変ノズルベーンの開度を開弁側に変化させること等の種々の既知の排気昇温手段を用いることができる。また、捕集装置10を直接加熱する電気ヒータを捕集装置10に備えた構成として、当該電気ヒータに通電することによって捕集装置10を昇温するようにしても良い。要するに、捕集装置10を昇温させることが可能な手段であればどのような手段でも用いることができる。
ところで、捕集装置10を昇温することによって捕集装置10に堆積している排気成分を除去する場合に必要な昇温の温度は、堆積している排気成分の種類によって異なる。例えば、凝縮水を除去するためには100℃以上まで昇温すれば十分だが、未燃HCを除去するためには200℃以上、煤を除去するためには500℃以上の温度に捕集装置10を昇温する必要がある。
従来、捕集装置10の昇温によって捕集装置10に堆積した排気成分を除去する場合には、除去するために要求される温度が最も高温の排気成分を確実に捕集装置10から除去することができるように、昇温の目標温度を設定する必要があった。具体的には、捕集装置10の詰まりの原因が煤である場合を想定して、捕集装置10の詰まりを確実に解消することができるように、昇温の目標温度を、煤を除去可能な500℃以上に設定する必要があった。
そうすると、捕集装置10の詰まりが検知された場合には常に500℃以上の温度まで捕集装置10を昇温して捕集装置10の詰まりを解消することになるので、捕集装置10の詰まりの原因が実際には凝縮水やHCの堆積であった場合には、本来なら不必要な高温にまで捕集装置10を昇温したことになる。従って、捕集装置10の詰まりの解消のために消費されるエネルギーに無駄が有り、また捕集装置10の熱劣化を早めるという問題があった。
ここで、捕集装置10に詰まりが生じていると判定される場合に捕集装置10に堆積し
ている排気成分の種類は、捕集装置10に流入する排気の温度と、捕集装置10における煤の堆積量と、に関連性がある。
例えば、捕集装置10に流入する排気の温度が、排気中の凝縮水が蒸発する温度(例えば100℃前後)よりも低い場合、捕集装置10には主に凝縮水が付着して堆積していると考えられる。すなわち、このような低温の排気温度条件では、捕集装置10の詰まりの原因は主に凝縮水であると判定することができる。
捕集装置10に流入する排気の温度が、排気中の凝縮水が蒸発する温度より高いがHCが蒸発する温度(例えば200℃前後)よりも低い場合は、捕集装置10には主にHCが付着して堆積していると考えられる。すなわち、このような中程度の排気温度条件では、捕集装置10の詰まりの原因は主にHCであると判定することができる。
捕集装置10に流入する排気の温度が、排気中のHCが蒸発する温度より高いが煤の酸化反応が進行し易い温度(例えば500℃前後)よりも低い場合は、捕集装置10には主に煤が堆積していると考えられる。すなわち、このような中高温の排気温度条件では、捕集装置10の詰まりの原因は主に煤であると判定することができる。
但し、このような中高温の排気温度条件であっても、ある程度以上の温度(例えば400℃前後)の排気が継続的に捕集装置10に流入するような場合には、捕集装置10における煤の堆積量が単調に増加していくことはないと考えられる。すなわち、煤の酸化反応が進行し易い温度よりは低い中高温の排気温度条件が一定期間以上継続した、という機関運転履歴に基づいて、捕集装置10の詰まりの原因は煤ではないと判定することもできる。また、前回捕集装置10の昇温を行って排気成分の除去を行ってからの走行時間、燃料噴射量の積算値、煤の排出量が多い加速過渡のような運転条件での運転履歴、低圧EGRガス量の制御履歴等に基づいて、捕集装置10に堆積している煤の量を推定し、推定した煤堆積量に基づいて、捕集装置10に詰まりを生じさせる主要な原因となっている排気成分の種類を特定することができる。
また、捕集装置10に流入する排気の温度が、煤の酸化反応が進行し易い温度より高い場合において、捕集装置10に詰まりが生じていると判定される場合は、捕集装置10の詰まりの原因は凝縮水やHC、煤等の排気成分以外にあると考えられる。すなわち、このような高温の排気温度条件では、例えば、捕集装置10の詰まりの原因はPMフィルタ21の触媒の破片や、排気通路20の配管溶接のスパッタ等の異物の堆積であると判定することができる。
本実施例のEGRシステムでは、このような関連性に基づいて、捕集装置10に流入する排気の温度と、捕集装置10における煤の堆積量と、に応じて、捕集装置10に堆積した排気成分を除去すべく捕集装置10を昇温する際の目標温度を設定するようにした。すなわち、本実施例のEGRシステムでは、捕集装置10に詰まりが生じていると判定された場合に、捕集装置10に流入する排気の温度と、捕集装置10における煤の堆積量と、に応じて、捕集装置10に堆積している排気成分の種類を特定し、当該排気成分を捕集装置10の昇温によって除去するために最低限必要な温度を目標温度として、捕集装置10の昇温を行うようにした。
具体的には、排気温度センサ16によって捕集装置10に流入する排気の温度を取得し、エンジン1の運転履歴から捕集装置10における煤の堆積量を推定により取得し、
(1)排気の温度が、凝縮水の蒸発が進行し易い温度T1(例えば100℃)より低く、煤の堆積量が所定量以下の場合、捕集装置10の詰まりの原因となっている排気成分は主として凝縮水であると判定し、捕集装置10の昇温によって凝縮水を除去するために必要
十分な温度として、昇温の目標温度を凝縮水を蒸発させることが可能な必要最低限の温度(例えば100℃)に設定する。
(2)排気の温度が、凝縮水の蒸発が進行し易い温度T1以上で、HCの蒸発が進行し易い温度T2(例えば200℃)より低く、煤の堆積量が所定量以下の場合、捕集装置10の詰まりの原因となっている排気成分は主としてHCであると判定し、捕集装置10の昇温によってHCを除去するために必要十分な温度として、昇温の目標温度をHCを蒸発させることが可能な必要最低限の温度(例えば200℃)に設定する。
(3)排気の温度が、HCの蒸発が進行し易い温度T2以上で、一定期間以上その温度が継続した場合に煤の堆積が抑制される温度T3(例えば400℃)より低い場合や、排気温度がT3以上であるもののT3以上のとなる運転状態が一定期間以上継続した運転履歴が無い場合には、捕集装置10の詰まりの原因となっている排気成分は主として煤であると判定し、捕集装置10の昇温によって煤を除去するために必要十分な温度として、昇温の目標温度を煤を酸化させることが可能な必要最低限の温度(例えば500℃)に設定する。
(4)排気の温度がT3以上で、当該排気温度条件での運転状態が一定期間以上継続した運転履歴が有る場合や、排気の温度が煤の酸化反応が進行し易い温度T4(例えば600℃)以上である場合には、捕集装置10の詰まりの原因は排気成分以外の異物の堆積によるものであると判定し、捕集装置10の昇温を行わない。
このように、本実施例のEGRシステムでは、捕集装置10の詰まりを検知した場合に、詰まりの原因となっている排気成分の種類に応じて、当該排気成分を捕集装置10の昇温によって除去するために必要最低限の温度を目標温度として設定して、捕集装置10の昇温を行うようにしたので、不必要に高温まで捕集装置10を昇温することを抑制でき、捕集装置10の詰まりの解消に係るエネルギー消費を抑制することが可能となる。
以上説明したように、本実施例のEGRシステムにおいて、捕集装置10に詰まりが生じていると判定された場合に、捕集装置10の昇温が行われて捕集装置10に堆積している排気成分が捕集装置10から除去されると、捕集装置10から除去された排気成分が捕集装置10より下流側の低圧EGR通路24に流出する。この高濃度の排気成分を含む低圧EGRガスが低圧EGR通路24を流れて吸気通路19に流入し、コンプレッサ11やエンジン1に吸入された場合、コンプレッサ11の作動不良や、エンジン1の燃焼変動を招く虞がある。
そこで、本実施例のEGRシステムでは、捕集装置10の詰まりを解消すべく捕集装置10の昇温を行う場合には、図2に示した制御マップに関わらず低圧EGR弁23を閉弁し、低圧EGR装置33による排気の再循環を停止するようにした。これにより、捕集装置10から流出した高濃度の排気成分を含む低圧EGRガスは、連通路8を経由して排気通路20に流入し、吸気通路19には流入しなくなる。従って、コンプレッサ11の動作不良や、エンジン1の燃焼変動といった問題の発生を回避することができる。
なお、この場合、低圧EGR装置33による排気の再循環を停止することによってEGR率が目標値からずれることを回避するために、高圧EGR装置32による排気の再循環量を増加補正するようにしても良い。また、図2のEGR制御マップにおいて低圧EGR装置33を用いて排気の再循環を行うように定められた運転領域においては、捕集装置10の昇温を行う場合に低圧EGR装置33による排気の再循環を完全に停止するのではなく、当該運転領域における通常運転時(すなわち捕集装置10の昇温が行われていない時)の低圧EGR弁23の開度よりも閉じ側の開度に低圧EGR弁23を開弁し、通常運転時よりも低圧EGRガスの流量を低減しつつ、低圧EGR装置33による排気の再循環を行うようにしても良い。この場合、昇温中の捕集装置10から流出する排気成分が低圧EGRガスとともに吸気通路19に流入することになるが、低圧EGRガスの流量が絞られ
ているので、コンプレッサ11の動作不良やエンジン1における燃焼変動を抑制することができる。
以上説明した本実施例のEGRシステムにおける捕集装置10の詰まり除去処理の具体的な実行手順について、図3に基づいて説明する。図3は、捕集装置10の詰まり除去処理を行うためのルーチンを表すフローチャートである。このルーチンはエンジン1の稼働中ECU26によって所定期間毎に定期的に実行される。
ステップS101において、ECU26は、エンジン1の運転状態を取得する。このステップで取得したデータは、上述した捕集装置10における煤の堆積量の推定を行う際の運転履歴データとして用いられる他、例えば排気温度センサ16のような捕集装置10に流入する排気の温度を測定する装置を備えない構成において捕集装置10に流入する排気の温度を推定するために用いることもできる。
ステップS102において、ECU26は、差圧センサ25による測定値に基づいて捕集装置10の上流側と下流側との間の差圧ΔPを取得する。
ステップS103において、ECU26は、ステップS102で取得した差圧ΔPが第1基準差圧ΔP1を超えているか否かを判定する。差圧ΔPが第1基準差圧ΔP1を超えている場合(ΔP>ΔP1、ステップS103:Yes)、ECU26はステップS104に進む。差圧ΔPが第1基準差圧ΔP1以下である場合(ΔP≦ΔP1、ステップS103:No)、ECU26はステップS111に進み、通常制御を行う。通常制御とは、捕集装置10の昇温を行わず、図2に示した制御マップに従って高圧EGR装置32及び低圧EGR装置33による排気の再循環の制御を行うことを意味する。
ステップS104において、ECU26は、低圧EGR弁23を閉弁し、低圧EGR装置33による排気の再循環を停止する。これにより、以降の処理で捕集装置10の昇温が行われた場合に捕集装置10から流出する排気成分が吸気通路19に流入することが防止される。
ステップS105において、ECU26は、排気温度センサ16による測定値に基づいて捕集装置10に流入する排気の温度を取得すると共に、捕集装置10における煤の堆積量を算出する。
ステップS106において、ECU26は、ステップS105において取得した排気温度及び煤堆積量に基づいて、上述した判定基準により、捕集装置10に詰まりを生じさせている排気成分の種類を判定する。
ステップS106において、捕集装置10に堆積している排気成分が主に凝縮水であると判定された場合、ECU26はステップS107に進み、凝縮水を除去可能な必要最低限の温度(ここでは100℃とする)に目標温度を設定して捕集装置10の昇温を行う。
ステップS106において、捕集装置10に堆積している排気成分が主にHCであると判定された場合、ECU26はステップS108に進み、HCを除去可能な必要最低限の温度(ここでは200℃とする)に目標温度を設定して捕集装置10の昇温を行う。
ステップS106において、捕集装置10に堆積している排気成分が主に煤であると判定された場合、ECU26はステップS109に進み、煤を除去可能な必要最低限の温度(ここでは500℃とする)に目標温度を設定して捕集装置10の昇温を行う。
ステップS106において、捕集装置10に詰まりを生じさせている原因は排気成分の堆積ではなく異物の堆積であると判定された場合、ECU26はステップS110に進み、エンジン異常を警告するMIL点灯を行う。
以上のルーチンに従って捕集装置10の詰まり除去処理を行うことにより、燃費の増大や捕集装置の熱劣化を抑制しつつ、捕集装置10の詰まりを好適に除去することが可能となる。本実施例においては、ステップS105において捕集装置10における煤の堆積量を算出するECU26が、本発明における「煤堆積量取得手段」に相当する。また、ステップS103で肯定判定された場合に、ステップS107〜ステップS109のいずれかのステップにおいて捕集装置10の昇温を行うECU26が、本発明における「除去手段」に相当する。また、ステップS106の判定結果に応じてステップS107〜ステップS109のいずれの昇温処理を選択するECU26が、本発明における「設定手段」に相当する。また、捕集装置10の昇温処理が行われない場合にはステップS111において図2の制御マップに従ったEGR制御を行い、捕集装置10の昇温処理が行われる場合にはステップS104において低圧EGR弁23を閉弁する処理を行うECU26が、本発明における「制御手段」に相当する。
捕集装置10を昇温することによって捕集装置10から除去することができる堆積物は、上述した凝縮水、HC、煤等の排気成分である。もし、捕集装置10に生じた詰まりの原因がこれら排気成分の堆積ではなく、破損した排気系部品の破片等の異物の堆積であった場合には、捕集装置10を昇温することによっては、捕集装置10に生じた詰まりを解消することは困難である。従って、このような場合には、捕集装置10の昇温が行われた直後においても、捕集装置10の上流側と下流側との間における圧力損失が十分に低下しない場合がある。
そこで、本実施例のEGRシステムでは、上記説明したような捕集装置10の目詰まりの除去処理を行った直後に、再び捕集装置10の上流側と下流側との差圧を取得し、取得された差圧が所定の第2基準差圧ΔP2を超えている場合には、捕集装置10の目詰まりの原因は異物の堆積であると判定するようにした。ここで、第2基準差圧ΔP2は、捕集装置10における堆積物が排気成分であった場合に、捕集装置10の昇温処理を行った直後に捕集装置10の前後に生じると推測される差圧に基づいて定める。捕集装置10の目詰まりの原因が主に異物の堆積である場合であっても、捕集装置10には多少の排気成分も堆積していると考えられるので、捕集装置10の昇温を行うことによって、当該排気成分の堆積量に相当する分は圧力損失が低減する。従って、本実施例では、第2基準差圧ΔP2は、第1基準差圧ΔP1より小さい値に設定する。より簡易には、第2基準差圧ΔP2と第1基準差圧ΔP1とを等しくしても良い。
このような判定がなされた場合には排気系部品に生じた何らかの故障に起因して生じた異物が捕集装置10に到達して堆積したものと推測される。特に、本実施例のEGRシステムの場合、PMフィルタ21より下流側の排気通路20に低圧EGR通路24が接続されているので、この異物はPMフィルタ21の破損により生じた触媒やフィルタの破片である可能性が高い。
そこで、本実施例のEGRシステムでは、捕集装置10に生じている詰まりの原因が異物の堆積であると判定された場合には、触媒破損又はエンジン異常をドライバーに通知するMILの点灯を行うとともに、エンジン1の運転制御に関して、アクセル開度制限Aを実施することとした。アクセル開度制限Aとは、退避走行を目的とした運転制限である。これにより、ドライバーは触媒破損又はエンジン異常に対して早急な対処を行うことが可能となる。
本実施例の捕集装置10は上述したようにメッシュ状のフィルタである。従って、捕集装置10に異物や排気成分が何も堆積していない新品状態であっても、ある程度の圧力損失がある。しかしながら、捕集装置10が破損した場合には、正常な状態の捕集装置10と比較して、圧力損失が小さくなることがある。例えば、フィルタが破損してメッシュの一部に穴が空いた状態となった場合、正常な状態のフィルタよりも排気が通過し易くなるため、圧力損失は小さくなる。
そこで、本実施例のEGRシステムでは、差圧センサ25によって取得される捕集装置10の上流側と下流側との差圧が、この新品状態の捕集装置10の上流側と下流側とに生じる差圧に基づいて定められる第3基準差圧ΔP3よりも小さい場合には、捕集装置10に破損が生じていると判定するようにした。
このような判定がなされた場合には、捕集装置10において排気中の異物を好適に捕集することができなくなるので、低圧EGR装置33によって排気の再循環を行うと、異物が低圧EGRガスとともに低圧EGR通路24を経由して吸気通路に導かれ、コンプレッサ11に流入する虞がある。
そこで、本実施例のEGRシステムでは、捕集装置10に破損が生じていると判定された場合には、捕集装置異常をドライバーに通知するMILの点灯を行うとともに、全ての運転領域において低圧EGR装置33による排気の再循環を停止し、高圧EGR装置32のみによってフィードバック制御によって排気の再循環を行うようにした。更に、エンジン1の運転制御に関して、アクセル開度制限Bを実施することとした。アクセル開度制限Bとは、運転制御をEGR制御を高圧EGR装置32のみで行う条件下で可能な制御に制限した運転制限である。触媒破損やエンジン異常時に実行されるアクセル開度制限Aより軽度の運転制限に設定しても良い。
本実施例のEGRシステムの捕集装置の詰まり除去処理において、以上説明した触媒異常判定及び捕集装置異常判定を行う場合の具体的な実行手順について、図4及び図5に基づいて説明する。図4及び図5は、捕集装置10の詰まり除去処理において、触媒異常判定及び捕集装置異常判定を行うためのルーチンを表すフローチャートである。このルーチンはエンジン1の稼働中ECU26によって所定期間毎に定期的に実行される。
ステップS201において、ECU26は、エンジン1の運転状態を取得する。このステップで取得したデータは、上述した捕集装置10における煤の堆積量の推定を行う際の運転履歴データとして用いられる他、例えば排気温度センサ16のような捕集装置10に流入する排気の温度を測定する装置を備えない構成において捕集装置10に流入する排気の温度を推定するために用いることもできる。
ステップS202において、ECU26は、差圧センサ25による測定値に基づいて捕集装置10の上流側と下流側との差圧ΔPを取得する。
ステップS203において、ECU26は、ステップS202で取得した差圧ΔPが第1基準差圧ΔP1を超えているか否かを判定する。差圧ΔPが第1基準差圧ΔP1を超えている場合(ΔP>ΔP1、ステップS203:Yes)、ECU26はステップS204に進む。差圧ΔPが第1基準差圧ΔP1以下である場合(ΔP≦ΔP1、ステップS203:No)、ECU26は図5のステップS211に進む。
ステップS204において、ECU26は、低圧EGR弁23を閉弁し、低圧EGR装置33による排気の再循環を停止する。これにより、以降の処理で捕集装置10の昇温が行われた場合に捕集装置10から流出する排気成分が吸気通路19に流入することが防止
される。
ステップS205において、ECU26は、捕集装置10の詰まり除去処理を行う。具体的には、図3のステップS105〜ステップS110までの処理を実行する。
ステップS206において、ECU26は、差圧センサ25による測定値に基づいて捕集装置10の上流側と下流側との差圧ΔPを取得する。この処理により、捕集装置10の詰まりを除去すべく昇温を行った直後の捕集装置10の差圧が取得される。
ステップS207において、ECU26は、ステップS206で取得した差圧ΔPが第2基準差圧ΔP2を超えているか否かを判定する。差圧ΔPが第2基準差圧ΔP2を超えている場合(ΔP>ΔP2、ステップS207:Yes)、ECU26はステップS208に進み、触媒異常又はエンジン異常を警告するMIL点灯を行い、続くステップS209においてエンジン1の運転制御についてアクセル開度制限Aを課す。一方、差圧ΔPが第2基準差圧ΔP2以下である場合(ΔP≦ΔP2、ステップS207:No)、ステップS210に進み、通常制御を行う。通常制御とは、エンジン1の運転制御について制御制限を課さず、また、図2に従って高圧EGR装置32及び低圧EGR装置33による排気の再循環の制御を行うことを意味する。
ステップS211において、ECU26は、ステップS202で取得した差圧ΔPが第3基準差圧ΔP3より小さいか否かを判定する。差圧ΔPが第3基準差圧ΔP3より小さい場合(ΔP<ΔP3、ステップS211:Yes)、ECU26はステップS212に進み、捕集装置異常を警告するMIL点灯を行い、続くステップS213において低圧EGR弁23を全閉して低圧EGR装置33よる排気の再循環を停止する。更に、ステップS214において、エンジン1の排気再循環の制御を高圧EGR装置32のみで行うべく、高圧EGR装置32の制御を図2のEGR制御マップに従った制御から、目標EGR率を高圧EGR装置32のみで実現するためのフィードバック制御に切り替える。そして、ステップS215において、エンジン1の運転制御についてアクセル開度制限Bを課す。
一方、差圧ΔPが第3基準差圧ΔP3以上である場合(ΔP≧ΔP3、ステップS211:No)、ステップS216に進み、通常制御を行う。通常制御とは、エンジン1の運転制御について制御制限を課さず、また、図2に従って高圧EGR装置32及び低圧EGR装置33による排気の再循環の制御を行うことを意味する。
尚、ステップS205の詰まり除去処理において、捕集装置10に目詰まりを生じさせている原因は異物の堆積にあるという判定がなされた場合(図3のステップS106の判定の結果、ステップS110に進んだ場合)、ステップS206及びステップS207の処理をスキップしてステップS208に進むようにしても良い。
以上のルーチンに従って捕集装置10の詰まり除去処理とともに触媒異常判定及び捕集装置異常判定を行うことにより、触媒異常及び捕集装置異常を早期に検知することが可能となる。
本実施例においては、ステップS207で肯定判定された場合に、触媒異常又はエンジン異常と判定するECU26が、本発明における「機関異常判定手段」に相当する。また、ステップS211で肯定判定された場合に、捕集装置異常と判定するECU26が、本発明における「捕集装置異常判定手段」に相当する。
なお、以上述べた実施例は本発明を説明するための一例であって、本発明の本旨を逸脱しない範囲内において上記の実施例には種々の変更を加え得る。例えば、上記実施例では
低圧EGR装置33及び高圧EGR装置32の2系統のEGR装置を備えたEGRシステムに本発明を適用した例について説明したが、低圧EGR装置33のみを備えたEGRシステムに本発明を適用することもできる。但し、その場合、捕集装置異常検知時に低圧EGR装置33による排気の再循環を停止した場合、エンジン1の運転制御には、排気の再循環を一切行わない条件での制御制限を課す必要がある。
また、上記実施例における連通路8は本発明のために必須の構成要素ではない。連通路8を備えない構成において、捕集装置10の詰まりを除去すべく捕集装置10の昇温を行う場合には、低圧EGR弁23を全閉するのではなく、通常運転時よりも閉じ側の開度に開弁するようにしても良い。これにより、捕集装置10から流出する高濃度の排気成分を含んだ低圧EGRガスが吸気通路19に流入することになるが、低圧EGR弁23の開度が通常運転時よりも絞られるので、コンプレッサ11やエンジン1に一気に高濃度の排気成分を含んだ低圧EGRガスが流入することを抑制でき、コンプレッサ11の動作不良やエンジン1の燃焼変動を抑制できる。
上記実施例においては、捕集装置10に流入する排気の温度を排気温度センサ25によって取得する例について説明したが、排気温度センサ25を設けず、エンジン1の運転条件に基づく推定によって捕集装置10に流入する排気の温度を取得するようにしても良い。また、エンジン1の冷却水温や吸気温度に基づく推定により捕集装置10に流入する排気の温度を取得するようにしても良い。
また、上記実施例においては、捕集装置10に詰まりを生じさせている排気成分として凝縮水、HC、煤を判別して、それぞれの排気成分を除去可能な必要最低限の温度をそれぞれ100℃、200℃、500℃として昇温の目標温度を設定する例について説明したが、これら以外の排気成分についても考慮して堆積物質の判別を行っても良いし、堆積物質の判別において凝縮水とHCとを判別しない、HCと煤とを判別しない、といいうように簡略化しても良いし、凝縮水、HC、煤を除去可能な温度であれば、本実施例において用いた温度(100℃、200℃、500℃)以外の温度を目標温度に設定しても良い。また、捕集装置10において例えば凝縮水とHCとが混合して堆積していることが推測される場合には、混合して堆積している排気成分のうち、除去するために必要な温度がより高い方の排気成分に応じて目標温度を設定するようにしても良い。