ところで、送信機と受信機が互いに移動しながら通信を行うような場合において、受信側のユーザが送信側とのおおよその距離を知りたいことがある。このニーズに応えるために、例えば海上を移動する船舶間に用いられる無線通信機等には、信号の受信強度を示す表示器が備えられている。信号は距離によって減衰する特性を有しているので、受信側のユーザは、この表示器が示す信号レベルが強い場合には送信側の船舶が近い位置にいると判断し、信号レベルが弱い場合には送信側の船舶が遠い位置にいると判断することができる。
しかし、ユーザは無線通信機の前で常時待機している訳ではなく、無線通信機の動作中に当該無線通信機から離れていることも考えられる。この場合は表示器の値を確認することができないため、距離を把握することができなかった。特に船舶等では、無線通信機に音声を出力させながら当該無線通信機から離れた位置で別の作業をすることも多いため、作業中に表示器を確認することは困難であった。
なお、前記特許文献1は、AMステレオ受信機において、フラットでないAGC特性を持たせることがしばしば有効である旨を指摘している。しかしながら、この特許文献1の指摘は、非フラットなAGC特性によって帯域の中心を感知し易くなり、受信機の同調を容易にできる旨を述べるにとどまり、他の具体的な利用目的を開示するものではない。
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、入力される信号レベルの強弱を利用することで、送信機から受信機までの距離をユーザが聴覚により直感的に把握できるように音声信号を出力する構成を安価に実現した無線通信機を提供することにある。
課題を解決するための手段及び効果
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
本発明の第1の観点によれば、受信部にAGC回路を備える無線通信機において、以下の構成が提供される。即ち、無線通信機は、利得増幅器と、検波器と、ローパスフィルタと、を備える。前記利得増幅器は、受信した信号を増幅する。前記検波器は、前記利得増幅器によって増幅された信号を復調して出力する。前記ローパスフィルタは、前記利得増幅器によって増幅される前の入力信号が入力されるとともに、前記検波器から出力された出力信号が入力される。そして、前記AGC回路は、復調した信号の出力レベルが基準値以上であるときは、通信機間の距離に応じて前記入力信号の信号レベルが減衰することを利用して、当該入力信号の信号レベルに応じて前記利得増幅器の増幅度を変更する自動利得制御を行う。この自動利得制御が行われることで、信号レベルに応じた大きさの出力信号が前記検波器から出力され、これにより通信機間の遠近感を擬似的に表現する。
これにより、出力レベルが過剰に大きくなることを抑制しつつ、出力レベルが基準値以上のときでも、送信機から受信機までの距離に応じて減衰する信号レベルの強弱に応じた出力信号を得ることができる。従って、送信機から受信機までの距離が長い場合には出力される音量を小さくし、逆に距離が短い場合には音量を大きくすることで、ユーザは送信機から受信機までのおおよその距離を聴覚により直感的に把握できる。また、信号レベルが距離によって減衰する特性を利用しているので、送信機側に特別な構成を付加する必要もなく、AGC回路だけの簡素な構成で音声通信における遠近感を表現できる。更に、送信機から受信機までの距離が変化することによって生じる信号レベルの変化をローパスフィルタによって精度良く取り出すことができるので、現実の送信機から受信機までの距離を音量に反映することができる。
前記の無線通信機においては、以下のように構成されることが好ましい。前記ローパスフィルタは、前記利得増幅器によって増幅される前の前記入力信号と、前記検波器から出力された前記出力信号と、に基づいて増幅度を変更する制御信号を前記利得増幅器に送信することが好ましい。
これにより、ローパスフィルタによって生成される制御信号によって利得増幅器が制御されることになり、基準値以上であっても、入力信号に応じて出力信号のレベルが変化するAGC回路の簡素な構成を実現できる。
前記の無線通信機においては、前記AGC回路はDSP回路として構成されていることが好ましい。
これにより、受信した信号レベルに応じたレベルの信号を出力する処理を、デジタル信号処理によって簡素かつ容易に実現することができる。
前記の無線通信機においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、無線通信機は、当該無線通信機が使用されている環境の変化を検出し、前記ローパスフィルタにその検出信号を送信可能に構成される環境検出部を備える。前記ローパスフィルタは、前記環境検出部の検出信号に応じた制御信号を前記利得増幅器に送信する。
これにより、環境検出部の検出信号に応じて出力レベルの大きさが制御されるので、出力される音声が無線通信機が使用される環境に応じた音量で出力されることになる。
前記の無線通信機においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、無線通信機は、当該無線通信機が使用されている環境の変化を検出する環境検出部を備える。前記出力レベルが基準値以上であるときは、前記AGC回路は、前記信号レベルと前記出力レベルが単調増加関数の関係を有するように前記利得増幅器を制御する。前記単調増加関数は、予め記憶された複数の関数の中から前記環境検出部の検出信号に基づいて選択される。
これにより、環境検出部からの検出信号に応じて選択された関数によって利得増幅器の増幅度が設定されるので、無線通信機が使用される環境に応じて好適な音声を自動的に出力することができる。
前記の無線通信機においては、予め記憶された複数の前記関数のうち少なくとも1つは1次関数であることが好ましい。
これにより、1次関数が単調増加関数として選択された場合、信号レベルの大きさに応じて出力音声が1次関数に従って徐々に変化するので、距離に応じた遠近感を違和感なく再現できる。
本発明の第2の観点によれば、前記の無線通信機としてのDSB送受信機が提供される。
次に、発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るDSB送受信機1の全体的な構成を示した斜視図である。図2は、DSB送受信機1の機能ブロック図である。
図1に示す本実施形態のDSB送受信機(無線通信機)1は、両側波帯(Double Side Band、DSB)と呼ばれる振幅変調波を用いて、音声を送受信することができる。このDSB送受信機1は、例えば漁船が船団を組んで操業する場合に、仲間船と相互に連絡をとり合うために用いることができる。
DSB送受信機1は、図2に示すように、マイク14及びアンテナ17を接続可能な送受信機本体10を備えている。送受信機本体10には、無線通信で音声をやり取りするための送信部20及び受信部21と、音声信号を出力するためのスピーカ16と、が内蔵されている。また、送受信機本体10には、送信部20及び受信部21等を制御するためのマイクロコンピュータからなる制御部19が備えられている。
また、送受信機本体10は、内蔵のスピーカ16と別のスピーカ(外部スピーカ26)を接続可能な外部スピーカ端子25を備えている。この外部スピーカ端子25に十分な長さのスピーカ線を接続することで、例えばDSB送受信機1が設置されている部屋とは別の部屋に外部スピーカ26を設置した場合でも、当該外部スピーカ26に音声を適切に出力することができる。
図1に示すように、前記マイク14は、送信と受信とを切り替えるための切替スイッチ15を備えている。この切替スイッチ15は、押されることで送信側に切り替わるという意味のPush To Talkの頭文字をとって、PTTスイッチと呼ばれることがある。
切替スイッチ15は、図2に示す送受信切替部23に電気的に接続されている。前記アンテナ17としては適宜のものを用いることができ、例えば公知のホイップアンテナとすることができる。
図1に示すように、当該送受信機本体10の正面側には平面状のパネルが備えられている。そして、このパネルには表示部11と操作部12とが配置されている。表示部11及び操作部12は、図2に示す制御部19に電気的に接続されている。
前記表示部11は例えば液晶ディスプレイとして構成されており、DSB送受信機1の稼動状況等に関する情報を確認のために表示できるようになっている。この情報としては様々であるが、例えば、現時点で通信に使用しているチャンネル、電波の受信レベル等である。また、表示部11は送受信機本体10に関する各種設定項目や各種操作項目等をメニューで表示可能に構成されており、後述の操作部12を使用することで当該メニューに関する操作を行うことができる。
操作部12は、操作ボタン、回転ダイアル等の各種の操作具を備えている。ユーザは、適宜の操作を行うことによって、受信部21の感度の切替え等の所望の指示をDSB送受信機1(制御部19)に与えることができる。
送信部20は、マイク14から入力される音声信号に基づいて高周波信号を変調させ、増幅してアンテナ17に出力することにより、所定のチャンネル(周波数)で音声信号を送り出すことができる。受信部21は、アンテナ17から入力される信号に対して、増幅、復調等の処理を行い、所定のチャンネル(周波数)で送信された音声信号を取り出してスピーカ16(及び外部スピーカ26)に出力することができる。以上により、いわゆるA3E形式の電波による音声信号のやり取りが実現されている。
次に、DSB送受信機1が備える受信部21の詳細な構成について説明する。図3は、受信部21の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、本実施形態の受信部21は、いわゆるダブルスーパーへテロダイン方式を採用しており、以下のように構成されている。即ち、受信部21は、高周波増幅器55と、アナログデジタル変換器(A/D変換器)56と、第1周波数混合器57と、第1局部発振器67と、第2周波数混合器58と、第2局部発振器68と、中間周波増幅器59と、検波器(復調器)60と、積分器61と、デジタルアナログ変換器(D/A変換器)62と、低周波増幅器63と、を備えている。以下、受信部21の各部の構成について説明する。
高周波増幅器55は、アンテナ17が受信した受信信号を低雑音増幅して感度を向上させるとともに、イメージ周波数選択度を改善するものである。この高周波増幅器55によって増幅された受信信号は、A/D変換器56によってアナログ信号からデジタル信号に変換されて第1周波数混合器57に送信される。
第1局部発振器67及び第2局部発振器68は、中間周波を作るための搬送波発振器であり、発振周波数の局部信号を生成するためのものである。第1局部発振器67は第1周波数混合器57に接続されており、第2局部発振器68は第2周波数混合器58に接続されている。第1周波数混合器57は第1局部発振器67によって生成された局部信号と受信周波とを混合して高い中間周波を作る。第2周波数混合器58は第2局部発振器68によって生成された局部信号と受信周波とを混合して低い中間周波を作る。このように2段階に分けて中間周波を作ることで、第1周波数混合器57で生成する中間周波を高くすることができ、イメージ周波数の妨害を少なくしている。また、第2周波数混合器58で中間周波を低く作ることで、近接周波数選択度の低下を防止している。そして、第2周波数混合器58で作られた低い中間周波は中間周波増幅器59に送られる。
中間周波増幅器59は、第2周波数混合器58によって作られた中間周波の利得を増幅するものである。この中間周波増幅器59は、積分器61からの信号を受信可能に構成されており、この積分器61からの制御信号に基づいて増幅度が変化するように構成されている。
検波器60は、被変調波から元の信号波を取り出す復調器であり、中間周波増幅器59で増幅された信号から音声信号を復調して出力するためのものである。この検波器60から取り出された音声信号は、D/A変換器62に送信される。また、検波器60から出力された出力信号は、積分器61にも入力される。
ローパスフィルタとしての積分器61は、中間周波増幅器59の増幅度を制御するためのものであり、前述した検波器60から送信された信号が入力されるとともに、中間周波増幅器59で増幅される前の信号が入力されている。本実施形態の積分器61は、この増幅される前の信号と、検波器60から取り出された出力信号に基づいて、利得制御信号を生成し、前記中間周波増幅器59に送信できるように構成されている。
低周波増幅器63は、D/A変換器62から送信されてきた音声信号を電圧増幅及び電力増幅するためのものである。この低周波増幅器63によって、音声信号は十分な電力に増幅されてスピーカ16に供給される。音声信号によってスピーカ16が駆動され、送信機で変調された音声が再現される。このスピーカ16から出力される音量は、検波器60に入力される信号レベルの大きさに応じて変化する。即ち、中間周波増幅器59の増幅度によって、スピーカ16によって出力される音量が決定されることにもなるのである。なお、本実施形態のDSB送受信機1には外部スピーカ26も接続されており、この外部スピーカ26も内蔵のスピーカ16と同様に駆動されることになる。
また、本実施形態では、第1周波数混合器57と、第1局部発振器67と、第2周波数混合器58と、第2局部発振器68と、中間周波増幅器59と、検波器(復調器)60と、積分器61と、がデジタル信号処理装置(Digital Signal Processor、DSP)90によって構成されている。このDSP回路90は、例えば送信部20においてデジタル信号処理のために従来から用いられているものと兼用することができる。これによって、ハードウェアの部品点数を削減することができ、製造コストを低減することもできる。
次に、AGC回路70による処理について説明する。本実施形態のAGC回路70は、中間周波増幅器59と、検波器60と、積分器61と、を主要な構成として有している。
AGC回路70は、出力レベルが基準値以上(受信電界強度が所定値以上)であることを検出すると、信号の増幅度を制限して出力レベルが適切な範囲に入るようにフィードバック制御するものである。図3に示すように、積分器61には検波器60からの出力信号が入力されており、この出力信号のレベルが基準値以上になると、自動利得制御が開始される。出力レベルが基準値未満であるときは、AGC回路70による自動利得制御は行われず、中間周波増幅器59は一定の増幅度で中間周波の利得を増幅している。
従来のAGC回路では、スピーカの音割れ等を防止するため、出力レベルが基準値以上になると、出力レベルが一定になるように中間周波増幅器59の増幅度を下げる制御を行っていた。一方、本実施形態のAGC回路70は、信号レベルの大きさを加味して中間周波増幅器59の増幅度を下げる制御を行っている。より具体的には、積分器61は、入力される信号レベルが大きくなればなるほど増幅度の下げ幅を小さくし、信号レベルが小さくなればなるほど増幅度の下げ幅を大きくするように利得制御信号を生成し中間周波増幅器59に送信することで、出力レベルの大きさを制御している。この制御によって、出力レベルが大き過ぎてスピーカ16が音割れするような事態を防止しつつ、出力レベルが基準値以上のときも、入力される信号レベルの大きさが一定程度反映された音声が出力されることになる。このような入力レベルと出力レベルの関係は、図4のグラフに概念的に示されている。ただし、図4のグラフにおいて、縦軸及び横軸の何れも単位はdBmである。このグラフでは、出力レベルが、信号レベルが大きくなるに応じて一定の割合で直線的に増加しており、入力レベルと出力レベルに1次関数の関係が成立している。
送信機から送信された信号(搬送波)は、送信機と受信機との距離が長ければ長いほど減衰する。上述したように、信号レベルに応じて中間周波増幅器59の増幅度が変化するので、検波器60から取り出された信号の出力レベルが距離に応じて変化することになる。この結果、スピーカ16から出力される音声は、送信機と受信機との距離が近いときは大きく聞こえ、遠いときは小さく聞こえるようになり、ユーザは受信機から送信機までのおおよその距離を聴覚的に判断することができる。また、音量によって距離が表現されているので、DSB送受信機1から離れている場合でも、感覚的に送信機と受信機との位置関係を把握することができる。
また、本実施形態では、ローパスフィルタとしての積分器61によって緩やかな信号レベルの変化を検出できるようになっている。従って、送信機側又は受信機側が移動することによって距離が変化した場合でも、その変化によって生じる緩やかな信号レベルの変化を検出して、中間周波増幅器59の増幅度に反映させることが可能となっている。例えば、送信機側の船舶が受信機側の船舶に徐々に近づいているような場合は音声が次第に大きくなり、逆に船舶が徐々に遠ざかっているような場合は音声が次第に小さくなるように、時間とともに変化する現実の距離を音量に反映させることができる。
以上に示したように、本実施形態のDSB送受信機1は以下のように構成される。即ち、DSB送受信機1は、中間周波増幅器59と、検波器60と、積分器61と、を備える。中間周波増幅器59は、受信した信号を増幅する。検波器60は、中間周波増幅器59によって増幅された信号を復調して出力する。積分器61は、中間周波増幅器59によって増幅される前の入力信号が入力されるとともに、検波器60から出力された出力信号が入力される。そして、AGC回路70は、復調した信号の出力レベルが基準値以上であるときは、中間周波増幅器59によって増幅される前の信号レベルに応じて中間周波増幅器59の増幅度を変更する自動利得制御を行う。この自動利得制御が行われることで、検波器60から出力される出力信号の出力レベルは、受信した信号レベルが大きいときはそれに応じて大きくなり、信号レベルが小さいときはそれに応じて小さくなり、これによって通信の遠近感が擬似的に表現されている。
これにより、出力レベルが過剰に大きくなることを抑制しつつ、出力レベルが基準値以上のときでも、送信機から受信機までの距離に応じて減衰する信号レベルの強弱に応じた出力信号を得ることができる。従って、送信機から受信機までの距離が長い場合には出力される音声が小さくなり、逆に距離が短い場合には音声が大きくなるので、ユーザは、送信機から受信機までのおおよその距離を聴覚により直感的に把握することができる。また、信号レベルが距離によって減衰する特性を利用しているので、送信機側に特別な構成を付加する必要もなく、AGC回路70だけの簡素な構成で音声通信における遠近感を表現できる。更に、例えば、船舶間の通信等において、送信機から受信機までの距離が変化することによって生じる信号レベルの変化をローパスフィルタとしての積分器61によって精度良く取り出すことができるので、現実の送信機から受信機までの距離を音量に反映することができる。
また、本実施形態のDSB送受信機1において、積分器61は、中間周波増幅器59によって増幅される前の前記入力信号と、検波器60から出力された前記出力信号と、に基づいて増幅度を変更する利得制御信号を中間周波増幅器59に送信する。
これにより、積分器61によって生成される制御信号によって中間周波増幅器59が制御されることになり、基準値以上であっても、入力信号に応じて出力信号のレベルが変化するAGC回路70の簡素な構成を実現できる。
また、本実施形態のDSB送受信機1においては、AGC回路70はDSP回路90として構成されている。
これにより、受信した信号レベルに応じたレベルの信号を出力する処理を、デジタル信号処理によって簡素かつ容易に実現することができる。
また、上記実施形態のAGC回路70は、積分器61が、中間周波増幅器59に入力される前の信号と検波器60から出力される信号とに基づいて利得制御信号を直接的に生成する構成であるが、この構成は適宜変更することができる。次に、DSB送受信機1の外部に取り付けられる外部センサの検出値に基づいて、中間周波増幅器59を制御する変形例について説明する。なお、以下に示す変形例において上記実施形態と同一及び類似する構成には、図面に同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
図5を参照して変形例のAGC回路170について説明する。図5は、AGC回路170の構成を概略的に示したブロック図である。なお、AGC回路170以外の構成については上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
図5に示すように、変形例の積分器61には、外部センサ(環境検出部)としてのマイク114が接続されている。マイク114は雑音を検出するためのものであり、DSB送受信機1の周囲の音を集音可能に構成されている。マイク114が検出した音は、適宜の信号に変換された後、積分器61に入力される。積分器61は、この検出信号を反映するように中間周波増幅器59を制御する。より具体的には、出力音声に音割れが発生しない範囲で、マイク114が検出する音量(雑音)が大きくなればなるほど出力音声が大きくなるように中間周波増幅器59を制御する。この結果、DSB送受信機1が雑音の大きい環境で使用される場合には、AGC回路170によって音量が大きくなるように自動的に制御されることになる。なお、マイク114は、上記実施形態で説明した図1及び図2のマイク14を利用してもよいし、集音マイクを別途設ける構成としてもよい。
以上に示したように、変形例のDSB送受信機1は、当該DSB送受信機1が使用されている雑音(環境)の変化を検出し、積分器61にその検出信号を送信可能に構成されるマイク114を備える。積分器61は、マイク114の検出信号に応じた制御信号を中間周波増幅器59に送信する。
これにより、DSB送受信機1の環境に応じた出力音声を出力することができる。本実施形態では、雑音が大きく、音声が聞こえにくい状況をマイク114が検出すると、その検出信号に基づいて出力音声が大きくなるように中間周波増幅器59が自動的に制御される。従って、雑音にかき消されて音声が聞き取れなくなることを効果的に抑制できる。
また、上記変形例は更に以下のように変更することができる。図6を参照してこの変形例について説明する。図6(a)は、変形例のAGC回路270の構成を概略的に示したブロック図である。図6(b)は、信号の入力レベルと出力レベルの関係を概念的に示すグラフである。
図6(a)に示すように、環境検出部としてのマイク114が制御部219に接続されており、この制御部219は、積分器61に補正信号を送信することで、入力レベルに対して所定の増加率(傾き)で出力レベルが上昇するように中間周波増幅器59の増幅度を制御可能に構成されている。また、制御部219は図略の記憶部を有しており、この記憶部には、値の異なる増加率(1次関数の傾きの値)が、マイク114の検出信号のレベルに応じてテーブル形式で複数記憶されている。そして、この変形例の制御部219は、マイク114からの検出信号に基づいて、複数の傾きの中から1つを選択して、出力レベルがその傾きの1次関数に従うように積分器61に補正信号を送信する。より具体的には、AGC回路270は、図6(b)に示すように、雑音が小さいときは、緩やかな(小さい)傾きを選択して、出力レベルが比較的小さくなるように中間周波増幅器59の増幅度を制御する。逆に、雑音が大きいときは、大きい傾きを選択して、出力レベルが比較的大きくなるように中間周波増幅器59の増幅度を制御する。
以上に示したように、変形例のDSB送受信機1は、以下のように構成される。DSB送受信機1は、当該DSB送受信機1が使用されている雑音の変化を検出するマイク114を備える。出力レベルが基準値以上であるときは、AGC回路270は、信号レベルと出力レベルが単調増加関数の関係を有するように中間周波増幅器59を制御する。前記単調増加関数は、予め記憶された複数の関数(傾きの異なる1次関数)の中からマイク114の検出信号に基づいて選択される。
これにより、マイク114からの検出信号に応じて選択された関数によって中間周波増幅器59の増幅度が設定されるので、DSB送受信機1が使用される環境に応じて好適な音声を自動的に出力することができる。本実施形態では、マイク114が所定以上の音量を検知すると入出力特性が図6(b)のグラフの上側の直線となるように切り替わるので、出力音声が自動的に大きくなるように制御される。この結果、雑音にかき消されて音声が聞き取りにくくなる事態の発生を抑制できる。
また、本実施形態のDSB送受信機1においては、前記単調増加関数は1次関数であり、この1次関数の傾きの値は、予め記憶された複数の傾きの値の中からマイク114の検出信号に基づいて選択される。
これにより、信号レベルの大きさに応じて出力音声が1次関数に従って徐々に変化するので、距離に応じた遠近感を違和感なく再現できる。また、マイク114からの検出信号に応じて傾きの値が選択されるので、DSB送受信機1が使用される環境に応じた出力音声が自動的に出力されることになる。
更に、外部センサ(環境検出部)としては、上記変形例で説明したマイク114以外にも様々なものを採用することができる。例えば、DSB送受信機1に接続されるGPS、ジャイロ及びレーダ等の外部端末からの検出信号に基づいて中間周波増幅器59を制御する構成とすることが考えられる。
例えば、環境検出部としてGPSやジャイロを採用する場合は、GPSやジャイロによって船舶の動揺を検知し、船舶の激しい動揺を検出したときは、出力音声が大きくなるように制御することができる。これによって、船舶が動揺することによって、船体にぶつかる波の衝撃音等でスピーカ16からの音声が聞こえにくい状況になると、出力音声が大きくなるように自動的に制御されることになる。また、環境検出部としてレーダを採用する場合は、降雨等の天候の悪化を検出した場合に、出力音声が大きくなるように制御することができる。これによって、雨音によって音声が聞き取りにくい状況でも自動的に音声を大きく出力させることができる。
以上に本発明の実施形態を説明したが、上記の構成は更に以下のように変更することができる。
上記実施形態の受信部21はダブルスーパーへテロダイン方式を採用しているが、受信部21の構成は適宜変更することができる。例えば、局部発振器及び周波数混合器がそれぞれ1つで構成されるシングルスーパーへテロダイン方式や、3段階で中間周波を生成するトリプルスーパーへテロダイン方式等に変更することができる。
また、前記AGC回路が、信号レベルの強弱に応じた大きさの信号を出力するモードと、信号レベルの強弱にかかわらず一定の大きさの信号を出力するモードと、を有し、2つのモードを適宜の操作で切替可能な構成に変更することもできる。
また、ユーザが信号レベルに応じて出力される出力レベルの増加率を設定可能に構成することもできる。例えば、DSB送受信機1が備える操作部12を操作して出力レベルの入力レベルに対する増加率(図4に示す1次関数の傾きの値)を設定できるように、DSB送受信機1を構成することもできる。
また、上記実施形態の制御部19(制御部219)は、信号レベルと出力レベルが1次関数の関係を有するように中間周波増幅器59の増幅度を制御しているが、信号レベルと出力レベルの関係は1次関数に限定されるわけではなく、単調増加関数であれば適宜のものを採用できる。また、種類の異なる複数の関数(例えば、1次関数と指数関数等)を制御部に記憶させておき、環境に応じて適宜の関数を選択するようにDSB送受信機1を構成することもできる。
上記の実施形態のDSB送受信機1から送信部20を省略し、DSB受信機として構成することもできる。
上記実施形態の構成はDSBを用いた無線通信機に限定されず、例えば単側波帯(Single Side Band、SSB)を用いる構成等、各種の無線通信機に適用することができる。