JP5167540B2 - 感熱応答性材料の製造方法および感熱応答性材料 - Google Patents

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本発明は、感熱応答性材料の製造方法および感熱応答性材料に関し、従来のポリ乳酸を用いた成形体が有しない感熱応答性を付与し、かつ、該感熱応答性の発現温度を所望の温度に調整し得るものである。
現在、多くのフィルムや容器の原材料として利用されている石油合成高分子材料は、焼却廃棄処理に伴う熱および排気ガスによる地球温暖化、さらに燃焼ガスおよび燃焼後の残留物中の毒性物質による食物や健康への悪影響、廃棄埋設処理地の確保など、その廃棄処理過程についてだけでも様々な社会問題が懸念されている。
このような石油合成高分子材料の廃棄処理の問題点を解決する材料として、石油合成高分子材料に比べて、燃焼に伴う熱量が少なく、かつ自然環境での分解・再合成のサイクルが保たれる等、生態系を含む地球環境に悪影響を与えないことから、生分解性高分子材料が注目されてきている。生分解性高分子材料のなかでも、脂肪族ポリエステル系樹脂は強度や加工性の点で石油合成高分子材料に匹敵する特性を有し、近年注目を浴びている素材であり、特にポリ乳酸は植物から供給されるデンプンから作られ、近年の大量生産によるコストダウンで他の生分解高分子材料に比べて価格が下がりつつある点から、その応用について多くの検討がなされている。
しかし、地球環境問題の対策のためにポリ乳酸の主な材料であるトウモロコシがバイオエタノールの製造に転用されるようになって以来、ポリ乳酸の価格は下げ止まりの傾向を示すようになり、原料のトウモロコシ等の穀類の価格が石油価格と連動するように縮まりつつあった石油合成高分子との価格差は現状のまま推移すると考えられるようになった。そのため、今後さらにポリ乳酸の利用を拡大していくためには、ポリ乳酸に他の石油合成高分子にはない付加価値を見いだしていくことが重要と考えられるようになってきた。
ポリ乳酸からなる材料に付加価値を持たせたものとして、例えば、特開2004−307661号公報(特許文献1)は、ポリ乳酸を主成分とし、厚さ1mmの板状にした際に、波長900〜940nmの光線透過率が50%以上、200〜700nmの光線透過率が40%以下であるポリ乳酸含有樹脂組成物を用いてなる、赤外線を発光または受光する光学部品を提供している。
しかし、特許文献1の光学部品は、ポリ乳酸にタルクや酸化チタンのような光線吸収剤を配合することにより、前述のような光線透過率を得ており、ポリ乳酸の特有な性質を利用して光線透過率を得ているものではない。
特開2004−307661号公報
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、天然由来生分解性樹脂であるポリ乳酸を用いながら、周囲の温度に応じて光透過性を変化する性質(感熱応答性)を有し、かつ、該光透過性が変化する分岐温度を調整した感熱応答性材料を提供することを課題としている。
前記課題を解決するため、本発明は、第1の発明として、
ポリ乳酸に、ポリ乳酸架橋用の多官能性モノマーを混合したポリ乳酸組成物を作製する工程と、
前記ポリ乳酸組成物を所要形状に成形する工程と、
前記ポリ乳酸組成物からなる成形体に第1回目の電離性放射線を照射し、ポリ乳酸を架橋して第一網目を有するポリ乳酸架橋体を作製する工程と、
前記ポリ乳酸架橋体を、前記ポリ乳酸のガラス転移温度以上に加温した電離性放射線架橋性モノマーの液中に浸漬し、該電離性放射線架橋性モノマーを含浸させる工程と、
前記電離性放射線架橋性モノマーを含浸させたポリ乳酸架橋体に第2回目の電離性放射線を照射して前記電離性放射線架橋性モノマーを架橋し、電離性放射線架橋性ポリマーからなる第二網目を前記第一網目に貫入させた相互貫入ポリ乳酸架橋体を作製する工程と、
前記相互貫入ポリ乳酸架橋体に前記ポリ乳酸のガラス転移温度以上の水分を付与して、該相互貫入ポリ乳酸架橋体中に水分を含有させる工程と、
前記相互貫入ポリ乳酸架橋体中に含浸させた水分を保持した状態で、前記相互貫入ポリ乳酸架橋体をポリ乳酸のガラス転移温度未満に冷却する工程と、
を備えていることを特徴とする感熱応答性材料の製造方法を提供している。
本発明者は、ポリ乳酸の新規な特性を鋭意探索してきた結果、ポリ乳酸を架橋して得られるポリ乳酸架橋体に水を含有させた材料(以下、「含水ポリ乳酸架橋体」という)は、温度変化によって可視光を含む光の透過性が可逆的に変化する性質、所謂「感熱応答性」を発現することを見出した。さらに、本発明者は、その光透過性が変化する分岐温度はポリ乳酸架橋体と水との親和性に大きく関与し、該分岐温度はポリ乳酸架橋体側の親水性を変化させることにより、所望の温度に制御できることを見出した。
前記知見に基づき、本発明は、ポリ乳酸架橋体側の親水性を変化させるため、架橋したポリ乳酸からなる第一網目内に放射線照射架橋性ポリマーからなる第二網目が相互貫入した相互貫入ネットワーク(Interpenetrating Polymer Network、以下「IPN」とも称す)構造物とし、該構造物に水を含有させることにより光透過性が変化する分岐温度を制御した感熱応答性材料を得ている。
なお、本発明の感熱応答性材料の「光透過性」における「光」は、可視光のみならず、紫外線、赤外線等の種々の波長の異なる光を含む。
本発明において、感熱応答性材料の光透過性が変化する分岐温度は、上限界臨界溶液温度(Upper Critical Solution Temperature,以下「UCST」とも称する)で示しており、該UCSTより高温領域で透明、低温領域で透明性を失うという光透過性の変化を生じるものと定義している。
例えば、ポリ乳酸架橋体に該ポリ乳酸架橋体よりも親水性の高い放射線照射架橋性ポリマーを相互貫入させ、ポリ乳酸架橋体のみの場合よりも親水性を高くした場合、含水させて得られた感熱応答性材料は、含水ポリ乳酸架橋体よりも低い温度領域にUCSTを有するよう調整できる。一方、ポリ乳酸架橋体に該ポリ乳酸架橋体よりも疎水性の放射線照射架橋性ポリマーを相互貫入させて、ポリ乳酸架橋体のみの場合よりも親水性を低くした場合、含水させて得られた感熱応答性材料は、含水ポリ乳酸架橋体より高い温度領域にUCSTを有するよう調整できる。
このように、相互貫入させるポリマーによってUCSTを所望の温度に調整できるので、ポリ乳酸を用いた感熱応答性材料の応用の幅をさらに広げることができる。また、光線吸収剤等の他の薬剤を配合せず、ポリ乳酸の特性を利用して所望の光透過性が得られる点でも従来に無い感熱応答性材料である。
なお、ポリ乳酸及びポリ乳酸と他の樹脂の相互貫入ネットワーク構造物がこのようなUCSTを持つことは現時点で学術的に認められているわけではないが、本発明で見られる現象を説明することが容易であるため、便宜的に使用することとする。
前記感熱応答性材料の製造方法は前記工程からなり、
まず、第一工程で、ポリ乳酸に、ポリ乳酸架橋用の多官能性モノマーを混合したポリ乳酸組成物を作製する。
本発明で用いられるポリ乳酸としては、L−乳酸からなるポリ乳酸、D−乳酸からなるポリ乳酸、L−乳酸とD−乳酸の混合物を重合することにより得られるポリ乳酸、またはこれら2種類以上の混合物が挙げられる。なお、ポリ乳酸を構成するL−乳酸またはD−乳酸は化学修飾されていても良い。
本発明で用いるポリ乳酸としては前記のようなホモポリマーが好ましいが、乳酸モノマーまたはラクチドとそれらと共重合可能な他の成分とが共重合されたポリ乳酸コポリマーを用いても良い。コポリマーを形成する前記「他の成分」としては、例えばグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、5−ヒドロキシ吉草酸もしくは6−ヒドロキシカプロン酸などに代表されるヒドロキシカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、デカンジカルボン酸、テレフタル酸もしくはイソフタル酸などに代表されるジカルボン酸;エチレングリコール、プロパンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、グリセリン、ソルビタンもしくはポリエチレングリコールなどに代表されるラクトン類等が挙げられる。
前記ポリ乳酸架橋用の多官能性モノマーとしては、電離性放射線の照射によりポリ乳酸を架橋できるモノマーであれば特に制限を受けないが、例えばアクリル系もしくはメタクリル系、またはアリル系多官能性モノマーが挙げられる。
アクリル系もしくはメタクリル系の多官能性モノマーとしては、(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレ―ト、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
アリル系多官能性モノマーとしては、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメタアリルシアヌレート、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジアクリルクロレンテート、アリルアセテート、アリルベンゾエート、アリルジプロピルイソシアヌレート、アリルオクチルオキサレート、アリルプロピルフタレート、ブチルアリルマレート、ジアリルアジペート、ジアリルカーボネート、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルフマレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルマロネート、ジアリルオキサレート、ジアリルフタレート、ジアリルプロピルイソシアヌレート、ジアリルセバセート、ジアリルサクシネート、ジアリルテレフタレート、ジアリルタトレート、ジメチルアリルフタレート、エチルアリルマレート、メチルアリルフマレート、メチルメタアリルマレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート等が挙げられる。
本発明で用いる多官能性モノマーとしては、比較的低濃度で高い架橋度を得ることができることからアリル系多官能性モノマーが好ましい。なかでもトリアリルイソシアヌレートはポリ乳酸に対する架橋効果が高いため特に好ましい。また、トリアリルイソシアヌレートと加熱によって相互に構造変換しうるトリアリルシアヌレートを用いても、実質的に効果は同じである。
前記ポリ乳酸架橋用の多官能性モノマーの配合量は、ポリ乳酸100質量部に対して1質量部以上10質量部以下とするのが好ましい。
多官能性モノマーは、ポリ乳酸100質量部に対して0.5質量部以上で架橋が認められるが、本発明の目的である感熱応答性を得るためには、多官能性モノマーは少なくともポリ乳酸100質量部に対して1質量部以上必要であり、さらに確実に感熱応答性を発現させるには3質量部以上配合するのが好ましい。また、ポリ乳酸に全量を均一に混合する観点から、ポリ乳酸100質量部に対する多官能性モノマーの配合量は10質量部以下としており、さらにポリ乳酸に確実に多官能性モノマーの全量を均一混合するためには8質量部以下とするのが好ましい。なお、8質量部を超える配合量としてもポリ乳酸の架橋効果には実質的に顕著な差は生じない。
また、本発明の感熱応答性材料の生分解性を勘案すれば、生分解が確実なポリ乳酸成分の割合をできるだけ多くすることが望ましく、かつ架橋効果の確実性も考慮して、ポリ乳酸100質量部に対して5〜7質量部前後が最も適している。
前記第一工程でポリ乳酸組成物を作製した後、第二工程で、得られたポリ乳酸組成物をシート、フィルム、繊維等の所要形状に成形する。
ポリ乳酸組成物の成形方法は、特に限定されず、公知の成形機を用いて行えばよい。
例えば、押出成形機、圧縮成形機、真空成形機、ブロー成形機、Tダイ型成形機、射出成形機、インフレーション成形機等の公知の成形機が用いられる。
第三工程で、得られたポリ乳酸組成物からなる成形体に第1回目の電離性放射線を照射し、ポリ乳酸を架橋して、架橋されたポリ乳酸からなる第一網目を有するポリ乳酸架橋体を作製する。
架橋に使用する電離性放射線は、γ線、エックス線、β線或いはα線などが使用できるが、工業的生産にはコバルト−60によるγ線照射や電子線加速器による電子線が好ましい。
本発明に好適なポリ乳酸架橋体を容易に得るため、前記電離性放射線の照射量は、60kGy以上240kGy以下としていることが好ましい。
電離性放射線の照射量は多官能性モノマーの濃度にも多少依存し、数kGyでも架橋は認められるが、本発明に必要な架橋構造を得るには、数10kGy以上が必要である。望ましくは60kGy以上、さらに望ましく80kGy以上である。また、ポリ乳酸は、樹脂単独では放射線で崩壊する性質を持つため、必要以上の照射は架橋とは逆に分解を進行させることになる。したがって、通常、照射量は240kGy程度までとすることが望ましい。
電離性放射線の照射は空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行うのが好ましい。電離性放射線の照射によって生成した活性種が空気中の酸素と結合して失活すると架橋効率が低下するためである。
なお、第1回目の電離性放射線照射後に得られるポリ乳酸架橋体のゲル分率は少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であり、実質的に100%であることが最も好ましい。
次に第四工程で、前記ポリ乳酸架橋体を、前記ポリ乳酸のガラス転移温度以上に加温した電離性放射線架橋性モノマーの液中に浸漬し、架橋されたポリ乳酸からなる第1網目内に該電離性放射線架橋性モノマーを含浸させる。
このように、ポリ乳酸架橋体を、ポリ乳酸のガラス転移温度以上に加温した電離性放射線架橋性モノマーに含浸しているのは、ポリ乳酸のガラス転移温度前後における運動性の変化を利用するためである。即ち、ポリ乳酸は60℃付近に存在するガラス転移温度未満では分子間に強い相互力が働くため、分子が拘束し合い、全体としては硬い性質を示すが、ガラス転移点以上になると分子間力より分子の運動性が上回る。そのため、非結晶部分が大部分を占めると共に、該非結晶部分のポリ乳酸が架橋されていない一般的なポリ乳酸の成形品はガラス転移温度以上では変形してしまうようになる。
本発明では、ポリ乳酸架橋体を電離性放射線架橋性モノマー中でガラス転移温度以上の温度にして、ポリ乳酸の架橋された非結晶部分を運動させることで、分子間に電離性放射線架橋性モノマーを膨潤させ含浸させている。なお、含浸温度の上限はポリ乳酸の融点以下の温度としており、好ましい含浸温度は80〜120℃である。
但し、電離性放射線架橋性モノマーの種類によっては、前記含浸温度では沸点を超えるものもあるため、それ以下とする方が望ましい場合もあり、その場合はこの限りではない。
また、この方法で電離性放射線架橋性モノマーに含浸が可能なのは、ポリ乳酸架橋体の分子のほとんどが架橋により一体化されているためである。架橋されていないポリ乳酸を電離性放射線架橋性モノマーに含浸した場合、該モノマー中で分子間を拘束する架橋点が存在しないために膨潤による変形、或いは溶融して形状の崩壊が起こってしまう。しかし、ポリ乳酸架橋体では、分子が架橋されているために変形するまでには至らない。また、架橋されていないポリ乳酸の場合、電離性放射線架橋性モノマーの種類によっては、ポリ乳酸の非結晶部分に結晶化が徐々に進行し、電離性放射線架橋性モノマーの含浸はほとんど起こらず変形と結晶化による硬化が起こってしまうおそれもある。ポリ乳酸架橋体では、分子が架橋により一体化されているため、ガラス転移温度以上でも再結晶は起こらない。
前記電離性放射線架橋性モノマーは、前述したように、ポリ乳酸架橋体と相互貫入ネットワーク(IPN)を形成して、水との親和性を変化させることを目的としており、先に混練してポリ乳酸を架橋させたポリ乳酸架橋用の多官能性モノマーとは目的は異なる。したがって、電離性放射線架橋性モノマーはポリ乳酸を架橋させる必要はない。
電離性放射線架橋性モノマーとしては、先にポリ乳酸架橋用の多官能性モノマーとして挙げたような様々なものを、目的とするUCSTに応じて、選択して利用することができる。
含水ポリ乳酸架橋体に対して、UCSTを低く調整することができる電離性放射線架橋性モノマーとしては、ポリ乳酸に比べて親水性が高いポリマーを形成するアクリル系あるいはメタクリル系の架橋性モノマーが挙げられる。これらは1種類、あるいは数種類混合して用いることが出来る。
アクリル系あるいはメタクリル系架橋性モノマーとしては、前記ポリ乳酸架橋用の多官能性モノマーとして列挙したものが好適に用いられ、中でも、メタクリル酸メチル(メチルメタクリレート)、メタクリル酸グリシジル(グリシジルメタクリレート)が好適に用いられる。特に透明性をほとんど損なわずに応答温度を下げることが可能なことから、グリシジルメタクリレートが好適に用いられる。
一方、含水ポリ乳酸架橋体に対して、UCSTを高く調整することができる電離性放射線架橋性モノマーとしては、ポリ乳酸に比べて疎水性の高いスチレン系の架橋性モノマ−が好適に利用できる。
スチレン系の架橋性モノマーとしては、スチレンおよび主としてそのp位置に官能基を備えたもの、スチレンスルフォン酸塩、クロロスチレンなどが挙げられる。これらは1種類、あるいは数種類混合して用いることが出来る。
また、電離性放射線架橋性モノマーの含浸は、ネットワーク状に架橋されたポリ乳酸架橋体において、第1回目の電離性放射線の照射による架橋で強く拘束されていない部分が膨潤して優先的に起こる。そのため、第1回目の架橋で強く拘束されていない部分に電離性放射線架橋性モノマーが含浸され、第2回目の電離性放射線の照射により固定されることにもなり、きわめて効率的に全体の強度を上げることが可能となる。
第五工程で、前記電離性放射線架橋性モノマーを含浸させたポリ乳酸架橋体に第2回目の電離性放射線を照射して前記電離性放射線架橋性モノマーを架橋し、電離性放射線架橋性ポリマーからなる第二網目を前記第一網目に貫入させた相互貫入ポリ乳酸架橋体を作製する。
電離性放射線架橋性モノマーの含浸後に行う第2回目の電離性放射線の照射量は、含浸させたモノマーの量、種類にも多少依存するが、60〜120kGyであることが好ましい。
ポリ乳酸の分解を抑えるため、第1回目と第2回目の電離性放射線の照射量は合計で200kGyを超えないことが好ましい。
第2回目の電離性放射線は、第1回目の架橋と同様、γ線、エックス線、β線或いはα線などが使用できるが、工業的生産にはコバルト−60によるγ線照射や電子線加速器による電子線が好ましい。
このようにして得られる第2回目の電離性放射線を照射して得られた相互貫入ポリ乳酸架橋体のゲル分率は、少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であり、実質的に100%であることが最も好ましい。
また、相互貫入ポリ乳酸架橋体において、電離性放射線架橋性ポリマーとポリ乳酸架橋体の質量比(電離性放射線架橋性ポリマーの質量/ポリ乳酸架橋体の質量)で示されるモノマー複合化率が10%以上70%以下であることが好ましい。これは、モノマー複合化率が10%未満であると電離性放射線架橋性ポリマーを相互貫入させることによるUCSTのシフト効果が得られにくく、70%を超えるとポリ乳酸の含有率が低くなり、生分解性樹脂の含有割合が小さくなると共に、含水させて感熱応答性材料とされた際に十分に感熱応答性を発揮できないおそれがあるからである。
前記ゲル分率及びモノマー複合化率は、実施例に記載の方法で測定している。
第六工程で、前記相互貫入ポリ乳酸架橋体に前記ポリ乳酸のガラス転移温度以上の水分を付与して、該相互貫入ポリ乳酸架橋体中に水分を含有させる。
相互貫入ポリ乳酸架橋体に対して、ポリ乳酸のガラス転移温度以上の水分を付与する方法としては、工業生産上、簡便であるため、ポリ乳酸のガラス転移温度以上の温水に浸漬して該相互貫入ポリ乳酸架橋体中に水を含浸させる方法、あるいは、ポリ乳酸のガラス転移温度以上の高温蒸気に接触させる方法が好ましい。
ポリ乳酸のガラス転移温度は通常約60℃であるため、具体的には、60℃以上、望ましくは80℃以上の温度で水を付与させている。温度の上限は特に無いが、水は常圧では100℃以上では蒸発するため実質100℃以下となる。
ポリ乳酸は水には不溶であり、一般に溶質の溶解性を上げるためには温度を上げていくが、ポリ乳酸の溶解は加温しても起こらず、それどころかポリ乳酸のガラス転移温度である60℃以上になると架橋されていないポリ乳酸は結晶化が始まり、水に溶解するどころか白く硬化してしまう。これに対し、本発明では構成するポリ乳酸分子がほぼ架橋してつながっているために動きが拘束され、ガラス転移温度を超える温度でも結晶化せずに非結晶状態を保つことができる。そのため、本工程において、ポリ乳酸の水への溶解性を上げるため、ポリ乳酸のガラス転移温度以上の温度で水分を付与することができる。
第七工程で前記相互貫入ポリ乳酸架橋体中に含浸させた水分を保持した状態で、前記相互貫入ポリ乳酸架橋体をポリ乳酸のガラス転移温度未満、好ましくは常温まで冷却し、本発明の感熱応答性材料を得ている。
第七工程は、含有した水分を失わないように、水中か、乾燥を防いだ密閉状態でポリ乳酸のガラス転移温度未満まで冷却することで行っていることが好ましい。
なお、前記第一工程で作製するポリ乳酸組成物には、前記ポリ乳酸、ポリ乳酸架橋用の多官能性モノマーのほか、感熱応答性材料の感熱応答性を阻害しない限りにおいて、他の成分を配合してもよい。しかし、本発明の感熱応答性材料は、透明−不透明の可逆変化を示す必要があるので、透明時の光透過性を阻害しない限りにおいて他の成分は配合するものとしている。そのため、添加する成分にもよるが、通常は製造される感熱応答性材料中に1〜5質量%程度に限定される。
前記「他の成分」としては、例えば、ポリ乳酸以外の生分解性ポリエステルである、ε−ポリカプロラクトンもしくはδ−ポリブチロラクトンに代表されるポリラクトン類、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、デカンジカルボン酸、テレフタル酸もしくはイソフタル酸などに代表されるジカルボン酸と、エタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、などに代表される多価アルコールとのコポリマー、すなわち、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート等、さらにこれにポリ乳酸を加えたコポリマー、すなわち、ポリブチレンサクシネートラクチド、ポリブチレンサクシネートアジペートラクチド、またはポリグリコール酸、ポリヒドロシキ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸もしくはポリヒドロキシカプロン酸などに代表されるポリヒドロキシカルボン酸等、ポリ乳酸を含め、以上に述べた2種以上のホモポリマー、コポリマーの混合物を配合してもよい。
また、前記「他の成分」として前記生分解性ポリエステル以外の生分解性材を配合してもよく、該生分解性材としては、ポリビニルアルコール等の合成生分解性樹脂、またはポリヒドロキシブチレート・バリレート等の天然直鎖状ポリエステル等の天然生分解性樹脂を挙げることができる。
また、生分解性を有する合成高分子および/または天然高分子を、溶融特性を損なわない範囲で混合してもよい。生分解性を有する合成高分子としては、酢酸セルロース、セルロースブチレート、セルロースプロピオネート、硝酸セルロース、硫酸セルロース、セルロースアセテートブチレートもしくは硝酸セルロール、酢酸セルロース等のセルロースエステル、またはポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸もしくはポリロイシン等のポリペプチドが挙げられる。天然高分子としては、例えば澱粉として、トウモロコシ澱粉、コムギ澱粉もしくはコメ澱粉などの生澱粉、または酢酸エステル化澱粉、メチルエーテル化澱粉もしくはアミロース等の加工澱粉が挙げられる。
このほか、「他の成分」として、硬化性オリゴマー、各種安定剤、難燃剤、加水分解抑制剤、帯電防止剤、防カビ剤、ポリ乳酸結晶化促進用核剤もしくは粘性付与剤等の添加剤、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉末、タルク、マイカもしくはシリカ等の無機・有機充填材であるフィラー、及びこれらがシラン剤やステアリン酸などで表面処理されたフィラー、染料もしくは顔料等の着色剤等を配合することもできる。
このなかでも、特に、補強用として無機フィラーを配合することが好ましい。
なお、第1の発明のポリ乳酸組成物に、熱分解により過酸化ラジカルを生成する過酸化ジクミル、過酸化プロピオニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化ジアシル、過酸化ペラルゴニル、過酸化ミリストイル、過安息香酸−t−ブチルもしくは2,2’−アゾビスイソブチロニトリルなどの過酸化物触媒をはじめとするモノマーの重合を開始する触媒を配合し、熱分解させることによっても第一網目を形成することができる。架橋させるための温度条件は前記触媒の種類により適宜選択することができる。
架橋は、電離性放射線による照射で行う場合と同様、空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行うのが好ましい。
第1の発明の製造方法により、前述した光透過性が変化する分岐温度(UCST)を制御した感熱応答性材料を得ることができる。
本発明は、感熱応答性材料に関する第2の発明として、
架橋されたポリ乳酸からなる第一網目内に、アクリル系モノマーあるいはメタクリル系モノマーが重合してなる電離性放射線架橋性ポリマーからなる第二網目が貫入して、前記第一網目と第二網目との相互貫入ネットワーク構造物となっており、かつ、前記相互貫入ネットワーク構造物中に少なくとも1質量%以上4質量%以下の水分が含有されていることを特徴とする感熱応答性材料を提供している。
第2の発明の感熱応答性材料は、アクリル系モノマーあるいはメタクリル系モノマーが重合・架橋されてなる電離性放射線架橋性ポリマーをポリ乳酸架橋体に相互貫入させることにより、ポリ乳酸架橋体のみの含水ポリ乳酸架橋体に比べてUCSTを低温側にシフトさせたものとしている。
感熱応答性材料の水分率を1質量%以上4質量%以下としているのは、1質量%未満であると水分率が小さく、UCSTの調整が不十分であるからであり、4質量%を超える水分率はポリ乳酸架橋体に親水性を有するポリマーを相互貫入させても得られ難く、また、ポリ乳酸が加水分解するおそれがあると考えられるからである。
水分率の下限値は好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは2.5質量%以上であり、水分率の上限値は好ましくは3.5質量%以下、さらに好ましくは3.0質量%以下である。
水分率の測定は、実施例に記載の方法で行っている。
前記第2の発明の感熱応答性材料は、60℃〜65℃の範囲内に上限界臨界溶液温度を備え、厚さ500μmとした場合に、該上限界臨界溶液温度未満では波長600nmにおける光線透過率が20%以下の不透明で遮光性となる一方、前記上限界臨界溶液温度以上の高温領域では波長600nmにおける光線透過率が60%以上の透明となって光透過性を有することが好ましい。
放射線照射架橋性モノマーを相互貫入させていない第一網目のみを有する含水ポリ乳酸架橋体(水分率0.5質量%以上2.0質量%以下)は、70〜75℃の範囲内にUCSTを備えているので、アクリル系モノマーあるいはメタクリル系モノマーが重合・架橋した電離性放射線架橋性ポリマーからなる第二網目を貫入させることにより、UCSTを10℃ほど低い温度に設定することができる。
本発明の感熱応答性材料は、水中で利用するか、あるいは容器等で外装して水の蒸発を防止する必要があるが、その限りにおいて可逆的な感熱応答性を示す。また、水分を失っても再びポリ乳酸のガラス転移温度以上の水分を付与することにより、再生することが可能であり、10回以上の繰り返しが可能である。
再生不能になるのは、ポリ乳酸は加水分解性を有するため、水存在化で加熱されることで加水分解が起こるためであり、加水分解抑制剤などで加水分解を抑制すれば、さらに多数回、長期間使用できるようにすることが可能である。
この場合の加水分解抑制剤としては、カルボジイミド等を用いることができ、具体的な商品名としては、日清紡(株)製「カルボジライトLA−1(商品名)」を好適に用いることができる。
本発明の感熱応答性材料は、可逆的な感熱応答性を有するため、感熱マーカーや熱応答性の光スイッチなどに応用することができる。
さらに、乾燥により透明になるので、湿度センサに利用することもできる。特に他の生分解性樹脂に無いポリ乳酸の透明性を利用して光透過性を変化しうる点から、光ファイバーや光ディスクなど光学製品へも応用することができる。
前述したように、本発明によれば、ポリ乳酸が架橋してなる第一網目に電離性放射線架橋性ポリマーからなる第二網目を貫入させた相互貫入ポリ乳酸架橋体を作製し、該相互貫入ポリ乳酸架橋体に対して水分を含有させているので、相互貫入させるポリマーにより水との親和性を制御することができる。これにより、温度に応じて光透過性が変化する性質を有する感熱応答性材料を、該光透過性の変化を生じる分岐温度を所望の温度に調整して得ることができる。このように分岐温度を調整できるので、ポリ乳酸を用いた感熱応答性材料の応用の幅をさらに広げることができる。
本発明の感熱応答性材料は、可逆的な感熱応答性を有するため、感熱マーカーや熱応答性の光スイッチなどに応用することができる。
さらに、本発明の感熱応答性材料は、乾燥することにより透明になるので、湿度センサに利用することもできる。特に他の生分解性樹脂に無いポリ乳酸の透明性を利用して光透過性を変化しうる点から、光ファイバーや光ディスクなど光学製品へも広く応用することができる。
また、生体への影響も少ない点から、生体内外に利用される注射器やカテーテルなどの医療用器具への適用することができる。
図1及び図2を参照して、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態の感熱応答性材料10は、図1(A)(B)に示されるように、架橋されたポリ乳酸からなる第一網目12A内に、アクリル系モノマーあるいはメタクリル系モノマーが重合してなるポリマーからなる第二網目13Aが貫入した相互貫入ネットワーク構造を有しており、該相互貫入ネットワーク構造中に少なくとも1質量%以上4質量%以下の水分14Aを含有している。
後に詳細に説明するが、図1(A)は光透過性が変化する分岐温度未満の状態(不透明)を示し、図1(B)は該分岐温度以上の高温領域の状態(透明)を示す。
本実施形態の感熱応答性材料の製造方法を図2を参照して説明する。
まず、第一工程で、ポリ乳酸組成物11を作成している。
ポリ乳酸を加熱により軟化させるか、あるいはクロロホルムやクレゾール等のポリ乳酸が溶解しうる溶媒中にポリ乳酸を溶解または分散させる。
ついで、ポリ乳酸100質量部に対して、ポリ乳酸架橋用の多官能性モノマーを3質量部以上7質量部以下の割合で添加する。本実施形態では、多官能性モノマーとしてアリル系多官能性モノマーであるトリアリルイソシアヌレートを用いている。
添加後、多官能性モノマーが均一になるように撹拌混合して、ペレット状のポリ乳酸組成物を得ている。
ついで、溶媒を用いた場合は、さらに溶媒を乾燥除去しても良い。
第二工程で、得られたポリ乳酸組成物11を再び加熱により軟化させて、図2(A)に示すような、シート、フィルム、容器等の所望形状に成形した成形体としている。
このポリ乳酸組成物の成形は、組成物の調製と連続して、例えば溶媒に溶解した状態のまま続けて行っても良いし、一旦冷却または溶媒を乾燥除去した後に再び組成物を加熱軟化させて行ってもいずれでも良い。
第三工程で、得られたポリ乳酸組成物11からなる成形体に電離性放射線を照射して、ポリ乳酸を架橋させ、図2(B)に示すような、架橋されたポリ乳酸からなる第一網目12Aを有するポリ乳酸架橋体12としている。
電離性放射線は、電子線加速器による電子線照射とし、その照射量を60kGy以上240kGy以下の範囲としている。電子線の照射量は、多官能性モノマーの配合量等に応じて前記照射量の範囲内で適宜選択している。
また、放射線照射量は、電離性放射線照射後に得られるポリ乳酸架橋物12のゲル分率が実質的に100%となることを目安に選択しており、ゲル分率を90%以上としている。
ポリ乳酸は非常に結晶化が遅いため、通常の加熱成形方法ではほとんど非結晶状態となるため透明であり、図2(B)に示されるポリ乳酸架橋体も同様に透明である。
第四工程で、得られたポリ乳酸架橋体12を、前記ポリ乳酸のガラス転移温度以上に加温した電離性放射線架橋性モノマーの液中に浸漬し、該電離性放射線架橋性モノマーを含浸している(図示せず)。
電離性放射線架橋性モノマーとしては、アクリル系モノマー、メタクリル系モノマーを用いており、本実施形態では特にメタクリル系モノマーであるグリシジルメタクリレート(以下、「GMA」とも称す)を用い、60〜70℃に加温したGMA中に30分間〜2時間浸漬している。
次に第五工程で、電離性放射線架橋性モノマーの液中からポリ乳酸架橋体を引き上げて、第2回目の電離性放射線を照射して前記電離性放射線架橋性モノマーを架橋させ、図2(C)に示されるような電離性放射線架橋性ポリマーからなる第二網目13Aを前記第一網目12Aに貫入させた相互貫入ポリ乳酸架橋体13を作製している。
本実施形態では、電離性放射線架橋性モノマーとしてグリシジルメタクリレート(GMA)を用いているので、第二網目13Aを構成する電離性架橋性ポリマーはポリグリシジルメタクリレートとなる。
第五工程における電離性放射線の照射量は、30kGy〜90kGyとしており、ポリ乳酸は合計200kGy以上の電離性放射線を照射すると分解劣化が進むため、1回目と2回目の照射量の合計は200kGy以下とすることが望ましい。
得られた相互貫入ポリ乳酸架橋体13において、実施例に記載の方法で求めた電離性放射線架橋性モノマーの複合化率は40〜65%、ゲル分率は90〜100%としている。図2(C)で示される相互貫入ポリ乳酸架橋体13も透明である。
次に、第六工程で、図2(D)に示すように、得られた相互貫入ポリ乳酸架橋体13をポリ乳酸のガラス転移温度以上の温水14に浸漬している。本実施形態では80〜95℃の温水に20〜60分間浸漬している。
温水14に浸漬することにより、図2(E)に示すように相互貫入ポリ乳酸架橋体13のネットワーク構造内に水分14Aが分散して含有された状態となり、温水14中において、感熱応答性材料10が形成されていることになる。図2(E)の状態では透明である。
第七工程で、温水14中に感熱応答性材料10を浸漬した状態で、室温まで冷却し、水中から取り出して、あるいは、水中で保管された状態で、図2(F)に示すような、前記ネットワーク構造内で水分14Aと相分離した本実施形態の感熱応答性材料10を得ている。
前記第一〜第七工程を経て得られた感熱応答性材料10は、1質量%以上4質量%以下の範囲の水分率を有しており、60〜65℃の範囲に光透過性が変化する分岐温度である上限界臨界溶液温度(UCST)を有している。
具体的には、本発明の感熱応答性材料を厚さ500μmのフィルムとした場合、60℃未満では波長600nmにおける光線透過率が20%以下で不透明であるのに対し、65℃を超えると波長600nmにおける光線透過率が60%以上となり透明である。
なお、本実施形態の第六工程では、温水に浸漬することによって相互貫入ポリ乳酸架橋体内に水分を含有させたが、相互貫入ポリ乳酸架橋体にポリ乳酸のガラス転移温度以上の水蒸気を接触させることにより水分を含有させてもよい。
例えば、80〜100℃の水蒸気を満たした恒温恒湿槽内に一定時間(例えば、5〜15分)放置する等の方法とすればよい。
次に、図1に示される本発明の感熱応答性材料10が感熱応答性を発現するメカニズムについて説明する。
まず、図3を参照して、第一網目12Aのみを有する含水ポリ乳酸架橋体20の感熱応答性について説明したのち、該含水ポリ乳酸架橋体20の感熱応答性の発現温度(UCST)をシフトさせている本発明の感熱応答性材料10について説明する。
図3に示す含水ポリ乳酸架橋体20は、ポリ乳酸架橋体12の架橋された網目12A内に水分14Aを含有しており、図3(A)に示すようにポリ乳酸のガラス転移温度未満ではポリ乳酸架橋体12のネットワーク構造中で水分14Aと相分離を起こしている。このように相分離を起こした含水ポリ乳酸架橋体20は透明性を失い、白化した状態である。
図3(A)の状態から、含水ポリ乳酸架橋体20の水分14Aを保持したままで加熱すると、ポリ乳酸架橋体12が水分14Aと相溶して水分14Aを吸収した状態となり、図3(B)に示すようなポリ乳酸架橋体12のネットワーク構造内に水分14Aが分散された状態となり、透明になる。
図3(B)の状態から冷却すると、ポリ乳酸架橋体12は水分14Aと親和性を失い、再び、図3(A)に示されるように、ポリ乳酸架橋体12のネットワーク構造中で水分14Aは相分離を起こし、不透明になる。
このように、図3(A)(B)の含水ポリ乳酸架橋体20は、ポリ乳酸のガラス転移温度と水の沸点の間に、光透過性の変化する分岐温度である上限界臨界溶液温度(UCST)を持つ。ポリ乳酸の光学純度や架橋密度などの条件で若干違うものの、含水ポリ乳酸架橋体20のUCSTは、70℃から75℃の範囲で一定であり、相分離を起こすUCSTより低い温度では、白く濁って光を遮断するが、相溶性となるUCST以上の温度では、透明になり光を透過させる。
これに対して、図1に示される本発明の感熱応答性材料10は、架橋されたポリ乳酸からなる第一網目12A内に、さらに電離性放射線架橋性ポリマーの第二網目13Aを相互貫入させて、相互貫入ネットワーク構造を形成させており、該ネットワーク構造内に水分14Aを保持させている。
図3の含水ポリ乳酸架橋体20と同様、UCST未満では、図1(A)に示されるように水分14は相分離した状態で第一網目12A及び第二網目13A内に保持されている。一方、UCSTを超える温度では図1(B)に示されるように水分14Aは第一網目12Aと第二網目13Aと相溶して分散した状態で保持される。
本実施形態では、含水ポリ乳酸架橋体20と比較して、水分14Aとの親和性の高いポリグリシジルメタクリレートで第二網目13Aを形成しており、水分14Aとの相溶性が高いため、含水ポリ乳酸架橋体20よりも低温側で図1(B)の状態となり、UCSTが低温側にシフトする。
このように本発明の感熱応答性材料は、所望の電離性放射線架橋性ポリマーからなる第二網目13Aを、架橋されたポリ乳酸からなる第一網目12Aに相互貫入させたものとして得ることができるため、電離性放射線架橋性モノマーの種類により、水とポリ乳酸の親和性にのみ束縛されずにUCSTを変化させることが可能である。
前述の感熱応答性のメカニズムは、相互貫入ポリ乳酸架橋体13と水分14Aの温度に対応した相溶性の変化を利用しているため、感熱応答性材料10中に水分14Aが保持されていることが重要である。
架橋させていないポリ乳酸は、水に対する親和性が乏しく、水分率は通常1%未満であるが、該ポリ乳酸を架橋してポリ乳酸架橋体12とすることにより、0.5〜2質量%の水分率で水分を保持する含水ポリ乳酸架橋体20を得ることができる。
本実施形態の感熱応答性材料10は、さらに、ポリ乳酸架橋体12に親水性の高いメタクリル系ポリマーを相互貫入させたネットワーク構造物としているので、1〜4質量%の高い水分率で水分を保持することができる。
以下、本発明について、実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
ポリ乳酸として、三井化学(株)製ポリ乳酸「レイシアH400(商品名)」を使用した。アリル系の多官能性モノマーであるトリアリルイソシアヌレート(日本化成工業(株)製「TAIC(商品名)」)を用意し、押出機(池貝鉄工(株)製「PCM30型(商品名))を用いてシリンダ温度180℃でポリ乳酸を溶融押出する際に押出機のペレット供給部に多官能性モノマーをペリスタポンプにて定速滴下することでポリ乳酸に多官能性モノマーを添加した。その際、多官能性モノマーの配合量がポリ乳酸100質量部に対して5質量部(5phr)になるように添加量を調整した。
棒状に押し出したものを水冷ののちにペレタイザーにてペレット化し、ポリ乳酸と多官能性モノマーのペレット状のポリ乳酸組成物を得た。
ペレット状のポリ乳酸組成物を、180℃で熱プレスした後水冷で急冷し、500μm厚のシート(成形体)を作製した。
このシートに対して、空気を除いた不活性雰囲気下で電子加速器(加速電圧10MeV電流量12mA)により電子線を120kGy照射することにより第1回目の電離性放射線照射を行い、ポリ乳酸架橋体を得た。
次に得られたポリ乳酸架橋体を電離性放射線架橋性モノマーであるグリシジルメタクリレート(GMA)(和光純薬(株)製)中に65℃で1時間浸漬した。
GMAに浸漬した状態で室温に戻した後、GMAからシートを取り出し、空気を除いた不活性雰囲気下で電子加速器(加速電圧10MeV電流量12mA)により電子線を90kGy照射することにより第2回目の電離性放射線照射を行い、相互貫入ポリ乳酸架橋体となるシートを得た。
その後、得られたシートを80℃恒温槽内で一晩乾燥させて余分な電離性放射線架橋性モノマーを乾燥除去した。
ついで、得られたシートを恒温槽内で90℃に加熱した純水中に30分間浸漬し、純水をいれた容器ごと恒温槽から取り出して常温に冷却したのち、純水から取り出した直後、あるいは乾燥しないように保管したものを実施例1とした。
(比較例1)
電離性放射線架橋性モノマーへの浸漬を行わず、かつ、第2回目の電離性放射線照射を行っていない以外は、実施例1と同様にして、比較例1とした。即ち、比較例1は電離性放射線架橋性ポリマーを相互貫入させておらず、ポリ乳酸架橋体に水を含有させたものとした。
(実施例および比較例の評価)
得られた実施例、比較例のシートについて、下記方法によりゲル分率、モノマー複合化率及び吸水率の評価を行ない、結果を表1に示した。
Figure 0005167540
(ゲル分率)
実施例及び比較例のシートの乾燥質量を測定し、各々目空き100μmのメッシュに入れて、サンプル質量の100倍以上のクロロホルムに60℃で24時間浸漬したのち、シートを乾燥し、浸漬後の乾燥質量を求め、下記式によりゲル分率を求めた。測定結果を表1に示す。
ゲル分率(%)=(A/B)×100
A:クロロホルム浸漬後のサンプルの乾燥質量
B:クロロホルム浸漬前のサンプルの乾燥質量
(モノマー複合化率)
実施例のシートの製造過程において、電離性放射線架橋性モノマーが複合化された割合を下記式により求めた。
下記モノマー複合化率(%)は、ポリ乳酸架橋体と電離性放射線架橋性ポリマーの比(電離性放射線架橋性ポリマー/ポリ乳酸架橋体)を示している。比較例1は電離性放射線架橋性モノマーへの浸漬を行っていないので当然0%である。
モノマー複合化率(%)=[(E−D)/D]×100
D:第1回目の電離性放射線照射後に得られたポリ乳酸架橋体からなるシートの乾燥質量
E:純水に浸漬する前の相互貫入ポリ乳酸架橋体からなるシートの乾燥質量(上記製造方法における80℃、一晩乾燥後の質量)
(吸水率)
実施例、比較例のシートの製造過程において、純水への浸漬前後の質量差から、下記式により吸水率を求めた。
吸水率(%)=[(F−E)/F]×100
F:純水から取り出した直後の含水したシートの質量
E:純水に浸漬する前のシートの乾燥質量(実施例:上記製造方法における80℃、一晩乾燥後質量、比較例:ポリ乳酸架橋体の質量)
なお、前記吸水率は、下記式により求められる水分含有率(水分率)と等しい。
水分率(%)=[(F−G)/F]×100
F:純水から取り出した直後の含水したシートの質量
G:Fの乾燥質量
さらに、実施例および比較例のシートについて、下記方法で感熱応答性の温度特性の評価を行なった。
(感熱光応答性の温度特性の評価)
シートを温度の異なる純水に浸漬した際の、水中でのシートの波長600nmにおける透過率を島津製作所(株)製紫外可視分光光度計「UV−160(商品名)」を用いて測定した。結果を図4に示す。
なお、50℃未満の透過率は、実施例、比較例のいずれも50℃とおよそ同じ数値で推移するため記載を省略している。
実施例1及び比較例1のシートは、製造過程において、90℃純水に浸漬する前はいずれも透明で、90℃純水に浸漬した際も透明であったが、室温付近まで冷却する過程で白く不透明になった。
図4において、含水ポリ乳酸架橋体である比較例1は90℃以上では光線透過率が90%以上の透明であり、そのまま室温で放置して自然冷却させたところ、光線透過率が73〜71℃付近で急激に低下して白く不透明な状態となり、71℃未満では光線透過率が20%以下となった。
図4では示していないが、室温まで冷却した後、再び水温を73℃を超える温度に上昇させると透明に戻り、再び自然冷却すると73〜71℃付近で白く不透明な状態に戻り、水温による可逆的な透過率の変化を示した。即ち、比較例1のシートは、73〜71℃の範囲に光透過性が変化する分岐温度(UCST)を有していた。
同様の実験を行った実施例1のシートでは、図4に示すように、75℃以上では光線透過率が90%以上の透明であり、そのまま自然冷却させると、70℃付近で光線透過率が低下しはじめ、63〜61℃付近で急激に光線透過率が低下して白く不透明な状態となり、60℃未満では光線透過率が20%以下となった。即ち、比較例1に対して約10℃低い温度にUCSTがシフトした。このようにポリ乳酸架橋体に対し、親水性の高い電離性放射線架橋性ポリマーを相互貫入させたネットワーク構造を形成させることで、ポリ乳酸架橋体内で水が相分離する温度を低下させることが可能であることがわかった。
また、比較例の吸水率が1.0%であるのに対して、実施例の吸水率が2.7%と2倍以上である点からも、実施例の親水性が向上していることがわかった。
本発明の感熱応答性材料は、周囲の温度に応じて光透過性を変化する性質を有し、かつ、該光透過性が変化する温度を所望の温度に制御できることから、光学的なスイッチ材、熱履歴マーキング材等の分野の用途に用いることができる。さらに、乾燥により透明になる性質もあり、湿度センサなどへの応用も期待できる。特に他の生分解性樹脂に無いポリ乳酸の透明性を利用して光透過性を変化しうる点から、光ファイバーや光ディスクなど光学製品への応用が期待できる。かつ、植物由来生分解性樹脂であるポリ乳酸を含み、自然界において生態系に及ぼす影響が少ないことから、大量に製造、廃棄されるプラスチック製品全般の代替材料としての応用も期待できる。
また、生体への影響がない点から、生体内外に利用される注射器やカテーテルなどの医療用器具への適用にも適した材料となる。
本発明の感熱応答性材料の温度に応じて示す2つの相構造を模式的に示す図であり、(A)は光透過性が変化する分岐温度未満の相構造(不透明)、(B)は分岐温度以上の高温領域の相構造(透明)を示す。 図1の感熱応答性材料の製造方法を示す模式図であり、(A)ポリ乳酸組成物からなる成形体、(B)はポリ乳酸架橋体、(C)は相互貫入ポリ乳酸架橋体、(D)は(C)を温水に浸漬した状態、(E)は温水中で(C)に水分が保持された状態、(F)は感熱応答性材料を示す。 図1の感熱応答性材料の対照となる含水ポリ乳酸架橋体の温度に応じて示す2つの相構造を模式的に示す図であり、(A)は光透過性が変化する分岐温度未満の相構造(不透明)、(B)は分岐温度以上の高温領域の相構造(透明)を示す。 実施例及び比較例のシートの温度と光線透過率の関係を表すグラフである。
符号の説明
10 感熱応答性材料
11 ポリ乳酸組成物
12 ポリ乳酸架橋体
12A 第一網目
13 相互貫入ポリ乳酸架橋体
13A 第二網目
14 温水
14A 水分
20 含水ポリ乳酸架橋体

Claims (6)

  1. ポリ乳酸に、ポリ乳酸架橋用の多官能性モノマーを混合したポリ乳酸組成物を作製する工程と、
    前記ポリ乳酸組成物を所要形状に成形する工程と、
    前記ポリ乳酸組成物からなる成形体に第1回目の電離性放射線を照射し、ポリ乳酸を架橋して第一網目を有するポリ乳酸架橋体を作製する工程と、
    前記ポリ乳酸架橋体を、前記ポリ乳酸のガラス転移温度以上に加温した電離性放射線架橋性モノマーの液中に浸漬し、該電離性放射線架橋性モノマーを含浸させる工程と、
    前記電離性放射線架橋性モノマーを含浸させたポリ乳酸架橋体に第2回目の電離性放射線を照射して前記電離性放射線架橋性モノマーを架橋し、電離性放射線架橋性ポリマーからなる第二網目を前記第一網目に貫入させた相互貫入ポリ乳酸架橋体を作製する工程と、
    前記相互貫入ポリ乳酸架橋体に前記ポリ乳酸のガラス転移温度以上の水分を付与して、該相互貫入ポリ乳酸架橋体中に水分を含有させる工程と、
    前記相互貫入ポリ乳酸架橋体中に含浸させた水分を保持した状態で、前記相互貫入ポリ乳酸架橋体をポリ乳酸のガラス転移温度未満に冷却する工程と、
    を備えていることを特徴とする感熱応答性材料の製造方法。
  2. 前記ポリ乳酸組成物中に配合する前記多官能性モノマーは、アリル系架橋性モノマーからなると共に、前記ポリ乳酸100質量部に対して1質量部以上10質量部以下の割合で配合し、
    前記電離性放射線架橋性モノマーは、アクリル系、メタクリル系またはスチレン系モノマーからなる請求項1に記載の感熱応答性材料の製造方法。
  3. 請求項1または請求項2に記載の方法で形成された感熱応答性材料。
  4. 架橋されたポリ乳酸からなる第一網目内に、アクリル系モノマーあるいはメタクリル系モノマーが重合してなる電離性放射線架橋性ポリマーからなる第二網目が貫入して、前記第一網目と第二網目との相互貫入ネットワーク構造物となっており、かつ、前記相互貫入ネットワーク構造物中に少なくとも1質量%以上4質量%以下の水分が含有されていることを特徴とする感熱応答性材料。
  5. 60℃〜65℃の範囲内に上限界臨界溶液温度を備え、厚さ500μmとした場合に、該上限界臨界溶液温度未満では波長600nmにおける光線透過率が20%以下の不透明で遮光性となる一方、前記上限界臨界溶液温度以上の高温領域では波長600nmにおける光線透過率が60%以上の透明となって光透過性を有する請求項4に記載の感熱応答性材料。
  6. 請求項1または請求項2に記載の方法で形成された請求項4または請求項5に記載の感熱応答性材料。
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