以下、図1〜図10を用いて、本発明の一実施形態による両用自動変速機の変速制御装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による車両用自動変速機および制御装置の第1の構成例について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用自動変速機および制御装置の構成を示すシステム構成例のスケルトン図である。
駆動力源であるエンジン7には、エンジン7の回転数を計測するエンジン回転数センサ(図示しない)、エンジントルクを調節する電子制御スロットル(図示しない)、吸入空気量に見合う燃料量を噴射するための燃料噴射装置(図示しない)が設けられている。エンジン制御ユニット101は、吸入空気量、燃料量、燃料噴射タイミング、点火時期等を操作することで、エンジン7のトルクを高精度に制御することができる。燃料噴射装置には、燃料が吸気ポートに噴射される吸気ポート噴射方式あるいはシリンダ内に直接噴射される筒内噴射方式があるが、エンジンに要求される運転域(エンジントルク、エンジン回転数で決定される領域)を比較して燃費が低減でき、かつ排気性能が良い方式のエンジンを用いるのが有利である。駆動力源としては、ガソリンエンジンのみならず、ディーゼルエンジン、天然ガスエンジンや、電動機などでもよいものである。
自動変速機50には、摩擦伝達機構である第1クラッチ8、第2クラッチ9、及び、第1入力軸41、第2入力軸42、出力軸43、第1ドライブギア1、第2ドライブギア2、第3ドライブギア3、第4ドライブギア4、第5ドライブギア5、後進ドライブギア(図示しない)、第1ドリブンギア11、第2ドリブンギア12、第3ドリブンギア13、第4ドリブンギア14、第5ドリブンギア15、後進ドライブギア(図示しない)、第1同期噛合い機構21、第2同期噛合い機構22、第3同期噛合い機構23、回転センサ31、回転センサ32、回転センサ33が設けられている。
第1クラッチ8を係合、解放することで、エンジン7のトルクを第1入力軸41に伝達、遮断することが可能である。また、第2クラッチ9を係合、解放することで、エンジン7のトルクを第2入力軸42に伝達、遮断することが可能である。本例では、第1クラッチ8、第2クラッチ9は所謂乾式単板クラッチを用いている。
第2入力軸42は中空になっており、第1入力軸41は、第2入力軸42の中空部分を貫通し、第2入力軸42に対し回転方向への相対運動が可能な構成となっている。
第2入力軸42には、第1ドライブギア1と、第3ドライブギア3と、第5ドライブギア5と、後進ドライブギア(図示しない)とが固定されている。第2入力軸42は、第1入力軸1241に対しては、回転自在となっている。また、第1入力軸41には、第2ドライブギア2と、第4ドライブギア4とが固定されている。第1入力軸41は、第2入力軸42に対しては、回転方向への相対運動が可能な構成となっている。
第1入力軸41の回転数を検出する手段として、回転センサ31が設けられている。第2入力軸42の回転数を検出する手段として、回転センサ32が設けられている。
一方、出力軸43には、第1ドリブンギア11、第2ドリブンギア12、第3ドリブンギア13、第4ドリブンギア14、第5ドリブンギア15、後進ドリブンギア(図示しない)が設けられている。第1ドリブンギア11、第2ドリブンギア12、第3ドリブンギア13、第4ドリブンギア14、第5ドリブンギア15、後進ドリブンギア(図示しない)は、出力軸43に対して回転自在に設けられている。
また、出力軸43の回転数を検出する手段として、回転センサ33が設けられている。
これらのギアの中で、第1ドライブギア1と第1ドリブンギア11とが、第2ドライブギア2と第2ドリブンギア12とが、それぞれ噛合している。また、第3ドライブギア3と第3ドリブンギア13とが、第4ドライブギア4と第4ドリブンギア14とが、それぞれ噛合している。さらに、第5ドライブギア5と第5ドリブンギア15とが、噛合している。また、後進ドライブギア(図示しない)、アイドラーギア(図示しない)、後進ドリブンギア(図示しない)がそれぞれ噛合している。
また、第1ドリブンギア11と第3ドリブンギア13の間には、第1ドリブンギア11を出力軸43に係合させたり、第3ドリブンギア13を出力軸43に係合させる、第1同期噛合い機構21が設けられている。
また、第2ドリブンギア12と第4ドリブンギア14の間には、第2ドライブギア12を出力軸43に係合させたり、第4ドリブンギア14を出力軸43に係合させる、第3同期噛合い機構23が設けられている。
また、第5ドリブンギア15には、第5ドリブンギア15を出力軸43に係合させる、第2同期噛合い機構22が設けられている。
変速機制御ユニット100によって、第1クラッチアクチュエータ71内に設けられた電動機である第1クラッチモータ71b(図示しない)の電流を制御することで、第1クラッチ8内に設けられたプレッシャプレート(図示しない)を制御し、第1クラッチ8の伝達トルクの制御を行っている。なお、第1クラッチアクチュエータ71には第1クラッチ8のストローク位置を計測する位置センサ71a(図示しない)が設けられている。
また、変速機制御ユニット100によって、第2クラッチアクチュエータ72内に設けられた電動機である第2クラッチモータ72b(図示しない)の電流を制御することで、第2クラッチ9内に設けられたプレッシャプレート(図示しない)を制御し、第2クラッチ9の伝達トルクの制御を行っている。なお、第2クラッチアクチュエータ72には第2クラッチ9のストローク位置を計測する位置センサ72a(図示しない)が設けられている。
なお、第1クラッチ8、第2クラッチ9を動作させるために、本例においては所謂直流モータを用いた電動作動機構として構成しているが、所謂DCブラシレスモータや交流モータを用いて構成しても良く、または電磁流量制御弁を用いた油圧機構によってクラッチを動作させるように構成しても良く、第1クラッチ8、第2クラッチ9を制御するための他の機構を用いても構成可能である。
変速機制御ユニット100によって、シフトアクチュエータ73内に設けられた電動機である第1シフトモータ(図2の第1シフトモータ73b)の電流を制御することで、シフトフォーク(図示しない)を介して第1同期噛合い機構21の位置もしくは荷重を制御し、第1ドリブンギア11、または第3ドリブンギア13と係合させることで、第2入力軸42の回転トルクを、第1同期噛合い機構21を介して出力軸43へと伝達することができる。なお、シフトアクチュエータ73には第1同期噛合い機構21のストローク位置を計測するスリーブ位置センサ(図2のスリーブ位置センサ73a)が設けられている。
また、変速機制御ユニット100によって、シフトアクチュエータ74内に設けられた電動機である第2シフトモータ(図2の第2シフトモータ74b)の電流を制御することで、シフトフォーク(図示しない)を介して第2同期噛合い機構22の位置もしくは荷重を制御し、第5ドリブンギア15と係合させることで、第2入力軸42の回転トルクを、第2同期噛合い機構22を介して出力軸43へと伝達することができる。なお、シフトアクチュエータ74には第2同期噛合い機構22のストローク位置を計測するスリーブ位置センサ(図2のスリーブ位置センサ74a)が設けられている。
また、変速機制御ユニット100によって、シフトアクチュエータ75内に設けられた電動機である第3シフトモータ(図2の第3シフトモータ75b)の電流を制御することで、シフトフォーク(図示しない)を介して第3同期噛合い機構23の位置もしくは荷重を制御し、第2ドリブンギア12、または第4ドリブンギア14と係合させることで、第1入力軸41の回転トルクを、第3同期噛合い機構23を介して出力軸43へと伝達することができる。なお、シフトアクチュエータ75には第3同期噛合い機構23のストローク位置を計測するスリーブ位置センサ(図2のスリーブ位置センサ75a)が設けられている。
なお、第1同期噛合い機構21、第2同期噛合い機構22、第3同期噛合い機構23を動作させるために、本例においては所謂直流モータを用いた電動作動機構として構成しているが、所謂DCブラシレスモータや交流モータを用いて構成しても良く、または電磁圧力制御弁と油圧ピストンを用いた油圧機構によって同期噛合い機構を動作させるように構成しても良く、第1同期噛合い機構21、第2同期噛合い機構22、第3同期噛合い機構23を制御するための他の機構を用いても構成可能である。
このように第1ドライブギア1、第2ドライブギア2、第3ドライブギア3、第4ドライブギア4、第5ドライブギア5から、第1ドリブンギア11、第2ドリブンギア12、第3ドリブンギア13、第4ドリブンギア14、第5ドリブンギア15を介して変速機出力軸43に伝達された変速機入力軸41の回転トルクは、変速機出力軸43に連結されたディファレンシャルギア(図示しない)を介して車軸(図示しない)に伝えられる。
また、レバー装置106から、シフトレバー位置(Pレンジ、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ、運転者による変速操作を可能とするMレンジ)を示すレンジ位置信号、および運転者操作によるアップスイッチ信号(アップシフト指令信号)、ダウンスイッチ信号(ダウンシフト指令信号)が変速機制御ユニット100に入力する。
また、方向指示器107から、運転者操作による右折意思表示信号、左折意思表示信号が変速機制御ユニット100に入力する。右折、左折それぞれの意思表示信号は点滅信号として変速機制御ユニット100に入力され、右折意思表示信号と左折意思表示信号が同時に点滅する所謂ハザード信号は両信号の同時点滅として変速機制御ユニット100に入力する。
また、変速機制御ユニット100、エンジン制御ユニット101は、通信手段103によって相互に情報を送受信する。
変速機制御ユニット100によってシフトアクチュエータ73を制御し、第1同期噛合い機構21と第1ドリブンギア11を噛合し、さらに変速機制御ユニット100によって第2クラッチアクチュエータ72を制御して第2クラッチ9を係合することによって第1速段走行となる。
変速機制御ユニット100によってシフトアクチュエータ75を制御し、第3同期噛合い機構23と第2ドリブンギア12を噛合し、さらに変速機制御ユニット100によって第1クラッチアクチュエータ71を制御して第1クラッチ8を係合することによって第2速段走行となる。
変速機制御ユニット100によってシフトアクチュエータ73を制御し、第1同期噛合い機構21と第3ドリブンギア13を噛合し、さらに変速機制御ユニット100によって第2クラッチアクチュエータ72を制御して第2クラッチ9を係合することによって第3速段走行となる。
変速機制御ユニット100によってシフトアクチュエータ75を制御し、第3同期噛合い機構23と第4ドリブンギア14を噛合し、さらに変速機制御ユニット100によって第1クラッチアクチュエータ71を制御して第1クラッチ8を係合することによって第4速段走行となる。
変速機制御ユニット100によってシフトアクチュエータ74を制御し、第2同期噛合い機構22と第5ドリブンギア15を噛合し、さらに変速機制御ユニット100によって第2クラッチアクチュエータ72を制御して第2クラッチ9を係合することによって第5速段走行となる。
変速機制御ユニット100によってシフトアクチュエータ74を制御し、第2同期噛合い機構22と後進ドリブンギア(図示しない)を噛合し、さらに変速機制御ユニット100によって第2クラッチアクチュエータ72を制御して第2クラッチ9を係合することによって後進段走行となる。
ここで例えば、中立状態から1速段発進は、変速機制御ユニット100によってシフトアクチュエータ73を制御し、第1同期噛合い機構21と第1ドリブンギア11を噛合した状態から、さらに変速機制御ユニット100によって第2クラッチアクチュエータ72を制御して第2クラッチ9を除々に係合することによって行われる。
次に、図2を用いて、本実施形態による車両用自動変速機の制御装置における変速機制御ユニット100と、エンジン制御ユニット101との間の入出力信号関係について説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る車両用自動変速機の制御装置における変速機制御ユニットとエンジン制御ユニットとの間の入出力信号関係を示すブロック図である。
変速機制御ユニット100は、入力部100iと、出力部100oと、コンピュータ100cとを備えたコントロールユニットとして構成される。同様に、エンジン制御ユニット101も、入力部101iと、出力部101oと、コンピュータ101cとを備えたコントロールユニットとして構成される。
変速機制御ユニット100からエンジン制御ユニット101に、通信手段103を用いてエンジントルク指令値TTeが送信されると、エンジン制御ユニット101はエンジントルク指令値TTeを実現するように、エンジン7の吸入空気量、燃料量、燃料噴射タイミング、点火時期等(図示しない)を制御する。また、エンジン制御ユニット101内には、変速機への入力トルクとなるエンジントルクの検出手段(図示しない)が備えられ、エンジン制御ユニット101によってエンジン7の回転数Ne、エンジン7が発生したエンジントルクTeを検出し、通信手段103を用いて変速機制御ユニット100に送信する。エンジントルク検出手段には、トルクセンサを用いるか、またはインジェクタの噴射パルス幅や吸気管内の圧力とエンジン回転数等など、エンジンのパラメータによる推定手段としても良い。
変速機制御ユニット100には、回転センサ31、回転センサ32、回転センサ33から、第1入力軸回転数NiA、第2入力軸回転数NiB、出力軸回転数Noがそれぞれ入力する。また、変速機制御ユニット100には、レバー装置106から、シフトレバー位置(Pレンジ、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ、運転者による変速操作を可能とするMレンジ)を示すレンジ位置信号RngPos、と、運転者操作によるアップスイッチ信号UpSw(アップシフト指令信号)と、ダウンスイッチ信号DnSw(ダウンシフト指令信号)と、が入力する。また、変速機制御ユニット100には、方向指示器107から、運転者操作による右折意思表示信号Rturn、左折意思表示信号Lturnと、が入力し、アクセル開度センサ201からアクセルペダル踏み込み量Apsと、ブレーキが踏まれているか否かを検出するブレーキスイッチ202からのON/OFF信号Brkが入力する。
ここで、右折意思表示信号Rturn、左折意思表示信号Lturnは、それぞれ右方向指示灯、左方向指示灯を点滅させるためのON/OFF信号として構成しているが、方向指示器の操作方向に接点を設けたスイッチ等の継続的な信号として構成しても良く、方向指示器の操作を変速機制御ユニット100が識別するための他の機構を用いても構成可能である。
また、変速機制御ユニット100には、変速機50内部の潤滑油の温度を計測する油温センサ203から潤滑油温TEMPlubが入力する。
また、変速機制御ユニット100には、第1クラッチ8のストローク位置を計測する第1クラッチ位置センサ71a、第2クラッチ9のストローク位置を計測する第2クラッチ位置センサ72aから、それぞれ第1クラッチ位置RPcl1、第2クラッチ位置RPcl2が入力する。
また、変速機制御ユニット100には、スリーブ1位置センサ61a、スリーブ2位置センサ62a、スリーブ3位置センサ63aから、第1同期噛合い機構21、第2同期噛合い機構22、第3同期噛合い機構23のそれぞれのストローク位置を示す、スリーブ1位置RPslv1、スリーブ2位置RPslv2、スリーブ3位置RPslv3が入力する。
変速機制御ユニット100には、直流モータを駆動するための駆動回路として所謂Hブリッジ回路(図示しない)が設けられており、直流モータの電流および電流の方向を、所謂PWM制御によって直流モータへ印加する2端子の電圧を調整することで制御する。なお、変速機制御ユニット100には、電流検出回路(図示しない)が設けられており、各直流モータの電流が目標電流に追従するよう電圧出力を変更して、各モータの電流を制御する構成となっている。
変速機制御ユニット100は、所望の第1クラッチ伝達トルクを実現するために、第1クラッチ8の目標伝達トルクTclaを設定し、目標伝達トルクTclaを実現するための目標位置を設定し、目標位置を実現するための目標電流と電流の方向を算出し、算出した電流および電流方向を実現するよう、第1クラッチモータ71bへ印加する電圧V1_cl1、V2_cl1を調整することで、第1クラッチモータ71bの電流を制御し、第1クラッチ8のストローク位置を調節して第1クラッチ8を係合、解放する。
また、変速機制御ユニット100は、所望の第2クラッチ伝達トルクを実現するために、第2クラッチ9の目標伝達トルクTclbを設定し、目標伝達トルクTclbを実現するための目標位置を設定し、目標位置を実現するための目標電流を算出し、算出した電流を実現するよう、第2クラッチモータ72bへ印加する電圧V1_cl2、V2_cl2、を調整することで、第2クラッチモータ72bの電流を制御し、第2クラッチ9のストローク位置を調節して第2クラッチ9を係合、解放する。
また、変速機制御ユニット100は、所望の第1同期噛合い機構21の位置を実現するために、第1シフトモータ73bへ印加する電圧V1_sft1、V2_sft1を調整することで、第1シフトモータ73bの電流を制御し、第1同期噛合い機構21の噛合、解放を行う。
また、変速機制御ユニット100は、所望の第2同期噛合い機構22の位置を実現するために、第2シフトモータ74bへ印加する電圧V1_sft2、V2_sft2を調整することで、第2シフトモータ74bの電流を制御し、第2同期噛合い機構22の噛合、解放を行う。
また、変速機制御ユニット100は、所望の第3同期噛合い機構23の位置を実現するために、第3シフトモータ75bへ印加する電圧V1_sft3、V2_sft3を調整することで、第3シフトモータ75bの電流を制御し、第3同期噛合い機構23の噛合、解放を行う。
変速機制御ユニット100は、例えば、運転者がシフトレンジをDレンジ等にしてアクセルペダルを踏み込んだときは運転者に発進、加速の意志があると判断する。また、変速機制御ユニット100は、運転者がブレーキペダルを踏み込込んだときは運転者に減速、停止の意志があると判断する。変速機制御ユニット100は、これらの運転者の意図を実現するように、所望の同期噛合い機構を解放/噛合いさせるよう、第3同期噛合い機構21、第2同期噛合い機構22、第3同期噛合い機構23の目標位置を設定し、各目標位置を実現するよう、第1シフトモータ73bへ印加する電圧V1_sft1、V2_sft1、第2シフトモータ74bへ印加する電圧V1_sft2、V2_sft2、第3シフトモータ75bへ印加する電圧V1_sft3、V2_sft3を調整し、また、エンジントルク指令値TTeを設定するとともに、第1クラッチ8、第2クラッチ9が所望の伝達トルクTcla、Tclbとなるよう、第1クラッチ8、第2クラッチ9の目標位置を設定し、各目標位置を実現するよう、第1クラッチモータ71bへ印加する電圧V1_cl1、V2_cl1、第2クラッチモータ72bへ印加する電圧V1_cl2、V2_cl2を調整する。
また、変速機制御ユニット100は、現在の目標変速段と、出力軸回転数Noから算出する車速Vspと、アクセルペダル踏み込み量Apsと、等の運転状態に基づいて次の変速段を予測し、予測結果に基づき、予測結果の変速段の達成のために使用される所定の同期噛合い機構を噛合い状態とするため、所望の同期噛合い機構を解放/噛合いさせるよう、第1シフトモータ73bへ印加する電圧V1_sft1、V2_sft1、第2シフトモータ74bへ印加する電圧V1_sft2、V2_sft2、第3シフトモータ75bへ印加する電圧V1_sft3、V2_sft3を調整する。例えば、2速で走行している場合、すなわち、目標変速段が2速となっている状態の場合、次の変速段が1速となるか、3速となるかを運転状態に基づいて予測し、予め第1同期噛合い機構21を第1ドリブンギア11、または第3ドリブンギア13に噛合いさせるよう、第1シフトモータ73bへ印加する電圧V1_sft1、V2_sft1を調整する。
また、変速機制御ユニット100は、出力軸回転数Noから算出する車速Vspとアクセルペダル踏み込み量Apsから目標とする変速段を設定し、設定した変速段への変速動作を実行するよう、エンジントルク指令値TTeを設定するとともに、第1クラッチ8、第2クラッチ9が所望の伝達トルクTcla、Tclbとなるよう、第1クラッチ8、第2クラッチ9の目標位置を設定し、各目標位置を実現するよう、第1クラッチモータ71bへ印加する電圧V1_cl1、V2_cl1、第2クラッチモータ72bへ印加する電圧V1_cl2、V2_cl2を調整する。また、予測による変速段の予測結果が目標とする変速段と異なっている場合は、所望の同期噛合い機構を解放/噛合いさせるよう、第1シフトモータ73bへ印加する電圧V1_sft1、V2_sft1、第2シフトモータ74bへ印加する電圧V1_sft2、V2_sft2、第3シフトモータ75bへ印加する電圧V1_sft3、V2_sft3を調整する。
例えば、3速で走行している場合、すなわち、目標変速段が3速となっている状態の場合、次の変速段が2速となるか、4速となるかを運転状態に基づいて予測し、次の変速段が2速であると予測し、予め第3同期噛合い機構23を第2ドリブンギア12に噛合いさせた状態から、目標変速段が3速から2速に切り替わった場合、すなわちダウンシフト指令となった場合は、既に第3同期噛合い機構23が第2ドリブンギア12に噛合った状態であるため、第1クラッチ8の締結を開始できるが、次の変速段が4速であると予測し、予め第3同期噛合い機構23を第4ドリブンギア14に噛合いさせた状態から、目標変速段が3速から2速に切り替わった場合は、第1クラッチ8の締結を開始する前に、第3同期噛合い機構23を、第4ドリブンギア14との噛合い状態を解除し、第2ドリブンギア12に噛合いさせる必要がある。このように、次の変速段の予測結果の精度は、目標変速段が設定されてから変速が完了するまでの応答性に大きく影響する。
次に、図3〜図9を用いて、本実施形態による車両用自動変速機の制御装置のプリシフト制御の具体的な制御内容について説明する。
最初に、図3を用いて、本実施形態による車両用自動変速機の制御装置のプリシフト制御を含む、シフト制御の全体の制御内容について説明する。
図3は、本発明の一実施形態による車両用自動変速機の制御装置のプリシフト制御を含む、シフト制御の全体の制御内容を示すフローチャートである。
制御フローは、ステップ301(目標ギア位置演算)と、ステップ302(スタンバイギア位置演算)と、ステップ303(シフト制御)と、から構成される。
図3の制御内容は、変速機制御ユニット100のコンピュータ100cにプログラミングされ、あらかじめ定められた周期で繰り返し実行される。すなわち、以下のステップ301〜303の処理は、変速機制御ユニット100によってあらかじめ定められた周期で繰り返し実行される。
ステップ301(目標ギア位置演算)において、変速機制御ユニット100は、シフトレバー位置(Pレンジ、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ、運転者による変速操作を可能とするMレンジ)を示すレンジ位置信号RngPos、と、運転者操作によるアップスイッチ信号UpSw(アップシフト指令信号)と、ダウンスイッチ信号DnSw(ダウンシフト指令信号)と、出力軸回転数Noから算出する車速Vspとアクセルペダル踏み込み量Aps等の運転状態に基づき、目標とするギア位置tGP_nxtを設定する。例えば、レンジ位置信号RngPosがDレンジの場合(自動変速モードの場合)、出力軸回転数Noから算出する車速Vspとアクセルペダル踏み込み量Aps等から目標とするギア位置tGP_nxtを設定する。また、レンジ位置信号RngPosがMレンジの場合(手動変速モードの場合)、アップスイッチ信号UpSwと、ダウンスイッチ信号DnSwから目標とするギア位置tGP_nxtを設定する。
ステップ302(スタンバイギア位置演算)において、変速機制御ユニット100は、次の変速段を予測し、目標スタンバイ位置tGP_stbを設定する。なお、ステップ302(スタンバイギア位置演算)の詳細は、図4を用いて後述する。
ステップ303(シフト制御)において、変速機制御ユニット100は、ステップ301(目標ギア位置演算)で設定された目標ギア位置tGP_nxtと、ステップ302(スタンバイギア位置演算)で設定された目標スタンバイ位置tGP_stbとに基づき、第1同期噛合い機構21、第2同期噛合い機構22、第3同期噛合い機構23の目標位置を設定し、各目標位置を実現するよう、第1シフトモータ73bへ印加する電圧V1_sft1、V2_sft1、第2シフトモータ74bへ印加する電圧V1_sft2、V2_sft2、第3シフトモータ75bへ印加する電圧V1_sft3、V2_sft3を調整する。その結果、第1同期噛合い機構21、第2同期噛合い機構22、第3同期噛合い機構23のそれぞれのストローク位置を示す、スリーブ1位置RPslv1、スリーブ2位置RPslv2、スリーブ3位置RPslv3がそれぞれ目標位置に追従する。
次に、図4を用いて、図3のステップ302(スタンバイギア位置演算)の詳細について説明する。
図4は、本発明の一実施形態による車両用自動変速機の制御装置のプリシフト制御におけるスタンバイギア位置演算処理の内容を示すフローチャートである。
ステップ401において、変速機制御ユニット100は、図3のステップ301(目標ギア位置演算)で設定された目標ギア位置tGP_nxtと、レンジ位置信号RngPosと、車速Vspとアクセルペダル踏み込み量Aps等の運転状態に基づいて次の変速段を予測し、スタンバイギア位置の候補値tGP_stb0を設定する。
ステップ402において、変速機制御ユニット100は、変速中か、またはレンジ位置信号RngPosがPレンジまたはRレンジまたはNレンジか否かの判定を行う。変速中である場合、またはレンジ位置信号RngPosがPレンジまたはRレンジまたはNレンジである場合はステップ409へ進み、目標スタンバイ位置tGP_stbにスタンバイ候補値tGP_stb0を代入するとともに、右折意思表示信号Rturn入力からの経過時間の計測タイマTr、左折意思表示信号Lturn入力からの経過時間の計測タイマTlをクリアする。変速中ではなく、かつレンジ位置信号RngPosがPレンジ、Rレンジ、Nレンジのいずれでもない場合、ステップ403へ進む。
ステップ403において、変速機制御ユニット100は、高回転域であるか否かの判定を行う。出力軸回転数Noに対して、図3のステップ301(目標ギア位置演算)で設定された目標ギア位置tGP_nxt相当のギア比Gnxtを乗算した値が閾値Nh以上であるか否かの判定を行う。Nh以上である場合は高回転域であるため、ステップ409へ進み、目標スタンバイ位置tGP_stbにスタンバイ候補値tGP_stb0を代入するとともに、右折意思表示信号Rturn入力からの経過時間の計測タイマTr、左折意思表示信号Lturn入力からの経過時間の計測タイマTlをクリアする。閾値Nh未満である場合はステップ404へ進む。ここで、閾値Nhは駆動力源であるエンジン7の許容最大回転数や変速機50の許容最大回転数に基づいて設定することが望ましく、閾値Nh以上となった場合にはダウンシフトすることは無い値を設定する。なお、閾値Nhはギア位置毎に個別に設定することが望ましい。また、ステップ403の判定には、閾値Nh以上の場合はYES、閾値Nl以下の場合はNO、それ以外は前回の判定に従うような、ヒステリシスを設ける構成としても良い。
ステップ404において、変速機制御ユニット100は、オートモードかマニュアルモードかの判定を行う。レンジ位置信号RngPosがDレンジ(自動変速モード)であるのか、またはMレンジ(手動変速モード)であるのかを判定する。自動変速モードの場合はステップ405へ進み、手動変速モードの場合はステップ407へ進む。
ステップ405において、変速機制御ユニット100は、右折意思表示信号Rturn入力からの経過時間Trの計算と、経過時間Trが所定範囲内にあるか否かの判定を行う。方向指示器の右折意思表示信号はON/OFFの点滅信号となっているため、ステップ405における経過時間Tr算出は、Tr=0の状態で、右折意思表示信号RturnがOFF→ONとなった時点から経過時間計測を開始し、Tr≧Tr_maxとなった時点でTr=0とする処理を行う。例えば右折意思表示信号Rturnが3回点滅する場合、最初のOFF→ON時点からの経過時間の計測を開始し、Tr≧Tr_maxとなった時点でTr=0とする。TrA1≦Tr≦TrA2である場合はステップ410へ進み、目標スタンバイ位置tGP_stbを目標ギア位置tGP_nxt−1、すなわち目標ギア位置tGP_nxtよりも1段ダウンシフト側に設定する。TrA1≦Tr≦TrA2ではない場合はステップ406へ進む。
ステップ406において、変速機制御ユニット100は、左折意思表示信号Lturn入力からの経過時間Tlの計算と、経過時間Tlが所定範囲内にあるか否かの判定を行う。右折意思表示信号Rturn同様、ステップ406における経過時間Tl算出は、Tl=0の状態で、左折意思表示信号LturnがOFF→ONとなった時点から経過時間計測を開始し、Tl≧Tl_maxとなった時点でTl=0とする処理を行う。TlA1≦Tl≦TlA2である場合はステップ410へ進み、目標スタンバイ位置tGP_stbを目標ギア位置tGP_nxt−1、すなわち目標ギア位置tGP_nxtよりも1段ダウンシフト側に設定する。TlA1≦Tl≦TlA2ではない場合はステップ411へ進み、目標スタンバイ位置tGP_stbにスタンバイ候補値tGP_stb0を代入する。
ステップ407において、変速機制御ユニット100は、ステップ405と同様に、右折意思表示信号Rturn入力からの経過時間Trの計算と、経過時間Trが所定範囲内にあるか否かの判定を行う。TrM1≦Tr≦TrM2である場合はステップ412へ進み、目標スタンバイ位置tGP_stbを目標ギア位置tGP_nxt−1、すなわち目標ギア位置tGP_nxtよりも1段ダウンシフト側に設定する。TrM1≦Tr≦TrM2ではない場合はステップ408へ進む。
ステップ408において、変速機制御ユニット100は、ステップ406と同様に、左折意思表示信号Lturn入力からの経過時間Tlの計算と、経過時間Tlが所定範囲内にあるか否かの判定を行う。TlM1≦Tl≦TlM2である場合はステップ412へ進み、目標スタンバイ位置tGP_stbを目標ギア位置tGP_nxt−1、すなわち目標ギア位置tGP_nxtよりも1段ダウンシフト側に設定する。TlM1≦Tl≦TlM2ではない場合はステップ413へ進み、目標スタンバイ位置tGP_stbにスタンバイ候補値tGP_stb0を代入する。
このように構成することで、運転者の方向指示器による操作の後、所定時間経過後に目標スタンバイ位置tGP_stbがダウンシフト側待機となる。すなわち、ダウンシフト側待機となるまで、所定のディレイ時間を設けている。このディレイ時間は、方向指示器の誤操作に基づいて、プリシフト制御が誤制御されるのを防止するためである。さらに、所定時間経過後まで変速が行われなかった場合はスタンバイ候補値tGP_stb0となる。
なお、オートモードかマニュアルモードか、すなわち、レンジ位置信号RngPosがDレンジ(自動変速モード)であるのか、またはMレンジ(手動変速モード)であるのかによって、変速の応答性要求が異なる場合が多いため、経過時間の判定値TrA1、TlA1と、TrM1、TlM1は別々の設定値とすることが望ましく、さらには、TrA1<TrM1、TlA1<TlM1と設定することが望ましい。
また、例えば高速の場合は追い越し加速、低速の場合は交差点の右左折など、走行している車速によって、方向指示器による操作の後の車両動作が異なる場合が多いため、経過時間の判定値TrA1、TrA2、TlA1、TlA2、TrM1、TrM2、TlM1、TlM2は、車速の関数として構成することが望ましい。例えば、高速で右折意思表示がなされる場合は、一般にレーン変更に伴う追い越しが想定される。また、低速で右折意思表示がなされる場合は、一般に、交差点等における右折が想定される。ここで、右折意思表示後にレーン変更するまでの時間は、右折意思表示後に右折する場合に比べて短時間である。そこで、高速時の判定値TrA1(H)を、低速時の判定値TrA1(L)に比べて小さく(TrA1(H)<TrA1(L))設定する。さらには、現在のギア位置毎に細分化して設定する構成としても良い。
また、日本は左側通行であるが、米国では右側通行など、国によって車両の通行方向が異なるため、例えば日本の場合は、車速が高速の場合は追い越し加速を想定してTrA1<TlA1、TrM1<TlM1とし、車速が低速の場合は左折を想定してTrA1>TlA1、TrM1>TlM1とする。また、米国など右側通行の場合は、車速が高速の場合は追い越し加速を想定してTrA1>TlA1、TrM1>TlM1とし、車速が低速の場合は左折を想定してTrA1<TlA1、TrM1<TlM1とする。このように、車速および右、左に応じて設定することが望ましい。
なお、図4に示した構成に加え、右折意思表示信号Rturnと、左折意思表示信号Lturnが同時に点滅する所謂ハザード信号の場合においても、運転者による操作の後、所定時間経過後に目標スタンバイ位置tGP_stbがダウンシフト側待機となり、さらに所定時間経過後まで変速が行われなかった場合はスタンバイ候補値tGP_stb0となるように構成しても良い。ここで、ハザード信号の識別については、右折意思表示信号Rturn、左折意思表示信号LturnのON/OFF信号をともに用いて識別する構成としても良いし、ハザード信号のボタンやスイッチ等の入力を変速機制御ユニット100に入力する構成としても良く、ハザード信号の操作を変速機制御ユニット100が識別するための他の機構を用いても構成可能である。ハザード信号のスイッチを入力する場合はスイッチのON継続時間によって判定する構成としても良い。ON/OFF信号をともに用いて識別する場合は、ステップ405に示した構成のようにOFF→ONとなった時点からの経過時間計測に加えて、ON信号が所定回数繰り返されたことをもって判定する方法が好適である。例えば、右折意思表示信号Rturn、左折意思表示信号Lturnがともに最初にOFF→ONとなった時点からの経過時間の計測を開始し、さらに3回目にONとなった時点でステップ410のように目標スタンバイ位置tGP_stbを目標ギア位置tGP_nxt−1、すなわち目標ギア位置tGP_nxtよりも1段ダウンシフト側に設定する、等の構成とする。
次に、図5を用いて、本実施形態による車両用自動変速機の制御装置のプリシフト制御の第1の制御例について説明する。
図5は、本発明の一実施形態による車両用自動変速機の制御装置のプリシフト制御の第1の制御例の制御内容を示すタイミングチャートである。
図5に示す第1の制御例は、Mレンジ(手動変速モード)の3速段で走行している状態で、右折意思表示信号Rturnが入力され、しかるのちに3速段から2速段へのダウンシフトが実行された場合である。
図5において、図5(A)は目標ギア位置tGP_nxt、図5(B)はスタンバイ候補値tGP_stb0、図5(C)は右折意思表示信号Rturnを示している。図5(D)は左折意思表示信号Lturn、図5(E)は目標スタンバイ位置tGP_stb、図5(F)は第3同期噛合い機構23の位置であるスリーブ3位置RPslv3を示している。
時刻t1以前は、定常走行状態であり、図5(A)の目標ギア位置tGP_nxtは3速で、図5(B)のスタンバイ候補値tGP_stb0、図5(E)の目標スタンバイ位置tGP_stbはともに4速であり、図5(F)に示すように、スリーブ3位置RPslv3は4速側に噛合い状態となっている。
時刻t1にて、運転者によって方向指示器107が操作され、図5(C)に示すように、右折意思表示信号RturnがOFFからONとなる。図4のステップ407にて右折意思表示信号Rturn入力からの経過時間Trが計算され、TrM1≦Trとなった時刻t2で図4のステップ407およびステップ412によって目標スタンバイ位置tGP_stb=目標ギア位置tGP_nxt−1、すなわち目標ギア位置tGP_nxtよりも1段ダウンシフト側に設定され、図5(E)に示すように、4速から2速となる。図3のステップ303によって第3シフトモータ75bへ印加する電圧V1_sft3、V2_sft3が調整され、図5(F)に示すように、スリーブ3位置RPslv3が4速側から2速側へと移動し、時刻t3でスリーブ3位置RPslv3が2速側に噛合った状態となる。
時刻t4にて、運転者によってレバー装置106のダウンスイッチが操作され、図3のステップ301(目標ギア位置演算)にて、図5(A)に示すように、目標変速段が3速から2速へと切り替わる。
時刻t4時点では、スリーブ3位置RPslv3が2速側に噛合った状態であるため、時刻t4以降の変速動作は、3速段を形成していた第2クラッチ9を解放しながら、2速段を形成するために第1クラッチ8を締結する動作となり、変速動作を開始した時刻t4から変速が完了するまでの応答性を向上させることができる。
次に、図6を用いて、本実施形態による車両用自動変速機の制御装置のプリシフト制御の第2の制御例について説明する。
図6は、本発明の一実施形態による車両用自動変速機の制御装置のプリシフト制御の第2の制御例の制御内容を示すタイミングチャートである。なお、図6(A)〜(F)は、図5(A)〜(F)と同様である。
図6に示す第2の制御例は、Mレンジ(手動変速モード)の3速段で走行している状態で、左折意思表示信号Lturnが入力され、しかるのちに3速段から2速段へのダウンシフトが実行された場合である。
時刻t1以前は、定常走行状態であり、図6(A)の目標ギア位置tGP_nxtは3速で、図6(B)のスタンバイ候補値tGP_stb0、図6(E)の目標スタンバイ位置tGP_stbはともに4速であり、図6(F)に示すように、スリーブ3位置RPslv3は4速側に噛合い状態となっている。
時刻t1にて、運転者によって方向指示器107が操作され、図6(D)に示すように、左折意思表示信号LturnがOFFからONとなる。図4のステップ408にて左折意思表示信号Lturn入力からの経過時間Tlが計算され、TlM1≦Tlとなった時刻t2で図4のステップ408およびステップ412によって目標スタンバイ位置tGP_stb=目標ギア位置tGP_nxt−1、すなわち目標ギア位置tGP_nxtよりも1段ダウンシフト側に設定され、図6(E)に示すように、4速から2速となる。図3のステップ303によって第3シフトモータ75bへ印加する電圧V1_sft3、V2_sft3が調整され、図6(F)に示すように、スリーブ3位置RPslv3が4速側から2速側へと移動し、時刻t3でスリーブ3位置RPslv3が2速側に噛合った状態となる。
時刻t4にて運転者によってレバー装置106のダウンスイッチが操作され、図3のステップ301(目標ギア位置演算)にて、図6(A)に示すように、目標変速段が3速から2速へと切り替わる。
時刻t4時点では、スリーブ3位置RPslv3が2速側に噛合った状態であるため、時刻t4以降の変速動作は、3速段を形成していた第2クラッチ9を解放しながら、2速段を形成するために第1クラッチ8を締結する動作となり、変速動作を開始した時刻t4から変速が完了するまでの応答性を向上させることができる。
次に、図7を用いて、本実施形態による車両用自動変速機の制御装置のプリシフト制御の第3の制御例について説明する。
図7は、本発明の一実施形態による車両用自動変速機の制御装置のプリシフト制御の第3の制御例の制御内容を示すタイミングチャートである。なお、図7(A)〜(F)は、図5(A)〜(F)と同様である。
図7に示す第3の制御例は、Dレンジ(自動変速モード)の5速段で走行している状態で、右折意思表示信号Rturnが入力され、しかるのちに5速段から4速段へのダウンシフトが実行された場合である。
時刻t1以前は、定常走行状態であり、図7(A)の目標ギア位置tGP_nxtは5速で、図7(B)のスタンバイ候補値tGP_stb0、図7(E)の目標スタンバイ位置tGP_stbはともにN(中立)であり、図7(F)に示すように、スリーブ3位置RPslv3は中立位置となっている。
時刻t1にて、運転者によって方向指示器107が操作され、図7(C)に示すように、右折意思表示信号RturnがOFFからONとなる。図4のステップ405にて右折意思表示信号Rturn入力からの経過時間Trが計算され、TrA1≦Trとなった時刻t2で図4のステップ405およびステップ410によって目標スタンバイ位置tGP_stb=目標ギア位置tGP_nxt−1、すなわち目標ギア位置tGP_nxtよりも1段ダウンシフト側に設定され、図7(E)に示すように、N(中立)から4速となる。図3のステップ303によって第3シフトモータ75bへ印加する電圧V1_sft3、V2_sft3が調整され、図7(F)に示すように、スリーブ3位置RPslv3が中立位置から4速側へと移動し、時刻t3でスリーブ3位置RPslv3が4速側に噛合った状態となる。
時刻t4にて、例えば追い越し加速等のために、運転者によってアクセルペダルが踏み込まれ、アクセルペダル踏み込み量Apsが大きくなることで、図3のステップ301(目標ギア位置演算)にて、図7(A)に示すように、目標変速段が5速から4速へと切り替わる。
時刻t4時点では、スリーブ3位置RPslv3が4速側に噛合った状態であるため、時刻t4以降の変速動作は、5速段を形成していた第2クラッチ9を解放しながら、4速段を形成するために第1クラッチ8を締結する動作となり、変速動作を開始した時刻t4から変速が完了するまでの応答性を向上させることができる。
次に、図8を用いて、本実施形態による車両用自動変速機の制御装置のプリシフト制御の第4の制御例について説明する。
図8は、本発明の一実施形態による車両用自動変速機の制御装置のプリシフト制御の第4の制御例の制御内容を示すタイミングチャートである。なお、図8(A)〜(F)は、図5(A)〜(F)と同様である。
図8に示す第4の制御例は、Dレンジ(自動変速モード)の5速段で走行している状態で、右折意思表示信号Rturnが入力されたが、その後に変速動作が開始されなかった場合である。
時刻t1以前は、定常走行状態であり、図8(A)の目標ギア位置tGP_nxtは5速で、図8(B)のスタンバイ候補値tGP_stb0、図8(E)の目標スタンバイ位置tGP_stbはともにN(中立)であり、図8(F)に示すように、スリーブ3位置RPslv3は中立位置となっている。
時刻t1にて、運転者によって方向指示器107が操作され、図8(C)に示すように、右折意思表示信号RturnがOFFからONとなる。図4のステップ405にて右折意思表示信号Rturn入力からの経過時間Trが計算され、TrA1≦Trとなった時刻t2で図4のステップ405およびステップ410によって目標スタンバイ位置tGP_stb=目標ギア位置tGP_nxt−1、すなわち目標ギア位置tGP_nxtよりも1段ダウンシフト側に設定され、図8(E)に示すように、N(中立)から4速となる。図3のステップ303によって第3シフトモータ75bへ印加する電圧V1_sft3、V2_sft3が調整され、図8(F)に示すように、スリーブ3位置RPslv3が中立位置から4速側へと移動し、時刻t3でスリーブ3位置RPslv3が4速側に噛合った状態となる。
時刻t3以降、変速動作が開始されず、図4のステップ405にて右折意思表示信号Rturn入力からの経過時間TrがTrA2よりも大きくなった時刻t4で、図4のステップ411によって目標スタンバイ位置tGP_stb=スタンバイ候補値tGP_stb0と設定され、図8(E)に示すように、4速からN(中立)となる。図3のステップ303によって第3シフトモータ75bへ印加する電圧V1_sft3、V2_sft3が調整され、図8(F)に示すように、スリーブ3位置RPslv3が4速側から中立位置へと移動し、時刻t5でスリーブ3位置RPslv3が中立位置となる。
次に、図9を用いて、本実施形態による車両用自動変速機の制御装置のプリシフト制御の第5の制御例について説明する。
図9は、本発明の一実施形態による車両用自動変速機の制御装置のプリシフト制御の第5の制御例の制御内容を示すタイミングチャートである。なお、図9(A)〜(F)は、図5(A)〜(F)と同様である。
図9に示す第5の制御例は、右折意思表示信号Rturnと、左折意思表示信号Lturnが同時に点滅する所謂ハザード信号の場合においても、運転者による操作の後、所定時間経過後に目標スタンバイ位置tGP_stbがダウンシフト側待機となるように構成したときの、プリシフト制御の制御例である。この例は、Mレンジ(手動変速モード)の5速段で走行している状態で、ハザード信号が入力され、しかるのちに5速段から4速段へのダウンシフトが実行された場合である。
時刻t1以前は、定常走行状態であり、図9(A)の目標ギア位置tGP_nxtは5速で、図9(B)のスタンバイ候補値tGP_stb0、図9(E)の目標スタンバイ位置tGP_stbはともにN(中立)であり、図9(F)に示すように、スリーブ3位置RPslv3は中立位置となっている。
時刻t1にて、運転者によってハザード信号が操作され、図9(C)の右折意思表示信号Rturnおよび図9(D)の左折意思表示信号LturnがともにOFFからONとなる。右折意思表示信号Rturn、左折意思表示信号Lturnが共に入力されてからの経過時間を計算し、経過時間が設定閾値を超え、さらに、右折意思表示信号Rturn、左折意思表示信号Lturnが共に3回目にOFFからONとなった時刻t2で目標スタンバイ位置tGP_stb=目標ギア位置tGP_nxt−1、すなわち目標ギア位置tGP_nxtよりも1段ダウンシフト側に設定され、図9(E)に示すように、N(中立)から4速となる。図3のステップ303によって第3シフトモータ75bへ印加する電圧V1_sft3、V2_sft3が調整され、図9(F)に示すように、スリーブ3位置RPslv3が中立位置から4速側へと移動し、時刻t3でスリーブ3位置RPslv3が4速側に噛合った状態となる。
時刻t4にて運転者によってレバー装置106のダウンスイッチが操作され、図3のステップ301(目標ギア位置演算)にて,図9(A)に示すように、目標変速段が5速から4速へと切り替わる。
時刻t4時点では、スリーブ3位置RPslv3が4速側に噛合った状態であるため、時刻t4以降の変速動作は、5速段を形成していた第2クラッチ9を解放しながら、4速段を形成するために第1クラッチ8を締結する動作となり、変速動作を開始した時刻t4から変速が完了するまでの応答性を向上させることができる。
次に、図10を用いて、本実施形態による車両用自動変速機および制御装置の第2の構成例について説明する。
図10は、本発明の一実施形態に係る車両用自動変速機および制御装置の構成を示すシステム構成例のスケルトン図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
本構成例において、図1に示した構成例と異なる点は、図1の例ではエンジン7のトルクを伝達する、第1クラッチ8、第1クラッチ9を乾式単板クラッチで構成しているのに対し、本例では湿式多板クラッチで構成している点である。
自動変速機51には、摩擦伝達機構である第1クラッチ1008、第2クラッチ1009が設けられており、第1クラッチ98を係合、解放することで、エンジン7のトルクを第1入力軸41に伝達、遮断することが可能である。また、第2クラッチ99を係合、解放することで、エンジン7のトルクを第2入力軸42に伝達、遮断することが可能である。
変速機制御ユニット100によって、油圧機構105に設けられた電磁弁105aの電流を制御することで、第1クラッチ1008内に設けられたプレッシャプレート(図示しない)を制御し、第1クラッチ1008の伝達トルクの制御を行っている。
また、変速機制御ユニット100によって、油圧機構105に設けられた電磁弁105bの電流を制御することで、第2クラッチ1009内に設けられたプレッシャプレート(図示しない)を制御し、第2クラッチ1009の伝達トルクの制御を行っている。
また、変速機制御ユニット100によって、油圧機構105に設けられた電磁弁105c、電磁弁105dの電流を制御することで、シフトアクチュエータ61内に設けられた油圧ピストン(図示しない)およびシフトフォーク(図示しない)を介して第1同期噛合い機構21の位置もしくは荷重を制御し、第1ドリブンギア11、または第3ドリブンギア13と係合させることで、第2入力軸42の回転トルクを、第1同期噛合い機構21を介して出力軸43へと伝達することができる。ここでは、電磁弁105dの電流を増加することで、第1同期噛合い機構21が第1ドリブンギア11側へ移動する方向へ荷重が加わり、電磁弁105cの電流を増加することで、第1同期噛合い機構21が第3ドリブンギア13側へ移動する方向へ荷重が加わるように構成している。なお、シフトアクチュエータ61には第1同期噛合い機構21の位置を計測する位置センサ(図示しない)が設けられている。
また、変速機制御ユニット100によって、油圧機構105に設けられた電磁弁105e、電磁弁105fの電流を制御することで、シフトアクチュエータ62内に設けられた油圧ピストン(図示しない)およびシフトフォーク(図示しない)を介して第2同期噛合い機構22の位置もしくは荷重を制御し、第5ドリブンギア15と係合させることで、第2入力軸42の回転トルクを、第2同期噛合い機構22を介して出力軸43へと伝達することができる。なお、シフトアクチュエータ62には第2同期噛合い機構22の位置を計測する位置センサ62a(図示しない)が設けられている。
また、変速機制御ユニット100によって、油圧機構105に設けられた電磁弁105g、電磁弁105hの電流を制御することで、シフトアクチュエータ63内に設けられた油圧ピストン(図示しない)およびシフトフォーク(図示しない)を介して第3同期噛合い機構23の位置もしくは荷重を制御し、第2ドリブンギア12、または第4ドリブンギア14と係合させることで、第1入力軸41の回転トルクを、第3同期噛合い機構23を介して出力軸43へと伝達することができる。なお、シフトアクチュエータ63には第3同期噛合い機構23の位置を計測する位置センサ(図示しない)が設けられている。
このように第1ドライブギア1、第2ドライブギア2、第3ドライブギア3、第4ドライブギア4、第5ドライブギア5から、第1ドリブンギア11、第2ドリブンギア12、第3ドリブンギア13、第4ドリブンギア14、第5ドリブンギア15を介して変速機出力軸43に伝達された変速機入力軸41の回転トルクは、変速機出力軸43に連結されたディファレンシャルギア(図示しない)を介して車軸(図示しない)に伝えられる。
このように、第1クラッチ、第2クラッチ、第1同期噛合い機構21、第2同期噛合い機構22、第3同期噛合い機構23を制御するための他の機構を用いても構成可能である。
以上説明したように、本実施形態によれば、次の変速段の予測結果に基づくプリシフト制御に加え、方向指示器の操作がなされた場合には、その後の変速開始前に予め所望のギアに待機させることができ、変速動作を開始してから変速が完了するまでの時間を短縮でき、変速の応答性を向上させることができる。