以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本願発明に係る回転検出装置を適用する車両の動力伝達装置を示す。
図1に示す車両1は、車体前部に動力源としてのエンジン(内燃機関)2を縦置きに配置し、プロペラシャフト3を介して左右の後輪4を回転させるフロントエンジン・リアドライブ方式(FR方式)の車両である。
エンジン2の出力軸に、トルクコンバータ(伝達機構)5を介して自動変速機(変速機構)6が接続され、変速機6の出力軸6aにプロペラシャフト3を連結してある。
そして、プロペラシャフト3の回転は、ディファレンシャル(ファイナルドライブ、分配機構)7及び左右のドライブシャフト8を介し、左右の後輪(駆動輪)4に伝達する。
上記トルクコンバータ5、自動変速機6、プロペラシャフト3、ディファレンシャル7、ドライブシャフト8が、エンジン2の動力伝達装置を構成し、変速機6の出力軸6a、プロペラシャフト3及びドライブシャフト8は、車両1の前進・後退で回転方向が切り替わる回転軸である。
また、自動変速機6の出力軸6aにパーキングギヤ9を設けてあり、また、車両1の運転者がシフト位置の選択操作を行うセレクトレバー10を設けてある。そして、セレクトレバー10をPレンジの位置に動かすと、セレクトレバー10に連動する図外のパーキングポールがパーキングギヤ9に噛み合うことで、自動変速機6の出力軸6aの回転を機械的に固定するようになっている。
自動変速機6は、油圧駆動の歯車式有段変速機であり、オイルポンプ11が圧送するオイルによって動作し、オイルポンプ11は、トルクコンバータ5と変速機6との間の回転軸12によって駆動される。
また、パーキングギヤ9の歯を検知してパルス信号を出力することで、変速機6の出力軸6aの回転を検出する回転センサ(回転検出手段)21を設けてある。
回転センサ21は、波形発生回路、選択回路などを含む各種の処理回路を、パーキングギヤ9の歯を検知するピックアップと共に備えており、回転センサ21が出力する回転信号PGRは、図2に示すように、通常ローレベルで、パーキングギヤ9の歯を検知したときにハイレベルに変化するパルス信号として出力される。
即ち、前記回転信号PGRは、出力軸6aの所定角度位置毎に発生するパルス列からなり、パルス周波数(周期)は出力軸6aの回転速度(車速VSP)を示す。
更に、変速機6の出力軸6a(回転軸)の正転・逆転を判別できるように、回転センサ11が、出力軸6aの正転時と逆転時とでパルス幅の異なる回転信号PGRを出力するようにしてある。
尚、本実施形態において、出力軸6aの正転とは、車両1を前進させる回転方向であり、出力軸6aの逆転とは、車両1を後退させる回転方向である。
回転軸の回転方向によってパルス幅の異なるパルス信号を発生させる回転センサの構成としては、例えば特開2001−165951号公報に開示される構成を用いる。
具体的には、パーキングギヤ9の歯(被検出部)の検出パルス信号として、相互に位相がずれた2つの信号を発生させ、これらの信号を比較することで正転・逆転を判定し、異なるパルス幅に生成した2つのパルス信号のいずれか一方を、正転・逆転の判定結果に基づいて選択して出力させるようにする。
マイクロプロセッサを内蔵する制御ユニット22は、回転センサ21が出力する回転信号PGRを入力し、回転信号PGRの立ち上がり周期や一定時間内における回転信号PGRの立ち上がり回数を計測することで、出力軸6aの回転速度(車速VSP相当値)を算出する。
更に、制御ユニット22は、回転信号PGRのパルス幅WPGR(ハイレベル期間)を計測し、計測したパルス幅WPGRと、正転・逆転の判定閾値である閾値SLとを比較することで、正転時のパルス幅WPGRであるか、逆転時のパルス幅WPGRであるかを判断し、変速機6の出力軸6aが正転しているか逆転しているか、換言すれば、車両1の前進・後退を判別する。
尚、本実施形態では、図2に示すように、正転時のパルス幅WPGRを45μsに設定し、逆転時のパルス幅WPGRを90μsに設定してある。
但し、パルス幅WPGRの設定値を上記の45μs,90μsに限定するものではない。また、正転時(前進時)の方が逆転時(後退時)よりもパルス幅WPGRが大きくなるように設定してもよい。
更に、図2に示した例では、回転信号PGRを、通常ローレベルでパーキングギヤ9を検知したときに一定時間だけハイレベルに変化するパルス信号としたが、通常ハイレベルでギヤ9を検知したときに一定時間だけローレベルに変化するパルス信号であってもよく、この場合、ローレベル期間が回転方向で異なるように設定し、ローレベル期間の長さをパルス幅WPGRとして計測して、該計測値と閾値SLとを比較して回転方向を判別する構成とすることができる。
正転・逆転の判別に用いる閾値SLは、正転時のパルス幅WPGRと逆転時のパルス幅WPGRとの中間値に設定され、例えば、正転時のパルス幅WPGRの設定値である45μsに余裕分として10μsを加算した値を、閾値SLの初期値とする。
そして、制御ユニット22は、計測したパルス幅WPGRが前記閾値SL以上であれば、出力軸6aの逆転状態(車両1の後退状態)であると判断し、計測したパルス幅WPGRが前記閾値SL未満であれば、出力軸6aの正転状態(車両1の前進状態)であると判断する。
制御ユニット22は、回転センサ21の回転信号PGRの他、セレクトレバー10によるシフト位置(例えば、P,R,N,Dポジション)を検出するレンジスイッチ23(シフト位置検出手段)のオン/オフ信号、アクセル開度センサ24が出力するアクセル開度信号(アクセル操作量信号)ACC、車両1の運転者がフットブレーキを操作したときにオンになるブレーキスイッチ25のオン/オフ信号、勾配センサ26が出力する路面勾配信号(車両傾斜角信号)θ、エンジン負荷センサ27が出力するエンジン2の負荷信号TPなどを入力する。
また、制御ユニット22は、予め定められたニュートラル制御条件が成立する場合に、自動変速機6をニュートラル状態(係合要素の解放又はスリップ状態)に制御して、動力伝達経路を開放状態とするニュートラル制御を実行する。
制御ユニット22は、例えば、車速が0km/h若しくは略0km/hである車両の停止状態であり、かつ、アクセル開度ACCが全閉(0%)であり、かつ、変速機6のシフト位置が前進走行レンジであるDポジション(Dレンジ)であり、かつ、ブレーキスイッチ25がオンであるフットブレーキの操作状態である場合に、ニュートラル制御条件の成立を判断する。
また、制御ユニット22は、前述のニュートラル制御条件が成立する場合であっても、勾配センサ26の出力から検出した路面勾配(車両の傾斜角)が略水平(略平坦)でなく、登り坂又は下り坂である場合にニュートラル制御を禁止し、また、車両1の後退を検知した場合にもニュートラル制御を禁止する。
ところで、図1に示した車両1は、フロントエンジン・リアドライブ方式(FR方式)の車両であるが、フロントエンジン・フロントドライブ方式(FF方式)の車両であっても良く、更に、自動変速機6を歯車式有段変速機に限定するものではなく、無段変速機であって良い。
図3は、動力伝達装置として無段変速機を備えたFF方式の車両1の動力伝達装置を示す。尚、図3において、図1と同一要素には同一符号を付してある。
図3に示したFF方式の車両1においては、エンジン(内燃機関)2を横置きに車体前部に配置し、このエンジン2の出力軸に、トルクコンバータ(伝達機構)5及び遊星歯車(プラネタリギヤ)式の前後進切換機構13を介して、自動変速機(変速機構)6を接続してある。
図3に示す自動変速機6は、スチールベルト6bと、プライマリプーリ6c及びセカンダリプーリ6dとの組み合わせによる無段変速機(CVT)であり、オイルポンプ11が圧送するオイルによって動作する。
オイルポンプ11は、トルクコンバータ5と前後進切換機構13との間の回転軸12によって駆動される
そして、変速機6の出力軸6aの回転は、ディファレンシャル(ファイナルドライブ,分配機構)7及び左右のドライブシャフト8を介し、左右の前輪(駆動輪)14に伝達される。
上記トルクコンバータ5、前後進切換機構13,変速機6、ディファレンシャル7、ドライブシャフト8が、エンジン2の動力伝達装置を構成し、前後進切換機構13の出力軸以降の回転軸は、車両1の前進・後退で回転方向が切り替わる回転軸である。
変速機6の出力軸6aの回転を検出する回転センサ21を、セカンダリプーリ6dの回転を検出するセンサとして設けてある。
尚、車両の動力源は、エンジン(内燃機関)2に限定されず、例えばモータと変速機とを組み合わせた動力伝達装置であっても良く、また、動力源としてエンジン(内燃機関)とモータとを備えるハイブリッド車両であってもよい。更に、駆動方式は、前記FR方式,FF方式の他、全輪駆動方式であっても良い。
回転センサ21は、図1に示したものと同様に、パーキングギヤ9の歯を検出することで、パルス信号である回転信号PGRを出力するセンサであり、出力軸6aの正転・逆転でパルス幅WPGRの異なる回転信号PGRを出力する。
制御ユニット22は、回転センサ21の回転信号PGRの他、セレクトレバー10によるシフト位置(例えば、P,R,N,Dポジション)を検出するレンジスイッチ23のオン/オフ信号、アクセル開度センサ24が出力するアクセル開度信号(アクセル操作量信号)ACC、車両1の運転者がフットブレーキを操作したときにオンになるブレーキスイッチ25のオン/オフ信号、勾配センサ26が出力する路面勾配信号θ、エンジン負荷センサ27が出力するエンジン2の負荷信号TPなどを入力し、前述のように、出力軸6aの回転速度の検出、出力軸6aの正転・逆転の判別、更に、ニュートラル制御を実行する。
前述のように、制御ユニット22では、回転センサ21の回転信号PGRに基づく、出力軸6aの正転・逆転の判定結果を、ニュートラル制御の禁止処理などに用いるが、回転センサ21のばらつきや、回転信号PGRを入力処理する制御ユニット22の回路ばらつきなどによって、正転・逆転の判断に用いるパルス幅WPGRの計測データにばらつきが生じ、パルス幅WPGRと閾値SLとの比較に基づく正転・逆転の判定精度が低下する。
そこで、図1又は図3に示す制御ユニット22は、計測したパルス幅WPGRに基づいて閾値SLの記憶値を更新し、更新した閾値SLを用いて正転・逆転の判定を行う、閾値SLの学習を行う。
以下では、制御ユニット22による閾値SLを用いた正転・逆転の判定処理及び閾値SLの学習処理を、図4〜図6のフローチャートに従って詳細に説明する。
図4のフローチャートは、制御ユニット22において、回転信号PGRの発生毎に割り込み実行されるルーチンを示す。
ステップS101では、回転信号PGRの立ち上がりから立ち下がりまでの時間を、パルス幅WPGRとして計測する。
次のステップS102では、ステップS101で計測したパルス幅WPGRと閾値SLとを比較する。そして、パルス幅WPGRが閾値SL未満であれば、出力軸6aが正転している車両1の前進状態であると判定し、ステップS103へ進み、フラグfHANTENに0を設定する。
一方、ステップS102でパルス幅WPGRが閾値SL以上であると判断した場合には、出力軸6aが逆転している車両1の後退状態であると判定し、ステップS104へ進み、フラグfHANTENに1を設定する。
即ち、フラグfHANTENに1が設定されている状態は、出力軸6aの逆転状態(車両1の後退状態)であることを示し、フラグfHANTENに0が設定されている状態は、出力軸6aの正転状態(車両1の前進状態)であることを示す。
尚、車両lが前進状態から停止した場合には、フラグfHANTENは0を保持し、後退状態から停止した場合には、フラグfHANTENは1を保持することになる。
従って、ステップS101〜ステップS104の機能が、正転・逆転判定手段に相当する。
ステップS105では、回転信号PGRの発生毎に行う、正転・逆転判定以外の割り込み処理を実行する。係る割り込み処理には、出力軸6aの回転速度(車速)の検出などが含まれる。
一方、図5のフローチャートは、制御ユニット22において、一定時間(例えば10ms)毎に割り込み実行されるルーチンを示す。
このルーチンで行われる処理は、出力軸6aの正転条件(車両1の前進条件)が成立している状態で計測した回転信号PGRのパルス幅WPGRに基づいて閾値SLを更新させる、閾値SLの学習処理である。
まず、ステップS201〜ステップS204では、変速機6の出力軸6aが正転し、車両1が前進する条件を、閾値SLの学習条件として判断する。
ステップS201では、レンジスイッチ23のオン/オフ信号から検出した、変速機6のシフト位置が前進走行レンジであるDポジション(Dレンジ)であるか否かを判断し、シフト位置が前進走行レンジであるDポジションであれば、ステップS202へ進む。
尚、ステップS201では、シフト位置が前進走行レンジであるか否かを判断すればよく、Dポジション以外の1速、2速ポジションなどの前進走行レンジである場合にも、ステップS202へ進む構成とすることができ、更に、手動で任意の変速段を選択できるマニュアルモードを備えた自動変速機6では、マニュアルモードの選択状態を前進走行レンジの選択状態として検出することができる。但し、運転者のセレクトレバー10によるDポジションの選択状態であっても、ニュートラル制御中である場合は、前進走行レンジの選択状態ではないと判断する。
ステップS202では、勾配センサ26が検出した路面勾配θが、設定勾配θSよりも小さいか否かを判断する。
ステップS202の判断は、車両1の走行路が登り勾配でないことを判断するものであり、前記設定勾配θSは、正の勾配(登り勾配)であって、略平坦であると見なすことができる程度の小さな勾配とすることが好ましく、例えば1%程度とする。
従って、路面勾配θが、設定勾配θSよりも小さい場合には、車両1の走行路が平坦路若しくは下り坂であると判定できる。
シフト位置が前進走行レンジであるDポジションであって、かつ、車両1の走行路が平坦路若しくは下り坂であれば、エンジン2がたとえアイドル状態であっても、車両1が後退する(出力軸6aが逆転する)可能性は低いと判断できる。
ステップS202で、勾配センサ26が検出した路面勾配θが、設定勾配θSよりも小さく、少なくとも登り坂ではない(平坦路又は下り坂である)と判断すると、ステップS203へ進む。
ステップS203では、エンジン負荷TPが設定値TPS以上に上昇しているか否かを判断する。エンジン負荷は、内燃機関の場合、燃料噴射量や吸入空気量や吸気圧に基づいて判断することができ、前記設定値TPSは、少なくとも平坦路で車両1を前進させるだけの駆動力を発生する値に設定する。
ステップS203での判定前に、シフト位置が前進走行レンジであるDポジションであって、かつ、車両1の走行路が平坦路若しくは下り坂であると判断しているので、これらの条件に加えてエンジン負荷の上昇、換言すれば、駆動力の増大を判断した場合、車両1が前進している確度がより高くなる。
エンジン負荷TPが設定値TPS以上であれば、ステップS204へ進み、そのときの車速VSPが設定速度VSPS以上に上昇しているか否かを判断する。
車速VSPは、回転センサ21の回転信号PGRに基づいて演算され、設定速度VSPSは、安定した前進走行状態となって初めて超える速度に設定することが好ましく、例えば20km/h程度とする。
ステップS204で車速VSPが設定速度VSPS以上であると判断すると、閾値SLの学習条件の成立を判断し、ステップS205へ進む。
即ち、前進走行レンジ(Dポジション)の選択状態であって、かつ、路面が登り勾配でなく、エンジン負荷TPが設定値TPS以上であって、かつ、車速VSPが設定速度VSPS以上である場合には、変速機6の出力軸6aが正転して車両1が前進しているものと推定し、学習条件の成立を判定する。
一方、ステップS201〜ステップS204のうちの少なくとも1つでNOの判定を行うと、変速機6の出力軸6aが逆転している可能性があるものと推定して、学習条件の非成立を判定し、閾値SLの更新学習は行わない。
前記ステップS201〜ステップS204の処理が、出力軸6aが正転側に回転する条件を判定する手段、即ち、回転軸が一方側に回転する条件を判定する回転条件判定手段としての機能に相当する。
ステップS201〜ステップS204で判定させた各条件のうち、前進走行レンジ(Dポジション)の選択状態であることは必須条件とすることが好ましいが、他の学習条件を上記の条件に限定するものではなく、例えば、前進走行レンジ(Dポジション)の選択状態であって、登り勾配でない、エンジン負荷TPが設定値TPS以上、車速VSPが設定速度VSPS以上の3条件のうちの少なくとも1つが成立する場合に、学習条件の成立を判定することができる。
また、上記の条件と共に、又は、上記3条件のうちの少なくとも1つと入れ替えて、別の条件を判定させることができ、例えば、車両の積載重量やアクセル開度ACCや変速機のギヤ比(変速段)やトルクコンバータ5のロックアップ状態などの条件のうちの少なくとも1つを判定させることができる。
車両1の積載重量が多い場合には、僅かの登り坂でも車両1が後退してしまう可能性があるため、積載重量が少ないことを学習条件とすることが好ましく、また、前進走行レンジの選択状態でのアクセル開度ACCから運転者の前進意図を判断できるため、アクセルペダルを所定以上に踏み込んでいる状態を学習条件とすることが好ましい。
尚、車両1の積載重量が多いほど、前記勾配θの設定勾配θSをより0%(平坦路)に近い値に設定することができる。
また、変速機のギヤ比(変速段)は、一般的にエンジン負荷(アクセル開度)や車速などから決定するため、ギヤ比(変速段)を高速側にシフトさせている状態を学習条件とすることで、エンジン負荷(アクセル開度)及び車速の条件を満たしているか否かを簡易に判断でき、また、トルクコンバータ5のロックアップ状態は、エンジン2と変速機6とが機械的に直結される状態であるから、シフト位置に見合う前進状態であると推定できる。
ステップS201〜ステップS204のうちの少なくとも1つで「NO」の判定を行い、学習条件が成立していない場合、即ち、出力軸6aが逆転して車両1が後退している可能性がある場合には、ステップS205へ進む。
ステップS205では、カウンタCNTNEを0にリセットすると共に、パルス幅WPGRの平均値AVWPGRを初期値にリセットする。
前記初期値は、出力軸6aの正転時(車両1の前進時)におけるパルス幅WPGRの設計値(設計値=45μs)とする。
一方、ステップS201〜ステップS204の全ての条件を満足していて、出力軸6aが正転する条件が成立し、車両1が前進しているものと推定できる場合には、ステップS206へ進む。
ステップS206では、カウンタCNTNEを、前回値よりも1だけ増大させた値に更新する。
カウンタCNTNEは、ステップS201〜ステップS204の全ての条件が成立してからの本ルーチンの実行回数を示すことになり、後述するように、カウンタCNTNEが判定値に達するまでは、平均値AVWPGRの更新演算を繰り返し、判定値に達した時点の平均値AVWPGRに基づき、閾値SLを更新するようになっている。
次のステップS207では、最近に計測したパルス幅WPGRと、本ルーチンの前回実行時の演算した平均値AVWPGRとを加重平均し、この加重平均値を、今回の平均値AVWPGRとする。
尚、パルス幅WPGRの平滑化処理(移動平均処理)を、前述の加重平均演算に限定するものではなく、単純平均演算などであっても良い。また、加重平均演算に用いる係数を、数1に示した値に限定するものではない。
ステップS208では、カウンタCNTNEが判定値以上になっているか否かを判断する。
前記判定値は例えば100であり、正転時の回転信号PGRのパルス幅WPGRの平均値を求めるのに充分なサンプル数が確保できるように予め設定してある。
ステップS208で、カウンタCNTNEが判定値未満であると判断すると、平均値AVWPGRの信頼性が不十分であると判断し、閾値SLを更新させることなく、ステップS211へ進む。
一方、ステップS208で、カウンタCNTNEが判定値以上になっていると判断した場合には、平均値AVWPGRの信頼性が十分であると判断し、ステップS209へ進む。
ステップS209では、今回ステップS207で求めた平均値AVWPGRに、予め記憶されている余裕分MAを加算し、該加算結果を、図4のフローチャートの102で正転・逆転(前進・後退)の判定に用いる閾値SLに設定し、この新たな閾値SLをそれまでの記憶値に代えて更新記憶する。
正転時(前進時)のパルス幅WPGRを45μsに設定し、逆転時(後退時)のパルス幅WIPGRを90μsに設定する本実施形態の場合、前記余裕分MAは、例えば10μs程度に設定する。
即ち、パルス幅WPGRが、正転時(前進時)の平均値AVWPGRに余裕分MAを加算した時間以上になったときに、変速機6の出力軸6aの逆転、即ち、車両1の後退を判定する。
前記余裕分MAは、正転時(前進時)の標準パルス幅WPGRと逆転時の標準パルス幅WPGRとの差や、パルス幅WPGRのばらつき幅などを加味して予め適合して記憶させておく。
但し、正転時のパルス幅WPGRが標準値(設計値)に対して短くなったか長くなったかによって、余裕分MAを変更したり、閾値SLに基づいて逆転時のものであると判断したパルス幅WPGRに基づいて、余裕分MAや閾値SLを修正したりすることができる。
例えば、正転条件で求めたパルス幅WPGRを基準に更新した閾値SLよりも大きく、逆転時のパルスであると判別したときのパルス幅WPGRが、前記更新した閾値SLに近すぎる場合には、余裕分MAを初期値よりも小さくする修正を行ったり、直接閾値SLを減少補正したりして、正転時のパルス幅WPGRと逆転時のパルス幅WPGRとの双方から十分な差のある閾値SLを設定することができる。
尚、正転時のパルス幅WPGRが、逆転時のパルス幅WPGRよりも長くなるように設定した場合は、前記平均値AVWPGRから余裕分MAを減算した結果を、閾値SLとする学習を行えばよい。
前記ステップS206〜ステップS209の処理が、閾値設定手段としての機能に相当する。
ステップS209で閾値SLを更新すると、次のステップS210(診断手段)では、更新した閾値SLが最大値SLmax以上、又は、最小値SLmin以下であるかを判断する。
正転時のパルス幅WPGRを45μsに設定し、逆転時のパルス幅WPGRを90μsに設定する本実施形態の場合、閾値SLの最大値SLmaxを例えば140μsに設定し、閾値SLの最小値SLminを例えば40μsに設定する。
前記最大値SLmax・最小値SLminを、パルス幅WPGRのばらつき範囲に基づき設定し、許容するパルス幅WPGRのばらつきでは、閾値SLが前記最大値SLmax・最小値SLminを超えることがないように設定してある。
換言すれば、許容するパルス幅WIPGRのばらつきに対しては、閾値SLは、最大値SLmaxと最小値SLminとで挟まれる正常範囲内で変化し、回転センサ21の異常や制御ユニット22内の回転信号PGRの処理回路の異常などによって、パルス幅WPGRの計測値が許容のばらつき範囲を超えて変化すると、閾値SLが最大値SLmaxと最小値SLminとで挟まれる正常範囲外の値になるように設定してある。
従って、ステップS210において、閾値SLが最大値SLmax以上、又は、最小値SLmin以下であると判断した場合には、回転センサ21の異常や制御ユニット22内の回転信号PGRの処理回路の異常などによって、少なくとも出力軸6aの正転時における回転信号PGRのパルス幅WPGRが、許容のばらつき範囲を超えて変化したものと推定できる。
回転信号PGRのパルス幅WPGRに異常が生じた場合には、正転・逆転(前進・後退)を誤判定し、車両1が後退しているのに前進(正転)状態であると誤判定することで、ニュートラル制御を実行させてしまう可能性があるので、ステップS212へ進み、ニュートラル制御を禁止する。
これにより、少なくとも車両1の後退状態で、ニュートラル制御を実行してしまうことを抑制でき、車両1の操縦安定性を維持できる。
尚、ニュートラル制御の禁止には、ニュートラル制御の途中で動力が伝達される通常走行状態に強制的に戻す処理、及び、ニュートラル制御の実行を事前に阻止する処理が含まれる。
また、エンジン2のアイドル運転状態で自動停止条件が成立するとエンジン2を自動停止させ、エンジン2を自動停止させた後に再始動条件が成立すると、エンジン2を自動的に再始動させるアイドルストップ制御を、制御ユニット22が実行する場合に、変速機6の出力軸6aが逆転している車両1の後退状態で前記アイドルストップ制御を禁止する構成とし、かつ、ステップS212へ進んだ場合に、アイドルストップ制御を禁止する構成とすることができる。
この場合も、車両1の後退状態で、アイドルストップ制御を実行してしまうことを抑制でき、車両1の操縦安定性を維持できる。
また、閾値SLが最大値SLmaxと最小値SLminとで挟まれる許容範囲内であれば、閾値SLとパルス幅WPGRとを比較することで、正転・逆転(前進・後退)を精度良く判別できていると判断できる。
そこで、閾値SLが最大値SLmaxと最小値SLminとで挟まれる許容範囲内である場合には、ステップS211へ進み、閾値SLとパルス幅WPGRとの比較に基づく正転・逆転(前進・後退)の判定結果を示すフラグfHANTENの判別を行う。
そして、フラグfHANTENが0であって車両1が後退していない場合には、ニュートラル制御やアイドルストップ制御の実行を許容できるので、ステップS212を迂回して本ルーチンを終了させることで、既述した、車速が0km/h、アクセル開度ACCが全閉(0%)、前進走行レンジ、ブレーキスイッチ25がオンなどの条件が揃えば、ニュートラル制御を実行し、同様に、エンジン2の自動停止条件が成立すれば、アイドルストップ制御によるエンジン2の自動停止を実行する。
また、フラグfHANTENが1であって逆転(後退)状態であると判別している場合には、ステップS212へ進み、ニュートラル制御(アイドルストップ制御)を禁止する。
上記図5のフローチャートに示した閾値SLの学習処理によれば、変速機6の出力軸6aが正転している条件(車両1が前進している条件)、換言すれば、正転(前進)しているものと推定できる状態において計測したパルス幅WPGRに基づいて、正転・逆転(前進・後退)の判定に用いる閾値SLを学習するから、正転・逆転時のパルス幅WPGRが、各種の要因によって設計値に対してばらついたときに、これに対応して閾値SLを変更することができ、正転・逆転(前進・後退)の判定精度の低下を抑制することができる。
そして、パルス幅WPGRのばらつきによる正転・逆転(前進・後退)の誤判定を抑制できれば、車両1の後退状態でニュートラル制御が実行されることによる操縦安定性の低下を抑制できる。
ところで、図5のフローチャートに示した実施形態では、変速機6の出力軸6aが正転する条件(車両1の前進条件)であるか否かを判別し、出力軸6aが正転する条件で計測したパルス幅WPGRに基づいて閾値SLを更新したが、出力軸6aが逆転する条件(車両1の後退条件)で計測したパルス幅WPGRに基づいて閾値SLを更新させることができる。
逆転時(後退時)に計測したパルス幅WPGRを基準に閾値SLを学習させる場合、学習を実行させる条件が正転時に学習させる場合とは異なり、また、正転時よりも大きなパルス幅WPGRに基づいて閾値SLを更新させるので、後述するように、「AVWPGR−余裕分MA」を新たな閾値SLとする。
具体的には、図6のフローチャートに示すようにして、出力軸6aが逆転時(車両1の後退時)に閾値SLの学習を行う。
ステップS301では、レンジスイッチ23のオン/オフ信号から検出した変速機6のシフト位置が後退走行レンジであるRポジション(Rレンジ)であるか否かを判断し、シフト位置が後退走行レンジであるRポジションであれば、ステップS302へ進む。
ステップS302では、勾配センサ26で検出した路面勾配θが、設定勾配θSRよりも大きいか否かを判断する。
ステップS302の判断は、車両1の走行路が下り勾配でないことを判断するものであり、前記設定勾配θSRは、負の勾配(下り勾配)であって、略平坦であると見なすことができる程度の小さな勾配とすることが好ましく、例えば−1%程度とする。
従って、路面勾配θが、設定勾配θSRよりも大きい場合には、車両1の走行路が平坦路若しくは登り坂であると判定できる。
シフト位置が後退走行レンジであるRポジションであって、かつ、車両1の走行路が平坦路若しくは登り坂であれば、エンジン2がたとえアイドル状態であっても車両1が前進する可能性は低く、少なくとも出力軸6aが正転する条件ではないと判断できる。
ステップS302で、勾配センサ26で検出した路面勾配θが、設定勾配θSRよりも大きい(下り勾配ではない)と判断すると、ステップS303へ進む。
ステップS303では、エンジン負荷TPが設定値TPSR以上であるか否かを判断する。エンジン負荷は、内燃機関の場合、燃料噴射量や吸入空気量や吸気圧に基づいて判断することができ、前記設定値TPSRは、少なくとも平坦路で車両を後退させるだけの駆動力を発生する値に設定する。
ステップS303での判定前に、シフト位置が後退走行レンジであるRポジションであって、かつ、車両1の走行路が平坦路若しくは登り坂であると判断しているので、これらの条件に加えてエンジン負荷の上昇、換言すれば、駆動力の増大を判断すれば、車両1が後退している確度がより高くなる。
エンジン負荷TPが設定値TPSR以上であれば、ステップS304へ進み、そのときの車速VSPが設定速度VSPSR以上であるか否かを判断する。
車速VSPは、回転センサ21の回転信号PGRに基づいて演算され、設定速度VSPSRは、安定した後退走行状態となって初めて超える速度に設定することが好ましく、例えば、5km/h程度とする。
ステップS304で車速VSPが設定速度VSPSR以上であると判断すると、閾値SLの学習条件の成立を判断し、ステップS305へ進む。
即ち、後退走行レンジ(Rポジション)の選択状態であって、かつ、下り勾配でなく、エンジン負荷TPが設定値TPSR以上であって、かつ、車速VSPが設定速度VSPSR以上である場合には、変速機6の出力軸6aが逆転して車両1が後退しているものと推定し、学習条件の成立を判定する。
一方、ステップS301〜ステップS304のうちの少なくとも1つでNOの判定を行うと、学習条件の非成立を判定し、閾値SLの更新学習は行わない。
前記ステップS301〜ステップ304の処理が、出力軸6aが逆転側に回転する条件を判定する手段、即ち、回転軸が一方側に回転する条件を判定する回転条件判定手段としての機能に相当する。
ステップS301〜ステップS304で判定させた各条件のうち、後退走行レンジ(Rポジション)の選択状態であることは必須要件とすることが好ましいが、他の学習条件を上記の条件に限定するものではなく、例えば、後退走行レンジ(Rポジション)の選択状態であって、下り勾配でない、エンジン負荷TPが設定値TPSR以上、車速VSPが設定速度VSPSR以上の3条件のうちの少なくとも1つが成立する場合に、学習条件の成立を判定することができる。
また、上記の条件と共に、又は、上記3条件のうちの少なくとも1つと入れ替えて、別の条件を判定させることができ、例えば、車両の積載重量やアクセル開度ACCなどの条件のうちの少なくとも1つを判定させることができる。
車両の積載重量が多い場合には、僅かの下り坂でも車両1が前進してしまう可能性があるため、積載重量が少ないことを学習条件とすることが好ましく、また、アクセル開度ACCから運転者の後退意図を判断できるため、アクセルペダルを所定以上に踏み込んでいる状態を学習条件とすることが好ましい。
尚、車両1の積載重量が多いほど、前記勾配θの設定勾配θSRをより0%(平坦)に近い小さい値に設定することができる。
ステップS301〜ステップS304のうちの少なくとも1つで「NO」の判定を行い、学習条件が成立しなかった場合、即ち、出力軸6aが正転して車両1が前進している可能性がある場合には、ステップS305へ進む。
ステップS305では、カウンタCNTNEを0にリセットすると共に、パルス幅WPGRの平均値AVWPGRRを初期値にリセットする。
前記初期値は、出力軸6aの逆転時(車両1の後退時)におけるパルス幅WPGRRの設計値(設計値=90μs)とする。
一方、ステップS301〜ステップS304の全ての条件を満足していて、出力軸6aが逆転する条件が成立し、車両1が後退しているものと推定できる場合には、ステップS306へ進む。
ステップS306では、カウンタCNTNEを、前回値CNTNEzよりも1だけ増大させる。
カウンタCNTNEは、ステップS301〜ステップS304の全ての条件が成立してからの本ルーチンの実行回数を示すことになり、後述するように、カウンタCNTNEが判定値に達するまでは、平均値AVWPGRRの更新演算を繰り返し、判定値に達した時点の平均値AVWPGRRに基づき、閾値SLを更新するようになっている。
次のステップS307では、最近に計測したパルス幅WPGRと、本ルーチンの前回実行時の演算した平均値AVWPGRRzとを加重平均し、この加重平均値を、今回の平均値AVWPGRRとする。
尚、パルス幅WPGRの平滑化処理(移動平均処理)を、前述の加重平均演算に限定するものではなく、単純平均演算などであっても良い。また、加重平均演算に用いる係数を、数3に示した値に限定するものではない。
ステップS308では、カウンタCNTNEが判定値以上になっているか否かを判断する。
前記判定値は例えば100であり、逆転時の回転信号PGRのパルス幅WPGRの平均値を求めるのに充分なサンプル数が確保できるように予め設定してある。
ステップS308で、カウンタCNTNEが判定値未満であると判断すると、平均値AVWPGRRの信頼性が不十分であると判断し、閾値SLを更新させることなく、ステップS311へ進む。
一方、ステップS308で、カウンタCNTNEが判定値以上になっていると判断した場合には、ステップS309へ進む。
ステップS309では、今回ステップS307で求めた平均値AVWPGRRから、予め記憶している余裕分MAを減算し、該減算結果を、図4のフローチャートの102で正転・逆転(前進・後退)の判定に用いる閾値SLに設定し、この新たな閾値SLをそれまでの記憶値に代えて更新記憶する。
正転時(前進時)のパルス幅WPGRを45μsに設定し、逆転時(後退時)のパルス幅WPGRを90μsに設定する本実施形態の場合、前記余裕分MAは、例えば10μs程度に設定する。
即ち、パルス幅WPGRが、逆転時(後退時)の平均値AVWPGRから余裕分MAを減算した時間以上になったときに、変速機6の出力軸6aの逆転、即ち、車両1の後退を判定する。
前記余裕分MAは、正転時(前進時)の標準パルス幅WPGRと逆転時の標準パルス幅WPGRとの差や、パルス幅WPGRのばらつき幅などを加味して予め適合して記憶させておく。
但し、逆転時のパルス幅WPGRが標準値(設計値)に対して短くなったか長くなったかによって、余裕分MAを変更したり、閾値SLに基づいて正転時のものであるとして判断したパルス幅WPGRに基づいて、余裕分MAを変更したりすることができる。
尚、正転時のパルス幅WPGRが、逆転時のパルス幅WPGRよりも長くなるように設定した場合は、前記逆転時の平均値AVWPGRRに余裕分MAを加算した結果を、閾値SLとする学習を行えばよい。
前記ステップS306〜ステップS309の処理が、閾値設定手段としての機能に相当する。
ステップS309で閾値SLを更新すると、次のステップS310〜ステップS312では、前記ステップS210〜ステップS212と同様にして、閾値SLが最大値SLmaxと最小値SLminとで挟まれる正常範囲内であるか否かを判断し、前記正常範囲を外れた場合に、ニュートラル制御(アイドルストップ制御)を禁止する処理、及び、前記フラグfHANTENが1である後退時に、ニュートラル制御(アイドルストップ制御)を禁止する処理を実行する。
尚、図6のフローチャートにおける最大値SLmax・最小値SLminは、図5のフローチャートにおける最大値SLmax・最小値SLminと同様に、例えば、最大値SLmax=140μs、最小値SLmin=40μsに設定する。
上記図6のフローチャートに示した閾値SLの学習処理によれば、変速機6の出力軸6aが逆転している条件(車両1が後退している条件)、換言すれば、逆転(後退)しているものと推定できる状態において計測したパルス幅WPGRに基づいて、正転・逆転(前進・後退)の判定に用いる閾値SLを学習するから、正転・逆転時のパルス幅WPGRが、各種の要因によって設計値に対してばらついたときに、これに対応して閾値SLを変更させることができ、正転・逆転の判定精度の低下を抑制することができる。
そして、パルス幅WPGRのばらつきによる正転・逆転(前進・後退)の誤判定を抑制できれば、車両1の後退状態でニュートラル制御(アイドルストップ制御)を実行することによる操縦安定性の低下を抑制できる。
図5のフローチャート及び図6のフローチャートに示したように、閾値SLの学習を、正転時(前進時)と逆転時(後退時)とのいずれか一方で行わせることができるが、正転時(前進時)に計測したパルス幅WPGR又は該パルス幅WPGRに基づき設定した閾値SLと、逆転時(後退時)に計測したパルス幅WPGR又は該パルス幅WPGRに基づき設定した閾値SLとに基づいて、最終的に正転・逆転判定に用いる閾値SLを学習させることができる。
例えば、図5のフローチャートに従って正転時のパルス幅WPGRに基づき学習した閾値SLFと、図6のフローチャートに従って逆転時のパルス幅WPGRに基づき学習した閾値SLRとの中間値を、最終的に正転・逆転判定に用いる閾値SLとしたり、正転時の平均パルス幅AVWPGRと逆転時の平均パルス幅AVWPGRRとの中間値を、最終的に正転・逆転判定に用いる閾値SLとしたりすることができる。
尚、中間値としては、正転時の値と逆転時の値とで挟まれる領域の中央値とすることができる。
また、学習機会(学習頻度)などによる信頼性の違いに応じて、正転時の値と逆転時の値とに重み付けを行って、最終的な閾値SLを設定することができる。
車両1においては、前進走行の頻度が後退走行の頻度よりも一般的に多く、正転時のパルス幅WPGRを求めることができる機会が多いので、正転時(前進時)に求めたパルス幅WPGR又は該パルス幅WPGRを基準として求めた閾値SLFに対する重み付けを、逆転時に求めた値に対する重み付けよりも大きくして、最終的な閾値SLを設定することが好ましい。
ここで、例えば、正転時のパルス幅WPGRと逆転時のパルス幅WPGRとで挟まれる領域の中央値よりも、正転時のパルス幅WPGRに近い側の値を閾値SLとして採用することで、前記重み付けを実行させることができる。
また、逆転条件での閾値SLの更新周期は、正転条件での閾値SLの更新周期よりも長くなるので、逆転条件で閾値SLを最後に更新してからの時間経過が長くなるほど、逆転条件で求めた閾値SLに対する重み付けをより小さくすることができる。
また、正転条件でのパルス幅WPGRを基準とする閾値SLと、逆転条件でのパルス幅PGRを基準とする閾値SLとの大小関係が、設計上の大小関係に対して逆転するようなばらつきが発生した場合に、ステップS202〜204又はステップS302〜304における正転・逆転条件の判定をより厳しくして学習をやり直したり、異常判定を行って正転・逆転の判別を禁止したりすることができる。
尚、上記実施形態では、変速機6の出力軸6aの正転・逆転で異なる回転信号として、正転・逆転でパルス幅WPGRの異なるパルス例からなる回転信号PGRを発生させる構成としたが、例えば、正転・逆転でパルス状の回転信号PGRの振幅(信号レベル)が異なるように構成することができる。
例えば、回転信号PGRを、通常ローレベルで、既定回転位置になったときに一定時間だけハイレベルに変化するパルス信号とする場合、前記ハイレベルの高さが正転と逆転との異なるように構成することができる。
この場合も、変速機6の出力軸6aが正転する条件及び/又は逆転する条件であるときの回転信号PGRの振幅(信号レベル)に基づいて、振幅(信号レベル)が正転時に対応するか逆転時に対応するかを判別するための閾値SLを学習することで、前記実施形態と同様な作用・効果を奏することができる。
更に、回転信号PGRのパルス幅WPGR及び振幅の双方が、正転・逆転で異なるように構成し、例えば、パルス幅WPGRに基づく正転・逆転の判定結果と、振幅に基づく正転・逆転の判定結果とが一致する場合に、正転・逆転の判定結果を出力し、両者の判定結果が一致しない場合に、回転方向不明とする判定結果を出力することができる。
また、上記実施形態では、閾値SLと、最大値SLmax・最小値SLminとの比較に基づいて、回転センサ21や制御ユニット22内の処理回路の異常を判断したが、平均パルス幅AVWPGRと該平均パルス幅AVWPGRの許容変化領域との比較に基づいて異常診断を行わせたり、前記閾値SL又はパルス幅AVWPGRの前回値と今回値との偏差(変化速度)に基づいて異常診断を行わせたりすることができる。
また、正転・逆転を判定する回転軸は、変速機6の出力軸6aに限定されず、車両の前進・後退で回転方向が切り替わる回転軸であれば良く、例えば、ドライブシャフト8や図3のFF方式の車両における前後進切換機構13の出力軸若しくはプライマリプーリ6cの入力軸を、正転・逆転を判定する回転軸に設定することができる。
また、回転センサ21が出力する回転信号PGRに基づく正転・逆転(前進・後退)の判別結果は、特開2006−312982号公報に開示されるように、勾配センサ26の補正に用いることができる。具体的には、ニュートラル制御を車両1が後退したことに基づいて解除したときに、勾配センサ26が検出している勾配が下り坂(負の勾配)であった場合には、勾配センサ26の検出が誤差を有していることになり、勾配検出値を増大補正する(正側に補正する)ことで、実際の勾配に検出値を近づけることができる。
また、正転条件又は逆転条件で計測したパルス幅WPGR又は該パルス幅WPGRに基づき更新した閾値SLが、許容範囲から外れている場合に、正転又は逆転と判断する条件、具体的には、エンジン負荷TPの設定値TPS、車速VSPの設定値VSPSをより大きくすることで、正転又は逆転していると判断する条件を厳しくして、換言すれば、正転又は逆転していると判断する領域を狭くして、閾値SLの学習を行わせることができる。
また、正転・逆転でパルス幅及び/又は振幅が異なるパルス信号を出力する回転センサ21を複数個所に設けても良く、例えば、左右のドライブシャフト8それぞれに、左右輪それぞれの回転速度を検出するための回転センサ21を設ける構成とすることができる。
ここで、ディファレンシャル7の機能によって左右輪に回転速度差が発生する場合があり、上記のように、左右のドライブシャフト8それぞれに回転センサ21を設けた場合、左右輪の回転速度差が大きい条件では、正転又は逆転の条件の判定精度が低下し、以って、閾値SLの学習精度が低下するので、閾値SLの更新を禁止することが好ましい。
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
(イ)請求項1〜4のいずれか1つに記載の車両用動力伝達装置の回転検出装置において、
前記回転信号が前記回転軸の所定角度位置毎に出力されるパルス信号であって、前記回転軸の正転・逆転でパルス幅及び/又は振幅が異なり、
前記閾値設定手段が、前記回転信号のパルス幅及び/又は振幅を計測し、前記計測値の移動平均値に基づいて、パルス幅を判別するための閾値及び/又は振幅を判別するための閾値を設定する車両用動力伝達装置の回転検出装置。
上記発明によると、回転軸が一方側に回転する条件であると判定している状態において、回転信号のパルス幅及び/又は振幅を計測し、該計測値について加重平均などの移動平均値を求めることで計測結果のばらつきを平滑化し、移動平均値を基準にして閾値を設定する。
(ロ)請求項2記載の車両用動力伝達装置の回転検出装置において、
前記回転条件判定手段が、前記車両の変速機のシフト位置が前進走行レンジであることを判定し、
前記閾値設定手段が、前記回転軸が正転しているものとして閾値を設定する車両用動力伝達装置の回転検出装置。
上記発明によると、変速機のシフト位置が前進走行レンジであれば、回転軸が前進に対応する正転方向に回転しているものと見なし、そのときの回転信号に基づいて閾値を設定する。
(ハ)請求項(ロ)記載の車両用動力伝達装置の回転検出装置において、
前記前記回転条件判定手段が、前記車両の変速機のシフト位置が前進走行レンジであり、かつ、車両の走行路面の傾斜が登り坂でないことを、前記回転軸が正転する条件として判定する車両用動力伝達装置の回転検出装置。
上記発明によると、シフト位置が前進走行レンジであっても、車両の走行路面が登り坂であると、係る傾斜によって車両が後退する可能性があるので、登り坂でない(平坦路又は下り坂である)ときに、閾値の設定を行わせる。
(ニ)請求項2記載の車両用動力伝達装置の回転検出装置において、
前記回転条件判定手段が、前記車両の変速機のシフト位置が後退走行レンジであることを判定し、
前記閾値設定手段が、前記回転軸が逆転しているものとして閾値を設定する車両用動力伝達装置の回転検出装置。
上記発明によると、変速機のシフト位置が後退走行レンジであれば、回転軸が後退に対応する逆転方向に回転しているものと見なし、そのときの回転信号に基づいて閾値を設定する。
(ホ)請求項(ニ)記載の車両用動力伝達装置の回転検出装置において、
前記前記回転条件判定手段が、前記車両の変速機のシフト位置が後退走行レンジであり、かつ、車両の走行路面の傾斜が下り坂でないことを、前記回転軸が逆転する条件として判定する車両用動力伝達装置の回転検出装置。
上記発明によると、シフト位置が後退走行レンジであっても、車両の走行路面が下り坂であると、係る傾斜によって車両が前進する可能性があるので、下り坂でない(平坦路又は登り坂である)ときに、閾値の設定を行わせる。
(へ)請求項3記載の車両用動力伝達装置の回転検出装置において、
前記回転条件判定手段が、前記車両の変速機のシフト位置と共に、前記車両の動力源の負荷の上昇を判定する車両用動力伝達装置の回転検出装置。
上記発明によると、車両の動力源の負荷が上昇している状態であれば、シフト位置に見合った方向に車両が進行しているものと推定し、閾値の設定を行わせる。
(ト)請求項3記載の車両用動力伝達装置の回転検出装置において、
前記回転条件判定手段が、前記車両の変速機のシフト位置と共に、前記車両の走行速度の上昇を判定する車両用動力伝達装置の回転検出装置。
上記発明によると、車両の走行速度(車速)が上昇している状態であれば、シフト位置に見合った方向に車両が進行しているものと推定し、閾値の設定を行わせる。
(チ)請求項1〜4のいずれか1つに記載の車両用動力伝達装置の回転検出装置において、
前記閾値設定手段が、前記回転軸が正転する条件と逆転する条件との双方で閾値をそれぞれに設定し、これら閾値の中間値を最終的な閾値として設定する車両用動力伝達装置の回転検出装置。
上記発明によると、正転状態での回転信号に基づいて設定した閾値と、逆転状態での回転信号に基づいて設定した閾値との中間値を最終的な閾値とすることで、正転・逆転の判定精度をより向上させることができる。