以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
ここに開示される発明は、正極活物質を有する正極および負極活物質を有する負極を備えるリチウム二次電池であって、上記負極の表面(典型的には、少なくとも負極活物質層の表面)に絶縁性のフィラー層が形成された構成のリチウム二次電池およびその製造、ならびに該電池を搭載した車両に広く適用され得る。該リチウム二次電池の外形は特に限定されず、例えば直方体状、扁平形状、円筒状等の外形であり得る。
上記正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な材料(典型的には粒子状)が用いられ、例えば一般的なリチウム二次電池に用いられる層状構造の酸化物系正極活物質、スピネル構造の酸化物系正極活物質等を好ましく用いることができる。かかる正極活物質の代表例として、リチウムニッケル系複合酸化物(典型的には、式:LiNiO2;で表される組成の酸化物)、リチウムコバルト系複合酸化物(典型的にはLiCoO2)、リチウムマンガン系複合酸化物(典型的にはLiMn2O4)等のリチウム遷移金属複合酸化物を主成分とする正極活物質が挙げられる。ここで「リチウムニッケル系複合酸化物」とは、リチウムとニッケルとを構成金属元素とする酸化物の他、リチウムおよびニッケル以外に他の少なくとも一種の金属元素(すなわち、リチウムおよびニッケル以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)をニッケルよりも少ない割合(原子数換算。リチウムおよびニッケル以外の金属元素を二種以上含む場合にはそれらの合計量としてニッケルよりも少ない割合)で含む複合酸化物をも包含する意味であり、リチウムコバルト系複合酸化物およびリチウムマンガン系複合酸化物についても同様である。ここに開示される技術は、リチウムニッケル系複合酸化物またはリチウムコバルト系複合酸化物を主成分とする正極活物質(典型的には、マンガンを実質的に含まない組成の正極活物質)を備えるリチウム二次電池に好ましく適用され得る。
ここに開示される技術は、かかる正極活物質を有する正極と後述する負極活物質を有する負極とを用いて構築されるリチウム二次電池であって、両極間の電圧(端子間電圧)が凡そ4.2V以下の範囲(例えば凡そ3V〜4.1Vの範囲)で使用されるリチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)に好ましく適用され得る。
ここに開示される技術における正極は、典型的には、このような正極活物質を主成分とする層(正極活物質層)が正極集電体に保持された構成を有する。該正極集電体としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。特に、アルミニウム(Al)またはアルミニウムを主成分とする合金(アルミニウム合金)製の正極集電体の使用が好ましい。正極集電体の形状は、得られた正極を用いて構築されるリチウム二次電池の形状等に応じて異なり得るため特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。なお、種々の形状の集電体自体の作製は、リチウム二次電池の分野において従来公知の方法であればよく、本発明を特徴付けるものではない。ここに開示される技術は、例えばシート状もしくは箔状の集電体に正極活物質層が保持された形態の正極を備えるリチウム二次電池に好ましく適用され得る。かかるリチウム二次電池の好ましい一態様として、捲回型の電極体を備えるリチウム二次電池が挙げられる。
上記正極活物質層は、例えば、正極活物質(好ましくは粒子状、例えばリチウムニッケル系複合酸化物粒子)を適当な溶媒に分散させた液状組成物(典型的にはペーストまたはスラリー状の組成物)を正極集電体に付与し、該組成物(正極活物質組成物)を乾燥させることにより好ましく作製され得る。上記溶媒(正極活物質粒子等の分散媒)としては水、有機溶媒およびこれらの混合溶媒のいずれも使用可能である。例えば、上記溶媒が水系溶媒(水または水を主体とする混合溶媒)である正極活物質組成物を好ましく使用することができる。
上記正極活物質組成物は、正極活物質および上記溶媒のほかに、一般的なリチウム二次電池において正極活物質層の形成に用いられる組成物に配合され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。かかる材料の一例として導電材が挙げられる。該導電材としては、種々のカーボンブラック(アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、等)、グラファイト粉末のようなカーボン粉末、あるいはニッケル粉末等の導電性金属粉末等を用いることができる。
必要に応じて上記正極活物質組成物に含有され得る材料の他の例として、バインダおよび流動性調整剤が挙げられる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のポリマーから適宜選択される一種または二種以上のポリマー材料を、上記バインダおよび/または流動性調整剤(典型的には粘度調整剤、例えば増粘剤)として好適に使用することができる。
特に限定するものではないが、上記正極活物質組成物の固形分濃度(不揮発分、すなわち正極活物質層形成成分の割合)は、例えば凡そ40〜60質量%程度であり得る。該固形分(正極活物質層形成成分)に占める正極活物質の含有割合は、少なくとも凡そ50質量%であることが好ましく、例えば凡そ75〜99質量%であり得る。通常は、この割合を凡そ80〜95質量%程度とすることが適当である。上記導電材を含む組成では、例えば、正極活物質層形成成分に占める正極活物質の割合を凡そ80〜90質量%とし、導電材の割合を凡そ5〜15質量%とすることができる。また、上述のようなポリマー成分を含む組成では、正極活物質層形成成分に占めるポリマー成分の割合を凡そ0.5〜15質量%とすることができる。このポリマー成分の含有割合が凡そ1〜5質量%であってもよい。
このような正極活物質組成物を正極集電体(好ましくは箔状もしくはシート状)に付与(典型的には塗布)するにあたっては、従来公知の方法と同様の技法を適宜採用することができる。例えば、適当な塗布装置(スリットコーター、ダイコーター、コンマコーター等)を使用して、集電体の表面に所定量の上記組成物を層状に塗布するとよい。
一方、上記負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な材料が用いられ、例えば一般的なリチウム二次電池に用いられる種々の負極活物質から適当なものを採用することができる。ここに開示される技術における好適な負極活物質としてカーボン粒子が例示される。少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)の使用が好ましい。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれの炭素材料も好適に使用し得る。例えば、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)等を用いることができる。
上記負極活物質(典型的には粒子状、好ましくは黒鉛粒子等のカーボン粒子)としては、例えば平均粒径が凡そ5〜50μmのものを使用することができる。なかでも、平均粒径が凡そ5〜15μm(例えば凡そ8〜12μm)のカーボン粒子の使用が好ましい。このように比較的小粒径のカーボン粒子は、単位体積当たりの表面積が大きいことから、より急速充放電(例えば高出力放電)に適した負極活物質となり得る。したがって、かかる負極活物質を有するリチウム二次電池は、例えば車両搭載用のリチウム二次電池として好適に利用され得る。
ここに開示される技術における負極は、典型的には、このような負極活物質を主成分とする層(負極活物質層)が負極集電体に保持された構成を有する。該負極集電体としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。特に、銅(Cu)または銅を主成分とする合金(銅合金)製の負極集電体の使用が好ましい。負極集電体の形状は、上述した正極集電体と同様に、得られた負極を用いて構築されるリチウム二次電池の形状等に応じて異なり得るため特に制限されない。ここに開示される技術は、例えばシート状もしくは箔状の集電体に負極活物質層が保持された形態の負極を備えるリチウム二次電池(例えば捲回型の電極体を備えるリチウム二次電池)に好ましく適用され得る。
上記負極活物質層は、例えば、負極活物質(好ましくはカーボン粒子)を適当な溶媒に分散させた液状組成物(典型的にはペーストまたはスラリー状の組成物)を負極集電体に付与し、該組成物(負極活物質組成物)を乾燥させることにより好ましく作製され得る。上記溶媒(カーボン粒子等の分散媒)としては水、有機溶媒およびこれらの混合溶媒のいずれも使用可能である。例えば、上記溶媒が水系溶媒(水または水を主体とする混合溶媒)である負極活物質組成物を好ましく採用することができる。
上記負極活物質組成物は、負極活物質および上記溶媒のほかに、一般的なリチウム二次電池用負極において負極活物質層の形成に用いられる組成物に配合され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例としてバインダおよび流動性調整剤が挙げられる。例えば、正極活物質組成物に含有され得る材料として例示したポリマー材料と同様のものを、上記バインダおよび/または流動性調整剤(典型的には粘度調整剤、例えば増粘剤)として好適に使用することができる。
特に限定するものではないが、負極活物質組成物の固形分濃度(不揮発分、すなわち該組成物に占める負極活物質層形成成分の割合)は、例えば凡そ40〜60質量%程度とすることが適当である。また、固形分(負極活物質層形成成分)に占める負極活物質の含有割合は、例えば凡そ80質量%以上(典型的には凡そ80〜99.9質量%)とすることができ、凡そ90〜99%とすることが好ましく、凡そ95〜99質量%とすることがより好ましい。例えば、上述のようなポリマー材料を含有する組成の負極活物質組成物において、該組成物に含まれる負極活物質とポリマー材料との質量比(負極活物質:ポリマー材料)を凡そ80:20〜99.5:0.5とすることができ、該質量比が凡そ95:5〜99:1であってもよい。
このような負極活物質組成物を負極集電体(好ましくは箔状もしくはシート状)に付与(典型的には塗布)するにあたっては、正極活物質組成物を正極集電体に付与する場合と同様に、従来公知の方法と同様の技法を適宜採用することができる。
ここに開示される技術では、負極集電体上に負極活物質層を形成して成る負極原材(すなわち、負極活物質層の表面に後述するフィラー層が未だ形成されていない状態の負極)の単位面積当たりの初期容量(N)が、正極の単位面積当たりの初期容量(P)の凡そ1.2〜2.0倍(すなわち、「負極の初期容量(N)/正極の初期容量(P)」で表される初期容量比(N/P)が凡そ1.2〜2.0)となるように、該負極原材の有する負極活物質量(負極集電体の単位面積当たりに保持されている負極活物質層に含まれる負極活物質の量であって、負極集電体の両面に負極活物質層が保持された構成の負極原材では両面の負極活物質層に含まれる負極活物質の合計量をいう。)を調整することが好ましい。かかる負極活物質量の調整は、例えば、負極集電体の単位面積当たりに塗布される負極活物質組成物の量(固形分換算の塗布量)を適切に設定することにより行うことができる。上記初期容量比が例えば凡そ1.3〜1.7であってもよい。該初期容量比(N/P)が上記範囲よりも小さすぎるリチウム二次電池は、フィラー層を有しないリチウム二次電池に比べて初期抵抗が増大したものとなりがちである。一方、上記初期容量比(N/P)が上記範囲よりも大きすぎるリチウム二次電池は、該電池の初期容量に対する不可逆容量の値が大きくなり、一定体積当たりの電池容量(エネルギー密度)が小さくなる傾向にある。初期容量比(N/P)を上述した好ましい範囲とすることにより、フィラー層の形成に拘わらず、良好な電池性能(低初期抵抗および/または高エネルギー密度)を示すリチウム二次電池が実現され得る。
上記負極原材の初期容量(N)は、例えば以下の方法により測定することができる。すなわち、該負極原材を所定のサイズに打ち抜いたものを測定電極とし、対極に金属リチウム電極を用いて測定用セル(半電池)を構築する。その測定用セルについて、上記測定電極の電位が0.01V(金属リチウム基準。以下、金属リチウム基準の電圧を「V(対Li/Li+)」と表す。)になるまで負極活物質にリチウムイオンを挿入し、次いで該リチウムイオンを放出(典型的には、上記測定電極の電位が0.5V(対Li/Li+)になるまでリチウムイオンを放出)させる初回の充放電サイクルを行うことにより、負極原材の単位面積当たりの初期容量(N[mAh/cm2])が求められる。
また、上記正極の初期容量(P)は、例えば以下の方法により測定することができる。すなわち、該正極を所定のサイズに打ち抜いたものを測定電極とし、対極に金属リチウム電極を用いて測定用セル(半電池)を構築する。その測定用セルについて、上記測定電極の電位が4.3V(対Li/Li+)になるまで正極活物質からリチウムイオンを脱離させ、次いで該正極活物質にリチウムイオンを挿入(典型的には、上記測定電極の電位が3.0V(対Li/Li+)になるまでリチウムイオンを挿入)する初回の充放電サイクルを行うことにより、正極の単位面積当たりの初期容量(P[mAh/cm2])が求められる。
上述した好ましい初期容量比が実現され得る限りにおいて、負極活物質組成物の塗布量(集電体の単位面積当たりの塗布量(固形分換算))は特に限定されず、負極および電池の形状や目標性能等に応じて適当な塗布量に設定され得る。例えば、上述のような捲回型の電極体を備えるリチウム二次電池の構築に使用される負極を作製する場合には、箔状集電体(例えば、厚さ10〜30μm程度の金属箔(銅箔等)を好ましく用いることができる。)の表面に上記組成物を、固形分換算の塗布量(すなわち、乾燥後の質量)が凡そ5〜20mg/cm2程度(両面に塗布する場合には該両面の合計量として)となるように塗布するとよい。かかる塗布量の負極活物質組成物を集電体の片面に塗布してもよく、集電体の両面に負極活物質組成物を塗布してその合計塗布量が上記範囲となるようにしてもよい。集電体の両面に負極活物質組成物を塗布する(集電体の両面に負極活物質層を設ける)態様を好ましく採用することができる。塗布後、適当な乾燥手段で塗布物を乾燥し、必要に応じてプレスすることによって、負極集電体の表面に負極活物質層を形成することができる。
特に限定するものではないが、上記負極活物質層の密度は例えば凡そ1.1〜1.5g/cm3程度であり得る。該負極活物質層の密度が例えば凡そ1.1〜1.3g/cm3程度であってもよい。このような密度を有する負極活物質層が形成されるように上記プレスの条件を設定するとよい。なお、プレス方法としては、ロールプレス法、平板プレス法等の従来公知の各種プレス方法を適宜採用することができる。
ここに開示される負極は、上記負極活物質層の表面に、絶縁性フィラー(例えばアルミナ粒子)とバインダとを含むフィラー層を有する。該フィラー層は、負極活物質層表面のほぼ全範囲に形成されていてもよく、負極活物質層表面のうち一部範囲のみに形成されていてもよい。通常は、フィラー層を設けることによる効果および該フィラー層の耐久性等の観点から、少なくとも負極活物質層表面のほぼ全範囲を覆うようにフィラー層が形成された構成とすることが好ましい。なお、負極集電体上に負極活物質層が形成された態様の負極において該集電体の一部に負極活物質層の形成されていない部分(負極活物質層未形成部分)が残されている場合、本発明の効果を顕著に損なわない範囲で、上記フィラー層の一部が負極活物質層上から上記負極活物質層未形成部分にまで延長して設けられた構成としてもよい。
上記フィラー層を構成する絶縁性フィラーとしては、非導電性(絶縁性)を示す種々の無機材料および/または有機材料(樹脂材料、紙、木材等)を主構成成分とするフィラーを使用し得る。耐久性および信頼性の観点から、無機材料を主体とするフィラー(無機フィラー)の使用が好ましい。例えば、上記絶縁性フィラーとして、非導電性(絶縁性)の無機化合物からなる粒子(セラミック粒子)を好ましく用いることができる。該無機化合物は、金属元素または非金属元素の酸化物、炭化物、珪化物、窒化物等であり得る。化学的安定性や原料コスト等の観点から、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、ジルコニア(ZrO2),マグネシア(MgO)等の酸化物粒子からなるフィラー(すなわち無機酸化物フィラー)を好ましく使用することができる。また、炭化珪素(SiC)等の珪化物粒子、窒化アルミニウム(AlN)等の窒化物粒子も使用可能である。
本発明における絶縁性フィラーとして、例えば、上記特許文献2に記載された技術における無機酸化物フィラーと同様のα−アルミナ粒子を好ましく採用することができる。該α−アルミナ粒子は、特許文献2に記載の技術と同様に、複数の(例えば2〜10個程度の)一次粒子が連結した性状の粒子(連結粒子)であり得る。このような連結粒子は、特許文献2および/または他の公知文献に記載された内容および当該分野における技術常識に基づいて製造することができ、あるいは該当する市販品を入手することができる。
使用する絶縁性フィラー(好ましくは無機酸化物フィラー、例えばアルミナ粒子)の平均粒径は、例えば凡そ0.1〜15μm程度であり得る。ここでいう平均粒径としては、一般的な市販の粒度計(レーザ回折式粒度分布測定装置等)を用いて測定された体積基準の平均粒径(D50)を採用することができる。該平均粒径が凡そ0.2〜1.5μm程度であるフィラーの使用が好ましい。この程度の平均粒径を有するフィラーを用いて形成されたフィラー層によると、本発明の適用効果がよりよく発揮され得る。また、このようなフィラー層が負極活物質上に設けられた構成の負極を用いて構築されたリチウム二次電池は、より良好な電池性能を発揮するものであり得る。
上記フィラー層は、上記絶縁性フィラー(例えば無機酸化物フィラー)の他に、該フィラーを結着させるバインダ(ポリマー成分)を含有することができる。該バインダとしては、例えば、負極活物質組成物に配合され得るバインダとして例示したポリマーから適宜選択される一種または二種以上の材料を好適に使用することができる。また、上記で具体的に例示したポリマー以外に好ましく使用し得るバインダとして、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、アクリロニトリル−イソプレン共重合体ゴム(NIR)、アクリロニトリル−ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム(NBIR)等の、共重合成分としてアクリロニトリルを含むゴム;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル(例えばアルキルエステル)を主な共重合成分とするアクリル系ポリマー;ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の酢酸ビニル系樹脂;等を例示することができる。
負極活物質層の形成に用いられるバインダとフィラー層の形成に用いられるバインダとは同一であってもよく異なってもよい。ここに開示される発明は、両層に用いられるバインダが互いに異なる種類のバインダである態様で好ましく実施され得る。例えば、負極活物質層およびフィラー層のうちいずれか一方には水溶性(CMC等)のバインダおよび/または水分散性のバインダ(SBR等)を使用し、他方には有機溶媒に溶解するバインダ(PVDF、有機溶媒溶解性のアクリル系ポリマー等)を用いることができる。このことは、フィラー層の形成による他の電池性能への影響がより高度に抑制されたリチウム二次電池を構築する上で有利である。
上記フィラー層に含まれるフィラーとバインダとの質量比(フィラー:バインダ)は、例えば凡そ80:20〜99.5:0.5とすることができる。上記質量比が凡そ95:5〜99:1であってもよい。上記質量比よりもバインダの割合が少なすぎると、フィラー層の耐久性が不足しがちとなることがある。一方、上記質量比よりもバインダの割合が多すぎると、該フィラー層を設けたことによる電池性能への影響(初期容量の低下等)が顕在化しやすくなることがある。
負極活物質層の表面にフィラー層を形成する方法としては、例えば、フィラー(例えばセラミック粒子)とバインダとを含むコート剤(フィラー層形成用組成物)を用意し、該コート剤を負極活物質層に付与する方法を好ましく採用することができる。通常は、上記フィラーとバインダとを適当な溶媒に分散または溶解させた液状コート剤(典型的にはペーストまたはスラリー状)を負極活物質層の表面に付与(典型的には塗布)し、その付与された液状コート剤を乾燥させる方法が簡便であり好ましい。上記溶媒(フィラー等の分散媒)としては、水(例えばイオン交換水)、有機溶媒(例えばN−メチルピロリドン)、水と有機溶媒との混合溶媒のいずれも使用可能である。特に限定するものではないが、かかる液状コート剤の固形分濃度(該コート剤に占めるフィラー層形成成分の割合)は、例えば凡そ30〜80質量%程度とすることができる。該固形分濃度が高すぎると液状コート剤の取扱性(塗布性等)が低下傾向となる場合がある。一方、上記固形分濃度が低すぎると電池の製造効率が低下しやすくなる。また、該液状コート剤の溶媒組成等によっては、フィラー層の形成による電池性能への影響(初期容量の低下等)が顕在化しやすくなる場合がある。
負極活物質組成物に用いられる溶媒と液状コート剤に用いられる溶媒とは同一であっても異なってもよい。ここに開示される技術では、液状コート剤の溶媒として、負極活物質組成物の溶媒とは異なる溶媒を好ましく採用し得る。例えば、負極活物質組成物の溶媒が水系溶媒(例えば水)である場合、N−メチルピロリドン(NMP)等の有機溶媒を含む液状コート剤を好ましく用いることができる。このように、水系の負極活物質組成物(典型的には、水溶性のバインダおよび/または水分散性のバインダを含有する。)を用いて形成された負極活物質層の上に有機溶媒系(溶剤系ともいう。典型的には、有機溶媒に可溶なバインダ(好ましくは正極活物質組成物を構成する水系溶媒に対しては溶解または膨潤しにくいバインダ、典型的には該水系溶媒に不溶なバインダ)を含有する。)の液状コート剤を付与してフィラー層を形成することにより、付与された液状コート剤が負極活物質層の状態に影響を及ぼす(例えば膨潤を引き起こす)事象をよりよく回避し得るという効果が得られる。また、このことによって液状コート剤に含まれるバインダ(すなわち、フィラー層を構成するバインダ)が負極活物質層内に染み込みにくくなるので、負極活物質層上にフィラー層が形成された構成においても該負極活物質層に含まれる負極活物質の性能を適切に発揮させることができる。したがって、より電池性能のよいリチウム二次電池を構築することができる。かかる効果は、溶剤系の負極活物質組成物(典型的には、有機溶媒に可溶なバインダを含有する。)と水系の液状コート剤(典型的には、水溶性のバインダおよび/または水分散性のバインダを含有する。)との組み合わせによっても実現され得る。
ここに開示される技術において、フィラー層に含まれる細孔(空隙)の平均孔径や、該細孔の合計体積がフィラー層全体の体積に占める割合(気孔率)、フィラー層の厚み等は、該フィラー層の形成目的(電池の信頼性向上、より具体的には内部短絡の防止等)が適切に達成され、かつ所望の電池特性が確保されるように設定すればよく、特に限定されない。平均孔径が凡そ0.01〜10μm(好ましくは凡そ0.1〜4μm)であるフィラー層、気孔率が凡そ20〜75体積%(好ましくは凡そ35〜70%)であるフィラー層、厚みが凡そ1〜10μm(好ましくは凡そ2〜6μm)であるフィラー層等は、本発明に係るリチウム二次電池に備えられるフィラー層の好適例である。なお、上記平均孔径および気孔率は、市販の水銀ポロシメータ等を用いて測定することができる。
本発明により提供され得るリチウム二次電池は、上述した構成の負極(上述した方法により製造された負極を包含する。)および正極を用いる点以外は、従来のこの種の二次電池と同様にして製造することができる。上記リチウム二次電池は、典型的には、ここに開示される構成の正極および負極と、それら正負極を離隔するセパレータ(例えば、正負極の間に挟まれる多孔質樹脂シート)と、該正負極間に配置される電解質(典型的には非水電解液)とを備える。電池の外容器の構造(例えば金属製の筐体やラミネートフィルム構造物)やサイズ、あるいは正負極を主構成要素とする電極体の構造(例えば捲回構造や積層構造)等について特に制限はない。
以下、図面を参照しつつ、本発明により提供され得るリチウム二次電池およびその製造方法に係る一実施形態を説明する。
図1〜4に示されるように、本実施形態に係るリチウム二次電池10は、金属製(樹脂製又はラミネートフィルム製も好適である。)の筐体(外容器)12を備えており、この筐体12の中に、長尺シート状の正極30、セパレータ50A、負極40およびセパレータ50Bをこの順に積層し次いで捲回する(本実施形態では扁平形状に捲回する)ことにより構成された捲回電極体20が収容される。
正極30は、長尺状の正極集電体32と、その表面に形成された正極活物質層35とを備える。正極集電体32としては、アルミニウム、ニッケル、チタン等の金属からなるシート材(典型的にはアルミニウム箔等の金属箔)を使用し得る。正極活物質層35は、上述したような好適な正極活物質組成物を正極集電体32に付与して得られたものであり得る。典型的には、該組成物を正極集電体32の両サイドの表面に塗布する。かかる塗布物には水分が含まれているため、次に正極活物質が変性しない程度の適当な温度域(典型的には70〜200℃)で塗布物を乾燥させる。これにより、正極集電体32の両サイドの表面の所望する部位に正極活物質層35を形成することができる(図2)。また、必要に応じて適当なプレス処理(例えばロールプレス処理)を施すことによって、正極活物質層35の厚みや密度を適宜調整することができる。
他方、負極40は、長尺状の負極集電体42と、その負極集電体の表面に形成された負極活物質層45と、該負極活物質層の表面に形成されたフィラー層48とを備える(図2および図3)。負極集電体42としては銅等の金属から成るシート材(典型的には銅箔等の金属箔)を使用し得る。負極活物質層45は、正極側と同様、上述したような好適な負極活物質組成物を負極集電体45の両サイドの表面に塗布して適当な温度で乾燥させ、必要に応じて適当なプレス処理(例えばロールプレス処理)を施すことにより負極活物質層45の厚みや密度を調整して得られたものであり得る。フィラー層48は、上述したような好適なコート剤(典型的には液状コート剤)を用意し、上記負極活物質層45の表面に該コート剤を塗布し、適当な温度で乾燥させて形成されたものである。なお、図2では、本発明の理解を容易にするため負極40の一部(図中の左下部分)でフィラー層48の一部を取り除いてその下の負極活物質層45が見えるようにしているが、実際にはこの部分を含めて負極活物質層45の実質的に全範囲がフィラー層48で覆われている。
これら正極30および負極40と重ね合わせて使用されるセパレータ50A,50Bとしては、非水電解液を備えるリチウム二次電池用のセパレータに利用し得ることが知られている各種の多孔質シートを用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂から成る多孔質樹脂シート(フィルム)を好適に使用し得る。特に限定するものではないが、好ましい多孔質シート(典型的には多孔質樹脂シート)の性状として、平均孔径が0.0005〜30μm(より好ましくは0.001〜15μm)程度であり、厚みが5〜100μm(より好ましくは10〜30μm)程度である多孔質樹脂シートが例示される。該多孔質シートの気孔率は、例えば凡そ20〜90体積%(好ましくは30〜80体積%)程度であり得る。
図2に示すように、正極シート30の長手方向に沿う一方の端部には、上記正極活物質組成物が塗布されず、よって正極活物質層35が形成されない部分(活物質層未形成部分)が設けられている。また、負極シート40の長手方向に沿う一方の端部には、上記負極活物質組成物およびコート剤が塗布されず、よって負極活物質層45およびフィラー層48が形成されない部分が設けられている。正負極シート30,40を二枚のセパレータ50A,50Bとともに重ね合わせる際には、両活物質層35,45を重ね合わせるとともに正極シートの活物質層未形成部分と負極シートの活物質層未形成部分とが長手方向に沿う一方の端部と他方の端部に別々に配置されるように、正負極シート30,40をややずらして重ね合わせる。この状態で計四枚のシート30,40,50A,50Bを捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状の捲回電極体20が得られる。
次いで、得られた捲回電極体20を筐体12に収容するとともに(図4)、上記正極活物質層未形成部分及び負極活物質層未形成部分を、一部が筐体12の外部に配置される外部接続用正極端子14及び外部接続用負極端子16の各々と電気的に接続する。
そして、適当な非水電解液(例えばLiPF6等のリチウム塩を適当量含むジエチルカーボネートとエチレンカーボネートとの混合溶媒のような非水電解液)を筐体12内に配置(注液)し、筐体12の開口部を当該筐体とそれに対応する蓋部材13との溶接等により封止して、本実施形態に係るリチウム二次電池10の構築(組み立て)が完成する。なお、筐体12の封止プロセスや電解液配置(注液)プロセスは、従来のリチウム二次電池の製造で行われている手法と同様でよく、本発明を特徴付けるものではない。
本発明に係るリチウム二次電池は、上記のとおり、フィラー層を有することから信頼性が高く、しかも優れた電池性能を有する。例えば、フィラー層を有しない構成のリチウム二次電池と略同等の電池性能を示すリチウム二次電池(典型的には、上記フィラー層を有しないリチウム二次電池との初期抵抗および/または初期容量の差異が±10%、より好ましくは±5%以下のリチウム二次電池)であり得る。かかる特性により、本発明に係るリチウム二次電池は、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用し得る。したがって本発明は、図6に模式的に示すように、かかるリチウム二次電池10(当該リチウム二次電池10を複数個直列に接続して形成される組電池の形態であり得る。)を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)1を提供する。
本発明を実施するにあたって、正極と負極との初期容量比を所定範囲とすることによりフィラー層の形成に拘わらず良好な電池性能が実現される理由を明らかにする必要はないが、一つの要因として以下のことが考えられる。すなわち、上記コート剤の付与等の手法によって負極活物質層上にフィラー層を形成すると、該コート剤の一部が負極活物質層内に染み込むことがあり得る。その染み込んだフィラー層形成成分(特にバインダ)は、負極活物質へのリチウムイオンの出入りを妨げる要因となり得る。例えば、上記バインダが負極活物質の周囲に付着することで上記リチウムイオンの出入りが阻害され得る。ここに開示される発明によると、正極と負極との初期容量比(N/P)を上述した好ましい範囲とする(典型的には、フィラー層を有しない場合における好適な初期容量比よりも意図的に高くする)ことにより、フィラー層が形成された負極活物質層において、該負極活物質層に含まれる負極活物質量に対する上記染み込んだ成分量の比率を相対的に小さくすることができる。このことによって電池性能への影響が抑えられるものと考えられる。また、正極の初期容量と負極の初期容量の両方を増すのではなく、正極に対する負極の初期容量比を大きくする(典型的には、正極活物質の使用量は変えずに負極活物質の使用量を増す)ことにより、一定体積当たりの電池容量の減少(エネルギー密度の低下)を抑えつつ、上記電池性能への影響防止効果が効率よく実現されるものと考えられる。
以下、本発明に関する試験例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
<例1:フィラー層を有し初期容量比が1.1である電池の作製>
以下のようにして正極を作製した。すなわち、正極活物質としてのニッケル酸リチウム(LiNiO2)粉末とアセチレンブラックとカルボキシメチルセルロース(CMC)とポリテトラフルオロエチレンとを、これら材料の質量比が87:11:1:1であり且つ固形分濃度が45質量%となるようにイオン交換水と混合して、ペースト状の正極活物質組成物を調製した。かかる組成物を、正極集電体としての厚み約15μmの長尺状アルミニウム箔の両面に、それら両面の合計塗布量(固形分換算)が13mg/cm2となるように塗布して乾燥させることにより、該正極集電体の両面に厚み120μmの正極活物質層を形成し、次いで正極全体の厚さが85μmとなるようにプレスして正極シートを得た。
また、以下のようにして負極原材を作製した。すなわち、平均粒径10μmの天然黒鉛(負極活物質)とスチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースとを、これら材料の質量比が98:1:1であり且つ固形分濃度が45質量%となるようにイオン交換水と混合して、スラリー状の負極活物質組成物を調製した。負極集電体としての厚み約15μmの長尺状銅箔の両面に上記組成物を、それら両面の合計塗布量(固形分換算)が8.6mg/cm2となるように塗布して乾燥させ、次いで負極活物質層の密度が1.3g/cm3となるようにプレスした。このようにして、負極集電体の表面に負極活物質層を有する負極原材を得た。
上記で作製した正極シートおよび負極原材の初期容量をそれぞれ測定した。
すなわち、該正極シートを所定の大きさ(面積2cm2の円形状)に打ち抜いて測定電極を用意した。この測定電極と同サイズの金属リチウム箔(対極)とをセパレータ(厚さ0.02mmの多孔質ポリエチレンシートを用いた)を挟んで対向配置し、電解液とともにステンレス製容器に組み込んで、厚さ2mm、直径32mm(2032型)のコイン型セル(測定用セル)を構築した。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との3:7(体積比)混合溶媒に1mol/Lの濃度で支持塩(ここではLiPF6)を溶解した組成の非水電解液を使用した。そして、上記測定用セルについて、0.1mA/cm2の電流密度で測定電極の電位が4.3V(対Li/Li+)になるまで正極活物質からリチウムイオンを脱離させ、次いで0.1mA/cm2の電流密度で測定電極の電位が3.0V(対Li/Li+)になるまでリチウムイオンを挿入することにより、正極シートの単位面積当たりの初期容量(正極の初期容量P[mAh/cm2])を求めた。
また、該負極原材を所定の大きさ(面積2cm2の円形状)に打ち抜いて測定電極を用意した。この測定電極と同サイズの金属リチウム箔(対極)とをセパレータ(厚さ0.02mmの多孔質ポリエチレンシートを用いた)を挟んで対向配置し、上記非水電解液とともにステンレス製容器に組み込んで、厚さ2mm、直径32mm(2032型)のコイン型セル(測定用セル)を構築した。そして、上記測定用セルについて、0.1mA/cm2の電流密度で測定電極の電位が0.01V(対Li/Li+)になるまで負極活物質にリチウムイオンを挿入し、次いで0.1mA/cm2の電流密度で測定電極の電位が0.5V(対Li/Li+)になるまでリチウムイオンを放出させることにより、負極原材の単位面積当たりの初期容量(負極原材の初期容量N[mAh/cm2])を求めた。
これらの測定結果から算出した正極シート(正極)と負極原材との初期容量比(N/P)は1.1であった。
上記負極原材を構成する負極活物質層の表面にフィラー層を形成した。すなわち、平均粒径0.6μmのα−アルミナ粒子(連結粒子)と、バインダとしてのアクリル系ポリマーとを、これら材料の質量比が96:4であり且つ固形分濃度が40質量%となるようにN−メチルピロリドン(NMP)と混合して、スラリー状のコート剤(液状コート剤)を調製した。この液状コート剤を負極活物質層の表面全体を覆うように塗布して乾燥させた。上記コート剤の塗布量は、乾燥後に得られるフィラー層の厚みが4μmとなる分量とした。
このようにして得られた負極と上記正極(正極シート)とを用いて、以下に示す手順で、直径18mm、高さ65mm(即ち18650型)の一般的な円筒型リチウムイオン電池100(図5参照)を作製した。
非水電解質(電解液)としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との3:7(体積比)混合溶媒に1mol/Lの濃度で支持塩(ここではLiPF6)を溶解した組成の非水電解質(電解液)を使用した。
そして、上記で作製した負極と正極とを2枚のセパレータ(ここでは多孔質ポリエチレンシートを用いた。)とともに積層し、この積層シートを捲回して捲回電極体を作製した。この電極体を非水電解質とともに容器に収容し、容器開口部を封止してリチウムイオン電池を構築した。その後、適当なコンディショニング処理(例えば、1/10Cの充電レートで3時間の定電流充電を行い、次いで1/3Cの充電レートで4.1Vまで定電流定電圧で充電する操作と、1/3Cの放電レートで3.0Vまで定電流放電させる操作とを2〜3回繰り返す初期充放電処理)を行った。このようにして、正極の初期容量(P)と、フィラー層を有しない場合における負極の初期容量(すなわち負極原材の初期容量)(N)との比(N/P)が1.1となるように構成された、18650型の円筒形状リチウムイオン電池を得た。
<例2:フィラー層を有し初期容量比が1.2である電池の作製>
例1に係る負極原材の作製と同様にして、ただし負極活物質組成物の負極集電体への塗布量(固形分換算の合計塗布量[mg/cm2])が例1の塗布量に対して1.2/1.1倍となるように塗布条件を変更して、例2に係る負極原材を作製した。負極活物質層のプレスは、プレス後の負極活物質層の密度が例1と同じ密度(1.3g/cm3)となるように行った(以下の例においても同じ。)。この負極原材の表面に例1と同様にしてフィラー層を形成して例2に係る負極を得た。そして、例1に係る負極に代えて本例に係る負極を用いた点以外は例1と同様にして、正極の初期容量(P)と、フィラー層を有しない場合における負極の初期容量(N)との比(N/P)が1.2となるように構成されたリチウムイオン電池を得た。
<例3:フィラー層を有し初期容量比が1.4である電池の作製>
例1に係る負極原材の作製と同様にして、ただし負極活物質組成物の負極集電体への塗布量(固形分換算の合計塗布量[mg/cm2])が例1の塗布量に対して1.4/1.1倍となるように塗布条件を変更して、例3に係る負極原材を作製した。この負極原材の表面に例1と同様にしてフィラー層を形成して例3に係る負極を得た。そして、例1に係る負極に代えて本例に係る負極を用いた点以外は例1と同様にして、正極の初期容量(P)と、フィラー層を有しない場合における負極の初期容量(N)との比(N/P)が1.4となるように構成されたリチウムイオン電池を得た。
<例4:フィラー層を有し初期容量比が2.0である電池の作製>
例1に係る負極原材の作製と同様にして、ただし負極活物質組成物の負極集電体への塗布量(固形分換算の合計塗布量[mg/cm2])が例1の塗布量に対して2.0/1.1倍となるように塗布条件を変更して、例4に係る負極原材を作製した。この負極原材の表面に例1と同様にしてフィラー層を形成して例4に係る負極を得た。そして、例1に係る負極に代えて本例に係る負極を用いた点以外は例1と同様にして、正極の初期容量(P)と、フィラー層を有しない場合における負極の初期容量(N)との比(N/P)が2.0となるように構成されたリチウムイオン電池を得た。
<例5:フィラー層を有し初期容量比が2.1である電池の作製>
例1に係る負極原材の作製と同様にして、ただし負極活物質組成物の負極集電体への塗布量(固形分換算の合計塗布量[mg/cm2])が例1の塗布量に対して2.1/1.1倍となるように塗布条件を変更して、例5に係る負極原材を作製した。この負極原材の表面に例1と同様にしてフィラー層を形成して例5に係る負極を得た。そして、例1に係る負極に代えて本例に係る負極を用いた点以外は例1と同様にして、正極の初期容量(P)と、フィラー層を有しない場合における負極の初期容量(N)との比(N/P)が2.1となるように構成されたリチウムイオン電池を得た。
<例6:初期容量比が1.1でありフィラー層を有しない電池の作製>
本例では、例1で作製した負極原材をそのまま(すなわち、負極活物質層の表面にフィラー層を形成することなく)負極に使用した。その他の点については例1と同様にして、正極の初期容量(P)と負極の初期容量(N)との比(N/P)が1.1となるように構成された、負極活物質の表面にフィラー層を有しないリチウムイオン電池を得た。
[初期抵抗値の測定]
例1〜例6により得られたリチウムイオン電池について、各電池の25℃における初期抵抗値(IV抵抗値)を測定した。
すなわち、25℃の温度条件下にて、定電流定電圧(CC−CV)充電によって各電池を60%の充電状態(SOC;State of Charge)に調整した。その後、25℃にて0.2C、0.5Cおよび1Cの条件で10秒間の放電と充電を交互に行い、放電開始から10秒後の電圧値をプロットしてI−V特性グラフを作成した。このI−V特性グラフの傾きから、25℃における初期IV抵抗値(mΩ)を算出した。
[電池の初期容量の測定]
例1〜例6により得られたリチウムイオン電池について、各電池の25℃における初期放電容量(初期容量)を測定した。
すなわち、25℃の温度条件下にて、各電池を1Cの定電流で4.1Vの上限電圧まで充電し、次いで1Cの定電流で3.0Vまで放電させることにより、各電池の4.1V−3.0V放電容量を測定した。
上記測定により得られた各電池の初期抵抗値および初期容量の値を、例6に係るリチウムイオン電池(初期容量比が1.1であってフィラー層を有しない電池)について測定された初期抵抗値および初期容量値を100とし、他の電池の測定値については例6に係るリチウムイオン電池の測定値に対する比率として表1に示す。
表1に示す結果から明らかなように、負極活物質層の表面にフィラー層が形成された構成のリチウムイオン電池において初期容量比(N/P)を1.2以上とすることにより(例2〜5)、該フィラー層の形成にも拘わらず、初期容量比(N/P)が1.1であってフィラー層を有しない構成のリチウムイオン電池(例6)と略同等の良好な初期抵抗値が実現された。さらに、フィラー層を有し初期容量比(N/P)が1.2〜2.0の範囲にあるリチウムイオン電池(例2〜4)によると、上記良好な初期抵抗値とともに、フィラー層を有しないリチウムイオン電池(例6)と略同等の良好な初期容量が実現された。これら例2〜4に係るリチウムイオン電池の初期抵抗および初期容量は、例6に係るリチウムイオン電池の初期抵抗および初期容量との差異がいずれも±5%以下であった。フィラー層を有し初期容量比(N/P)が1.3〜1.7の範囲にあるリチウムイオン電池(例3)では特に良好な結果が得られた。このようにフィラー層の形成(ひいては信頼性の向上)と良好な電池性能(例えば、初期抵抗および初期容量)の維持という相反する効果の両立は、表1によく示されるように、初期容量比(N/P)が所定範囲にあるときに特異的に現れる効果であった。
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および実施例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上述した捲回型の電池に限られず、種々の形状のリチウム二次電池に適用することができる。