係る車両挙動制御部等を含む各種安全システムの作動には、バッテリ等に蓄電された電力の消費を伴う。従って、この種の安全システムが複数備わる場合や、単一であれ消費電力が大きい場合等には、バッテリ等の蓄電状態によっては、安全システムを十分に作動させ得ない場合が生じ得る。ところが、従来の技術では、この種の蓄電状態は一切考慮されないから、例え制動操作のみで障害物を回避し得ない旨が判定されたとして、バッテリ等の電力不足により、安全システムの作動が阻害される可能性がある。また、従来の技術では、回避走行における車両の状態がドライバに報知される等、更なる電力消費を伴うという側面もある。即ち、従来の技術には、場合によっては、車両に備わる各種安全システムを効果的に作動させ難いという技術的な問題点がある。
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、車両に備わる各種安全システムを効率的且つ効果的に作動させ得る車両の制御装置を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため、本発明に係る車両の制御装置は、発電手段と、該発電手段により発電された電力たる発電電力の蓄電が可能な少なくとも一つの蓄電手段と、所定の作動条件が満たされた場合に前記蓄電がなされた電力たる蓄電電力により作動可能である共に作動時に安全性を向上させる所定種類の安全システムとを備えた車両の制御装置であって、前記車両の運転条件に基づいて、前記作動条件が満たされる可能性を規定する第1の指標値を取得する第1の取得手段と、前記取得された第1の指標値に応じて、前記蓄電電力の不足が生じないように前記蓄電手段の蓄電量を制御する制御手段とを具備し、前記制御手段は、前記可能性が上昇するのに伴って増加するように前記蓄電量を制御することを特徴とする。
本発明における「蓄電手段」とは、例えばオルタネータ、ダイナモ或いはモータジェネレータ等の各種発電手段により発電される発電電力を幾らかなり蓄電可能な物理的、機械的、電気的、磁気的又は化学的手段を包括する概念であり、好適な一形態として、例えば鉛蓄電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池又はニッケルカドミウム電池等の各種蓄電池、或いは各種キャパシタ等を含む趣旨である。
本発明に係る車両には、所定の作動条件が満たされた場合に、少なくとも蓄電手段に蓄電されてなる蓄電電力により作動可能な、また好適な一形態としては更に発電手段からの直接的な電力供給によっても作動可能な少なくとも一つの安全システムが備わる。本発明に係る「安全システム」とは、その作動時に車両の安全性を幾らかなり向上させ得る、少なくとも一つの物理的、機械的、機構的、電気的又は化学的な手段を包括する概念であり、好適な一形態としては、例えば、ABS(Anti-lock Braking System)、VSC(Vehicle Stability Control)、TRC(TRaction Control)又はアクティブステアリング装置等の各種挙動制御装置、並びに例えばPB(Pre-crush Brake:衝突前ブレーキ制御)、PSB(Pre-crush Seat Belt:衝突前シートベルト制御)、PBA(Pre-crush Brake Assist:衝突前ブレーキアシスト制御)、例えば車体の潜り込みを防止するためのサスペンション制御、各種警報装置の出力制御、EPS(Electronic Power Steering:電動パワーステアリング装置)等を利用した各種操舵支援制御、例えば頭部保護のためのヘッドレスト制御、人体保護のためのシート制御、アクティブフード又はアクティブバンパ等の各種制御を実現するための物理的、機械的、機構的又は電気的な各種システムを包括する概念としてのPCS(Pre Crush Safety system:衝突前安全システム)及びACC(Adaptive Cruise Control:可変速度維持制御装置)、LKA(Lane Keeping Assist:レーン追従補助装置)、若しくはIPA(Intelligent Parking Assist:駐車支援システム)等を適宜含み得る各種の運転負荷軽減システム等を適宜含み得る概念としての各種のDSS(Driving Support System:運転支援システム)等を指す。
この種の安全システムが作動する場合、少なくとも幾らかなり発電手段の発電電力又は蓄電手段の蓄電電力が使用されるが、この種の安全システムは、車両に複数備わる場合が多く、その作動条件が必ずしも同一でないにしたところで、その作動期間が重複すること可能性は低くない。また、この種の安全システムが単一であったとしたところで、車両において通常使用に供される各種の補機類、例えば、カーオーディオ、エアコンディショナ、パワーウィンドウ又はパワーステアリング等と較べれば、相対的に大きな電力が必要となり易い。更に、この種の安全システムの作動機会は、上述した補機類の作動機会と較べて過渡的な傾向が強く、定性的に言えば、瞬時に大電力が必要となり易い。このため、この種の安全システムを、必要時に確実に作動させるためには、発電手段における限られた発電電力をより有効に利用する必要が生じ得る。
そこで、本発明に係る車両の制御装置では、以下の如くにして安全システムの効率的且つ効果的な作動が図られる。即ち、本発明に係る車両の制御装置によれば、その動作時には、例えばECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る第1の取得手段により、安全システムの作動条件が満たされる可能性を規定する第1の指標値が取得される。
ここで、「安全システムの作動条件が満たされる可能性を規定する第1の指標値」とは、当該作動条件が満たされる可能性の値そのもの、及び安全システムの作動条件を規定する指標値(例えば、当該指標値が閾値に達した旨をもって安全システムが作動するのであれば、当該指標値と当該閾値との乖離の度合いが、当該可能性を表し得る)、或いは当該指標値から各種数値演算や論理演算の結果導出される各種の指標値を含み、安全システムの作動条件が満たされる可能性を少なくとも実践上不足の無い範囲で代替し得る二値的、段階的又は連続的な指標値を包括する概念であり、安全システムの種類、構成及び仕様等に応じて各種態様を採り得る。
尚、第1の指標値は、その増加及び減少が、夫々当該可能性の上昇及び低下に対応していてもよいし、低下及び上昇に対応していてもよい。また、第1の指標値は、当該可能性と一対一に対応していてもよいし、一対多、多対一或いは多対多に対応していてもよい。
この第1の指標値は、例えば、車両の走行条件(例えば、旋回、ロール、ダイブ、スリップ、ロック又はスピン等の発生の有無若しくは度合い、車両周囲(例えば前方)の障害物の有無、当該障害物と自車両との相対的位置関係(距離や相対速度等)、又は走行中の路面の状態、)、環境条件(天気、天候、気温、湿度又は大気圧等)或いは車両を運転するドライバの身体的又は精神的状態(居眠り、脇見若しくは注意力低下の有無若しくは度合い)等、各種態様を採り得る車両の運転条件に基づいて取得される。
この際、第1の取得手段は、第1の指標値を、例えばヨーレートセンサ、前後加速度センサ、横加速度センサ、ロール角センサ、サスペンションストロークセンサ、操舵角センサ、実舵角センサ、操舵トルクセンサ、車載用ミリ波レーダ、車両周囲又はドライバを撮像する撮像装置或いはカーナビゲーション装置等の各種検出手段を介して直接的に又は間接的に物理的数値又は物理的数値に対応する電気信号等として取得してもよいし、例えばこれら各種検出手段を介して直接的に又は間接的に例えば電気信号等の形で検出された、第1の指標値と対応関係を有する物理的数値に基づいて予め然るべき記憶手段等に記憶されたマップ等から該当する数値を選択することによって取得してもよいし、例えばこのような物理的数値又は選択された数値等から、予め設定されたアルゴリズムや計算式に従って導出してもよいし、或いは例えば、このように検出、選択又は導出された数値等を、例えば電気信号等の形で取得してもよい。
一方、第1の指標値が取得されると、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る制御手段により、この第1の指標値に応じて、蓄電電力の不足が生じないように蓄電手段の蓄電量が制御される。
第1の指標値は、安全システムの作動条件が満たされる可能性(即ち、安全システムが作動する可能性)を少なくとも実践上不足無く規定し得る指標値であり、言い換えれば、発電手段における発電電力及び蓄電手段における蓄電電力を包括してなる使用可能な電力が不足する可能性と相関する。
一方で、蓄電手段における平常時の蓄電の度合いを、この種の過渡的な電力消費のみを考慮して決定すると、蓄電手段又は発電電力を蓄電手段に供給(即ち、充電)する各種の充電手段(例えば発電手段と一体又は別体に構成される充電装置等)に物理的、機械的、機構的、電気的又は化学的な不具合(例えば、蓄電手段の物理的、機械的、電気的又は化学的な劣化等)を招き易い。
従って、制御手段により、第1の指標値に応じて蓄電電力の不足が生じないように蓄電手段の蓄電量が制御されることにより、相対的に大量の電力が必要とされ易い安全システムの作動時において確実に電力不足を生じさせることなく安全システムを確実に作動させつつ、蓄電手段或いは供給手段の効率的な使用を図ることが可能となる。即ち、本発明に係る車両の制御装置によれば、車両に備わる各種安全システムを効率的且つ効果的に作動させることが可能となるのである。
尚、「蓄電電力の不足が生じないように」とは、制御手段による制御がなされない場合と較べて幾らかなり蓄電電力の不足が生じる機会を減じ得る限りにおいて、必ずしも蓄電電力の不足が生じる可能性がゼロでなくともよい趣旨である。
ここで、本発明に係る車両の制御装置では、前記制御手段が、この種の蓄電の度合いとして、蓄電手段の蓄電量を制御する。
蓄電量は、安全システムが使用することのできる電力と相関する指標値であり、この種の蓄電の度合いとして蓄電量が制御された場合には、安全システムを効率的且つ効果的に作動させる旨の本発明に係る効果を顕著に得ることが可能である。尚、蓄電量の制御に際しては、蓄電量の増減を実践上問題ない精度で把握し得る限りにおいて必ずしも蓄電量そのものが把握されておらずともよい。
尚、発電手段の発電電力が蓄電手段に充電されるに際しては、発電電力のうち車両において恒常的に又は断続的に使用される各種電装品(上述した各種補機類を含む)に供給すべき電力を除く剰余分に相当する電力が蓄電手段に蓄電されるにせよ、そうでないにせよ、好適な一形態として、例えば目標値(即ち、目標蓄電量)又は許容値(即ち、上限蓄電量)等何らかの充電の指針が設定され得る。この場合、当該目標値又は許容値に未達の状態においては、本発明に係る第1の指標値とは無関係に蓄電がなされ得る。即ち、この場合、第1の指標値に応じた蓄電量の制御とは、好適な一形態として、蓄電手段の最終的な蓄電量を規定し得る当該目標値又は許容値の制御であってもよい。
また、本発明に係る車両の制御装置において、制御手段は、上記可能性が上昇するのに伴って増加するように上記蓄電量を制御する。
このように、第1の指標値の増減が夫々当該可能性の増減に対応していようが、また減増に対応していようが、安全システムの作動可能性が上昇するのに応じて二値的、段階的又は連続的の別を問わず、また場合によりそれらが複合された態様(例えば、当該可能性の変化に対し一部不感帯が設けられ、当該不感帯以外の変化領域では単調に連続変化する等の態様)で蓄電量が増加せしめられることによって、安全システムを確実に作動せしめつつ、蓄電手段及び蓄電手段に発電電力を供給する供給手段の各種劣化を可及的に抑制せしめる旨の、実践上の高い利益が提供される。
本発明に係る車両の制御装置の一の態様では、前記制御手段は、前記蓄電量の目標値を制御することにより前記蓄電量を制御する。
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記制御手段は、前記蓄電手段の蓄電速度を制御することにより前記蓄電量を制御する。
蓄電手段の蓄電速度とは、即ち、蓄電手段が単位時間当たりに蓄電する電力を指す。この蓄電速度は、蓄電手段の充電特性が蓄電手段毎に固有であれば、また発電手段の発電量が内燃機関の機関回転等と一義的であれば、結局は発電電力を蓄電手段に供給する充電側の充電特性に相関する。即ち、この態様における蓄電速度の制御とは、この種の充電手段の制御であってもよい。
この態様によれば、蓄電量を制御するにあたって蓄電速度が制御されるため、蓄電量が所定量(例えば、目標値又は許容値)に到達するまでの時間を短縮化することが可能であり、また安全システムの作動時において、蓄電手段への電力の補充も迅速化することが可能であり、効率的且つ効果的に安全システムを作動せしめることが可能となる。更には、蓄電量が目標値又は許容値に未達の期間においては、充電速度の制御は、直接的又は間接的の別によらず、時系列上の一時刻における蓄電量を規定し得るから、このように蓄電速度が制御された場合には、過渡的な蓄電量を増加せしめることも可能となる。
尚、本発明に係る蓄電速度の制御は、上述した目標値や許容値が不変であれ、実行可能な制御である。また当然ながら、上記目標値又は許容値の制御は、当該蓄電速度が一定であれ可変であれ実行可能である。
尚、この態様では、前記制御手段は、前記取得された第1の指標値における前記可能性が上昇する方向への変化の度合いが増加するのに伴って上昇するように前記蓄電速度を制御してもよい。
第1の指標値における当該変化の度合いが増加している場合、第1の指標値そのものが表す安全システムの作動可能性は別として、車両は、相対的にみて緊急事態にある可能性が高くなる。従って、当該変化の度合いが増加するのに伴って二値的に、段階的に又は連続的に蓄電速度が上昇せしめられることにより、この種の言わば急速充電がなされることによる蓄電手段又は充電手段の物理的、機械的、電気的又は化学的な劣化を可及的に抑制しつつ、蓄電電力の不足が生じる可能性を可及的に低減させることが可能となる。
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記車両は、前記蓄電手段を複数備えており、前記車両の制御装置は、前記複数の蓄電手段の各々について前記蓄電の容易性を規定する第2の指標値を取得する第2の取得手段と、前記取得された第2の指標値に基づいて、前記容易性が相対的に高い前記蓄電手段に対し優先的に前記蓄電がなされるように前記各々相互間における前記発電電力の分配比率を決定する決定手段とを更に具備し、前記制御手段は、前記決定された分配比率に従って選択される少なくとも一つの前記蓄電手段について前記蓄電量を制御する。
この態様によれば、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る第2の取得手段により、複数の蓄電手段の各々について蓄電の容易性を規定する第2の指標値が取得される。
ここで、「蓄電の容易性」とは、蓄電され易さを表し、その少なくとも一部として充電され易さを含む概念である。係る蓄電の容易性を規定する第2の指標値とは、係る概念の範囲内において如何なる態様をも採り得る。例えば、蓄電手段自体の物理的、機械的、電気的又は化学的特性に起因する蓄電速度は、蓄電量に対しフラットな特性を有さないことが多い(例えば、満充電に近い領域では蓄電され難い等)から、複数の蓄電手段が相互に同種であれ異種であれ、その時点の蓄電量に応じて蓄電の容易性は相互に異なり得る。即ち、第2の指標値とは、蓄電量であってもよい。或いは、各蓄電手段においては、物理的な、実質的な、或いは何らかの制約によって規定される現実的な蓄電量の許容量が存在する。この許容量と実蓄電量との偏差たる蓄電余力は、上述した蓄電速度とは別に、より物理的に当該容易性を規定する指標となる。即ち、第2の指標値とは、係る蓄電余力であってもよい。
補足すれば、蓄電手段の蓄電速度は、典型的な一形態としては、蓄電余力が小さい(即ち、相対的に蓄電量が許容値に近い)程小さくなり易い。このような側面からも、蓄電余力が小さい場合には蓄電の容易性が低下する旨の判断を下し得る。尚、第2の指標値を取得するに際しての態様は、第1の指標値と同様に限定されず各種態様を採ってよい。また、第2の指標値は、その大小が、夫々当該容易性の大小に対応していてもよいし、小大に対応していてもよく、更に当該容易性と一対一、一対多、多対一又は多対多に対応していてよい。
一方、この種の第2の指標値が取得されると、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る決定手段により、この取得された第2の指標値に基づいて、当該容易性が相対的に高い蓄電手段に対し優先的に蓄電がなされるように複数の蓄電手段相互間における発電電力の分配比率が決定される。
いずれの蓄電手段に発電電力が蓄電されていようと、安全システムに対し駆動力たる蓄電電力を供給可能であるが、上述した容易性の概念に鑑みれば、当該容易性の高い蓄電手段に優先的に充電が行われた場合には、制御手段が行う安全システムの作動条件が満たされる可能性に応じた蓄電量の制御と独立して或いは協調して、複数の蓄電手段からなる蓄電システム全体における蓄電量を可及的に増加させることが、好適な一形態としては最大化することが可能となり、安全システムをより確実に作動させることが可能となる。
尚、ここで述べられる「優先的に」とは、二値的、段階的又は連続的の別を問わず、少なくとも実践上蓄電システム全体としての蓄電量に幾らかなり有意な差が生じ得る程度に優先されることを包括する概念であって、発電電力の供給対象、即ち充電対象となる蓄電手段は、一であっても多であってもよい趣旨である。また、各蓄電手段について取得された第2の指標値各々相互間の偏差が、蓄電システム全体としての蓄電量に有意な差が生じない旨の判断を下し得る程度である場合には、蓄電手段相互間における優先順位の付与はなされずともよい。即ち、このような優先順位の付与に際しては一種の不感帯が設けられていてもよい。
尚、この態様では、前記決定手段は、前記可能性が上昇するのに伴い、前記容易性が相対的に高い蓄電手段に対し優先的に蓄電がなされるように前記各々相互間における分配比率を決定してもよい。
この場合、決定手段における分配比率の決定プロセスにおいて、安全システムの作動条件が満たされる可能性が考慮される。従って、第2の指標値の態様によっては、蓄電システム全体の蓄電量を更に最適化することが可能となる。例えば、第2の指標値として、蓄電手段自体の物理的、機械的、電気的又は化学的特性に起因する固有の蓄電速度が採用された場合、当該可能性が低い領域(低いか否かの基準値は適宜定められ得る)において当該蓄電速度が低い蓄電手段に優先的に充電がなされ(即ち、当該蓄電速度が低い蓄電手段において優先的に蓄電が行われ)、当該可能性が高い領域(同様に基準値は適宜定められてよい)において当該蓄電速度が高い蓄電手段に優先的に充電がなされることにより、蓄電電力に余裕がある場合(即ち、当該可能性が低い場合)には、相対的に蓄電され難い蓄電手段に充電を行って確実に蓄電量を増やしつつ、蓄電電力に余裕がない場合(即ち、当該可能性が高い場合)には、蓄電され易い蓄電手段に充電を行って安全システムの作動に備えるといった、実践上の高い利益が提供される。この場合、決定手段により決定された分配比率に従って制御手段が蓄電量を制御することのみによって、言わば自動的に安全システムが作動する可能性に応じた制御が実現されることとなる。従って、制御手段が当該可能性に応じた上述した各種制御を更に実行した場合には、更に安全システムの効率的且つ効果的な作動が図られ、実践上の利益が大となる。
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記蓄電手段の劣化の度合いを規定する第3の指標値を取得する第3の取得手段を具備し、前記制御手段は、前記取得された第3の指標値に応じて、前記劣化の度合いが増加するのに伴い増加するように前記蓄電量を制御する。
この態様によれば、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る第3の取得手段により、蓄電手段の劣化の度合いを規定する第3の指標値が取得される。
ここで、「劣化」とは、例えば物理的、機械的、機構的、電気的、化学的又は磁気的の別を問わず、蓄電手段における例えば上述した蓄電の容易性を含む各種性能に影響を与える変化を包括する概念であって、外界からの物理的又は電気的衝撃によるものや、経時的に生じるものを含む趣旨である。この劣化の度合いを規定する第3の指標値は、当該劣化の度合いを少なくとも実践上不足の無い精度で表し得る限りにおいて何ら限定されないが、例えば、発電手段の発電量に対する蓄電手段における蓄電量の変化の度合い等であってもよい。また、第3の指標値は、その大小が、夫々当該劣化の度合いの大小に対応していてもよいし、小大に対応していてもよく、更に当該劣化の度合いと一対一、一対多、多対一又は多対多に対応していてよい。
この種の第3の指標値が取得されると、制御手段は、当該劣化の度合いが増加するのに伴って、蓄電量を増加させる。この種の劣化の度合いが大きい場合、第1の指標値によって規定される、安全システムの作動条件が満たされるか否かの可能性を別にしても、蓄電電力が相対的に不足し易い。そこで、このように劣化の度合いが増加するのに伴って蓄電量が増加せしめられることにより、蓄電電力の相対的な不足が補われ、上述した第1の指標値或いは第2の指標値に基づいてなされる制御によってもたらされる本発明に係る実践上の利益が担保されるのである。
尚、この態様では、前記制御手段は、早遅が夫々前記蓄電の度合いの大小に対応する前記蓄電の開始時期を制御することにより前記蓄電量を制御してもよい。
蓄電の開始時期とは、発電手段と蓄電手段との間で平常時になされる蓄電制御(即ち、充電手段を介した充電制御)に係る充電の開始時期を排除するものではないが、好適な一形態としては、この種の平常時の充電制御から逸脱した(概念上逸脱するのであって、実動作上は単なる充電動作であってよい)、言わば安全システムの作動可能性を考慮した蓄電量の制御を開始するタイミングを指し、このような開始時期の制御とは、好適な一形態として例えば、蓄電量の増加を開始すべき第1の指標値をより減少側(第1の指標値の大小が可能性の大小に対応する場合)にシフトさせること等を指す。
この態様によれば、蓄電手段の劣化の度合いの増加に伴い蓄電の開始時期(或いは開始時期を規定する各種の指標)が相対的に早められることにより、当該劣化に起因する蓄電電力の不足が好適に補われ好適である。
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記制御手段は、所定の上限値以下となるように前記蓄電量を制御する。
この態様によれば、蓄電手段の蓄電量に、物理的な、実質的な又は制御上の上限値が設定され、蓄電量が当該上限値以下となる範囲で制御されるため、蓄電手段が例えば過充電状態に陥ることによる不具合(例えば、物理的又は電気的な損傷又は故障、充放電特性の変化、或いは上述した蓄電の容易性の低下や劣化の度合いの増大等)の発生が防止され、好適である。
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記第1の取得手段は、前記車両の前照灯の照射距離と前記車両の速度とに基づいて前記第1の指標値を取得する。
前照灯の照射距離は、ドライバの前方視界を規定する指標である。一方、車両の速度(以下、適宜「車速」と称する)を利用すれば、車両がこの照射距離によって規定される前方視界を超えた範囲に突入するまでに要する時間を導出することが可能となる。前照灯の照射距離を超えた範囲には、相対的にドライバの予期せぬ物標が存在する可能性が高くなり、安全システムの作動可能性が上昇する。
即ち、この態様によれば、好適には前照灯による前方照射の有無がドライバの視認範囲を実践上無視し得ない程度に支配する好適には夜間や暗い場所の走行時等において、安全システムの作動条件が満たされる可能性を、この種の可能性を把握するための特別な検出手段等を設けることなく好適に把握することが可能となる。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
<発明の実施形態>
以下、適宜図面を参照して本発明の好適な各種実施形態について説明する。
<第1実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る車両10の構成について説明する。ここに、図1は、車両10において本発明に係る車両の制御装置に関連する部分の構成を概念的に表してなるブロック図である。
図1において、車両10は、ECU100、ミリ波レーダ200、PCS300、オルタネータ400、バッテリ500及びSOCセンサ600を備える。
ECU100は、図示せぬCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、不図示のエンジンを含む車両10の各構成要素の動作を制御すると共に、制御用のプログラムに従って後述するSOC制御を実行することが可能に構成された、本発明に係る「車両の制御装置」の一例である。
ミリ波レーダ200は、物体検出用のミリ波(30〜300GHz帯(好適には、76〜77GHz帯)の電波)を、車両10の前方領域に出射可能であると共に、当該前方領域において物体に反射した出射波たる反射波を受信することが可能に構成された物体検出装置である。ミリ波レーダ200は、ECU100と電気的に接続されており、その動作状態がECU100により上位に制御される構成となっている。また、ミリ波レーダ200は更に、出射されるミリ波の伝搬時間やドップラー効果によって生じる周波数差など基づいて、物体の位置(好適には、車両10に対する距離)及び物体に対する車両10の相対速度等を検出することが可能に構成されている。尚、ミリ波レーダ200は、ECU100と電気的に接続されており、検出された反射波強度Pr及び当該反射波強度に対応する位置情報は、ECU100により一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
尚、車両10の前方領域に存在する物体を検出する手段は、ミリ波レーダ200に限定されず、例えば、他の電波レーダ、ソナー、赤外線、或いはモノラル又はステレオの画像センサやビデオカメラ等各種撮像装置であってもよい。
PCS300は、ECU100によってその動作状態が制御され、車両10の前方に存在する障害物に対する車両10の衝突安全性を向上させることが可能に構成された、本発明に係る「安全システム」の一例である。ここで、図2を参照し、PCS300の詳細について説明する。ここに、図2は、PCS300のブロック図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図2において、PCS300は、PB用アクチュエータ310、PSB用アクチュエータ320及びPBA用アクチュエータ330を備える。
PB用アクチュエータ310は、車両10の前後左右各車輪に制動力を付与する不図示のホイールシリンダとマスターシリンダとの間に設けられ、当該ホイールシリンダを駆動する電気駆動式のアクチュエータである。PB用アクチュエータ310は、ECU100の制御により、所謂PB(プリクラッシュブレーキシステム)の一例として機能することが可能に構成されている。より具体的には、PB用アクチュエータ310は、各車輪を直接制動する不図示のブレーキパッドを駆動するホイールシリンダに対しブレーキ油圧を供給する或いは供給される油圧を制御する装置であり、各種ソレノイドバルブ、各種ブレーキ油配管、及びオイルポンプ等を含む複合ユニットである。
PB用アクチュエータ310では、ECU100の制御により、後述するオルタネータ400及びバッテリ500からの電力供給を受けてこれらオイルポンプや各種ソレノイドバルブが駆動され、車両10が障害物に衝突するまでに要する時間が所定値に達した場合(例えば当該衝突の0.6秒前)に、ドライバ操作を経ることなく各車輪に車速低減のための制動力を付与することが可能に構成されている。尚、この「車両10が障害物に衝突するまでに要する時間が所定値に達した場合」とは即ち、本発明に係る「作動条件が満たされた場合」の一例である。尚、PB用アクチュエータ310は、アンチロック制御や通常のブレーキ制御を行うためのブレーキアクチュエータを兼用している。
PSB用アクチュエータ320は、車両10の室内における各シートに対応するシートベルトの着圧を制御することが可能に構成された電気駆動式のアクチュエータである。PSB用アクチュエータ320は、ECU100の制御により、所謂PSB(プリクラッシュシートベルトシステム)の一例として機能することが可能に構成されている。
より具体的には、PSB用アクチュエータ320は、各シートベルトを巻き取るための駆動力を間接的に当該各シートベルトに付与することが可能に構成されている。PSB用アクチュエータ320は、ECU100の制御により、後述するオルタネータ400及びバッテリ500からの電力供給を受けて駆動され、車両10が障害物に衝突するまでに要する時間が所定値に達した場合(例えば当該衝突の0.8秒前)に、シートベルトの着圧が所定値となるようにシートベルトを巻き取るための駆動力を付与することが可能に構成されている。尚、この「車両10が障害物に衝突するまでに要する時間が所定値に達した場合」とは即ち、本発明に係る「作動条件が満たされた場合」の他の一例である。
PBA用アクチュエータ330は、ドライバが車両10の不図示のブレーキペダルを操作する際のブレーキ踏力をアシストすることが可能に構成された電気駆動式のアクチュエータである。PBA用アクチュエータ330は、ECU100の制御により、所謂PBA(プリクラッシュブレーキアシストシステム)の一例として機能することが可能に構成されている。
より具体的には、PBA用アクチュエータ330は、マスターバックのブースターピストンの圧力を制御するエアバルブに対し、その開閉状態を制御する駆動力を付与することが可能に構成されている。PBA用アクチュエータ330は、ECU100の制御により、後述するオルタネータ400及びバッテリ500からの電力供給を受けて駆動され、ドライバが急激な制動操作を行った際に瞬時に最大のブレーキ踏力が得られるように、エアバルブを大気解放することが可能に構成されている。補足すると、このPBAシステムにより最大踏力でブースターピストンが駆動されると、マスターシリンダを介してブレーキアクチュエータ(即ち、本実施形態ではPB用アクチュエータ310)に付与される油圧が最大となるため、好適にはアンチロック制御が同時に実行される。
このように、車両10では、車両10が障害物に衝突する直前に、急制動が行われ車両10が減速せしめられると共に、シートベルトの着圧が高められドライバ(乗員)の保護が図られる。また、この際ドライバがブレーキ操作を行えば、そのブレーキ踏力は最大化され、最大の制動力が得られると共に、アンチロック制御による車両挙動の安定化が図られる。総じて、車両10の安全性が向上せしめられる。
図1に戻り、オルタネータ400は、エンジンのクランクシャフトに連結され、当該クランクシャフトの回転に応じて発電を行うことが可能に構成された、本発明に係る「発電機」の一例たる発電装置である。オルタネータ400は、ロータ、ステータ、レギュレータ及び整流ダイオード等(いずれも不図示)を備えた公知の構成を有する。即ち、オルタネータ400では、バッテリ500を介して励磁電流が供給されたロータがステータコイル内を回転することにより三相交流電圧が誘起され、レギュレータによる励磁電流の適宜の調整を受けてこの三相交流電圧は一定に維持される。また、この一定の三相交流電圧は、整流ダイオードによって直流電圧に変換される。このようにして発電された電力は、バッテリ500への充電又は車両10の各種電装品の駆動に供される構成となっている。尚、オルタネータ400は、ECU100と電気的に接続されており、その動作状態がECU100により上位に制御される構成となっている。従って、オルタネータ400からバッテリ500への発電電力の供給の有無並びに供給量(即ち、充電量)は、ECU100により制御される構成となっている。
バッテリ500は、オルタネータ400の発電電力を蓄電可能に構成された、本発明に係る「蓄電手段」の一例たるニッケル水素型の蓄電池である。バッテリ500は、オルタネータ400及び車両10の各種電装品と電気的に接続されており、オルタネータ400からの適宜の充電を受けつつ、蓄電電力を各種電装品に供給することが可能に構成されている。
SOCセンサ600は、バッテリ500のSOC(State Of Charge:充電状態)を検出することが可能に構成されたセンサである。SOCセンサ600は、ECU100と電気的に接続されており、SOCセンサ600により検出されたバッテリ500のSOC値(本実施形態では、完全放電状態を表す0(%)と満充電状態を表す100(%)との間で変化するものとする)は、ECU100により一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
<実施形態の動作>
<SOCの基本制御>
本実施形態において、バッテリ500のSOCは、予め設定された目標値SOCtagに維持制御される。車両10の動作期間(停止中又は走行中を問わない)においては、オルタネータ400によりその規模の大小はあるにせよ発電が行われており、その時点の電装品の消費電力を超えた剰余分に相当する発電電力が、バッテリ500に所定の充電速度で充電されている。この充電の過程においてバッテリ500のSOCが目標値SOCtagに到達すると、バッテリ500への充電は停止されSOCが目標値SOCtagに維持される。尚、オルタネータ400とバッテリ500との間でなされる充電の態様はこれに限定されず、公知の各種態様を採ってよい。
ここで、SOCの目標値SOCtagは、バッテリ500の物理的、機械的、電気的又は化学的寿命の延命化を図る観点から、満充電に相当する100%には設定されず、例えば概ね60〜70%程度の範囲で設定される。ところが、上述したように、本実施形態に係る車両10は、車両10の緊急時(即ち、前方障害物との衝突が回避され難い状況)において略同時に複数のアクチュエータの作動を伴うPCS300を備えている。このため、このPCS300の作動時には、バッテリ500の蓄電電力が瞬時的にしろ不足する可能性がある。そこで、本実施形態では、ECU100によりSOC制御が実行され、バッテリ500のSOCが好適に制御される構成となっている。
<SOC制御の詳細>
ここで、図3を参照し、SOC制御の詳細について説明する。ここに、図3は、SOC制御のフローチャートである。
図3において、ECU100は、ミリ波レーダ200から出射されたミリ波の反射波強度Prを取得する(ステップS101)。次にECU100は、この取得された反射波強度Prに基づいて、障害物候補の有無を判別する(ステップS102)。この際、ECU100は、取得された反射波強度Prが所定の閾値以上である物体を、障害物候補として抽出する。
尚、補足すると、本実施形態における「障害物」とは、典型的には車両10の走行経路上に存在する、車両10が回避すべき物体を指すが、好適な一態様としては、ドライバが回避動作を行わないと判断され得る状況、ドライバが回避動作を行い得ないと判断される状況、ドライバの回避動作が間に合わない状況、或いはドライバが回避すべき物体に気付いていない状況等における当該回避すべき物体を指す。即ち、ドライバが回避動作を行い得る身体的又は精神的状況にある場合、ドライバが回避動作を行い得るだけの時間的、空間的余裕が存在する場合、或いはドライバの回避動作が間に合うと判断され得る場合等には、言い換えれば平常時又はそれに準じる期間においては、これら回避すべき物体は、障害物となり得る物体、即ち「障害物候補」となる。従って、障害物候補と障害物とは、物体の物理的性質の観点から言えば同一の物体を示し得る。
障害物候補が存在しない場合(ステップS102:NO)、処理はステップS109に移行される。ステップS109に係る処理については後述する。一方、障害物候補が存在する場合(ステップS102:YES)、ECU100は、カウンタiをリセットして「0」に設定し(ステップS103)、続いてカウンタiを「1」インクリメントして(ステップS104)、第i番目の障害物候補の位置情報を取得する(ステップS105)。この位置情報には、既に述べたように障害物候補の車両10に対する相対速度Vr及び車両10から障害物候補までの距離Lが含まれる。第i番目の障害物候補についての位置情報が取得されると、第i番目の障害物候補に対する衝突予測時間TTCiが算出される(ステップS106)。尚、第i番目の障害物候補に対する衝突予測時間TTCiは、下記(1)式に従って算出される。
TTCi=Li/Vri・・・(1)
即ち、衝突予測時間TTCiとは、第i番目の障害物候補までの距離Liを、第i番目の障害物候補の相対速度Vriで除した値である。第i番目の障害物候補について衝突予測時間が算出されると、カウンタiが、障害物候補の総数Nに等しいか否か、即ち、全障害物候補について、衝突予測時間TTCiが算出されたか否かが判別される(ステップS107)。
尚、障害物候補の総数Nは、ステップS102に係る処理において、閾値を超えた反射波強度Prのピーク値の総数として把握されている。ECU100は、カウンタiがN未満である場合(ステップS107:NO)、ステップS104乃至ステップS106に係る処理が繰り返し実行される。
一方、全障害物候補について衝突予測時間TTCiが算出された旨の判別がなされると(ステップS107:YES)、ECU100は、衝突予測時間TTCiの最小値TTCminを決定する(ステップS108)。衝突予測時間の最小値TTCminが決定されると、可能性指標値Xが算出される(ステップS109)。
可能性指標値Xは、車両10に備わるPCS300が作動する可能性を規定する、本発明に係る「第1の指標値」の一例である。可能性指標値Xは、下記(2)式に従って算出される。
X=TTCth/TTCmin・・・(2)
尚、上記(2)式におけるTTCthは、PCS300(各アクチュエータの総称としてのPCS300)が、実践上バッテリ500の蓄電電力不足を生じさせかねない程度の電力消費を伴って作動する旨の時間である。当然ながら、基準値TTCthは、上述した各種アクチュエータの作動条件に対応付けられた値であり、本実施形態では、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて、PCS300を構成する各アクチュエータが同時に作動するものと判断し得る値に設定されている。
ここで、図4を参照し、可能性指標値XとPCS300が作動する可能性(以下、適宜「PCS作動可能性」と称する)との関係について説明する。ここに、図4は、可能性指標値XとPCS作動可能性との関係を表す特性図である。
図4において、PCS作動可能性は、可能性指標値XがX1以下となる範囲で下限値「0」、即ち0%に相当する値を採り、可能性指標値XがX2(X2>X1)以上となる範囲で上限値「100」、即ち100%に相当する値を採ると共に、可能性指標値XがX1より大きく且つX2未満となる範囲で可能性指標値Xに対しリニアに増加するように設定されている。尚、PCS作動可能性とは、あくまでも制御上設定される予測的な値であり、必ずしも図示するリニアな特性を有しておらずともよい。
ここで、上記(2)式を参照すれば、衝突予測時間の最小値TTCminが基準値TTCth未満となれば(即ち、可能性指標値Xが1よりも大きくなれば)、基準値TTCthの性質に鑑みて、PCS300を構成する各アクチュエータは確実に作動している旨の実践上の判断を下し得る。従って、図4におけるX2の値は、少なくとも本実施形態において「1」である。尚、図示「XA」及び「XB」並びにそれらに対応する「A」及び「B」の値については後述する。
図3に戻り、可能性指標値Xが算出されると、ECU100は、上述したバッテリ500のSOCの目標値SOCtagを決定する(ステップS110)。ここで、図5を参照し、SOCの目標値SOCtagの詳細について説明する。ここに、図5は、SOCの目標値SOCtagの特性を表す模式図である。
図5において、SOCtagは、上述したPCS作動可能性に応じた特性を採り、図示PRF_SOCtag1(実線参照)として表される。即ち、SOCtagは、PCS作動可能性がA(0<A)(%)以下の領域において基準値SOCbs(即ち、通常時の目標値であり、例えば上述した60〜70%程度の値)を採る一方、PCS作動可能性がB(A<B<100)(%)以上となる領域では100、即ち満充電に相当する値を採る。尚、この満充電に相当する数値は、バッテリ500の過充電を防止する観点から設定される、本発明に係る「上限値」の一例であり、バッテリ500の物理的、電気的又は化学的な要因により規定される絶対的な値であってもよいし、制御上の理由或いは何らかの制限に基づいた実質的又は現実的な上限値であってもよい。
ここで、図4に戻ると、PCS作動可能性がA(%)を採るのは、可能性指標値XがXAを採る場合であり、同様にB(%)を採るのは、可能性指標値XがXBを採る場合である。従って、図3に戻り、ECU100は、可能性指標値XがXA以下の領域では、SOCの目標値SOCtagを基準値SOCbsに、また可能性指標値XがXB以上となる領域では、SOCの目標値SOCtagを100に夫々設定し、可能性指標値XがXAより大きく且つXB未満となる領域では、可能性指標値Xに応じてSOCの目標値SOCtagを増加させる。
図4及び図5に例示する関係は、予めECU100のROMにSOCマップとして格納されており、ECU100は、ステップS110に係る処理において、当該SOCマップを参照し、ステップS109に係る処理で算出された可能性指標値Xに対応する一の値を選択的に取得することにより、SOCの目標値SOCtagを決定する。
SOCの目標値SOCtagが決定されると、ECU100は決定された目標値SOCtagに応じた蓄電制御を実行する(ステップS111)。即ち、バッテリ500のSOCが決定された目標値SOCtagに到達するまでバッテリ500への充電が継続される。その結果、バッテリ500の蓄電量が通常時(即ち、SOCの目標値SOCtagが基準値SOCbsを採る場合)と較べて増加する。
尚、ステップS102に係る処理において、障害物候補が存在しない旨の判別がなされた結果、ステップS109に処理が移行した場合には、可能性指標値Xは無条件にゼロに設定される。ステップS111に係る処理が実行されると、処理はステップS101に戻され、一連の処理が繰り返される。
以上説明したように、本実施形態に係るSOC制御によれば、本発明に係る「第1の指標値」の一例たる可能性指標値Xに基づいて、PCS作動可能性が上昇するのに伴ってSOCの目標値SOCtagが増加せしめられる。
従って、PCS300が実際に作動する場合にバッテリ500の蓄電電力が不足する事態が、何らこの種のSOC制御がなされない場合と比較して防止される。また、このようにSOCの目標値SOCtagに対しPCS作動可能性に応じた特性を付与することにより、バッテリ500を常時満充電に近い状態に維持することによるバッテリ500の物理的、機械的、電気的又は化学的な劣化が可及的に抑制される。即ち、本発明に係る「安全システム」の一例たるPCS300を効率的且つ効果的に作動させることが可能となるのである。
尚、本実施形態においては、ステップS108に係る処理において、衝突予測時間の最小値TTCminが決定され、当該最小値TTCminに基づいた(2)式に従って規格化された可能性指標値Xが算出されるが、安全システムたるPCS300の作動条件が満たされる可能性を規定する本発明に係る「第1の指標値」として、当該衝突予測時間の最小値TTCminそのものが使用されてもよい。また、本発明に係る第1の指標値は、このような衝突予測時間TTCに基づいたもの以外であってもよく、例えば、障害物との相対距離若しくは障害物との相対速度、横加速度、前後加速度、ヨーレイト、車速、車輪速若しくはサスストローク等の車両挙動の指標値、又はドライバの覚醒の度合い、前方注視の度合い若しくは運転技術等ドライバに起因する指標値等であってもよい。
また、本実施形態では、本発明に係る「蓄電量」を制御する要素として、SOCの目標値SOCtagが採用されているが、SOCtagを経由する形で間接的に蓄電量が制御される代わりに、蓄電量自体が制御の対象とされてもよい。
尚、本実施形態では、本発明に係る「蓄電手段」の一例としてニッケル水素型の蓄電池が示されているが、本発明に係る蓄電手段とは、これに限定されず、例えば、鉛蓄電池であってもよいし、キャパシタであってもよいし、リチウムイオン型或いはニッケルカドミウム型のバッテリ等であってもよい。
<第2実施形態>
次に、図6を参照し、本発明の第2実施形態に係るSOC制御について説明する。ここに、図6は、本発明の第2実施形態に係るSOC制御のフローチャートである。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。また、第2実施形態に係る車両の構成は、第1実施形態に係る車両10と等しいものとする。
図6において、可能性指標値Xを算出すると(ステップS109)、ECU100は、PCS作動可能性変化率を算出する(ステップS201)。ここで、図7を参照し、PCS作動可能性変化率について説明する。ここに、図7は、PCS作動可能性及びPCS作動可能性変化率の時間推移を例示する模式図である。
図7において、上段がPCS作動可能性(%)の時間特性であり、下段がPCS作動可能性変化率(%/sec)の時間特性である。始めにPCS作動可能性の特性を見ると、PCS作動可能性は、時刻T0においてゼロから上昇し始め、一つ目の波形の山を形成した後一旦減少し、更に時刻T2において再び上昇して時刻T3付近でピークを迎える。
一方、PCS作動可能性変化率とは、このPCS作動可能性の時間変化率であり、図示するように、時刻T1においてPCS作動可能性と同様に上昇し始めるものの、時刻T1においてPCS作動可能性の特性が変曲点を迎えるとゼロとなり更に負側で変化する。更に時刻T2においてPCS作動可能性が上昇に転じると、PCS作動可能性変化率は再び正側で変化を始め、時刻T3においてピーク値を迎える。このように、PCS作動可能性とPCS作動可能性変化率とは若干の差があり、端的な一例としては、PCS作動可能性自体が比較的高い値であっても、PCS作動可能性変化率は正負及び大小を問わず変化し得る。
ここで、車両10がPCS300の作動を必要とする緊急事態に陥り得る状況では、PCS作動可能性が時間的に急激に変化する傾向がある。反面、PCS作動可能性が、その値によらず時間的に緩慢な変化を示す場合、或いは減少傾向を示す場合、車両10は、例えPCS作動可能性が高いとしてもPCS300の作動を必要としない場合がある。即ち、PCS作動可能性変化率は、バッテリ500の蓄電量を制御する際の指標、即ち、本発明に係る「第1の指標値」の一例として利用することができる。
図6に戻り、ECU100は、ステップS109に係る処理において、時系列的に新しいものから順に所定数量の可能性指標値Xをサンプル値としてRAM等に保持しており、ステップS201に係る処理では、係る保持された過去複数の可能性指標値Xと、図4に例示した可能性指標値XとPCS作動可能性との相互関係とに基づいて、PCS作動可能性変化率を算出する。
ステップS201に係る処理においてPCS作動可能性変化率が算出されると、ECU100は、充電速度倍率chgを取得する。ここで、図8を参照し、充電速度倍率chgについて説明する。ここに、図8は、充電速度倍率chgとPCS作動可能性変化率との関係を例示する模式図である。
図8において、充電速度倍率chgとは、オルタネータ400からバッテリ500へ充電を行う際の基本充電速度に対する倍率であり、本発明に係る「蓄電速度」を間接的に規定する指標値である。図8において、充電速度倍率chgの特性は、図示PRF_chg1(実線参照)として表される。即ち、充電速度倍率chgは、PCS作動可能性変化率がC(%/sec)以下の領域では「1」であり、この領域では充電速度は基本充電速度に設定される。一方、PCS作動可能性変化率がCよりも大きい領域では、充電速度倍率chgはPCS作動可能性変化率に応じてリニアに増加する。このように、充電速度倍率chgは、PCS作動可能性変化率の上昇に伴って上昇するように設定される。
図6に戻り、ECU100は、図8に例示した充電速度倍率chgの特性に相当する充電速度倍率マップを予めRAMに保持しており、ステップS202に係る処理において、当該充電速度倍率マップからステップS201に係る処理において算出されたPCS作動可能性変化率の値に対応する一の値を選択的に取得することにより、充電速度倍率chgを取得する。
充電速度倍率chgが取得されると、ECU100は蓄電制御を実行し(ステップS111)、処理をステップS101に戻して一連の処理を繰り返す。ステップS111に係る処理では、ステップS202に係る処理において取得された充電速度倍率chgが適用され、PCS作動可能性変化率がCよりも大きい領域では、充電速度が基本充電速度よりも上昇せしめられ、SOCが目標値SOCtagに到達するまでの時間が短縮化される。尚、このような充電速度の設定態様は、本発明に係る「第1の指標値における前記可能性が上昇する方向への変化の度合いが増加するのに伴って上昇するように前記蓄電速度を制御する」旨の一例であり、無論、第1の指標値に応じてなされる蓄電量の制御の一例である。
補足すると、本実施形態では、本発明に係る「蓄電量」を制御する要素の一例として充電速度が採用され、PCS作動可能性変化率に応じて(概念的には無論、PCS作動可能性に応じて)当該充電速度が制御される。上述したように、PCS作動可能性変化率は、場合によりPCS作動可能性よりも高精度にPCS300が作動する可能性を規定し得る。従って、PCS作動可能性変化率に応じて充電速度が可変に設定されることにより、バッテリ500のSOCを好適に制御することが可能となるのである。
尚、図6では、説明の煩雑化を防ぐ目的から、第1実施形態において説明したSOCの目標値SOCtag設定に係るプロセスが省略されているが、充電速度倍率chgによる充電速度の設定は、SOCの目標値SOCtagとは独立して実行可能であり問題はない。但し、第1実施形態に係るSOCtagの設定制御と並行して、本実施形態に係る制御が実行された場合、例えば、PCS作動可能性が比較的高い領域でPCS作動可能性変化率が上昇した場合には、バッテリ500のSOCを、比較的高い目標値SOCtagまで、より高速に上昇させ得るためより効率的且つ効果的である。
<第3実施形態>
次に、図9を参照し、本発明の第3実施形態に係るSOC制御について説明する。ここに、図9は、本発明の第3実施形態に係るSOC制御のフローチャートである。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。また、第3実施形態に係る車両の構成は、第1実施形態に係る車両10と等しいものとする。
図9において、衝突予測時間の最小値TTCminを決定すると、ECU100は、本発明に係る「第3の指標値」の一例として、バッテリ500の劣化の度合い(以下、適宜「バッテリ劣化度」と称する)を推定する(ステップS301)。
ここで、バッテリ500の劣化は、無論物理的、機械的、電気的又は化学的な各種要因により生じ得るが、いずれにせよバッテリ500の劣化には、幾らかなり充電効率の低下或いは蓄電能力の低下が伴い得る。そこで、ECU100は、オルタネータ400からバッテリ500への充電に供される電力の値と、バッテリ500のSOC(SOCセンサ600により検出される)の変化量とに基づいてバッテリ500の充電効率を算出し、劣化が生じていない(即ち、劣化度がゼロである)状態(即ち、正常状態)のバッテリ500における充電効率の値に対する低下の度合いとして、推定値としてのバッテリ劣化度を算出する。尚、バッテリ500が正常状態にある場合の充電効率の値は、既知の値として予めROMに格納されている。
但し、バッテリ劣化度を推定する手法としては、公知の各種手法が用いられてよく、またステップS301に係る処理では、少なくとも基準状態に対して実践上無視し得ない劣化が生じているか否かの二値状態が推定できればよく、その点に鑑みれば、より簡素な手法、例えば、バッテリ500の電圧値が基準値に対し低下しているか否か、或いはバッテリ500が前回交換されてよりどの程度の期間が経過しているか等の情報からバッテリ劣化度が推定されてもよい。或いは、ECU100は、バッテリ500からの電力供給量とSOCの変化量との関係に基づいてバッテリ劣化度を推定することも可能である。即ち、バッテリ500の蓄電能力が劣化により低下していれば、本来車両10の各種電装品に対しバッテリ500から供給される電力以上に、バッテリ500の蓄電量は低下するからである。
一方、ステップS109に係る処理で可能性指標値Xが取得されると、ECU100は、バッテリ500のSOCの目標値SOCtagを決定する(ステップS302)。ここで、ステップS302に係る処理は、第1実施形態におけるステップS110に係る処理と基本的に同等であるが、ステップS301に係る処理において推定されたバッテリ劣化度が考慮される点において、当該処理と異なっている。
ここで、図10を参照し、第3実施形態に係るSOCtagについて説明する。ここに、図10は、SOCtagの他の模式図である。尚、同図において、図5と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図10において、第1実施形態に係るSOCtagの特性(即ち、PRF_SOCtag1)は、バッテリ劣化度がゼロ、即ち正常状態のバッテリ500に対応する特性(以下、この正常状態における特性に属する値を適宜「正常値」と称することとする)として扱われる。一方、バッテリ劣化度がゼロでない、即ち、バッテリ500に有意な劣化が生じている場合、SOCの目標値SOCtagは、SOCtagの正常値に対し、バッテリ劣化度に応じて二値的に、段階的に又は連続的に変化する正のオフセット(補正量)を付与した値に補正される。但し、上限値は、満充電に相当する「100」のまま維持される。
図10において、このバッテリ劣化度に応じた補正を経たSOCtagの特性の一例が、図示PRF_SOCtag2(破線参照)として表される。PRF_SOCtag2より明らかな通り、この補正によって、一部の不感帯及び上限値に律束される部分を除けば、一のPCS作動可能性に対するSOCtagの値は、バッテリ劣化度の上昇に伴って増加する。
一方、別の見方をすれば、この補正によって、SOCtagが上限値に到達するPCS作動可能性の値(後述する前者)は減少する。また、SOCtagの連続性を担保する観点から、このようにSOCtagの正常値に正のオフセットが付与された場合には必然的に、SOCtagが不感帯を脱して基準値SOCbsから上昇し始める閾値に相当するPCS作動可能性の値(後述する後者)も減少する。図示PRF_SOCtag2を参照すれば、前者は第1実施形態に係るAからE(E<A)に減少し、後者は第1実施形態に係るBからD(D<B)に減少する。
ここで、PCS作動可能性は、例えば図7に例示するように、必ずしも時間経過と共にリニアに増加する数値ではないが、少なくともPCS作動可能性が同一の時間経過を辿る場合同士で較べれば、PCS作動可能性がより低い領域にある時点からSOCtagの変更が開始されることにより、SOCtagが基準値から変更される時期が時系列上前倒しされることとなる。言い換えれば、PCS作動可能性に基づいたバッテリ500への充電(即ち、平常時の充電は除く)の開始時刻が前倒しされることとなる。尚、既に述べたように、SOCtagの正常値に対し付与されるべき正のオフセット量は、バッテリ劣化度に応じて二値的、段階的又は連続的に可変であり、PCS作動可能性の前倒しの度合い(或いは、充電開始時刻の前倒し量)もまた同様に可変である。
図9に戻り、ECU100は、予めROMに、バッテリ劣化度に対するPCS作動可能性の前倒し量又はSOCtagのオフセット量を規定する補正量マップを保持しており、ステップS302に係る処理では、この補正量マップからステップS301に係る処理で得られたバッテリ劣化度に対応する適切な補正量が選択的に取得され、或いは適宜補間処理を経て取得され、第1実施形態において既に説明したSOCマップと、この取得された補正量とに基づいて、バッテリ劣化度を考慮したSOCtagが決定される。
尚、少なくともSOCtagの正常値が図10の如き特性を採る場合には、当該前倒し量及びオフセット量のうち一方が取得されれば、他方を数値演算処理により確定することが可能である。
本実施形態では、このようにバッテリ劣化度に応じて二値的に、段階的に又は連続的に、SOCtagの正常値が補正される。その結果、一のPCS作動可能性に対するSOCtagの値が増加せしめられ、同時にPCS作動可能性に基づいたバッテリ500への充電(即ち、平常時の充電は除く)の開始時刻が前倒しされる。
バッテリ500に劣化が生じている場合、バッテリ劣化度に応じてバッテリ500への充電に要する時間は長大化し、且つまた蓄電能力も低下し得るが、このように充電開始時刻が早まることにより、また一のPCS作動可能性に対するSOCtagが増加せしめられることにより、バッテリ500に劣化が生じていることに起因する充電効率及び蓄電能力の低下が補償され、バッテリ500の劣化状態によらず、PCS300の作動時にバッテリ500から実践上十分な電力を供給することが可能となる。即ち、本実施形態によれば、安全システムたるPCS300を、効率的且つ効果的に作動させることが可能となるのである。
尚、説明の煩雑化を防ぐ目的から、フローチャートの例示は省略するが、上述したバッテリ劣化度は、既に説明した本発明の第2実施形態に係る充電速度倍率chgに対しても適用可能である。ここで、図11を参照し、バッテリ劣化度の概念が適用された場合の充電速度倍率chgの特性について説明する。ここに、図11は、充電速度倍率chgとPCS作動可能性変化率との関係を例示する他の模式図である。尚、同図において、図8と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図11において、第2実施形態に係る充電速度倍率chgの特性(即ち、PRF_chg1)は、バッテリ劣化度がゼロ、即ち正常状態のバッテリ500に対応する特性(以下、この正常状態における特性に属する値を適宜「正常値」と称することとする)として扱われる。一方、バッテリ劣化度がゼロでない、即ち、バッテリ500に有意な劣化が生じている場合、充電速度倍率chgは、充電速度倍率chgの正常値に対し、バッテリ劣化度に応じて二値的に、段階的に又は連続的に変化する正のオフセット(補正量)を付与した値に補正される。
図11において、このバッテリ劣化度に応じた補正を経た充電速度倍率chgの特性の一例が、図示PRF_chg2(破線参照)として表される。PRF_chg2より明らかな通り、この補正によって、一部の不感帯を除けば、一のPCS作動可能性に対する充電速度倍率chgの値は、バッテリ劣化度の上昇に伴って増加する。また、充電速度倍率chgの連続性を担保する観点から、このように充電速度倍率chgの正常値に正のオフセットが付与された場合には必然的に、充電速度倍率chgが不感帯を脱して基準値から上昇し始める閾値に相当するPCS作動可能性の値は減少する。図示PRF_chg2を例に採ると、充電速度倍率chgが基準値から上昇し始める閾値に相当するPCS作動可能性の値は、第2実施形態に係るCからF(F<C)に減少する。
このように、充電速度倍率chgに対しバッテリ劣化度に応じた補正を施すことによって、充電速度倍率chgが基準値よりも増速されるタイミングが前倒しされ、また一のPCS作動可能性に対する充電速度倍率chgが増大する。その結果、バッテリ500に劣化が生じていることに起因する充電効率の低下(別言すれば、バッテリ500側に起因する充電速度)及び蓄電能力の低下が補償され、バッテリ500の劣化状態によらず、PCS300の作動時にバッテリ500から実践上十分な電力を供給することが可能となる。
<第4実施形態>
次に、図12を参照し、本発明の第4実施形態に係る車両11の構成について説明する。ここに、図12は、車両11において本発明に係る車両の制御装置に関連する部分の構成を概念的に表してなるブロック図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図12において、車両11は、バッテリ500に代えて第1バッテリ510及び第2バッテリ520を備え、SOCセンサ600に代えてSOCセンサ610及び620を備える点において、第1実施形態に係る車両10と相違している。SOCセンサ610及びSOCセンサ620は、夫々第1バッテリ510及び第2バッテリ520のSOCを検出可能に構成され、夫々ECU100と電気的に接続されている。
第1バッテリ510及び第2バッテリ520は、いずれも第1実施形態と同様にニッケル水素型の蓄電池であり、いずれも車両11の各種電装品及びPCS300に対しその蓄電電力を供給することが可能に構成されているが、各々物理特性が相違しており、第1バッテリ510は、第2バッテリ520と較べて蓄電速度が高い性質を有している。ここで述べられる蓄電速度とは、単位時間当たりに蓄積可能な電力の値であり、本発明に係る「第2の指標値」の他の一例である。尚、第2実施形態に係る充電速度も、バッテリの蓄電速度を規定し得る指標であるが、ここで述べられる蓄電速度とは、バッテリが物理的、電気的又は化学的性質として有する蓄電速度である。
尚、オルタネータ400は、その発電電力を、第1バッテリ510及び第2バッテリ520のいずれにも充電することが可能に構成されており、且つその配分比率も自由に設定可能である。この配分比率は、オルタネータ400と電気的に接続されたECU100により制御される構成となっている。
次に、図13を参照し、車両11におけるSOC制御について説明する。ここに、図13は、本発明の第4実施形態に係るSOC制御のフローチャートである。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図13において、可能性指標値Xを算出すると(ステップS109)、ECU100は、オルタネータ400の発電電力を第1バッテリ510及び第2バッテリ520に分配するに際しての分配比率を決定する(ステップS401)。ここで、図14を参照し、分配比率について説明する。ここに、図14は、分配比率の一例を示す特性図である。
図14において、第1バッテリ510に対応する分配比率の特性は、PRF_BAT510(実線参照)として、また第2バッテリ520に対応する分配比率の特性は、PRF_BAT520(破線参照)として表される。図示するように、各分配比率の総和は100(%)であり、PCS作動可能性が50%である場合に各分配比率が50%となるように各々が設定されている。また、PCS作動可能性が50%よりも低い低可能性領域では、第1バッテリ510に対応する分配比率は50%よりも低く(即ち、第2バッテリ520に対応する分配比率は50%よりも高く)なり、PCS作動可能性が50%よりも高い高可能性領域では、第1バッテリ510に対応する分配比率は50%よりも高く(即ち、第2バッテリ520に対応する分配比率は50%よりも低く)なる。この際、増加及び減少の傾向はリニアである。
図13に戻り、ECU100は、予めROMに、図14に示す分配比率の関係を規定する分配比率マップを保持しており、ステップS401に係る処理では、係る分配比率マップから、ステップS109に係る処理で得られた可能性指標値Xに対応する一の分配比率を選択的に取得する。分配比率が決定されると、決定された分配比率に従って蓄電制御が実行される(ステップS111)。
尚、本実施形態では、本発明に係る第2の指標値として、蓄電速度が採用されており、当該分配比率マップの中に、既にこの蓄電速度の概念が盛り込まれている。従って、表面上(制御上)は、本発明に係る「第2の取得手段」に係る動作が現れないが、係る分配比率マップから選択的に一の分配比率を取得することにより、本発明に係る第2の指標値の取得が間接的に行われている。即ち、本実施形態では、本発明に係る「第2の取得手段」及び「決定手段」の動作が併合されている。
ここで、低可能性領域と高可能性領域とでは、第1バッテリ510及び第2バッテリ520を包括するバッテリシステム全体に要求される(PCS作動可能性を考慮した上で要求される)蓄電電力に自ずと差が生じ、端的に言えば前者は低く、後者は高い。従って、要求される電力が低い低可能性領域において蓄電速度の低いバッテリ520への蓄電が優先され、高可能性領域において蓄電速度の高いバッテリ510への蓄電が優先されることによって、バッテリシステム全体の蓄電電力を効率的に且つ確実に増加させつつ、一方で必要とされる電力を確実に確保することが可能となる。即ち、本実施形態によれば、複数の蓄電手段が存在する場合に、効率的に且つ効果的に安全システムを作動させることが可能となるのである。
尚、分配比率の特性は、図14に示すものに限定されない。例えば、分配比率には、図15、図16又は図17に示す特性が付与されていてもよい。ここに、図15は、分配比率の他の一例を示す特性図である。尚、同図において図14と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図15において、第1バッテリ510に対応する分配比率は、低可能性領域では0%(即ち、第2バッテリ520に対応する分配比率が100%)であり、高可能性領域では100%(即ち、第2バッテリ520に対応する分配比率が0%)である。PCS作動可能性が50%である場合、いずれか一方が100%である。このように、言わば常にいずれか一方のバッテリが充電に供されたとしても、本実施形態に係る利益は好適に担保される。
また、図14及び図15では、分配比率の特性がいずれにせよリニアであるが、総体的な傾向として、PCS作動可能性が低い(必ずしも50%を境界とせずともよい)領域において蓄電速度が低いバッテリ(ここでは、第2バッテリ520)への充電が優先され、PCS作動可能性が高い(同じく50%を境界とせずともよい)領域において蓄電速度が高いバッテリ(ここでは、第1バッテリ510)への充電が優先される限りにおいて、本実施形態に係る利益は変らず享受される。
尚、本実施形態において、第1バッテリ510及び第2バッテリ520はいずれもニッケル水素型の蓄電池であるがいずれか一方が異なる種類の蓄電手段であってもよい。
<第5実施形態>
次に、図16を参照し、本発明の第5実施形態に係る車両12の構成について説明する。ここに、図16は、車両12において本発明に係る車両の制御装置に関連する部分の構成を概念的に表してなるブロック図である。尚、同図において、図12と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図16において、車両12は、第1バッテリ510に代えて第1バッテリ530を、第2バッテリ520に代えて第2バッテリ540を備える点において第4実施形態に係る車両11と相違している。尚、SOCセンサ610は、第1バッテリ530のSOCを、またSOCセンサ620は、第2バッテリ540のSOCを夫々検出する構成となっており、夫々ECU100と電気的に接続されている。
図16において、第1バッテリ530及び第2バッテリ540は、いずれも第4実施形態と同様にニッケル水素型の蓄電池であり、いずれも車両12の各種電装品及びPCS300に対しその蓄電電力を供給することが可能に構成されており、且つ相互に物理的、電気的及び化学的特性の等しい同種のバッテリである。
このように同種のバッテリを複数備えた車両12では、第4実施形態に示した車両11のように、蓄電速度の有意な差は生じない。然るに、同種のバッテリであっても、その時点の蓄電量に応じて、蓄電速度が異なる。より具体的には、第1バッテリ530及び第2バッテリ540は、いずれも蓄電量が増加するに連れて蓄電速度が低下する蓄電特性を有している。従って、各々における蓄電量は、各バッテリにおける蓄電の容易性を規定する指標となる。即ち、本実施形態では、SOCセンサ610及び620により検出される各バッテリのSOC値(即ち、蓄電量と一義的である)が、本発明に係る「第2の指標値」の一例として使用される。また、過充電を防止する観点から設定される実質的な上限値であるにせよ、バッテリにおいて物理的、電気的又は化学的な理由により規定される絶対的な上限値であるにせよ各バッテリの蓄電量に上限値が存在する点に鑑みれば、蓄電量が多い程蓄電の容易性が低下するとも言える。
本実施形態においてECU100により実行されるSOC制御は、図13に示す第4実施形態のものと表現上同等であり、ここでは割愛するが、ステップS401に係る処理の内容が第4実施形態と相違する構成となっている。即ち、ステップS401に係る処理において、ECU100は、各バッテリのSOCに基づいて、発電電力の分配比率を決定する。ここで、図17を参照し、本実施形態における分配比率の決定態様について説明する。ここに、図17は、第5実施形態に係る分配比率の一例を示す特性図である。
図17において、本実施形態に係る分配比率は、蓄電余力偏差ΔSOCに対応付けられている。ここで、蓄電余力偏差ΔSOCは、第1バッテリ530のSOC値と第2バッテリ540のSOC値との偏差であり、第1バッテリ530のSOCの方が高い場合には正側に、第2バッテリ540のSOCの方が高ければ負側に夫々変化する。蓄電速度は既に述べたように蓄電量と関係があるため、蓄電余力偏差ΔSOCが負側にあれば、第1バッテリ530への充電の方が容易性に優れ(即ち、蓄電速度及び蓄電余力の双方が高い)、蓄電余力偏差ΔSOCが正側にあれば、第2バッテリ540への充電の方が容易性に優れる。
このため、第1バッテリ530に対応する分配比率(図示PRF_BAT530(実線参照))は、蓄電余力偏差ΔSOCが−Δmin未満の低偏差領域にある場合に、蓄電余力偏差Δminの絶対値に応じて上昇するように、また蓄電余力偏差ΔSOCがΔminより大きい高偏差領域にある場合に当該絶対値に応じて減少するように、夫々設定される。反対に、第2バッテリ540に対応する分配比率(図示PRF_BAT540(破線参照))は、低偏差領域において減少し、高偏差領域において上昇するように夫々設定される。この際、増加及び減少の傾向はリニアである。
一方、蓄電余力偏差ΔSOCが−Δmin以上Δmin以下となる不感帯領域では、蓄電速度に実質的な差が生じないため、分配比率は50%に設定される。この不感帯領域を規定するΔminの絶対値は、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて、蓄電システム全体の蓄電量に有意な差を生じさせない程度の蓄電量の偏差として設定されていてもよい。
本実施形態に係るSOC制御では、ECU100が、図17に示す関係に相当する分配比率マップを予めROMに保持しており、SOCセンサ610及び620により検出される第1及び第2バッテリのSOCに基づいて蓄電余力偏差ΔSOCを算出すると共に、当該算出された蓄電余力偏差ΔSOCに対応する一の分配比率を当該分配比率マップから選択的に取得することにより、分配比率を決定する。ステップS111に係る処理では、この決定された分配比率に従って少なくとも一方のバッテリに対する蓄電制御が実行される。この際、PCS作動可能性に応じたSOCの目標値SOCtagの設定は、無論並行して実行され、この場合各バッテリに対しPCS作動可能性に応じたSOCの目標値SOCtagが設定される。
このように、本実施形態によれば、PCS作動可能性に応じたSOCの目標値SOCtagの設定により蓄電量を効率的且つ効果的に増加せしめ得ると共に、その時点でより蓄電が容易なバッテリへ優先して蓄電制御が実行されることにより、蓄電システム全体として蓄電電力を効率的に上昇させることが可能となる。従って、車両12に備わる安全システムとしてのPCS300を効率的且つ効果的に作動させることが可能となる。
尚、本実施形態に係る分配比率の特性は、図17に示すものに限定されない。例えば、分配比率には、図18に示す特性が付与されていてもよい。ここに、図18は、第5実施形態に係る分配比率の他の一例を示す特性図である。尚、同図において図17と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図18において、第1バッテリ530に対応する分配比率は、低偏差領域では100%(即ち、第2バッテリ540に対応する分配比率が0%)であり、高偏差領域では0%(即ち、第2バッテリ540に対応する分配比率が100%)である。尚、不感帯領域については図17と同様である。このように、その時点でより蓄電の容易性の高いバッテリのみへ蓄電がなされた場合にも、本実施形態に係る効果は好適に担保される。また、図17及び図18では、分配比率の特性がいずれにせよリニアであるが、総体的な傾向として、SOCの値が低い方の(低い程蓄電速度が高いとして)バッテリに対し優先的に充電がなされる限りにおいて、特性がリニアであれ曲線であれ、本実施形態に係る利益は変らず享受される。
<第6実施形態>
次に、図19を参照し、本発明の第6実施形態に係る車両13の構成について説明する。ここに、図19は、車両13において本発明に係る車両の制御装置に関連する部分の構成を概念的に表してなるブロック図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図19において、車両13は、ミリ波レーダ200を有さず、ヘッドライト700及び車速センサ800を有する(車両10にも無論、不図示のヘッドライト及び車速センサは備わる)点において、第1実施形態に係る車両10と相違している。
図19において、ヘッドライト700は、車両13の前方領域の視認性を向上させるべく所定の光源から可視光線を照射することが可能に構成された、本発明に係る「前照灯」の一例である。ヘッドライト700は、有効照射距離の異なるハイビーム及びロービームの二種類の照射モードを備えており、ヘッドライト700と電気的に接続されてなるECU100によりその動作が制御される構成を有している。
車速センサ800は、車両13の車速Vを検出することが可能に構成されたセンサである。車速センサ800は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100により一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
係る構成を有する車両13においては、ECU100によりSOC制御が実行される。ここで、図20を参照し、本実施形態に係るSOC制御の詳細について説明する。ここに、図20は、本発明の第6実施形態に係るSOC制御のフローチャートである。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図20において、ECU100は、ヘッドライト700が点灯中であるか否かを判別する(ステップS501)。ヘッドライト700が点灯中でない場合(ステップS501:NO)、処理はステップS501に戻され、実質的に処理は待機状態に制御される。一方、ヘッドライトが点灯中である場合(ステップS501:YES)、ECU100は、照射範囲外到達時間TLを算出する(ステップS502)。
ここで、照射範囲外到達時間TLは、下記(3)式に従って算出される。
TL=Lhl/V・・・(3)
ここで、Vは、車速センサ800により検出された車両13の車速であり、Lhlは、ヘッドライト700の照射距離である。照射距離Lhlは、予めハイビーム及びロービームの各々について、ROMに固定値として格納されており、ECU100は、その時点で選択されている照射モードに対応する値をROMから選択することにより、照射距離Lhlを取得する。尚、照射距離Lhlは、例えば車両13周囲の環境条件(例えば、降雨量、降雪量或いは濃霧の度合い等)に応じて適宜補正されてもよい。このように、照射範囲外到達時間TLとは、車両13がヘッドライト700の照射範囲外に到達するまでの時間である。
照射範囲外到達時間TLが算出されると、ECU100は、算出された照射範囲外到達時間TLに基づいて、バッテリ500のSOCの目標値SOCtagを決定する(ステップS503)。ここで、図21を参照し、照射範囲外到達時間TLとPCS作動可能性との関係について説明する。ここに、図21は、照射範囲外到達時間TLに対するPCS作動可能性の特性を表す模式図である。
図21において、PCS作動可能性は、照射範囲外到達時間TLが下限値TL1以下となる領域において100%に設定され、照射範囲外到達時間TLが上限値TL2以上となる領域において0%に設定される。また照射範囲外到達時間TLが下限値TL1より大きく且つ上限値TL2未満となる領域では、PCS作動可能性は、照射範囲外到達時間TLの増加に伴いリニアに減少する。
この際、上限値TL2は、予め実験的に、経験的に、理論的に又は人間工学等に基づいたシミュレーション等により、当該照射範囲外に障害物が存在していた場合にドライバが障害物回避のための諸動作を問題なく行い得る時間として設定される。また、下限値は、同様にドライバが障害物回避のための諸動作を行うことが困難である旨の判断を下し得る時間として設定される。但し、照射範囲外到達時間の増加に伴いPCS作動可能性が減少する旨の定性的な傾向を有する限りにおいて、上下限値の設定態様及びPCS作動可能性の変化特性は限定されない。
図20に戻り、ECU100は、予めROMに、図20に例示する関係に相当するマップを保持しており、ステップS503に係る処理においては、当該マップからステップS502に係る処理で算出された照射範囲外到達時間TLに対応する一のPCS作動可能性の値を選択的に取得することによって、PCS作動可能性を特定すると共に、図5に例示する関係(即ち、PCS作動可能性とSOCtagとの関係)を規定するマップに基づいて、第1実施形態と同様にSOCの目標値SOCtagを決定する。
このように、本実施形態によれば、ヘッドライト700の照射距離Lhlと車速Vとに基づいて、PCS300が作動する可能性を好適に推定可能であり、バッテリ500のSOCを効率的且つ効果的に制御することが可能となって、安全システムたるPCS300を効率的且つ効果的に作動させることが可能となるのである。
尚、本実施形態では、ヘッドライトが照射されているか否かのみを判断基準としてステップS502以降の処理が実行されているが、例えば、日中や明るい場所で誤って或いは何らかの理由からヘッドライトの点灯操作がなされる場合もある。そのような場合には、照射距離Lhlよりも遠い場所も十分に視認可能である場合が多く、本実施形態の有意性が低下しかねない。そこで、車両13は、車両周囲の明るさを検出する、例えば明るさセンサ等の検出手段を備え、当該検出手段による車両周囲の明るさをステップS502以降の処理を実行するか否かの判断基準として利用してもよい。この際、更に、当該明るさに応じて、上記(3)式における照射距離Lhlが適宜二値的に、段階的に又は連続的に補正されてもよい。
尚、このような照射範囲外到達時間TLに基づいたSOCtagの決定(言い換えれば、PCS作動可能性の推定)は、上記各実施形態における衝突予測時間TTCに基づいたSOCtagの決定と相容れないものではなく、これらを相互に協調的に取り扱うことにより、より効果的にSOCtagを決定することが可能となる。例えば、衝突予測時間TTCに基づいたSOCtagと照射範囲外到達時間TLとのうち、より高い方の値が選択されてもよいし、一方が他方に基づいて適宜補正されてもよい。この場合、無論車両13は、上記各種実施形態と同様にミリ波レーダ200を備えるのが好適である。
<変形例>
尚、PCS作動可能性に基づいたSOCの目標値SOCtagの設定態様は、上記各種実施形態のものに限定されない。ここで、図22を参照し、本発明の変形例に係るSOCtagの特性について説明する。ここに、図22は、SOCtagの他の特性を表す模式図である。尚、同図において、図5と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図22において、SOCの目標値SOCtagは、PCS作動可能性が上昇している間は、PRF_SOCtag1(実線参照)に沿って変化するが、何らかの理由により、PCS作動可能性が低下し始めた場合(図中では、PCS作動可能性がBに到達した時点から減少し始めた旨が例示される)、予め設定されたヒステリシス特性に従って減少する。
このヒステリシス特性を与えられたSOCtagの特性が、図示PRF_SOCtag1rev(鎖線参照)である。このようにヒステリシス特性が与えられることによって、制御上のハンチングが防止され、SOCtagが実践上意味を為さない範囲で頻繁に切り替わることによる負荷の増大及び劣化の進行が防止される。
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
10…車両、100…ECU、200…ミリ波レーダ、300…PCS、310…PB用アクチュエータ、320…PSB用アクチュエータ、330…PBA用アクチュエータ、400…オルタネータ、500…バッテリ、510…第1バッテリ、520…第2バッテリ、530…第1バッテリ、540…第2バッテリ、600…SOCセンサ、610…SOCセンサ、620…SOCセンサ。